説明

保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤

【課題】保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤の提供を目的とする。
【解決手段】塩酸イミダプリルに糖アルコール及びセルロース誘導体を配合してあることを特徴とする。
糖アルコールは、マンニトールが好ましく、セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース及び/又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(−)−(4S)−3−[(2S)−2−[[(1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル]アミノ]プロピオニル]−1−メチル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸一塩酸塩(塩酸イミダプリル)はアンジオテンシン変換酵素阻害剤であり、高血圧症、腎実質性高血圧症、1型糖尿病性腎症の治療に広く用いられている。
塩酸イミダプリルは原末の状態では、温度、湿度、光に対して比較的安定であるが、製剤化において添加剤を配合した場合、吸湿水分によって塩酸イミダプリルが加水分解を起こし、保存安定性が低下する問題がある。
特許第3232687号公報には、ポリエチレングリコールが配合されていない製剤(対照)では、50℃1箇月保存後の塩酸イミダプリルの分解率が9.4%であったのに対し、乳糖とポリエチレングリコールを配合することで50℃1箇月保存後の塩酸イミダプリルの分解率が0.2%にまで抑制されたことが開示されている。
しかし、未だ保存安定性が不充分であり、本発明の実施品であると推定される市販製剤は、包装形態では安定であるが、無包装状態では分解物が増加する傾向が確認されており、開封後は湿度を避けて保存しなければならないという問題がある。
患者や医療関係者の利便性を考えた場合、無包装状態でも安定な塩酸イミダプリル含有製剤の開発が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特許第3232687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、有効成分である塩酸イミダプリルに糖アルコール及びセルロース誘導体を配合することによって、保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤は、塩酸イミダプリルに糖アルコール及びセルロース誘導体を配合してあることを特徴とする。
ここで、糖アルコールとしては、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトールなどが挙げられるが、マンニトールが好ましい。
糖アルコールの配合量は特に限定されないが、10〜98質量%、好ましくは50〜90質量%である。
また、セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、ヒドロキシプロピルセルロース及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
セルロース誘導体の配合量は特に限定されないが、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0006】
本発明に係る製剤には上記の成分以外に、医薬品添加物として通常使用される賦形剤、滑沢剤などを適宜配合することが可能である。
賦形剤としては、乳糖などの糖類、トウモロコシデンプンなどのデンプン類、結晶セルロースなどのセルロース類、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。
滑沢剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。
本発明に係る製剤に適した製造方法としては、湿式顆粒圧縮法、乾式顆粒圧縮法、直接粉末圧縮法などが挙げられるが、湿式顆粒圧縮法が好ましい。
湿式顆粒圧縮法で用いられる造粒方法としては、流動層造粒、撹拌造粒、転動流動層造粒、押出し造粒、噴霧乾燥造粒などが挙げられるが、流動層造粒または転動流動層造粒が好ましい。
また、造粒工程で使用する溶媒としては、水、エタノール、メタノール、塩化メチレンなどが挙げられるが、水またはエタノール及びその混合溶媒が好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、塩酸イミダプリルを主薬とする製剤化の手段としてマンニトール等の糖アルコール及び、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体を配合したことにより、塩酸イミダプリルの加水分解を抑え、保存安定性に優れる製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0009】
塩酸イミダプリル40.0g、マンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業製)580.8gを混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(MP−01:パウレック製)に入れ、これにヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L、日本曹達製)の5%水溶液256.0gをスプレーした。
スプレー終了後、流動層乾燥し、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品554.4gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)5.6gを加えて混合し、ロータリー打錠機(AQUA0518:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【実施例2】
【0010】
塩酸イミダプリル40.0g、マンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業製)568.0gを混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(MP−01:パウレック製)に入れ、これにヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L、日本曹達製)の5%水溶液256.0gをスプレーした。
スプレー終了後、流動層乾燥し、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品543.2gに対してショ糖脂肪酸エステル(商品名:DKエステル、第一工業製薬)8.4g、硬化油(商品名:ラブリワックス、川研ファインケミカル)8.4gを加えて混合し、ロータリー打錠機(AQUA0518:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【実施例3】
【0011】
塩酸イミダプリル40.0g、マンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業製)536.0gを混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(MP−01:パウレック製)に入れ、これにヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L、日本曹達製)の5%水溶液256.0gをスプレーした。
スプレー終了後、流動層乾燥し、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品515.2gに対して低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:L−HPC、信越化学製)16.8g、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:DKエステル、第一工業製薬)14.0g、硬化油(商品名:ラブリワックス、川研ファインケミカル)14.0gを加えて混合し、ロータリー打錠機(AQUA0518:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【実施例4】
【0012】
塩酸イミダプリル7.5g、マンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業製)108.3gを混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(フローコーターミニ、フロイント産業製)に入れ、これにヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L、日本曹達製)の5%エタノール溶液60.0gをスプレーした。
スプレー終了後、流動層乾燥し、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品110.9gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)1.1gを加えて混合し、単発打錠機(6B−2:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【0013】
(比較例1)
塩酸イミダプリル40.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)580.8gを混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(MP−01:パウレック製)に入れ、これにヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L、日本曹達製)の5%水溶液256.0gをスプレーした。
スプレー終了後、流動層乾燥し、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品554.4gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)5.6gを加えて混合し、ロータリー打錠機(AQUA0518:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【0014】
(比較例2)
塩酸イミダプリル40.0g、マンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業製)580.8gを混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(MP−01:パウレック製)に入れ、これにポリビニルピロリドン(商品名:Kollidon、BASF製)の5%水溶液256.0gをスプレーした。
スプレー終了後、流動層乾燥し、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品554.4gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)5.6gを加えて混合し、ロータリー打錠機(AQUA0518:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【0015】
(比較例3)
塩酸イミダプリル7.5g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)99.3g、ポリエチエレングリコール(商品名:マクロゴール6000、日本油脂製)を混合、22mesh篩過した後、流動層造粒機(フローコーターミニ、フロイント産業)に入れ、吸気温度90℃で溶融造粒した。
造粒物を冷却した後、30メッシュ篩にて篩過整粒した。
整粒品110.9gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)1.1gを加えて混合し、単発打錠機(6B−2:菊水製作所製)にて、直径6mm、重量が80mgの錠剤を得た。
【0016】
(試験1)
実施例1〜4,比較例1〜3の打錠性を評価した。
比較例2は打錠直後から打錠障害が発生し、連続打錠が困難であった。
実施例1〜4、比較例1、3は打錠障害の発生はなく、連続打錠が可能であった。
比較例2が連続打錠できなかったのは、配合したポリビニルピロリドンの影響によると推定される。
【0017】
(試験2)
塩酸イミダプリル含有製剤の安定性を評価する為に、製剤を無包装の状態で、40℃、75%RHの条件で1.5箇月間保存し、保存後の分解物発生量を測定した。
また、目視によって、製剤の外観についても評価した。
(分解物発生量測定方法)
錠剤1錠に移動相5mLを加えて超音波処理し、錠剤を完全に崩壊した後、移動相を加えて正確に10mLとする。この液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、20μLを正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフ法により測定した。
(分析条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:215nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクチルシリル化シリカゲルを充填する。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:リン酸二水素カリウム1.36gを水1000mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.7に調製する。この液600mLにメタノール400mLを加える。
流速:イミダプリルの保持時間が約8分になるように調整する。
その結果を図1の表に示す。
実施例1〜3の塩酸イミダプリルに、マンニトール及びヒドロキシプロピルセルロースを配合した製剤は、比較例1の塩酸イミダプリルに乳糖とヒドロキシプロピルセルロースを配合した製剤に比較して、外観変化がなく分解物の発生量が少ないことが明らかになった。
【0018】
(試験3)
塩酸イミダプリル含有製剤の安定性を評価する為に、製剤を無包装の状態で、40℃、75%RHの条件で5箇月間保存し、保存後の分解物発生量を測定した。
また、目視によって、製剤の外観についても評価した。
その結果を図2の表に示す。
実施例4の塩酸イミダプリルにマンニトールとヒドロキシプロピルセルロースとを配合した製剤は、比較例3の塩酸イミダプリルにポリエチレングリコールを配合した製剤に比較して、分解物発生量が少ないことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】分解物の発生量測定結果を示す。
【図2】分解物の発生量測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸イミダプリルに糖アルコール及びセルロース誘導体を配合してあることを特徴とする保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤。
【請求項2】
糖アルコールは、マンニトールであることを特徴とする請求項1記載の保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤。
【請求項3】
セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース及び/又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1記載の保存安定性に優れた塩酸イミダプリル含有製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308456(P2007−308456A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142017(P2006−142017)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(592073695)日医工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】