説明

体感音響装置用信号処理回路

【課題】LR2chのステレオ信号のみから体感音響振動信号を得ることのできる体感音響装置用を提供する。
【解決手段】左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を入力とし、これらを混合する混合回路と、前記混合回路の出力を処理する信号処理回路と、体感音響装置用の振動信号を取り出すために、前記信号処理回路の出力から予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備え、前記信号処理回路は、110Hzから140Hzにかけての周波数の信号を予め定められた量だけ低減させる帯域阻止フィルタを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨場感を再現するための体感音響装置用の信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
体感音響装置(ボディソニック)は、音楽の主として低音成分を振動トランスデューサ(電気―機械振動変換器)により体感音響振動に換えて、身体に体感させながら音楽を(耳で)聴くリスニングシステムである。
【0003】
体感音響振動を伴った音が印象を強め、音楽の感動や陶酔感を深める。またリラクセーション効果なども指摘され、音楽療法にも応用されている。
【0004】
体感音響装置は音楽だけでなく、エンジン音や爆発音などの振動感や衝撃感を伴うドキュメンタリー音を再生すると、従来のオーディオ装置では真似のできない迫真の臨場感を再現し、映画やDVDと組み合わせて圧倒的な劇的効果を得ることができる。
【0005】
電車やSLの走る音、トラクタや車のエンジン音、衝突音、噴火や大砲などの爆発音、地震などによりビルなどが崩れる音など、これらの音は、広い周波数帯域と重低音域の成分を含み、衝撃感や振動感、時には地響きさえ伴う。これらの音は、スピーカやヘッドホンによるオーディオの再生では、如何に音質の良い装置でも、振動感や衝撃感、地響きなどは伝わらないが、体感音響装置で再生すると振動感や衝撃感が再現され、スピーカやヘッドホンだけの再生では、とうてい再現することのできない迫真の臨場感を再現することができる。
【0006】
上記の効果から5.1ch映画、DVDへの応用が提案されている。特許文献1は、5.1chのL,C,R,Ls,Rs,LFE信号を処理して、5.1ch映画・DVD用の体感音響装置を実現する技術を開示する。
【0007】
しかし最近では、オーディオ・ビジュアル機器の変化があり、5.1chのL,C,R,Ls,Rs,LFE信号を受けることが難しい状態になってきている。以下にそのことを述べる。
【0008】
ディジタル5.1ch方式DVD機器が市場に出た当初、DVDプレーヤには必ず5.1chのアナログ信号が出力されていた。しかし2000年代中頃に差し掛り、液晶テレビの普及が始まって、テレビ、DVD機器などに劇的な変化が起こった。すなわち、DVDプレーヤはディジタル信号(光ディジタル、同軸ディジタル)と、LR2chのステレオ・アナログ信号のみを出力し、5.1chのアナログ信号は出力しなくなった。5.1chの信号を得るためには、5.1chデコーダを内蔵したAVアンプなどが必要となり、本格的にホームシアタの機器を設置している人以外には、5.1chのアナログ信号を得ることが難しい状態になってきている。
【0009】
その一方でノートパソコンなどは、パソコンそのものの高性能化と共に、画面が横長の大きな画面、そしてDVDスーパーマルチドライブを搭載し、DVD再生用のソフトウエアを搭載している。まさにDVD観賞に絶好の性能環境を具備している。この為、パソコンでDVDを見ている人達は多い。音声出力はLR2chのステレオ・アナログ信号である。
【0010】
このほか、普及が目覚しい携帯プレーヤも音声出力はLR2chのステレオ・アナログ信号である。テレビもLR2chのステレオ・アナログ信号を出力している。もちろんDVDプレーヤはLR2chのステレオ・アナログ信号を出力している。
【0011】
このように現在では、5.1chのアナログ信号を得る環境は限られるが、LR2chのステレオ・アナログ信号を得る環境は満ち溢れている。
【0012】
そこで、5.1chの信号を処理する方式ではなく、LR2chのステレオ信号を処理して体感音響装置用の振動信号を得る、映画・DVD用の体感音響装置用信号処理回路技術の必要に迫られた。しかし5.1chの信号を処理する方式に比較し、LR2chのステレオ信号のみから体感音響装置用の振動信号を得ることは技術的困難が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4358775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の体感音響装置について説明する。図12に体感音響装置のブロックダイヤグラムの一例を示す。図12はサラウンドシステムではなく、一般のステレオシステムの信号を入力とするものである。L(左)信号とR(右)信号が入力端1に入力される。これらL Rのステレオ信号を混合回路(MIX、ミキサ)2で混合して信号処理回路3へ送る。信号処理回路3はイコライジング回路、レベル圧縮回路などを含み、音楽聴取用に適した特性を持ち、その出力をローパスフィルタLPF2へ送る。ローパスフィルタLPF2で信号処理回路3の出力から体感音響装置用の振動信号を取り出す。ローパスフィルタLPF2を通った振動信号を増幅器4で増幅した後、出力端5から出力する。出力端5は図示しない電気−機械振動変換器に接続され、当該電気−機械振動変換器でこれが取り付けられた椅子などの人体載置物を振動駆動する。
【0015】
図13に、ローパスフィルタLPF2の周波数特性例を示す。遮断周波数150Hzで、オクターブ-18dBのロールオフである(実際の特性は図13と若干異なり、遮断周波数(=150Hz)の辺りで丸みをもっている(図13の実線よりやや下側に位置する、言い換えれば遮断周波数において所定の減衰量(例えば数dB程度)が生じる)が、分かりやすくする為、模式的に遮断周波数を角張らせて書いた。このような表記法は電気通信の分野において通常行われているものであり、当業者であれば容易に理解できるものである。周波数特性図の表記は以下の図もすべて同様である)。
【0016】
図12の回路にDVDプレーヤなどのサラウンドシステムのLR信号を入力すれば、体感音響装置を付加したシステムを構成可能であるが、次のような不都合を生ずる。
【0017】
課題1:台詞(人声)で振動してしまう
ドラマの主体をなす台詞(人声、特に男声は低音成分が多い)で振動を発生してしまい、著しく不自然な感じになることである。特に男声は低音成分が多いのでこの不都合が起りやすい(不都合の起こり具合は声質、録音の状態によってかなり差がある)。
【0018】
課題2:振動発生の頻度が高すぎる
人声以外にも振動発生の頻度が高すぎることである。体感音響装置では、音楽の場合は、低音楽器音やリズム感を振動で感じ取ることが心地よいので、多くのユーザが、できるだけ常に振動を感じ取ることができることを期待している。
これに対してドラマの場合は、アクションシーンなど、ここぞという場面で、爆発音や衝撃感のある音を振動とともに体感すると圧倒的な臨場感と劇的な効果を高めることができる半面、上記のような場面以外のシーンで振動していると、不自然であったり煩わしさを感じさせ、ドラマを壊してしまうことにもなる。
【0019】
課題3:背景雑音で振動してしまう
これは前項で述べた不都合と関連するが、屋外(スタジオではなくロケ地など)で収録した音には 風の音、車の走行音、その他さまざまな音が重なり、ザワザワした感じの背景雑音がある。映画・ドラマの中で、スピーカで音として聞いているだけではそれほど目立たない場合でも、背景雑音による体感音響振動が発生することで不自然さや煩わしさを感じることがある。
【0020】
上述の、ドラマの主体をなす台詞(人声、特に男声)で振動を発生してしまい、著しく不自然な感じになるという課題を避けるには、台詞の完全に除去できるフィルタを用いればよい。そのようなローパスフィルタLPF1の特性の1例を図14に示す。図14は、人声で振動を発生する周波数成分を除去するローパスフィルタであり、遮断周波数90Hz、オクターブ当たり-48dB〜-60dB程度のロールオフで急峻な遮断特性を持ち、人声によって振動を発生する周波数成分を除去でき、上記不都合を避けることが出来る。
【0021】
しかし、90Hz以上の周波数成分が急峻に遮断されるため、高い周波数成分が不足し振動にメリハリやリアル感がなく、鋭い立ち上がりの衝撃感などが得にくい。ドロドロ、ブルブルした感じの振動になりやすく、音と振動とのつながりが悪くなり、迫真の臨場感を出しきれない不都合を生ずる。
【0022】
音に例えれば、スピーカシステムからツィータを取ってしまい、ウーハとスコーカのみで音を出すような、著しく高域不足の不完全な音にも例えられようか。一般的な体感音響装置の周波数特性の図13と、ここで述べた図14の周波数特性を比較すると、図14は高域の不足が一目瞭然である。
【0023】
一方、5.1chの信号が得られる場合は、LFE信号(Low frequency effect, スーパーウーハ用の信号)のみを体感音響装置の入力信号とすることで、限定的であるが、上記不都合を簡易に避けることができる。5.1chの信号は、アクションシーンなど、大迫力大音響の場面では、LFE信号に低音信号が出力される。その一方、通常の台詞でドラマが進行している場面などではLFEに低音信号は出力されない。この特性を生かし、スーパーウーハ用の音の信号であるLFEのみを体感音響装置の入力信号とすることで所期の目的を得ることが、一応は可能である。しかし下記の性能上の問題点がある。
【0024】
上記の方法をとった場合、スーパーウーハ用のLFEの信号のみであるため、高い周波数成分が不足し振動にメリハリがなく、鋭い立ち上がりの衝撃感などが得にくい。ドロドロ、ブルブルした感じの振動になり音と振動とのつながりが悪く、迫真の臨場感を出しきれない。この状態を音に例えれば、トゥイータ(高音専用スピーカ)を取り外した状態の音のような感じで、高音不足で音にメリハリがなく不完全な音になるのに似ている。
【0025】
特許文献1は、上記不都合を避けることのできる技術を開示する。
【0026】
図15は、特許文献1による5.1ch体感音響装置用信号処理回路のブロックダイヤグラムを例示するものである。
【0027】
1は5.1chサラウンドシステムの各信号を受ける入力端である。具体的には、左信号L、中央信号C、右信号R、左サラウンド信号Ls、右サラウンド信号Rs及び低周波音効果信号LFEを受ける。これらのうちで中央信号Cは、発明の実施の形態1では使用されない。5.1chサラウンドシステムでは中央信号Cには主にドラマの台詞などの人声が含まれているので、体感音響装置による臨場感の再現にはあまり関係しない。
【0028】
2は入力された信号を混合し、混合したものを出力する混合回路(MIX、ミキサ)である。
3は混合回路2の出力から体感音響装置用の振動信号を取り出す信号処理回路である。信号処理回路3はローパスフィルタやレベル圧縮回路などを含む。
4は信号処理回路3の出力を増幅する増幅器である。
5は出力端である。出力端5は図示しない電気−機械振動変換器に接続され、当該電気−機械振動変換器でこれが取り付けられた椅子などの人体載置物を振動駆動する。
【0029】
6は低周波音効果信号LFEを直流に変換するAC−DC(交流−直流)変換回路である。交流−直流変換回路6は低周波音効果信号LFEの大きさを計測するためのもので、その大きさに応じたレベルの電圧又は電流を出力するものである。例えば、整流器、抵抗、コンデンサなどを備え、交流信号の実効値に応じた直流電圧を出力するものである。交流−直流変換回路6の「直流」や「変換」はそういった意味である。
【0030】
7は混合回路2と信号処理回路3の間に設けられ、制御信号に基づき混合回路2から信号処理回路3への信号の伝達を制御するアナログゲート回路(AG)である。アナログゲート回路7は入力端in、出力端out及び制御信号端cを備え、制御信号端子cに制御信号がなければオフになり、入力端inの信号は出力端outには出力されない。
【0031】
アナログゲート回路(アナログスイッチ)7は、ON-OFF的なスイッチではなく、電圧制御増幅器的要素を持った特性である方が好ましい。例えばリレーなどの2値的なON-OFFスイッチでは制御時にクリックが出たりすることがあるが、電圧制御増幅器的要素を持った特性であれば、自然な制御が出来る。例えば、Cに入力される信号の電圧の増加に応じてアナログゲート回路7の出力レベル(言い換えれば、入力端から出力端への信号の伝達率)が一定の比率で増加(単調増加)するような特性である。あるいは、アナログゲート回路7は閾値を2つもち、閾値1<閾値2としたときに、Cに入力される信号の電圧が閾値1よりも小さいとき、アナログゲート回路7の出力レベルはゼロ(入力端から出力端への信号の伝達率がゼロ)であり、Cに入力される信号の電圧が閾値2よりも大きいとき、アナログゲート回路7の出力レベルは100%(入力端から出力端への信号の伝達率が100%)であり、閾値1と閾値2の間においてアナログゲート回路7の出力レベルがCに入力される信号の電圧に比例(単調増加)するような特性である。なお、アナログゲート回路7として2値的なON-OFFスイッチを用いた場合は、Cに入力される信号の電圧が閾値よりも小さいとき、アナログゲート回路7の出力レベルはゼロ(入力端から出力端への信号の伝達率がゼロ)であり、Cに入力される信号の電圧が閾値よりも大きいとき、アナログゲート回路7の出力レベルは100%(入力端から出力端への信号の伝達率が100%)となる。
【0032】
図15の回路によれば、AC-DC変換回路6でLFE信号を整流して制御用の直流信号(制御信号)Cを得る。5.1chの信号は、アクションシーンなど、大迫力大音響の場面では、LFE信号に低音信号が出力されるので、制御信号Cで、閉じられているアナログゲート7を開き、必要な信号の全てを信号処理回路3に入力して必要な周波数帯域を持った体感音響振動信号を出力する。これにより、ここぞというシーンで振動信号を出力し、臨場感を高めるが、その他のシーンでは振動は出力されず、上記問題点が解消される。
【0033】
しかしアナログゲート7の開閉は、閉じられているときから開かれたときの変化に、ある種の不自然感が起こりやすい。映画においては、台詞、背景音、効果音、音楽、衝撃音や爆発音などのドキュメンタリー音などが複雑に絡み合っており、頻繁に起こるアナログゲートの開閉に伴う不自然感が問題となることがある。
【0034】
また当然ながら、5.1chのL,C,R,Ls,Rs,LFE信号を必要とし、LR2chのステレオ・アナログ信号のみの環境では使用できない。
【0035】
すでに述べたように、LR2chのステレオ信号のみから体感音響装置用の振動信号を得ることのできる映画・DVD用の体感音響装置用信号処理回路が求められているが、5.1chの信号を処理する方式に比較し、LR2chのステレオ信号のみから体感音響装置用の振動信号を得ることは技術的困難が大きい。他方、しかし、LR2chのステレオ信号のみから体感音響装置用の振動信号を得る技術が開発されれば、LR2chのステレオ信号についても体感音響装置を使用できるとともに、5.1chの信号が得られる環境にも適用することができ、応用の可能性が広がる。
【0036】
本発明は、以上の要求に鑑みなされたもので、LR2chのステレオ信号のみから体感音響振動信号を得ることのできる体感音響装置用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
この発明は、
左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号を受けてこれを処理する信号処理回路と、
体感音響装置用の振動信号を取り出すために、予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備える体感音響装置用信号処理回路において(前記LPF2は、例えば、前記信号処理回路に内蔵されるか、あるいは前記信号処理回路の出力側又は入力側に設けられている。以下同じ)、
前記信号処理回路は、
人声基本波成分のうちで体感音響振動として不都合な周波数成分を低減するために、少なくとも110Hzから140Hzにかけての周波数の信号を予め定められた量だけ低減させる帯域阻止フィルタを備えるものである。
【0038】
前記ローパスフィルタLPF2は、例えば、図13の特性をもつものであり、例えば、遮断周波数は150Hz、遮断特性はオクターブ当たり-18dBである。
人声は声帯が振動して発する鋸歯状波に似た波形の声帯音源が、口腔のさまざまな変化、舌の位置、歯の位置などによって形成される空洞共振によってフォルマントが与えられ、多数の高調波が含まれるようになる。さらに無声音による高い周波数の子音も与えられ、言葉が発せられる。
台詞などの通常の会話は、声楽家による歌唱とは異なり、声帯音源はそれほど低くはならない。人声による「体感音響振動として不都合な周波数成分」は、一定の減衰量を与えれば、例えば110Hz以上の周波数の信号であることを、多くの実験によって見出した。
前記帯域阻止フィルタは、例えば、図2の特性を持つものであり、「予め定められた量だけ低減させる」程度(減衰量)は、例えば−20dBである。図4は、前記帯域阻止フィルタの回路例を示す。
【0039】
前記信号処理回路は、さらに、
人声によって振動を発生する周波数成分を除去するために、前記2チャンネルステレオ信号を(例えば混合回路により)混合した信号、又は、モノラル信号から予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタであって、前記ローパスフィルタLPF2よりも低い遮断周波数及びより急峻な遮断特性をもつローパスフィルタLPF1と、
前記ローパスフィルタLPF1の出力を直流に変換する交流−直流変換回路と、
前記交流−直流変換回路の出力に基づき、前記帯域阻止フィルタの接続を切り替えるスイッチ手段とを備え、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されないとき、前記スイッチ手段は、前記帯域阻止フィルタを機能させ、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されたときに前記スイッチ手段は、前記帯域阻止フィルタを機能させない、ようにしてもよい。
【0040】
前記ローパスフィルタLPF1は、例えば、図14の特性をもつものであり、例えば、遮断周波数は90Hz、遮断特性はオクターブ当たり-48dB〜-60dBである。
【0041】
この発明は、
左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号を受けてこれを処理する信号処理回路と、
体感音響装置用の振動信号を取り出すために、予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備える体感音響装置用信号処理回路において、
前記信号処理回路は、
体感音響振動として不都合を生じる人声基本波成分の信号を低減するために、少なくとも110Hz以上の周波数の信号を予め定められた量だけ低減させるものであるフィルタ回路を備える。
【0042】
前記フィルタ回路は、例えば、図6の特性をもつものであり、例えば、遮断周波数は90Hz、遮断特性はオクターブ当たり-48dB〜-60dB、110Hz以上で減衰量=−20dBで一定である。
【0043】
この発明は、
左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号を受けてこれを処理する信号処理回路と、
体感音響装置用の振動信号を取り出すために、予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備える体感音響装置用信号処理回路において、
前記信号処理回路は、
人声によって振動を発生する周波数成分を除去するために、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号から予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタであって、前記ローパスフィルタLPF2よりも低い遮断周波数及びより急峻な遮断特性をもつローパスフィルタLPF1と、
前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号と前記ローパスフィルタLPF1の出力を予め定められた比率で合成する合成回路と、を備えるものである。
【0044】
前記合成回路は、例えば、図9の増幅器A1と抵抗Rx10及び抵抗Rx1とを備えるものである。
【0045】
前記信号処理回路は、さらに、
前記ローパスフィルタLPF1の出力を直流に変換する交流−直流変換回路と、
前記交流−直流変換回路の出力に基づき、前記合成回路における前記合成の比率を制御するスイッチ手段とを備え、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されないとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号と前記ローパスフィルタLPF1の出力を予め定められた第1の比率で合成し、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されたとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号と前記ローパスフィルタLPF1の出力を予め定められた第2の比率で合成し、
前記第2の比率の場合は、前記第1の比率の場合に比べて、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号の比率が高くなる、ようにしてもよい。
【0046】
前記第1の比率、すなわち、(前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号)/(前記ローパスフィルタLPF1の出力)は、例えば、1/10である。
前記第2の比率は、例えば、(前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号)=100%、(前記ローパスフィルタLPF1の出力)=0%である。
【0047】
この発明は、
5.1chサラウンドシステムの左信号L、中央信号C、右信号R、左サラウンド信号Ls、右サラウンド信号Rs及び低周波音効果信号LFEを入力とし、複数の前記信号を混合する混合回路と、
前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた比率で合成する合成回路と、
前記低周波音効果信号LFEを直流に変換する交流−直流変換回路と、
前記交流−直流変換回路の出力に基づき、前記合成回路における前記合成の比率を制御するスイッチ手段とを備え、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されないとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた第1の比率で合成し、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されたとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた第2の比率で合成し、
前記第2の比率の場合は、前記第1の比率の場合に比べて、前記混合回路の出力の比率が高くなる、ものである。
【0048】
本発明は、上記体感音響装置用信号処理回路を、CPU、プロセッサなどのコンピュータで実現するためのプログラムである。すなわち、上記フィルタなどの要素を実現するための処理を行うためのプログラムである。
【0049】
この発明に係るプログラムは、例えば、記録媒体に記録される。
媒体には、例えば、EPROMデバイス、フラッシュメモリデバイス、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、CD(CD−ROM、Video−CDを含む)、DVD(DVD−Video、DVD−ROM、DVD−RAMを含む)、ROMカートリッジ、バッテリバックアップ付きのRAMメモリカートリッジ、フラッシュメモリカートリッジ、不揮発性RAMカートリッジ等を含む。
【0050】
また、電話回線等の有線通信媒体、マイクロ波回線等の無線通信媒体等の通信媒体を含む。インターネットもここでいう通信媒体に含まれる。
【0051】
媒体とは、何等かの物理的手段により情報(主にデジタルデータ、プログラム)が記録されているものであって、コンピュータ、専用プロセッサ等の処理装置に所定の機能を行わせることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】体感音響システムのブロック図の一例である。
【図2】発明の実施の形態1に係る体感音響装置用信号処理回路の周波数特性の一例を示すグラフである。
【図3】発明の実施の形態1に係る体感音響装置用信号処理回路の周波数特性(ローパスフィルタLPF2まで含めた特性)の一例を示すグラフである。
【図4】発明の実施の形態1に係る体感音響装置用信号処理回路の一例を示す回路図である。
【図5】発明の実施の形態2に係る体感音響装置用信号処理回路の一例を示す回路図である。
【図6】発明の実施の形態3に係る体感音響装置用信号処理回路の周波数特性の一例を示すグラフである。
【図7】発明の実施の形態3に係る体感音響装置用信号処理回路の周波数特性(ローパスフィルタLPF2まで含めた特性)の一例を示すグラフである。
【図8】発明の実施の形態3に係る体感音響装置用信号処理回路の周波数特性(ローパスフィルタLPF2まで含めた特性)の他の例を示すグラフである。
【図9】発明の実施の形態3に係る体感音響装置用信号処理回路の一例を示す回路図である。
【図10】発明の実施の形態4に係る体感音響装置用信号処理回路の一例を示す回路図である。
【図11】発明の実施の形態5に係る体感音響装置用信号処理回路の一例を示す回路図である。
【図12】従来の体感音響装置用信号処理回路のブロック図の例である。
【図13】ローパスフィルタLPF2の周波数特性の一例を示すグラフである。
【図14】ローパスフィルタLPF1の周波数特性の一例を示すグラフである。
【図15】従来の他の体感音響装置用信号処理回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
発明の実施の形態について説明を加える前に、その前提となる、体感音響装置で使用する体感振動周波数帯域とヒトの感覚特性について簡単に説明を加える。
【0054】
体感音響振動は椅子などの人体載置物を介して、触振動覚的に身体で受容されるため、20〜150Hzくらいを体感振動周波数帯域としている。これは周波数が150Hz以上になると、音として聴覚で聴き取ることは容易になるが、触振動覚としての振動感は感度が低下し、振動を感じ取りにくくなる「ヒトの感覚特性」に合わせたものである。
【0055】
この逆に、周波数が低くなり、100Hz以下になると、聴覚の感度が低下し音として聴き取り難くなるのに対し、振動感覚は周波数が低くなると感度が高まる。50Hz以下の正弦波(純音)を音として聴き取れる人は少なくなるが、振動としては、ほとんどの人が非常に良く感じ取ることが出来る。
【0056】
体感音響振動の振動周波数帯域は、凡そ下記の様な性質を持っている。
【0057】
(1)音と振動のつながり、臨場感のリアリティ再現に重要な帯域 50〜150Hz
爆発音、エンジン音、衝突音など、衝撃感や振動感を伴うようなドキュメンタリー音の臨場感、リアリティの再現など、音の印象を深め、音と体感振動とのつながり、一体感、自然感を良くするのに重要な周波数帯域が、50〜150Hzである。
5.1chのLFE信号のみでは、この帯域が不足し、音と体感振動とのつながりが悪くなり、臨場感のリアリティが欠如することになる。
【0058】
(2)臨場感、陶酔感、生理的快感などをもたらす帯域 20〜50Hz
帯域を20〜50Hzまで広げることによって、重低音感の増強、振動感や衝撃感を伴うドキュメンタリー音などの、迫真の臨場感の再現などの効果を、より一層深めるのに重要な帯域である。
20〜50Hzの帯域は、心地良いと感じる生理的快感をもたらし、陶酔感を深め、リラクセーションを高める効果などがある。
【0059】
(3)参考的な補足説明
(3.1)150Hz以上の周波数帯域
上述した「ヒトの感覚特性」のため、椅子などの人体載置物に150Hz以上の周波数の信号を入力すると、人体載置物からの発音(音の放射)が増大し、不要な音の放射によって再生音を汚すなどの好ましくない効果が現れる一方、振動感はあまり得られないし、得られる振動感も「心地よい」ものではなくなる。体感音響装置の重要な効果であるリラクセーション効果などにもあまり寄与しない。
しかし、150Hz以上をあまり急峻に遮断すると音と振動感との一体感、自然感などに微妙に影響し、ローパスフィルタのロールオフは適度であることが必要であり、図13に示す 遮断周波数150Hz、オクターブ-18dBのロールオフを使用している場合が多い。
(3.2)10Hz以下の周波数帯域
特に3〜6Hzには、低周波公害などで人体に生理的悪影響を及ぼすとされる周波数帯域が含まれる。
【0060】
発明の実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態に係る「体感音響装置用信号処理回路」を含む装置の総合回路例である。
【0061】
1はLR 2chのステレオ・アナログ音声信号を受ける入力端である。
2は入力された信号を混合した後に出力する混合回路(MIX、ミキサ)である。
3aは混合回路2の出力から体感音響装置用の振動信号を取り出す信号処理回路である。信号処理回路3aは、映画・DVD用に適した信号処理回路(映画・DVD 信号処理回路)である。
3bはイコライジング回路、レベル圧縮回路などからなる音楽用に適した信号処理回路(音楽用信号処理回路)である。
信号処理回路の詳細は後述する。なお、上記信号処理回路は、混合回路の出力に代えて又はこれとともにモノラル信号を受けるものであってもよい。
【0062】
SWは、映画・DVDモード(映画・DVD用信号処理回路3aの出力)と音楽モード(音楽用信号処理回路3bの出力)を選択的に切り替えるスイッチである。
LPF2はローパスフィルタである。ローパスフィルタLPF2は、図13に示した特性をもつものである。なお、図1では、信号処理回路3a、3bとは別にLPF2を設けているが、LPF2の特性を信号処理回路3a、3bに持たせるようにしてもよい(この場合は、図1のスイッチSWの後のLPF2は不要である)。
4は、体感音響振動の信号を増幅する振動増幅器(電力増幅器)である。
5は、体感音響振動を人体に付与する振動変換機(電気−機械振動変換器)である。振動変換機5は椅子などの人体載置物に装着される。振動変換機5は公知のもの(例えば特許第3787777号公報)であり、その説明は省略する。
【0063】
体感音響装置用信号処理回路は、少なくとも映画・DVD用信号処理回路3a及びローパスフィルタLPFを含むものである。もし、入力信号がステレオ信号の場合は混合回路2を含んでいてもよい(入力信号がモノラル信号の場合は、混合回路2は不要である)。これに加えて、図示するように、音楽用信号処理回路3bと切り替えスイッチSWを含んでもよい。なお、本発明の実施の形態に係る「体感音響装置用信号処理回路」は、振動増幅器4及び振動変換機5を含むようにしてもよい。
【0064】
図1において、AMP−Lは左チャネル用の音声L増幅器(音声増幅器)である。AMP−Rは右チャネル用の音声R増幅器(音声増幅器)である。これら音声増幅器は公知のものであるので説明は省略する。これらの出力にそれぞれ左右スピーカSP−L,SP−Rが接続されている。入力端1から入力されたLR2chのステレオ・アナログ音声信号は音声L増幅器AMP−Lと音声R増幅器AMP−Rで増幅され、それぞれに接続されているスピーカSP−L,SP−Rから音声が再生される。
【0065】
次に動作を説明する。
入力端1から入力されたLR2chのステレオ・アナログ音声信号は、混合回路2で混合され、モノラル信号に変換される。このモノラル信号は、映画・DVD用信号処理回路3aと音楽用信号処理回路3bに入力され、映画・DVD用と音楽用それぞれの用途に適した信号処理がなされる。この信号を切り替えスイッチSWで用途に合わせて選択して、映画・DVDモードと音楽モードを切り替える。選択された信号はローパスフィルタLPF2を通った後、出力される。ローパスフィルタLPF2の周波数特性は図13に示したものである。その出力信号を振動増幅器4で電力増幅し、椅子などの人体載置物に装着した振動変換機5を駆動し、人体に体感音響振動を付与する。
【0066】
なお、図1では、音量調整器、振動調整器などは省略した。このほか、映像関係の要素も省略した。
【0067】
図2に、映画・DVD用信号処理回路3aに内蔵する図示しないフィルタの周波数特性の1例を示す。映画・DVD用信号処理回路3aは、図2のような出力周波数特性を備えている。20Hz〜90Hzまではフラット、90Hz〜110Hzにかけて急峻に減衰させ、110Hz〜140Hzまでを-20dBに減衰。140Hz以上は比較的緩やかに上昇している。
【0068】
図2のフィルタは、帯域阻止フィルタである。
なお、上記で「フラット」と述べたが、実際には数dBのリップルがある場合もあり、これもここで言う「フラット」と見做すことにする。他の、図3、図6、図7、図8、図13、図14についても同様である。例えば、後述の図9のように増幅器A1を通ったフラットな特性の信号と、ローパスフィルタLPF1を通った信号を混合すると、LPF1で位相の回転が起こり、打消しや加算が起こりピークやディップが生じる。本発明の実施の形態の場合は、加算する信号レベルの差が20dB以上あるので、あまり大きなピークやディップにはならず、数dBのリップルとなる。
【0069】
これは、人声基本波成分のうち、体感音響振動として不都合な周波数成分を低減するもので、多くの考察と実験を繰り返す中で見出した知見に基づくフィルタ特性である。
【0070】
図14に示すフィルタ特性のように遮断するのではなく、不都合を生ずる部分のみを低減する。この為、図2による場合は、振動の高域成分の不足をあまり感じさせない実用性能が得られた。
【0071】
体感音響装置は、上述した「ヒトの感覚特性」に合わせ、20〜150Hzくらいを体感音響振動周波数帯域としているので、さらに、ローパスフィルタLPF2により図13に示す遮断周波数150Hz、ロールオフ オクターブ-18dBのローパスフィルタリングを行う。この為、最終的な周波数特性は図3に示すものとなる。図2及び図3に示した周波数特性とその効果は、多くの考察と実験を繰り返す中で見出した知見である。
【0072】
図3の周波数特性を図13、図14と比較すると、体感音響振動として必要な周波数特性を示す図13に近いものであることが理解できる。
【0073】
この方式による効果の特長は、人声の問題のみならず、上述した課題3(ザワザワした感じの背景雑音で振動してしまう不都合)も改善されたことである。
【0074】
図4は、図2で示したフィルタ特性を実現させる回路の1例を示す説明図である。映画・DVD用信号処理回路3aは、例えば図4の回路を備えている。
【0075】
図4に示すように、当該回路は、それぞれ、コンデンサC1〜C3、インダクタンスL1〜L3、内部抵抗R1〜R3よりなる3つの直列共振回路を含む。これらは並列に接続されている。内部抵抗R1〜R3の一端は接地されている。直列抵抗Rsに、これら3つの直列共振回路からなる「帯域低減フィルタ」が接続されるとともに、増幅器Aの入力端が接続されている。増幅器Aはハイインピーダンス入力のバッファアンプである。
【0076】
直列共振回路は、共振周波数でインピーダンスが低くなり(理論的には内部抵抗R1〜R3の値になる)、直列抵抗Rsと共振インピーダンスによって分圧され減衰する。直列抵抗Rs、直列共振回路の数、定数、共振周波数などを適当に選べば、図2に示した特性を得ることができる。インダクタンスLは、オペアンプによるシミュレーテッドインダクタンス回路を使用することにより小型化ができる。
【0077】
以上の構成と図13に示す特性のローパスフィルタを組み合わせて、図3に示す周波数特性を得ることができる。この特性によって、ドラマの主体をなす台詞(人声、特に男声は低音成分が多い)で振動を発生して不自然な感じになる不都合を除くことができ、しかも振動の高域成分の不足をあまり感じさせない実用性能が得られる。これにより、本発明の「映画、DVD用の体感音響装置用信号処理回路」が実現する。
【0078】
発明の実施の形態2.
図5は発明の実施の形態に係る他の回路を示す。これは図4で説明したものを改良し、さらに好ましい振動周波数帯域を実現する回路例である。直列抵抗Rs、複数の直列共振回路よりなる「帯域低減フィルタ」及び増幅器Aは、図4と同じものである。
【0079】
複数の直列共振回路にはアナログスイッチASWが接続され、通常はオンの状態になっている。ローパスフィルタLPF1は図14の急峻な遮断周波数特性で、人声によって振動を発生する周波数成分を除去するものである。この出力を、交流-直流変換回路AC-DCで制御用の直流信号に変換し、アナログスイッチASWを制御する。
【0080】
ここで動作を説明する。入力信号は、直列抵抗RsとローパスフィルタLPF1に入力される。台詞などで進行する通常のシーンでは、ローパスフィルタLPF1は人声基本周波数成分を遮断するので、アナログスイッチASWはオンのままである(交流-直流変換回路AC-DCで直流の制御信号が出力されないとき「オン」となる)。この為、人声基本波成分低減回路部は図2で示す周波数特性で人声基本波成分を低減する。これにより、好ましくない不都合な効果は起こらない。人声基本波のみならず、ザワザワとした感じの背景雑音による不都合も改善される。
【0081】
アクションシーンなど、大迫力大音響のシーンでは、90Hz以下の大きな低音信号が来るので、ローパスフィルタLPF1からは大きな出力があり、交流-直流変換回路AC-DCで直流の制御信号が出力される。この制御信号でアナログスイッチASWはオフになり、直列共振回路が切り離されるので、110Hz〜140Hzの減衰はなくなりフラットな特性になる。
【0082】
これによって、アナログスイッチASWがオフとなる周波数において、図3に示す周波数特性は、図13の周波数特性に一致する。これにより、必要な周波数帯域を持った好ましい体感音響振動信号が出力され、臨場感を高める。
【0083】
図5の場合は、図2に示した110Hz〜140Hzの減衰量を-20dBより大きくした方がより良い効果が得られる。それは、最終的には必要な周波数帯域を持った体感音響振動信号が出力されるので、人声基本波成分の低減量を-20dBより大きくすることによって、人声基本波成分の弁別・低減能力をより高くすることができるからである。
【0084】
図5に示す回路の大きな特長は、図15について説明した、アナログゲートの開閉に伴う不自然感の問題など、まったく感じられないことである。図5に示すものは、図15に示した先行技術を大きく改善することができた。これにより、好ましい「映画、DVD用の体感音響装置用信号処理回路」が実現する。
【0085】
発明の実施の形態3.
図6は、別の方法で人声基本波成分のうち、不都合な周波数成分を低減する、本発明による、もうひとつの周波数特性の例を示す。図6のフィルタの周波数特性は、20Hz〜90Hzまではフラット、90Hz〜110Hzにかけて急峻に減衰させ、110Hz以上の周波数は-20dBに減衰した状態でフラットである。
【0086】
図14に示すフィルタ特性のように遮断するのではなく、不都合を生ずる人声基本波成分以上の周波数領域を低減する。この為、図6による場合も、振動の高域成分の不足をあまり感じさせない実用性能が得られる。
【0087】
体感音響装置は、上述した「ヒトの感覚特性」のため、20〜150Hzくらいを体感振動周波数帯域としているので、最終的には図13に示す、遮断周波数150Hz、ロールオフ オクターブ-18dBのローパスフィルタをかけるので、最終的な周波数特性は図7に示すものとなる。
【0088】
発明の実施の形態3では、図13のような高い遮断特性は必須ではなく、遮断周波数が150Hz、ロールオフがオクターブ当たり-12dBの簡単(安価)なローパスフィルタで十分である。その場合の最終的な周波数特性を図8に示す。
【0089】
この周波数特性を図13及び図14と比較すると、体感音響振動として必要な周波数特性を示す図13に近いものであることが分かる。そして振動の高域成分の不足をあまり感じさせない実用性能が得られる。
【0090】
また、人声の問題のみならず、課題3:「暗騒音(背景雑音)で振動してしまう不都合」も改善される。
【0091】
図9に、図6で示したフィルタ特性を実現させる回路の1例を示す。ローパスフィルタLPF1は図14に示す周波数特性(遮断周波数90Hz、オクターブ当たり-60dBのロールオフで急峻な遮断特性)を持ち、人声によって振動を発生する周波数成分を除去する。
【0092】
A1、A2はユニティゲインの緩衝増幅器(電圧フォロワ)である。Rx10とRx1は抵抗で、10対1の抵抗比を持っている。例えばRx10を47KΩとすればRx1は4.7KΩである。ここで入力端INから信号が来ると、ローパスフィルタLPF1は図14に示す周波数特性で信号を出力する。
【0093】
緩衝増幅器A1は全帯域フラットな周波数特性で信号を出力する。この2つの信号を抵抗Rx10とRx1で合成すると10対1の比率となり、図6で示した20Hz〜90Hzまではフラット、90Hz〜110Hzにかけて急峻に減衰させ、110Hz以上の周波数は-20dBに減衰した状態でフラットになる周波数特性を実現する。
【0094】
110Hz以上の周波数が-20dBに減衰するのは、抵抗Rx10とRx1の抵抗比が10対1だからである。抵抗比を適当に選ぶことで、人声基本波成分の低減量(減衰量)を任意に設定することが可能である。
【0095】
図9の回路と、図13に示す特性のローパスフィルタを組み合わせて、図7に示す周波数特性を得ることができる。あるいは、遮断周波数150Hz、ロールオフ当たりオクターブ-12dB の簡単(安価)なローパスフィルタとの組み合わせで図8に示す周波数特性を得ることができる。
【0096】
この特性によって、ドラマの主体をなす台詞(人声、特に男声は低音成分が多い)で振動を発生し、著しく不自然な感じになる不都合を除き、しかも振動の高域成分の不足をあまり感じさせない実用性能が得られる。これにより、好ましい「映画、DVD用の体感音響装置用信号処理回路」が実現する。
【0097】
発明の実施の形態4.
図10は他の実施形態を示す。これは図9で説明したものを改良したもので、さらに、好ましい振動周波数帯域を実現する回路例である。
【0098】
ローパスフィルタLPF1、ユニティゲインの緩衝増幅器A1、A2、10対1の抵抗比を持つ抵抗Rx10とRx1は図9で示したものと同じである。図9と異なるのは、交流-直流変換回路AC-DCと、アナログスイッチASWが接続されていることである。
【0099】
交流-直流変換回路AC-DCはローパスフィルタLPF1の出力端に接続され、LPF1の出力を制御用の直流信号に変換し、アナログスイッチASWを制御する。
【0100】
アナログスイッチASWのスイッチは抵抗Rx10の両端に接続され、通常はオフの状態になっている。
【0101】
ここで動作を説明する。台詞などで進行する通常のシーンでは、ローパスフィルタLPF1は人声の周波数成分を遮断するのでアナログスイッチはオフのままである。
【0102】
この為、緩衝増幅器A2の出力OUTは図6で示す特性の信号を出力し、人声基本波成分が低減される。これにより、好ましくない不都合な効果は起こらない。人声基本波のみならず、背景雑音による不都合も改善される。
【0103】
アクションシーンなど、大迫力大音響のシーンでは、90Hz以下の大きな低音信号が来るので、ローパスフィルタLPF1からは大きな出力があり、交流-直流変換回路AC-DCで直流の制御信号が出力される。この制御信号でアナログスイッチASWはオンになり、抵抗Rx10を短絡するので、緩衝増幅器A1のフラットな周波数特性の信号が緩衝増幅器A2へ入力され、緩衝増幅器A2の出力OUTにはフラットな周波数特性の信号が出力される。
【0104】
体感音響装置は最終的には図13に示す周波数特性のローパスフィルタを通すので、出力される信号は図13に示す周波数特性そのものとなり、必要な周波数帯域を持った完全な体感音響振動信号が出力され、臨場感を高める。
【0105】
図10の場合は、図6に示した110Hz以上の周波数成分の減衰量を-20dBより大きくした方がより良い効果が得られる。それは、最終的には必要な周波数帯域を持った体感音響振動信号が出力されるので、人声基本波成分の低減量を-20dBより大きくすることによって、人声基本波成分の弁別・低減能力を向上することができるからである。抵抗Rx10を省くことも可能である。
【0106】
しかし、ある程度の抵抗を入れておいた方が、アナログスイッチのオンオフで起こる不自然感その他を軽減できる可能性がある。
【0107】
図10の大きな特長は、図5に比べ、フィルタ回路がLPF1の1個のみで構成され、回路が簡素化されていることである。
【0108】
図5の場合はフィルタ回路がLPF1と、3つの直列共振回路で構成される帯域阻止フィルタの2つのフィルタを必要としている。このことと比較すると、図10の回路が簡素化された構成であることが分かる。
【0109】
図10ではさらに、図15について説明した、アナログゲートの開閉に伴う不自然感の問題などがあまり感じられないことである。図10に示すものは、図15に示した先行技術を改善することができた。こうして、好ましい「映画、DVD用の体感音響装置用信号処理回路」が実現する。
【0110】
発明の実施の形態5.
図11は、発明の実施の形態の「体感音響装置用信号処理回路」を映画・DVDの5.1ch信号に応用した1例を示す。動作原理的には図10を応用したものである。
【0111】
図10と異なる点は、5.1ch信号のL(左)、C(中央)、R(右)、LS(左サラウンド)、RS(右サラウンド)、LFE(低周波音効果・スーパーウーハ)を入力とする混合回路MIXがあること、LFE(低周波音効果)信号を利用し、ローパスフィルタLPF1を省いていることである。その他の回路要素、回路構成は図10と同じである。
【0112】
動作説明は図10と同じで重複するが簡単に触れる。5.1ch信号を混合回路MIXで混合してモノラル信号に変換し、この信号を緩衝増幅器A1の入力信号とする。緩衝増幅器A1以降は図10と同じである。
【0113】
5.1ch信号のLFE信号は、低周波音効果・スーパーウーハ用で、アクションシーンなど、大迫力大音響のシーンで低音域の信号を出力する。これは図10のローパスフィルタLFE1から出力される信号と似ているので、LPF1を省き、LFE信号を利用して、交流-直流変換回路AC-DCと抵抗Rx1への入力信号とする。交流-直流変換回路AC-DCと抵抗Rx1以降は図10と同じであり、動作も同じである。
なお、図11において、交流-直流変換回路AC-DC、アナログスイッチASWを省くこともできる。その場合は図9と同じになり、動作も図9と同じである。
すなわち、5.1chサラウンドシステムの左信号L、中央信号C、右信号R、左サラウンド信号Ls、右サラウンド信号Rs及び低周波音効果信号LFEを入力とし、複数の前記信号を混合する混合回路MIXと、混合回路MIXの出力と低周波音効果信号LFEを予め定められた比率で合成する合成回路(これは緩衝増幅器A1、抵抗Rx1とRx10からなる)と、を備える体感音響装置用信号処理回路も発明の実施の形態であり、これは図9と同じ作用効果を奏するのである。
【0114】
以上の説明では、アナログ回路によるものを例示してきたが、本発明をデジタル技術で置き換えてもよいことは言を待たない。
【0115】
例えば、図7の例はアナログ回路であるが、図5及び図6の特性を与えるデジタル回路(デジタルフィルタ)を用いることもできる。例えば、信号処理回路3aの入力にAD変換器、出力にDA変換器を備え、さらにプロセッサを内蔵することで、図5の特性をデジタルフィルタで実現する。あるいは、混合回路2の入力側にAD変換器を備え、ローパスフィルタLPFの出力にDA変換器を備えるようにしてもよい(他の例についても同じ)。
【0116】
図7の回路の各定数が定まれば、その伝達関数が決まる。当該伝達関数に基づきデジタルフィルタを設計する(例えば、双一次変換でアナログフィルタをデジタルフィルタに変換する)。あるいは、図5の周波数特性から直接デジタルフィルタを設計することができる。
【0117】
アナログフィルタ、デジタルフィルタの設計方法はいずれも公知であるので、その説明は省略する。
【0118】
また、アナログスイッチについてもデジタル回路で実現できる。すなわち、デジタルフィルタの出力が予め定められた閾値を超えた場合などの特定の条件を満たしたときに、デジタルフィルタリングなどの所定の処理をスキップすることで、アナログ回路におけるアナログスイッチと同様の機能を実現することができる。
【0119】
また、AC−DC変換器(整流器)は、入力信号の平均(二乗平均)を求める処理で実現できる。
【0120】
また、2つの信号(電圧)を一定の比率で加算する(合成する)回路は、一方の信号に前記比率に応じた係数を乗じ、その積を他方の信号と加算するという処理で実現できる。増幅器は所定の係数を乗算することで容易に実現することができる。
【0121】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0122】
また、本明細書において、各要素は必ずしも物理的手段を意味するものではなく、各要素の機能が、ソフトウェアによって実現される場合も包含する。さらに、一つの手段の機能が、二つ以上の物理的手段により実現されても、若しくは、二つ以上の手段の機能が、一つの物理的手段により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0123】
1 入力端
2 混合回路(MIX)
3a 映画・DVD用信号処理回路(信号処理回路)
3b 音楽用信号処理回路(信号処理回路)
4 振動増幅器
5 振動変換機
A1,A2 緩衝増幅器
AC−DC 交流直流変換器(整流器)
ASW アナログスイッチ
LPF1 ローパスフィルタ(図14の特性を持つもの)
LPF2 ローパスフィルタ(図13の特性を持つもの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号を受けてこれを処理する信号処理回路と、
体感音響装置用の振動信号を取り出すために、予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備える体感音響装置用信号処理回路において、
前記信号処理回路は、
人声基本波成分のうちで体感音響振動として不都合な周波数成分を低減するために、少なくとも110Hzから140Hzにかけての周波数の信号を予め定められた量だけ低減させる帯域阻止フィルタを備えることを特徴とする体感音響装置用信号処理回路。
【請求項2】
前記信号処理回路は、さらに、
人声によって振動を発生する周波数成分を除去するために、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号から予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタであって、前記ローパスフィルタLPF2よりも低い遮断周波数及びより急峻な遮断特性をもつローパスフィルタLPF1と、
前記ローパスフィルタLPF1の出力を直流に変換する交流−直流変換回路と、
前記交流−直流変換回路の出力に基づき、前記帯域阻止フィルタの接続を切り替えるスイッチ手段とを備え、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されないとき、前記スイッチ手段は、前記帯域阻止フィルタを機能させ、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されたときに前記スイッチ手段は、前記帯域阻止フィルタを機能させない、ことを特徴とする請求項1記載の体感音響装置用信号処理回路。
【請求項3】
左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号を受けてこれを処理する信号処理回路と、
体感音響装置用の振動信号を取り出すために、予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備える体感音響装置用信号処理回路において、
前記信号処理回路は、
体感音響振動として不都合を生じる人声基本波成分の信号を低減するために、少なくとも110Hz以上の周波数の信号を予め定められた量だけ低減させるフィルタ回路を備えることを特徴とする体感音響装置用信号処理回路。
【請求項4】
左信号L−CH及び右信号R−CHの2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号を受けてこれを処理する信号処理回路と、
体感音響装置用の振動信号を取り出すために、予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタLPF2とを備える体感音響装置用信号処理回路において、
前記信号処理回路は、
人声によって振動を発生する周波数成分を除去するために、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号から予め定められた周波数より低い周波数成分を抽出するローパスフィルタであって、前記ローパスフィルタLPF2よりも低い遮断周波数及びより急峻な遮断特性をもつローパスフィルタLPF1と、
前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号と前記ローパスフィルタLPF1の出力を予め定められた比率で合成する合成回路と、を備えることを特徴とする体感音響装置用信号処理回路。
【請求項5】
前記信号処理回路は、さらに、
前記ローパスフィルタLPF1の出力を直流に変換する交流−直流変換回路と、
前記交流−直流変換回路の出力に基づき、前記合成回路における前記合成の比率を制御するスイッチ手段とを備え、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されないとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号と前記ローパスフィルタLPF1の出力を予め定められた第1の比率で合成し、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されたとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号と前記ローパスフィルタLPF1の出力を予め定められた第2の比率で合成し、
前記第2の比率の場合は、前記第1の比率の場合に比べて、前記2チャンネルステレオ信号を混合した信号、又は、モノラル信号の比率が高くなる、ことを特徴とする請求項4記載の体感音響装置用信号処理回路。
【請求項6】
5.1chサラウンドシステムの左信号L、中央信号C、右信号R、左サラウンド信号Ls、右サラウンド信号Rs及び低周波音効果信号LFEを入力とし、複数の前記信号を混合する混合回路と、
前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた比率で合成する合成回路と、
前記低周波音効果信号LFEを直流に変換する交流−直流変換回路と、
前記交流−直流変換回路の出力に基づき、前記合成回路における前記合成の比率を制御するスイッチ手段とを備え、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されないとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた第1の比率で合成し、
前記交流−直流変換回路により直流出力が出力されたとき、前記合成回路は、前記スイッチ手段により、前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた第2の比率で合成し、
前記第2の比率の場合は、前記第1の比率の場合に比べて、前記混合回路の出力の比率が高くなる、ことを特徴とする体感音響装置用信号処理回路。
【請求項7】
5.1chサラウンドシステムの左信号L、中央信号C、右信号R、左サラウンド信号Ls、右サラウンド信号Rs及び低周波音効果信号LFEを入力とし、複数の前記信号を混合する混合回路と、
前記混合回路の出力と前記低周波音効果信号LFEを予め定められた比率で合成する合成回路と、を備える体感音響装置用信号処理回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−239043(P2011−239043A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106812(P2010−106812)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(392014818)株式会社アイ信 (6)
【Fターム(参考)】