説明

作業機械の操作レバー

【課題】作業機械に大きな振動が発生しても、この振動に追従する操作レバーの動きを最小限に抑制する。
【解決手段】運転室に設けたパイロットバルブ装置15の操作手段16は、シャフト部32とグリップ部33とからなる操作レバー31を有するものであり、この操作レバー31のシャフト部32にプッシャ29を押動するカム部34が設けられており、かつグリップ部33に近接する位置には質量と弾性部材とからなる動吸振器40が着脱可能に設けられており、この動吸振器40の質量は大径のリング状部材であり、弾性部材はその内周面に接着され、弾性部材の内周面に取付リングが固着され、この取付リングがシャフト部32に挿通されて、固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の作業機械の操作手段として設けられる操作レバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械は、油圧ポンプを備えており、この油圧ポンプにより油圧シリンダや油圧モータからなる油圧アクチュエータが駆動されることになる。油圧ポンプは複数の油圧アクチュエータを動作させるものであり、各油圧アクチュエータはコントロールバルブを介して油圧ポンプと接続されており、また各油圧アクチュエータからの戻り油はコントロールバルブを介して作動油タンクに還流される。
【0003】
油圧ショベル等が備えている油圧回路は概略以上のようなものであり、コントロールバルブの作動を制御するために、通常、運転室における運転席の前方位置には走行用レバーが設けられ、また左右両側には操作レバーが設けられ、これらはオペレータが手動で操作することになる。操作レバーは、運転席の左右にそれぞれ1本設けられ、操作レバーを左右方向や前後方向に傾動させることによりコントロールバルブの切換操作が行われる。コントロールバルブの制御が油圧パイロット方式で行われる場合には、操作レバーがパイロットバルブに接続して設けられ、操作レバーの操作により油圧源としてのパイロットポンプからの油圧パイロット圧がコントロールバルブを構成する方向切換弁の両端に設けたパイロット室のいずれかに供給されて、この方向切換弁が切り換わることになる。
【0004】
パイロットバルブの具体的構成は特許文献1等に開示されている。パイロットバルブは、コントロールバルブのパイロット室とパイロットポンプとの間に設けたパイロット流路の接続・遮断を行うためのものである。従って、パイロットバルブは流路を開閉するためのスプールを備えており、スプールには復帰ばねが作用している。また、スプールを復帰ばねに抗して押し込むためにプッシャが設けられている。常時においては、スプールは復帰ばねの作用でパイロットポンプとパイロット室との間が連通するのを遮断しており、プッシャを復帰ばねに抗して押し込むと、パイロットポンプとパイロット室との間が接続されて、パイロット室内にパイロット圧が作用して、方向切換弁が切り換わることになる。操作レバーは、パイロットバルブのケーシングに枢支されており、操作レバーの枢支部近傍にはカム部材が装着されている。従って、操作レバーを傾動させると、カム部材でプッシャが復帰ばねに抗して押し込まれて、制御対象となる方向切換弁のパイロット室に連通しているパイロット流路がパイロットポンプと接続される結果、その方向切換弁が切り換わることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−2900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、操作レバーは運転席に着座しているオペレータが手動で前後及び左右に傾動操作するものであり、運転席の左右いずれか一方若しくは双方にコンソールボックスを設けられ、このコンソールボックスに操作レバーが装着されるのが一般的である。操作レバーはパイロットバルブのケーシングから大きく突出させており、真っ直ぐ上方に、または斜め上方に延在させるようにするか、または途中で曲成したものもある。そして、操作レバーの操作性等を勘案して、その高さや角度等が設定されることになる。
【0007】
作業機械の作動中には振動が発生することになり、この振動が操作レバーにも伝達される。操作レバーの基端部はパイロットバルブのケーシングに枢支されており、その先端部は自由状態となっている。従って、作業機械が稼働中は、継続的に振動することになり、その振動が操作レバーに伝達されて、この操作レバーが枢支部を中心として揺動することになる。従って、共振により操作レバーが大きく揺動することになるが、この操作レバーの動きに追従してプッシャが押し込まれる。その結果、方向切換弁のパイロット室にパイロット圧が作用して、方向切換弁が切り換わることになり、油圧アクチュエータの安定性が損なわれることがある。このような事態の発生を防止するために、通常は、操作レバーに所定範囲の無効ストローク(遊び)を持たせて、操作レバーがある程度まで傾けても、無効ストローク分はスプールが切り換わらないように設定している。
【0008】
油圧ショベル等の作業機械においては、不整地走行時や作業時等においては、旋回フレームにピッチング振動やローリング振動、さらには並進振動、ねじれ振動等が発生することになり、これらの振動は極めて大きいものとなることがある。この振動は、当然、操作レバーにも伝達されることになり、作用する振動の大きさによっては、操作レバーが無効ストローク分を越えるまで大きく揺動することもある。無効ストロークをこのような範囲まで広げると、この操作レバーの操作性が低下することになり、望ましいものではない。従って、無効ストロークを持たせるにしろ、この無効ストロークを大きくするのには限度がある。
【0009】
以上のことから、例えば、油圧ショベルが不整地を走行する際には、オペレータは走行レバーを握り、フロント操作レバーを握らない状態となることから、フロント操作レバーは自由振動状態となり、油圧ショベルに加わる振動により操作レバーが大きく揺動することになって、カム部材によりスプールが押し込まれるのを避けることはできない。その結果、意図しない作業手段の動作や旋回動作が生じるおそれがある。特に、操作レバーの操作性の観点から、操作レバーはシャフト部の先端にグリップ部を設けたものから構成するが、シャフト部は細径のものとし、先端側のグリップ部をオペレータが握り易いものとするために、シャフト部に太径のグリップ部を嵌合させて設けるようにする。このために、基端側と比較して、先端が重量化することになり、操作レバーの振動による揺動角が前述した無効ストロークを越える可能性がさらに高くなってしまう。
【0010】
また、スプールに作用させている復帰ばねのばね力を大きくすれば、操作レバーの耐振動性が向上し、その安定性を確保でき、意図しない作動を防止できる。しかしながら、スプールの切り換え操作はこの復帰ばねの付勢力に抗して操作レバーを傾動させる操作を行うものであるから、復帰ばねの付勢力を大きくすると、パイロットバルブの切換操作の操作性が悪くなってしまうという問題点もある。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、作業機械に大きな振動が発生しても、この振動に追従する操作レバーの動きを最小限に抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために、本発明は、シャフト部と、このシャフト部の先端に設けたグリップ部とからなり、パイロットバルブユニットに設けられ、傾動操作することによって、前記パイロットバルブユニットの弁部材を作動させて、油圧源と方向切換弁のパイロット部との間を連通・遮断させる操作レバーであって、前記シャフト部には、質量とばね性部材とからなり、このばね性部材を前記シャフト部に連結して設けることによって、前記質量を前記シャフト部の軸線と交差する方向に振動可能した動吸振器が装着される構成としたことをその特徴とするものである。
【0013】
操作レバーは作業機械、例えば不整地において、土砂の掘削等の作業をする油圧ショベルの運転室に装着されるものであって、作動時には操作レバーに振動が伝達され、しかも振動が継続することにより共振現象を生じることになる。なお、油圧ショベル以外であっても、油圧クレーン、ホイールローダ等といった自走式の作業機械にも設けることができる。
【0014】
動吸振器は質量とばね性部材とから構成されるが、質量は重量物、例えば鋼鉄等といった重量の金属部材で構成することができる。また、ばね性部材は、ゴム等の弾性部材や、板ばね,コイルばね等のばね類から構成することもできる。質量には透孔が設けられており、ばね性部材はこの質量の透孔における内周側に装着される。この動吸振器により吸収可能な振動数は質量の重量とばね性部材のばね定数により決定される。操作レバーはシャフト部とグリップ部とから構成されるものであり、動吸振器は操作レバーの操作の邪魔にならないようにするためにシャフト部に設けられる。シャフト部の基端部は、通常、パイロットバルブユニットのケーシングに枢支させるようにしており、動吸振器はこの枢支部からできるだけ離れた位置、好ましくはグリップ部に近接した位置に設けることになる。
【0015】
動吸振器をシャフト部に装着するために、質量の透孔の内周面に設けられるばね性部材はこの透孔内面に固定して設けるようになし、ばね性部材がシャフト部に対して固定的に保持される。ばね性部材を直接シャフト部に固定することも可能であるが、取付リングを用いて、この取付リングの外周面にばね性部材を装着するようになし、取付リングをシャフト部に着脱可能に固定する構成とするのが望ましい。ばね性部材の取付リング及び質量への連結は着脱可能であっても、また固着するようにしても良い。固着する場合には、接着剤を用いて行うことができるが、ばね性部材を板ばねで構成している場合には、溶着等の手段により固着することもでき、さらに取付リングの外周面にスリットを設けて、板ばねからなるばね性部材の端部を差し込むようにすることもできる。
【0016】
不整地の走行時や土砂の掘削作業等の作業時には、振動がシャフト部及びグリップ部からなる操作レバーに伝達されて、その枢支部を中心として揺動することになり、共振によりさらに大きく揺動する。動吸振器は主振動系として、操作レバーの枢支部を中心とした揺動を抑制するものであるから、質量はシャフト部の軸線と交差する方向、望ましいくはシャフト部の軸線と直交する方向に振動させることによって、有効な吸振機能を発揮することになる。質量がシャフト部の軸線方向または軸線に対する浅い角度方向に動くのは、吸振機能の点で望ましくはない。このために、取付リングの両端には前記質量の前記シャフトの軸線方向への動きを制限するストッパを設ける構成とすることができる。
【0017】
作業機械として、例えば油圧ショベルの運転室には、通常、運転席の左右両側にコンソールが設けられ、操作レバーはこのコンソールに装着されるが、操作性の観点から、操作レバーは運転席に着座したオペレータ側に向けて傾斜するように配置する構成としたものがある。この場合には、操作レバーは重力方向、つまり下方に荷重が作用することから、揺動に方向性がある。このような場合には、質量を偏心させるように対処することができる。例えば下方に曲成されている際には、質量の重心位置は斜め上方の位置になる。
【0018】
パイロットバルブにおいて、操作レバーにより操作される弁部材はケーシング上面から突出するようにして装着される。このために、弁部材とその摺動部との間に塵埃等の異物が侵入するのを防止するために、パイロットバルブの上面から操作レバーにおけるシャフト部までの部位に蛇腹構造等、可撓性部材からなるブーツが装着されるのが一般的である。この場合には、動吸振器はブーツの内部に設けるようにするのが、外観等の見地から望ましい。
【発明の効果】
【0019】
作業機械に大きな振動が発生しても、この振動に追従して操作レバーが動くのを最小限に抑制することができ、操作レバーの揺動が規制されて、意図しない作動、つまり意図しない旋回動作や作業手段の動き等が発生するおそれが少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】パイロットバルブ装置が装着される建設機械の一例としての油圧ショベルの構成説明図である。
【図2】パイロットバルブ装置と、このパイロットバルブ装置により制御されるコントロールバルブの回路構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の一形態を示すパイロットバルブ装置の断面図である。
【図4】図3の動吸振器の操作レバーへの装着部を示す分解斜視図である。
【図5】図3の動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図6】第2の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図7】第3の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図8】第4の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図9】第5の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図10】第6の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図11】第7の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図12】第8の形態における動吸振器を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図13】第9の形態における動吸振器を示す縦断面図である。
【図14】第10の形態における動吸振器を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に建設機械の一例として、油圧ショベルの全体構成を示す。図中において、1は下部走行体、2は上部旋回体、3は下部走行体1と上部旋回体2との間に設けた旋回装置である。上部旋回体2には、オペレータが着座して機械の操作を行うための運転室4が設けられ、また作業手段5が装着されている。作業手段5はブーム6,アーム7及びフロントアタッチメントとしてのバケット8から構成される。
【0022】
下部走行体1による走行、旋回装置3による上部旋回体2の旋回は、それぞれ油圧モータにより駆動されるものである。また、ブーム6,アーム7及びバケット8はそれぞれ油圧シリンダからなるブームシリンダ6a,アームシリンダ7a及びバケットシリンダ8aにより駆動される。これらの油圧モータや油圧シリンダは油圧アクチュエータとして、それぞれ一対からなる入出力ポートが設けられている。そして、一方のポートに圧油を供給し、他方のポートを戻り側とすることにより駆動されるものである。
【0023】
このために、油圧アクチュエータの入出力ポートは、図2に示したように、コントロールバルブ10を介して油圧ポンプ11と、作動油タンク12とに切り換え可能に接続される。コントロールバルブ10は油圧パイロット方式で切り換わるものであり、このコントロールバルブ10の両油圧パイロット部10L,10Rにはそれぞれ油圧パイロット配管13L,13Rが接続されている。そして、油圧パイロット配管13L,13Rの一方をパイロットポンプ14に接続し、他方を作動油タンク12に接続することによりコントロールバルブ10の切り換え制御が行われる。
【0024】
前述したコントロールバルブ10の切り換え制御を行うために、運転室4内にはパイロットバルブ装置15が設けられている。パイロットバルブ装置15は、図3に示したように、操作手段16とバルブユニット17とから構成されるものであって、バルブユニット17のバルブケーシング18には、出力配管として前述した油圧パイロット配管13L,13Rが接続されている。また、バルブユニット17にはパイロットポンプ14からの油圧配管19と、作動油タンク12への戻り配管20とが接続されており、操作手段16を操作すると、パイロット配管13L,13Rの一方がバルブユニット17に接続した油圧配管19と接続され、他方は戻り配管20と接続されている結果、コントロールバルブ10の油圧パイロット部10L,10R間に差圧が生じて、コントロールバルブ10が切り換わることになる。
【0025】
パイロットバルブ装置15は、フロント操作レバー用のものであって、運転室における運転席の側部に設けたコンソールカバー21に設けられる。パイロットバルブ装置15を構成するバルブユニット17はコンソールカバー21より下方に配置されており、操作手段16はコンソールカバー21から突出している。バルブユニット17のバルブケーシング18には、左右に弁室22,22が設けられており、両弁室22にはスプール23が摺動可能に装着されている。弁室22には高圧側となる油圧配管19が接続されている油圧ポート24と、戻り配管20に接続した低圧ポート25とが設けられており、スプール23は出力ポート26を低圧ポート25と油圧ポート24との間に切り換えるためのものである。このために、スプール23は復帰ばね27による付勢力によって、両出力ポート26は共に低圧ポート25に接続された状態となっており、いずれか一方のスプール23が復帰ばね27の付勢力に抗して下方に押し込まれると、出力ポート26が油圧ポート24と接続されて、油圧パイロット信号がコントロールバルブ10における油圧パイロット部10Lまたは10Rのいずれかに供給される。
【0026】
復帰ばね27はばね受け28に作用しており、このばね受け28にはスプール23に連結した連結ロッド23aの先端部が取り付けられている。ばね受け28にはプッシャ29が当接している。バルブユニット17を構成するバルブケーシング18の上端部には弁端板30が連結して設けられており、プッシャ29は弁端板30の表面から上方に突出している。そして、この弁端板30がコンソールカバー21に取り付けられて、このコンソールカバー21にパイロットバルブ装置15が固定されている。前述したバルブユニット17における流路の切り換えはいずれかのプッシャ29を押し込むことにより行われるものである。なお、弁室22及びスプール23、さらにはプッシャ29等からなるバルブユニット17は前後及び左右に2組、合計で4組設けられている。
【0027】
バルブユニット17の操作を行う操作手段16は、プッシャ29を押し込んで、弁室22内でスプール23を摺動変位させるためのものである。このために、操作手段16はフロント操作用の操作レバー31を有し、操作レバー31はシャフト部32に、オペレータが手で把持して操作を行うためのグリップ部33を設けている。この操作レバー31のシャフト部32の基端側位置にはカム部34が設けられており、このカム部34のカム面34aはプッシャ29の先端部と当接している。カム部34で4箇所設けたプッシャ29のいずれかを押動操作するために、操作レバー31は弁端板30に左右及び前後に傾動可能に支承されており、このために弁端板30から突出するようにして枢支部35が設けられ、この枢支部35にユニバーサルジョイント36を介して操作レバー31及びカム部34からなる操作手段16が連結されている。
【0028】
パイロットバルブ装置15がコンソールカバー21に装着された状態では、上方に突出したユニバーサルジョイント36や、カム部34とプッシャ29との当接部を覆うようになし、かつプッシャ29の弁端板30から突出させた部位にはシール部材37が装着されているが、この部位のシール性をより高くするために気密構造とする。このために、操作レバー31のグリップ部33とシャフト部32との境界部から弁端板30までの間にはブーツ38が装着されて、このブーツ38の内部が密閉される。ブーツ38はゴム等のばね性部材から構成された蛇腹構造のものである。
【0029】
図4から明らかなように、シャフト部32に連結されているグリップ部33は、プラスチックやゴム等の部材で構成した握り部33aと芯材33bとから構成されており、ブーツ38の先端はこの握り部33aと芯材33bとの間に差し込まれている。芯材33bにはねじ孔が設けられており、シャフト部32の先端部分はこのねじ孔に螺挿されることになる。シャフト部32には、その先端近傍、つまりグリップ部33に近接した位置に動吸振器40が装着されている。
【0030】
動吸振器40は、図5から明らかなように、質量41と弾性部材42とから構成されており、質量41は所定の重量を有するリング状の部材、例えば金属材からなり、弾性部材42は例えばゴム等からなり、やはり円環状に形成されている。そして、主振動系を構成する操作レバー31の固有振動数とほぼ等しくなるように、質量41の重量と弾性部材42のばね定数を設定することによって、動吸振器40の振動は操作レバー31に伝達される車両の振動とのつりあいによって、この操作レバー31が揺動するのを防止乃至抑制することができる。
【0031】
図5(a)は動吸振器40の平面図であり、図5(b)はその中心位置を含む縦断面図である。動吸振器40における質量41は外周側に位置し、弾性部材42は内周側に位置するものであり、これら質量41と弾性部材42との間は接着等の手段により固着されている。そして、弾性部材42の内周面は取付リング43の外周面に接着等の手段で固着され、取付リング43はシャフト部32に着脱可能に固定されることになる。動吸振器40はブーツ38の内部に配置されており、その取付リング43がシャフト部32に装着されている。取付リング43の上下の位置には、上下のストッパ45,46が設けられており、取付リング43は上下のストッパ45,46間に挟持されている。そして、シャフト部32におけるストッパ45,46の下方位置にはナット47が螺挿されており、取付リング43及び両ストッパ45,46はナット47によりグリップ部33に固定的に保持されるようになっている。
【0032】
上部側のストッパ45は、グリップ部33の芯材33bと一体に設けるか、または別部材として構成することになる。そして、ナット47をシャフト部32に螺挿しておき、ストッパ46及び動吸振器40を順次シャフト部32に螺合させ、この状態でシャフト部32の先端をグリップ部33の芯材33bに螺入することによって、動吸振器40を組み込んだ状態でシャフト部32とグリップ部33とが連結される。ここで、シャフト部32と取付リング43との間は螺合しており、これによって動吸振器40のシャフト部32への取り付け部はがたつくおそれがなくなる。なお、動吸振器40は、その質量41が多少の隙間を介してではあるが、ストッパ45,46間に配置されており、質量41と弾性部材42との間及び弾性部材42と取付リング43との間の接着剤が劣化しても、シャフト部32から脱落するおそれはない。
【0033】
動吸振器40は、操作レバー31が振動したときに、この操作レバー31の振動に共振させることによって、操作レバー31の振動を抑制するためのものである。この操作レバー31の振動を有効に抑制するには、操作レバー31の全長と全重量との関係で、質量41の重量とばね性部材としての弾性部材42のばね定数とを適宜設定する必要がある。そして、操作レバー31の動きは枢支部35を中心とした揺動となるので、動吸振器40における質量41の振動方向としては、シャフト部32の軸線と概略直交する方向乃至それから多少の角度を持った方向に限定することによって、より高い振動吸収機能を発揮することになる。
【0034】
ストッパ45,46はこの質量41の動きをシャフト部32の軸線とほぼ直交する方向に限定するためのものであり、ストッパ45,46と質量41との間には、僅かに隙間を持った状態とすることによって、可動範囲を限定する。ただし、取付リング43の上下の端部には所定の厚みを有するフランジ部43a,43aが形成されており、従って弾性部材42はストッパ45,46に対して非接触状態に保たれ、質量41の動きがストッパ45,46により制限されるのを防止している。
【0035】
油圧ショベルが作動中は、上部旋回体2の全体が振動することになり、この振動が操作レバー31に伝達されて、枢支部35を中心として先端側が揺動し、共振作用により大きく揺動することになる。操作レバー31におけるシャフト部32には動吸振器40が装着されており、操作レバー31の揺動に追従して、動吸振器40を構成する質量41がシャフト部32の軸線と交差する方向に振動することになる結果、主振動系を構成する操作レバー31の揺動が抑制される。従って、意図しないにも拘わらず、いずれかの油圧アクチュエータが作動してしまう等といった事態が発生することはない。
【0036】
このように、操作レバー31の吸振機能を発揮させるために、動吸振器40を設けているが、この動吸振器40は操作レバー31のシャフト部32の周囲に装着される小型でコンパクトな構造のものであることから、操作レバー31全体として格別大型化することはない。しかも、動吸振器40はブーツ38の内部に設けられており、外部に露出していないので、操作レバー31の振動吸収機構を設けないものと外観上差異はない。
【0037】
ところで、シャフト部32はその全体が真っ直ぐな棒状部材とすることもできるが、運転席に着座して行われる操作レバー31の操作性を考慮して、図3に示したように、グリップ部33を傾斜させている。このために、シャフト部32には、その中間位置で曲げられており、基端側から途中までの部位は鉛直部32aとなり、この鉛直部32aから傾斜部32bとなる。に曲げ部が形成されており、この曲げ部Bより基端側は真っ直ぐ延在されて、枢支部35に枢着されている。従って、シャフト部32の先端側に連結されているグリップ部33は運転席に着座しているオペレータの手前側に向けて先端側が立ち上がるように曲っており、グリップ部33の操作に対する負担軽減を図っている。
【0038】
このように、鉛直部32aと傾斜部32bとからなるシャフト部32を有する操作レバー31にあっては、その重心位置は、この操作レバー31の揺動中心となる枢支部35の鉛直線の位置から偏寄した位置となっている。従って、油圧ショベルが稼働中には、操作レバー31はグリップ部33がより傾く方向、つまり重力方向には振れ幅が大きく、それとは反対方向、つまり反重力方向の振れ幅は小さいものとなる。このために、動吸振器を構成する質量とばね性部材とを取付リングに対して同心円とするのではなく、偏心させるようにする。
【0039】
図6(a),(b)に示した動吸振器40Aは、楕円形状とした質量41Aを用いて、その中心から長手方向に偏寄した位置に透孔を形成して、その内部に前述した第1の実施の形態で示したと同様の弾性部材42Aを接着手段で固着する。そして、弾性部材42Aは取付リング43Aの外周面に固着して設けるようにする。また、図7(a),(b)に示した動吸振器40Bは、平面状態では長方形で、所定の厚みを有する質量41Bを用い、この質量41Bには長手方向に偏寄した位置に取付リング43Bに連結されている弾性部材42Bを装着するための透孔を形成する。
【0040】
動吸振器40A,40Bは、それらの質量41A,41Bの突出している側を反重力方向、つまり上方を向けた状態にしてシャフト部32における傾斜部32bに固定される。これによって、操作レバー31の揺動時に、下方に向けて倒れる方向の動きに対して、質量41A,41Bが振動する際に、反重力方向に慣性力が作用することになるので、曲げを有する操作レバー31に対して高い振動吸収機能を発揮させることができる。
【0041】
油圧ショベルの作動時には、運転室4を設けた上部旋回体2は様々な方向に振動する。具体的には、ピッチング振動やローリング振動、さらには並進振動、ねじれ振動等といったものである。そして、カム部34のカム面34aが当接しているプッシャ29は4箇所設けられている。従って、操作レバー31は左右及び前後の各方向に揺動するものであって、しかも揺動方向及び揺動時に作用する慣性力等が方向によっては異なってくる。例えば、土砂の掘削時に作用するピッチング振動は振動の振幅が大きく、ローリング振動は振幅が比較的小さく、また両者は振動の周波数も異なる。ピッチング振動は主に上部旋回体2の前後方向に作用するものであり、ローリング振動は主に上部旋回体2の左右方向に作用するものである。そこで、図8(a),(b)に示したように、動吸振器40Cとして、質量41Cの大きさや形状はともかく、この質量41Cと取付リング43Cとの間に設けられる弾性部材42Cを、概略90度分の円弧状のピースを連結して円環状に形成したものを用いることができる。そして、弾性部材42Cを構成する各ピースのばね定数を変えるようにする。図中において、円弧状ピース42hCはばね定数の大きい硬質ピースであり、円弧状ピース42sCはばね定数の小さい軟性ピースとしたものが示されている。例えば、比較的高い周波数で上下に振動するピッチング振動時に対しては、上下のピースを硬質ピース42hCから構成し、比較的低い周波数で水平方向に振動するローリング振動に対しては、左右のピースを軟性ピース42sCとする。これによって、作用する振動の性質に応じて動吸振器40に最適なばね定数を持たせることができる。
【0042】
前述した各実施の形態では、動吸振器を構成するばね性部材としては、ゴム等の弾性部材を用いるものとして説明したが、図9(a),(b)に示したように、質量51と取付リング53との間に板ばね52を介在させる構成とした動吸振器50を用いることができる。板ばね52は、山折れ部と谷折れ部とを有するように折り曲げたものからなり、円環状となるようにして両端を連結した無端状のものとなっている。そして、板ばね52の山折れ部の先端は質量の内周面に、また谷折れ部の先端は取付リング53の外周面に、それぞれ押圧されるようにして組み立てられる。
【0043】
ここで、動吸振器50は、その取付リング53が操作レバー31のシャフト部32に挿通させた状態にして固定されており、操作レバー31の枢支部35を中心とした揺動動作の吸収が行われる。操作レバー31の揺動動作の吸収を行うためには、質量51は基本的にはシャフト部32の軸線と直交する方向に振動させ、それ以外の方向には振動しないようにするのが望ましい。板ばね52の山折れ部と谷折れ部とを質量51の内周面と取付リング53の外周面とに固定することによって、外力が作用したときには、質量51はシャフト部32の軸線と直交する方向に振動することになり、共振作用によって、主振動系であるシャフト部32の振動なり揺動なりを抑制することができる。このように、ばね性部材を板ばね52から構成しているので、質量51はこの吸振方向のみの動きが可能となり、それ以外の方向、に例えばシャフト部32の軸線方向等には動かないことから、高い振動吸収機能を発揮する。
【0044】
この動吸振器50にあっては、板ばね52はその板面方向に撓むものであり、それ以外の方向には変形することがない。従って、動吸収器50をシャフト部32に装着したときに、質量51のシャフト部32の軸線方向への動きを規制する必要はなく、この質量51の動きを規制するためのストッパを設ける必要はない。しかしながら、動吸振器50は、質量51,板ばね52が脱落しないようにするためには、取付リング53の両端にストッパ55、56を設けるようにする。質量51は板ばね52の作用によりシャフト部32の軸線方向に動くことはないので、このストッパ55,56は、質量51の両側端面に少なくとも部分的に接触させるようにする。
【0045】
また、図10(a),(b)に示したように、動吸振器50Aを構成する質量51Aの内周面と、取付リング53Aにおける外周面とにそれぞれ両端にフランジ部51Af,53Afを形成して、板ばね52Aの山折れ部と谷折れ部とをそれぞれ挟持させるように構成することもできる。このように構成すると、板ばね52Aを質量51Aと取付リング53Aとの間に挟持させるようにして動吸振器50Aを組み立てることができる。この状態で質量51A及び板ばね52Aは安定的に保持され、取付リング53Aから脱落するおそれはないので、ストッパは設ける必要はない。
【0046】
また、図11(a),(b)に示した動吸振器50Bは、V字状に形成した複数の板ばね52Bを用いたものであり、この板ばね52Bの拡開する脚片部は取付リング53Bの外周面に所定の角度間隔で形成した取付溝54Bに挿入されている。そして、各板ばね52Bの頂点の部位は質量51Bの内周面に圧接されており、これによって質量51Bは板ばね52Bを介して取付リング53Bに固定的に保持される。この場合には、質量51Bは固着されていないので、脱落防止を図るために、この質量51Bをストッパ55B,56Bで挟持させるように構成している。しかも、取付溝54Bは取付リング53Bにおけるストッパ56Bが接合される側の端部が開口しており、ストッパ56Bが組み込まれることによって、そのフランジ部56Bによって板ばね52Bが脱落しないように保持される。
【0047】
さらに、図12(a),(b)に示した動吸振器50Cは、複数枚の板ばね52Cを用いて、それらの一端側を質量51Cの内周面に、他端側を取付リング53Cの外周面に溶着する構成としている。
【0048】
そして、ばね性部材として板ばねを用いた場合にあっても、図7(a),(b)に示したように、動吸振器40Cと同様、振動方向によりばね定数に差を持たせるように構成することもできる。例えば、図13に示したように、動吸振器50Dを構成する質量51Dと取付リング53Dとの間に、山折れ部と谷折れ部とを有するように曲成した板ばね52Dを介在させる構成としたものにおいて、板ばね52Dの山折れ,谷折れのピッチ間隔を図中の上下の部位を密にし、左右の部位を粗にするというように、ピッチ間隔を変えるようにすることができる。また、図14に示したように、複数枚の板ばね52Eを質量51Eと取付リング53Eとの間に固着して設けた動吸振器50Eにあっては、板ばね52Dの枚数と固着位置とを円周方向に変化させるように構成することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 下部走行体、 2 上部旋回体、 4 運転室、 15 パイロットバルブ装置、 16 操作手段、 17 バルブユニット、 21 コンソールカバー、 23 スプール、 27 復帰ばね、 29 プッシャ、 31 操作レバー、 32 シャフト部、 33 グリップ部、 34 カム部、 40,40A,40B,40C,50,50A,50B,50C,50D,50E 動吸振器、 41,41A,41B,41C,51,51A,51B,51C,51D,51E 質量、 42,42A,42B,42C 弾性部材、 52,52A,52B,52C,52D,52E 板ばね、 43,43A,43B,43C,53,53A,53B,53C,53D,53E、 45,46,44,55,56,55B,56B ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト部と、このシャフト部の先端に設けたグリップ部とからなり、パイロットバルブユニットに設けられ、傾動操作することによって、前記パイロットバルブユニットの弁部材を作動させて、油圧源と方向切換弁のパイロット部との間を連通・遮断させる操作レバーであって、
前記シャフト部には、質量とばね性部材とからなり、このばね性部材を前記シャフト部に連結して設けることによって、前記質量を前記シャフト部の軸線と交差する方向に振動可能した動吸振器が装着される
構成としたことを特徴とする作業機械の操作レバー。
【請求項2】
前記シャフト部には取付リングが装着されており、前記質量は前記シャフト部に挿通されるリング状の部材であり、その内周面に前記ばね性部材が固定して設けられており、このばね性部材が前記取付リングに嵌合して設けられ、かつこの取付リングの両端には前記質量の前記シャフトの軸線方向への動きを制限するストッパを設ける構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業機械の操作レバー。
【請求項3】
前記シャフト部は中間に曲成部が形成され、前記取付リングはこのシャフト部の前記曲成部より前記グリップ部に近い側に設け、前記質量の重心位置を偏心した位置となるようにして装着する構成としたことを特徴とする請求項2記載の作業機械の操作レバー。
【請求項4】
前記シャフト部における前記質量の重心位置は反重力方向に偏心した位置となるようにして装着される構成としたことを特徴とする請求項3記載の作業機械の操作レバー。
【請求項5】
前記パイロットバルブの前記弁部材が突出する側を可撓性部材からなるブーツで覆うようになし、前記動吸振器は、このブーツの内部に配置する構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の作業機械の操作レバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−123725(P2012−123725A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275762(P2010−275762)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】