説明

保持シール材および排気ガス処理装置

【課題】未処理排気ガスの漏洩を抑制することが可能な保持シール材を提供すること、またこのような保持シール材を使用した排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】無機繊維を含むマット基材と、該マット基材の表面に設置された保護シートとを有し、実質的に矩形状に形成された保持シール材であって、前記保護シートは、該保護シートの面内において伸び異方性を有し、前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の長辺方向に対して、ゼロ以外の角度となるように、前記マット基材の表面に設置されることを特徴とする保持シール材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含むマット基材と、該マット基材の表面に設置された保護シートとを有する保持シール材、およびそのような保持シール材を含む排気ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに伴って、自動車の内燃機関から排出される排ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、従来より各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排ガスマニホールドに連結された排気管の途上に、例えば金属等で構成されるケーシングを設け、その中にセル壁により区画された多数のセルを有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。これらのセルは、ハニカム構造で構成されることが多く、特にこの場合、排気ガス処理体は、ハニカム構造体とも呼ばれている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排ガスが各セルを通って排気ガス処理体を通過する際に、セル壁に微粒子がトラップされ、排ガス中から微粒子を除去することができる。排気ガス処理体の構成材料は、金属や合金の他、セラミック等である。セラミックからなる排気ガス処理体の代表例としては、コーディエライト製のハニカムフィルタが知られている。最近では、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等の観点から、多孔質炭化珪素焼結体が排気ガス処理体の材料として用いられている。
【0004】
このような排気ガス処理体とケーシングの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体とケーシング内面の当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から排ガスが漏洩することを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系繊維等の無機繊維からなる保持シール材がある。
【0005】
この保持シール材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、例えば、両端部の把持合わせ部同士を係合させ、さらにテーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化され、利用される。その後、この一体品は、ケーシング内に圧入されて排気ガス処理装置が構成される。
【0006】
ここで、保持シール材を排気ガス処理体の外周面に巻き付ける場合、保持シール材には、巻回方向に沿って、ある程度の張力が生じる。この張力は、保持シール材の周長差(外周長と内周長の差)のため、保持シール材の外周側となる表面でより顕著に生じる。そのため、保持シール材の強度が不十分な場合、保持シール材の巻回時に、特に外周側において、亀裂が生じるおそれがある。このような亀裂は、保持シール材のシール性を低下させるため、未処理排気ガスの漏洩につながる。
【0007】
そこで、このような亀裂発生による未処理排気ガスの漏洩を防止するため、保持シール材のケーシング内壁と接する側(すなわち外周側)の表面に、可撓性保護シートを設けることが提案されている(特許文献1)。この方法では、保持シール材の表面に設置された可撓性保護シートによって、保持シール材の外周側での亀裂の発生が抑制され、未処理排気ガスの漏洩を抑制することができることが開示されている。
【特許文献1】特表2001−521847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、表面に可撓性保護シートが設置された保持シール材を使用した場合、保持シール材は、ケーシングに圧入する際に、ケーシング内壁との摩擦によって大きな剪断力を受けるため、ケーシングに圧入後の保持シール材には、局部的な位置ずれや密集シワが生じ、これにより隙間が形成される場合がある。このような隙間が生じると、保持シール材の巻回段階では亀裂が生じていなくても、排気ガス処理装置の使用時に、未処理排気ガスが保持シール材側から漏洩する可能性がある。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、マット基材上に保護シートが設置された保持シール材において、未処理排気ガスの漏洩を一層抑制することが可能な保持シール材を提供すること、またこのような保持シール材を使用した排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、
無機繊維を含むマット基材と、該マット基材の表面に設置された保護シートとを有し、略矩形状に形成された保持シール材であって、
前記保護シートは、該保護シートの面内において伸び異方性を有し、
前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の長辺方向に対して、ゼロ以外の角度となるように、前記マット基材の表面に設置されることを特徴とする保持シール材が提供される。本発明による保持シール材を、長辺方向が巻回方向となり、かつ保護シートが外周側となるように、例えば排気ガス処理体等の部品の外周面に巻き回し、ケーシング内に圧入した場合、保護シートの変形緩和効果によって、保持シール材の位置ずれおよび/または密集シワによる隙間の発生を有意に抑制することが可能となる。
【0011】
ここで、前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の長辺方向に対して、実質的に直交するように、前記マット基材の表面に設置されることが好ましい。この場合、さらに良好な変形緩和効果が得られる。
【0012】
なお前記保護シートは、ポリプロピレン製であっても良い。
【0013】
また前記マット基材は、無機結合材および/または有機結合材を含有しても良い。マット基材にこのような結合材を添加することによって、繊維同士の接合力が高まり、保持シール材の取扱いが容易となる。
【0014】
さらに本発明では、
排気ガス処理体と、
無機繊維を含むマット基材および該マット基材の表面に設置された保護シートを有し、前記排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に、前記保護シートが外周側となるように巻き回して使用される保持シール材であって、
前記保護シートは、該保護シートの面内において伸び異方性を有し、
前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の巻回方向に対して、ゼロ以外の角度となるように、前記マットの表面に設置された、保持シール材と、
前記排気ガス処理体および保持シール材を内部に収容するケーシングと、
を備える排気ガス処理装置が提供される。本発明による排気ガス処理装置は、前述の保護シートの効果により、未処理排気ガスが保持シール材側から漏洩することを抑制することができる。
【0015】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排ガスフィルタであっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の保持シール材を排気ガス処理装置に使用することにより、未処理排気ガスの漏洩を有意に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。なお、本願において、「マット基材」とは、保持シール材の基本部分を成す、無機繊維を含むマット材を意味し、「保護シート」とは、マット基材の少なくとも一つの表面を被覆するように設置された「シート材」を意味する。従って、本発明の保持シール材は、「マット基材」と「保護シート」によって構成される。なお、「シート材」の材質に特に制限はなく、「シート材」には、紙、プラスチック、不織布、薄葉紙を含む、シートの面内で伸び異方性を示す全てのシートが含まれる。
【0018】
図1には、本発明による保持シール材の形態の一例を示す。また図2には、本発明に係る保持シール材を含む排気ガス処理装置の分解構成図を示す。
【0019】
本発明による保持シール材は、図1に示すように、長辺(X方向に平行な辺)と短辺(Y方向に平行な辺)を有し、実質的に矩形状となるように形成される。短辺70および71には、それぞれ嵌合凸部50および嵌合凹部60が設置されている。また、短辺71の嵌合凹部60に隣接する位置には、2つの凸部61が形成されている。ただし本発明の保持シール材の短辺70、71は、図1の形状に限られるものではなく、例えば、図のような嵌合部を全く有さないものや、各短辺が、それぞれ、嵌合凸部50および嵌合凹部60を複数有するもの等も使用できる。なお、本願において、「実質的に矩形状」とは、図1に示すような、短辺に1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有する矩形を含む概念である。さらに、「実質的に矩形状」には、長辺と短辺の交点が、90゜以外の形状(例えば、曲率を有するもの)も含まれる。
【0020】
この保持シール材24は、長辺方向が巻回方向(X方向)となるようにして使用される。また保持シール材24が触媒担持体等の排気ガス処理体20に巻き付けられた際には、図2に示すように、嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、保持シール材24が、排気ガス処理体20に固定される。その後、保持シール材24が巻き回された排気ガス処理体20(以下、「被覆排気ガス処理体」210とも称する)は、圧入方式により、金属等で構成された筒状のケーシング12内に圧入され、装着される。
【0021】
ここで本発明では、保持シール材24は、保持シール材のベースとなるマット基材26と、マット基材26の上に積層された保護シート28とで構成されている。保護シート24は、背景技術において説明したように、保持シール材24を排気ガス処理体20に巻回した際に、保持シール材24に生じるおそれのある外周側の亀裂の発生を抑制するために設置される。従って、本発明による保持シール材24を排気ガス処理体20に巻き回す際には、保持シール材24は、保護シート28の面が外側となるようにして巻き回される。なお図1の例では、保護シート28は、最大伸びを示す方向30が保持シール材24の短辺方向(Y方向)となるように、すなわち巻回方向に対して実質的に直交する方向となるように設置されている。
【0022】
このような本発明による保持シール材24において得られる効果を、従来の保護シートを設置した保持シール材と比較して以下に説明する。
【0023】
図3および図4には、それぞれ、従来の保護シートを有する保持シール材240および本発明による保護シートを有する保持シール材24を含む被覆排気ガス処理体440、44を圧入方式でケーシング12内に設置した状態での、被覆排気ガス処理体440,44の斜視図を模式的に示す。また両図の下側には、それぞれ、上側の図の嵌合部50(60)を通るA−A断面図(図3)およびB−B断面図(図4)を示す。なおこれらの図では、明確化のためケーシング12を省略して示している。
【0024】
一般に保護シート28は、伸びに関して面内異方性を有する。そこで通常の場合、保護シート28は、最大伸びを示す方向30が保持シール材240の長辺方向(図1のX線方向)と実質的に平行になるようにして設置される。保持シール材240の巻回時のハンドリング性を容易にするためである。この場合、保護シート28の最大伸びを示す方向30は、図3のように、被覆排気ガス処理体440の円周方向と一致する。このような状態で、被覆排気ガス処理体440をケーシング12内に圧入した場合、圧入時にケーシング12の内壁から受ける摩擦力によって、保持シール材240には、局部的に位置ずれおよび/または密集シワ67が生じる可能性が高い。特に、そのような位置ずれおよび/または密集シワ67が嵌合部において生じた場合、図3に示すように、嵌合凸部50と嵌合凹部60が整合しなくなり、嵌合凸部50とこれに隣接する一方の(または両方の)凸部61との間に、隙間65が形成される。このような隙間は、排気ガスが未処理のまま漏洩する原因となる。
【0025】
これに対して、本発明では、保護シート28は、最大伸びを示す方向30が保持シール材24の長辺方向(図1のX方向)と実質的に非平行になるように(例えば、図4のように、実質的に垂直となるように)設置されることに特徴がある。この場合、保持シール材24には、前述のようなケーシング12の内壁との摩擦力によって生じる位置ずれおよび/または密集シワ67が発生しにくくなる。本発明の保護シート28は、圧入方向に沿って伸縮することが可能であり、これにより保持シール材24の全体の変形が緩和されるためである。特に、図4に示すように、保護シート28の最大伸びを示す方向30が、実質的に保持シール材24の短辺方向となるように設置されている場合、この方向30は、被覆排気ガス処理体44の圧入方向と実質的に平行となり、保護シート28の圧入方向に対する伸縮性が最大となるため、極めて良好な変形緩和効果が得られる。従って、本発明の保持シール材24では、被覆排気ガス処理体44をケーシング12に圧入しても、図3に示すような位置ずれおよび/または密集シワ67、さらには嵌合部の隙間65が形成されにくくなる。
【0026】
このように、本発明による保持シール材24では、保護シート28によって、排気ガス処理体20に巻回した際の外周側の亀裂発生が抑制されるのみならず、保持シール材24の位置ずれおよび/または密集シワ、ならびに嵌合部の隙間の発生が抑制される。従って、本発明による保持シール材を使用した排気ガス処理装置では、両方の効果によって、未処理排気ガスの漏洩を有効に抑制することが可能となる。
【0027】
なお、本発明において、保護シート28の材質は、特に限られないが、例えばポリプロピレンのような、可撓性のあるプラスチック等が好ましい。
【0028】
保護シート28の厚さは、特に限られない。ただし、保護シートの厚さが薄すぎると、前述の変形緩和効果が弱まる。また保護シートの厚さが厚すぎると、ハンドリングが難しくなるため、保護シートの厚さは、1μm乃至1mm以下の範囲であることが好ましい。また、保護シート28と下地のマット基材26の厚さの比は、特に限られないが、約1:10〜約1:1000の範囲であることが好ましく、約1:50〜約1:200の範囲であることが特に好ましい。
【0029】
また、保護シート28とマット基材26の接着方法は、特に限られない。特に、有機バインダ等を含む接着剤を介して、両者を接着させることが好ましい。
【0030】
このような保持シール材24は、前述のように、保護シート28の面が外側(すなわちケーシング12側)となるように、排気ガス処理体20の外周に巻き付けられ、端部70および71を嵌合、固定して使用される。この保持シール材24が巻き付けられた排気ガス処理体20は、その後、圧入方式によってケーシング12内に装着され、排気ガス処理装置10が構成される。
【0031】
ここで、圧入方式とは、被覆排気ガス処理体44を、ケーシング12の開口面の一方から押し込むことにより、被覆排気ガス処理体44を所定の位置に装着して、排ガス処理装置10を構成する方法である。被覆排気ガス処理体44のケーシング12への挿入を容易にするため、図5に示すように、内孔径が一方から他方に向かって小さくなるように定形され、最小内孔径が、ケーシング12の内径とほぼ同等の寸法になるように調整された圧入冶具15が使用される場合もある。この場合、被覆排気ガス処理体44は、前記圧入冶具15の広内孔径側から挿入され、最小内孔径側を通ってケーシング12内に装着される。
【0032】
このようにして構成される排気ガス処理装置10の一構成例を図6に示す。この図の例では、排気ガス処理体20は、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム構造状の多孔質炭化珪素等で構成される。なお、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を貫通孔の端部が市松模様状に目封じされたDPFとすることも可能である。このような排気ガス処理装置では、前述の保持シール材(より正確には、保護シート)の効果により、装置内に導入される排気ガスが未処理のまま排出されることを回避することができる。
【0033】
以下、本発明の保持シール材の製作方法の一例を説明する。
【0034】
本発明の保持シール材のマット基材は、例えば抄造法を用いて製作することができる。抄造法とは、通常湿式処理とも呼ばれ、いわゆる「紙抄き」のように、繊維の混合、撹拌、開繊、スラリー化、抄紙成形、圧縮乾燥の各処理を経て保持シール材を製作する処理方法である。
【0035】
まず、所定量の無機繊維原料と無機結合材と有機結合材とを水に入れて、混合する。無機繊維原料としては、例えばアルミナとシリカの混合繊維の原綿バルクが使用される。ただし、無機繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカのみで構成されても良い。無機結合材としては、例えばアルミナゾルおよびシリカゾル等が使用される。また有機結合材としては、ラテックス等が使用される。
【0036】
次に得られた混合物を抄紙器等の混合器内で撹拌し、開繊されたスラリーを調製する。通常、撹拌開繊処理は、20秒〜120秒程度行われる。その後、得られたスラリーを成型器に入れて所望の形状に成形し、さらに脱水を行うことによりマット基材の原料マットが得られる。
【0037】
さらにこの原料マットをプレス器等を用いて圧縮し、所定の温度で加熱、乾燥させる。圧縮処理は、通常圧縮後に得られるマット基材の密度が0.10g/cm〜0.40g/cm程度となるように行われる。加熱乾燥処理は、原料マットをオーブン等の熱処理器内に設置し、例えば90〜150℃の温度で、5〜60分程度行われる。このような工程を経て、マット基材が製作される。
【0038】
得られたマット基材は、ハンドリングを容易にするため裁断され、さらに最終的に所定の形状に切断されて使用される。
【0039】
次に、裁断されたマット基材の片面に、バインダを塗布し、その上に、所定形状(通常は、マット基材の片面と同じ寸法形状である)の保護シートを貼り付ける。この際に、保護シートは、最大伸びが得られる方向が、完成後の保持シール材の長辺方向(図1のX方向)に対して、実質的に垂直になるように貼り付けられることが好ましい。ただし、保護シートの最大伸びが得られる方向は、これに限られず、保持シール材に前述の効果が得られれば、保護シートの最大伸びが得られる方向は、保持シール材の長辺方向を除く、いかなる方向であっても良い。
【0040】
バインダは、特に限られないが、樹脂等の有機系のものが好ましい。有機系バインダとしては、例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることが好ましい。また、有機系バインダの含有量は、マット基材に対して1.0〜10.0重量%の範囲であることが好ましい。1.0重量%未満では、保護シートの接着効果が十分に得られないからである。また10.0重量%よりも多くなると、排気ガス処理装置の使用時に排出される有機成分の量が増加する。
【0041】
その後、加熱圧縮乾燥処理によって、バインダが乾燥、固化され、保護シートがマット基材上に固着される。乾燥は、95〜155℃程度の温度で行われる。95℃よりも温度が低いと、乾燥時間が長くなり生産効率が低下する。また155℃を超える乾燥温度では、有機系バインダを使用する場合、有機系バインダ自身の分解が開始され、有機系バインダによる接着性が損なわれる。
【0042】
このようにしてマット基材の表面に、所望の配向に最大伸びを示す保護シートが設置された保持シール材を得ることができる。この本発明による保持シール材を使用して、排気ガス処理装置を構成することにより、未処理排気ガスの漏洩が有意に抑制された排気ガス処理装置を得ることができる。
【0043】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【実施例】
【0044】
本発明の効果を検証するため、本発明による保持シール材を用いて、各種試験を行った。保持シール材は、以下の手順により製作した。
【0045】
[保持シール材の製作1]
アルミナ繊維の原綿バルク1200gと、有機バインダ(ラテックス)60gと、無機バインダ(アルミナゾル)12gと、水とを加え、原料液中の繊維濃度が0.5wt%となるように混合した。次に、この原料液を抄紙器で60秒間撹拌した。このようにして撹拌開繊された原料液を、930×515×400mmの寸法の成型器に移し、成型器の底面に設置したメッシュを介して水分を分離除去することにより、アルミナ繊維の原料マットを得た。次に原料マットを120℃で30分間プレス乾燥させ、厚さ14mm、密度0.19g/cmのマット基材を得た。
【0046】
このマット基材の片面に、マット基材重量に対して約5wt%の濃度のラテックスを約30ml塗布し、その上にPP(ポリプロピレン)不織布A(商品名:ELTAS、P03015、旭化成せんい(株))を設置した。PP不織布Aは、最大伸び方向が完成後の保持シール材サンプルの短辺方向と実質的に平行になるようにして、マット基材上に設置した。次に、温度120℃、圧力30kPaでラテックスを乾燥硬化させ、マット基材とPP不織布Aとを接着させた。このマット基材を、図1に示すような形状の、縦(Y方向)200mm、横(X方向)440mm(嵌合凹部および嵌合凸部を除く)の寸法に切断して、保持シール材サンプルを得た。このようにして得た保持シール材サンプルを実施例1とする。また、実施例1と同様の方法ではあるが、マット基材上に、PP不織布Aの最大伸び方向が、実質的に保持シール材サンプルの長辺方向と平行になるように保護シートを設置した保持シール材サンプルを作製した。これを比較例1とする。
【0047】
次に、実施例1と同様の方法で、保護シートとして、伸縮特性の異なるPP不織布B(商品名ELTAS、P03020、旭化成せんい(株))を使用した実施例2および比較例2の保持シール材を作製した。なお実施例2では、保護シートの最大伸び方向が、実質的に保持シール材サンプルの短辺と平行となるようにし、比較例2では、保護シートの最大伸び方向が、実質的に長辺と平行になるようにして、保護シートを設置した。
【0048】
さらに、実施例1と同様の方法で、保護シートとして、伸縮特性の異なるPP不織布C(商品名ELTAS、P03030、旭化成せんい(株))を使用した実施例3および比較例3の保持シール材を作製した。なお実施例3では、保護シートの最大伸び方向が、実質的に保持シール材サンプルの短辺と平行となるようにし、比較例3では、保護シートの伸縮性の最大伸び方向が、実質的に長辺と平行になるようにして、保護シートを設置した。
【0049】
また、実施例1と同様の方法で、保護シートとして、伸縮特性の異なるPET(ポリエチレンテレフタレート)+PE(ポリエチレン)不織布D(商品名ELTAS、EW5015、旭化成せんい(株))を使用した比較例4の保持シール材を作製した。比較例4では、保護シートの最大伸び方向が、実質的に保持シール材サンプルの長辺と平行になるようにして、保護シートを設置した。
【0050】
実施例1乃至3および比較例1乃至4に係る評価用サンプルの厚さ、引張強度および伸び量等のデータをまとめて表1に示す。
【0051】
【表1】

なお、表において、周差割合(P)とは、保持シール材を巻き回した際に生じる外周長(LO)と内周長(LI)の差を表す指標であり、
P=(LO−LI)/LI×100 (1)
で表される。また、各保護シートの引張強度および伸び量は、JIS−L1906(一般長繊維不織布試験法)の「標準時試験」に記載の方法に従って測定した。
【0052】
[評価試験]
次に、前述の方法で製作した各保持シール材サンプルを用いて、リーク試験および巻付試験を行った。
【0053】
リーク試験は、以下のように行った。まず各保持シール材サンプルを外径が5インチの円柱体(非中空体)に巻き付けて、端部同士を嵌合し固定する。次に、この一体化品を圧入方式により、金属製ケーシング内に装着して、試験体とする。装着後の保持シール材の密度(すなわち、巻き付け前に計測した保持シール材の重量/ケーシングに装着後の保持シール材の厚さ)は、0.45g/cmであった。次に、この試験体をケーシングの外形とほぼ等しい内径を有する冶具に設置する。この状態で、試験体軸方向に沿って、一方の側から他方の側に向かって、圧力および流速が既知の空気を流入させる。試験体の軸方向の他方の側に設置した流量計を用いて、試験体から排出される空気の量を測定する。以上の試験によって、以下のようにしてリーク量を算出する。
【0054】
リーク量(m・cm/kPa/sec)=排出空気の流速(m/sec)/[流入圧力(kPa)/空気流入方向におけるサンプルの長さ(cm)]
また巻付試験では、各保持シール材サンプルを外径が5インチの円柱に巻き付けて、前述のように、端部同士を嵌合し固定した際に、サンプルに亀裂が生じるかどうかを目視で評価した。
【0055】
[試験結果]
各サンプルに対して得られたリーク試験および巻付試験の結果をまとめて表1に示す。リーク試験結果から、実施例1〜3の保持シール材では、比較例1〜4の保持シール材に比べて、リーク量が有意に低下していることがわかる。これは、実施例1〜3の保持シール材では、保護シートの最大伸びを示す方向が巻回方向に対して、実質的に垂直になっており、良好な変形緩和効果が得られたためであると考えられる。
【0056】
一方、巻付試験の結果から、保持シール材の巻付性は、保護シート材質およびその最大伸び方向にはあまり依存せず、保護シートの最大伸び方向が、保持シール材の短辺方向、および長辺方向のいずれの場合であっても、保護シートに亀裂は生じないことがわかった。ただし、比較例4の保持シール材では、試験後に保護シートに亀裂が生じることがわかった。これは、比較例4では、保護シートの巻回方向における伸び量が、周差割合(P)よりも小さいためであり、保護シートの巻回方向における伸び量は、少なくとも巻回割合(P)よりも大きくする必要があるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の保持シール材および排気ガス処理装置は、車両用排気ガス処理装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による保持シール材の形状の一例を示す図である。
【図2】本発明による保持シール材を排気ガス処理体とともに、ケーシング内に組み付けるときの状態を示す概念図である。
【図3】従来の保持シール材を有する被覆排気ガス処理体を、ケーシング内に圧入した状態を概略的に示す斜視図およびそのA−A断面図である。
【図4】本発明による保持シール材を有する被覆排気ガス処理体を、ケーシング内に圧入した状態を概略的に示す斜視図およびそのB−B断面図である。
【図5】圧入方式により、被覆排気ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図6】本発明の排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
2 導入管
4 排気管
10 排気ガス処理装置
12 ケーシング
20 排気ガス処理体
24、240 保持シール材
26 マット基材
28 保護シート
30 最大伸び方向
44、440 被覆排気ガス処理体
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
61 凸部
65 隙間
67 密集シワ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含むマット基材と、該マット基材の表面に設置された保護シートとを有し、実質的に矩形状に形成された保持シール材であって、
前記保護シートは、該保護シートの面内において伸び異方性を有し、
前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の長辺方向に対して、ゼロ以外の角度となるように、前記マット基材の表面に設置されることを特徴とする保持シール材。
【請求項2】
前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の長辺方向に対して、実質的に直交するように、前記マット基材の表面に設置されることを特徴とする請求項1に記載の保持シール材。
【請求項3】
前記保護シートは、ポリプロピレン製であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の保持シール材。
【請求項4】
前記マット基材は、無機結合材および/または有機結合材を含有することを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の保持シール材。
【請求項5】
排気ガス処理体と、
無機繊維を含むマット基材および該マット基材の表面に設置された保護シートを有し、前記排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に、前記保護シートが外周側となるように巻き回して使用される保持シール材であって、
前記保護シートは、該保護シートの面内において伸び異方性を有し、
前記保護シートは、該保護シートの最大伸びを示す方向が、当該保持シール材の巻回方向に対して、ゼロ以外の角度となるように、前記マットの表面に設置された、保持シール材と、
前記排気ガス処理体および保持シール材を内部に収容するケーシングと、
を備える排気ガス処理装置。
【請求項6】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排ガスフィルタであることを特徴とする請求項5に記載の排気ガス処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−51004(P2008−51004A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228153(P2006−228153)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】