説明

作業車両の運転席

【課題】作業車両の運転者の後方視認性を容易に改善できるようにする。
【解決手段】作業車両の運転席を運転室の左右幅方向の略中央に設置するとともに、左右幅方向の位置をこの中央位置から移動可能にする左右移動手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の運転席、さらに詳しくは、アーティキュレート式ダンプトラックのような作業車両に好適な運転席に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両の運転席は、作業現場における運転者の周囲作業視界を良好にするために、運転室の左右幅方向の中央に配設されている。
【0003】
また、典型的な作業車両であるアーティキュレート式ダンプトラックは、トンネル内のような狭隘な作業現場において小さい旋回半径で小回り走行が可能なように、車体が、運転席を備えた前車体と後車体とに分けられ両者を屈折させることにより操向することができるようになっている。
【0004】
この種の屈折操向式の作業車両においては、運転席が備えられた前車体に対し後車体の位置が相対的に変化するので、運転席の運転者にとって左右後車体の位置確認、すなわち後方の視認性が、例えばトンネル内において壁などの障害物と接触しないようにするために特に重要である。
【0005】
しかしながら、作業車両の運転室の中央に設置された運転席からは、運転室にバックミラー、サイドミラーなどを備えても、暗く塵埃などが多いトンネル内作業現場、また狭隘な作業現場などにおいては、左右後方を十分に視認するのが難しい。
【0006】
この後方視認性の問題を解決するために、運転席を運転室内の左右幅方向のいずれか一側に偏在させた運転席設置構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−39358号公報(第2図、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この運転席を運転室内の一側に偏在させた運転席設置構造には、次のとおりの解決すべき問題がある。
【0008】
すなわち、運転席が偏在された側からは運転者は後方を直接見ることができ後方視認性が改善される。一方、運転席の他側からの後方視認性は改善されないで、むしろ悪化してしまう。したがって、他側の後方視認性を改善するには他側に助手席を設置することが提案されている。しかしながらそのためには、運転者の他に補助者を確保し同乗させる必要があり、作業能率の低下、作業コストの上昇などの問題がある。
【0009】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、作業車両の運転者の後方視認性を容易に改善することができる、作業車両の運転席を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば上記技術的課題を解決するために、作業車両の運転席が運転室の左右幅方向の略中央に設置されるとともに、左右幅方向の位置をこの中央位置から移動可能にする左右移動手段を備えている、ことを特徴とする作業車両の運転席が提供される。
【0011】
好適には、該左右移動手段は、左右幅方向へ運転席をスライドさせ移動させるスライドレールと、その移動位置を解除自在に固定するスライド操作レバーとを備えている。そして該スライドレールは一対、所定の間隔を置いて左右幅方向に延びて配設され、該スライドレールの各々は、基台に設置された固定レールと、運転席が取り付けられこの固定レール上をスライドする移動レールとを備え、該スライド操作レバーは、一対の移動レールそれぞれに連結されその操作握り部が移動レールの端よりも左右幅方向の外方に位置付けられている。さらに該運転席は、前後方向位置を移動可能にする前後移動手段を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って構成された作業車両の運転席によれば、運転席が、左右幅方向の位置を移動可能にした左右移動手段を備えている。したがって、作業車両の作業状況に応じて運転席を左方にあるいは右方に移動させることにより、運転者は運転席を移動させた側の後方を直接視認することができ、運転者の後方視認性を容易に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成された作業車両の運転席について、典型的な作業車両であるアーティキュレート式ダンプトラックにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0014】
図1を参照して説明する。図1(a)はアーティキュレート式ダンプトラックの側面図、図1(b)はその要部配置説明平面図である。全体を番号2で示すアーティキュレート式ダンプトラックは、運転席4が設置された運転室6及び前輪8を有する前車体10と、ダンプ荷台12及び2軸の後輪14、14を有する後車体16を備え、後車体16にはダンプ荷台12を傾動させるダンプシリンダ18が備えられている。前車体10と後車体16とは鉛直方向に延びる軸線20を中心に連結され、前車体10と後車体16とが相対的に屈折駆動され、アーティキュレート式ダンプトラック2が操向される。
【0015】
運転席4は、運転室6の左右幅方向(図1(a)の紙面に垂直方向、図1(b)に矢印Xで示す上下方向)の略中央に設置されている。
【0016】
運転席4についてその正面図である図2及び側面図である図3を参照して説明する。運転席4は、左右幅方向(図2の矢印Xで示す左右方向、図3の紙面に垂直方向)位置を中央位置(図2に実線で示す)から移動可能にする左右移動手段22を備えている。
【0017】
運転席4は、運転室6の床面6aに設置された設置台24上に前後移動手段26を介し取り付けられた基台28上に、左右移動手段22を介して取り付けられている。
【0018】
図2及び図3とともに左右移動手段22の平面図である図4を参照して説明する。左右移動手段22は、左右幅方向Xへ運転席4をスライドさせ移動させる一対のスライドレール30、30と、その移動位置を解除自在に固定するためのスライド操作レバー32を備えている。一対のスライドレール30、30は、それぞれ左右幅方向Xに延び、運転席4が設置される所定の間隔で配設されている。
【0019】
スライドレール30はそれぞれ、基台28に取り付けられた固定レール30aと、運転席4が取り付けられ固定レール30a上をスライドする移動レール30bを備えている。このスライドレール30そのものは周知のものでよい。したがって、その詳細な説明は省略する。
【0020】
スライド操作レバー32は、丸棒状部材の両端を略直角に曲げてU字状に成形され、両端部の各々が一対の移動レール30b、30bそれぞれの、固定レール30aに移動レール30bを解除自在に固定する位置固定手段34に連結されている。スライド操作レバー32は、U字の両端直角曲げ部の中間の操作握り部32aを移動レール30bの端よりも左右幅方向Xにおいて外方にして位置付けられている。この操作握り部32aは運転席4に着座した運転者が容易に片手で操作できるように運転席4側、すなわち上方側に位置付けられている。なお、位置固定手段34は移動レール30bを固定レール30aに解除自在に固定する、例えばラチェット機構のような周知のものでよい。したがって、その詳細な説明は省略する。
【0021】
上述のように配設された運転席4は、主として図2を参照して説明すると、スライド操作レバー32をその操作握り部32aを手で持って矢印Y方向の上方に持ち上げると、移動レール30bと固定レール30aとの固定が解除され、移動レール30bに取り付けられた座席4は左右幅方向Xの任意の位置、例えば二点鎖線で示した左方位置Lあるいは右方位置Rに自由にスライド移動させることができる。そして、スライド操作レバー32から手を離すと運転席4はその位置で固定される。
【0022】
前述の前後移動手段26は、左右移動手段22と実質的に同じ構成、すなわち一対のスライドレール26a、26aと、スライド操作レバー26bを備えている。
【0023】
上述したとおりの作業車両の運転席4の作用について説明する。
【0024】
作業車両としてのアーティキュレート式ダンプトラック2を図1に示す状態から左に屈折させた左屈折操向状態で示した図5を参照して説明すると、運転席4を二点鎖線で示した左位置Lに移動させることにより、運転席4の運転者は、実線で示した中央位置の運転席4の場合と比べて目線5で示すように容易に後方を視認することができる。したがって、暗い塵埃などの多いトンネル内作業現場、あるいは狭隘な走行路面の作業現場などにおいて、作業車両を壁あるいは路面上の障害物などと接触させないで、容易に運転操作をすることができる。反対の右屈折操向状態においては運転席4を二点鎖線で示す右位置Rに移動させればよい。
【0025】
さらに、直進状態(図1(b)の状態)においては、あるいは屈折操向式でない作業車両においては、必要に応じて運転席4を二点鎖線で示す右位置Rあるいは左位置Lにすることにより、移動させた側の運転室6の窓7(図1(a))から顔を出しての後方視認が容易に行なえる。
【0026】
運転席4の左右移動手段22としてスライドレールを用いたので、運転者は着座状態で容易に運転席4を移動させることができる。
【0027】
さらに、スライド操作レバー32を一対のスライドレール30、30それぞれの移動レール30bに亘る幅を有した大きさに形成したので、運転席4に座った運転者は、迅速容易にスライド操作レバー32を握り操作して、運転席4を左右任意の方向に移動させることができる。したがって、暗い作業環境においても目でスライド操作レバー32の位置を確認することなく、スライド操作レバー32を容易に操作することができる。
【0028】
そして、運転席4の左右移動手段22とともに前後移動手段26を備えたので、運転者は作業に合わせて運転席4を前後左右任意の方向に移動させることができ、効率よく作業を遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に従って構成された運転席を備えた、作業車両の典型例であるアーティキュレート式ダンプトラックの(a)側面図、(b)要部配置説明平面図。
【図2】図1のアーティキュレート式ダンプトラックに備えられた運転席の正面図。
【図3】図2の運転席の側面図。
【図4】図2のA−A矢印方向に見た右位置移動手段の平面図。
【図5】図1(b)に示したアーティキュレート式ダンプトラックを屈折操向状態で示した説明図。
【符号の説明】
【0030】
2:アーティキュレート式ダンプトラック(作業車両)
4:運転席
6:運転室
22:左右移動手段
26:前後移動手段
28:基台
30:スライドレール
30a:固定レール
30b:移動レール
32:スライド操作レバー
32a:操作握り部
X:左右幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の運転席が、
運転室の左右幅方向の略中央に設置されるとともに、
左右幅方向の位置をこの中央位置から移動可能にする左右移動手段を備えている、ことを特徴とする作業車両の運転席。
【請求項2】
該左右移動手段が、
左右幅方向へ運転席をスライドさせ移動させるスライドレールと、
その移動位置を解除自在に固定するスライド操作レバーと
を備えている、請求項1記載の作業車両の運転席。
【請求項3】
該スライドレールが一対、
所定の間隔を置いて左右幅方向に延びて配設され、
該スライドレールの各々が、
基台に設置された固定レールと、運転席が取り付けられこの固定レール上をスライドする移動レールとを備え、
該スライド操作レバーが、
一対の移動レールそれぞれに連結されその操作握り部が移動レールの端よりも左右幅方向の外方に位置付けられている、請求項2記載の作業車両の運転席。
【請求項4】
該運転席が、
前後方向位置を移動可能にする前後移動手段を備えている、請求項から3までのいずれかに記載の作業車両の運転席。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−44340(P2006−44340A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225123(P2004−225123)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】