説明

低発塵性シート

【課題】クリーンルーム内で好適に使用することができ、且つ帯電防止性能に優れた低発塵性シートを提供することを課題とする。
【解決手段】
熱融着性繊維からなる基材に水溶性高分子を主成分とする含浸液を含浸し、その少なくとも片面に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とした低発塵性シートを作成する。好ましくは、23℃、相対湿度50%の条件下での塗工面の表面固有抵抗値が、1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であることを特徴とする低発塵性シートを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム内における電子部品等の収納、包装等に用いられる資材として好適な、静電防止性および低発塵性を有するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業、医療・医薬品産業、および精密機械産業等の製品製造ラインにおいては、塵埃が製品の欠陥や品質、歩留の低下などの重大な悪影響を引き起こすため、塵埃のないクリーンルーム内にて各種の作業が行われている。クリーンルームにおいては、塵埃の内部への搬入を極力防止するとともに、搬入した資材が内部の各種作業によって発塵しないものであるよう、これを選定する必要がある。例えばクリーンルーム内での使用に好適な資材の一つである低発塵紙は、伝票等の記録用途、製品の生産過程で使用される工程紙もしくは包装紙として使用されている。とりわけ半導体を取扱うエレクトロニクス産業においては、超LSI等の電子部品を実装するためのリードフレームやCRTのシャドウマスク等に用いる金属薄板と重ね合わせて用いるための合紙として使用されている。金属薄板は、表面に傷が付き易く酸化されやすいが、この合紙を挟むことで、傷による異常電流、異常発熱および断線等を防止することができる。さらに電子部品の製造や運搬においては、静電気帯電による絶縁破壊等の電気的トラブルの回避や、塵の付着を防止する目的で、低発塵紙に導電性を付与したものがしばしば用いられる。
【0003】
かかる導電性の低発塵紙は、合成繊維と導電性物質の組み合わせからなる合成紙である場合が多く、例えば特許文献1には、合成繊維等に、銀や銅を被覆することで得られる導電性繊維を含有することを特徴とする発明が提案されている。また、特許文献2には、熱融着性繊維と有機導電性繊維を混合抄紙して得たシートを、熱融着性繊維の融点以上の温度にて加熱処理を施すことを特徴とするシートの発明が提案されている。
【0004】
しかし、熱融着性繊維と導電性繊維とを混抄し、その後熱融着させるタイプの低発塵紙には、樹脂フィルムと比較して発塵しやすいという欠点があった。例えば導電性繊維として炭素繊維を用いた場合、炭素繊維は屈曲性が低く、曲げた際に繊維が切断され塵埃となりやすいという問題があった。また、金属繊維を用いた場合は導電性が高すぎるため、繊維の露出部に製品が触れると、電気トラブルが発生しやすくなるため、改善が求められていた。一方、導電性有機繊維を使用すると、前述した屈曲性、導電性等の点において他の導電性繊維よりも優れている。しかし、加工成型時や製品との擦れによって生じる発塵量の多さや、未融着の繊維が脱落するなどの難点から、これらは、発塵性の要求を未だに満たしていないのが現状である。また、導電性有機繊維自体が高価であることによって、コスト面での難点もあった。
【0005】
導電性繊維を使用しない低発塵性シートとしては、特許文献3には、シート基材に導電性高分子を被覆した低発塵導電性繊維シートが提案されている。これはバインダー樹脂によって基材と導電性高分子との接着を強化しているが、これだけでは発塵を充分に抑えることはできなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平2−154098号公報
【特許文献2】特開平8−74193号公報
【特許文献3】特開2007−169823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、発塵が低減され、且つ適度な導電性を有する低発塵性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱融着性繊維からなる基材の表面に導電性塗料を塗工して導電性を付与した後、これを熱処理することで基材と塗工層を溶融密着させ、基材もしくは塗工層からの発塵を抑えるよう設計することにより、上記目的を達成しうることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、請求項1記載の発明は、熱融着性繊維からなる基材の少なくとも片面に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とする低発塵性シートである。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、熱融着性繊維からなる基材の少なくとも片面に水溶性高分子層を設け、その上に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とする低発塵性シートである。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、熱融着性繊維からなる基材に水溶性高分子を主成分とする含浸液を含浸し、その少なくとも片面に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とする低発塵性シートである。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、前記基材の熱融着性繊維が、ポリオレフィン系繊維であることを特徴とする請求項1〜3記載の低発塵性シートである。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、23℃、相対湿度50%の条件下での表面固有抵抗値が、1.0×10Ω/□以上であり、且つ1.0×10Ω/□以下であることを特徴とする請求項1〜4記載の低発塵性シートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低発塵性シートは、導電剤を塗工することで基材に導電性を付与する手段を採用している。これにより、導電性繊維を抄込むタイプのシートに見られる、未融着繊維の脱落による発塵トラブルを回避することができる。また、基材表面を樹脂で覆うことによって該シートの表面強度が強まり、擦れ等によって発生する繊維の発塵を抑制する効果がある。また、導電剤がシート内部に存在するとシートの強度低下を引き起こすが、本発明では塗工によりシートの表面のみに導電性を付与することができるため、シート内部の強度低下を防ぐことができる。さらには比較的高価な導電材料を、導電性が必要な表面のみに集約させることで、コスト面で効率的な構造をなし得る。
【0015】
本発明の低発塵性シートは、導電剤を塗工した後に基材を加熱溶着することによって、基材と塗工層を密着させる手段を採用しているが、これは、合成紙や湿式不織布のような多孔質で疎水的な表面特性を有する基材に対して、塗料を密着させる方法として、次の理由で有効といえる。一般に熱融着性の繊維として広く使用されているポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維は非極性分子であり、水系もしくは溶剤系のあらゆる樹脂との接着性が極めて低い。このため、基材表面にコーティングを施しただけでは、繊維と塗料が接着せず、擦れ等によって塗工層が容易に剥離する。しかしながら、本発明のように塗工後に熱処理を施すと、シートにおける基材と塗工層の界面において熱融着性繊維がバインダー樹脂を取込みながら溶融、膠着するため、強固な接着性を発現することが可能となるのである。
【0016】
また、上記基材に水溶性高分子層を設けることによって、基材と塗工層の接着性をさらに高めることができる。基材にあらかじめ水溶性高分子を含浸もしくは塗工することによって、基材の表層および内部に、ヒドロキシル基やカルボキシル基等の親水基が齎される。その結果、水溶性高分子層の上層に塗布される導電性塗料の成分は、非極性の熱融着性繊維に直接塗布する場合と比べて接着し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において熱融着性繊維からなる基材とは、該繊維の融点以上の温度で加熱することで繊維が溶融し、相互に融着することで連続的なシート形状を構築するものである。当該基材は、熱融着性繊維を水に分散させ、これを公知の湿式抄紙工程を経て、製造することができる。
【0018】
熱融着性繊維の素材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維およびこれらのミクロフィブリル化繊維、ポリビニルアルコール繊維のような熱水溶解型繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等を複合させた低融点の繊維などが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、構造としてはポリエチレン/ポリエステルの芯鞘構造や、融点が異なる2種以上のポリエステルからなるサイドバイサイド構造などを有する複合紡糸繊維が好ましい。特に好ましいのはポリオレフィン系繊維であり、これらは融点が125℃程度であるため、容易に熱融着させることができる。150℃を越える高融点の合成繊維からなる基材では、導電性塗料を塗工後の熱処理工程において熱融着させる際に、加熱ロール体を高温に保つこととなるため、基材表面に存在する導電性塗料の層が剥離して加熱ロール側に転移しやすくなるので、好ましくない。また、低融点を有する熱融着性の短繊維の混入は、基材を結着させるための補助成分として効果が得られる。該短繊維は、湿式抄紙によるシート化工程において、主成分の熱融着性繊維よりも先に溶融する。これにより、主成分の繊維が完全に熱融着する段階における基材の機械的強度不足を補うことができるため、紙切れ等の生産マシントラブルを回避することができる。
【0019】
基材には、本発明の性能を損なわない範囲で、木材パルプ、非熱融着性の合成パルプ、合成繊維等の繊維状物を混入させることも可能である。例えば、木材パルプの混入は、塗工もしくは含浸させる溶液との密着性向上効果があり、さらには加熱後にも適度なこしが残存するので加工性の向上効果を付与できる。木材パルプとしては、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ等の既知のパルプを単独若しくは混合したものを用いることができ、配合比は特に限定されるものではない。
【0020】
本発明において基材に水溶性高分子層を設けるために塗工する塗料の成分としては、例えば、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、不ケン化型ポリビニルアルコール、各種変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、酸化澱粉、変性澱粉等の澱粉、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ポリビニルピロリドン等の合成および天然高分子化合物を単独或いは2種類以上混合し、塗料濃度が0.5%〜50%になるように調製し、必要に応じて界面活性剤等の助剤を配合して調製することができる。とりわけ、ポリビニルアルコールに代表される乾燥時の皮膜性が良い水溶性高分子は、皮膜と導電層との密着性が向上するため、使用が好ましい。
【0021】
基材に水溶性高分子層を設ける方法は、例えばバーコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等の公知の塗工方法を採用するとよい。乾燥後の塗布量は、特に限定はないが0.1g/m〜20g/mの範囲内であることが好ましい。0.1g/m未満の塗布量では、基材と導電層との密着性向上の効果が得られず、また20g/mを越える塗布量では、乾燥不良等の機械生産上の不都合が起こり易いため適当ではない。
【0022】
基材に水溶性高分子を含浸させる場合も、水溶性高分子としては上記の塗料成分と同様のものを用いることができるが、水溶性高分子の浸透性を高めるために、界面活性剤を多く加える等の調整が必要となる場合がある。水溶性高分子を基材に含浸させると、塗工による方法と比較して、高分子の皮膜による繊維の結着が基材内部にまで形成されるため、シート切断面からの発塵を抑制することができる。塗料を含浸させる場合の含浸率について特に限定はないが、前記塗工時と同様の理由で含浸率が1%〜30%となるように含浸させることが好ましい。
【0023】
本発明で用いられる導電性塗料は、水に溶解または分散可能なバインダーと導電性粒子を主体とし、必要に応じて界面活性剤等の助剤を配合して調製することができる。なお、有機溶剤系の導電剤およびバインダーの使用は好ましくない。その理由は、熱融着性繊維からなる基材に対する浸透性が高いため、塗料の裏抜け、基材表面の溶解、基材の伸縮等の弊害を引き起こすからである。
【0024】
導電性塗料に用いる水に溶解または分散可能なバインダーとしては、例えば、スチレン・ブタジエンラテックス、変性スチレン・ブタジエンラテックス、アクリロニトリル・ブタジエンラテックス、メチルメタクリレート・ブタジエンラテックス、変性メチルメタクリレート・ブタジエンラテックス、クロロプレンラテックス、ブチルラテックス、ポリブテンラテックス、ポリウレタンラテックス、チオコールラテックス等の水系ラテックス、ポリエチレンエマルジョン、ポリスチレンエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、アクリルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、塩化ビニリデンエマルジョン、塩化ビニルエマルジョン等の水系エマルジョン及びポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カゼイン等の合成または天然高分子物質の単独或いは2種類以上を混合したものが使用可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
導電性塗料に用いる導電性粒子としては、例えばカーボンブラックや導電性カーボン等のカーボン系黒色導電性顔料や、導電性高分子をドープした金属酸化物、あるいは導電性有機物等を単独或いは2種以上混合して使用可能である。とりわけ、導電性有機物が特に好ましく、例えばポリピロールの水分散体は、極少量の使用で目標とする導電性を発現できる。
【0026】
導電性塗料を基材に塗工する手段としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、バーコーター等の既知の塗工方法を用いることができる。
【0027】
導電性塗料として特に好ましい組成は、バインダー100質量部に対して、導電性粒子10〜50質量部を添加したものが、低発塵性と導電性の両方の機能を兼ね備えたものとして好ましく使用できる。導電性粒子が50質量部を超えると、塗工層の強度が不足して粉落ち(導電性粒子が脱落する現象)が生じやすくなる傾向があり、他方、10質量部未満では、目標とする導電性を得ることが困難である。
【0028】
導電性塗料を基材に塗工した後に行う熱処理の手段としては、例えばホットプレス機や熱カレンダーによる方法がある。熱カレンダーは連続加工が可能なため使用が好ましい。熱カレンダー使用の際は、熱ロールおよびバックアップロールの材質および表面性、加工速度、ニップ圧等が、加熱後のシートの機械強度、透明性、発塵性、導電性に大きく影響するばかりか、機械の操業安定性等にも関わるため、圧着するシートの坪量、厚さ、組成等に応じて適宜選定する必要がある。また、基材の溶融が進行するほど、シートの表面固有抵抗値が高くなる傾向があるので、発塵性との兼合いを考慮した上で、可能な限り溶融を抑える条件を設定することが好ましい。
【0029】
熱処理を施すロールの温度は、熱融着性繊維の融点にもよるが100℃〜150℃の範囲の温度とするのが好ましい。これより低い温度では、繊維の溶融が進行せず、加熱後のシートは未融着繊維の毛羽立ちや脱落が目立ち十分な低発塵性が得られない。一方、150℃以上で加熱した場合は、シートを構成する繊維と樹脂の溶融が進行しすぎて粘状化し、これがロールに付着するため、熱処理が困難となる。また、導電性粒子の種類によっては、設定した温度が粒子の分解点を超える場合があり、その結果所望する導電性が得られなくなることに留意する必要がある。
【0030】
熱処理後のシートの導電性は、表面固有抵抗値が1.0×10Ω/□以上、且つ1.0×10Ω/□以下の範囲内であることが好ましい。1.0×10Ω/□より高い表面固有抵抗値では、帯電防止性能としては不十分である。一方、1.0×10Ω/□未満といった高い導電性では、局所的な通電によって、例えばシートに接する電子部品等が破壊される恐れがあるため好ましくない。
【0031】
本発明の低発塵性シートは半導体関連分野のクリーンルーム内で各用途に使用する場合、該低発塵性シートが擦れたときに塵が発生しないこと、任意の形状に打ち抜かれて使用されるときに塵が発生しないことが要求される。当該性能を評価する方法としては、SEMI(SEMICONDUCTOR EQUIPMENT MATERIALS INTERNATIONAL)規格G67−0996に準じて測定した擦り試験、揉み試験、引裂き揉み試験が好適であり、その発塵量がそれぞれ500個/ft以下であればよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、各実施例は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0033】
(実施例1)
[基材の製造]
ポリエチレンよりなる合成繊維(商品名:SWP E−620、三井化学(株)製)を80質量部、芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンの芯鞘型複合バインダー繊維(商品名:NBF(H)、ダイワボウ(株)製)を20質量部混合させてなるスラリーを、常法に従って湿式抄紙し、坪量65g/mのシート状基材を得た。
【0034】
[導電性塗料の塗工]
コロイド状ポリピロール水溶液(商品名:PPY−12、丸菱油化(株)製)20質量部と、バインダーとしてエチレン―酢酸ビニルエマルジョン(商品名:スミカフレックス410HQ、住友化学(株)製)80質量部からなる塗料基剤100質量部に対して、非イオン性界面活性剤(商品名:サーフィノール504、信越化学工業(株)製)0.5質量部を添加して、導電性塗料とした。これを前記シート状基材の片面に、乾燥後の塗布量が3g/mとなるようバーコーターにて塗工し、105℃の乾燥機で1分間乾燥して導電層を形成した。
【0035】
[熱処理]
導電層を形成したシートを、熱カレンダーを用いて温度130℃、ニップ圧40kg/cm、速度5m/分の条件で走行させながら熱処理し、低発塵性シートを得た。
【0036】
(実施例2)
実施例1に記載した基材の製造方法により得た基材に対し、次に記載した含浸処理を施した後、実施例1と同様にして導電性塗料の片面塗工および熱処理を行い、低発塵性シートを得た。
【0037】
[含浸処理]
基材に、水溶性高分子として完全けん化型ポリビニルアルコール(商品名:クラレポバールPVA105、(株)クラレ製)を含浸液として、乾燥後の含浸量が1.0g/mになるように含浸処理した。
【0038】
(実施例3)
実施例1に記載した基材の製造方法により得た基材の片面に、水溶性高分子として完全けん化型ポリビニルアルコール(商品名:クラレポバールPVA105)をバーコーターにて乾燥後の塗布量が2g/mとなるよう塗工し、105℃で1分間乾燥して水溶性高分子層を設けた。これに、実施例1と同様の導電性塗料の塗工および熱処理を行い、低発塵性シートを得た。
【0039】
(実施例4)
実施例1における導電性塗料の塗工を、基材の両面に施した(それぞれ乾燥後の塗布量が3g/m)以外は、実施例1と同様の方法で低発塵性シートを得た。
【0040】
(比較例1)
基材として、NBKP70質量部、LBKP30質量部、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂系の湿潤紙力増強剤(商品名:WS4012、星光PMC(株)社製)0.2質量部、ポリアクリルアミド(商品名:ポリマセット500L、荒川化学工業(株)社製)0.2質量部、硫酸バンド3質量部を混合し、湿式抄紙により坪量65g/mの紙を製造した。これに実施例1と同様にして導電性塗料の片面塗工および熱処理を行い、シートを得た。
【0041】
(比較例2)
熱処理を施さない以外は実施例1と同様にしてシート得た。
【0042】
(比較例3)
実施例1において、導電層形成後に行う熱処理を、導電層形成前にあらかじめ施し、導電層形成後には熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0043】
上記実施例で得られた低発塵性シートおよび比較例で得られたシートの導電性や発塵性などについて評価した。また、熱融着時の塗料剥離性、熱融着後の表面強度についても評価を行った。各評価の方法を以下に記載する。
【0044】
[表面固有抵抗値]
導電性の評価として、表面固有抵抗値を測定した。この測定は、ハイレスタMCP−HT450(三菱化学(株)製)を測定機器に用いた。測定方法は、23℃、相対湿度50%の条件下において、10cm×10cmのシートを試験片として用意し、これを測定電極ボックスMCP−JB03(三菱化学(株)製)に供して10Vの電圧を印加し、30秒後の値を表面固有抵抗値とした。
【0045】
[熱処理時塗料剥離性]
熱処理時の塗料剥離性は、シートの熱処理を行った後に熱ロール表面を目視で観察し、導電性塗料の付着の有無について以下のように評価し、○以上を合格とした。
◎:熱ロールへの導電層付着が全く見られない
○:熱ロールへの導電層付着が僅かに見られる
×:熱ロールへの導電層付着が多く見られる
【0046】
[熱融着後表面強度]
23℃、相対湿度50%の条件下において、シート表面に粘着セロハンテープ(商品名:セロテープNo.405(18mm)、ニチバン(株)製)を長さ10cmになるように貼り付け(「セロテープ」は登録商標)、テープの上に2kgの錘を載せ、一方向に5回擦った後にテープを剥がしたときに、導電層が基材から剥離するか否かを目視で評価し、以下の○を合格とした。
○:導電層が剥離しない。
×:導電層が剥離する。
【0047】
発塵性は、SEMI規格G67−0996に準じて測定した擦り試験、揉み試験、引裂き揉み試験で評価を行った。いずれも、23℃、相対湿度50%の条件下で評価した。
【0048】
[擦り試験]
A5サイズの試験片2枚を、測定器(商品名:グローブボックス、日本エアーテック(株)製)内で、表裏重ね合わせ3回/10秒の速度で3分20秒間手で擦り合わせた後、グローブボックス内の空気を吸引し、発生した0.1μm以上の塵の個数をパーティクルカウンター(型式:KC−22A、リオン(株)製)にて測定した。
【0049】
[揉み試験]
A5サイズの試験片1枚を、測定器(商品名:グローブボックス、日本エアーテック(株)製)内で、1回/15秒の割合で3分20秒間手で揉み、上記と同様にして0.1μm以上の塵の個数を測定した。
【0050】
[引裂き揉み試験]
A5サイズの試験片1枚を、測定器(商品名:グローブボックス、日本エアーテック(株)製)内で、5秒ごとに4箇所(4cm間隔)を手で引き裂いて5枚とし、これを重ね合わせ、その後揉み試験と同様にして1回/15秒の割合で3分間手で揉み、上記と同様にして0.1μm以上の塵の個数を測定した。
【0051】
【表1】


【0052】
各評価結果を表1に示す。表1から分かるように、実施例1〜4で得られる低発塵性シートは発塵量が少なく、さらには、熱処理時の塗料剥離が無く、熱融着後の表面強度が高かった。そして、シートの表面固有抵抗値は1.0×10Ω/□以上、且つ1.0×10以下であった。つまり、実施例1〜4の低発塵性シートは、良好な発塵性と導電性を併せ持つことが示された。そして、実施例と各比較例との比較から以下のことが明らかとなった。
実施例1と比較例1との比較から、基材に熱融着性繊維を使用することは、熱処理後のシートの発塵性低減に優れた効果がある。
実施例1と比較例2との比較から、導電層塗工後の熱処理は、シートの発塵性低減に優れた効果がある。
実施例1と比較例3との比較から、熱処理による基材繊維の融着は、導電層塗工後に施される方が導電層の密着性およびシートの発塵性低減に優れた効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性繊維からなる基材の少なくとも片面に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とする低発塵性シート。
【請求項2】
熱融着性繊維からなる基材の少なくとも片面に水溶性高分子層を設け、その上に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とする低発塵性シート。
【請求項3】
熱融着性繊維からなる基材に水溶性高分子を主成分とする含浸液を含浸し、その少なくとも片面に導電性塗料を塗工し、これを熱で処理することを特徴とする低発塵性シート。
【請求項4】
前記基材の熱融着性繊維が、ポリオレフィン系繊維であることを特徴とする請求項1〜3記載の低発塵性シート。
【請求項5】
23℃、相対湿度50%の条件下での表面固有抵抗値が、1.0×10Ω/□以上1.0×10Ω/□以下であることを特徴とする請求項1〜4記載の低発塵性シート。

【公開番号】特開2009−101535(P2009−101535A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273239(P2007−273239)
【出願日】平成19年10月20日(2007.10.20)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】