説明

低熱膨張ドープト溶融シリカ製坩堝

本開示は、シリカ系坩堝材料であって、焼結または焼成前に、その材料から製造された焼結または焼成坩堝に、改善された耐熱衝撃性および反復熱サイクルに耐える向上した能力を与える熱膨張安定化成分(B23およびCa2SiO4)を選択された量含むシリカ系坩堝材料に関する。本発明を説明するための実施の形態は、その化学組成が、質量%で表して、約91%から約98%のSiO2と、約1%から約8%の熱安定化成分と、約1.0%までの、MgO、Al23、Fe23、CaOおよびZrO2を含む追加の酸化物とを含む坩堝材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2009年11月30日に出願された米国仮特許出願第61/265133号の優先権の恩恵を米国法典第35編第119条(e)の下で請求するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、材料の中でも特に、蛍光電球に使用するリン酸塩材料をか焼および精製するのに使用するための坩堝、およびその坩堝を形成する方法に関する。特に、本開示は、耐熱衝撃性が増加し、持続した熱サイクル中の熱による体積変化が減少したシリカ製坩堝に関する。
【背景技術】
【0003】
溶融金属または合金を溶融するまたは保持するためのセラミック製坩堝が、鋳造の技術分野において公知である。誘導式溶融坩堝としては、典型的に、固体である金属または合金の装填物を加熱し、溶融するために、誘導コイルが周りに配置されたセラミック製坩堝が挙げられる。注ぎなどの次の動作のために溶融金属または合金を保持するため、または溶融金属または合金をある位置から別の位置に搬送するために、保持または移送用坩堝が使用される。セラミック製坩堝材料は、セラミック成分の混合物であって、典型的に、坩堝が加熱されたときに熱により誘起される体積変化を減少させるために、この混合物のセラミック主成分と反応し、少なくともある程度安定化させるために存在する安定化成分を含むセラミック成分の混合物からなる。例えば、単斜晶系ジルコニア(ZrO2)は約1000℃で相変化を経験し、これにより、材料において大きい体積変化を生じ、それゆえ、その材料に熱衝撃を与える。この体積変化/熱衝撃により、しばしば、ZrO2内に亀裂や破砕が生じ、それゆえ、坩堝の有効寿命が減少してしまう。MgOまたはY23などの安定剤が、坩堝内の応力を減少させるように、非常に幅広い温度範囲に亘り相変化が生じるように単斜晶相を安定化させるためにZrO2と共に含まれてきた。焼結または焼成ジルコニア系坩堝の耐熱衝撃性におけるさらなる改善が、ジルコニア製坩堝における成分として、選択された量のMgO、SiO2、およびY23の組合せを使用することによって達成されてきた。
【0004】
リン酸塩材料をか焼および/または精製するのに使用するための高純度シリカ耐火材料製坩堝が公知である。リン酸塩粉末の場合、未か焼の原料粉末が高純度シリカ製坩堝内に入れられ、リン酸塩材料をか焼し、精製するために、一般に、1100℃を超える温度に加熱される。このか焼精製工程は、精製を向上させる特別な雰囲気(水素および/または窒素などの)下で行ってもよい。一度、完全にか焼され、精製されたら、その後、粉末は室温まで冷却され、坩堝から取り出され、蛍光電球に使用するために加工される。次いで、高純度シリカ製坩堝は、追加の量のリン酸塩粉末をか焼するために、何度も再利用される。再利用される高純度シリカ製坩堝は、十分に高純度を示すリン酸塩粉末を製造することができるが、坩堝が示す典型的な有効寿命は、2,3の熱サイクル程度であり、これは、業界基準では許容できない。上述したジルコニア製坩堝のように、これらのシリカ製坩堝は、シリカ系坩堝が曝露される熱サイクルの結果として、250℃で反復相変化を経験し、たいがいクリストバライト相が形成される。坩堝材料における反復の大きい体積変化および坩堝に反復熱衝撃を生じるこれらの反復した相変化は、一般に、亀裂を誘発し、その後、亀裂が伝搬し、これは最終的に、坩堝の破損をもたらす。すなわち、坩堝は、低い耐熱衝撃性および/または熱疲労を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現行の高純度シリカ製坩堝に関する上述した問題に鑑みて、増加した有効寿命を示す、高純度リン酸塩粉末を溶融および/または保持するのに使用するための、坩堝材料、すなわち、数多くの熱(加熱とその後の冷却)サイクルに耐えることのできる坩堝材料が必要とされている。特に、熱サイクルの際に、減少した亀裂、それゆえ、増加した耐熱衝撃性/熱疲労を示し、それゆえ、反復熱サイクルを行うことのできる、リン酸塩材料を溶融/か焼するための材料および坩堝が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
改善された熱サイクル性能(すなわち、増加した耐熱衝撃性)を示し、リン酸塩粉末のか焼および精製に使用するのに特に適した高純度シリカ製坩堝がここに開示されている。より詳しくは、焼結または焼成前に、選択された量の熱膨張安定化成分を含むシリカ系坩堝材料がここに開示されている。このドープトシリカ材料から製造された焼結または焼成坩堝は、反復熱サイクルに耐える増加した能力により示されるように、改善された耐熱衝撃性を示す。
【0007】
本発明を説明するための実施の形態は、その化学組成が、質量%で表して、約91%から約98%のSiO2と、約1%から約8%の熱安定化成分と、約1.0%までの、MgO、Al23、Fe23、CaOおよびZrO2を含む追加の酸化物とを含む坩堝材料を提供する。この熱安定化成分は、坩堝の耐熱衝撃性と熱疲労を改善する材料であり、B23およびCa2SiO4からなる群より選択される。
【0008】
シリカ系坩堝を形成する方法は、金属基準で計算して、溶融シリカに基づいて、1質量%と8質量%の間の、熱安定化成分材料(B23およびCa2SiO4)を混合物中に含む、シリカ系スラリー混合物を形成する工程を含む。混合後、この方法は、シリカ系熱安定化成分混合物を、熱安定化成分材料酸化物を含有する剛性シリカ断片に乾燥させ、その後、シリカ断片を約1150℃〜1500℃でか焼し、次いで、そのシリカ断片を溶融シリカ製品に焼成する各工程を含む。坩堝形状に形成され、高温(例えば、1150℃超)で焼結(焼成)されたときに、シリカ系セラミック材料は、1100℃超の温度でのリン酸塩粉末のか焼または精製に使用するのに加熱されたときに、耐熱衝撃性が改善され、熱サイクルに耐える能力が増加した焼成セラミック坩堝を提供する。
【0009】
本発明の先の利点と他の利点は、以下の詳細な説明から容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
空気中、真空下、または不活性ガスなどの特別な雰囲気/保護雰囲気下でリン酸塩粉末をか焼または精製するのに使用される坩堝を製造するのに特に有用なシリカ系坩堝材料がここに開示されているが、このドープトシリカ製留坪生は、以下に限られないが、鋼鉄、鉄系合金、およびアルミニウムを含む他の金属および合金を溶融するのに使用することもできる。また、本開示による焼結(焼成)セラミック製坩堝は、1100℃超でのリン酸塩粉末の精製/か焼に使用するのに加熱されたときに、耐熱衝撃性が改善され、熱サイクルに耐える能力が増加している。特に、この改良坩堝を使用して精製されたリン酸塩粉末は、一般に、蛍光照明用途に利用される。
【0011】
本発明を説明するための実施の形態にしたがって、その化学組成が、質量%で表して、焼結前に、約91%から約98%のSiO2と、約1%から約8%の熱安定化成分と、約1.0%までの、MgO、Al23、Fe23、CaOおよびZrO2を含む追加の酸化物とから実質的になる坩堝材料が提供される。この熱安定化成分は、坩堝の耐熱衝撃性と熱疲労を改善する材料であり、B23およびCa2SiO4からなる群より選択される。さらに、熱安定化成分の含有およびそれに関連する耐熱衝撃性/熱疲労の改善の結果として、このドープト溶融シリカ材料からなる坩堝は、反復熱サイクルに耐えることができる。ある実施の形態において、坩堝は少なくとも9回の熱サイクルに耐えることができ、さらに別の実施の形態において、坩堝は少なくとも20回までの熱サイクルに耐えることができる。
【0012】
熱サイクルは以下の様式で測定される。最初に、少なくとも6個の坩堝を収容するのに十分な大きさの天然ガス炉を1160℃に予熱する。熱サイクルを測定するための坩堝は、以下の寸法を示す:4インチ(約10cm)の上部外径、3.25インチ(約8.13cm)の下部外径、5インチ(約12.5cm)の上部から下部までの高さ、および1/4インチ(6.25mm)の壁厚。形成中に少なくとも1250℃の温度に焼成されてきた、いわゆる坩堝を、炉内に入れる前に、検出可能なひびのないことについて検査する。未加熱の室温での坩堝(6個まで)を鋼鉄製トングを使用して炉に入れる。2時間後、坩堝を炉から取り出し、室温の棚に置き、自然に冷ます。1時間の冷却後、亀裂の存在を目視で検査するために、ライトボックスを使用して、坩堝を検査する。その上、坩堝を鋼鉄製の棒材で軽く叩いて、亀裂の存在について音で検査する。ひびが発見された場合、坩堝を、熱サイクルに合格しなかったものとして不合格とする。ひびが発見されない場合、検出可能なひびが見つかるまで、坩堝に追加の熱サイクルを施す。
【0013】
理論により制限することを意図するものではないが、熱安定化成分(B23およびCa2SiO4)が、シリカ系坩堝(90質量%超のシリカ)が1100℃超の温度に加熱されたときに生じるシリカの失透の際に一般に生じるβ−クリストバライト結晶相の成長の最小化または阻害の結果として、反復熱サイクルに耐える能力および坩堝の耐熱衝撃性と熱疲労を改善すると推測される。冷却の際に、β−クリストバライト結晶は、約300℃未満の温度でα−クリストバライトに転化して戻る。β−クリストバライトがα−クリストバライトと同じ熱膨張係数を示さないことを考えれば、シリカ坩堝は、著しい体積変化を経験する傾向があり、この体積変化は坩堝に応力を生じさせ、これにより、亀裂が形成されることとなる。坩堝に熱サイクルを施すに連れて、2つのクリストバライト相の間の変態に関連するこの体積変化により、さらに熱膨張と体積変化がもたらされ、これが亀裂の形成を増幅させる。最終的に、坩堝は、この過剰な亀裂形成のために、破損する。それゆえ、熱安定化成分(B23およびCa2SiO4)の含有は、2つの様式の内の一方、すなわち、β−クリストバライト結晶相の成長の最小化/阻害、または冷却の際のβ−クリストバライト結晶の維持(α−クリストバライト形態に戻る転化よりもむしろ)により、耐熱衝撃性または熱疲労を改善するように機能すると理論付けられる。
【0014】
ドープトシリカ製坩堝の別の予期せぬ利点は、必要事項を達成しながら、リンのか焼または精製プロセスの最中の加熱中に必要十分な気体放出(outgassing)を達成するという複合能力、および標準的なシリカ製坩堝と比べて、典型的に、1160℃でまたはその辺りで生じる、精製保持温度での、坩堝と、坩堝の蓋との間の改善された密封性である。標準的なシリカ製坩堝/坩堝の蓋の構成は、必要な気体放出を示すが、リン精製保持温度では特に良好には密封しないことに留意されたい。また、どのような坩堝/坩堝の蓋の材料/構成についても加熱前に坩堝の蓋を予め密封することも可能であろうが、必要な加熱気体放出が生じられないであろうことに留意されたい。ここに開示されたドープトシリカ製坩堝においては、安定化成分/ドーパント材料(例えば、B23)の含有により、低い軟化点を示し、それゆえ、焼成/か焼プロセスにうまく適した/より適合した坩堝が得られる。言い換えれば、軟化点とか焼温度との間の良好な温度の一致、それゆえ、良好な密封のために、わずかな酸素しか、か焼/精製環境に侵入することができない。密封性/気体放出の特徴のこの良好な組合せの結果として、これらのドープトシリカ製坩堝を使用して、より良好な品質/より長い寿命のリン材料を製造することができる。すなわち、リンは、照明用途に使用したときに、より高い輝度を示すことができる。このことは、Naドープト坩堝をリンか焼用途に不適切なものとする望ましいない失透を典型的にもたらす、軟化点を低下させることのできる他の材料(Naなどの)とは相違している。
【0015】
本発明を説明するための第2の実施の形態にしたがって、坩堝材料は、約91%から約94%のSiO2と、約5%から約8%の熱安定化成分と、約1.0%までの、MgO、Al23、Fe23、CaOおよびZrO2を含む追加の酸化物とを含む。重ねて、この熱安定化成分は、坩堝の耐熱衝撃性と熱疲労を改善し、反復の/多数の熱サイクルに耐える能力を向上させる材料であって、B23およびCa2SiO4からなる群より選択される。関連する実施の形態において、熱安定化成分は、5.4質量%から約7.4質量%に及ぶ量のB23を含む。
【0016】
別の例示の坩堝材料は、質量%で表して、焼結または焼成前に、約93%のSiO2と、約6%のB23と、約1.0%の、MgO、Al23およびZrO2を含む追加の酸化物とを含む。
【0017】
一般に、高純度溶融シリカ製品を製造する方法は、以下の工程:(1)金属基準で計算して、溶融シリカに基づいて、約1質量%と8質量%の間の熱安定化成分材料を含む液体流動性シリカスラリー混合物を調製する工程;(2)シリカ−熱安定化成分混合物を、安定化成分材料酸化物を含有する剛性シリカ断片に乾燥させる工程;(3)約1150℃〜1500℃の温度で、安定化成分材料酸化物を含有するシリカ断片をか焼する工程;次いで、(4)このシリカ断片を焼成して、溶融シリカ製品を形成する工程を含む。
【0018】
高純度シリカの公知の供給源のいずれも、本目的の出発材料として働くであろう。これらの例としては、加水分解有機ケイ酸塩、特に、ケイ酸エチル、加水分解四塩化ケイ素、およびヒュームド・シリカの水性ゾルが挙げられる。それに加え、本開示の目的に関して、粉砕高シリカ含有量ガラスがシリカ成分の供給源として働くことができる。例えば、96.5%のSiO2、2.50%のB23、0.50%のZrO2、0.20%の他の酸化物、および0.30%のアルカリを含むVycor(登録商標)ガラス。重要な要件は、出発材料が、必要な程度の純度を有し、シリカゾルまたはスラリーの性質を有するコロイド懸濁液の形態にあるか、それに転化できることである。
【0019】
次いで、細粒酸化物形態(例えば、酸化ホウ素粉末)にある熱安定化成分(例えば、B23およびCa2SiO4のいずれか)材料の必要量が、均質な乾燥混合物を形成するために十分な時間に亘りシリカ材料に加えられるか、または乾式混合される。US Stonewareから入手できる従来のボールミル(アルミナ媒体を利用する)、または任意の他の適切な乾式ミキサをこの目的に使用することができる。粒径は重要ではないが、一般に、より微細な細別により改善された結果が得られ、それゆえ、溶解するか、または325メッシュスクリーン(44マイクロメートル)を通過する熱安定化成分材料とシリカを混合物に利用すべきであることが分かった。「酸化物」という用語を使用しているが、これは、分解可能な金属塩(例えば、硝酸塩または炭酸塩)および酸化可能な元素の金属などの任意の酸化物前駆体を含むことが意図されている。B23源のホウ酸は、酸粉末を含み得ることも考えられる。
【0020】
次いで、乾燥混合物を、所望の含水量を有する均質な湿潤混合物を形成するのに十分な時間に亘り、適量の水、例えば、脱イオン水と混合する。次いで、湿潤混合物をボールミルミキサ内でさらに混合しても差し支えなく、または任意の他の適切なミキサを使用して、液体と乾燥混合物を混合して、湿潤混合物を形成しても差し支えない。
【0021】
次いで、湿潤混合物を振動式SWECO分離器24メッシュ(Tyler)スクリーン(カリフォルニア州、ロサンゼルス所在のSweco, Inc.からのモデル番号1S18S33)に通過させて、24メッシュ(約170マイクロメートル)超の凝集塊を除去し、24メッシュより微細な材料を通過させるべきである。次いで、湿潤混合物を従来の鋳込み成形モデル形成装置内に注ぎ入れて、自立性の未焼成(green(unfired))坩堝体形状を形成することができる。
【0022】
次いで、そのように形成されたモデル形成坩堝を、好ましくは1200から1350℃の範囲にある、空気中において1350℃の高温で焼結して、耐熱衝撃性/熱疲労が改善され、リン酸塩粉末のか焼または精製において一般に示される反復熱サイクルの準備ができている焼結(焼成)坩堝を形成することができる。
【実施例】
【0023】
実施例1〜18
18個の試験用坩堝を、本発明を説明するための実施の形態にしたがって製造し、以下の様式で形成した。製造された「Vycor」管状カレットをローラ・クラッシャーに通して、1インチ(約2.5cm)より小さい小片に粉砕した。「Vycor」管状カレットは、96.50%のSiO2、2.50%のB23、0.50%のZrO2、0.20%の他の酸化物、および0.30%のアルカリの混合物を含む組成を示した。150ポンド(約68kg)の「Vycor」カレットを、1−1/4インチ(約2.5−0.6cm)の円柱状アルミナ媒体で半分満たされたUS Stonwareミル内に入れた。4.5ポンド(約2.0kg)の酸化ホウ素(Alfa Aesar、98.5%の純度)をそのミルに加えた。ミルを閉じ、5分間に亘り運転して、水を加えたときに生じる発熱反応のためにガラス中に酸化ホウ素を分散させた。40ポンド(約18kg)の1MHz脱イオン水をミルに加えた。次いで、S-TAV 2003 Stampfvolumeter(Jel)ユニット上で500回、叩いた後に、米国標準規格の325メッシュスクリーン上に残された粒子の量が2から4mlとなるまで、ミルを運転した。
【0024】
次いで、その結果得られたスリップをミルから35メッシュスクリーンに通すように注いで、ミル粉砕プロセスで粉砕されなかった大きな粒子を除去した。このスリップを50LのNalgeneジャグ内のローラ上に配置して、粒子を水中に分散させながら、一晩、冷却した。
【0025】
鋳込み成形プロセスには、石膏成形型を使用した。成形型を、研磨スクラブパッドを使用して軽く磨き上げ、離型剤として使用されるトウモロコシデンプンと水の混合物を噴霧した。スリップを以下の様式で成形型中に徐々に注ぎ入れた。初期量のスリップを成形型に注ぎ入れ、時間の経過と共に水が成形型に吸収され(すなわち、スリップのレベルがその初期レベルより低下し)、元の充填レベルを維持するためにさらにスリップを加えた。このスリップの添加プロセスを、坩堝の壁厚が所望の厚さに蓄積されるまで、続けた。一般に、その厚さは1/4インチ(約0.6cm)から1/2インチ(約1.2cm)に及んだ。
【0026】
一旦、適切な坩堝厚が達成されたら、未焼成/湿潤坩堝が必要な未焼成強度を達成できるように、15分間に亘り、各坩堝を硬化(成形型内で)させた。次いで、そのように形成された湿潤/未焼成坩堝を、エアホースを使用することによって成形型から取り外した。詳しくは、圧縮空気を、坩堝と成形型との間に吹き付けて、坩堝を離型させた。次いで、坩堝の上縁を、水と研磨パッドで未焼成仕上げしたか、あるいは、平らな縁にするために、ノコギリを使用して切り取った(蓋と共に使用される坩堝については)。
【0027】
次いで、そのように形成された未焼成坩堝を、焼成前に少なくとも2日間に亘り室温条件で乾燥させた。次いで、坩堝を28インチ×40インチ×50インチ(約70cm×100cm×125cm)のガス焼成式箱形炉内に入れた。次いで、坩堝を、保持時間なく1250または1350℃の温度まで焼成し、次いで、炉を停止させ、次いで、坩堝を室温まで冷まさせた。焼成および冷却の全サイクルは、約2日かかった。焼成されたまま、および熱サイクル後の両方のそのように形成された坩堝の結果として得られた分析の組成が表Iに報告されている。坩堝の内の1つの組成が尺度であり、同じバッチ及び上述した成形手法を使用して形成されたもの全ての代表であると考えられる。化学的結果は、存在する元素の測定に関連するある程度のレベルの誤差を有し、それゆえ、組成は、測定誤差を考慮して範囲として列記されている。3質量%と100質量%の間の量について、誤差は1%と見積もられる。SiO2は90%超の高い値を有するので、このため、化学成分の合計が100%にならない理由の主因であるように、化学成分測定における誤差(±0.9%)のほとんどの原因となる。それに加え、代表的な坩堝に関する焼成されたままと後熱サイクルとの間の組成変化は、その後の熱サイクル中に少量のB23が蒸発したためであろうとことに留意すべきであり、理論付けられる。最後に、Al23の供給源は、アルミナ粉砕媒体のために分析において存在することに留意されたい。
【表1】

【0028】
次いで、そのように形成された/結果として得られた18個の坩堝に、以下の様式で熱サイクル条件(先に詳しく述べられている)を施した。そのように形成された坩堝を炉内に入れ、1時間に亘り1250℃超の温度に加熱し、次いで、室温まで冷却し、坩堝に欠陥が検出されるまで、繰り返した。これらのホウ素ドープトシリカ製坩堝が、18個の坩堝全てが、20回超の熱サイクルに耐えることができ、そのように形成された坩堝の5個が50回のサイクルを実際に超えたという事実に証拠付けられるように、増加した耐熱衝撃性/熱疲労を示したことが表IIに報告されている。
【表2】

【0029】
実施例19〜20
さらに2つの坩堝の実施例を形成し、熱サイクルを施した。両方とも、純粋なシリカ粉末およびホウ酸粉末を含むバッチ混合物から形成した。各坩堝を形成したバッチ混合物は、150ポンド(約68kg)の純粋な溶融シリカ粉末、詳しくは、サウスダコタ州、キーストーン所在のMineral Technology Corporationにより市販されているGG−4+50AW、−4メッシュおよび+50メッシュの溶融シリカ粉末を含んだ。第1の坩堝バッチ混合物については、4質量%のホウ酸(6ポンド(約2.7kg))を加えたのに対し、第2の坩堝バッチ混合物には、同じホウ酸源、詳しくは、Borax Corp.により市販されている、Optibor(登録商標)TG−20 Meshが5.4%(8.1ポンド(約3.7kg))が配合されていた。
【0030】
両方の場合、先に記載されたのと同じ手法を使用した坩堝を形成した。詳しくは、ボールミル混合、スラリー形成、鋳込み成形、未焼成仕上げ、乾燥、次いで、1250℃での焼成。重ねて、既に述べたように、坩堝の最終組成は、SiO2およびB23成分に加え、ボールミルに利用したアルミナ粉砕媒体の結果として約0.5%のAl23を含むであろう。
【0031】
各バッチから少なくとも1つの坩堝に上述した熱サイクル手法を施した。両方の坩堝が数多くの熱サイクルに耐えられた、それぞれ、17回と22回超の熱サイクルに耐えられたという事実により証拠付けられるように、これらのホウ素ドープトシリカ製坩堝は、この場合もやはり、増加した耐熱衝撃性/熱疲労を示したことが表IIIに報告されている。
【表3】

【0032】
ここに記載された材料、方法、および物品に、様々な改変および変更を行うことができる。ここに記載された材料、方法、および物品の他の態様が、ここに開示された材料、方法、および物品の実施および明細書の検討から明らかであろう。明細書および実施例は、例示と考えられることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表して、焼結または焼成前に、約91%から約98%のSiO2と、約1%から約8%の熱安定化成分と、約1.0%までの他の酸化物とを含む坩堝材料。
【請求項2】
前記熱安定化成分がB23またはCa2SiO4を含むことを特徴とする請求項1記載の坩堝材料。
【請求項3】
前記他の酸化物が、ZrO2、MgO、Fe23、CaOおよびAl23からなる群より選択される酸化物を含むことを特徴とする請求項2記載の坩堝材料。
【請求項4】
質量%で表して、焼結または焼成前に、約91%から約94%のSiO2と、約5%から約8%の熱安定化成分と、約1%の他の酸化物とを含むことを特徴とする請求項1記載の坩堝材料。
【請求項5】
前記熱安定化成分がB23であり、約5.4質量%から約7.4質量%の範囲で存在することを特徴とする請求項4記載の坩堝材料。
【請求項6】
質量%で表して、焼結または焼成前に、93%のSiO2と、6%のB23と、1%の他の酸化物の組合せとを含むことを特徴とする請求項1記載の坩堝材料。
【請求項7】
請求項1記載の坩堝材料から製造された坩堝。
【請求項8】
高純度溶融シリカ製品を製造する方法において、シリカスラリーの液体流動性形態に、金属基準で計算して、溶融シリカに基づいて、1質量%と8質量%の間の熱安定化成分材料をドープする工程、シリカと熱安定化成分の混合物を、前記熱安定化成分材料酸化物を含有する剛性シリカ断片に乾燥させる工程、該シリカ断片を約1150℃〜1500℃でか焼する工程、次いで、該シリカ断片を溶融シリカ製品に焼成する工程を含む方法。
【請求項9】
前記熱安定化成分材料がB23またはCa2SiO4であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記熱安定化成分材料が5〜8%の間の量で加えられることを特徴とする請求項9記載の方法。

【公表番号】特表2013−512186(P2013−512186A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542098(P2012−542098)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/057931
【国際公開番号】WO2011/066336
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】