説明

保持シール材および排気ガス処理装置

【課題】排気ガス処理体への巻回方向に対する引張強度が大きく、排気ガス処理装置に組み込む際の取扱性に優れた保持シール材用のシート材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】無機繊維を含むシート材の製造方法であって、前記シート材は、無機繊維の前駆体を積層し、少なくとも一部においてニードリング処理された後に焼成され、前記無機繊維は、前記シート材の厚み方向に対して、平行な方向を除く、所定の角度に配向されていることを特徴とするシート材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス処理装置に関し、特に排気ガス処理装置に用いられる保持シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して、自動車の内燃機関から排出される排気ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、従来より各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスマニホールドに連結された排気管の途上にケーシング(金属シェル)を設け、その中に微細な孔を多数有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体やディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)がある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排気ガスが排気ガス処理体を通過する際に、その孔の周囲の壁に微粒子がトラップされ、排気ガス中から微粒子を除去することができる。排気ガス処理体の構成材料は、金属や合金の他、セラミック等である。セラミックからなる排気ガス処理体の代表例としては、コーディエライト製のハニカムフィルタが知られている。最近では、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等の観点から、多孔質炭化珪素焼結体が排気ガス処理体の材料として用いられている。
【0004】
このような排気ガス処理体と金属シェルの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体と金属シェルの当接による破損を防ぎ、さらに金属シェルと排気ガス処理体との隙間から排気ガスがリークすることを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排気ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系ファイバー等の無機繊維を含むシート材がある。
【0005】
このシート材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、テーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化されることにより、保持シール材として機能する。その後、この一体品は、金属シェル内に圧入されて排気ガス処理装置内に組み付けられる。
【0006】
なお通常のシート材は嵩高である上、切断処理時に繊維が飛散するなど、取扱性が悪い。従って、シート材を排気ガス処理装置の保持シール材として使用する際の取扱性を改善するため、各種方法が提案されている。例えば、無機繊維を含むシート材にニードリングと呼ばれる処理等を施して、無機繊維同士をシートの厚み方向に交絡させ、嵩高のシート材を圧縮、肉薄化する方法等が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−286514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のようなシート材を排気ガス処理装置の保持シール材として使用する場合、例えば円筒状の排気ガス処理体に保持シール材を巻き付ける必要があるが、この操作の際、保持シール材には巻き付け方向にある程度の張力が加わる。従って、シート材の引張強度が不十分な場合、巻き付け操作時に保持シール材に亀裂が生じたり、保持シール材が破断したりする可能性がある。また排気ガス処理装置にこのような状態の保持シール材を使用した場合、保持シール材の前述の機能は損なわれ、排気ガス処理装置から排気ガスがリークしたり、排気ガス処理体の脱落が生じたりする恐れがある。
【0009】
また今日では、保持シール材の取扱作業者への健康面の配慮から、シート材に含まれる無機繊維の繊維径は徐々に増大する傾向にある。例えば、無機繊維の平均径は、現在の最大6μmから、今後は6μm以上のものに移り変わって行くと予想されている。シート材に含まれる無機繊維の繊維径が増大すると、繊維同士の緊縛(接触)面積の低下により、シート材の引張強度は低下する。従って、保持シール材を排気ガス処理装置に使用する際に生じる上記問題は、今後の無機繊維の繊維径の増大によって、より顕在化する可能性がある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、排気ガス処理体への巻回方向に対する引張強度が大きく、排気ガス処理装置に組み込む際の取扱性に優れた保持シール材を提供すること、またこのような保持シール材を有する排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、無機繊維を含むシート材で構成され、排気ガス処理体を保持するための保持シール材であって、前記無機繊維は、前記シート材内の少なくとも一部において、前記シート材の厚み方向に対して、平行な方向を除く、所定の角度に配向されていることを特徴とする保持シール材が提供される。このように繊維がシート材の厚み方向に対して所定の配向角度を有するシート材では、厚み方向と垂直な方向の引張応力に対する強度を高めることができる。従ってこのような特徴を有するシート材を排気ガス処理装置の保持シール材に用いることにより、取り扱い時に保持シール材に亀裂や破断が生じることを防止することができる。
【0012】
ここで、前記無機繊維の配向は、前記シート材内に局部的に存在しても良い。なお、「局部的に」という言葉は、無機繊維の特徴的配向が、シート材内の一部にのみ存在すること、およびシート材内の何箇所かに周期的にまたはランダムに存在することを意味する。
【0013】
また前記無機繊維の配向は、前記シート材をニードリング処理することによって形成されても良い。ニードリング処理により、繊維が厚み方向に対して、一定の配向角度を有するように編み込まれたシート材を容易に得ることができる。
【0014】
ここで、前記シート材の厚み方向に対する前記無機繊維の配向角度は、0゜より大きく85゜以下であることが好ましい。配向角度がこの範囲にある場合、保持シール材の巻回方向に対して良好な引張強度が得られる。特に前記無機繊維の配向角度が45゜から75゜の範囲にある場合、保持シール材の引張強度は著しく向上する。
【0015】
また前記シート材は、結合材を含有しても良い。シート材に結合材が含有されることにより、繊維同士がより強固に接着され、保持シール材としての取扱性がさらに向上する。
【0016】
前記無機繊維の平均直径は、6μm以上であっても良い。通常の保持シール材では、無機繊維の平均直径が6μm以上の場合は、保持シール材を排気ガス処理体に巻き付ける際に、保持シール材に亀裂や破断が生じやすいという問題があるが、本発明の保持シール材では、このような問題を解消することができる。
【0017】
また前記無機繊維は、アルミナとシリカの混合物であることが好ましい。これにより保持シール材の断熱性能が向上する。
【0018】
さらに本発明では、排気ガス処理体と、該排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に巻き付けられた保持シール材と、を金属シェルに収容することによって構成される排気ガス処理装置であって、前記保持シール材は、無機繊維を含むシート材で構成され、前記無機繊維は、前記シート材内の少なくとも一部において、前記シート材の厚み方向に対して、平行な方向を除く、所定の角度に配向されていることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0019】
ここで前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の保持シール材は、排気ガス処理体に巻き付け固定する際の巻回方向に対する引張強度が強く、保持シール材の取扱性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の保持シール材に用いられるシート材の断面拡大図である。
【図2】本発明の保持シール材に用いられるシート材の断面拡大図である。
【図3】本発明の保持シール材の形状の一例を示す図である。
【図4】本発明の保持シール材を排気ガス処理体に巻回し固定し、金属シェルに圧入して、排気ガス処理装置を構成するときの概念図である。
【図5】本発明の排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【図6】無機繊維の平均粒子径が5.8μmのシート材における、繊維の配向角度と引張強度の関係を示す図である。
【図7】シート材中の無機繊維の各配向角度における、平均繊維径と引張強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0023】
本発明では、無機繊維を含むシート材で構成され、排気ガス処理体を保持するための保持シール材において、前記無機繊維が、前記シート材内の少なくとも一部において、前記シート材の厚み方向に対して、平行な方向を除く、所定の角度に配向されていることを特徴とする。
【0024】
一般に、排気ガス処理装置用の保持シール材に使用されるシート材は、アルミナなどの無機繊維を含むシートを何層にも積層して構成される。ただし積層状シートは、積層した状態のままでは、嵩高であり、また容易に層間で剥離してしまうため、通常は、積層後にニードリング処理と呼ばれる処理が実施される。ニードリング処理とは、多数のニードルを積層状シートに抜き差しして、積層面間を密着させるとともに、シートを肉薄化させる処理である。ニードリング処理には、通常ニードリング装置が用いられる。このニードリング装置は、ニードルの突き刺し方向に往復移動可能なニードルボードと、積層状シートの両面に設置され、積層状シートを固定する支持板とを備えている。ニードルボードには、積層状シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約100〜5000個/100cm2の密度で、ボードの平面に対して垂直な方向に取り付けられている。また支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられており、ニードルは、この貫通孔を通り、積層状シートに到達することができる。このようなニードリング装置を用いて、ニードルを積層状シートに抜き差しして、ニードリング処理を行うことにより、複雑に絡み合った繊維が厚み方向に配向され、積層状シートの厚み方向の耐剥離性を向上することができる。なお、このような処理によって得られた積層状シートからなるシート材の断面を観察すると、図1に示すように、シート材24内には、積層方向(図のZ方向)とほぼ平行に多数のニードリング処理痕30が形成され、この処理痕に沿って、多数の繊維が配向されていることが確認される。
【0025】
これに対して、本発明の保持シール材に用いられるシート材24は、無機繊維がシート材の厚み方向に対して、一定の配向角度αをなすように配向されることに特徴がある(後述の図2参照)。
【0026】
このように繊維がシート材の厚み方向に対して一定の配向角度αを有するシート材24では、従来のような繊維が厚み方向と平行に配向されたシート材(α=0゜)に比べて、厚み方向と垂直な方向(図1、図2のX方向)の引張応力に対する強度が高くなる。従って、このようなシート材24を排気ガス処理装置の保持シール材として使用した場合、保持シール材を巻き付け方向にある程度の張力が生じるように排気ガス処理体に巻回して固定する際に、保持シール材に亀裂が生じたり、破断したりすることを回避することができる。特に、環境への配慮から、シート材24の繊維の平均繊維径は、現在の〜6μmから今後6μm以上のものに増大していくものと予想される。一般にシート材に含まれる繊維の平均繊維径が太くなると、繊維の周囲に生じる微細な隙間が増えるとともに、繊維同士が緊縛しあう領域が少なくなるため、シート材の厚み方向と垂直な方向の引張強度は低下する傾向にある。しかしながら、そのような場合であっても、本発明による保持シール材では、厚み方向と垂直な方向での引張強度が十分に高いため、将来のシート材24の平均繊維径の増大化にも十分に対応できる。
【0027】
このような繊維配向を有するシート材は、例えばボード平面に対して所定の傾きを有するようにニードルをニードリングボードに取り付け、このニードリングボードを用いてニードリング処理を行うことにより得ることができる。図2には、本発明の保持シール材に用いられるシート材24の断面概略図を示す。図に示すように、シート材内部には、厚さ方向に対して所定の(前述のニードリングボードに設置されたニードルの設置角度に対応する)配向角度αをなす多数のニードリング処理痕30が形成されており、この処理痕に沿って、多数の繊維が配向されていることが確認される。
【0028】
特にシート材24に含まれる繊維の配向角度α(シートの厚み(Z)方向に対する繊維の配向がなす角度)は、0゜よりも大きく85゜以下であることが好ましく、45゜〜75゜の範囲にあることがより好ましい。繊維の配向角度αが45゜以上の場合に、シート材に顕著な引張強度の増大効果が得られるからである。また繊維の配向角度αが75゜を超えると、そのような繊維の配向角度αを有するシート材をニードリング処理によって製作しようとした場合、ニードリング処理時に、ニードルによって損傷を受ける繊維量が増える。従ってシート材の厚み方向と垂直な方向での、シート材の引張強度が低下してしまう。
【0029】
なおシート材24には、ニードリング処理後に結合材を含浸させることが好ましい。シート材24が結合材を含有することにより、シート材24の嵩高さを抑制することができる上、繊維同士がより強固に緊縛される。従ってシート材24の切断加工時、あるいはこのシート材24を後述の図4のように、保持シール材15として排気ガス処理体20に巻回す際や金属シェル12に封入する際に繊維が飛散することを防止することができる。さらに、このような保持シール材15を含む排気ガス処理装置10に高温排気ガスが導入された場合、保持シール材15の有機バインダが消失するため、圧縮されていた保持シール材15が復元され、金属シェル12と排気ガス処理体20の間に存在する可能性のあるわずかの隙間も塞がれることとなり、保持シート材15の保持力およびシール性が向上する。結合材としては、有機結合材もしくは無機結合材を使用することができる。有機結合材としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂などを使用でき、また無機結合材としては、シリカゾル、アルミナゾルなどを使用することができる。
【0030】
前述の方法で製作されたシート材24は、排気ガス処理体20の外周に巻回し固定される保持シール材15として利用できる。保持シール材15の形状の一例を図3に示す。ただし本発明の保持シール材15は、図3の形状に限られるものではない。この図では、保持シール材15は、巻回方向(X方向)と垂直な両端面70、71に1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有しており、この保持シール材15が排気ガス処理体20に巻回された際には、図4に示すように、嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、保持シール材15が排気ガス処理体20に固定される。ここで本発明の保持シール材15は、前述のように、シート材24の厚み方向と垂直な方向に対する引張強度が高い。従って、保持シール材15を排気ガス処理体20に巻き回す際に、保持シール材15の巻回方向(X方向)に引張応力が加わっても、保持シール材15に亀裂や破断が生じにくく、前述の問題が回避される。この保持シール材15が巻回された排気ガス処理体20は、図4に示すように、例えば圧入方式によって金属シェル12内に設置される。
【0031】
以上のようにして製作される排気ガス処理装置10の一構成例を図5に示す。この図の例では、排気ガス処理体20は、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム状の多孔質炭化珪素等で構成される。なお、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を貫通孔の一部が目封じされたDPFとすることも可能である。
【0032】
以下、本発明の保持シール材15の製作方法の一例を説明する。
【0033】
本発明の保持シール材15はシート材24からなり、このシート材24は、以下のように製作することができる。
【0034】
まず、無機繊維からなる前駆体を製作する。なお以下の説明では、無機繊維としてアルミナとシリカの混合物を用いるが、無機繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカのみで構成されても良い。アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、例えばアルミナ−シリカ組成比が60〜80:40〜20となるようにシリカゾルを添加し、無機繊維の前駆体を調製する。アルミナ組成比が60%以下では、アルミナとシリカから生成されるムライトの存在比が小さくなるため、シート材24の熱伝導度が高くなり、十分な断熱性能が得られないからである。特にアルミナ−シリカ組成比は、70〜74:30〜26程度であることがより好ましい。
【0035】
次にこのアルミナ系繊維の前駆体にポリビニルアルコール等の有機重合体を加える。その後この液体を濃縮し、紡糸液を調製する。さらにこの紡糸液を使用して、ブローイング法により紡糸する。
【0036】
ブローイング法とは、エアーノズルから吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液流とによって、紡糸を行う方法である。エアーノズルからのスリットあたりのガス流速は、通常40〜200m/sである。また紡糸ノズルの直径は通常0.1〜0.5mmであり、紡糸液供給ノズル1本あたりの液量は、通常1〜120ml/h程度であるが、3〜50ml/h程度であることが好ましい。このような条件では、紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液は、スプレー状(霧状)となることなく十分に延伸され、繊維相互で溶着しにくいので、紡糸条件を最適化することにより、繊維径分布の狭い均一なアルミナ繊維前駆体を得ることができる。
【0037】
ここで、製作されるアルミナ系繊維の平均繊維長は、250μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。平均繊維長が250μm未満では、繊維同士が十分に絡み合わず、十分な強度が得られないからである。また無機繊維の平均繊維径は、特に限られない。ただし本発明は、以降に示すように無機繊維の平均繊維径が6μm以上であっても効果を奏することに留意する必要がある。
【0038】
紡糸が完了した前駆体を積層して、シート材を製作する。さらにこのシート材に対して、ニードリング装置を用いてニードリング処理を行う。ここで本発明に用いるニードルボードには、ボードの水平面に対して所定の傾きをなすように、ニードルが取り付けられている。従ってこのニードリングボードを用いてニードリング処理を行うことにより、繊維がシートの厚み方向に対して平行ではなく、所定の角度に配向されたシート材を得ることができる。
【0039】
次に、このような特殊なニードリング処理の施されたシート材を常温から加熱し、最高温度1250℃程度で連続焼成することで、所定の目付け量のシート材24が得られる。
【0040】
ハンドリングの容易化のため、このようにして得られたシート材24は、所定の寸法に裁断される。
【0041】
次に、裁断されたシート材24には、必要に応じて、樹脂のような有機系結合材が含浸される。有機系結合材の含有量は、1.0〜10.0重量%の範囲であることが好ましい。1.0重量%未満では、十分に無機繊維の離脱を防止することができないからである。また10.0重量%よりも多くなると、柔軟性が得られなくなり、シート材24を排気ガス処理体20に巻き付けることが難しくなるからである。
【0042】
なお有機系結合材としては、例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることが好ましい。
【0043】
このような有機系結合材と水とで調製した水分散液を用いて、スプレー塗布により、シート材24に樹脂を含浸させる。なおシート材24中に含まれる余分な添着固形分および水分は、次工程で除去される。
【0044】
次に、余分な固形分の除去および乾燥処理を行う。余分な固形分の除去は、吸引法で行われる。また余分な水分の除去は、加熱圧縮乾燥法によって行われる。この方法では、シート材に押圧を付加するため、余分な水分が除去されると共に、シート材が肉薄化される。乾燥は、95〜155℃程度の温度で行われる。95℃よりも温度が低いと、乾燥時間が長くなり生産効率が低下する。また155℃を超える乾燥温度では、有機系結合材自身の分解が開始され、有機系結合材による接着性が損なわれる。
【0045】
最後に裁断により、所定の形状のシート材24が得られる。
【0046】
このようにしてアルミナ系繊維を含み、有機系結合材が含浸され、さらに繊維の配向角度が制御されたシート材24を得ることができる。
【0047】
なお本発明は、前述のような無機繊維の前駆体を積層させて積層状シートを得る方法への適用に限られるものではない。例えば、シート材に含まれる無機繊維として、ガラスのような比較的低融点の材料を用いる場合、シート材は、いわゆる溶融ブローイング法によって製作されても良い。溶融ブローイング法は、無機材料の溶融体を直接高速の流体で吹き飛ばして、シート材を製作する方法である。またシート材を製作する別の方法として、いわゆる抄造法を用いても良い。この方法は、底部に微細な孔の開いた抄造型に無機繊維のスラリーを流し込み、この抄造型を吸引脱水してシート材を得る方法である。これらの製法で得られたシート材について、前述のニードリング処理を行うことにより、無機繊維がシートの厚さ方向に対して所定の角度に配向されたシート材を得ることができ、これによりシート材の引張強度を向上させることができる。
【0048】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【実施例】
【0049】
シート材は以下の手順により製作した。
[シート材の製作]
アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、アルミナ系繊維の組成がAl:SiO=72:28となるように、シリカゾルを配合し、アルミナ系繊維の前駆体を形成した。
【0050】
次にアルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコール等の有機重合体を添加した。さらに、この液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸液を用いてブローイング法にて紡糸した。
【0051】
その後アルミナ系繊維の前駆体を折りたたんだものを積層して、アルミナ系繊維の積層状シートを製作した。この積層状シートに対して、500個/100cm2のニードルを有するニードルボードを用いて、ニードリング処理を行った。ニードルの設置角度は、ボード平面と垂直な方向に対し、5゜とした。従ってニードリング処理後には、繊維の配向角度αがほぼ5゜のシート材が得られた。
【0052】
次に得られたシート材を常温から最高温度1250℃で連続焼成し、目付け量1160g/cm2のアルミナ系繊維のシート材を得た。アルミナ系繊維の平均繊維径は5.0μmであり、最小直径は3.2μmであった。またシート材の厚さは9mmであった。
【0053】
なお繊維の平均繊維径は、以下の方法により測定した。まず、アルミナ系繊維をシリンダーに入れ、20.6MPaで加圧粉砕する。次にこの試料をふるい網に載せ、ふるいを通過した試料を電子顕微鏡観察用試験体とする。この試験体の表面に金等を蒸着させた後、倍率約1500倍程度の電子顕微鏡写真を撮影する。得られた写真から少なくとも40本の繊維の径を測定する。この操作を5試料について繰り返し、測定値の平均を繊維の平均繊維径とした。
[シート材の裁断]
上記工程で作製されたシート材を、寸法が縦1270mm、横1280mmとなるように裁断した。
[有機系結合材含浸]
裁断されたシート材に有機系結合材の含浸を行った。アクリル系樹脂水分散液(日本ゼオン製L×803;固形分濃度50±10%、pH5.5〜7.0)を樹脂濃度が1.0〜10.0wt%の範囲となるように調製して、含浸液を得た。次に、スプレー塗布により、シート材にこの含浸液を含浸させた。
[固形分の吸引]
有機系結合材を含浸させた後のシート材には、所定量を超える固形分が付着しているため、固形物の吸引処理(3秒程度)によって、余分な固形分を除去した。この処理後に、秤量法にて確認した結果、シート材の有機系結合材の含浸率は10wt%であった。
[加熱圧縮乾燥工程]
吸引工程後のシート材を用いて、乾燥温度95〜155℃で加熱圧縮乾燥処理を行った。最終的なシート材の平均厚さは、約8mmであった。上記の工程を経て得られたシート材を実施例1とする。
【0054】
次に、ニードリング処理に用いるニードルボードに設置されたニードルの角度を0゜〜85゜の範囲で変更した以外は、上述の工程と同じ処理により、実施例2〜7および比較例1のシート材を作製した。従ってこれらの実施例および比較例では、表1に示すようにシート材内の繊維の配向角度αが実施例1とは異なっているが、その他の製作条件は実施例1のシート材と同じである。
【0055】
【表1】

またアルミナ系繊維の平均繊維径が5.8μmとなるようにし、さらにニードルの設置角度を0゜〜85゜の範囲で変更して、前述のシート材の製作工程を実施した以外は、同様の工程により実施例8〜14および比較例2のシート材を作製した。これらのシート材の無機繊維の配向角度αを表1に示す。
【0056】
さらにアルミナ系繊維の平均繊維径が7.2μmとなるようにし、さらにニードルの設置角度を0゜〜85゜の範囲で変更して、前述のシート材の製作工程を実施した以外は、同様の工程により実施例15〜21および比較例3のシート材を作製した。これらのシート材の無機繊維の配向角度αを表1に示す。
【0057】
次に得られたシート材を所定の形状に切断した試料を用いて、引張試験を行った。以下、試験結果について説明する。
[引張試験結果]
引張試験には、前述の方法で製作した実施例1〜21および比較例1〜3のシート材を150×50mmに裁断したものを試料として使用した。試験には万能試験機(インストロン社製)を使用し、前述の試料の短辺側の両端部を固定間距離が50mmとなるように固定した状態から、一方の端部を10mm/minの速度で引っ張り、試料が破断するときの強度(以下、引張強度という)を測定した。
【0058】
結果を表1に示す。また無機繊維の平均粒子径が5.8μmのシート材における、繊維の配向角度αに対する引張強度の変化を図6に示す。この結果から、シート材の厚み方向に対して繊維が所定の配向角度αを有する場合(実施例8〜14の場合)、繊維が厚み方向と平行に配向されたシート材(比較例2の場合)に比べて、シート材の引張強度が増大することが確認された。特にシート材中の無機繊維の配向角度αが45゜≦α≦75゜の範囲にある場合、繊維が厚み方向に配向されたシート材に比べて、引張強度は約25%も大きくなった。ここで図6において、引張強度は、配向角度αが0<α≦45゜の範囲では配向角度αとともに単調に増大するが、配向角度αがさらに大きくなると、幾分減少する傾向にある。これは、繊維の配向角度αの増大による強度向上効果が、繊維の損傷による強度低下の影響によって相殺されてしまうためであると考えられる。すなわち、繊維の配向角度αが大きくなると、シートの厚み方向に対して一定の深さまでニードルを到達させるには、シートに突き刺さるニードルの距離を長くする必要がある。この場合、シート内の繊維がニードルの抜き差しによって損傷を受ける頻度はより高くなるため、繊維自体の強度は低下してしまう。従ってこの影響によって、繊維の配向角度αが45゜を超えると、繊維を配向させることによるシート材の強度向上効果が認められにくくなるものと考えられる。なお図6のような配向角度αと引張強度の関係は、無機繊維の平均繊維径が5.0μmおよび7.2μmの場合も同様に認められた。
【0059】
図7には、無機繊維の各配向角度αにおける、平均繊維径と引張強度の関係を示す。前述の理由により、シート材中の無機繊維の平均繊維径が増大すると、全般に引張強度は低下する傾向にある。過去の経験および実験の結果によれば、シート材の引張強度が40N/(25mm幅)を越えれば、シート材を排気ガス処理装置の保持シール材として使用した場合、保持シール材の排気ガス処理体への巻回しの際に保持シール材に亀裂や破断が生じにくく、保持シール材の取扱性は良好であると言われている。ここで平均繊維径が5.8μm以下の場合は、シート材中の繊維配向角度αが0゜のときでも、引張強度は40N/(25mm幅)を超える。しかしながら、シート材の平均繊維径が5.8μmよりも大きくなると、繊維がシートの厚み方向に配向されたシート材(配向角度α=0゜のシート材)の引張強度は、40N/(25mm幅)を下回る。これに対して、繊維の配向角度αが0゜よりも大きなシート材では、シート材の平均繊維径が7.2μmであっても、引張強度は40N/(25mm×25mm)を超える。従って繊維がシートの厚み方向とは異なる角度に配向されたシート材は、平均繊維径が6μm以上に増大しても、保持シール材として適正に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の保持シール材および排気ガス処理装置は、車両用排ガス浄化装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
2 導入管
4 排気管
10 排気ガス処理装置
12 金属シェル
15 保持シール材
20 排気ガス処理体
24 シート材
30 ニードリング処理痕
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含むシート材の製造方法であって、
前記シート材は、無機繊維の前駆体を積層し、少なくとも一部においてニードリング処理された後に焼成され、
前記無機繊維は、前記シート材の厚み方向に対して、平行な方向を除く、所定の角度に配向されていることを特徴とするシート材の製造方法。
【請求項2】
前記無機繊維の配向は、前記シート材内に局部的に存在することを特徴とする請求項1
に記載のシート材の製造方法。
【請求項3】
前記シート材の厚み方向に対する前記無機繊維の配向角度は、0゜より大きく85゜以
下であることを特徴とする請求項1または2に記載のシート材の製造方法。
【請求項4】
前記シート材の厚み方向に対する前記無機繊維の配向角度は、45゜から75゜の範囲
であることを特徴とする請求項1または2に記載のシート材の製造方法。
【請求項5】
前記シート材は、結合材を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに
記載のシート材の製造方法。
【請求項6】
前記無機繊維の平均直径は、6μm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいず
れか一つに記載のシート材の製造方法。
【請求項7】
前記無機繊維は、アルミナとシリカの混合物であることを特徴とする請求項1乃至6の
いずれか一つに記載のシート材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−190811(P2011−190811A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120153(P2011−120153)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【分割の表示】特願2005−340960(P2005−340960)の分割
【原出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】