説明

作業機のシートサスペンション構造

【課題】 シート支持台の上方にリンク機構を介して運転シートを上下動可能に支持するとともに、軸心を横向き姿勢にして運転シートとシート支持台との間に配備したサスペンションバネの弾力によって、運転シートを持上げ付勢した作業機のシートサスペンション構造を、着座荷重の大小にかかわらず好適な座り心地を得ながら、耐久性の高いものに構成する。
【解決手段】 運転シート7の上下動に伴って上下変位するカム部材21と、このカム部材21の上下変位に伴って前記サスペンションバネ24の軸心方向に変位するカムフォロア22を設け、カムフォロア22にサスペンションバネ24の一端を支持して、運転シート7の下方移動に伴ってサスペンションバネ24の一端が弾力増大方向に変位されるよう構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農用トラクタや草刈機などの作業機に利用されるシートサスペンション構造に関する。
【背景技術】
【0002】
農用トラクタのシートサスペンション構造としては、例えば、特許文献1に開示されているように、シート支持台の上に平行四連式のリンク機構を介し運転シートを上下動可能に支持するとともに、リンク機構を構成する揺動リンクとシート支持台とに亘ってサスペンションバネを張設して、サスペンションバネの弾力によってリンク機構を上方付勢するよう構成し、かつ、大きい着座荷重が作用して運転シートが大きく下方移動するとクッションゴムが弾性変形されるようにすることで、サスペンション特性を改善したものが知られている。
【特許文献1】特開平9−123817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来構造は、サスペンションバネとクッションゴムを併用することで運転者の体重の大小にかかわらず快適な座り心地を得られるものであるが、外気に晒されるクッションゴムは比較的短期間のうちにの弾性劣化や変形が発生しやすく、体重の大きい運転者が使用する場合には、短期間のうちにクッションゴムの交換を必要とすることが多いものであった。
クッションゴムは温度によって弾性特性が相当大きく変化するので、使用される時期や地域の温度条件によってサスペンション特性が異なってしまうこともあった。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、着座荷重の大小にかかわらず好適な座り心地を得ることができるシートサスペンション構造を耐久性の高いものに構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、シート支持台の上方にリンク機構を介して運転シートを上下動可能に支持するとともに、軸心を横向き姿勢にして運転シートとシート支持台との間に配備したサスペンションバネの弾力によって、運転シートを持上げ付勢した作業機のシートサスペンション構造において、
前記運転シートの上下動に伴って上下変位するカム部材と、このカム部材の上下変位に伴って前記サスペンションバネの軸心方向に変位するカムフォロアを設け、カムフォロアにサスペンションバネの一端を支持して、運転シートの下方移動に伴ってサスペンションバネの一端が弾力増大方向に変位されるよう構成してあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、カム部材とカムフォロアとの接触部におけるカム曲線によって運転シートの高さ位置に対するサスペンションバネの弾力を設定することができる。例えば、運転シートの高さとシート上昇付勢力とを直線的に変化させる特性を設定して、着座荷重の大きさにかかわらず運転シートの高さ変動に対するシート上昇付勢力の変動を常に一定にして、運転シートの高さにかかわらず座り心地を安定化することが容易となる。
カム部材およびカムフォロアを金属材などの硬質部材で構成することで、長期間にわたって所期のサスペンション特性を安定維持することができるとともに、温度条件によってサスペンション特性が変化することもほとんどない。
【0007】
従って、第1の発明によると、着座荷重の大小にかかわらず好適な座り心地を得ることができるシートサスペンション構造を耐久性の高いものに構成することができる。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記カム部材を、前記リンク機構を構成する揺動リンクに備えてあるものである。
【0009】
上記構成によると、揺動リンクに備えたカム部材は揺動リンクの支点を中心とした円弧軌跡で移動するので、カム部材は上下変位するとともにリンク長手方向へも変位することになり、サスペンションバネの軸心方向をリンク長手方向に向かう姿勢に配備することで、カム部材のリンク長手方向への変位とカム作用とを利用してカムフォロアをサスペンションバネの軸心方向に変位させることができ、運転シートが大きく下方移動した際にサスペンションバネを弾力増大方向に充分変位させて所望の大きい弾力を得ることが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に、本発明に係るシートサスペンション構造を備えた作業機の一例である農用トラクタが示されている。この農用トラクタは、操向輪としての前輪1と主推進車輪としての後輪2を備えた四輪駆動型のトラクタ本機3の後部に、作業装置昇降用のリフトアーム4と作業装置駆動用のPTO軸5を装備して構成されており、トラクタ本機3の後部における左右の後輪フェンダ6の間に位置して運転シート7が配備されている。
【0011】
左右の後輪フェンダ6の間にはトラクタ本機3の後部を覆う板金構造の支持枠8が固定配備されており、この支持枠8の上にボルト絞め固定されたシート支持台9に、リンク機構10を介して運転シート7が上下動可能に支持されている。
【0012】
リンク機構10は、シート支持台9から後方に突設した延長部9aの前部に支点a周りに上下揺動可能に枢支連結された左右一対の揺動リンク11と、起立辺9aの後部に支点b周りに上下揺動可能に枢支連結された揺動リンク12と、両揺動リンク11,12の遊端部に亘って支点c,dを介して枢支連結された昇降枠13とを平行四連リンク状に枢支連結して構成されている。昇降枠13は、板材を正面視で下向きコの字形状に屈折して構成されており、この昇降枠13の左右に連結固定された支持枠部13aに、可動台14がスライドレール機構15を介して前後に位置調節可能に装着されるとともに、可動台14の前端部に運転シート7が支点e周りに振り上げ回動可能に連結されている。
【0013】
左右の揺動リンク11,12はそれぞれステー11a,12aで架橋連結されて一体化され、昇降枠13が左右に傾くことなく水平姿勢を維持して平行昇降されるようになっている。昇降枠13における左右の支持枠部13aはステー13bで架橋連結され、このステー13bとシート支持台9とに亘って伸縮式のダンパー16が架設され、昇降枠13の上下動作動に適度の抵抗が与えられるようになっている。
【0014】
前方の揺動リンク11におけるステー11aの下面にはカム部材21が連結固定されるとともに、シート支持台9の前部に連設されたブラケット9cに、カム部材21に接当するカムフォロア22が前後スライド移動可能に配備されている。カムフォロア22は、板材を屈折して平面形状が後向きコの字状に構成された支持部材22aの左右中央に固着されており、支持部材22aの左右端辺とシート支持台9の後部に固着したバネ受け部材23とに亘って左右一対のサスペンションバネ24が、その軸心を前後向き横向き(略水平)にして張設されている。
【0015】
サスペンションバネ24の弾性張力によってカムフォロア22が後方にスライド付勢されることで、カム部材21を介してリンク機構10が上方に突き上げ揺動され、もって、運転シート7が弾性的に上昇付勢されている。前方の揺動リンク11の後端部が支点aより後方に延出されており、その延出部11aがシート支持台9の上面に接当することでリンク機構10の上限が規制され、運転シート7の最大高さ位置が設定されている。
【0016】
運転者が着座して運転シート7に着座荷重が作用すると、リンク機構10が下方揺動することで、前方の揺動リンク11に備えたカム部材21がカムフォロア22を前方に接当押圧し、着座荷重の大きさに対応してカムフォロア22がサスペンションバネ24を引き伸ばしながら前方移動し、着座荷重とバネ力とが均衡したところでリンク機構10の下方作動が止まる。
【0017】
前記カム部材21の下向きカム面と、これに対向するカムフォロア22の接当面はそれぞれ所定の凸曲面に形成されており、昇降枠13の上下位置とカムフォロア22の前後位置が所望の関係となるように各凸曲形状が設定され、これによって運転シート7の高さ位置とサスペンションバネ24によるシート持上げ付勢力との関係、つまり、サスペンション特性が決められている。サスペンション特性は、運転シート7の高さ変動に対してサスペンションバネ24によるシート持上げ付勢力が直線的に変動することが好ましく、これによると、着座荷重の大きさにかかわらず運転シート7の高さ変動に対するシート持上げ付勢力の変動を常に一定にして、運転シート7の高さにかかわらず座り心地を安定化することができる。
【0018】
シート支持台9の前部に連設した前記ブラケット9cには操作ノブ付きのストッパボルト25が装着されている。このストッパボルト25はカムフォロア22の前面に対向されており、ストッパボルト25の後端でカムフォロア22の前方移動を接当阻止することで昇降枠13の下方移動限度、つまり、運転シート7の下限高さを規制することができ、ストッパボルト25を回動操作して前後に移動張設することで、運転シート7の下限高さを調節することができるようになっている。
【0019】
シート支持台9から左右に延出されたブラケット26に、昇降枠13の支持枠部13aに下方から対向するクッションゴム27が配備されている。このクッションゴム27は、昇降枠13が下限近くまで下方作動すると支持枠部13aに接触する位置に配備され、カムフォロア22がストッパボルト25に衝撃的に接当することが緩和されるようになっている。
【0020】
〔他の実施例〕
(1)図7に示すように、後方の揺動リンク12の固定側の支点bに回動式のダンパー16を装備して実施することもできる。
(2)前記バネ受け部材23を前後位置調節可能に構成して、サスペンションバネ24の基準弾力を調節できるように構成して実施すると、より広範囲の着座荷重に対応することができる。
(3)カム部材21の位置調節、あるいは、取り替え、によって運転シート7の高さ位置とサスペンションバネ24の弾力との関係、つまり、サスペンション特性を変更調節できるように構成して実施することも可能である。
(4)リンク機構10をパンタグラフ式に構成して運転シート7を平行上下動可能に支持する形態で実施することもできる。この場合、サスペンションバネ24をその軸心が横向きになるように組み込むこともできる。
(5)カム部材21を昇降枠13に取り付けて実施することもできる。
(6)前方の揺動リンク11の下辺にカム面を形成することで、前方の揺動リンク11自体をカム部材21として利用することも可能である。
(7)サスペンションバネ24に圧縮コイルバネを利用することもできる。
(8)カム部材21とカムフォロア22のいずれか一方の接当箇所に遊転ローラを配備してカム作用を円滑に行わせるように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】農用トラクタの全体側面図
【図2】シートサスペンション構造を示す側面図
【図3】シートサスペンション構造の着座荷重がかからない状態(イ)と着座荷重がかかった状態(ロ)を示す縦断側面図
【図4】シートサスペンション構造の平面図
【図5】シートサスペンション構造の正面図
【図6】シートサスペンション構造の縦断正面図
【図7】別実施例のシートサスペンション構造を示す側面図
【符号の説明】
【0022】
7 運転シート
9 シート支持台
10 リンク機構
11 揺動リンク
21 カム部材
22 カムフォロア
24 サスペンションバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート支持台の上方にリンク機構を介して運転シートを上下動可能に支持するとともに、軸心を横向き姿勢にして運転シートとシート支持台との間に配備したサスペンションバネの弾力によって、運転シートを持上げ付勢した作業機のシートサスペンション構造において、
前記運転シートの上下動に伴って上下変位するカム部材と、このカム部材の上下変位に伴って前記サスペンションバネの軸心方向に変位するカムフォロアを設け、カムフォロアにサスペンションバネの一端を支持して、運転シートの下方移動に伴ってサスペンションバネの一端が弾力増大方向に変位されるよう構成してあることを特徴とする作業機のシートサスペンション構造。
【請求項2】
前記カム部材を、前記リンク機構を構成する揺動リンクに備えてある請求項1記載の作業機のシートサスペンション構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−132856(P2008−132856A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320223(P2006−320223)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】