説明

作業車両

【課題】フェンダを走行時の振動及び騒音の発生を抑制して支持すると共に、土付着を少なくし洗車を行い易くすることができる作業車両を提供する。
【解決手段】ステアリング動作に伴って回動する取付ブラケット19に、ステーを介して支持されるフェンダ15によって前輪2を覆う作業車両1であって、前記フェンダ15を前輪2の外側寄りに偏らせて前輪2の内側寄り外周面を露出させるように配置し、該フェンダ15の前後を前ステー16と後ステー17によって取付ブラケット19に取付支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪をフェンダによって覆う作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業用のトラクタは、左右の前輪と該前輪を覆うフェンダを、前車軸ケースの両端に設けられるキングピンを中心にステアリング動作可能に軸支される前輪ケースとステアリング動作に連動して回動する取付ブラケットに取付けている(例えば特許文献1。)。
そして、このフェンダは、タイヤ上部をそのタイヤより広い幅で覆うように湾曲形成して、前記した取付ブラケットに1本のステーによって取付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−125984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されるトラクタは、ステアリング操作により前輪を左右に最大切れ角を以って回動しようとすると、前輪の全幅を覆うフェンダの後部がボンネットに接当して前輪の切れ角を制限してしまい、所期の機体旋回を行なうことができず運転性を損なう虞があり、止む無く前輪の最大切れ角を抑えなければならないという問題がある。
また前輪の外周に付着する土塊は、タイヤ外周とフェンダとの間に入り込み持ち回しされるため、大きな走行抵抗になると共に、長くて広いフェンダの下部に入り込んだ土塊は、水を勢いよく吹き付けて除去しようとしても綺麗に除去することができず、洗車作業が煩雑になる等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は係る課題を解決するために、第1に、ステアリング動作に伴って回動する取付ブラケット19に、ステーを介して支持されるフェンダ15によって前輪2を覆う作業車両1において、前記フェンダ15を前輪2の外側寄りに偏らせて前輪2の内側寄り外周面を露出させるように配置し、該フェンダ15の前後を前ステー16と後ステー17によって取付ブラケット19に取付支持することを特徴としている。
第2に、前輪2の後半部の上方を、前輪2の外周の4分の1程度の長さを有するフェンダ15によって覆うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、前輪を覆うフェンダを前輪の外側寄りに偏らせて覆い、前輪の内側寄り外周面を露出させるように配置することにより、機体の旋回を行なうべく前輪をステアリング操作しても、フェンダは外側寄りにオフセットして配置してあるため、フェンダがボンネット等と干渉することが回避でき、従って、前輪の最大切れ角をフェンダによって制限する必要がなく、フェンダを設けないものと同様に小回り旋回をすることができる。
請求項2の発明によれば、フェンダを前輪の外周の4分の1程度の長さとなし前輪の後半部の上方を覆うことにより、フェンダを必要最小限に小型化して走行抵抗を少なくすることができると共に、フェンダの下部に入り込んだ土塊を外側から簡単に除去したり洗い流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】トラクタの斜視図である。
【図2】トラクタの前部の構成を示す平面図である。
【図3】トラクタの前部の構成を示す背面図である。
【図4】前輪を右方向にステアリング操作した状態を示す平面図である。
【図5】前輪を右方向にステアリング操作した状態を示すトラクタの正面図である。
【図6】前輪を右方向にステアリング操作した状態を示すトラクタの背面図である。
【図7】フェンダ取付構造を示す斜視図である。
【図8】フェンダ取付構造の別実施形態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1において符号1は農業用のトラクタ(作業車両)を示し、このトラクタ1はステアリング操作自在に構成された一対の前輪2と後輪2aとを前後左右に有する走行機体3に、前側からエンジン4を配設してボンネット5で覆い、その後方にステアリングホイール(ハンドル)及び座席等からなる操縦部6を配設してキャビン7で覆い、機体後部に耕耘装置等の作業機を装着する連結部を備えている。
【0009】
トラクタ1は図2〜図4で示すように、走行機体3の左右中心位置で前側下部に前後方向に設けた支持軸9に、筒状の前車軸ケース10をその軸芯周りにローリング自在に軸支しており、該前車軸ケース10は両端に、前輪2を駆動するキングピンシャフト12(図2,図4に点線で示す)を軸支するキングピンケース10aを設けていると共に、このキングピンケース10aに前輪2を軸支する前輪ケース11を左右回動自在に軸支している。
上記構成において前輪ケース11は、ケース上部にナックルアーム13を設けており、このナックルアーム13をステアリング操作により連動して往復作動するステアリングロッド14に連結している。
【0010】
これによりトラクタ1は、ステアリング操作に連携して作動するパワーステアリングユニットを介して、ステアリングロッド14がナックルアーム13を回動し、前輪ケース10をキングピンシャフト12を中心に左右回動し、左右の前輪2を所定の操蛇角(切れ角)の範囲内でステアリング動作(操向回動)させて機体の操向を行うことができる。尚、実施形態のトラクタ1は、前車軸ケース10内の伝動軸とキングピンシャフト12を介して、前輪2を回転駆動するようにしている。
またトラクタ1は、前車軸ケース10を取付けるシャーシ3aをエンジン4の両側に取付けており、このシャーシ3aの左右幅は前輪2の最大切れ角を制限しないように狭幅となしており、その上方に位置するボンネット5は、その両側のサイドカバー5aの下部を内向きに湾曲させることにより、下部をシャーシ3aの上端と略一致させるようにしている。(図3)
【0011】
各前輪2は、タイヤ後半部の上方をフェンダ15によって覆っている。そして、フェンダ15は、運転走行に伴う振動に対し十分な剛性を有していると共に、ステアリング動作に伴う前輪2の最大切れ角を制限することなく取付けている。
即ち、フェンダ15は、タイヤ外周の4分の1程度の前後長さでタイヤ幅と略同じかそれ以下の幅となし、前輪2の後半部の上方をタイヤと所定の間隔を有して覆うように円弧状に形成し、且つその前後を前ステー16と後ステー17による2本のステーによって前輪ケース11側に着脱自在に取付けるようにしている。
【0012】
即ち、図2,図3,図7で示すように前ステー16と後ステー17は、1本の小径管からなるパイプ材を側面視で上向きコ字状に屈曲させ、且つ正面視で逆L字状に屈曲させた
形状となし、外向きに屈曲された上端部をフェンダ15の裏側前後位置に接合させている。また前ステー16と後ステー17との間で前後方向に形成される中間ステー部16aに、ボルト孔を有するステー取付片16bを前側寄りに固設している。またステー取付片16bは、ボルトによって正面視でL字状をなす取付片18の起立部に締着している。
【0013】
上記のように前ステー16と後ステー17並びにステー取付片16bと取付片18を有しユニット化されたフェンダ15は、取付片18の取付部を前記前輪ケース11側に設けた取付ブラケット19にボルトによって簡単に取付けることができる。
上記取付ブラケット16は、前記前輪ケース11が有するナックルアーム13の上部に設けており、ボルト穴20を有する平坦な取付座を形成しており、該取付座に前記取付片18をボルト止めすることにより、前ステー16と後ステー17によってフェンダ15の前後を安定よく支持される。
【0014】
そして、上記のように取付けられるフェンダ15は、前輪2の後方斜め上方に位置するように配置され、タイヤ外側寄りを覆った状態でステアリング動作に連動して前輪2と共に回動する。またステアリング操作によって前輪2が最大切れ角で左右に回動するとき、タイヤに近接させて外向きにL字状に屈曲させている後ステー17と、外側寄りにオフセットしているフェンダ15は、ボンネット5との接当を回避することができる。
【0015】
これにより図4〜図6で示すように、各前輪2を最大切れ角で右回動させ、且つ右側の前輪2が支持軸9を支点に上方回動し、右側の前輪2の後部が走行機体3のシャーシ3aに最接近したとき、右側のフェンダ15の後ステー17はサイドカバー5aの側方下部に入り込んで近接し、フェンダ15はボンネット5の側方下部に近接してボンネット5等との干渉(接当)を回避するので、フェンダ15によって前輪2の切れ角が制限されることなく、ステアリング動作をスムーズに行うことができ小回り旋回(小旋回走行)を可能にする。
【0016】
また図2,図7で示すように取付ブラケット19は、その左右方向にボルト穴20を複数形成しており、フェンダ15の左右方向の取付け位置をボルト穴20を選択して取付片18をボルト締めすることにより取付けることができる。
これによりトラクタ1は、タイヤを変更し特にタイヤ幅が異なる場合に、取付け位置を調節したフェンダ15によって適正に覆うように位置合わせをすることができ、フェンダ15の泥除け機能を発揮させることができる。また前ステー16と後ステー17も、前輪2のタイヤ内側面とタイヤ外周とに適正間隔を有して近接させることができ、タイヤに付着する土塊を掻き落とすスクレーパ作用を発揮することができる。
【0017】
また図8で示すように、取付ブラケット19に取付けられる取付片18は、中間ステー部16aに固設したステー取付片16bを取付ける起立部を後方に向けて長く傾斜させて形成し、且つその延長方向に複数のボルト穴21を形成することにより、選択されたボルト穴21にステー取付片16bをボルト止めすることができる。
これにより前輪2をタイヤ径の異なるものに変更した場合に、予め設定された間隔を有してフェンダ15の直径方向の取付け位置を調節することができるので、フェンダ15は前輪2を適正に覆い泥除け機能を発揮する。
【0018】
以上のようにトラクタ1は、フェンダ15を前輪外周長の4分の1程度と短い前後長さとなし、このフェンダ15を前ステー16と後ステー17によって、前輪2の後半部の上方で外側寄りを覆うようにオフセットさせて、取付ブラケット19に取付けることができる。従って、水田等の圃場で直進走行作業を行なうとき、フェンダ15は前輪2によって跳ね上げられる直後の泥土を速やかに受け止め、後方飛散を阻止することができる。また図1で示すように、前輪2の背後に位置するキャビン7のガラス面からなる下部窓7aの
外側寄りに対する泥土の付着を防止し、ガラス面の透明性を維持することができる。
【0019】
またこの際に、前輪2の内側寄りから飛散する泥土が、下部窓7aの内側(ボンネット5寄り)のガラス面を仮に汚して透明性を失ったとしても、このガラス面の外側寄りは飛散防止されて土付着がなく綺麗なままなので、オペレータは座席に座った状態において、上記下部窓7aのガラス面の外側寄りの部分から前方下部を透視して運転を続行することができる。従って、作業中に最も確認を要する前輪2の外側寄り及びその前方周囲の視認を良好とした運転を能率よく行うことができる。
【0020】
また上記構成により前輪2の後半部分だけを覆うようにしたフェンダ15は、従来のもののように前輪2の前部側の轍位置及び周囲を隠さないので、操縦部6からの視界を広くして運転を行い易くすることができる。また必要最小限に小型軽量化されたフェンダ15は、その前後を前ステー16と後ステー17によって剛性の高い構造によって、取付ブラケット19に簡単に装着することができ、また走行時の振動及び騒音の発生を低減することができる。
【0021】
さらに、圃場の土質や硬軟或いは湿田の泥土等の状況によって、前輪2が土塊を付着させて持ち回りをするような場合に、フェンダ15はタイヤ外側寄りにオフセットさせていることにより、タイヤ外周とフェンダ15との間に侵入する土塊を少なくし抵抗を低減することができる。また前輪2のタイヤ内側面とタイヤ外周とに付着する土塊は、前輪2の内側に近接する後ステー17と前ステー16とによって2段階的に掻き落とされるため、走行負荷を低減することができる。
【0022】
またステアリング操作時に前輪2の切れ角を制限することなく、取付ブラケット19に取付けることができるフェンダ15は、フェンダを備えないトラクタに対しても、例えば前輪ケース10に取付ブラケット16を形成付加するだけの、簡単な後付け作業によって取付けることができると共に、当該トラクタの前輪2の切れ角を制限しないので、ステアリング動作をスムーズに行うことができる。
【0023】
またフェンダ15は小型化して前輪2の後半部分を覆い、前ステー16と後ステー17は小径パイプ材にしているので、フェンダ15と前輪2との間に入り込む土塊は少量であること、及び付着した土塊は前ステー16と後ステー17側に露出しているので、外側から棒やヘラによって簡単に土落としをすることができ、また洗車水によって容易に洗い流すことができ、洗車作業を能率よく楽に行うことができる等の特徴がある。
【符号の説明】
【0024】
1 トラクタ(作業車両)
2 前輪
10 前車軸ケース
11 前輪ケース
12 キングピン
15 フェンダ
16 前ステー
17 後ステー
19 取付ブラケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング動作に伴って回動する取付ブラケット(19)に、ステーを介して支持されるフェンダ(15)によって前輪(2)を覆う作業車両(1)において、前記フェンダ(15)を前輪(2)の外側寄りに偏らせて前輪(2)の内側寄り外周面を露出させるように配置し、該フェンダ(15)の前後を前ステー(16)と後ステー(17)によって取付ブラケット(19)に取付支持することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前輪(2)の後半部の上方を、前輪(2)の外周の4分の1程度の長さを有するフェンダ(15)によって覆うことを特徴とする請求項1記載の作業車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−201356(P2011−201356A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68581(P2010−68581)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】