説明

保持パッド

【課題】大型化しても表面の平坦性を確保しつつ全面を研磨装置に装着することができる保持パッドを提供する。
【解決手段】保持パッド20は、保持面Sを有するウレタンシート12、粘着シート14、弾性を有する樹脂シート16、粘着シート15を備えている。粘着シート14は粘着剤層45、46が境界D1で隣接するように配され、粘着シート15は粘着剤層55、56が境界D2で隣接するように配されている。樹脂シート16は、一面側に粘着シート14の他面側が貼り合わされ、他面側に粘着シート15の一面側が貼り合わされている。粘着シート14の一面側にウレタンシート12の保持面Sと反対側の面が貼り合わされている。保持パッド20の幅方向中央部より一側の位置に境界D1が形成され、他側の位置に境界D2が形成される。境界D1、D2での段差が樹脂シート16で吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保持パッドに係り、特に、被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂製のシート材を備えた保持パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来研磨加工時には、被研磨物を研磨装置に保持させるための保持パッドが使用されている。保持パッドとしては、樹脂製のシート材が広く用いられており、研磨加工時には、シート材を一面側で研磨装置に装着させ、シート材の他面側に被研磨物を接触させる。研磨装置にシート材を装着するために、古くから両面テープ等の粘着性を有する部材が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。これらの技術では、粘着剤としてアクリル系粘着剤が用いられている。
【0003】
研磨加工の対象となる被研磨物としては、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、シリコンウェハ、ハードディスク用基板や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料、といった多岐にわたる材料を挙げることができる。これらの材料の研磨加工においては、例えば、半導体デバイスでは半導体回路の微細化や多層配線化が進められており、配線の各層で高度な平坦性が求められている。また、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、ガラス基板が大型化する傾向にある。被研磨物の大型化に対応するため、研磨パッドや保持パッドのシート材の大型化が進められている。一方、シリコンウェハでは、研磨加工の効率向上を目的として、複数の材料を同時に研磨加工する技術が進められている。この場合でも、研磨加工に使用するシート材を大型化することが必要となっている。
【0004】
大型のシート材としては、例えば、1辺の長さが2000mmを超える矩形状や直径2000mmを超える円形状のシート材が開発されている。ところが、このような大型化したシート材を研磨装置に装着するための両面テープについては、大型のシート材に対応するように開発が進められているものの、1辺の長さや直径が2000mmを超えるような大型の両面テープが開発されていない。このため、大型のシート材の全面を研磨装置に装着することが難しくなっている。これを解決するために、例えば、シート材を分割し、粘着テープと貼り合わせた研磨パッドの技術が開示されている(特許文献3参照)。この技術では、シート材が分割されているため、隙間が形成され被研磨物の平坦性を損なうことがある。また、研磨加工時に供給される研磨液が隙間に入り込み、粘着テープの粘着性を低下させて剥離を招くこともある。そこで、複数の両面テープを並べて貼り合わせることで大型化に対応しているのが現状である
【0005】
【特許文献1】実開1987−153057号公報
【特許文献2】特開58−109572号公報
【特許文献3】特開平11−320386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、大型のシート材に複数の両面テープを並べて貼り合わせた場合、見かけ上は、大型化しているようになるが、隣り合う両面テープの継ぎ目では、シート材から研磨装置の定盤までの間に隙間が形成された状態となる。特に、低剛性のシート材の場合、運搬時には、シート材の継ぎ目部分が弱く、その部分で折れ曲がる可能性がある。また、研磨装置への装着時には、両面テープ等の継ぎ目部分でシート材が伸ばされることとなり、シート材の表面にしわや窪みが形成されて段差が生じることがある。このような段差が生じた状態で研磨加工を行うと、被研磨物の表面に段差が転写されてスジが形成されることがあり、被研磨物の表面を平坦化することができないばかりか、研磨傷等のダメージを与える可能性がある。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、大型化しても表面の平坦性を確保しつつ全面で研磨装置に装着することができる保持パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、一面側に被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂製の第1のシート材と、前記第1のシート材の他面側に一面側が貼り合わされており、粘着性を有する複数の第1の粘着部材が隣接するように配された第1の粘着層と、前記第1の粘着層の他面側に一面側が貼り合わされており、湿式成膜で形成された発泡構造により弾性を有する第2のシート材と、前記第2のシート材の他面側に一面側が貼り合わされており、粘着性を有する複数の第2の粘着部材が前記第1の粘着部材の境界部分と異なる部分で隣接するように配された第2の粘着層と、を備えた保持パッドである。
【0009】
本発明では、研磨加工時に、第2の粘着層の他面側を研磨装置に貼り合わせ、第1のシート材の保持面に被研磨物を接触させることで、被研磨物が研磨装置に保持される。本発明によれば、第1および第2の粘着層をそれぞれ複数の第1および第2の粘着部材で構成したことで、大型の保持パッドでも研磨装置に全面貼り合わせることができ、弾性を有する第2のシート材の両面にそれぞれ貼り合わされた第1および第2の粘着部材の境界部分を互いに異なる部分としたことで、境界部分に段差が生じても第2のシート材の弾性により段差が吸収されるため、保持面の平坦性を確保することができる。
【0010】
この場合において、第1の粘着部材の境界部分および第2の粘着部材の境界部分が少なくとも1cm離隔していることが好ましい。また、第2のシート材を、少なくとも片面にバフ処理を施し、厚さ150μm〜1200μmの範囲とすることができる。このとき、樹脂基材を、圧縮弾性率70%〜100%の範囲、かつ、A硬度3度〜30度の範囲としてもよい。また、第1および第2の粘着層では、第1および第2の各粘着部材の粘着剤を、それぞれ、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系の粘着剤から選択される少なくとも1種とすることができる。このとき、第1および第2の粘着層を同じ厚さとし、第1および第2の各粘着部材の粘着剤を同質としてもよい。また、第2の粘着層を構成する第2の各粘着部材が基材の両面に粘着剤を塗着して形成されていてもよい。このとき、基材を可撓性を有する樹脂フィルムとすることができる。第2の粘着層の他面側では、第2の各粘着部材の表面がそれぞれ剥離可能な剥離紙で覆われていることが好ましい。第1および第2のシート材を、対向する2辺の長さが2000mm以上の矩形状または直径が2000mm以上の円形状とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1および第2の粘着層をそれぞれ複数の第1および第2の粘着部材で構成したことで、大型の保持パッドでも研磨装置に全面貼り合わせることができ、弾性を有する第2のシート材の両面にそれぞれ貼り合わされた第1および第2の粘着部材の境界部分を互いに異なる部分としたことで、境界部分に段差が生じても第2のシート材の弾性により段差が吸収されるため、保持面の平坦性を確保することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を適用した大型の保持パッドの実施の形態について説明する。
【0013】
(構成)
本実施形態の保持パッド20は、図1に示すように、被研磨物を保持するための保持面Sを有する第1のシート材としてのウレタンシート12と、第1の粘着層としての粘着シート14と、弾性を有する第2のシート材としての樹脂シート16と、第2の粘着層としての粘着シート15と、を備えている。
【0014】
ウレタンシート12は、ポリウレタン樹脂を湿式成膜することで形成されている。ウレタンシート12は、保持面S側に図示を省略した微多孔が形成されたスキン層を有している。スキン層より内側(ウレタンシート12の内部)には、スキン層の微多孔より大きい孔径でウレタンシート12の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の大気孔13が略均等に形成されている。大気孔13は、保持面S側の大きさが、保持面Sと反対の面側より小さく形成されている。大気孔13同士の間のポリウレタン樹脂中には、スキン層の微多孔より大きく大気孔13より小さい孔径の小気孔が形成されている。スキン層の微多孔、大気孔13および小気孔は図示しない連通孔で網目状につながっている。すなわち、ウレタンシート12は、連続状の発泡構造を有している。ウレタンシート12は、保持面Sと反対の面側が、ウレタンシート12の厚みが一様となるようにバフ処理されている。このため、保持面Sと反対側の面には大気孔13および小気孔が開口した開孔が形成されている。
【0015】
保持パッド20を構成する粘着シート14は、一面側がウレタンシート12の保持面Sと反対の面側に貼り合わされている。粘着シート14は、2つの粘着剤層45、46(第1の粘着部材)が境界D1で隣接するように配されている。
【0016】
粘着シート14を構成する粘着剤層45、46は、同質のアクリル系粘着剤でシート状に形成されている。また、粘着剤層45、46は、厚さが同じに形成されている。粘着剤層45の幅は粘着剤層46の幅より小さく形成されている。粘着剤層45、46は、当初両面にそれぞれ不図示の被覆紙が貼り合わされて形成された粘着テープが、一面側の被覆紙が取り除かれてウレタンシート12と貼り合わされ、他面側の被覆紙が取り除かれて樹脂シート16と貼り合わされている。
【0017】
樹脂シート16は、一面側が樹脂シート14の他面側、つまり、樹脂シート14のウレタンシート12と貼り合わされた面と反対の面側に貼り合わされている。樹脂シート16は、ポリウレタン樹脂を湿式成膜することで形成されている。すなわち、樹脂シート16は、ポリウレタン樹脂製のシートである。樹脂シート16は、他面側、つまり、粘着シート14に貼り合わされた面と反対の面側に図示しない微多孔が形成されたスキン層を有している。スキン層より内側(樹脂シート16の内部)には、スキン層の微多孔より大きい孔径で樹脂シート16の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の大気孔18が略均等に形成されている。大気孔18は、スキン層側(他面側)の大きさが、スキン層と反対の面側(一面側)より小さく形成されている。大気孔18同士の間のポリウレタン樹脂中には、スキン層の微多孔より大きく大気孔18より小さい孔径の小気孔が形成されている。スキン層の微多孔、大気孔18および小気孔は図示を省略した連通孔で網目状につながっている。すなわち、樹脂シート16は、連続状の発泡構造を有している。また、樹脂シート16の一面側が、樹脂シート16の厚みが一様となるようにバフ処理されている。このため、樹脂シート16の粘着シート14側の面には大気孔および小気孔が開口した開孔が形成されている。樹脂シー16は、他面側が粘着シート15と貼り合わされている。
【0018】
ここで、樹脂シート16の物性について説明する。すなわち、樹脂シート16では、厚みが150〜1200μmの範囲に調整されている。また、樹脂シート16が連続状の発泡構造を有することから、圧縮弾性率70〜100%の範囲、かつ、A硬度3〜30度の範囲の特性を有している。厚み、圧縮弾性率およびA硬度の各物性値は、本例では、次のようにしてそれぞれ測定された数値である。各物性値の測定では、湿式成膜で形成された樹脂シート16から10cm×10cm角の試験用試料を切り出して用いた。厚みの測定では、日本工業規格(JIS K 6505)に準じた方法を用いた。すなわち、試験用試料を荷重100g/cmで5秒加圧後、1枚の試験用試料について5点(4点の隅部および1点の中央部)の厚みをショッパー型厚み測定器で測定し平均値を算出した。圧縮弾性率は、日本工業規格(JIS L 1021)に準じた方法を用いた。すなわち、試験用試料に加重を加除したときに、ショッパー型厚み測定器(加圧面:直径10mmの円形)を使用して0.001mmまで読み取った厚みから算出した。具体的には、無荷重状態から初荷重(100g/cm)で30秒加圧後の厚さtを測定した。30秒経過後、荷重1120g/cmを掛け、5分加圧後に厚さtを測定した。5分経過後全ての荷重を除去して無荷重状態とし、5分間放置後に、再び初荷重で加圧し30秒後の厚さt’を測定した。圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t’−t)/(t−t)の式で算出した。硬度の測定では、A型硬度計を用いた。すなわち、複数枚の試験用試料を重ねて全体の厚みを4.5mm以上にした。A型硬度計の測定針の先端を重ねた試験用試料の上面に当て、測定開始時より30秒後の測定値を読み取った。試験用試料の3箇所について測定し平均値を算出した。
【0019】
粘着シート15は、一面側が樹脂シート16の他面側、つまり、樹脂シート16のスキン層側の面に貼り合わされている。粘着シート15は、2つの粘着剤層55、56(第2の粘着部材)が境界D2で隣接するように配されている。粘着剤層55は、粘着剤がシート状に形成されている。粘着剤層55の他面側、すなわち、研磨装置に装着するための面側は、保持パッド20の保管時や搬送時に粘着剤層55を保護するために、剥離紙(バイナーシート)57で覆われている。粘着剤層56は、粘着剤層55と同じ構成で形成されている。すなわち、粘着剤層56は他面側が剥離紙58で覆われている。また、粘着剤層55、56は、厚さが同じに形成されている。粘着剤層55の幅は、粘着剤層56の幅より小さく形成されている。粘着剤層55、56は、当初一面側に貼り合わされた被覆紙が取り除かれて樹脂シート16と貼り合わされている。
【0020】
上述したように、樹脂シート16では、一面側に粘着シート14を構成する粘着剤層45、46の他面側が貼り合わされており、他面側に粘着シート15を構成する粘着剤層55、56の一面側が貼り合わされている。すなわち、樹脂シート16は、粘着シート14および粘着シート15間に介在している。保持パッド20では、粘着シート15の他面側に貼り合わされた剥離紙57、58を剥離することで露出する粘着剤層55、56の他面側が研磨装置に貼り合わされる。
【0021】
図2に示すように、粘着剤層46と、粘着剤層46より小さい幅を有する粘着剤層45とが隣接するように配された粘着シート14では、保持パッド20の幅方向中央部より一側に偏った位置に境界D1が形成される。これに対して、粘着剤層56と、粘着剤層56より小さい幅を有する粘着剤層55とが隣接するように配された粘着シート15では、保持パッド20の幅方向中央部より他側に偏った位置に境界D2が形成される。このため、粘着シート14と粘着シート15とでは、研磨パッド20の幅方向で、境界D1および境界D2の位置が異なっている。換言すれば、粘着シート14を構成する2つの粘着剤層45、46の継ぎ目部分を覆うように樹脂シート16が貼り合わされており、粘着シート15を構成する粘着剤層55、56の継ぎ目部分を覆うように樹脂シート16が貼り合わされている。
【0022】
(製造)
保持パッド20は、湿式成膜し作製した樹脂シート16と、別に湿式成膜し作製したウレタンシート12とを粘着シート14を介して貼り合わせ、樹脂シート16のウレタンシート12と反対側の面に粘着シート15を貼り合わせることで製造される。以下、ウレタンシート12の作製、樹脂シート16の作製、貼り合わせの順に説明する。
【0023】
<ウレタンシートの作製>
ウレタンシート12は、樹脂溶液を調製する準備ステップ、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生ステップ、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄・乾燥させてウレタンシート12を得る洗浄・乾燥ステップを経て作製される。
【0024】
準備ステップでは、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、大気孔13の大きさや量(個数)を制御するカーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡して樹脂溶液を調製する。
【0025】
凝固再生ステップでは、準備ステップで調製した樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる。樹脂溶液は、塗布装置により常温下で帯状の成膜基材に略均一に塗布される。塗布装置には、本例では、ナイフコータが用いられる。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。本例では、成膜基材としてPET製フィルムが用いられる。
【0026】
樹脂溶液が塗布された成膜基材は、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液に浸漬される。凝固液中では、まず、塗布された樹脂溶液の表面にスキン層を構成する微多孔が厚さ数μm程度にわたって形成される。その後、樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生する。DMFが樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層より内側のポリウレタン樹脂中には、大気孔13および小気孔が形成され、スキン層の微多孔、大気孔13および小気孔を網目状に連通する連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな大気孔13が形成される。
【0027】
洗浄・乾燥ステップでは、凝固再生した帯状(長尺状)のポリウレタン樹脂を洗浄した後乾燥させる。すなわち、ポリウレタン樹脂は、成膜基材から剥離され、水等の洗浄液中で洗浄されてポリウレタン樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、ポリウレタン樹脂を乾燥機等で乾燥させてウレタンシート12が作製される。本例では、乾燥機として、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機が用いられる。ポリウレタン樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後のウレタンシート12は、保持面Sと反対の面側に、ウレタンシート12の厚さが一様となるようにバフ処理が施された後、裁断される。ウレタンシート12の大きさは、本例では、長さ1000mm、幅2000mmに設定されている。
【0028】
<樹脂シートの作製>
樹脂シート16は、ウレタンシート12と同様にして湿式成膜で作製される。樹脂シート16では、ウレタンシート12と異なるポリウレタン樹脂を用いてもよく、添加材等を変更することもできるが、本例では、ウレタンシート12と同じ条件で作製される。スキン層と反対の面側をバフ処理するときは、樹脂シート16の厚さが150〜1200μmの範囲となるようにバフ処理量が調整される。樹脂シート16の大きさは、本例では、ウレタンシート12と同じ大きさ、すなわち、長さ1000mm、幅2000mmに設定されている。
【0029】
<貼り合わせ>
粘着シート14では、粘着剤層45、46の両面にそれぞれ被覆紙が貼り合わされた2つの粘着テープが用いられる。各粘着テープの幅は、粘着剤層45を有する粘着テープが700mm、粘着剤層46を有する粘着テープが1300mmに設定されている。これらの粘着テープでは、粘着剤層45、46の厚さが、いずれも、0.125mmに設定されている。一方、粘着シート15では、一面側が剥離紙57、58でそれぞれ覆われた粘着剤層55、56の他面側がそれぞれ被覆紙で覆われた2つの粘着テープが用いられる。各粘着テープのテープ幅は、粘着剤層55を有する粘着テープが700mm、粘着剤層56を有する粘着テープが1300mmに設定されている。粘着剤層55、56の厚さは、いずれも、粘着剤層45、46と同じ0.125mmに設定されている。なお、剥離紙57、58の厚さは、いずれも0.045mmである。このような粘着シート14、15では、100〜300g/cmの荷重を加えたときの圧縮量が、発泡構造の樹脂シート16に同じ荷重を加えたときの圧縮量より小さくなる。
【0030】
樹脂シート16を略平坦な台上に、スキン層と反対側が下側となるように載置する。樹脂シート16の上側(スキン層側)に粘着シート15を構成する2つの粘着テープを(被覆紙を取り除いて)隙間が形成されないように隣接させて貼り合わせる。粘着剤層55、56がほぼ同一の平面で境界D2を挟んで隣接配置される。このとき、2つの粘着テープには剥離紙57、58が残されている。次に、樹脂シート16の上下を反対にして(粘着シート15を下側にして)台上に載置する。樹脂シート16のスキン層と反対側の面に、粘着シート14を構成する2つの粘着テープを(一方の被覆紙を取り除いて)隙間が形成されないように隣接させて貼り合わせる。粘着剤層45、46がほぼ同一の平面で境界D1を挟んで隣接配置される。このとき、境界D1、D2の位置が異なるように貼り合わせる。次いで、粘着シート14を構成する2つの粘着テープの他方の被覆紙を取り除き、露出した粘着剤層45、46と、ウレタンシート12の保持面Sと反対側の面と、を貼り合わせる。このとき、2つの粘着剤層45、46の被覆紙を順次取り除きウレタンシート12と貼り合わせる。その後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、長さ1000mm、幅2000mmの大型の保持パッド20を完成させる。
【0031】
保持パッド20を研磨装置に装着するときは、剥離紙57、58を取り外し、露出した粘着剤層55、56で研磨装置の定盤に貼着する。このとき、2枚の剥離紙57、58を順次取り外して、粘着テープ55、56を1枚分ずつ順に貼着することで、位置ズレすることなく正確に定盤に貼着することができる。研磨加工時には、保持面Sに被研磨物を接触させることで、研磨装置に保持させる。
【0032】
(作用等)
次に、本実施形態の保持パッド20の作用等について説明する。
【0033】
本実施形態の保持パッド20では、粘着シート14が2つの粘着剤層45、46で構成され、粘着シート15が2つの粘着剤層55、56で構成されている。このため、ウレタンシート12が大型でも全面で研磨装置に装着することができるように、ウレタンシート12と貼り合わせることができる。また、粘着シート15を構成する2つの粘着剤層55、56を順に研磨装置に貼着することで、位置ズレを生じることなく正確に研磨装置に装着することができる。
【0034】
また、保持パッド20では、粘着剤層45、46の隣接部分に境界D1が形成され、粘着剤層55、56の隣接部分に境界D2が形成されている。粘着シート14の境界D1と粘着シート15の境界D2とが異なる位置となるように、粘着剤層45、46および粘着剤層55、56が配置されている。更に、粘着シート14および粘着シート15間には樹脂シート16が介在している。このため、境界D1での隙間形成および境界D2での隙間形成が樹脂シート16で抑制される。換言すれば、粘着シート14、15の境界D1、境界D2が相互に補強されるように形成されており、境界D1、D2に生じる歪みを最小限に抑制することができる。また、境界D1、D2の形成位置が異なることで、樹脂シート16に及ぼす負荷を低減することができる。これにより、ウレタンシート12の保持面S側に窪み等の段差が形成されることなく保持パッド20を研磨装置に装着することができる。従って、保持面Sの平坦性が確保されるので、被研磨物にスジ等が転写されることを抑制し平坦性向上を図ることが期待できる。
【0035】
更に、保持パッド20では、粘着シート14および粘着シート15間に樹脂シート16が介在している。樹脂シート16は、湿式成膜で形成された発泡構造により、圧縮弾性率が70〜100の範囲、A硬度が3〜30度の範囲に調整されている。このため、樹脂シート16が弾性を発揮することから、粘着シート14、15の境界D1、D2で隙間が形成されても、樹脂シート16の弾性により吸収されるため、保持面Sに当該隙間形成による段差の形成を抑制することができる。また、一定の荷重を加えたときの樹脂シート16の圧縮量を、同じ荷重での粘着シート14、15の圧縮量より大きくすることで、段差抑制の効果を向上させることができる。従って、保持面Sの平坦性が確保されるので、被研磨物の平坦性を一層向上させることが期待できる。
【0036】
従来大型の保持パッドでは、両面テープが大型化していないため、全面で研磨装置に装着することが難しい。複数の両面テープを並べて貼り合わせることで、研磨装置への装着を行うことができる。すなわち、上述したウレタンシート12と粘着シート15とを貼り合わせて形成した保持パッドとなる。ところが、このような保持パッドでは、ウレタンシート12が伸縮性を有するため、研磨装置に装着するときに、粘着シート14を構成する2つの粘着テープ45、46の境界D4の部分でウレタンシート12が伸ばされてしまう。このため、保持面S側に窪みやしわ(段差)が形成されることとなる。このような状態で研磨加工を行うと、段差が被研磨物に転写されてスジ等を生じ、被研磨物の平坦性を損なうこととなり、被研磨物に研磨傷を生じる可能性もある。本実施形態は、これらの問題を解決することができる保持パッドである。
【0037】
なお、本実施形態では、粘着シート14が境界D1で隣接するように配された粘着剤層45、46で構成されており、粘着シート15が境界D2で隣接するように配された粘着剤層55、56で構成されている。粘着シート14の境界D1が保持パッド20の幅方向で中央部より一側、粘着シート15の境界D2が中央部より他側にそれぞれ位置している例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。すなわち、境界D1、D2の位置が異なるように粘着シート14、粘着シート15が構成されていればよく、境界D1、D2の形成位置に制限されるものではない。境界D1と境界D2との距離が小さすぎると、境界D1、D2による段差の影響を抑制することが難しくなり、粘着シート14および粘着シート15間に介在する樹脂シート16に及ぼす負荷も大きくなり不都合を生じることとなる。このため、境界D1と境界D2とが少なくとも1cm離隔(オフセット)していることが好ましい。樹脂シート16の厚さとも関係するが、保持面Sの平坦性を確保することを考慮すれば、境界D1と境界D2とが少なくとも10cm離隔していることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、粘着シート14、15間に樹脂シート16を介在させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、粘着シート14、15以外の粘着シートを積層するようにしてもよい。この場合、各粘着シートの境界部分を相互に補強する効果を向上させることが期待されるが、研磨パッド10の全体に占める粘着シートの割合が大きくなるため、研磨加工に支障をきたす可能性もある。この点を考慮すれば、粘着シート14、15の2層を有することが好ましい。また、本実施形態では、粘着シート14と粘着シート15との間に貼り合わせる樹脂シート16をポリウレタン樹脂製とする例を示したが、本発明は樹脂シート16の材質に制限されるものではない。ポリウレタン以外の材質としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等を挙げることができるが、湿式成膜で発泡構造が形成される材質であればよい。
【0039】
更に、本実施形態では、粘着シート14を構成する粘着部材として2つの粘着剤層45、46を用い、粘着シート15を構成する粘着部材として2つの粘着剤層55、56を用いる例を示したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、粘着シート14、15を3つ以上の粘着テープで構成してもよい。また、本実施形態では、粘着シート14を構成する粘着剤層の数と、粘着シート15を構成する粘着剤層の数とを同じにした例を示したが、本発明は粘着シート14、15を構成する粘着剤層や粘着テープの数に制限されるものではない。例えば、粘着シート14を構成する粘着剤層の数を、粘着シート15を構成する粘着剤層の数より大きくしてもよい。このようにしても、不都合を生じることなく、上述した効果を得ることができる。また、粘着シート14、15を構成する各粘着剤層の厚さをいずれも同じとする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、粘着シート14と粘着シート15とで、粘着剤層の厚さが異なるようにしてもよいが、保持パッド20の全体の厚さを考慮すれば、各粘着剤層の厚さを20〜150μmの範囲とすることが好ましい。
【0040】
また更に、本実施形態では、粘着シート14を粘着剤層45、46で構成し、粘着シート15を粘着剤層55、56で構成する例、すなわち、粘着シート14と粘着シート15との構成が同じ例を示したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、粘着シート14と粘着シート15とで構成が異なるようにしてもよい。また、いずれの粘着シートも基材を有していない例を示したが、保持パッドの大型化に伴い、取扱いの難しさが生じることを考慮すれば、粘着シート15が樹脂製基材を有するようにしてもよい。この場合、樹脂製基材の両面に粘着剤が塗着された両面テープを用いればよい。樹脂製基材としては、可撓性を有する材質であればよく、例えば、ポリエチレンやポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。このようにすれば、柔軟性を有するウレタンシート12が大型化しても、搬送時や研磨装置への装着時に樹脂製基材で支持されることから、取扱いを容易にすることができる。
【0041】
更にまた、本実施形態では、粘着剤層45a、46a、55a、56aの粘着剤として、アクリル系粘着剤を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ウレタン系やエポキシ系の粘着剤を用いてもよい。ウレタンシート12、樹脂シート16の物性に及ぼす影響や接着強度を考慮すれば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系の粘着剤から選択される少なくとも1種とすることが好ましい。
【0042】
また、樹脂製シート材として、湿式成膜されたポリウレタン樹脂製のウレタンシート12を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、イソシアネート化合物とポリオール化合物やポリアミン化合物とを反応させることで乾式成形したウレタンシートを用いることも可能である。また、ポリウレタン樹脂に代えて、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂を用いるようにしてもよい。上述したように、湿式成膜されたウレタンシート12では、微多孔が緻密に形成されたスキン層が形成されることから、被研磨物の保持性の観点から好適である。
【0043】
更に、本実施形態では、保持パッド20を構成するウレタンシート12、樹脂シート16を、いずれも、長さ1000mm、幅2000mmの矩形状とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、対向する2辺の長さが2000mm以上の矩形状、直径2000mm以上の円形状の保持パッドに対応することが可能である。また、樹脂シート16を複数のシートに分割し、各シートを隣接するように配してもよい。この場合は、分割したシートの境界部分が粘着シート14、15の境界D1、D2と異なるようにすることが好ましい。
【0044】
また更に、本実施形態では、ウレタンシート12、樹脂シート16のそれぞれ片面側にバフ処理を施した例を示したが、湿式成膜での厚み精度を高めることができれば、バフ処理を施さなくてもよい。ウレタンシート12、樹脂シート16の両面にバフ処理を施してもよいことはもちろんである。また、樹脂シート16のスキン層側の面を粘着シート15と貼り合わせ、バフ処理された面側を粘着シート14と貼り合わせた例を示したが、樹脂シート16の向きを反対、すなわち、スキン層側の面を粘着シート14と貼り合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は大型化しても表面の平坦性を確保しつつ全面を研磨装置に装着することができる保持パッドを提供するため、保持パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用した実施形態の保持パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の保持パッドを構成する粘着剤層の境界部分を模式的に示す底面図である。
【符号の説明】
【0047】
Q 保持面
D1 境界(境界部分)
D2 境界(境界部分)
12 ウレタンシート(第1のシート材)
14 粘着シート(第1の粘着層)
15 粘着シート(第2の粘着層)
16 樹脂シート(第2のシート材)
20 保持パッド
45、46 粘着剤層(第1の粘着部材)
55、56 粘着剤層(第2の粘着部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面側に被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂製の第1のシート材と、
前記第1のシート材の他面側に一面側が貼り合わされており、粘着性を有する複数の第1の粘着部材が隣接するように配された第1の粘着層と、
前記第1の粘着層の他面側に一面側が貼り合わされており、湿式成膜で形成された発泡構造により弾性を有する樹脂製の第2のシート材と、
前記第2のシート材の他面側に一面側が貼り合わされており、粘着性を有する複数の第2の粘着部材が前記第1の粘着部材の境界部分と異なる部分で隣接するように配された第2の粘着層と、
を備えた保持パッド。
【請求項2】
前記第1の粘着部材の境界部分および前記第2の粘着部材の境界部分は、少なくとも1cm離隔していることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項3】
前記第2のシート材は、少なくとも片面にバフ処理が施されており、厚さが150μm〜1200μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項4】
前記第2のシート材は、圧縮弾性率が70%〜100%の範囲、かつ、A硬度が3度〜30度の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の保持パッド。
【請求項5】
前記第1および第2の粘着層は、前記第1および第2の各粘着部材の粘着剤が、それぞれ、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系の粘着剤から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項6】
前記第1および第2の粘着層は、同じ厚さを有しており、前記第1および第2の各粘着部材の粘着剤が同質であることを特徴とする請求項5に記載の保持パッド。
【請求項7】
前記第2の粘着層は、前記第2の各粘着部材が基材の両面に粘着剤を塗着して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。
【請求項8】
前記基材は、可撓性を有する樹脂フィルムであることを特徴とする請求項7に記載の保持パッド。
【請求項9】
前記第2の粘着層の他面側は、前記第2の各粘着部材の表面がそれぞれ剥離可能な剥離紙で覆われたことを特徴とする請求項7に記載の保持パッド。
【請求項10】
前記第1および第2のシート材は、対向する2辺の長さが2000mm以上の矩形状または直径が2000mm以上の円形状であることを特徴とする請求項1に記載の保持パッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−125584(P2010−125584A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306088(P2008−306088)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】