説明

作業車両

【課題】防振部材を介してフレームにエンジンを取り付ける作業車両において、エンジンの前後左右の振動を効果的に抑制できる構成を提供する。
【解決手段】トラクタは、エンジン19と、機体フレームと、後面側防振部材50aと、左側防振部材50b及び右側防振部材と、を備える。機体フレームには、エンジン19が取り付けられる。後面側防振部材50aは、機体フレームにエンジン19を取り付けるために、当該エンジン19の前後方向の一側に1つ配置される。左側防振部材50b及び右側防振部材は、機体フレームにエンジン19を取り付けるために、当該エンジン19の左右方向の両側にそれぞれ配置される。側面視において、左側防振部材50bとエンジン19の重心若しくは略重心とを通過する第1仮想直線100が後面側防振部材50aを通過している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振部材を介してフレームにエンジンを取り付ける作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクタ等の作業車両において、エンジンの両側に防振部材をそれぞれ配置するとともに、エンジンの前後方向の一側にも防振部材を配置する構成が従来から知られている。この種のトラクタを開示するものとして特許文献1及び特許文献2がある。特許文献1では、エンジンの両側と、クラッチハウジングが設置されるエンジンの側面に防振部材を配置する構成が開示されている。特許文献2では、エンジンの両側と、フライホイールが設置されるエンジンの側面に防振部材を配置する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平2−19291号公報
【特許文献2】特開昭63−275425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の第2図の側面視において、エンジンの両側に配置される防振部材とエンジンの重心位置とを通過する仮想直線を考えた場合、クラッチハウジングが設置される側面の防振部材は、当該仮想直線よりも下方に位置することになる。また、特許文献2の第1図の側面視において、エンジンの両側に配置される防振部材とエンジンの重心位置とを通過する仮想直線を考えた場合、フライホイールが設置される側面の防振部材は、当該仮想直線よりも上方に位置することになる。このように、エンジンの前後方向の一側に配置される防振部材がエンジンの重心を通過する上述の仮想直線から離れた位置に配置される構造では、作業車両の急停止及び急減速時の慣性力によるエンジンの前方への移動や、急発進及び急加速時の慣性力によるエンジンの後方への移動を十分に抑制できないおそれがあった。このようなエンジンの移動は振動の原因になってしまう。従って、エンジンの重心位置を考慮して防振部材を配置するという観点から従来の構成は改善の余地があった。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、防振部材を介してフレームにエンジンを取り付ける作業車両において、エンジンの前後左右の振動を効果的に抑制できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下のように構成される作業車両が提供される。即ち、作業車両は、エンジンと、フレームと、第1防振部材と、第2防振部材と、を備える。前記フレームには、前記エンジンが取り付けられる。前記第1防振部材は、前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの前後方向の一側に1又は複数配置される。前記第2防振部材は、前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの左右方向の両側にそれぞれ配置される。側面視において、前記第2防振部材と前記エンジンの重心若しくは略重心とを通過する仮想直線が前記第1防振部材を通過している。
【0008】
これにより、エンジンの重心の位置を基準に第1防振部材及び第2防振部材が配置されるので、フレーム上でエンジンを安定的に支持でき、エンジンの振動も効果的に抑制できる。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、以下のように構成される作業車両が提供される。即ち、作業車両は、エンジンと、フレームと、第1防振部材と、第2防振部材と、を備える。前記フレームには、前記エンジンが取り付けられる。前記第1防振部材は、前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの前後方向の一側に1つ配置される。前記第2防振部材は、前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの左右方向の両側にそれぞれ配置される。側面視において、前記第2防振部材と前記エンジンの重心若しくは略重心とを通過する仮想直線が前記第1防振部材を通過している。そして、平面視では、機体前後方向を向く直線であって、前記エンジンの重心若しくは略重心を通過する第2の仮想直線が前記第1防振部材を通過している。
【0010】
これにより、エンジンの重心の位置を基準に第1防振部材及び第2防振部材が配置されるので、フレーム上でエンジンを安定的に支持でき、エンジンの振動も効果的に抑制できる。また、機体前後方向でエンジンの重心の位置に対応して第1防振部材が配置されるので、エンジンの前後方向の振動を効果的に低減できる。
【0011】
前記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記第1防振部材は、前記エンジンのフライホイールの上方に配置される。
【0012】
これにより、エンジンの重心の近くに第1防振部材が配置されることになるので、エンジンをより安定的に支持することができる。また、フライホイールの上方のスペースを活用して第1防振部材を配置するので、フレームの前後方向の長さをコンパクトにすることができる。
【0013】
前記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、側面視において、前記第1防振部材が有する弾性部材と、前記第2防振部材が有する弾性部材と、を前記仮想直線が通過するように、前記第1防振部材及び前記第2防振部材が配置される。
【0014】
これにより、エンジンの重心を基準として第1防振部材の弾性部材と、第2防振部材の弾性部材と、が配置されることになるので、エンジンの振動を効果的に抑制し、防振性を一層向上させることができる。
【0015】
前記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、作業車両は、前記エンジンに取り付けられ、貫通孔が形成されるプレートを備える。前記第1防振部材は、第1弾性部材と、第2弾性部材と、固定部材と、を有する。前記第1弾性部材は、前記プレートの上面に配置される本体部と前記貫通孔に入る凸部とを有するように形成される。前記第2弾性部材は、前記プレートの下面に配置される本体部と前記貫通孔に入る凸部とを有するように形成される。前記固定部材は、前記第1弾性部材の前記本体部と前記凸部を貫通するとともに、前記第2弾性部材の前記本体部と前記凸部を貫通する。そして、前記固定部材は、前記フレーム側に取り付けられる。
【0016】
これにより、第1防振部材をエンジン及びフレームに固定するための構造をシンプルにすることができ、製造工程の効率化に寄与できる。また、第1弾性部材及び第2弾性部材のそれぞれの凸部がプレートの貫通孔の縁に接触することで、エンジンの移動を広範囲に規制でき、防振性を効果的に向上させることができる。
【0017】
前記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、側面視において、前記第1弾性部材又は前記第2弾性部材の少なくとも何れか一方と、前記第2防振部材が有する弾性部材と、を前記仮想直線が通過するように、前記第1防振部材及び前記第2防振部材が配置される。
【0018】
これにより、エンジンの重心を基準として第1防振部材が有する弾性部材と、第2弾性部材が有する弾性部材と、が配置されることになるので、エンジンの振動を効果的に抑制し、防振性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの側面図。
【図2】機体フレームに取り付けられたエンジンの背面斜視図。
【図3】エンジン、機体フレーム及び防振部材の背面図。
【図4】防振部材の構造を示した分解斜視図。
【図5】後面側防振部材と左側防振部材の位置関係を示した拡大側面図。
【図6】後面側防振部材、左側防振部材及び右側防振部材の位置関係を示した拡大平面図。
【図7】防振部材によってエンジンの移動を規制する様子を模式的に示した平面図。
【図8】変形例の後面側防振部材と左側防振部材の位置関係を示した拡大側面図。
【図9】変形例の後面側防振部材の拡大背面図。
【図10】変形例の後面側防振部材の構造を模式的に示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る作業車両としてのトラクタ10の側面図である。本実施形態のトラクタ10は、農業作業用の作業車両であり、ロータリ、ローダ、プラウ、ボックススクレーパー等の各種のアタッチメント(作業機)を必要に応じて装着し、アタッチメントを用いた各種の作業を行うことができる。なお、以下の説明では、単に「左側」「右側」等というときは、トラクタ10が前進する方向に向かって左側及び右側を意味するものとする。また、単に、「前面側」というときは、トラクタ10の前進する方向を意味し、「後面側」等というときは、トラクタ10の前進する方向と反対方向を意味するものとする。
【0021】
図1に示すように、トラクタ10は、左右一対の前輪14と、左右一対の後輪15と、を備えた四輪駆動式の車体11を有する。車体11の前部にはボンネット20が配置されており、当該ボンネット20の内部にはエンジン19が配置されている。
【0022】
ボンネット20の後方には、オペレータ(運転者)が搭乗するためのキャビン16が配置されている。このキャビン16の内部には、運転操作具及び運転座席等が設けられており、オペレータは、この運転操作具を操作することによって、トラクタ10の走行及び各種のアタッチメントの操作等を行う。
【0023】
キャビン16の下方には、ミッションケース21が配置されている。エンジン19が出力する回転駆動力は、このミッションケース21に入力される。ミッションケース21内には、図略の油圧式無段変速装置が配置されており、この油圧式無段変速装置によってエンジン19の出力が変速されて、前輪14及び後輪15に伝達される。
【0024】
また、ミッションケース21の後端部からは、図略のPTO軸が後方に突出しており、このPTO軸を介して前記アタッチメントにエンジン19の動力が伝達される。
【0025】
本実施形態のエンジン19は、エンジン19の後面側と左右両側に配置される合計3つの防振部材50を介して機体フレーム30に支持されている。次に、エンジン19を機体フレーム30に支持する構成について説明する。図2は、機体フレーム30に取り付けられたエンジン19の背面斜視図である。図3は、エンジン19、機体フレーム30及び防振部材50の背面図である。
【0026】
図2に示すように、エンジン19は、冷却ファン25が前方で、出力軸43が連結されるフライホイール44が後方になるように、機体フレーム30に取り付けられる。図3に示すように、出力軸43は、背面視において(後面側から見たときに)、反時計回りに回転している。この出力軸43の回転駆動力がフライホイール44及びドライブシャフト17を介してミッションケース21に伝達される。
【0027】
エンジン19が取り付けられる機体フレーム30は、機体の前側に配置される一対のフロントフレーム31と、後側に配置される一対のリアフレーム32と、を備える。
【0028】
フロントフレーム31は、前後方向に細長い枠状に構成されており、フロントウェイト18、フロントアクスルハウジング22、エンジン19の前部等を支持する。図3に示すように、フロントフレーム31の左側には防振部材50を取り付けるための左側フレームプレート62が配置されており、右側には防振部材50を取り付けるための右側フレームプレート63が配置されている。
【0029】
また、一対のフロントフレーム31間の幅は、一対のリアフレーム32間の幅より短くなるように構成されており、このフロントフレーム31の後端部にリアフレーム32の前端部が間座33を介して連結されている。
【0030】
リアフレーム32は、前後方向に細長く構成されており、ミッションケース21、リアアクスルハウジング23及びエンジン19の後部等を支持している。また、リアフレーム32の内側には、ブリッジフレーム35が左右方向に横設されている。
【0031】
ブリッジフレーム35の上部には、ブリッジフレーム35から前上方にせり上がるように突出する防振部材支持フレーム61が配置されている。この防振部材支持フレーム61の上面には防振部材50が固定されている。
【0032】
エンジン19の後面には、防振部材50を取り付けるための後面側エンジンプレート40が固定されている。後面側エンジンプレート40は、後方に向かって突出する取付プレート41を有する。取付プレート41は、平面部分が上下方向を向いた平板状に構成されている。
【0033】
防振部材50が防振部材支持フレーム61に固定されるとともに、取付プレート41に固定されることで、エンジン19の後部が防振部材50を介してリアフレーム32に支持される。以下の説明において、エンジン19の後面側に配置される防振部材50のことを後面側防振部材50aと称することがある。
【0034】
また、エンジン19の左側の側面には左側エンジンプレート45が固定されており、右側の側面には右側エンジンプレート46が固定されている。左側エンジンプレート45及び右側エンジンプレート46は、何れも、端面がL字状に構成されている。
【0035】
防振部材50が左側フレームプレート62に固定されるとともに左側エンジンプレート45に固定されることで、エンジン19の前部の左側が防振部材50を介してフロントフレーム31に支持される。同様に、防振部材50が右側フレームプレート63に固定されるとともに右側エンジンプレート46に固定されることで、エンジン19の前部の右側が防振部材50を介してフロントフレーム31に支持される。以下の説明において、エンジン19の左側に配置される防振部材50を左側防振部材50bと称し、エンジン19の右側に位置する防振部材50を右側防振部材50cと称することがある。
【0036】
本実施形態において、後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cは、何れも同一の構造の防振部材50である。次に、図4を参照して、本実施形態の防振部材50の構造について説明する。図4は、防振部材50の構造を示した分解斜視図である。
【0037】
図4に示すように、防振部材50は、エンジン側ブラケット70と、フレーム側ブラケット80と、ゴム90と、連結部材55と、を主要な構成として備える。
【0038】
エンジン側連結部材としてのエンジン側ブラケット70は、本体部71と、エンジン側被規制部72と、エンジン側被規制部73と、を有する。本体部71は平板状に構成されており、この本体部71がエンジン19側に固定される。エンジン側被規制部72は、本体部71の端部を折り曲げて形成されたものである。エンジン側被規制部73は、エンジン側被規制部72を形成した部分とは異なる端部を、エンジン側被規制部72と同じ側に折り曲げて形成されたものである。エンジン側被規制部72とエンジン側被規制部73は、隣接した位置に形成されている。
【0039】
フレーム側連結部材としてのフレーム側ブラケット80は、本体部81と、フレーム側規制部82と、フレーム側規制部83と、を有する。本体部81は平板状に構成されており、この本体部81が機体フレーム30側に固定される。フレーム側規制部82は、本体部81の端部を折り曲げて形成されたものである。フレーム側規制部83は、フレーム側規制部82を形成した部分とは異なる端部を、フレーム側規制部82と同じ側に折り曲げて形成されたものである。フレーム側規制部82とフレーム側規制部83は、隣接した位置に形成されている。
【0040】
弾性部材としてのゴム90は、ゴム本体部91と、ゴム規制部92と、ゴム規制部93と、を有する。ゴム本体部91、ゴム規制部92及びゴム規制部93は、一体的に形成されている。
【0041】
図4の鎖線に示すように、ゴム本体部91は、エンジン側ブラケット70の本体部71と、フレーム側ブラケット80の本体部71と、によって上下方向に挟み込まれた状態で保持される。ゴム規制部92は、エンジン側被規制部72とフレーム側規制部82とによって水平方向で挟み込まれる。同様に、ゴム規制部93はエンジン側被規制部73とフレーム側規制部83とによって水平方向で挟み込まれる。
【0042】
上側の連結部材55は、エンジン側ブラケット70の上面で固定されるとともに、エンジン19側にも固定される。同様に、下側の連結部材55は、フレーム側ブラケット80の下面で固定されるとともに機体フレーム30(フロントフレーム31又はリアフレーム32)側に固定される。
【0043】
図3に示すように、後面側防振部材50aのエンジン側ブラケット70は後面側エンジンプレート40の取付プレート41に固定され、フレーム側ブラケット80は防振部材支持フレーム61に固定される。左側防振部材50bのエンジン側ブラケット70は左側エンジンプレート45に固定され、フレーム側ブラケット80は左側フレームプレート62に固定される。同様に、右側防振部材50cのエンジン側ブラケット70は右側エンジンプレート46に固定され、フレーム側ブラケット80は右側フレームプレート63に固定される。なお、本実施形態の連結部材55はボルトによって構成されており、ナットでエンジン19側又は機体フレーム30側に固定されている。
【0044】
本実施形態の防振部材50は、エンジン側ブラケット70の2つの方向への移動を規制することで、エンジン19の移動を規制する。この2つの方向とは、図4の太い実線の矢印で示す方向と太い破線の矢印で示す方向である。
【0045】
例えば、エンジン側ブラケット70が実線の矢印の方向に移動しようとすると、エンジン側被規制部73に取り付けられているゴム規制部93が当該エンジン側被規制部73とフレーム側規制部83との間に挟まれた状態で圧縮される。フレーム側ブラケット80は機体フレーム30側に固定されているので、エンジン側ブラケット70はゴム規制部93の許容圧縮量以上移動しなくなる。エンジン19と一体的に移動するエンジン側ブラケット70の移動が規制されるので、エンジン19の実線の矢印の方向への移動も規制される。また、弾性変形するゴム規制部93によって、エンジン19の移動によって生じる振動も抑制される。同様に、エンジン側被規制部72、ゴム規制部92及びフレーム側規制部82によって、破線の矢印の方向へのエンジン側ブラケット70の移動も規制され、エンジン19の移動によって生じる振動も抑制される。このように、本実施形態の防振部材50は、エンジン19の移動を2方向で規制でき、この規制する2方向は互いに直交する関係になっている。
【0046】
次に、後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cのレイアウトについて説明する。図5は、後面側防振部材50aと左側防振部材50bの位置関係を示した拡大側面図である。図6は、後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cの位置関係を示した拡大平面図である。図7は、防振部材50によってエンジン19の移動を規制する様子を模式的に示した平面図である。なお、図7中の矢印は、防振部材50によって規制されるエンジン19の移動方向である。
【0047】
図5に示すように、側面視で、後面側防振部材50aは、エンジン19の重心より上方であって、かつ、フライホイール44の上方に位置するように、防振部材支持フレーム61(リアフレーム32側)に固定されている。また、図3が示すように、本実施形態の後面側防振部材50aは出力軸43の上方に位置している。後面側防振部材50aが、エンジン19の重心よりも上方に配置されているので、例えば、急発進や急加速によってエンジン19が後方に倒れ込むような移動をしようとした場合でも、後面側防振部材50aによってエンジン19の重量をしっかりと受け止めることができる。
【0048】
一方、左側防振部材50bは、後面側防振部材50aより下方であり、かつ、エンジンの重心Gより下方に位置するように、左側フレームプレート62(フロントフレーム31側)に固定されている。右側防振部材50cは、後面側防振部材50aより下方であり、かつ、エンジンの重心Gより下方に位置するように、右側フレームプレート63(フロントフレーム31側)に固定されている。左側防振部材50bと右側防振部材50cは、左右方向で見たときに、同じ位置になるように配置されている。
【0049】
また、図5の鎖線に示すように、後面側防振部材50aは、第1仮想直線100上に位置するようにリアフレーム32側に配置されている。この第1仮想直線100は、側面視において、左側防振部材50bとエンジン19の重心Gを通過する直線であり、後方に進むに従って上方となるように傾斜しながら延びる直線である。本実施形態では、第1仮想直線100が、左側防振部材50bのゴム本体部91と、後面側防振部材50aのゴム本体部91と、を通過するように、後面側防振部材50a及び左側防振部材50bの位置が設定されている。また、右側防振部材50cについても、側面視において、当該右側防振部材50cのゴム本体部91と、後面側防振部材50aのゴム本体部91と、を第1仮想直線100が通過するように、その位置が設定されている。
【0050】
また、図6の平面視に示すように、後面側防振部材50aは、その中心が第2仮想直線101上に位置している。この第2仮想直線101は、機体の前後方向に延びる直線であり、機体フレーム30の中心を通過するセンターライン201と互いに平行な関係にある。本実施形態のエンジン19は、その重心Gがセンターライン201に一致していない状態で、フロントフレーム31及びリアフレーム32に支持されている。
【0051】
図7に示すように、後面側防振部材50aは、エンジン19の右方向への移動を規制するとともに、例えば、急停止や急減速によって生じるエンジン19の前方への移動を規制するように配置されている。より具体的には、後面側防振部材50aのエンジン側被規制部72及びフレーム側規制部82によって、エンジン19の右方向への移動が規制されている。また、後面側防振部材50aのエンジン側被規制部73及びフレーム側規制部83によって、エンジン19の前方の移動が規制されている。
【0052】
左側防振部材50bは、エンジン19の右方向への移動を規制するとともに、エンジン19の後方への移動を規制するように配置されている。より具体的には、左側防振部材50bのエンジン側被規制部73及びフレーム側規制部83によって、エンジン19の右方向への移動が規制されている。また、左側防振部材50bのエンジン側被規制部72及びフレーム側規制部82によって、エンジン19の後方への移動が規制されている。
【0053】
一方、右側防振部材50cは、エンジン19の左方向への移動を規制するとともに、エンジン19の後方への移動を規制するように配置されている。より具体的には、右側防振部材50cのエンジン側被規制部72及びフレーム側規制部82によって、エンジン19の左方向への移動が規制されている。また、右側防振部材50cのエンジン側被規制部73及びフレーム側規制部83によって、エンジン19の後方への移動が規制されている。
【0054】
左側防振部材50b及び右側防振部材50cは、前後方向の位置が一致するように配置されており、左右方向でエンジン19の移動を規制する方向が互いに反対となっている。これによって、エンジン19の左右方向の移動を規制するとともに、左右それぞれの防振部材50のゴム90によって左右方向の振動を効果的に低減することが可能になっている。
【0055】
エンジン19の前部を支持する左側防振部材50b及び右側防振部材50cは、エンジン19の後方への移動を規制しており、エンジン19の後部を支持する後面側防振部材50aは、エンジン19の前方への移動を規制するようになっている。これによって、エンジン19の前後方向の移動を規制するとともに、それぞれの防振部材50のゴム90によって前後方向の振動を効果的に低減することが可能になっている。
【0056】
このように、本実施形態の後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cは、重心Gの位置を基準にして配置されている。従って、エンジン19の重量を各防振部材50によってしっかりと受け止めることができ、エンジン19の前後左右の振動を効果的に抑制することが可能になっている。
【0057】
以上に示したように、本実施形態の作業車両としてのトラクタ10は以下のように構成される。即ち、トラクタ10は、エンジン19と、機体フレーム30と、後面側防振部材50aと、左側防振部材50b及び右側防振部材50cと、を備える。機体フレーム30には、エンジン19が取り付けられる。後面側防振部材50aは、機体フレーム30にエンジン19を取り付けるために、当該エンジン19の前後方向の一側に1つ配置される。左側防振部材50b及び右側防振部材50cは、機体フレーム30にエンジン19を取り付けるために、当該エンジン19の左右方向の両側にそれぞれ配置される。側面視において、左側防振部材50bとエンジン19の重心とを通過する第1仮想直線100が後面側防振部材50aを通過している。そして、平面視では、機体前後方向を向く直線であって、エンジン19の重心を通過する第2仮想直線101が後面側防振部材50aを通過している。
【0058】
これにより、エンジン19の重心の位置を基準に後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cが配置されるので、機体フレーム30上でエンジン19を安定的に支持でき、エンジン19の振動も効果的に抑制できる。また、機体前後方向でエンジン19の重心の位置に対応して後面側防振部材50aが配置されるので、エンジン19の前後方向の振動を効果的に低減できる。
【0059】
また、本実施形態のトラクタ10は、以下のように構成される。即ち、後面側防振部材50aは、エンジン19のフライホイール44の上方に配置される。
【0060】
これにより、エンジン19の重心の近くに後面側防振部材50aが配置されることになるので、エンジン19をより安定的に支持することができる。また、フライホイール44の上方のスペースを活用して後面側防振部材50aを配置するので、機体フレーム30の前後方向の長さをコンパクトにすることができる。
【0061】
また、本実施形態のトラクタ10は、以下のように構成される。即ち、側面視において、後面側防振部材50aが有するゴム90と、左側防振部材50bのゴム90と、を前記第1仮想直線100が通過するように、後面側防振部材50a及び左側防振部材50b及び右側防振部材50cが配置される(図5を参照)。
【0062】
これにより、エンジン19の重心を基準として、それぞれの防振部材50のゴム90が配置されることになるので、エンジン19の振動を効果的に抑制し、防振性を一層向上させることができる。
【0063】
本実施形態の後面側防振部材50aの構成は、事情に応じて適宜変更することができる。次に、後面側防振部材50aの変形例について説明する。なお、変形例において、後面側防振部材以外の構成は、上述の実施形態と同様の構成であるので、それ以外の構成の詳細な説明を省略する。また、上述した実施形態と同一及び類似する構成には、図面に同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。図8は、変形例の後面側防振部材350と左側防振部材50bの位置関係を示した拡大側面図である。図9は、変形例の後面側防振部材350の拡大背面図である。図10は、変形例の後面側防振部材350の構造を模式的に示した断面図である。
【0064】
図8及び図9に示すように、エンジン19の後面には後面側エンジンプレート340が固定されている。この後面側エンジンプレート340は、後方に向かって突出する取付プレート341を備えている。この取付プレート341を介して後面側防振部材350がエンジン19側に取り付けられている。また、防振部材支持フレーム61には、取付フレーム361が取り付けられている。取付フレーム361は、背面視において、門形状に構成されている。本実施形態では、防振部材支持フレーム61及び取付フレーム361を介して後面側防振部材350がリアフレーム32(機体フレーム30)側に取り付けられる。
【0065】
本実施形態の後面側防振部材350は、上側ゴム(第1弾性部材)370と、下側ゴム(第2弾性部材)380と、連結部材(固定部材)355と、を主要な構成として備えている。
【0066】
図10に示すように、上側ゴム370は、本体部371と、凸部372と、カラー374と、を備え、上下方向に貫通する貫通孔373が形成されている。本体部371は円錐台形状に形成されている。凸部372は、本体部371の大径側の平面部分から突出する円柱状に形成されている。本体部371と凸部372は、弾性変形可能な素材によって一体成型されており、何れの部分も弾性変形可能に構成されている。貫通孔373は本体部371と凸部372を貫通しており、この貫通孔373の内側にカラー374が取り付けられている。カラー374は、後述する連結部材355に上側ゴム370を取り付けるためのものである。ボルト状に構成される連結部材355をカラー374に差し込むことで、上側ゴム370が連結部材355に固定される。
【0067】
下側ゴム380は、上側ゴム370と同様の構成であり、本体部381と、凸部382と、カラー384と、を備え、本体部381及び凸部382を貫通する貫通孔383が形成されている。
【0068】
連結部材355は、その下側端部が防振部材支持フレーム61の上面に溶接で固定されている。この連結部材355に上側ゴム370と下側ゴム380とが取り付けられる。
【0069】
図10に示すように、連結部材355に取り付けられた状態では、上側ゴム370の凸部372は貫通孔342に挿入された状態になっており、下側ゴム380の凸部382も、同じ貫通孔342に挿入された状態になっている。また、凸部372と凸部382は対面接触しており、取付プレート341が、上側ゴム370の本体部371と下側ゴム380の本体部381とによって挟み込まれた状態になっている。
【0070】
図9に示すように、連結部材355は、下側ゴム380及び上側ゴム370を取り付けた状態で、上側の端部が取付フレーム361にナット385で固定される。これによって、連結部材355は、上下の端部がリアフレーム32側に固定された状態になる。
【0071】
この構成で、エンジン19が水平方向に移動しようとしても、取付プレート341の貫通孔342の縁が、上側ゴム370の凸部372及び下側ゴム380の凸部382に接触し、エンジン19の移動が規制される。後面側防振部材350によって、エンジン19の水平移動を360度全ての方向で規制できるのである。また、凸部372及び凸部382は、弾性部材によって構成されているので、エンジン19の水平移動を原因とする振動を効果的に低減できる。
【0072】
また、上側ゴム370及び下側ゴム380は、ボルト状に構成される連結部材355を介して防振部材支持フレーム61(リアフレーム32側)に簡単に取り付けることができる。従って、防振に必要な弾性部材を機体フレーム30に取り付けるための製造工程を効率化でき、生産性を向上させることができる。
【0073】
次に、変形例の後面側防振部材350のレイアウトについて説明する。図8の側面視に示すように、変形例の後面側防振部材350は、上述した実施形態と同様に、第1仮想直線100上に配置されている。第1仮想直線100は、左側防振部材50bのゴム90を通過するとともに、後面側防振部材350の下側ゴム380を通過している。なお、後面側防振部材350は、平面視において、上側ゴム370の貫通孔373及び下側ゴム380の貫通孔383の中心がエンジン19の重心の位置に対応するように配置されている。このように、後面側防振部材350、左側防振部材50b及び右側防振部材50cが重心の位置を基準に配置されるので、この構成によっても、エンジン19の上下左右の移動を原因とする振動を効果的に抑制することができる。
【0074】
以上に示したように、変形例のトラクタ10は、以下のように構成される。即ち、トラクタ10は、エンジン19に取り付けられる取付プレート341を備え、この取付プレート341には貫通孔342が形成される。また、後面側防振部材350は、上側ゴム370と、下側ゴム380と、連結部材355と、を有する。上側ゴム370は、取付プレート41の上面に配置される本体部371と貫通孔342に入る凸部372とを有するように形成される。下側ゴム380は、取付プレート41の下面に配置される本体部381と貫通孔342に入る凸部382とを有するように形成される。連結部材355は、上側ゴム370の本体部371と凸部372を貫通するとともに、下側ゴム380の本体部381と凸部382を貫通する。そして、連結部材355は、リアフレーム32(機体フレーム30側)に取り付けられる。
【0075】
これにより、後面側防振部材350をエンジン19及び機体フレーム30に固定するための構造をシンプルにすることができ、製造工程の効率化に寄与できる。また、上側ゴム370の凸部372と、下側ゴム380の凸部382と、が取付プレート41の貫通孔342の縁に接触することで、エンジン19の水平移動を広範囲に規制することができる。
【0076】
また、変形例のトラクタ10においては、以下のように構成される。即ち、側面視において、後面側防振部材350が有する下側ゴム380と、左側防振部材50bが有するゴム90と、を第1仮想直線100が通過するように、後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cが配置される。
【0077】
これにより、エンジン19の重心を基準として、後面側防振部材50aの上側ゴム370及び下側ゴム380と、左側防振部材50bのゴム90と、右側防振部材50cのゴム90と、が配置されることになる。従って、エンジン19の振動を効果的に抑制し、防振性を一層向上させることができる。
【0078】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
【0079】
出力軸43及びフライホイール44が前面側に位置するように(冷却ファン25が後面側に位置するように)エンジン19を機体フレーム30に取り付けるトラクタ10にも本発明を適用することができる。この場合、エンジン19の前面側に第1防振部材を配置することが好ましい。
【0080】
また、変形例の後面側防振部材350と同じ構造の防振部材を、左側防振部材50b及び右側防振部材50cに採用することもできる。
【0081】
また、後面側防振部材50a又は後面側防振部材350を複数配置し、4つ以上の防振部材を介して機体フレーム30にエンジン19を取り付ける構成に変更することもできる。
【0082】
また、第1仮想直線100が、側面視において、エンジン19の重心Gの近傍(略重心)を通過するように、後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cを配置する構成に変更することもできる。また、第2仮想直線101が、平面視において、エンジン19の重心Gの近傍(略重心)を通過するように、後面側防振部材50a、左側防振部材50b及び右側防振部材50cを配置する構成に変更することもできる。
【0083】
また、本実施形態及び変形例ではトラクタ10に本発明を適用しているが、本発明を適用できる作業車両はトラクタ10に限定されない。例えば、稲、大根、人参等を収穫する自走式の作業車両に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 トラクタ(作業車両)
19 エンジン
30 機体フレーム(フレーム)
50a 後面側防振部材(第1防振部材)
50b 左側防振部材(第2防振部材)
50c 右側防振部材(第2防振部材)
90 ゴム(弾性部材)
341 取付プレート(プレート)
342 貫通孔
350 後面側防振部材(第1防振部材)
370 上側ゴム(第1弾性部材)
371 本体部
372 凸部
380 下側ゴム(第2弾性部材)
381 本体部
382 凸部
355 連結部材(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンが取り付けられるフレームと、
前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの前後方向の一側に配置される1又は複数の第1防振部材と、
前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの左右方向の両側にそれぞれ配置される第2防振部材と、
を備え、
側面視において、前記第2防振部材と前記エンジンの重心若しくは略重心とを通過する仮想直線が前記第1防振部材を通過していることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
エンジンと、
前記エンジンが取り付けられるフレームと、
前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの前後方向の一側に1つ配置される第1防振部材と、
前記フレームに前記エンジンを取り付けるために、当該エンジンの左右方向の両側にそれぞれ配置される第2防振部材と、
を備え、
側面視において、前記第2防振部材と前記エンジンの重心若しくは略重心とを通過する仮想直線が前記第1防振部材を通過し、
平面視では、機体前後方向を向く直線であって、前記エンジンの重心若しくは略重心を通過する第2の仮想直線が前記第1防振部材を通過していることを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業車両であって、
前記第1防振部材は、前記エンジンのフライホイールの上方に配置されることを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の作業車両であって、
側面視において、前記第1防振部材が有する弾性部材と、前記第2防振部材が有する弾性部材と、を前記仮想直線が通過するように、前記第1防振部材及び前記第2防振部材が配置されることを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1から3までの何れか一項に記載の作業車両であって、
前記エンジンに取り付けられ、貫通孔が形成されるプレートを備え、
前記第1防振部材は、
前記プレートの上面に配置される本体部と前記貫通孔に入る凸部とを有するように形成される第1弾性部材と、
前記プレートの下面に配置される本体部と前記貫通孔に入る凸部とを有するように形成される第2弾性部材と、
前記第1弾性部材の前記本体部と前記凸部を貫通するとともに、前記第2弾性部材の前記本体部と前記凸部を貫通し、前記フレーム側に取り付けられる固定部材と、
を有することを特徴とする作業車両。
【請求項6】
請求項5に記載の作業車両であって、
側面視において、
前記第1弾性部材又は前記第2弾性部材の少なくとも何れか一方と、
前記第2防振部材が有する弾性部材と、
を前記仮想直線が通過するように、前記第1防振部材及び前記第2防振部材が配置されることを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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