説明

体液中に含まれる分析物を分析するための分析システム及び方法

【課題】体液サンプルを分析するための分析システムであって、制御可能な検査エレメントを有し、コンパクトかつ簡便な構造で利便性の高い分析システムを提供する。
【解決手段】サンプル供給口12及び測定ゾーン19を含むサンプル分析チャンネル16を有する検査エレメント3、及び検査エレメント3内に液体を投入するための投入ステーション9を内部に配置する分析機器2を含む分析システム。体液サンプルとサンプル分析チャンネル16に存在する試薬系との反応が測定ゾーン19における分析結果に特有な測定変量の変化をもたらすように構成される。検査エレメント3は、フラッシング液供給口13、及びフラッシング液回収チャンバー31を含み、これらを流体連通するフラッシング液チャンネル32及びサンプル分析チャンネル16は、フラッシング液が測定ゾーン19に到達しないように離れていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析システム及びこのシステムを用いて実施可能な方法に関する。前記システム及び方法は、医療目的のために体液サンプル中に含まれる分析物を分析するのに使用される。
【背景技術】
【0002】
医学的分析の分野において2つのクラスの分析システムが知られている。
【0003】
一つは、本質的に「湿式試薬」を用いて作動する分析システムであり、分析を実行する上で必要とされるステップ(例えば、サンプル及び試薬を試薬容器中に投入すること、混合すること、そして所望の分析結果に関して特徴的な測定変量を測定し、分析すること)が、関与する要素の必要とされる多様な動きを可能にする技術的に複雑な大型のライン操作型分析機器を用いて実行される。このクラスの分析システムは、とりわけ大きな医学分析研究所内で使用される。
【0004】
もう一つは、「乾式試薬」を用いて作動する分析システムであり、これらの試薬は通常検査エレメントと一体化されており、例えば、「テストストリップ」として実施することができる。これらのシステムを使用する場合、液体サンプルは、検査エレメント内の試薬を溶解し、サンプルと試薬の反応によって検査エレメント上で測定できる測定変量の変化がもたらされる。中でも、光学的に分析可能な(特に比色分析の)分析システムが一般的であり、このシステムでは測定変量が色の変化又は他の光学的に測定可能な変量となっている。電気化学システムも一般的で、このシステムでは分析用の電気的測定変量特性、特に規定電圧を印加したときの電流が、測定ゾーン内に備えられた電極を用いて、検査エレメントの測定ゾーンにおいて測定され得る。
【0005】
「乾式化学」分析システムの分析機器は、通常コンパクトで携帯可能であり、かつ電池稼動式である。本システムは、分散的な分析用(例えば、病棟における臨床研修医の使用時におけるような)、及び患者自身による医学分析パラメータのモニタリング(特に、糖尿病患者による血液グルコース分析)中のいわゆる「家庭モニタリング」において使用される。
【0006】
湿式分析システムにおいて、高性能分析機器は、より複雑な多段階反応シーケンス(「試験プロトコル」)の実行を可能にする。例えば、免疫化学的分析は、しばしば「結合/遊離の分離」(以降、「b/f分離」とする)、すなわち結合相と遊離相の分離が必要な多段階反応シーケンスを要する。一の試験プロトコルによれば、例えば、まずプローブを分析物に特異的な結合試薬を含む多孔性固体マトリクスに通して輸送することができる。続いて、標識試薬を、多孔性マトリクスに通して流し、結合した分析物を標識して、その検出を可能にすることができる。正確な分析を行うためには、未結合の標識試薬が完全に除去される洗浄ステップを事前に行う必要がある。非常に多くの試験プロトコルが多種多様な分析物の測定用に知られており、それらは種々の方法において異なるが、複数の反応ステップを有する複雑な操作を必要とすること、特にb/f分離が恐らくは必要であるという点において共通している。
【0007】
テストストリップ及び類似の分析エレメントは、一般的に多段階反応シーケンスを制御できない。乾燥形態で試薬を供給することに加えて全血から赤血球を分離するといったような別の機能が可能な、テストストリップに類似の検査エレメントが知られている。しかしながら、それらは、通常、個々の反応段階の時系列を正確に制御することができない。湿式化学研究システムは、これらの機能を有するが、あまりにも大型で、非常にコストがかかり、また多くの適用上の操作が大変複雑である。
【0008】
これらのギャップを埋めるために、外部から制御される(すなわち、検査エレメントの外の要素を用いた)少なくとも一つの液体輸送ステップが進行するように実行される検査エレメント(「制御可能な検査エレメント」)を用いて作動する分析システムが示唆されている。外部制御は、圧力差(過圧又は低圧)の適用、又は作用力の変化(例えば、検査エレメントの位置関係の変化による又は加速力による重力の作用方向の変化)に基づくことができる。特に外部制御は、しばしば回転する検査エレメントに回転速度の関数として作用する遠心力によって実行される。
【0009】
制御可能な検査エレメントは、通常、寸法安定性のプラスチック材からなるハウジング、及びハウジングにより包囲されたサンプル分析チャンネル(流路)(しばしば連続する複数のチャンネルセクション、及びチャンネルセクションと比較して拡張されたチャンバーを含む)を有している。チャンネルセクション及びチャンバーを有するサンプル分析チャンネルの構造は、プラスチック部品の成型によって画定される。これは、射出成型技術又はホットスタンピングによって作製することができる。しかし、リソグラフィー法によって作製される微細構造が使用される場合が近年増大している。
【0010】
制御可能な検査エレメントを有する分析システムは公知であり、例えば特許文献1〜5に記載されている。
【0011】
制御可能な検査エレメントを有する分析システムは、今まで大きな実験室系を用いてのみ実行できていた検査の小型化を可能にする。さらに、このようなシステムは、一のサンプルの類似分析及び/又は異なるサンプルの同一分析の並列処理のために同一の構造体を反復して適用することによって手順を並列化することができる。さらに、通常検査エレメントは確立された製造方法を用いて製造できるという利点や、公知の分析方法を用いて測定及び分析することもできるという利点がある。また、公知の方法及び製品を、このような検査エレメントの化学的及び生化学的構成要素に使用することもできる。
【特許文献1】米国特許第4,456,581号
【特許文献2】米国特許第4,580,896号
【特許文献3】米国特許第4,814,144号
【特許文献4】米国特許第6,030,581号
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0265171号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの利点にもかかわらず、さらなる改善の必要性がある。特に、制御可能な検査エレメントを用いて作動する分析システムは、未だに非常に大きい。考えられ得る最もコンパクトな寸法は、目的とする多くの適用に関して実施上大きな意義をもつ。
【0013】
これを踏まえて、本発明は、制御可能な検査エレメントを有し、コンパクトかつ簡便な構造によって及び利便性の高さによって区別される分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、特許請求の範囲に記載の特徴を有する体液サンプル中に含まれる分析物について体液サンプルを分析するための分析システム、並びに特許請求の範囲に記載の特徴を有する検査エレメント及び特許請求の範囲に記載の特徴を有する方法によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
特許請求の範囲において、本発明の主題の構成要素をいずれの場合も複数で提供することができる。例えば、検査エレメントは、一以上のサンプル分析チャンネルを有することが可能であり、また分析機器は、一以上の投入ステーションを有することができる。
【0016】
本発明の分析システムは、検査エレメント、並びに投入ステーション及び測定ステーションを有する分析機器を含む。検査エレメントは、ハウジング、及びハウジングにより包囲された(少なくとも)一つのサンプル分析チャンネルを有する。サンプル分析チャンネルは、その開始部にサンプル供給口を、その終端部に一以上の測定ゾーンを含む。
【0017】
液体は、分析機器の投入ステーションを用いて検査エレメント内に投入される。投入ステーションは、通常、ピストンポンプのような投入ポンプ、及び投入針と呼ばれる液体を注入するためのチューブを有する。前記液体は、具体的には反応を実行する上で必要な液体、例えば、試薬溶液、洗浄溶液、希釈緩衝液(バッファ)、又はバッファ溶液等であることができる。測定すべき体液サンプルも、投入ステーションを用いて投入することができるが、手動で、例えば、手動のピペット又はシリンジを用いて供給することが好ましい。
【0018】
液体は、検査エレメントのサンプル供給口の中に、又は検査エレメントの一以上の他の(追加の)供給口の中に分注することができる。分析結果の測定変量特性は、測定ステーションを用いて検査エレメントの測定ゾーンで測定される。ここでは、検査エレメントが測定位置に位置づけられている。測定位置は、検査エレメントのサンプル分注位置と一致することが好ましいが、特定の適用においては、サンプル分注位置と測定位置が異なる場合、検査エレメントは両位置間を移動することもできる。
【0019】
検査エレメントは、サンプル供給口を通して供給された体液サンプルがサンプル分析チャンネルに供給されている試薬系と反応するように実行される。体液サンプルとは、血液のような身体の液体成分、又は(ヒトの)身体の構成要素(例えば、組織片、大便、又は痰)を溶解した液体サンプルである。体液サンプルと試薬系の反応は、分析結果に関する測定変量特性の変化をもたらす。
【0020】
検査エレメントは、サンプル供給口から分離されたフラッシング液供給口及びフラッシング液回収チャンバーを含んでおり、これらはフラッシング液チャンネルを介して互いに流体連通している。フラッシング液チャンネル及びサンプル分析チャンネルは、フラッシング液チャンネルを通って流れる液体がサンプル分析チャンネルの測定ゾーンに到達しないようにお互いに分離されている。
【0021】
液体を投入ステーションから検査エレメントの分注口内に投入する前に、フラッシング液を投入ステーション、特にその投入針に導通させることが一般的である。これにより、存在する可能性があるいかなる空気も逃がし、その後の投入で不十分な投入が生じないことを確実にする。特に、長い期間使用していない場合、気泡が形成され得るし、乾燥によって塩のような固体粒子も蓄積され得る。フラッシングは、清浄化作用も有している。このタイプの予備フラッシングは、「プライミング」という専門用語で呼ばれ、医療診断において、あらゆる形態の液体供給(分注、ピペッティング、又は希釈)で適用される。
【0022】
フラッシング液は、分析機器の貯留容器から取り出され、投入ユニットに供給され、分析機器のフラッシング液容器に回収された後、廃棄される。機器付属の回収容器にフラッシング液を廃棄することができるデザインは、例えば米国特許第4,713,974号から公知である。
【0023】
フラッシング液が分析機器の回収容器の中に廃棄されずに、検査エレメントの特別なチャンネル構造(これ以降「プライミング構造」とも呼ぶ)中に直接分注される場合には、分析システムをより著しくコンパクトにかつ簡便に構成できることが、本発明によって明らかにされた。
【0024】
フラッシング液(プライミング液とも呼ぶこともできる)がこれまでいつも機器付属(装置付属)の回収容器の中に回収されていたという事実は、プライミングが、検査エレメントを用いて実行される分析ステップとは完全に独立した機器機能であると解釈される。それ故、検査エレメントは、(本来のの目的とは対応しない)遊離した(alienated)方法で使用される。本発明において、分析システムのこの遊離された使用が可能かつ有利であることが確立された。
【0025】
機器内における回収容器用の空間が必要なくなり、またフラッシング液を廃棄容器内へ輸送するための流体構造又は流体ラインを提供する必要がなくなる結果、分析機器の全体のサイズが減少する。よって、空間が省かれるだけでなく、分析機器の製造時及び使用中のコストが節約される。
【0026】
さらに、オーバーフローを防止するために回収容器の満杯レベルをモニターする手間が省かれる。従って、回収容器の限界量を超えた場合にそれ以後の分析システムを用いる工程を中止させるモニター用の電子機器を省くことができる。一方で、機器付属の回収容器がなくなる結果、ユーザーが回収容器を空にするという手間が省かれるので、ユーザーの使用快適性が増大する。それどころか、検査エレメントに配置された回収容器は、使用済み検査エレメントの処分とともに自動的に廃棄される。
【0027】
検査エレメント中にプライミング構造を有する本発明の分析システムの別の利点は、分析機器の回収容器中の古くなる廃棄物量に起因する問題が回避されることである。
【0028】
用語「フラッシング液」は、投入ステーション、特にその針部を洗い流すことのできるあらゆる液体と解される。フラッシング液は、さらに、他の目的を果すこともできる。フラッシング液は同時に洗浄液又はバッファ液となることができ、それを使用して、例えば、試薬を溶解し、過剰な反応関与物を洗い流し、又はサンプルを希釈することができる。測定すべき体液、又は他の液体分析サンプル(少なくともその一部)も、フラッシング液として使用することができる。
【0029】
フラッシング液供給口、フラッシング液回収チャンバー、及びそれらを連結するフラッシング液チャンネルは、プライミング構造という用語に包含される。プライミング構造は、さらなる要素、特にフラッシング液回収チャンバーに通気するためのバルブを付加的に含むことができる。本発明の検査エレメントのプライミング構造は、これまでに分析機器で提供された回収チャンバーの容量よりも著しく少ない容量のフラッシング液回収チャンバーを含んでいる。これは検査エレメントのフラッシング液回収チャンバーが、より少ないフラッシング液量、特に一回の検査分の量を提供するだけでよいからである。フラッシング液回収チャンバーは、プライミング手順一回分の容量だけを有するように実行されることが好ましい。本容量は、通常、数マイクロリットル(例えば、20〜30μl)である。フラッシング液の量は、投入針及び投入ポンプから気泡を除去するのに十分な程度の量である。
【0030】
あるいは、フラッシング液回収チャンバーの容量を、1回分のフラッシングに必要とされるフラッシング液の容量よりも大きくすることもできる。複数回のプライミング手順が行われる場合、検査エレメントが複数の分析に使用され得る場合、例えば、フラッシング手順が2つの異なるサンプル間で行われる場合、又は、複数の同一サンプルを1つの検査エレメントを用いて分析し、かつサンプル液の混合を回避しなければならない場合には、チャンバー容量は、通常、拡張される。
【0031】
フラッシング液チャンネル及びサンプル分析チャンネルは、フラッシング液による分析障害を避けるように、お互いに分離されている。実際、サンプル供給口からサンプル分析チャンネルを通って所定の流れ方向で測定ゾーンへ流れる液体は、その液体が測定ゾーンの中に流れ込む前にフラッシング液チャンネルに達することはない。しかしながら、好ましい実施形態では、サンプル分析チャンネルを通って流れる液体は、測定ゾーンを通過した後、フラッシング液チャンネル又はフラッシング液回収チャンバーに達することができる。
【0032】
本発明のの分析システムの好ましい実施形態において、検査エレメントのフラッシング液回収チャンバーは、多孔質吸収マトリックスを含む。フラッシング液は、生じる毛管作用によってフラッシング液チャンネルから吸い取られる。このようにして、フラッシング液回収チャンバーにおけるフラッシング液の吸収が確実になる。
【0033】
光学的測定は、好ましくは検査エレメントの測定ゾーンで実行される。測定ゾーンでの分析物の測定には公知の測定方法が用いられる。光学的測定は、蛍光測定が特に好ましい。
【0034】
好ましい典型的な実施形態を添付の図を用いて説明する。図示された技術的特徴は、個別に、又は組み合わせて用いて、本発明の好ましいデザインを提供することが可能である。図示された典型的な実施形態は、特許請求の範囲で定義された主題の一般性を何ら制限するものではない。本発明は、免疫サンドウィッチアッセイに、及び他の分析、特に免疫アッセイの他のタイプ又は特異的結合分析の他のタイプにも適用することができる。
【0035】
図1は、本発明の分析システム1を示す。本システムは、分析機器2及び制御可能な(使い捨ての)検査エレメント3を含む。
【0036】
分析機器2は、検査エレメント3を回転軸の周囲に動かすための駆動部4を有する。検査エレメント3の中のサンプル液及び他の液体の輸送は、検査エレメント3の回転運動によって外部から制御される。駆動部の回転方向及び回転速度は、駆動部4を駆動制御部5によって制御することで調節される。このようにして、検査エレメント3の特定のセクションにおける液体の流速、流れ方向、及び滞留時間も決定することができる。
【0037】
分析機器2は、検査エレメント3の測定ゾーンにおけるサンプル液の分析結果について特有の測定変量を測定するための光学測定装置7及び分析ユニット8を含む、測定ステーション6を有する。
【0038】
光学測定装置7は、局所的分解検出を用いる蛍光測定用測定装置を含むことが好ましい。二次元分析光学の場合、LED又はレーザーを使用して、検査エレメント3の測定ゾーンを照射し、及び/又は検査ゾーン中の光学的に検出可能な標識を励起する。検出は、CCD光学器又はCMOS光学器を介して行われる。もちろん、先行技術で公知の他の光学測定方法を適用して、特有の測定変量を測定することもできる。
【0039】
投入ステーション9は、検査エレメント3に液体を注ぐための投入針10を有する。投入ステーション9は、本目的のために、注入されるべき液体を保管する一以上の液体貯留槽(図示せず)を含むことができる。サンプル液、又は洗浄溶液若しくは洗浄バッファのような他の液体は、検査エレメント3の供給口11の中に、投入ステーション9を用いて投入される。図1の検査エレメント3では、供給口11は、検査エレメント3におけるサンプル分析チャンネル(図示せず)のサンプル供給口12となる。
【0040】
単純かつ小型の分析システム1の場合、測定されるべき液体サンプルは、ユーザーによって手動でピペットを用いて、好ましくは回転軸に近接したサンプル供給口12の中に導入される。体液サンプルをサンプル供給口に投入するため、検査エレメント3は、分析機器2のサンプル分注位置に位置付けられる。この場合、投入ステーション9は、供給口11において洗浄溶液を供給するためのみに使用される。
【0041】
投入ステーション9を用いて、できるかぎり最も正確な容量を投入するため、フラッシング液を用いて準備段階で投入ステーション9及び投入針10を洗い流しておく必要がある。投入針10を通って流れたフラッシング液は、検査エレメント3のフラッシング液供給口13中に入れられる。検査エレメント3は、フラッシング液供給口13が投入針10の下に位置する投入位置に位置付けられる。この事前プライミングは、投入ステーション9又は投入針10に存在する可能性がある気泡によって、投入されるべき液体が十分に投入されないことを防止する。
【0042】
フラッシング又はプライミング液は、フラッシング液供給口13を介して、図3及び4で示すような、隣接するフラッシング液チャンネル32、及びフラッシング液が廃棄されるフラッシング液回収チャンバー31中に流れる。
【0043】
この事前のフラッシング手順後、検査エレメント3は、投入針10を介して流れ込むサンプル液がサンプル供給口12内に分注されるように、サンプル分注位置に回転される。サンプル液は、サンプル分析チャンネル16のサンプル供給口12を通って、分析結果の測定変量特性の測定が行われる測定ゾーンへと流れる。
【0044】
図2は、検査エレメント3、及び2つの投入ステーション9a、9bを有する分析機器2を有する分析システム1の他の実施形態の詳細を示す。投入ステーション9a、9bは、それぞれ投入針10a、10bを有している。
【0045】
検査エレメント3は、サンプル供給口12、フラッシング液を受け取るためのフラッシング液供給口13、及び分離した洗浄溶液供給口14を有する。全ての口が(回転軸に近位で)検査エレメント3のある1つの軌道上に位置付けられるように、少なくともフラッシング液供給口13及び洗浄溶液供給口14の検査エレメント3の回転軸からの距離は等しく、好ましくは3つの口(図示するような)の検査エレメント3の回転軸からの距離が等しい。
【0046】
本実施形態において、サンプル液は、投入針10aを用いてサンプル供給口12の中に分注され、洗浄溶液は、投入針10bを用いて洗浄溶液供給口14の中に分注される。気泡が投入針10a、10bから抜けて、針が同時に清浄化されるように、投入針10a、10bの双方を、フラッシング液を用いて最初の投入前に洗い流す。フラッシング液は、いずれの場合もフラッシング後にフラッシング液供給口13へ流れる。好都合にも投入針10a、10bは動く必要がない。全ての供給口が同一軌道上にあるからである。(好ましくは検査エレメント3の中心点又は中心を通って伸びる)回転軸の周囲での検査エレメント3の回転は、それぞれの場合に洗い流される投入針10a、10bの下にフラッシング液供給口13を位置付ける。フラッシング液として洗浄溶液を用いることができ、フラッシングに使用された量の洗浄溶液は、その後(フラッシング液がその他のものであるときと同じ方法で)プライミング構造中に廃棄される。
【0047】
図3及び4は、いずれも検査エレメント3の2つの実施形態に関する概略図を示している。2つの検査エレメント3はいずれも、分析機器2中に保持するための基材及び中心孔(駆動孔として用いられる)を有するハウジング15を含む。基材に加えて、円盤型の検査エレメントは、通常、カバー層(明瞭にするため図示されていない)も含む。カバー層も、基本的に流体構造を有していることができるが、通常は液体を供給するための開口又はバルブ口のみを有する。もちろん、中心孔に代えてシャフトを提供することもでき、その回りを検査エレメントが回転する。回転軸は、検査エレメント内部又は外部に位置づけることができる。
【0048】
検査エレメント3のハウジング15は、流体若しくは微小流体構造、又はクロマトグラフ構造を有する。サンプル液、特に全血は、サンプル供給口12を介して検査エレメント3に供給される。サンプル分析チャンネル16は、流れ方向において、その始端部にサンプル供給口12を、またその終端部に測定ゾーン19を含む。液体サンプルが所定の流れ方向で測定ゾーン19に流れるチャンネルセクション17は、サンプル供給口12と測定ゾーン19との間に伸びている。検査エレメント3における液体輸送は、毛管力及び/又は遠心力によって起こる。
【0049】
図4においてサンプル分析チャンネル16のサンプル供給口12は、流れ方向で開口12の背後に位置する貯留槽36に開口している。液体サンプルは、チャンネルセクション17に流れる前に貯留槽36の中に流れる。液体サンプルの流れ及び/又は流速は、サンプル分析チャンネル16の流体構造を適当に選択することよって操作できる。例えば、チャンネルセクション17,18、21の大きさを、毛管力の発生を促進するように選択することができる。さらに、チャンネルセクションの表面を親水性化することができる。サンプル分析チャンネル16における個々のチャンネルセクションのさらなる流れ又は充填を、外力、好ましくは遠心力の作用の後にのみ可能にすることもできる。
【0050】
サンプル分析チャンネル16の異なるセクションは、異なった寸法にする、及び/又は異なる機能を提供することができる。例えば、第1チャンネルセクション18は、体液サンプルと反応する試薬系を含むことができる。この試薬系の少なくとも1つの試薬は、好ましくは乾燥又は凍結乾燥形態で提供される。検査エレメント3に投入する又はピペッティングすることによって供給される少なくとも1つの試薬を液体形態で提供することも可能である。検査エレメントは、この目的のために試薬供給口を有することができる。例えば、液体試薬は、プライミングを(前もって)行った同一の投入システムを用いて適用することができる。
【0051】
チャンネルセクション17は、第1チャンネルセクション18、毛管停止部20、及び第2チャンネルセクション21を含む。毛管停止部20は、幾何学的バルブ又は疎水性のバリアとして実施することができる。毛管停止部20に隣接する第2チャンネルセクション21は、毛管停止部20によって計り取られたサンプル量を誘導する。毛管停止部20を通って流れる量は、検査エレメント3の回転速度を利用した遠心力によって制御される。
【0052】
適当な回転速度で、赤血球細胞又は他の細胞サンプル成分の分離が第2チャンネルセクション21で開始される。チャンネルセクション17に含まれ、好ましくは乾燥形態で提供される試薬は、サンプル液が第2チャンネルセクション21へ流入する時には、既に溶解されている。サンプル−試薬の混合物の成分は、チャンバーとして寄与する回収ゾーン22(血漿回収ゾーン)及び23(赤血球回収ゾーン)で捕捉される。
【0053】
回収ゾーン22に隣接する測定ゾーン19は、好ましくは多孔質吸収マトリックスを含む測定チャンバー24を含む。排水チャンバー25は、流れ方向において測定チャンバー24の後に位置する。反応関与物、サンプル成分、及び/又は試薬成分は、測定チャンバー24を通り抜けた後に排水チャンバー25の中に廃棄される。
【0054】
検査エレメント3は、フラッシング液供給口13、フラッシング液回収チャンバー31、及びそれらの間に位置するフラッシング液チャンネル32を含むプライミング構造30を有する。前記チャンバーを通気するためのバルブ33(通気チャンネル34及び通気口35を含む)が、フラッシング液回収チャンバー31の終端部に備えられている。
【0055】
図3の例示的実施形態は、プライミング構造30が検査エレメント3の他の全てのチャンネル構造から分離されていることを明確に示している。また、フラッシング液回収チャンバー31と排水チャンバー25は、互いに分離されており、流体連通していない(流体連結がない)。排水チャンバー25は、測定ゾーン19を通って流れて来た液体を受取るように測定ゾーン19と流体連通していることが好ましい。
【0056】
さらに、洗浄溶液供給口14が、図3及び図4の検査エレメントの両実施形態で示されている。洗浄溶液チャンネル26は、洗浄溶液供給口14と結合している。洗浄溶液チャンネル26は、好ましくは洗浄溶液供給口14をその開始部に含み、洗浄溶液が洗浄溶液チャンネル26を通して測定チャンバー24に吸引されるように、その終端部で測定ゾーン19と流体連通していることが好ましい。測定チャンバー24のマトリックスが洗浄され、あらゆる過剰な干渉反応関与物が除かれる。その後、洗浄溶液も、排水チャンバー25に到達する。
【0057】
図4の実施形態において、検査エレメント3は二重機能チャンバー27を有している。二重機能チャンバー27は、好ましくはフラッシング液チャンネル32及び測定ゾーン19と流体連通しており、フラッシング液回収チャンバー31にも、また排水チャンバー25にもなるようになっている。フラッシング液供給口13へ流入するフラッシング液は、フラッシング液チャンネル32を通って、その後、フラッシング液回収チャンバー31として使用される二重機能チャンバー27に導かれる。サンプル液及び/若しくはサンプル液−試薬混合物又は洗浄液もまた、それぞれ測定ゾーン19を通って流れ、その後、排水チャンバー25の機能を担う二重機能チャンバー27中に廃棄される。
【0058】
二重機能チャンバー27は、第1流入口28及び第2流入口29を有している。液体は、フラッシング液チャンネル32から第1流入口28を通って二重機能チャンバー27へと流れ出す。測定ゾーン19から流れ出る液体は、第2流入口29を通って二重機能チャンバー27に流れる。
【0059】
もちろん、二重機能チャンバー27は、液体が流入する一の流入口のみを有することもできる。液体は、その流入口を通って、フラッシング液チャンネル32及び測定ゾーン19の両方から流れ込む。この場合、フラッシング液チャンネル32と共有する少なくとも1つのセクションを有する廃棄チャンネルは、測定ゾーン19に連結し、二重機能チャンバー27に開口している。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の分析システムの概略図を示す。
【図2】本発明の検査エレメントの概略図を示す。
【図3】図2の検査エレメントの好ましい実施形態の概観図を示す。
【図4】図2の検査エレメントの別の好ましい実施形態の概観図を示す。
【符号の説明】
【0061】
2 分析機器
3 検査エレメント
6 測定ステーション
9 投入ステーション
12 サンプル供給口
13 フラッシング液供給口
14 洗浄溶液供給口
15 ハウジング
16 サンプル分析チャンネル
19 測定ゾーン
25 排水チャンバー
26 洗浄溶液チャンネル
27 二重機能チャンバー
28 第1流入口
29 第2流入口
31 フラッシング液回収チャンバー
32 フラッシング液チャンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査エレメント(3)と分析機器(2)とを含んでなる、体液サンプル中に含まれる分析物を分析するための分析システムであって、
前記検査エレメント(3)は、ハウジング(15)、及び該ハウジング(15)により包囲されたサンプル分析チャンネル(16)を有しており、該サンプル分析チャンネル(16)はサンプル供給口(12)及び測定ゾーン(19)を含んでおり、
前記分析機器(2)は、該分析機器(2)上に位置する、検査エレメント(3)内に液体を投入するための投入ステーション(9)を有しており、かつ測定位置に位置付けられた検査エレメント(3)の測定ゾーン(19)における分析結果に関して特徴的な測定変量を測定するための測定ステーション(6)を有しており、
前記検査エレメント(3)は、サンプル供給口(12)を介して供給された体液サンプルをサンプル分析チャンネル(16)内に存在する試薬系と反応させることにより、体液サンプルと試薬系との反応が測定ゾーン(19)における分析結果に関して特徴的な測定変量の変化をもたらすように構成されており、
前記検査エレメント(3)は、サンプル供給口(12)から分離されているフラッシング液供給口(13)、及びフラッシング液回収チャンバー(31)を含んでおり、
前記フラッシング液供給口(13)と前記フラッシング液回収チャンバー(31)はフラッシング液チャンネル(32)を介して互いに流体連通しており、前記フラッシング液チャンネル(32)と前記サンプル分析チャンネル(16)は該フラッシング液チャンネル(32)を通って流れる液体が前記測定ゾーン(19)に到達しないように分離されていることを特徴とする、前記分析システム。
【請求項2】
検査エレメント(3)が、該検査エレメント(3)を貫通して伸びる回転軸の回りで回転可能であることを特徴とする、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
サンプル供給口(12)及びフラッシング液供給口(13)を前記回転軸から等距離に位置付けることを特徴とする、請求項2に記載の分析システム。
【請求項4】
検査エレメント(3)が、測定ゾーン(19)を介して流れ込んだ液体を取り込むように、測定ゾーン(19)と流体連通している排水チャンバー(25)を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項5】
検査エレメント(3)が、フラッシング液回収チャンバー(31)及び排水チャンバー(25)の双方の機能を果たすように、フラッシング液チャンネル(32)及び測定ゾーン(19)と流体連通している二重機能チャンバー(27)を含んでいることを特徴とする、請求項4に記載の分析システム。
【請求項6】
二重機能チャンバー(27)が第1流入口(28)と第2流入口(29)とを有しており、該第1流入口(28)を介して液体がフラッシング液チャンネル(32)から二重機能チャンバー(27)内に流入し、該第2流入口(29)を介して液体が測定ゾーン(19)から二重機能チャンバー(27)内に流入することを特徴とする、請求項5に記載の分析システム。
【請求項7】
二重機能チャンバー(27)が一の流入口を有しており、この流入口を介してフラッシング液チャンネル(32)及び測定ゾーン(19)の両方から液体が流入することを特徴とする、請求項5に記載の分析システム。
【請求項8】
分析機器(2)における検査エレメント(3)の測定位置がサンプル分注位置と一致することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項9】
検査エレメント(3)が試薬供給口を有しており、試薬系の少なくとも1つの試薬が該試薬供給口を介してサンプル分析チャンネル(16)に液体形態で供給されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項10】
試薬系の少なくとも1つの試薬がサンプル分析チャンネル(16)内に固体形態で含まれていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項11】
フラッシング液回収チャンバー(31)が多孔質吸収マトリックスを含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項12】
検査エレメント(3)がさらに、洗浄溶液供給口(14)を含み測定ゾーン(19)と流体連通している洗浄溶液チャンネル(26)を有しており、該洗浄溶液チャンネル(26)はフラッシング液チャンネル(32)から分離されており、洗浄溶液は洗浄溶液チャンネル(26)を通って流れ、また測定ゾーン(19)を通って流れることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項13】
測定ゾーン(19)が、多孔質吸収マトリックスを含む測定チャンバー(24)を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の分析システム。
【請求項14】
検査エレメント、特に、請求項1〜13のいずれか一項に記載の体液サンプル中に含まれる分析物を分析するための分析システム用の検査エレメントであって、
ハウジング(15)及び該ハウジング(15)により包囲されたサンプル分析チャンネル(16)を有し、該サンプル分析チャンネル(16)はサンプル供給口(12)及び測定ゾーン(19)を含んでおり、
該検査エレメント(3)は、サンプル供給口(12)に供給された体液サンプルをサンプル分析チャンネル(16)内に存在する試薬系と反応させることにより、体液サンプルと試薬系との反応が測定ゾーン(19)における分析結果に関して特徴的な測定変量の変化をもたらし、
サンプル供給口(12)から分離されているフラッシング液供給口(13)、及びフラッシング液回収チャンバー(31)が検査エレメント(3)のハウジング(15)内に配置されており、
フラッシング液供給口(13)及びフラッシング液回収チャンバー(31)がフラッシング液チャンネル(32)を介して互いに流体連通しており、
フラッシング液チャンネル(32)及びサンプル分析チャンネル(16)が、フラッシング液チャンネル(32)を通って流れる液体が測定ゾーン(19)に到達しないように分離されている
ことを特徴とする前記検査エレメント。
【請求項15】
分析機器(2)及び検査エレメント(3)を含み、
前記分析機器(2)が、該分析機器(2)上に位置する、検査エレメント(3)内に液体を投入するための投入ステーション(9)を有し、
前記検査エレメント(3)の各々が、サンプル供給口(12)及び測定ゾーン(19)を含むサンプル分析チャンネル(16)を有し、
前記検査エレメント(3)が、サンプル供給口(12)から分離されたフラッシング液供給口(13)、及びフラッシング液回収チャンバー(31)を含み、
前記フラッシング液供給口(13)が、フラッシング液チャンネル(32)を介してフラッシング液回収チャンバー(31)と流体連通している
分析システム(1)、特に、請求項1に記載の分析システムを用いて、検査エレメント内に液体を供給するための方法であって、
フラッシング液を用いて投入ステーション(9)をフラッシングするステップを含んでおり、
該フラッシング液が、検査エレメントのフラッシング液供給口(13)中に流入し、フラッシング液回収チャンバー(31)に回収される、前記方法。
【請求項16】
その後、投入ステーション(9)を使用して、フラッシング液供給口(13)から分離された検査エレメント(3)の一以上の供給口の中に液体を投入するさらなるステップを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
フラッシング液供給口(13)と分離された供給口の中に分注される液体が、フラッシング液とは異なることを特徴とする、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−128367(P2009−128367A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−298682(P2008−298682)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】