説明

作用極の製造方法及び作用極、並びに光電変換素子

【課題】少なくとも最外周部にチタンが形成されてなる複数の導電性線材が網目状に編まれてなる構造を有する作用極において、光電変換効率を向上させる。
【解決手段】導電性線材31の表皮部に、窒素を含む部位32を形成する工程と、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層12を形成する工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする作用極3の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子を構成する作用極の製造方法に関し、より詳細には、酸化チタン粒子上で励起された電子を効率よくチタンへ流入させることができる作用極の製造方法、および作用極、並びにこの作用極を備えた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、スイスのグレッツェルらのグループなどから提案されたもので、高い変換効率を得られる光電変換素子として着目されている(例えば、非特許文献1を参照)。
色素増感型太陽電池は、シリコン系の従来型の太陽電池と比較して大幅な低価格化が可能とされているが、発電部に使用される導電性基板の価格が低価格化の障害となっている。従来構造の色素増感型太陽電池においては、特に光が入射する側の電極(窓電極)には、可視光の透過性と高い伝導性が要求されるため、ガラス基板やプラスチック基板上にスズドープ酸化インジウムやフッ素ドープ酸化スズといった透明導電性金属酸化物を塗布した基板が用いられてきた。したがって、このような透明導電性基板を用いていない、全く新しい構造の色素増感型太陽電池が実現するならば、太陽電池の大幅な低価格化が可能であるとして研究開発が進められている(非特許文献2、3を参照)。
【0003】
これらの解決手段として、金属線を発電部の作用極に用いる新規な素子構造(特許文献1、2、3、4参照)が提案されている。しかし、これらの構造においては、作用極に金属線を採用したがゆえに、大面積の太陽電池モジュールの構成が困難となり、本来、色素増感型光電変換素子が有する、大面積化が容易であるという利点を損なう結果となった。そのため、上記の利点を損なうことのない構造を有する光電変換素子の開発が必要とされている。
大面積素子を可能とするために、特許文献5、特許文献6に記載されたように、作用極として金属線が網目状に編まれてなるテキスタイル構造を採用した光電変換素子も提案されている。
【0004】
しかし、上記金属線を用いた作用極を採用した場合においては、金属線には電解質に対する耐食性が必要とされるため、その材料としてチタン(Ti)やタングステン(W)等の限られた金属しか使用することができなかった。それらの金属は、概して導電率が低く、また、高価であるため、コスト高となる問題があった。
【0005】
この問題に対し、導電性に優れた線状基材(例えばCu線)の外側を耐食性に優れた合金(例えばTi)で被覆した金属線(以下Ti被覆Cu線と称す)を使用した光電変換素子を発明者らは開発中である。この構造の金属線は、Cuの持つ導電性の高さと、Tiの持つ耐食性の高さを併せ持つ金属線として、光電変換素子の作用極として優れた性質を有している。
金属線としてTi被覆Cu線を用いるとともに、この金属線をテキスタイル構造とした作用極を用いることによって、導電性および耐食性に優れるとともに、大面積素子を構成し、フレキシブルな構造の光電変換素子の提供が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−181690号公報
【特許文献2】特開2008−181691号公報
【特許文献3】特開2005−196982号公報
【特許文献4】特表2005−516370号公報
【特許文献5】特開2001−283941号公報
【特許文献6】特開2001−283944号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】O'Regan B., Graetzel M., Alow cost, high-efficiency solar cell based on dye-sensitized colloidal TiO2 films, Nature, 1991年, 353号, 737-739ページ
【非特許文献2】日本国特許庁:標準技術集、:「色素増感太陽電池」
【非特許文献3】日本国特許庁:特許出願技術動向調査:平成17年度「色素増感太陽電池」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述したような光電変換素子は、作用極として機能させるために、Ti被覆Cu線上に多孔質酸化物半導体として酸化チタン(TiO)を塗布している。より微細には、Ti被覆Cu線の表面部を構成するチタンの上に酸化チタンの微粒子が焼結された構造となっている。つまり、界面の構造は、内側より順に、チタン/酸化チタンという構造となっている。
【0009】
しかし、実際はTi被覆Cu線を構成するチタン上には数十nmレベルの自然酸化膜が存在している。よって、界面の微細構造は、内順に、チタン/チタンの自然酸化膜/酸化チタン粒子、という構造となっている。つまり、Ti被覆Cu線のチタン層と、多孔質酸化物半導体層(酸化チタン)との間にチタンの自然酸化膜が介在してしまっている。
よって、太陽光により酸化チタン粒子上で励起された電子がチタンへ流入する際には、必然的にチタン上に存在するチタンの自然酸化膜を通過することとなる。このチタンの自然酸化膜は電子の流入を阻害することとなり、結果として、発電効率が低下することが問題となっている。
【0010】
この発明は、このような事情を考慮してなされたものである。その目的は、チタンが被覆された導電性線材から構成される作用極において、発電の際、酸化チタン粒子上で励起された電子が、チタンへ流入する際、電子の流入を妨げることのない、発電効率の高い作用極、およびこの作用極を備えた光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも最外周部にチタンが形成されてなる複数の導電性線材が網目状に編まれてなる構造を有する作用極の製造方法であって、前記導電性線材の表皮部に、窒素を含む部位を形成する工程Aと、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を形成する工程Bと、を少なくとも備えたことを特徴とする作用極の製造方法である。
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記工程Aは、窒素雰囲気下において熱処理を施すことによって、前記導電性線材の表皮部に窒素を含む部位を形成することを特徴とする請求項1に記載の作用極の製造方法である。
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記工程Aは、イオン打ち込み法を用いて、前記導電性線材の表皮部に前記窒素を含む部位を形成することを特徴とする請求項1に記載の作用極の製造方法である。
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記工程Aは、スパッタリング法を用いて、前記導電性線材の表皮部に前記窒素を含む部位を形成することを請求項1に記載の作用極の製造方法である。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る発明は、少なくとも最外周部にチタンが形成されてなる複数の導電性線材が網目状に編まれてなる構造を有する作用極であって、前記導電性線材の表皮部に窒素を含む部位が形成されおり、その外周部に増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層が形成されていることを特徴とする作用極である。
さらに、本発明の請求項6に係る発明は、請求項5に記載された作用極と、前記作用極に対向して配された対極と、前記作用極と前記対極との間に封入された電解質とを備えてなることを特徴とする光電変換素子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、光電変換素子の作用極の製造方法において、作用極を構成する少なくとも最外周部にチタンが形成されてなる導電性線材の表皮部に、窒素を含む部位を形成する工程を備えたことを特徴としている。この製造方法によって製造された作用極を備えた光電変換素子は、酸化チタン粒子上で励起された電子を効率よくチタンへ流入させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る色素増感型光電変換素子の概略を示す平面図である。
【図2】図1のB−B断面に沿う断面図である。
【図3】本発明に係る色素増感型光電変換素子の作用極を構成する導電性線材の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の光電変換素子を示す概略を示す平面図であり図2は図1のB−B線に沿う断面図である。図3は、作用極を構成する導電性線材の拡大図である。
【0016】
図1の平面図および図2の断面図に示すように、本実施形態の光電変換素子1は、作用極3(3a)と、該作用極3と対面するように配置された対極4と、該作用極3と電気的に接続された集電部5と、前記作用極3および対極4を収容する袋体10とから構成されている。
作用極3は、複数の導電性線材31が網目状に編まれてなる、平面視矩形の布状構造(テキスタイル構造)を有している。導電性線材31は、重複部において互いが十分接触するように編まれている。
また、該作用極3は、平面視矩形の板状の対極4とセパレータ6を介して重ね合わされるように構成されている。
【0017】
テキスタイル構造の作用極3は、導電性を有する複数の導電性線材31と、導電性線材31の周囲に配され色素を担持した多孔質酸化物半導体層12とから構成されており、該多孔質酸化物半導体層12は、増感色素とともに電解質13をも含浸している。
本実施形態における導電性線材31は、Cu線をTiで被覆した金属線(以下、Ti被覆Cu線)である。Tiは、導電性線材31の耐食性を向上させるためにCu線を被覆している。
【0018】
対極4は、板状の導電性基材であり、セパレータ6を介して作用極3と重ね合わされている。また対極4は、集電部5と対となる引出電極4aを有しており、この引出電極4aは、対極4を袋部10内に収容した際、袋体10の外側に延出するように形成されている。なお、作用極3と対極4との絶縁が確保されていればセパレータ6は必要ではない。
【0019】
作用極3を構成する複数の導電性線材31の少なくとも一部は、作用極3より延長されることで集電用配線となっている。
集電部5は、延長された導電性線材31と、導電性を有する複数の外周線材51とから構成されている。外周線材51は線状をなしており、導電性線材31と網目状に編まれてなる布状集電部52を構成している。
布状集電部52にはTi箔53が重ねられ、スポット溶接により布状集電部52とTi箔53が電気的に接続されている。Ti箔53は、その一部が外部へ引き出されており、この部分より集電が可能となっている。
【0020】
袋体10内は電解質13で満たされており、袋体10の開口部は、接着剤によって封止されている。
【0021】
そして、本発明の作用極3は、図3にその一部を符号3aで示すように、作用極3を構成する導電性線材31の表皮部に窒素を含む部位32が形成されていることを特徴としている。図3において、符号12は、多孔質酸化物半導体層であり、つまり、前記窒素を含む部位32は、導電性線材31の最外周部に形成されているチタン層と多孔質酸化物半導体層12との間に介在するように形成されている。
窒素を含む部位32としては、Ti被覆Cu線の表皮部全体に設けられたTiN膜が好ましい。TiN膜はTi被覆Cu線を熱処理し、Ti被覆Cu線の表皮部を改質することにより形成することができる。また、窒素を含む部位32は、Ti被覆Cu線の表皮部全体に形成されている必要はなく、例えばTiN膜が島状構造となっていてもよい。
【0022】
作用極3を構成する導電性線材31に窒素を含む部位32が形成されていることによって、導電性線材31の最外周部に形成されているチタン層の露出部に自然酸化膜が形成されることがなくなる。よって、自然酸化膜によって、多孔質酸化物半導体層12で励起された電子が、導電性線材31のチタン層に流入する際、電子の流入が妨げられることがない。よって、多孔質酸化物半導体層12上で励起された電子を効率よく導電性線材31へ流入させることができる。
【0023】
以下、各構成要素について、詳細に説明する。
導電性線材31、および外周線材51は直径0.05mmのTi被覆Cu線である。以下、Ti被覆Cu線の製造方法の一例を記す。
まず、Tiを押出成型等によってパイプ状に形成すると共に、Cuを押出成型等によって線状に形成し、これらTiパイプとCu線を同時に走行させつつTi製パイプの内部にCu銅線を挿入し、これらを絞って、両者間を密着させて、Ti被覆Cu線を得る。
【0024】
導電性線材31、および外周線材51はTi被覆Cu線に限ることはなく、W被覆Cu線など、電解液に対し腐食性を有する線材も使用可能である。Ti被覆Al線など、導電率の高い線材も使用可能である。
このような線材の太さ(直径)は、例えば、10μm〜10mmとするのが好ましい。ただし、柔軟性を十分に発揮させるためには、基材の太さは細いほどよい。
【0025】
上述したように、導電性線材31のうち、作用極3のテキスタイル構造をなす部分には、TiN膜が形成されている。
さらに、その外側には多孔質酸化物半導体層12が配されており、その表面には少なくとも一部に増感色素及び電解質13が担持されている。
多孔質酸化物半導体層12を形成する半導体は、酸化チタン(TiO)である。この酸化チタンの膜厚は約5μmとしたが、特に限定されるものではなく、例えば、1μm〜50μmであってよい。
多孔質酸化物半導体層12を形成する半導体としては酸化チタンに限ることはなく、一般に色素増感型太陽電池に用いられるものであれば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タングステン(WO)など様々な半導体電極が制限なく使用可能である。
【0026】
増感色素としては、例えば、N719、N3、ブラックダイなどのルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニン等の含金属錯体をはじめ、エオシン、ローダミン、メロシアニン等の有機色素などを適用することができ、これらの中から用途、使用半導体に適した励起挙動をとるものを適宜選択すれば良い。
【0027】
多孔質酸化物半導体層12内には、電解液が含浸されており、この電解液も前記電解質13の一部を構成している。この場合、多孔質酸化物半導体層12内の電解質13は、多孔質酸化物半導体層12内に電解液を含浸させてなるものか、または、多孔質酸化物半導体層12内に電解液を含浸させた後に、この電解液を適当なゲル化剤を用いてゲル化(擬固体化)して、多孔質酸化物半導体層12と一体に形成されてなるもの、あるいは、イオン液体をベースとしたもの、さらには、酸化物半導体粒子及び導電性粒子を含むゲル状の電解質などが用いられる。
【0028】
上記電解液としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒やイオン液体に溶解されてなるものが用いられる。
この電解液をゲル化する際に用いられるゲル化剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などが挙げられる。
また、揮発性電解質溶液に代えて、一般に色素増感型太陽電池に用いられるものであれば、溶媒がイオン液体であるものやゲル化したものだけではなく、p型無機半導体や有機ホール輸送層といった固体であっても制限なく使用可能である。
【0029】
上記イオン液体としては、特に限定されるものではないが、室温で液体であり、例えば、四級化された窒素原子を有する化合物をカチオンとした常温溶融塩が挙げられる。
常温溶融塩のカチオンとしては、四級化イミダゾリウム誘導体、四級化ピリジニウム誘導体、四級化アンモニウム誘導体などが挙げられる。
常温溶融塩のアニオンとしては、BF,PF,(HF)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド[N(CFSO]、ヨウ化物イオンなどが挙げられる。
イオン液体の具体例としては、四級化イミダゾリウム系カチオンとヨウ化物イオンまたはビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオンなどからなる塩類を挙げることができる。
【0030】
上記酸化物半導体粒子としては、物質の種類や粒子サイズなどは特に限定されるものではないが、イオン液体を主体とする電解液との混和性に優れ、この電解液をゲル化させるようなものが用いられる。また、酸化物半導体粒子は、電解質13の半導電性を低下させることがなく、電解質13に含まれる他の共存成分に対する科学的安定性に優れることが必要である。特に、電解質13がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合であっても、酸化物半導体粒子は、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
【0031】
このような酸化物半導体粒子としては、TiO、SnO、SiO、ZnO、Nb、In、ZrO、Al、WO、SrTiO、Ta、La、Y、Ho、Bi、CeOからなる群から選択される1種または2種以上の混合物が好ましく、その平均粒径は2nm〜1000nm程度が好ましい。
【0032】
上記導電性微粒子としては、導電体や半導体など、導電性を有する粒子が用いられる。
また、導電性粒子の種類や粒子サイズなどは特に限定されるものではないが、イオン液体を主体とする電解液との混和性に優れ、この電解液をゲル化するようなものが用いられる。さらに、電解質13に含まれる他の共存成分に対する化学的安定性に優れることが必要である。
特に、電解質13がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合であっても、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
【0033】
このような導電性微粒子としては、カーボンを主体とする物質からなるものが挙げられ、具体例としては、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラックなどの粒子を例示できる。これらの物質の製造方法はいずれも公知であり、また、市販品を用いることもできる。
【0034】
対極4は、導電性を有する板状をなし、その表面が不導態となる厚み0.1mmのTi板から構成される。また、対極4は、表面にPtからなる触媒膜(不図示)を有している。なお、集電のため、端部に引出電極4aが設けられている。
作用極3と対極4との間には、作用極3と対極4との短絡を防止するために、非導電性の材料からなる、厚さ20μmのセパレータ6が挿入されている。
【0035】
作用極3、対極4、およびセパレータ6を収容する袋体10は、PET、またはPEN(ポリエチレンナフタレート)からなる材料によって形成されている。該袋体10に用いられる材料としては、PET、PENに限ることはなく、透光性を有し、電解液に耐えられる材料であれば、適宜変更可能である。
【0036】
(作用極の製造方法)
以下、本発明に係る作用極3の製造方法について説明する。
本実施形態の製造方法では、まず、所定本数の導電性線材31(Ti被覆Cu線)を網目状に編むことで、テキスタイル構造とする。次いで、このテキスタイル構造とした複数本の導電性線材31を洗浄する。この洗浄は、Ti被覆Cu線のTi表面に自然に形成された酸化膜を除去するためのものである。
酸化膜は、薬液によって除去する。薬液としてはフッ酸が好ましいが、酸化膜を除去することができる液体であれば、例えば塩酸などを使用してもよい。
また、薬液による化学的除去に限らず、Ti上の酸化膜を除去することができるのであれば、洗浄(除去)方法は問わない。例えば、ブラスト法など機械的に除去する方法を採用してもよい。
【0037】
次に、洗浄後のテキスタイル構造の導電性線材31を窒素雰囲気の炉内で500℃まで昇温させた状態で3時間熱処理を行う。この熱処理により、窒素(N)がTi被覆Cu線の表面のTi内に拡散することでTiNが生成され、TiN膜(窒素を含む部位)32が形成される。上記TiN膜32は、Nが均一に含まれるだけではなく、Nが不均一に含まれているものも含み、本発明においては、これらを併せてTiN膜32と呼ぶ。
【0038】
熱処理後、前記炉から導電性線材31を取り出し、導電性線材31の表面が黄色になっていることを確認する。これにより、導電性線材31の表皮部が改質され、導電性線材31の当所表面の内側にTiN膜32が形成されていることを確認することができる。
【0039】
TiN膜32の形成方法としては、上記窒素雰囲気中の熱処理に限ることはなく、例えば、スパッタリング法を用いて形成してもよい。スパッタリング法によるTiN膜の形成は、ターゲットとしてTi円板を備えたスパッタリング装置(例えば、直流マグネトロンスパッタリング装置)を使用し、窒素を混合したスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行う。これにより、導電性線材31の当所表面より外側にTiN膜32が形成される。
【0040】
また、イオン打ち込み法を用いて導電性線材31の表皮部を改質することによって、TiN膜32を形成することもできる。TiN膜32は、導電性線材31の当所表面より内側に形成される。
【0041】
次に、この導電性線材31にTiOペースト(触媒化成製、PST-21NR)をスキージ法により塗布し、電気炉にて500℃、1時間焼結した。焼結後のTiOの膜厚はおよそ15μmであった。
【0042】
上記導電性線材31を120℃のオーブン中で10分間保持することによって、吸着した水を蒸発させた後、ルテニウム色素(Solaronix社製、RutheAlum535-bisTBA、一般にはN719と呼ばれる)の0.3mM、アセトニトリル/tert-ブタノール=1:1溶液に浸漬し、室温で24時間放置してTiO表面に色素を担持した。色素溶液から引き上げた後、上記混合溶媒で洗浄し、これを作用極3とした。
【0043】
(実施例)
図1に示す構造の色素増感型光電変換素子1を作製した。
まず、直径0.050mmまで伸線したTi被覆Cu線を、織機により密な平織り構造のテキスタイル構造に製織した。縦横のTi被覆Cu線が織り重ねられる矩形部分(テキスタイル部、作用極3を構成する部分)のサイズは10cm×10cmとし、Ti被覆Cu線の本数は縦横それぞれ1500〜2000本とした。一方、集電極は、その幅が1cmとなるように構成した。
【0044】
上記テキスタイル部に、前記方法によって、TiN膜32、および色素を担持した多孔質酸化物半導体層12を形成した。
【0045】
集電極には、Ti箔53を抵抗溶接法にて溶接した。集電極とTi箔53とは、連続的に溶接されていることが好ましい。例えば、スポット溶接を多点で行ったもの、またはシーム溶接を行ったもの等が好ましい。また、レーザー溶接を使用してもよい。
【0046】
次に、上記集電極に保護部54を形成した。保護部54は、樹脂により形成されており、集電極を樹脂中に含浸させることにより形成した。樹脂は、電解液に耐えることができ、かつ、チタンとの接着性を有するものであることが要求される。具体的には、ポリイミド、フッ素樹脂、またはPET樹脂等を挙げることができる。なお、含浸の際には、真空中で脱泡を行、樹脂が完全に集電部の構造に浸み込むようにした。
また、樹脂に含浸させることなく、低粘度の接着剤を塗布することで代替としてもよい。ただし、酸化チタンを色素中に浸漬する前に酸化チタン表層に吸着した水分子を蒸発させるため、120℃で乾燥処理を行うので、その温度に耐えることができる樹脂が好ましい。
【0047】
一方、対極6は、10cm×10cm、厚さ0.1mmのTi箔に対して、三元RFスパッタ装置を用いてPtを蒸着させたものとした。Ptの厚みは200nmとした。また、集電のため、対極4には、引出電極4aを設けた。
作用極3と対極4とは、厚さ20μmのポリオレフィン(旭化成ケミカルズ、ハイポア)からなるセパレータ10を介して重ね合わせた。
【0048】
上記、作用極3、対極4、およびセパレータ6収納するための袋体10を作製した。袋体10は、作用極3、対極4、およびセパレータ6を収納することができれば、小さい方が好ましい。また、袋体10として用いる材料としては、透光性を有し、電解液に耐えられるものが好ましい。
【0049】
電解液は、メトキシプロピオニトリル(MPN)10mL中に、I2を0.3777g(0.15M)、DMPImIを2.128g(0.8M)、GuSCNを0.1182g(0.1M)、NMBIを0.6609g(0.5M)溶解して作製した。
【0050】
次に、袋体10に作用極3、対極4、およびセパレータ6を挿入した。挿入後、袋体10内に電解液を注入し、作用極3の集電部5、および対極4の引出電極4aを袋体10の外部に延在させた状態で、袋体10の開口部を封止した。封止には、接着剤を用いたが、接着剤の材料としては、電解液に耐え、袋体14およびTiとの良好な接着力が得られる物が好ましい。
【0051】
以上のようにして作製された各色素増感型光電変換素子に対して、ソーラーシミュレータ(AM1.5、100mW/cm2)を用いて光を照射し、電流電位曲線を測定し、その光電変換効率を求めた。この光電変換素子の変換効率は、4.6%であった。
【0052】
(比較例)
作用極を構成する導電性線材に対して、窒素雰囲気下で熱処理を行う工程を行わない製造方法で、光電変換素子を作製した。よって、導電性線材の周囲にはTiN膜は形成されていない。
この工程を除いて、本発明の実施形態と同様の製造方法で、光電変換素子を作製した。この光電変換素子の変換効率は、3.2%であった。
【0053】
以上の結果より、TiN膜を形成することによって、光電変換素子の発電効率が向上することがわかった。これは、チタンに形成される自然酸化膜と比較して、TiN膜の方がより電子を流しやすいため、酸化チタンで励起された電子がTiN膜を通過して、効率よくチタンに流入したためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、金属線を電極に用いた光電変換素子に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…色素増感型光電変換素子、2…発電部、3…作用極、4…対極、5…集電部、6…セパレータ、10…袋体、12…多孔質酸化物半導体層、13…電解質、31…導電性線材、32…窒素を含む部位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最外周部にチタンが形成されてなる複数の導電性線材が網目状に編まれてなる構造を有する作用極の製造方法であって、
前記導電性線材の表皮部に、窒素を含む部位を形成する工程Aと、
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を形成する工程Bと、を少なくとも備えたことを特徴とする作用極の製造方法。
【請求項2】
前記工程Aは、窒素雰囲気下において熱処理を施すことによって、前記導電性線材の表皮部に窒素を含む部位を形成することを特徴とする請求項1に記載の作用極の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aは、イオン打ち込み法を用いて、前記導電性線材の表皮部に前記窒素を含む部位を形成することを特徴とする請求項1に記載の作用極の製造方法。
【請求項4】
前記工程Aは、スパッタリング法を用いて、前記導電性線材の表皮部に前記窒素を含む部位を形成することを請求項1に記載の作用極の製造方法。
【請求項5】
少なくとも最外周部にチタンが形成されてなる複数の導電性線材が網目状に編まれてなる構造を有する作用極であって、
前記導電性線材の表皮部に窒素を含む部位が形成されおり、その外周部に増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層が形成されていることを特徴とする作用極。
【請求項6】
請求項5に記載された作用極と、
前記作用極に対向して配された対極と、
前記作用極と前記対極との間に封入された電解質とを備えてなることを特徴とする光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−134532(P2011−134532A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291772(P2009−291772)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】