説明

体液を分析するシステム及び方法

本発明は、体液32をリザーバ28内に受容する採取要素14と、上記体液32中の分析対象物を検出すべく構成された検査要素18と、上記採取要素14と上記検査要素18との間の流体的接続を確立するための移送デバイス20と、測定期間の間においては上記検査要素18上で分析対象物固有の測定信号を検出する検出ユニット22とを備えて成る、体液を分析するシステムに関する。本発明に依れば、上記移送デバイス20は、測定期間の間において、上記リザーバ28内に配置された上記体液32に対して上記検査要素18を持続的に接触させ、且つ、上記移送デバイス20は、上記測定期間の後、上記検査要素18及び上記採取要素14を相互から物理的に分離させるべく構成されることが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液を分析するシステム又はデバイスであって、体液をリザーバ内に受容する採取要素と、上記体液中の分析対象物を検出すべく設計された検査要素と、上記採取要素と上記検査要素との間の流体的接続を確立するための移送デバイスと、測定期間の間においては上記検査要素上で分析対象物固有の測定信号を検出する検出ユニットとを備えて成る、システム又はデバイスに関する。本発明は付加的に、対応する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析検査区画に対する採取要素の一体的組合せ物が記述された特許文献1からは血糖検査のための同様のシステムが知られており、その場合、採取プロセスの後、流体案内チャネルの変形によるサンプル移送が意図されている。しかし該文献は、サンプル移送に対する境界条件、特に、測定の前及び/又は後において相互から物理的に分離される構成要素に対する境界条件に言及していない。更に、一体化された配置機構の故に、消耗品の提供及び廃棄に関して問題が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/084530号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第1760469号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このことから始まり、本発明の目的は、先行技術において知られる製品及び方法を更に発展させると共に、消耗品の提供/廃棄に関し、且つ、再現可能な測定結果に関しても最適化された構成を特定するに在る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、独立請求項において述べられる特徴の組み合わせが提案される。本発明の好適実施形態及び更なる発展例は、従属請求項から導かれる。
【0006】
本発明は、測定の首尾は決定的に、検査要素が本質的に測定期間の全体に亙り常にサンプル流体を取り込んだままであるという事実に依存する、という認識に基づいている。故に、上記移送デバイスは、上記検査要素の検出領域上に液体柱が維持される様に、測定期間の間において、上記リザーバ内に配置された上記体液に対して上記検査要素を持続的に接触させ、且つ、上記移送デバイスは、上記測定期間の後、上記検査要素及び上記採取要素を相互から物理的に分離させるべく構成されることが提案される。上記検出領域における適切な液体容積によれば、許容差に関して依然として何らかの重要な役割を果たしている層厚の影響なしで、反応プロセス、特に拡散プロセスが均一に進展することが許容される。上記液体柱は、上記検査要素の表面上又は該表面の全体に亙り位置することから、上記採取要素により画成されるスペース内における液体レベルを有する。液体採取及び分析検出のために夫々別体的な要素を使用すると、それらの要素は能動的に接触されるので、反応の開始も厳密に定められ得ることも必然となる。同時に、殺菌及び保存に関しても簡素化された取扱いが予め確実とされる一方、測定後における分離によれば、保存も促進される様に従前の配備に対応する形態で廃棄が行われることが許容される。最後に重要なことを述べると、この構成においては、検査用化学物質による上記採取要素の汚染が、故に、身体接触時の危険性又は親水特性の減少が回避される。
【0007】
好適には、上記リザーバの液体容積は、上記検出領域の全体に亙る上記液体柱が、上記測定期間の持続時間に亙り最小高さを下回らない様に定められる。この点に関し、上記液体柱の上記最小高さは、10μmより大きく、好適には50μmより大きければ好適である。これにより、製造関連の許容差が補償され得ると共に、当該最小高さ未満では拡散プロセスが依然として重要な役割を果たす最小高さが確実に超過される。
【0008】
上記検査要素は基本的に、実際に検出される検出領域よりも大きい。部位依存性を回避するために、検査領域は、測定期間の間において体液が展開領域の全体に亙り2次元的に分布される一方で、上記展開領域のサイズ及び上記リザーバの容積は、上記検出領域の全体に亙り液体柱が維持される様に整合される如く設計されるべきである。
【0009】
この点に関してはまた、上記リザーバは、50〜150μmの深さと、50〜150μmの幅と、1mmより大きく、好適には約2mmの長さとを有することが好適である。必要とされるサンプルの量を同時に制限し乍ら、高信頼性の検出のためには、上記検出領域は0.1mm〜1mmの範囲内のサイズを有することも好適である。
【0010】
測定技術の観点からは、上記分析対象物固有の測定信号は、上記採取要素及び検査要素の間における上記流体的接続を確立した後で、0〜15秒の時間間隔内に検出されれば好適である。これに関連して、上記測定期間の終了は、単位時間当たりの測定信号の変化が所定値に到達したときであると定めることが可能である。
【0011】
特に好適な実施形態は、上記採取要素及び検査要素は、初期状態においては別体的な構成要素として離間され、すなわち、相互から物理的に離間され、且つ、上記流体的接続は、上記採取要素及び/又は上記検査要素を能動的に移動させ乍ら確立され得ることを実現する。これらの構成要素の該初期分離は、簡素化された製造方法及び用途に関して多くの利点をもたらすものでもある。
【0012】
検査用化学物質から独立してサンプルを採取するためには、上記体液は穿刺プロセスにより取り込まれ、且つ、上記検査要素に対する上記採取要素の上記流体的接続は、上記穿刺プロセスの後まで確立されなければ好適である。
【0013】
上記リザーバは好適には、毛細管状構造、特に直線状の毛細管状チャネル又は毛細管状間隙により形成される。更に、上記検出領域は、特に測光式検出のための酵素に基づく乾燥化学層として構成され、且つ、上記採取要素は、少なくとも上記リザーバの領域において親水性被覆を備えれば、好適である。
【0014】
使用に対する利点は、上記採取要素及び上記検査要素は、上記測定期間の後、たとえば単回使用の部品としての別体的な廃棄のために、相互から再び離間され得る、という事実からも帰着する。このことは好適には、最初は分離されていた各構成要素を測定のために所定の接触状態とする移送デバイスであって、該状態は測定の完了後にはもはや必要とされないという移送デバイスにより行われる。
【0015】
上記プロセスに関し、上述の目的は、以下の各段階により達成される:
リザーバ内に体液を収容している採取要素と、上記体液中の分析対象物を検出すべく設計された検査要素との間に流体的接続が確立され、
測定期間の間においては上記検査要素上で分析対象物固有の測定信号が検出され、
上記検査要素は、該検査要素の検出領域上に液体柱が維持される様に、測定期間の間において、上記リザーバ内に配置された上記体液に対して持続的に接触され、
上記測定期間の後、上記検査要素及び上記採取要素は相互から分離される。
【0016】
以下において本発明は、図面中に概略的に示された実施形態に基づき更に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】診断分析システムの簡素化された概略図である。
【図2】測定プロセスの間における上記分析システムの採取要素及び検査要素の種々の相対位置の断面図である。
【図3】時間の関数として測定信号を示す図である。
【図4】比較例の測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示された分析システム10は、血糖検査を行う携帯式のデバイスの形態にて、体液(血液又は組織液)のための複数の採取要素14を備えた担体テープ12と、対応する個数の検査要素18を保持する別体的な担体テープ16と、サンプル移送デバイス20と、検出ユニット22とを備えて成る。採取要素14及び検査要素18は単回使用のために、テープ搬送により、テープ偏向器24において、その都度提供され得る。この場合にサンプル移送デバイス20は、有効な検査要素18が測定期間の間において常に体液を取り込んだままである如く構成される。
【0019】
採取要素14及び検査要素18が夫々自身上に配置された担体テープ12、16は、それらが別体的に保存かつ廃棄され得る様に、夫々のテープ・カセットの形態で提供され得る。たとえば積層形態などの、別体的な保存の他の形態も想起可能である。別体的な配置によれば、たとえば高エネルギの放射線照射により、検査要素18から独立して採取要素14が殺菌され得る。更に、別体的である材料の緊密な包装によれば、品質に対する不都合なしで、更に長期の保存も保証され得る。
【0020】
採取要素14は、現場で直接的に体液を受容すべく設計され得る。この目的のために、採取要素14は各々、皮膚切開のための尖端部26と、長手方向に半開する毛細管28の形態で体液を受容するためのリザーバとを有し得る。基本的に、上記採取要素は中間担体として、体液を間接的に取り込むことも可能である。
【0021】
各検査要素18は、検査領域として、光学的なグルコース検出のために酵素に基づく乾燥化学層30を備えている。色変化に基づく検出は、たとえば、特許文献2に更に詳細に記述された如き測光式検出ユニット22により、透明構造を介して行われ得る。
【0022】
図2は、対として配置された上記採取要素及び検査要素を使用する場合における3つの異なるプロセス段階を示している。
【0023】
図2aに係る初期状態において、採取要素14は、検査要素18から物理的に所定距離に分離される。毛細管28は、体液32により充填される。流体の吸収を促進するために、採取要素14の表面は、少なくとも毛細管28の領域において親水性被覆34を備えることが可能である。特別の目的に対する毛細管28の典型的な寸法は、幅bが約120μm、深さtが約80μm、及び、長さが約2mmである。
【0024】
図2bに係る次の段階においては、測定値が記録される。この目的のために、図1において二重矢印36により記号化される移送デバイス20のアクチュエータにより、採取要素14と検査要素18との間の距離を減少し乍ら、これらの要素の間にはサンプル移送のために流体的接続が確立される。このことは、毛細管28の開放側が乾燥化学層30上に載置され、且つ、体液32を取り込んだ領域は測光的な測定のために約0.2mmの表面積を有する検出領域38を形成する如く、行われる。測定は、透明な担体テープ16を通して後側に採取要素14が接触した状態で行われる。この目的のために、検出ユニット22は、反射率測定的な配置で光源40及び光受信器42を有している。
【0025】
上記の接触状態を維持すると、毛細管28により境界決定される液体柱44が、測定期間の間において検出領域38上に維持されることが確実とされる。故に液体柱44は、検査要素18の湿潤表面の上方において採取要素14により画成されるスペース内に配置される。これに関連して、毛細管28の寸法は、光学的に走査される検出領域38の面積の少なくとも全体に亙り、約50μmの最小高さを液体柱44が下回らない様に選択される。これに関連して、リザーバとしての適切な毛細管の容積は、乾燥化学層30が、体液32を2次元的に展開領域46内で分布させる展開表面を備える、という事実も考慮している。
【0026】
図2cに示された如く、移送デバイス20は、測定の後でアクチュエータ36により再び採取要素14及び検査要素18を能動的に分離する様にも設計される。これにより、それらは初期状況に従い別体的に廃棄され得る。示された上記実施形態において、このことは別体的なテープ12、16の形態で実施され、再格納が相当に簡素化される。故にユーザはデバイス10内へと消耗品を挿入し得ることで、複雑な操作なしで複数回の検査が実施され得る。
【0027】
図3は、検出ユニット22により記録された信号の時間的推移を示している。測定期間は、分析対象物(グルコース)の反応に基づく信号の時間的推移を観測し得るという少なくともひとつの時間枠を含んでいる。このことは、反応速度を分析するために、又は、濃度値を直接的に決定するために実施され得る。
【0028】
検出は、分析対象物に特有な反応に依る検出領域38の色変化に基づいており、これは反射率におけるグレー値の時間的推移ΔIとして記録される。分離された状態において最初は空試験値又はゼロ値が観測されるが、図2bに係る接触時に、信号には分析対象物に特有の減衰が生じ、これは最終的にはグルコース濃度に対する特性最終値に近づく。分析対象物に特有な信号が記録されるという上記測定期間の持続時間は、単位時間当たりの信号変化に対する所定スレッショルド値により定義され得る。たとえば測定は、信号が3%/秒未満で変化するときには、中断され得る。その場合、測定の持続時間は通常は8秒未満である。
【0029】
比較実験においては、上記毛細管を種々のグルコース濃度の検査流体で充填した後に、上記採取要素と検査要素との間における本発明に係る長い持続時間の接触により測定が実施され、且つ、短時間の接触(約1秒)による測定が実施された。図4は、実験結果のばらつきを、グルコース濃度の偏差の係数の形態で示している。これは、短時間接触に対する7%の平均偏差と比較して、長く持続する接触に対する4.2%という相当に低い平均偏差が在ることを示している。故に反応プロセスは、液体柱32の維持により、更に再現可能的に進展する。液体層の比較的に大きい最小高さによれば、拡散プロセスは実質的に層の高さから独立して進展することが確実とされるが、或る意味では流体を乾燥化学層30上に打ち付ける形態である短時間の接触の場合、上記プロセスには局所的な偏差が在り得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液(32)をリザーバ(28)内に受容する採取要素(14)と、
前記体液(32)中の分析対象物を検出すべく構成された検査要素(18)と、
前記採取要素(14)と前記検査要素(18)との間の流体的接続を確立するための移送デバイス(20)と、
測定期間の間においては前記検査要素(18)上で分析対象物固有の測定信号を検出する検出ユニット(22)とを具備する体液を分析するシステムにおいて、
前記移送デバイス(20)が、前記検査要素(18)の検出領域(38)上に液体柱(44)が維持される様に、前記測定期間の間において、前記リザーバ(28)内に配置された前記体液(32)に対して前記検査要素(18)を持続的に接触させ、且つ、
前記移送デバイス(20)が、前記測定期間の後、前記検査要素(18)及び前記採取要素(14)を相互から物理的に分離させるべく構成されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記リザーバ(28)の液体容積は、前記検出領域(38)に亙る前記液体柱(44)が、前記測定期間の持続時間に亙り最小高さを下回らない様に定められることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記液体柱(44)の前記最小高さは、10μmより大きく、好適には50μmより大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記検査要素(18)が、前記測定期間の間において前記体液(32)を展開領域(46)に亙り2次元的に分布させるべく構成され、且つ、
前記展開領域(46)のサイズ及び前記リザーバ(28)の容積が、前記測定期間の間において前記検出領域(38)に亙り液体柱(44)が維持されるように整合されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記リザーバ(28)が、50〜150μmの深さと、50〜150μmの幅と、1mmより大きく、好適には約2mmの長さとを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記検出領域(38)は0.1mm〜1mmの範囲内のサイズを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記分析対象物固有の測定信号が、前記採取要素及び検査要素(14、18)の間における前記流体的接続を確立した後で、0〜15秒の時間間隔内に検出されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記測定期間の終了が、単位時間当たりの測定信号の変化が予め定められた値に到達したときであると定められることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記採取要素(14)及び検査要素(18)が、初期状態においては別体的な構成要素として離間され、且つ、
前記流体的接続が、前記採取要素(14)及び/又は前記検査要素(18)を能動的に移動させ乍ら確立され得ることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記体液が穿刺プロセスにより取り込まれ、且つ、
前記検査要素(18)に対する前記採取要素(14)の前記流体的接続が、前記穿刺プロセスの後まで確立されないことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記リザーバ(28)が、好適には片面にて開放される毛細管状構造、特に直線状の毛細管状チャネル又は毛細管状間隙により形成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記検出領域(38)が、特に測光式検出のための酵素に基づく乾燥化学層(30)により形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記採取要素(14)が、少なくとも前記リザーバ(28)の領域において親水性被覆(34)を備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記採取要素(14)及び前記検査要素(18)が、前記測定期間の後、好適には前記移送デバイス(20)によって相互から再び離間され得ることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
a)体液(32)をリザーバ(28)内に受容している採取要素(14)と、前記体液(32)中の分析対象物を検出すべく構成された検査要素(18)との間に流体的接続が確立され、
b)測定期間の間においては前記検査要素(18)上で分析対象物固有の測定信号が検出される、
体液を分析する方法において、
c)前記検査要素(18)が、該検査要素(18)の検出領域(38)上に液体柱(44)が維持される様に、前記測定期間の間において、前記リザーバ(28)内に配置された前記体液(32)に対して持続的に接触され、且つ、
d)前記測定期間の後、前記検査要素(18)及び前記採取要素(14)は相互から分離されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−515028(P2012−515028A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545730(P2011−545730)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050395
【国際公開番号】WO2010/081848
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】