説明

体内飲み込み型発電池

【課題】体内に飲み込んでも人体に無害で、長時間電力供給可能な小型の体内飲み込み型発電池を提供する。
【解決手段】胃酸を電解質溶液とするボルタの電池で体内飲み込み型発電池を構成し、胃酸が導入される筒状のケース10の内面に、望ましくは白金で構成される陽極12と、望ましくは亜鉛で構成される陰極14とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内飲み込み型内視鏡等の体内飲み込み型の医療器具の電源として用いるのに好適な体内飲み込み型発電池に関する。
【背景技術】
【0002】
QOL(Quality of Life)向上のために、低侵襲医療が求められている。その中で、消化器官の内視鏡検査において、従来のカテーテル型ではなく、体内飲み込み型の内視鏡が注目を集めている。
【0003】
この体内飲み込み型の内視鏡への電力供給は、例えば特許文献1に記載された小型電池や、特許文献2に記載された外部磁場による電磁誘導を利用したものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2005−334082号公報
【特許文献2】特開2005−52363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、小型電池は有害物質を含み、万一体内で破損したときに、重大な健康障害を生じる可能性がある。
【0006】
一方、電磁誘導を利用する方法は、患者を強力な磁場の中に置く必要があり、患者の動きが妨げられてしまうだけでなく、ペースメーカー等の医療機器を使用している患者には適用できないという問題点を有していた。
【0007】
又、現在の体内飲み込み型内視鏡は、内部メモリへの撮像データの保存や無線発信を用いた患部観察の機能しか持たないが、今後は更なる小型化に加え、高機能化が求められており、そのためには、新たな電源供給方法の開発が必須である。
【0008】
なお、本発明に類似したものとして、糖尿検査用に、尿を利用したものや、血中の糖を利用したものも研究されているが、内視鏡に用いるのは困難である。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、体内に飲み込んでも人体に無害で、長時間電力供給可能な小型の体内飲み込み型発電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、胃酸を電解質溶液とするボルタの電池で構成されていることを特徴とする体内飲み込み型発電池により、前記課題を解決したものである。
【0011】
又、前記ボルタの電池の陽極を、人体に無害で、水素還元活性を有する金属(例えば白金)により構成したものである。
【0012】
又、前記ボルタの電池の陰極を、人体に無害で、陽極を構成する金属に対するイオン化傾向の電位差の大きな金属(例えば亜鉛)により構成したものである。
【0013】
又、前記胃酸が導入される筒状のケースを設けたものである。
【0014】
又、前記ケースの内面に電極を設けたものである。
【0015】
又、前記ケースの内側に、導入された胃酸を浄化して保持するためのフィルタを設けたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば内視鏡の活動環境において豊富に存在する生体物質である胃酸を電解液溶液とするボルタの電池で体内飲み込み型発電池を構成したので、ケースや電極の材質を選定することにより、体内に飲み込んでも人体に無害で、長時間電力供給可能な小型の発電池を実現することができ、より精密な検査が可能となる。
【0017】
体内飲み込み型発電池では、電極の溶出や電極上での水素の発生等の問題を解決する必要があるが、特に、陽極に適した白金は水素イオンの還元に活性であるため、分極が起こり難く、又、人体にとって無害である。又、陰極に適した亜鉛は溶出するが、人体に有益なミネラルの一種であり、問題無い。更に、ケースとしては、例えば人体に無害なポリマーやガラスを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本実施形態は、図1(A)(分解斜視図)及び(B)(組立図)に示す如く、胃酸が導入される、例えば図の上下に2分割して成型される四角筒状のケース10と、該ケース10の上下の内面に設けられた、例えばケース10に蒸着された白金でなる陽極12、及び、ケース10に嵌め込み成型された亜鉛板でなる陰極14と、前記ケース10の内側に設けられた、胃の内容物の侵入を防止すると共に、導入された胃酸を保持するための、例えばスポンジ状のフィルタ16を用いて構成されている。
【0020】
前記ケース10は、消化器官の内面を傷つけないように、例えば生体に無害なPDMS(ポリジメチルシロキサン)ポリマーを型とし、組立が容易なように2分割して形成することができる。なお、ケース10の材質はPDMSポリマーに限定されず、他のポリマーや、ガラス、ABS樹脂等を用いることもできる。特にガラスを用いた場合には、体内を傷付けないようにコーティングすることが望ましいが、白金がきれいに蒸着でき、出力が高い。
【0021】
この発電池は、マイクロファブリケーション技術を用いて、例えば1cm角で厚さ4mm程度の大きさ、あるいは、もっと小さく製造することができ、飲み込み型医療器具に使用できる。
【0022】
前記ケース10の形状は、内面に一対の電極を設ける必要があるので、四角筒状が望ましいが、これに限定されず、例えば円筒状や、他の形状であっても良い。
【0023】
前記陽極12としては、白金が望ましいが、人体に無害な銀や金を用いることも考えられる。
【0024】
又、前記陰極14としては、亜鉛が望ましいが、人体に無害で、陽極を構成する金属(本実施形態では白金)に対するイオン化傾向の電位差の大きな金属であれば、例えば鉄を用いることも可能である。
【実施例】
【0025】
まず、電解質溶液の違いによる発電の違いを見るため、フィルタを除いた状態で、塩酸溶液と人工胃液を利用した場合の出力電圧を見たところ、図2(塩酸溶液)及び図3(人工胃液)に示す如くであり、実験結果は表1のようになった。なお、以下の実験は、全てフィルタを除いて行なった。
【0026】
【表1】

【0027】
この実験結果から、電解質に塩酸溶液と人工胃液を使用した場合、発電はほぼ同等の値が得られることが分かった。そこで、以下の実験は、人工胃液の代わりに塩酸溶液を用いて行なった。
【0028】
次に、発電耐久性を見るため、10時間に及ぶ発電を行なったところ、分極が発生せずに、図4に示す如く、安定した発電が可能であることが分かった。胃酸は人体から供給されるので、発電時間を決めると考えられる陰極の残存厚みから考えて、150時間以上の長時間発電が可能である。なお、必要に応じて、陰極の厚みを増すことで、より長時間の発電も可能であると考えられる。
【0029】
次に、陽極に使用する材料の違いによる発電評価実験を行なった。
【0030】
PDMS上に白金のみを蒸着した場合(図5)、PDMS上に金を蒸着し、その上から白金を蒸着した場合(図6)、そして、ガラス板上に白金のみを蒸着した場合(前出図2)、ガラス板上に金を蒸着し、その上から白金を蒸着した場合(図7)に分けて陽極を作成し、発電時の違いを見た。図5中の「装置の再設置による低下」は、発電池を一時的に電解質から取り出したために生じたものである。
【0031】
実験結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
実験結果から、陽極の金属を蒸着する基材の違いにより、発電結果に違いが出ることが分かった。PDMSを利用した場合とガラス板を利用した場合において、電流値におよそ3倍の大きな差があり、電源としては明らかに陽極の基材にガラス板を利用した方が、性能が高い。これは、PDMS表面が粗く、白金を成膜時にクラックを生じてしまうためである。
【0034】
そこで、PDMSの表面の粗さの影響を取り除くために、PDMSに白金を蒸着する前に、金の蒸着を行なった。金は、高延性・高導電性材料であることから、先に蒸着することにより、白金蒸着時のPDMSの性質の変化に対応できると考えられた。しかし、結果は図6のようになり、白金にクラックが生じたために、実質的に金が電極となり、分極が発生してしまった。又、ガラスに同様の蒸着を行なった場合の発電結果は図7に示したとおりで、ガラスに白金のみを蒸着した場合(図2)とほぼ同等の結果が得られた。この結果から、陽極に用いる基材の表面の精度が、発電に大きく影響を及ぼすことが分かった。
【0035】
次に、内部抵抗の測定を行なった。その結果は、図8に示す如くであり、内部抵抗は−115.98となった。この値は、一般的に利用される電池に比べて非常に大きい値である。要因としては、極板と測定装置を繋ぐための接触部における抵抗値の増大、発電時に極板上に発生する水素気泡による抵抗値の増大が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態の(A)分解斜視図及び(B)組立状態を示す斜視図
【図2】塩酸溶液を用いた場合の発電実験の結果を示す線図
【図3】人工胃液を用いた場合の発電実験の結果を示す線図
【図4】発電耐久性実験の結果を示す線図
【図5】白金を蒸着したPDMSを利用した場合の発電実験の結果を示す線図
【図6】金を蒸着した上に白金を蒸着したPDMSを利用した場合の発電実験の結果を示す線図
【図7】金を蒸着した上に白金を蒸着したガラス板を利用した場合の発電実験の結果を示す線図
【図8】内部抵抗測定試験の実験結果を示す線図
【符号の説明】
【0037】
10…ケース
12…陽極
14…陰極
16…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃酸を電解質溶液とするボルタの電池で構成されていることを特徴とする体内飲み込み型発電池。
【請求項2】
前記ボルタの電池の陽極が、人体に無害で、水素還元活性を有する金属により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の体内飲み込み型発電池。
【請求項3】
前記ボルタの電池の陰極が、人体に無害で、陽極を構成する金属に対するイオン化傾向の電位差の大きな金属により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の体内飲み込み型発電池。
【請求項4】
胃酸が導入される筒状のケースを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の体内飲み込み型発電池。
【請求項5】
前記ケースの内面に電極が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の体内飲み込み型発電池。
【請求項6】
前記ケースの内側に、胃の内容物の侵入を防止すると共に、導入された胃酸を保持するためのフィルタが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の体内飲み込み型発電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−200739(P2007−200739A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18571(P2006−18571)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】