説明

保持治具

【課題】粘着層から物品を取り外すまで、排気装置の排気等により粘着層を連続して変形させる必要がない保持治具を提供する。
【解決手段】トレー1の表面に中空のフレーム10を着脱自在に搭載し、フレーム10の表面に、LEDデバイス6を保持する変形可能な可撓性の粘着層11を粘着した保持治具であり、トレー1の表面からフレーム10に包囲される複数の支持突起3を粘着層11方向に突出させ、トレー1の厚さ方向に、複数の支持突起3間と外部の排気装置5を連通する排気孔4を穿孔する。粘着層11を、LEDデバイス6を着脱自在に粘着保持する第一の粘着層12と、第一の粘着層12の裏面に貼着されて複数の支持突起3に着脱自在に粘着する第二の粘着層13とから形成する。第二の粘着層13が粘着層11の変形状態を維持するので、複数のLEDデバイス6全てを取り外すまで粘着層11を排気装置5の排気により常時変形させておく必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハや半導体デバイス、LEDデバイス等からなる物品の保持、輸送、搬送等に使用される保持治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デバイスには様々なタイプがあるが、その一つとしてLEDデバイスがあげられる。このLEDデバイスは、図示しないが、例えば4インチあるいは6インチの半導体ウェーハを用いて所定の大きさに加工され、チップトレーに複数搭載されて実装箇所に輸送された後、実装箇所のチップトレーに対応する実装機等からなる加工装置に供される(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
ところで近年、8×0.3×0.3mmタイプのLEDデバイスが出現したり、幅よりも高さの高いLEDデバイスが登場しているが、これらのLEDデバイスを従来のチップトレーに複数搭載して輸送すると、輸送時の衝撃や振動によりLEDデバイスが回転して向きを変えることがあり、この結果、加工装置が停止して生産性を低下させるという問題がある。
【0004】
係る問題を解消する手段としては、保持治具の粘着層に複数のLEDデバイスを着脱自在に保持させ、加工装置に付設した排気装置と保持治具のトレーの排気孔とを接続し、その後、排気装置を駆動してトレーを被覆する粘着層を凹凸に変形させ、この変形して接触面積の減少した粘着層から複数のLEDデバイス全てを順次取り外す方法があげられる。この場合、排気装置は、加工装置にガイド等を介し搭載されたトレーの裏面あるいは側面の排気孔と接続され、保持治具内の空気を外部に絶えず排気して粘着層を凹凸に変形させるよう機能する。
【特許文献1】特開2004‐006467号公報
【特許文献2】特開2001‐244279号公報
【特許文献3】特開平11‐220014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、係る方法を採用する場合には、LEDデバイスが回転して向きを変える事態を防止することができるものの、既存の加工装置を改良して排気装置を付設し、複数のLEDデバイス全てを取り外すまで粘着層を排気装置の排気により連続して絶えず変形させておかなければならない。粘着層を連続して変形させるため、排気装置とトレーの裏面あるいは側面の排気孔とを接続しようとすると、加工装置等に様々な制約があるので、既存の加工装置を大規模に改良する必要があり、設備や費用上の観点から新たな問題の生じる余地がある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、粘着層から物品を取り外すまで、排気装置の排気等により粘着層を連続して変形させる必要がない保持治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、トレーに中空のフレームを着脱自在に搭載し、このフレームに、物品を保持する変形可能な可撓性の粘着層を貼り着けたものであって、
トレーの表面からフレームに包囲される複数の支持突起を粘着層方向に突出させ、トレーには、複数の支持突起間と外部の排気装置とを連通(連なり通す)する排気孔を設け、粘着層を、物品を着脱自在に粘着保持する第一の粘着層と、この第一の粘着層に貼り着けられて複数の支持突起に着脱自在に粘着する第二の粘着層とから形成したことを特徴としている。
【0008】
なお、トレー表面の中央部と周縁部の境界に区画壁を設け、トレー表面の中央部に、区画壁に包囲される複数の支持突起を突出形成して区画壁と略同じ高さとし、トレー表面の区画壁にフレームを外側から嵌め合わせることができる。
また、フレームの表面と複数の支持突起の先端面とを略同一に揃えることが好ましい。
【0009】
ここで、特許請求の範囲におけるトレーは、平面円形、楕円形、矩形、多角形等とすることができる。中空のフレームは、トレーの形状に応じたリング形や枠形に形成することができる。また、物品には、少なくとも単数複数の半導体ウェーハ、半導体デバイス、フォトマスク、ガラス基板、LEDデバイス、電気部品、電子回路素子、太陽電池のセル等が含まれる。排気装置は、トレーの排気孔と接続され、トレー、フレーム、及び粘着層に区画された空間の気体を外部に排気して粘着層を変形させる。
【0010】
本発明によれば、物品を粘着保持した保持治具を加工装置等にセットする前にトレーの排気孔に外部の排気装置を接続し、この排気装置を駆動する。すると、粘着層が複数の支持突起に応じて変形し、物品を粘着層から剥がして各種の加工を施すことが可能となる。この際、第二の粘着層がトレーの表面や支持突起に粘着するので、排気装置を一度駆動すれば、駆動を継続しなくても、粘着層の変形状態を確保することができる。
【0011】
粘着層の変形状態を確保したら、トレーの排気孔と排気装置との接続を解除し、加工装置等に保持治具を粘着層が変形した状態でセットすれば、物品を粘着層から取り外して加工することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第二の粘着層がトレーの表面や支持突起等に粘着して粘着層の変形状態を維持するので、粘着層から物品を取り外すまで、排気装置の排気等により粘着層を連続して変形させる必要がない保持治具を提供することができるという効果がある。
【0013】
また、フレームの表面と複数の支持突起の先端面とを略同一に揃えれば、フレームに貼り付けられた粘着層が支持突起により凸凹になるのを抑制し、物品を適切に粘着保持させたり、物品の姿勢を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る保持治具の好ましい実施形態を説明すると、本実施形態における保持治具は、図1ないし図3に示すように、トレー1の表面に中空のフレーム10を搭載し、このフレーム10の表面に、複数のLEDデバイス6を保持する可撓性の粘着層11を粘着した治具であり、粘着層11を、複数のLEDデバイス6を粘着保持する第一の粘着層12と、この第一の粘着層12の裏面に貼着されてトレー1の複数の支持突起3に粘着する第二の粘着層13とから多層構造に形成するようにしている。
【0015】
トレー1は、図1ないし図3に示すように、所定の材料を使用して剛性を有する平面視円形に形成され、裏面の中央部が断面略皿形に切り欠かれており、平坦な表面の中央部とその外側の周縁部との境界には、平面リング形の区画壁2が起立して周設されるとともに、表面の中央部には、区画壁2やフレーム10に包囲される複数の支持突起3が突出形成される。このトレー1の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ガラス、ステンレス等があげられる。
【0016】
複数の支持突起3は、区画壁2の高さやフレーム10の厚さと同じ高さとされ、トレー1の表面中央部が凹凸に形成されることで間隔をおき並べて形成される。このトレー1の表面中央部を凹凸に形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば成形法、サンドブラスト法、エッチング法等が適宜採用される。各支持突起3は、円錐台形に形成されて粘着層11方向(図1の上方向)に先細りに突出し、平坦な先端面が粘着層11の裏面、換言すれば、第二の粘着層13に粘着される。
【0017】
トレー1の中央部中心付近には、複数の支持突起3間と外部とを連通する排気孔4が厚さ方向に穿孔され、この排気孔4の末端部には、外部から排気装置5が着脱自在に接続される。この排気装置5は、例えば真空ポンプ等からなり、加工装置の外部に別に設置される。
【0018】
フレーム10は、図1ないし図3に示すように、トレー1と同様の材料を使用して剛性の平面視リング形に形成され、トレー1の表面周縁部に着脱自在に搭載されるとともに、トレー1の区画壁2に外側から位置決め嵌合する。このフレーム10は、トレー1に搭載される際、表面が区画壁2や複数の支持突起3の先端面と同一に揃えられ、粘着層11が凸凹になるのを防いで複数のLEDデバイス6の粘着保持に資するよう機能する。
【0019】
粘着層11は、同図に示すように、複数のLEDデバイス6を着脱自在に粘着保持する第一の粘着層12と、この第一の粘着層12の全裏面に粘着されてトレー1の複数の支持突起3に着脱自在に粘着する第二の粘着層13とから一体的に積層形成され、排気装置5の駆動で凸凹に変形することにより、複数のLEDデバイス6との接触面積を減少させてLEDデバイス6の取り外しを可能にするよう機能する。
【0020】
第一、第二の粘着層12・13は、例えば耐熱性、耐候性、耐水性、剥離性、経時安定性等に優れるシリコーン系、ウレタン系、オレフィン系、フッ素系のエラストマー等を使用して弾性変形可能な円形の薄膜に成形され、第二の粘着層13の裏面周縁部がフレーム10の平坦な表面周縁部に粘着される。
【0021】
上記構成において、保持治具に複数のLEDデバイス6を粘着保持させ、輸送したり、加工装置にセットして実装する場合には、先ず、トレー1とフレーム10とを組み合わせて保持治具を構成(図1参照)し、平坦な粘着層11の表面、換言すれば、第一の粘着層12の表面に、複数のLEDデバイス6を粘着保持させれば良い(図2参照)。
【0022】
こうして保持治具に複数のLEDデバイス6を粘着保持させたら、加工装置にセットすれば良いが、その直前にトレー1の排気孔4に排気装置5を接続し、排気装置5を一時的に駆動する。
すると、トレー1の表面、フレーム10、及び粘着層11に区画された空間の空気(図2、図3の矢印参照)が外部に排気されることにより、平坦な粘着層11が複数の支持突起3に追従して凸凹に変形し、複数のLEDデバイス6と粘着層11との間に空気が流入し、複数のLEDデバイス6を粘着層11から剥離して実装することが可能となる。
【0023】
この際、第二の粘着層13がトレー1の表面中央部や各支持突起3の周面に粘着し、凹凸に変形した粘着層11の変形状態を維持する(図3参照)。したがって、トレー1の表面、フレーム10、及び粘着層11に区画された空間の空気を外部に常時強制排気する必要がなく、エネルギの節約が大いに期待できる。
【0024】
粘着層11の凹凸変形状態を確保したら、トレー1の排気孔4と排気装置5との接続を解除し、加工装置に保持治具を粘着層11が変形した状態でセットすれば、複数のLEDデバイス6を粘着層11から順次剥離して実装することができる。
この際、第一の粘着層12は、第二の粘着層13と共に凹凸に変形しているが、粘着保持力を完全に喪失する訳ではないので、LEDデバイス6が回転して向きを変えたり、転動するのを抑制し、加工装置が停止して生産性の低下を招くのを有効に防止することができる。
【0025】
複数のLEDデバイス6全てを粘着層11から剥離して実装したら、トレー1とフレーム10とを分離して変形した粘着層11を元の平坦な状態に復帰させることにより、フレーム10と粘着層11とを再利用することができる。
【0026】
上記によれば、LEDデバイス6が回転して向きを変えたり、転動するのを抑制できる他、第二の粘着層13がトレー1の表面中央部や各支持突起3の周面に密着し、粘着層11の変形状態を維持するので、複数のLEDデバイス6全てを取り外すまで粘着層11を排気装置5の排気により連続して絶えず変形させておく必要が全くない。したがって、既存の加工装置を大規模に改良する必要がなく、費用の大幅な削減を図ることができる。
【0027】
また、加工装置に排気装置5を内蔵したり、併設する必要がないので、設備の簡素化を図ることができる。また、トレー1表面の区画壁2にフレーム3を外側から嵌合するので、フレーム2の水平方向の位置ズレやガタツキ等を抑制防止することができる。さらに、粘着テープではなく、粘着性の粘着層11にLEDデバイス6を保持させるので、LEDデバイス6に粘着テープの粘着糊が付着することもない。
【0028】
なお、上記実施形態のトレー1の区画壁2は、特に必要が無ければ、省略しても良い。また、トレー1やフレーム10の表面には、物流管理用のICタグを適宜取り付けることができる。また、第一、第二の粘着層12・13として、粘着性のエラストマーの他、粘着性のフィルムを使用しても良い。
【0029】
また、第一、第二の粘着層12・13の間に接着層を介在し、この接着層により、第一、第二の粘着層12・13を接着して一体化しても良い。さらに、第一の粘着層12の全裏面に第二の粘着層13を粘着するのではなく、第一の粘着層12の裏面中央部に第二の粘着層13を粘着し、第一の粘着層12の裏面周縁部をフレーム10の表面周縁部に粘着することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る保持治具の実施形態におけるトレーとフレームとを組み合わせて保持治具を構成する状態を模式的に示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る保持治具の実施形態における粘着層に複数のLEDデバイスを粘着保持させた状態を模式的に示す断面説明図である。
【図3】本発明に係る保持治具の実施形態における粘着層が複数の支持突起に追従して変形し、LEDデバイスを粘着層から剥離する状態を模式的に示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 トレー
2 区画壁
3 支持突起
4 排気孔
5 排気装置
6 LEDデバイス(物品)
10 フレーム
11 粘着層
12 第一の粘着層
13 第二の粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーに中空のフレームを着脱自在に搭載し、このフレームに、物品を保持する変形可能な可撓性の粘着層を貼り着けた保持治具であって、
トレーの表面からフレームに包囲される複数の支持突起を粘着層方向に突出させ、トレーには、複数の支持突起間と外部の排気装置とを連通する排気孔を設け、粘着層を、物品を着脱自在に粘着保持する第一の粘着層と、この第一の粘着層に貼り着けられて複数の支持突起に着脱自在に粘着する第二の粘着層とから形成したことを特徴とする保持治具。
【請求項2】
フレームの表面と複数の支持突起の先端面とを略同一に揃えた請求項1記載の保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−153409(P2010−153409A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326776(P2008−326776)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】