説明

作業車両

【課題】作業機の昇降や傾斜角度の調節、さらにはエンジンの駆動や停止を車両から離れた位置からでも行える、操作性および安全性を向上させた作業車両を提供する。
【解決手段】エンジン3を備えるとともに、機体1に装着した作業機を昇降させる昇降装置103と、作業機の傾斜角度を調節する傾斜装置106とを機体1に備え、昇降装置103および傾斜装置106を遠隔操作可能にする、機体1に着脱自在に設けた操作部114と、機体1に設置した操作部114からの情報を検出する検出部115とからなるリモコン装置113を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを備えるとともに、機体に装着した作業機を昇降させる昇降装置と、作業機の傾斜角度を調節する傾斜装置とを機体に備える作業車両に関し、より詳細には、昇降装置および傾斜装置を遠隔操作可能にする、機体に着脱自在に設けた操作部と、機体に設置した操作部からの情報を検出する検出部とからなるリモコン装置を備えることに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトラクタ(作業車両)200には、例えば、図14に示すように、走行輪201を駆動させるミッションケースにリフトアーム202およびロワリンク203を介して耕耘ロータリなどの作業機204が取付けられ、この作業機204をリフトアーム202により非作業上昇位置および耕耘作業下降位置にワンタッチ動作で昇降させる昇降スイッチ205を、運転席206の右側に配置させる(特許文献1)ものや、クローラ上方のフェンダ後端面に、作業者が手動で、リフトアームを上述のように昇降させたり、地面の凹凸状態などにより傾斜した作業機を水平に戻すなど作業機の傾斜角度を調節するための外部操作スイッチを備えるものがある。
【0003】
【特許文献1】特開平8−126402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようなトラクタ(作業車両)では、作業者が、例えば、作業機の着脱や作業機近傍のメンテナンスなどを行う際、作業機などを見ながら手動でリフトアームの昇降や作業機の傾斜角度を調節するために、フェンダ後端面であって、リフトアームやロワリンクが入り組む狭いスペース、かつクローラ上方の高い位置に有する外部操作スイッチを操作しなければならず、スイッチ操作がしづらいほか、このような作業を行う際、前記外部操作スイッチを操作しながらでは作業機周辺全体を見渡せないため、正確な作業ができないとともに、安全上の問題があった。また、作業者がエンジンをかけたまま車両から離れたときに、例えばエンジンを緊急停止させる必要を生じた場合、作業者は再度操縦部に戻りエンジンを切らなくてはならず、エンジン停止までの時間と手間がかかり、安全性および操作性が低い問題もあった。
そこで、この発明の目的は、作業機の昇降や傾斜角度の調節、さらにはエンジンの駆動や停止を車両から離れた位置からでも行える、操作性および安全性を向上させた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1に記載の発明は、エンジンを備えるとともに、機体に装着した作業機を昇降させる昇降装置と、前記作業機の傾斜角度を調節する傾斜装置とを前記機体に備える作業車両において、前記昇降装置および前記傾斜装置を遠隔操作可能にする、前記機体に着脱自在に設けた操作部と、前記機体に設置した前記操作部からの情報を検出する検出部とからなるリモコン装置を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記リモコン装置の操作部は、前記エンジンを駆動および停止させるスイッチを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1〜2に記載の作業車両において、前記エンジンを駆動させる前記スイッチは、車両にブレーキがかけられているとともに、前記作業機の駆動を制御するPTO操作レバーが前記作業機の駆動を停止させるニュートラル位置であるときにのみ作動する安全機構を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記リモコン装置の操作部は、前記作業機を駆動させるPTO出力軸に前記エンジンからの動力を伝達および遮断するPTOクラッチを入切させるスイッチを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記リモコン装置の操作部は、前記エンジンの回転数を増減させるスイッチを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、エンジンを備えるとともに、機体に装着した作業機を昇降させる昇降装置と、作業機の傾斜角度を調節する傾斜装置とを機体に備える作業車両において、昇降装置および傾斜装置を遠隔操作可能にする、機体に着脱自在に設けた操作部と、機体に設置した操作部からの情報を検出する検出部とからなるリモコン装置を備えるので、作業者は、車両から離れた位置からでも、作業機周辺などを見渡しながらリフトアームの昇降や作業機の傾斜角度を簡単に調節することができる。従って、操作性および安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、リモコン装置の操作部は、エンジンを駆動および停止させるスイッチを備えるので、作業者は、車両から離れた位置からでもエンジンを迅速に駆動または停止させることができる。従って、作業性および安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、エンジンを駆動させるスイッチは、車両にブレーキがかけられているとともに、作業機の駆動を制御するPTO操作レバーが作業機の駆動を停止させるニュートラル位置であるときにのみ作動する安全機構を備えるので、車両制動中および作業機の駆動停止中の状態においてのみ、作業者は、車両から離れた位置からでもエンジンを駆動させることができ、車両の無人発進や無人走行およびエンジン駆動に伴う突然の作業機の駆動を防止することができる。従って、安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、リモコン装置の操作部は、作業機を駆動させるPTO出力軸にエンジンからの動力を伝達および遮断するPTOクラッチを入切させるスイッチを備えるので、作業者は、車両から離れた位置からでも作業機を駆動または停止させることができる。また、遠隔操作により車両のエンジンを駆動させた直後にも、PTOクラッチをリモコン装置の操作で切ることができ、作業機を迅速に停止させることができる。従って、安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、リモコン装置の操作部は、エンジンの回転数を増減させるスイッチを備えるので、作業者が作業機外方から遠隔操作によりエンジン回転数を増減させることで、作業機の駆動速度を変更させて、容易に作業機の状態を観察などすることができる。従って、操作性を向上させた作業車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係るクローラ式トラクタの左側面図、図2は同トラクタの平面図、図3は駆動部の断面側面図、図4は駆動部の断面平面図である。
【0016】
まず、クローラ式トラクタ1の概略構成について説明する。図1に示すように、車両1前部には、エンジン3を覆い、前端にヘッドライト12を備えるボンネット2と、このボンネット2の後方には、ダッシュボード17後部のステアリングコラム16上に車両1の操行を司るステアリングハンドル19、ブレーキ7や運転席8などがそれぞれ配置されてなる車両の操縦部4を有するキャビン5が左右機体フレーム11上に配設される。そして、運転席8の左右には、車両1の走行や不図示の作業機の上げ下げなどを操作するための主変速レバー、副変速レバーおよびPTO操作レバー9などの各種レバーが配設される。
【0017】
さらに、キャビン5は、運転席8全体を覆うように屋根13や、フロント・リヤ・サイドガラス14などから形成される。また、運転席8の両側部であって、キャビン5の外側には、左右燃料タンク6および左右フラッシャランプ15などが配設される。さらに、運転席8への昇降用のステップ10がキャビン5の下方に設けられるとともに、車両1の後方には、作業に応じて取り外し可能な前記作業機が取付けられ、この作業機によりプラウや、ロータリーなどの作業を行うものである。また、車両1の下部には車両1を走行させる左右一対のクローラ式走行装置80が配設される。
【0018】
クローラ式走行装置80は、進行方向に延設された左右クローラフレーム81および、このクローラフレーム81間を連結する2本のサイドフレーム79からなり、クローラフレーム81の前端に左右フロントアクスルケース82が固設され、この左右フロントアクスルケース82に支持された左右車軸89に左右駆動スプロケット60が支持される。また、クローラフレーム81の後端には、左右従動アイドラ85が回転自在に支持され、これら駆動スプロケット60と、従動アイドラ85との外周間をクローラベルト88が巻装されるとともに、駆動スプロケット60と、従動アイドラ85との前後間には、それぞれ4つのイコライザ転輪86が回転自在に支持される。
【0019】
以下、図3〜4を用いて、まず、クローラ式トラクタ1の走行および伝動系統について説明する。エンジン3の出力軸に、前後進切換機構21、主変速ギヤ変速機構22および副変速用ギヤ変速機構23、走行伝動軸24、差動機構25を介してクローラ式走行装置80の左右車軸89を連結させて車両1の走行を行うとともに、前後進切換機構21の前後進出力軸26にPTOクラッチ27、PTO変速用ギヤ変速機構28を介し、後ミッションケース30a後方に突出させるPTO出力軸29を連結させ、機体後方に装設させる作業機に動力が伝えられる。
【0020】
また、後ミッションケース30aとエンジン3との間の伝動ケース30bに、前後進切換機構21および主変速用ギヤ変速機構22を内設させ、前後進切換機構21の入力軸31をダンパ32を介して、エンジン3の出力軸に連結させるとともに、前後進切換機構21の前後進出力軸26に主変速用ギヤ変速機構22の主変速軸33が連結される。
【0021】
さらに、後ミッションケース30aの前部に副変速用ギヤ変速機構23および後ミッションケース30aの後部にPTO変速用ギヤ変速機構28を内設させ、主変速軸33に副変速用ギヤ変速機構23の副変速軸34を連結させ、副変速軸34後端に1対のベベルギヤ35を介して走行ブレーキ装置36のブレーキ軸37を連結させ、副変速軸34前端には中間軸38を介して走行伝動軸24の後端が連結される。
【0022】
次に、前ミッションケース30cには、左右遊星ギヤ機構39を備える差動機構25を内設させ、走行伝動軸24の前端にデフ入力軸40、ベベルギヤ41、遊星ギヤ入力軸42を介して左右遊星ギヤ機構39を連結させ、走行伝動軸24からの走行変速出力を左右遊星ギヤ機構39および遊星ギヤ出力軸43を介して左右車軸89に伝え、左右クローラ式走行装置80を略同一速度で同一方向に駆動して車両1を前進または後進走行させる構成とされる。
【0023】
また、機体を旋回させる旋回用の油圧変速機構(HST)の旋回用HSTポンプ44および旋回用HSTモータ45を分割配置させるもので、例えば、伝動ケース30bの右外側に旋回用HSTポンプ44を並設させ、主変速軸33前端に3つ1組の伝達ギヤ46を介して旋回用HSTポンプ44のポンプ軸を連結させて、主変速後の動力をポンプ軸に入力させるとともに、前ミッションケース30cの前面に旋回用HSTモータ45を固設させ、この旋回用HSTモータ45のモータ軸を左右逆転ベベルギヤ49および左右ギヤ軸50を介して左右遊星ギヤ機構39に連結させ、旋回用HSTポンプ44および旋回用HSTモータ45により変速する操向出力を、左右遊星ギヤ機構39を介して左右車軸89に伝えて、左右クローラ式走行装置80を略一定速度で駆動するとともに、主変速の変速段の走行速度に左右クローラ式走行装置80の回転差を比例させ、主変速の変速段を切換えても同じ旋回半径で左方向あるいは右方向に機体を旋回させる構成とされる。
【0024】
さらに、車両1のキャビン4内には、不図示のエアコンなどを備えることができる。この場合、エンジン3に前記エアコン駆動による負荷がかるため、このエンジン3の回転数を電子制御する不図示のコントローラが設けられる。このコントローラによって前記エアコンのそれぞれ図示しないコンデンサを冷却する冷却ファンの回転数を、エンジン3の回転数に比例する構成にし、前記コントローラは、エンジン3のアイドリング回転数を、前記エアコン停止時よりもエアコン作動時に上昇させ、前記コントローラが、不図示のコンプレッサの吐出冷媒圧力を検出する図示しない圧力センサにより検出された冷媒圧力の高さに比例するように、エンジン3のアイドルアップ時の回転数の高さを設定する構成にしてもよい。
【0025】
次に、本願発明である、リモコン装置について、その具体的構成を説明する。図5は、背面から見た運転席周辺の斜視図、図6はリモコン装置を設けたトラクタの背面図、図7はリモコン装置における操作部を斜めから見た模式図、図8はリモコン装置による昇降装置および傾斜装置の制御ブロック図、図9はリモコン装置による作業機制御の模式図、図10はエンジンを駆動および停止させるスイッチを設けたリモコン装置における操作部を斜めから見た模式図、図11はリモコン装置によるエンジン駆動および停止の制御ブロック図、図12はリモコン装置によるPTOクラッチ入切操作を行う制御ブロック図、図13はリモコン装置によるエンジン回転数の増減操作を行う制御ブロック図である。
【0026】
図6に示すように、機体後端部には、プラウやロータリーなど不図示の作業機が、ミッションケース30aの後面などに固設されたトップリンク101および左右ロワリンク102などの作業機装着装置100を介して取り付けられ、左右ロワリンク102のそれぞれ中途部には、不図示の油圧ケースから突出した作業機の昇降装置103である左右リフトアーム103にそれぞれ枢結された左右リフトロッド104が設けられ、作業機の着脱時や、耕深位置、路上走行時など、取り付けられた作業機の高さ位置を調節するため、このリフトアーム103を油圧ケース内の圧油により回動させることで、作業機が昇降される。なお、作業機後部の図示しないリアカバーなどに角度センサなど不図示の検出器を設け、前記リアカバーの回動角度を検出し、後述するコントローラ117により作業機が設定深さとなるように昇降装置103を自動的に昇降制御する自動昇降制御機構104を設けてもよい。
【0027】
また、左右リフトロッド105の一方は、作業機の傾斜装置106である油圧シリンダ106により構成されており、例えば、作業時に凹凸などを有する圃場の状態などにより傾斜した作業機を水平位置に戻す場合などは、この油圧シリンダ106を伸縮させることにより、機体に取り付けられた作業機の傾斜角度が調節される。なお、この傾斜装置106は、手動の他、例えば作業機の左右両側部近傍および機体後部などに取り付けた赤外線センサなどの図示しない位置検出器や後述するコントローラ117などを用いて、設定した傾斜(水平)角度に自動的に制御する自動傾斜制御機構107を備えてもよい。
【0028】
そして、図5に示すように、操縦部4には、例えば、昇降装置103を上げ下げする手動操作レバー108aなどの手動操作部108が、フェンダ109上などに設けられるとともに、傾斜装置106を伸縮させる手動操作ダイヤル108bなどの手動操作部108が、運転席8側方のフェンダ109上に有するボックス110内に配置される。また、自動昇降制御機構104の操作スイッチ104aや、自動傾斜制御機構107の操作スイッチ107aが、ステアリングハンドル19後方のダッシュボード17後面などに設けられる。
【0029】
さらに、操縦部4に設置される、これら昇降装置103および傾斜装置106の手動操作部108は、図6に示すように、例えば、作業者が、作業機の着脱や作業機近傍のメンテナンスなどを行う際、作業機などを見ながら手動で昇降装置103や傾斜装置106を調節するために、左右フェンダ109それぞれの後端面にも昇降装置103の詳細不図示である外部操作スイッチ111および傾斜装置106の外部操作スイッチ112が設けられる。なお、上述した操縦部4における各装置の配置は限定されない。
【0030】
そして、例えば、この昇降装置103の外部操作スイッチ111を上側に押すと、押している間は昇降装置103が上方に回動し、外部操作スイッチ111を下側に押すと、押している間は昇降装置103が下方に回動して、作業機が昇降される。また、傾斜装置106の外部操作スイッチ112を上側に押すと、押している間は傾斜装置106が縮んで作業機の傾斜装置106を有する側が下方に傾斜し、傾斜装置106の外部操作スイッチ112を下側に押すと、押している間は傾斜装置106が伸びて作業機の傾斜装置106を有する側が上方に傾斜して、作業機が傾斜制御される。なお、これら外部操作スイッチ111,112の操作方向に伴う昇降装置103や傾斜装置106の作動方向は限定されない。また、昇降装置103や傾斜装置106の外部操作はスイッチに限定されず、レバーやダイヤルなどであってもよい。
【0031】
次に、操縦部4および左右フェンダ109後端面に設けられたこれら昇降装置103および傾斜装置106の手動操作部108は、上述した従来の操作位置に加えて、本願発明であるリモコン装置113にも設けられる。このリモコン装置113は、赤外線センサなどを用いた操作部114と検出部115とからなり、検出部115は、図6に示すように、左右フェンダ109いずれか一方の後端面であって、昇降装置103の外部操作スイッチ111または傾斜装置106の外部操作スイッチ112いずれかの近傍に設けられる。
【0032】
また、操作部114は、図7に示すように、リモコン操作具116に、昇降装置103や傾斜装置106の外部操作スイッチ111,112同様に、昇降装置103の上昇ボタン116aおよび下降ボタン116b、傾斜装置106の伸長ボタン116cおよび縮退ボタン116dなど各種ボタンを配し、昇降装置103や傾斜装置106の所望する操作に応じたボタンが押されることによって、これら情報が赤外線などで操作部114の発信部116eから検出部115の受光部115aに伝えられる。なお、リモコン操作具116はボタン操作に限定されない。また、リモコン操作具116は、例えば、フェンダ109後端面に設けられた検出部115近傍に備えられた不図示のケースなどに着脱自在に設けてもよい。
【0033】
そして、図8に示すように、検出部115は、操縦部4内など適宜設けられたコントローラ117に接続される。このコントローラ117には、検出部115を介して昇降装置103の上昇ボタン116aおよび下降ボタン116b、傾斜装置106の伸長ボタン116cおよび縮退ボタン116dが接続されるほか、上述した昇降装置103の手動操作レバー108aや、自動昇降制御機構104の操作スイッチ104a、傾斜装置106の手動操作ダイヤル108bや、自動傾斜制御機構107の操作スイッチ107aなども接続される。
【0034】
ここで、作業者が、例えば、作業機の着脱や作業機近傍のメンテナンスなどを行う際、作業機などを見ながら手動で昇降装置103を昇降させたり、作業機の傾斜角度を調節する場合には、図9に示すように、作業者はリモコン操作具116を持ち、車両1から離れて作業機s周辺から昇降装置103の上昇ボタン116aまたは下降ボタン116bを押すと、当該ボタンを押している間、昇降装置103を上昇または下降させる指示が操作部114の発信部116eより検出部115内に有する不図示の受光部を介して検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115からコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、それら情報に基づいて前記油圧ケース内の油圧を上下させて昇降装置103を上方または下方に回動させる結果、作業機sが所望の位置に昇降される。
【0035】
また、同様に車両1から離れて作業機周辺から傾斜装置106の伸長ボタン116cまたは縮退ボタン116dを押すと、当該ボタンを押している間、傾斜装置106を伸長または縮退させる指示が操作部114より検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115からコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、それら情報に基づいて前記油圧ケース内の油圧を上下させて傾斜装置106を伸長または縮退させる結果、作業機sが所望の傾斜角度(水平)に調節される。
【0036】
このような構成にすることで、作業者は、車両1から離れた位置からでも、リモコン装置113の操作により、作業機周辺などを見渡しながら昇降装置103であるリフトアーム103を昇降させて作業機を昇降させたり、傾斜装置106である油圧シリンダ106により作業機の傾斜角度を調節する作業を安全、かつ簡単に行うことができる。
【0037】
また、上述したリモコン装置113を用いて、車両1の外方から遠隔操作で車両1のエンジン3を駆動または停止させることもできる。この場合、図10に示すように、リモコン操作具116上に、エンジン3の駆動ボタン116fおよび停止ボタン116g(スイッチ)が設けられる。
【0038】
そして、図11に示すように、リモコン操作具116におけるエンジン3の駆動ボタン116fおよび停止ボタン116gは、コントローラ117に接続されるとともに、このコントローラ117には、安全機構118であるブレーキ7の検出器7a、PTO操作レバー9の検出器9a、およびエンジン3の図示しないスタータモータなどに連係するエンジン3のオン/オフスイッチ3aが接続される。
【0039】
これら安全機構118であるブレーキ7の検出器7aは、例えばブレーキ7のペダル近傍(図示しないサイドブレーキや走行ブレーキ36の近傍など車両1の制動装置であればよい)に設けられた不図示のリミットセンサや赤外線センサなどペダルの位置を検出するものであり、設置される位置やセンサの種類は限定されない。また、PTO操作レバー9の検出器9aは、例えばPTO操作レバー9の近傍に設けられた不図示のリミットセンサや赤外線センサなどPTO操作レバー9の位置を検出するものであり、設置される位置やセンサの種類は限定されない。
【0040】
ここで、作業者が、例えばエンジン3の駆動中に車両1を制動させ、この車両1から離れた際、車両1の外方からエンジン3の駆動を停止させる場合は、作業者がリモコン操作具116におけるエンジン3の停止ボタン116gを押すと、エンジン3の駆動を停止させる指示が操作部114の発信部116eより検出部115内に有する不図示の受光部を介して検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115からコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、その情報に基づいてエンジン3のオン/オフスイッチ3aをオフにする結果、エンジン3の駆動が停止される。
【0041】
また、上述とは逆に、例えばエンジン3の駆動停止中に、この車両1の外方からエンジン3を駆動させる場合には、作業者がリモコン操作具116におけるエンジン3の駆動ボタン116fを押すと、エンジン3を駆動させる指示が上述同様に操作部114より検出部115に赤外線で送信され、その情報がコントローラ117に伝えられる。
【0042】
このとき、検出器7aからブレーキ7がかけられている(走行ブレーキ装置36が作動中)情報に加え、検出器9aからPTO操作レバー9がPTOクラッチ27を遮断状態とするニュートラル位置であることの情報がコントローラ117に伝えられることにより、コントローラ117は、エンジン3のオン/オフスイッチ3aをオンにする結果、エンジン3が駆動される。
【0043】
一方、検出器7aからブレーキ7がかけられておらず、検出器9aからもPTO操作レバー9がニュートラル位置でない一方または双方の情報がコントローラ117に伝えられていると、コントローラ117は、エンジン3の駆動ボタン116fが押され、エンジン3を駆動させる指示があっても、エンジン3のオン/オフスイッチ3aをオフのままにした状態でオンにすることはなく、従ってエンジン3は駆動されない。なお、リモコン装置113によるエンジン3駆動は、PTOクラッチ27の遮断時以外にも、図示しない主クラッチの遮断によるPTO出力軸29に動力が伝達されないときに作動させる構成にしてもよい。
【0044】
このような構成により、作業者がエンジン3をかけたまま制動させた車両1から離れたときに、例えばエンジン3を緊急停止させる必要を生じた場合には、作業者が操縦部4に戻ることなく手元のリモコン操作具116で迅速に車両1のエンジン3の駆動を停止することができる。また、エンジン3の駆動停止中の車両1を、例えば暖気運転などのために車両1の外方からエンジン3を駆動させる場合にも、作業者が操縦部4に行くことなく、手元のリモコン操作具116で迅速に車両1のエンジン3を駆動させることができる。ただしこの場合、停止中の車両1にブレーキ7がかけられているとともに、PTO操作レバー9がニュートラル位置で作業機が駆動されない状況であるときにのみエンジン3のオン/オフスイッチ3aがオンになりエンジン3が駆動する、安全機構118を有するので、車両1の無人発進や無人走行およびエンジン3の駆動に伴う突然の作業機の駆動を防止することができる。
【0045】
さらに、上述した安全機構118に加え、または代えて、作業機を駆動させるPTO出力軸29にエンジン3からの動力を伝達および遮断するPTOクラッチ27を入切させるスイッチをリモコン操作具116に適宜設けることができる。この場合、図12に示すように、リモコン操作具116におけるPTOクラッチ入ボタン116hおよびPTOクラッチ切ボタン116iは、検出部115を介してコントローラ117に接続されるとともに、このコントローラ117には、PTOクラッチ27の詳細不図示のPTO油圧クラッチ27aなどが接続される。
【0046】
そして、例えば、車両1の外方からエンジン3を駆動させた直後に、PTO操作レバー9をニュートラル位置にしていない場合などは、作業者がリモコン操作具116のPTOクラッチ切ボタン116iを押すことにより、PTOクラッチ27を切側に作動させる指示が上述同様に操作部114より検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115よりコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、PTO油圧クラッチ27aを遮断側に作動させる結果、PTOクラッチ27が、前後進出力軸26とPTO出力軸29とを遮断させてPTO出力軸29の駆動が停止し、作業機の駆動が停止される。
【0047】
また、エンジン3の駆動中である車両1の外方から、駆動停止状態の作業機を駆動させる場合には、作業者がリモコン操作具116のPTOクラッチ入ボタン116hを押すことにより、PTOクラッチ27を入側に作動させる指示が上述同様に操作部114より検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115よりコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、PTO油圧クラッチ27aを接続側に作動させる結果、PTOクラッチ27が、前後進出力軸26とPTO出力軸29とを接続させて、PTO出力軸29が駆動し、作業機が駆動される。
【0048】
このような構成により、作業者は、車両1から離れた位置からでも作業機を駆動または停止させることができる。また、遠隔操作により車両1のエンジン3を駆動させた直後にも、PTOクラッチ27をリモコン装置113の操作で切ることができ、エンジン3の駆動に伴う不必要な作業機の駆動を停止させることができる。
【0049】
さらに、エンジン3の回転数を制御する、エンジン回転数増加ボタン116jおよびエンジン回転数減少ボタン116kをリモコン操作具116に適宜設けることもできる。この場合、図13に示すように、リモコン操作具116におけるエンジン回転数増加ボタン116jおよびエンジン回転数減少ボタン116kは、検出部115を介してコントローラ117に接続されるとともに、このコントローラ117には、エンジン3の詳細不図示の電子ガバナ3bなどが接続される。
【0050】
そして、例えば、エンジン3駆動中であって、制動中の車両1の外方から、作業機に付着される土の量や作業機の駆動状態を、作業機の駆動速度を低下させて観察などする場合には、作業者がリモコン操作具116のエンジン回転数減少ボタン116kを押している間、エンジン3の回転数を減少させる指示が上述同様に操作部114より検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115よりコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、燃料噴射量を制御する電子ガバナ3bに燃料噴射量を下げさせる結果、エンジン3の回転数が減少することによりPTO出力軸29の回転数を減少させ、作業機の駆動速度が減少される。
【0051】
また、上述とは逆に、エンジン3駆動中であって、制動中の車両1の外方から、作業機の駆動速度を上昇させる場合には、作業者がリモコン操作具116のエンジン回転数増加ボタン116jを押している間、エンジン3の回転数を増加させる指示が上述同様に操作部114より検出部115に赤外線で送信され、その情報が検出部115よりコントローラ117に伝えられる。そして、コントローラ117は、電子ガバナ3bに燃料噴射量を上げさせる結果、エンジン3の回転数が増加することによりPTO出力軸29の回転数を増加させ、作業機の駆動速度が増加される。
【0052】
このような構成により、作業者は、車両1から離れた位置からでも容易にエンジン3の回転数を増減して作業機の駆動速度を変更でき、作業機の状態を観察するなどの作業を作業機周辺を動きながら行うことができる。
【0053】
以上詳述したように、この例のクローラ式トラクタ1は、エンジン3を備えるとともに、機体1に装着した作業機を昇降させる昇降装置103と、作業機の傾斜角度を調節する傾斜装置106とを機体1に備え、昇降装置103および傾斜装置106を遠隔操作可能にする、機体1に着脱自在に設けた操作部114と、機体1に設置した操作部114からの情報を検出する検出部115とからなるリモコン装置113を備えるものである。加えて、リモコン装置113の操作部114は、エンジン3を駆動および停止させる駆動ボタン116fおよび停止ボタン116g(スイッチ)を備え、このエンジン3を駆動させる駆動ボタン116f(スイッチ)は、車両1にブレーキ7がかけられているとともに、作業機の駆動を制御するPTO操作レバー9が作業機の駆動を停止させるニュートラル位置であるときのみ作動する安全機構118を備える。さらには、リモコン装置113の操作部114は、作業機を駆動させるPTO出力軸29にエンジン3からの動力を伝達および遮断するPTOクラッチ27を入切させるPTOクラッチ入ボタン116hおよびPTOクラッチ切ボタン116i(スイッチ)およびエンジン3の回転数を増減させるエンジン回転数増加ボタン116jおよびエンジン回転数減少ボタン116k(スイッチ)を備える。
【0054】
また、上述の例では、作業車両の一例としてクローラ式トラクタ(農作業車両)について説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、ホイール式トラクタや、農作業車両としてコンバインなど、また、建設作業車両として、バックホー、ブルトーザなど、エンジンおよび作業機を備えたあらゆる作業車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一例としての、クローラ式トラクタを示す左側面図である。
【図2】クローラ式トラクタの平面図である。
【図3】駆動部の断面側面図である。
【図4】駆動部の断面平面図である。
【図5】背面から見た運転席周辺の斜視図である。
【図6】リモコン装置を設けたトラクタの背面図である。
【図7】リモコン装置における操作部を斜めから見た模式図である。
【図8】リモコン装置による昇降装置および傾斜装置の制御ブロック図である。
【図9】リモコン装置による作業機制御の模式図である。
【図10】エンジンを駆動および停止させるスイッチを設けたリモコン装置における操作部を斜めから見た模式図である。
【図11】リモコン装置によるエンジン駆動および停止の制御ブロック図である。
【図12】リモコン装置によるPTOクラッチ入切操作を行う制御ブロック図である。
【図13】リモコン装置によるエンジン回転数の増減操作を行う制御ブロック図である。
【図14】従来のトラクタの平面図である。
【符号の説明】
【0056】
3 エンジン
3a オン/オフスイッチ
3b 電子ガバナ
4 車両操縦部
7 ブレーキ
7a 検出器
8 運転席
9 PTO操作レバー
27 PTOクラッチ
27a PTO油圧クラッチ
103 昇降装置(左右リフトアーム)
106 傾斜装置(油圧シリンダ)
113 リモコン装置
114 操作部
115 検出部
115a 受光部
116 リモコン操作具
116a 上昇ボタン
116b 下降ボタン
116c 伸長ボタン
116d 縮退ボタン
116e 発信部
116f 駆動ボタン
116g 停止ボタン
116h PTOクラッチ入ボタン
116i PTOクラッチ切ボタン
116j エンジン回転数増加ボタン
116k エンジン回転数減少ボタン
117 コントローラ
118 安全機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを備えるとともに、機体に装着した作業機を昇降させる昇降装置と、前記作業機の傾斜角度を調節する傾斜装置とを前記機体に備える作業車両において、
前記昇降装置および前記傾斜装置を遠隔操作可能にする、前記機体に着脱自在に設けた操作部と、前記機体に設置した前記操作部からの情報を検出する検出部とからなるリモコン装置を備えることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記リモコン装置の操作部は、前記エンジンを駆動および停止させるスイッチを備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記エンジンを駆動させる前記スイッチは、車両にブレーキがかけられているとともに、前記作業機の駆動を制御するPTO操作レバーが前記作業機の駆動を停止させるニュートラル位置であるときにのみ作動する安全機構を備えることを特徴とする、請求項1〜2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記リモコン装置の操作部は、前記作業機を駆動させるPTO出力軸に前記エンジンからの動力を伝達および遮断するPTOクラッチを入切させるスイッチを備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項5】
前記リモコン装置の操作部は、前記エンジンの回転数を増減させるスイッチを備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−182913(P2008−182913A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17352(P2007−17352)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】