説明

体重減少薬

【課題】安全に体重を減少させる医薬を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む体重減少薬。


〔R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子又はC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(nは1〜5の整数を表わす。)、又はO−CO−(CH2l−COOH(lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4は−N(R5)(R6)(R5及びR6は水素原子又はC1〜C8のアルキル基を表わす。)などを表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全に体重を減少させることができる医薬に関するものである。本発明の医薬は肥満の予防及び/又は治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
肥満は、運動不足や習慣的な過食、あるいは遺伝的原因や内分泌疾患による代謝傷害などによって引き起こされる。肥満は、心筋梗塞や動脈硬化など種々の成人病を誘発するリスクファクターとなり、それらの疾患を悪化させる要因ともなることから、早期の治療や予防が非常に重要である。従来、軽度の肥満の治療には食事療法や運動療法などが処方されており、重度の肥満に対してはそれらの療法と組み合わせて薬物療法が用いられる場合もある。肥満の薬物療法には、従来、ホルモン剤や代謝促進剤などが用いられているが、安全に体重を減少させ、あるいは体重増加を抑制することができる薬物はほとんど知られていない。
【0003】
一方、下記式(2):
【化1】

で表される塩酸サルポグレラートに代表される特定構造のアミノプロポキシビベンジル類は5HT2受容体に高い選択性を示し、血圧にほとんど影響を与えないことが報告されており、さらに、重篤な副作用もほとんどなく、高い安全性を示す薬剤である。塩酸サルポグレラートについては、これまで脳循環障害、虚血性心疾患、末梢循環障害等の疾患における、血栓生成及び血管収縮に基づく種々の微小循環障害の改善に有効であることが知られている(特開平2−304022号公報)。しかしながら、これらの化合物について摂食抑制あるいは過食抑制に基づく抗肥満作用は従来知られていない。なお、5-HT2C又は5-HT1Bレセプターと摂食及び肥満との関係については最近の報告があるが(Endocrinology, 147, pp.5893-5900, 2006)、5-HT2Aレセプターと摂食及び肥満との関係については従来知られていない。
【非特許文献1】Endocrinology, 147, pp.5893-5900, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、安全に体重を減少させることができ、肥満の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、5HT2受容体の拮抗剤として知られる特定構造のアミノプロポキシビベンジル類が体重減少作用及び摂食抑制作用を有しており、肥満の予防及び/又は治療などに有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む体重減少薬を提供するものである。
【化2】

〔式中、R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子又はC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を表わす。)、又はO−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4は−N(R5)(R6)(式中、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はC1〜C8のアルキル基を表わす。)又は
【化3】

(式中、Aはカルボキシル基で置換されていてもよいC3〜C5のアルキレン基を表わす。)を表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕
【0007】
上記発明の好ましい態様によれば、アミノアルコキシビベンジル類が下記(2)で表わされる化合物である上記の体重減少薬;
【化4】

アミノアルコキシビベンジル類が下記(3)で表わされる化合物である上記の体重減少薬;
【化5】

及び塩酸塩の形態の上記の体重減少薬が提供される。
【0008】
別の観点からは、肥満の予防及び/又は治療に用いる上記の体重減少薬、及び摂食の抑制に用いる上記の体重減少薬が提供される。
また、本発明により、上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む摂食抑制又は過食抑制薬が提供される。
【0009】
さらに別の観点からは、体重を減少させる方法であって、ヒトを含む哺乳類動物に上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質の有効量を投与する工程を含む方法、摂食又は過食を抑制する方法であって、ヒトを含む哺乳類動物に上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質の有効量を投与する工程を含む方法、及び上記の体重減少薬の製造のための上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質の使用が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の体重減少薬を用いると安全に体重を減少させることができるので、肥満の予防及び/又は治療を安全に達成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の体重減少薬は、上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む。
【0012】
1は水素原子;塩素原子、弗素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC1〜C5のアルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のC2〜C6のジアルキルアミノ基を示す。R2は水素原子;塩素原子、弗素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC1〜C5のアルコキシ基を示す。R3は水素原子;ヒドロキシル基;−O−(CH22 −COOH、−O−(CH23−COOH等の−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を示す);−O−CO−(CH22−COOH、−O−CO−(CH23−COOH等の−O−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を示す)を示す。R4はアミノ基、若しくはメチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の炭素数1〜8のアルキル基を1〜2個有するアミノ基を示すか、又はトリメチレンアミノ基、ペンタメチレンアミノ基、3−カルボキシペンタメチレンアミノ基等の環にカルボキシル基が置換していてもよい4〜6員のポリメチレンアミノ基を表わす。
【0013】
上記一般式(1)に包含される化合物のうち、本発明に好ましく用いられる化合物のいくつかを表−1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
これらのなかでも、アミノアルコキシ基−OCH2C(R3)H−(CH2m−R4がフェニル基の2−位に結合している化合物が好ましい。また、R1は水素原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基が好ましく、R2は水素原子が好ましく、R4は少なくとも1個のC1〜C8のアルキル基を有するアミノ基又はトリメチレン基ないしはペンタメチレン基を有する4〜6員のポリメチレンアミノ基であるのが好ましく、mは0〜2の整数であることが好ましい。特に好ましいのは、R1がメトキシ基であり、R2が水素原子であり、R3が水酸基であり、R4がジメチルアミノ基であるNo.15の化合物(以下、本明細書においてこの化合物を「M−1」と呼ぶ場合がある)及びそのコハク酸エステルであるNo.14の化合物である。
【0017】
一般式(1)で表わされる化合物の薬学的に許容される塩を形成する酸としては、例えば塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、コハク酸、アジピン酸、プロピオン酸、酒石酸、マレイン酸、蓚酸、クエン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が用いられる。また、一般式(1)で表わされる化合物又は薬学的に許容されるその塩の溶媒和物又は水和物も用いることができる。これらのうちで特に好ましいのは、下記式(4)で表わされる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロピル水素スクシナートの塩酸塩である(以下、本明細書において、この物質を「塩酸サルポグレラート」ということもある)。
【0018】
【化6】

【0019】
一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、並びに薬学的に許容されるその塩及びそのエステルは公知であり、特開昭58−32847号公報に記載の方法又はそれに準じた方法により容易に合成できる。なお、上記式(4)で表される塩酸サルポグレラートは、三菱ウェルファーマ株式会社より「アンプラーグ(登録商標)」として市販されており、本発明においては市販の「アンプラーグ」をそのまま使用することも可能である。
【0020】
本発明の体重減少薬は、以下の実施例に具体的に示されるように、ヒトを含む動物において体重を減少させる作用を有する。本明細書において「体重減少」又は「体重を減少させる」という用語は、現在の体重を減少させる場合のほか、体重増加を抑制して現在の体重を維持する場合を含めて最も広義に解釈しなければならない。また、本発明の体重減少薬は、以下の実施例に具体的に示されるように、摂食の抑制作用も有している。従って、摂食抑制の結果として過食の抑制作用を有することも期待できる。この結果、本発明の体重抑制薬は、肥満の予防及び/又は治療などに用いることができる。
【0021】
本発明の体重減少薬の投与方法は当業者が適宜選択可能である。例えば、皮下注射、静脈内注射、筋肉注射、腹腔内注射等の非経口投与、又は経口投与のいずれの投与経路を選択することも可能である。投与量は患者の年齢、健康状態、肥満の程度などの条件、同時に投与される医薬がある場合にはその種類や投与頻度などの条件、あるいは所望の効果の性質等により適宜決定することができる。一般的には、有効成分の1日投与量は0.5〜50mg/kg体重、通常1〜30mg/kg体重であり、一日あたり1回あるいはそれ以上投与することができる。
【0022】
本発明の体重減少薬は、上記の有効成分と1種又は2種以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物として投与することが好ましい。経口投与に適した医薬組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、粉剤、液剤、エリキシル剤等を挙げることができ、非経口投与に適した医薬組成物としては、例えば、液剤あるいは懸濁化剤等の殺菌した液状の形態の医薬組成物を例示することができる。
【0023】
医薬組成物の調製に用いられる製剤用添加物の種類は特に制限されず、種々医薬組成物の形態に応じて適宜の製剤用添加物を選択することが可能である。製剤用添加物は固体又は液体のいずれであってもよく、例えば固体担体や液状担体などを用いることができる。固体担体の例としては通常のゼラチンタイプのカプセルを用いることができる。また、例えば、有効成分を1種又は2種以上の製剤用添加物とともに、あるいは製剤用添加物を用いずに錠剤化することができ、あるいは粉末として調製して包装することができる。これらのカプセル、錠剤、粉末は、一般的には製剤の全重量に対して5〜95重量%、好ましくは5〜90重量%の有効成分を含むことができ、投与単位形態は5〜500mg、好ましくは25〜250mgの有効成分を含有するのがよい。液状担体としては水、あるいは石油、ピーナツ油、大豆油、ミネラル油、ゴマ油等の動植物起源の油又は合成の油が用いられる。また、一般に生理食塩水、デキストロールあるいは類似のショ糖溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類が液状担体として好ましく、特に生理食塩水を用いた注射液の場合には通常0.5〜20%、好ましくは1〜10%重量の有効成分を含むように調製することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、以下で用いた塩酸サルポグレラートとしては、三菱ウェルファーマ株式会社から市販されている「アンプラ−グ(登録商標)」を使用した。
例1
実験には過食及び肥満を呈するAyマウス(Nature, 371, pp.799-802, 1994; Nature, 385, pp.165-168, 1997; Diabetes, 48, pp.2028-2033, 1999)を用いた。8週齢のAyマウス及び野生型マウスに塩酸サルポグレラート(30 mg/kg)又は生理食塩水(対照)を一日あたり2回の割合で3日連続投与した。塩酸サルポグレラート投与群では2日目及び3日目にAyマウス及び野生型マウスのいずれにおいても摂食抑制及び体重減少が認められ、この摂食抑制作用及び体重減少作用は野生型マウスに比べてAyマウスにおいて強く認められた(図1及び2)。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の体重減少薬の摂食抑制作用を示した図である。図中、AyはAyマウス、WTは野生型マウスの結果を示す。
【図2】本発明の体重抑制薬の体重減少作用を示した図である。図中、AyはAyマウス、WTは野生型マウスの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む体重減少薬。
【化1】

〔式中、R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子又はC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を表わす。)、又はO−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4は−N(R5)(R6)(式中、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はC1〜C8のアルキル基を表わす。)又は
【化2】

(式中、Aはカルボキシル基で置換されていてもよいC3〜C5のアルキレン基を表わす。)を表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕
【請求項2】
アミノアルコキシビベンジル類が下記(2)で表わされる化合物である請求項1に記載の体重減少薬。
【化3】

【請求項3】
アミノアルコキシビベンジル類が下記(3)で表わされる化合物である請求項1に記載の体重減少薬。
【化4】

【請求項4】
塩酸塩の形態の請求項2又は3に記載の体重減少薬。
【請求項5】
請求項1に記載の一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む摂食抑制又は過食抑制薬。
【請求項6】
アミノアルコキシビベンジル類が下記(2)で表わされる化合物である請求項5に記載の摂食抑制又は過食抑制薬。
【化5】

【請求項7】
アミノアルコキシビベンジル類が下記(3)で表わされる化合物である請求項5に記載の摂食抑制又は過食抑制薬。
【化6】

【請求項8】
塩酸塩の形態の請求項6又は7に記載の摂食抑制又は過食抑制薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−156241(P2008−156241A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343724(P2006−343724)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月7日 http://www.sciencedirect.comを通じて発表
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】