説明

作業車両搭載用のエンジン装置

【課題】排気浄化装置を車体の床下に配置した作業車両において、排気ガスの浄化効率を向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】冷却水により冷却される水冷式のエンジン6と、前記エンジン6により回転駆動される送風ファン65と、前記送風ファン65による冷却風を受けて冷却水の放熱を行なうラジエータ7と、前記エンジン6から排出された排気ガスを案内する排気通路64と、前記排気通路64により案内された排気ガスの浄化を行なう排気浄化装置8と、を備える作業車両搭載用のエンジン装置において、前記排気浄化装置8は、作業車両の床下であって、前記ラジエータ7の下方に配置される、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に搭載されるエンジン装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される排気ガスには、煤等に代表される粒子状物質が多く含まれており、この粒子状物質を除去する手段として排気ガスの濾過を行なう排気浄化装置が広く知られている。排気浄化装置は、粒子状物質をフィルタ担体にて捕集するとともに捕集した粒子状物質を酸化するものであるため、高い浄化効率を確保するにはフィルタ担体を酸化反応が進行する高温領域に維持する必要があるとされる(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、このような排気浄化装置を備えた作業車両においては、該排気浄化装置が車体の床下に配置された場合、自然風やエンジンの送風ファンによる冷却風、作業車両が走行することで発生する走行風及び跳ね上げられた泥水等によってもフィルタ担体の温度低下を招き、排気ガスの浄化効率を低下させる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−208749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる問題を解決すべくなされたものであり、排気浄化装置を車体の床下に配置した作業車両において、排気ガスの浄化効率を向上させることができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、冷却水により冷却される水冷式のエンジンと、
前記エンジンにより回転駆動される送風ファンと、
前記送風ファンによる冷却風を受けて冷却水の放熱を行なうラジエータと、
前記エンジンから排出された排気ガスを案内する排気通路と、
前記排気通路により案内された排気ガスの浄化を行なう排気浄化装置と、を備える作業車両搭載用のエンジン装置において、
前記排気浄化装置は、作業車両の床下であって、前記ラジエータの下方に配置される、としたものである。
【0008】
請求項2においては、請求項1に記載の作業車両搭載用のエンジン装置において、前記排気浄化装置は、該排気浄化装置の長手方向が作業車両の進行方向に対して直交又は略直交するように水平に配置される、としたものである。
【0009】
請求項3においては、請求項1又は請求項2に記載の作業車両搭載用のエンジン装置において、前記排気浄化装置は、該排気浄化装置の本体部への風を遮る遮風カバーを具備し、
前記遮風カバーは、前記排気浄化装置の本体部の被水を防ぐ遮水カバーも兼ねる、としたものである。
【0010】
請求項4においては、請求項3に記載の作業車両搭載用のエンジン装置において、前記遮風カバーは、前記排気浄化装置の本体部の保護を行なう緩衝カバーも兼ねる、としたものである。
【0011】
請求項5においては、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の作業車両搭載用のエンジン装置において、前記排気通路は、前記エンジンを沿うように前記排気ガスを案内する、としたものである。
【0012】
請求項6においては、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の作業車両搭載用のエンジン装置において、前記排気通路は、その中途部において縮径部を有する、としたものである。
【0013】
請求項7においては、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の作業車両搭載用のエンジン装置において、前記排気通路は、鋳造工法により形成された鋳鉄管とする、としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、送風ファンによる冷却風が排気浄化装置に当たりにくくなり、該排気浄化装置の本体部に内設されたフィルタ担体の温度低下を抑制することができる。これにより、フィルタ担体を高温領域に維持することができ、排気ガスの浄化効率を向上させることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、排気浄化装置が路面と接触する可能性を低減することができ、接触による破損や故障を回避することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、自然風や作業車両が走行することで発生する走行風が排気浄化装置の本体部に当たりにくくなり、該排気浄化装置の本体部に内設されたフィルタ担体の温度低下を抑制することができる。これにより、フィルタ担体を高温領域に維持することができ、排気ガスの浄化効率を向上させることが可能となる。また、作業車両が走行した際に泥水等を跳ね上げても排気浄化装置の本体部に当たらないためにフィルタ担体の温度低下を抑制することができ、排気ガスの浄化効率を更に向上させることが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、排気浄化装置の本体部が路面と接触することによる破損や故障を防ぐことが可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、送風ファンによる冷却風が排気通路に当たりにくくなり、エンジンから排気浄化装置に至るまでの排気ガスの温度低下を抑制することができる。これにより、フィルタ担体を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、排気通路を流れる排気ガスの流速が増速するために排気ガスの放熱量を低減でき、エンジンから排気浄化装置に至るまでの排気ガスの温度低下を抑制することができる。これにより、フィルタ担体を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、熱伝導性の低い鋳鉄管によって排気ガスを案内するために排気ガスの放熱量を低減でき、エンジンから排気浄化装置に至るまでの排気ガスの温度低下を抑制することができる。これにより、フィルタ担体を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】作業車両の全体構成を示す図。
【図2】エンジン、ラジエータ及び排気浄化装置の構成を示す概略図。
【図3】排気浄化装置の構成を示す図。
【図4】作業車両における排気浄化装置の配置を示す側面図。
【図5】作業車両における排気浄化装置の配置を示す背面図。
【図6】(A)排気ベンドによって排気ガスを案内する構成を示す側面図。(B)排気ベンドによって排気ガスを案内する構成を示す背面図。
【図7】(A)排気ベンドによって排気ガスを案内する別構成を示す側面図。(B)排気ベンドによって排気ガスを案内する別構成を示す背面図。
【図8】送風ファンによる冷却風の流れを示す図。
【図9】作業車両が走行することで発生する走行風の流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、図1を用いて作業車両1の全体構成について説明する。本実施形態においては、車体後部にエンジン6を搭載する作業車両1であって、該作業車両1を乗用芝刈機としているがこれに限定するものではない。なお、図1に示す矢印Aの方向は、作業車両1の前進方向を示している。
【0024】
図1に示すように、作業車両1においては、長手方向を前後方向として配置された車体フレーム2と、前輪10・10に回転動力を伝達する前車軸3と、後輪15・15に回転動力を伝達する後車軸4と、刈刃を回転させて芝等を刈る芝刈モア装置5と、回転動力を発生させるエンジン6と、エンジン6の冷却水の放熱を行なうラジエータ7と、排気ガスの浄化を行なう排気浄化装置8と、で構成される。
【0025】
車体フレーム2は、作業車両1の主たる構造体であり、該作業車両1の骨格をなすものである。
【0026】
前車軸3は、エンジン6の駆動力を前輪10・10に伝達するとともにハンドル11の操作によって該前輪10・10を操舵可能とするものである。前車軸3は、車体フレーム2の前部下方に懸架されており、変速装置やプロペラシャフトを介してエンジン6の駆動力が入力される。なお、ハンドル11は、前車軸3の上方にアクセルペダル12やブレーキペダル13、運転席14等とともに配置されており、操縦者は運転席14に着座してこれらを操作可能とされる。
【0027】
後車軸4は、エンジン6の駆動力を後輪15・15に伝達するものである。後車軸4は、車体フレーム2の後部下方に懸架されており、変速装置やプロペラシャフトを介してエンジン6の駆動力が入力される。
【0028】
芝刈モア装置5は、エンジン6の駆動力を受けて刈刃を回転させ、芝や雑草を刈り取るものである。芝刈モア装置5は、前車軸3と後車軸4との間に昇降可能に吊設されており、エンジン6の駆動力はプーリーならびにベルト等を介して伝達される。
【0029】
エンジン6は、燃料を燃焼させることで、その膨張エネルギーから回転動力を得るディーゼルエンジンとされる。エンジン6は、車体フレーム2の後部上方、詳しくは、後車軸4の上方であって、やや車体フレーム2の中央部側に配置されており、アクセルペダル12の操作によって運転状態を変更可能とされる。なお、エンジン6は、冷却水が内部を循環することによって冷却が行なわれる水冷式ディーゼルエンジンとされるが、水冷式ガソリンエンジン等であっても良く、その作動形式について限定するものではない。
【0030】
ラジエータ7は、エンジン6によって暖められた冷却水の放熱を行なう空冷式熱交換器である。ラジエータ7は、エンジン6の後方、詳しくは、後車軸4の上方であって、やや車体フレーム2の後部側に配置されており、後述する送風ファン65による冷却風がその内部を通過するものとされる。
【0031】
排気浄化装置8は、排気ガスに含まれる粒子状物質を濾過することによって捕集し、捕集した粒子状物質を酸化して除去するものである。排気浄化装置8は、ラジエータ7の下方、詳しくは、車体フレーム2の後部下方であって、車体の床下に配置されており、エンジン6から延設された排気通路64によって排気ガスが案内される。
【0032】
次に、図2を用いて、本発明に係るエンジン装置の構成について詳細に説明する。なお、図2に示す矢印は、エンジン6に供給される吸入空気ならびにエンジン6から排出される排気ガスの流れを示している。
【0033】
図2に示すように、エンジン6は、直列4気筒の水冷式ディーゼルエンジンである。エンジン6は、エンジン主体部61と、燃料噴射ポンプ62と、吸気通路63と、排気通路64と、を備える。エンジン6は、クランク軸61dが車体の進行方向、即ち、前後方向に平行するように車体(車体フレーム2)の後部に配置されている。なお、送風ファン65は、エンジン6とラジエータ7との間に配置されてクランク軸61dによって回転駆動される。
【0034】
エンジン主体部61は、主にシリンダブロック61aやシリンダヘッド61b等の本体部と、ピストン61cやクランク軸61d等の運動部とから構成される。エンジン主体部61には、燃焼室がシリンダブロック61aに設けられたシリンダに摺動可能に内設されたピストン61cと、該ピストン61cに対向するように配置されたシリンダヘッド61bと、により形成されている。そして、ピストン61cがコネクティングロッドによってクランク軸61dと連動連結され、クランク軸61dはピストン61cの摺動によって回転駆動するものとされる。
【0035】
燃料噴射ポンプ62は、回転駆動されるクランク軸61dによってギヤ等を介して駆動される。燃料噴射ポンプ62は、その駆動時に当該燃料噴射ポンプ62に内設されたプランジャバレルと、このプランジャバレルに摺動可能に嵌挿されたプランジャと、によって燃料噴射ノズル68へ燃料を圧送する。
【0036】
なお、燃料噴射ノズル68は、噴射口が設けられた先端部が前記燃焼室の内部に突出するようにシリンダヘッド61bに取り付けられており、燃料噴射ポンプ62からの燃料を該燃焼室に適宜に供給可能としている。
【0037】
吸気通路63は、外部から吸入された空気をエンジン主体部61まで案内する通路である。吸気通路63は、空気を各燃焼室に分配する吸気マニホールド66と接続されている。そして、空気の濾過を行なうエアクリーナ63aが吸気通路63の中途部に設けられて、埃等の異物が除去された吸入空気を各燃焼室に供給可能としている。
【0038】
排気通路64は、エンジン主体部61から排出された排気ガスを排気浄化装置8まで案内する通路である。排気通路64の一端部は各燃焼室から排出された排気ガスを集合させる排気マニホールド67と接続され、その他端部は排気浄化装置8と接続されている。こうして、エンジン6の運転によって各燃焼室から排出される排気ガスが排気浄化装置8に導入可能とされている。
【0039】
送風ファン65は、冷却風をラジエータ7へ向けて送るものである。送風ファン65は、エンジン6の後方であって、該エンジン6とラジエータ7の間に配置されている。送風ファン65は、エンジン6のクランク軸61dによってプーリーやベルト等を介して駆動され、冷却風を作業車両1の後方へ向けて送風可能としている。
【0040】
ラジエータ7は、エンジン6を冷却する冷却水の放熱を行なう空冷式熱交換器であり、冷却水が通過する複数のフィン7aを有する。ラジエータ7は、送風ファン65の後方でこれと対向するように配置され、複数のフィン7aには、送風ファン65からの冷却風が前方から当てられる。冷却水は、エンジン主体部61からラジエータ7のフィン7aに送られて放熱した後に冷却水供給ホース71を通ってエンジン6へ戻される。そして、冷却水は、エンジン主体部61のシリンダブロック61aやシリンダヘッド61b等に設けられた冷却水通路を流れることで暖められた後に冷却水排出ホース72を通って再びラジエータ7へ送られる。
【0041】
排気浄化装置8は、排気ガスの浄化を行なうものである。図2、図3に示すように、排気浄化装置8の本体部であるケース83には、酸化触媒担体(以降「DOC」という。)81と、フィルタ担体(以降「DPF」という。)82と、を備える。DOC81及びDPF82は、ケース83に内設されて、DOC81がケース83内における排気ガスの流れの上流側に、DPF82がその下流側に配置される。また、DPF82の下流側には共鳴室86が構成される。
【0042】
DOC81は、排気ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)及び粒子状物質の一部を構成するSOF(有機可溶成分)を酸化して除去するものである。また、DOC81は、排気ガスに多く含まれるNO(一酸化窒素)を酸化することによってNO(二酸化窒素)に変化させたり、排気ガス中に添加された燃料を酸化することによって排気ガスの温度を上昇させたりすることも可能としている。
【0043】
DPF82は、主に煤等からなる粒子状物質を捕集することで排気を濾過するとともに捕集した粒子状物質の酸化を行なうものである。本実施形態においては、排気浄化装置8は、炭化ケイ素を基材としたDPF82を備えて、排気ガスに含まれる粒子状物質をDPF82に形成された微細な穴を通過する際に捕集する。このようにして捕集された粒子状物質は、DPF82が酸化反応を進行させる高温領域にあることを条件として、排気ガスに含まれる酸素ならびにDOC81で生成されたNOによって酸化される。
【0044】
そのため、排気浄化装置8による排気ガスの高い浄化効率を確保するには、DPF82を高温領域に維持して捕集された粒子状物質の酸化反応を連続的に持続させる必要がある。なお、何らかの理由により、DPF82の温度低下が生じた場合には、燃料噴射ポンプ62ならびに燃料噴射ノズル68等を制御して排気ガスの温度を上昇させる必要があり、このような制御を行なうことに起因して燃料消費量の悪化が生じるという問題もあったのである。
【0045】
次に、図4、図5を用いて、本作業車両1における排気浄化装置8の配置構造について詳細に説明する。図4は、作業車両1における排気浄化装置8の配置を示す側面図であり、図5は、その背面図である。
【0046】
前述したように、排気浄化装置8は、車体フレーム2の後部に配置されたラジエータ7の下方であって、車体フレーム2等からなる車体の床下に配置されている。詳しくは、排気浄化装置8は、該排気浄化装置8とラジエータ7によって車体フレーム2を上下に挟むように配置され、DOC81やDPF82を取外し可能とすべく設けられたケース83の分離部分を接合するボルト83aによって車体フレーム2に設けられたブラケット2aに取り付けられる(図3参照。)。
【0047】
また、図4、図5に示すように、排気浄化装置8は、その長手方向が作業車両1の進行方向(前後方向)に対して直交する方向(左右方向)であって、水平方向となるように配置されている。つまり、排気浄化装置8は、その内部を通過する排気ガスの流れ方向(図5中矢印B参照。)が送風ファン65の送風方向(図4中矢印C参照。)に対して直交する方向であって、水平な平面で表された仮想路面Xに対して平行な方向となるように配置されている。
【0048】
そして、排気浄化装置8は、左右一対の後輪15・15の間にその後車軸4よりも後方位置するように配置されて、車体フレーム2の後部下方に支持されている。ここで、排気浄化装置8は、仮想路面Xから上方へ所定距離隔てられる。排気浄化装置8の後端面は、各後輪15・15の後端面よりも後方に位置する。
【0049】
なお、本実施形態においては、エンジン6の排気マニホールド67と排気浄化装置8とを排気通路64のみを介して接続するとしているが、これは特に限定するものではない。図6、図7に示すように、排気マニホールド67と排気浄化装置8との間に排気ベンド69を介設して該排気ベンド69の一端を排気マニホールド67に接続し、該排気ベンド69の他端を排気通路64に接続することも可能である。
【0050】
この場合、例えば、図6(A)、図6(B)に示すように、鋳鉄製の排気ベンド69をエンジン主体部61、特にそのシリンダブロック61aの近傍でこれに沿うように配置する。つまり、排気ガスを案内する通路の一部(排気ベンド69)を熱伝導性の低い鋳鉄製とするとともに送風ファン65へ引き込まれる冷却風が乱れて減衰するエンジン6の近傍を沿わせることによって、該エンジン6から排気浄化装置8に至るまでの排気ガスの放熱量を低減でき、排気ガスの温度低下を抑制することが可能となるのである。但し、このような鋳鉄製の排気ベンド69を設けるのではなく、排気通路64全体を鋳鉄管とする場合であっても、同様の効果を得ることが可能である。
【0051】
また、図7(A)、図7(B)に示すように、排気通路64をボンネット16内における冷却風の影響を受けにくい位置、つまり、送風ファン65から離間してボンネット16の側壁に近接した位置に配置し、鋳鉄製の排気ベンド69を排気マニホールド67から排気通路64へ延設するとしても良い。これは、送風ファン65による冷却風が比較的に強く流れる領域については熱伝導性の低い鋳鉄管を用い、送風ファン65による冷却風が弱い領域に配置された排気通路64へ排気ガスを導くとしたものである。これにより、エンジン6から排気浄化装置8に至るまでの排気ガスの放熱量を低減でき、排気ガスの温度低下を抑制することが可能となる。
【0052】
また、排気通路64は、その中途部に通路の開口径が縮径された縮径部64aが設けられ(図2参照。)、該排気通路64を流れる排気ガスの流速を増速させている。これは、排気ガスの流速を増速させることによって排気ガスの放熱量を低減させ、排気ガスを高温のままで排気浄化装置8へ案内するためである。これにより、エンジン6から排気浄化装置8に至るまでの排気ガスの放熱量を低減でき、排気ガスの温度低下を抑制することが可能となるのである。
【0053】
このような構成により、高温の排気ガスによって、排気浄化装置8の本体部に内設されたDPF82を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となるのである。更に、燃料噴射ポンプ62等の制御によって排気ガスの温度を上昇させる頻度が減少するため、エンジン6の燃料消費量を低減させることも可能となるのである。
【0054】
次に、送風ファン65による冷却風の流れについて詳細に説明し、該冷却風が上記の位置に配置された排気浄化装置8に当たらない理由について図8を用いて説明する。なお、図8に示す矢印Dは、送風ファン65によって送られた冷却風の流れを示したものである。
【0055】
図8に示すように、送風ファン65による冷却風は、該送風ファン65から後方へ向かって流れてラジエータ7へ案内され、その後、作業車両1の後端部に設けられたグリル部16aを通って外部へ排出される。この際、送風ファン65による冷却風は、まずラジエータ7を通過するために早期に拡散することがない。つまり、送風ファン65による冷却風は、ラジエータ7を通過する際に、ラジエータ7のフィン7aによって整流されることによってその流れが拡散することを抑制され、流れの方向が安定化する。これにより、送風ファン65によって送られた冷却風は安定して直進するため、早期に拡散した冷却風が広がって排気浄化装置8に当たることを抑制することができるのである。
【0056】
このような構成により、送風ファン65による冷却風が排気浄化装置8に当たりにくくなり、該排気浄化装置8の本体部に内設されたDPF82の温度低下を抑制することができる。こうして、DPF82を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となるのである。更に、燃料噴射ポンプ62等の制御によって排気ガスの温度を上昇させる頻度が減少するため、エンジン6の燃料消費量を低減させることも可能となるのである。
【0057】
次に、排気浄化装置8を上記の位置に配置した場合に該排気浄化装置8が路面と接触する可能性を低減することができる理由について説明する。
【0058】
排気浄化装置8を上記の位置に配置した場合、車体の最低地上高となる排気浄化装置8を通って後輪15・15に接する接線Yと、水平な平面で表される仮想路面X(図中二点鎖線参照。)とがなす角度α、いわゆるデパーチャアングルαを大きく確保することができる。
【0059】
これにより、例えば作業車両1が路面R(図中実線参照。)の凸部R1を乗り越えて通過する際や凸部R1がある後方へ向かって後進する際に後輪15・15によって凸部R1を跨ぐことができるため、排気浄化装置8が該凸部R1と接触する可能性を低減することができる。
【0060】
このような構成により、排気浄化装置8が車体の床下に配置される場合であっても該排気浄化装置8が路面Rの凸部R1と接触する可能性を低減することができ、路面Rとの接触による排気浄化装置8の破損や故障を回避することが可能となるのである。
【0061】
次に、作業車両1が走行することによって発生する走行風が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐ遮風カバー84について図9を用いて詳細に説明する。なお、図9に示す矢印Eは、作業車両1が走行することによって発生する走行風の流れを示したものである。
【0062】
遮風カバー84は、排気浄化装置8の本体部に走行風が当たらないように該排気浄化装置8のケース83に設けられた風防板である。なお、本実施形態においては、走行風のみならずあらゆる方向から吹付ける自然風に対しても効果を得るため、排気浄化装置8の全周を覆うものとしている。
【0063】
図9に示すように、作業車両1が走行することによって発生する走行風は、ボンネット16や床下を沿うようにして流れる。遮風カバー84が設けられていない場合では、床下を流れる走行風の一部は、排気浄化装置8の本体部に衝突するとともに該排気浄化装置8の本体部の外周を回り込む流れを形成する。そして、このような流れを形成する走行風に対してDPF82が放熱を行なうことにより、DPF82に温度低下を招く可能性がある。そのため、本体部に内設されたDPF82を高温領域に維持するには、遮風カバー84を具備することが有効な手段となる。また、ケース83と遮風カバー84との間に断熱材を介装することによって更に温度低下を抑制することもできる。
【0064】
このような構成により、自然風ならびに走行風が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐことができ、該排気浄化装置8の本体部に内設されたDPF82の温度低下を抑制することができる。こうして、DPF82を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となるのである。更に、燃料噴射ポンプ62等の制御によって排気ガスの温度を上昇させる頻度が減少するため、エンジン6の燃料消費量を低減させることも可能となるのである。
【0065】
また、排気浄化装置8に具備された遮風カバー84は、該排気浄化装置8の本体部の被水を防ぐ遮水カバーも兼ねるものとなっている。つまり、遮風カバー84は、作業車両1が走行した際に前輪10・10や後輪15・15によって泥水等を跳ね上げたとしてもその泥水等が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐことができるようになっている。なお、遮風カバー84の内部に水等が浸入しないように、排気通路64との接続部及びテールパイプ85との接続部の周囲は水密構造としている。
【0066】
このような構成により、自然風ならびに走行風が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐことができるとともに跳ね上げられた泥水等が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐことができ、該排気浄化装置8の本体部に内設されたDPF82の温度低下を抑制することができる。こうして、DPF82を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となるのである。更に、燃料噴射ポンプ62等の制御によって排気ガスの温度を上昇させる頻度が減少するため、エンジン6の燃料消費量を低減させることも可能となるのである。
【0067】
なお、遮風カバー84は、排気浄化装置8の本体部の保護を行なう緩衝カバーも兼ねるものとなっている。つまり、排気浄化装置8に具備された遮風カバー84は、自然風ならびに走行風が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐと同時に排気浄化装置8の本体部の被水を防ぎ、更に、路面Rの凸部R1(図8参照。)と接触した際には積極的に変形させて衝撃を吸収することで該排気浄化装置8の本体部を保護するとしている。
【0068】
このような構成により、自然風ならびに走行風が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐことができるとともに跳ね上げられた泥水等が排気浄化装置8の本体部に当たることを防ぐことができ、更に、衝撃を緩衝することができる。こうして、DPF82を高温領域に維持することができ、排気ガスの高い浄化効率を確保することが可能となるとともに簡素な構造でありながら排気浄化装置8が路面と接触することによる破損や故障を防ぐことが可能となるのである。
【符号の説明】
【0069】
1 作業車両
2 車体フレーム
3 前車軸
4 後車軸
5 芝刈モア装置
6 エンジン
63 吸気通路
64 排気通路
64a 縮径部
65 送風ファン
66 吸気マニホールド
67 排気マニホールド
69 排気ベンド
7 ラジエータ
7a フィン
8 排気浄化装置
81 酸化触媒担体(DOC)
82 フィルタ担体(DPF)
83 ケース
84 遮風カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水により冷却される水冷式のエンジンと、
前記エンジンにより回転駆動される送風ファンと、
前記送風ファンによる冷却風を受けて冷却水の放熱を行なうラジエータと、
前記エンジンから排出された排気ガスを案内する排気通路と、
前記排気通路により案内された排気ガスの浄化を行なう排気浄化装置と、を備える作業車両搭載用のエンジン装置において、
前記排気浄化装置は、作業車両の床下であって、前記ラジエータの下方に配置される、ことを特徴とする作業車両搭載用のエンジン装置。
【請求項2】
前記排気浄化装置は、該排気浄化装置の長手方向が作業車両の進行方向に対して直交又は略直交するように水平に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両搭載用のエンジン装置。
【請求項3】
前記排気浄化装置は、該排気浄化装置の本体部への風を遮る遮風カバーを具備し、
前記遮風カバーは、前記排気浄化装置の本体部の被水を防ぐ遮水カバーも兼ねる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業車両搭載用のエンジン装置。
【請求項4】
前記遮風カバーは、前記排気浄化装置の本体部の保護を行なう緩衝カバーも兼ねる、ことを特徴とする請求項3に記載の作業車両搭載用のエンジン装置。
【請求項5】
前記排気通路は、前記エンジンを沿うように前記排気ガスを案内する、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の作業車両搭載用のエンジン装置。
【請求項6】
前記排気通路は、その中途部において縮径部を有する、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の作業車両搭載用のエンジン装置。
【請求項7】
前記排気通路は、鋳造工法により形成された鋳鉄管とする、ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の作業車両搭載用のエンジン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−106311(P2011−106311A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260486(P2009−260486)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】