説明

作業機の油圧回路

【課題】アキュムレータが長寿命化が可能となる作業機の油圧回路を提供する。
【解決手段】アキュムレータ40とアキュムレータ40が接続される戻り管路35との間にストップ弁41を設ける。油圧シリンダ8,10が収縮する側に操作された時にのみストップ弁41を開いてアキュムレータ40を戻り管路35に連通させる。油圧シリンダ8,10が収縮する側に操作された時以外にはストップ弁41を閉じ、アキュムレータ41を戻り管路35に対して遮断する。これによりアキュムレータ40の不要な動作が無くなり、アキュムレータ40の延命化が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキュムレータを備えた油圧作業機の油圧回路に係り、特に作動油戻り回路に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧作業機においては、アクチュエータとして備えられる油圧シリンダの収縮時における戻り管路内のサージ圧を緩和し、油圧回路及びオイルクーラ等の油圧機器保護のため、アキュムレータが設けられる(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
図3はこのような従来のアキュムレータを備えた油圧回路の一例を示す。図3の油圧回路は、油圧ポンプ70と、パイロット弁71によって切換制御されるコントロール弁72と、例えばブーム俯仰用等の油圧シリンダ73と、作動油の温度上昇を防ぐためのオイルクーラ74と、このオイルクーラ74に過大な圧力が作用することを防止するために、オイルクーラ74に並列に設けられたリリーフ弁75とを備えており、コントロール弁72とオイルクーラ74との間の戻り管路76にアキュムレータ77が接続されている。
【0004】
この油圧回路において、パイロット弁71の操作によりコントロール弁72が左位置に切換えられると、油圧ポンプ70から吐出される作動油はコントロール弁72を通って油圧シリンダ73のボトム室73aに供給されると同時に、ロッド室73bから流出する作動油はコントロール弁72、戻り管路76およびオイルクーラ74を通り油タンク78へ戻される。
【0005】
反対にコントロール弁72が右位置に切換えられると、油圧ポンプ70からの作動油がコントロール弁72を通って油圧シリンダ73のロッド室73bに供給されると同時に、油圧シリンダ73のボトム室73aから流出する作動油はコントロール弁72、戻り管路76およびオイルクーラ74を通り油タンク78へ戻される。
【0006】
ここで、油圧シリンダ73のロッド室73b側の断面積よりもボトム室73a側の断面積が大きいことから、油圧シリンダ73が収縮する際には、戻り管路76に流れる作動油の流量が大となり、戻り管路76におけるオイルクーラ74までの油圧が上昇する。このような油圧シリンダ73の収縮動作の際に、油圧の上昇を緩和してオイルクーラ74が損傷を受けないようにするために、前記アキュムレータ77が設けられている。すなわちアキュムレータ77は、オイルクーラ77に並列に設けたリリーフ弁75では解消しきれないサージ圧を緩和することで、オイルクーラ74の損傷を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−65527号公報
【特許文献2】特開2006−118156号公報
【特許文献3】特開2006−200559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このようなアキュムレータ77を備えた従来の作業機の油圧回路おいては、下記の点において、改善が望まれる。すなわち、アキュムレータ77は、圧力変動とともに内部構造物が変形する構造であるため、変形の回数が増えることによって、寿命は短くなる。一方、油圧シリンダ73を収縮する時以外の場合における戻り管路76の油圧上昇のレベルはそれほど高くならず、オイルクーラ74等の油圧機器に損傷を与えるおそれがないため、アキュムレータ77にサージ圧を緩和させる必要がない。
【0009】
しかしながら、この従来の作業機の油圧回路では、油圧シリンダ73が収縮する際の油圧上昇時以外の油圧変動までアキュムレータ77に吸収させていたため、アキュムレータ77の寿命を短くしていた。
【0010】
また、アキュムレータ77が故障した場合には、作業機の稼動を中止してアキュムレータ77を交換しなければならないため、アキュムレータ77の故障の頻度が高くなると作業機の稼働率が低下し、メンテナンス費用もかかる。そのためアキュムレータの長寿命化が望まれていた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、アキュムレータをより長寿命化することが可能な作業機の油圧回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の作業機の作動油戻り回路は、
作業機の油圧シリンダのコントロール弁と油タンクとの間の戻り管路にオイルクーラが設けられ、
前記オイルクーラと前記コントロール弁との間の戻り管路にアキュムレータを接続した作業機の油圧回路において、
前記アキュムレータと前記アキュムレータが接続される前記戻り管路との間に、前記油圧シリンダが収縮する側に操作された時にのみ前記アキュムレータを前記戻り管路に連通させ、前記油圧シリンダが収縮する側に操作された時以外には前記アキュムレータを前記戻り管路に対して遮断するストップ弁を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油圧シリンダが収縮する側に操作された時以外は、ストップ弁が閉じていることにより、アキュムレータが戻り管路と遮断されるため、アキュムレータの不要な動作が防止され、アキュムレータの消耗を防止することができる。このため、アキュムレータの延命化が達成され、アキュムレータの交換の頻度を少なくすることができるので、作業機の稼働率を高めることができる。
【0014】
一方、油圧シリンダが収縮する側に操作された時には、ストップ弁が開いて、アキュムレータが戻り回路の管路と接続されるため、アキュムレータによりサージ圧を緩和することができる。これにより、油圧シリンダの収縮動作の際に生じるサージ圧からオイルクーラを保護するアキュムレータの役割は維持しつつ、アキュムレータの延命化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の油圧回路を適用する作業機の一例である油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】本発明の油圧回路の一実施の形態を示す油圧回路図である。
【図3】従来のアキュムレータを備えた油圧回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明を適用する作業機の一例である油圧ショベルを示す側面図である。この油圧ショベルは、下部走行体1上に旋回装置2を介して旋回フレーム3aを設置し、旋回フレーム3a上に油圧パワーユニット4、運転室5およびカウンタウエイト6等を搭載して上部旋回体3を構成する。下部走行体1は、左右のサイドフレーム1aの各後端に走行モータ(図示せず)により回転される駆動輪1bを取付け、前端に従動輪1cを取付け、駆動輪1bと従動輪1cに履帯1dを掛け回して構成する。
【0017】
旋回フレーム3aには作業用フロント7を取付ける。作業用フロント7は、旋回フレーム3aに油圧シリンダ8により俯仰可能に取付けたブーム9と、ブーム9の先端に油圧シリンダ10により回動可能に取付けたアーム11と、アーム11の先端に油圧シリンダ12およびリンク13,14により回動可能に取付けたバケット15とにより構成する。
【0018】
図2は図1に示す油圧ショベルにおける油圧回路の一実施の形態を示す図である。図2において、17は主油圧ポンプ、1eは下部走行体1に備えられ、図1に示した駆動輪1bを回転させる走行用油圧モータ、2aは旋回装置2の旋回用油圧モータ、8は前記ブーム9を俯仰させる油圧シリンダ、10は前記アーム11を回動させる油圧シリンダである。20は走行用油圧モータ1eのコントロール弁、21はブーム俯仰用油圧シリンダ8のコントロール弁、22はアーム回動用油圧シリンダ10のコントロール弁、23は旋回用油圧モータ2aのコントロール弁である。
【0019】
30,31,32,33はそれぞれコントロール弁20,21,22,23のパイロット弁である。これらのパイロット弁30〜33は、これらが操作されることにより、不図示のパイロットポンプからのパイロット圧油を、コントロール弁20〜23のいずれかの操作室aまたはb、cまたはd、eまたはf、gまたはhに供給することにより、コントロール弁20〜23を左位置または右位置に切換えるものである。
【0020】
なお、図示の主油圧ポンプ17およびコントロール弁20〜23は1つの制御系列を示しており、他の1つの制御系列(図示せず)は、他の主油圧ポンプ、左右いずれか片側の走行用油圧モータ1eと対をなす他側の走行用油圧モータ用コントロール弁、ブーム9の俯仰のための他の1つの油圧シリンダ8、バケット回動用油圧シリンダ12等により構成される。なお、それぞれの主油圧ポンプに対してどのアクチュエータを組み合わせるか、あるいはどのような順序にコントロール弁を組み合わせるかは、この例に限定されず、種々に変更可能である。
【0021】
40は戻り管路35におけるオイルクーラ37とコントロール弁20〜23との間に生じた急激な油圧上昇を緩和して、オイルクーラ37を保護するアキュムレータである。41はアキュムレータ40と戻り管路35の間に設けられたストップ弁である。なお、オイルクーラ37には通常、除塵用のフィルタ(図示せず)が直列に接続して設けられる。38はオイルクーラ37に過大な圧力が作用することを防止するために、オイルクーラ37に並列に設けられたリリーフ弁である。
【0022】
42,43はシャトル弁であり、一方のシャトル弁42は、ブーム俯仰用のパイロット弁31が油圧シリンダ8の収縮側に操作された際にパイロット圧油が現れるパイロット管路44と、アーム回動用のパイロット弁32が油圧シリンダ10の収縮側に操作された際にパイロット圧油が現れるパイロット管路45とを一次側ポートに接続したものである。また、他方のシャトル弁43は、前記シャトル弁42の二次側管路46と、バケット回動用のパイロット弁(図示せず)がバケット回動用油圧シリンダ12(図1参照)の収縮側に操作された際にパイロット圧油が現れるパイロット管路47とを一次側ポートに接続したものである。このシャトル弁43の二次側管路48がストップ弁41の操作室に接続される。
【0023】
図2の油圧回路において、ブーム俯仰用の油圧シリンダ8が収縮するようにパイロット弁31が操作されたとき、パイロット圧油がパイロット管路44を通してコントロール弁21の操作室cにパイロット圧油が供給され、コントロール弁21が右位置に切換わる。これにより、主油圧ポンプ17からの吐出油は、コントロール弁21を通して油圧シリンダ8のロッド室8bに供給され、ボトム室8aから流出する作動油は、コントロール弁21、戻り管路35、オイルクーラ37を通して油タンク36に流出する。このとき、戻り管路35におけるコントロール弁21とオイルクーラ37との間の油圧が上昇する。
【0024】
このように油圧シリンダ8が収縮するとき、パイロット管路44に供給されるパイロット圧油がシャトル弁42,43を介してストップ弁41の操作室に供給され、このストップ弁41が図示の右側の遮断位置(閉じ位置)から左側の連通位置(開き位置)に切換わる。これにより、アキュムレータ40が戻り管路35に接続される。このため、アキュムレータ40により、油圧シリンダ8の収縮による戻り管路35の急激な油圧の上昇が緩和され、オイルクーラ37の損傷を防止することができる。反対にパイロット弁31が油圧シリンダ8の伸長側に操作された際には、パイロット管路44にはパイロット圧油が供給されないため、ストップ弁41は遮断位置のままであり、アキュムレータ40には戻り管路35の圧力変動が作用しない。
【0025】
また、パイロット弁32がアーム回動用油圧シリンダ10を収縮させる側に操作されたときは、パイロット管路45にパイロット圧油が供給されるので、そのパイロット圧油がシャトル弁42,43を通してストップ弁41の操作室に供給されるので、ストップ弁41が開いてアキュムレータ40が戻り管路35に接続され、アキュムレータ40によってサージ圧が緩和される。反対に、パイロット弁32が油圧シリンダ10を伸長させる側に操作されたときは、パイロット管路45にはパイロット圧油が供給されないため、ストップ弁41は遮断位置のままであり、アキュムレータ40には戻り管路35の圧力変動が作用しない。
【0026】
また、バケット回動用油圧シリンダ12を操作するパイロット弁(図示せず)を収縮側に操作したときは、パイロット管路47にパイロット圧油が供給され、そのパイロット圧油がシャトル弁43を通してストップ弁41の操作室に供給されるので、ストップ弁41が開き位置に切換わり、アキュムレータ40が戻り管路35に接続される。反対に、バケット回動用油圧シリンダ12を操作するパイロット弁(図示せず)を伸長側に操作したときは、ストップ弁41は遮断位置のままである。また、走行用油圧モータ1eや旋回用油圧モータ2aを駆動する際にもアキュムレータ40は戻り管路35に対して遮断されたままとなる。
【0027】
このように、この実施の形態によれば、油圧シリンダ8,10,12が収縮する側に操作された時以外は、ストップ弁41が閉じた状態を保つことにより、アキュムレータ40が戻り管路35と遮断されるため、アキュムレータ40の不要な動作が防止され、アキュムレータ40の消耗を防止することができる。このため、アキュムレータ40の延命化が達成され、アキュムレータ40の交換の頻度を少なくすることができるので、作業機の稼働率を高めることができる。
【0028】
一方、油圧シリンダ8,10,12が収縮する側に操作された時には、ストップ弁41が開いて、アキュムレータ40が戻り管路35と接続されるため、アキュムレータ40により、戻り管路35に発生するサージ圧を緩和することができる。これにより、油圧シリンダ8,10,12の収縮動作の際に生じるサージ圧からオイルクーラ37を保護するアキュムレータ40の役割は維持しつつ、アキュムレータ40の延命化が達成される。
【0029】
なお、上記実施の形態においては、パイロット弁30〜33としてパイロット圧油を操作信号としてコントロール弁20〜23を操作する例について説明したが、パイロット弁として電気信号を操作信号として発生させる電気レバー式パイロット弁を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。
【0030】
また、本発明は、作業機が油圧ショベルである場合のみならず、解体機、破砕機、荷役機、スクラップ処理機等、油圧シリンダをアクチュエータとして用いる他の作業機にも適用可能である。また、本発明を実施する場合、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1:下部走行体、1e:走行用油圧モータ、2:旋回装置、2a:旋回用油圧モータ、8:ブーム俯仰用油圧シリンダ、10:アーム回動用油圧シリンダ、12:バケット回動用油圧シリンダ、20〜23:コントロール弁、30〜33:パイロット弁、37:オイルクーラ、38:リリーフ弁、40:アキュムレータ、41:ストップ弁、42,43:シャトル弁、44,45:パイロット管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の油圧シリンダのコントロール弁と油タンクとの間の戻り管路にオイルクーラが設けられ、
前記オイルクーラと前記コントロール弁との間の戻り管路にアキュムレータを接続した作業機の油圧回路において、
前記アキュムレータと前記アキュムレータが接続される前記戻り管路との間に、前記油圧シリンダが収縮する側に操作された時にのみ前記アキュムレータを前記戻り管路に連通させ、前記油圧シリンダが収縮する側に操作された時以外には前記アキュムレータを前記戻り管路に対して遮断するストップ弁を設けたことを特徴とする作業機の油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−225455(P2012−225455A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95108(P2011−95108)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】