説明

保存性の高いそば湯、該そば湯の固形化物及びそれらの製造方法

【課題】何時でも何処でも容易に飲むことができるような保存安定性に優れたそば湯を製造する方法、該製造方法によって得られる保存安定性に優れたそば湯製品、該そば湯を長期保存可能な粉末状や顆粒状に乾燥したそば湯の素を提供する。
【解決手段】そば粉を主原料としてそば湯を製造する方法であって、水に懸濁したそば粉を加熱する前及び/又は加熱した後に澱粉加水分解酵素を含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化する加熱酵素処理工程と、該加熱酵素処理工程からの酵素処理液から高い透明性を有するそば湯を得る固液分離工程とを有することを特徴とする、そば湯の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用成分が含まれているにもかかわらず、保存性に問題があるため、そば(蕎麦)を茹でる場所でしか飲むことのできないそば湯を、何時でも、何処でも、容易に飲むことができるような保存安定性に優れたそば湯を製造する方法と、該製造方法によって得られる保存安定性に優れたそば湯に関する。さらに、該そば湯を長期保存可能な粉末状や顆粒状に乾燥したそば湯の素を製造する方法と当該そば湯の素に関する。
【背景技術】
【0002】
「そば(蕎麦)」はタデ科の植物であって、痩せ地にも生育することから、古来、日本各地で食料として栽培されてきた。特に、わが国では、そば粉を練って延ばし、裁断した麺そばとして食する習慣があり、山里の農家では貴重な食料であった。そばは、澱粉、蛋白質を含み、食品としてのバランスが良く、消化性に優れた完全食品として主食用、副食用に利用されてきている。近年、そばには、ビタミンやルチンが豊富に含まれることが知られ、栄養や機能性の面から「そば」が注目されている。特に、ルチンは、毛細血管を強くして高血圧や脳出血に対する予防効果があるとされている。
【0003】
しかしながら、機能性を有するビタミンやルチンは水溶性であるため、生麺や乾麺を茹でる際に、その茹で湯の中に有用物質の多くが溶け出すこととなる。そば店でそばを食する場合、同時に湯桶に入れて供されるそば湯を飲めば、水溶性の有用物質を摂取することができる。しかし、そば湯は安定性に問題があり、保存が困難なため、その多くが捨てられているのが現状である。
【0004】
そば湯に多くの有用性物質が含まれていることが知られるようになり、そば湯を飲用する人が増えている。このような、そば湯に対する人々の関心の高まりに対応して、即席タイプのそば湯の素が開発され、注目されている。特開2006−158236号公報(特許文献1)には、玄そばから抽出して得られるエキスにデキストリンや澱粉を添加して噴霧乾燥することにより、粉末化あるいは顆粒化したそば湯の素が記載されている。
【0005】
上記の発明は、そば湯を直接、粉末化又は顆粒化したものではなく、玄そばをパフ化することにより、そばエキスを抽出し、これに澱粉や澱粉の分解物であるデキストリンを助剤として加えて初めて粉末化に成功したものである。前記発明が生まれた背景には、そば湯そのものを粉末化することが困難であるという事情がある。そば湯には、澱粉が糊化した状態で存在するため、清澄濾過により濾別することが困難であり、糊化した澱粉を含んだ状態で噴霧乾燥や凍結乾燥することも、極めて困難である。
【特許文献1】特開2006−158236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のように、栄養価の高い物質を豊富に含有することが知られていながら、あまり利用されていないそば湯の保存安定性を高めて、何時でも、何処でも風味の良いそば湯を食することが可能となるそば湯の製造方法を提供することである。さらに本発明は、当該製造法よって得られたそば湯を長期保存可能なそば湯製品として提供すること、温湯を用意するだけで簡単かつ即席でそば湯をつくることのできる「そば湯の素」と呼ぶべき粉末状又は顆粒状のそば湯乾燥品を製造すること、及びそのように乾燥固形化したそば湯製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記したように、そば湯が機能性に優れた有用物質を含むにもかかわらず、保存性に劣るために廃棄処分されている現状に鑑み、そば湯の保存性を高めるべく開発を進めてきた。その結果、そばの主成分である澱粉が加熱処理により糊化して固液分離が困難であること、玄そばに付着している酵母などの微生物が混入することにより、糊化した澱粉が容易に腐敗して保存性を損なうことを知った。
【0008】
そこで、近年、食品の固液分離で活用されているセラミック・フィルターで濾過を試みたが、生成する糊化澱粉により固液分離は著しく阻害された。固液分離を阻害している糊化澱粉を酵素で分解して低分子化すると、セラミック・フィルターによる濾過が促進されることを確認した。しかも、得られたそば湯は透明な液となり、微生物による腐敗が起こらないことを知った。さらにまた、得られた水溶性の有用物質を含有するそば湯の粉末化にも成功し、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明は、そば(蕎麦)の主成分である澱粉を酵素で低分子化することにより、そば湯の固液分離を効率的に進めることができ、しかも雑菌に汚染されたそば湯から微生物を完全に除去できる技術を開発したことに基づく発明であり、そばに含まれる有用成分を含有する水溶液を効率的に製造すること、さらに得られたそば湯を粉末状又は顆粒状に乾燥した「そば湯の素」を製造すること、を可能とする以下の開発技術によって構成されている。
【0010】
(1)そば粉を主原料としてそば湯を製造する方法であって、水に懸濁したそば粉を加熱する前及び/又は加熱した後に澱粉加水分解酵素を含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化する加熱酵素処理工程と、該加熱酵素処理工程からの酵素処理液から高い透明性を有するそば湯を得る固液分離工程とを有することを特徴とする、そば湯の製造方法。
【0011】
(2)前記固液分離工程は、セラミック膜フィルターを用いるろ過工程であることを特徴とする、(1)項記載のそば湯の製造方法。
【0012】
(3)前記加熱酵素処理工程における酵素剤が、耐熱性液化型α−アミラーゼを含む酵素剤であることを特徴とする、(1)項又は(2)項に記載のそば湯の製造方法。
【0013】
(4)前記加熱酵素処理工程は、耐熱性液化型α−アミラーゼを含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化した後、糖化型アミラーゼを含む酵素剤を用いて澱粉をさらに低分子化する工程であることを特徴とする、(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のそば湯の製造方法。
【0014】
(5)前記加熱酵素処理工程からの酵素処理液及び/又は前記固液分離工程からの高い透明性を有するそば湯に、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、植物破砕物、植物エキス、有機酸及びアルコールから選ばれる少なくとも1種を添加することを特徴とする、(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のそば湯の製造方法。
【0015】
(6)前記(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のそば湯の製造方法で製造されている、そば湯。
【0016】
(7)前記(6)項に記載のそば湯を滅菌容器に充填密封してなる、そば湯製品。
【0017】
(8)前記(6)項に記載のそば湯を噴霧乾燥又は凍結乾燥によって粉末状又は顆粒状に固形化することを特徴とする、そば湯の素の製造方法。
【0018】
(9)前記そば湯を噴霧乾燥又は凍結乾燥によって粉末状又は顆粒状に固形化する前に、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、植物破砕物、植物エキス及び有機酸から選ばれる少なくとも1種を添加することを特徴とする、(8)項に記載のそば湯の素の製造方法。
【0019】
(10)前記そば湯を噴霧乾燥又は凍結乾燥を行って固形化された粉末又は顆粒に、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、植物破砕物、植物エキス及び有機酸から選ばれる少なくとも1種を混合することを特徴とする、(8)項に記載のそば湯の素の製造方法。
【0020】
(11)前記(8)項〜(10)項のいずれか1項に記載された方法で製造されている、粉末状又は顆粒状のそば湯の素。
【0021】
(12)前記(11)項に記載された粉末状又は顆粒状のそば湯の素を容器に充填密封してなる、そば湯の素製品。
【発明の効果】
【0022】
本発明のそば湯は、「そば」に含まれる水溶性の有用物質とそば澱粉の酵素分解物であるオリゴ糖を含み、適当な保存容器、例えば、缶、ペットボトル、ガラス容器、プラスチック容器、紙容器等に保存することができる。本発明のそば湯製品は、必要に応じて適温に加温して、何時、何処でも、簡単に飲むことのできる飲料となる。
【0023】
また、本発明のそば湯は、前述のように澱粉が低分子化したオリゴ糖を含むため味がまろやかになり、既存のそば湯と比較して非常に美味しく、飲みやすいそば湯を提供できるので、そば湯を敬遠してきたような人でも美味しく飲むことができる。
【0024】
また、本発明のそば湯の素は、乾燥した粉末状及び/又は顆粒状であって、缶、ガラス容器、プラスチック容器、紙容器に長期保存が可能であり、水や温水で簡単に溶解するので、本来のそば湯と同等の成分を含むそば湯を容易に得ることができる。本発明のそば湯の素製品は、必要に応じて水や温湯に溶解して、何時、何処でも、簡単に飲むことのできる飲料となる。
【0025】
さらにまた、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、茶や柑橘、梅などの植物破砕物及び植物エキスや有機酸を配合して、良好な風味を有する飲料とすることができる。しかも、アルコールを添加することにより、風味豊かなアルコール飲料とすることもできる。
【0026】
本発明の方法で製造されるそば湯の乾燥製品は、加熱処理工程による微生物の殺菌処理に加えて、セラミック・フィルターによる除菌処理が施されており、さらに加えて、噴霧乾燥や凍結乾燥によって乾燥処理されている。このような微生物汚染の可能性を極限にまで削減した近代的な製造法によって得られているので、病院や特別養護老人ホームなど要介護者が多い施設で使用する場合も、安全・安心である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のそば湯又はそば湯の素の製造方法は基本的には以下の工程を含む製造方法である。
「水に懸濁したそば粉を加熱する前及び/又は加熱した後に澱粉加水分解酵素を含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化する加熱酵素処理工程と、該加熱酵素処理工程からの酵素処理液から高い透明性を有するそば湯を得る固液分離工程とを有することを特徴とする、そば湯の製造方法。」
【0028】
上記製造方法における「水に懸濁したそば粉を加熱する前及び/又は加熱した後に澱粉加水分解酵素を含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化する加熱酵素処理工程」では、通常のそば店や、茹で麺そば製品を製造している工場で麺そばを茹でる際に得られているそば湯は水に懸濁したそば粉が加熱されたものであるので、そのまま該加熱酵素処理工程の原料として利用し、酵素剤を加えて含まれている澱粉を低分子化することができる。また、そば粉に水を加えてスラリーとし、これに酵素剤を加えて加熱処理して澱粉を低分子化することもできる。本発明の加熱酵素処理工程では、そば粉を加熱処理する前に酵素剤を添加することにより、「そば」を高濃度で処理することが可能となるし、さらに加熱処理中に酵素剤を追加添加することもできる。
【0029】
加熱酵素処理工程で処理されるそば粉の原料となる「そば」の種類や形状には、特に制限はなく、日本産の各種玄そばやルチンを多く含むとされるダッタンそばを利用することができる。殻や甘皮を分別したそば粉だけを用いてもよいが、殻のついた玄そばを挽いた殻付のそば粉や、殻を剥いた丸実を挽いたそば粉なども、分別しないでそのまま使用することができる。また、そば粉を生産する際に排出する甘皮や殻の粉砕物もルチンなどの有用成分が含まれており、むしろ、これらを含んだ状態のそば粉を利用することが望ましい。このような甘皮や殻の粉砕物を含む原料を用いることにより、有用成分の多いそば湯が製造されるだけでなく、酵素処理後のそば湯を固液分離する際に、濾過助剤として活用することが可能となる。
【0030】
上記のような加熱酵素処理工程では、期待されるそばの有用成分が水溶性であるため、その多くがそば湯中に溶出する。そばの愛好家たちがそば店で、そば湯を所望して飲んでいる理由でもある。ところが、上記のように有用成分を多く含むそば湯は日持ちしない。そばの実は収穫前から、自然に酵母などの微生物が付着しており、そば粉を製造する際に、微生物が混入する。乾燥したそば粉であれば、微生物の増殖は防がれるものの、そばを麺のように水分の多い状態にすれば、微生物の増殖を防ぐことは困難となる。従って、麺そばを茹でたそば湯は高温処理にもかかわらず、微生物が増殖して保存のできない液体となる。
【0031】
また、そば湯はトロリとした白濁液として得られるが、その白濁やトロリ感はそばから溶出した白いクリーム状の物質に起因し、その主たる成分は澱粉である。この澱粉は糊化状態にあり、濃縮すれば、ドロドロのスラリーとなって噴霧乾燥ができなくなる。多少、濃度を低くしても、薄膜を形成するようになり、噴霧乾燥や凍結乾燥は困難であって、本発明のもう一つの課題である長期保存可能なそば乾燥製品の製造を達成することができない。噴霧乾燥や凍結乾燥が可能となるように澱粉の濃度を低くすることも考えられるが、乾燥コストが高くなり、そば店で麺そばを茹で上げる際に副生するそば湯と同じように、気軽に飲むことができる低廉なそば湯を提供することは難しい。
【0032】
そこで、本発明のそば湯の製造方法は「水に懸濁したそば粉の加熱処理工程に澱粉加水分解酵素を含む酵素剤を加えて澱粉を水溶性のオリゴ糖に低分子化する酵素処理」を必須の工程とする。
【0033】
加熱処理工程における酵素処理は、通常行われる「そば」の生麺や乾麺を茹でる条件で酵素剤を添加して行うことができる。現在では、澱粉の液化に使用されるα−アミラーゼの多くが耐熱性である。従って、「そば」を茹でる95℃前後の温度でも、充分作用できる食品用酵素が市販されており、使用可能である。さらに、100℃前後の高温に耐える超耐熱性のα−アミラーゼを酵素剤として用いることにより、澱粉の低分子化が促進される。
【0034】
また、液化型α−アミラーゼを作用させることにより、澱粉から生成する水溶性のオリゴ糖はぶどう糖の鎖長が10前後の長いものが多くなり、ほとんど甘味を有しないこと、しかも、鎖長の長いオリゴ糖はそば湯を濃厚な感じにする効果があることも判明した。
【0035】
そば湯中の澱粉を分解する酵素としては、澱粉加水分解酵素を含む酵素剤は全て利用することができる。また、日本独特の麹を利用すれば、麹に含まれるα−アミラーゼによって糊化澱粉は低分子化される。そば湯中の糊化澱粉を酵素分解するためには色々な処理方法を使用することができる。
【0036】
例えば、そば粉を20〜30%のスラリーとし、これに超耐熱性液化型α−アミラーゼを添加して、クッカーに投入し、100〜120℃の温度で加圧下に、10秒〜10分の短時間処理した後、95℃で1〜2時間攪拌しながら加熱すると、DE(澱粉の分解度を示す指数であり、全糖÷還元糖で算出する)=4〜20の糖液が得られる。液化型α−アミラーゼの添加量は酵素の種類によって大きく異なるが、市販されている食品用酵素であれば、対澱粉で概ね0.001〜0.5質量%の添加である。加圧装置のない場合は、100℃に近い温度で処理時間を長くして同様に加熱処理すれば、同じ分解程度の糖化液が得られる。
【0037】
なお、液化型α−アミラーゼによる澱粉の分解は、進めば進むほど、澱粉の低分子化が進展することとなり、粘度が低下して糊化澱粉が消失する。従って、後に述べるそば湯の固液分離には有利となる。しかしながら、澱粉の低分子化はオリゴ糖の生成を多くして、そば湯独特のとろみも消失する。そば湯の製品によっては、澱粉の分解を適度に止める必要も生じる場合がある。そのようなそば湯を得るには、澱粉の分解処理を軽くして糊化澱粉を若干残すような処理も可能である。
【0038】
一方、澱粉の低分子化をさらに進める方法も採用することができる。糖化型アミラーゼを添加すれば、ぶどう糖やぶどう糖が2〜4個結合したオリゴ糖が多く生成する。液化型α−アミラーゼで処理されたそば湯を60〜70℃に維持して、糖化型アミラーゼを添加して、1〜36時間処理すると、ぶどう糖も含む低分子のオリゴ糖類が多く生成する。これらのオリゴ糖は砂糖に比べて甘くはなく、程よい甘さを有しており、上品な甘さの美味しいそば湯が得られる。
【0039】
糖化型アミラーゼの添加量は酵素の種類によって大きく異なるが、市販されている食品用酵素であれば、対澱粉で概ね0.002〜1質量%の添加である。なお、糖化型アミラーゼによる澱粉の低分子化処理は、後述する固液分離工程の後でも行うことは可能である。その場合は、別途除菌処理が必要となる。
【0040】
本発明のそば湯の製造方法は「加熱酵素処理工程で得られた処理液を固液分離して、透明性の高いそば湯を得るための固液分離工程、」を必須工程とする。
本発明の方法で得られたそば湯の加熱酵素処理液には、当然、不溶性の物質が含まれている。通常のそば湯は固液分離がきわめて困難であるが、上記酵素処理工程において液化型α−アミラーゼを作用させたそば湯は、糊化澱粉が消失しているので、固液分離が比較的容易であり、濾布による濾過も可能である。工業的には、真空濾過機、プレコートフイルター、フイルタープレスなどを用いることができる。清澄濾過だけでなく、そばに付着する酵母などの微生物を除くには、さらに細かい0.2〜0.4μmの除菌性能を有するフィルターによる濾過が必要となる。なお、濾過残渣には未溶解の澱粉が含まれる場合がある。これらに再度、澱粉分解酵素を添加してオリゴ糖液を回収することもできる。
【0041】
近年、食品の濾過に多用され、滅菌状態の液を生成する濾過機として、セラミック・フィルターが用いられている。ポアサイズ 0.2μmのセラミック・フィルターは清澄濾過と同時に除菌濾過を達成できる点で、保存性に優れた食品の生産に必須の濾過機となっている。本発明のそば湯の濾過にも、セラミック・フィルターのような除菌濾過が可能な濾過機の使用が好適である。上記濾過処理を工業的に行うため、セラミック・フィルターを用いて、加熱酵素処理したそば湯を60〜70℃の温度で濾過すると、透明なそば湯が得られた。それだけでなく、ポアサイズ 0.2μmのセラミック膜を微生物は透過しないので、濾過と同時に除菌処理も可能であることが判明した。これにより、そば湯の保存が困難となる最大の原因を、期せずして除くことができることとなった。
【0042】
得られた濾液は、無菌条件下で、そのまま容器に充填すれば、無菌状態のそば湯製品が生産される。本発明のそば湯を充填する容器としては、無菌充填可能な容器が選ばれる。例えば、缶、ペットボトル、ガラス容器、プラスチック容器、紙容器などが利用できる。このようなそば湯製品は、必要に応じて適温に加温して、何時、何処でも、簡単に飲むことのできる飲料である。
【0043】
本発明のそば湯は、透明で保存安定性に優れた製品となり得る。しかし、そばの愛好家にとって、そば湯とは、トロリとした糊化澱粉を含むものであるという観念がある。そのような要望に答えて、そば湯を充填する際に、だし汁等の調味料の他に、澱粉や糊化澱粉、澱粉を分解して得られるデキストリン等の澱粉加工品を添加すれば、そば店のそば湯と同等の風味、飲食感を呈するそば湯が生産できる。これらの添加物を一つ以上組み合わせることも可能である。調味料等の添加量は、酵素処理そば湯の保存安定性を損なわない範囲であれば特に制限はなく、通常のそば湯の風味に近づけ得る範囲で適宜調整することができる。また、調味料等は、固液分離工程の前に添加しても良い。
【0044】
さらに、茶、柚子、カボス、スダチ、梅などの植物の破砕物や植物エキスを添加すれば、独特の風味を有するそば湯が生産できる。これらの添加物を一つ以上組み合わせることも可能である。添加物は、固液分離工程の前に添加することも、除菌された添加物を無菌充填することもできる。さらにまた、アルコールを加えてそば湯のアルコール割り製品も調製することができる。
【0045】
次に、本発明のそば湯は透明性に優れているだけでなく、乾燥品を製造することが可能である。通常のそば湯は数%の固形分濃度でも、糊化されたドロドロの澱粉を含んでおり、濃縮することが困難であるばかりでなく、噴霧乾燥もできない液である。これに対して、前記の液化型α−アミラーゼによる酵素処理したそば湯も、糖化型アミラーゼを用いてさらに低分子化したそば湯も、糊化されたドロドロの澱粉を含まないので、濃縮が容易であり、固形分を30〜50%にまで濃縮することが可能である。
【0046】
上記の酵素加熱処理及び固液分離処理したそば湯の濃縮液を噴霧乾燥すると、酵素処理しないそば湯と異なり、容易に乾燥粉末が得られた。しかも、この粉末にお湯をかければ、簡単に透明なそば湯が生成した。このように澱粉分解酵素で処理したそば湯は、保存安定性に優れたそば湯となるだけでなく、乾燥すれば、長期保存が可能な粉末状や顆粒状のそば湯の素となることが判明した。
【0047】
例えば、噴霧乾燥するには、前述のセラミック・フィルターから得られた、清澄かつ滅菌状態のそば湯をそのままスプレードライヤーを使って噴霧乾燥することができ、滅菌状態で容器に保存すれば長期保存が可能な粉末状のそば湯の素となる。また、適当な保存容器に入れて凍結乾燥すれば、お湯で簡単に再生される顆粒状の乾燥したそば湯の素が生産できる。
【0048】
乾燥した粉末状、又は顆粒状で得られたそば湯の素は、乾燥状態を維持できる容器に保存される限り、液状のそば湯より長期保存が可能となる。本発明のそば湯の素を充填する容器としては、缶、ガラス容器、プラスチック容器、紙容器などが利用できる。本発明のそば湯の素製品は、必要に応じて水や温湯に溶解して、何時、何処でも、簡単に飲むことのできる飲料である。
【0049】
また、前述のそば湯の場合と同様に、充填する容器にそば湯の素に加えて、粉末調味料、澱粉や糊化澱粉、澱粉を分解して得られるデキストリン等の澱粉加工品等を添加すれば、お湯を掛けるだけで、そば屋のそば湯と同等の風味、飲食感を呈するそば湯が生産できる。もちろん、添加物を一つ以上組み合わせることも可能である。
【0050】
さらに、そば湯の素と同時に、茶、柚子、カボス、スダチ、梅などの植物の破砕物や植物エキスを充填すれば、お湯を掛けるだけで、独特の風味を有するそば湯となる製品ができる。これらの添加物を一つ以上組み合わせることも可能である。添加物は固液分離工程の前に添加することも可能である。さらにまた、乾燥したそば湯の素に、アルコール溶液を加えれば、そば湯のアルコール割りとなるそば湯の素製品を提供することができる。
【0051】
本発明で得られるそば湯及びそば湯の素には、澱粉を酵素分解して生じるオリゴ糖が含まれている。オリゴ糖の中には、お腹に優しいとして特定保健用食品にも認定されたオリゴ糖が含まれている。本発明により、ビタミンやルチンなどの有用成分に加えて、さらにオリゴ糖が加えられ、ますます健康志向のそば湯が簡単に利用できるようになる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の詳細について実施例を挙げて説明するが、本発明は下記の実施例により、その技術的範囲が限定されるものではない。
【0053】
実施例1
そば粉 40kgを水 160Lに懸濁してスラリーとし、塩化カルシウム 37gを添加した。pHを6.3に調整(NaOH水溶液により)してから、液化型α−アミラーゼとして「ターマミル クラシック」(ノボザイムズ社製)を対そば粉0.05質量%添加した。得られたそば粉スラリーを入口温度110℃のジェット・クッカーに投入して、10分間保持し、酵素処理した。酵素処理したそば湯をタンクに回収して、95℃で2時間攪拌処理した。得られたそば粉の酵素処理液にHClを加えてpH 3.5として酵素反応を停止した。その後、酵素反応停止液をNaOH水溶液でpH5に戻して、ろ過助剤として粉末活性炭を対そば粉0.5質量%添加してセラミックろ過機(ポアサイズ 0.2μm)を使い、清澄なそば湯液を回収した。
【0054】
得られたそば湯液を固形分0.3%となるように温湯で希釈すると、そば店のそば湯と同じ風味のあるそば湯が得られた。得られた希釈そば湯の糖類のDEは10であり、重合度10前後のオリゴ糖が多く含まれることが認められた。この希釈そば湯液を滅菌状態でガラス容器に1年間保存して微生物試験を行って、一般性菌、カビ・酵母が生存していないことを確認した。また、この希釈そば湯液にだし汁を含む調味料を加えてから、茶エキス、柚子エキス、梅エキスを添加すると、それぞれ茶、柚子、梅の風味を兼ね備えたそば湯が得られた。さらに又、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸を加えると、程よい酸味のそば湯となった。
【0055】
実施例2
実施例1の酵素反応停止液をNaOH水溶液でpH5.5に戻して、糖化型α−アミラーゼ(「ファンガミル」、ノボザイムズ社製)を対そば粉0.1質量%添加し、60℃で24時間保持した。反応液を80℃に昇温して糖化反応を停止し、ろ過助剤として粉末活性炭を対そば粉0.5質量%添加してセラミックろ過機(ポアサイズ 0.2μm)を使い、清澄なそば湯を回収した。
【0056】
得られたそば湯を固形分0.3%となるように温湯で希釈すると、上品な甘さのあるそば湯の味がした。糖類のDEは2であり、重合度2〜4のオリゴ糖が多く含まれることが認められた。得られた希釈そば湯を滅菌状態でガラス容器に1年間保存して微生物試験を行って、一般性菌、カビ・酵母が生存していないことを確認した。また、この希釈そば湯にだし汁を含む調味料を加えてから、茶エキス、柚子エキス、梅エキスを添加すると、それぞれ茶、柚子、梅の風味を兼ね備えたそば湯が得られた。さらに又、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸を加えると、程よい酸味のそば湯となった。
【0057】
実施例3
スプレードライヤーを用いて、実施例1で得られた清澄なそば湯を乾燥粉末化した。得られた粉末にお湯を注ぐと、きれいに溶解し透明なそば湯となった。同じ粉末に、糊化澱粉とデキストリン、粉末調味料を加えて、お湯を注ぐと、そば屋のそば湯と同等の白濁したそば湯が得られた。さらに、糊化澱粉、デキストリン、粉末調味料、お茶粉末を加えると、茶そば風味のそば湯が得られた。
【0058】
実施例4
実施例1で得られた清澄なそば湯に調味料、柚子エキスとデキストリンを加えてスプレードライヤーを用いて乾燥粉末化した。得られた粉末にお湯を注ぐと、きれいに溶解し柚子風味のそば湯となった。
【0059】
実施例5
実施例1で得られた清澄なそば湯に調味料、梅エキスとデキストリンを加えてスプレードライヤーを用いて乾燥粉末化した。得られた粉末にお湯を注ぐと、きれいに溶解し梅味のそば湯となった。
【0060】
実施例6
実施例1で得られた清澄なそば湯に調味料を加えて凍結乾燥した。得られた乾燥品にお湯を注ぐと、きれいに溶解し透明なそば湯となった。同じ乾燥品に、糊化澱粉とデキストリンを加えて、お湯を注ぐと、そば店のそば湯と同等の白濁したそば湯が得られた。さらに、糊化澱粉、デキストリン、梅肉を加えると、梅味のそば湯が得られた。
【0061】
実施例7
実施例1で得られた清澄なそば湯に調味料、糊化澱粉、デキストリンを加えて、凍結乾燥した。得られた乾燥品にお湯を注ぐと、きれいに溶解し、そば屋のそば湯と同等の白濁したそば湯が得られた。さらに、同じく調味料、糊化澱粉、デキストリンの他に、茶エキス、柚子、梅肉をそれぞれ加えて凍結乾燥した。得られた乾燥品にお湯を注ぐと、それぞれ茶、柚子、梅風味のそば湯が得られた。
【0062】
実施例8
そば粉 5kgを水 35Lに懸濁してスラリーとし、塩化カルシウム6.4gを加え、「ターマミル クラシック」(ノボザイムズ社製)を対そば粉0.05質量%添加した。別に、70L容のステンレス容器に10Lの水を加えて、塩化カルシウム1.8gを添加した。このステンレス容器を沸騰湯煎に入れて、攪拌機で攪拌しながら加温した。液温が95℃以上に達してから、先に調製したそば粉スラリーを徐々に添加した。そば粉スラリーの添加を終えてから、95℃で12時間攪拌処理した。得られたそば粉の酵素処理液はセラミックろ過機(ポアサイズ 0.2μm)を用いて濾過し、清澄なそば湯液を回収した。
【0063】
実施例9
スプレードライヤーを用いて、実施例8で得られた清澄なそば湯に調味料を加えて乾燥粉末化した。得られた粉末にお湯を注ぐと、きれいに溶解し透明なそば湯となった。同じ粉末に、糊化澱粉とデキストリンを加えて、お湯を注ぐと、そば屋のそば湯と同等の白濁したそば湯が得られた。
【0064】
実施例10
そば粉 5kgを水 35Lに懸濁してスラリーとし、塩化カルシウム6.4gを加え、「ターマミル クラシック」(ノボザイムズ社製)を対そば粉0.05質量%添加した。別に、70L容のステンレス容器に10Lの水を加えて、塩化カルシウム1.8gを添加した。この容器を沸騰湯煎に入れて、攪拌機で攪拌しながら、加温した。液温が95℃以上に達してから、先に調製したそば粉スラリーを徐々に添加した。そば粉スラリーの添加を終えてから、95℃で2時間攪拌処理した。次いで、液温を70℃に下げてから糖化型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(ジェネンコア社製)を対そば粉0.025質量%添加して、20時間反応させた。得られたそば粉の酵素処理液はセラミックろ過機(ポアサイズ 0.2μm)を用いて濾過し、清澄なそば湯液を回収した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明で製造される保存安定性のあるそば湯は、滅菌充填された状態で長期間保存しても安定であり、微生物の生存が確認されないものである。よって、そば店のみならず、そば湯が必要とされる各種飲食店において、必要時に加温するだけで風味に優れたそば湯を提供することが可能となる。また、該そば湯を乾燥した粉末状又は顆粒状の「そば湯の素」は、携帯に便利であり、外出先等においても必要時に湯に溶かすだけで風味のよいそば湯を調製することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
そば粉を主原料としてそば湯を製造する方法であって、水に懸濁したそば粉を加熱する前及び/又は加熱した後に澱粉加水分解酵素を含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化する加熱酵素処理工程と、該加熱酵素処理工程からの酵素処理液から高い透明性を有するそば湯を得る固液分離工程とを有することを特徴とする、そば湯の製造方法。
【請求項2】
前記固液分離工程は、セラミック膜フィルターを用いるろ過工程であることを特徴とする、請求項1記載のそば湯の製造方法。
【請求項3】
前記加熱酵素処理工程における澱粉加水分解酵素を含む酵素剤が、耐熱性液化型α−アミラーゼを含む酵素剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のそば湯の製造方法。
【請求項4】
前記加熱酵素処理工程は、耐熱性液化型α−アミラーゼを含む酵素剤を加えて澱粉を低分子化した後、糖化型アミラーゼを含む酵素剤を加えて澱粉をさらに低分子化する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のそば湯の製造方法。
【請求項5】
前記加熱酵素処理工程からの酵素処理液及び/又は前記固液分離工程からの高い透明性を有するそば湯に、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、植物破砕物、植物エキス、有機酸及びアルコールから選ばれる少なくとも1種を添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のそば湯の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のそば湯の製造方法で製造されている、そば湯。
【請求項7】
請求項6に記載のそば湯を滅菌容器に充填密封してなる、そば湯製品。
【請求項8】
請求項6に記載のそば湯を噴霧乾燥又は凍結乾燥によって粉末状又は顆粒状に固形化することを特徴とする、そば湯の素の製造方法。
【請求項9】
前記そば湯を噴霧乾燥又は凍結乾燥によって粉末状又は顆粒状に固形化する前に、該そば湯に、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、植物破砕物、植物エキス及び有機酸から選ばれる少なくとも1種を予め添加することを特徴とする、請求項8記載のそば湯の素の製造方法。
【請求項10】
前記そば湯を噴霧乾燥又は凍結乾燥によって固形化した粉末又は顆粒に、だし等を含む調味料、澱粉、糊化澱粉、デキストリン、植物破砕物、植物エキス及び有機酸から選ばれる少なくとも1種を混合することを特徴とする、請求項8記載の粉末状又は顆粒状のそば湯の素の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載された方法で製造されている、粉末状又は顆粒状のそば湯の素。
【請求項12】
請求項11に記載された粉末状又は顆粒状のそば湯の素を容器に充填密封してなる、そば湯の素製品。


【公開番号】特開2008−178404(P2008−178404A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341158(P2007−341158)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(507004749)
【出願人】(506414130)株式会社Biomaterial in Tokyo (5)
【Fターム(参考)】