説明

作業車の油圧構造

【課題】部品点数の削減によるより一層の組み付け性やメンテナンス性の向上あるいはコストの削減などを図れるようにする。
【解決手段】ミッションケース2に形成した開口2Aを閉塞する蓋体53に複数の制御バルブ36,38,39,48〜50を装備し、蓋体53の内部に制御バルブ36,38,39,48〜50に対する油路28,30,32,34,41,51,52を形成した作業車の油圧構造において、蓋体53に、複数の制御バルブ36,38,39,48〜50のうちの少なくとも一つの制御バルブ36のバルブボディ36Aを一体形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッションケースに形成した開口を閉塞する蓋体に複数の制御バルブを装備し、前記蓋体の内部に前記制御バルブに対する油路を形成した作業車の油圧構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の油圧構造としては、ミッションケースに左右向きの軸心周りに上下揺動可能に装備したリフトアームを揺動駆動する油圧シリンダに対する制御バルブと、油圧シリンダとは別の油圧機器に対する制御バルブとを蓋体(蓋板)の上面に取り付け、かつ、それらの制御バルブに対する油路を蓋体の内部に形成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−92911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成によると、それぞれの制御バルブを蓋体の所定位置に取り付けることにより、油圧配管を設けることなく、関連する制御バルブ同士を連通接続することができる。つまり、関連する制御バルブ同士を油圧配管を介して連通接続する場合に比較して、部品点数の削減による組み付け性やメンテナンス性の向上、並びにコストの削減などを図ることができる。
【0005】
しかしながら、上記の構成では、複数の制御バルブの全てを蓋体の所定位置に取り付ける手間を要することから、より一層の組み付け性やメンテナンス性の向上あるいはコストの削減などを図る上において改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、部品点数の削減によるより一層の組み付け性やメンテナンス性の向上あるいはコストの削減などを図れるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の課題解決手段では、
ミッションケースに形成した開口を閉塞する蓋体に複数の制御バルブを装備し、
前記蓋体の内部に前記制御バルブに対する油路を形成した作業車の油圧構造であって、
前記蓋体に、複数の前記制御バルブのうちの少なくとも一つの制御バルブのバルブボディを一体形成してあることを特徴とする。
【0008】
この課題解決手段によると、蓋体を、少なくとも一つの制御バルブを一体的に組み込んだバルブ一体構造に構成することができる。これにより、油圧構造に要する部品点数を削減することができ、蓋体に取り付ける制御バルブ(蓋体とは別構造の制御バルブ)の数量を削減することができる。
【0009】
従って、部品点数の削減による組み付け性やメンテナンス性の向上あるいはコストの削減などを図ることができる。
【0010】
本発明の第2の課題解決手段では、上記第1の課題解決手段において、
前記蓋体に一体形成する制御バルブのバルブボディをリリーフバルブのバルブボディとしてあることを特徴とする。
【0011】
この課題解決手段によると、蓋体のバルブボディ形成箇所におけるミッションケースの内部に面する裏面側部分に、リリーフバルブの排出口となる開口を形成することにより、リリーフバルブを経由した作動油を、オイルタンクに兼用するミッションケースの内部に排出することができる。
【0012】
つまり、蓋体とは別構造のリリーフバルブを蓋体に取り付ける場合のように、リリーフバルブの排出口をミッションケースの内部に連通するための油路を蓋体に形成する必要がなくなる。
【0013】
又、その開口を、開口からの作動油がミッションケースの内部に備えた伝動軸や伝動ギアなどに向かうように形成すれば、リリーフバルブから排出する作動油を、伝動軸や伝動ギアなどに対する潤滑油として有効利用することができる。
【0014】
従って、加工工数の削減による製作の容易化やコストの削減を図ることができるとともに、ミッションケースの内部に備えた伝動軸や伝動ギアなどの耐久性の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の第3の課題解決手段では、上記第1又は2の課題解決手段において、
複数の前記制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブのバルブボディを前記蓋体に一体形成しないように構成し、
前記蓋体にバルブボディを一体形成しない複数の制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブのバルブボディを一体形成してあることを特徴とする。
【0016】
この課題解決手段によると、蓋体に備える全ての制御バルブのバルブボディを蓋体に一体形成して、それらの制御バルブを蓋体に一体的に組み込むことによる蓋体の大型化や重量化を防止することができる。これにより、蓋体の大型化や重量化による組み付け性やメンテナンス性の低下を防止することができる。
【0017】
又、蓋体に一体的に組み込まない複数の制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブを、バルブボディを共有する一体構造に構成することができる。これにより、蓋体に一体的に組み込まない複数の制御バルブのそれぞれを個々に蓋体に取り付ける場合に比較して、組み付け工数を削減することができる。
【0018】
従って、組み付け性やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0019】
本発明の第4の課題解決手段では、上記第3の課題解決手段において、
複数の前記制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブが、車体に昇降可能に連結した前記作業装置の昇降に関する昇降用の制御バルブであり、
前記蓋体にバルブボディを一体形成しない制御バルブを前記昇降用の制御バルブとし、
前記昇降用の制御バルブのバルブボディ同士を一体形成してあることを特徴とする。
【0020】
この課題解決手段によると、昇降用の制御バルブを、バルブボディを共有する一体構造に構成することができる。つまり、昇降用の制御バルブをユニット化した状態で蓋体に取り付けることができる。
【0021】
これにより、昇降用の制御バルブをそれぞれ個々に蓋体に取り付ける場合に比較して、組み付け工数を削減することができる。又、使用頻度の高い昇降用の制御バルブを蓋体に一体的に組み込まないことにより、それらの各バルブの交換などのメンテナンスを行う際に、ミッションケースから蓋体を取り外す手間を省くことができる。
【0022】
従って、組み付け性やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0023】
本発明の第5の課題解決手段では、上記第1〜4のいずれか一つの課題解決手段において、
前記蓋体に、開口を形成するとともに、リフトアームの揺動支点軸を回動可能に支持する支持ブロックを前記開口を覆うように取り付け、
前記支持ブロックに、前記揺動支点軸を前記開口に対向させる内部空間を形成してあることを特徴とする。
【0024】
この課題解決手段によると、ミッションケースの内部に備えた伝動ギアが掻き上げるミッションケース内のオイルを、揺動支点軸の回動を円滑にする潤滑油として揺動支点軸に供給することができる。
【0025】
従って、リフトアームの揺動支点軸に専用の潤滑油を塗布する手間を要することなく、リフトアームの作動を長期にわたって円滑にすることができる。
【0026】
本発明の第6の課題解決手段では、上記第5の課題解決手段において、
前記支持ブロックにブリーザ取り付け用の開口を形成するとともに、前記開口と前記蓋体の前記開口とが対向しないように構成してあることを特徴とする。
【0027】
この課題解決手段によると、ミッションケースの内部に備えた伝動ギアの回転によって掻き上げられるミッションケース内の作動油が、ブリーザ取り付け用の開口に向かうことを、蓋体によって阻止することができる。
【0028】
従って、ミッションケース内の作動油が、ブリーザ取り付け用の開口を通ってブリーザから漏れ出す虞を、専用の部材を設けることなく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】トラクタの全体右側面図である。
【図2】トラクタおける後部の縦断右側面図である。
【図3】トラクタの昇降制御構造及びローリング制御構造を示す図である。
【図4】昇降・ローリング用の油圧機構の構成を示す油圧回路図である。
【図5】昇降・ローリング用の油圧機構の平面図である。
【図6】昇降・ローリング用の油圧機構の右側面図である。
【図7】昇降・ローリング用の油圧機構の正面図である。
【図8】昇降・ローリング用の油圧機構における要部の縦断正面図である。
【図9】昇降・ローリング用の油圧機構の底面図である。
【図10】リフトアーム8の支持構造を示す要部の縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車の油圧構造を、作業車の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
図1に示すように、このトラクタは、その前部にエンジン1を搭載してある。エンジン1には、フレーム兼用のミッションケース2を、エンジン1の後部から車体後方に向けて延出するように連結してある。エンジン1の左右両側方には、左右一対の前輪3を操舵可能かつ駆動可能に配備してある。ミッションケース2における後部の左右両側方には、左右一対の後輪4を駆動可能かつ制動可能に配備してある。ミッションケース2の上方には、前輪操舵用のステアリングホイール5や運転座席6などを配備して搭乗運転部7を形成してある。
【0032】
図1〜3に示すように、ミッションケース2の後部には、このトラクタの後部に連結するロータリ耕耘装置やプラウなどの作業装置(図示せず)の昇降操作を可能にする左右一対のリフトアーム8や、対応するリフトアーム8を上下方向に揺動駆動する左右一対のリフトシリンダ9などを配備してある。右側のリフトアーム8は、作業装置連結用としてミッションケース2の後端右下部に上下揺動可能に連結した右側の下部リンク10にローリングシリンダ11を介して連結してある。左側のリフトアーム8は、作業装置連結用としてミッションケース2の後端左下部に上下揺動可能に連結した左側の下部リンク10に連係ロッド12を介して連結してある。左右のリフトシリンダ9には単動型の油圧シリンダを採用し、ローリングシリンダ11には複動型の油圧シリンダを採用してある。
【0033】
つまり、このトラクタは、左右のリフトシリンダ9に対する作動油の流れを切り換えて、左右のリフトシリンダ9を伸縮作動させることにより、作業装置を昇降駆動することができる。又、ローリングシリンダ11に対する作動油の流れを切り換えて、ローリングシリンダ11を伸縮作動させることにより、作業装置をローリング駆動することができる。
【0034】
左右のリフトシリンダ9及びローリングシリンダ11に対する作動油の流れは、昇降・ローリング用の油圧機構13の作動によって切り換える。油圧機構13の作動は、マイクロコンピュータを利用して構成した制御装置14に制御プログラムとして備えた制御手段14Aの制御作動により制御する。
【0035】
制御手段14Aは、作業装置昇降用の第1昇降レバー15の操作位置を検出する第1レバーセンサ16の出力と、リフトアーム8の揺動角を検出するアームセンサ17の出力と、それらの出力を対応させた昇降用の相関関係データとに基づいて、リフトアーム8の揺動角が第1昇降レバー15の操作位置に対応するように油圧機構13の作動を制御する。
【0036】
つまり、第1昇降レバー15を操作することにより、このトラクタの後部に連結した作業装置を、第1昇降レバー15の操作位置に応じた高さ位置に位置させることができる。
【0037】
尚、第1昇降レバー15は、搭乗運転部7における運転座席6の右側方の位置に位置保持可能に配備してある(図1参照)。第1レバーセンサ16及びアームセンサ17には回転式のポテンショメータなどを採用することができる。昇降用の相関関係データは、制御装置14に備えた不揮発性の記憶手段14Bに記憶してある。昇降用の相関関係データには、マップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0038】
制御手段14Aは、作業装置昇降用の第2昇降レバー18の操作を検出する第2レバーセンサ19の出力に基づいて、第2昇降レバー18の上方への操作を検知した場合には、作業装置の上昇限界位置を設定する上限設定器20の出力と、アームセンサ17の出力と、それらの出力を対応させた限界上昇用の相関関係データとに基づいて、リフトアーム8の揺動角が作業装置の設定上限位置に対応するように油圧機構13の作動を制御する。
【0039】
逆に、第2昇降レバー18の下方への操作を検知した場合には、第1レバーセンサ16の出力と、アームセンサ17の出力と、昇降用の相関関係データとに基づいて、リフトアーム8の揺動角が第1昇降レバー15の操作位置に対応するように油圧機構13の作動を制御する。
【0040】
つまり、第2昇降レバー18を操作することにより、このトラクタの後部に連結した作業装置の高さ位置を、上限設定器20により設定した作業装置の上昇限界位置と、第1昇降レバー15により設定した作業装置の高さ位置とに切り換えることができる。
【0041】
尚、第2昇降レバー18は、中立復帰型で、搭乗運転部7におけるステアリングホイール5の右下方の位置に配備してある(図1参照)。第2レバーセンサ19には、第2昇降レバー18の上方への揺動操作に連動して閉操作される常開型の第1接点と、第2昇降レバー18の下方への揺動操作に連動して閉操作される常開型の第2接点とを備えたスイッチを利用して構成したものなどを採用することができる。上限設定器20は搭乗運転部7における運転座席6の右側方の位置に配備してある。上限設定器20には回転式のポテンショメータなどを採用することができる。限界上昇用の相関関係データは記憶手段14Bに記憶してある。限界上昇用の相関関係データには、マップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0042】
制御手段14Aは、作業装置の下降時に、作業装置の作業深さを検出するように作業装置に備えた作業深さセンサ(図示せず)の出力に基づいて、作業装置の接地を検知した場合には、その作業深さセンサの出力と、作業装置の作業深さを設定する作業深さ設定器21の出力と、それらの出力を対応させた定深制御用の相関関係データとに基づいて、作業装置の作業深さが設定作業深さに対応するように油圧機構13の作動を制御する。
【0043】
つまり、このトラクタの後部に、作業深さセンサを備えたロータリ耕耘装置などの接地作業式の作業装置を連結した場合には、作業装置の作業深さを、作業深さ設定器21により設定した作業深さに維持することができる。
【0044】
尚、作業深さ設定器21は搭乗運転部7における運転座席6の右側方の位置に配備してある。作業深さ設定器21には回転式のポテンショメータなどを採用することができる。作業深さセンサには、回転式のポテンショメータを利用して構成したものや、超音波センサを利用して構成したものなどを採用することができる。定深制御用の相関関係データは記憶手段14Bに記憶してある。定深制御用の相関関係データには、マップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0045】
このトラクタには、トラクタのローリング角度を検出する角度センサ22と、トラクタのローリング角速度を検出する角速度センサ23とを装備してある。制御手段14Aは、角度センサ22の出力と角速度センサ23の出力とに基づいて、トラクタの実際のローリング角度を算出する。又、その算出値と、作業装置のローリング目標角度を設定する角度設定器24の出力と、トラクタに対する作業装置のローリング角度とローリングシリンダ11の長さとを対応させたローリング用の相関関係データとに基づいて、ローリングシリンダ11の目標長さを設定する。そして、その設定値と、ローリングシリンダ11の長さを検出するストロークセンサ25の出力とに基づいて、ストロークセンサ25の出力が設定値に対応するように油圧機構13の作動を制御する。これにより、作業装置を角度設定器24で設定した目標ローリング角度に維持することができる。
【0046】
尚、角度センサ22には重水式の角度センサなどを採用することができる。角速度センサ23には振動式のジャイロセンサなどを採用することができる。角度設定器24は搭乗運転部7における運転座席6の右側方の位置に配備してある。角度設定器24には回転式のポテンショメータなどを採用することができる。ストロークセンサ25には摺動式のポテンショメータなどを採用することができる。ローリング用の相関関係データは記憶手段14Bに記憶してある。ローリング用の相関関係データには、マップデータや相関関係式などを採用することができる。
【0047】
図4に示すように、エンジン1からの動力で作動する油圧ポンプ26に、第1供給油路27及び第2供給油路28を介して第1バルブユニット29を接続してある。第1バルブユニット29には、一対の第1給排油路30及び一対の第2給排油路31を介してローリングシリンダ11を接続し、かつ、第3供給油路32を介して第2バルブユニット33を接続してある。第2バルブユニット33には、第3給排油路34及び左右一対の第4給排油路35を介して左右のリフトシリンダ9を接続してある。
【0048】
第2供給油路28には、第1リリーフバルブ(制御バルブの一例)36を接続してある。又、第2供給油路28、一対の第1給排油路30、第3供給油路32、及び第3給排油路34には、それぞれオイルフィルタ37を介装してある。
【0049】
第1バルブユニット29は、油圧ポンプ26からの作動油を昇降用とローリング用とに分流するフロープライオリティーバルブ(制御バルブの一例)38と、ローリング用の電磁比例バルブ(制御バルブの一例)39とを、それらのバルブボディ38A,39Aを一体形成した一体構造に構成してある。電磁比例バルブ39には一対の第1排出油路41を接続してある。
【0050】
第2バルブユニット33は、パイロット操作式の上昇用比例バルブ(制御バルブの一例)42、上昇用比例バルブ42に対するパイロット圧調整用の上昇用パイロットバルブ(制御バルブの一例)43、パイロット操作式の下降用比例バルブ(制御バルブの一例)44、下降用比例バルブ44に対するパイロット圧調整用の下降用パイロットバルブ(制御バルブの一例)45、パイロット圧調整用のシャトルバルブ(制御バルブの一例)46、及び第2リリーフバルブ(制御バルブの一例)47を、共通のバルブボディ48Aに組み入れて構成したモノブロック形の昇降用比例バルブ(制御バルブの一例)48と、上昇用比例バルブ42から左右のリフトシリンダ9への作動油の流動を許容し、左右のリフトシリンダ9から上昇用比例バルブ42への作動油の流動を阻止するチェックバルブ(制御バルブの一例)49と、左右のリフトシリンダ9から下降用比例バルブ44に向けて流れる作動油の流量を制限して左右のリフトアーム8(作業装置)の下降速度を調整する絞りバルブ(制御バルブの一例)50とを備え、昇降用比例バルブ48のバルブボディ48Aにチェックバルブ49のバルブボディ49Aと絞りバルブ50のバルブボディ50Aとを一体形成した一体構造に構成してある。下降用比例バルブ44には第2排出油路51を接続し、第2リリーフバルブ47には第3排出油路52を接続してある。
【0051】
フロープライオリティーバルブ38は、ローリング用の電磁比例バルブ39の作動に基づいて、電磁比例バルブ39がローリングシリンダ11に対する作動油の給排を阻止している場合には、予め設定したローリングシリンダ11に対する限界流量を上限にして、ローリング用の作動油を、オイルタンクに兼用するミッションケース2の内部に電磁比例バルブ39を介して排出し、残りの油量を第2バルブユニット33に供給するように構成してある。又、電磁比例バルブ39がローリングシリンダ11に対する作動油の給排を許容している場合には、予め設定したローリングシリンダ11に対する限界流量を上限にして、ローリングシリンダ11の作動に必要な油量を、電磁比例バルブ39を介してローリングシリンダ11に供給し、残りの油量を第2バルブユニット33に供給するように構成してある。
【0052】
図2及び図4〜9に示すように、第1バルブユニット29及び第2バルブユニット33は、ミッションケース2の後上部に形成した開口2Aを閉塞する蓋体53の上面に装備してある。
【0053】
蓋体53は、その上面側部分と下面側部分とに複数の油路形成箇所を膨出形成した鋳造品であり、それぞれの油路形成箇所に油路形成用の孔を穿設することにより、その内部に、第2供給油路28、一対の第1給排油路30、第3供給油路32、第3給排油路34、一対の第1排出油路41、第2排出油路51、及び第3排出油路52を有するように構成してある。
【0054】
又、蓋体53は、第1リリーフバルブ36のバルブボディ36Aを一体形成することにより、その内部に第1リリーフバルブ36を一体的に組み込んだバルブ一体構造に構成してある。
【0055】
これにより、第1バルブユニット29及び第2バルブユニット33を蓋体53の所定位置に取り付けることにより、油圧配管を設けることなく、関連する制御バルブ同士を連通接続することができる。つまり、関連する制御バルブ同士を油圧配管を介して連通接続する場合に比較して、部品点数の削減による組み付け性やメンテナンス性の向上、並びにコストの削減などを図ることができる。
【0056】
更に、蓋体53を、その内部に第1リリーフバルブ36を組み込んだバルブ一体構造とし、かつ、残りの制御バルブ38〜40,48〜50をユニット化することにより、蓋体53に備える全ての制御バルブ36,38〜40,48〜50を独立形成し、かつ、個々に蓋体53に取り付ける場合に比較して、部品点数の削減による組み付け性やメンテナンス性の向上、並びにコストの削減などを図ることができる。又、蓋体53に備える制御バルブ36,38〜40,48〜50の全て又は多数を蓋体53の内部に組み込むことによる蓋体53の大型化や重量化を防止することができ、蓋体53の大型化や重量化による組み付け性やメンテナンス性の低下を防止することができる。
【0057】
しかも、蓋体53を第1リリーフバルブ36との一体構造に構成することにより、ミッションケース2の内部に面する蓋体の下面側部分に、第1リリーフバルブ36の排出口となる第1開口53Aを形成することによって、第1リリーフバルブ36を経由した作動油をミッションケース2の内部に排出することができる。つまり、蓋体53とは別構造の第1リリーフバルブ36を蓋体53に取り付ける場合に必要となる、第1リリーフバルブ36の排出口をミッションケース2の内部に連通するための専用の油路を蓋体53に形成する、といった手間をなくすことができる。
【0058】
図示は省略するが、各排出油路41,51,52及び第1リリーフバルブ36の排出口である蓋体53の第1開口53Aは、それらからミッションケース2の内部に排出される作動油が、ミッションケース2の内部に備えた伝動軸や伝動ギアなどに向かうように蓋体53に形成してある。これにより、各排出油路41,51,52及び第1リリーフバルブ36から排出する作動油を、伝動軸や伝動ギアなどに対する潤滑油として有効利用することができる。
【0059】
図2、図5、図6及び図9に示すように、第1供給油路27、一対の第2給排油路31、及び左右の第4給排油路35は油圧ホース54〜56により形成してある。
【0060】
図2〜6、図9及び図10に示すように、蓋体53の後部には、オイルゲージ挿通用の第2開口53Bと給油用の第3開口53Cとを形成してある。又、左右のリフトアーム8を一体揺動するように連結する左右向きの揺動支点軸57を回動可能に支持する支持ブロック58を、第2開口53Bと第3開口53Cとを覆うように取り付けてある。
【0061】
支持ブロック58には、その上部に備えた揺動支点軸57の左右中間部を蓋体53の第2開口53Bと第3開口53Cとに対向させる内部空間58Aを、支持ブロック58の底部から揺動支点軸57の左右中間部に向かうように凹入形成してある。これにより、ミッションケース2の内部に備えた伝動ギア(図示せず)の回転によって掻き上げられる作動油を、蓋体53の第2開口53B及び第3開口53Cを通して揺動支点軸57に付着させることができる。つまり、ミッションケース2の内部に備えた伝動ギアが掻き上げる作動油を、揺動支点軸57の回動を円滑にする潤滑油として揺動支点軸57に供給することができる。
【0062】
支持ブロック58の上部には、蓋体53の第2開口53Bに対向するオイルゲージ装着用の第1開口58Bと、蓋体53の第3開口53Cに対向する給油口58Cと、ブリーザ取り付け用の第2開口58Dとを形成してある。第2開口58Dは、蓋体53の第2開口53B及び第3開口53Cと対向しない位置に形成してある。
【0063】
これにより、支持ブロック58の第1開口58Bに装着したオイルゲージ59を取り外すことにより、ミッションケース内の油量を確認することができ、支持ブロック58の給油口58Cに螺着したキャップ60を取り外すことにより、ミッションケース2の内部に潤滑油を兼ねる作動油を供給することができる。又、ミッションケース2の内部に備えた伝動ギア(図示せず)の回転によって掻き上げられる作動油が、ブリーザ取り付け用の第2開口58Dに向かうことを蓋体53によって阻止することができ、ブリーザ取り付け用の第2開口58Dを通ってブリーザ61から漏れ出すことを防止することができる。
【0064】
〔別実施形態〕
【0065】
〔1〕作業車としては乗用田植機や乗用草刈機などであってもよい。
【0066】
〔2〕蓋体53としては、第2供給油路28、第1給排油路30、第3供給油路32、第3給排油路34、第1排出油路41、第2排出油路51、及び第3排出油路52以外の他の油路を形成したものであってもよい。
【0067】
〔3〕蓋体53としては、複数の油路(溝)28,30,32,34,41,51,52を形成した中間プレート部材と、それらの油路28,30,32,34,41,51,52をミッションケース2の内部や対応する制御バルブ36,38〜40,48〜50に連通する複数の連通孔を形成した上下のプレート部材とからなる複層構造のものであってもよい。この構成においては、上下のプレート部材のうちのいずれか一方を、制御バルブ36,38〜40,48〜50のバルブボディ36A,38A〜40A,48A〜50Aのいずれかを一体形成した鋳造品とすればよい。
【0068】
〔4〕蓋体53に、フロープライオリティーバルブ38のバルブボディ38A、ローリング用の電磁比例バルブ39のバルブボディ39A、昇降用比例バルブ48のバルブボディ48A、チェックバルブ49のバルブボディ49A、及び絞りバルブ50のバルブボディ50Aのうちのいずれか一つを一体形成するようにしてもよい。又、これらの各バルブボディ38A〜40A,48A〜50Aと第1リリーフバルブ36のバルブボディ36Aのうちの複数を一体形成するようにしてもよい。更に、これらの制御バルブ36,38〜40,48〜50以外の他の制御バルブのバルブボディを一体形成するように構成してもよい。
【0069】
〔5〕蓋体53に、リフトシリンダ9のシリンダチューブを一体形成して、リフトシリンダ9を組み入れるようにしてもよく、又、支持ブロック58を一体形成するようにしてもよい。
【0070】
〔6〕蓋体53に、リフトアーム8の揺動支点軸57に潤滑油を供給するための専用の開口を形成するようにしてもよい。
【0071】
〔7〕バルブボディ同士を一体形成する制御バルブ36,38〜40,48〜50の組み合わせは種々の変更が可能である。例えば、昇降用比例バルブ48のバルブボディ48Aにチェックバルブ49のバルブボディ49Aのみを一体形成するようにしてもよく、又、昇降用比例バルブ48のバルブボディ48Aに絞りバルブ50のバルブボディ50Aのみを一体形成するようにしてもよい。更に、昇降用比例バルブ48のバルブボディ48Aに、電磁比例バルブ39のバルブボディ39Aとフロープライオリティーバルブ38のバルブボディ38Aとを一体形成するようにしてもよい。
【0072】
〔8〕蓋体53に、オイルゲージ挿通用と給油用とを兼ねる単一の開口を形成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る作業車の油圧構造は、トラクタ以外の乗用田植機や乗用草刈機などの作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
2 ミッションケース
2A 開口
8 リフトアーム
28 油路(第2供給油路)
30 油路(第1給排油路)
32 油路(第3供給油路)
34 油路(第3給排油路)
36 制御バルブ(第1リリーフバルブ)
36A バルブボディ
38 制御バルブ(フロープライオリティーバルブ)
38A バルブボディ
39 制御バルブ(電磁比例バルブ)
39A バルブボディ
41 油路(第1排出油路)
48 制御バルブ(昇降用比例バルブ)
48A バルブボディ
49 制御バルブ(チェックバルブ)
49A バルブボディ
50 制御バルブ(絞りバルブ)
50A バルブボディ
51 油路(第2排出油路)
52 油路(第3排出油路)
53 蓋体
53B 開口(第2開口)
53C 開口(第3開口)
57 揺動支点軸
58 支持ブロック
58A 内部空間
58D 開口(第2開口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースに形成した開口を閉塞する蓋体に複数の制御バルブを装備し、
前記蓋体の内部に前記制御バルブに対する油路を形成した作業車の油圧構造であって、
前記蓋体に、複数の前記制御バルブのうちの少なくとも一つの制御バルブのバルブボディを一体形成してあることを特徴とする作業車の油圧構造。
【請求項2】
前記蓋体に一体形成する制御バルブのバルブボディをリリーフバルブのバルブボディとしてあることを特徴とする請求項1に記載の作業車の油圧構造。
【請求項3】
複数の前記制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブのバルブボディを前記蓋体に一体形成しないように構成し、
前記蓋体にバルブボディを一体形成しない複数の制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブのバルブボディを一体形成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の作業車の油圧構造。
【請求項4】
複数の前記制御バルブのうちの少なくとも二つの制御バルブが、車体に昇降可能に連結した前記作業装置の昇降に関する昇降用の制御バルブであり、
前記蓋体にバルブボディを一体形成しない制御バルブを前記昇降用の制御バルブとし、
前記昇降用の制御バルブのバルブボディ同士を一体形成してあることを特徴とする請求項3に記載の作業車の油圧構造。
【請求項5】
前記蓋体に、開口を形成するとともに、リフトアームの揺動支点軸を回動可能に支持する支持ブロックを前記開口を覆うように取り付け、
前記支持ブロックに、前記揺動支点軸を前記開口に対向させる内部空間を形成してあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の作業車の油圧構造。
【請求項6】
前記支持ブロックにブリーザ取り付け用の開口を形成するとともに、前記開口と前記蓋体の前記開口とが対向しないように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の作業車の油圧構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−158233(P2010−158233A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143553(P2009−143553)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】