併用療法製品およびその使用
本発明は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤;およびEGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤を含み、成分(A)および成分(B)の各々が、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体との混合により処方されている併用製品を提供する。好ましい実施態様において、この(これらの)薬剤は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の転写、翻訳、および/または結合特性を変更する。好ましくは、この(これらの)薬剤は、低分子干渉RNA(siRNA)分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ならびにhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物からなる群より選択される。本発明はさらに、患者における癌細胞の増殖および/または転移の阻害方法、ならびに癌の処置において使用するための医薬組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の処置に使用するための薬学的に活性な薬剤の新規の組み合わせに関する。特に、本発明は、乳癌細胞の増殖及び/または転移を阻害することのできる併用療法を提供する。
【背景技術】
【0002】
導入
抗細菌タンパク質は先天性免疫系における重要なエフェクターである。ヒトカセリシジン(cathelicidin)抗細菌タンパク質hCAP18は、ヒトにおいて唯一知られているカセリシジンであり、保存されたカセリン(cathelin)ドメインおよびLL−37と呼ばれる可変C末端からなる(Gudmundsson et al.,1996,Eur J Biochem 1238:325−32;Zanetti et al.,1995,FEBS Lett 374:1−5)。広範な抗細菌活性(Gudmundsson et al.,1995,Proc Natl Acad Sci USA 92:7085−9;Agerberth et al.,1995,Proc Natl Acad Sci USA 92:195−99)および宿主細胞に対する効果、そのうちのいくつかはGタンパク質共役受容体ホルミルペプチド受容体様1(FPRL1)により媒介される(Yang et al.,2000,J Exp Med 192:1069−74;Koczulla et al.,2003,J Clin Invest 111:1665−72)、を有するLL−37ペプチドは、ホロタンパクの細胞外タンパク分解プロセシングにより放出される。hCAP18は、白血球に存在し(Cowland et al.,1995,FEBS Lett 368:173−76)、皮膚およびその他の上皮において発現され、炎症(Cowland et al.,1995,FEBS Lett 368:173−76;Frohm et al.,1997,J Biol Chem 272:15258−63)および損傷(Dorschner et al.,2001,J Invest Dermatol 117:91−97;Heilborn et al.,2003,J Invest Dermatol 120:379−89)の際にアップレギュレートされるのであるが、これは先天性バリア保護における役割と言えよう。最近、カセリシジンを含む抗細菌タンパク質が、腫瘍に対する非特異的宿主防御における役割も果たすことが提唱された(Winder et al.,1998,Biochem Biophys Res Commun 242:608−12;Ohtake et al.,1999,Br J Cancer 181:393−403)。
【0003】
受容体型チロシンキナーゼの上皮増殖因子(EGF)ファミリーは、4つの受容体EGF−R(ErbB1)、ErbB2(Neu)、ErbB3、およびErbB4からなる。EGF−Rファミリーのメンバーは、細胞質チロシンキナーゼドメイン、一回膜貫通ドメイン、ならびにリガンド結合および受容体の二量体化に関与する細胞外ドメインを含む。EGF−Rが活性化されると、様々な細胞経路が開始される。
【0004】
有害な環境刺激、例えば紫外線照射またはEGFによる受容体の占拠を受けると、EGF−Rは他のファミリーメンバーとホモまたはヘテロ二量体を形成する。各々の二量体型受容体複合体は、様々なSrcホモロジー2(SH2)含有エフェクタータンパク質を動員することによって別個のシグナル伝達経路を開始する。二量体化は、細胞増殖またはアポトーシス等の細胞反応をもたらす事象における下流のカスケードを開始させる自己リン酸化を引き起こす。
【0005】
活性化型EGF−R二量体は、グアニンヌクレオチド放出因子SOSに結合したアダプタータンパク質Grbと複合体化する。Grb−SOS複合体は、この受容体のホスホチロシン部位に直接的にまたはShcを通じて間接的に結合することができる。これらのタンパク質の相互作用によりSOSがRasに接近し、それによってRasを活性化する。これは、その後、ERKおよびJNKシグナル伝達経路を活性化し、これにより、遺伝子発現を促進し細胞増殖に寄与する転写因子、例えばc−fos、AP−1、およびElk−1が活性化される。
【0006】
遺伝子の増幅による過剰なEGRF受容体分子は細胞分裂の増加を招き、癌性細胞の形成に関与する場合がある。例えば、ErbB2の過剰発現は乳癌の約25%において見出されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明の第一の局面においては:
(A)hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤;および
(B)上皮増殖因子(EGF)受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤
を含み、成分(A)および成分(B)の各々が、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体との混合により処方されている、併用製品を提供する。
【0008】
「薬剤」には、すべての化学物質、例えばオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチド模倣物、および小分子化合物が含まれる。
【0009】
好ましい実施態様において、本発明の併用製品は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤、EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤、および薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体を含む医薬製剤を含む。
【0010】
別の実施態様において、本発明の併用製品は、以下の成分:
(A)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤を含む医薬製剤;および
(B)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、EGF受容体の活性を阻害する第二薬剤を含む医薬製剤
を含み、成分(A)および(B)が各々、他と組み合わせて投与するのに適した形態で提供されるキット・オブ・パーツ(kit of parts)を含む。
【0011】
二つの成分を互いに他と「関連づける(in association with)」には、そのキット・オブ・パーツの成分(A)および成分(B)が:
(i)後に併用療法において相互に組み合わせて使用するためにまとめられる別個の製剤(すなわち、互いから独立した製剤)として提供されること;または
(ii)併用療法において相互に組み合わせて使用されるよう、「組み合わせパック」における別個の成分としてパッケージされひとまとまりで提供されること、
が含まれ得る。
【0012】
従って、本発明に係る併用製品に関しては、用語「組み合わせて投与する(administration in conjunction with)」には、併用製品の二つの成分(hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤およびEGF受容体の活性を阻害する第二薬剤)を、関連する状態の処置過程において患者にとって有益な効果が、hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤を含む製剤またはEGF受容体の活性を阻害する第二薬剤を含む製剤のいずれかを同じ処置過程において他方の成分の非存在下で単独で投与(場合により反復的に)した場合よりも大きくなるよう、一緒にまたは十分短い時間内に投与(場合により反復的に)することが含まれる。その組み合わせが特定の状態に関しておよびその特定の状態の処置過程においてより大きな有益な効果を提供するかどうかの決定は、処置または予防すべき状態に依存するであろうが、これらは当業者により日常的になされていることであろう。
【0013】
好ましくは、阻害されるEGF受容体は、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4から選択される少なくとも一つである。
【0014】
本発明の好ましい実施態様において、第一薬剤は、hCAP18/LL−37の転写、翻訳、切断、および/もしくは結合特性を変更することによってhCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害し、ならびに/または第二薬剤は、EGF受容体の転写、翻訳、および/もしくは結合特性を変更することによってEGF受容体の生物学的活性を阻害する。
【0015】
このような薬剤は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば:
(a)hCAP18/LL−37またはEGF受容体mRNAの発現レベルに対する試験薬剤の効果を、例えばノーザンブロッティングまたは定量RT−PCRによって測定することによって;
(b)hCAP18/LL−37またはEGF受容体タンパク質のレベルに対する試験薬剤の効果を、例えば抗hCAP18/LL−37抗体または抗EGF受容体抗体を用いる免疫アッセイによって測定することによって;および
(c)hCAP18/LL−37またはEGF受容体活性の機能的マーカー、例えばErbB2のリン酸化に対する試験薬剤の効果を測定することによって、
同定され得る。
【0016】
好ましい実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37の転写の阻害剤であり、および/または第二薬剤はEGF受容体の転写の阻害剤である。
【0017】
別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37の翻訳の阻害剤であり、および/または第二薬剤はEGF受容体の翻訳の阻害剤である。
【0018】
さらに別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37の結合特性の阻害剤であり、および/または第二薬剤はEGF受容体の結合特性の阻害剤である。例えば、この(これらの)薬剤は、hCAP18/LL−37の立体配座をその受容体に結合できないよう変更するものであり得る。
【0019】
さらに別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37受容体アンタゴニストであり、および/または第二薬剤はEGF受容体アンタゴニストである。この(これらの)薬剤が受容体機能を直接的にブロックすることによって、すなわち受容体アンタゴニストとして作用することによって、または間接的にブロックすることによってその生物学的活性を阻害することが、当業者に理解されているであろう。
【0020】
一つの実施態様において、hCAP18/LL−37受容体はFRPファミリーの受容体である。
【0021】
好ましい実施態様において、第一薬剤は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害することができ、および/または第二薬剤は、EGF受容体の生物学的活性を阻害することができる。例えば、第一薬剤は、カセリシジンタンパク分解プロセスの阻害剤、例えばプロテアーゼ阻害剤(例えばプロテイナーゼ3)であり得る。
【0022】
さらに好ましい実施態様において、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性は、癌細胞において選択的に阻害される。
【0023】
「選択的」は、その薬剤が、癌細胞中の他のタンパク質の活性を調節するよりも大きくhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性を阻害することを意味する。好ましくは、その薬剤は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性のみを阻害するものであるが、癌細胞中の他のタンパク質の発現および活性がhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の選択的阻害の下流での結果として変化し得ることが理解されよう。このように、本発明者らは、遺伝子発現および/または癌細胞成長に対する非特異的効果を有する薬剤を排除する。
【0024】
本発明の薬剤によるhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性の阻害は全体的なものまたは部分的なものであり得ることが当業者に理解されよう。例えば、薬剤は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を、その薬剤に被曝させなかった癌細胞におけるhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、最も好ましくは100%阻害し得る。
【0025】
第一薬剤は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を、当該薬剤に被曝させなかった癌細胞におけるhCAP18/LL−37の生物学的活性と比較して50%またはそれ以上阻害することができ、および/または第二薬剤は、ERBB2の生物学的活性を、当該薬剤に被曝させなかった癌細胞におけるERBB2の生物学的活性と比較して50%またはそれ以上阻害することができるのが好都合である。
【0026】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤は、低分子干渉RNA(siRNA)分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物、ならびに小分子阻害化合物からなる群より選択される。
【0027】
あるいは、第一薬剤は、小分子阻害化合物、例えばビタミンDのアンタゴニスト、例えばZK159222(Schering AG)およびTEI−9647(Tejin Institute for Medical Research,Tokyo)、ならびにビタミンAのアンタゴニスト、例えばAGN193109(Allergen Pharmaceuticals)であり得る。
【0028】
EGF受容体阻害剤の例には、ErbB2に対する特異性を有するモノクローナル抗体である薬品ハーセプチン(トラスツズマブ、Genentech)、EGF−R(ErbB1)に対する特異性を有するモノクローナル抗体である薬品エルビタックス(セツキシマブ、Bristol−Meyers Squibb)、その他のモノクローナル抗体、例えばMAB225、チロシンキナーゼを阻害することによってEGF受容体を阻害する小分子イレッサ(ゲフィチニブ、Astra Zeneca)、およびその他のチロシンキナーゼ阻害剤(例えばPD153035、GW572016等、これらはCalbiochem/Merck等の業者から入手できる)が含まれる。
【0029】
好ましい実施態様において、第一薬剤および/または第二薬剤の少なくとも一方は低分子干渉RNA(siRNA)分子である。
【0030】
RNA干渉は二段階プロセスである。第一の段階は、開始段階(initiation step)と呼ばれ、投入したdsRNAが、おそらくはATP依存的な様式で(直接的にまたはトランスジーンもしくはウイルスを通じて導入された)dsRNAを処理(切断)するdsRNA特異的リボヌクレアーゼのRnaseIIIファミリーのメンバーであるDicerの作用によって消化され、21〜23ヌクレオチド(nt)の小分子干渉RNA(siRNA)となる。このRNAは、その後の切断イベントにより、各々2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する19〜21bpの二重鎖(siRNA)に分解される(Hutvagner & Zamore,2002,Curr.Opin.Genetics and Development 12:225−232;Bernstein,2001,Nature 409:363−366)。
【0031】
そのエフェクター段階において、siRNA二重鎖はヌクレアーゼ複合体に結合してRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成する。RISCの活性化には、siRNA二重鎖のATP依存的な巻き戻しが必要とされる。次いで活性化型RISCは塩基対相互作用によって相同な転写物を標的化し、そのmRNAをsiRNAの3’末端から12個のヌクレオチドフラグメントに切断する(Hutvagner & Zamore,2002,前出;Hammond et al.,2001,Nat.Rev.Gen.2:110−119(2001);Sharp,2001,Genes.Dev.15:485−90)。その切断メカニズムは現在も解析中であるが、各々のRISCが一つのsiRNAおよびRNaseを含むことが研究によって示されている(Hutvagner & Zamore,2002,前出)。
【0032】
RNAiの傑出した能力から、RNAi経路内での増幅工程が示唆されている。増幅は、投入したdsRNAの複製によりより多くのsiRNAを生成することによって、または形成されたsiRNAの複製によって行われ得る。あるいはまたはそれに加えて、増幅は、RISCの複数回の代謝回転(turnover)事象によってもたらされ得る(Hammond et al.,2001,前出;Hutvagner & Zamore,2002)。RNAiに関する追加の情報は、以下のレビュー、Tuschl,2001,Chem.Biochem.2:239−245、Cullen,2002,Nat.Immunol.3:597−599、およびBrantl,2002,Biochem.Biophys Act.1575:15−25から得ることができる。
【0033】
本発明において使用するのに適したRNAi分子の合成は、以下のようにして行うことができる。まず、hCAP18/LL−37 mRNAの配列を、AAジヌクレオチド配列についてAUG開始コドンの下流をスキャンする。各々のAAの出現および3’側に隣接する19ヌクレオチドを、siRNA標的部位候補として記録する。好ましくは、非翻訳領域(UTR)は調節タンパク質結合部位に豊富に存在するので、siRNA標的部位をオーブンリーディングフレームから選択する。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合と干渉する可能性がある(Tuschl,ChemBiochem.2:239−245)。しかし、非翻訳領域に対するsiRNAも有効な場合があることが理解されよう。
【0034】
次に、配列アラインメントソフトウェア、例えばBLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて、標的部位候補を適当なゲノムデータベース(例えばヒト、マウス、ラット等)と比較する。他のコード配列に対して有意な相同性を示す推定標的部位は排除する。
【0035】
合格した標的配列をsiRNA合成のテンプレートとして選択する。好ましい配列はG/C含有量の低い配列である。これらは、55%より高いG/C含有量を有する配列と比較して遺伝子サイレンシングの媒介に効果が高いことが証明されているからである。好ましくは、評価のために、数個の標的部位を標的遺伝子全長から選択する。好ましくは、選択したsiRNAのより良い評価のために、ネガティブコントロールを併せて使用する。好ましくは、ネガティブコントロールsiRNAは、そのsiRNAと同じヌクレオチド組成を含むがそのゲノムに対する有意な相同性を欠くものである。従って、好ましくは、任意の他の遺伝子に対して有意な相同性を示さないsiRNAのスクランブルヌクレオチド配列を使用する。
【0036】
好ましくは、hCAP18/LL−37を阻害するsiRNA分子は、配列番号1のヌクレオチド配列のフラグメント、またはその変異体を含むものである。
【表1】
【0037】
あるいは、siRNA分子は、ENSG00000164047(ゲノム配列)から転写されたヌクレオチド配列のフラグメントを含む。
【0038】
好ましくは、EGF受容体を阻害するsiRNA分子は、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4をコードするmRNAのヌクレオチド配列のフラグメント、またはその変異体を含む。
【0039】
mRNA配列の例は、次の通りである:
EGFR: ENST00000275493(ENSEMBLデータベースアクセス番号)
ERBB2: ENST00000269571
ERBB3: ENST00000267101
ERBB4: ENST00000342788
【0040】
「フラグメント」は、少なくとも10ヌクレオチド、例えば、少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドを意味する。
【0041】
「変異体」は、そのヌクレオチド配列が、配列番号1のフラグメントと少なくとも90%の配列同一性を、または配列番号1のフラグメントと少なくとも95%の配列同一性、例えば少なくとも95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を共有することを意味する。
【0042】
二つのポリヌクレオチド間の配列同一性の比率は、適当なコンピュータープログラム、例えばUniversity of Wisconsin Genetic Computing GroupのGAPプログラムを用いて決定され得、同一性の比率は、最適なアラインメントがなされた配列を有するポリヌクレオチドとの関係で算出されることが理解されよう。
【0043】
あるいは、アラインメントは、(Thompson et al.,1994,Nuc.Acid Res.22:4673−4680に記載されるような)Clustal Wプログラムを用いて行われ得る。
【0044】
使用するパラメータは、次の通りであり得る:
ファスト・ペアワイズ・アラインメント・パラメータ:K−タプル(ワード)サイズ;1、ウィンドウサイズ;5,ギャップペナルティ;3、トップダイアゴナル数;5、スコアリングメソッド:xパーセント
マルチ・アラインメント・パラメータ:ギャップオープンペナルティ;10、ギャップエクステンションペナルティ;0.05
スコアリングマトリクス:BLOSUM
【0045】
あるいは、部分配列アラインメントを決定するのにBESTFITプログラムが使用され得る。
【0046】
siRNA分子は19〜23ヌクレオチド長であるのが良い。
【0047】
別の実施態様において、第一薬剤および第二薬剤の少なくとも一方はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0048】
hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体のレベル/活性を効果的に低下させるのに使用できるアンチセンス分子の設計には、アンチセンスアプローチに重要な二つの局面を考慮することが必要である。第一の局面は癌細胞の細胞質へのオリゴヌクレオチドの送達であり、第二の局面はその翻訳を阻害する様式で細胞内の指定されたmRNAに特異的に結合するオリゴヌクレオチドの設計である。
【0049】
先行技術は、オリゴヌクレオチドを幅広い細胞型に効果的に送達するのに使用できる多くの送達ストラテジーを教示している(例えば、Luft,1998,J Mol Med 76:75−6;Kronenwett et al.,1998,Blood 91:852−62;Rajur et al.,1997,Bioconjug Chem 8:935−40;Lavigne et al.,1997,Biochem Biophys Res Commun 237:566−71;Aoki et al.,1997,Biochem Biophys Res Commun 231:540−5を参照のこと)。
【0050】
さらに、標的mRNAおよびそのオリゴヌクレオチドの両方における構造変化のエネルギー論を説明する熱力学サイクルに基づき、予想される標的mRNAに対する結合親和性が最も高い配列を同定するアルゴリズムが利用可能である(例えば、Walton et al.,1999,Biotechnol Bioeng 65:1−9を参照のこと)。
【0051】
インビトロ系を用いて特異的なオリゴヌクレオチドを設計およびその有効性を予測するためのいくつかのアプローチも公知である(例えば、Matveeva et al.,1998,Nature biotechnology 16:1374−1375を参照のこと)。
【0052】
いくつかの臨床試験が、アンチセンスオリゴヌクレオチドの安全性、実現可能性、および活性を実証している。例えば、癌の処置に適したアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用に成功している(Holmlund et al.,1999,Curr Opin Mol Ther 1:372−85;Gerwitz,1999,Curr Opin Mol Ther 1:297−306)。さらに最近、ヒトヘパラナーゼ遺伝子の発現のアンチセンスを介した抑制が、マウスモデルにおいてヒト癌細胞の胸膜転移を阻害することが報告された(Uno et al.,2001,Cancer Res 61:7855−60)。
【0053】
従って、当業者は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の発現をダウンレギュレートするのに適したアンチセンスアプローチを容易に設計および実施することができる。
【0054】
好ましくは、hCAP18/LL−37を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチドのフラグメントまたはその変異体を含む。
【0055】
好ましくは、EGF受容体を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4をコードするmRNAのヌクレオチド配列のフラグメント、またはその変異体を含む。
【0056】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは15〜35ヌクレオチド長であるのが都合良い。例えば、20マーオリゴヌクレオチドは、上皮増殖因子受容体mRNAの発現を阻害することが示されており(Witters et al,Breast Cancer Res Treat 53:41−50(1999))、25マーオリゴヌクレオチドは、副腎皮質刺激ホルモンの発現を90%より多く減少させることが示されている(Frankel et al,J Neurosurg 91:261−7(1999))。しかし、この範囲外の長さ、例えば10、11、12、13、もしくは14塩基、または36、37、38、39、もしくは40塩基を有するオリゴヌクレオチドを使用するのが望ましい場合もあることを理解されたい。
【0057】
さらに、オリゴヌクレオチドは細胞内因性ヌクレアーゼによる分解または不活性化に曝されることが当業者に理解されよう。この問題に対処するために、修飾されたオリゴヌクレオチド、例えば天然型のホスホジエステル結合が別の結合で置換された改良型インターヌクレオチド結合を有するオリゴヌクレオチドを使用することが可能である。例えば、Agrawal et al(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,7079−7083は、オリゴヌクレオチドホスホロアミデートおよびホスホロチオエートを用いることで組織培養物中でのHIV−1に対する阻害性が向上することを示した。Sarin et al(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,7448−7451は、オリゴヌクレオチドメチルホスホネートを用いることでHIV−1に対する阻害性が向上することを実証した。Agrawal et al(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,7790−7794は、感染初期および慢性感染状態の細胞培養物の両方において、ヌクレオチド配列特異的なオリゴヌクレオチドホスホロチオエートを用いてHIV−1の複製を阻害することを示した。Leither et al(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,3430−3434は、オリゴヌクレオチドホスホロチオエートによる組織培養物中でのインフルエンザウイルスの複製の阻害を報告している。
【0058】
人工的な結合を有するオリゴヌクレオチドは、インビボでの分解に耐性であることが示されている。例えば、Shaw et al(1991)は、Nucleic Acids Res.19,747−750において、他の部分は非修飾型であるオリゴヌクレオチドが、それらの3’末端を特定のキャップ構造でブロックした場合、インビボでのヌクレアーゼに対する耐性を増加させること、および非キャップ型のオリゴヌクレオチドホスホロチオエートがインビボで分解されないことを報告している。
【0059】
オリゴヌクレオシドホスホロチオエートの合成におけるH−ホスホネートアプローチの詳細な説明は、Agrawal and Tang(1990)Tetrahedron Letters 31,7541−7544に記載されており、その教示を参照により本明細書に援用する。オリゴヌクレオシドメチルホスホネート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、リン酸エステル、架橋ホスホロアミデート、および架橋ホスホロチオエートの合成は当該分野で公知である。例えば、その教示内容を参照により本明細書に援用する、Agrawal and Goodchild(1987)Tetrahedron Letters 28,3539;Nielsen et al(1988)Tetrahedron Letters 29,2911;Jager et al(1988)Biochemistry 27,7237;Uznanski et al(1987)Tetrahedron Letters 28,3401;Bannwarth(1988)Helv.Chim.Acta.71,1517;Crosstick and Vyle(1989)Tetrahedron Letters 30,4693;Agrawal et al(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1401−1405を参照のこと。他の合成または製造方法も可能である。好ましい実施態様において、オリゴヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)であるが、リボ核酸(RNA)配列もまた合成および利用され得る。
【0060】
本発明において有用なオリゴヌクレオチドは、好ましくは、内因性の核酸分解酵素による分解に耐性を有するように設計される。オリゴヌクレオチドのインビボ分解は、短いオリゴヌクレオチド分解産物を生じる。このような分解産物は、それらの全長対応物と比較して、非特異的なハイブリダイゼーションに関与する可能性が高く、有効性が低い。従って、体内での分解に耐性でありかつ標的細胞に到達することのできるオリゴヌクレオチドを使用することが望ましい。本発明のオリゴヌクレオチドは、ネイティブのホスホジエステル結合を一つまたはそれ以上の人工的な内部インターヌクレオチド結合で置換することによって、例えばその結合におけるリン酸を硫黄で置換することによってインビボでの分解に対する耐性を高めることができる。使用され得る結合の例には、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、スルホン、スルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、様々なホスホロアミデート、リン酸エステル、架橋ホスホロチオエート、および架橋ホスホロアミデートが含まれる。他のインターヌクレオチド結合も当該分野で周知であるので、このような例は一例にすぎず、限定的なものではない。ホスホジエステルインターヌクレオチド結合の代わりにこれらの結合を一つまたそれ以上有するオリゴヌクレオチドの合成は、混合型インターヌクレオチド結合を有するオリゴヌクレオチドを製造するための合成経路を含めて、当該分野で周知である。
【0061】
オリゴヌクレオチドは、5’または3’末端ヌクレオチドにおける「キャッピング」または類似する基の導入によって内因性酵素による伸長に対して耐性にすることができる。キャップ用試薬は、Applied BioSystems Inc,Foster City,CAからAmino−Link IITMとして販売されている。キャップ法は、例えば、Shaw et al(1991)Nucleic Acids Res.19,747−750およびAgrawal et al(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88(17),7595−7599に記載されている。
【0062】
ヌクレアーゼからの攻撃に対してオリゴヌクレオチドを耐性にするさらなる方法は、Tang et al(1993)Nucl.Acids Res.21,2729−2735に記載されるようにそれらを「自己安定化」させることである。自己安定化オリゴヌクレオチドは、それらの3’末端でヘアピンループ構造を有し、ヘビ毒ホスホジエステラーゼ、DNAポリメラーゼI、および胎仔ウシ血清による分解に対して高い耐性を示す。そのオリゴヌクレオチドの自己安定化領域は、相補的な核酸とのハイブリダイゼーションに干渉せず、マウスにおける薬物動態・安定性研究は、自己安定化型オリゴヌクレオチドがそれらの直鎖型対応物よりもインビボ耐性が高いことを示した。
【0063】
例えば、本発明のsiRNA分子および/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドは、次の表に示される配列から選択された配列を含むまたはそれらからなる場合がある(これらの配列は実施例にも記載されている)。
【表2】
【0064】
さらに別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37に対する結合親和性を有する化合物であり、第二薬剤はEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物、例えばタンパク質または糖質である。
【0065】
例えば、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の活性部位に実質的に可逆的にまたは実質的に不可逆的に結合するものであり得る。さらなる例において、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の活性部位ではない部分に結合し、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体のリガンドまたは受容体への結合を妨げるものであり得る。なおさらなる例において、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の一部に結合し、アロステリック効果によってそのタンパク質活性を低下させるものであり得る。このアロステリック効果は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の活性の自然調節に関与する、例えばhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の「上流の活性化因子」による活性化に関与するアロステリック効果であり得る。
【0066】
試験化合物とタンパク質、例えばhCAP18/LL−37またはEGF受容体の間の相互作用を検出する方法は当該分野で周知である。例えば、イオンスプレー質量分析/HPLC法による限外濾過または他の物理的・分析的方法が使用され得る。さらに、二つの蛍光標識体の結合を、相互に接近した際の蛍光標識の相互作用を測定することによって測定する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法も使用され得る。
【0067】
高分子に対するポリペプチド、例えばDNA、RNA、タンパク質、およびリン脂質の結合を検出する別の方法には、例えばPlant et al.,1995,Analyt Biochem 226(2),342−348に記載される表面プラズモン共鳴アッセイが含まれる。この方法では、標識された、例えば放射線標識または蛍光標識により標識されたポリペプチドが利用され得る。
【0068】
ポリペプチドに結合できる化合物を同定するさらなる方法は、ポリペプチドを化合物に被曝させ、そのポリペプチドへの化合物の結合を検出および/または測定する方法である。ポリペプチドに対する化合物の結合についての結合定数が決定され得る。ポリペプチドへの化合物の結合を検出および/または測定(定量)するのに適した方法は当業者に周知であり、例えば、高スループットの操作を実現する方法、例えばチップベースの方法を用いて実施され得る。VLSIPS(登録商標)とよばれる新技術は、数十万またはそれ以上の異なる分子プローブを含む極小のチップの製造を可能にした。これらの生物学的チップまたはアレイにプローブが配列され、各プローブに特定位置が割り当てられる。各々の位置が、例えば10ミクロンのスケールとなる生物学的チップが開発されている。このチップは、標的分子がチップ上のいずれのプローブと相互作用するかを決定するのに使用できる。このアレイを選択された試験条件下で標的分子に被曝させた後、スキャン機器によりアレイの各位置を調査し、標的分子がその位置のプローブと相互作用したかどうかを決定する。
【0069】
hCAP18/LL−37に対する結合親和性を有する化合物を同定する別の方法は、酵母ツーハイブリッドシステムであり、このシステムにおいて本発明のポリペプチドをhCAP18/LL−37に結合するタンパク質を「捕捉」するのに使用することができる。酵母ツーハイブリッドシステムはFields & Song,Nature 340:245−246(1989)に記載されている。
【0070】
さらに別の実施態様において、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対するリガンド結合能を有するものである。例えば、第一薬剤はhCAP18/LL−37受容体の可溶性フラグメントであり得る(例えばFPRL1であるがこれに限定されない)。
【0071】
あるいは、薬剤は、抗体を模倣する高親和性分子(いわゆる「アフィボディ」)であり得る(例えばUS 5,831,012およびwww.affibody.seを参照のこと)。これらのリガンドは、足場としてのプロテインA(細菌Staphylococcus aureus由来の表面タンパク質)のIgG結合ドメインの一つを基礎とする三ヘリックスバンドルで構成される小さく単純なタンパク質である。この足場はアフィニティリガンドとしての優れた特徴を有し、任意の所定の標的タンパク質に対して高い親和性で結合するよう設計することができる。
【0072】
さらに別の実施態様において、第一薬剤および/または第二薬剤は小分子阻害化合物である。
【0073】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤はポリペプチドを含むまたはポリペプチドからなる。
【0074】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは抗体またはその抗原結合フラグメントであり、好ましくは抗体またはその抗原結合フラグメントはFvフラグメント、Fab様フラグメント、単可変ドメイン(single variable domains)、およびドメイン抗体からなる群より選択される。抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化されているのが都合良い。「抗体」には、実質的にインタクトな抗体分子だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体(少なくとも一つのアミノ酸が天然型のヒト抗体と比べて変異しているもの)、単鎖抗体、二特異性抗体(例えば、hCAP18/LL−37およびEGF受容体の両方に対する親和性を有する抗体)、抗体重鎖、抗体軽鎖、抗体重鎖および/または軽鎖のホモ二量体およびヘテロ二量体、ならびにそれらの抗原結合フラグメントおよび誘導体が含まれる。
【0075】
「抗原結合フラグメント」は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に結合できる抗体の機能的フラグメントを意味する。
【0076】
好ましくは、抗原結合フラグメントは、Fvフラグメント(例えば単鎖Fvおよびジスルフィド結合型Fv)、Fab様フラグメント(例えばFabフラグメント、Fab’フラグメント、およびF(ab)2フラグメント)、単可変ドメイン(例えばVHドメインおよびVLドメイン)、ならびにドメイン抗体(dAb、シングル型およびデュアル型[すなわちdAb−リンカー−dAb]を含む)からなる群より選択される。
【0077】
全長抗体ではなく抗体フラグメントを使用する利点はいくつかある。フラグメントのサイズの小ささは薬理学的特性を改善する、例えば固形組織への浸透性を向上させることがある。さらに、抗原結合フラグメント、例えばFab、Fv、ScFv、およびdAb抗体フラグメントはE.coliで発現させ分泌させることができるので、容易に多量のフラグメントを製造することができる。
【0078】
抗体およびその抗原結合フラグメントの修飾型、例えばポリエチレングリコールまたは他の適当なポリマーの共有結合により修飾されたものもまた本発明の範囲に含まれる。
【0079】
抗体及び抗体フラグメントを作製する方法は当該分野で周知である。例えば、抗体は、抗体分子のインビボ生成の誘導、免疫グロブリンライブラリのスクリーニング(Orlandi.et al,1989.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.86:3833−3837;Winter et al.,1991,Nature 349:293−299)、または培養細胞株によるモノクローナル抗体分子の産生を利用する様々な方法の任意の一つを通じて作製され得る。これらには、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、およびエプスタイン・バーウイルス(EBV)−ハイブリドーマ技術(Kohler et al.,1975.Nature 256:4950497;Kozbor et al.,1985.J.Immunol.Methods 81:31−42;Cote et al.,1983.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:2026−2030;Cole et al.,1984.Mol.Cell.Biol.62:109−120)が含まれるがこれらに限定されない。
【0080】
選択された抗原に対する適当なモノクローナル抗体は、公知技術、例えば“Monoclonal Antibodies:A manual of techniques”,H Zola(CRC Press,1988)および“Monoclonal Hybridoma Antibodies:Techniques and Applications”,J G R Hurrell(CRC Press,1982)に開示される技術によって作製され得る。
【0081】
抗体フラグメントは、当該分野で周知の方法を用いて得ることができる(例えば、Harlow & Lane,1988,“Antibodies:A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,New Yorkを参照のこと)。例えば、本発明に係る抗体フラグメントは、抗体のタンパク質加水分解によってまたはそのフラグメントをコードするDNAのE.coliもしくは哺乳動物細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞培養物または他のタンパク質発現系)中での発現によって得ることができる。あるいは、抗体フラグメントは、従来法による全長抗体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。
【0082】
ヒトの治療または診断にヒト化抗体の使用が好まれることは当業者に理解されているであろう。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化型は、好ましくは最小限の非ヒト抗体由来部分を有する遺伝子操作されたキメラ抗体または抗体フラグメントである。ヒト化抗体には、ヒト抗体(レシピエント抗体)の相補性決定領域が所望の官能性を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット、またはウサギの相補性決定領域由来の残基で置換された抗体が含まれる。いくつかの例において、ヒト抗体のFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基で置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも移植された相補性決定領域もしくはフレームワーク配列にも見られない残基を含み得る。一般的に、ヒト化抗体は、全てまたは実質的に全ての相補性決定領域が非ヒト抗体のそれに対応し、全てまたは実質的に全てのフレームワーク領域が関連するヒトコンセンサス配列のそれに対応する、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。ヒト化抗体は、典型的にはヒト抗体に由来する抗体の定常領域例えばFc領域の少なくとも一部も含むことが好ましい(例えば、Jones et al.,1986.Nature 321:522−525;Riechmann et al.,1988,Nature 332:323−329;Presta,1992,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照のこと)。
【0083】
非ヒト抗体をヒト化する方法は当該分野で周知である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒト源から導入された一つまたはそれ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基、しばしば移入残基(imported residues)と称される、は典型的には移入した可変ドメインから得る。ヒト化は、基本的に、記載されているように(例えばJones et al.,1986,Nature 321:522−525;Reichmann et al.,1988.Nature 332:323−327;Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534−1536l;US 4,816,567を参照のこと)、ヒト相補性決定領域を対応する齧歯類相補性決定領域で置換することによって行うことができる。従って、このようなヒト化抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に小さい領域が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体である。実際のヒト化抗体は、典型的には、いくつかの相補性決定領域の残基およびおそらくはいくつかのフレームワーク残基が齧歯類抗体における類似部分由来の残基で置換されたヒト抗体である。
【0084】
ヒト抗体また、ファージディスプレイライブラリ(例えばHoogenboom & Winter,1991,J.Mol.Biol.227:381;Marks et al.,1991,J.Mol.Biol.222:581;Cole et al.,1985,In:Monoclonal antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,pp.77;Boerner et al.,1991.J.Immunol.147:86−95を参照のこと)を含む当該分野で公知の様々な技術を用いて特定することができる。
【0085】
適当な抗体が獲得されれば、それらは、例えばELISAによって活性について試験され得る。
【0086】
好ましい実施態様において、第一薬剤および/または第二薬剤の少なくとも一方は、癌細胞に選択的に送達または癌細胞により選択的に活性化されることが可能である。
【0087】
「選択的」は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性に対する薬剤の阻害作用が、(その薬剤の癌細胞部位への局所投与によってではなく)癌細胞でまたは癌細胞内で優先的に発揮されることを意味する。
【0088】
薬剤を特定の細胞型、例えば癌細胞に標的化する方法は当該分野で周知である(例えばVasir & Labhasetwar,2005,Technol Cancer Res Treat.4(4):363−74;Brannon−Peppas & Blanchette,2004,Adv Drug Deliv Rev.56(11):1649−59およびZhao & Lee,2004,Adv Drug Deliv Rev.56(8):1193−204を参照のこと)。
【0089】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤は標的細胞特異的部分を含み、この標的細胞特異的部分は抗体またはその抗原結合フラグメントであるのがよく、これらはヒト化され得る。
【0090】
「標的細胞特異的」部分は、標的癌細胞上の物質を認識しこれに結合する一つまたはそれ以上の結合部位を含む薬剤の部分を意味する。標的細胞に接触すると、標的細胞特異的部分は阻害性部分とともに内部移行され得る。
【0091】
標的細胞特異的部分によって認識される物質は、標的癌細胞において優勢的に、好ましくは排他的に発現されるものである。標的細胞特異的部分は、同じ標的細胞型において発現される異なる物質に対する一つもしくはそれ以上の結合部位、または二つもしくはそれ以上の異なる標的細胞型において発現される異なる物質に対する一つもしくはそれ以上の結合部位を含み得る。
【0092】
好ましくは、標的細胞特異的部分は、高結合力で標的細胞を認識する。
【0093】
「高結合力」は、標的細胞特異的部分が、標的細胞を、少なくともKd=10-6M、好ましくは少なくともKd=10-9M、適当なのはKd=10-10M、より適当なのはKd=10-11M、さらにより適当なのはKd=10-12M、より好ましくはKd=10-15M、さらにはKd=10-18Mの結合定数で認識することを意味する。
【0094】
好ましい実施態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、癌細胞の表面上で発現される抗原に対する特異性を有する。
【0095】
認識される物質は、腫瘍細胞によって発現される任意の適当な物質であり得る。多くの場合、認識される物質は抗原であろう。
【0096】
抗原の例には表1に列挙されるものが含まれる。
【表3】
【0097】
他の抗原には、アルファフェトタンパク質、Ca−25、前立腺特異的抗原、および上皮増殖因子受容体ファミリーのメンバー、すなわちerbB1(EGFR)、erbB2、erbB3、およびerbB4が含まれる。
【0098】
従って、一つの実施態様において、第二薬剤は、抗EGF受容体抗体、例えば抗erbB2抗体(例えばハーセプチン)であり得る。第二薬剤は、第一薬剤に融合またはそれ以外の方法で結合されている場合、EGF受容体阻害剤および標的化剤の両方として作用することができる。
【0099】
標的細胞特異的部分が標的細胞に対する二つまたはそれ以上の結合部位を含む、抗体またはその二価フラグメントであるのが都合良い。この標的細胞特異的部分は、互いと同じ物質を認識するまたは異なる物質を認識する各「アーム」を有し得る。
【0100】
本発明の薬剤の一つの実施態様において、標的細胞特異的部分は、同じ標的細胞上の異なる分子を認識する二つの「アーム」を有し、その同じ標的細胞上の分子はその細胞型に限定的なものではなくいくつかの他の細胞型にも存在し得るものである。例えば、標的細胞特異的部分の一方の「アーム」はI、II、およびIII型細胞上の分子を認識し、他方の「アーム」はI、IV、およびV型細胞上の分子を認識する。従って、このような標的細胞特異的部分を含む本発明の薬剤は、II、III、およびIV型細胞と比較して、I型細胞に対する特異性が高くなるであろう。完全に標的細胞特異的な分子はほとんど発見されておらず、いくつかの細胞型に存在し本発明のこの局面において有用な分子が周知であるため、本発明のこの局面は特に有益である。このような分子は通常、それに対して交差反応する抗体が知られている細胞表面抗原である。
【0101】
表1に列挙した抗原の多くに結合するモノクローナル抗体はすでに公知であるが、いずれの場合も、今日のモノクローナル抗体技術をもってすればほとんどの抗原に対して抗体を作製することができる(上記参照)。
【0102】
認識される物質は、抗原性である場合または抗原性でない場合があり、いくつかの他の方法で認識および選択的に結合され得る場合がある。例えば、それは、特徴的な細胞表面受容体、例えば黒色腫細胞において多量に発現されるメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)に対する受容体であり得る。あるいは、その物質は、標的細胞において誘導される物質であり得る。細胞特異的部分は、非免疫な様式で、例えば細胞表面酵素の基質もしくはそのアナログまたはメッセンジャーとしてその物質に特異的に結合する化合物またはその一部であり得る。
【0103】
好ましくは、高結合力の標的細胞特異的部分は、標的細胞に対する二つまたはそれ以上の異なる結合部位を含む。
【0104】
標的細胞に対する異なる結合部位は、標的細胞において発現される異なる物質に対する二つまたはそれ以上の異なる抗体またはそのフラグメントである場合またはそうでない場合がある。あるいは、標的細胞に対する異なる結合部位は、いくつかの他の非免疫的な様式で細胞を認識しそれに選択的に結合し得る。
【0105】
標的化部分が任意の適当な手段によって本発明の阻害性薬剤に結合され、それによって二つの部分で機能的活性を保持し得ることが理解されよう。例えば、標的化部分および阻害性部分が共にポリペプチドの場合、それらは相互に融合され、融合タンパク質が形成され得る。このような融合物の例は当業者に周知である。
【0106】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤は、癌細胞によって選択的に活性化されるプロドラッグである。
【0107】
本願において使用される場合、用語「プロドラッグ」は、その親の薬物と比較して癌細胞に対する細胞毒性が小さく、より活性な親の形態に酵素的に活性化または変換できる、薬学的に有効な物質の前駆体または誘導体形態を意味する(例えばD.E.V.Wilman “Prodrugs in Cancer Chemotherapy” Biochemical Society Transactions 14,375−382(615th Meeting,Belfast 1986)およびV.J.Stella et al “Prodrugs:A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery” Directed Drug Delivery R.Borchardt et al(ed.)pages 247−267(Humana Press 1985)を参照のこと)。
【0108】
このようなプロドラック薬剤を製造するのに適した方法は当該分野で周知である(例えばDenny,2004,Cancer Invest.22(4):604−19;Rooseboom et al.,2004,Pharmacol Rev.2004 56(1):53−102;WO 03/106491を参照のこと)。
【0109】
プロドラッグの活性化のための酵素を選択する上でいくつかの要素を考慮する必要がある。これらには、その酵素の分子量および物理的特性、その生理学的条件下での活性および安定性、ならびに酵素の生成する薬物の性質が含まれる。
【0110】
このストラテジーの柔軟性は、多くの機械的に別々の抗癌剤を放出する能力を有する様々な酵素の利用に耐えるものである。特に有益なのは、単一のMab−酵素複合体が、相乗作用的な活性を有する治療有効用量の機械的に別々の抗癌剤を生成することができるという事実である。これは免疫原性の理由から重要であることが分かるはずである。これらの局面においては、好ましい動態および広範な基質特異性ならびにセファロスポリン基質の3’部分に付加された置換基を除去するという能力から、多くのβ−ラクタマーゼが多くの能力を保持している(Svensson et al(1992)“Mab−β−lactamase conjugates for the activation of a cephalosporin mustard prodrug”Bioconjugate Chem.3,176−181を参照のこと)。
【0111】
哺乳動物起源および非哺乳動物起源の両方の酵素が、様々なプロドラッグの活性化に使用されている(Senter et al,1993.Generation of cytotoxic agents by targeted enzymes.Bioconjugate 4,3−9;Senter et al,1991.Activation of prodrugs by antibody−enzyme conjugates.In Immunobiology of Proteins and Peptides VI,ed.M.Z.Atassi.Plenum Press,New York,pp97−10)。哺乳動物起源の酵素は免疫原性が低い点で有利であるが、それらが作用するプロドラッグは対応する内因性酵素の基質の可能性もある。
【0112】
好ましい実施態様において、成分(a)および成分(b)は、癌細胞の処置において逐次的に、別個に、および/または同時に使用するのに適している。
【0113】
本発明の薬剤は様々なタイプの癌細胞の増殖を阻害するのに使用され得ることが当業者に理解されよう。好ましくは、癌細胞は上皮細胞および/または扁平上皮細胞である。
【0114】
望ましくは、癌細胞は、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、胃腸管、ならびに内分泌系の癌細胞からなる群より選択される。
【0115】
好ましくは、癌細胞は乳癌細胞である。
【0116】
最も好ましくは、癌細胞はエストロゲン陽性である。しかし、本発明の薬剤及び方法はその他の癌タイプの処置にも利用され得る。
【0117】
一つの実施態様において、乳癌細胞はElstonグレードIII細胞でありかつ転移性であり得る。
【0118】
本発明の第二の局面において、その方法が本発明の第一の局面において規定される成分(a)を、本発明の第一の局面において規定される成分(b)と関連付け、二つの成分を互いに組み合わせて投与するのに適合させることを含む、本発明の第一の局面において規定される併用製品の製造方法を提供する。
【0119】
本発明の第三の局面において:
(i)請求項1〜40のいずれか一項に記載の成分(a)および成分(b)の少なくとも一方;と共に
(ii)その成分をその二つの成分の他方と組み合わせて使用するための説明書、
を含む、キット・オブ・パーツを提供する。
【0120】
本発明に係るキット・オブ・パーツとの関係で、用語「〜と組み合わせて(in conjunction with)」は、二つの製剤の一方または他方がもう一方の成分の投与前に、投与後に、および/または同時に投与され得る(場合により反復的に)ことを包含する。この文脈で使用される場合、用語「同時に投与される(administered simultaneously)」および「同時に投与される(administered at the same time as)」は、hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤およびEGF受容体の活性を阻害する第二薬剤のそれぞれが互いから48時間(例えば24時間)以内に投与されることを包含する。
【0121】
本発明の第四の局面において、癌細胞の処置において使用するための、本発明の第一の局面において規定される併用製品または第三の局面において規定されるキット・オブ・パーツを提供する。
【0122】
本発明の第五の局面において、本発明の第一の局面において規定される併用製品または第三の局面において規定されるキット・オブ・パーツを、癌患者または癌に対して感受性の患者に投与することを含む、癌細胞の処置方法を提供する。
【0123】
「処置」は、患者の治療的処置および予防的処置の両方を包含する。用語「予防的」は、患者または被験者における癌を防止するまたはその可能性を低下させる、本明細書中に記載されるポリペプチドまたは製剤の使用を包含するよう使用される。
【0124】
好ましくは、この処置方法は、患者の癌細胞の増殖の阻害および/または転移の阻害を含む。
【0125】
好ましくは、患者はヒトであり、薬剤は癌細胞に選択的に送達されるまたは癌細胞により選択的に活性化されるものがよい。
【0126】
本発明の第六の局面において、医薬において使用するための本発明の第一の局面に係る併用製品を提供する。
【0127】
好ましくは、併用製品は癌の処置において使用するためのものである。
【0128】
本発明の第七の局面において、本発明の第一の局面に係る併用製品および薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、または担体を含む医薬組成物を提供する。
【0129】
好ましくは、医薬組成物は非経口投与に適したものである。
【0130】
好ましい実施態様において、この医薬組成物の製剤は、癌細胞を標的化して薬剤を送達することができる。
【0131】
本発明の第八の局面において、癌細胞の増殖を阻害するための医薬の製造における本発明の第一の実施態様に係る併用製品を提供する。
【0132】
好ましい実施態様において、癌細胞は上皮細胞および/または扁平上皮細胞である。
【0133】
好ましくは、癌細胞は、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、ならびに胃腸管の癌細胞からなる群より選択される。
【0134】
より好ましくは、癌細胞は乳癌細胞、例えばElstonグレードIII細胞でありかつ転移性であり得る。
【0135】
本明細書中で使用される場合、「医薬製剤(pharmaceutical formulation)」は、本発明に係る治療上有効な製剤を意味する。
【0136】
本明細書中で使用される場合、「治療有効量」または「有効量」または治療上有効な」は、所定の状態および投与レジメンにおいて治療効果を提供する量を意味する。これは、必要な添加剤および希釈剤、すなわち担体または投与媒体と組み合わせて所望の治療効果を生じるよう計算された活性成分の既定量である。さらに、この用語は、活性、機能、および宿主の反応における臨床的に重大な欠陥を減らす、最も好ましくは防止するのに十分な量を意味する。あるいは、治療有効量は、宿主における臨床的に重大な状態に改善をもたらすのに十分な量である。当業者に理解されていることであるが、化合物の量はその比活性に依存して変化し得る。適当な投与量には、必要な希釈剤と組み合わせて所望の治療効果を生じるよう計算された活性成分の既定量が含まれ得る。本発明の組成物の製造方法および使用において、治療有効量の有効成分が提供される。治療有効量は、当該分野で周知のように、患者の特徴、例えば年齢、体重、性別、状態、合併症、他の疾患等に基づき医師または獣医により決定され得る。
【0137】
このような有効量の薬剤またはその製剤は単ボーラス投与(すなわち急性的投与)として、またはより好ましくは経時的な一連の投与(すなわち慢性的投与)として送達され得ることが当業者に理解されるであろう。
【0138】
本発明の薬剤は、使用する化合物の効能/毒性およびそれを使用する上での効能に依存して、様々な濃度で処方され得る。好ましくは、製剤は、0.1μM〜1mMの間、より好ましくは1μM〜100μMの間、5μM〜50μMの間、10μM〜50μMの間、20μM〜40μMの間、最も好ましくは約30μMの濃度の本発明の薬剤を含む。インビトロ用途では、製剤はそれより低い濃度、例えば0.0025μM〜1μMの間の本発明の化合物を含み得る。
【0139】
本発明の薬剤は、一般的に、意図する投与経路および医薬品取り扱い基準(standard pharmaceutical practice)を考慮して選択された適当な薬学的賦形剤、希釈剤、または担体と混合して投与されることが当業者に理解されているであろう(例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy,19thedition,1995,Ed.Alfonso Gennaro,Mack Publishing Company,Pennsylvania,USAを参照のこと)。
【0140】
例えば、本発明の薬剤は、即時、遅延、または制御放出用の錠剤、カプセル剤、オブール剤(ovule)、エリキシル剤、溶液剤、または懸濁剤の形態で経口投与、口腔投与、または舌下投与することができ、これらは矯味剤または着色剤を含み得る。本発明の薬剤はまた、海綿体注射を通じて投与され得る。
【0141】
このような錠剤は、微結晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、およびグリシン等の賦形剤、デンプン(好ましくはトウモロコシ、ジャガイモ、またはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、および特定のケイ酸錯体等の崩壊剤、ならびにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン、およびアカシア等の造粒結合剤を含み得る。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、およびタルク等の滑沢剤も含まれ得る。
【0142】
類似のタイプの固形組成物もまた、ゼラチンカプセルにおける増量剤として利用され得る。この点で好ましい賦形剤には、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖、または高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。水性懸濁剤またはエリキシル剤においては、本発明の化合物は、様々な甘味剤または矯味剤、着色剤または色素と、乳化剤および/または懸濁剤と、ならびに希釈剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、およびグリセリンと、ならびにそれらの混合物と混合され得る。
【0143】
本発明の薬剤はまた、非経口投与、例えば静脈内投与、関節内投与、動脈内投与、腹腔内投与、くも膜下腔内投与、脳室内投与、胸骨内投与、頭蓋内投与、筋内投与、もしくは皮下投与され得るか、またはそれらは注入技術によって投与され得る。これらは、滅菌水溶液の形態で使用するのが最もよく、この溶液には他の物質、例えばその溶液を血液と等張にするための十分な塩またはグルコースが含まれ得る。必要に応じて、この水溶液は、適当に(好ましくはpH3〜9に)緩衝化されるべきである。滅菌条件下での適当な非経口製剤の製造は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に行われる。
【0144】
非経口投与に適した製剤には、水性および非水性の滅菌注射溶液、これらには抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、およびその製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質が含まれ得る;ならびに水性および非水性の滅菌懸濁物が含まれ、これらには懸濁剤および増粘剤が含まれ得る。製剤は、単回量または複数回量用の容器、例えば密封式のアンプルおよびバイアルに収められ、使用の直前に滅菌液体担体、例えば注射用水を加えることだけを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。直接利用型の注射溶液および懸濁物は滅菌粉末、顆粒、および上記の種の錠剤から製造され得る。
【0145】
ヒト患者に対する経口および非経口投与においては、本発明の薬剤の一日の用量レベルは通常、成人一人あたり1〜1000mg(すなわち約0.015〜15mg/kg)であり、一回または複数回の投薬により投与されるであろう。
【0146】
本発明の薬剤はまた鼻腔内にまたは吸入により投与することができ、乾燥粉末吸入器または適当な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134A3)もしくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA3)、二酸化炭素、もしくは他の適当なガスを用いる加圧容器、ポンプ、スプレー、またはネブライザーからのエアゾール噴霧の形態で送達されるのがよい。加圧式エアゾールの場合、単位用量は、秤量した量を送達するための弁を提供することによって決定され得る。加圧容器、ポンプ、スプレー、またはネブライザーは、例えば、エタノールおよび溶媒としての噴霧剤の混合物を用いる活性化合物の溶液または懸濁物を含み得、さらに滑沢剤、例えばトリオレイン酸ソルビタンが含まれ得る。吸入器または注入器において使用するためのカプセルおよびカートリッジ(例えばゼラチン製のもの)は、本発明の化合物および適当な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含むよう処方され得る。
【0147】
エアゾールまたは粉末乾燥製剤は、好ましくは、各々の秤量された用量または「一吹き(puff)」が、本発明の化合物少なくとも1mgを患者への送達用に含むよう設定される。エアゾールによる全一日量は患者ごとに異なり、これらは一回投与でまたはより通常はその日の中での分割投与により投与され得ることが理解されるであろう。
【0148】
あるいは、本発明の薬剤は、坐剤または膣坐剤の形式で投与することができるか、またはこれらはローション剤、溶液剤、クリーム剤、軟膏剤、もしくは散布剤の形式で局所適用され得る。本発明の化合物はまた、例えば皮膚パッチの使用によって経皮投与され得る。これらはまた、眼経路によって投与され得る。
【0149】
眼に使用するために、本発明の薬剤は、等張性、pH調整済み、滅菌性の生理食塩水中の微粒子懸濁物または好ましくは等張性、pH調整済み、滅菌性の生理食塩水中溶液として、場合により保存剤、例えば塩化ベンジルアルコニウムと共に処方することができる。あるいは、これらは軟膏、例えばワセリンを用いて処方され得る。
【0150】
皮膚への局所適用のために、本発明の薬剤は、例えば以下の一つまたはそれ以上を含む混合物中に懸濁または溶解された活性化合物を含む適当な軟膏剤として処方することができる:鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう、および水。あるいは、これらは、例えば以下の一つまたはそれ以上の混合物中に懸濁または溶解された適当なローション剤またはクリーム剤として処方することができる:鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水。
【0151】
口内に局所投与するのに適した製剤には、矯味基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に有効成分を含むロゼンジ剤;不活性基剤、例えばゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシア中に有効成分を含むトローチ剤;ならびに適当な液体担体中に有効成分を含む口内洗浄剤が含まれる。
【0152】
薬剤がポリペプチドの場合、徐放性薬物送達系、例えばマイクロスフィアを使用するのが好ましい場合がある。これらは特に注射の頻度を減らすよう設計される。このような系の例は、生分解性のマイクロスフィア中に組換えヒト成長ホルモン(rhGH)を被包し、注射後長時間にわたってrhGHをゆっくりと放出するNutropin Depotである。
【0153】
あるいは、本発明のポリペプチド薬剤は、必要な部位に対して直接的に薬物を放出する外科移植デバイスによって投与することができる。
【0154】
電気穿孔療法(EPT)システムも、タンパク質およびポリペプチドの投与のために利用することができる。細胞に対してパルス電場を送達するデバイスは細胞膜の薬物透過性を増加させ、細胞内への薬物送達を大きく改善する。
【0155】
タンパク質およびポリペプチドはまた、電気導入(EI)によって送達することができる。EIは、皮膚表面上の直径が30ミクロン以下の微粒子が電気穿孔で使用されるのと同一または類似の電気パルスを受けた場合に起こる。EIにより、これらの粒子は角質層を通じて皮膚深層へと誘導される。その粒子に薬物もしくは遺伝子を充填もしくはコーティングすることもできるし、または単に皮膚を通して薬物が進入できるように皮膚に孔を形成する「弾丸」として作用することができる。
【0156】
別のタンパク質およびポリペプチド送達方法は、温度感受性のReGelの注射である。ReGelは体温以下では注射可能な液体であるが、体温では直ちにゲルレザバーを形成し、徐々に腐食および溶解して公知の安全な生分解性ポリマーとなる。活性な薬物は、この生物高分子が溶解するのに伴い徐々に送達される。
【0157】
タンパク質薬およびポリペプチド薬はまた、経口送達することができる。一つのこのような系は、タンパク質およびポリペプチドを共送達するために体内でのビタミンB12の経口摂取に関する自然プロセスを利用するものである。ビタミンB12摂取系に乗ることによって、タンパク質またはポリペプチドは腸壁を通じて移動することができる。ビタミンB12アナログと薬物の間で形成された複合体は、その複合体のビタミンB12部分において内因子(IF)に対する有意な親和性と、その複合体の薬物部分において有意な生物活性の両方を保持する。
【0158】
本発明のオリゴヌクレオチド薬剤またはポリヌクレオチド薬剤を投与する方法も当該分野で周知である(Dass,2002,J Pharm Pharmacol.54(1):3−27;Dass,2001,Drug Deliv.8(4):191−213;Lebedeva et al.,2000,Eur J Pharm Biopharm.50(1):101−19;Pierce et al.,2005,Mini Rev Med Chem.5(1):41−55;Lysik & Wu−Pong,2003,J Pharm Sci.2003 2(8):1559−73;Dass,2004,Biotechnol Appl Biochem.40(Pt 2):113−22;Medina,2004,Curr Pharm Des.10(24):2981−9を参照のこと)。
【0159】
例えば、本発明の構築物は、レトロウイルスを利用してその構築物を細胞のゲノムに挿入する方法によって細胞に導入され得る。例えば、Kuriyama et al(1991)Cell Struc.and Func.16,503−510においては、精製されたレトロウイルスが投与されている。上記のポリヌクレオチドを含むレトロウイルスDNA構築物は、当該分野で周知の方法を用いて作製され得る。このような構築物から活性なレトロウイルスを生じさせるために、10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養したエコトロピックなpsi2パッケージング細胞株を使用するのが通例である。細胞株のトランスフェクションは、リン酸カルシウム共沈によるのがよく、安定な形質転換体は終濃度1mg/mlとなるようG418を加えることによって選択する(レトロウイルス構築物がneo(R)遺伝子を含む場合)。独立コロニーを単離し、これを培養し、培養上清を0.45μm孔径のフィルターを通じて濾過することで除去し、−70℃で保存する。レトロウイルスを腫瘍細胞に導入する場合は、10μg/mlポリブレンを加えたレトロウイルス上清を直接注射するのがよい。10mm径を超える腫瘍の場合は、レトロウイルス上清を0.1ml〜1ml;好ましくは0.5ml注射するのが適当である。
【0160】
あるいは、Culver et al(1992)Science 256,1550−1552に記載されるように、レトロウイルスを産生する細胞が注射される。そのようにして導入されたレトロウイルス産生細胞は、レトロウイルスベクター粒子の継続的な産生がインサイチュの腫瘍塊内で行われるようそのベクターを能動的に産生するよう加工されたものである。従って、増殖性細胞は、レトロウイルスベクター産生細胞と混合された場合、インビボで首尾良く形質導入され得る。
【0161】
標的化されたレトロウイルスもまた本発明において使用することができる;例えば、特異的な結合親和性を付与する配列が既存のウイルスenv遺伝子に導入され得る(これおよびその他の遺伝子療法用標的化ベクターのレビューについてはMiller & Vile(1995)Faseb J.9,190−199を参照のこと)。
【0162】
他の方法は、その構築物を細胞に単純に送達し、限定的な時間またはゲノムへの組み込み後により長時間発現させることである。後者のアプローチの例にはリポソームが含まれる(Naessander et al(1992)Cancer Res.52,646−653)。
【0163】
免疫性リポソーム(immuno−liposomes)を作製するためには、Martin & Papahadjopoulos(1982)J.Biol.Chem.257,286−288の方法に従いMPB−PE(N−[4−(p−マレイミドフェニル)ブチリル]−ホスファチジルエタノールアミン)を合成する。リポソーム表面に抗体またはそのフラグメントを共有結合させるために、MPB−PEをリポソームの二重層に組み込む。例えば、本発明の薬剤(例えばDNAまたはその他の遺伝子構築物)の溶液中でリポソームを形成させ、0.8MPa以下の窒素圧下で0.6μmおよび0.2μm孔径のポリカーボネートメンブレンフィルターを通じて連続押出しを行うことによって、標的細胞への送達用に本発明の薬剤をリポソームに充填するのがよい。押出し後、捕捉されたDNA構築物を、80000×g、45分間の超遠心分離によって遊離のDNA構築物から分離する。新たに作製した脱酸素緩衝液中のMPB−PE−リポソームを新たに作製した抗体(またはそのフラグメント)と混合し、窒素雰囲気下、4℃で一晩絶えず回転させながらカップリング反応を行う。免疫性リポソームは、80000×g、45分間の超遠心分離によって非結合型の抗体から分離する。免疫性リポソームは、腹腔内にまたは腫瘍に直接注射され得る。
【0164】
他の送達方法には、抗体・ポリリジン架橋を通じて外来DNAを保持するアデノウイルス(Curiel Prog.Med.Virol.40,1−18を参照のこと)およびキャリアとしてのトランスフェリン・ポリカチオン複合体(Wagner et al(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,3410−3414)が含まれる。これらの方法のうちの一番目の方法においては、ポリカチオン・抗体複合体を本発明のオリゴヌクレオチド薬剤を含むよう形成する。抗体は野生型アデノウイルスまたはその抗体に結合する新たなエピトープが導入された変異型アデノウイルスのいずれかに対して特異的なものである。ポリカチオン部分は、オリゴヌクレオチド薬剤と、そのリン酸骨格との静電気的相互作用を通じて結合する。アデノウイルスは、非修飾型の線維およびペントンタンパク質を含むので細胞内に移行し、本発明のオリゴヌクレオチド薬剤をその細胞内に運び込む。ポリカチオンがポリリジンであるのが好ましい。
【0165】
オリゴヌクレオチド薬剤は、例えば以下に記載されるように薬剤をアデノウイルス粒子に内包させてアデノウイルスによって送達する場合もある。
【0166】
別の方法においては、受容体媒介エンドサイトーシスによってDNA高分子を細胞内に運び込む高効率核酸送達系を利用する。これは、核酸に結合するポリカチオンに鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンを結合させることによってなされる。ヒトトランスフェリンもしくはニワトリホモログのコンアルブミンまたはこれらの組み合わせを、DNA結合性の小タンパク質であるプロタミンまたは様々なサイズのポリリジンに、ジスルフィド結合を通じて共有結合させる。これらの修飾型トランスフェリン分子は、それらの同族受容体に結合し、細胞内への効率的な鉄輸送を媒介する能力を保持している。トランスフェリン・ポリカチオン分子は、核酸サイズ(短いオリゴヌクレオチド〜21キロ塩基対のDNA)とは独立に、本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物を含む電気泳動上安定な複合体を形成する。トランスフェリン・ポリカチオンおよび本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物の複合体を腫瘍細胞に供給した場合、細胞内でのこの構築物からの高レベルの発現が期待される。
【0167】
Cotten et al(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,6094−6098の方法によって作製された不完全または化学的に不活性なアデノウイルス粒子のエンドソーム破壊活性を用いる本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物の高効率受容体媒介送達もまた利用され得る。このアプローチは、アデノウイルスがリソソームを通さずにエンドソームからそれらのDNAを放出するよう適合され、かつ例えば本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物に結合されたトランスフェリンの存在下でその構築物がアデノウイルス粒子と同じ経路で細胞に取り込まれるという事実に基づくようである。
【0168】
このアプローチは、複雑なレトロウイルス構築物を使用する必要がない;レトロウイルス感染によってゲノムが恒久的に改変されることがなく;かつ標的化発現系と標的化送達系の組み合わせにより、他の細胞型に対する毒性が軽減されるという利点を有する。
【0169】
「裸のDNA」ならびに陽イオン性および中性脂質と複合体化されたDNAもまた、本発明のDNAを処置すべき個人の細胞に導入する上で有用であり得ることが理解されるであろう。遺伝子療法における非ウイルスアプローチは、Ledley(1995)Human Gene Therapy 6,1129−1144に記載されている。
【0170】
別の標的化送達系、例えばWO94/10323に記載される、典型的にはDNAがアデノウイルスまたはアデノウイルス様粒子内で保持される修飾型アデノウイルス系もまた公知である。Michael et al(1995)Gene Therapy 2,660−668は、線維タンパク質に細胞選択部分を追加するアデノウイルスの修飾について記載する。p53欠損ヒト腫瘍細胞において選択的に複製する変異アデノウイルス、例えばBischoff et al(1996)Science 274,373−376に記載されるウイルスもまた、本発明の遺伝子構築物を細胞に送達するのに有用である。従って、本発明のさらなる局面は、本発明の遺伝子構築物を含むウイルスまたはウイルス様粒子を提供することであることが理解されよう。他の適当なウイルスまたはウイルス様粒子には、HSV、AAV、ワクシニア、およびパルボウイルスが含まれる。
【0171】
さらなる実施態様において、hCAP18/LL−37の機能を選択的に妨げる薬剤は、hCAP18/LL−37 mRNAまたはDNAを標的化して切断することのできるリボザイムである。このリボザイムを発現する遺伝子は、アンチセンス分子の場合と実質的に同じ媒体を用いて投与され得る。
【0172】
ここで開示されるウイルスまたはウイルス様粒子のゲノムにおいてコードされ得るリボザイムは、US 5,180,818、US 5,168,053、US 5,149,796、US 5,116,742、US 5,093,246、およびUS 4,987,071に記載されている。
【0173】
アンチセンス分子またはリボザイムは細胞特異的なプロモーターエレメントから発現されることが望ましい場合があることが理解されよう。
【0174】
本発明の製剤の特に好ましい実施態様において、製剤は、本発明の薬剤を癌細胞に標的化して送達することのできるものである。
【0175】
当業者はさらに、本発明の薬剤および医薬製剤が医学および獣医学の両方の分野において有用性を有することを理解するであろう。従って、本発明の薬剤は、ヒトならびに非ヒト動物(例えばウマ、イヌ、およびネコ)の両方の処置に使用され得る。しかし、好ましくは、患者はヒトである。
【0176】
本発明の好ましい局面を、以下の非限定的な実施例において、添付図面を参照しつつ記載する。
【実施例】
【0177】
実施例
実施例A − 抗細菌タンパク質hCAP18/LL−37は乳癌において高度に発現されかつ上皮細胞の推定増殖因子である
導入
本実施例においては、一連の乳癌におけるhCAP18/LL−37の発現パターンを調査し、腫瘍細胞においてhCAP18 mRNAおよびタンパク質が顕著にアップレギュレートされるがその隣接するストローマにおいてはそうでないことを実証する。興味深いことに、最も高レベルのhCAP18タンパク質が最も組織学的グレードの高い腫瘍から検出され、いくつかの低グレードの腫瘍におけるhCAP18レベルは正常な乳房組織において検出されるレベルと同等であった。これらの知見は、抗細菌ペプチドに関して提唱されてきた抗腫瘍効果説と明らかに相反するものであるが、上皮の修復および血管新生におけるhCAP18/LL−37の役割を示唆する最近の知見と合致する5,10。成長促進因子としてのhCAP18/LL−37をさらに支持するため、本発明者らは、ここで、上皮細胞の増殖が合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドによる処理およびhCAP18のトランスジェニック発現の両方によって有意に増強されることを実証する。
【0178】
材料および方法
組織
28名の乳癌患者由来の凍結腫瘍組織をDepartment of Pathology,Danderyd Hospital,Stockholm,Swedenから入手した(表2)。これらの腫瘍を、確立されているガイドラインに従い、Elston and Ellis I〜IIIに従い等級付けを行った13。サイクリンAを、増殖マーカーとして使用した(Nova−Castra Laboratories,Newcastle upon Tyne,UK)。エストロゲン受容体のステータスを、慣用的に処理したパラフィン切片において評価した。8名の乳癌患者および乳房除去手術(reductive breast surgery)を受けた2名の健常者由来の非病変乳房組織をコントロールとして用いた。全てのサンプルを同じ病理学者(B.S.)に試験させ、通常通りに分類した(表2)。書面によるインフォームドコンセントを全患者から得た。本研究は地方倫理委員会の承認を得て行った。
【0179】
hCAP18のインサイチュハイブリダイゼーション
pBluescriptにサブクローニングした435bpのhCAP18全長cDNAを、[35S]標識アンチセンスおよびセンスプローブのインビトロ転写に使用し、サンプル0〜17において、基本的に記載8された通りにインサイチュハイブリダイゼーションを行った(表2)。
【0180】
免疫組織化学
サンプル0〜17において免疫組織化学を行った(表2)。組換えhCAP18に対するカセリンアフィニティ精製ウサギ抗血清14を、Vectastainキット(Vector Laboratories,Burlingame,USA)を用いた間接的ペルオキシダーゼ法に従い、以前に記載10されたようにして1:500希釈で使用した。染色の特異性を確認するため、以前に報告10されたようにして免疫吸着を行った。FPRL1受容体の検出のために、アフィニティ精製ヤギポリクローナル抗体を、関節的ペルオキシダーゼ法に従い、1:400希釈(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)で使用した。
【0181】
タンパク質抽出およびウェスタンブロット分析
凍結腫瘍組織16〜60mgを、リジン緩衝液中で、電動ホモゲナイザーを用いてホモゲナイズした。腫瘍組織および細胞株由来のタンパク質を、標準的なプロトコル15に従いSDS含有サンプル緩衝液中で抽出した。そのタンパク質濃度を分光学的アッセイによって測定し、タンパク質濃度が等しくなるようSDS含有サンプル緩衝液で調整した16。hCAP18/LL−37の検出のために、その抽出物を16.5% Tris−Tricine Readyゲル(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)で分離した。組換えカセリン17および合成LL−37ペプチドをサイズ基準として使用した。ERK1/2およびFPRL1の検出のために、タンパク質を、それぞれ12%および8% Tris−Glycineゲルで分離した。各サンプルにほぼ等量のタンパク質がブロットされていることを確認するため、フィルターを、一次抗体とのインキュベーションの前に、3% TCA中3%ポンソーS溶液(Sigma Aldrich,USA)で可逆的に染色した。アフィニティ精製抗カセリン抗血清17、アフィニティ精製抗LL−37抗血清10、抗FPRL1抗血清(sc18191,Santa Cruz Biotechnology,CA)、およびモノクローナル抗ERK1/2抗体(Cell Signaling Technology,Beverly MA)を、全て1:1000希釈で使用した。ニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell,Dassel,Germany)上での電気ブロッティングならびに一次抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ結合IgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)との逐次的なインキュベーションの後、増感化学発光(ECL,Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)からのシグナルをCCDカメラ(LAS 1000,Fujifilm,Tokyo,Japan)で捕捉した。
【0182】
ELISA
以前に記載17されたサンドイッチELISAを用いて、正常な乳腺および腫瘍組織由来のタンパク質抽出物中のhCAP18を定量した。
【0183】
リアルタイムPCRによるhCAP18の発現分析
4つの正常サンプルおよび4つの腫瘍からRNAをQiagen RNeasyキット(Operon Biotechnologies,Cologne,Germany)を用いて抽出し、第一鎖合成キット(Amersham Biosciences,Norwalk,CT)を用いて逆転写した。RNAを、標準的なプロトコルに従いcDNA 10ngを用いてABI Prism 7700(Applied Biosystems)によるリアルタイムPCRにより定量した。サンプルは三連で評価した。配列は、プライマーについては5'−GTCACCAGAGGATTGTGACTTCAA−3'[配列番号2]および5'−TTGAGGGTCACTGTCCCCATA−3'[配列番号3]であり、蛍光プローブについては6−FAM−5'−CCGCTTCACCAGCCCGTCCTT−3'−BHQ1[配列番号4]であった。サンプルは18S−RNAの定量によって正規化した(Assay on Demand, Applied Biosystems)。正常サンプルの平均発現値を裁量で1に設定した。
【0184】
合成LL−37ペプチド
LL−37ペプチドを合成し、HPLCにより純度98%まで精製した(PolyPeptide Laboratories A/S,Hillerod,Denmark)。このペプチドの生物学的活性は抗細菌アッセイ18において確認した。
【0185】
上皮細胞のLL−37ペプチド処理
自然不死化型ヒトケラチノサイト細胞株(HaCat)19を、10%FCS(ウシ胎仔血清、Hy−Clone,Boule Nordic AB Huddinge,Sweden)および抗生物質(PEST=ペニシリン50U/lおよびストレプトマイシン50mg/ml、Gibco BRL)を補充したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Gibco BRL,Life Technologies,Scotland)中で培養した。細胞を70%コンフルエンスで回収し、96ウェルプレートに100μl培地(DMEM+10%FCSおよびPEST)中に2000細胞となるよう播種した。12時間後、培地を無血清培地(DMEM+PEST)に交換し、72時間の血清飢餓によって細胞をG0/G1で同調させ、次いで合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドを10μg/ml含有する培地(DMEM+5%FCS+PEST)100μlで処理した。DMEM+5%FCSおよびPESTのみで処理した細胞をコントロールとして用いた。この実験を四連で行った。細胞増殖は、[3H]チミジン取り込みによって評価した。細胞を、[3H]チミジン(20.00 Ci/mmol,Perkin Elmer Life Sciences Inc.Boston, MA) 1μCi/ウェルで12時間処理し、ガラス繊維フィルター(Wallac Oy Turku,Finland)に回収した(Harvester 96,Tomtec,Orage,CT)。[3H]チミジンの取り込みを、液体シンチレーションカウンター(Microbeta Pluss,Wallac Sveriges AB)を用いて測定した。この実験を6連で二回繰り返した。
【0186】
HEK293およびHaCaT細胞におけるhCAP18のトランスジェニック発現
16bpの5’非翻訳領域を含む全長コード配列を含むImageクローン305793120由来のBfa1フラグメントを、バイシストロン性ベクターpIRES2−EGF(BD Biosciences,Bedford,MA)のSma1部位にサブクローニングした。HEK293およびHaCaT細胞を標準的な条件下でFugene(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を用いてトランスフェクトし、二週間の間、400ng/ml G418(Invitrogen,Paisley,UK)によって選別した。細胞を、Summit(商標)データ分析ソフトウェアを用いてMoFlo(登録商標)高速細胞ソーティングフローサイトメーター(DakoCytomation,Fort Collins,CO)によってEGFP発現についてソーティングし、それらのCAP18発現を免疫ブロッティングによって定量した。コントロール細胞株は、EGFPのみを発現するベクターを用いたトランスフェクションによって同様に構築した。これらの細胞株は、数ヶ月間の非選択下での連続培養の間、安定的なCAP18発現を維持した。本実験は30連で二回繰り返した。
【0187】
hCAP18で安定的にトランスフェクトしたHEK293およびHaCaT細胞の増殖アッセイ
hCAP18でトランスフェクトしたHEK293細胞を70%コンフルエンスで回収し、24ウェルプレートに播種した。24時間後に培地を交換し、細胞を5%FCSおよびPESTを補充した培地(Optimem,Gibco BRL,Life Technologies,Scotland)2ml中で培養した。細胞を6日目に回収し、フローサイトメトリー(Becton Dickinson,Bedford,MA)によって計数した。細胞の生存性をトリパンブルーによって測定したところ、全ての条件下で細胞の5%未満がトリパンブルー陽性であった。全ての条件を三連で行った。EGFPのみを発現するベクターでトランスフェクトしたHEK293細胞をコントロールとして用いた。
【0188】
hCAP18でトランスフェクトしたHaCat細胞を70%コンフルエンスで回収し、96ウェルプレート中の10%FCS+PEST含有DMEM中に、ウェルあたり2000細胞となるよう播種した。12時間後に培地を、5%FCS+PESTを補充したDMEMに交換した。24時間の培養後、細胞を、上記の通り、[3H]チミジン 1μCi/ウェルで12時間処理し、回収し、分析した。EGFPのみを発現するベクターでトランスフェクトしたHaCaT細胞をコントロールとして用いた。
【0189】
FPRL1の発現分析
HaCaT細胞からRNAをRNeasyキット(Qiagen)を用いて抽出し、第一鎖合成キット(Amersham−Pharmacia)を用いて逆転写した。FPRL1 RNAを、上記の通り、リアルタイムPCRにより定量し、18S−RNAに対して正規化した。配列は、プライマーについては5'−TCTGCTGGCTACACTGTTCTGC−3'[配列番号2]および5'−GACCCCGAGGACAAAGGTG−3'[配列番号3]、蛍光プローブについては6−FAM−5'−CCCAAGCACCACCAATGGGAGGA−3'−BHQ1[配列番号4]であった。
【0190】
百日咳毒素アッセイ
hCAP18/LL−37により誘導される上皮細胞の増殖刺激の媒介にFPRL1が関与するかを評価するため、HaCaT細胞をGタンパク質共役受容体阻害剤である百日咳毒素で処理した。細胞を、百日咳毒素(Sigma−Aldrich,Switzerland)と共に事前インキュベートし、24時間後に毒素終濃度20ng/ml下でLL−37処理を行った。培地を細胞播種の48時間後に交換し、HaCaT細胞を、合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドを1mlあたり5または10μg含む培地(DMEM+5%FCSおよびPEST)それぞれ100μlで処理した。DMEM+5%FCSおよびPESTのみで処理した細胞をコントロールとして用いた。
【0191】
LL−37処理したHaCaT細胞におけるリン酸化型ERK1/2のアッセイ
HaCaT細胞を10%コンフルエンスで播種し、0.2%FCS含有DMEM中で36時間維持した。さらに48時間、細胞を1%または5%FCSをそれぞれ含有するDMEM中、LL−37 10μg/mlの存在下または非存在下で、毎日培地を交換しながら培養した。EGF 10ng/mlをポジティブコントロールとして用いた。リン酸化型ERK1/2の発現は、マウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technology,Beverly MA)を用いるウェスタンブロット分析によって評価した。
【0192】
統計分析
値は平均細胞数またはカウント/毎分(CPM)プラスマイナスSDで表す。グループ間の比較は、両側t検定によって分析した。結果は、P値<0.05で統計学的に有意であるとみなした。腫瘍における発現の分析については、片側t検定を有意水準<0.05でhCAP18タンパク質レベルについて行った。
【0193】
結果
hCAP18/LL−37は乳癌において発現される
患者の詳細を表2に記載する。
【0194】
インサイチュハイブリダイゼーションによって、健常者コントロール由来の乳房組織(図1)および非病変乳癌(示さず)においてhCAP18 mRNAの小さなシグナル(示さず)およびhCAP18タンパク質の弱い免疫反応が見られた。全ての乳癌組織は、腫瘍細胞においてhCAP18に対する免疫反応を示したが、ストローマにおいては示さなかった(図1a、c、d)。腫瘍細胞集団はhCAP18の免疫反応性に関しては均質でなく、強陽性細胞が、検出可能なhCAP18を欠く細胞近辺で見出された(図1c)。カセリン組換えタンパク質による免疫吸着は、hCAP18の免疫反応を消滅させた(図1e、f)。インサイチュハイブリダイゼーションにより、hCAP18 mRNAに対する陽性シグナルが同じ領域において検出され、免疫組織化学により得られた発現パターンと強く一致した(図1b)。シグナル強度は同じではなく、グレードの高い腫瘍で最も強かった。センスhCAP18 cRNAプローブとハイブリダイズさせたコントロール切片は、hCAP18 mRNAに対する特異的なシグナルを生じなかった(示さず)。
【0195】
ELISAによる乳癌組織抽出物中のhCAP18タンパク質の定量は、Elston IグレードとIIグレードの腫瘍の間では相違ないが、悪性度が最も高い腫瘍においてはhCAP18レベルがはっきりと高いことを明らかにした(表2)。Elston IIIグレードの腫瘍と残りの腫瘍との間の差は統計学的に有意であった(p<0.01)。13のグレードIII腫瘍のうちの10が5ng/mg総タンパク質のhCAP18濃度に達したまたはそれを超過した。残りの18の腫瘍サンプルではわずか2つしかこのレベルに到達しなかった。アッセイした健常な乳房組織のうちの4検体もまた、Elston IまたはII腫瘍と同様のレベルに到達した。ELISAによって得られた発現パターンを検証するため、本発明者らは4の正常サンプルおよび4の腫瘍に対してリアルタイムPCRを行った。転写物の定量の結果は、タンパク質の発現に関するデータと合致するものであった(表2)。
【0196】
免疫ブロッティングによって、調査した全ての腫瘍および正常な乳房組織が、インタクトな未プロセシング型の18kDaホロタンパクに対応する免疫反応バンドを示した(図2)。5つの調査したグレードIII腫瘍(表2、サンプル6〜10)のうちの4つにおいて、本発明者らはプロセシング型hCAP18タンパク質であるLL−37に対応するバンドも検出した(図2)。使用した抗血清は、hCAP18ホロタンパクに対して惹起されたものであり、カセリンペプチドに対してアフィニティ精製されたものである10にもかかわらず、高濃度のLL−37を検出した。
【0197】
hCAP18/LL−37は上皮細胞の増殖を亢進する。
hCAP18(hCAP18/E)発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293およびHaCaT細胞は、EGFPのみを発現するベクター(E)でトランスフェクトしたコントロール細胞よりも有意に高い増殖率を示した(図3AおよびB)。トランスフェクトしたHEK293およびHaCaT細胞由来のタンパク質抽出物の免疫ブロッティングによって、本発明者らは、これらのhCAP18ベクター含有細胞がホロタンパクを産生し(図3AおよびB)、LL−37に対応する4kDの免疫反応バンドが細胞培地中で検出される(データは示さず)ことを確認した。さらに、5%ウシ胎仔血清下で培養し10μg/mlの合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドで処理したHaCat細胞は、有意な細胞増殖の亢進を示した(図4)。
【0198】
【表4】
【0199】
【表5】
【0200】
LL−37受容体FPRL1は乳癌において発現される
Gタンパク質共役受容体FPRL1は、真核生物細胞におけるLL−37により誘導される効果を媒介することが示されており4,5、本実験の設定下でのその潜在的役割を評価するため、本発明者らは乳房組織におけるFPRL1タンパク質の発現を調査し、乳癌細胞および正常な腺上皮の両方においてFPRL1に対する強い免疫反応を確認した(図5a、b)。免疫ブロッティングは、FPRL1が両方の組織で発現されることを確認した(図5c)。さらに、hCAP18のトランスジェニック発現は、HaCaT細胞におけるFPRL1 mRNAの発現を有意に増加させ(図5d)、これによりhCAP18/LL−37のシグナル伝達におけるFPRL1の関与がさらに支持された。しかし、百日咳毒素によるHaCaT細胞の事前処理はこれらの細胞の増殖を排除せず、およそ50%抑制し(示さず)、これによりFPRL1がこれらの細胞におけるhCAP18/LL−37の成長刺激効果の媒介に関与する唯一の存在ではないことが示された。上皮細胞の増殖の活性化におけるERK1/2の関与の可能性を試験するため、本発明者らはHaCaT細胞を合成性の生物学的に活性なLL−37で処理したがERK1/2の有意な活性化は見られず、これによりEGFRがHaCaT細胞の増殖に対するLL−37の刺激効果の媒介に関与しないことが示された。
【0201】
考察
本研究において、本発明者らは、hCAP18/LL−37が正常な乳腺上皮において構成的に産生されることを実証した。このことは、ヒトにおける抗細菌バリアによる保護におけるLL−37の役割と合致し、LL−37の低い構成的発現が正常な静穏状態の上皮において見られ、それに対して顕著な発現が傷害および炎症に関連して見られるという以前の報告7-10に沿うものである。抗細菌ペプチドの構成的発現は、汗腺におけるヒトカセリシジンLL−37、マウス唾液腺におけるカセリシジンCRAMP、およびヒト唾液腺におけるベータ−ディフェンシンのように、これまでに様々な外分泌腺において検出されている21-23。乳腺におけるヒトベータ−ディフェンシン2(hBD−2) mRNAの発現は1998年にBalsらによって報告され、最近他のグループが授乳期でない女性の乳腺組織ならびに授乳期の乳房組織および母乳において構成的なhBD−1の発現を見出した24-26。
【0202】
興味深いことに、hCAP18の産生は、グレードの高い腫瘍の乳房上皮において、正常な乳房上皮またはグレードの低い腫瘍と比較して最も顕著に増加した。しかし、hCAP18の発現は、普遍的でも均一でもない、すなわち全ての癌細胞がhCAP18陽性というわけではないが、明らかに陽性の細胞が検出可能なhCAP mRNAおよびタンパク質を欠く細胞の近辺で見出され(図1c)、その発現の程度は全ての腫瘍タイプにおいて細胞間で大きく異なるものであった。このことは、腎細胞癌におけるヒトアルファディフェンシンに関して示唆されているような27、複雑であるが厳密な制御下にあるhCAP18の調節を反映していると考えられる。
【0203】
本発明者らの研究において、最も高いhCAP18/LL−37レベルが、最も高い組織学的グレードを有する腫瘍から検出された。高いグレードの腫瘍と低いグレードおよび正常な乳房組織の間のhCAP18発現の差は統計学的に有意であるが、緊密な相関関係は認められていない。全てのグループの中には、健常サンプルのレベルでhCAP18を発現する腫瘍が存在し、グレードI腫瘍のうちの二つは、それ以外ではグレードIII腫瘍でのみ観察される比較的高い発現を示した。しかし、サンプル数の限界を考慮すれば、本発明者らの観察は、悪性の程度とhCAP18/LL−37の発現の間の潜在的相関関係を示唆するものと言える。乳癌におけるhCAP18の過剰発現はhCAP18の調節に影響する細胞内経路における欠陥に起因するものかもしれず、hCAP18の発現は腫瘍に成長する上での優位性を提供するものではなくこれらの変化を反映するものであると反論する者もいるかもしれない。しかし、本明細書中に記載されるインビトロ研究と併せて考慮すれば、本発明者らはこれらのデータが腫瘍の成長の促進におけるLL−37の潜在的役割を指摘するものであると考える。
【0204】
高いhBD−2タンパク質濃度ならびにヒトアルファ−およびベータ−ディフェンシンの両方に対する顕著な免疫反応が様々な口腔癌において見出されており、これらの抗細菌ペプチドのレベルの上昇が感染および/またはサイトカインによる刺激の結果であり得ることが示唆されている28-30。他の研究は、昆虫から単離された抗細菌ペプチド、例えばメリチンおよびセクロピン関連ペプチドが哺乳動物の腫瘍細胞に対して抗腫瘍効果を発揮することを提唱している31-34。さらに、ヒト膀胱癌細胞株へのセクロピンおよびメリチンのコード配列のベクター媒介送達およびそれらの発現は、ヌードマウスにおいて腫瘍原性を抑制した11。同様に、ブタカセリシジンPR−39のトランスジェニック発現は、ヒト肝細胞癌の浸潤能を低下させた12。
【0205】
抗細菌ペプチドの多機能的役割は徐々に明らかになりつつある。直接的な膜効果を通じた病原体不活性化に加えて、LL−37はインビボで走化性効果を発揮し、ヒト好中球、単球、T細胞サブセット、およびマスト細胞の移動を誘導する4,35,36。この走化活性は、百日咳毒素感受性の膜結合型Gタンパク質共役受容体であるFPRL1に対するLL−37の結合に依存する4。hCAP18/LL−37について示唆されているさらなる機能には、皮膚の創傷部の再上皮形成および新血管新生を促進することによる上皮の修復および血管新生における役割が含まれる5,10。
【0206】
従って、本明細書に示される乳癌細胞における顕著なhCAP18/LL−37の発現は、これらの腫瘍細胞の成長上の優位性を反映するものである。この学説を試験するため、本発明者らはhCAP18発現ベクターでヒト上皮細胞株HEK293およびHaCaTをトランスフェクトし、トランスフェクト細胞の増殖の有意な増加を確認した。さらに、合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドは、HaCaT細胞の増殖を有意に増加させた。これらの知見は、抗細菌ペプチドについて提唱されている抗腫瘍効果と明確に相反するものであるが、ヒトアルファディフェンシンが腎細胞癌(RCC)の進行を調節する可能性があるとするMuellerらによる最近の知見と合致する。これらのディフェンシンは、RCCの腫瘍細胞および正常な腎臓の尿細管上皮において見出され、生理学的濃度で腫瘍細胞の増殖を刺激した27。
【0207】
本発明者らのインビトロ研究は、LL−37が、部分的にFPRL1を通じて、上皮細胞の増殖を刺激することを示唆している。百日咳毒素によるこの受容体のブロックが外因性のLL−37の増殖効果をおよそ50%低下させるからであり、このことはおそらく他の受容体の関与も示しているからである。最近の研究で、LL−37が、上皮増殖因子受容体(EGFR)のトランス活性化を通じたマイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル調節キナーゼ(MAPK/ERKキナーゼ=MEK)の活性化により気道上皮細胞を活性化することが示唆された37。
【0208】
結論としては、本明細書中に示される結果はLL−37が腫瘍の成長を促進することを示しているということである。
【0209】
参考文献
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【0210】
実施例B − エストロゲン受容体(ER)およびリンパ節(N)陽性乳房腫瘍におけるhCAP18/LL−37の発現増加
材料および方法
RNAを、140の乳房腫瘍および4の非病変乳房組織サンプルから抽出し、プライマーとしてランダムヘキサマーを用いて逆転写した。hCAP18転写物の発現は、(上記の)標準的なプロトコルに従いcDNA 10ngを用いるリアルタイムPCRにより測定した。
結果および考察
結果を図6に示す。非病変サンプルの平均発現値を裁量で1に設定した。平均および偏差はAnova統計法によって評価した。
hCAP18の発現は、リンパ節が形成されたER陽性腫瘍において、リンパ節を有さないものよりも有意に(約5倍)高かった。
【0211】
実施例C − hCAP18/LL−37活性を阻害する薬剤の同定
hCAP18/LL−37の腫瘍の進行への寄与の様々な局面、すなわち周知のシグナル伝達経路の誘導、細胞増殖の刺激およびアポトーシスの抑制、コロニー成長および足場非依存的成長の刺激、基底膜を通じた浸潤の刺激、最後にマウスにおける腫瘍の成長および転移形成の増強を実証するために、多くの確立されたインビトロおよびインビボアッセイを使用することができる。
これまでに原発性ケラチノサイトおよび上皮細胞株におけるhCAP18/LL−37から得られた上記の特徴はまた、乳癌細胞株においても実証することができる。適当な標的細胞株は、hCAP18を発現しない悪性度の低いエストロゲン受容体陽性細胞株MCF−7である。上記の局面を調査するため、組換えプラスミドからhCAP18を発現するMCF−7の亜株を樹立した。hCAP18タンパク質のオートクリン活性とLL−37のパラクリン活性は異なるものなので、実験の性質上許容される場合は、インビトロアッセイを、細胞内での内因的産生の代わりに、LL−37の外因的添加によっても行われる。
【0212】
上記の実験は、hCAP18/LL−37の腫瘍形成能全体を評価するものであるが、抗hCAP18/LL−37活性を有する薬剤によるこれらの効果の阻害を実証するためにさらなる実験を行うことができる。例えば、合成された活性なタンパク質LL−37は、抗体による阻害のための標的とみなすことができる。さらに、このタンパク質の産生は、プロモーターのブロックを通じてhCAP18遺伝子の転写を阻害することによっておよびRNA干渉による転写物の転写後ダウンレギュレーションによって妨害することができる。
【0213】
従って、作用のメカニズムおよび標的を実証するためインビトロで、および体内での効果を実証するためマウス内の腫瘍においてインビボでの両方で実験が行われ得る。このようなインビトロ実験は、上記のMCF−7亜株において行われ得る。hCAP18遺伝子の調節実験については、hCAP18を低度であるが明確に検出できるレベルで発現する乳癌細胞株ZR75−lが使用される。
【0214】
以下に記載する実験においては、そうでないことが明記されない限り、以下の条件を使用した:細胞を、10%ウシ胎仔血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地中で増殖させた。トランスジェニック株用の培地は、トランスジーンを維持するために、150μg/mlハイグロマイシンおよび400μg/mlジェネティシンを含有するものとした。3日未満継続する実験については、細胞を使用する24時間前に抗生物質を取り除き、ウシ胎仔血清の濃度を、各々の特定の実験に必要な濃度に調整した。LL−37は2μMの濃度で添加した。
【0215】
細胞増殖の刺激(Heilborn 2005を参照のこと)
トランスジェニック細胞株および細胞株を70%コンフルエンスで回収し、96ウェルプレートの10%FCS含有DMEM中に、ウェルあたり2000個になるよう播種した。24時間後、培地を、LL−37を添加したまたは添加しない、5%FCS含有培地に交換した。24時間の培養後、細胞を1μCi/ウェルの[3H]チミジン、20Ci/mmolで12時間処理し、ガラス繊維フィルター(Wallac,Turku,Finland)上に回収した(Harvester 96;Tomtec,Orage,CT)。[3H]チミジンの取り込みを、液体シンチレーションカウンター(Microbeta Plus,Wallac)を用いて測定した。本実験の統計学的有意性を確認するため、各条件/細胞株につき24のウェルを使用した。
【0216】
細胞成長アッセイ(Lu 2005,Ludes−Meyers 2002を参照のこと)
このアッセイは、hCAP18/LL−37による細胞増殖の刺激を決定するため、[3H]チミジン取り込みアッセイの補足として行った。MCF−7亜株を、各時点につき三連で、50細胞/mm2(6ウェルプレートにおよそ50000細胞/ウェル)の密度になるようプレーティングした。総細胞数を血球計数器で2日毎に計数した。細胞の生存性をトリパンブルーを用いて評価した。
【0217】
hCAP18/LL−37によるアポトーシスの阻害
アポトーシスの誘導ために、細胞を、5%FCSを含む6ウェルプレート培地に25000細胞/ウェルとなるよう播種し、6μMのトポイソメラーゼI阻害剤カンプトテシン(CAM)(Sigma Chemical Co.,St.Luis,MO)で24時間処理した。
hCAP18/LL−37によるアポトーシスの抑制を確認するため、二つのアポトーシスパラメータ、DNA含有量およびカスパーゼ−3活性を評価した。全ての実験は、統計学的有意性を確保するため、6回行った。
【0218】
フローサイトメトリーによるDNA含有量の分析(Warburton 2005を参照のこと)
ヨウ化プロピジウム(PI)/RNase染色緩衝液(Becton Dickinson,San Jose,CA)をこの分析に使用した。トリプシン処理した細胞を冷やした70%(V/V)エタノール中で固定し、使用するまで4℃で保存した。DNA含有量は、DNAへのPIの取り込みを通じて測定した。蛍光分析はFACScanフローサイトメーター(Becton and Dickinson,Mountain View,CA,USA)を用いて行った。粒子のFCS(前方散乱光)およびSSC(側方散乱光)を同時に測定し、細胞のサイズおよび粒度を測定した。PIで染色された核の赤色蛍光をFL−4ウィンドウ(600nmバンドパスフィルターおよび35nmバンド幅)で検出した。蛍光強度は細胞のDNA含有量に比例する。各ヒストグラムを2つの部分:(1)非同調性、非アポトーシス性の生存細胞(2N〜4Nに相当するDNA含有量を有するG1、S、およびG2期の細胞)を表すM1領域;ならびに(2)生存細胞よりもDNAの量が少ないアポトーシス細胞を表すM2領域、に分けた。
【0219】
カスパーゼ−3活性アッセイ
カスパーゼ−3酵素活性は、蛍光基質VDVAD−AMC(100μM)およびDEVD−AMC(50μM)を用いて測定した。細胞溶解産物を反応緩衝液(100mM HEPES、10%スクロース、5mMジチオトレイトール(DTT)、10〜6% NP−40、および0.1% CHAPS、pH7.25)中に集め、これをマイクロタイタープレートに移した。蛍光発生基質の切断は、Fluoroscan IIプレートリーダー(Labsystems,Stockholm,Sweden)においてAMBの遊離により観察した。蛍光単位を、遊離のAMCから作成した標準曲線を用いてAMCのpmolに変換した。データは線形回帰法により分析した。
【0220】
コロニー形成アッセイ(Ludes−Meyers 2002,Wang 2005を参照のこと)
このアッセイは、細胞が、支持体となる周辺細胞の非存在下で持続的に増殖する能力を測定するために使用した。この特性は、細胞が腫瘍を形成する能力を反映するものと考えられている。
トランスジェニック細胞をサブコンフルエント状態で維持し、最大70%コンフルエンスでトリプシン処理し、次いで5、10、および25細胞/ml増殖培地の濃度まで希釈した。細胞を3〜7日間増殖させ(基本的には3〜4回の倍加に十分な時間)、コロニーあたりの細胞数を計測した。組換えプラスミドから緑色蛍光タンパク質を発現させる場合は、細胞およびコロニーを蛍光顕微鏡下で計数することができる。コロニー形成の結果をコロニー毎の蛍光細胞の分布として表し、ウイルコクソンの順位和検定を用いて培地中のLL−37の存在下および非存在下での異なるトランスジェニック株間の分布を比較した。MCF−7細胞はβ−エストロゲンのみの存在下で腫瘍を形成することが知られているので、トランスジェニック細胞の成長に対する1〜5nMエストロゲンの効果をアッセイすることができる。
【0221】
足場非依存的増殖アッセイ(Fiucci 2002を参照のこと)
このアッセイは、細胞が転移を形成する能力を反映するものである。細胞を、300u/mlトリプシン、20u/mlエラスターゼ、および1mM EDTAの混合物による処理により調製した。エラスターゼの存在は、細胞が単細胞懸濁物に分散するのを促す。細胞を増殖培地中に懸濁し、溶融した0.7%Seaplaque低融解温度アガロースを含有する増殖培地と1:1混合し、終濃度500細胞/mlおよび0.35%アガロースとした。この混合物1mlを、6ウェルプレート中、固体培地/0.6%アガロースの2ml層の上からプレーティングした。この細胞に、3〜4日毎に、増殖培地100μlを与えた。2週間後、培養物の上層を0.2%p−ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(Sigma)で染色し、100μM径よりも大きなコロニーを計数した。このアッセイは三連で行い、これを二回繰り返した。
【0222】
浸潤の誘導(Fiucci 2002を参照のこと)
マトリゲルは基底膜とみなされ、EHS肉腫から製造される。マトリゲルは基底膜成分(コラーゲン、ラミニン、およびプロテオグリカン)だけでなく、マトリクス分解酵素/それらの阻害剤および増殖因子も含有する。腫瘍細胞のマトリゲルへの浸潤は、腫瘍の進行において役割を果たす細胞外マトリクス受容体およびマトリクス分解酵素の関与を特徴付けるために使用されている。
【0223】
マトリゲルを冷やした無血清増殖培地で2mg/mlに希釈し、100μlを24ウェルのトランスウェルの上チャンバにプレーティングし、ゲル化のために37℃で一晩インキュベートした。細胞を回収し、1%FCSを含有する培地中に106/mlの密度になるよう懸濁した。マトリゲルを暖めた無血清培地で洗浄した後、細胞懸濁物100μlを上チャンバにプレーティングした。下チャンバを、化学誘引物質として馴らし培地を含有する増殖培地600μlで満たした。このチャンバを細胞インキュベーター中で6時間〜24時間インキュベートした。トランスウェルを染色し(Diff−Quick染色液、Fisher Scientific)、非浸潤細胞を綿棒でかき取った後、浸潤細胞を光学顕微鏡下で計数した。
【0224】
SCIDマウスにおける腫瘍の増殖(Wang 2005 Warburton 2005を参照のこと)
サブコンフルエントに培養した細胞を回収し、冷やしたPBSに2.5×107細胞/mlとなるよう懸濁した。その一部200μlを、4〜6週齢の雌のSCIDマウスの脂肪体または尾静脈に皮下注射した。MCF−7細胞の腫瘍形成は一般的にエストロゲンに依存するので、60日間にわたってβ−エストラジオールを一日あたり1.7mg放出するペレットを皮下移植した。このマウスを週に二回触診し、最初の触診可能な腫瘍が生じた日時を記録した。腫瘍の増殖はマニュアルで観察し、遅くとも腫瘍の直径が1cmになるまでにマウスを屠殺した。腫瘍の数、サイズ、分布を記録した。マウスを切開することによって小さな転移を検出し、組換えプラスミドから発現されたGFPからの蛍光を誘導するためこれをスキャンした。さらに、脾臓および肝臓をコラーゲン処理し、単細胞懸濁物をFACSソーターにおいて評価し、蛍光細胞の数を測定した。
【0225】
hCAP18転写アンタゴニストを用いる阻害研究(Agarwal 1998,Andela 2004,Toell 2001,Ishizuka 2005,Weber 2005を参照のこと)
現在知られているhCAP18転写の最強の誘導因子はビタミンDである。ビタミンD受容体は、hCAP18プロモーターの応答エレメントに結合することによってhCAP18転写を直接活性化する。このような小さな分子がhCAP18の発現を制御することができるのであるから、阻害性化合物を体系的にスクリーニングするのも有意義である。初期研究は、エストロゲンおよびその代謝産物のいくつかが効果を有さないことを示した。ビタミンAは皮膚のケラチノサイトにおける転写を阻害するが、乳癌細胞株ZR−75−1における転写を刺激する。これらの知見に基づけば、ビタミンDアンタゴニスト、例えばZK159222(Schering AG)およびTEI−9647(Tejin Institute for Medical Research,Tokyo)、ならびにビタミンAアンタゴニスト、例えばAGN193109(Allergen Pharmaceuticals)が、本発明の方法において使用するための薬剤候補となる。
【0226】
hCAP18転写阻害剤のスクリーニング(Weber 2005を参照のこと)
ZR75−1細胞を25%コンフルエンスでプレーティングし、イソプロパノールまたはDMSO中に100μMとなるよう溶解させた阻害剤候補、終濃度100nMで処理した。24時間後、RNAをQiagen RNeasyキット(Operon Biotechnologies,Cologne,Germany)を用いて抽出し、第一鎖合成キット(Amersham Biosciences,Norwalk,CT)を用いて逆転写した。RNAは、ABI Prism 7700(Applied Biosystems)にて標準的なプロトコルに従いcDNA 5ngを用いるリアルタイムPCRにより定量した。サンプルは三連で評価した。配列は、プライマーについては5'−GTCACCAGAGGATTGTGACTTCAA−3'[配列番号2]および5'−TTGAGGGTCACTGTCCCCATA−3'[配列番号3]であり、蛍光プローブについては6−FAM−5'−CCGCTTCACCAGCCCGTCCTT−3'−BHQ1[配列番号4]であった。サンプルは18S−RNA(Assay on Demand,Applied Biosystems)の定量により正規化した。
【0227】
阻害の調節機構を調査するため、プロモーターの活性を、hCAP18プロモーターがルシフェラーゼレポーター遺伝子を制御する組換えプラスミドを使用することによって測定した。ZR75−1細胞を25%コンフルエンスで6ウェルプレートにプレーティングし、ウェルあたり、jetPEI(qBiogene)6μlと複合体化させたレポータープラスミド3μgを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションから14時間後、阻害剤を上記の通りに添加した。24時間後、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をアッセイ系(Promega)を用いて測定した。この活性を、共トランスフェクトしたプラスミド(pEF1/lacZ,Invitrogen)200ngから発現されたβ−ガラクトシダーゼに対して正規化した。各実験を少なくとも二度、各アッセイにつき三連で行った。
【0228】
転写後阻害研究(Wang 2005,Zhang 2005,Roh 2000を参照のこと)
現時点で最も有効な転写後阻害はRNA干渉であり、これは標的mRNAの配列特異的、触媒的分解を誘導することを基礎とするものである。転写物中の最も有効な標的部位は、最も簡単な手法では、低分子干渉RNAをトランスフェクトする細胞株においてスクリーニングすることができる。RNA干渉の効果は定量PCRおよびウェスタンブロット分析によって観察する。次いで好適な標的部位であれば、腫瘍部位において標的分子を発現するよう設計された組換えベクターにおいて発現させることができる。
【0229】
低分子干渉RNAは、hCAP18のコード配列に基づき設計および合成する。このRNAは二本鎖の19マーおよびいずれかの末端における2塩基のdTdTオーバーハングからなる。最も簡単な手法では、その設計に、標的部位が予め選択されている市販のsiRNAデータベースを使用することができる(hCAP18については、例えばAmbion社のsiRNA14586番、14402番、146365番)。非特異的反応、例えばインターフェロン関連経路を回避するため、ZR75−1細胞またはトランスジェニックMCF−7細胞を最大終濃度10nMのsiRNAでトランスフェクトした。コントロールsiRNAは、標的配列内に2〜3個のミスマッチを含むものであった。細胞をトランスフェクションから24〜72時間後に回収し、hCAP18の発現を上記のようなリアルタイムPCRおよび定量ウェスタンブロット分析により測定した。ウェスタンブロット分析においては、上記のように、タンパク質をSDS含有サンプル緩衝液中で抽出し、15%Tris−Glycineゲル上で分離し、ニトロセルロースフィルター上に電気ブロットした。フィルターを3%ポンソーSで可逆的に染色し、その後に1/1000希釈のアフィニティ精製した抗LL−37抗血清と共にインキュベートした。増感化学発光を用いたHRP結合型二次IgGからのシグナルを捕捉し、上記の通りに評価した。
【0230】
hCAP18発現に対する最も有効な転写阻害剤のためにインビボ実験を設定した。12匹のマウスに、トランスジェニックhCAP18を発現するMCF−7細胞を注射した。マウスの半数に対して、50μlオリーブ油(Sigma)に溶解した阻害剤30mgを毎日皮下注射により与えた。腫瘍形成の始期、サイズ、および分布を上記の通りにアッセイした。インビボアプローチにおいて有効なsiRNAは、hCAP18の発現を少なくとも90%ダウンレギュレートするものとすべきである。
【0231】
マウスにおける腫瘍形成を妨げるためには、hCAP18発現のダウンレギュレーションを数週間維持することが必要であった。毎日多量のsiRNAを尾静脈に注射することも可能であることが分かったが、治療アプローチとしては現実的でないように思われる。代替法は、組織/腫瘍細胞におけるsiRNAの安定的な発現である。後に細胞内でsiRNAに変換されるRNAをヘアピンとして発現するプラスミドが開発されている(例えばpSuper,OriGene Inc)。本発明者らによる初期アプローチにおいて、上記実験により決定された標的siRNA配列をpSuperにクローニングし、マウスへの移植前にこの構築物で腫瘍細胞をトランスフェクトした。治療アプローチ、すなわち腫瘍形成後の発現ベクターの送達は、現時点では確立されていないが、この目的では、リポソームによるプラスミドの送達ならびにレトロウイルスおよびアデノウイルス発現ベクターの構築が世界中で研究されている。
【0232】
RNAiの代替法は、「古典的」なアンチセンスアプローチである。標的転写物に相補的な20〜3bp長の単鎖オリゴヌクレオチドを細胞培地に直接添加またはマウスに注射する。オリゴヌクレオチドの骨格は、通常、その分解を防ぎ、いかなるキャリア基質にもよらないで取り込みを促進するよう修飾する。しかし、この方法は、阻害メカニズムが非触媒的なものであるため高用量を必要とし、かつ骨格修飾は細胞毒性の非特異的な副作用を増加させる。マウス実験において、典型的な投与範囲は100〜500μg/動物/日である。
【0233】
抗体によるLL−37活性の阻害(Warburton 2005を参照のこと)
ニワトリ抗体を作製し、ラージスケールで、計画した実験に十分な量をアフィニティ精製した。LL−37に対する抗体は、LL−37の活性を阻害することができることが以前に示されている。従ってインビトロ実験は不要とした。
インビボ実験のために、上記の通りにマウスにおいて腫瘍を誘導した。腫瘍が触診可能になったら抗体を週に二度注射し、開始時には1〜100mg/kgの抗体を用いた。
【0234】
次いで、腫瘍の進行に対する抗体の効果を評価した。
参考文献
1.Agarwal C et al.:AGN193109 is a highly effective antagonist of retinoid action in human ectocervical epithelial cells.J Biol Chem 271:12209−12212(1996).
2.Andela VB,Rosier RN:The proteosome inhibitor MGI32 attenuates retinoic acid receptor trans−activation and enhances trans−repression of nuclear factor B.Potential relevance to chemo−preventive interventions with retinoids.Molecular Cancer 3:8−19(2004).
3.Fiucci G,Ravid D,Reich R,Liscovitch M:Caveolin−1 inhibits anchorage−independent growth,anoikis and invasiveness in MCF−7 human breast cancer cells.Oncogene 21:2365−2375(2002).
4.Heilborn J et al.:Antimicrobial protein hCAP18/LL−37 is highly expressed in breast cancer and is a putative growth factor for epithelial cells.Int J Cancer 114:713−9(2005).
5.Ishizuka S et al.:(23S)−25−Dehydro−1{alpha}−hydroxyvitamin D3−26,23−lactone,a vitamin D receptor antagonist that inhibits osteoclast formation and bone resorption in bone marrow cultures from patients with Paget's disease.Endocrinology.146:2023−2030(2005).
6.Lu C,Shen Q et al.:cFos is critical for MCF−7 breast cancer cell growth.Oncogene 24:6516−6524(2005).
7.Ludes−Meyers JH et al.:AP−1 blockade inhibits the growth of normal and malignant breast cells.Oncogene 20:2771−2780(2001).
8.Roh H et al.:HER2/neu antisense targeting of human breast carcinoma.Oncogene.2000 Dec 11;19(53):6138−43.
9.Toell A et al.:Different molecular mechanisms of vitamin D3 receptor antagonists.Mol Pharmacol 59:1478−1485(2001).
10.Wang Y−h et al.:Knockdown of c−Myc expression by RNAi inhibits MCF−7 breast tumour cells growth in vitro and in vivo.Breast Cancer Res 7:R220−R228(2005).
11.Warburton C et al.:Treatment of HER−2/neu overexpressing breast cancer xenograft models with trastuzumab(Herceptin) and gefitinib(ZD1839):drug combination effects on tumour growth,HER−2/neu and epidermal growth factor receptor expression,and viable hypoxic cell fraction.Clin Cancer Res.10:2512−24(2004).
12.Weber G et al.:Vitamin D induces the antimicrobial protein hCAP18 in human skin. J Invest Dermatol.124:1080−2(2005).
13.Zhang M et al.:Silencing the epidermal growth factor receptor gene with RNAi may be developed as a potential therapy for non small cell lung cancer. Genet Vaccines Ther.3:5−16(2005)
【0235】
実施例D − ヒト抗細菌ペプチドLL−37はヒトケラチノサイト培養物においてアポトーシスを阻害しアポトーシスタンパク質阻害因子(IAP−2)の発現をアップレギュレートする
導入
カセリシジンは、多くの哺乳動物種において見られる抗細菌ペプチドのファミリーである。これらは、高度に保存されたアミノ末端ドメイン、カセリン、およびタンパク分解により遊離することによって抗細菌活性を得る可変性カルボキシ末端ドメインからなる(1,2)。このファミリーの唯一のヒトメンバーである18kDaヒト陽イオン性抗細菌タンパク質(hCAP18)は、主として好中球、いくつかの上皮および粘膜細胞(皮膚、気管支、頬側粘膜、食道(sophagous)、頸、膣、精巣上体(epidimus)、および唾液腺)により産生される(3〜8)。そのC末端37アミノ酸ドメインであるLL−37は、膜安定性の破壊を通じて(11,12)幅広い微生物に対する抗細菌活性を示す(9,10)。
【0236】
抗細菌機能に加え、このペプチドは他の生物学的活性、例えば血液および上皮細胞における走化性およびサイトカイン放出(8,13)、上皮細胞増殖の誘導(14)、ならびに血管新生(15)への関与が指摘されている。最近の研究は、LL−37が創傷治癒時に高度に発現され、ヒトケラチノサイトのインビトロ増殖に影響し、創傷の再上皮化(re−epithelization)に関与することを示している(16,17)。
【0237】
材料および方法
細胞培養
包皮上皮ケラチノサイトをCascade Biologics(Cascade Biologics,Eugene,OR)から入手し、0.06mMカルシウム、0.2%v/v BPE、5μg/mlウシインスリン、0.18μg/mlヒドロコルチゾン、5μg/mlウシトランスフェリン、0.2ng/mlヒト上皮増殖因子、100U/mlペニシリンG、100μg/ml硫酸ストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンB(全てCascade Biologics)を補充したEpilife基本培地(Cascade Biologics,.)中、37℃および5%CO2下で培養した。細胞を、0.025%(w/v)トリプシンおよび0.01%(w/v)EDTA(Cascade Biologics)を用いて毎週継代した。
【0238】
HaCaTケラチノサイトは、10%ウシ胎仔血清(hyClone,Boule Nordic AB Huddinge,Sweden)、2mMグルタミン、ペニシリン(50U/L Gibco−BRL)、およびストレプトマイシン(50mg/ml,Gibco−BRL)を補充したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地;Gibco−BRL Technology,Paisley,UK)中で培養した。
【0239】
細胞の処理
25,000細胞/ウェルを6ウェルプレート培養皿にプレーティングした。プレーティングから48後、細胞を0、0.23、0.46、0.69、0.9、1.15、2.3、4.6、および11.5μM LL−37で処理した。その配列を以下に示す。
【表6】
【0240】
各々の処理を三連で行った。ペプチドは培地(HaCat細胞に対してはDMEM 5%FCSおよびHEKn細胞に対しては0.1%FCSを補充したEpilife基本培地)で希釈した。細胞は計24時間の間処理した。LL−37刺激後、ジメチルスルホキシド中のトポイソメラーゼI阻害剤カンプトテシン(CAM)(Sigma Chemical Co.,St.Luis,MO)を終濃度6μMとなるよう細胞に添加した。細胞を分析前にさらに24時間インキュベートした。
【0241】
フローサイトメトリーによるアポトーシスの評価
二つのアポトーシスパラメータ、膜完全性の喪失およびDNAの減少をフローサイトメトリーにより評価した。
膜完全性の評価:LL−37刺激およびCAM処理後、細胞をトリプシン処理により回収した。次いで細胞を冷やしたダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、血球計算器(Hausser Scientific,Horsham,PA)で計数した。細胞密度をPBS中1×106細胞/mlに調整した。アポトーシスは、ヨウ化プロピジウムおよびYO−PRO−1色素(Molecular Probes,Eugene,OR)で染色することによって検出した。染色された細胞をFACScan(Beckton−Dickinson,San Jose,CA)で分析した。細胞を、分析のために、前方散乱光(FCS)および側方散乱光(SSC)の特性に基づきゲーティングした。YO−PROおよびヨウ化プロピジウム(PI)を示す細胞の分析は、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて行い、YO−PROおよびPI陽性細胞の比率を得た。YO−PROによって緑色に染色された細胞をアポトーシス性であるとみなした。ヨウ化プロピジウムによって赤色にも染色された細胞は壊死性であった。生存細胞はほとんどまたは全く色素を取り込まない。
【0242】
フローサイトメトリーによるDNA含有量の分析:PI/RNase染色緩衝液(BectonDickinson)をこの分析に使用した。トリプシン処理した細胞を冷やした70%(v/v)エタノールで固定し、使用するまで4℃で保存した。DNA含有量は、DNAへのヨウ化プロピジウムの取り込みを通じて測定した。蛍光分析は、FACScanフローサイトメーター(Becton and Dickinson,Mountain View,CA,USA)を用いて行った。粒子のFCS(前方散乱光)およびSSC(側方散乱光)を同時に測定し、細胞のサイズおよび粒度を測定した。PIで染色された核の赤色蛍光をFL−4ウィンドウ(600nmバンドパスフィルターおよび35nmバンド幅)で検出した。蛍光強度は細胞のDNA含有量に比例した。各ヒストグラムを2つの部分:(1)非同調性、非アポトーシス性の生存細胞(2n〜4Nに相当するDNA含有量を有するG1、S、およびG2期の細胞)を表すM1領域;ならびに(2)生存細胞よりもDNAの量が少ないアポトーシス細胞を表すM2領域、に分けた。
【0243】
カスパーゼ−3活性アッセイ
カスパーゼ−3酵素活性は、上記のように蛍光基質VDVAD−AMC(100μM)およびDEVD−AMC(50μM)を用いて測定した。簡単に説明すると、細胞溶解産物を反応緩衝液(100mM HEPES、10%スクロース、5mMジチオトレイトール(DTT)、10〜6% NP−40、および0.1% CHAPS、pH7.25)中に集め、これをマイクロタイタープレートに移した。蛍光発生基質の切断は、Fluoroscan IIプレートリーダー(Labsystems,Stockholm,Sweden)においてAMBの遊離により観察した。蛍光単位を、遊離のAMCから作成した標準曲線を用いてAMCのpmolに変換した。データは線形回帰法により分析し、毎分のAMCの遊離pmolとして表した。
【0244】
RT−PCR
総RNAを、Quiagen RNasyキット(Operon Biotechnologies,Cologne,Germany)を用いることによって、製造元の指示に従う様々な処理の後に細胞から単離した。逆転写は第一鎖合成キット(Amershan Biosciences)を用いて行った。
【0245】
結果
LL−37によるCAM誘導アポトーシスの阻害
本発明者らは、アポトーシス誘導剤として広く使用されている薬物であるCAMにより誘導される細胞死およびアポトーシスに対するLL−37の効果を試験した。処理後に、膜完全性およびDNA断片化を、二つの方法を用いてフローサイトメトリーにより分析した。一つ目の方法は、細胞膜の透過性の亢進を判別することができる二色染色系であり;未処理細胞を染色強度について分析し(図7)、三つの類型:生存性の非染色細胞、アポトーシス性のYO−PRO染色細胞、ならびにYO−PROおよびPIの両方で染色された壊死性細胞に分類した。二番目の方法においては、エタノール透過処理細胞中のDNA含有量をPIによって分析した。アポトーシス細胞は、断片化によりDNA量の低下を示す。
【0246】
HaCat細胞およびHEKn細胞においてアポトーシスを誘導する用量および時間を選択するため、事前に濃度・時点実験を行った(データは示さず)。24時間の間CAM 6μMに被曝させた場合、HaCatおよびケラチノサイトは両方ともアポトーシスに特徴的な形態学的変化、例えば膜完全性およびDNAプロフィール上の変化を示した(図7)。細胞を、24時間、LL−37単独でまたはLL−37およびCAMで同時に処理した場合、アポトーシス細胞の量における変化は観察されなかった(データは示さず)。しかし、高濃度のLL−37(4.6および11.5μM)は細胞毒性であり、アポトーシス細胞のフラクションではなく壊死性細胞のフラクションを増加させた。同時処理の代わりに細胞をLL−37に24時間被曝させた後にCAMによりアポトーシスを誘導した場合、結果は異なるものになった。0.23μM〜2.3μMの濃度で、LL−37はHEKn細胞およびHaCaT細胞においてDNAの断片化および膜透過性の喪失の両方を阻害した(図7および8)。これらの条件下において、LL−37は、高濃度(4.6μMおよび11.5μM)では細胞死も引き起こした。毒性濃度においてさえアポトーシス細胞のフラクションは小さいままであり、これによりLL−37による細胞死は非アポトーシスメカニズムにより起きることが示された。
【0247】
LL−37はHaCaT細胞およびHEKn細胞においてCAMによるカスパーゼ−3の誘導を阻害する
カスパーゼ−3はアポトーシス経路における重要なタンパク質の一つであり、アポトーシスの初期の指標であるので、本発明者らはLL−37処理したまたは未処理のケラチノサイトにおけるカスパーゼ−3活性を測定することを決定した。カスパーゼ活性は、ケラチノサイトにおいて、CAM処理の最初の12時間以内に有意に増加し、24時間でピークに達した。LL−37 2.3μMによる事前処理は、カンプトテシン誘導型のカスパーゼ活性化を減少させた(図9aおよびb)。これらのデータは、LL−37がヒトケラチノサイトにおいてカスパーゼ活性を減少させることによりアポトーシスを阻害することを示唆している。
【0248】
LL−37はヒトケラチノサイトにおけるIAP−2の発現を誘導する
アポトーシスタンパク質の阻害因子のメンバー(IAP)はアポトーシスの重要な調節因子であることが記載されている。このファミリーは、カスパーゼ−3の活性を阻害する能力を有する。ブタカセリシジンメンバーPR39の抗アポトーシス機能はIAP−2の発現の誘導に関連付けられている。従って本発明者らは、様々な濃度のLL−37で処理したケラチノサイトにおけるIAP−2のHEKn細胞中での発現を様々な時点でRT−PCRにより分析した。2.3μM LL−37による刺激は、刺激の6時間後〜12時間後のIAP−2 mRNAを増加させた(図10)。2.3μM未満のLL−37濃度はc−IAP−2レベルに影響しなかった(データは示さず)。
【0249】
LL−37刺激したケラチノサイトはCOX−2をアップレギュレートする。
これまでの研究は、COX−2をIAP−2発現の調節因子であると認識していた。それは、上皮細胞におけるCOX−2の阻害がIAP−2の発現を減少させるからである。従って本発明者らは、LL37 2.3μMで処理したHEKnにおけるCOX−2の発現を分析した。mRNAレベルの時間依存的な増加が確認され(図11)、12時間後に最高レベルが見られた。COX−2がLL−37刺激後のIAP−2の発現増加を媒介するのかどうかをアッセイするため、HEKn細胞を特異的なCOX−2阻害剤であるSC−791 25nMで12時間事前処理し、次いで2μM LL−37で刺激した。これらの条件下で、LL−37処理は、以前に観察されたようにIAP−2 mRNAレベルを増加させなかった(図12)。これらのデータは、LL−37が、COX−2酵素の発現の増加を通じてIAP−2レベルを増加させることを示唆している。
【0250】
考察
抗細菌ペプチドLL−37の発現増加が皮膚損傷後に見られることが報告された。このペプチドの発現は、感染予防を通じてだけでなく、様々な創傷治癒関連プロセス、例えば走化性、移動、血管新生、および再上皮化への能動的関与を通じて、創傷治癒の促進と関連する。
ここで示したデータは、LL−37が、アポトーシスに対する阻害効果を通じて、ケラチノサイトにおける細胞生存の促進にも関与することを示している。
【0251】
略語
hCAP18/LL−37、ヒトカセリシジン抗細菌ペプチド18 kDa/LL−37;IAP−2、アポトーシス阻害タンパク質−2;COX−2、シクロオキシゲナーゼ−2;VDVAD−AMC、カスパーゼ3基質;HEKn、新生児ヒト上皮ケラチノサイト;DMEN、ダルベッコ改変イーグル培地;PBS、リン酸緩衝生理食塩水。DEVDase、Asp−Glu−Val−Aspプロテアーゼ活性 CHAPS、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチル−アンモニオ]プロパン−1−スルホン酸、CAM:カンプトテシン
【0252】
参考文献
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【0253】
実施例E − EFG受容体活性に対するLL−37およびヘレグリンのコインキュベーションの効果
材料及び方法
リン酸化のウェスタンブロット分析
ERBB2、STAT3、p42/p44 MAPK(=ERK1/2)、プロトコルの概略:
この研究を通じて悪性度の低い乳癌株ZR75−1(ATCCから入手)を使用した。ZR75−1はhCAP18およびERBB2の両方を低レベルで発現する。
処理:
全ての実験を三連で行った。細胞を10%FCSを含有するOptimemで増殖させ、50%コンフルエンスで12ウェルプレートにプレーティングした。再付着後、細胞をFCS非含有のDMEM中で48時間飢餓状態に置いた。誘導実験のために、予め暖めておいたPBSに溶解させた基質を培地に加え、細胞を20分間インキュベートした。LL−37の終濃度を10μg/ml、ヘレグリンの終濃度を2または20ng/mlとした。
LL−37は自ら合成した。組換えヘレグリン−β(EGFドメイン、ac178〜241)はUpstate,Lake Placid,NYから入手した。
細胞を、ホスファターゼ阻害剤(1mM NaF+1mM Na3VO4)およびプロテアーゼ阻害剤として2mM PMSFを含有する氷冷PBSで洗浄し、上記の阻害剤を含有する200μl SDSサンプル緩衝液で溶解させた。サンプルを、標準的な手法に従いホモゲナイズし、80℃で変性させ、次いでサンプル50μlを7.5% SDS−PAGEゲルにロードし、分離し、ニトロセルロースにブロットした。
TBS/0.1% Tween 20、4% NFDM中でブロッキングした後、メンブレンを4℃で一晩、一次抗体と共にインキュベートした。
【0254】
使用した抗体は:
pERBB2(pTyr 1248、ウサギ、Upstate(cat no.06−229)、1/2000で使用 − 再利用可能
pMAPK 1/2(pThr 202/pTyr 204)、Cell Signalling Incであった。
洗浄およびHRP結合型二次抗体との2時間のインキュベーションの後、膜をECL(Amersham)で現像した。シグナルは、CCDカメラを用い、定量プログラム(Fujifilm,Tokyo)によって測定した。
化学発光シグナルをポンソー染色に対して正規化した。
一つの実験において、チロシンキナーゼ阻害剤PD153035(Merck Biosciences)を20nMから2.5μMまでの漸増濃度で添加した。
【0255】
結果
LL−37およびヘレグリンの併用処理の効果を図13に示す。定量データは図14に示す。
図13は、ZR75−1細胞における、LL−37、ヘレグリン、またはその両方による処理後のERBB2およびMAPKの活性化を示す。細胞抽出物を、リン酸化型ERBB2およびMAPKに対するウェスタンブロットによって分析した。シグナルはCCDカメラで捕捉し、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。図14に示されるのは三連の評価であり、LL−37およびヘレグリンが活性化において協働することを示している。
ERBB2のリン酸化は、チロシンキナーゼ阻害剤PD153035によって阻害されることが見出され、これによりシグナル伝達におけるMAPKの役割が示された。
【0256】
実施例F − インビトロの乳癌細胞の転移に対するLL−37の効果
材料および方法
足場依存的増殖アッセイ
このアッセイは、細胞が転移を生じる能力を反映するものである。細胞を、300u/mlトリプシン、20u/mlエラスターゼ、および1mM EDTAの混合物による処理により調製した。エラスターゼの存在は、細胞が単細胞懸濁物に分散するのを促す。
1.4% Seaplaqueアガロースを70℃の水槽でOptimem(添加物なし)中に融解させ、42℃まで冷まし、予め暖めておいた、終濃度の2倍のFCSおよび添加物を含有する培地と1:1混合した。この混合物4mlを下側寒天としてマス目の付いた4cmペトリ皿に注ぎ込み、静置して固化させた。
【0257】
トリプシン処理した細胞をセルストレーナーを通し、終濃度が1000細胞/mlとなるよう培地(二番濃度の添加物を含有する)に懸濁した。この細胞懸濁物を37℃に暖め、上記のようにして調製した0.7%アガロース溶液と1:1混合した。2mlを下側寒天の上層として注ぎ、RTで30分間静置して上層を固化させた。このプレートをインキュベーターに入れ、3〜4日毎に、細胞に増殖培地100μlを与えた。2週間後、培養物の上層を0.2%p−ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(Sigma)で染色し、100μM径よりも大きなコロニーを計数した。このアッセイは三連で行い、これを二回繰り返した。
【0258】
添加物:
FCS:1〜8%
Fungizone_(アンホテリシンB):0.5μg/ml
ハイグロマイシンB(トランスジェニックMCF7株に利用する場合)150μg/mlペニシリンG/ストレプトマイシン(ZR75−1株に利用する場合):1%ストック溶液(Invitrogen)
LL−37:10μg/ml
ヘレグリン(組換えタンパク質、Upstate):2ng/ml
【0259】
足場非依存的増殖のアッセイ方法はFiucci et al.,2002,Oncogene 21:2365−2375にも記載されている。
【0260】
結果
結果を図16に示す。腫瘍原性に対するLL−37の効果を、軟寒天における乳癌株ZR75−1のコロニー形成に対するその影響をアッセイすることによってインビトロで調査した。その効果は、他の因子、例えばFCSおよびヘレグリンの存在によって大きく調節された。図16aは2%FCSでのコロニー数への効果を示す。ヘレグリンの非存在下では、LL−37はこのようにコロニー数を有意に減少させた。LL−37の負の効果は、ヘレグリンの存在によって完全に取り除かれ、これによりこれらの機能的連携が必要とされることが示された。
LL−37およびヘレグリンは、軟寒天コロニーの外見に大きな影響を及ぼした。図16bは、14日間の培養および生細胞の染色後に得られた軟寒天コロニーの代表例を示す。LL−37単独に被曝させると、コロニーの染色が弱まり、見かけ上のコンパクトさが失われたことから、コロニー密度が大きく低下したことが示された。代わりに、母クローンの周囲に単細胞のコロナが現れた。ヘレグリン単独ではほとんど効果を有さなかった。ヘレグリンとLL−37を組み合わせると、母コロニーが未処理コロニーと同様に染色された。しかし、LL−37により誘導された単細胞コロナは維持された。健常な母クローンからの単細胞の流出は、腫瘍からの転移細胞の発生を類似/模倣するものである。まとめると、LL−37は原発性腫瘍の増殖に寄与しないがその転移を生じる能力を大いに刺激するようである。従って、LL−37の阻害剤は、乳癌における転移の生成を減少させると考えられる。通常、原発性腫瘍ではなく転移物が乳癌における死亡原因とされる。
【0261】
実施例G − インビボでの乳癌細胞の転移に対するLL−37の効果
材料および方法
MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現
細胞株MJ1117[M Egeblad氏より譲受けた;Int J Cancer 86,617−625(2000)を参照のこと]は、エピソーム発現ベクターからERBB2を発現するMCF7の亜株である。MJ1005は、空のコントロールベクターを保有する対応するコントロール株である。この細胞株を、Optimem、5−10% FCS、およびハイグロマイシンB、150μg/ml中で培養した。
hCAP18用発現ベクターを構築するため(図17を参照のこと)、16bpの5’非翻訳領域を含む全長コード配列を含むImageクローン3057931 19由来のBfa1フラグメントを、バイシストロン性ベクターpIRES2−EGF(BD Biosciences,Bedford,MA)のSma1部位にサブクローニングした。この細胞株を標準的な条件下でFugene(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を用いてトランスフェクトし、二週間の間、400ng/ml G418(Invitrogen,Paisley,UK)によって選別した。細胞を、Summit(商標)データ分析ソフトウェアを用いてMoFlo(登録商標)高速細胞ソーティングフローサイトメーター(DakoCytomation,Fort Collins,CO)によってEGFP発現についてソーティングし、それらのCAP18発現を免疫ブロッティングによって定量した。コントロール細胞株は、EGFPのみを発現するベクターを用いたトランスフェクションによって同じように構築した。これらの細胞株は、数ヶ月間の非選択下での連続培養の間、安定的なCAP18発現を維持した。
EGFPおよびhCAP18の同時発現は細胞の選別および維持を容易にするだけでなく、マウス実験時に血液および臓器における単転移細胞の検出を可能にする。
【0262】
SCIDマウスにおける腫瘍原性研究
細胞を、Optimem/10%FCS/ハイグロマイシン150μg/ml/G418 400μg/ml中で増殖した。抗生物質は、50%コンフルエンスで回収する24時間前に除去した。細胞をトリプシン処理し、PBS/1mM MgCl2中に、5千万細胞/mlとなるよう懸濁した。1千万細胞(200μl)をマウスに皮下注射した。MCF7細胞は腫瘍形成にβ−エストロゲンを必要とする。
【0263】
デポジトリーピル(depository pills)(1.7mg/日)を、感染前日にマウスに移植した。マウスを毎日観察し、毎週二回、腫瘍形成について触診した。注射部位における触診可能な浸潤は、注射の一週間後にすでに観察されたが、持続的に増殖する腫瘍はおよそ40日後に顕れた。腫瘍がおよそ1cm3サイズに達した場合、マウスを屠殺した。注射部位のまたはマウス内で拡散した、全ての腫瘍を摘出または瞬間凍結させた。さらに、脾臓および肝臓をホモゲナイズし、赤血球を0.17% NH4Clで溶解し、残骸を遠心分離で除去した後に、FACS分析によりEGFP発現細胞の存在について分析した。
【0264】
結果
結果を図18に示す。
図18aは、SCIDマウスにおいて、MCF7の亜株であるコントロール株MJ1005 IRESから発生した腫瘍の例を示す。現在に至るまで、コントロールマウスにおいては、二次腫瘍も肝臓または脾臓における転移細胞も検出されていない。
図18bは、同じ細胞株におけるhCAP18のトランスジェニック発現の効果を示す。原発腫瘍は、コントロール株よりも大きく増殖することはなかった。しかし、二次腫瘍は、原発腫瘍に隣接するおよびその反対側の脇腹のリンパ節ならびに大腹部腫瘤(large abdominal masses)等の複数箇所で見られた。腹水(図18c)は、hCAP18トランスジーンと同時に産生される緑色蛍光タンパク質を発現する細胞を多量に含んでいた。hCAP18産生株を感染させたSCIDマウスの3/4は、転移腫瘍または脾臓および肝臓への転移性細胞の拡散を示した。これらの観察に基づき、本発明者らは、LL−37が原発腫瘍から転移性細胞を生成するとの結論に至った。従って、LL−37の阻害剤は、他の部位への癌細胞の拡散を阻害すると考えられる。
【0265】
実施例H − 腫瘍および乳癌細胞におけるhCAP18/LL−37のsiRNAによる阻害
1.腫瘍におけるhCAP18/LL−37タンパク質発現のsiRNAによる阻害
hCAP18 mRNAに特異的な低分子干渉RNA(siRNA)による用量依存的な強い阻害が、そうでなければhCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の処理後48時間後にすでに見られた(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現の節を参照のこと)。HPLC精製、複製ずみの、即利用可能なネガティブコントロールsiRNAおよび4つのhCAP18/LL−37特異的siRNAを、最適化されたトランスフェクション効率および再現性のためのsiPORT NeoFXトランスフェクション試薬と共に(Ambion,Austin,USA)から購入した。
【0266】
【表7】
【0267】
4つ全てのsiRNA−CAMPを、非特異的効果を最小限に抑えるためにカクテルとしてプールし、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。トランスフェクションの最適化のための指示は、siPORTトランスフェクション試薬に添付の詳細なプロトコルに提供されている。全ての実験手順を、製造元の説明に従い行った。siRNAの終濃度は10nM、25nM、または100nMであった。処理した乳癌細胞の細胞抽出物をウェスタンブロットにおいて、実施例CのM&Mに記載されるように1/2000希釈のhCAP18に対する抗体を用いてhCAP18/LL−37タンパク質について分析した。増感化学発光(ECL)シグナル(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)をCCDカメラ(Fujifilm,Tokyo,Japan)で捕捉し、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。結果を図19に示す。
【0268】
2.ヒト抗細菌タンパク質hCAP18/LL−37は乳癌において転移性の表現型を誘導し、これはhCAP18特異的siRNAによって逆転させることができる
結果を図20に示す。
(A)乳癌細胞におけるhCAP18/LL−37の過剰発現は癌細胞においてより転移性の表現型をもたらす。
hCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の転移能を、hCAP18/LL−37非発現性のMCF7−IRESトランスジーンコントロール細胞と比較して評価するために、マトリゲル浸潤アッセイを行った(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現を参照のこと)。
【0269】
BioCoat Matrigel Invasion Chamberキット(Becton Dickinson Bioscience,Bedford,MA,USA)を全て製造元の指示に従い使用した。細胞をマトリゲルフィルターに移す前に、細胞をFCSを含まないDMEM(Gibco−BRL)中で24時間飢餓状態下に置いた。細胞を使用する日に0.25% Tryp−EDTA(Invitrogen,cat#25200−056)でトリプシン処理し、50μlトリプシン阻害剤および100μl DMEMを加えることによってこれを停止した。220,000細胞/mlの細胞懸濁物200μlをマトリゲルでコートしたフィルターを有するトランスウェルインサートチャンバーに播種し、これを、5%FCSを含有するDMEM 750μlで満たした下部チャンバ中に設置した。チャンバを37℃、5% CO2雰囲気下で48時間インキュベートした。その後、インサートを取り除き、フィルターの上側に残存する非浸潤癌細胞をかき取った。フィルターの下側に浸潤した細胞を染色し、位相差顕微鏡下で観察し、計数した。癌細胞の浸潤能は、フィルターの下側に浸潤した細胞の平均数として表した。このアッセイを三連で行った。
【0270】
(B)乳癌細胞においてhCAP18/LL−37により誘導された浸潤性・転移性の表現型のhCAP18/LL−37特異的siRNA処理による阻害
腫瘍において発現されるhCAP18/LL−37の減少を通じて癌細胞の転移能を阻害する能力を実証するためにRNA干渉を使用した。
RNA干渉において、非特異的効果を最小限に抑えるために、4つ全てのsiRNA−CAMPを10nMのカクテルとして一緒に使用し、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。siRNA処理(実施例19参照)は、(A)に記載のマトリゲル浸潤アッセイを行う40時間前に行った。siRNAによるRNA干渉は、浸潤性の腫瘍細胞の数を減らすことによって癌細胞の転移能を阻害する能力をはっきりと示した。
(詳細については、実施例Cの転写後阻害研究および浸潤の誘導の節も参照のこと)
【0271】
実施例I − 本発明の薬剤の製造およびインビボでの使用
抗hCAP18/LL−37および抗erbB2抗体の発現
抗hCAP18/LL−37抗体をNSO骨髄腫細胞において発現させた。同様に抗erbB2抗体を別のNSO骨髄腫細胞において発現させた。
【0272】
簡単に説明すると、この融合タンパク質の軽鎖成分および重鎖成分をコードする発現ベクターを用いた電気穿孔により、NSO骨髄腫細胞をコトランスフェクトした。次いで、ELISAアッセイにより、形質転換体を抗体産生について選別およびスクリーニングした。
【0273】
患者への投与
抗体を水性滅菌注射溶液として処方した。
次いでこの製剤を、乳癌患者に対して、90分間の静脈内(IV)注入により投与した。
用量は、医師により決定される各患者ごとの要件に応じて選択する。しかし、典型的には、初期用量4mg/kgを使用した後、メンテナンス用量2mg/kgを毎週使用する。
【0274】
疾患の進行の観察
次いで、乳癌の進行、特に癌細胞の転移に対する抗体処置の影響を従来的な走査/NMRによって観察した。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1】hCAP18/LL−37は乳癌において高度に発現される。 (A)ストローマ島(stromal island)(st)を取り囲む腫瘍細胞におけるhCAP18タンパク質に対する強い免疫反応(赤色の沈着)を示す腺管乳癌グレードIII(患者7番、表2)の切片。(B)インサイチュハイブリダイゼーションは、同じ組織由来の切片において合致するhCAP18 mRNAのシグナルを示している。強いオートラジオグラフシグナルは、暗視野照明下で白色の粒として見られる。(C)癌腫細胞の高倍率観察は、免疫反応性を欠く腫瘍細胞に隣接して強い免疫反応性の細胞が存在することを示している。(D)血管内のhCAP18免疫反応性乳癌細胞。(E)カセリン組換えペプチドによる免疫吸着は、hCAP18の免疫反応を完全に消滅させた(Aと同じ組織)。(F)免疫吸着時のポジティブコントロールとしての一般的なhCAP18の免疫染色(Aと同じ組織)。(G)正常な乳腺上皮は、hCAP18に対する弱い免疫反応を示す。顕微鏡写真(A、C〜G)は、1:500希釈のhCAP18抗体を用いて得た結果を示す。スケールバー(A、B)=100μm;(C、D)=25μm;(E、F、G)=10μm。
【図2】hCAP−18/LL−37は乳癌における免疫ブロッティングによって検出される。 患者の臨床データを表2に示す(サンプル1〜10)。組換えカセリン(C)およびLL−37ペプチド(L)をサイズ基準として使用した。正常な乳房組織をレーン1に示す。ElstonグレードI腫瘍をレーン2、4、および5に示す。グレードII腫瘍をレーン3に示し、グレードIII腫瘍をレーン6〜10に示す。全ての組織において、インタクトな非プロセシング型18kDaホロタンパクに対応する免疫反応バンドが見られた。プロセシング型LL−37ペプチド(4kD)を5つのグレードIII腫瘍のうちの4つ(7〜10番)において確認した。
【図3】上皮細胞におけるhCAP18のトランスジェニック発現は細胞増殖を増加させる。 A:上パネル、左レーン;抗LL37抗血清を用いたHEK293抽出物の免疫ブロッティング。バイシストロン性ベクターhCAP18+EGFPでトランスフェクトした細胞(hCAP18/E)はhCAP18タンパク質の発現を示している。上パネル、右レーン;EGFPのみでトランスフェクトしたHEK293細胞(E)。下パネル;HEK293細胞(hCAP18/E)はコントロール細胞(E)と比較して有意に高い増殖率(フローサイトメトリーによる評価)を示している。ポンソー染色をローディングコントロールとして示す。B:上パネル、左レーン;Aに記載されるようにトランスフェクトしたHaCaT細胞。下パネル;hCAP18トランスフェクトしたHaCaT細胞は、コントロール細胞と比較して有意に高い増殖率(3H−チミジン取り込みによる評価)を示している。
【図4】合成性LL−37ペプチド処理は上皮細胞の細胞増殖を増加させる。 72時間の血清枯渇によって同調させ、次いで合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチド10μg/ml(DMEM+5%FCS+PEST中)で36時間処理したHaCaT細胞は、未処理(コントロール)HaCaT細胞と比較して有意な細胞増殖の増加を示している。増殖率は[3H]チミジン取り込みによって評価した。
【図5−1】LL−37受容体FPRL1は乳癌および正常な乳腺上皮において発現される。 (A)腫瘍細胞においてFPRL1受容体に対する顕著な免疫反応(赤色の沈着)が見られる腺管乳癌Elstonグレード2(患者12番、表2)の切片。(B)腺管領域においてFPRL1に対する免疫反応(赤色の沈着)を示す正常な乳腺上皮の切片。顕微鏡写真は、1:400希釈のFPRL1抗血清を用いて得た結果を示す。スケールバー(A)=50μm;(B)=10μm。
【図5−2】図5−1の続き。 (C)免疫ブロッティングは、LL−37受容体であるFPRL1が正常組織(N)および乳癌(T)組織の両方において発現されることを明らかにした。(D)バイシストロン性ベクターhCAP+EGFPでトランスフェクトしたHaCaT(hCAP18/E)は、リアルタイムPCRにより、有意に増加したFPRL1受容体mRNAの発現を示す。EGFPのみでトランスフェクトしたHaCaT細胞(E)をコントロールとして用いた。
【図6】エストロゲン受容体(ER)およびリンパ節(N)陽性乳癌におけるhCAP18/LL−37の高発現(対数スケールで表示)。 RNAを140の乳癌および4の非病変乳房組織サンプルから抽出し、プライマーとしてランダムヘキサマーを用いて逆転写した。hCAP18転写物の発現を、標準的なプロトコルに従い、cDNA 10ngを用いるリアルタイムPCRによって測定した。サンプルは18S−RNAの定量によって正規化した。非病変サンプルの平均発現値を裁量で1に設定した。平均および偏差はAnova統計法によって評価している。
【図7A】LL−37はHEK細胞におけるカンプトテシン誘導型のアポトーシスを阻害する。 サブコンフルエントな細胞を、異なるLL−37(1、2、および4μM)濃度で24時間処理した。培地のみで処理した細胞をコントロール細胞として使用した(a)。次いで、6μMカンプトテシンの非存在下(a〜d)または存在下(e〜h)で細胞を24時間さらに培養した。回収した細胞を二色アポトーシスアッセイおよびフローサイトメトリーに供し、蛍光強度による四象限分析により、生存性(viable)(蛍光がないまたは少ない)、アポトーシス性(FL−1 YOPRO色素陽性)、および壊死性(FL−1およびPI蛍光の両方とも陽性)に分類した。図は、各々三連で行った三回の独立実験の典型例を示している。
【図7B】LL−37はHaCaT細胞におけるカンプトテシン誘導型のアポトーシスを阻害する。 アポトーシス細胞の定量分析。
【図8】LL−37によるHEKn細胞の事前処理によるカンプトテシン誘導型のアポトーシスからの保護を示すHEKn細胞のフローサイトメトリー分析。 LL−37 1または2μMで24時間処理した細胞(b、c、e、f)および未処理細胞(a、d)を、24時間のカンプトテシン処理(d〜f)によりアポトーシスを誘導した。次いで細胞をフローサイトメトリーにより分析し、非アポトーシス性集団(2N〜4N)およびアポトーシス性集団(2N以下)を検出した。グラフは、各々三連で行った三回の実験の代表例である。
【図9】LL−37はHEKn細胞におけるカスパーゼ−3のカンプトテシン活性化を減少させる。 細胞をLL−37およびカンプトテシンの存在下または非存在下で培養し、次いで回収してVDVAD−AMCのインビトロ加水分解によりカスパーゼ−3活性を分析した。カンプトテシンと共に24時間インキュベートすることによって誘導されたカスパーゼの活性化は、LL−37による細胞の処理によって減少した。値は、各々三連で行った三回の異なる実験の平均値である。
【図10】LL−37処理はIAP2の発現を増加させる。 HEKn細胞を2μM LL−37で処理し、刺激後の異なる時点で回収した。これらの細胞由来のRNAを逆転写し、IAP−2の発現をリアルタイムPCRにより測定した。各々の時点でのIAP−2の転写レベルを、18SRNAに対して正規化し、未処理細胞(各々の時点において1に設定したコントロール)に対する相対値で示す。
【図11】LL−37はHEK細胞におけるプロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ−2(COX−2)の発現を増加させる。 HEKn細胞を2μM LL−37で処理し、刺激から6、12、および24時間後に回収した。未処理細胞を各時点のコントロールとして用いた(薄灰色カラム)。これらの細胞由来のRNAを逆転写し、コントロールに対するCOX−2の相対発現値を上記のようにqPCRにより測定した。
【図12】COX−2の阻害はIAP−2のLL−37誘導型の増加を妨げる。 HEKn細胞を特異的なCOX−2阻害剤SC−791(25μM)で処理しまたはその不在下で処理し、LL−37(2μM)と共にまたはその不在下で6時間さらにインキュベートした。IAP−2 mRNA遺伝子のレベルをRT−PCRによって分析し、それを未処理コントロールサンプルとの相対値として示す。
【図13】LL−37はヘレグリンを通じたEGFRシグナル伝達系の活性化を増強する。 乳癌株ZR75−1の抽出物を、示されるようなリン酸化タンパク質に対するウェスタンブロット分析により分析した。
【図14】ウェスタンブロット分析によるERBB2のリン酸化(Tyr1248)の定量。 化学発光シグナルを、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。
【図15】LL−37はEGFRファミリーを通じてMAPKを活性化する。 LL−37はEGFRファミリーを通じてMAPKを活性化し、この活性化はチロシンキナーゼ阻害剤PD153035によって完全にブロックすることができる。完全な阻害に必要な濃度は2.5μMであり、これはEGFRについて必要とされる濃度よりも高いが、ERBB2の活性化をブロックするのに必要な濃度である。
【図16A】LL−37は乳癌細胞の転移を阻害する。 LL−37の腫瘍原性を、乳癌株ZR75−1を用いるコロニー形成アッセイにおいて調査した。低い血清濃度では、LL−37単独でコロニー数を減少させたが、LL−37およびヘレグリンの組み合わせはコロニー数を増加させた。
【図16B】LL−37は乳癌細胞の転移を阻害する。 それよりも劇的だったのが表現型の変化である。LL−37の存在下では、コンパクトなコロニー構造が破壊され、単細胞性のサテライトが見られた。ヘレグリンはコロニーの密度を回復させるが、LL−37が存在する場合の単細胞の離脱を阻止しなかった。
【図17】hCAP18用の発現ベクターの構築。 hCAP18用の発現ベクターを構築するため、16bpの5’非翻訳領域を含む全コード配列を含むImageクローン3057931 19由来のBfa1フラグメントをバイシストロン性ベクターpIRES2−EGFP(BD Biosciences,Bedford,MA)のSma1部位にサブクローニングした。
【図18A】インビボでの二次腫瘍の形成。 親MCF7を注射したSCIDマウスにおける原発性腫瘍
【図18B】複数の転移が認められるMCF7−hCAP18トランスジーンを注射したSCIDマウス
【図18C】hCAP18でトランスフェクトされこれを過剰発現する乳癌細胞を注射したSCIDマウスから採取したトランスフェクト腹水細胞におけるLL−37の発現。MCF7腹水細胞(上側)におけるhCAP18の能動的な転写を、マーカーとしての緑色蛍光タンパク質の共発現(下側)により確認した。
【図19】腫瘍におけるhCAP18/LL−37タンパク質の発現のsiRNAによる阻害。 hCAP18 mRNAに特異的な低分子干渉RNA(siRNA)による用量依存的な強い阻害が、そうでなければhCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の処理後48時間以降ですでに見られた(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現の節を参照のこと)。HPLC精製、複製ずみの、即利用可能なネガティブコントロールsiRNAおよび4つのhCAP18/LL−37特異的siRNAを、高トランスフェクション効率および再現性のために最適化されたsiPORT NeoFXトランスフェクション試薬と共に(Ambion,Austin,USA)から購入した。 4つ全てのsiRNA−CAMP(siRNA−CAMP1〜4;実施例Hに記載)を、非特異的効果を最小限に抑えるためにカクテルとしてプールし、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。トランスフェクションの最適化のための指示は、siPORTトランスフェクション試薬に添付の詳細なプロトコルに提供されている。全ての実験手順を、製造元の説明に従い行った。siRNAの終濃度は10nM、25nM、または100nMであった。処理した乳癌細胞の細胞抽出物をウェスタンブロットにおいて、実施例CのM&Mに記載されるように1/2000希釈のhCAP18に対する抗体を用いてhCAP18/LL−37タンパク質について分析した。増感化学発光(ECL)シグナル(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)をCCDカメラ(Fujifilm,Tokyo,Japan)で捕捉し、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。
【図20】ヒト抗細菌タンパク質hCAP18/LL−37は乳癌において転移性の表現型を誘導し、これはhCAP18特異的siRNAによって逆転させることができる。 (A)乳癌細胞におけるhCAP18/LL−37の過剰発現は癌細胞においてより転移性の表現型をもたらす。hCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の転移能を、hCAP18/LL−37非発現性のMCF7−IRESトランスジーンコントロール細胞と比較して評価するために、マトリゲル浸潤アッセイを行った(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現を参照のこと)。 BioCoat Matrigel Invasion Chamberキット(Becton Dickinson Bioscience,Bedford,MA,USA)を全て製造元の指示に従い使用した。細胞をマトリゲルフィルターに移す前に、細胞をFCSを含まないDMEM(Gibco−BRL)中で24時間飢餓状態下に置いた。細胞を使用する日に0.25% Tryp−EDTA(Invitrogen,cat#25200−056)でトリプシン処理し、50μlトリプシン阻害剤および100μl DMEMを加えることによってこれを停止した。220,000細胞/mlの細胞懸濁物200μlをマトリゲルでコートしたフィルターを有するトランスウェルインサートチャンバーに播種し、5%FCSを含有するDMEM 750μlで満たした下部チャンバ内に設置した。チャンバーを37℃、5% CO2雰囲気下で48時間インキュベートした。その後、インサートを取り除き、フィルターの上側に残存する非浸潤癌細胞をかき取った。フィルターの下側に浸潤した細胞を染色し、位相差顕微鏡下で観察し、計数した。癌細胞の浸潤能は、フィルターの下側に浸潤した細胞の平均数として表した。このアッセイを三連で行った。 (B)乳癌細胞においてhCAP18/LL−37により誘導された浸潤性・転移性の表現型のhCAP18/LL−37特異的siRNA処理による阻害。 腫瘍により発現されるhCAP18/LL−37の減少を通じて癌細胞の転移能を阻害する能力を実証するためにRNA干渉を使用した。 RNA干渉において、非特異的効果を最小限に抑えるために、4つ全てのsiRNA−CAMPを10nMのカクテルとして一緒に使用し、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。siRNA処理(実施例19参照)は、(A)に記載のマトリゲル浸潤アッセイを行う40時間前に行った。siRNAによるRNA干渉は、浸潤性の腫瘍細胞の数を減らすことによって癌細胞の転移能を阻害する能力をはっきりと示した。(詳細については、実施例Cの転写後阻害研究および浸潤の誘導の節も参照のこと)
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の処置に使用するための薬学的に活性な薬剤の新規の組み合わせに関する。特に、本発明は、乳癌細胞の増殖及び/または転移を阻害することのできる併用療法を提供する。
【背景技術】
【0002】
導入
抗細菌タンパク質は先天性免疫系における重要なエフェクターである。ヒトカセリシジン(cathelicidin)抗細菌タンパク質hCAP18は、ヒトにおいて唯一知られているカセリシジンであり、保存されたカセリン(cathelin)ドメインおよびLL−37と呼ばれる可変C末端からなる(Gudmundsson et al.,1996,Eur J Biochem 1238:325−32;Zanetti et al.,1995,FEBS Lett 374:1−5)。広範な抗細菌活性(Gudmundsson et al.,1995,Proc Natl Acad Sci USA 92:7085−9;Agerberth et al.,1995,Proc Natl Acad Sci USA 92:195−99)および宿主細胞に対する効果、そのうちのいくつかはGタンパク質共役受容体ホルミルペプチド受容体様1(FPRL1)により媒介される(Yang et al.,2000,J Exp Med 192:1069−74;Koczulla et al.,2003,J Clin Invest 111:1665−72)、を有するLL−37ペプチドは、ホロタンパクの細胞外タンパク分解プロセシングにより放出される。hCAP18は、白血球に存在し(Cowland et al.,1995,FEBS Lett 368:173−76)、皮膚およびその他の上皮において発現され、炎症(Cowland et al.,1995,FEBS Lett 368:173−76;Frohm et al.,1997,J Biol Chem 272:15258−63)および損傷(Dorschner et al.,2001,J Invest Dermatol 117:91−97;Heilborn et al.,2003,J Invest Dermatol 120:379−89)の際にアップレギュレートされるのであるが、これは先天性バリア保護における役割と言えよう。最近、カセリシジンを含む抗細菌タンパク質が、腫瘍に対する非特異的宿主防御における役割も果たすことが提唱された(Winder et al.,1998,Biochem Biophys Res Commun 242:608−12;Ohtake et al.,1999,Br J Cancer 181:393−403)。
【0003】
受容体型チロシンキナーゼの上皮増殖因子(EGF)ファミリーは、4つの受容体EGF−R(ErbB1)、ErbB2(Neu)、ErbB3、およびErbB4からなる。EGF−Rファミリーのメンバーは、細胞質チロシンキナーゼドメイン、一回膜貫通ドメイン、ならびにリガンド結合および受容体の二量体化に関与する細胞外ドメインを含む。EGF−Rが活性化されると、様々な細胞経路が開始される。
【0004】
有害な環境刺激、例えば紫外線照射またはEGFによる受容体の占拠を受けると、EGF−Rは他のファミリーメンバーとホモまたはヘテロ二量体を形成する。各々の二量体型受容体複合体は、様々なSrcホモロジー2(SH2)含有エフェクタータンパク質を動員することによって別個のシグナル伝達経路を開始する。二量体化は、細胞増殖またはアポトーシス等の細胞反応をもたらす事象における下流のカスケードを開始させる自己リン酸化を引き起こす。
【0005】
活性化型EGF−R二量体は、グアニンヌクレオチド放出因子SOSに結合したアダプタータンパク質Grbと複合体化する。Grb−SOS複合体は、この受容体のホスホチロシン部位に直接的にまたはShcを通じて間接的に結合することができる。これらのタンパク質の相互作用によりSOSがRasに接近し、それによってRasを活性化する。これは、その後、ERKおよびJNKシグナル伝達経路を活性化し、これにより、遺伝子発現を促進し細胞増殖に寄与する転写因子、例えばc−fos、AP−1、およびElk−1が活性化される。
【0006】
遺伝子の増幅による過剰なEGRF受容体分子は細胞分裂の増加を招き、癌性細胞の形成に関与する場合がある。例えば、ErbB2の過剰発現は乳癌の約25%において見出されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明の第一の局面においては:
(A)hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤;および
(B)上皮増殖因子(EGF)受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤
を含み、成分(A)および成分(B)の各々が、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体との混合により処方されている、併用製品を提供する。
【0008】
「薬剤」には、すべての化学物質、例えばオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチド模倣物、および小分子化合物が含まれる。
【0009】
好ましい実施態様において、本発明の併用製品は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤、EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤、および薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体を含む医薬製剤を含む。
【0010】
別の実施態様において、本発明の併用製品は、以下の成分:
(A)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤を含む医薬製剤;および
(B)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、EGF受容体の活性を阻害する第二薬剤を含む医薬製剤
を含み、成分(A)および(B)が各々、他と組み合わせて投与するのに適した形態で提供されるキット・オブ・パーツ(kit of parts)を含む。
【0011】
二つの成分を互いに他と「関連づける(in association with)」には、そのキット・オブ・パーツの成分(A)および成分(B)が:
(i)後に併用療法において相互に組み合わせて使用するためにまとめられる別個の製剤(すなわち、互いから独立した製剤)として提供されること;または
(ii)併用療法において相互に組み合わせて使用されるよう、「組み合わせパック」における別個の成分としてパッケージされひとまとまりで提供されること、
が含まれ得る。
【0012】
従って、本発明に係る併用製品に関しては、用語「組み合わせて投与する(administration in conjunction with)」には、併用製品の二つの成分(hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤およびEGF受容体の活性を阻害する第二薬剤)を、関連する状態の処置過程において患者にとって有益な効果が、hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤を含む製剤またはEGF受容体の活性を阻害する第二薬剤を含む製剤のいずれかを同じ処置過程において他方の成分の非存在下で単独で投与(場合により反復的に)した場合よりも大きくなるよう、一緒にまたは十分短い時間内に投与(場合により反復的に)することが含まれる。その組み合わせが特定の状態に関しておよびその特定の状態の処置過程においてより大きな有益な効果を提供するかどうかの決定は、処置または予防すべき状態に依存するであろうが、これらは当業者により日常的になされていることであろう。
【0013】
好ましくは、阻害されるEGF受容体は、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4から選択される少なくとも一つである。
【0014】
本発明の好ましい実施態様において、第一薬剤は、hCAP18/LL−37の転写、翻訳、切断、および/もしくは結合特性を変更することによってhCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害し、ならびに/または第二薬剤は、EGF受容体の転写、翻訳、および/もしくは結合特性を変更することによってEGF受容体の生物学的活性を阻害する。
【0015】
このような薬剤は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば:
(a)hCAP18/LL−37またはEGF受容体mRNAの発現レベルに対する試験薬剤の効果を、例えばノーザンブロッティングまたは定量RT−PCRによって測定することによって;
(b)hCAP18/LL−37またはEGF受容体タンパク質のレベルに対する試験薬剤の効果を、例えば抗hCAP18/LL−37抗体または抗EGF受容体抗体を用いる免疫アッセイによって測定することによって;および
(c)hCAP18/LL−37またはEGF受容体活性の機能的マーカー、例えばErbB2のリン酸化に対する試験薬剤の効果を測定することによって、
同定され得る。
【0016】
好ましい実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37の転写の阻害剤であり、および/または第二薬剤はEGF受容体の転写の阻害剤である。
【0017】
別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37の翻訳の阻害剤であり、および/または第二薬剤はEGF受容体の翻訳の阻害剤である。
【0018】
さらに別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37の結合特性の阻害剤であり、および/または第二薬剤はEGF受容体の結合特性の阻害剤である。例えば、この(これらの)薬剤は、hCAP18/LL−37の立体配座をその受容体に結合できないよう変更するものであり得る。
【0019】
さらに別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37受容体アンタゴニストであり、および/または第二薬剤はEGF受容体アンタゴニストである。この(これらの)薬剤が受容体機能を直接的にブロックすることによって、すなわち受容体アンタゴニストとして作用することによって、または間接的にブロックすることによってその生物学的活性を阻害することが、当業者に理解されているであろう。
【0020】
一つの実施態様において、hCAP18/LL−37受容体はFRPファミリーの受容体である。
【0021】
好ましい実施態様において、第一薬剤は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害することができ、および/または第二薬剤は、EGF受容体の生物学的活性を阻害することができる。例えば、第一薬剤は、カセリシジンタンパク分解プロセスの阻害剤、例えばプロテアーゼ阻害剤(例えばプロテイナーゼ3)であり得る。
【0022】
さらに好ましい実施態様において、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性は、癌細胞において選択的に阻害される。
【0023】
「選択的」は、その薬剤が、癌細胞中の他のタンパク質の活性を調節するよりも大きくhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性を阻害することを意味する。好ましくは、その薬剤は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性のみを阻害するものであるが、癌細胞中の他のタンパク質の発現および活性がhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の選択的阻害の下流での結果として変化し得ることが理解されよう。このように、本発明者らは、遺伝子発現および/または癌細胞成長に対する非特異的効果を有する薬剤を排除する。
【0024】
本発明の薬剤によるhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性の阻害は全体的なものまたは部分的なものであり得ることが当業者に理解されよう。例えば、薬剤は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を、その薬剤に被曝させなかった癌細胞におけるhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、最も好ましくは100%阻害し得る。
【0025】
第一薬剤は、hCAP18/LL−37の生物学的活性を、当該薬剤に被曝させなかった癌細胞におけるhCAP18/LL−37の生物学的活性と比較して50%またはそれ以上阻害することができ、および/または第二薬剤は、ERBB2の生物学的活性を、当該薬剤に被曝させなかった癌細胞におけるERBB2の生物学的活性と比較して50%またはそれ以上阻害することができるのが好都合である。
【0026】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤は、低分子干渉RNA(siRNA)分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物、ならびに小分子阻害化合物からなる群より選択される。
【0027】
あるいは、第一薬剤は、小分子阻害化合物、例えばビタミンDのアンタゴニスト、例えばZK159222(Schering AG)およびTEI−9647(Tejin Institute for Medical Research,Tokyo)、ならびにビタミンAのアンタゴニスト、例えばAGN193109(Allergen Pharmaceuticals)であり得る。
【0028】
EGF受容体阻害剤の例には、ErbB2に対する特異性を有するモノクローナル抗体である薬品ハーセプチン(トラスツズマブ、Genentech)、EGF−R(ErbB1)に対する特異性を有するモノクローナル抗体である薬品エルビタックス(セツキシマブ、Bristol−Meyers Squibb)、その他のモノクローナル抗体、例えばMAB225、チロシンキナーゼを阻害することによってEGF受容体を阻害する小分子イレッサ(ゲフィチニブ、Astra Zeneca)、およびその他のチロシンキナーゼ阻害剤(例えばPD153035、GW572016等、これらはCalbiochem/Merck等の業者から入手できる)が含まれる。
【0029】
好ましい実施態様において、第一薬剤および/または第二薬剤の少なくとも一方は低分子干渉RNA(siRNA)分子である。
【0030】
RNA干渉は二段階プロセスである。第一の段階は、開始段階(initiation step)と呼ばれ、投入したdsRNAが、おそらくはATP依存的な様式で(直接的にまたはトランスジーンもしくはウイルスを通じて導入された)dsRNAを処理(切断)するdsRNA特異的リボヌクレアーゼのRnaseIIIファミリーのメンバーであるDicerの作用によって消化され、21〜23ヌクレオチド(nt)の小分子干渉RNA(siRNA)となる。このRNAは、その後の切断イベントにより、各々2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する19〜21bpの二重鎖(siRNA)に分解される(Hutvagner & Zamore,2002,Curr.Opin.Genetics and Development 12:225−232;Bernstein,2001,Nature 409:363−366)。
【0031】
そのエフェクター段階において、siRNA二重鎖はヌクレアーゼ複合体に結合してRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成する。RISCの活性化には、siRNA二重鎖のATP依存的な巻き戻しが必要とされる。次いで活性化型RISCは塩基対相互作用によって相同な転写物を標的化し、そのmRNAをsiRNAの3’末端から12個のヌクレオチドフラグメントに切断する(Hutvagner & Zamore,2002,前出;Hammond et al.,2001,Nat.Rev.Gen.2:110−119(2001);Sharp,2001,Genes.Dev.15:485−90)。その切断メカニズムは現在も解析中であるが、各々のRISCが一つのsiRNAおよびRNaseを含むことが研究によって示されている(Hutvagner & Zamore,2002,前出)。
【0032】
RNAiの傑出した能力から、RNAi経路内での増幅工程が示唆されている。増幅は、投入したdsRNAの複製によりより多くのsiRNAを生成することによって、または形成されたsiRNAの複製によって行われ得る。あるいはまたはそれに加えて、増幅は、RISCの複数回の代謝回転(turnover)事象によってもたらされ得る(Hammond et al.,2001,前出;Hutvagner & Zamore,2002)。RNAiに関する追加の情報は、以下のレビュー、Tuschl,2001,Chem.Biochem.2:239−245、Cullen,2002,Nat.Immunol.3:597−599、およびBrantl,2002,Biochem.Biophys Act.1575:15−25から得ることができる。
【0033】
本発明において使用するのに適したRNAi分子の合成は、以下のようにして行うことができる。まず、hCAP18/LL−37 mRNAの配列を、AAジヌクレオチド配列についてAUG開始コドンの下流をスキャンする。各々のAAの出現および3’側に隣接する19ヌクレオチドを、siRNA標的部位候補として記録する。好ましくは、非翻訳領域(UTR)は調節タンパク質結合部位に豊富に存在するので、siRNA標的部位をオーブンリーディングフレームから選択する。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合と干渉する可能性がある(Tuschl,ChemBiochem.2:239−245)。しかし、非翻訳領域に対するsiRNAも有効な場合があることが理解されよう。
【0034】
次に、配列アラインメントソフトウェア、例えばBLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて、標的部位候補を適当なゲノムデータベース(例えばヒト、マウス、ラット等)と比較する。他のコード配列に対して有意な相同性を示す推定標的部位は排除する。
【0035】
合格した標的配列をsiRNA合成のテンプレートとして選択する。好ましい配列はG/C含有量の低い配列である。これらは、55%より高いG/C含有量を有する配列と比較して遺伝子サイレンシングの媒介に効果が高いことが証明されているからである。好ましくは、評価のために、数個の標的部位を標的遺伝子全長から選択する。好ましくは、選択したsiRNAのより良い評価のために、ネガティブコントロールを併せて使用する。好ましくは、ネガティブコントロールsiRNAは、そのsiRNAと同じヌクレオチド組成を含むがそのゲノムに対する有意な相同性を欠くものである。従って、好ましくは、任意の他の遺伝子に対して有意な相同性を示さないsiRNAのスクランブルヌクレオチド配列を使用する。
【0036】
好ましくは、hCAP18/LL−37を阻害するsiRNA分子は、配列番号1のヌクレオチド配列のフラグメント、またはその変異体を含むものである。
【表1】
【0037】
あるいは、siRNA分子は、ENSG00000164047(ゲノム配列)から転写されたヌクレオチド配列のフラグメントを含む。
【0038】
好ましくは、EGF受容体を阻害するsiRNA分子は、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4をコードするmRNAのヌクレオチド配列のフラグメント、またはその変異体を含む。
【0039】
mRNA配列の例は、次の通りである:
EGFR: ENST00000275493(ENSEMBLデータベースアクセス番号)
ERBB2: ENST00000269571
ERBB3: ENST00000267101
ERBB4: ENST00000342788
【0040】
「フラグメント」は、少なくとも10ヌクレオチド、例えば、少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドを意味する。
【0041】
「変異体」は、そのヌクレオチド配列が、配列番号1のフラグメントと少なくとも90%の配列同一性を、または配列番号1のフラグメントと少なくとも95%の配列同一性、例えば少なくとも95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を共有することを意味する。
【0042】
二つのポリヌクレオチド間の配列同一性の比率は、適当なコンピュータープログラム、例えばUniversity of Wisconsin Genetic Computing GroupのGAPプログラムを用いて決定され得、同一性の比率は、最適なアラインメントがなされた配列を有するポリヌクレオチドとの関係で算出されることが理解されよう。
【0043】
あるいは、アラインメントは、(Thompson et al.,1994,Nuc.Acid Res.22:4673−4680に記載されるような)Clustal Wプログラムを用いて行われ得る。
【0044】
使用するパラメータは、次の通りであり得る:
ファスト・ペアワイズ・アラインメント・パラメータ:K−タプル(ワード)サイズ;1、ウィンドウサイズ;5,ギャップペナルティ;3、トップダイアゴナル数;5、スコアリングメソッド:xパーセント
マルチ・アラインメント・パラメータ:ギャップオープンペナルティ;10、ギャップエクステンションペナルティ;0.05
スコアリングマトリクス:BLOSUM
【0045】
あるいは、部分配列アラインメントを決定するのにBESTFITプログラムが使用され得る。
【0046】
siRNA分子は19〜23ヌクレオチド長であるのが良い。
【0047】
別の実施態様において、第一薬剤および第二薬剤の少なくとも一方はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0048】
hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体のレベル/活性を効果的に低下させるのに使用できるアンチセンス分子の設計には、アンチセンスアプローチに重要な二つの局面を考慮することが必要である。第一の局面は癌細胞の細胞質へのオリゴヌクレオチドの送達であり、第二の局面はその翻訳を阻害する様式で細胞内の指定されたmRNAに特異的に結合するオリゴヌクレオチドの設計である。
【0049】
先行技術は、オリゴヌクレオチドを幅広い細胞型に効果的に送達するのに使用できる多くの送達ストラテジーを教示している(例えば、Luft,1998,J Mol Med 76:75−6;Kronenwett et al.,1998,Blood 91:852−62;Rajur et al.,1997,Bioconjug Chem 8:935−40;Lavigne et al.,1997,Biochem Biophys Res Commun 237:566−71;Aoki et al.,1997,Biochem Biophys Res Commun 231:540−5を参照のこと)。
【0050】
さらに、標的mRNAおよびそのオリゴヌクレオチドの両方における構造変化のエネルギー論を説明する熱力学サイクルに基づき、予想される標的mRNAに対する結合親和性が最も高い配列を同定するアルゴリズムが利用可能である(例えば、Walton et al.,1999,Biotechnol Bioeng 65:1−9を参照のこと)。
【0051】
インビトロ系を用いて特異的なオリゴヌクレオチドを設計およびその有効性を予測するためのいくつかのアプローチも公知である(例えば、Matveeva et al.,1998,Nature biotechnology 16:1374−1375を参照のこと)。
【0052】
いくつかの臨床試験が、アンチセンスオリゴヌクレオチドの安全性、実現可能性、および活性を実証している。例えば、癌の処置に適したアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用に成功している(Holmlund et al.,1999,Curr Opin Mol Ther 1:372−85;Gerwitz,1999,Curr Opin Mol Ther 1:297−306)。さらに最近、ヒトヘパラナーゼ遺伝子の発現のアンチセンスを介した抑制が、マウスモデルにおいてヒト癌細胞の胸膜転移を阻害することが報告された(Uno et al.,2001,Cancer Res 61:7855−60)。
【0053】
従って、当業者は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の発現をダウンレギュレートするのに適したアンチセンスアプローチを容易に設計および実施することができる。
【0054】
好ましくは、hCAP18/LL−37を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチドのフラグメントまたはその変異体を含む。
【0055】
好ましくは、EGF受容体を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4をコードするmRNAのヌクレオチド配列のフラグメント、またはその変異体を含む。
【0056】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは15〜35ヌクレオチド長であるのが都合良い。例えば、20マーオリゴヌクレオチドは、上皮増殖因子受容体mRNAの発現を阻害することが示されており(Witters et al,Breast Cancer Res Treat 53:41−50(1999))、25マーオリゴヌクレオチドは、副腎皮質刺激ホルモンの発現を90%より多く減少させることが示されている(Frankel et al,J Neurosurg 91:261−7(1999))。しかし、この範囲外の長さ、例えば10、11、12、13、もしくは14塩基、または36、37、38、39、もしくは40塩基を有するオリゴヌクレオチドを使用するのが望ましい場合もあることを理解されたい。
【0057】
さらに、オリゴヌクレオチドは細胞内因性ヌクレアーゼによる分解または不活性化に曝されることが当業者に理解されよう。この問題に対処するために、修飾されたオリゴヌクレオチド、例えば天然型のホスホジエステル結合が別の結合で置換された改良型インターヌクレオチド結合を有するオリゴヌクレオチドを使用することが可能である。例えば、Agrawal et al(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,7079−7083は、オリゴヌクレオチドホスホロアミデートおよびホスホロチオエートを用いることで組織培養物中でのHIV−1に対する阻害性が向上することを示した。Sarin et al(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,7448−7451は、オリゴヌクレオチドメチルホスホネートを用いることでHIV−1に対する阻害性が向上することを実証した。Agrawal et al(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,7790−7794は、感染初期および慢性感染状態の細胞培養物の両方において、ヌクレオチド配列特異的なオリゴヌクレオチドホスホロチオエートを用いてHIV−1の複製を阻害することを示した。Leither et al(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,3430−3434は、オリゴヌクレオチドホスホロチオエートによる組織培養物中でのインフルエンザウイルスの複製の阻害を報告している。
【0058】
人工的な結合を有するオリゴヌクレオチドは、インビボでの分解に耐性であることが示されている。例えば、Shaw et al(1991)は、Nucleic Acids Res.19,747−750において、他の部分は非修飾型であるオリゴヌクレオチドが、それらの3’末端を特定のキャップ構造でブロックした場合、インビボでのヌクレアーゼに対する耐性を増加させること、および非キャップ型のオリゴヌクレオチドホスホロチオエートがインビボで分解されないことを報告している。
【0059】
オリゴヌクレオシドホスホロチオエートの合成におけるH−ホスホネートアプローチの詳細な説明は、Agrawal and Tang(1990)Tetrahedron Letters 31,7541−7544に記載されており、その教示を参照により本明細書に援用する。オリゴヌクレオシドメチルホスホネート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、リン酸エステル、架橋ホスホロアミデート、および架橋ホスホロチオエートの合成は当該分野で公知である。例えば、その教示内容を参照により本明細書に援用する、Agrawal and Goodchild(1987)Tetrahedron Letters 28,3539;Nielsen et al(1988)Tetrahedron Letters 29,2911;Jager et al(1988)Biochemistry 27,7237;Uznanski et al(1987)Tetrahedron Letters 28,3401;Bannwarth(1988)Helv.Chim.Acta.71,1517;Crosstick and Vyle(1989)Tetrahedron Letters 30,4693;Agrawal et al(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1401−1405を参照のこと。他の合成または製造方法も可能である。好ましい実施態様において、オリゴヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)であるが、リボ核酸(RNA)配列もまた合成および利用され得る。
【0060】
本発明において有用なオリゴヌクレオチドは、好ましくは、内因性の核酸分解酵素による分解に耐性を有するように設計される。オリゴヌクレオチドのインビボ分解は、短いオリゴヌクレオチド分解産物を生じる。このような分解産物は、それらの全長対応物と比較して、非特異的なハイブリダイゼーションに関与する可能性が高く、有効性が低い。従って、体内での分解に耐性でありかつ標的細胞に到達することのできるオリゴヌクレオチドを使用することが望ましい。本発明のオリゴヌクレオチドは、ネイティブのホスホジエステル結合を一つまたはそれ以上の人工的な内部インターヌクレオチド結合で置換することによって、例えばその結合におけるリン酸を硫黄で置換することによってインビボでの分解に対する耐性を高めることができる。使用され得る結合の例には、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、スルホン、スルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、様々なホスホロアミデート、リン酸エステル、架橋ホスホロチオエート、および架橋ホスホロアミデートが含まれる。他のインターヌクレオチド結合も当該分野で周知であるので、このような例は一例にすぎず、限定的なものではない。ホスホジエステルインターヌクレオチド結合の代わりにこれらの結合を一つまたそれ以上有するオリゴヌクレオチドの合成は、混合型インターヌクレオチド結合を有するオリゴヌクレオチドを製造するための合成経路を含めて、当該分野で周知である。
【0061】
オリゴヌクレオチドは、5’または3’末端ヌクレオチドにおける「キャッピング」または類似する基の導入によって内因性酵素による伸長に対して耐性にすることができる。キャップ用試薬は、Applied BioSystems Inc,Foster City,CAからAmino−Link IITMとして販売されている。キャップ法は、例えば、Shaw et al(1991)Nucleic Acids Res.19,747−750およびAgrawal et al(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88(17),7595−7599に記載されている。
【0062】
ヌクレアーゼからの攻撃に対してオリゴヌクレオチドを耐性にするさらなる方法は、Tang et al(1993)Nucl.Acids Res.21,2729−2735に記載されるようにそれらを「自己安定化」させることである。自己安定化オリゴヌクレオチドは、それらの3’末端でヘアピンループ構造を有し、ヘビ毒ホスホジエステラーゼ、DNAポリメラーゼI、および胎仔ウシ血清による分解に対して高い耐性を示す。そのオリゴヌクレオチドの自己安定化領域は、相補的な核酸とのハイブリダイゼーションに干渉せず、マウスにおける薬物動態・安定性研究は、自己安定化型オリゴヌクレオチドがそれらの直鎖型対応物よりもインビボ耐性が高いことを示した。
【0063】
例えば、本発明のsiRNA分子および/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドは、次の表に示される配列から選択された配列を含むまたはそれらからなる場合がある(これらの配列は実施例にも記載されている)。
【表2】
【0064】
さらに別の実施態様において、第一薬剤はhCAP18/LL−37に対する結合親和性を有する化合物であり、第二薬剤はEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物、例えばタンパク質または糖質である。
【0065】
例えば、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の活性部位に実質的に可逆的にまたは実質的に不可逆的に結合するものであり得る。さらなる例において、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の活性部位ではない部分に結合し、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体のリガンドまたは受容体への結合を妨げるものであり得る。なおさらなる例において、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の一部に結合し、アロステリック効果によってそのタンパク質活性を低下させるものであり得る。このアロステリック効果は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の活性の自然調節に関与する、例えばhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の「上流の活性化因子」による活性化に関与するアロステリック効果であり得る。
【0066】
試験化合物とタンパク質、例えばhCAP18/LL−37またはEGF受容体の間の相互作用を検出する方法は当該分野で周知である。例えば、イオンスプレー質量分析/HPLC法による限外濾過または他の物理的・分析的方法が使用され得る。さらに、二つの蛍光標識体の結合を、相互に接近した際の蛍光標識の相互作用を測定することによって測定する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法も使用され得る。
【0067】
高分子に対するポリペプチド、例えばDNA、RNA、タンパク質、およびリン脂質の結合を検出する別の方法には、例えばPlant et al.,1995,Analyt Biochem 226(2),342−348に記載される表面プラズモン共鳴アッセイが含まれる。この方法では、標識された、例えば放射線標識または蛍光標識により標識されたポリペプチドが利用され得る。
【0068】
ポリペプチドに結合できる化合物を同定するさらなる方法は、ポリペプチドを化合物に被曝させ、そのポリペプチドへの化合物の結合を検出および/または測定する方法である。ポリペプチドに対する化合物の結合についての結合定数が決定され得る。ポリペプチドへの化合物の結合を検出および/または測定(定量)するのに適した方法は当業者に周知であり、例えば、高スループットの操作を実現する方法、例えばチップベースの方法を用いて実施され得る。VLSIPS(登録商標)とよばれる新技術は、数十万またはそれ以上の異なる分子プローブを含む極小のチップの製造を可能にした。これらの生物学的チップまたはアレイにプローブが配列され、各プローブに特定位置が割り当てられる。各々の位置が、例えば10ミクロンのスケールとなる生物学的チップが開発されている。このチップは、標的分子がチップ上のいずれのプローブと相互作用するかを決定するのに使用できる。このアレイを選択された試験条件下で標的分子に被曝させた後、スキャン機器によりアレイの各位置を調査し、標的分子がその位置のプローブと相互作用したかどうかを決定する。
【0069】
hCAP18/LL−37に対する結合親和性を有する化合物を同定する別の方法は、酵母ツーハイブリッドシステムであり、このシステムにおいて本発明のポリペプチドをhCAP18/LL−37に結合するタンパク質を「捕捉」するのに使用することができる。酵母ツーハイブリッドシステムはFields & Song,Nature 340:245−246(1989)に記載されている。
【0070】
さらに別の実施態様において、化合物は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対するリガンド結合能を有するものである。例えば、第一薬剤はhCAP18/LL−37受容体の可溶性フラグメントであり得る(例えばFPRL1であるがこれに限定されない)。
【0071】
あるいは、薬剤は、抗体を模倣する高親和性分子(いわゆる「アフィボディ」)であり得る(例えばUS 5,831,012およびwww.affibody.seを参照のこと)。これらのリガンドは、足場としてのプロテインA(細菌Staphylococcus aureus由来の表面タンパク質)のIgG結合ドメインの一つを基礎とする三ヘリックスバンドルで構成される小さく単純なタンパク質である。この足場はアフィニティリガンドとしての優れた特徴を有し、任意の所定の標的タンパク質に対して高い親和性で結合するよう設計することができる。
【0072】
さらに別の実施態様において、第一薬剤および/または第二薬剤は小分子阻害化合物である。
【0073】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤はポリペプチドを含むまたはポリペプチドからなる。
【0074】
好ましい実施態様において、ポリペプチドは抗体またはその抗原結合フラグメントであり、好ましくは抗体またはその抗原結合フラグメントはFvフラグメント、Fab様フラグメント、単可変ドメイン(single variable domains)、およびドメイン抗体からなる群より選択される。抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化されているのが都合良い。「抗体」には、実質的にインタクトな抗体分子だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体(少なくとも一つのアミノ酸が天然型のヒト抗体と比べて変異しているもの)、単鎖抗体、二特異性抗体(例えば、hCAP18/LL−37およびEGF受容体の両方に対する親和性を有する抗体)、抗体重鎖、抗体軽鎖、抗体重鎖および/または軽鎖のホモ二量体およびヘテロ二量体、ならびにそれらの抗原結合フラグメントおよび誘導体が含まれる。
【0075】
「抗原結合フラグメント」は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に結合できる抗体の機能的フラグメントを意味する。
【0076】
好ましくは、抗原結合フラグメントは、Fvフラグメント(例えば単鎖Fvおよびジスルフィド結合型Fv)、Fab様フラグメント(例えばFabフラグメント、Fab’フラグメント、およびF(ab)2フラグメント)、単可変ドメイン(例えばVHドメインおよびVLドメイン)、ならびにドメイン抗体(dAb、シングル型およびデュアル型[すなわちdAb−リンカー−dAb]を含む)からなる群より選択される。
【0077】
全長抗体ではなく抗体フラグメントを使用する利点はいくつかある。フラグメントのサイズの小ささは薬理学的特性を改善する、例えば固形組織への浸透性を向上させることがある。さらに、抗原結合フラグメント、例えばFab、Fv、ScFv、およびdAb抗体フラグメントはE.coliで発現させ分泌させることができるので、容易に多量のフラグメントを製造することができる。
【0078】
抗体およびその抗原結合フラグメントの修飾型、例えばポリエチレングリコールまたは他の適当なポリマーの共有結合により修飾されたものもまた本発明の範囲に含まれる。
【0079】
抗体及び抗体フラグメントを作製する方法は当該分野で周知である。例えば、抗体は、抗体分子のインビボ生成の誘導、免疫グロブリンライブラリのスクリーニング(Orlandi.et al,1989.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.86:3833−3837;Winter et al.,1991,Nature 349:293−299)、または培養細胞株によるモノクローナル抗体分子の産生を利用する様々な方法の任意の一つを通じて作製され得る。これらには、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、およびエプスタイン・バーウイルス(EBV)−ハイブリドーマ技術(Kohler et al.,1975.Nature 256:4950497;Kozbor et al.,1985.J.Immunol.Methods 81:31−42;Cote et al.,1983.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:2026−2030;Cole et al.,1984.Mol.Cell.Biol.62:109−120)が含まれるがこれらに限定されない。
【0080】
選択された抗原に対する適当なモノクローナル抗体は、公知技術、例えば“Monoclonal Antibodies:A manual of techniques”,H Zola(CRC Press,1988)および“Monoclonal Hybridoma Antibodies:Techniques and Applications”,J G R Hurrell(CRC Press,1982)に開示される技術によって作製され得る。
【0081】
抗体フラグメントは、当該分野で周知の方法を用いて得ることができる(例えば、Harlow & Lane,1988,“Antibodies:A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,New Yorkを参照のこと)。例えば、本発明に係る抗体フラグメントは、抗体のタンパク質加水分解によってまたはそのフラグメントをコードするDNAのE.coliもしくは哺乳動物細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞培養物または他のタンパク質発現系)中での発現によって得ることができる。あるいは、抗体フラグメントは、従来法による全長抗体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。
【0082】
ヒトの治療または診断にヒト化抗体の使用が好まれることは当業者に理解されているであろう。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化型は、好ましくは最小限の非ヒト抗体由来部分を有する遺伝子操作されたキメラ抗体または抗体フラグメントである。ヒト化抗体には、ヒト抗体(レシピエント抗体)の相補性決定領域が所望の官能性を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット、またはウサギの相補性決定領域由来の残基で置換された抗体が含まれる。いくつかの例において、ヒト抗体のFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基で置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも移植された相補性決定領域もしくはフレームワーク配列にも見られない残基を含み得る。一般的に、ヒト化抗体は、全てまたは実質的に全ての相補性決定領域が非ヒト抗体のそれに対応し、全てまたは実質的に全てのフレームワーク領域が関連するヒトコンセンサス配列のそれに対応する、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。ヒト化抗体は、典型的にはヒト抗体に由来する抗体の定常領域例えばFc領域の少なくとも一部も含むことが好ましい(例えば、Jones et al.,1986.Nature 321:522−525;Riechmann et al.,1988,Nature 332:323−329;Presta,1992,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照のこと)。
【0083】
非ヒト抗体をヒト化する方法は当該分野で周知である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒト源から導入された一つまたはそれ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基、しばしば移入残基(imported residues)と称される、は典型的には移入した可変ドメインから得る。ヒト化は、基本的に、記載されているように(例えばJones et al.,1986,Nature 321:522−525;Reichmann et al.,1988.Nature 332:323−327;Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534−1536l;US 4,816,567を参照のこと)、ヒト相補性決定領域を対応する齧歯類相補性決定領域で置換することによって行うことができる。従って、このようなヒト化抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に小さい領域が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体である。実際のヒト化抗体は、典型的には、いくつかの相補性決定領域の残基およびおそらくはいくつかのフレームワーク残基が齧歯類抗体における類似部分由来の残基で置換されたヒト抗体である。
【0084】
ヒト抗体また、ファージディスプレイライブラリ(例えばHoogenboom & Winter,1991,J.Mol.Biol.227:381;Marks et al.,1991,J.Mol.Biol.222:581;Cole et al.,1985,In:Monoclonal antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,pp.77;Boerner et al.,1991.J.Immunol.147:86−95を参照のこと)を含む当該分野で公知の様々な技術を用いて特定することができる。
【0085】
適当な抗体が獲得されれば、それらは、例えばELISAによって活性について試験され得る。
【0086】
好ましい実施態様において、第一薬剤および/または第二薬剤の少なくとも一方は、癌細胞に選択的に送達または癌細胞により選択的に活性化されることが可能である。
【0087】
「選択的」は、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体の生物学的活性に対する薬剤の阻害作用が、(その薬剤の癌細胞部位への局所投与によってではなく)癌細胞でまたは癌細胞内で優先的に発揮されることを意味する。
【0088】
薬剤を特定の細胞型、例えば癌細胞に標的化する方法は当該分野で周知である(例えばVasir & Labhasetwar,2005,Technol Cancer Res Treat.4(4):363−74;Brannon−Peppas & Blanchette,2004,Adv Drug Deliv Rev.56(11):1649−59およびZhao & Lee,2004,Adv Drug Deliv Rev.56(8):1193−204を参照のこと)。
【0089】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤は標的細胞特異的部分を含み、この標的細胞特異的部分は抗体またはその抗原結合フラグメントであるのがよく、これらはヒト化され得る。
【0090】
「標的細胞特異的」部分は、標的癌細胞上の物質を認識しこれに結合する一つまたはそれ以上の結合部位を含む薬剤の部分を意味する。標的細胞に接触すると、標的細胞特異的部分は阻害性部分とともに内部移行され得る。
【0091】
標的細胞特異的部分によって認識される物質は、標的癌細胞において優勢的に、好ましくは排他的に発現されるものである。標的細胞特異的部分は、同じ標的細胞型において発現される異なる物質に対する一つもしくはそれ以上の結合部位、または二つもしくはそれ以上の異なる標的細胞型において発現される異なる物質に対する一つもしくはそれ以上の結合部位を含み得る。
【0092】
好ましくは、標的細胞特異的部分は、高結合力で標的細胞を認識する。
【0093】
「高結合力」は、標的細胞特異的部分が、標的細胞を、少なくともKd=10-6M、好ましくは少なくともKd=10-9M、適当なのはKd=10-10M、より適当なのはKd=10-11M、さらにより適当なのはKd=10-12M、より好ましくはKd=10-15M、さらにはKd=10-18Mの結合定数で認識することを意味する。
【0094】
好ましい実施態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、癌細胞の表面上で発現される抗原に対する特異性を有する。
【0095】
認識される物質は、腫瘍細胞によって発現される任意の適当な物質であり得る。多くの場合、認識される物質は抗原であろう。
【0096】
抗原の例には表1に列挙されるものが含まれる。
【表3】
【0097】
他の抗原には、アルファフェトタンパク質、Ca−25、前立腺特異的抗原、および上皮増殖因子受容体ファミリーのメンバー、すなわちerbB1(EGFR)、erbB2、erbB3、およびerbB4が含まれる。
【0098】
従って、一つの実施態様において、第二薬剤は、抗EGF受容体抗体、例えば抗erbB2抗体(例えばハーセプチン)であり得る。第二薬剤は、第一薬剤に融合またはそれ以外の方法で結合されている場合、EGF受容体阻害剤および標的化剤の両方として作用することができる。
【0099】
標的細胞特異的部分が標的細胞に対する二つまたはそれ以上の結合部位を含む、抗体またはその二価フラグメントであるのが都合良い。この標的細胞特異的部分は、互いと同じ物質を認識するまたは異なる物質を認識する各「アーム」を有し得る。
【0100】
本発明の薬剤の一つの実施態様において、標的細胞特異的部分は、同じ標的細胞上の異なる分子を認識する二つの「アーム」を有し、その同じ標的細胞上の分子はその細胞型に限定的なものではなくいくつかの他の細胞型にも存在し得るものである。例えば、標的細胞特異的部分の一方の「アーム」はI、II、およびIII型細胞上の分子を認識し、他方の「アーム」はI、IV、およびV型細胞上の分子を認識する。従って、このような標的細胞特異的部分を含む本発明の薬剤は、II、III、およびIV型細胞と比較して、I型細胞に対する特異性が高くなるであろう。完全に標的細胞特異的な分子はほとんど発見されておらず、いくつかの細胞型に存在し本発明のこの局面において有用な分子が周知であるため、本発明のこの局面は特に有益である。このような分子は通常、それに対して交差反応する抗体が知られている細胞表面抗原である。
【0101】
表1に列挙した抗原の多くに結合するモノクローナル抗体はすでに公知であるが、いずれの場合も、今日のモノクローナル抗体技術をもってすればほとんどの抗原に対して抗体を作製することができる(上記参照)。
【0102】
認識される物質は、抗原性である場合または抗原性でない場合があり、いくつかの他の方法で認識および選択的に結合され得る場合がある。例えば、それは、特徴的な細胞表面受容体、例えば黒色腫細胞において多量に発現されるメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)に対する受容体であり得る。あるいは、その物質は、標的細胞において誘導される物質であり得る。細胞特異的部分は、非免疫な様式で、例えば細胞表面酵素の基質もしくはそのアナログまたはメッセンジャーとしてその物質に特異的に結合する化合物またはその一部であり得る。
【0103】
好ましくは、高結合力の標的細胞特異的部分は、標的細胞に対する二つまたはそれ以上の異なる結合部位を含む。
【0104】
標的細胞に対する異なる結合部位は、標的細胞において発現される異なる物質に対する二つまたはそれ以上の異なる抗体またはそのフラグメントである場合またはそうでない場合がある。あるいは、標的細胞に対する異なる結合部位は、いくつかの他の非免疫的な様式で細胞を認識しそれに選択的に結合し得る。
【0105】
標的化部分が任意の適当な手段によって本発明の阻害性薬剤に結合され、それによって二つの部分で機能的活性を保持し得ることが理解されよう。例えば、標的化部分および阻害性部分が共にポリペプチドの場合、それらは相互に融合され、融合タンパク質が形成され得る。このような融合物の例は当業者に周知である。
【0106】
好ましくは、第一薬剤および/または第二薬剤は、癌細胞によって選択的に活性化されるプロドラッグである。
【0107】
本願において使用される場合、用語「プロドラッグ」は、その親の薬物と比較して癌細胞に対する細胞毒性が小さく、より活性な親の形態に酵素的に活性化または変換できる、薬学的に有効な物質の前駆体または誘導体形態を意味する(例えばD.E.V.Wilman “Prodrugs in Cancer Chemotherapy” Biochemical Society Transactions 14,375−382(615th Meeting,Belfast 1986)およびV.J.Stella et al “Prodrugs:A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery” Directed Drug Delivery R.Borchardt et al(ed.)pages 247−267(Humana Press 1985)を参照のこと)。
【0108】
このようなプロドラック薬剤を製造するのに適した方法は当該分野で周知である(例えばDenny,2004,Cancer Invest.22(4):604−19;Rooseboom et al.,2004,Pharmacol Rev.2004 56(1):53−102;WO 03/106491を参照のこと)。
【0109】
プロドラッグの活性化のための酵素を選択する上でいくつかの要素を考慮する必要がある。これらには、その酵素の分子量および物理的特性、その生理学的条件下での活性および安定性、ならびに酵素の生成する薬物の性質が含まれる。
【0110】
このストラテジーの柔軟性は、多くの機械的に別々の抗癌剤を放出する能力を有する様々な酵素の利用に耐えるものである。特に有益なのは、単一のMab−酵素複合体が、相乗作用的な活性を有する治療有効用量の機械的に別々の抗癌剤を生成することができるという事実である。これは免疫原性の理由から重要であることが分かるはずである。これらの局面においては、好ましい動態および広範な基質特異性ならびにセファロスポリン基質の3’部分に付加された置換基を除去するという能力から、多くのβ−ラクタマーゼが多くの能力を保持している(Svensson et al(1992)“Mab−β−lactamase conjugates for the activation of a cephalosporin mustard prodrug”Bioconjugate Chem.3,176−181を参照のこと)。
【0111】
哺乳動物起源および非哺乳動物起源の両方の酵素が、様々なプロドラッグの活性化に使用されている(Senter et al,1993.Generation of cytotoxic agents by targeted enzymes.Bioconjugate 4,3−9;Senter et al,1991.Activation of prodrugs by antibody−enzyme conjugates.In Immunobiology of Proteins and Peptides VI,ed.M.Z.Atassi.Plenum Press,New York,pp97−10)。哺乳動物起源の酵素は免疫原性が低い点で有利であるが、それらが作用するプロドラッグは対応する内因性酵素の基質の可能性もある。
【0112】
好ましい実施態様において、成分(a)および成分(b)は、癌細胞の処置において逐次的に、別個に、および/または同時に使用するのに適している。
【0113】
本発明の薬剤は様々なタイプの癌細胞の増殖を阻害するのに使用され得ることが当業者に理解されよう。好ましくは、癌細胞は上皮細胞および/または扁平上皮細胞である。
【0114】
望ましくは、癌細胞は、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、胃腸管、ならびに内分泌系の癌細胞からなる群より選択される。
【0115】
好ましくは、癌細胞は乳癌細胞である。
【0116】
最も好ましくは、癌細胞はエストロゲン陽性である。しかし、本発明の薬剤及び方法はその他の癌タイプの処置にも利用され得る。
【0117】
一つの実施態様において、乳癌細胞はElstonグレードIII細胞でありかつ転移性であり得る。
【0118】
本発明の第二の局面において、その方法が本発明の第一の局面において規定される成分(a)を、本発明の第一の局面において規定される成分(b)と関連付け、二つの成分を互いに組み合わせて投与するのに適合させることを含む、本発明の第一の局面において規定される併用製品の製造方法を提供する。
【0119】
本発明の第三の局面において:
(i)請求項1〜40のいずれか一項に記載の成分(a)および成分(b)の少なくとも一方;と共に
(ii)その成分をその二つの成分の他方と組み合わせて使用するための説明書、
を含む、キット・オブ・パーツを提供する。
【0120】
本発明に係るキット・オブ・パーツとの関係で、用語「〜と組み合わせて(in conjunction with)」は、二つの製剤の一方または他方がもう一方の成分の投与前に、投与後に、および/または同時に投与され得る(場合により反復的に)ことを包含する。この文脈で使用される場合、用語「同時に投与される(administered simultaneously)」および「同時に投与される(administered at the same time as)」は、hCAP18/LL−37の活性を阻害する第一薬剤およびEGF受容体の活性を阻害する第二薬剤のそれぞれが互いから48時間(例えば24時間)以内に投与されることを包含する。
【0121】
本発明の第四の局面において、癌細胞の処置において使用するための、本発明の第一の局面において規定される併用製品または第三の局面において規定されるキット・オブ・パーツを提供する。
【0122】
本発明の第五の局面において、本発明の第一の局面において規定される併用製品または第三の局面において規定されるキット・オブ・パーツを、癌患者または癌に対して感受性の患者に投与することを含む、癌細胞の処置方法を提供する。
【0123】
「処置」は、患者の治療的処置および予防的処置の両方を包含する。用語「予防的」は、患者または被験者における癌を防止するまたはその可能性を低下させる、本明細書中に記載されるポリペプチドまたは製剤の使用を包含するよう使用される。
【0124】
好ましくは、この処置方法は、患者の癌細胞の増殖の阻害および/または転移の阻害を含む。
【0125】
好ましくは、患者はヒトであり、薬剤は癌細胞に選択的に送達されるまたは癌細胞により選択的に活性化されるものがよい。
【0126】
本発明の第六の局面において、医薬において使用するための本発明の第一の局面に係る併用製品を提供する。
【0127】
好ましくは、併用製品は癌の処置において使用するためのものである。
【0128】
本発明の第七の局面において、本発明の第一の局面に係る併用製品および薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、または担体を含む医薬組成物を提供する。
【0129】
好ましくは、医薬組成物は非経口投与に適したものである。
【0130】
好ましい実施態様において、この医薬組成物の製剤は、癌細胞を標的化して薬剤を送達することができる。
【0131】
本発明の第八の局面において、癌細胞の増殖を阻害するための医薬の製造における本発明の第一の実施態様に係る併用製品を提供する。
【0132】
好ましい実施態様において、癌細胞は上皮細胞および/または扁平上皮細胞である。
【0133】
好ましくは、癌細胞は、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、ならびに胃腸管の癌細胞からなる群より選択される。
【0134】
より好ましくは、癌細胞は乳癌細胞、例えばElstonグレードIII細胞でありかつ転移性であり得る。
【0135】
本明細書中で使用される場合、「医薬製剤(pharmaceutical formulation)」は、本発明に係る治療上有効な製剤を意味する。
【0136】
本明細書中で使用される場合、「治療有効量」または「有効量」または治療上有効な」は、所定の状態および投与レジメンにおいて治療効果を提供する量を意味する。これは、必要な添加剤および希釈剤、すなわち担体または投与媒体と組み合わせて所望の治療効果を生じるよう計算された活性成分の既定量である。さらに、この用語は、活性、機能、および宿主の反応における臨床的に重大な欠陥を減らす、最も好ましくは防止するのに十分な量を意味する。あるいは、治療有効量は、宿主における臨床的に重大な状態に改善をもたらすのに十分な量である。当業者に理解されていることであるが、化合物の量はその比活性に依存して変化し得る。適当な投与量には、必要な希釈剤と組み合わせて所望の治療効果を生じるよう計算された活性成分の既定量が含まれ得る。本発明の組成物の製造方法および使用において、治療有効量の有効成分が提供される。治療有効量は、当該分野で周知のように、患者の特徴、例えば年齢、体重、性別、状態、合併症、他の疾患等に基づき医師または獣医により決定され得る。
【0137】
このような有効量の薬剤またはその製剤は単ボーラス投与(すなわち急性的投与)として、またはより好ましくは経時的な一連の投与(すなわち慢性的投与)として送達され得ることが当業者に理解されるであろう。
【0138】
本発明の薬剤は、使用する化合物の効能/毒性およびそれを使用する上での効能に依存して、様々な濃度で処方され得る。好ましくは、製剤は、0.1μM〜1mMの間、より好ましくは1μM〜100μMの間、5μM〜50μMの間、10μM〜50μMの間、20μM〜40μMの間、最も好ましくは約30μMの濃度の本発明の薬剤を含む。インビトロ用途では、製剤はそれより低い濃度、例えば0.0025μM〜1μMの間の本発明の化合物を含み得る。
【0139】
本発明の薬剤は、一般的に、意図する投与経路および医薬品取り扱い基準(standard pharmaceutical practice)を考慮して選択された適当な薬学的賦形剤、希釈剤、または担体と混合して投与されることが当業者に理解されているであろう(例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy,19thedition,1995,Ed.Alfonso Gennaro,Mack Publishing Company,Pennsylvania,USAを参照のこと)。
【0140】
例えば、本発明の薬剤は、即時、遅延、または制御放出用の錠剤、カプセル剤、オブール剤(ovule)、エリキシル剤、溶液剤、または懸濁剤の形態で経口投与、口腔投与、または舌下投与することができ、これらは矯味剤または着色剤を含み得る。本発明の薬剤はまた、海綿体注射を通じて投与され得る。
【0141】
このような錠剤は、微結晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、およびグリシン等の賦形剤、デンプン(好ましくはトウモロコシ、ジャガイモ、またはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、および特定のケイ酸錯体等の崩壊剤、ならびにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン、およびアカシア等の造粒結合剤を含み得る。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、およびタルク等の滑沢剤も含まれ得る。
【0142】
類似のタイプの固形組成物もまた、ゼラチンカプセルにおける増量剤として利用され得る。この点で好ましい賦形剤には、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖、または高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。水性懸濁剤またはエリキシル剤においては、本発明の化合物は、様々な甘味剤または矯味剤、着色剤または色素と、乳化剤および/または懸濁剤と、ならびに希釈剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、およびグリセリンと、ならびにそれらの混合物と混合され得る。
【0143】
本発明の薬剤はまた、非経口投与、例えば静脈内投与、関節内投与、動脈内投与、腹腔内投与、くも膜下腔内投与、脳室内投与、胸骨内投与、頭蓋内投与、筋内投与、もしくは皮下投与され得るか、またはそれらは注入技術によって投与され得る。これらは、滅菌水溶液の形態で使用するのが最もよく、この溶液には他の物質、例えばその溶液を血液と等張にするための十分な塩またはグルコースが含まれ得る。必要に応じて、この水溶液は、適当に(好ましくはpH3〜9に)緩衝化されるべきである。滅菌条件下での適当な非経口製剤の製造は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に行われる。
【0144】
非経口投与に適した製剤には、水性および非水性の滅菌注射溶液、これらには抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、およびその製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質が含まれ得る;ならびに水性および非水性の滅菌懸濁物が含まれ、これらには懸濁剤および増粘剤が含まれ得る。製剤は、単回量または複数回量用の容器、例えば密封式のアンプルおよびバイアルに収められ、使用の直前に滅菌液体担体、例えば注射用水を加えることだけを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。直接利用型の注射溶液および懸濁物は滅菌粉末、顆粒、および上記の種の錠剤から製造され得る。
【0145】
ヒト患者に対する経口および非経口投与においては、本発明の薬剤の一日の用量レベルは通常、成人一人あたり1〜1000mg(すなわち約0.015〜15mg/kg)であり、一回または複数回の投薬により投与されるであろう。
【0146】
本発明の薬剤はまた鼻腔内にまたは吸入により投与することができ、乾燥粉末吸入器または適当な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134A3)もしくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA3)、二酸化炭素、もしくは他の適当なガスを用いる加圧容器、ポンプ、スプレー、またはネブライザーからのエアゾール噴霧の形態で送達されるのがよい。加圧式エアゾールの場合、単位用量は、秤量した量を送達するための弁を提供することによって決定され得る。加圧容器、ポンプ、スプレー、またはネブライザーは、例えば、エタノールおよび溶媒としての噴霧剤の混合物を用いる活性化合物の溶液または懸濁物を含み得、さらに滑沢剤、例えばトリオレイン酸ソルビタンが含まれ得る。吸入器または注入器において使用するためのカプセルおよびカートリッジ(例えばゼラチン製のもの)は、本発明の化合物および適当な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含むよう処方され得る。
【0147】
エアゾールまたは粉末乾燥製剤は、好ましくは、各々の秤量された用量または「一吹き(puff)」が、本発明の化合物少なくとも1mgを患者への送達用に含むよう設定される。エアゾールによる全一日量は患者ごとに異なり、これらは一回投与でまたはより通常はその日の中での分割投与により投与され得ることが理解されるであろう。
【0148】
あるいは、本発明の薬剤は、坐剤または膣坐剤の形式で投与することができるか、またはこれらはローション剤、溶液剤、クリーム剤、軟膏剤、もしくは散布剤の形式で局所適用され得る。本発明の化合物はまた、例えば皮膚パッチの使用によって経皮投与され得る。これらはまた、眼経路によって投与され得る。
【0149】
眼に使用するために、本発明の薬剤は、等張性、pH調整済み、滅菌性の生理食塩水中の微粒子懸濁物または好ましくは等張性、pH調整済み、滅菌性の生理食塩水中溶液として、場合により保存剤、例えば塩化ベンジルアルコニウムと共に処方することができる。あるいは、これらは軟膏、例えばワセリンを用いて処方され得る。
【0150】
皮膚への局所適用のために、本発明の薬剤は、例えば以下の一つまたはそれ以上を含む混合物中に懸濁または溶解された活性化合物を含む適当な軟膏剤として処方することができる:鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう、および水。あるいは、これらは、例えば以下の一つまたはそれ以上の混合物中に懸濁または溶解された適当なローション剤またはクリーム剤として処方することができる:鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水。
【0151】
口内に局所投与するのに適した製剤には、矯味基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に有効成分を含むロゼンジ剤;不活性基剤、例えばゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシア中に有効成分を含むトローチ剤;ならびに適当な液体担体中に有効成分を含む口内洗浄剤が含まれる。
【0152】
薬剤がポリペプチドの場合、徐放性薬物送達系、例えばマイクロスフィアを使用するのが好ましい場合がある。これらは特に注射の頻度を減らすよう設計される。このような系の例は、生分解性のマイクロスフィア中に組換えヒト成長ホルモン(rhGH)を被包し、注射後長時間にわたってrhGHをゆっくりと放出するNutropin Depotである。
【0153】
あるいは、本発明のポリペプチド薬剤は、必要な部位に対して直接的に薬物を放出する外科移植デバイスによって投与することができる。
【0154】
電気穿孔療法(EPT)システムも、タンパク質およびポリペプチドの投与のために利用することができる。細胞に対してパルス電場を送達するデバイスは細胞膜の薬物透過性を増加させ、細胞内への薬物送達を大きく改善する。
【0155】
タンパク質およびポリペプチドはまた、電気導入(EI)によって送達することができる。EIは、皮膚表面上の直径が30ミクロン以下の微粒子が電気穿孔で使用されるのと同一または類似の電気パルスを受けた場合に起こる。EIにより、これらの粒子は角質層を通じて皮膚深層へと誘導される。その粒子に薬物もしくは遺伝子を充填もしくはコーティングすることもできるし、または単に皮膚を通して薬物が進入できるように皮膚に孔を形成する「弾丸」として作用することができる。
【0156】
別のタンパク質およびポリペプチド送達方法は、温度感受性のReGelの注射である。ReGelは体温以下では注射可能な液体であるが、体温では直ちにゲルレザバーを形成し、徐々に腐食および溶解して公知の安全な生分解性ポリマーとなる。活性な薬物は、この生物高分子が溶解するのに伴い徐々に送達される。
【0157】
タンパク質薬およびポリペプチド薬はまた、経口送達することができる。一つのこのような系は、タンパク質およびポリペプチドを共送達するために体内でのビタミンB12の経口摂取に関する自然プロセスを利用するものである。ビタミンB12摂取系に乗ることによって、タンパク質またはポリペプチドは腸壁を通じて移動することができる。ビタミンB12アナログと薬物の間で形成された複合体は、その複合体のビタミンB12部分において内因子(IF)に対する有意な親和性と、その複合体の薬物部分において有意な生物活性の両方を保持する。
【0158】
本発明のオリゴヌクレオチド薬剤またはポリヌクレオチド薬剤を投与する方法も当該分野で周知である(Dass,2002,J Pharm Pharmacol.54(1):3−27;Dass,2001,Drug Deliv.8(4):191−213;Lebedeva et al.,2000,Eur J Pharm Biopharm.50(1):101−19;Pierce et al.,2005,Mini Rev Med Chem.5(1):41−55;Lysik & Wu−Pong,2003,J Pharm Sci.2003 2(8):1559−73;Dass,2004,Biotechnol Appl Biochem.40(Pt 2):113−22;Medina,2004,Curr Pharm Des.10(24):2981−9を参照のこと)。
【0159】
例えば、本発明の構築物は、レトロウイルスを利用してその構築物を細胞のゲノムに挿入する方法によって細胞に導入され得る。例えば、Kuriyama et al(1991)Cell Struc.and Func.16,503−510においては、精製されたレトロウイルスが投与されている。上記のポリヌクレオチドを含むレトロウイルスDNA構築物は、当該分野で周知の方法を用いて作製され得る。このような構築物から活性なレトロウイルスを生じさせるために、10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養したエコトロピックなpsi2パッケージング細胞株を使用するのが通例である。細胞株のトランスフェクションは、リン酸カルシウム共沈によるのがよく、安定な形質転換体は終濃度1mg/mlとなるようG418を加えることによって選択する(レトロウイルス構築物がneo(R)遺伝子を含む場合)。独立コロニーを単離し、これを培養し、培養上清を0.45μm孔径のフィルターを通じて濾過することで除去し、−70℃で保存する。レトロウイルスを腫瘍細胞に導入する場合は、10μg/mlポリブレンを加えたレトロウイルス上清を直接注射するのがよい。10mm径を超える腫瘍の場合は、レトロウイルス上清を0.1ml〜1ml;好ましくは0.5ml注射するのが適当である。
【0160】
あるいは、Culver et al(1992)Science 256,1550−1552に記載されるように、レトロウイルスを産生する細胞が注射される。そのようにして導入されたレトロウイルス産生細胞は、レトロウイルスベクター粒子の継続的な産生がインサイチュの腫瘍塊内で行われるようそのベクターを能動的に産生するよう加工されたものである。従って、増殖性細胞は、レトロウイルスベクター産生細胞と混合された場合、インビボで首尾良く形質導入され得る。
【0161】
標的化されたレトロウイルスもまた本発明において使用することができる;例えば、特異的な結合親和性を付与する配列が既存のウイルスenv遺伝子に導入され得る(これおよびその他の遺伝子療法用標的化ベクターのレビューについてはMiller & Vile(1995)Faseb J.9,190−199を参照のこと)。
【0162】
他の方法は、その構築物を細胞に単純に送達し、限定的な時間またはゲノムへの組み込み後により長時間発現させることである。後者のアプローチの例にはリポソームが含まれる(Naessander et al(1992)Cancer Res.52,646−653)。
【0163】
免疫性リポソーム(immuno−liposomes)を作製するためには、Martin & Papahadjopoulos(1982)J.Biol.Chem.257,286−288の方法に従いMPB−PE(N−[4−(p−マレイミドフェニル)ブチリル]−ホスファチジルエタノールアミン)を合成する。リポソーム表面に抗体またはそのフラグメントを共有結合させるために、MPB−PEをリポソームの二重層に組み込む。例えば、本発明の薬剤(例えばDNAまたはその他の遺伝子構築物)の溶液中でリポソームを形成させ、0.8MPa以下の窒素圧下で0.6μmおよび0.2μm孔径のポリカーボネートメンブレンフィルターを通じて連続押出しを行うことによって、標的細胞への送達用に本発明の薬剤をリポソームに充填するのがよい。押出し後、捕捉されたDNA構築物を、80000×g、45分間の超遠心分離によって遊離のDNA構築物から分離する。新たに作製した脱酸素緩衝液中のMPB−PE−リポソームを新たに作製した抗体(またはそのフラグメント)と混合し、窒素雰囲気下、4℃で一晩絶えず回転させながらカップリング反応を行う。免疫性リポソームは、80000×g、45分間の超遠心分離によって非結合型の抗体から分離する。免疫性リポソームは、腹腔内にまたは腫瘍に直接注射され得る。
【0164】
他の送達方法には、抗体・ポリリジン架橋を通じて外来DNAを保持するアデノウイルス(Curiel Prog.Med.Virol.40,1−18を参照のこと)およびキャリアとしてのトランスフェリン・ポリカチオン複合体(Wagner et al(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,3410−3414)が含まれる。これらの方法のうちの一番目の方法においては、ポリカチオン・抗体複合体を本発明のオリゴヌクレオチド薬剤を含むよう形成する。抗体は野生型アデノウイルスまたはその抗体に結合する新たなエピトープが導入された変異型アデノウイルスのいずれかに対して特異的なものである。ポリカチオン部分は、オリゴヌクレオチド薬剤と、そのリン酸骨格との静電気的相互作用を通じて結合する。アデノウイルスは、非修飾型の線維およびペントンタンパク質を含むので細胞内に移行し、本発明のオリゴヌクレオチド薬剤をその細胞内に運び込む。ポリカチオンがポリリジンであるのが好ましい。
【0165】
オリゴヌクレオチド薬剤は、例えば以下に記載されるように薬剤をアデノウイルス粒子に内包させてアデノウイルスによって送達する場合もある。
【0166】
別の方法においては、受容体媒介エンドサイトーシスによってDNA高分子を細胞内に運び込む高効率核酸送達系を利用する。これは、核酸に結合するポリカチオンに鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンを結合させることによってなされる。ヒトトランスフェリンもしくはニワトリホモログのコンアルブミンまたはこれらの組み合わせを、DNA結合性の小タンパク質であるプロタミンまたは様々なサイズのポリリジンに、ジスルフィド結合を通じて共有結合させる。これらの修飾型トランスフェリン分子は、それらの同族受容体に結合し、細胞内への効率的な鉄輸送を媒介する能力を保持している。トランスフェリン・ポリカチオン分子は、核酸サイズ(短いオリゴヌクレオチド〜21キロ塩基対のDNA)とは独立に、本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物を含む電気泳動上安定な複合体を形成する。トランスフェリン・ポリカチオンおよび本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物の複合体を腫瘍細胞に供給した場合、細胞内でのこの構築物からの高レベルの発現が期待される。
【0167】
Cotten et al(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,6094−6098の方法によって作製された不完全または化学的に不活性なアデノウイルス粒子のエンドソーム破壊活性を用いる本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物の高効率受容体媒介送達もまた利用され得る。このアプローチは、アデノウイルスがリソソームを通さずにエンドソームからそれらのDNAを放出するよう適合され、かつ例えば本発明のDNA構築物またはその他の遺伝子構築物に結合されたトランスフェリンの存在下でその構築物がアデノウイルス粒子と同じ経路で細胞に取り込まれるという事実に基づくようである。
【0168】
このアプローチは、複雑なレトロウイルス構築物を使用する必要がない;レトロウイルス感染によってゲノムが恒久的に改変されることがなく;かつ標的化発現系と標的化送達系の組み合わせにより、他の細胞型に対する毒性が軽減されるという利点を有する。
【0169】
「裸のDNA」ならびに陽イオン性および中性脂質と複合体化されたDNAもまた、本発明のDNAを処置すべき個人の細胞に導入する上で有用であり得ることが理解されるであろう。遺伝子療法における非ウイルスアプローチは、Ledley(1995)Human Gene Therapy 6,1129−1144に記載されている。
【0170】
別の標的化送達系、例えばWO94/10323に記載される、典型的にはDNAがアデノウイルスまたはアデノウイルス様粒子内で保持される修飾型アデノウイルス系もまた公知である。Michael et al(1995)Gene Therapy 2,660−668は、線維タンパク質に細胞選択部分を追加するアデノウイルスの修飾について記載する。p53欠損ヒト腫瘍細胞において選択的に複製する変異アデノウイルス、例えばBischoff et al(1996)Science 274,373−376に記載されるウイルスもまた、本発明の遺伝子構築物を細胞に送達するのに有用である。従って、本発明のさらなる局面は、本発明の遺伝子構築物を含むウイルスまたはウイルス様粒子を提供することであることが理解されよう。他の適当なウイルスまたはウイルス様粒子には、HSV、AAV、ワクシニア、およびパルボウイルスが含まれる。
【0171】
さらなる実施態様において、hCAP18/LL−37の機能を選択的に妨げる薬剤は、hCAP18/LL−37 mRNAまたはDNAを標的化して切断することのできるリボザイムである。このリボザイムを発現する遺伝子は、アンチセンス分子の場合と実質的に同じ媒体を用いて投与され得る。
【0172】
ここで開示されるウイルスまたはウイルス様粒子のゲノムにおいてコードされ得るリボザイムは、US 5,180,818、US 5,168,053、US 5,149,796、US 5,116,742、US 5,093,246、およびUS 4,987,071に記載されている。
【0173】
アンチセンス分子またはリボザイムは細胞特異的なプロモーターエレメントから発現されることが望ましい場合があることが理解されよう。
【0174】
本発明の製剤の特に好ましい実施態様において、製剤は、本発明の薬剤を癌細胞に標的化して送達することのできるものである。
【0175】
当業者はさらに、本発明の薬剤および医薬製剤が医学および獣医学の両方の分野において有用性を有することを理解するであろう。従って、本発明の薬剤は、ヒトならびに非ヒト動物(例えばウマ、イヌ、およびネコ)の両方の処置に使用され得る。しかし、好ましくは、患者はヒトである。
【0176】
本発明の好ましい局面を、以下の非限定的な実施例において、添付図面を参照しつつ記載する。
【実施例】
【0177】
実施例
実施例A − 抗細菌タンパク質hCAP18/LL−37は乳癌において高度に発現されかつ上皮細胞の推定増殖因子である
導入
本実施例においては、一連の乳癌におけるhCAP18/LL−37の発現パターンを調査し、腫瘍細胞においてhCAP18 mRNAおよびタンパク質が顕著にアップレギュレートされるがその隣接するストローマにおいてはそうでないことを実証する。興味深いことに、最も高レベルのhCAP18タンパク質が最も組織学的グレードの高い腫瘍から検出され、いくつかの低グレードの腫瘍におけるhCAP18レベルは正常な乳房組織において検出されるレベルと同等であった。これらの知見は、抗細菌ペプチドに関して提唱されてきた抗腫瘍効果説と明らかに相反するものであるが、上皮の修復および血管新生におけるhCAP18/LL−37の役割を示唆する最近の知見と合致する5,10。成長促進因子としてのhCAP18/LL−37をさらに支持するため、本発明者らは、ここで、上皮細胞の増殖が合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドによる処理およびhCAP18のトランスジェニック発現の両方によって有意に増強されることを実証する。
【0178】
材料および方法
組織
28名の乳癌患者由来の凍結腫瘍組織をDepartment of Pathology,Danderyd Hospital,Stockholm,Swedenから入手した(表2)。これらの腫瘍を、確立されているガイドラインに従い、Elston and Ellis I〜IIIに従い等級付けを行った13。サイクリンAを、増殖マーカーとして使用した(Nova−Castra Laboratories,Newcastle upon Tyne,UK)。エストロゲン受容体のステータスを、慣用的に処理したパラフィン切片において評価した。8名の乳癌患者および乳房除去手術(reductive breast surgery)を受けた2名の健常者由来の非病変乳房組織をコントロールとして用いた。全てのサンプルを同じ病理学者(B.S.)に試験させ、通常通りに分類した(表2)。書面によるインフォームドコンセントを全患者から得た。本研究は地方倫理委員会の承認を得て行った。
【0179】
hCAP18のインサイチュハイブリダイゼーション
pBluescriptにサブクローニングした435bpのhCAP18全長cDNAを、[35S]標識アンチセンスおよびセンスプローブのインビトロ転写に使用し、サンプル0〜17において、基本的に記載8された通りにインサイチュハイブリダイゼーションを行った(表2)。
【0180】
免疫組織化学
サンプル0〜17において免疫組織化学を行った(表2)。組換えhCAP18に対するカセリンアフィニティ精製ウサギ抗血清14を、Vectastainキット(Vector Laboratories,Burlingame,USA)を用いた間接的ペルオキシダーゼ法に従い、以前に記載10されたようにして1:500希釈で使用した。染色の特異性を確認するため、以前に報告10されたようにして免疫吸着を行った。FPRL1受容体の検出のために、アフィニティ精製ヤギポリクローナル抗体を、関節的ペルオキシダーゼ法に従い、1:400希釈(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)で使用した。
【0181】
タンパク質抽出およびウェスタンブロット分析
凍結腫瘍組織16〜60mgを、リジン緩衝液中で、電動ホモゲナイザーを用いてホモゲナイズした。腫瘍組織および細胞株由来のタンパク質を、標準的なプロトコル15に従いSDS含有サンプル緩衝液中で抽出した。そのタンパク質濃度を分光学的アッセイによって測定し、タンパク質濃度が等しくなるようSDS含有サンプル緩衝液で調整した16。hCAP18/LL−37の検出のために、その抽出物を16.5% Tris−Tricine Readyゲル(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)で分離した。組換えカセリン17および合成LL−37ペプチドをサイズ基準として使用した。ERK1/2およびFPRL1の検出のために、タンパク質を、それぞれ12%および8% Tris−Glycineゲルで分離した。各サンプルにほぼ等量のタンパク質がブロットされていることを確認するため、フィルターを、一次抗体とのインキュベーションの前に、3% TCA中3%ポンソーS溶液(Sigma Aldrich,USA)で可逆的に染色した。アフィニティ精製抗カセリン抗血清17、アフィニティ精製抗LL−37抗血清10、抗FPRL1抗血清(sc18191,Santa Cruz Biotechnology,CA)、およびモノクローナル抗ERK1/2抗体(Cell Signaling Technology,Beverly MA)を、全て1:1000希釈で使用した。ニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell,Dassel,Germany)上での電気ブロッティングならびに一次抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ結合IgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)との逐次的なインキュベーションの後、増感化学発光(ECL,Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)からのシグナルをCCDカメラ(LAS 1000,Fujifilm,Tokyo,Japan)で捕捉した。
【0182】
ELISA
以前に記載17されたサンドイッチELISAを用いて、正常な乳腺および腫瘍組織由来のタンパク質抽出物中のhCAP18を定量した。
【0183】
リアルタイムPCRによるhCAP18の発現分析
4つの正常サンプルおよび4つの腫瘍からRNAをQiagen RNeasyキット(Operon Biotechnologies,Cologne,Germany)を用いて抽出し、第一鎖合成キット(Amersham Biosciences,Norwalk,CT)を用いて逆転写した。RNAを、標準的なプロトコルに従いcDNA 10ngを用いてABI Prism 7700(Applied Biosystems)によるリアルタイムPCRにより定量した。サンプルは三連で評価した。配列は、プライマーについては5'−GTCACCAGAGGATTGTGACTTCAA−3'[配列番号2]および5'−TTGAGGGTCACTGTCCCCATA−3'[配列番号3]であり、蛍光プローブについては6−FAM−5'−CCGCTTCACCAGCCCGTCCTT−3'−BHQ1[配列番号4]であった。サンプルは18S−RNAの定量によって正規化した(Assay on Demand, Applied Biosystems)。正常サンプルの平均発現値を裁量で1に設定した。
【0184】
合成LL−37ペプチド
LL−37ペプチドを合成し、HPLCにより純度98%まで精製した(PolyPeptide Laboratories A/S,Hillerod,Denmark)。このペプチドの生物学的活性は抗細菌アッセイ18において確認した。
【0185】
上皮細胞のLL−37ペプチド処理
自然不死化型ヒトケラチノサイト細胞株(HaCat)19を、10%FCS(ウシ胎仔血清、Hy−Clone,Boule Nordic AB Huddinge,Sweden)および抗生物質(PEST=ペニシリン50U/lおよびストレプトマイシン50mg/ml、Gibco BRL)を補充したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Gibco BRL,Life Technologies,Scotland)中で培養した。細胞を70%コンフルエンスで回収し、96ウェルプレートに100μl培地(DMEM+10%FCSおよびPEST)中に2000細胞となるよう播種した。12時間後、培地を無血清培地(DMEM+PEST)に交換し、72時間の血清飢餓によって細胞をG0/G1で同調させ、次いで合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドを10μg/ml含有する培地(DMEM+5%FCS+PEST)100μlで処理した。DMEM+5%FCSおよびPESTのみで処理した細胞をコントロールとして用いた。この実験を四連で行った。細胞増殖は、[3H]チミジン取り込みによって評価した。細胞を、[3H]チミジン(20.00 Ci/mmol,Perkin Elmer Life Sciences Inc.Boston, MA) 1μCi/ウェルで12時間処理し、ガラス繊維フィルター(Wallac Oy Turku,Finland)に回収した(Harvester 96,Tomtec,Orage,CT)。[3H]チミジンの取り込みを、液体シンチレーションカウンター(Microbeta Pluss,Wallac Sveriges AB)を用いて測定した。この実験を6連で二回繰り返した。
【0186】
HEK293およびHaCaT細胞におけるhCAP18のトランスジェニック発現
16bpの5’非翻訳領域を含む全長コード配列を含むImageクローン305793120由来のBfa1フラグメントを、バイシストロン性ベクターpIRES2−EGF(BD Biosciences,Bedford,MA)のSma1部位にサブクローニングした。HEK293およびHaCaT細胞を標準的な条件下でFugene(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を用いてトランスフェクトし、二週間の間、400ng/ml G418(Invitrogen,Paisley,UK)によって選別した。細胞を、Summit(商標)データ分析ソフトウェアを用いてMoFlo(登録商標)高速細胞ソーティングフローサイトメーター(DakoCytomation,Fort Collins,CO)によってEGFP発現についてソーティングし、それらのCAP18発現を免疫ブロッティングによって定量した。コントロール細胞株は、EGFPのみを発現するベクターを用いたトランスフェクションによって同様に構築した。これらの細胞株は、数ヶ月間の非選択下での連続培養の間、安定的なCAP18発現を維持した。本実験は30連で二回繰り返した。
【0187】
hCAP18で安定的にトランスフェクトしたHEK293およびHaCaT細胞の増殖アッセイ
hCAP18でトランスフェクトしたHEK293細胞を70%コンフルエンスで回収し、24ウェルプレートに播種した。24時間後に培地を交換し、細胞を5%FCSおよびPESTを補充した培地(Optimem,Gibco BRL,Life Technologies,Scotland)2ml中で培養した。細胞を6日目に回収し、フローサイトメトリー(Becton Dickinson,Bedford,MA)によって計数した。細胞の生存性をトリパンブルーによって測定したところ、全ての条件下で細胞の5%未満がトリパンブルー陽性であった。全ての条件を三連で行った。EGFPのみを発現するベクターでトランスフェクトしたHEK293細胞をコントロールとして用いた。
【0188】
hCAP18でトランスフェクトしたHaCat細胞を70%コンフルエンスで回収し、96ウェルプレート中の10%FCS+PEST含有DMEM中に、ウェルあたり2000細胞となるよう播種した。12時間後に培地を、5%FCS+PESTを補充したDMEMに交換した。24時間の培養後、細胞を、上記の通り、[3H]チミジン 1μCi/ウェルで12時間処理し、回収し、分析した。EGFPのみを発現するベクターでトランスフェクトしたHaCaT細胞をコントロールとして用いた。
【0189】
FPRL1の発現分析
HaCaT細胞からRNAをRNeasyキット(Qiagen)を用いて抽出し、第一鎖合成キット(Amersham−Pharmacia)を用いて逆転写した。FPRL1 RNAを、上記の通り、リアルタイムPCRにより定量し、18S−RNAに対して正規化した。配列は、プライマーについては5'−TCTGCTGGCTACACTGTTCTGC−3'[配列番号2]および5'−GACCCCGAGGACAAAGGTG−3'[配列番号3]、蛍光プローブについては6−FAM−5'−CCCAAGCACCACCAATGGGAGGA−3'−BHQ1[配列番号4]であった。
【0190】
百日咳毒素アッセイ
hCAP18/LL−37により誘導される上皮細胞の増殖刺激の媒介にFPRL1が関与するかを評価するため、HaCaT細胞をGタンパク質共役受容体阻害剤である百日咳毒素で処理した。細胞を、百日咳毒素(Sigma−Aldrich,Switzerland)と共に事前インキュベートし、24時間後に毒素終濃度20ng/ml下でLL−37処理を行った。培地を細胞播種の48時間後に交換し、HaCaT細胞を、合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドを1mlあたり5または10μg含む培地(DMEM+5%FCSおよびPEST)それぞれ100μlで処理した。DMEM+5%FCSおよびPESTのみで処理した細胞をコントロールとして用いた。
【0191】
LL−37処理したHaCaT細胞におけるリン酸化型ERK1/2のアッセイ
HaCaT細胞を10%コンフルエンスで播種し、0.2%FCS含有DMEM中で36時間維持した。さらに48時間、細胞を1%または5%FCSをそれぞれ含有するDMEM中、LL−37 10μg/mlの存在下または非存在下で、毎日培地を交換しながら培養した。EGF 10ng/mlをポジティブコントロールとして用いた。リン酸化型ERK1/2の発現は、マウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technology,Beverly MA)を用いるウェスタンブロット分析によって評価した。
【0192】
統計分析
値は平均細胞数またはカウント/毎分(CPM)プラスマイナスSDで表す。グループ間の比較は、両側t検定によって分析した。結果は、P値<0.05で統計学的に有意であるとみなした。腫瘍における発現の分析については、片側t検定を有意水準<0.05でhCAP18タンパク質レベルについて行った。
【0193】
結果
hCAP18/LL−37は乳癌において発現される
患者の詳細を表2に記載する。
【0194】
インサイチュハイブリダイゼーションによって、健常者コントロール由来の乳房組織(図1)および非病変乳癌(示さず)においてhCAP18 mRNAの小さなシグナル(示さず)およびhCAP18タンパク質の弱い免疫反応が見られた。全ての乳癌組織は、腫瘍細胞においてhCAP18に対する免疫反応を示したが、ストローマにおいては示さなかった(図1a、c、d)。腫瘍細胞集団はhCAP18の免疫反応性に関しては均質でなく、強陽性細胞が、検出可能なhCAP18を欠く細胞近辺で見出された(図1c)。カセリン組換えタンパク質による免疫吸着は、hCAP18の免疫反応を消滅させた(図1e、f)。インサイチュハイブリダイゼーションにより、hCAP18 mRNAに対する陽性シグナルが同じ領域において検出され、免疫組織化学により得られた発現パターンと強く一致した(図1b)。シグナル強度は同じではなく、グレードの高い腫瘍で最も強かった。センスhCAP18 cRNAプローブとハイブリダイズさせたコントロール切片は、hCAP18 mRNAに対する特異的なシグナルを生じなかった(示さず)。
【0195】
ELISAによる乳癌組織抽出物中のhCAP18タンパク質の定量は、Elston IグレードとIIグレードの腫瘍の間では相違ないが、悪性度が最も高い腫瘍においてはhCAP18レベルがはっきりと高いことを明らかにした(表2)。Elston IIIグレードの腫瘍と残りの腫瘍との間の差は統計学的に有意であった(p<0.01)。13のグレードIII腫瘍のうちの10が5ng/mg総タンパク質のhCAP18濃度に達したまたはそれを超過した。残りの18の腫瘍サンプルではわずか2つしかこのレベルに到達しなかった。アッセイした健常な乳房組織のうちの4検体もまた、Elston IまたはII腫瘍と同様のレベルに到達した。ELISAによって得られた発現パターンを検証するため、本発明者らは4の正常サンプルおよび4の腫瘍に対してリアルタイムPCRを行った。転写物の定量の結果は、タンパク質の発現に関するデータと合致するものであった(表2)。
【0196】
免疫ブロッティングによって、調査した全ての腫瘍および正常な乳房組織が、インタクトな未プロセシング型の18kDaホロタンパクに対応する免疫反応バンドを示した(図2)。5つの調査したグレードIII腫瘍(表2、サンプル6〜10)のうちの4つにおいて、本発明者らはプロセシング型hCAP18タンパク質であるLL−37に対応するバンドも検出した(図2)。使用した抗血清は、hCAP18ホロタンパクに対して惹起されたものであり、カセリンペプチドに対してアフィニティ精製されたものである10にもかかわらず、高濃度のLL−37を検出した。
【0197】
hCAP18/LL−37は上皮細胞の増殖を亢進する。
hCAP18(hCAP18/E)発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293およびHaCaT細胞は、EGFPのみを発現するベクター(E)でトランスフェクトしたコントロール細胞よりも有意に高い増殖率を示した(図3AおよびB)。トランスフェクトしたHEK293およびHaCaT細胞由来のタンパク質抽出物の免疫ブロッティングによって、本発明者らは、これらのhCAP18ベクター含有細胞がホロタンパクを産生し(図3AおよびB)、LL−37に対応する4kDの免疫反応バンドが細胞培地中で検出される(データは示さず)ことを確認した。さらに、5%ウシ胎仔血清下で培養し10μg/mlの合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドで処理したHaCat細胞は、有意な細胞増殖の亢進を示した(図4)。
【0198】
【表4】
【0199】
【表5】
【0200】
LL−37受容体FPRL1は乳癌において発現される
Gタンパク質共役受容体FPRL1は、真核生物細胞におけるLL−37により誘導される効果を媒介することが示されており4,5、本実験の設定下でのその潜在的役割を評価するため、本発明者らは乳房組織におけるFPRL1タンパク質の発現を調査し、乳癌細胞および正常な腺上皮の両方においてFPRL1に対する強い免疫反応を確認した(図5a、b)。免疫ブロッティングは、FPRL1が両方の組織で発現されることを確認した(図5c)。さらに、hCAP18のトランスジェニック発現は、HaCaT細胞におけるFPRL1 mRNAの発現を有意に増加させ(図5d)、これによりhCAP18/LL−37のシグナル伝達におけるFPRL1の関与がさらに支持された。しかし、百日咳毒素によるHaCaT細胞の事前処理はこれらの細胞の増殖を排除せず、およそ50%抑制し(示さず)、これによりFPRL1がこれらの細胞におけるhCAP18/LL−37の成長刺激効果の媒介に関与する唯一の存在ではないことが示された。上皮細胞の増殖の活性化におけるERK1/2の関与の可能性を試験するため、本発明者らはHaCaT細胞を合成性の生物学的に活性なLL−37で処理したがERK1/2の有意な活性化は見られず、これによりEGFRがHaCaT細胞の増殖に対するLL−37の刺激効果の媒介に関与しないことが示された。
【0201】
考察
本研究において、本発明者らは、hCAP18/LL−37が正常な乳腺上皮において構成的に産生されることを実証した。このことは、ヒトにおける抗細菌バリアによる保護におけるLL−37の役割と合致し、LL−37の低い構成的発現が正常な静穏状態の上皮において見られ、それに対して顕著な発現が傷害および炎症に関連して見られるという以前の報告7-10に沿うものである。抗細菌ペプチドの構成的発現は、汗腺におけるヒトカセリシジンLL−37、マウス唾液腺におけるカセリシジンCRAMP、およびヒト唾液腺におけるベータ−ディフェンシンのように、これまでに様々な外分泌腺において検出されている21-23。乳腺におけるヒトベータ−ディフェンシン2(hBD−2) mRNAの発現は1998年にBalsらによって報告され、最近他のグループが授乳期でない女性の乳腺組織ならびに授乳期の乳房組織および母乳において構成的なhBD−1の発現を見出した24-26。
【0202】
興味深いことに、hCAP18の産生は、グレードの高い腫瘍の乳房上皮において、正常な乳房上皮またはグレードの低い腫瘍と比較して最も顕著に増加した。しかし、hCAP18の発現は、普遍的でも均一でもない、すなわち全ての癌細胞がhCAP18陽性というわけではないが、明らかに陽性の細胞が検出可能なhCAP mRNAおよびタンパク質を欠く細胞の近辺で見出され(図1c)、その発現の程度は全ての腫瘍タイプにおいて細胞間で大きく異なるものであった。このことは、腎細胞癌におけるヒトアルファディフェンシンに関して示唆されているような27、複雑であるが厳密な制御下にあるhCAP18の調節を反映していると考えられる。
【0203】
本発明者らの研究において、最も高いhCAP18/LL−37レベルが、最も高い組織学的グレードを有する腫瘍から検出された。高いグレードの腫瘍と低いグレードおよび正常な乳房組織の間のhCAP18発現の差は統計学的に有意であるが、緊密な相関関係は認められていない。全てのグループの中には、健常サンプルのレベルでhCAP18を発現する腫瘍が存在し、グレードI腫瘍のうちの二つは、それ以外ではグレードIII腫瘍でのみ観察される比較的高い発現を示した。しかし、サンプル数の限界を考慮すれば、本発明者らの観察は、悪性の程度とhCAP18/LL−37の発現の間の潜在的相関関係を示唆するものと言える。乳癌におけるhCAP18の過剰発現はhCAP18の調節に影響する細胞内経路における欠陥に起因するものかもしれず、hCAP18の発現は腫瘍に成長する上での優位性を提供するものではなくこれらの変化を反映するものであると反論する者もいるかもしれない。しかし、本明細書中に記載されるインビトロ研究と併せて考慮すれば、本発明者らはこれらのデータが腫瘍の成長の促進におけるLL−37の潜在的役割を指摘するものであると考える。
【0204】
高いhBD−2タンパク質濃度ならびにヒトアルファ−およびベータ−ディフェンシンの両方に対する顕著な免疫反応が様々な口腔癌において見出されており、これらの抗細菌ペプチドのレベルの上昇が感染および/またはサイトカインによる刺激の結果であり得ることが示唆されている28-30。他の研究は、昆虫から単離された抗細菌ペプチド、例えばメリチンおよびセクロピン関連ペプチドが哺乳動物の腫瘍細胞に対して抗腫瘍効果を発揮することを提唱している31-34。さらに、ヒト膀胱癌細胞株へのセクロピンおよびメリチンのコード配列のベクター媒介送達およびそれらの発現は、ヌードマウスにおいて腫瘍原性を抑制した11。同様に、ブタカセリシジンPR−39のトランスジェニック発現は、ヒト肝細胞癌の浸潤能を低下させた12。
【0205】
抗細菌ペプチドの多機能的役割は徐々に明らかになりつつある。直接的な膜効果を通じた病原体不活性化に加えて、LL−37はインビボで走化性効果を発揮し、ヒト好中球、単球、T細胞サブセット、およびマスト細胞の移動を誘導する4,35,36。この走化活性は、百日咳毒素感受性の膜結合型Gタンパク質共役受容体であるFPRL1に対するLL−37の結合に依存する4。hCAP18/LL−37について示唆されているさらなる機能には、皮膚の創傷部の再上皮形成および新血管新生を促進することによる上皮の修復および血管新生における役割が含まれる5,10。
【0206】
従って、本明細書に示される乳癌細胞における顕著なhCAP18/LL−37の発現は、これらの腫瘍細胞の成長上の優位性を反映するものである。この学説を試験するため、本発明者らはhCAP18発現ベクターでヒト上皮細胞株HEK293およびHaCaTをトランスフェクトし、トランスフェクト細胞の増殖の有意な増加を確認した。さらに、合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチドは、HaCaT細胞の増殖を有意に増加させた。これらの知見は、抗細菌ペプチドについて提唱されている抗腫瘍効果と明確に相反するものであるが、ヒトアルファディフェンシンが腎細胞癌(RCC)の進行を調節する可能性があるとするMuellerらによる最近の知見と合致する。これらのディフェンシンは、RCCの腫瘍細胞および正常な腎臓の尿細管上皮において見出され、生理学的濃度で腫瘍細胞の増殖を刺激した27。
【0207】
本発明者らのインビトロ研究は、LL−37が、部分的にFPRL1を通じて、上皮細胞の増殖を刺激することを示唆している。百日咳毒素によるこの受容体のブロックが外因性のLL−37の増殖効果をおよそ50%低下させるからであり、このことはおそらく他の受容体の関与も示しているからである。最近の研究で、LL−37が、上皮増殖因子受容体(EGFR)のトランス活性化を通じたマイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル調節キナーゼ(MAPK/ERKキナーゼ=MEK)の活性化により気道上皮細胞を活性化することが示唆された37。
【0208】
結論としては、本明細書中に示される結果はLL−37が腫瘍の成長を促進することを示しているということである。
【0209】
参考文献
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【0210】
実施例B − エストロゲン受容体(ER)およびリンパ節(N)陽性乳房腫瘍におけるhCAP18/LL−37の発現増加
材料および方法
RNAを、140の乳房腫瘍および4の非病変乳房組織サンプルから抽出し、プライマーとしてランダムヘキサマーを用いて逆転写した。hCAP18転写物の発現は、(上記の)標準的なプロトコルに従いcDNA 10ngを用いるリアルタイムPCRにより測定した。
結果および考察
結果を図6に示す。非病変サンプルの平均発現値を裁量で1に設定した。平均および偏差はAnova統計法によって評価した。
hCAP18の発現は、リンパ節が形成されたER陽性腫瘍において、リンパ節を有さないものよりも有意に(約5倍)高かった。
【0211】
実施例C − hCAP18/LL−37活性を阻害する薬剤の同定
hCAP18/LL−37の腫瘍の進行への寄与の様々な局面、すなわち周知のシグナル伝達経路の誘導、細胞増殖の刺激およびアポトーシスの抑制、コロニー成長および足場非依存的成長の刺激、基底膜を通じた浸潤の刺激、最後にマウスにおける腫瘍の成長および転移形成の増強を実証するために、多くの確立されたインビトロおよびインビボアッセイを使用することができる。
これまでに原発性ケラチノサイトおよび上皮細胞株におけるhCAP18/LL−37から得られた上記の特徴はまた、乳癌細胞株においても実証することができる。適当な標的細胞株は、hCAP18を発現しない悪性度の低いエストロゲン受容体陽性細胞株MCF−7である。上記の局面を調査するため、組換えプラスミドからhCAP18を発現するMCF−7の亜株を樹立した。hCAP18タンパク質のオートクリン活性とLL−37のパラクリン活性は異なるものなので、実験の性質上許容される場合は、インビトロアッセイを、細胞内での内因的産生の代わりに、LL−37の外因的添加によっても行われる。
【0212】
上記の実験は、hCAP18/LL−37の腫瘍形成能全体を評価するものであるが、抗hCAP18/LL−37活性を有する薬剤によるこれらの効果の阻害を実証するためにさらなる実験を行うことができる。例えば、合成された活性なタンパク質LL−37は、抗体による阻害のための標的とみなすことができる。さらに、このタンパク質の産生は、プロモーターのブロックを通じてhCAP18遺伝子の転写を阻害することによっておよびRNA干渉による転写物の転写後ダウンレギュレーションによって妨害することができる。
【0213】
従って、作用のメカニズムおよび標的を実証するためインビトロで、および体内での効果を実証するためマウス内の腫瘍においてインビボでの両方で実験が行われ得る。このようなインビトロ実験は、上記のMCF−7亜株において行われ得る。hCAP18遺伝子の調節実験については、hCAP18を低度であるが明確に検出できるレベルで発現する乳癌細胞株ZR75−lが使用される。
【0214】
以下に記載する実験においては、そうでないことが明記されない限り、以下の条件を使用した:細胞を、10%ウシ胎仔血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地中で増殖させた。トランスジェニック株用の培地は、トランスジーンを維持するために、150μg/mlハイグロマイシンおよび400μg/mlジェネティシンを含有するものとした。3日未満継続する実験については、細胞を使用する24時間前に抗生物質を取り除き、ウシ胎仔血清の濃度を、各々の特定の実験に必要な濃度に調整した。LL−37は2μMの濃度で添加した。
【0215】
細胞増殖の刺激(Heilborn 2005を参照のこと)
トランスジェニック細胞株および細胞株を70%コンフルエンスで回収し、96ウェルプレートの10%FCS含有DMEM中に、ウェルあたり2000個になるよう播種した。24時間後、培地を、LL−37を添加したまたは添加しない、5%FCS含有培地に交換した。24時間の培養後、細胞を1μCi/ウェルの[3H]チミジン、20Ci/mmolで12時間処理し、ガラス繊維フィルター(Wallac,Turku,Finland)上に回収した(Harvester 96;Tomtec,Orage,CT)。[3H]チミジンの取り込みを、液体シンチレーションカウンター(Microbeta Plus,Wallac)を用いて測定した。本実験の統計学的有意性を確認するため、各条件/細胞株につき24のウェルを使用した。
【0216】
細胞成長アッセイ(Lu 2005,Ludes−Meyers 2002を参照のこと)
このアッセイは、hCAP18/LL−37による細胞増殖の刺激を決定するため、[3H]チミジン取り込みアッセイの補足として行った。MCF−7亜株を、各時点につき三連で、50細胞/mm2(6ウェルプレートにおよそ50000細胞/ウェル)の密度になるようプレーティングした。総細胞数を血球計数器で2日毎に計数した。細胞の生存性をトリパンブルーを用いて評価した。
【0217】
hCAP18/LL−37によるアポトーシスの阻害
アポトーシスの誘導ために、細胞を、5%FCSを含む6ウェルプレート培地に25000細胞/ウェルとなるよう播種し、6μMのトポイソメラーゼI阻害剤カンプトテシン(CAM)(Sigma Chemical Co.,St.Luis,MO)で24時間処理した。
hCAP18/LL−37によるアポトーシスの抑制を確認するため、二つのアポトーシスパラメータ、DNA含有量およびカスパーゼ−3活性を評価した。全ての実験は、統計学的有意性を確保するため、6回行った。
【0218】
フローサイトメトリーによるDNA含有量の分析(Warburton 2005を参照のこと)
ヨウ化プロピジウム(PI)/RNase染色緩衝液(Becton Dickinson,San Jose,CA)をこの分析に使用した。トリプシン処理した細胞を冷やした70%(V/V)エタノール中で固定し、使用するまで4℃で保存した。DNA含有量は、DNAへのPIの取り込みを通じて測定した。蛍光分析はFACScanフローサイトメーター(Becton and Dickinson,Mountain View,CA,USA)を用いて行った。粒子のFCS(前方散乱光)およびSSC(側方散乱光)を同時に測定し、細胞のサイズおよび粒度を測定した。PIで染色された核の赤色蛍光をFL−4ウィンドウ(600nmバンドパスフィルターおよび35nmバンド幅)で検出した。蛍光強度は細胞のDNA含有量に比例する。各ヒストグラムを2つの部分:(1)非同調性、非アポトーシス性の生存細胞(2N〜4Nに相当するDNA含有量を有するG1、S、およびG2期の細胞)を表すM1領域;ならびに(2)生存細胞よりもDNAの量が少ないアポトーシス細胞を表すM2領域、に分けた。
【0219】
カスパーゼ−3活性アッセイ
カスパーゼ−3酵素活性は、蛍光基質VDVAD−AMC(100μM)およびDEVD−AMC(50μM)を用いて測定した。細胞溶解産物を反応緩衝液(100mM HEPES、10%スクロース、5mMジチオトレイトール(DTT)、10〜6% NP−40、および0.1% CHAPS、pH7.25)中に集め、これをマイクロタイタープレートに移した。蛍光発生基質の切断は、Fluoroscan IIプレートリーダー(Labsystems,Stockholm,Sweden)においてAMBの遊離により観察した。蛍光単位を、遊離のAMCから作成した標準曲線を用いてAMCのpmolに変換した。データは線形回帰法により分析した。
【0220】
コロニー形成アッセイ(Ludes−Meyers 2002,Wang 2005を参照のこと)
このアッセイは、細胞が、支持体となる周辺細胞の非存在下で持続的に増殖する能力を測定するために使用した。この特性は、細胞が腫瘍を形成する能力を反映するものと考えられている。
トランスジェニック細胞をサブコンフルエント状態で維持し、最大70%コンフルエンスでトリプシン処理し、次いで5、10、および25細胞/ml増殖培地の濃度まで希釈した。細胞を3〜7日間増殖させ(基本的には3〜4回の倍加に十分な時間)、コロニーあたりの細胞数を計測した。組換えプラスミドから緑色蛍光タンパク質を発現させる場合は、細胞およびコロニーを蛍光顕微鏡下で計数することができる。コロニー形成の結果をコロニー毎の蛍光細胞の分布として表し、ウイルコクソンの順位和検定を用いて培地中のLL−37の存在下および非存在下での異なるトランスジェニック株間の分布を比較した。MCF−7細胞はβ−エストロゲンのみの存在下で腫瘍を形成することが知られているので、トランスジェニック細胞の成長に対する1〜5nMエストロゲンの効果をアッセイすることができる。
【0221】
足場非依存的増殖アッセイ(Fiucci 2002を参照のこと)
このアッセイは、細胞が転移を形成する能力を反映するものである。細胞を、300u/mlトリプシン、20u/mlエラスターゼ、および1mM EDTAの混合物による処理により調製した。エラスターゼの存在は、細胞が単細胞懸濁物に分散するのを促す。細胞を増殖培地中に懸濁し、溶融した0.7%Seaplaque低融解温度アガロースを含有する増殖培地と1:1混合し、終濃度500細胞/mlおよび0.35%アガロースとした。この混合物1mlを、6ウェルプレート中、固体培地/0.6%アガロースの2ml層の上からプレーティングした。この細胞に、3〜4日毎に、増殖培地100μlを与えた。2週間後、培養物の上層を0.2%p−ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(Sigma)で染色し、100μM径よりも大きなコロニーを計数した。このアッセイは三連で行い、これを二回繰り返した。
【0222】
浸潤の誘導(Fiucci 2002を参照のこと)
マトリゲルは基底膜とみなされ、EHS肉腫から製造される。マトリゲルは基底膜成分(コラーゲン、ラミニン、およびプロテオグリカン)だけでなく、マトリクス分解酵素/それらの阻害剤および増殖因子も含有する。腫瘍細胞のマトリゲルへの浸潤は、腫瘍の進行において役割を果たす細胞外マトリクス受容体およびマトリクス分解酵素の関与を特徴付けるために使用されている。
【0223】
マトリゲルを冷やした無血清増殖培地で2mg/mlに希釈し、100μlを24ウェルのトランスウェルの上チャンバにプレーティングし、ゲル化のために37℃で一晩インキュベートした。細胞を回収し、1%FCSを含有する培地中に106/mlの密度になるよう懸濁した。マトリゲルを暖めた無血清培地で洗浄した後、細胞懸濁物100μlを上チャンバにプレーティングした。下チャンバを、化学誘引物質として馴らし培地を含有する増殖培地600μlで満たした。このチャンバを細胞インキュベーター中で6時間〜24時間インキュベートした。トランスウェルを染色し(Diff−Quick染色液、Fisher Scientific)、非浸潤細胞を綿棒でかき取った後、浸潤細胞を光学顕微鏡下で計数した。
【0224】
SCIDマウスにおける腫瘍の増殖(Wang 2005 Warburton 2005を参照のこと)
サブコンフルエントに培養した細胞を回収し、冷やしたPBSに2.5×107細胞/mlとなるよう懸濁した。その一部200μlを、4〜6週齢の雌のSCIDマウスの脂肪体または尾静脈に皮下注射した。MCF−7細胞の腫瘍形成は一般的にエストロゲンに依存するので、60日間にわたってβ−エストラジオールを一日あたり1.7mg放出するペレットを皮下移植した。このマウスを週に二回触診し、最初の触診可能な腫瘍が生じた日時を記録した。腫瘍の増殖はマニュアルで観察し、遅くとも腫瘍の直径が1cmになるまでにマウスを屠殺した。腫瘍の数、サイズ、分布を記録した。マウスを切開することによって小さな転移を検出し、組換えプラスミドから発現されたGFPからの蛍光を誘導するためこれをスキャンした。さらに、脾臓および肝臓をコラーゲン処理し、単細胞懸濁物をFACSソーターにおいて評価し、蛍光細胞の数を測定した。
【0225】
hCAP18転写アンタゴニストを用いる阻害研究(Agarwal 1998,Andela 2004,Toell 2001,Ishizuka 2005,Weber 2005を参照のこと)
現在知られているhCAP18転写の最強の誘導因子はビタミンDである。ビタミンD受容体は、hCAP18プロモーターの応答エレメントに結合することによってhCAP18転写を直接活性化する。このような小さな分子がhCAP18の発現を制御することができるのであるから、阻害性化合物を体系的にスクリーニングするのも有意義である。初期研究は、エストロゲンおよびその代謝産物のいくつかが効果を有さないことを示した。ビタミンAは皮膚のケラチノサイトにおける転写を阻害するが、乳癌細胞株ZR−75−1における転写を刺激する。これらの知見に基づけば、ビタミンDアンタゴニスト、例えばZK159222(Schering AG)およびTEI−9647(Tejin Institute for Medical Research,Tokyo)、ならびにビタミンAアンタゴニスト、例えばAGN193109(Allergen Pharmaceuticals)が、本発明の方法において使用するための薬剤候補となる。
【0226】
hCAP18転写阻害剤のスクリーニング(Weber 2005を参照のこと)
ZR75−1細胞を25%コンフルエンスでプレーティングし、イソプロパノールまたはDMSO中に100μMとなるよう溶解させた阻害剤候補、終濃度100nMで処理した。24時間後、RNAをQiagen RNeasyキット(Operon Biotechnologies,Cologne,Germany)を用いて抽出し、第一鎖合成キット(Amersham Biosciences,Norwalk,CT)を用いて逆転写した。RNAは、ABI Prism 7700(Applied Biosystems)にて標準的なプロトコルに従いcDNA 5ngを用いるリアルタイムPCRにより定量した。サンプルは三連で評価した。配列は、プライマーについては5'−GTCACCAGAGGATTGTGACTTCAA−3'[配列番号2]および5'−TTGAGGGTCACTGTCCCCATA−3'[配列番号3]であり、蛍光プローブについては6−FAM−5'−CCGCTTCACCAGCCCGTCCTT−3'−BHQ1[配列番号4]であった。サンプルは18S−RNA(Assay on Demand,Applied Biosystems)の定量により正規化した。
【0227】
阻害の調節機構を調査するため、プロモーターの活性を、hCAP18プロモーターがルシフェラーゼレポーター遺伝子を制御する組換えプラスミドを使用することによって測定した。ZR75−1細胞を25%コンフルエンスで6ウェルプレートにプレーティングし、ウェルあたり、jetPEI(qBiogene)6μlと複合体化させたレポータープラスミド3μgを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションから14時間後、阻害剤を上記の通りに添加した。24時間後、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性をアッセイ系(Promega)を用いて測定した。この活性を、共トランスフェクトしたプラスミド(pEF1/lacZ,Invitrogen)200ngから発現されたβ−ガラクトシダーゼに対して正規化した。各実験を少なくとも二度、各アッセイにつき三連で行った。
【0228】
転写後阻害研究(Wang 2005,Zhang 2005,Roh 2000を参照のこと)
現時点で最も有効な転写後阻害はRNA干渉であり、これは標的mRNAの配列特異的、触媒的分解を誘導することを基礎とするものである。転写物中の最も有効な標的部位は、最も簡単な手法では、低分子干渉RNAをトランスフェクトする細胞株においてスクリーニングすることができる。RNA干渉の効果は定量PCRおよびウェスタンブロット分析によって観察する。次いで好適な標的部位であれば、腫瘍部位において標的分子を発現するよう設計された組換えベクターにおいて発現させることができる。
【0229】
低分子干渉RNAは、hCAP18のコード配列に基づき設計および合成する。このRNAは二本鎖の19マーおよびいずれかの末端における2塩基のdTdTオーバーハングからなる。最も簡単な手法では、その設計に、標的部位が予め選択されている市販のsiRNAデータベースを使用することができる(hCAP18については、例えばAmbion社のsiRNA14586番、14402番、146365番)。非特異的反応、例えばインターフェロン関連経路を回避するため、ZR75−1細胞またはトランスジェニックMCF−7細胞を最大終濃度10nMのsiRNAでトランスフェクトした。コントロールsiRNAは、標的配列内に2〜3個のミスマッチを含むものであった。細胞をトランスフェクションから24〜72時間後に回収し、hCAP18の発現を上記のようなリアルタイムPCRおよび定量ウェスタンブロット分析により測定した。ウェスタンブロット分析においては、上記のように、タンパク質をSDS含有サンプル緩衝液中で抽出し、15%Tris−Glycineゲル上で分離し、ニトロセルロースフィルター上に電気ブロットした。フィルターを3%ポンソーSで可逆的に染色し、その後に1/1000希釈のアフィニティ精製した抗LL−37抗血清と共にインキュベートした。増感化学発光を用いたHRP結合型二次IgGからのシグナルを捕捉し、上記の通りに評価した。
【0230】
hCAP18発現に対する最も有効な転写阻害剤のためにインビボ実験を設定した。12匹のマウスに、トランスジェニックhCAP18を発現するMCF−7細胞を注射した。マウスの半数に対して、50μlオリーブ油(Sigma)に溶解した阻害剤30mgを毎日皮下注射により与えた。腫瘍形成の始期、サイズ、および分布を上記の通りにアッセイした。インビボアプローチにおいて有効なsiRNAは、hCAP18の発現を少なくとも90%ダウンレギュレートするものとすべきである。
【0231】
マウスにおける腫瘍形成を妨げるためには、hCAP18発現のダウンレギュレーションを数週間維持することが必要であった。毎日多量のsiRNAを尾静脈に注射することも可能であることが分かったが、治療アプローチとしては現実的でないように思われる。代替法は、組織/腫瘍細胞におけるsiRNAの安定的な発現である。後に細胞内でsiRNAに変換されるRNAをヘアピンとして発現するプラスミドが開発されている(例えばpSuper,OriGene Inc)。本発明者らによる初期アプローチにおいて、上記実験により決定された標的siRNA配列をpSuperにクローニングし、マウスへの移植前にこの構築物で腫瘍細胞をトランスフェクトした。治療アプローチ、すなわち腫瘍形成後の発現ベクターの送達は、現時点では確立されていないが、この目的では、リポソームによるプラスミドの送達ならびにレトロウイルスおよびアデノウイルス発現ベクターの構築が世界中で研究されている。
【0232】
RNAiの代替法は、「古典的」なアンチセンスアプローチである。標的転写物に相補的な20〜3bp長の単鎖オリゴヌクレオチドを細胞培地に直接添加またはマウスに注射する。オリゴヌクレオチドの骨格は、通常、その分解を防ぎ、いかなるキャリア基質にもよらないで取り込みを促進するよう修飾する。しかし、この方法は、阻害メカニズムが非触媒的なものであるため高用量を必要とし、かつ骨格修飾は細胞毒性の非特異的な副作用を増加させる。マウス実験において、典型的な投与範囲は100〜500μg/動物/日である。
【0233】
抗体によるLL−37活性の阻害(Warburton 2005を参照のこと)
ニワトリ抗体を作製し、ラージスケールで、計画した実験に十分な量をアフィニティ精製した。LL−37に対する抗体は、LL−37の活性を阻害することができることが以前に示されている。従ってインビトロ実験は不要とした。
インビボ実験のために、上記の通りにマウスにおいて腫瘍を誘導した。腫瘍が触診可能になったら抗体を週に二度注射し、開始時には1〜100mg/kgの抗体を用いた。
【0234】
次いで、腫瘍の進行に対する抗体の効果を評価した。
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【0235】
実施例D − ヒト抗細菌ペプチドLL−37はヒトケラチノサイト培養物においてアポトーシスを阻害しアポトーシスタンパク質阻害因子(IAP−2)の発現をアップレギュレートする
導入
カセリシジンは、多くの哺乳動物種において見られる抗細菌ペプチドのファミリーである。これらは、高度に保存されたアミノ末端ドメイン、カセリン、およびタンパク分解により遊離することによって抗細菌活性を得る可変性カルボキシ末端ドメインからなる(1,2)。このファミリーの唯一のヒトメンバーである18kDaヒト陽イオン性抗細菌タンパク質(hCAP18)は、主として好中球、いくつかの上皮および粘膜細胞(皮膚、気管支、頬側粘膜、食道(sophagous)、頸、膣、精巣上体(epidimus)、および唾液腺)により産生される(3〜8)。そのC末端37アミノ酸ドメインであるLL−37は、膜安定性の破壊を通じて(11,12)幅広い微生物に対する抗細菌活性を示す(9,10)。
【0236】
抗細菌機能に加え、このペプチドは他の生物学的活性、例えば血液および上皮細胞における走化性およびサイトカイン放出(8,13)、上皮細胞増殖の誘導(14)、ならびに血管新生(15)への関与が指摘されている。最近の研究は、LL−37が創傷治癒時に高度に発現され、ヒトケラチノサイトのインビトロ増殖に影響し、創傷の再上皮化(re−epithelization)に関与することを示している(16,17)。
【0237】
材料および方法
細胞培養
包皮上皮ケラチノサイトをCascade Biologics(Cascade Biologics,Eugene,OR)から入手し、0.06mMカルシウム、0.2%v/v BPE、5μg/mlウシインスリン、0.18μg/mlヒドロコルチゾン、5μg/mlウシトランスフェリン、0.2ng/mlヒト上皮増殖因子、100U/mlペニシリンG、100μg/ml硫酸ストレプトマイシン、および0.25μg/mlアンホテリシンB(全てCascade Biologics)を補充したEpilife基本培地(Cascade Biologics,.)中、37℃および5%CO2下で培養した。細胞を、0.025%(w/v)トリプシンおよび0.01%(w/v)EDTA(Cascade Biologics)を用いて毎週継代した。
【0238】
HaCaTケラチノサイトは、10%ウシ胎仔血清(hyClone,Boule Nordic AB Huddinge,Sweden)、2mMグルタミン、ペニシリン(50U/L Gibco−BRL)、およびストレプトマイシン(50mg/ml,Gibco−BRL)を補充したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地;Gibco−BRL Technology,Paisley,UK)中で培養した。
【0239】
細胞の処理
25,000細胞/ウェルを6ウェルプレート培養皿にプレーティングした。プレーティングから48後、細胞を0、0.23、0.46、0.69、0.9、1.15、2.3、4.6、および11.5μM LL−37で処理した。その配列を以下に示す。
【表6】
【0240】
各々の処理を三連で行った。ペプチドは培地(HaCat細胞に対してはDMEM 5%FCSおよびHEKn細胞に対しては0.1%FCSを補充したEpilife基本培地)で希釈した。細胞は計24時間の間処理した。LL−37刺激後、ジメチルスルホキシド中のトポイソメラーゼI阻害剤カンプトテシン(CAM)(Sigma Chemical Co.,St.Luis,MO)を終濃度6μMとなるよう細胞に添加した。細胞を分析前にさらに24時間インキュベートした。
【0241】
フローサイトメトリーによるアポトーシスの評価
二つのアポトーシスパラメータ、膜完全性の喪失およびDNAの減少をフローサイトメトリーにより評価した。
膜完全性の評価:LL−37刺激およびCAM処理後、細胞をトリプシン処理により回収した。次いで細胞を冷やしたダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、血球計算器(Hausser Scientific,Horsham,PA)で計数した。細胞密度をPBS中1×106細胞/mlに調整した。アポトーシスは、ヨウ化プロピジウムおよびYO−PRO−1色素(Molecular Probes,Eugene,OR)で染色することによって検出した。染色された細胞をFACScan(Beckton−Dickinson,San Jose,CA)で分析した。細胞を、分析のために、前方散乱光(FCS)および側方散乱光(SSC)の特性に基づきゲーティングした。YO−PROおよびヨウ化プロピジウム(PI)を示す細胞の分析は、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて行い、YO−PROおよびPI陽性細胞の比率を得た。YO−PROによって緑色に染色された細胞をアポトーシス性であるとみなした。ヨウ化プロピジウムによって赤色にも染色された細胞は壊死性であった。生存細胞はほとんどまたは全く色素を取り込まない。
【0242】
フローサイトメトリーによるDNA含有量の分析:PI/RNase染色緩衝液(BectonDickinson)をこの分析に使用した。トリプシン処理した細胞を冷やした70%(v/v)エタノールで固定し、使用するまで4℃で保存した。DNA含有量は、DNAへのヨウ化プロピジウムの取り込みを通じて測定した。蛍光分析は、FACScanフローサイトメーター(Becton and Dickinson,Mountain View,CA,USA)を用いて行った。粒子のFCS(前方散乱光)およびSSC(側方散乱光)を同時に測定し、細胞のサイズおよび粒度を測定した。PIで染色された核の赤色蛍光をFL−4ウィンドウ(600nmバンドパスフィルターおよび35nmバンド幅)で検出した。蛍光強度は細胞のDNA含有量に比例した。各ヒストグラムを2つの部分:(1)非同調性、非アポトーシス性の生存細胞(2n〜4Nに相当するDNA含有量を有するG1、S、およびG2期の細胞)を表すM1領域;ならびに(2)生存細胞よりもDNAの量が少ないアポトーシス細胞を表すM2領域、に分けた。
【0243】
カスパーゼ−3活性アッセイ
カスパーゼ−3酵素活性は、上記のように蛍光基質VDVAD−AMC(100μM)およびDEVD−AMC(50μM)を用いて測定した。簡単に説明すると、細胞溶解産物を反応緩衝液(100mM HEPES、10%スクロース、5mMジチオトレイトール(DTT)、10〜6% NP−40、および0.1% CHAPS、pH7.25)中に集め、これをマイクロタイタープレートに移した。蛍光発生基質の切断は、Fluoroscan IIプレートリーダー(Labsystems,Stockholm,Sweden)においてAMBの遊離により観察した。蛍光単位を、遊離のAMCから作成した標準曲線を用いてAMCのpmolに変換した。データは線形回帰法により分析し、毎分のAMCの遊離pmolとして表した。
【0244】
RT−PCR
総RNAを、Quiagen RNasyキット(Operon Biotechnologies,Cologne,Germany)を用いることによって、製造元の指示に従う様々な処理の後に細胞から単離した。逆転写は第一鎖合成キット(Amershan Biosciences)を用いて行った。
【0245】
結果
LL−37によるCAM誘導アポトーシスの阻害
本発明者らは、アポトーシス誘導剤として広く使用されている薬物であるCAMにより誘導される細胞死およびアポトーシスに対するLL−37の効果を試験した。処理後に、膜完全性およびDNA断片化を、二つの方法を用いてフローサイトメトリーにより分析した。一つ目の方法は、細胞膜の透過性の亢進を判別することができる二色染色系であり;未処理細胞を染色強度について分析し(図7)、三つの類型:生存性の非染色細胞、アポトーシス性のYO−PRO染色細胞、ならびにYO−PROおよびPIの両方で染色された壊死性細胞に分類した。二番目の方法においては、エタノール透過処理細胞中のDNA含有量をPIによって分析した。アポトーシス細胞は、断片化によりDNA量の低下を示す。
【0246】
HaCat細胞およびHEKn細胞においてアポトーシスを誘導する用量および時間を選択するため、事前に濃度・時点実験を行った(データは示さず)。24時間の間CAM 6μMに被曝させた場合、HaCatおよびケラチノサイトは両方ともアポトーシスに特徴的な形態学的変化、例えば膜完全性およびDNAプロフィール上の変化を示した(図7)。細胞を、24時間、LL−37単独でまたはLL−37およびCAMで同時に処理した場合、アポトーシス細胞の量における変化は観察されなかった(データは示さず)。しかし、高濃度のLL−37(4.6および11.5μM)は細胞毒性であり、アポトーシス細胞のフラクションではなく壊死性細胞のフラクションを増加させた。同時処理の代わりに細胞をLL−37に24時間被曝させた後にCAMによりアポトーシスを誘導した場合、結果は異なるものになった。0.23μM〜2.3μMの濃度で、LL−37はHEKn細胞およびHaCaT細胞においてDNAの断片化および膜透過性の喪失の両方を阻害した(図7および8)。これらの条件下において、LL−37は、高濃度(4.6μMおよび11.5μM)では細胞死も引き起こした。毒性濃度においてさえアポトーシス細胞のフラクションは小さいままであり、これによりLL−37による細胞死は非アポトーシスメカニズムにより起きることが示された。
【0247】
LL−37はHaCaT細胞およびHEKn細胞においてCAMによるカスパーゼ−3の誘導を阻害する
カスパーゼ−3はアポトーシス経路における重要なタンパク質の一つであり、アポトーシスの初期の指標であるので、本発明者らはLL−37処理したまたは未処理のケラチノサイトにおけるカスパーゼ−3活性を測定することを決定した。カスパーゼ活性は、ケラチノサイトにおいて、CAM処理の最初の12時間以内に有意に増加し、24時間でピークに達した。LL−37 2.3μMによる事前処理は、カンプトテシン誘導型のカスパーゼ活性化を減少させた(図9aおよびb)。これらのデータは、LL−37がヒトケラチノサイトにおいてカスパーゼ活性を減少させることによりアポトーシスを阻害することを示唆している。
【0248】
LL−37はヒトケラチノサイトにおけるIAP−2の発現を誘導する
アポトーシスタンパク質の阻害因子のメンバー(IAP)はアポトーシスの重要な調節因子であることが記載されている。このファミリーは、カスパーゼ−3の活性を阻害する能力を有する。ブタカセリシジンメンバーPR39の抗アポトーシス機能はIAP−2の発現の誘導に関連付けられている。従って本発明者らは、様々な濃度のLL−37で処理したケラチノサイトにおけるIAP−2のHEKn細胞中での発現を様々な時点でRT−PCRにより分析した。2.3μM LL−37による刺激は、刺激の6時間後〜12時間後のIAP−2 mRNAを増加させた(図10)。2.3μM未満のLL−37濃度はc−IAP−2レベルに影響しなかった(データは示さず)。
【0249】
LL−37刺激したケラチノサイトはCOX−2をアップレギュレートする。
これまでの研究は、COX−2をIAP−2発現の調節因子であると認識していた。それは、上皮細胞におけるCOX−2の阻害がIAP−2の発現を減少させるからである。従って本発明者らは、LL37 2.3μMで処理したHEKnにおけるCOX−2の発現を分析した。mRNAレベルの時間依存的な増加が確認され(図11)、12時間後に最高レベルが見られた。COX−2がLL−37刺激後のIAP−2の発現増加を媒介するのかどうかをアッセイするため、HEKn細胞を特異的なCOX−2阻害剤であるSC−791 25nMで12時間事前処理し、次いで2μM LL−37で刺激した。これらの条件下で、LL−37処理は、以前に観察されたようにIAP−2 mRNAレベルを増加させなかった(図12)。これらのデータは、LL−37が、COX−2酵素の発現の増加を通じてIAP−2レベルを増加させることを示唆している。
【0250】
考察
抗細菌ペプチドLL−37の発現増加が皮膚損傷後に見られることが報告された。このペプチドの発現は、感染予防を通じてだけでなく、様々な創傷治癒関連プロセス、例えば走化性、移動、血管新生、および再上皮化への能動的関与を通じて、創傷治癒の促進と関連する。
ここで示したデータは、LL−37が、アポトーシスに対する阻害効果を通じて、ケラチノサイトにおける細胞生存の促進にも関与することを示している。
【0251】
略語
hCAP18/LL−37、ヒトカセリシジン抗細菌ペプチド18 kDa/LL−37;IAP−2、アポトーシス阻害タンパク質−2;COX−2、シクロオキシゲナーゼ−2;VDVAD−AMC、カスパーゼ3基質;HEKn、新生児ヒト上皮ケラチノサイト;DMEN、ダルベッコ改変イーグル培地;PBS、リン酸緩衝生理食塩水。DEVDase、Asp−Glu−Val−Aspプロテアーゼ活性 CHAPS、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチル−アンモニオ]プロパン−1−スルホン酸、CAM:カンプトテシン
【0252】
参考文献
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【0253】
実施例E − EFG受容体活性に対するLL−37およびヘレグリンのコインキュベーションの効果
材料及び方法
リン酸化のウェスタンブロット分析
ERBB2、STAT3、p42/p44 MAPK(=ERK1/2)、プロトコルの概略:
この研究を通じて悪性度の低い乳癌株ZR75−1(ATCCから入手)を使用した。ZR75−1はhCAP18およびERBB2の両方を低レベルで発現する。
処理:
全ての実験を三連で行った。細胞を10%FCSを含有するOptimemで増殖させ、50%コンフルエンスで12ウェルプレートにプレーティングした。再付着後、細胞をFCS非含有のDMEM中で48時間飢餓状態に置いた。誘導実験のために、予め暖めておいたPBSに溶解させた基質を培地に加え、細胞を20分間インキュベートした。LL−37の終濃度を10μg/ml、ヘレグリンの終濃度を2または20ng/mlとした。
LL−37は自ら合成した。組換えヘレグリン−β(EGFドメイン、ac178〜241)はUpstate,Lake Placid,NYから入手した。
細胞を、ホスファターゼ阻害剤(1mM NaF+1mM Na3VO4)およびプロテアーゼ阻害剤として2mM PMSFを含有する氷冷PBSで洗浄し、上記の阻害剤を含有する200μl SDSサンプル緩衝液で溶解させた。サンプルを、標準的な手法に従いホモゲナイズし、80℃で変性させ、次いでサンプル50μlを7.5% SDS−PAGEゲルにロードし、分離し、ニトロセルロースにブロットした。
TBS/0.1% Tween 20、4% NFDM中でブロッキングした後、メンブレンを4℃で一晩、一次抗体と共にインキュベートした。
【0254】
使用した抗体は:
pERBB2(pTyr 1248、ウサギ、Upstate(cat no.06−229)、1/2000で使用 − 再利用可能
pMAPK 1/2(pThr 202/pTyr 204)、Cell Signalling Incであった。
洗浄およびHRP結合型二次抗体との2時間のインキュベーションの後、膜をECL(Amersham)で現像した。シグナルは、CCDカメラを用い、定量プログラム(Fujifilm,Tokyo)によって測定した。
化学発光シグナルをポンソー染色に対して正規化した。
一つの実験において、チロシンキナーゼ阻害剤PD153035(Merck Biosciences)を20nMから2.5μMまでの漸増濃度で添加した。
【0255】
結果
LL−37およびヘレグリンの併用処理の効果を図13に示す。定量データは図14に示す。
図13は、ZR75−1細胞における、LL−37、ヘレグリン、またはその両方による処理後のERBB2およびMAPKの活性化を示す。細胞抽出物を、リン酸化型ERBB2およびMAPKに対するウェスタンブロットによって分析した。シグナルはCCDカメラで捕捉し、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。図14に示されるのは三連の評価であり、LL−37およびヘレグリンが活性化において協働することを示している。
ERBB2のリン酸化は、チロシンキナーゼ阻害剤PD153035によって阻害されることが見出され、これによりシグナル伝達におけるMAPKの役割が示された。
【0256】
実施例F − インビトロの乳癌細胞の転移に対するLL−37の効果
材料および方法
足場依存的増殖アッセイ
このアッセイは、細胞が転移を生じる能力を反映するものである。細胞を、300u/mlトリプシン、20u/mlエラスターゼ、および1mM EDTAの混合物による処理により調製した。エラスターゼの存在は、細胞が単細胞懸濁物に分散するのを促す。
1.4% Seaplaqueアガロースを70℃の水槽でOptimem(添加物なし)中に融解させ、42℃まで冷まし、予め暖めておいた、終濃度の2倍のFCSおよび添加物を含有する培地と1:1混合した。この混合物4mlを下側寒天としてマス目の付いた4cmペトリ皿に注ぎ込み、静置して固化させた。
【0257】
トリプシン処理した細胞をセルストレーナーを通し、終濃度が1000細胞/mlとなるよう培地(二番濃度の添加物を含有する)に懸濁した。この細胞懸濁物を37℃に暖め、上記のようにして調製した0.7%アガロース溶液と1:1混合した。2mlを下側寒天の上層として注ぎ、RTで30分間静置して上層を固化させた。このプレートをインキュベーターに入れ、3〜4日毎に、細胞に増殖培地100μlを与えた。2週間後、培養物の上層を0.2%p−ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(Sigma)で染色し、100μM径よりも大きなコロニーを計数した。このアッセイは三連で行い、これを二回繰り返した。
【0258】
添加物:
FCS:1〜8%
Fungizone_(アンホテリシンB):0.5μg/ml
ハイグロマイシンB(トランスジェニックMCF7株に利用する場合)150μg/mlペニシリンG/ストレプトマイシン(ZR75−1株に利用する場合):1%ストック溶液(Invitrogen)
LL−37:10μg/ml
ヘレグリン(組換えタンパク質、Upstate):2ng/ml
【0259】
足場非依存的増殖のアッセイ方法はFiucci et al.,2002,Oncogene 21:2365−2375にも記載されている。
【0260】
結果
結果を図16に示す。腫瘍原性に対するLL−37の効果を、軟寒天における乳癌株ZR75−1のコロニー形成に対するその影響をアッセイすることによってインビトロで調査した。その効果は、他の因子、例えばFCSおよびヘレグリンの存在によって大きく調節された。図16aは2%FCSでのコロニー数への効果を示す。ヘレグリンの非存在下では、LL−37はこのようにコロニー数を有意に減少させた。LL−37の負の効果は、ヘレグリンの存在によって完全に取り除かれ、これによりこれらの機能的連携が必要とされることが示された。
LL−37およびヘレグリンは、軟寒天コロニーの外見に大きな影響を及ぼした。図16bは、14日間の培養および生細胞の染色後に得られた軟寒天コロニーの代表例を示す。LL−37単独に被曝させると、コロニーの染色が弱まり、見かけ上のコンパクトさが失われたことから、コロニー密度が大きく低下したことが示された。代わりに、母クローンの周囲に単細胞のコロナが現れた。ヘレグリン単独ではほとんど効果を有さなかった。ヘレグリンとLL−37を組み合わせると、母コロニーが未処理コロニーと同様に染色された。しかし、LL−37により誘導された単細胞コロナは維持された。健常な母クローンからの単細胞の流出は、腫瘍からの転移細胞の発生を類似/模倣するものである。まとめると、LL−37は原発性腫瘍の増殖に寄与しないがその転移を生じる能力を大いに刺激するようである。従って、LL−37の阻害剤は、乳癌における転移の生成を減少させると考えられる。通常、原発性腫瘍ではなく転移物が乳癌における死亡原因とされる。
【0261】
実施例G − インビボでの乳癌細胞の転移に対するLL−37の効果
材料および方法
MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現
細胞株MJ1117[M Egeblad氏より譲受けた;Int J Cancer 86,617−625(2000)を参照のこと]は、エピソーム発現ベクターからERBB2を発現するMCF7の亜株である。MJ1005は、空のコントロールベクターを保有する対応するコントロール株である。この細胞株を、Optimem、5−10% FCS、およびハイグロマイシンB、150μg/ml中で培養した。
hCAP18用発現ベクターを構築するため(図17を参照のこと)、16bpの5’非翻訳領域を含む全長コード配列を含むImageクローン3057931 19由来のBfa1フラグメントを、バイシストロン性ベクターpIRES2−EGF(BD Biosciences,Bedford,MA)のSma1部位にサブクローニングした。この細胞株を標準的な条件下でFugene(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を用いてトランスフェクトし、二週間の間、400ng/ml G418(Invitrogen,Paisley,UK)によって選別した。細胞を、Summit(商標)データ分析ソフトウェアを用いてMoFlo(登録商標)高速細胞ソーティングフローサイトメーター(DakoCytomation,Fort Collins,CO)によってEGFP発現についてソーティングし、それらのCAP18発現を免疫ブロッティングによって定量した。コントロール細胞株は、EGFPのみを発現するベクターを用いたトランスフェクションによって同じように構築した。これらの細胞株は、数ヶ月間の非選択下での連続培養の間、安定的なCAP18発現を維持した。
EGFPおよびhCAP18の同時発現は細胞の選別および維持を容易にするだけでなく、マウス実験時に血液および臓器における単転移細胞の検出を可能にする。
【0262】
SCIDマウスにおける腫瘍原性研究
細胞を、Optimem/10%FCS/ハイグロマイシン150μg/ml/G418 400μg/ml中で増殖した。抗生物質は、50%コンフルエンスで回収する24時間前に除去した。細胞をトリプシン処理し、PBS/1mM MgCl2中に、5千万細胞/mlとなるよう懸濁した。1千万細胞(200μl)をマウスに皮下注射した。MCF7細胞は腫瘍形成にβ−エストロゲンを必要とする。
【0263】
デポジトリーピル(depository pills)(1.7mg/日)を、感染前日にマウスに移植した。マウスを毎日観察し、毎週二回、腫瘍形成について触診した。注射部位における触診可能な浸潤は、注射の一週間後にすでに観察されたが、持続的に増殖する腫瘍はおよそ40日後に顕れた。腫瘍がおよそ1cm3サイズに達した場合、マウスを屠殺した。注射部位のまたはマウス内で拡散した、全ての腫瘍を摘出または瞬間凍結させた。さらに、脾臓および肝臓をホモゲナイズし、赤血球を0.17% NH4Clで溶解し、残骸を遠心分離で除去した後に、FACS分析によりEGFP発現細胞の存在について分析した。
【0264】
結果
結果を図18に示す。
図18aは、SCIDマウスにおいて、MCF7の亜株であるコントロール株MJ1005 IRESから発生した腫瘍の例を示す。現在に至るまで、コントロールマウスにおいては、二次腫瘍も肝臓または脾臓における転移細胞も検出されていない。
図18bは、同じ細胞株におけるhCAP18のトランスジェニック発現の効果を示す。原発腫瘍は、コントロール株よりも大きく増殖することはなかった。しかし、二次腫瘍は、原発腫瘍に隣接するおよびその反対側の脇腹のリンパ節ならびに大腹部腫瘤(large abdominal masses)等の複数箇所で見られた。腹水(図18c)は、hCAP18トランスジーンと同時に産生される緑色蛍光タンパク質を発現する細胞を多量に含んでいた。hCAP18産生株を感染させたSCIDマウスの3/4は、転移腫瘍または脾臓および肝臓への転移性細胞の拡散を示した。これらの観察に基づき、本発明者らは、LL−37が原発腫瘍から転移性細胞を生成するとの結論に至った。従って、LL−37の阻害剤は、他の部位への癌細胞の拡散を阻害すると考えられる。
【0265】
実施例H − 腫瘍および乳癌細胞におけるhCAP18/LL−37のsiRNAによる阻害
1.腫瘍におけるhCAP18/LL−37タンパク質発現のsiRNAによる阻害
hCAP18 mRNAに特異的な低分子干渉RNA(siRNA)による用量依存的な強い阻害が、そうでなければhCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の処理後48時間後にすでに見られた(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現の節を参照のこと)。HPLC精製、複製ずみの、即利用可能なネガティブコントロールsiRNAおよび4つのhCAP18/LL−37特異的siRNAを、最適化されたトランスフェクション効率および再現性のためのsiPORT NeoFXトランスフェクション試薬と共に(Ambion,Austin,USA)から購入した。
【0266】
【表7】
【0267】
4つ全てのsiRNA−CAMPを、非特異的効果を最小限に抑えるためにカクテルとしてプールし、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。トランスフェクションの最適化のための指示は、siPORTトランスフェクション試薬に添付の詳細なプロトコルに提供されている。全ての実験手順を、製造元の説明に従い行った。siRNAの終濃度は10nM、25nM、または100nMであった。処理した乳癌細胞の細胞抽出物をウェスタンブロットにおいて、実施例CのM&Mに記載されるように1/2000希釈のhCAP18に対する抗体を用いてhCAP18/LL−37タンパク質について分析した。増感化学発光(ECL)シグナル(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)をCCDカメラ(Fujifilm,Tokyo,Japan)で捕捉し、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。結果を図19に示す。
【0268】
2.ヒト抗細菌タンパク質hCAP18/LL−37は乳癌において転移性の表現型を誘導し、これはhCAP18特異的siRNAによって逆転させることができる
結果を図20に示す。
(A)乳癌細胞におけるhCAP18/LL−37の過剰発現は癌細胞においてより転移性の表現型をもたらす。
hCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の転移能を、hCAP18/LL−37非発現性のMCF7−IRESトランスジーンコントロール細胞と比較して評価するために、マトリゲル浸潤アッセイを行った(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現を参照のこと)。
【0269】
BioCoat Matrigel Invasion Chamberキット(Becton Dickinson Bioscience,Bedford,MA,USA)を全て製造元の指示に従い使用した。細胞をマトリゲルフィルターに移す前に、細胞をFCSを含まないDMEM(Gibco−BRL)中で24時間飢餓状態下に置いた。細胞を使用する日に0.25% Tryp−EDTA(Invitrogen,cat#25200−056)でトリプシン処理し、50μlトリプシン阻害剤および100μl DMEMを加えることによってこれを停止した。220,000細胞/mlの細胞懸濁物200μlをマトリゲルでコートしたフィルターを有するトランスウェルインサートチャンバーに播種し、これを、5%FCSを含有するDMEM 750μlで満たした下部チャンバ中に設置した。チャンバを37℃、5% CO2雰囲気下で48時間インキュベートした。その後、インサートを取り除き、フィルターの上側に残存する非浸潤癌細胞をかき取った。フィルターの下側に浸潤した細胞を染色し、位相差顕微鏡下で観察し、計数した。癌細胞の浸潤能は、フィルターの下側に浸潤した細胞の平均数として表した。このアッセイを三連で行った。
【0270】
(B)乳癌細胞においてhCAP18/LL−37により誘導された浸潤性・転移性の表現型のhCAP18/LL−37特異的siRNA処理による阻害
腫瘍において発現されるhCAP18/LL−37の減少を通じて癌細胞の転移能を阻害する能力を実証するためにRNA干渉を使用した。
RNA干渉において、非特異的効果を最小限に抑えるために、4つ全てのsiRNA−CAMPを10nMのカクテルとして一緒に使用し、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。siRNA処理(実施例19参照)は、(A)に記載のマトリゲル浸潤アッセイを行う40時間前に行った。siRNAによるRNA干渉は、浸潤性の腫瘍細胞の数を減らすことによって癌細胞の転移能を阻害する能力をはっきりと示した。
(詳細については、実施例Cの転写後阻害研究および浸潤の誘導の節も参照のこと)
【0271】
実施例I − 本発明の薬剤の製造およびインビボでの使用
抗hCAP18/LL−37および抗erbB2抗体の発現
抗hCAP18/LL−37抗体をNSO骨髄腫細胞において発現させた。同様に抗erbB2抗体を別のNSO骨髄腫細胞において発現させた。
【0272】
簡単に説明すると、この融合タンパク質の軽鎖成分および重鎖成分をコードする発現ベクターを用いた電気穿孔により、NSO骨髄腫細胞をコトランスフェクトした。次いで、ELISAアッセイにより、形質転換体を抗体産生について選別およびスクリーニングした。
【0273】
患者への投与
抗体を水性滅菌注射溶液として処方した。
次いでこの製剤を、乳癌患者に対して、90分間の静脈内(IV)注入により投与した。
用量は、医師により決定される各患者ごとの要件に応じて選択する。しかし、典型的には、初期用量4mg/kgを使用した後、メンテナンス用量2mg/kgを毎週使用する。
【0274】
疾患の進行の観察
次いで、乳癌の進行、特に癌細胞の転移に対する抗体処置の影響を従来的な走査/NMRによって観察した。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1】hCAP18/LL−37は乳癌において高度に発現される。 (A)ストローマ島(stromal island)(st)を取り囲む腫瘍細胞におけるhCAP18タンパク質に対する強い免疫反応(赤色の沈着)を示す腺管乳癌グレードIII(患者7番、表2)の切片。(B)インサイチュハイブリダイゼーションは、同じ組織由来の切片において合致するhCAP18 mRNAのシグナルを示している。強いオートラジオグラフシグナルは、暗視野照明下で白色の粒として見られる。(C)癌腫細胞の高倍率観察は、免疫反応性を欠く腫瘍細胞に隣接して強い免疫反応性の細胞が存在することを示している。(D)血管内のhCAP18免疫反応性乳癌細胞。(E)カセリン組換えペプチドによる免疫吸着は、hCAP18の免疫反応を完全に消滅させた(Aと同じ組織)。(F)免疫吸着時のポジティブコントロールとしての一般的なhCAP18の免疫染色(Aと同じ組織)。(G)正常な乳腺上皮は、hCAP18に対する弱い免疫反応を示す。顕微鏡写真(A、C〜G)は、1:500希釈のhCAP18抗体を用いて得た結果を示す。スケールバー(A、B)=100μm;(C、D)=25μm;(E、F、G)=10μm。
【図2】hCAP−18/LL−37は乳癌における免疫ブロッティングによって検出される。 患者の臨床データを表2に示す(サンプル1〜10)。組換えカセリン(C)およびLL−37ペプチド(L)をサイズ基準として使用した。正常な乳房組織をレーン1に示す。ElstonグレードI腫瘍をレーン2、4、および5に示す。グレードII腫瘍をレーン3に示し、グレードIII腫瘍をレーン6〜10に示す。全ての組織において、インタクトな非プロセシング型18kDaホロタンパクに対応する免疫反応バンドが見られた。プロセシング型LL−37ペプチド(4kD)を5つのグレードIII腫瘍のうちの4つ(7〜10番)において確認した。
【図3】上皮細胞におけるhCAP18のトランスジェニック発現は細胞増殖を増加させる。 A:上パネル、左レーン;抗LL37抗血清を用いたHEK293抽出物の免疫ブロッティング。バイシストロン性ベクターhCAP18+EGFPでトランスフェクトした細胞(hCAP18/E)はhCAP18タンパク質の発現を示している。上パネル、右レーン;EGFPのみでトランスフェクトしたHEK293細胞(E)。下パネル;HEK293細胞(hCAP18/E)はコントロール細胞(E)と比較して有意に高い増殖率(フローサイトメトリーによる評価)を示している。ポンソー染色をローディングコントロールとして示す。B:上パネル、左レーン;Aに記載されるようにトランスフェクトしたHaCaT細胞。下パネル;hCAP18トランスフェクトしたHaCaT細胞は、コントロール細胞と比較して有意に高い増殖率(3H−チミジン取り込みによる評価)を示している。
【図4】合成性LL−37ペプチド処理は上皮細胞の細胞増殖を増加させる。 72時間の血清枯渇によって同調させ、次いで合成性の生物学的に活性なLL−37ペプチド10μg/ml(DMEM+5%FCS+PEST中)で36時間処理したHaCaT細胞は、未処理(コントロール)HaCaT細胞と比較して有意な細胞増殖の増加を示している。増殖率は[3H]チミジン取り込みによって評価した。
【図5−1】LL−37受容体FPRL1は乳癌および正常な乳腺上皮において発現される。 (A)腫瘍細胞においてFPRL1受容体に対する顕著な免疫反応(赤色の沈着)が見られる腺管乳癌Elstonグレード2(患者12番、表2)の切片。(B)腺管領域においてFPRL1に対する免疫反応(赤色の沈着)を示す正常な乳腺上皮の切片。顕微鏡写真は、1:400希釈のFPRL1抗血清を用いて得た結果を示す。スケールバー(A)=50μm;(B)=10μm。
【図5−2】図5−1の続き。 (C)免疫ブロッティングは、LL−37受容体であるFPRL1が正常組織(N)および乳癌(T)組織の両方において発現されることを明らかにした。(D)バイシストロン性ベクターhCAP+EGFPでトランスフェクトしたHaCaT(hCAP18/E)は、リアルタイムPCRにより、有意に増加したFPRL1受容体mRNAの発現を示す。EGFPのみでトランスフェクトしたHaCaT細胞(E)をコントロールとして用いた。
【図6】エストロゲン受容体(ER)およびリンパ節(N)陽性乳癌におけるhCAP18/LL−37の高発現(対数スケールで表示)。 RNAを140の乳癌および4の非病変乳房組織サンプルから抽出し、プライマーとしてランダムヘキサマーを用いて逆転写した。hCAP18転写物の発現を、標準的なプロトコルに従い、cDNA 10ngを用いるリアルタイムPCRによって測定した。サンプルは18S−RNAの定量によって正規化した。非病変サンプルの平均発現値を裁量で1に設定した。平均および偏差はAnova統計法によって評価している。
【図7A】LL−37はHEK細胞におけるカンプトテシン誘導型のアポトーシスを阻害する。 サブコンフルエントな細胞を、異なるLL−37(1、2、および4μM)濃度で24時間処理した。培地のみで処理した細胞をコントロール細胞として使用した(a)。次いで、6μMカンプトテシンの非存在下(a〜d)または存在下(e〜h)で細胞を24時間さらに培養した。回収した細胞を二色アポトーシスアッセイおよびフローサイトメトリーに供し、蛍光強度による四象限分析により、生存性(viable)(蛍光がないまたは少ない)、アポトーシス性(FL−1 YOPRO色素陽性)、および壊死性(FL−1およびPI蛍光の両方とも陽性)に分類した。図は、各々三連で行った三回の独立実験の典型例を示している。
【図7B】LL−37はHaCaT細胞におけるカンプトテシン誘導型のアポトーシスを阻害する。 アポトーシス細胞の定量分析。
【図8】LL−37によるHEKn細胞の事前処理によるカンプトテシン誘導型のアポトーシスからの保護を示すHEKn細胞のフローサイトメトリー分析。 LL−37 1または2μMで24時間処理した細胞(b、c、e、f)および未処理細胞(a、d)を、24時間のカンプトテシン処理(d〜f)によりアポトーシスを誘導した。次いで細胞をフローサイトメトリーにより分析し、非アポトーシス性集団(2N〜4N)およびアポトーシス性集団(2N以下)を検出した。グラフは、各々三連で行った三回の実験の代表例である。
【図9】LL−37はHEKn細胞におけるカスパーゼ−3のカンプトテシン活性化を減少させる。 細胞をLL−37およびカンプトテシンの存在下または非存在下で培養し、次いで回収してVDVAD−AMCのインビトロ加水分解によりカスパーゼ−3活性を分析した。カンプトテシンと共に24時間インキュベートすることによって誘導されたカスパーゼの活性化は、LL−37による細胞の処理によって減少した。値は、各々三連で行った三回の異なる実験の平均値である。
【図10】LL−37処理はIAP2の発現を増加させる。 HEKn細胞を2μM LL−37で処理し、刺激後の異なる時点で回収した。これらの細胞由来のRNAを逆転写し、IAP−2の発現をリアルタイムPCRにより測定した。各々の時点でのIAP−2の転写レベルを、18SRNAに対して正規化し、未処理細胞(各々の時点において1に設定したコントロール)に対する相対値で示す。
【図11】LL−37はHEK細胞におけるプロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ−2(COX−2)の発現を増加させる。 HEKn細胞を2μM LL−37で処理し、刺激から6、12、および24時間後に回収した。未処理細胞を各時点のコントロールとして用いた(薄灰色カラム)。これらの細胞由来のRNAを逆転写し、コントロールに対するCOX−2の相対発現値を上記のようにqPCRにより測定した。
【図12】COX−2の阻害はIAP−2のLL−37誘導型の増加を妨げる。 HEKn細胞を特異的なCOX−2阻害剤SC−791(25μM)で処理しまたはその不在下で処理し、LL−37(2μM)と共にまたはその不在下で6時間さらにインキュベートした。IAP−2 mRNA遺伝子のレベルをRT−PCRによって分析し、それを未処理コントロールサンプルとの相対値として示す。
【図13】LL−37はヘレグリンを通じたEGFRシグナル伝達系の活性化を増強する。 乳癌株ZR75−1の抽出物を、示されるようなリン酸化タンパク質に対するウェスタンブロット分析により分析した。
【図14】ウェスタンブロット分析によるERBB2のリン酸化(Tyr1248)の定量。 化学発光シグナルを、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。
【図15】LL−37はEGFRファミリーを通じてMAPKを活性化する。 LL−37はEGFRファミリーを通じてMAPKを活性化し、この活性化はチロシンキナーゼ阻害剤PD153035によって完全にブロックすることができる。完全な阻害に必要な濃度は2.5μMであり、これはEGFRについて必要とされる濃度よりも高いが、ERBB2の活性化をブロックするのに必要な濃度である。
【図16A】LL−37は乳癌細胞の転移を阻害する。 LL−37の腫瘍原性を、乳癌株ZR75−1を用いるコロニー形成アッセイにおいて調査した。低い血清濃度では、LL−37単独でコロニー数を減少させたが、LL−37およびヘレグリンの組み合わせはコロニー数を増加させた。
【図16B】LL−37は乳癌細胞の転移を阻害する。 それよりも劇的だったのが表現型の変化である。LL−37の存在下では、コンパクトなコロニー構造が破壊され、単細胞性のサテライトが見られた。ヘレグリンはコロニーの密度を回復させるが、LL−37が存在する場合の単細胞の離脱を阻止しなかった。
【図17】hCAP18用の発現ベクターの構築。 hCAP18用の発現ベクターを構築するため、16bpの5’非翻訳領域を含む全コード配列を含むImageクローン3057931 19由来のBfa1フラグメントをバイシストロン性ベクターpIRES2−EGFP(BD Biosciences,Bedford,MA)のSma1部位にサブクローニングした。
【図18A】インビボでの二次腫瘍の形成。 親MCF7を注射したSCIDマウスにおける原発性腫瘍
【図18B】複数の転移が認められるMCF7−hCAP18トランスジーンを注射したSCIDマウス
【図18C】hCAP18でトランスフェクトされこれを過剰発現する乳癌細胞を注射したSCIDマウスから採取したトランスフェクト腹水細胞におけるLL−37の発現。MCF7腹水細胞(上側)におけるhCAP18の能動的な転写を、マーカーとしての緑色蛍光タンパク質の共発現(下側)により確認した。
【図19】腫瘍におけるhCAP18/LL−37タンパク質の発現のsiRNAによる阻害。 hCAP18 mRNAに特異的な低分子干渉RNA(siRNA)による用量依存的な強い阻害が、そうでなければhCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の処理後48時間以降ですでに見られた(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現の節を参照のこと)。HPLC精製、複製ずみの、即利用可能なネガティブコントロールsiRNAおよび4つのhCAP18/LL−37特異的siRNAを、高トランスフェクション効率および再現性のために最適化されたsiPORT NeoFXトランスフェクション試薬と共に(Ambion,Austin,USA)から購入した。 4つ全てのsiRNA−CAMP(siRNA−CAMP1〜4;実施例Hに記載)を、非特異的効果を最小限に抑えるためにカクテルとしてプールし、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。トランスフェクションの最適化のための指示は、siPORTトランスフェクション試薬に添付の詳細なプロトコルに提供されている。全ての実験手順を、製造元の説明に従い行った。siRNAの終濃度は10nM、25nM、または100nMであった。処理した乳癌細胞の細胞抽出物をウェスタンブロットにおいて、実施例CのM&Mに記載されるように1/2000希釈のhCAP18に対する抗体を用いてhCAP18/LL−37タンパク質について分析した。増感化学発光(ECL)シグナル(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ)をCCDカメラ(Fujifilm,Tokyo,Japan)で捕捉し、ポンソー染色に対して正規化した後に定量した。
【図20】ヒト抗細菌タンパク質hCAP18/LL−37は乳癌において転移性の表現型を誘導し、これはhCAP18特異的siRNAによって逆転させることができる。 (A)乳癌細胞におけるhCAP18/LL−37の過剰発現は癌細胞においてより転移性の表現型をもたらす。hCAP18/LL−37タンパク質を過剰発現するMCF7−hCAP18トランスジーン細胞の転移能を、hCAP18/LL−37非発現性のMCF7−IRESトランスジーンコントロール細胞と比較して評価するために、マトリゲル浸潤アッセイを行った(実施例GのM&M、MCF7亜株におけるhCAP18のトランスジェニック発現を参照のこと)。 BioCoat Matrigel Invasion Chamberキット(Becton Dickinson Bioscience,Bedford,MA,USA)を全て製造元の指示に従い使用した。細胞をマトリゲルフィルターに移す前に、細胞をFCSを含まないDMEM(Gibco−BRL)中で24時間飢餓状態下に置いた。細胞を使用する日に0.25% Tryp−EDTA(Invitrogen,cat#25200−056)でトリプシン処理し、50μlトリプシン阻害剤および100μl DMEMを加えることによってこれを停止した。220,000細胞/mlの細胞懸濁物200μlをマトリゲルでコートしたフィルターを有するトランスウェルインサートチャンバーに播種し、5%FCSを含有するDMEM 750μlで満たした下部チャンバ内に設置した。チャンバーを37℃、5% CO2雰囲気下で48時間インキュベートした。その後、インサートを取り除き、フィルターの上側に残存する非浸潤癌細胞をかき取った。フィルターの下側に浸潤した細胞を染色し、位相差顕微鏡下で観察し、計数した。癌細胞の浸潤能は、フィルターの下側に浸潤した細胞の平均数として表した。このアッセイを三連で行った。 (B)乳癌細胞においてhCAP18/LL−37により誘導された浸潤性・転移性の表現型のhCAP18/LL−37特異的siRNA処理による阻害。 腫瘍により発現されるhCAP18/LL−37の減少を通じて癌細胞の転移能を阻害する能力を実証するためにRNA干渉を使用した。 RNA干渉において、非特異的効果を最小限に抑えるために、4つ全てのsiRNA−CAMPを10nMのカクテルとして一緒に使用し、ネガティブsiRNAコントロールも同様に扱った。siRNA処理(実施例19参照)は、(A)に記載のマトリゲル浸潤アッセイを行う40時間前に行った。siRNAによるRNA干渉は、浸潤性の腫瘍細胞の数を減らすことによって癌細胞の転移能を阻害する能力をはっきりと示した。(詳細については、実施例Cの転写後阻害研究および浸潤の誘導の節も参照のこと)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤;および
(B)EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤
を含み、成分(A)および成分(B)の各々が、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体との混合により処方されている、併用製品。
【請求項2】
hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤、EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤、および薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体を包含する医薬製剤を含む、請求項1に記載の併用製品。
【請求項3】
以下の成分:
(A)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤を包含する医薬製剤;および
(B)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤を包含する医薬製剤
を含むキット・オブ・パーツを含み、成分(A)および(B)が各々、他と組み合わせて投与するのに適した形態で提供される、請求項1に記載の併用製品。
【請求項4】
第二薬剤により阻害されるEGF受容体が、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4から選択される少なくとも一つである、請求項1〜3のいずれかに記載の併用製品。
【請求項5】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の転写、翻訳、および/もしくは結合特性を変更することによってhCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害し、ならびに/または第二薬剤がEGF受容体の転写、翻訳、および/もしくは結合特性を変更することによってEGF受容体の生物学的活性を阻害する、請求項1〜4のいずれかに記載の併用製品。
【請求項6】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の転写の阻害剤であり、および/または第二薬剤がEGF受容体の転写の阻害剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項7】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の翻訳の阻害剤であり、および/または第二薬剤がEGF受容体の翻訳の阻害剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項8】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の結合特性の阻害剤であり、および/または第二薬剤がEGF受容体の結合特性の阻害剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項9】
第一薬剤がhCAP18/LL−37受容体アンタゴニストであり、および/または第二薬剤がEGF受容体アンタゴニストである、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項10】
hCAP18/LL−37受容体がFPRL1または関連受容体である、請求項9に記載の併用製品。
【請求項11】
癌細胞において選択的に、第一薬剤がhCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害することができ、および/または第二薬剤がEGF受容体の生物学的活性を阻害することができる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項12】
第一薬剤が、hCAP18/LL−37の生物学的活性を、該薬剤に被爆させなかった癌細胞におけるhCAP18/LL−37の生物学的活性と比較して10%またはそれ以上阻害することができ、および/または第二薬剤が、EGF受容体の生物学的活性を、当該薬剤に被爆させなかった癌細胞におけるEGF受容体の生物学的活性と比較して10%またはそれ以上阻害することができる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項13】
第一薬剤および/または第二薬剤が、低分子干渉RNA(siRNA)分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物、ならびに小分子阻害化合物からなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項14】
第一薬剤および/または第二薬剤が低分子干渉RNA(siRNA)分子である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項15】
siRNA分子が19〜23ヌクレオチド長である、請求項14に記載の併用製品。
【請求項16】
第一薬剤が、配列番号1のヌクレオチド配列のフラグメントを含むかもしくはそのフラグメントからなるsiRNA分子、またはその変異体である、請求項14または15に記載の併用製品。
【請求項17】
第二薬剤が、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4 mRNAのヌクレオチド配列のフラグメントを含むかまたはそのフラグメントからなるsiRNA分子、またはその変異体である、請求項14〜16のいずれかに記載の併用製品。
【請求項18】
第一薬剤および/または第二薬剤がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項19】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが15〜35ヌクレオチド長である、請求項18に記載の併用製品。
【請求項20】
第一薬剤が、配列番号1のヌクレオチドのフラグメントを含むかもしくはそのフラグメントからなるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその変異体である、請求項18または19に記載の併用製品。
【請求項21】
第二薬剤が、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4 mRNAのヌクレオチド配列のフラグメントを含むかまたはそのフラグメントからなるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその変異体である、請求項18〜20のいずれかに記載の併用製品。
【請求項22】
第一薬剤がhCAP18/LL−37に対する結合親和性を有する化合物であり、および/または第二薬剤がEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項23】
化合物がポリペプチドを含むまたはポリペプチドからなる、請求項22に記載の併用製品。
【請求項24】
ポリペプチドが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項23に記載の併用製品。
【請求項25】
抗体またはその抗原結合フラグメントがFvフラグメント、Fab様フラグメント、単可変ドメイン、およびドメイン抗体からなる群より選択される、請求項24に記載の併用製品。
【請求項26】
抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化型である、請求項24または25に記載の併用製品。
【請求項27】
第一薬剤および/または第二薬剤が小分子阻害化合物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項28】
化合物がhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対するリガンド結合能を有する、請求項27に記載の併用製品。
【請求項29】
第一薬剤および/または第二薬剤が癌細胞に選択的に送達されるおよび/または癌細胞によって選択的に活性化されることが可能である、請求項1〜28のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項30】
第一薬剤および/または第二薬剤が標的細胞特異的部分を含む、請求項29に記載の併用製品。
【請求項31】
標的細胞特異的部分が抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項30に記載の併用製品。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化型である、請求項31に記載の併用製品。
【請求項33】
抗体またはその抗原結合フラグメントが癌細胞表面に発現される抗原に対する特異性を有する、請求項31または32に記載の併用製品。
【請求項34】
癌細胞表面に発現される抗原が、EGF受容体(例えばErbB2)、C46、85A12、H17E2、NR−LU−10、HMFG1、SM−3(IgG1)、W14、L6(IgG2a)、1F5(IgG2a)、アルファフェトプロテイン、Ca−125、前立腺特異的抗原、および上皮成長因子受容体ファミリーのメンバーからなる群より選択される、請求項33に記載の併用製品。
【請求項35】
癌細胞表面に発現される抗原が、ErbB2である、請求項34に記載の併用製品。
【請求項36】
第一薬剤および/または第二薬剤が癌細胞により選択的に活性化されるプロドラッグである、請求項1〜35のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項37】
成分(A)および成分(B)が、癌の処置において逐次的に、別個に、および/または同時に使用するのに適したものである、請求項1〜36のいずれかに記載の併用製品。
【請求項38】
癌の処置が癌細胞の増殖および/または転移の阻害を含む、請求項37に記載の併用製品。
【請求項39】
癌細胞が上皮細胞である、請求項38に記載の併用製品。
【請求項40】
癌細胞が扁平上皮細胞である、請求項38に記載の併用製品。
【請求項41】
癌細胞が、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、胃腸管、ならびに内分泌系の癌細胞からなる群より選択される、請求項38〜40のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項42】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項41に記載の併用製品。
【請求項43】
乳癌細胞がElstonグレードIII細胞である、請求項42に記載の併用製品。
【請求項44】
癌細胞が転移性である、請求項38〜43のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項45】
請求項1〜44のいずれか一項に記載の成分(A)を、請求項1〜44のいずれか一項に記載の成分(B)と関連付け、二つの成分を互いに組み合わせて投与するのに適合させることを含む、請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品の製造方法。
【請求項46】
(i)請求項1〜44のいずれか一項に記載の成分(A)および成分(B)の少なくとも一方;と共に
(ii)その成分を他方の成分と組み合わせて使用するための説明書、
を含む、キット・オブ・パーツ。
【請求項47】
癌細胞の処置に使用するための、請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品または請求項46に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項48】
請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品または請求項46に記載のキット・オブ・パーツを、癌患者または癌に対して感受性の患者に投与することを含む、癌細胞の処置方法。
【請求項49】
請求項1〜44に記載の併用製品を患者に投与することを含む、患者の癌細胞の増殖および/または転移の阻害方法。
【請求項50】
患者がヒトである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
薬剤が癌細胞に選択的に送達されるおよび/または癌細胞により選択的に活性化される、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
医薬において使用するための、請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項53】
癌の処置において使用するための、請求項52に記載の併用製品。
【請求項54】
請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品および薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、または担体を含む、医薬組成物。
【請求項55】
非経口投与に適した、請求項54に記載の医薬組成物。
【請求項56】
処方物が癌細胞を標的化して薬剤を送達することができる、請求項54または55に記載の医薬組成物。
【請求項57】
癌細胞の増殖および/または転移を阻害するための医薬の製造における、請求項1〜41のいずれか一項に記載の併用製品の使用。
【請求項58】
癌細胞が上皮細胞である、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法または請求項57に記載の使用。
【請求項59】
癌細胞が扁平上皮細胞である、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法または請求項57に記載の使用。
【請求項60】
癌細胞が、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、ならびに胃腸管の癌細胞からなる群より選択される、請求項48〜51に記載の方法または請求項57に記載の使用。
【請求項61】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項60に記載の方法または使用。
【請求項62】
乳癌細胞がエストロゲン陽性である、請求項61に記載の方法または使用。
【請求項63】
癌細胞が転移性である、請求項60〜62に記載の方法または使用。
【請求項1】
(A)hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤;および
(B)EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤
を含み、成分(A)および成分(B)の各々が、薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体との混合により処方されている、併用製品。
【請求項2】
hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤、EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤、および薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体を包含する医薬製剤を含む、請求項1に記載の併用製品。
【請求項3】
以下の成分:
(A)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、hCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害する第一薬剤を包含する医薬製剤;および
(B)薬学的に許容できるアジュバント、希釈剤、または担体と混合された、EGF受容体の生物学的活性を阻害する第二薬剤を包含する医薬製剤
を含むキット・オブ・パーツを含み、成分(A)および(B)が各々、他と組み合わせて投与するのに適した形態で提供される、請求項1に記載の併用製品。
【請求項4】
第二薬剤により阻害されるEGF受容体が、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4から選択される少なくとも一つである、請求項1〜3のいずれかに記載の併用製品。
【請求項5】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の転写、翻訳、および/もしくは結合特性を変更することによってhCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害し、ならびに/または第二薬剤がEGF受容体の転写、翻訳、および/もしくは結合特性を変更することによってEGF受容体の生物学的活性を阻害する、請求項1〜4のいずれかに記載の併用製品。
【請求項6】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の転写の阻害剤であり、および/または第二薬剤がEGF受容体の転写の阻害剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項7】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の翻訳の阻害剤であり、および/または第二薬剤がEGF受容体の翻訳の阻害剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項8】
第一薬剤がhCAP18/LL−37の結合特性の阻害剤であり、および/または第二薬剤がEGF受容体の結合特性の阻害剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項9】
第一薬剤がhCAP18/LL−37受容体アンタゴニストであり、および/または第二薬剤がEGF受容体アンタゴニストである、請求項1〜5のいずれかに記載の併用製品。
【請求項10】
hCAP18/LL−37受容体がFPRL1または関連受容体である、請求項9に記載の併用製品。
【請求項11】
癌細胞において選択的に、第一薬剤がhCAP18/LL−37の生物学的活性を阻害することができ、および/または第二薬剤がEGF受容体の生物学的活性を阻害することができる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項12】
第一薬剤が、hCAP18/LL−37の生物学的活性を、該薬剤に被爆させなかった癌細胞におけるhCAP18/LL−37の生物学的活性と比較して10%またはそれ以上阻害することができ、および/または第二薬剤が、EGF受容体の生物学的活性を、当該薬剤に被爆させなかった癌細胞におけるEGF受容体の生物学的活性と比較して10%またはそれ以上阻害することができる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項13】
第一薬剤および/または第二薬剤が、低分子干渉RNA(siRNA)分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、hCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物、ならびに小分子阻害化合物からなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項14】
第一薬剤および/または第二薬剤が低分子干渉RNA(siRNA)分子である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項15】
siRNA分子が19〜23ヌクレオチド長である、請求項14に記載の併用製品。
【請求項16】
第一薬剤が、配列番号1のヌクレオチド配列のフラグメントを含むかもしくはそのフラグメントからなるsiRNA分子、またはその変異体である、請求項14または15に記載の併用製品。
【請求項17】
第二薬剤が、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4 mRNAのヌクレオチド配列のフラグメントを含むかまたはそのフラグメントからなるsiRNA分子、またはその変異体である、請求項14〜16のいずれかに記載の併用製品。
【請求項18】
第一薬剤および/または第二薬剤がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項19】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが15〜35ヌクレオチド長である、請求項18に記載の併用製品。
【請求項20】
第一薬剤が、配列番号1のヌクレオチドのフラグメントを含むかもしくはそのフラグメントからなるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその変異体である、請求項18または19に記載の併用製品。
【請求項21】
第二薬剤が、ErbB1(EGF−R)、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4 mRNAのヌクレオチド配列のフラグメントを含むかまたはそのフラグメントからなるアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはその変異体である、請求項18〜20のいずれかに記載の併用製品。
【請求項22】
第一薬剤がhCAP18/LL−37に対する結合親和性を有する化合物であり、および/または第二薬剤がEGF受容体に対する結合親和性を有する化合物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項23】
化合物がポリペプチドを含むまたはポリペプチドからなる、請求項22に記載の併用製品。
【請求項24】
ポリペプチドが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項23に記載の併用製品。
【請求項25】
抗体またはその抗原結合フラグメントがFvフラグメント、Fab様フラグメント、単可変ドメイン、およびドメイン抗体からなる群より選択される、請求項24に記載の併用製品。
【請求項26】
抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化型である、請求項24または25に記載の併用製品。
【請求項27】
第一薬剤および/または第二薬剤が小分子阻害化合物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項28】
化合物がhCAP18/LL−37および/またはEGF受容体に対するリガンド結合能を有する、請求項27に記載の併用製品。
【請求項29】
第一薬剤および/または第二薬剤が癌細胞に選択的に送達されるおよび/または癌細胞によって選択的に活性化されることが可能である、請求項1〜28のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項30】
第一薬剤および/または第二薬剤が標的細胞特異的部分を含む、請求項29に記載の併用製品。
【請求項31】
標的細胞特異的部分が抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項30に記載の併用製品。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化型である、請求項31に記載の併用製品。
【請求項33】
抗体またはその抗原結合フラグメントが癌細胞表面に発現される抗原に対する特異性を有する、請求項31または32に記載の併用製品。
【請求項34】
癌細胞表面に発現される抗原が、EGF受容体(例えばErbB2)、C46、85A12、H17E2、NR−LU−10、HMFG1、SM−3(IgG1)、W14、L6(IgG2a)、1F5(IgG2a)、アルファフェトプロテイン、Ca−125、前立腺特異的抗原、および上皮成長因子受容体ファミリーのメンバーからなる群より選択される、請求項33に記載の併用製品。
【請求項35】
癌細胞表面に発現される抗原が、ErbB2である、請求項34に記載の併用製品。
【請求項36】
第一薬剤および/または第二薬剤が癌細胞により選択的に活性化されるプロドラッグである、請求項1〜35のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項37】
成分(A)および成分(B)が、癌の処置において逐次的に、別個に、および/または同時に使用するのに適したものである、請求項1〜36のいずれかに記載の併用製品。
【請求項38】
癌の処置が癌細胞の増殖および/または転移の阻害を含む、請求項37に記載の併用製品。
【請求項39】
癌細胞が上皮細胞である、請求項38に記載の併用製品。
【請求項40】
癌細胞が扁平上皮細胞である、請求項38に記載の併用製品。
【請求項41】
癌細胞が、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、胃腸管、ならびに内分泌系の癌細胞からなる群より選択される、請求項38〜40のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項42】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項41に記載の併用製品。
【請求項43】
乳癌細胞がElstonグレードIII細胞である、請求項42に記載の併用製品。
【請求項44】
癌細胞が転移性である、請求項38〜43のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項45】
請求項1〜44のいずれか一項に記載の成分(A)を、請求項1〜44のいずれか一項に記載の成分(B)と関連付け、二つの成分を互いに組み合わせて投与するのに適合させることを含む、請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品の製造方法。
【請求項46】
(i)請求項1〜44のいずれか一項に記載の成分(A)および成分(B)の少なくとも一方;と共に
(ii)その成分を他方の成分と組み合わせて使用するための説明書、
を含む、キット・オブ・パーツ。
【請求項47】
癌細胞の処置に使用するための、請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品または請求項46に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項48】
請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品または請求項46に記載のキット・オブ・パーツを、癌患者または癌に対して感受性の患者に投与することを含む、癌細胞の処置方法。
【請求項49】
請求項1〜44に記載の併用製品を患者に投与することを含む、患者の癌細胞の増殖および/または転移の阻害方法。
【請求項50】
患者がヒトである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
薬剤が癌細胞に選択的に送達されるおよび/または癌細胞により選択的に活性化される、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
医薬において使用するための、請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品。
【請求項53】
癌の処置において使用するための、請求項52に記載の併用製品。
【請求項54】
請求項1〜44のいずれか一項に記載の併用製品および薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、または担体を含む、医薬組成物。
【請求項55】
非経口投与に適した、請求項54に記載の医薬組成物。
【請求項56】
処方物が癌細胞を標的化して薬剤を送達することができる、請求項54または55に記載の医薬組成物。
【請求項57】
癌細胞の増殖および/または転移を阻害するための医薬の製造における、請求項1〜41のいずれか一項に記載の併用製品の使用。
【請求項58】
癌細胞が上皮細胞である、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法または請求項57に記載の使用。
【請求項59】
癌細胞が扁平上皮細胞である、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法または請求項57に記載の使用。
【請求項60】
癌細胞が、乳房、胆管、脳、結腸、胃、生殖器、肺および気道、皮膚、胆嚢、肝臓、鼻咽頭、神経細胞、腎臓、前立腺、リンパ腺、ならびに胃腸管の癌細胞からなる群より選択される、請求項48〜51に記載の方法または請求項57に記載の使用。
【請求項61】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項60に記載の方法または使用。
【請求項62】
乳癌細胞がエストロゲン陽性である、請求項61に記載の方法または使用。
【請求項63】
癌細胞が転移性である、請求項60〜62に記載の方法または使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2009−535392(P2009−535392A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508475(P2009−508475)
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001671
【国際公開番号】WO2007/132178
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(505285087)リポペプチド・アクチエボラーグ (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001671
【国際公開番号】WO2007/132178
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(505285087)リポペプチド・アクチエボラーグ (7)
【Fターム(参考)】
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