説明

低融点ガラス組成物、それを用いた低温封着材料及び電子部品

【課題】実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含まず、環境と安全を配慮した上で、400℃以下、好ましくは380℃以下で封着可能な低融点ガラス組成物及びそれを用いた低温封着材料,電極材料を提供する。また、それらを適用したICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置,太陽電池素子等の電子部品を提供する。
【解決手段】バナジウム,リン,テルル及び鉄の酸化物を含み、軟化点が380℃以下、好ましくは360℃以下の低融点ガラス組成物とする。さらに成分とマンガン,亜鉛,タングステン,モリブデン,バリウムの酸化物が挙げられる。また、バナジウム,リン,テルル,バリウム、及びタングステン或いはモリブデン、さらに鉄或いはアルカリ金属の酸化物を含み、軟化点が380℃以下、好ましくは360℃以下の低融点ガラス組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置等の電子部品の封着等に適用できる低融点ガラス組成物、それを用いた低温封着材料,電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置等の電子部品は、軟化点が460℃以下のガラス組成物によって、気密に封着されていた。この封着には、熱膨張を調整するために低熱膨張フィラーの粉末を含有することが一般的であった。従来、このようなガラス組成物として、酸化鉛を主成分とするガラス組成物が使用されていた。
【0003】
近年、環境や安全の規制により、有害な鉛を含む材料の使用が回避されるようになった。画像表示装置の一つであるプラズマディスプレイパネル(PDP)では、特開平10−139478号公報(特許文献1)記載のような酸化ビスマスを主成分とする無鉛ガラス組成物が既に封着へ適用されるようになった。PDPのように封着温度が450〜500℃と比較的に高い電子部品では、酸化ビスマスを主成分とする無鉛ガラス組成物を適用可能である。しかし、封着温度が420℃以下と比較的に低いICセラミックスパッケージや水晶振動子等の電子部品では、未だ酸化鉛を主成分とするガラス組成物が使用されている。また、400℃以下とさらに低温化するために、酸化鉛を主成分とするガラス組成物では、フッ素が含有される。
【0004】
酸化ビスマスを主成分とする無鉛ガラス組成物より低温化できる無鉛ガラス組成物として、特開平7−69672号公報(特許文献2),特開2004−250276号公報(特許文献3),特開2006−342044号公報(特許文献4)及び特開2007−320822号公報(特許文献5)が提案されている。特許文献2は酸化スズを主成分とするガラス組成物、特許文献3〜5は酸化バナジウムを主成分とするガラス組成物である。
【0005】
昨今、有害な鉛以外にもビスマスやアンチモンも管理物質として取り上げられ、将来的には鉛同様に規制物質となる可能性がある。特許文献1及び4のガラス組成物にはビスマス、特許文献5のガラス組成物にはアンチモンが含まれている。特許文献2及び3のガラス組成物には、鉛,ビスマス,アンチモンが含まれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−139478号公報
【特許文献2】特開平7−69672号公報
【特許文献3】特開2004−250276号公報
【特許文献4】特開2006−342044号公報
【特許文献5】特開2007−320822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、有害な鉛以外にもビスマスやアンチモンも管理物質として取り上げられ、将来的には鉛同様に規制がかかる可能性がある。特許文献1及び4のガラス組成物にはビスマス、特許文献5のガラス組成物にはアンチモンが含まれている。特許文献2及び3のガラス組成物には、鉛,ビスマス,アンチモンが含まれない。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の酸化スズを主成分とするガラス組成物は、大気中で加熱すると、スズの価数が2価から4価へ変化し、耐湿性,耐水性等の化学的安定性が劣化してしまう。すなわち、信頼性の高い気密な封着が難しい。また、420℃以下の気密封着が難しい。
【0009】
特許文献3に記載の酸化バナジウムを主成分とするガラス組成物は、400℃以下の低温封着も可能であるが、熱膨張が非常に大きく、高価なリン酸ジルコニウムタングステン等の低熱膨張フィラーを多量に含有させなければならない。その上、熱膨張をコントロールしにくい。また、封着部分に気泡が多数残留し、気密性に欠ける。
【0010】
そこで、本発明の目的は、実質的に鉛,ビスマス,アンチモンを含まず、400℃以下、好ましくは380℃以下で封着可能な、すなわち軟化点が380℃以下の低融点ガラス組成物及びそれを用いた低温封着材料を提供することにある。さらに25℃から250℃までの熱膨張係数が120×10-7/℃以下、好ましくは100×10-7/℃以下であり、軟化点が360℃以下である低融点ガラス組成物、及びその低融点ガラス組成物を用いて、25℃から250℃までの熱膨張係数が80×10-7/℃以下、或いは(95〜120)×10-7/℃である封着材料を提供することにある。他の本発明の目的は、前記本発明のガラス組成物、或いはその封着材料を適用した電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の特徴は、実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含まず、バナジウム,リン,テルル及び鉄の酸化物を含むガラスであって、軟化点が380℃以下である低融点ガラス組成物にある。ガラス組成物の成分としては、さらにマンガン,亜鉛,タングステン,モリブデン,バリウムの酸化物のうち少なくともいずれか1種以上を含む。その低融点ガラス組成物の組成範囲は、各成分の酸化物換算で、酸化バナジウム(V25)が45〜65重量%、酸化リン(P25)が10〜20重量%、酸化テルル(TeO2)が10〜25重量%、酸化鉄(Fe23)が5〜15重量%、酸化マンガン(MnO2),酸化亜鉛(ZnO),酸化タングステン(WO3),酸化モリブデン(MoO3),酸化バリウム(BaO)が合計で0〜10重量%である。上記低融点ガラス組成物の好ましい特性は、25℃から250℃までの熱膨張係数が100×10-7/℃以下である。
さらに好ましくは軟化点が360℃以下である。
【0012】
また、本発明は、実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含まず、バナジウム,リン,テルル,バリウム、及びタングステン或いはモリブデン、さらに鉄或いはアルカリ金属の酸化物を含み、軟化点が380℃以下であることを特徴とする低融点ガラス組成物である。その低融点ガラス組成物の好ましい組成範囲は、各成分の酸化物換算で、酸化バナジウム(V25)を40〜55重量%、酸化リン(P25)を5〜15重量%、酸化テルル(TeO2)を20〜30重量%、酸化バリウム(BaO)を2〜10重量%、酸化タングステン(WO3)を0〜15重量%、酸化モリブデン(MoO3)を0〜15重量%、酸化鉄(Fe23)を0〜8重量%、アルカリ金属酸化物(R2O:Rはアルカリ金属)を0〜5重量%含み、しかもP25とTeO2の和が30〜40重量%、WO3とMoO3の和が5〜15重量%、Fe23とR2Oの和が2〜8重量%である。さらに好ましくは上記低融点ガラス組成物の軟化点は360℃以下で、しかも25℃から250℃までの熱膨張係数が120×10-7/℃以下が良い。
【0013】
また、本発明は上記低融点ガラス組成物を含有する封着材料である。この封着材料は粉末形状の上記低融点ガラス組成物と、粉末形状のフィラーとを含有し、低融点ガラス組成物が70体積%以上、フィラーの含有量が30体積%以下から構成される。このフィラーの平均粒径は30μm以下である。フィラーとしては、酸化ニオブ,酸化タンタル或いはそれらの化合物が適している。また、フィラーとしてリン酸タングステン酸ジルコニウムが適している。さらに25℃から250℃までの熱膨張係数が80×10-7/℃以下であることが好ましい。或いは25℃から250℃までの熱膨張係数が(95〜120)×10-7/℃以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は金属粉末と上記低融点ガラス組成物を含む電極材料である。金属粉末は83〜93体積%含まれ、銀,銅,アルミニウム或いはそれらの合金からなる。
【0015】
さらに、本発明は上記低融点ガラス組成物の粉末と、樹脂と、溶剤とを含有する封着用ガラスペーストである。熱膨張の調整のため、上記フィラーの粉末を含有することもある。
【0016】
また、本発明は、ガラス封着部,ガラス接着部,ガラス被覆部を有する電子部品において、このガラス封着部,ガラス接着部,ガラス被覆部に上記低融点ガラス組成物を含むことを特徴とする。上記低融点ガラス組成物は、封着材料としてICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置の電子部品へ広く応用展開できるものである。これ以外にも金属とガラスとを含む電極が形成された電子部品において、そのガラスとして上記低融点ガラス組成物が使用されることを特徴とする。その電子部品としては、画像表示装置,太陽電池セルが挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉛,ビスマス,アンチモンを使用せずとも、軟化点が380℃以下、好ましくは360℃以下の低融点ガラス組成物を提供できる。また、この低融点ガラス組成物を用いることによって、封着温度が400℃以下、好ましくは380℃以下の封着材料を提供することができる。さらに、この低融点ガラス組成物は、各種電子部品の低温ガラス封着,低温ガラス接着,低温ガラス被覆,電極形成等に広く応用でき、環境・安全規制に適合した製品を提供することができる。代表的な電子部品としては、ICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置,太陽電池素子等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】低融点ガラス焼成塗膜を形成したサンプル基板の上面図である。
【図2】図1を用いてガラス封着したサンプル封着体の断面図である。
【図3】代表的なプラズマディスプレイパネルの構成を示す断面図である。
【図4】代表的なICセラミックスパッケージの構成を示す断面図である。
【図5】代表的な水晶振動子の構成を示す断面図である。
【図6】代表的な太陽電池素子の構成を示す断面図である。
【図7】代表的な太陽電池素子の構成を示す受光面図である。
【図8】代表的な太陽電池素子の構成を示す裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
従来、電子部品の低温ガラス封着,低温ガラス接着,低温ガラス被覆等には、酸化鉛を主成分とする低温で軟化するガラス組成物が封着材料へ適用されていた。近年、環境や安全の規制により、鉛を含む材料が電子部品に使用できなくなりつつある。封着温度が450〜500℃と比較的に高いPDP等では、既に酸化ビスマスを主成分とする無鉛ガラス組成物へ代替されているが、420℃以下でのガラス封着,接着,被覆が要求される電子部品、たとえばICセラミックスパッケージや水晶振動子等では、未だ酸化鉛を主成分とするガラス組成物が使用されている。
【0021】
さらに、ここ最近では鉛以外のビスマスやアンチモンも環境管理物質として取り上げられ、将来的には鉛同様、或いはそれに近い規制が電子部品としてかかる可能性がある。
【0022】
そこで、実質的に鉛,ビスマス,アンチモンを含まず、封着温度が420℃以下、特に400℃以下の低融点ガラス組成物が幅広い製品分野で要求されるようになった。通常、400℃以下の封着には、ガラスの軟化点を380℃以下にする必要がある。さらに封着温度が380℃以下の低温化が要求されており、360℃以下の軟化点を有する低融点ガラス組成物の出現が要望されている。
【0023】
鉛,ビスマス,アンチモンを含まない低温ガラス組成物として、酸化スズを主成分とするガラスが挙げられるが、420℃以下での低温封着が難しく、しかも大気中で加熱するとスズの価数変化により耐湿性,耐水性等が不十分であり、実用性が乏しいものであった。また、鉛,ビスマス,アンチモンを含まない低温ガラス組成物として、400℃以下で低温封着可能な酸化バナジウムと酸化テルルを主成分とするガラスが挙げられるが、熱膨張係数が130×10-7/℃以上と非常に大きいため、低熱膨張フィラーの含有による熱膨張のコントロールがしにくく、また残留気泡が多いため、高い気密性が得られにくく、実用性が高いものではなかった。120×10-7/℃以下、好ましく100×10-7/℃以下であると使いやすくなる。
【0024】
そこで、本願発明者は、鉛,ビスマス,アンチモンを使用せずとも、実用性が高く、400℃以下の低温で封着可能な低融点ガラス組成物を検討した。その結果、環境,安全への配慮した上で、耐湿性と熱膨張係数を改善した、軟化点が380℃以下の低融点ガラス組成物を得ることができた。この低融点ガラス組成物は、少なくともバナジウム,リン,テルル,鉄の酸化物からなる。その他の成分としてマンガン,亜鉛,タングステン,モリブデン,バリウムの酸化物のうち1種以上含んでもよい。好ましい組成範囲は、後記の酸化物換算で、V25を45〜65重量%、P25を10〜20重量%、TeO2を10〜25重量%、Fe23を5〜15重量%、MnO2,ZnO,WO3,MoO3,BaOを合計で0〜10重量%であった。V25は45重量%未満であると、軟化点が380℃を超え、400℃以下の封着が難しくなり、一方65重量%を超えると、耐湿性が悪くなってしまった。P25は10重量未満であると、結晶化しやすくなり、400℃以下で良好な軟化流動性が得られず、一方20重量%を超えると軟化点が380℃を超え、400℃以下の封着が難しくなった。TeO2は10重量%未満であると、結晶化しやすく、しかも軟化点を380℃以下とすることが難しく、一方25重量%を超えると、熱膨張係数が100×10-7/℃を超え、大きくなり過ぎ、実用性が乏しくなってしまった。Fe23は5重量%未満であると良好な耐湿性が得られず、一方15重量%を超えると、結晶化しやすく、400℃以下で良好な軟化流動性が得られなかった。また、MnO2,ZnO,WO3,MoO3,BaOの合計が10重量%を超えると、結晶化しやすく、400℃以下で良好な軟化流動性が得られなかった。より好ましい組成範囲は、V25を50〜60重量%、P25を15〜20重量%、TeO2を15〜25重量%、Fe23を5〜10重量%、MnO2,ZnO,WO3,MoO3,BaOを合計で0〜5重量%であった。
【0025】
また、本発明の低融点ガラス組成物は、バナジウム,リン,テルル,バリウム、及びタングステン或いはモリブデン、さらに鉄やアルカリ金属の酸化物からなる。好ましい組成範囲は、後記の酸化物換算で、V25を40〜55重量%、P25を5〜15重量%、TeO2を20〜30重量%、BaOを2〜10重量%、WO3を0〜15重量%、MoO3を0〜15重量%、Fe23を0〜8重量%、R2O(Rはアルカリ金属)を0〜5重量%を含み、しかもP25とTeO2の和が30〜40重量%、WO3とMoO3の和が5〜15重量%、Fe23とR2Oの和が2〜8重量%であった。V25は40重量%未満であると、軟化点が380℃を超え、400℃以下の封着が難しくなり、一方55重量%を超えると、良好な耐湿性が得られなかった。P25は5重量未満であると、結晶化しやすくなり、400℃以下で良好な軟化流動性が得られず、一方15重量%を超えると、軟化点が380℃を超え、400℃以下の封着が難しくなった。TeO2は20重量%未満であると、結晶化しやすく、しかも軟化点を380℃以下とすることが難しく、一方30重量%を超えると、熱膨張係数が非常に大きくなり過ぎ、しかも耐湿性が低下した。BaOは2重量%未満であると、耐湿性が低下し、一方10重量%を越えると結晶化傾向が大きくなったり、また軟化点や封着温度が高温化してしまった。WO3は15重量%を超えると、軟化点や封着温度が高温化してしまい、MoO3は15重量%を超えると、耐湿性が低下した。Fe23は8重量%を超えると、結晶化を起こしやすくなった。R2O(Rはアルカリ金属)の含有は耐湿性を向上できたが、5重量%を超えると逆に耐湿性が低下した。さらに、P25とTeO2の和が30重量%未満であると、結晶化しやすく、一方40重量%を超えると耐湿性が低下した。また、WO3とMoO3の和が5重量%未満であると、結晶化しやすく、良好な耐湿性が得られず、一方15重量%を超えると、軟化点や封着温度が高温化した。その上、Fe23とR2Oの和が2重量%未満であると、良好な耐湿性が得られず、一方8重量%を超えると、結晶化を起こしやすくなった。
【0026】
本発明の低融点ガラス組成物は、フィラー粉末と組み合わせることによって、熱膨張係数や流動性を制御可能であり、ICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置等の電子部品の低温気密封着に広く展開することが可能である。また、金属粒子と組み合わせることによって、画像表示装置や太陽電池素子等の電極としても広く展開できるものである。
【0027】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0028】
表1〜表3に、作製,検討した低融点ガラス組成物の組成と特性を示す。いずれの成分も表1で示した酸化物換算の重量比で表示した。これらの低融点ガラス組成物には、環境,安全を配慮し、実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含有させなかった。ガラス原料としてバナジウムはV25、リンはP25、テルルはTeO2、鉄はFe23、マンガンはMnO2、亜鉛はZnO、タングステンはWO3、モリブデンはMoO3、バリウムはBa(PO3)2を用いた。原料としてBa(PO3)2を用いる場合にはP25原料量を少なくして換算した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表1〜表3の低融点ガラス組成物は、次に述べる方法で作製した。原料となる各酸化物を配合・混合した原料150〜200gを白金ルツボに入れ、電気炉で5〜10℃/分の昇温速度で900〜950℃まで加熱し、1時間保持した。保持中は均一なガラスとするために攪拌した。ルツボを電気炉から取り出し、予め150℃程度に加熱しておいた黒鉛鋳型とステンレス板上に流し込んだ。ステンレス板上に流し込んだガラスは、粒径20μm未満にまで粉砕し、5℃/分の昇温速度で示差熱分析(DTA)を行うことによって、転移点(Tg),屈伏点(Mg),軟化点(Ts),結晶化温度(Tcry)の特性温度を測定した。なお、標準サンプルとしてアルミナ粉末を用いた。DTAカーブにおいて、Tgは第一吸熱ピークの開始温度、Mgは第一吸熱ピーク温度、軟化点は第二吸熱ピーク温度、Tcryは結晶化による発熱開始温度とした。熱膨張係数(α)は、25〜250℃の温度範囲で測定した。熱膨張測定サンプルは、黒鉛鋳型に流し込んだガラスをTg〜Mgの温度でアニール処理を施した後に、4×4×20mmの直方体に加工した。熱膨張計により5℃/分の昇温速度でαを測定した。なお、標準サンプルとしてφ5×20mmの石英ガラス円柱体を用いた。また、ボタンフロー試験により加熱時の軟化流動性を評価した。そのサンプルは、粒径20μm以下にまで粉砕したガラス粉末を用いて、直径10mm,厚さ5mmのプレス成形体とした。この成形体をアルミナ基板上に置き、5℃/分の昇温速度で380℃と400℃までそれぞれ加熱して、10分間保持し、380℃と400℃での軟化流動性を○,△,×で評価した。○は良好な流動性が得られた場合、△は良好な流動性が得られなかったが、軟化していた場合、×は軟化しない場合或いは結晶化した場合とした。耐湿性試験は、温度85℃,湿度85%の条件で1,3,5日間実施した。耐湿試験サンプルには、上記熱膨張測定サンプルと同様に4×4×20mmの直方体に加工したガラスを用いた。評価は、外観上変化ない場合には○、変化が認められた場合には×とした。さらに総合的に評価し、熱膨張係数が100×10-7/℃以下であり、しかも380℃と400℃で良好な軟化流動性を示し、その上優秀な耐湿性を有する場合には◎、熱膨張係数が100×10-7/℃以下であり、しかも400℃で良好な軟化流動性が示し、その上優秀な耐湿性を有する場合には○、熱膨張係数が100×10-7/℃以下であり、しかも380℃と400℃で良好な軟化流動性を示し、その上ほぼ良好な耐湿性を有する場合には△、熱膨張係数が100×10-7/℃を超えたり、また400以下の軟化流動性或いは耐水性のどちらか不十分な場合には×とした。
【0033】
表1〜表3の実施例G2,4,12〜14,16〜19,23,27〜31,33,35〜38,42,44,46から分かるように、バナジウム,リン,テルル及び鉄の酸化物を含み、軟化点が380℃以下である低融点ガラス組成物に関して、熱膨張係数が100×10-7/℃以下であり、400℃以下で良好な軟化流動性を示し、さらに良好な耐湿性を有していた。他の成分として、マンガン,亜鉛,タングステン,モリブデン,バリウムの酸化物のいずれか1種以上を含んでもかまわず、好ましい組成範囲は、後記の酸化物換算でV25を45〜65重量%、P25を10〜20重量%、TeO2を10〜25重量%、Fe23を5〜15重量%、MnO2,ZnO,WO3,MoO3,BaOを合計で0〜10重量%であった。さらに、軟化点を360℃以下としたG2,4,12〜14,16〜18,23,27〜31,33,36,42では、380℃での軟化流動性が優れており、380℃以下での低温気密封着を可能した。その上、耐湿性を配慮すると、G12〜14,16〜18,23,27〜31,33,36,42のガラスが優れており、より好ましい組成範囲は、後記の酸化物換算でV25を50〜60重量%、P25を15〜20重量%、TeO2を15〜25重量%、Fe23を5〜10重量%、MnO2,ZnO,WO3,MoO3,BaOを合計で0〜5重量%であった。
【実施例2】
【0034】
実施例2として、低融点ガラス組成物に混合するフィラーの種類と含有量について検討した。フィラーとして、表4に示す平均粒径30μmのコージェライト,平均粒径10μmの非晶質シリカ,平均粒径25μmのケイ酸ジルコニウム,平均粒径40μmのムライト,平均粒径5μmのアルミナ,平均粒径1μmの酸化ニオブ,平均粒径3μmの酸化タンタルの粉末を用いた。
【0035】
【表4】

【0036】
低融点ガラス組成物としては、表1〜表3のG17,29,36の低融点ガラス組成物の粉末を用いた。これらのガラス粉末は、より低温で軟化させるために微細化及び分級し、平均粒径を3μmとした。また、それぞれの低融点ガラス組成物に対する各種フィラーの含有量を0,10,20,30,40,50体積%とした。
【0037】
上記の低融点ガラス組成物とフィラーとを混合し、さらに樹脂と溶剤を加え、ガラスペーストとした。樹脂にはポリエチレングリコール、溶剤にはα−テルピネオールを用いた。それぞれ作製したガラスペーストを図1に示すようにアルミナ基板1上に塗布,乾燥した後に、昇温速度5℃/分で380℃まで加熱し10分間保持し、ガラス焼成塗膜2を形成した。なお、ガラスペーストの塗布幅は0.5mmとした。さらに、図2に示すようにガラス焼成塗膜2を形成したアルミナ基板1と同形状のアルミナ基板3を合わせ、荷重をかけるとともに、昇温速度5℃/分で360℃まで加熱し10分間保持し、封着した。その封着体の密着性,接着性,残留気泡を評価した。
【0038】
評価結果を表5に示す。
【0039】
【表5】

【0040】
密着性,接着性,残留気泡ともに優れていた場合には◎、多少気泡は残留するものの良好な密着性,接着性が得られた場合には○、密着性や残留気泡が十分ではないが、問題なく接着できた場合には△、接着性が不十分な場合には×とした。どのフィラー、どのガラスにおいても、フィラー含有量30体積%以下、すなわちガラス含有量70体積%以上では、問題なく、接着できた。特にフィラー含有量が20体積%以下、ガラス含有量80体積%以上では、密着性,接着性,残留気泡が良好であった。一方、フィラー含有量30体積%を超え、ガラス含有量が70体積%未満であると残留気泡が多めであり、しかも良好な密着性と接着性が得られにくいことが分かった。従って、本発明の低融点ガラス組成物には、30体積%まで、好ましくは20体積%までのフィラーを混合して低温封着材料として有効に適用することができる。しかし、フィラーなしでは、残留気泡と密着性が良好であったが、ガラスとアルミナ基板との熱膨張係数のマッチングがよいとは言えず、封着部分にクラックが発生することがあった。このため、表5では評価を△とした。これを対策するためには、フィラーを含有することによって、25℃から250℃までの熱膨張係数を80×10-7/℃とすることが有効であった。
【0041】
また、表5よりフィラーの平均粒径が30μm以下、好ましくは5μm以下が良好な接着性が得られた。これは封着厚を小さくできるためであると考えられる。さらに、酸化ニオブや酸化タンタルをフィラーとした場合には残留気泡が大変少なく、低温封着材料としてはより有効であった。これは酸化ニオブや酸化タンタルとガラスとが、ぬれ性が良好であるためである。また、これらの化合物であっても有効と考えられる。
【0042】
PDPガラス基板及びシリコン基板についても、同様な検討を行った。上記アルミナ基板とほぼ同様な結果が得られた。また、樹脂としてポリプロピレングリコールやアクリル系樹脂等の低温分解樹脂、溶剤としてブチルカビトールアセテートや酢酸ブチル等の疎水系溶剤も検討したが、これに関しても同様な結果が得られた。
【実施例3】
【0043】
実施例3では、本発明の低融点ガラス組成物を用いて、金属電極に適用した例について説明する。通常、電極は低融点ガラス組成物粉末,金属粉末,樹脂,溶剤よりなるペーストを塗布,乾燥,焼成することによって得られる。本実施例では、低融点ガラス組成物として、平均粒径3μmの表1〜表3のG36を用いた。また、金属粒子には、平均粒径2μmのアルミニウム粉末、樹脂にはポリエチレングリコール、溶剤にはα−テルピネオールを用いた。低融点ガラス組成物G36の粉末をアルミニウムの粉末と混合し、ポリエチレングリコールとα−テルピネオールとの溶液を加えることによって電極用ペーストを作製した。低融点ガラス組成物G36の粉末とアルミニウムの粉末の体積比率は、5:95,7:93,10:90,17:83,25:75として、5種類の電極用ペーストを作製し、検討した。作製した電極用ペーストを用い、印刷法によりアルミナ基板上に塗布,乾燥した後、昇温速度10℃/分で400℃まで加熱し30分間保持し、アルミニウム電極を形成した。
【0044】
アルミナ基板上に形成したアルミニウム電極は、ガラス粉末G36の含有量が増加するとともに、一方アルミニウム粉末の含有量が減少するとともに基板への密着性が向上した。ガラス粉末G36の含有量5体積%、アルミニウム粉末の含有量95体積%では、電極の密着性は不十分であったが、ガラス含有量7体積%以上、アルミニウム含有量93体積%以下では良好な密着性が得られた。しかし、ガラス粉末G36の含有量が増加するとともに、一方アルミニウム粉末の含有量が減少するとともに、電極の抵抗値は増加した。電極の用途にもよるが、電極としては、アルミニウムの含有量は少なくとも83体積%以上は必要である。すなわち、電極として、好ましい金属粉末の含有量は、83〜93体積%である。
【0045】
上記と同様に、銀電極と銅電極についても検討した。銀電極には、平均粒径1μmの銀粉末を扁平化した粒子、銅電極には、平均粒径3μmの銅粉末を扁平化した粒子を用いた。銅電極の形成には、銅の酸化防止のため、窒素中で熱処理を施した。アルミナ基板上に形成した銀電極,銅電極とも、上記のアルミニウム電極と同様な結果が得られ、本発明の低融点ガラス組成物は低温封着以外に適用可能であることが分かった。
【実施例4】
【0046】
実施例4として、本発明の低融点ガラス組成物をPDPへ適用した例を説明する。PDPの断面図の概要を図3に示す。
【0047】
PDPでは、前面板10,背面板11が100〜150μmの間隙をもって対向させて配置され、各基板の間隙は隔壁12で維持されている。前面板10と背面板11の周縁部は封着材料13で気密に封止され、パネル内部に希ガスが充填されている。隔壁12により区切られた微小空間(セル14)には、赤色,緑色,青色の蛍光体15,16,17がそれぞれ充填され、3色のセルで1画素を構成する。各画素は信号に応じ各色の光を発光する。
【0048】
前面板10,背面板11には、ガラス基板上に規則的に配列した電極が設けられている。前面板10の表示電極18と背面板11のアドレス電極19が対となり、この間に表示信号に応じて選択的に100〜200Vの電圧が印加され、電極間の放電により紫外線20を発生させて赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17を発光させ、画像情報を表示する。表示電極18,アドレス電極19は、これら電極の保護と、放電時の壁電荷の制御等のために、誘電体層22,23で被覆される。
【0049】
背面板11には、セル14を形成するために、アドレス電極19の誘電体層23の上に隔壁12が設けられる。この隔壁12はストライプ状或いはボックス状の構造体である。また、コントラストを向上するために、隣接するセルの表示電極間にブラックマトリックス(黒帯)21が形成されることもある。
【0050】
表示電極18,アドレス電極19としては、現在一般的には銀厚膜配線が使用されている。なお、銀のマイグレーション対策のために、銀厚膜配線から銅厚膜配線への変更が検討されている。そのためには、銅の酸化防止対策が必要となる。表示電極18,アドレス電極19、及びブラックマトリックス21の形成は、スパッタリング法によっても可能であるが、価格低減のためには印刷法が有利である。誘電体層22,23は、一般的には印刷法で形成される。
【0051】
前面板10では、背面板11のアドレス電極19に直交するように、表示電極18やブラックマトリックス21を形成した後に、誘電体層22を全面に形成する。その誘電体層22の上には、放電より表示電極18等を保護するために、保護層24が形成される。一般的には、その保護層24には、MgOの蒸着膜が使用される。背面板11には、アドレス電極19,誘電体層23の上に隔壁12が設けられる。ガラス構造体よりなる隔壁は、少なくともガラス組成物とフィラーを含む構造材料よりなり、その構造材料を焼結した焼成体から構成される。隔壁12は、隔壁部に溝が切られた揮発性シートを貼り付け、その溝に隔壁用のペーストを流し込み、500〜600℃で焼成することによって、シートを揮発させるとともに隔壁12を形成することができる。また、印刷法にて隔壁用ペーストを全面に塗布し、乾燥後にマスクして、サンドブラストや化学エッチングによって、不要な部分を除去し、500〜600℃で焼成することにより隔壁12を形成することもできる。隔壁12で区切られたセル14内には、各色の赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17のペーストをそれぞれ充填し、400〜500℃で焼成することによって、赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17をそれぞれ形成する。
【0052】
通常、別々に作製した前面板10と背面板11を対向させ、正確に位置合わせし、周縁部を420〜500℃でガラス封着されているが、より低温での封着が要求されている。
封着材料13は、事前に前面板10或いは背面板11のどちらか一方の周縁部にディスペンサー法或いは印刷法により形成される。一般的には、封着材料13は背面板11の方に形成される。また、封着材料13は赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17の焼成と同時に事前に仮焼成されることもある。この方法を取ることによって、ガラス封着部の気泡を著しく低減でき、気密性の高い、すなわち信頼性の高いガラス封着部が得られる。ガラス封着は、加熱しながらセル14内部のガスを排気し、希ガスを封入し、パネルが完成する。
【0053】
完成したパネルを点灯するには、表示電極18とアドレス電極19の交差する部位で電圧を印加して、セル14内の希ガスを放電させ、プラズマ状態とする。そして、セル14内の希ガスがプラズマ状態から元の状態に戻る際に発生する紫外線20を利用して、赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17を発光させて、パネルを点灯させ、画像情報を表示する。各色を点灯させるときには、点灯させたいセル14の表示電極18とアドレス電極19との間でアドレス放電を行い、セル内に壁電荷を蓄積する。次に表示電極対に一定の電圧を印加することで、アドレス放電で壁電荷が蓄積されたセルのみ表示放電が起こり、紫外線20を発生させることによって、蛍光体を発光させる仕組みで画像情報の表示が行われる。
【0054】
本実施例では、先ずは低融点ガラス組成物として表1〜表3のG36、フィラーとして表4のF5、樹脂としてポリエチレングリコール、溶剤としてα−テルピネオールを用いて低温封着用低融点ガラスペーストを作製した。なお、G36とF5の配合割合は体積比率で78:22とし、封着後における25℃〜250℃の熱膨張係数が70〜75×10-7/℃の範囲に入るように制御した。これは前面板10と背面板11に使用されるガラス基板の熱膨張係数が80〜85×10-7/℃であることから、それよりも10〜15%程度小さいものとし、封着材料13に圧縮応力をかけるためである。作製した低融点ガラスペーストを用い、図3のPDPを低温封着した。先ずは、この低融点ペーストを背面板11の周縁部にディスペンサー法にて塗布,乾燥させた。その後、昇温速度5℃/分で400℃まで加熱し、30分間保持した。次に、この背面板11と前面板10とを正確に対向させ、クリップで固定し、排気しながら、昇温速度5℃/分で350℃まで加熱し、2時間保持した後に希ガスを充填し、冷却した。従来に比べ、封着温度を著しく低温化したにも関わらず、問題なく、気密に封着することができた。また、パネル点灯試験においても問題の発生は認められなかった。封着温度の低温化により、PDPの量産性が上がり、低コスト化に寄与することが可能である。
【実施例5】
【0055】
実施例5として、本発明の低融点ガラス組成物をICセラミックスパッケージに適用した例を説明する。ICセラミックスパッケージの断面図の概要を図4に示す。
【0056】
ICセラミックスパッケージでは、メタライズ30や端子31を形成した積層セラミックス基板32とセラミックスキャップ33を封着材料13で周縁部を気密に封止されている。通常、ICセラミックスパッケージのガラス封着は、セラミックスキャップ33の周縁部に印刷法にて封着材料13が塗布される。その際、封着材料13は、ガラスペーストとして使用される。封着材料13を塗布したセラミックスキャップ33を乾燥後、大気中で焼成される。専用の固定ジグを用いて、封着材料13を形成したセラミックスキャップ33と積層セラミックス基板32を対向させ、荷重をかけるとともに固定ジグごと不活性雰囲気中でガラス封着される。従来の封着材料では、酸化鉛を主成分とする低融点ガラス組成物、或いはそのガラス組成物にフッ素が含有されたものが使用され、400℃以下の低温で気密に封着されていた。しかし、環境や安全を配慮すると、有害な鉛を含む材料の使用は回避すべきである。
【0057】
本実施例では、アルミナ系セラミックスを用いたICパッケージにおいて検討した。封着材料13には、先ずは低融点ガラス組成物として表1〜表3のG17、フィラーとして表4のF5、樹脂としてポリエチレングリコール、溶剤としてα−テルピネオールを用いて低温封着用低融点ガラスペーストを作製した。なお、G17とF5の配合割合は体積比率で84:16とした。その焼成後における25℃〜250℃の熱膨張係数は77×10-7/℃であった。この低融点ガラスペーストを印刷法にてアルミナ系セラミックスキャップ33に塗布した。その後、そのセラミックスキャップ33を二段プロファイにて大気中で焼成した。二段プロファイルの一段目は330℃で20分間、二段目は380℃で10分間保持した。昇温速度は10℃/分とした。続いて、封着材料13を形成したアルミナ系セラミックスキャップ33とアルミナ系積層セラミックス基板32を固定ジグで対向させ、荷重をかけて、窒素中において昇温速度10℃/分で370℃まで加熱し、10分間保持し、低温封着した。このようにして、10個のICセラミックスパッケージを製作した。どのICセラミックスパッケージとも何事も問題なく、気密にガラス封着できた。また、作動試験を行い、問題のなきことを確認した。作動試験後のICセラミックスパッケージを分解して、ガラス封着部を観察したが、若干の残留気泡が認められるものの、気密性が高く、信頼性の高い封着部分が得られることが分かった。
【0058】
以上、本発明の低融点ガラス組成物は、ICセラミックスパッケージの低温気密封着に有効に適用できるものである。
【実施例6】
【0059】
実施例6として、本発明の低融点ガラス組成物を水晶振動子のパッケージングに適用した例を説明する。水晶振動子の断面図の概要を図5に示す。
【0060】
水晶振動子では、電極34が形成された水晶薄板35が導電性接着剤36によって、端子37に接続され、さらにその端子37が電極パッドに接続されたセラミックス容器39と、セラミックスキャップ33を封着材料13で周縁部を気密に封止された構造を有する。通常、水晶振動子のガラス封着は、セラミックスキャップ33の周縁部に印刷法にて封着材料13が塗布される。その際、封着材料13は、ガラスペーストとして使用される。
封着材料13を塗布したセラミックスキャップ33を乾燥後、大気中で焼成される。専用の固定ジグを用いて、封着材料13を形成したセラミックスキャップ33とセラミックス容器39を対向させ、荷重をかけるとともに固定ジグごと不活性雰囲気中でガラス封着される。従来の封着材料では、酸化鉛を主成分とする低融点ガラス組成物、或いはそのガラス組成物にフッ素が含有されたものが使用され、400℃以下の低温で気密に封着されていた。しかし、環境や安全を配慮すると、有害な鉛を含む材料の使用は回避すべきである。
【0061】
本実施例では、アルミナ系セラミックスを用いた水晶振動子において検討した。封着材料13には、先ずは低融点ガラス組成物として表1〜表3のG29、フィラーとして表4のF5、樹脂としてポリエチレングリコール、溶剤としてα−テルピネオールを用いて低温封着用低融点ガラスペーストを作製した。なお、G29とF5の配合割合は体積比率で80:20とした。その焼成後における25℃〜250℃の熱膨張係数は78×10-7/℃であった。この低融点ガラスペーストを印刷法にてアルミナ系セラミックスキャップ33に塗布した。その後、そのセラミックスキャップ33を二段プロファイにて大気中で焼成した。二段プロファイルの一段目は330℃で20分間、二段目は390℃で10分間保持した。昇温速度は10℃/分とした。続いて、封着材料13を形成したアルミナ系セラミックスキャップ33とセラミックス基板容器39を固定ジグで対向させ、荷重をかけて、窒素中において昇温速度10℃/分で370℃まで加熱し、10分間保持し、低温封着した。このようにして、10個の水晶振動子を製作した。どの水晶振動子とも何事も問題なく、気密にガラス封着できた。また、作動試験を行い、良好な振動特性を有することを確認した。作動試験後の水晶振動子を分解して、ガラス封着部を観察したが、若干の残留気泡が認められるものの、気密性が高く、信頼性の高い封着部分が得られることも分かった。
【0062】
以上、PDP,ICセラミックスパッケージ,水晶振動子の低温気密封着について説明したが、本発明の低融点ガラス組成物は、その他の電子部品の低温気密封着にも展開できることは言うまでもない。
【実施例7】
【0063】
実施例7では、本発明のガラス組成物を含有した電極材料を太陽電池素子の電極へ適用した例について説明する。代表的な太陽電池素子の断面図、受光面及び裏面の概要を図6,図7及び図8に示す。通常、太陽電池素子の半導体基板40には、単結晶または多結晶シリコンなどが使用される。この半導体基板40は、ホウ素などを含有し、p形半導体とする。受光面側は、太陽光の反射を抑制するために、エッチングにより凹凸を形成する。
その受光面にリンなどをドーピングし、n型半導体の拡散層41をサブミクロンオーダーの厚みで生成させるとともに、p形バルク部分との境界にpn接合部を形成する。さらに受光面に窒化シリコンなどの反射防止層42を蒸着法などによって膜厚100nm前後で形成する。
【0064】
次に受光面に形成される受光面電極43と、裏面に形成される集電電極44及び電力取出し電極45の形成について説明する。通常、受光面電極43と電力取出し電極45にはガラス組成物の粉末を含む銀電極ペースト、集電電極44にはガラス組成物の粉末を含むアルミニウム電極ペーストが使われ、スクリーン印刷にて塗布される。乾燥後、急速加熱炉やレーザー加熱により焼成され、電極形成される。その際に、受光面では、受光面電極43に含まれるガラス組成物と反射防止層42とが反応して、受光面電極43と拡散層41が電気的に接続される。また、裏面では、集電電極44中のアルミニウムが半導体基板40の裏面に拡散して、電極成分拡散層46を形成することによって、半導体基板40と集電電極44,電力取出し電極45との間にオーミックコンタクを得ることができる。
【0065】
表1〜表3の低融点ガラス組成物G36の粉末を用いて、受光面電極43用と電力取出し電極45用の銀電極ペースト、及び表1〜表3の低融点ガラス組成物G17の粉末を用いて、集電電極44用のアルミニウム電極ペーストを作製した。低融点ガラス組成物の粉末の含有量を10体積%、銀及びアルミニウムの粉末をそれぞれ90体積%となるように配合,混合した。低融点ガラス組成物の粉末の平均粒径は約1μmとした。また、銀とアルミニウムの粉末は、1〜3μm程度の球状粉を機械的につぶし、板状粉としたものを用いた。樹脂バインダーにはポリエチレングリコール、溶剤にはα−テルピネオールを使用し、スクリーン印刷可能な電極ペーストとした。
【0066】
先ず、上記集電電極44用アルミニウム電極ペーストを図6及び図8に示すように半導体基板40の裏面にスクリーン印刷で塗布し、乾燥後、急速赤外線加熱炉にて大気中400℃で加熱冷却した。400℃での保持時間は10分とした。これにより、先ずは半導体基板40の裏面に集電電極44を形成した。
【0067】
次に、拡散層41と反射防止層42を形成してある半導体基板40の受光面と、既に集電電極44が形成してある半導体基板40の裏面に、銀電極ペーストをスクリーン印刷で図6,図7及び図8に示すように塗布し、乾燥した後に銀電極をレーザーにて焼き付けた。
【0068】
作製した太陽電池素子は、受光面では受光面電極43と拡散層41が形成された半導体基板40が電気的に接続されていた。また、裏面では電極成分拡散層46が形成され、半導体基板40と集電電極44,電力取出し電極45との間にオーミックコンタクを得ることができ、しかも従来よりも半導体基板40のそりを低減することができた。さらに、85℃,85%の高温高湿試験を100時間実施し、電極の配線抵抗や接触抵抗がほとんど大きくなるようなことはなかった。
【0069】
従って、本発明の低融点ガラス組成物は、太陽電池素子の電極へ有効に展開することができる。また、太陽電池素子以外の電子部品の電極形成にも有効に活用できるものである。
【実施例8】
【0070】
表6〜表8に、作製,検討した低融点ガラス組成物の組成と特性を示す。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
【表8】

【0074】
いずれの成分も表6で示した酸化物換算の重量比で表示した。これらの低融点ガラス組成物には、環境,安全を配慮し、実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含有させなかった。ガラス原料としてバナジウムはV25、リンはP25、テルルはTeO2、バリウムはBaCO3或いはBa(PO3)2、タングステンはWO3、モリブデンはMoO3、鉄はFe23、アルカリ金属RはR2CO3を用いた。原料としてBa(PO3)2を用いる場合にはP25原料量を少なくして換算した。
【0075】
表6〜表8の低融点ガラス組成物は、次に述べる方法で作製した。原料となる各酸化物を配合・混合した原料200gを白金ルツボに入れ、電気炉で10℃/分の昇温速度で900℃まで加熱し、1時間保持した。保持中は均一なガラスとするために攪拌した。ルツボを電気炉から取り出し、予め150℃程度に加熱しておいた黒鉛鋳型とステンレス板上に流し込んだ。ステンレス板上に流し込んだガラスは、粒径20μm未満にまで粉砕し、5℃/分の昇温速度で示差熱分析(DTA)を行うことによって、転移点(Tg),屈伏点(Mg),軟化点(Ts),結晶化温度(Tcry)の特性温度を測定した。なお、標準サンプルとしてアルミナ粉末を用いた。DTAカーブにおいて、Tgは第一吸熱ピークの開始温度、Mgは第一吸熱ピーク温度、軟化点は第二吸熱ピーク温度、Tcryは結晶化による発熱開始温度とした。熱膨張係数(α)は、25〜250℃の温度範囲で測定した。熱膨張測定サンプルは、黒鉛鋳型に流し込んだガラスをTg〜Mgの温度でアニール処理を施した後に、4×4×20mmの直方体に加工した。熱膨張計により5℃/分の昇温速度でαを測定した。なお、標準サンプルとしてφ5×20mmの石英ガラス円柱体を用いた。熱膨張係数(α)が大き過ぎ、取り扱いに注意が必要なガラスには、熱膨張係数の欄に△を表示した。また、ボタンフロー試験により加熱時の軟化流動性を評価した。そのサンプルは、粒径20μm以下にまで粉砕したガラス粉末を用いて、直径10mm,厚さ5mmのプレス成形体とした。この成形体をアルミナ基板上に置き、5℃/分の昇温速度で380℃と400℃までそれぞれ加熱して、10分間保持し、380℃と400℃での軟化流動性を○,△,×で評価した。○は良好な流動性が得られた場合、△は良好な流動性が得られなかったが、軟化していた場合、×は軟化しない場合或いは結晶化した場合とした。耐湿性試験は、温度85℃,湿度85%の条件で5,10,15日間実施した。実施例1に比べ、より過酷な条件とした。耐湿試験サンプルには、上記熱膨張測定サンプルと同様に4×4×20mmの直方体に加工したガラスを用いた。評価は、外観上変化ない場合には○、変化が認められた場合には×とした。さらに総合的に評価し、熱膨張係数が120×10-7/℃以下であり、しかも380℃と400℃で良好な軟化流動性を示し、その上優秀な耐湿性を有する場合には◎、ほぼ良好な軟化流動性と耐湿性を有する場合には○、そうでない場合、すなわち軟化流動性或いは耐湿性のどちらか不十分な場合には×とした。
【0076】
表6〜表8の実施例G52,53,55〜59,61〜71,73〜75,77,80〜82,84〜86から分かるように、バナジウム,リン,テルル,バリウム及びタングステン或いはモリブデン、さらに鉄或いはアルカリ金属の酸化物を含み、軟化点が380℃以下である低融点ガラス組成物に関して、400℃以下で良好な軟化流動性を示し、さらに良好な耐湿性を有していた。好ましい組成範囲は、後記の酸化物換算でV25を40〜55重量%、P25を5〜15重量%、TeO2を20〜30重量%、BaOを2〜10重量%、WO3を0〜15重量%、MoO3を0〜15重量%、Fe23を0〜8重量%、R2O(Rはアルカリ金属)を0〜5重量%を含み、しかもP25とTeO2の和が30〜40重量%、WO3とMoO3の和が5〜15重量%、Fe23とR2Oの和が2〜8重量%であった。さらに、軟化点を360℃以下としたG55,61〜63,65〜67,69,70,74,80〜82,85,86では、380℃での軟化流動性が優れており、さらに優秀な耐湿性を有していることから、380℃以下での信頼性の高い低温気密封着が可能であった。しかし、G80,81及び85は熱膨張係数が大きすぎ、熱衝撃等で破損しやすいことから、取り扱いには注意を要した。ガラスの熱膨張係数が120×10-7/℃以下であれば、このような注意をほとんど払うことがないことから、熱膨張係数までを配慮すると、G55,61〜63,65〜67,69,70,74,82,86のガラスは、低温気密封着に大変適していると言える。より好ましい組成範囲は、後記の酸化物換算でV25を40〜50重量%、P25を7〜12重量%、TeO2を22〜28重量%、BaOを2〜10重量%、WO3を0〜10重量%、MoO3を0〜8重量%、Fe23を0〜8重量%、R2O(Rはアルカリ金属)を0〜3重量%を含み、しかもP25とTeO2の和が33〜37重量%、WO3とMoO3の和が5〜13重量%、Fe23とR2Oの和が2〜8重量%であった。
【実施例9】
【0077】
表6〜表8で示したG55,61,65,80,82の低融点ガラス組成物を用い、実施例2と同様にして、フィラーの検討を行った。これらの低融点ガラス組成物は、実施例8において380℃での軟化流動性と耐湿性に優れたものである。フィラーとしては、実施例2で有効であった平均粒径1μmの酸化ニオブを用いた。さらに負の熱膨張係数を有する、平均粒径3μmのリン酸タングステン酸ジルコニウムも用いた。
【0078】
上記G55,61,65,80及び82の低融点ガラス組成物は、より低温で軟化させるために微細化及び分級し、平均粒径を3μmとした。また、それぞれの低融点ガラス組成物に対する各種フィラーの含有量を0,10,20,30体積%とした。低融点ガラス組成物とフィラーとを混合し、さらに樹脂と溶剤を加え、ガラスペーストを作製した。樹脂にはエチルセルロース、溶剤にはブチルカルビトールアセテートを用いた。
【0079】
それぞれ作製したガラスペーストを図1に示すようにアルミナ基板1上に塗布,乾燥した後に、昇温速度5℃/分で380℃まで加熱し10分間保持し、ガラス焼成塗膜2を形成した。なお、ガラスペーストの塗布幅は0.5mmとした。さらに、図2に示すようにガラス焼成塗膜2を形成したアルミナ基板1と同形状のアルミナ基板3を合わせ、荷重をかけるとともに、昇温速度5℃/分で360℃まで加熱し10分間保持し、封着した。その封着体の密着性,接着性,残留気泡を評価した。
【0080】
密着性や接着性に優れ、しかも残留気泡が少なく、その上クラックの発生がない場合には◎、多少の気泡は残留するものの良好な密着性,接着性が得られ、しかもクラックの発生がない場合には○、クラックの発生は認められるが、問題なく密着,接着できた場合には△、残留気泡やクラックによって密着性,接着性が不十分な場合には×とした。
【0081】
評価結果を表9に示す。
【0082】
【表9】

【0083】
フィラーを含有させない場合には、G55,65,80,82のガラスを用いると、アルミナ基板との大きな熱膨張差により剥離してしまった。G61では、その熱膨張差が少し低減されるために、クラックの発生に留まった。残留気泡に関しては、どのガラスにおいても大変少なく、熱膨張係数の整合さえ取れれば、気密な接着が可能である。そのため、フィラー含有量を増加させていくと、熱膨張係数が低くなり、剥離やクラックが低減された。ガラスの熱膨張係数によるが、20〜30体積%のフィラー含有量で剥離することなく、良好な密着性と接着性が得られるようになった。このような場合には、特に負の熱膨張係数を有するリン酸タングステン酸ジルコニウムのようなフィラーの含有は大変有効であった。アルミナ基板への接着,封着には、フィラーの含有によって、25℃から250℃までの熱膨張係数を80×10-7/℃とすることが有効である。
【0084】
また、PDPガラス基板についても、同様な検討を行った結果、上記アルミナ基板とほぼ同様な結果が得られた。これは、PDPガラス基板とアルミナ基板の熱膨張係数がほぼ同じであるためである。
【0085】
続いて、熱膨張係数が非常に大きい水晶基板についても、同様な検討を行った。その評価結果を表10に示す。
【0086】
【表10】

【0087】
上記アルミナ基板とは逆にフィラー含有量が少ない場合に良好な密着性,接着性が得られた。また、その際にG55,61,65,82では、クラックの発生も認められなかった。G80は熱膨張係数が大き過ぎるために、クラックの発生が認められたが、フィラーの少量含有によってそのクラックの発生は防止できた。一方、フィラーを30体積%まで含有させると、熱膨張係数が低くなり過ぎて、水晶との熱膨張差が広がり過ぎることによって、剥離やクラックが発生してしまった。ただし、残留気泡はそれほど多くはなかった。水晶への接着,封着には、25℃から250℃までの熱膨張係数を(95〜120)×10-7/℃とすることが有効である。
【0088】
以上より、本発明の低融点ガラス組成物は、フィラーを30体積%まで含有させることができ、それにより熱膨張係数を調整し、各種基板等の低温接着や低温封着に広く有効に展開できるものである。
【実施例10】
【0089】
実施例10では、実施例3と同様に、表6〜表8の低融点ガラス組成物G82を用いて、金属電極に適用した例について説明する。
【0090】
本実施例では、G82の平均粒径は3μmとした。また、金属粒子には、平均粒径2μmのアルミニウム粉末、樹脂にはエチルセルロース、溶剤にはブチルカルビトールアセテートを用いた。G82のガラス粉末をアルミニウムの粉末と混合し、エチルセルロースとブチルカルビトールアセテートとの溶液を加えることによって電極用ペーストを作製した。G82のガラス粉末とアルミニウムの粉末の体積比率は、5:95,7:93,10:90,17:83,25:75として、5種類の電極用ペーストを作製し、検討した。作製した電極用ペーストを用い、印刷法によりPDPガラス基板上に塗布,乾燥した後、昇温速度10℃/分で400℃まで加熱し30分間保持し、アルミニウム電極を形成した。
【0091】
実施例3と同様な結果が得られた。PDPガラス基板上に形成したアルミニウム電極は、ガラス粉末G82の含有量が増加するとともに、一方アルミニウム粉末の含有量が減少するとともに基板への密着性が向上した。ガラス粉末G82の含有量5体積%、アルミニウム粉末の含有量95体積%では、電極の密着性は不十分であったが、ガラス含有量7体積%以上、アルミニウム含有量93体積%以下では良好な密着性が得られた。しかし、ガラス粉末G82の含有量が増加するとともに、一方アルミニウム粉末の含有量が減少するとともに、電極の抵抗値は増加した。電極の展開先にもよるが、電極としては、アルミニウムの含有量は少なくとも83体積%以上は必要であった。すなわち、電極として、好ましい金属粉末の含有量は、83〜93体積%であった。
【0092】
上記と同様に、銀電極と銅電極についても検討した。銀電極には、平均粒径1μmの銀粉末を扁平化した粒子、銅電極には、平均粒径3μmの銅粉末を扁平化した粒子を用いた。銅電極の形成には、銅の酸化防止のため、窒素中で熱処理を施した。PDPガラス基板上に形成した銀電極,銅電極とも、上記のアルミニウム電極と同様な結果が得られ、本発明の低融点ガラス組成物は低温封着以外にも適用可能であることが分かった。
【実施例11】
【0093】
実施例11として、実施例4と同様に、表6〜表8の低融点ガラス組成物G65をPDPの低温封着へ適用した例について説明する。
【0094】
本実施例では、先ずはG65の平均粒径を3μmとした。低熱膨張化のためのフィラーとして、平均粒径3μmのリン酸タングステン酸ジルコニウム、樹脂としてエチルセルロース、溶剤としてブチルカルビトールアセテートを用いた。G65のガラス粉末とリン酸タングステン酸ジルコニウムの粉末とを混合し、エチルセルロースとブチルカルビトールアセテートとの溶液を加えることによって低温封着用低融点ガラスペーストを作製した。なお、G65とリン酸タングステン酸ジルコニウムの配合割合は体積比率で75:25とし、封着後における25℃〜250℃の熱膨張係数が75×10-7/℃前後になるようにした。これは実施例4で説明したとおり、PDPガラス基板の熱膨張に合わせるためである。
【0095】
作製した低融点ガラスペーストを用い、実施例4と同様にして、図3のPDPを低温封着した。先ずは、この低融点ペーストを背面板11の周縁部にディスペンサー法にて塗布,乾燥させた。その後、昇温速度5℃/分で400℃まで加熱し、30分間保持した。次に、この背面板11と前面板10とを正確に対向させ、クリップで固定し、排気しながら、昇温速度5℃/分で350℃まで加熱し、2時間保持した後に希ガスを充填し、冷却した。
【0096】
作製したPDPは、実施例4と同様な結果が得られ、従来に比べると、封着温度を著しく低温化したにも関わらず、問題なく、気密に封着することができた。また、パネル点灯試験においても問題の発生は認められなかった。封着温度の低温化により、PDPの量産性が上がり、低コスト化に寄与することが可能である。
【実施例12】
【0097】
実施例12として、実施例5と同様に、表6〜表8の低融点ガラス組成物G61をICセラミックスパッケージの低温封着へ適用した例について説明する。
【0098】
本実施例では、アルミナ系セラミックスを容器に用いたICセラミックスパッケージにおいて検討した。先ずはG61の平均粒径を3μmとした。低熱膨張化のためのフィラーとして、平均粒径3μmのリン酸タングステン酸ジルコニウム、樹脂としてエチルセルロース、溶剤としてブチルカルビトールアセテートを用いた。G61のガラス粉末とリン酸タングステン酸ジルコニウムの粉末とを混合し、エチルセルロースとブチルカルビトールアセテートとの溶液を加えることによって低温封着用低融点ガラスペーストを作製した。なお、G61とリン酸タングステン酸ジルコニウムの配合割合は体積比率で85:15とし、封着後における25℃〜250℃の熱膨張係数が80×10-7/℃前後になるようにした。これは、アルミナ系セラミックスの熱膨張に合わせるためである。
【0099】
作製した低温封着用低融点ガラスペーストを用い、実施例5と同様にして、図4のICセラミックスパッケージを低温封着した。先ず、この低融点ガラスペーストを印刷法にてアルミナ系セラミックスキャップ33に塗布した。その後、そのセラミックスキャップ33を二段プロファイにて大気中で焼成した。二段プロファイルの一段目は330℃で20分間、二段目は380℃で10分間保持した。昇温速度は10℃/分とした。続いて、封着材料13を形成したアルミナ系セラミックスキャップ33とアルミナ系積層セラミックス基板32を固定ジグで対向させ、荷重をかけて、窒素中において昇温速度10℃/分で370℃まで加熱し、10分間保持し、低温封着した。このようにして、10個のICセラミックスパッケージを製作した。
【0100】
どのICセラミックスパッケージとも、実施例5と同様に何事も問題なく、気密にガラス封着できた。また、作動試験を行い、問題のなきことを確認した。作動試験後のICセラミックスパッケージを分解して、ガラス封着部を観察したが、若干の残留気泡が認められるものの、気密性が高く、信頼性の高い封着部分が得られることが分かった。
【0101】
以上、本発明の低融点ガラス組成物は、ICセラミックスパッケージの低温気密封着に有効に適用できるものである。
【実施例13】
【0102】
実施例13として、実施例6と同様に、表6〜表8の低融点ガラス組成物G80を水晶振動子のパッケージングの低温封着に適用した例について説明する。
【0103】
本実施例では、水晶を容器に用いた水晶振動子のパッケージングについて検討した。先ずはG80の平均粒径を3μmとした。低熱膨張化のためのフィラーとして、平均粒径1μmの五酸化ニオブ、樹脂としてエチルセルロース、溶剤としてブチルカルビトールアセテートを用いた。G80のガラス粉末と五酸化ニオブの粉末とを混合し、エチルセルロースとブチルカルビトールアセテートとの溶液を加えることによって低温封着用低融点ガラスペーストを作製した。なお、G80と五酸化ニオブの配合割合は体積比率で75:25とし、封着後における25℃〜250℃の熱膨張係数が(115〜120)×10-7/℃になるようにした。これは、水晶の熱膨張に合わせるためである。
【0104】
作製した低温封着用低融点ガラスペーストを用い、実施例6と同様にして、図5の水晶振動子を低温封着した。先ずは、この低融点ガラスペーストを印刷法にて水晶製のキャップに塗布した。その後、その水晶キャップを二段プロファイにて大気中で焼成した。二段プロファイルの一段目は330℃で20分間、二段目は390℃で10分間保持した。昇温速度は10℃/分とした。続いて、低融点ガラスを形成した水晶キャップと水晶容器を固定ジグで対向させ、荷重をかけて、窒素中において昇温速度10℃/分で370℃まで加熱し、10分間保持し、低温封着した。このようにして、10個の水晶振動子を製作した。どの水晶振動子とも実施例6と同様に何事も問題なく、気密にガラス封着できた。また、作動試験を行い、良好な振動特性を有することを確認した。作動試験後の水晶振動子を分解して、ガラス封着部を観察したが、若干の残留気泡が認められるものの、気密性が高く、信頼性の高い封着部分が得られることも分かった。
【0105】
以上、PDP,ICセラミックスパッケージ,水晶振動子の低温気密封着について説明したが、本発明の低融点ガラス組成物は、その他の電子部品の低温気密封着にも広く展開できることは言うまでもない。
【実施例14】
【0106】
実施例14では、実施例7と同様に、表6〜表8のガラス組成物G65とG82を用いて、太陽電池素子の電極へ適用した例について説明する。
【0107】
本実施例では、先ずはG65とG82を平均粒径1μmにまで粉砕し、G65のガラス粉末をアルミニウム電極、G82のガラス粉末を銀電極へ用いた。樹脂にエチルセルロース、溶剤にブチルカルビトールアセテートを用い、それらを混合することによってそれぞれの電極ペーストを作製した。G65粉末とアルミニウム粉末の配合割合は体積比率で5:95、G82粉末と銀粉末の配合割合は体積比率で10:90とした。
【0108】
作製したアルミニウム電極ペーストと銀電極ペーストを用いて、実施例7と同様に、図6〜図8の太陽電池素子を作製した。作製した太陽電池素子は、受光面では受光面電極43と拡散層41が形成された半導体基板40が電気的に接続されていた。また、裏面では電極成分拡散層46が形成され、半導体基板40と集電電極44,電力取出し電極45との間にオーミックコンタクを得ることができ、しかも従来よりも半導体基板40のそりを低減することができた。さらに、85℃,85%の高温高湿試験を100時間実施し、電極の配線抵抗や接触抵抗がほとんど大きくなるようなことはなかった。
【0109】
従って、本発明の低融点ガラス組成物は、太陽電池素子の電極へ有効に展開することができる。また、太陽電池素子以外の電子部品の電極形成にも有効に活用できるものである。
【符号の説明】
【0110】
1 アルミナ基板
2 ガラス焼成塗膜
10 前面板
11 背面板
12 隔壁
13 封着材料
14 セル
15,16,17 赤色,緑色,青色蛍光体
18 表示電極
19 アドレス電極
20 紫外線
21 ブラックマトリックス
22,23 誘電体層
24 保護層
30 メタライズ
31 端子
32 積層セラミックス基板
33 セラミックスキャップ
40 半導体基板
41 拡散層
42 反射防止層
43 受光面電極
44 集電電極
45 電力取出し電極
46 電極成分拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含まず、バナジウム,リン,テルル及び鉄の酸化物を含み、軟化点が380℃以下であることを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された低融点ガラス組成物であって、
さらにマンガン,亜鉛,タングステン,モリブデン,バリウムの酸化物のうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載された低融点ガラス組成物であって、
成分の酸化物換算で、V25を45〜65重量%、P25を10〜20重量%、TeO2を10〜25重量%、Fe23を5〜15重量%、MnO2,ZnO,WO3,MoO3,BaOを合計で0〜10重量%を含有することを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された低融点ガラス組成物であって、
25℃から250℃までの熱膨張係数が100×10-7/℃以下であることを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された低融点ガラス組成物であって、
軟化点が360℃以下あることを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項6】
実質的に鉛,ビスマス及びアンチモンを含まず、バナジウム,リン,テルル、バリウム、及びタングステン或いはモリブデン、さらに鉄或いはアルカリ金属の酸化物を含み、軟化点が380℃以下であることを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項7】
請求項6に記載された低融点ガラス組成物であって、
成分の酸化物換算で、V25を40〜55重量%、P25を5〜15重量%、TeO2を20〜30重量%、BaOを2〜10重量%、WO3を0〜15重量%、MoO3を0〜15重量%、Fe23を0〜8重量%、R2O(R:アルカリ金属)を0〜5重量%含み、しかもP25とTeO2の和が30〜40重量%、WO3とMoO3の和が5〜15重量%、Fe23とR2Oの和が2〜8重量%であることを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載された低融点ガラス組成物であって、
軟化点が360℃以下で、しかも25℃から250℃までの熱膨張係数が120×10-7/℃以下あることを特徴とする低融点ガラス組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載された粉末形状の低融点ガラス組成物を含むことを特徴とする低温封着材料。
【請求項10】
請求項9に記載された低温封着材料であって、
さらに粉末形状のフィラーとを含有し、前記低融点ガラス組成物の含有量が70体積%以上、前記フィラーの含有量が30体積%以下であることを特徴とする低温封着材料。
【請求項11】
請求項10に記載された低温封着材料であって、
前記フィラーの平均粒径が30μm以下であることを特徴とする低温封着材料。
【請求項12】
請求項10または11に記載された低温封着材料であって、
前記フィラーが、ニオブ或いはタンタルを含むことを特徴とする低温封着材料。
【請求項13】
請求項12に記載された低温封着材料であって、
前記フィラーが、酸化ニオブ,酸化タンタル或いはそれらの化合物であることを特徴とする低温封着材料。
【請求項14】
請求項10または11に記載された低温封着材料であって、
前記フィラーが、リン酸タングステン酸ジルコニウムであることを特徴とする低温封着材料。
【請求項15】
請求項9ないし14のいずれかに記載された低温封着材料であって、
25℃から250℃までの熱膨張係数が80×10-7/℃以下であることを特徴とする低温封着材料。
【請求項16】
請求項9ないし14のいずれかに記載された低温封着材料であって、
25℃から250℃までの熱膨張係数が95×10-7/℃以上120×10-7/℃以下であることを特徴とする低温封着材料。
【請求項17】
金属粉末と、請求項1ないし8のいずれかに記載された低融点ガラス組成物を含有する電極材料。
【請求項18】
請求項17に記載された電極材料であって、
前記金属粉末が83〜93体積%含有され、金属粉末が銀,銅またはアルミニウムを含むことを特徴とする電極材料。
【請求項19】
請求項1ないし8のいずれかに記載された低融点ガラス組成物の粉末と、樹脂と、溶剤とを含有することを特徴とする低融点ガラスペースト。
【請求項20】
ガラス封着部,ガラス接着部,ガラス被覆部を有する電子部品において、前記ガラス封着部,前記ガラス接着部,前記ガラス被覆部に請求項1ないし8のいずれかに記載された低融点ガラス組成物を含むことを特徴とする電子部品。
【請求項21】
請求項20に記載された電子部品が、ICセラミックスパッケージ,水晶振動子,画像表示装置であることを特徴とする電子部品。
【請求項22】
金属とガラスとを含む電極が形成された電子部品において、該電極に含有されるガラスが請求項1ないし8のいずれかに記載された低融点ガラス組成物であることを特徴とする電子部品。
【請求項23】
請求項22に記載された電子部品が画像表示装置,太陽電池素子であることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−184852(P2010−184852A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174883(P2009−174883)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】