説明

保温材下腐食検出装置および保温材下腐食検査方法

【課題】 保温材に覆われた機器において、機器の保温材下腐食をリアルタイムで検出することができるとともに、検査対象である機器に対してセンサが簡単に着脱可能である保温材下腐食検出装置を提供する。
【解決手段】 保温材下腐食検出装置10は、保温材により被覆された機器である配管20の保温材下腐食を検知する検知手段1を含む。この検知手段1は、機器である配管20の表面に接触して固定される板状の基台11と、基台11に着脱自在に設けられるホルダ12と、ホルダ12に収容され、機器である配管20の腐食部から発生するアコースティックエミッションを受信する光ファイバドップラセンサ13と、ホルダ12を基台11に着脱自在に固定するボルト14とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の保温材下腐食を検出する保温材下腐食検出装置および保温材下腐食検査方法に関する。具体的には、保温材が取付けられている機器において、保温材下腐食を検出する保温材下腐食検出装置、および該保温材下腐食検出装置を用いて保温材下腐食を検査する保温材下腐食検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼、低合金鋼製の機器における保温材下腐食は、漏洩トラブルの主な原因となることから、長年稼動している化学プラントにおいては管理を必要とする深刻な劣化現象の1つである。
【0003】
一般に、化学プラントなどにおいては、塔槽類、配管、弁栓類、熱交換器などの多くの機器に保温材が取付けられている。目視により保温材下腐食(Corrosion Under Insulation:以下、「CUI」ともいう)検査を行うためには、保温材を除去する必要がある。また、保温材解体(取り外し)のために足場を組む場合には、莫大な工数(期間)と費用とを要する。たとえば、1つのプラントにおける配管の総延長距離は数10kmと莫大であり、配管の腐食が発見されるのは1000系統の内、2〜3系統程度であり、非常に効率の悪いことが問題となっている。そのため、保温材の除去作業を必要とせず、かつ防爆要求の多いプラント設備に対応した配管のCUI検査技術の開発が強く求められている。
【0004】
これまでに、配管のCUI検査に適用すべく、様々な非破壊検査技術が検討されている。たとえば、配管のCUI検査として、放射線透過法、ガイドウェーブを用いた超音波探傷法を適用することが検討されている。
【0005】
放射線透過法は、放射線源と当該放射線源に対向するように設置したセンサとを用い、保温材および配管を透過した放射線の透過強度を測定することにより、配管の損傷の有無を評価する試験方法である。また、放射線源およびセンサを備えたスキャナを用いて配管の軸方向に走査することにより、配管の腐食減肉マップを得ることができる。放射線透過法によれば、配管の保温材を除去することなく、視覚的に腐食状況を把握することができる(非特許文献1)。
【0006】
超音波探傷法は、配管にガイドウェーブ(超音波)を長距離伝播させ、断面積が変化している部位から反射されたエコーを測定することにより、配管の損傷の有無を評価する試験方法である。超音波探傷法によれば、配管にガイドウェーブを伝播させるので、長距離の検査を実施することができるという特徴があり、配管の状態を高速で検査することが可能である(非特許文献2)。
【0007】
しかしながら、上記の検査方法では、適用できる条件が限られているという問題を有している。
【0008】
具体的には、放射線透過法は、配管全体の腐食減肉マップを得るためには、スキャナを取付けて配管の軸方向に走査する必要がある。そのため、配管の直管部にしか適用することができない。また、放射線源およびセンサを備えたスキャナ等のシステムを設置するスペースが必要であることから、化学プラントのように配管間隔が狭く且つ複雑な形状をした配管では適用できる部位が限定されるという問題を有している。
【0009】
一方、超音波探傷法は、配管にガイドウェーブを長距離伝播させるため、数mの長距離探傷が可能であるものの、腐食による配管の減肉部のみならず配管の溶接部、フランジ部といった断面積が変化している位置においてもエコーが出現する。このため、配管の損傷の有無を正確に評価するためには、配管の形状を予め把握しておく必要がある。また、溶接部およびフランジ部からのエコー強度は強いため、エコーのリンギングにより検査不能域が発生するという問題を有している。また、腐食検査を行うために配管の保温材を除去する必要があるという問題も有している。
【0010】
上記の問題点は配管に限られるものではなく、塔槽類、弁栓類、熱交換器などでも同様の問題点を有している。
【0011】
このような問題を解決するために、特許文献1には、光ファイバドップラセンサを配管に取付けて当該配管の腐食を検出する保温材下腐食検査方法が開示されている。光ファイバドップラセンサは、防爆性で電気火花が発生しないので、化学プラントのような防爆地域を有するプラント内においても常設することが可能であり、配管の腐食から発生した弾性波であるアコースティックエミッションをリアルタイムで検出することができるため、簡便に保温材下腐食検査を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−107362号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】河部俊英、「配管の腐食検査技術 RTを用いた原油配管自動検査 リアルタイムラジオグラフィー Thru−VU」、検査技術、日本工業出版株式会社、平成18年(2006年)1月号、p.18−24
【非特許文献2】永島良昭,遠藤正男,三木将裕,真庭一彦、「ガイド波を用いた配管減肉検査技術」、配管技術、日本工業出版株式会社、平成20年(2008年)6月号、p.19−24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
化学プラント内には、保温材が取付けられている機器が多数設置されている。コスト面を考慮して限られたセンサの数で、多数設置されている機器における保温材下腐食を検査するためには、検査対象に対するセンサの固定位置が変更可能であることが望まれる。
【0015】
特許文献1に開示される保温材下腐食検査方法では、光ファイバドップラセンサは、配管の表面に接触させて接着剤などを介して固定されているので、簡単に光ファイバドップラセンサを取外すことができず、取外せたとしてもセンサが破損して使用不能となる。
【0016】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、保温材に覆われた機器において、保温材下腐食をリアルタイムで検出することができるとともに、検査対象である機器に対してセンサが簡単に着脱可能である保温材下腐食検出装置を提供することである。また本発明の他の目的は、前記保温材下腐食検出装置を用いて機器の保温材下腐食を検査する保温材下腐食検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、光を放射する光源と、
保温材により被覆された機器の保温材下腐食を検知する検知手段であって、
機器の表面に接触して固定される板状の基台と、
前記基台に着脱自在に設けられるホルダと、
前記ホルダに収容され、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションを受信し、機器の保温材下腐食を検知する光ファイバドップラセンサと、
前記ホルダを前記基台に着脱自在に固定する固定部材と、を含む検知手段と、
前記光ファイバドップラセンサに接続され、前記光源から放射される光を前記光ファイバドップラセンサに伝送する伝送路となる入力側光ファイバと、
前記光ファイバドップラセンサに接続され、前記光ファイバドップラセンサから出力される光を伝送する伝送路となる出力側光ファイバと、
前記入力側光ファイバを伝送し前記光ファイバドップラセンサに入力される入力光と、前記出力側光ファイバを伝送し前記光ファイバドップラセンサから出力される出力光との間の周波数変調成分を検出する検出器と、を備えることを特徴とする保温材下腐食検出装置である。
【0018】
また本発明の保温材下腐食検出装置は、前記ホルダは、前記光ファイバドップラセンサを収容する円柱状の収容空間を有する有底の四角筒状に形成され、底部に、前記収容空間に臨む一表面とは反対側の他表面から隆起する円柱状の隆起部が設けられることを特徴とする。
【0019】
また本発明の保温材下腐食検出装置は、前記ホルダが、前記基台に取付けられた状態では、
前記隆起部が前記基台の表面に面接触し、前記隆起部の前記収容空間に臨む表面が機器の軸線を含む仮想一平面に平行に配置され、前記光ファイバドップラセンサを前記隆起部の前記表面に前記仮想一平面と平行に実装することができるように構成されることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、保温材により被覆された機器の保温材下腐食を検査する保温材下腐食検査方法であって、
前記保温材下腐食検出装置を用い、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションに基づく周波数変調成分を検出する検出工程と、
前記周波数変調成分を電圧に変換し、電圧の波形データを得る周波数−電圧変換工程と、
前記電圧の波形データを周波数解析処理し、機器の保温材下腐食に対応する特徴値が抽出された抽出データを得る抽出データ生成工程と、
前記抽出データに基づいて、機器の保温材下腐食の有無を判定する判定工程と、を含むことを特徴とする保温材下腐食検査方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、保温材下腐食検出装置は、保温材により被覆された機器の保温材下腐食を検知する検知手段を含む。この検知手段は、機器の表面に接触して固定される板状の基台と、基台に着脱自在に設けられるホルダと、ホルダに収容され、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションを受信する光ファイバドップラセンサと、ホルダを基台に着脱自在に固定する固定部材とを含む。
【0022】
保温材下腐食検出装置は、光ファイバドップラセンサが、機器の腐食の剥離または亀裂から発生する弾性波であるアコースティックエミッションをリアルタイムで受信することができるので、機器の腐食をリアルタイムで検出することができる。また、保温材下腐食検出装置では、光ファイバドップラセンサを収容するホルダが、機器に固定される基台に着脱自在に設けられるので、光ファイバドップラセンサが機器に対して着脱可能である。そのため、検査対象である機器に対する光ファイバドップラセンサの固定位置が変更可能であり、これによって、限られたセンサの数で、プラント内に多数設置されている機器における保温材下腐食を検査することができる。
【0023】
また本発明によれば、ホルダは、光ファイバドップラセンサを収容する円柱状の収容空間を有する有底の四角筒状に形成され、底部に、前記収容空間に臨む一表面とは反対側の他表面から隆起する円柱状の隆起部が設けられる。これによって、機器の保温材下腐食を、基台を介して検知する検知手段の構成において、光ファイバドップラセンサが、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションを受信する感度が低下するのを抑制することができる。
【0024】
また本発明によれば、ホルダは、基台に取付けられた状態では、隆起部が基台の表面に面接触し、隆起部の収容空間に臨む表面が機器の軸線を含む仮想一平面に平行に配置され、光ファイバドップラセンサを隆起部の前記表面に前記仮想一平面と平行に実装することができるように構成される。これによって、機器の保温材下腐食を、基台を介して検知する検知手段の構成において、光ファイバドップラセンサが、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションを受信する感度が低下するのを、さらに抑制することができる。
【0025】
また本発明によれば、保温材下腐食検査方法は、検出工程と、周波数−電圧変換工程と、抽出データ生成工程と、判定工程とを含む。検出工程では、本発明に係る保温材下腐食検出装置を用い、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションに基づく周波数変調成分を検出する。周波数−電圧変換工程では、周波数変調成分を電圧に変換し、電圧の波形データを得る。抽出データ生成工程では、電圧の波形データを周波数解析処理し、機器の保温材下腐食に対応する特徴値が抽出された抽出データを得る。そして、判定工程では、抽出データに基づいて、機器の保温材下腐食の有無を判定する。これによって、機器の保温材下腐食をリアルタイムで検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る保温材下腐食検出装置10の構成を示す図である。
【図2A】保温材下腐食検出装置10が備える検知手段1の構成を示す図である。
【図2B】保温材下腐食検出装置10が備える検知手段1の構成を示す図である。
【図3】周波数と受波電圧感度との関係を示すグラフである。
【図4】PZT発振に対する受振波形を示すグラフである。
【図5】シャープペンシル芯圧折に対する受振波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<保温材下腐食検出装置>
図1は、本発明の実施形態に係る保温材下腐食検出装置10の構成を示す図である。図2Aおよび図2Bは、保温材下腐食検出装置10が備える検知手段1の構成を示す図である。図2A(a)は検知手段1の構成を示す斜視図であり、図2A(b)は検知手段1の構成を示す分解斜視図である。また、図2B(c)は検知手段1の構成を示す平面図であり、図2B(d)は検知手段1の構成を示す正面図である。
【0028】
本実施形態の保温材下腐食検出装置10は、保温材により被覆された機器の保温材下腐食を検知する装置である。本実施形態において機器とは、保温材が取付けられた塔槽類、配管、弁栓類、熱交換器などを含む。以下では、保温材下腐食検出装置10が、保温材により被覆された機器として配管20の保温材下腐食を検知する装置であるとして説明する。また、保温材下腐食としては、「サビこぶ」を挙げることができる。サビは水酸化鉄(Fe(OH))、酸化鉄(Fe、Feなど)が金属表面に薄く付着した状態で、水分、酸素などがさらに供給されることでこぶ状に盛り上がった状態を「サビこぶ」という。
【0029】
保温材下腐食検出装置10は、検知手段1と、光源2と、ハーフミラー3a,3bと、AOM(Acoustic Optical Modulator)4と、検出器5と、入力側光ファイバ6と、出力側光ファイバ7とを含んで構成される。
【0030】
検知手段1は、配管20の表面に取り付けられ、配管20の保温材下腐食を検知する。この検知手段1は、図2Aおよび図2Bに示すように、基台11と、基台11に着脱自在に設けられるホルダ12と、ホルダ12に収容される光ファイバドップラ(Fiber
Optical Doppler、以下、「FOD」という)センサ13と、ホルダ12を基台11に着脱自在に固定する複数(本実施形態では4)の固定部材であるボルト14とを含む。
【0031】
基台11は、扁平な四辺形の金属製(本実施形態ではSUS303)の板状体からなり、その四隅には、各ボルト14の軸部が螺合するねじ孔111が形成される。この基台11は、エポキシ樹脂を介して配管20の表面に固定される。エポキシ樹脂としては、たとえば、デブコン(商品名:Illinois Tool Works Inc.製)、アラルダイト(商品名:ニチバン株式会社製)等を挙げることができる。基台11は、その大きさが42mm×42mmであり、厚みが3〜15mm(本実施形態では6mm)である。基台11の厚みが15mmを超えると、基台11を介して機器である配管20の保温材下腐食を検知する検知手段1の構成において、FODセンサ13が、配管20の腐食部から発生するアコースティックエミッション(以下、「AE」という)を受信する感度が低下するおそれがある。
【0032】
ホルダ12は、FODセンサ13を収容する略円柱状の収容空間121を有する扁平な有底の四角筒状に形成され、その一側部にはジョイント部15が設けられ、四隅には各ボルト14の軸部が挿通する軸孔123がホルダ12の厚み方向に貫通して形成される。ホルダ12にはまた、底部に、収容空間121に臨む一表面とは反対側の他表面から隆起する円柱状の隆起部122が設けられる。すなわち、ホルダ12には、その厚み方向に関して一方の低面から外方に隆起する扁平な略円柱状の隆起部122が一体的に形成される。これによって、機器である配管20の保温材下腐食を、基台11を介して検知する検知手段1の構成において、FODセンサ13が、配管20の腐食部から発生するAEを受信する感度が低下するのを抑制することができる。
【0033】
また、ホルダ12は、基台11に取り付けられた状態では、隆起部122が基台11の表面に面接触し、隆起部122の収容空間121に臨む表面が、機器である配管20の軸線を含む仮想一平面に平行に配置され、FODセンサ13を隆起部122の前記表面に前記仮想一平面と平行に実装することができるように構成される。これによって、機器である配管20の保温材下腐食を、基台11を介して検知する検知手段1の構成において、FODセンサ13が、配管20の腐食部から発生するAEを受信する感度が低下するのを、さらに抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態の保温材下腐食検出装置10では、FODセンサ13を収容するホルダ12が、機器である配管20に固定される基台11に着脱自在に設けられるので、FODセンサ13が配管20に対して着脱可能である。そのため、配管20に対するFODセンサ13の固定位置が変更可能であり、これによって、限られたセンサの数で、プラント内に多数設置されている機器における保温材下腐食を検査することができる。
【0035】
また、ホルダ12は、その大きさが42mm×42mmであり、厚みがFODセンサ13が収容可能な9〜15mm(本実施形態では11mm)である。また、ホルダ12の隆起部122の厚み、すなわち、FODセンサ13と基台11との離間距離は、可能な限り小さい方がよく、たとえば、1mm以下に設定される。隆起部122の厚みを前記の範囲に設定することによって、FODセンサ13が配管20の保温材下腐食から発生するAEを受信する感度が低下するのを抑制することができる。
【0036】
また、ホルダ12は、金属製(本実施形態ではSUS303)である。ホルダ12を基台11に取り付ける場合には、ホルダ12と基台11との間に接触媒質を介在させることが好ましい。これによって、FODセンサ13が配管20の保温材下腐食から発生するAEを受信する感度が低下するのを抑制することができる。接触媒質としては、たとえば、ソニーコート(商品名:日合アセチレン株式会社製)などを挙げることができる。
【0037】
FODセンサ13は、ホルダ12の収容空間121に収容され、配管20の腐食の剥離または亀裂から発生する弾性波であるAEを受信し、配管20の保温材下腐食を検知する。このFODセンサ13には、ホルダ12の一側部に設けられるジョイント部15を介して入力側光ファイバ6および出力側光ファイバ7が接続されている。入力側光ファイバ6は、光源2から放射される光をFODセンサ13に伝送する伝送路であり、出力側光ファイバ7は、FODセンサ13から出力される光を伝送する伝送路である。
【0038】
FODセンサ13は、光ファイバのドップラー効果を利用したセンサであり、光ファイバに入射した光の周波数の変調を読み取ることによって、光ファイバに加わったひずみ(弾性波や応力変化等)を検知することができるようになっている。
【0039】
たとえば、光ファイバに光源2から音速C、周波数fの光波が入射されたときに、光ファイバが伸長速度νで長さLだけ伸びたとする。このとき、ドップラー効果により、入射光の周波数がfからfに変調したとすると、変調後の周波数fはドップラー効果の公式を用いて、下記式(1)のように表すことができる。
【0040】
【数1】

[式(1)中、fは入射光の周波数、fは変調後の周波数、Cは音速、νは光ファイバの伸長速度を表す。]
【0041】
式(1)において、変調後の周波数fは入射光の周波数fからf変調したとすると、光ファイバの周波数変調fは、下記式(2)のように表すことができる。
【0042】
【数2】

[式(2)中、fは入射光の周波数、fは光ファイバの周波数変調、Cは音速、νは光ファイバの伸長速度を表す。]
【0043】
そして、下記式(3)に示す波の公式を用いれば、光ファイバの周波数変調fは、下記式(4)のように表すことができる。
【0044】
【数3】

[式(3)中、fは周波数、Cは音速、λは波長を表す。]
【0045】
【数4】

[式(4)中、fは入射光の周波数、fは光ファイバの周波数変調、Cは音速、tは時間、Lは光ファイバの長さを表し、dL/dtは光ファイバの長さの時間変化を表す。]
【0046】
式(4)は、光ファイバの伸縮速度を光波の周波数変調として検出することができることを示している。すなわち、光ファイバの周波数変調fを読み取ることによって、光ファイバに加わったひずみ(弾性波や応力変化等)を検知することが可能となる。
【0047】
また、FODセンサ13は、光ファイバをコイル状に巻いて積層することにより、上記式(4)におけるLの値を大きくしてセンサの感度を高め、かつ全方位からのAEの受信を可能にしている。本実施形態では、FODセンサ13として、ゲージ長65mの光ファイバを積層のコイル状に積み上げて形成した、積層型FODセンサ(LA−ED−S65−07−ML、株式会社レーザック社製)を用いる。
【0048】
図1に戻って、光源2は、たとえば、半導体や気体等を用いたレーザであり、レーザ光(コヒーレント光)を入力光として入力側光ファイバ6に入力できるようになっている。光源2からの入力光の波長は特に限定されず、可視光域でも赤外域でもよいが、入手が容易であるとの点からは波長が1550nmの半導体レーザが好ましい。
【0049】
検出器5は、入力側光ファイバ6を伝送しFODセンサ13に入力される入力光と、出力側光ファイバ7を伝送しFODセンサ13から出力される出力光との間の周波数変調成分を検出するものである。
【0050】
本実施形態の保温材下腐食検出装置10は、さらに、AOM4、入力光の一部をAOM4に送るためのハーフミラー3a、およびAOM4によって変調させられた入力光を検出器5に送るためのハーフミラー3bを備えている。AOM4は、従来公知の構成を備えており、入力光の周波数fを変調させて周波数(f+f)とすることができるようになっている(fは周波数変化量であり、正負の値を含む)。
【0051】
光源2から入力側光ファイバ6を介して検知手段1のFODセンサ13に入射された周波数fの光波は、FODセンサ13が配管20の腐食による剥離または亀裂等に起因して発生したAEを受信すると、周波数(f−f)に変調する。変調した光波は、出力側光ファイバ7を介して検出器5に入射される。検出器5では、光ヘテロダイン干渉法によって変調成分(光ファイバの周波数変調)fが検出される。
【0052】
以上のようにして、本実施形態の保温材下腐食検出装置10は、機器である配管20の腐食による剥離または亀裂等に起因して発生したAEをリアルタイムで受信することができるので、配管20の保温材下腐食をリアルタイムで検出することができる。
【0053】
<保温材下腐食検査方法>
本発明の実施形態に係る保温材下腐食検査方法は、上述の保温材下腐食検出装置10を用いて実現される。本実施形態の保温材下腐食検査方法は、検出工程と、周波数−電圧変換工程と、抽出データ生成工程と、判定工程とを含む。
【0054】
検出工程では、保温材下腐食検出装置10を用い、機器である配管20の腐食部から発生するAEに基づく周波数変調成分fを検出する。周波数−電圧変換工程では、FV(Frequency to Voltage)変換器によって周波数変調成分fを電圧Vに変換し、電圧Vの波形データを得る。抽出データ生成工程では、電圧Vの波形データを周波数解析処理し、機器である配管20の保温材下腐食に対応する特徴値が抽出された抽出データを得る。抽出データは、縦軸がスペクトルパワー、横軸が周波数となるデータである。なお、周波数解析処理は、高速フーリエ変換(fast Fourier transformation :FFT)を用いて行う。そして、判定工程では、抽出データに基づいて、機器である配管20の保温材下腐食の有無を判定する。これによって、配管20の保温材下腐食をリアルタイムで検査することができる。
【0055】
<FODセンサによるAEの受信感度についての試験>
本実施形態の保温材下腐食検出装置10と従来技術の検出装置とを用いて、FODセンサによるAEの受信感度に関する試験を行った。従来技術の検出装置としては、振動伝播媒体にFODセンサを接着剤を介して固定する方式の装置を用いた。
【0056】
(受波電圧感度の試験)
相互校正法によるアコースティック・エミッション変換子の絶対感度校正方法に関する規格(日本非破壊検査協会規格:NDIS 2109−1991)に従って、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13と、従来技術の検出装置におけるFODセンサとの、受波電圧感度の比較試験を行った。
【0057】
具体的には、まず、校正用のアコースティック・エミッション(AE)変換子として、3個のAEセンサ(型式:REF−VL、株式会社富士セラミックス製)を準備する。この3個の校正用AEセンサを、炭素鋼のブロック(800mm×800mm×400mm)に取付けて送受波の独立した組合せを3組構成し、NDIS 2109−1991の3.2.3項に準じて、一次校正を行って、校正用AEセンサの送波電圧感度を求める。次に、一次校正によって送波電圧感度が求められた校正用センサを送波用として炭素鋼のブロック(800mm×800mm×400mm)に取付け、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13と、従来技術の検出装置におけるFODセンサとを、それぞれ受波に用いて、NDIS 2109−1991の4.2.2項に準じて、二次校正を行って、各FODセンサの受波電圧感度を求める。
【0058】
結果を図3に示す。図3は、周波数と受波電圧感度との関係を示すグラフである。図3において、縦軸は受波電圧感度(dB)を示し、横軸は周波数(kHz)を示す。また、図3において、曲線Aは、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13の試験結果を示し、曲線Bは、従来技術の検出装置におけるFODセンサの試験結果を示す。
【0059】
図3より、基台11を介して振動伝播媒体の振動を検知する本実施形態の検知手段1の構成におけるFODセンサ13は、従来技術の検出装置におけるFODセンサと比較して同等の、受波電圧感度を有することが分かる。
【0060】
(PZT発振に対する感度の試験)
炭素鋼平板を振動伝播媒体とし、パルスジェネレータから矩形波(パルス波)を入力してPZT型振動子(圧電素子型セラミック振動子)を発振し、この発振による振動伝播媒体の振動を、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13と、従来技術の検出装置におけるFODセンサとで受振させた。なお、PZT型振動子と各FODセンサとの距離は、1475mmとした。
【0061】
結果を図4に示す。図4は、PZT発振に対する受振波形を示すグラフである。図4において、縦軸は振幅(v)を示し、横軸は時間(sec)を示す。また、図4において、波形Aは、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13の受振波形を示し、波形Bは、従来技術の検出装置におけるFODセンサの受振波形を示し、波形Cは、PZT型振動子の発振波形を示す。
【0062】
図4より、基台11を介して振動伝播媒体の振動を検知する本実施形態の検知手段1の構成におけるFODセンサ13は、従来技術の検出装置におけるFODセンサと比較して同等の、PZT発振に対する受振感度を有することが分かる。
【0063】
(シャープペンシル芯圧折に対する感度の試験)
炭素鋼平板を振動伝播媒体とし、シャープペンシルの芯を圧折し、この圧折による振動伝播媒体の振動を、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13と、従来技術の検出装置におけるFODセンサとで受振させた。なお、シャープペンシルの芯の圧折位置と各FODセンサとの距離は、1475mmとした。また、シャープペンシルの芯は硬度2H、径0.5mmとし、この芯を長さ3mm出し、約30度の角度で傾けて圧折した。
【0064】
結果を図5に示す。図5は、シャープペンシル芯圧折に対する受振波形を示すグラフである。図5(a)は、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13が受信したAEに基づく周波数変調成分を電圧に変換した電圧波形データを示し、図5(b)は、従来技術の検出装置におけるFODセンサが受信したAEに基づく周波数変調成分を電圧に変換した電圧波形データを示す。図5(a)および図5(b)において、縦軸は電圧(mV)を示し、横軸は時間(μsec)を示す。また、図5(c)は、本実施形態の保温材下腐食検出装置10におけるFODセンサ13が受信したAEに基づく周波数変調成分を電圧に変換しさらに抽出データに変換した波形を示し、図5(d)は、従来技術の検出装置におけるFODセンサが受信したAEに基づく周波数変調成分を電圧に変換しさらに抽出データに変換した波形を示す。図5(c)および図5(d)において、縦軸はスペクトルパワー(a.u.)を示し、横軸は周波数(kHz)を示す。
【0065】
図5より、基台11を介して振動伝播媒体の振動を検知する本実施形態の検知手段1の構成におけるFODセンサ13は、従来技術の検出装置におけるFODセンサと比較して同等の、シャープペンシル芯圧折による発振に対する受振感度を有することが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1 検知手段
2 光源
5 検出器
6 入力側光ファイバ
7 出力側光ファイバ
10 保温材下腐食検出装置
11 基台
12 ホルダ
13 光ファイバドップラセンサ(FODセンサ)
14 ボルト
20 配管
121 収容空間
122 隆起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を放射する光源と、
保温材により被覆された機器の保温材下腐食を検知する検知手段であって、
機器の表面に接触して固定される板状の基台と、
前記基台に着脱自在に設けられるホルダと、
前記ホルダに収容され、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションを受信し、機器の保温材下腐食を検知する光ファイバドップラセンサと、
前記ホルダを前記基台に着脱自在に固定する固定部材と、を含む検知手段と、
前記光ファイバドップラセンサに接続され、前記光源から放射される光を前記光ファイバドップラセンサに伝送する伝送路となる入力側光ファイバと、
前記光ファイバドップラセンサに接続され、前記光ファイバドップラセンサから出力される光を伝送する伝送路となる出力側光ファイバと、
前記入力側光ファイバを伝送し前記光ファイバドップラセンサに入力される入力光と、前記出力側光ファイバを伝送し前記光ファイバドップラセンサから出力される出力光との間の周波数変調成分を検出する検出器と、を備えることを特徴とする保温材下腐食検出装置。
【請求項2】
前記ホルダは、前記光ファイバドップラセンサを収容する円柱状の収容空間を有する有底の四角筒状に形成され、底部に、前記収容空間に臨む一表面とは反対側の他表面から隆起する円柱状の隆起部が設けられることを特徴とする請求項1に記載の保温材下腐食検出装置。
【請求項3】
前記ホルダは、前記基台に取付けられた状態では、
前記隆起部が前記基台の表面に面接触し、前記隆起部の前記収容空間に臨む表面が機器の軸線を含む仮想一平面に平行に配置され、前記光ファイバドップラセンサを前記隆起部の前記表面に前記仮想一平面と平行に実装することができるように構成されることを特徴とする請求項2に記載の保温材下腐食検出装置。
【請求項4】
保温材により被覆された機器の保温材下腐食を検査する保温材下腐食検査方法であって、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の保温材下腐食検出装置を用い、機器の腐食部から発生するアコースティックエミッションに基づく周波数変調成分を検出する検出工程と、
前記周波数変調成分を電圧に変換し、電圧の波形データを得る周波数−電圧変換工程と、
前記電圧の波形データを周波数解析処理し、機器の保温材下腐食に対応する特徴値が抽出された抽出データを得る抽出データ生成工程と、
前記抽出データに基づいて、機器の保温材下腐食の有無を判定する判定工程と、を含むことを特徴とする保温材下腐食検査方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−52933(P2012−52933A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196244(P2010−196244)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】