説明

作業監視システム

【課題】 実際の作業中の監視対象者が、その作業を正しく実行できる適正な状態にあるかどうかを正確に監視することができる監視システムを提供することである。
【解決手段】 監視対象作業に対する要求作業精度を満足する特定の監視対象者の大脳新皮質の活性度指数適正範囲を記憶した記憶部3と、監視対象作業の作業中における監視対象者の音声データを入力する音声データ入力部2と、出力部4と、処理部1とを備えたシステムであって、処理部1は、音声データ入力部2から入力された音声データに基づいて脳活性度を算出し、算出した脳活性度が上記活性度指数適正範囲を逸脱したか否かを判定し、活性度指数適正範囲を逸脱したとき警告信号を出力部4に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業状況を監視するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空管制業務のように、一歩間違えば、大惨事になりかねないような仕事では、正確な判断を瞬時に行なうことが要求される。このような作業には、適度な緊張状態が必要であるが、その状態を長時間維持することは難しい。従って、管制官は、定期的に作業を交替し、休憩をとるようにしている。
そして、各管制官が疲労して判断ミスを犯さないように、安全をみて、休憩のタイミングを設定している。しかし、疲労のしやすさなどには個人差があり、人によっては強制的に休憩させられることによって集中力が途切れて、かえって正確な作業ができなくなってしまうことも考えられる。
【0003】
そこで、実際の作業中に、作業者の心身状態を監視し、それに基づいて休憩や作業停止を指示することが考えられる。
このように作業者の作業中の状態を監視するために、作業中の脳活性度を利用するシステムが従来から知られている。
特に、作業者の大脳新皮質が作業を制御し、その活性度が作業性と密接な関連があることが知られているので、従来のシステムでは、作業中に作業者の大脳新皮質の活性度を測定し、その活性度指数に基づいて、休憩や交替を指示するものである。
このシステムは、人の疲労度が大脳新皮質の活性度指数に現れるとともに、疲労や弛緩によって大脳新皮質の活性度指数が低下したときにミスが起こりやすいという考えを前提としたものである。そして、作業中に測定した上記活性度指数の値が、設定値を下回ったとき、注意喚起したり、作業を停止させたりする警告を発するようにしている。ただし、上記設定値は、個人差を無視して一律に定めたものである。
【特許文献1】特許第3686465号公報
【非特許文献1】塩見格一、「発話分析から考える脳機能モデル」、感性工学研究論文集、日本、日本感性工学会、2004年2月、第4巻、1号、p.3−12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来のシステムでは、脳活性度の設定値を決める上で、個人差を無視しているので、次のような問題があった。
例えば、作業中の脳活性度を検出して、その検出値と一律に定めた設定値とを対比して警告を発すると、人によっては、脳活性度が設定値以上でもミスが発生することがあったし、反対に、脳活性度が設定値より低くても、ほとんどミスを犯さないこともあった。つまり、作業上のミスと脳活性度との関係には個人差があるので、上記設定値を一律に定めると、監視対象者が、作業を正しく実行できる状態にあるかどうかを正確に監視することができないという問題があった。
【0005】
この発明の目的は、個人の特性を考慮して、作業を正しく実行できる適正な状態にあるかどうかを正確に監視することができる監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、監視対象作業に対する要求作業精度を満足する監視対象者ごとの大脳新皮質の活性度指数適正範囲を記憶した記憶部と、上記監視対象作業の作業中における監視対象者の音声データを入力する音声データ入力部と、出力部と、処理部とを備え、処理部は、上記音声データ入力部から入力された音声データに基づいて大脳新皮質の活性度指数を算出し、算出した大脳新皮質の活性度指数が上記活性度指数適正範囲を逸脱したか否かを判定し、活性度指数適正範囲を逸脱したとき警告信号を出力部に出力する点に特徴を有する。
なお、上記音声データから算出する大脳新皮質の活性度指数とは、非特許文献1に記載されたSiCECAアルゴリズムに基づいて算出される脳活性度指数のことである。
【0007】
第2の発明は、上記第1の発明を前提とし、上記記憶部に記憶された上記活性度指数適正範囲は、上記監視作業を基にしたテスト作業の実行に従って入力された作業データを、予め記憶された評価基準に基づいた正解数や処理時間等と対比し、テスト作業単位長さあたりの作業精度と、このテスト作業中に検出された大脳新皮質の活性度指数とを対応づけた対応テーブルから特定された、上記監視対象作業の要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数適正範囲である点に特徴を有する。
上記監視対象作業を基にしたテスト作業とは、監視対象作業に要求される能力が求められる作業のことであり、例えば、監視対象作業そのもの、作業の種類を同じにした模擬作業あるいは作業の種類が異なっても要求される能力が同じ作業などが含まれる。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、特定の作業に対応させた監視対象者ごとの大脳新皮質の活性度指数適正範囲と、実際の作業中の大脳新皮質の活性度指数とを対比できるので、実際の作業中に監視対象者の作業が適正な状態にあるかどうかを正確に監視することができる。
つまり、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相関性は、作業者によっても作業の種類によっても異なることがわかったので、本願発明は、作業ごとに、監視対象者ごとの大脳新皮質の活性度指数適正範囲を記憶させて、この活性度指数適正範囲と作業中の大脳新皮質の活性度指数とを比較するようにした。従って、作業ごとであって、しかも監視対象者ごとに、作業が適正かどうかを正確に判断でき、適切なタイミングに警告信号を出力できる。
このように適切なタイミングに警告信号を出力できるので、事故や作業ミスを少なくできる。
【0009】
また、実際の作業中における大脳新皮質の活性度指数を、監視対象者の音声データを基に算出しているので、例えば、脳の酸素量や血流量などから大脳新皮質の活性度指数を算出する場合に比べて、大脳新皮質の活性度指数を検出するための装置を簡略化することができる。大脳新皮質の血流量や酸素消費量はPET(positron
emission tomography)やトポグラフ装置などで測定できるが、このような装置に比べて、この発明の音声データ入力部は圧倒的に小型化できるうえ、監視対象者に生体情報の検出機器などを取り付ける必要もない。
【0010】
第2の発明によれば、実際の作業を基にしたテスト作業から大脳新皮質の活性度指数適正範囲を設定するようにしたので、作業ごとに正確な活性度適正範囲を設定できる。結果として、監視対象者の状況をより正確に監視できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1〜図7にこの発明の実施形態を示す。
この実施形態の作業監視システムは、図1に示すとおり、処理部1と、この処理部1に接続した、音声データ入力部2と、活性度指数適正範囲記憶部3と、出力部4とを備えている。
上記音声データ入力部2は、監視対象者の作業中に発する音声を取り込んで、処理部1に入力する機能を備えたものであり、マイクロホンとA/D変換手段とからなる。
【0012】
上記活性度指数適正範囲記憶部3は、特定の作業に対する監視対象者の大脳新皮質の活性度指数適正範囲を記憶した記憶部であり、図2に示ように、作業、監視対象者である作業者及び活性度指数適正範囲を対応づけて記憶している。上記活性度指数適正範囲とは、上記特定の作業に要求される要求作業精度を満足する脳活性度の範囲のことである。そして、上記要求作業精度とは、作業の種類によって予め設定するものであり、例えば、僅かな失敗も許されない作業の場合には、その要求精度は高く設定される。
そして、上記大脳新皮質の活性度指数適正範囲の特定方法については後で詳しく説明するが、要するに、作業者の大脳新皮質の活性度指数が上記活性度指数適正範囲内にあるとき、その作業の作業精度が要求精度を満足するということである。そして、このような活性度指数適正範囲を、作業ごと、監視対象者である作業者ごとに活性度指数適正範囲記憶部3に記憶させておくようにする。
【0013】
また、上記処理部1は、作業を実行している監視対象者の音声データを、その作業中に音声データ入力部2を介して取り込み、その音声データから大脳新皮質の活性度指数を算出する機能を備えている。また、処理部1は、算出した脳活性度を作業に対応した活性度指数適正範囲と対比して、その範囲から上記算出した監視対象者の大脳新皮質の活性度指数が逸脱したとき、警告信号を上記出力部4に出力する機能を備えている。上記警告信号が入力された上記出力部4は、外部に対して警報を発したり、警告灯を点灯させたりする。
【0014】
次に、上記大脳新皮質の活性度指数適正範囲は、どのようにして特定するのかを説明する。
図3には、特定の作業に対する大脳新皮質の活性度指数適性範囲を算出する適正範囲算出装置を示している。この実施形態の適正範囲算出装置は、この実施形態の作業監視システムの監視対象者を作業者としてテスト作業を実行させ、このテスト作業に対する活性度指数適正範囲を算出するための装置で、この実施形態では、図1に示す作業監視システムとは別装置である。ただし、この活性度指数適正範囲算出装置を、この発明の作業監視システムに組み込むこともできる。
【0015】
上記適正範囲算出装置は、この作業監視システムの監視対象者の監視対象作業に対する大脳新皮質の活性度指数適正範囲を算出する演算部11を備え、この演算部11には、監視対象者となる作業者の音声データを入力するための音声データ入力部12と、テスト作業の実行結果である作業データを入力する作業データ入力部13とを接続している。
上記音声データ入力部12は、作業者の大脳新皮質の活性度指数の基になる音声データを取り込むためのもので、具体的にはマイクロホンと、A/D変換手段とからなる。また、作業データ入力部13には、作業者がテスト作業の作業データを入力するための、マウスやキーボードなどの操作部14を接続している。
【0016】
さらに、上記演算部11には、この装置で実行するテスト作業のシナリオを記憶したテストシナリオ記憶部15と、テスト作業の結果を評価するための評価基準を記憶した評価基準記憶部16と、テスト作業に要求される作業精度を記憶した要求作業精度記憶部17と、上記音声データ入力部12及び作業データ入力部13から入力されたデータを記憶するデータ記憶部18と、データ出力部19とを接続している。
データ出力部19は、演算部11での処理結果である、活性度指数適正範囲などを出力する機能を備えている。
ここでは、データ出力部19にディスプレイ10を接続し、演算部11が算出した大脳新皮質の活性度指数適正範囲を表示させるようにしている。そして、表示された活性度指数適正範囲を、上記作業監視システムの活性度指数適正範囲記憶部3に手入力するようにしているが、作業監視システムの処理部1に、適正範囲算出装置の演算部11の機能を組み込んで、処理部1が算出した活性度指数適正範囲を算出して、それを上記活性度指数適正範囲記憶部3に記憶させるようにしてもよい。
【0017】
また、この適正範囲算出装置では上記データ出力部19に接続したディスプレイ10は、上記したように演算部11が算出した活性度指数適正範囲を表示させるとともに、テスト作業を模擬作業としたときには、テスト作業を表示させるようにしている。
図4は、例えば、交通速度違反の取締りで違反者を認定する担当警察官用のテスト作業を示すもので、動画に表示された自動車の情報を、作業者に入力させるようにしたものである。なお、作業者が入力すべき自動車の情報とは、走行中の車線や、大型車、普通車、軽自動車などの別、あるいは色、ナンバーなどである。
【0018】
上記ディスプレイ10には、動画ウインドウ10aのほかに、車線を特定する「1」、「2」、「3」からなる車線番号入力ボタン10bや、「大」、「普」、「軽」からなる自動車の型入力ボタン10c、「濃」、「中」、「淡」からなる色入力ボタン10d、「0」〜「9」の数字からなるナンバー入力ボタン10eなどを表示するようにしている。
【0019】
そして、作業者は、これらの入力ボタンをマウスでクリックした後に、エンターボタン10fをクリックして、動画エリア10a内を通過する自動車の情報を入力するようにする。ここでは、車線番号入力ボタン10bがクリックされると、一時的に動画が停止して自動車を静止させて見え易くする。また、型入力ボタン10c、色入力ボタン10d、ナンバー入力ボタン10eをクリックしてエンターボタン10fをクリックすると動画が再起動されるようにしている。
なお、図中符号10gは、入力されたナンバーを表示するナンバー表示欄であり、符号10hは、入力データを訂正するためのクリアボタンである。
【0020】
なお、この発明の作業データとは、作業者が入力する自動車情報である。
そして、上記テスト作業のための画面を表示させ、作業者によって入力される作業データに応じて、動画を停止させたり再生したりするプログラムは、テスト作業のシナリオとして、上記テストシナリオ記憶部15に予め記憶させておく。
また、上記評価基準記憶部16には、動画中に現れる全ての自動車に関する上記情報を、例えば、動画の再生開始からの経過時間や、動画の進行などに対応づけ、正解データとして記憶させておく。上記処理部1は、この正解データと作業者が入力した作業データとを対比して、後で説明する作業精度を算出する。
【0021】
また、上記テストシナリオ記憶部15に記憶されているテストシナリオには、テスト作業中の作業者に、発声を促すための発声誘引信号を出力するタイミングも設定されている。演算部11は、このテストシナリオに設定されている発声誘引信号の出力タイミングに、発声誘引信号を出力する。上記発声誘引信号の出力とは、例えば、作業者に朗読させる言葉をディスプレイ10に表示させたり、発声を促す音声信号を例えばスピーカなどから出力したりするものである。
そして、演算部11は、上記発生誘引信号を出力するとともに、それと同時に音声データ入力部12の機能をオンにして、作業者の音声を取り込めるようにしている。
【0022】
以下には、この実施形態の適正範囲算出装置において図4に示す画面を用いたテスト作業を実行して作業者の作業適性を判定する手順を説明する。
演算部11は、スタート信号が入力されると、テストシナリオ記憶部15が記憶しているシナリオに基づいて、ディスプレイ10に、動画ウインドウ10aを含むテスト作業画面を表示させる。
作業者は、マウスなどの操作部4を操作して必要情報を入力するが、テスト作業を開始する前に、作業者情報も入力するようにしている。作業者情報とは、氏名や性別などで、テスト作業を実行する作業者を特定するための情報である。ただしこのシステムに予め作業者属性などを記憶させておいて、テスト作業時には、作業者IDだけを入力させるようにしてもよい。
【0023】
テスト作業が開始し、作業者が作業データを入力すると、その作業データは作業データ入力部13を介して演算部11に入力される。演算部11は、入力された作業データを、上記シナリオの進行度、例えば動画の再生時間や、動画データのコマ数などと対応づけてデータ記憶部18に記憶させる。
また、演算部11は、上記シナリオを進行させながら、上記した発声誘引タイミングになったときには、発声誘引信号として朗読画面をディスプレイ10に表示させ、音声データ入力部12から音声データを取り込む。演算部11は、取り込んだ音声データも、シナリオの進行度に対応づけて上記データ記憶部18に記憶させる。
【0024】
上記シナリオに従って全てのテスト作業が終了したら、演算部11は、データ記憶部18に蓄積した作業データ及び音声データを次のような処理を実行する。
まず、演算部11は、収集した作業データを、上記評価基準記憶部16が記憶している正解データと対比して、シナリオの進行に応じたテスト作業単位長さあたりの作業精度を算出する。なお、この単位長さは、時間やコマ数など、テスト作業ごとに設定しておくことができる。
そして、作業精度は、上記単位長さ中に入力された作業データと、その単位長さ中に入力されるべき正解データとを対比して、作業者が入力した作業データの正誤、入力データ数の過不足、データ入力タイミングなどから算出されたもので、特定のテスト作業をどれだけ正確にできたかを示す値である。そして、正解と判断する基準や、作業精度の算出方法は、テスト作業ごとに、予め評価基準記憶部16に記憶させておく。
【0025】
図4に示した動画中に走行する自動車を観察して、その情報を入力するテスト作業の場合、入力された作業データに対応した自動車の台数についての評価基準、入力情報内容の正誤についての評価基準、入力タイミングについての評価基準などを、それぞれ定めている。なお、上記入力タイミングについての評価とは、同じ正解データが入力されても、動画ウインドウ10a内に自動車が現れてすぐに作業データが入力された場合と、動画ウインドウ10aから消える寸前に入力された場合とでその反応速度が異なるので、その反応速度ごとに評価を変えるということである。
【0026】
そして、項目ごとに、その評価基準によって作業データを評価し、その結果を総合化したものを作業精度として算出する。
さらに、演算部11は、収集した音声データから、非特許文献1に記載されたSiCECAアルゴリズムに従って大脳新皮質の活性度指数を算出する。
【0027】
そして、演算部11は、算出した大脳新皮質の活性度指数を、その活性度指数の基になる音声データの入力時に対応した、上記単位長さ当たりの作業精度に対応づける。これらのデータの対応づけは、次のようにしている。
図5に示すように、テスト作業が連続的に行われ、テスト作業データも連続的に入力された場合、演算部11は、テスト作業の進行時間を単位時間Δt1、Δt2、・・・に区切って、この単位時間ごとに作業精度を算出する。一方、音声データV1がΔt1内に入力され、別の音声データV2がΔt2内に入力された場合、上記音声データV1に基づいて算出した大脳新皮質の活性度指数を単位時間Δt1の作業精度に対応づけ、音声データV2に基づいて算出した大脳新皮質の活性度指数を単位時間Δt2の作業精度に対応づける。
【0028】
ただし、テスト作業のシナリオによっては、作業データが入力されている単位時間外に、音声データが入力される場合もある。例えば、作業が一区切りするたびに発声誘引信号が出力されて、そのたびに音声データが入力される場合には、音声データが入力された直前又は直後の単位長さあたりの作業精度を、上記音声データを基にした大脳新皮質の活性度指数に対応づけるようにする。なお、音声データが入力された直前又は直後のいずれを選択するかは、予め設定しておくものである。
【0029】
演算部11は、上記のようにして算出した作業精度と大脳新皮質の活性度指数との対応テーブルを作成する。この対応テーブルの値は、横軸を大脳新皮質の活性度指数S、縦軸を作業精度Aとした、図6のグラフで表すことができる。そして、図6に示した実線のグラフG1は、特定の作業者Xのテスト作業Iに関するデータである。そして、グラフG1は、各シナリオ進行の単位長さに基づいて対応させた作業精度と大脳新皮質の活性度指数とを表す複数の点P1、点P2、P3・・・Pmをプロットしたものの集合で、大脳新皮質の活性度指数Sと作業精度Aとの相関を表している。また、グラフG2は、別の作業者Yのデータである。
このように、同じテスト作業Iを行なった場合にも、作業者によって作業精度と大脳新皮質の活性度指数との対応グラフが異なる。
【0030】
なお、横軸や縦軸には、テスト作業の進行にかかわる時間要素が含まれていない。従って、図6に示すグラフには作業精度の経時的な変化は表れていない。時間的な変化との相関性は一切ない。
ただし、大脳新皮質の活性度指数が高い状態は緊張常態であり、低い常態は弛緩状態ということができるので、監視対象作業を長時間継続した場合には、疲労により弛緩状態になり、大脳新皮質の活性度指数が低くなる傾向がある。
また、別の実験によって、同一作業者の場合、同一作業を行なっている間、作業時間にかかわりなく、大脳新皮質の活性度指数が同じなら作業精度がほとんど同じであることを確認している。従って、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相関を示した図6に示すグラフ特性は、当該作業における個人である作業者Xあるいは作業者Yの基本的な能力を表すものと考えられる。
【0031】
一方で、同一作業者であっても、作業の種類によって、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相関性が異なることも確認している。図7には、作業者Xが、テスト作業Iを実行したときと、テスト作業IIを実行したときの大脳新皮質の活性度指数と作業精度との対応テーブルを、それぞれ実線のグラフG1、一点鎖線のグラフG3で表している。
なお、上記テスト作業I、テスト作業IIは、それぞれ実際に監視対象となる作業I、IIに対応するものである。上記したように、テスト作業I、IIと監視対象作業I、IIとは、まったく同じ必要はないが、テスト作業は、監視対象作業を実行する場合と同様の能力が要求され、監視対象作業中の脳活性度と作業精度との対応関係を再現できるものであればよい。従って、上記テスト作業I、IIに基づいて算出された活性度指数適正範囲はそのまま、監視対象作業I、IIに適用できるものである。
【0032】
上記のようにして図6、図7のグラフに示す対応テーブルを作成したら、演算部11は、上記要求作業精度記憶部17から、テスト作業に応じた要求作業精度を特定し、これを満足する大脳新皮質の活性度指数の範囲を特定する。そして、演算部11は、上記特定した大脳新皮質の活性度指数の範囲を活性度指数適正範囲としてデータ出力部19へ出力する。
例えば、上記要求作業精度をA1とした場合、図6のグラフG1がこれを満足する活性度指数適正範囲はSx1ということになる。言い換えれば、この作業者Xは、大脳新皮質の活性度指数が上記活性度指数適正範囲Sx1内にあるとき、上記テスト作業Iの要求作業精度を満足することになる。
【0033】
同様に、作業者Yの作業Iに対する活性度指数適正範囲Sy1と、作業者Xの作業IIの活性度指数適正範囲Sx2を特定することができる。このようにして特定した活性度指数適正範囲を、図2に示すように、作業ごと、作業者ごとに、上記活性度指数適正範囲記憶部3に記憶させておく。
なお、図7は、要求作業精度を一定にして特定した作業Iと作業IIとの上記活性度指数適正範囲を示しているが、実際には、作業が異なれば、上記要求作業精度が異なるのが通常で、要求作業精度は作業ごとに設定されるものである。
【0034】
以上のようにして作業ごと、作業者ごとの活性度指数適正範囲が算出し、その値を活性度指数適正範囲記憶部3に記憶させたら、作業監視システムを、いつでも動作させることができる。
以下に、このシステムによって実際の作業を監視する手順を説明する。
この実施形態の作業監視システムを動作させ、実際の作業を開始する前に、作業者Xが、作業を特定するための作業IDと作業者を特定するための作業者IDなどを図示しない操作部から入力する。処理部1は、入力された作業IDと作業者IDとに基づいて、作業者Xの作業Iに対する活性度指数適正範囲Sx1を、活性度指数適正範囲記憶部3から特定し、この活性度指数適正範囲Sx1を記憶して以下の処理へ進む。
【0035】
実際の作業Iが開始され、その実行中に作業者Xが音声を発すると、音声データが音声データ入力部2から処理部1へ入力される。上記音声データ入力部2が取り込む音声データは、作業者Xが発する音声ならどのようなものでもかまわないが、例えば、交通速度違反の取締りで違反者を認定する担当警察官の場合には、走行中の車線や、大型車、普通車、軽自動車などの別、あるいは色、ナンバーなどを発声させるようにする。
また、声を出しての安全確認などが義務づけられている作業の場合には、その安全確認用の音声を取り込むことができる。もしも、発話の必要がない作業の場合には、定期的に、発声を促すための合図を出力部4から出すように、処理部1に設定しておくようにする。
【0036】
処理部1は、音声データ入力部2から音声データが入力されたら、その音声データを上記SiCECAアルゴリズムに基づいて処理し、大脳新皮質の活性度指数を算出する。ただし、この作業監視システムの処理部1は、上記演算部11とは異なり、音声データ入力部2から音声データが入力されるたびに大脳新皮質の活性度指数を算出する。
【0037】
処理部1は、算出した大脳新皮質の活性度指数を、先に特定した活性度指数適正範囲Sx1と対比し、この活性度指数適正範囲Sx1から逸脱していないかどうかを判定する。そして、上記算出した大脳新皮質の活性度指数が、上記活性度指数適正範囲Sx1内にある場合には、そのまま処理を継続し、上記活性度指数適正範囲Sx1からはずれた場合には、警告信号を出力部4へ出力し、警報などを発するようにする。
警報が発せられる状態とは、作業者Xの、その時の大脳新皮質の活性度指数が、上記活性度指数適正範囲Sx1を逸脱した状態であって、作業精度が要求作業精度を満足できなくなる状態といえる。このような状態になったときに、上記警告信号の出力によって、作業者に注意を喚起したり、作業を中断させたりし、作業ミスなどを未然に防いでいる。
【0038】
特に、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相対関係は、作業ごと、作業者ごとに異なることが分かったので、作業ごと、作業者ごとの活性度指数適正範囲を特定して記憶することによって、監視対象作業の要求作業精度を満足できなくなるタイミングを、作業者ごとに、より正確に判定でき、正確なタイミングに警告信号を出力できる。
また、この作業監視システムでは、監視対象者である作業者が、実際の作業中に所定のタイミングで音声を発するだけで、作業者の脳活性度を算出できるので、他の方法で大脳新皮質の活性度指数を検出する場合と比べて、装置を小型化することができる。さらに、作業者は、特別な機器を身体に取り付ける必要がないので、作業性が低下することもない。
【0039】
なお、上記実施形態では、作業監視システムの活性度指数適正範囲記憶部3に記憶させる活性度指数適正範囲を算出するためのテスト作業中にも、音声データに基づいて活性度指数を算出するようにしているが、テスト作業中の大脳新皮質の活性度指数の検出方法はこれに限らない。
例えば、脳血流中の酸素量を検出したり、監視対象者の呼気中の酸素濃度を検出したりして、これらのデータに基づいて大脳新皮質の活性度指数を算出するようにしてもよい。ただし、いずれの方法を用いた場合でも、算出した活性度指数適正範囲と、監視対象作業の実行中に音声データに基づいて算出される大脳新皮質の活性度指数とを対比するためには、両者のスケールを合わせる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態の作業監視システム構成図である。
【図2】活性度指数適正範囲記憶部が記憶しているデータの例を示したテーブルである。
【図3】活性度指数適正範囲算出装置の構成図である。
【図4】活性度指数適正範囲を算出するためのテスト作業画面を示した図である。
【図5】音声データ入力タイミングを説明するための図である。
【図6】作業Iを実行した作業者X及びYの、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との対応テーブルを示したグラフである。
【図7】作業者Xが、作業I及び作業IIを実行したときの、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との対応テーブルを示したグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1 処理部
2 音声データ入力部
3 活性度指数適正範囲記憶部
4 出力部
Sx1、Sx2 (作業者Xの)活性度指数適正範囲
Sy1 (作業者Yの)活性度指数適正範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象作業に対する要求作業精度を満足する監視対象者ごとの大脳新皮質の活性度指数適正範囲を記憶した記憶部と、上記監視対象作業の作業中における監視対象者の音声データを入力する音声データ入力部と、出力部と、処理部とを備え、処理部は、上記音声データ入力部から入力された音声データに基づいて大脳新皮質の活性度指数を算出し、算出した大脳新皮質の活性度指数が上記活性度指数適正範囲を逸脱したか否かを判定し、活性度指数適正範囲を逸脱したとき警告信号を出力部に出力する作業監視システム。
【請求項2】
上記記憶部に記憶された上記活性度指数適正範囲は、上記監視作業を基にしたテスト作業の実行に従って入力された作業データを、予め記憶された評価基準に基づいた正解数や処理時間等と対比し、テスト作業単位長さあたりの作業精度と、このテスト作業中に検出された大脳新皮質の活性度指数とを対応づけた対応テーブルから特定された、上記監視対象作業の要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数適正範囲である請求項1に記載の作業監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−108352(P2010−108352A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281299(P2008−281299)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(501152352)独立行政法人電子航法研究所 (44)
【出願人】(595106730)
【Fターム(参考)】