低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックの製造方法及びそれから得られる低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック
【課題】低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法及びそれから得られる低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックを提供する。
【解決手段】複合ビスマスニオブ酸化物(BiNbO4)または亜鉛ニオブ酸化物(Zn3Nb2O8)前駆体粉末を溶液反応に基づいた粉末合成工程である共沈法を用いて製造し、ここに0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として添加し、粉砕及び焼結する低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法。該製造方法によって得られる低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物。該低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物は、高誘電率及び品質係数、及び安定した共振周波数の温度係数を有するのみならず、700〜750℃の低い温度の範囲で焼成が可能である。
【解決手段】複合ビスマスニオブ酸化物(BiNbO4)または亜鉛ニオブ酸化物(Zn3Nb2O8)前駆体粉末を溶液反応に基づいた粉末合成工程である共沈法を用いて製造し、ここに0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として添加し、粉砕及び焼結する低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法。該製造方法によって得られる低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物。該低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物は、高誘電率及び品質係数、及び安定した共振周波数の温度係数を有するのみならず、700〜750℃の低い温度の範囲で焼成が可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックの製造方法及びそれから得られる低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層マイクロ波チップとデバイスとを開発するのに必要な新たな誘電体材料に関する研究は、高周波誘電体を利用したデバイスの核心技術となっている。誘電体材料で重要なものとして要求される性質は、最小誘電損失と共に、内部導体にAgを用いるチップを製造するために、Agの溶融温度(T=940℃)よりも相当に低い温度で焼結されることである。
【0003】
現在、低温同時焼成セラミック(Low Temperature Co-fired Ceramics;LTCC)は、焼結温度Tsが1100℃よりも高い既存の誘電体材料に、十分に溶融するガラスフリットまたはそれと類似の成分を相当量混合することによって製造されている。こうして焼結温度が低下した材料は、概ねマイクロ波周波数で相当高い誘電損失(低いQ値、Q=1/tanδ)を伴うが、焼結温度は900℃以上であるのが普通である。
【0004】
PbO、SiO2、B2O3、ZnO組成を有するガラスを溶かした後に、冷却し、粉砕して製造したガラスフリット10%とZnとTaとがドーピングされた予備合成されたBaO−xTiO2組成物(3≦x≦5.5)を混合すれば、900℃で2時間空気中で焼結することにより緻密なマイクロ波セラミックが得られることが提案された(例えば特許文献1を参照)。しかし、このマイクロ波セラミックのQ・f値は、2,500〜3,500GHzを超えていない。
【0005】
低温同時焼成セラミックに関するさらなる開発が、他の方向で進行している。すなわち、マイクロ波周波数範囲において低い誘電損失(low tanδ)を示し、900℃以下の温度で焼結して緻密なセラミックを得ることができる適正な溶融温度を同時に満たす特性を有する新たな複合酸化物に基づいた低温焼成セラミックの開発において、重要な進歩が数年に渡ってなされてきた。例えば、焼結助剤なしにT=840℃で高い密度を有するCaTeO3誘電体セラミックを得ることができた(例えば特許文献2を参照)。このセラミックは、マイクロ波周波数で適切な誘電定数(εr=17.4)と低い誘電損失(Q・f=49,300GHz)とを示す。また、複合酸化物Bi6Te2O15の緻密なセラミックは、T=800℃で焼成されて適切な誘電損失(Q・f=41,300GHz)と多少高い誘電定数(εr=33)値とを示す(例えば特許文献3を参照)。
【0006】
しかし、この2種類のセラミックは非常に有毒であり、多少揮発性があるテルル酸化物成分を含んでいるため、産業に応用するのに制限を受ける。
【0007】
低温同時焼成セラミック開発の他の方向は、中間程度の焼結温度(1,100〜1,300℃)を有する公知のマイクロ波誘電体化合物に、少量(0.1〜5%)のドーパントを添加することに基づいている。多くの場合において、液状焼結助剤を適切に選択して添加することにより、Tsを200〜300℃程度下げることができることが知られている。この方法によれば、Q・f>10,000GHz、Ts=800〜900℃を有する低温同時焼成セラミック材料を得ることができる。しかし、ドーパントを少量でも添加すると、誘電損失がかなり増大すると言う問題がある。
【0008】
焼結温度を低下させる一般的な方法の内の一つは、湿式化学方法で微細に分散した前駆体粉末を得、これを熱分解させて誘電体原料として使用するものである。この前駆体粉末を使用することによって、最も高いQ・f値(100,000〜500,000GHz)を有するマイクロ波誘電体を製造するのに成功した。しかし、これらの材料は、概ね耐火物成分を含んでいて、高い焼結温度(1,400〜1,700℃)でのみ得ることができ、化学的に製造された前駆体を用いることによって、焼結温度を100〜300℃程度下げることができる(例えば特許文献4及び特許文献5を参照)。前記化学的に得た前駆体は、化学的均一性が高く、焼結する間に相当の結晶粒成長が誘導されることによって、不十分な結晶学的規則性と結晶粒界での欠陥集中により引き起こされる誘電損失を相当に減少させることができる。一般に粒界でエネルギー放散が大きくなることから、化学的に製造される前駆体を使用する方法のみが、低温同時焼成セラミック(Ts<900℃)マイクロ波誘電体生産用に制限されて開発されている主要な理由になっている。大部分の場合に、化学的に製造された前駆体を用いて得られる高密度セラミックは、中間または低いQ・f値を有すると言う短所がある(例えば特許文献6を参照)。
【0009】
また、最近の研究では、Zn3Nb2O8セラミックにより、εr=22〜23でQ・fが80,000GHz以上の値を得ることができ、焼結温度は、溶融温度の低い焼結助剤を使用して850℃まで低下させることができると記載されている(例えば特許文献7を参照)。その他の低温焼成用セラミック誘電体物質としてBiNbO4があるが、適切な焼結助剤を用いて焼結温度を875℃まで低下させることができると記載されている(例えば特許文献8及び特許文献9を参照)。
【0010】
しかし、これらの方法では、上記Nb系セラミックを、固相合成法を用いて得られた前駆体粉末から製造しており、得られた前駆体粉末の粒径が数ミクロンと大きく、低い温度で粒子の移動が妨害されることによって粉末結晶体の相当な凝集を引き起こし、焼成温度を低下させるのに限界があるという問題がある。
【特許文献1】米国特許第5,759,935号明細書
【特許文献2】M. Valantet al., J. Eur. Ceram. Soc. 24 (2004) 1715-19
【特許文献3】M. Udovic et al., J. Am. Ceram. Soc. 87 (2004) 891-97
【特許文献4】Li-Wen Chu et al.,Mater. Chem. Phys.,79, 2003, pp.276-281
【特許文献5】M.H. Weng et al., J. Eur Ceram. Soc.,22, 2002, pp.1693-1698
【特許文献6】H. Wang et al., Solid State Comm., 132(7)、 2004, pp.481-486
【特許文献7】D.W. Kim et al., Jpn. J. Appl. Phys., 40 (2001) 5994-5998
【特許文献8】日本国特許第07172916号
【特許文献9】日本国特許第05074225号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前述した従来の課題を解決することであり、適した機能性を有しながら、低い温度範囲で焼成が可能であり、内部電極にAgまたはCuを用いることができるマイクロ波誘電体セラミック及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法であって、下記の段階:
(i)塩基性水溶液中でNb及びBi、またはNb及びZnを共沈させてそれぞれBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体の粉末を得る段階;
(ii)段階(i)で得た前駆体粉末を熱分解させてBiNbO4またはZn3Nb2O8粉末を得る段階;及び
(iii)段階(ii)で得た粉末に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として添加し、粉砕し及び焼結する段階
を含む、低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記方法により製造される、下記の一般式1の組成を有する低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックを提供する:
a{x(A)+yNb2O5}+bCuO+cV2O5 1
式中、
(A)はBi2O3またはZnOであり;
aは97〜99.7質量%であり;
bは0.1〜1質量%であり;
cは0.2〜2質量%であり;
xは、(A)がBi2O3である場合30〜40質量%であり、(A)がZnOの場合42〜52質量%であり;
yは、(A)がBi2O3である場合60〜70質量%であり、(A)がZnOの場合48〜58質量%である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって得られるマイクロ波誘電体セラミックは、高い誘電率(k)、高い品質係数(Q)及び安定した共振周波数の温度係数(TCF)を有し、700〜750℃の低い温度範囲で焼成が可能であり、内部電極としてAgまたはCuを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0016】
本発明の特徴は、誘電体セラミックを製造するためのBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末を、固相合成法の代わりに溶液反応に基づいた共沈法により得た後に、これを最適量の焼結助剤であるCuO及びV2O5と混合し、粉砕及び焼結して低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックを製造することにある。
【0017】
本発明によって製造される一般式1の組成を有するマイクロ波誘電体セラミックは、既存の方法によっては達成することができなかった、適した機能性(例えば、kは45、Q・f=35,000GHz)を有しながら、700〜750℃の低い温度範囲で焼成が可能であり、内部電極にAgまたはCuを用いることができる。
【0018】
低い温度でマイクロ波誘電体セラミックを製造するためには、初期の焼結段階で前駆体粉末の最大焼結性を確保し、以後の焼結段階で相当な程度で、かつ均一に結晶粒成長が起こるようにするために最適化された合成手順によって製造された最終粉末を用いることが必要である。
【0019】
従って、本発明では、溶液反応に基づいた粉末合成工程である共沈法を用いて最小の凝集程度を示す微細な複合金属酸化物前駆体粉末を製造し、これを最適量の選択した焼結助剤と混合した後に、粉砕及び焼結して低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物を得る。
【0020】
本発明のマイクロ波誘電体セラミック組成物は、複合ビスマスニオブ酸化物(BiNbO4)または亜鉛ニオブ酸化物(Zn3Nb2O8)に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として混合した後に、粉砕し、焼結することによって得ることができる。
【0021】
具体的に言うと、本発明の低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法は、(i)塩基性水溶液中でNb及びBi、またはNb及びZnを共沈させてBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末を得る段階、(ii)前記前駆体粉末を熱分解させる段階、及び(iii)熱分解された粉末に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を添加して粉砕及び焼結する段階を含む。
【0022】
本発明で使用する塩基性水溶液としては、好ましくは10〜30%の濃度のアンモニア水溶液、アンモニウムカルボネート水溶液、アンモニウムヒドロカルボネート水溶液、ブチルアミン水溶液及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0023】
前記共沈段階(i)は、HNbCl6とBi(NO3)3との混合水溶液、またはHNbCl6とZn(NO3)3との混合溶液を、前記塩基性水溶液に滴加して沈殿を形成させることによって実施することができる。ここで、NbとBiとを共沈させるのに用いる塩基性水溶液としては、アンモニア水溶液とアンモニウムカルボネート水溶液との混合物が最も好ましく、NbとZnとを共沈させるのに用いる塩基性水溶液としては、n−ブチルアミン水溶液が最も望ましい。
【0024】
前記共沈段階(i)は、また、HNbCl6水溶液を塩基性水溶液、好ましくはアンモニア水溶液に添加してNb水酸化物の沈殿を得た後に、これを有機酸に溶解させ、ここにBi(NO3)3水溶液またはZn(NO3)2水溶液を添加して得られた溶液を液体窒素に噴射して冷却させることによって実施することもできる。Nb水酸化物を溶解させるために用いる有機酸としては、Bi(NO3)3水溶液を添加する場合には、クエン酸が最も好ましく、Zn(NO3)2水溶液を添加する場合には、蓚酸が最も好ましい。
【0025】
本発明で、HNbCl6水溶液とBi(NO3)3水溶液とを、得られる粉末のBi/Nbの最終組成が約1/1になるような化学量論比で混合し、HNbCl6水溶液とZn(NO3)3水溶液とを、Zn/Nbの最終組成が3/2になるような化学量論比で混合する。
【0026】
本発明で、HNbCl6水溶液は、NbCl5をHClなどのような酸に溶解させた後(NbCl5:conc.−HClの質量比は約1:1)に、水で希釈して0.5〜1Mの濃度を有するように製造する。Bi(NO3)3水溶液は、Bi(NO3)3・5H2Oを約12%の濃度のHNO3などのような酸で溶解させた後に、水で希釈して0.5〜1Mの濃度を有するように製造する。Zn(NO3)3水溶液は、Zn(NO3)2・6H2Oを水に溶解させて0.5〜1Mの濃度を有するように製造して用いることができる。
【0027】
本発明の方法において、前記共沈段階(i)を実施した後に、得られる生成物を凍結乾燥させる段階を追加して実施することが好ましい。
【0028】
また、熱分解段階(ii)は、600〜800℃の温度範囲で1〜4時間実施することが好ましい。熱分解された後に、得られる粉末を、凝集するのを防ぐために結晶構造に影響を及ぼさない範囲で多様な微粉砕方法、最も好ましくは10/1〜20/1のボール/粉末質量比で遊星型微粉砕(planetary milling)によって粉砕するのが好ましい。前記微粉砕工程は、粉末の欠陥または非晶質化が引き起こされないようにエチルアルコール等のような溶媒中で実施するのが好ましい。
【0029】
次に、段階(ii)で得られた粉末に、焼結挙動と最終生産物のマイクロ波性質等を考慮して、セラミックの特定組成に最適化させた焼結助剤、即ち、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を結合剤と共に添加した後に、粉砕及び焼結し、本発明において用いるセラミック粒子を製造することができる。焼結助剤及び結合剤を添加する時にも、前述したような微粉砕工程を実施するのが好ましい。
【0030】
前記結合剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、MC(メチルセルロース)、アクリリック、PVB(ポリビニルブチラール)、PEG(ポリエチレングリコール)等があり、これらに制限されず、例えば、乾燥PVAを水に溶解してPVA濃度10%の水溶液にしたPVA結合剤を用いることができる。
【0031】
本発明において、BiNbO4またはZn3Nb2O8粉末に添加する焼結助剤の量は、焼結挙動と最終生成物のマイクロ波性質とを考慮して、セラミックの特定組成に最適化させるようにする。本発明において、BiNbO4セラミックの場合には、V2O5を0.2〜0.5質量%、CuOを0.1〜0.5質量%の範囲で添加し、Zn3Nb2O8セラミックの場合には、V2O5を1〜4質量%、CuOを0.2〜1質量%の範囲で添加することが最も好ましい。添加するV2O5及びCuOの量は、示した範囲の下限値未満では、奏される効果が小さく、示した範囲の上限値を超える場合には、むしろ焼結性及びマイクロ波誘電特性を低下させる。
【0032】
以下、本発明を次の実施例によって具体的に説明することにする。しかし、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1:BiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末の製造
出発溶液として、NbCl5をHClに溶解させ、蒸溜水で希釈し、1MのHNbCl6水溶液を得、Bi(NO3)3・5H2OをHNO3(約12%)に溶解させ、蒸溜水で希釈して1MのBi(NO3)3水溶液を得、Zn(NO3)26H2Oを蒸溜水に溶解させ、1MのZn(NO3)2水溶液を得た。製造した溶液を最終組成(Bi/Nb=1/1、Zn/Nb=3/2)になるように、HNbCl6水溶液とBi(NO3)3水溶液またはZn(NO3)2水溶液とを混合した。
【0034】
得られたそれぞれの混合溶液を12%の濃度のNH4OH、(NH4)2CO3、NH4HCO3、n−ブチルアミン水溶液にそれぞれ1滴ずつ添加した。得られた沈殿物を真空フィルタリングを通して分離した後に、AgNO3溶液との反応でCl−イオンが検出されなくなるまで洗浄した。洗浄した沈殿物を250K以下に凍結乾燥させてBiNbO4及びZn3Nb2O8前駆体粉末を製造した。
【0035】
実施例2:BiNbO4及びZn3Nb2O8前駆体粉末の製造
BiNbO4粉末を製造する他の手段として、1MのHNbCl6水溶液をそれぞれ25%の濃度のアンモニア水溶液に添加して沈殿させた後に、沈殿物を真空ろ過し、Cl−反応が起きなくなるまで洗浄した。得られたNb水酸化物沈殿物を40℃でそれぞれ1Mのクエン酸に溶解させた後に、実施例1と同様にして製造したBi(NO3)3水溶液を添加した。得られた混合溶液を強い噴霧ノズルを通して液体窒素に噴霧させて微細な粒子で噴射した後に、液体窒素を蒸発させて冷却させることにより、BiNbO4前駆体粉末を製造した。
【0036】
Zn3Nb2O8を製造する他の手段として、1MのHNbCl6水溶液をそれぞれ25%の濃度のアンモニア水溶液に添加して沈殿させた後に、沈殿物を真空ろ過し、Cl−反応が起きなくなるまで洗浄した。得られたNb水酸化物沈殿物をそれぞれ1Mの蓚酸に溶解させ、溶液がpH=4〜4.5になるようにアンモニアを添加した後に、実施例1と同様にして製造したZn(NO3)2水溶液を添加した。得られた混合溶液を強い噴霧ノズルを通して液体窒素に噴霧させて微細な粒子で噴射した後に、液体窒素を蒸発させて冷却させることによってZn3Nb2O8前駆体粉末を製造した。
【0037】
前記冷却した残留物と噴霧冷却した溶液とを外部熱供給装置がないP=5×10−3mBar(1kPa)で産業用に製作された凍結乾燥器で凍結乾燥させた。この時、氷と沈殿物とで構成されている凍結乾燥された溶液が、乾燥時に氷が急激に揮発することによって一緒に存在していた沈殿物が容易に同伴損失する現象が発生し得るが、これは乾燥用容器に非不織布のカバーを被せることによって簡単に防止することができる。
【0038】
実施例3:BiNbO4及びZn3Nb2O8粉末の製造
実施例1及び2で得たBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末を空気中で600〜800℃の温度を有する熱窯で熱分解させた。熱質量分析によれば、400〜550℃の範囲の温度で前記BiNbO4及びZn3Nb2O8沈殿物の完全な熱分解が行われるが、その生成物は非晶質状を示す。
【0039】
図1に、BiNbO4前駆体粉末を多様な温度で熱分解させた時のXRDパターンを示す。図1から、T≧600℃で、熱分解によりBiNbO4前駆体がいくつかの不安定な二成分酸化物(Bi5Nb3O15、Bi3Nb17O47、Bi8Nb18O57等)と混合物を形成し、T≧700℃で、BiNbO4単一相が形成されることが分かる。
【0040】
図2は、BiNbO4前駆体粉末を700℃で熱分解した後の粒径及び形態を観察した走査電子顕微鏡写真であり、BiNbO4結晶粒子のサイズ及び形態は、前駆体粉末の形成方法によって変わることが分かる。具体的には、粒径は、ブチルアミンによる沈殿物によって得られたBiNbO4粉末(図2d)が最も小さく、クエン酸溶液の噴霧冷却によって得られたBiNbO4粉末(図2c)が最も大きく、アンモニア及びアンモニウムカルボネートによる沈殿物から得られた粉末(図2a及び図2b)はそのサイズが非常に類似する。
【0041】
図3は、BiNbO4前駆体粉末を700℃で熱分解した後に、光散乱法によって粉末の粒子凝集サイズを評価した結果であり、本発明により得られた粉末が緩く凝集していることが分かる。即ち、本発明で得られた前駆体(0.3〜0.4ミクロン)から得られた粉末の平均凝集サイズは、n−ブチルアミンを用いて得られた粉末を除いて走査電子顕微鏡(図2)により測定された平均粒径より若干大きい。n−ブチルアミンを利用した沈殿により得られた前駆体を用いた場合に、得られた結晶粒径は100nmより小さいのに対し、平均凝集粒径は500nm以上であった。
【0042】
図4に、Zn3Nb2O8前駆体粉末を多様な温度で熱分解させた時のXRDパターンを示す。図4から、600〜700℃の温度でZn3Nb2O8とZnNb2O6とが同時に得られたことが分かる。
【0043】
これらの相間の比は、出発前駆体の種類と熱処理条件とのいずれにも依存した。同じ時間と温度とで熱処理する場合に、Zn3Nb2O8の量は、塩基性水溶液による沈殿により得られた前駆体を用いると、更に多く、750〜800℃における等温アニーリングは、ZnNb2O6からZn3Nb2O8への転移を引き起こした。特に、噴霧冷却した蓚酸溶液から得られた前駆体を用いて製造された粉末は、低い比率で結晶化する特徴を示した。この場合に、結晶性Zn−Nb酸化物は、700℃を超える温度でのみ形成された。
【0044】
また、図5によると、塩基性水溶液による沈殿により得られた粉末は、Zn3Nb2O8の結晶化に必要な600〜650℃での熱処理により、粉末の最初の結晶形態であるナノ結晶性微細構造が維持された(図5a及び図5b)。温度を700℃以上に上げると比較的に一定の粒子成長が起きるのが認められた(図5c及び図5d)。Zn3Nb2O8の粒子形状と粒子の充填性とは、粉末の前化学的履歴(prechemical history)に影響を受け、これはZn3Nb2O8結晶化過程の特徴と十分に一致した。形態学的に一定で緩く凝集した沈殿法で製造した前駆体において、粒子の結合は50nmサイズの一次ナノ粒子が大きい等方性粒子に再凝集される過程を経る(図5a〜5c)。蓚酸前駆体の溶液履歴と生成物結晶化に必要な熱処理温度は、範囲が広く、多様な様相の粒径分布を示す。
【0045】
熱分解されたZn3Nb2O8粉末を走査電子顕微鏡で観察した粒径は、光散乱法(図6)を用いて分析された凝集構造での過程と十分に一致する。分解温度を高めると、最大分布値がさらに高い値へ移動するが、これは粒径の成長と凝集体強度の体系的な増加を反映している。蓚酸前駆体から得られたZn3Nb2O8粉末の場合、比較的に低い温度(700℃)でも固い凝集形状を観察できるが、これは凍結水溶液内で比較的に低い温度でも強い凝集体を形成できるからである。
【0046】
実施例4:マイクロ波誘電体セラミックの製造
実施例3で得られたBiNbO4またはZn3Nb2O8粉末を、凝集するのを防ぐために、粉砕を実施した。最もよい結果は、10/1〜20/1のボール/粉末重さ比で遊星型微粉砕(planetary milling)することで得られた。微粉砕時に強い欠陥が生成したり粉末が非晶質化したりするのを防止するために、エチルアルコールを溶媒として用いて実施した。
【0047】
微粉砕工程は、また、焼結助剤及び1質量%の乾燥PVAを10%の水溶液で製造したPVA結合剤を添加する時にも採用した。
【0048】
まず、Bi2O3 63.7質量%、Nb2O5 36.3質量%、及び加えてBi2O3とNb2O5との合計質量に対し、V2O5 0.5質量%、CuO 0.2質量%の組成になるようにアンモニアとアンモニウムカルボネートとの混合水溶液を用いた沈殿により得られたBiNbO4粉末と焼結助剤とを混合した原料粉末1;並びにZnO 47.0質量%、Nb2O5 53質量%、及び加えてZnOとNb2O5との合計質量に対し、V2O5 2質量%、CuO 0.5質量%の組成になるようにn−ブチルアミン水溶液を用いた沈殿により得られたZn3Nb2O8粉末と焼結助剤とを混合した原料粉末2をそれぞれ一軸加圧プレスを用いて直径対高さの比が0.3〜0.4である試片に作った。続いて、前記試験片を、昇温速度5K/minにして700〜850℃の温度で10分〜20時間等温熱処理した後に、3〜4K/minの速度で常温まで冷却させた。焼結した後に、得られたセラミック試験片の表面を紙やすりで研磨した。
【0049】
研磨した試験片の密度は、密度値の過度なエラーを防止するために、多重測定の平均値を測定する幾何学的な方法で測定した。焼成温度を変えて測定した密度値の結果を図7及び図8に示す。
【0050】
図7は、BiNbO4セラミックについて、密度と焼成温度との関係を示す。ここで、CarbはBiNbO4前駆体粉末生成時にアンモニウムカルボネート沈殿物を用いて製造されたもの、Citrは噴霧冷却したクエン酸溶液を用いて製造されたものを意味し、600及び700はそれぞれの熱分解温度(℃)を表す。
【0051】
図7から、本発明によると、既存の工程で製造した粉末からは得られない、700℃の低い温度で95%以上の焼結密度を得ることができることが分かる。また、図7は、前駆体粉末の焼結性が、それらの微細形態と同様に、使用した前駆体の種類と粉末の熱処理温度とのいずれにも密接な関連があることを示している。噴霧冷却したクエン酸溶液を用いて製造したBiNbO4粉末は、アンモニウムカルボネート沈殿物を用いて得られたBiNbO4粉末と比較すると、焼結性が低下したが、これは粒径が大きく、一次凝集体の強度が大きいのと関連があり得る。また、粉末の焼結性は用いる前駆体の種類及び熱分解温度と密接な関係があることが分かる。即ち、噴霧冷却したクエン酸溶液から製造したBiNbO4粉末はアンモニウムカルボネート沈殿から得られた粉末に比べて焼結性が低下したが、これはより大きい粒径及び凝集強度と関連がある。また、互いに異なる種類の前駆体から得た粉末は、熱分解温度による焼結性が反対になり得ることも分かる。熱処理温度を600℃から700℃に高めると、アンモニウムカルボネート沈殿物を用いて製造した前駆体粉末の焼結性は減少し、反対にクエン酸溶液を用いた噴霧乾燥工程を経て製造された前駆体粉末は、焼結性が増大する。アンモニウムカルボネート沈殿法では、単一結晶状BiNbO4が600℃で形成され、凍結乾燥クエン酸溶液法で製造したものは、700℃で形成されることを考慮すると、低い温度での最大焼結性は単一結晶状粉末から十分に得られることを示す。
【0052】
図8は、Zn3Nb2O8セラミックもまたBiNbO4セラミックと同様な関係を持つことを示している。噴霧冷却溶液から得られた粉末の焼結性は、塩基性水溶液による沈殿物から得られた粉末に比べて相当に低かったが、これは沈殿法で得た粉末の場合よりも高い温度でZn3Nb2O8の結晶化が起きることと十分に一致している。沈殿法で製造したZn3Nb2O8粉末の場合では、600℃で熱分解させる場合には650℃で得られた粉末よりもその粒径がはるかに小さいにもかかわらず、その焼結性はより低く、一方、これよりさらに分解温度を増加させれば焼結性の低下が起きた。これから結晶相の純度と結晶性とが、微細粉末の低い温度での焼結性に大きな影響を与えることが分かる。即ち、600℃でZn3Nb2O8粉末は微細であるが、半非晶質相であるのに比べ、650℃を超える温度で継続して熱処理すれば粒子成長が促進され焼結性が低下する。
【0053】
高い密度値と共に得られた材料の主要な特徴は、低い焼結温度とマイクロ波周波数で高い誘電性とを有することである。本発明で得られたセラミックのマイクロ波性質は、ヒューレットパッカード社(HP 8720C)のネットワーク分析機を利用して常温、f=1−15GHzで変形されたハッキー−コールマン(modified Hakki-Coleman)法で測定した。
【0054】
原料粉末1から製造したBiNbO4セラミックの高周波誘電特性を下記の表1に示す。
【表1】
【0055】
表1に示す通りに、本発明により製造されたBiNbO4前駆体粉末は焼結時、焼結温度700℃で高い相対密度と比較的小さな誘電損失(Q・f>10,000GHz)とを有する。焼結温度が720℃よりも高くなれば、焼結助剤による物質移動の加速化によって粒子成長が促進され、品質係数Q・f値が20,000GHz以上に増加するようになる。固相合成法を用いて製造した低温同時焼成セラミック(LTCC)の高周波誘電特性値と同様に、本発明の材料も最適の焼結温度を有しており、この温度を越えると品質係数の低下をもたらす。このような低下は、前駆体粉末の2種類のいずれにも同様に示される性質であり、これは高い温度における過度に異常な粒子成長と反緻密化(dedensification)とに起因するものである。
【0056】
また、原料粉末2から製造したZn3Nb2O8セラミックの高い周波誘電特性を下記の表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から、本発明によるZn3Nb2O8誘電体は、高い水準のマイクロ波性質を有することが分かる。図7及び図8に照らして、Zn3Nb2O8の場合、BiNbO4と比較して多少高い温度で焼結が起こるので、マイクロ波誘電体材料で概ね要求される>92〜93%の密度値は、T≧740℃で達成できる。このように焼結温度が若干高い結果は、Zn3Nb2O8での高い品質係数値と大きい粒子成長とを示し、このセラミック系では30,000〜35,000GHz程度に高い品質係数を示している。ここでも、BiNbO4と同様に最適の焼結温度を越えれば反緻密化が起き、それにより誘電損失が発生する。しかし、低い温度での焼結で得られた2つの材料のいずれも誘電定数は工程条件によってはほぼ変わらず、実際の使用に十分な程度に大きく、固相合成法で製造したBiNbO4とZn3Nb2O8セラミックの値とも十分に一致している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のマイクロ波誘電体セラミックは、多層マイクロウェーブチップとデバイスなどのような電気素子分野に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】BiNbO4前駆体粉末の熱分解温度によるXRDパターンを示すグラフである。
【図2a】アンモニアによる沈殿により得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2b】アンモニウムカルボネートによる沈殿により得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2c】噴射冷却したクエン酸溶液から得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2d】n−ブチルアミン(2d)による沈殿により得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】光散乱法によってBiNbO4粉末の粒子(凝集)サイズを評価した結果を示すグラフである。
【図4】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度によるXRDパターンを示すグラフである。
【図5a】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(600℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5b】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(650℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5c】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(700℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5d】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(800℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図6】光散乱法によりZn3Nb2O8粉末の粒子(凝集)サイズを評価した結果を示すグラフである。
【図7】互いに相違した共沈工程により得られたBiNbO4セラミックについての密度と焼結温度との関係を示すグラフである。
【図8】互いに相違した共沈工程により得られたZn3Nb2O8セラミックについての密度と焼結温度との関係を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックの製造方法及びそれから得られる低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層マイクロ波チップとデバイスとを開発するのに必要な新たな誘電体材料に関する研究は、高周波誘電体を利用したデバイスの核心技術となっている。誘電体材料で重要なものとして要求される性質は、最小誘電損失と共に、内部導体にAgを用いるチップを製造するために、Agの溶融温度(T=940℃)よりも相当に低い温度で焼結されることである。
【0003】
現在、低温同時焼成セラミック(Low Temperature Co-fired Ceramics;LTCC)は、焼結温度Tsが1100℃よりも高い既存の誘電体材料に、十分に溶融するガラスフリットまたはそれと類似の成分を相当量混合することによって製造されている。こうして焼結温度が低下した材料は、概ねマイクロ波周波数で相当高い誘電損失(低いQ値、Q=1/tanδ)を伴うが、焼結温度は900℃以上であるのが普通である。
【0004】
PbO、SiO2、B2O3、ZnO組成を有するガラスを溶かした後に、冷却し、粉砕して製造したガラスフリット10%とZnとTaとがドーピングされた予備合成されたBaO−xTiO2組成物(3≦x≦5.5)を混合すれば、900℃で2時間空気中で焼結することにより緻密なマイクロ波セラミックが得られることが提案された(例えば特許文献1を参照)。しかし、このマイクロ波セラミックのQ・f値は、2,500〜3,500GHzを超えていない。
【0005】
低温同時焼成セラミックに関するさらなる開発が、他の方向で進行している。すなわち、マイクロ波周波数範囲において低い誘電損失(low tanδ)を示し、900℃以下の温度で焼結して緻密なセラミックを得ることができる適正な溶融温度を同時に満たす特性を有する新たな複合酸化物に基づいた低温焼成セラミックの開発において、重要な進歩が数年に渡ってなされてきた。例えば、焼結助剤なしにT=840℃で高い密度を有するCaTeO3誘電体セラミックを得ることができた(例えば特許文献2を参照)。このセラミックは、マイクロ波周波数で適切な誘電定数(εr=17.4)と低い誘電損失(Q・f=49,300GHz)とを示す。また、複合酸化物Bi6Te2O15の緻密なセラミックは、T=800℃で焼成されて適切な誘電損失(Q・f=41,300GHz)と多少高い誘電定数(εr=33)値とを示す(例えば特許文献3を参照)。
【0006】
しかし、この2種類のセラミックは非常に有毒であり、多少揮発性があるテルル酸化物成分を含んでいるため、産業に応用するのに制限を受ける。
【0007】
低温同時焼成セラミック開発の他の方向は、中間程度の焼結温度(1,100〜1,300℃)を有する公知のマイクロ波誘電体化合物に、少量(0.1〜5%)のドーパントを添加することに基づいている。多くの場合において、液状焼結助剤を適切に選択して添加することにより、Tsを200〜300℃程度下げることができることが知られている。この方法によれば、Q・f>10,000GHz、Ts=800〜900℃を有する低温同時焼成セラミック材料を得ることができる。しかし、ドーパントを少量でも添加すると、誘電損失がかなり増大すると言う問題がある。
【0008】
焼結温度を低下させる一般的な方法の内の一つは、湿式化学方法で微細に分散した前駆体粉末を得、これを熱分解させて誘電体原料として使用するものである。この前駆体粉末を使用することによって、最も高いQ・f値(100,000〜500,000GHz)を有するマイクロ波誘電体を製造するのに成功した。しかし、これらの材料は、概ね耐火物成分を含んでいて、高い焼結温度(1,400〜1,700℃)でのみ得ることができ、化学的に製造された前駆体を用いることによって、焼結温度を100〜300℃程度下げることができる(例えば特許文献4及び特許文献5を参照)。前記化学的に得た前駆体は、化学的均一性が高く、焼結する間に相当の結晶粒成長が誘導されることによって、不十分な結晶学的規則性と結晶粒界での欠陥集中により引き起こされる誘電損失を相当に減少させることができる。一般に粒界でエネルギー放散が大きくなることから、化学的に製造される前駆体を使用する方法のみが、低温同時焼成セラミック(Ts<900℃)マイクロ波誘電体生産用に制限されて開発されている主要な理由になっている。大部分の場合に、化学的に製造された前駆体を用いて得られる高密度セラミックは、中間または低いQ・f値を有すると言う短所がある(例えば特許文献6を参照)。
【0009】
また、最近の研究では、Zn3Nb2O8セラミックにより、εr=22〜23でQ・fが80,000GHz以上の値を得ることができ、焼結温度は、溶融温度の低い焼結助剤を使用して850℃まで低下させることができると記載されている(例えば特許文献7を参照)。その他の低温焼成用セラミック誘電体物質としてBiNbO4があるが、適切な焼結助剤を用いて焼結温度を875℃まで低下させることができると記載されている(例えば特許文献8及び特許文献9を参照)。
【0010】
しかし、これらの方法では、上記Nb系セラミックを、固相合成法を用いて得られた前駆体粉末から製造しており、得られた前駆体粉末の粒径が数ミクロンと大きく、低い温度で粒子の移動が妨害されることによって粉末結晶体の相当な凝集を引き起こし、焼成温度を低下させるのに限界があるという問題がある。
【特許文献1】米国特許第5,759,935号明細書
【特許文献2】M. Valantet al., J. Eur. Ceram. Soc. 24 (2004) 1715-19
【特許文献3】M. Udovic et al., J. Am. Ceram. Soc. 87 (2004) 891-97
【特許文献4】Li-Wen Chu et al.,Mater. Chem. Phys.,79, 2003, pp.276-281
【特許文献5】M.H. Weng et al., J. Eur Ceram. Soc.,22, 2002, pp.1693-1698
【特許文献6】H. Wang et al., Solid State Comm., 132(7)、 2004, pp.481-486
【特許文献7】D.W. Kim et al., Jpn. J. Appl. Phys., 40 (2001) 5994-5998
【特許文献8】日本国特許第07172916号
【特許文献9】日本国特許第05074225号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前述した従来の課題を解決することであり、適した機能性を有しながら、低い温度範囲で焼成が可能であり、内部電極にAgまたはCuを用いることができるマイクロ波誘電体セラミック及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法であって、下記の段階:
(i)塩基性水溶液中でNb及びBi、またはNb及びZnを共沈させてそれぞれBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体の粉末を得る段階;
(ii)段階(i)で得た前駆体粉末を熱分解させてBiNbO4またはZn3Nb2O8粉末を得る段階;及び
(iii)段階(ii)で得た粉末に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として添加し、粉砕し及び焼結する段階
を含む、低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記方法により製造される、下記の一般式1の組成を有する低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックを提供する:
a{x(A)+yNb2O5}+bCuO+cV2O5 1
式中、
(A)はBi2O3またはZnOであり;
aは97〜99.7質量%であり;
bは0.1〜1質量%であり;
cは0.2〜2質量%であり;
xは、(A)がBi2O3である場合30〜40質量%であり、(A)がZnOの場合42〜52質量%であり;
yは、(A)がBi2O3である場合60〜70質量%であり、(A)がZnOの場合48〜58質量%である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって得られるマイクロ波誘電体セラミックは、高い誘電率(k)、高い品質係数(Q)及び安定した共振周波数の温度係数(TCF)を有し、700〜750℃の低い温度範囲で焼成が可能であり、内部電極としてAgまたはCuを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0016】
本発明の特徴は、誘電体セラミックを製造するためのBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末を、固相合成法の代わりに溶液反応に基づいた共沈法により得た後に、これを最適量の焼結助剤であるCuO及びV2O5と混合し、粉砕及び焼結して低温焼成用マイクロ波誘電体セラミックを製造することにある。
【0017】
本発明によって製造される一般式1の組成を有するマイクロ波誘電体セラミックは、既存の方法によっては達成することができなかった、適した機能性(例えば、kは45、Q・f=35,000GHz)を有しながら、700〜750℃の低い温度範囲で焼成が可能であり、内部電極にAgまたはCuを用いることができる。
【0018】
低い温度でマイクロ波誘電体セラミックを製造するためには、初期の焼結段階で前駆体粉末の最大焼結性を確保し、以後の焼結段階で相当な程度で、かつ均一に結晶粒成長が起こるようにするために最適化された合成手順によって製造された最終粉末を用いることが必要である。
【0019】
従って、本発明では、溶液反応に基づいた粉末合成工程である共沈法を用いて最小の凝集程度を示す微細な複合金属酸化物前駆体粉末を製造し、これを最適量の選択した焼結助剤と混合した後に、粉砕及び焼結して低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物を得る。
【0020】
本発明のマイクロ波誘電体セラミック組成物は、複合ビスマスニオブ酸化物(BiNbO4)または亜鉛ニオブ酸化物(Zn3Nb2O8)に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として混合した後に、粉砕し、焼結することによって得ることができる。
【0021】
具体的に言うと、本発明の低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法は、(i)塩基性水溶液中でNb及びBi、またはNb及びZnを共沈させてBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末を得る段階、(ii)前記前駆体粉末を熱分解させる段階、及び(iii)熱分解された粉末に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を添加して粉砕及び焼結する段階を含む。
【0022】
本発明で使用する塩基性水溶液としては、好ましくは10〜30%の濃度のアンモニア水溶液、アンモニウムカルボネート水溶液、アンモニウムヒドロカルボネート水溶液、ブチルアミン水溶液及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0023】
前記共沈段階(i)は、HNbCl6とBi(NO3)3との混合水溶液、またはHNbCl6とZn(NO3)3との混合溶液を、前記塩基性水溶液に滴加して沈殿を形成させることによって実施することができる。ここで、NbとBiとを共沈させるのに用いる塩基性水溶液としては、アンモニア水溶液とアンモニウムカルボネート水溶液との混合物が最も好ましく、NbとZnとを共沈させるのに用いる塩基性水溶液としては、n−ブチルアミン水溶液が最も望ましい。
【0024】
前記共沈段階(i)は、また、HNbCl6水溶液を塩基性水溶液、好ましくはアンモニア水溶液に添加してNb水酸化物の沈殿を得た後に、これを有機酸に溶解させ、ここにBi(NO3)3水溶液またはZn(NO3)2水溶液を添加して得られた溶液を液体窒素に噴射して冷却させることによって実施することもできる。Nb水酸化物を溶解させるために用いる有機酸としては、Bi(NO3)3水溶液を添加する場合には、クエン酸が最も好ましく、Zn(NO3)2水溶液を添加する場合には、蓚酸が最も好ましい。
【0025】
本発明で、HNbCl6水溶液とBi(NO3)3水溶液とを、得られる粉末のBi/Nbの最終組成が約1/1になるような化学量論比で混合し、HNbCl6水溶液とZn(NO3)3水溶液とを、Zn/Nbの最終組成が3/2になるような化学量論比で混合する。
【0026】
本発明で、HNbCl6水溶液は、NbCl5をHClなどのような酸に溶解させた後(NbCl5:conc.−HClの質量比は約1:1)に、水で希釈して0.5〜1Mの濃度を有するように製造する。Bi(NO3)3水溶液は、Bi(NO3)3・5H2Oを約12%の濃度のHNO3などのような酸で溶解させた後に、水で希釈して0.5〜1Mの濃度を有するように製造する。Zn(NO3)3水溶液は、Zn(NO3)2・6H2Oを水に溶解させて0.5〜1Mの濃度を有するように製造して用いることができる。
【0027】
本発明の方法において、前記共沈段階(i)を実施した後に、得られる生成物を凍結乾燥させる段階を追加して実施することが好ましい。
【0028】
また、熱分解段階(ii)は、600〜800℃の温度範囲で1〜4時間実施することが好ましい。熱分解された後に、得られる粉末を、凝集するのを防ぐために結晶構造に影響を及ぼさない範囲で多様な微粉砕方法、最も好ましくは10/1〜20/1のボール/粉末質量比で遊星型微粉砕(planetary milling)によって粉砕するのが好ましい。前記微粉砕工程は、粉末の欠陥または非晶質化が引き起こされないようにエチルアルコール等のような溶媒中で実施するのが好ましい。
【0029】
次に、段階(ii)で得られた粉末に、焼結挙動と最終生産物のマイクロ波性質等を考慮して、セラミックの特定組成に最適化させた焼結助剤、即ち、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を結合剤と共に添加した後に、粉砕及び焼結し、本発明において用いるセラミック粒子を製造することができる。焼結助剤及び結合剤を添加する時にも、前述したような微粉砕工程を実施するのが好ましい。
【0030】
前記結合剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、MC(メチルセルロース)、アクリリック、PVB(ポリビニルブチラール)、PEG(ポリエチレングリコール)等があり、これらに制限されず、例えば、乾燥PVAを水に溶解してPVA濃度10%の水溶液にしたPVA結合剤を用いることができる。
【0031】
本発明において、BiNbO4またはZn3Nb2O8粉末に添加する焼結助剤の量は、焼結挙動と最終生成物のマイクロ波性質とを考慮して、セラミックの特定組成に最適化させるようにする。本発明において、BiNbO4セラミックの場合には、V2O5を0.2〜0.5質量%、CuOを0.1〜0.5質量%の範囲で添加し、Zn3Nb2O8セラミックの場合には、V2O5を1〜4質量%、CuOを0.2〜1質量%の範囲で添加することが最も好ましい。添加するV2O5及びCuOの量は、示した範囲の下限値未満では、奏される効果が小さく、示した範囲の上限値を超える場合には、むしろ焼結性及びマイクロ波誘電特性を低下させる。
【0032】
以下、本発明を次の実施例によって具体的に説明することにする。しかし、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1:BiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末の製造
出発溶液として、NbCl5をHClに溶解させ、蒸溜水で希釈し、1MのHNbCl6水溶液を得、Bi(NO3)3・5H2OをHNO3(約12%)に溶解させ、蒸溜水で希釈して1MのBi(NO3)3水溶液を得、Zn(NO3)26H2Oを蒸溜水に溶解させ、1MのZn(NO3)2水溶液を得た。製造した溶液を最終組成(Bi/Nb=1/1、Zn/Nb=3/2)になるように、HNbCl6水溶液とBi(NO3)3水溶液またはZn(NO3)2水溶液とを混合した。
【0034】
得られたそれぞれの混合溶液を12%の濃度のNH4OH、(NH4)2CO3、NH4HCO3、n−ブチルアミン水溶液にそれぞれ1滴ずつ添加した。得られた沈殿物を真空フィルタリングを通して分離した後に、AgNO3溶液との反応でCl−イオンが検出されなくなるまで洗浄した。洗浄した沈殿物を250K以下に凍結乾燥させてBiNbO4及びZn3Nb2O8前駆体粉末を製造した。
【0035】
実施例2:BiNbO4及びZn3Nb2O8前駆体粉末の製造
BiNbO4粉末を製造する他の手段として、1MのHNbCl6水溶液をそれぞれ25%の濃度のアンモニア水溶液に添加して沈殿させた後に、沈殿物を真空ろ過し、Cl−反応が起きなくなるまで洗浄した。得られたNb水酸化物沈殿物を40℃でそれぞれ1Mのクエン酸に溶解させた後に、実施例1と同様にして製造したBi(NO3)3水溶液を添加した。得られた混合溶液を強い噴霧ノズルを通して液体窒素に噴霧させて微細な粒子で噴射した後に、液体窒素を蒸発させて冷却させることにより、BiNbO4前駆体粉末を製造した。
【0036】
Zn3Nb2O8を製造する他の手段として、1MのHNbCl6水溶液をそれぞれ25%の濃度のアンモニア水溶液に添加して沈殿させた後に、沈殿物を真空ろ過し、Cl−反応が起きなくなるまで洗浄した。得られたNb水酸化物沈殿物をそれぞれ1Mの蓚酸に溶解させ、溶液がpH=4〜4.5になるようにアンモニアを添加した後に、実施例1と同様にして製造したZn(NO3)2水溶液を添加した。得られた混合溶液を強い噴霧ノズルを通して液体窒素に噴霧させて微細な粒子で噴射した後に、液体窒素を蒸発させて冷却させることによってZn3Nb2O8前駆体粉末を製造した。
【0037】
前記冷却した残留物と噴霧冷却した溶液とを外部熱供給装置がないP=5×10−3mBar(1kPa)で産業用に製作された凍結乾燥器で凍結乾燥させた。この時、氷と沈殿物とで構成されている凍結乾燥された溶液が、乾燥時に氷が急激に揮発することによって一緒に存在していた沈殿物が容易に同伴損失する現象が発生し得るが、これは乾燥用容器に非不織布のカバーを被せることによって簡単に防止することができる。
【0038】
実施例3:BiNbO4及びZn3Nb2O8粉末の製造
実施例1及び2で得たBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体粉末を空気中で600〜800℃の温度を有する熱窯で熱分解させた。熱質量分析によれば、400〜550℃の範囲の温度で前記BiNbO4及びZn3Nb2O8沈殿物の完全な熱分解が行われるが、その生成物は非晶質状を示す。
【0039】
図1に、BiNbO4前駆体粉末を多様な温度で熱分解させた時のXRDパターンを示す。図1から、T≧600℃で、熱分解によりBiNbO4前駆体がいくつかの不安定な二成分酸化物(Bi5Nb3O15、Bi3Nb17O47、Bi8Nb18O57等)と混合物を形成し、T≧700℃で、BiNbO4単一相が形成されることが分かる。
【0040】
図2は、BiNbO4前駆体粉末を700℃で熱分解した後の粒径及び形態を観察した走査電子顕微鏡写真であり、BiNbO4結晶粒子のサイズ及び形態は、前駆体粉末の形成方法によって変わることが分かる。具体的には、粒径は、ブチルアミンによる沈殿物によって得られたBiNbO4粉末(図2d)が最も小さく、クエン酸溶液の噴霧冷却によって得られたBiNbO4粉末(図2c)が最も大きく、アンモニア及びアンモニウムカルボネートによる沈殿物から得られた粉末(図2a及び図2b)はそのサイズが非常に類似する。
【0041】
図3は、BiNbO4前駆体粉末を700℃で熱分解した後に、光散乱法によって粉末の粒子凝集サイズを評価した結果であり、本発明により得られた粉末が緩く凝集していることが分かる。即ち、本発明で得られた前駆体(0.3〜0.4ミクロン)から得られた粉末の平均凝集サイズは、n−ブチルアミンを用いて得られた粉末を除いて走査電子顕微鏡(図2)により測定された平均粒径より若干大きい。n−ブチルアミンを利用した沈殿により得られた前駆体を用いた場合に、得られた結晶粒径は100nmより小さいのに対し、平均凝集粒径は500nm以上であった。
【0042】
図4に、Zn3Nb2O8前駆体粉末を多様な温度で熱分解させた時のXRDパターンを示す。図4から、600〜700℃の温度でZn3Nb2O8とZnNb2O6とが同時に得られたことが分かる。
【0043】
これらの相間の比は、出発前駆体の種類と熱処理条件とのいずれにも依存した。同じ時間と温度とで熱処理する場合に、Zn3Nb2O8の量は、塩基性水溶液による沈殿により得られた前駆体を用いると、更に多く、750〜800℃における等温アニーリングは、ZnNb2O6からZn3Nb2O8への転移を引き起こした。特に、噴霧冷却した蓚酸溶液から得られた前駆体を用いて製造された粉末は、低い比率で結晶化する特徴を示した。この場合に、結晶性Zn−Nb酸化物は、700℃を超える温度でのみ形成された。
【0044】
また、図5によると、塩基性水溶液による沈殿により得られた粉末は、Zn3Nb2O8の結晶化に必要な600〜650℃での熱処理により、粉末の最初の結晶形態であるナノ結晶性微細構造が維持された(図5a及び図5b)。温度を700℃以上に上げると比較的に一定の粒子成長が起きるのが認められた(図5c及び図5d)。Zn3Nb2O8の粒子形状と粒子の充填性とは、粉末の前化学的履歴(prechemical history)に影響を受け、これはZn3Nb2O8結晶化過程の特徴と十分に一致した。形態学的に一定で緩く凝集した沈殿法で製造した前駆体において、粒子の結合は50nmサイズの一次ナノ粒子が大きい等方性粒子に再凝集される過程を経る(図5a〜5c)。蓚酸前駆体の溶液履歴と生成物結晶化に必要な熱処理温度は、範囲が広く、多様な様相の粒径分布を示す。
【0045】
熱分解されたZn3Nb2O8粉末を走査電子顕微鏡で観察した粒径は、光散乱法(図6)を用いて分析された凝集構造での過程と十分に一致する。分解温度を高めると、最大分布値がさらに高い値へ移動するが、これは粒径の成長と凝集体強度の体系的な増加を反映している。蓚酸前駆体から得られたZn3Nb2O8粉末の場合、比較的に低い温度(700℃)でも固い凝集形状を観察できるが、これは凍結水溶液内で比較的に低い温度でも強い凝集体を形成できるからである。
【0046】
実施例4:マイクロ波誘電体セラミックの製造
実施例3で得られたBiNbO4またはZn3Nb2O8粉末を、凝集するのを防ぐために、粉砕を実施した。最もよい結果は、10/1〜20/1のボール/粉末重さ比で遊星型微粉砕(planetary milling)することで得られた。微粉砕時に強い欠陥が生成したり粉末が非晶質化したりするのを防止するために、エチルアルコールを溶媒として用いて実施した。
【0047】
微粉砕工程は、また、焼結助剤及び1質量%の乾燥PVAを10%の水溶液で製造したPVA結合剤を添加する時にも採用した。
【0048】
まず、Bi2O3 63.7質量%、Nb2O5 36.3質量%、及び加えてBi2O3とNb2O5との合計質量に対し、V2O5 0.5質量%、CuO 0.2質量%の組成になるようにアンモニアとアンモニウムカルボネートとの混合水溶液を用いた沈殿により得られたBiNbO4粉末と焼結助剤とを混合した原料粉末1;並びにZnO 47.0質量%、Nb2O5 53質量%、及び加えてZnOとNb2O5との合計質量に対し、V2O5 2質量%、CuO 0.5質量%の組成になるようにn−ブチルアミン水溶液を用いた沈殿により得られたZn3Nb2O8粉末と焼結助剤とを混合した原料粉末2をそれぞれ一軸加圧プレスを用いて直径対高さの比が0.3〜0.4である試片に作った。続いて、前記試験片を、昇温速度5K/minにして700〜850℃の温度で10分〜20時間等温熱処理した後に、3〜4K/minの速度で常温まで冷却させた。焼結した後に、得られたセラミック試験片の表面を紙やすりで研磨した。
【0049】
研磨した試験片の密度は、密度値の過度なエラーを防止するために、多重測定の平均値を測定する幾何学的な方法で測定した。焼成温度を変えて測定した密度値の結果を図7及び図8に示す。
【0050】
図7は、BiNbO4セラミックについて、密度と焼成温度との関係を示す。ここで、CarbはBiNbO4前駆体粉末生成時にアンモニウムカルボネート沈殿物を用いて製造されたもの、Citrは噴霧冷却したクエン酸溶液を用いて製造されたものを意味し、600及び700はそれぞれの熱分解温度(℃)を表す。
【0051】
図7から、本発明によると、既存の工程で製造した粉末からは得られない、700℃の低い温度で95%以上の焼結密度を得ることができることが分かる。また、図7は、前駆体粉末の焼結性が、それらの微細形態と同様に、使用した前駆体の種類と粉末の熱処理温度とのいずれにも密接な関連があることを示している。噴霧冷却したクエン酸溶液を用いて製造したBiNbO4粉末は、アンモニウムカルボネート沈殿物を用いて得られたBiNbO4粉末と比較すると、焼結性が低下したが、これは粒径が大きく、一次凝集体の強度が大きいのと関連があり得る。また、粉末の焼結性は用いる前駆体の種類及び熱分解温度と密接な関係があることが分かる。即ち、噴霧冷却したクエン酸溶液から製造したBiNbO4粉末はアンモニウムカルボネート沈殿から得られた粉末に比べて焼結性が低下したが、これはより大きい粒径及び凝集強度と関連がある。また、互いに異なる種類の前駆体から得た粉末は、熱分解温度による焼結性が反対になり得ることも分かる。熱処理温度を600℃から700℃に高めると、アンモニウムカルボネート沈殿物を用いて製造した前駆体粉末の焼結性は減少し、反対にクエン酸溶液を用いた噴霧乾燥工程を経て製造された前駆体粉末は、焼結性が増大する。アンモニウムカルボネート沈殿法では、単一結晶状BiNbO4が600℃で形成され、凍結乾燥クエン酸溶液法で製造したものは、700℃で形成されることを考慮すると、低い温度での最大焼結性は単一結晶状粉末から十分に得られることを示す。
【0052】
図8は、Zn3Nb2O8セラミックもまたBiNbO4セラミックと同様な関係を持つことを示している。噴霧冷却溶液から得られた粉末の焼結性は、塩基性水溶液による沈殿物から得られた粉末に比べて相当に低かったが、これは沈殿法で得た粉末の場合よりも高い温度でZn3Nb2O8の結晶化が起きることと十分に一致している。沈殿法で製造したZn3Nb2O8粉末の場合では、600℃で熱分解させる場合には650℃で得られた粉末よりもその粒径がはるかに小さいにもかかわらず、その焼結性はより低く、一方、これよりさらに分解温度を増加させれば焼結性の低下が起きた。これから結晶相の純度と結晶性とが、微細粉末の低い温度での焼結性に大きな影響を与えることが分かる。即ち、600℃でZn3Nb2O8粉末は微細であるが、半非晶質相であるのに比べ、650℃を超える温度で継続して熱処理すれば粒子成長が促進され焼結性が低下する。
【0053】
高い密度値と共に得られた材料の主要な特徴は、低い焼結温度とマイクロ波周波数で高い誘電性とを有することである。本発明で得られたセラミックのマイクロ波性質は、ヒューレットパッカード社(HP 8720C)のネットワーク分析機を利用して常温、f=1−15GHzで変形されたハッキー−コールマン(modified Hakki-Coleman)法で測定した。
【0054】
原料粉末1から製造したBiNbO4セラミックの高周波誘電特性を下記の表1に示す。
【表1】
【0055】
表1に示す通りに、本発明により製造されたBiNbO4前駆体粉末は焼結時、焼結温度700℃で高い相対密度と比較的小さな誘電損失(Q・f>10,000GHz)とを有する。焼結温度が720℃よりも高くなれば、焼結助剤による物質移動の加速化によって粒子成長が促進され、品質係数Q・f値が20,000GHz以上に増加するようになる。固相合成法を用いて製造した低温同時焼成セラミック(LTCC)の高周波誘電特性値と同様に、本発明の材料も最適の焼結温度を有しており、この温度を越えると品質係数の低下をもたらす。このような低下は、前駆体粉末の2種類のいずれにも同様に示される性質であり、これは高い温度における過度に異常な粒子成長と反緻密化(dedensification)とに起因するものである。
【0056】
また、原料粉末2から製造したZn3Nb2O8セラミックの高い周波誘電特性を下記の表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から、本発明によるZn3Nb2O8誘電体は、高い水準のマイクロ波性質を有することが分かる。図7及び図8に照らして、Zn3Nb2O8の場合、BiNbO4と比較して多少高い温度で焼結が起こるので、マイクロ波誘電体材料で概ね要求される>92〜93%の密度値は、T≧740℃で達成できる。このように焼結温度が若干高い結果は、Zn3Nb2O8での高い品質係数値と大きい粒子成長とを示し、このセラミック系では30,000〜35,000GHz程度に高い品質係数を示している。ここでも、BiNbO4と同様に最適の焼結温度を越えれば反緻密化が起き、それにより誘電損失が発生する。しかし、低い温度での焼結で得られた2つの材料のいずれも誘電定数は工程条件によってはほぼ変わらず、実際の使用に十分な程度に大きく、固相合成法で製造したBiNbO4とZn3Nb2O8セラミックの値とも十分に一致している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のマイクロ波誘電体セラミックは、多層マイクロウェーブチップとデバイスなどのような電気素子分野に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】BiNbO4前駆体粉末の熱分解温度によるXRDパターンを示すグラフである。
【図2a】アンモニアによる沈殿により得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2b】アンモニウムカルボネートによる沈殿により得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2c】噴射冷却したクエン酸溶液から得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2d】n−ブチルアミン(2d)による沈殿により得られた前駆体から製造されたBiNbO4結晶粒子のサイズと形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】光散乱法によってBiNbO4粉末の粒子(凝集)サイズを評価した結果を示すグラフである。
【図4】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度によるXRDパターンを示すグラフである。
【図5a】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(600℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5b】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(650℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5c】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(700℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5d】Zn3Nb2O8前駆体粉末の熱分解温度(800℃)による微細構造の変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図6】光散乱法によりZn3Nb2O8粉末の粒子(凝集)サイズを評価した結果を示すグラフである。
【図7】互いに相違した共沈工程により得られたBiNbO4セラミックについての密度と焼結温度との関係を示すグラフである。
【図8】互いに相違した共沈工程により得られたZn3Nb2O8セラミックについての密度と焼結温度との関係を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法であって、下記の段階:
(i)塩基性水溶液中でNb及びBi、またはNb及びZnを共沈させてそれぞれBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体の粉末を得る段階;
(ii)段階(i)で得た前駆体粉末を熱分解させてBiNbO4またはZn3Nb2O8粉末を得る段階;及び
(iii)段階(ii)で得た粉末に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として添加し、粉砕し及び焼結する段階
を含む、低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法。
【請求項2】
塩基性水溶液がアンモニア水溶液と、アンモニウムカルボネート水溶液と、アンモニウムヒドロカルボネート水溶液と、ブチルアミン水溶液とこれらの混合物とからなる群より選ぶことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
共沈段階(i)を、HNbCl6とBi(NO3)3との混合水溶液またはHNbCl6とZn(NO3)3との混合水溶液を前記塩基性水溶液に滴加することによって実施することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
塩基性水溶液がアンモニア/アンモニウムカルボネート混合水溶液またはn−ブチルアミン水溶液であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
共沈段階(i)を、HNbCl6水溶液を塩基性水溶液に添加してNb水酸化物沈殿を得た後に、これを有機酸に溶解させ、ここにBi(NO3)3またはZn(NO3)2水溶液を添加して得られた溶液を液体窒素に噴霧冷却させることによって実施することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
塩基性水溶液がアンモニア水溶液であり、有機酸が、Bi(NO3)3水溶液を添加する場合にはクエン酸であり、Zn(NO3)2水溶液を添加する場合には蓚酸であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
共沈段階(i)を実施した後に得られる粉末を凍結乾燥させる段階を更に含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
熱分解段階(ii)を温度600〜800℃範囲で1〜4時間実施することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
熱分解段階(ii)を実施した後に得られる粉末を微粉砕することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
下記一般式1の組成を有し、700〜750℃の焼成温度を有するマイクロ波誘電体セラミック組成物:
a{x(A)+yNb2O5}+bCuO+cV2O5 1
式中、
(A)はBi2O3またはZnOであり;
aは97〜99.7質量%であり;
bは0.1〜1質量%であり;
cは0.2〜2質量%であり;
xは、(A)がBi2O3である場合に30〜40質量%であり、(A)がZnOの場合に42〜52質量%であり;
yは、(A)がBi2O3である場合に60〜70質量%であり、(A)がZnOの場合に48〜58質量%である。
【請求項1】
低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法であって、下記の段階:
(i)塩基性水溶液中でNb及びBi、またはNb及びZnを共沈させてそれぞれBiNbO4またはZn3Nb2O8前駆体の粉末を得る段階;
(ii)段階(i)で得た前駆体粉末を熱分解させてBiNbO4またはZn3Nb2O8粉末を得る段階;及び
(iii)段階(ii)で得た粉末に、該組成物の質量を基準にして、0.1〜1質量%のCuO及び0.2〜2質量%のV2O5を焼結助剤として添加し、粉砕し及び焼結する段階
を含む、低温焼成用マイクロ波誘電体セラミック組成物の製造方法。
【請求項2】
塩基性水溶液がアンモニア水溶液と、アンモニウムカルボネート水溶液と、アンモニウムヒドロカルボネート水溶液と、ブチルアミン水溶液とこれらの混合物とからなる群より選ぶことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
共沈段階(i)を、HNbCl6とBi(NO3)3との混合水溶液またはHNbCl6とZn(NO3)3との混合水溶液を前記塩基性水溶液に滴加することによって実施することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
塩基性水溶液がアンモニア/アンモニウムカルボネート混合水溶液またはn−ブチルアミン水溶液であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
共沈段階(i)を、HNbCl6水溶液を塩基性水溶液に添加してNb水酸化物沈殿を得た後に、これを有機酸に溶解させ、ここにBi(NO3)3またはZn(NO3)2水溶液を添加して得られた溶液を液体窒素に噴霧冷却させることによって実施することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
塩基性水溶液がアンモニア水溶液であり、有機酸が、Bi(NO3)3水溶液を添加する場合にはクエン酸であり、Zn(NO3)2水溶液を添加する場合には蓚酸であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
共沈段階(i)を実施した後に得られる粉末を凍結乾燥させる段階を更に含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
熱分解段階(ii)を温度600〜800℃範囲で1〜4時間実施することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
熱分解段階(ii)を実施した後に得られる粉末を微粉砕することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
下記一般式1の組成を有し、700〜750℃の焼成温度を有するマイクロ波誘電体セラミック組成物:
a{x(A)+yNb2O5}+bCuO+cV2O5 1
式中、
(A)はBi2O3またはZnOであり;
aは97〜99.7質量%であり;
bは0.1〜1質量%であり;
cは0.2〜2質量%であり;
xは、(A)がBi2O3である場合に30〜40質量%であり、(A)がZnOの場合に42〜52質量%であり;
yは、(A)がBi2O3である場合に60〜70質量%であり、(A)がZnOの場合に48〜58質量%である。
【図1】
【図4】
【図7】
【図8】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図4】
【図7】
【図8】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【公開番号】特開2007−51050(P2007−51050A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365241(P2005−365241)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(399101854)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (68)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(399101854)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (68)
【Fターム(参考)】
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