説明

便器用腰掛台及び部屋

【課題】本発明は身体の不自由な人や、筋力の弱い人でも楽に使用することができ、しかも構造が比較的簡易な便器用腰掛台と、この便器用腰掛台を設置した便器付きの部屋とを提供する。
【解決手段】脚体3によって自立可能な腰掛台1は、座板2が便器本体7の左右に張り出すように、かつ開口部5が便鉢8の上側に位置するように便器本体7を跨いで設置される。開口部5の側方の座板2の上に腰をおろしたりその上に寝そべったりした後、腰を開口部5に移動させるようにして開口部5付近に座ることができる。蓋体6は、その上面に軟質材11が設けられているので、蓋体6を倒伏させて蓋体6の上に腰をかけるように、腰掛台1をベンチチェストとして使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器本体を跨ぐように設置される便器用腰掛台と、この便器用腰掛台を設置した便器付きの部屋とに関する。
【背景技術】
【0002】
通常の浄風便器は、陶器などよりなる便器本体と、該便器本体の上側に起倒可能に設置された便座とを備えている。用を足す際には、この便座を便器本体上に倒伏させ、この便座に腰をおろす。
【0003】
このような通常の浄風便器にあっては、身体の不自由な人や、筋力の弱い人には腰を掛けたり、立ち上がったりするのに困難を伴うことがある。かかる問題点を解決するものとして、特開2000−204639号には、便器本体の上側に便座口を有したステージ板を便座の代替として配置したトイレが記載されている。このステージ板は、便器本体の左右に十分に張り出す大きさのものであり、便器使用者等が手をついたり、伸ばした足を載せたり、うつ伏せに寝たりすることができる。
【特許文献1】特開2000−204639号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2000−204639号では、便器本体を囲むようにフレームを設置し、このフレームに上記ステージ板を起倒回動可能に取り付けているが、かかる構造は大掛かりでコスト高である。
【0005】
本発明は身体の不自由な人や、筋力の弱い人でも楽に使用することができ、しかも構造が比較的簡易な便器用腰掛台と、この便器用腰掛台を設置した便器付きの部屋とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(請求項1)の便器用腰掛台は、便器本体の上側を横断して配設される座板を備え、該座板には、該便器本体のリムと略同形の開口部が設けられている便器用腰掛台において、該座板の左右両サイドからそれぞれ下方に脚体を立設し、これらの脚体によって該座板を部屋の床上に設置可能としたことを特徴とするものである。
【0007】
座板の上面は軟質材にて構成されてもよい。
【0008】
座板の下面のうち、少なくとも開口部の周縁部に軟質材が設けられてもよい。
【0009】
この便器用腰掛台の座板には、該開口部を覆う開閉可能な蓋体が設けられていることが好ましい。
【0010】
該蓋体の少なくとも上面は軟質材にて構成されていることが好ましい。
【0011】
この蓋体から後方に屈曲可能なシート片延出しており、該シート片が前記座板に留め付けられていてもよい。
【0012】
この腰掛台の前面部は、着座者の下脚を受け入れるように開放しているか又は凹陥していることが望ましい。
【0013】
本発明(請求項8)の部屋は、便器本体が設置された部屋において、該便器本体を跨いで上記本発明の便器用腰掛台が設置されていることを特徴とするものである。
【0014】
この便器本体のリムの上面と座板の下面とが軟質材を介して密着するよう構成されてもよい。
【0015】
この腰掛台内の前記便器本体の側方又は後方に、配管引き回し用のスペースが存在するよう構成されてもよい。
【0016】
この腰掛台に隣接して洗面器または手洗器が設置されており、該洗面器又は手洗器用の配管がこのスペースに引き回されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の便器用腰掛台は、便鉢上縁のリムと略同形の開口部を有した座板の左右両サイドから脚体を下方に立設したものである。この便器用腰掛台は、座板が便器本体の上側を左右に横切るように設置される。
【0018】
この座板は、便座を兼ねるものであり、便器使用者は開口部周端に腰を掛けて用を足す。この座板は、従来の便座よりも十分に大きいので、便器使用者はこの座板に手を突いたりすることができる。
【0019】
また、座板の左右幅を大きくした場合には、開口部の側方に腰をおろし、それから開口部へ腰をスライドさせたりすることもできる。座板の左右幅を大きくした場合には、座板の上に寝そべることも可能である。
【0020】
この座板の上面を軟質材にて構成することにより、座り心地を良くすることができ、腰掛台がベンチチェストとして使い易いものとなる。
【0021】
この開口部に開閉可能な蓋体を設けることにより、蓋体を閉めて部屋内の美観を高めたり、臭気放散を防止したりすることができる。
【0022】
この蓋体の上面を軟質材にて構成することにより、腰掛台がベンチチェストとして使い易いものとなる。なお、座板の上面又は蓋体の下面を軟質材にて構成した場合、蓋体を閉めたときに蓋体を座板に密着させることができ、臭気放散を防止することができる。
【0023】
この蓋体から後方に屈曲可能なシート片を延出させ、このシート片を座板に留め付けた場合には、このシート片が屈曲するので、ヒンジを設けることなく蓋体を起倒させることができる。ヒンジを省略した場合には、ヒンジや、その固定用のビスやボルトが露呈せず、見栄えが良くなる。また、シート片であれば、手、腕、上半身が当っても痛くない。なお、シート片をマジックテープ(登録商標)などの平面ファスナとしてもよい。
【0024】
本発明では、腰掛台の前面部を開放させるか又は凹陥させ、座板への着座者の下脚を受け入れ可能としてもよい。下脚を腰掛台の前面部に入れるようにした場合、着座者は前かがみの姿勢をとり易くなる。なお、前かがみの姿勢をとると、腹圧を高めて排便を促すことができる。
【0025】
本発明の便器用腰掛台は、座板が大きいので、便器本体を隠して部屋の美観を高めることができる。なお、脚体を板状とした場合には、脚体によっても便器本体を隠すことができる。従って、寝室や病室などトイレ以外の部屋に便器が設置されている場合にもこの腰掛台を好適に用いることができる。
【0026】
この腰掛台は、脚体によって自立するように設置されるものであるため、部屋の中のいずれの位置に便器本体が設置されている場合であっても、この便器用腰掛台を設置することができる。
【0027】
この座板の面積を大きくした場合などには、該便器用腰掛台内の便器本体の側方や後方にスペースが生じるので、このスペースを配管引き回しに利用することができる。従って、例えば該便器用腰掛台に隣接して洗面器または手洗器を設置し、該洗面器又は手洗器用の給水管や排水管をこのスペースに引き回した場合、配管が部屋内に露呈せず、部屋の美観が向上する。脚体を板状とした場合には、この脚体によっても配管が隠される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0029】
第1図は実施の形態に係る便器用腰掛台の設置状態を示す斜視図、第2図は第1図のII−II線に沿う断面図、第3図は蓋体の構成を示す断面図、第4図は便器用腰掛台に隣接して手洗カウンターを設置した部屋の平面図である。
【0030】
この便器用腰掛台1は、略水平な座板2と、該座板2の左右両端から下方に立設された左右の脚体3,3と、座板2の開口部5を覆う蓋体6とを有する。この実施の形態では、座板2は方形の板状であり、左右方向の中央部に開口部5が設けられているが、開口部5は中央よりも左又は右に偏って設けられてもよい。
【0031】
座板2の左右幅は、便器本体7の左右幅よりも十分に大きい。また、座板2の前後方向の長さは便器本体7の前後方向の長さよりも大きい。開口部5の平面視形状は、この便器本体7の便鉢8の上縁のリムと略同形である。
【0032】
座板2の上面は、軟質材よりなる。例えば、座板2の上面は、発泡ウレタンなどよりなる軟質マット層と、この軟質マット層を覆う軟質な合成樹脂シートなどよりなる表皮とで構成される。
【0033】
脚体3は、この実施の形態では方形の板材よりなり、座板2と一体となるように該座板2に固定されている。図示はしないが、脚体3の下端面には、高さ調節用のアジャスタボルトが設けられている。
【0034】
蓋体6は、この実施の形態では、第3図の通り、所定の強度及び剛性を備えた合成樹脂などよりなる芯板10と、この芯板10の上側に被装された発泡ウレタンなどよりなる軟質材11と、該芯板10及び軟質材11を被包する合成樹脂シートなどよりなる外皮12とを有する。なお、蓋体としては、第5図の通り、芯板10の上下両側及び外周縁の全体を軟質材11で被包し、その外側を外皮12で被包した蓋体6Aを用いてもよい。
【0035】
この外皮12は、蓋体6,6Aの後方に延出してシート片13となっている。このシート片13は、手で屈曲させることができる程度に軟質である。このシート片13の下面にマジックテープ(登録商標)などの平面ファスナの第1片14が接着されている。座板2の上面のうち開口部5の後方に平面ファスナの第2片15が接着されている。この第1片14を第2片15に結合させることにより蓋体6,6Aが座板2に着脱可能に取り付けられる。
【0036】
便器本体7は陶器製であり、便座及び便蓋1は撤去されている。便器本体7の便鉢8は、トラップ20及び排水口21を介して排水ソケット22に連通している。この排水ソケット22に排水管23が接続されている。
【0037】
図示は省略するが、便器本体7のリム通水路24に便器洗浄水を供給するようにフラッシュ弁付き給水管が便器本体7の給水受入口に接続されている。
【0038】
この腰掛台1は、座板2、脚体3及び蓋体6よりなるものであり、構成が簡単であり、低コストで製造することができる。
【0039】
この腰掛台1は、座板2が便器本体7の左右に張り出すように、かつ開口部5が便鉢8の上側に位置するように便器本体7を跨いで設置される。脚体3,3のアジャスタボルトを調節することにより、座板2の下面が便器本体7の上面に接するか、又は若干(例えば30mm以下程度)の隙間があくようにする。
【0040】
なお、座板2の下面のうち少なくとも開口部5の周縁部に軟質材を設けるか、便器本体7のリムの上面に軟質材を取り付け、この軟質材を介して便器本体7のリムと座板2との下面とを密着させてもよい。このようにすれば、座板2と便器本体7のリム上面との間の隙間が塞がれることになり、この部分からの臭気放散を防止することができる。
【0041】
便器本体7を用いて用便をするときには、蓋体6を起立させ、座板2に座ってこれを行う。身体の不自由な人や、筋力の弱い人の場合、開口部5の側方の座板2の上に腰をおろしたり、その上に寝そべったりした後、腰を開口部5に移動させてもよい。腰掛台1から離れるときには、上記とは逆に、開口部5付近に座っている人が開口部5の横へ腰をずらしたり、寝そべったりした後、腰掛台1から離れるようにすることもできる。
【0042】
この実施の形態では、腰掛台1の前面部は開放しているので、用便すべく開口部5付近に腰をおろした着座者が下脚(膝から下側)を開口部2の下側へ入り込ませることができる。このような姿勢をとると、着座者は上半身を前方へ傾けることが容易となる。上半身を前方へ傾けると、腹圧を高め、排便をスムーズに行うことができる。
【0043】
この実施の形態では、第1図のように、便器本体7の全体を腰掛台1で覆っており、便器本体7は部屋内から殆ど見えないようになる。なお、脚体3が板状であるため、便器本体7が側方からも見えないようになり、見栄えがよい。従って、便器本体7がトイレルーム以外の寝室、浴室、病室などに設置されている場合に、便器本体7を隠して部屋の美観を高める効果を得ることもできる。
【0044】
この実施の形態では、座板2の上面が軟質材よりなるため、その上に座ったり寝そべったりしたときの感触がソフトであり、腰掛台1をベンチチェストとして使い易い。また、蓋体6の上面も軟質材よりなるため、蓋体6を倒伏させて蓋体6の上に腰をかけたり、肘をかけたりするようにして、腰掛台1をベンチチェストとして使用することもできる。
【0045】
この実施の形態では、座板2の上面が軟質材よりなるため、蓋体6を倒伏させたときに蓋体6が開口部5の周縁部上面に密着し、便鉢内からの臭気放散を十分にすることができる。蓋体6Aのように下面を軟質材とした蓋体にあっても、倒伏したときに座板の開口部周縁部上面に密着し、便鉢内からの臭気放散を十分に防止することができる。
【0046】
この実施の形態では、蓋体6はシート片13を平面ファスナによって座板2に連結するようにして設置されている。従って、ヒンジ金具やヒンジ取付ビス、ボルトなどが存在せず、蓋体6を倒伏させた状態の見栄えが良い。また、座板2や蓋体6の上に腰をかけたり寝そべったりしてもこれらヒンジ金具等に当ることがなく、快適である。
【0047】
また、蓋体6に汚れが付いたり、蓋体6が損傷したときには、蓋体6を簡単に取り外して洗ったり、新品と交換することができる。
【0048】
なお、シート片13を平面ファスナにて構成してもよい。
【0049】
この実施の形態では、座板2が方形であるので、座板2を方形の部屋の隅にぴったりと納めることができる。この実施の形態では、座板2の下側の便器本体7の側方や後方に相当のスペースがあいている。そこで、このスペースをトイレットペーパーなどの小物入れに利用したり、このスペースを配管引き回し用スペースに利用してもよい。
【0050】
第4図は、腰掛台1に隣接して手洗器26を設置し、この手洗器の給水用配管及び排水用の配管27を腰掛台1内に引き回すようにした部屋28の平面図である。この実施の形態では、腰掛台1に隣接したカウンター29を設置し、このカウンター29に手洗器26を設けている。ただし、カウンター29の代わりにキャビネットを設置し、このキャビネットに手洗器を設置してもよい。手洗器の代わりに洗面器を用いてもよい。
【0051】
本発明では、第6図の座板2Aのように、開口部5の周縁部から便器本体7のリム内周縁に沿って垂下する環状壁5Wを設けてもよい。このようにすれば、リム上面と座板2Aの下面との界面付近に汚水が付着することを防止することができる。また、腰掛台1を位置決めすることもできる。
【0052】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の態様をもとりうる。例えば、座板2に手摺を設けてもよい。また、座板2の下側のスペースに臨むように、座板2や脚体3に照明を設けてもよい。このようにすれば、部屋を間接照明することもできる。腰掛台1にロック付きのキャスタを取り付け、必要なときに腰掛台を便器本体7のところまで移動させるようにしてもよい。この場合、便器本体7に便座を取り付けておき、倒伏した便座の上側を跨ぐようにして腰掛台1を配備するようにしてもよい。
【0053】
上記実施の形態では、脚体3は板状であるが、柱状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】便器用腰掛台の設置状態を示す斜視図である。
【図2】第1図のII−II線に沿う断面図である。
【図3】蓋体の構成を示す断面図である。
【図4】便器用腰掛台に隣接して手洗カウンターを設置した部屋の平面図である。
【図5】別の蓋体を示す断面図である。
【図6】別の実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 便器用腰掛台
2,2A 座板
3 脚体
5 開口部
6,6A 蓋体
7 便器本体
8 便鉢
10 芯板
11 軟質材
12 外皮
13 シート片
14 平面ファスナの第1片
15 平面ファスナの第2片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体の上側を横断して配設される座板を備え、該座板には、該便器本体のリムと略同形の開口部が設けられている便器用腰掛台において、
該座板の左右両サイドからそれぞれ下方に脚体を立設し、これらの脚体によって該座板を部屋の床上に設置可能としたことを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項2】
請求項1において、該座板の上面が軟質材よりなることを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項3】
請求項1又は2において、該座板の下面のうち少なくとも前記開口部の周縁部に軟質材が設けられていることを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記開口部を覆う開閉可能な蓋体が前記座板に設けられていることを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項5】
請求項4において、該蓋体の少なくとも上面を軟質材にて構成したことを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記蓋体から後方に屈曲可能なシート片が延出しており、該シート片が前記座板に留め付けられていることを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記腰掛台の前面部は、着座者の下脚を受け入れるように開放しているか又は凹陥していることを特徴とする便器用腰掛台。
【請求項8】
便器本体が設置された部屋において、該便器本体を跨いで請求項1ないし7のいずれか1項に記載の便器用腰掛台が設置されていることを特徴とする部屋。
【請求項9】
請求項8において、前記便器本体のリムの上面と前記座板の下面とが軟質材を介して密着していることを特徴とする部屋。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記腰掛台内の前記便器本体の側方又は後方に配管引き回し用のスペースが存在することを特徴とする部屋。
【請求項11】
請求項10において、前記腰掛台に隣接して洗面器または手洗器が設置されており、該洗面器又は手洗器用の配管が前記スペースに引き回されていることを特徴とする部屋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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