説明

保温性に優れたポリエステル繊維糸、それを用いた織物、及びポリエステル繊維糸の製造方法

【課題】中空断面でありながら強度が高いポリエステル繊維糸とそれを効率よく生産する方法を提供し、また、嵩高性、保温性に優れ、風合いが柔らかく、軽い織物、特にデニム織物を提供すること。
【解決手段】3つ以上の中空部を有するポリエステル捲縮繊維糸であって、固有粘度が0.70〜1.0デシリットル/グラム、捲縮率が3〜10%、強度が3.5〜5.5cN/dtex、沸水収縮率が4.0%以下であり、構成繊維の中空率が10〜30%であることを特徴とする保温性に優れたポリエステル繊維糸。及び、前記ポリエステル繊維糸が使用されてなる保温性に優れた織物。並びに、前記ポリエステル繊維糸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空断面ポリエステル繊維糸及びその製造方法、それを用いた軽量性に優れた織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系繊維は機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れるため、衣料用途や産業用途などを主体に広く使用されている。なかでも、詰綿、キルトのような、保温性および嵩高性が要求される用途では、繊維を中空化するとともに繊維に三次元的な捲縮を付与する方法が一般的に採用されている。本用途においては、繊維の保温性および嵩高性を高めるために繊維横断面における中空部の総面積の全繊維横断面積に占める割合(以下中空率と称する)を大きくする試みがなされている。しかし、大きな中空率を持つ中空繊維は、繊維の加工中あるいは製品として使用中に、潰れ易く、その繊維の保温性および嵩高性は滅失してしまうことが多い。この中空潰れを防ぐために、繊維断面に複数の中空部分を持つ、多孔中空ポリエステル繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、3個以上の中空部分を有する多孔中空繊維を溶融紡糸方法で得ようとすると、吐出されたポリマー糸条流をすばやく冷却しなければならないので、紡糸口金から吐出前のポリマー温度を低く設定したり、紡糸口金面直下で繊維を急冷したりしなければならない。このような溶融紡糸条件では紡糸口金面温度が下がり、ポリマー吐出不良や糸切れが頻発する。また、このようにして製造された多孔中空繊維の中空率は高々20%にとどまっていた。
【特許文献1】米国特許第5104725号明細書
【0003】
また、芳香族ポリエステル系繊維に三次元捲縮繊維を付与する方法としては、紡糸口金から吐出された直後のポリマー糸条流を断面方向に非対称に冷却(以下異方冷却と称する)することにより、該糸条に断面異方性を生じさせ、紡糸引き取りし、延伸後弛緩熱処理することにより三次元捲縮を発現させる方法等が知られている(例えば、特許文献2〜4参照。)。しかし、いずれの方法で製造された芳香族ポリエステル繊維でも、三次元捲縮性は有しているものの、3個以上の中空部分を有する多孔中空繊維で中空率が20%を超えるような繊維は存在しない。このように、未だ、充分な保温性能を有しかつ三次元捲縮を有する芳香族ポリエステル系繊維は提供されていない。
【特許文献2】特公昭38−7511号公報
【特許文献3】特公昭44−20497号公報
【特許文献4】特公昭45−36330号公報
【0004】
また、カーペット用に適した防汚性能、かさ、および耐性の改良されたフィラメントとして、熱可塑性合成重合体を含んでなり、そして中空でない軸方向の芯および4個の実質的に等距離にある連続的な非円形空隙、約6%〜25%の空隙含量、並びに実質的に凸または凹曲線のない4側面断面輪郭により特徴づけられ、それぞれの空隙は輪郭の側面上に実質的に集中している検討がなされている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、この検討によると、単糸繊度が太いため冷却性に劣り、紡糸速度が1000m/min以下と低くしなければならず、生産性にも劣る。また2倍以上の高い延伸倍率による一段延伸のため強度を高くすることができない。
【特許文献5】特表平6−509144号公報
【0005】
また、充分な保温性能を有しかつ三次元捲縮を有する芳香族ポリエステル系繊維および該繊維を安定して生産する方法として、繊維軸方向に連続する中空部が3〜8個存在する多孔中空繊維であって、横断面における中空部の総面積が横断面の外周部に囲まれた面積に対して25〜60%であり、かつ断面異方性に基づく三次元捲縮を有するポリエステル系中空捲縮繊維の検討がなされている(例えば、特許文献6参照。)。しかし、この検討によると固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートチップを用いているため中空糸では強度を3.5cN/dtex以上にすることはできず、さらに冷却気流によるポリエステル断面に顕著な構造異方性による三次元捲縮のため沸水収縮率が5%以上になってしまうので、製編織後の後加工段階で布帛に必要以上の縮みが生じ風合いが硬くなるという問題がある。
【特許文献6】特開2003−55838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、本発明の目的は中空断面でありながら強度が高いポリエステル繊維糸とそれを効率よく生産する方法を提供し、また、嵩高性、保温性に優れ、風合いが柔らかく、軽い織物、特にデニム織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 3つ以上の中空部を有するポリエステル捲縮繊維糸であって、固有粘度が0.70〜1.0デシリットル/グラム、捲縮率が3〜10%、強度が3.5〜5.5cN/dtex、沸水収縮率が4.0%以下であり、構成繊維の中空率が10〜30%であることを特徴とする保温性に優れたポリエステル繊維糸。
2. 上記第1に記載のポリエステル繊維糸を少なくとも20wt%以上使用し、ポリエステル繊維糸が糸トルクを消す方向に2〜4本合糸されて使用されてなることを特徴とする保温性に優れた織物。
3. 1300〜1800m/minの紡糸速度で引き取り、続けて第一延伸倍率1.5〜2.2倍、第二延伸倍率1.05〜1.4倍の条件で二段延伸をして一旦巻き取り、撚係数18000〜24000、第1ヒーター温度を200℃以下でかつ延伸倍率を1.1未満として仮撚加工し、仮撚加工前後の中空保持率を80%以上とすることを特徴とする上記第1に記載の保温性に優れたポリエステル繊維糸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明による捲縮を有するポリエステル繊維糸は、繊維の中空率が高くかつ高強度であり、さらに布帛に用いた場合軽くて風合いの柔らかいものが得られる。またそれらの繊維糸を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル中空繊維糸は、繊維軸方向に連続する中空部が3〜8個存在する多孔中空繊維からなり、中空率が10〜30%であり、かつ捲縮を有していることが好ましい。
【0010】
繊維軸方向に連続する中空部が1〜2個の場合は、中空部分が繊維の加工中あるいは製品として使用中に潰れ易く、嵩高性が低減し、軽量感が乏しくなるため好ましくない。中空部が8個を超える場合は、紡糸ドラフトが高くなるに伴って強度が低くなるため好ましくない。中空部の数は、4個であることが嵩高性と保温性とのバランスからより好ましい。
【0011】
中空率が10%未満の場合は、保温性が乏しくなり易く、また嵩高性も低減しやすいので好ましくない。中空率が30%を超える場合は、繊維横断面内に支えを持つ多孔中空繊維の場合でも、外力により中空潰れを生じ易くなり、保温性が乏しくなり易く、また嵩高性も低減し易いので好ましくない。なお、より好ましい中空率の範囲は13〜25%である。
【0012】
本発明のポリエステル繊維糸は捲縮を有する繊維からなる。捲縮加工の方法に関しても特段の限定はなく、仮撚加工、押し込み加工、賦形加工、ニットデニット、流体噴射加工などの捲縮加工方法を適宜用いることができる。この中でも、経済性にすぐれることおよび捲縮特性が良好なことから、仮撚加工方法が最も好ましく用いられる。仮撚加工方法としては、ポリエステル延伸糸に撚糸を施し、巻き取った後、高温で熱セットし、解撚する「加撚−熱固定−解撚法」や、走行糸に仮撚を施す過程で熱セットし、解撚する「仮撚法」や、未延伸糸を延伸仮撚をしながら熱セットし、その後解撚する「延伸仮撚法」があるが、「加撚−熱固定−解撚法」は生産性が悪く、また「延伸仮撚法」では、中空断面がつぶれやすいため「仮撚法」が好ましく採用される。
【0013】
本発明によるポリエステル繊維糸の捲縮率は3〜10%が好ましい。3%未満であると風合いが硬くなり10%を超える場合には中空断面が潰れやすくなるため好ましくない。より好ましくは4〜8%であり、さらには5〜7%がいっそう好ましい。
【0014】
本発明によるポリエステル繊維糸の沸水収縮率は4.0%以下であることが好ましい。更にこの好ましくは2%以下である。2%以下の場合、織物の染色加工時の熱水処理時における収縮が極めて小さく、極めて好ましい風合いの柔軟な織物が得られる。4.0%を超えると布帛の風合いが硬くなりやすいのであまり好ましくない。
【0015】
本発明によるポリエステル繊維糸の固有粘度は0.7〜1.0デシリットル/グラムであることが好ましい。0.7デシリットル/グラム未満であると、10%以上の中空率が得られにくく、さらに3.5cN/dtexの強度も発現しにくい。1.0デシリットル/グラムを超える場合には、断糸が発生しやすく溶融紡糸しにくくなるので好ましくない。
【0016】
本発明によるポリエステル繊維糸の強度は3.5〜5.5cN/dtexであることが好ましい。強度が3.5cN/dtex未満であると布帛の強度が落ちるため好ましくない。また5.5cN/dtexを超えると延伸倍率を高く設定する必要があり、紡糸時に断糸が発生しやすくなり好ましくない。
【0017】
本発明の保温性に優れた織物の好ましい態様であるデニム織物は、ポリエステル中空繊維糸を20wt%以上用いることが好ましい。20wt%未満であると軽量化することができにくくなり好ましくない。本発明おけるデニム織物においては、経糸に綿の紡績糸、少なくとも緯糸の一部にポリエステル中空繊維糸を使用したものであることが好ましい。経糸にポリエステル中空繊維糸を使用した場合には、デニム独特の風合いが得られにくいのであまり好ましくない。中空繊維糸を用いる割合は25wt%以上がより好ましく、さらには30wt%以上がいっそう好ましい。デニム織物の場合、経糸に好ましく用いられる綿糸はインジゴ染料や合成染料で糸染めされたものを用い、主に好ましく緯糸として用いられるポリエステル繊維糸は未染色常態か、あるいは白色系若しくは極淡色に染色した状態で綾組織に製織される。
【0018】
本発明によるポリエステル繊維糸の製造方法としては、紡糸速度が1300〜1800m/minであることが好ましい。紡糸速度が1300m/min未満であると生産性が低く好ましくない。また1800m/minを超える場合には断糸が発生しやすくなり好ましくない。
【0019】
本発明によるポリエステル繊維糸の製造方法としては、第一ローラーと第二ローラー間での第一延伸倍率(DR1)1.5〜2.2倍、第二ローラーと第三ローラー間での第二延伸倍率1.05〜1.4倍の条件で二段延伸であることが好ましい。第一延伸倍率(DR1)が1.5未満であると第二延伸倍率(DR2)を高く設定する必要があり好ましくない。また2.2倍を超えると繊維糸の強度が低くなり好ましくない。第二延伸倍率(DR2)が1.05未満であると、第一延伸倍率を2.2倍以上にしないと糸斑が大きくなりやすく好ましくない。1.4倍を超える場合には第一延伸倍率より大きくなってしまい断糸が発生しやしくなり好ましくない。ここが本発明のポイントであり、第一延伸倍率よりも第二延伸倍率を低く設定することが肝要である。従来の中空繊維糸の紡糸延伸方法としては一段延伸が採用されていた。これは染色斑をできるだけ小さくするために採用されていたが、この方法では高中空率と高強度の両立が困難であった。本発明においては、用途がデニム織物の緯糸であり、染色する必要がないことに着目し、二段延伸による高強度化を検討した。理由は定かではないが、第一延伸倍率よりも第二延伸倍率を小さくすると、まず延伸による分子配向時に動きやすい分子が配向し、つづいて2段目の延伸で選択的に動きにくい分子が配向するため、全体としての分子配列が整うものと思われる。従来の一段延伸では動きやすい分子のみが配向するため、全体としての延伸倍率も低くなるため強度の高いものが得られにくい。しかし、本発明においては分子全体の配向を整えるためにトータルの延伸倍率も高くしやすく、全体的に分子が均等に配列することで強度が高くなるものと考える。より好ましい範囲としては第一延伸倍率(DR1)が1.6以上、さらには1.7以上が一層好ましく、上限としては2.1以下、さらには2.0以下が一層好ましい。また、第二延伸倍率(DR2)が1.1以上、さらには1.15以上が一層好ましく、上限としては1.35以下、さらには1.3以下が一層好ましい。
【0020】
本発明によるポリエステル繊維糸の製造方法としては、延伸温度において第一延伸時の温度(TR1)よりも第二延伸時の温度(TR2)が高いことが好ましい。この理由としては糸温度を上げることで比較的に動きにくい分子鎖を動きやすくすることに意味がある。つまりは比較的低い温度で延伸して動きやすい分子鎖を配向させ、つづけて糸温度を上げて動きにくい分子鎖を配向させることが有効である。好ましい温度としてはTR1が20〜100℃、TR2が110〜160℃である。セットローラーである第三ローラー温度は150〜200℃が好ましい。150℃未満であれば仮撚加工糸の沸水収縮率が2%以下としにくくなるので好ましくない。200℃を超えると紡糸操業性が悪くなるので好ましくない。
【0021】
本発明によるポリエステル繊維糸の製造方法としては仮撚加工時の撚係数が18000〜24000であることが好ましい。18000未満であると捲縮が不足し満足な風合いが得られにくいため好ましくなく、24000を超えると中空断面が潰れやすく、仮撚加工前後の中空保持率が80%以上を満たすことができにくく好ましくない。中空保持率が80%未満であった場合には、軽量感を得にくく好ましくない。また加撚領域での第1ヒーター温度を200℃以下かつ延伸倍率を1.1未満とすることが好ましい。第1ヒーター温度が200℃を超え、延伸倍率が1.1を超えると中空断面が潰れやすくないため好ましくない。より好ましい撚係数の範囲は20000〜23000である。ここでいう撚係数とは、撚係数をKとし、仮撚後の糸条繊度をD(デシテックス)とし、仮撚数をTW(T/m)とするとき、下記式(1)で算出される数値である。
式(1) K=TW×(D/1.1)1/2
【0022】
通常、ポリエステル繊維糸の仮撚加工において、採用される撚係数30000程度の所謂ウーリー仮撚に比較して、本発明のポリエステル繊維糸は撚係数が小さいため、残留トルクが大きくなる傾向がある。そこで、第2ヒーターを使用してスタビライズすると残留トルクの小さいポリエステル繊維糸が得られ好ましい。また、第2ヒーターを使用することでポリエステル繊維糸の沸水収縮率を小さくすくことができ、2%以下にすることも可能である。好ましい第2ヒーター温度としては160〜220℃が挙げられ、特に180℃から210℃が好ましい。160℃未満の場合には、残留トルクを減らし、沸水収縮率を小さくする効果が小さくなるのであまり好ましくない。220℃を超えると、捲縮率が3%未満となる場合があり、嵩高性を損なうことがあるので、あまり好ましくない。第2ヒーターゾーンのフィード率も残留トルクを小さくし、沸水収縮率を小さくすることに関係し、+5%以上であることが好ましい。更に好ましくは+7%以上である。+5%未満の場合、残留トルクを小さくし、沸水収縮率を小さくする効果が薄くなり、あまり好ましくない。但し、あまりにも第2ヒーターゾーンのフィード率が大きいと、捲縮率が小さくなり、嵩高性が損なわれる場合があるので、+25%以下としておくことが好ましく、更に好ましくは17%以下である。
【0023】
本発明の保温性に優れた織物は、前記のポリエステル繊維糸が有する仮撚加工による残留トルクを消す方向に2〜4本合糸されて用いられることが好ましい。Z方向に仮撚すれば、残留トルクはZ方向であり、S方向に2〜4本の繊維糸を合糸して撚糸する所謂合撚を行うことが好ましい。ポリエステル繊維糸を単糸で用いると、デニム織物の質感が得られにくくあまり好ましくない。5本以上の繊維糸を合糸すると、主に緯糸に用いられるポリエステル繊維糸が経糸に好ましく用いられる綿糸より太くなる場合が生じ、デニム織物としてのバランスが良くない場合があるので、あまり好ましくない。
【実施例】
【0024】
次に実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0025】
(A)捲縮率は次の方法で求める。
ラップリールで1m×8巻きのカセを作る。
(1)100℃沸水中に糸条の繊度(デシテックス)×8×5/900gの荷重を掛け15分間浸漬する。
(2)試料を沸水中より取り出し、ぬれたままの状態で(糸条の繊度(デシテックス)×8×2/10g)グラムの荷重をかけ、1分後の長さ(a)を測る。
(3)荷重を取り除き、60℃の熱風乾燥機で30分間乾燥する。
(4)(糸条の繊度(デシテックス)×8×2/900g)グラムの荷重をかけ、1分後の長さ(b)を測る。
以上から捲縮率={(a−b)/a}×100(%)を求める。
【0026】
(B)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定した。
【0027】
(C)繊維糸強度(DT)は次の方法で求める。
等速伸長型強伸度測定機でツカミ間隔20cm、引張速度20cm/分又は、ショッパー型強伸度測定機でツカミ間隔50cm、引張速度50cm/分で試験切断時の強さ(DT)、切断時の伸び(DE)、伸び率10%時の強さ(ST10)を測定し、DT、ST10は1デシテックスに対するセンチニュートン(cN/dtex)で表す。
【0028】
(D)中空率
紡糸巻き取りしたポリエステルマルチフィラメントの断面写真(560倍)をとり、各単糸断面の中空部面積(A)および断面を囲む面積(B)を測定し、下記式で計算し、全測定値の平均値を中空率(%)とした。
中空率(%)=A/B×100
【0029】
(E)沸水収縮率
表示dtexの1/9以下の荷重をかけて、500mm間の印をつけて、一旦荷重を外し、沸水中に30分間浸し、再び表示dtexの1/9以下の荷重をかけて印意の間の長さ(L)(mm)を測定する。沸水収縮率は下記式により算出する。沸水収縮率は5回の測定の平均値を採用する。
沸水収縮率(%)={(500−L)/500}×100
【0030】
(実施例1)
固有粘度0.83のポリエチレンテレフタレートチップを302℃で溶融し 図1に示す形状の吐出孔を18個を有する紡糸口金より吐出量23.11g/分で吐出し、冷風で冷却固化し、油剤を付与した。この後図2に示す工程図に従い、速度1700m/分の第一ローラー(温度30℃)で引き取り、引き続いて速度3400m/分の第二ローラー(温度120℃)間で延伸し、さらに、速度3700m/分の第3ローラー(150℃)で第二延伸をし、2本合糸してワインダーで巻き取り135デシテックス36フィラメントのポリエステル中空長繊維糸を得た。第1ヒーター温度を200℃、第2ヒーター温度200℃、撚数2100、延伸倍率1.0倍、第2ヒーターゾーンのフィード率を+10%、速度120m/minでピン仮撚をして仮撚加工糸を得た。得られた繊維糸の物性を表1に示す。この加工糸のトルクを消す方向に3本合糸した。経糸に藍色に染められた綿糸を経糸にし、緯糸をポリエステル合糸にしてデニム織物を作成した。得られたデニム織物は軽量で、風合いが柔らかかった。
【0031】
(比較例1)
135デシテックス36フィラメントのポリエステル中空長繊維糸の代わりに、東洋紡エステル(登録商標)(167デシテックス48フィラメント:中実繊維)を用いた以外は実施例1に従った。得られたデニム織物は風合いが柔らかかったが、重たかった。
【0032】
(比較例2)
仮撚加工をしなかった以外は実施例1に従った。得られたデニム織物は軽量であったが、風合いが硬かった。
【0033】
(比較例3)
第2ヒーター温度を120℃にし、緯糸を中空繊維糸と、綿糸の交互にした以外は実施例1に従った。得られたデニム織物は軽量であったが、風合いが硬かった。
【0034】
(比較例4)
固有粘度0.83のポリエチレンテレフタレートチップの代わりに固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレートチップを用いた以外は実施例1に従った。得られたデニム織物は風合いが柔らかかったが、強度が不足していた。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明による捲縮を有するポリエステル繊維糸は、中空率が高くかつ高強度であり、さらに布帛に用いた場合軽くて風合いの柔らかいものが得られる。本発明のポリエステル繊維糸は衣料全般や生活資材などに用いられ得るが、特にデニム織物の緯糸として好適であり、デニム織物は好ましい暖かみ、ソフト感、嵩高性、軽さを具備するものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の紡糸ノズルの吐出口の一例を示す断面図である。
【図2】本発明で用いる溶融紡糸巻き取り設備の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
R:紡糸口金毛管の外径
S:周囲のスポークの幅
T:放射スポークの幅
U:放射スポークの距離
V:内部スポークの距離
1:紡糸口金
2:第一ローラー
3:第二ローラー
4:第三ローラー
5:ワインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上の中空部を有するポリエステル捲縮繊維糸であって、固有粘度が0.70〜1.0デシリットル/グラム、捲縮率が3〜10%、強度が3.5〜5.5cN/dtex、沸水収縮率が4.0%以下であり、構成繊維の中空率が10〜30%であることを特徴とする保温性に優れたポリエステル繊維糸。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル繊維糸を少なくとも20wt%以上使用し、ポリエステル繊維糸が糸トルクを消す方向に2〜4本合糸されて使用されてなることを特徴とする保温性に優れた織物。
【請求項3】
1300〜1800m/minの紡糸速度で引き取り、続けて第一延伸倍率1.5〜2.2倍、第二延伸倍率1.05〜1.4倍の条件で二段延伸をして一旦巻き取り、撚係数18000〜24000、第1ヒーター温度を200℃以下でかつ延伸倍率を1.1未満として仮撚加工し、仮撚加工前後の中空保持率を80%以上とすることを特徴とする請求項1に記載の保温性に優れたポリエステル繊維糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−176913(P2006−176913A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370678(P2004−370678)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】