説明

保温機能を備えた分注テーブル

【課題】 検体が定温保管されている保冷庫等の庫内環境と同等の環境を維持した状態で、保温室110内に容器3‥‥全体を収容セットしておくことができ、分注作業中であっても常温にさらされる状態を回避して変質や劣化の防止を図ると共に、分注作業を行うことのできる保温機能を備えた分注テーブルを提供する。
【解決手段】 分注装置の分注テーブル1を、容器3‥‥の収納域を形成するケーシング11と、該ケーシング11に設けられた容器3‥‥の出し入れ開閉蓋12と、ケーシング11内を所定温度に保温する保温手段13とによって保温室110に構成せしめ、かつ、ケーシング11上面には、前記保温室110内の容器3‥‥に対して分注を行わしめるべく前記分注ノズル2が通過可能な分注孔121を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引した試薬を検体容器に吐出する分注装置にかかり、詳しくは、吐出作業時においても分注テーブル上にセットされた検体を所定温度に保った状態としておくことのできる保温機能を備えた分注テーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、DNAや免疫等の分析や試験にあたっては、検体をカートリッジ容器や小容器などからなる複数の容器に小分けし、これに試薬(薬液)を吐出する分注作業により行われる。この分析や試験で取り扱われる試薬や検体は、物性の変質や劣化を防止し品質維持を図るため通常は保冷庫などに低温状態で保温管理されており、分注作業時においても、常温暴露によって変質や劣化が進行しないようにする必要がある。
【0003】
ところで、従来、分注工程においては、検体は分注テーブルに順次入れ換えセットされ、試薬は所定位置に配設された試薬テーブル(またはボトルラック)に長時間置かれたままの状態となることから、試薬に対しては各種保冷手段が設けられている(例えば特許文献1、2)。
【0004】
しかしながら、近年分析精度等の向上から、取り扱われる血液などの検体によっては、分析すべきものとの反応において、常温にさらされることにより温度が上昇し、或いは冷却しすぎにより温度が下降するなど僅かな温度変化によっても正確な分析結果が得られないものもあり、分注テーブルにセットされた際にも、保冷庫に一定温度で保管されていた状態を保持することが要求される。
【0005】
そこで、従来のように試薬を保冷する構造を採用することが提案されるが、かかる保冷手段では、容器下面部のみのを冷却し、容器口部が露出した構造となっているため、容器口部側に結露が発生し、この結露が容器内検体に混入してしまう危惧があり、また、検体容器は比較的小さく深さも無いものが複数列配置されたものが用いられるため、容器載置面となる下面側を冷却しすぎたり、容器口部側となる上面側とで温度差が生じたりして、容器内検体自体の定温管理が難しいという問題があり、しかも、検体は、試液と異なり一旦劣化すると再度の収集がままならす、取扱いに厳格性が要求されるものであるため、従来の保冷手段をそのまま採用することができない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−38009号公報
【特許文献2】特開2004−125649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の如き問題点を一掃すべく創案されたものであって、検体が保管されている保温庫内の環境を保持した状態で検体容器を収容でき、しかも、分注作業を行うことのできる保温機能を備えた分注テーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、分注テーブルにセットされた所定の容器内に対して、分注ノズルにより薬液を吐出するよう構成された分注装置において、前記分注テーブルを、容器の収納域を形成するケーシングと、該ケーシングに設けられた容器の出し入れ開閉蓋と、ケーシング内を所定温度に保温する保温手段とによって保温室に構成せしめ、かつ、ケーシング上面には、前記保温室内の容器に対して分注を行わしめるべく前記分注ノズルを通過可能とする分注孔が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明における保温機能を備えた分注テーブルは、検体が一定温度に保存管理されている保冷庫等の庫内保温環境と同等の環境を維持した状態や、検体を試液との反応に最適な温度に昇降させた状態で、保温室内に容器全体を収容セットしておくことができ、分注作業中であっても常温にさらされて冷却時の結露などによる不具合を回避して変質や劣化の防止が図られ、しかも、保温室内に分注ノズルが挿入でき、保温室内の容器に対し、既存の分注動作や工程に何ら影響を与えることなくそのまま吐出作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を好適な実施の形態として例示する保温機能を備えた分注テーブルを図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る保温機能を備えた分注テーブルの一部破断上面図、同じく図2は水平断面図、図3は右側断面図である。図に示すように、1は分注テーブルであって、該分注テーブル1は、所定の分注装置の基台(作業ステージ)101上に図示しない試液テーブルやノズルチップテーブルなどと共に配設される。分注装置は、前後、左右、上下方向に基台101上を動作可能な分注ノズル(分注ニードル)2を備えており、該分注ノズル2は、試液テーブル、ノズルチップテーブル、分注テーブル1などの各配置部位に対し精度良く位置決め動作し、分注ノズル2内に試液テーブルにセットされた試液容器から試液を吸入し、前記分注テーブル1にセットされた検体入り容器(小容器、試験管、カートリッジ容器など)3内に試液を吐出するよう構成されている。
【0011】
前記分注テーブル1は、容器3の収納域を形成するケーシング11と、該ケーシング11に設けられた容器3の出し入れ開閉蓋12と、ケーシング11内を所定温度に冷却保温する保温手段(保冷装置)13とによって保温室110に構成せしめ、かつ、ケーシング上面11を構成する開閉蓋12に、前記保温室110内の容器3に対して分注(吐出)を行わしめるため、前記分注ノズル2を通過可能に穿設された分注孔121を設けると共に、その表面に断熱シールが貼設されている。
【0012】
前記ケーシング11は、内部に断熱材が充填された樹脂製の角筒形周面部111と、アルミ製の底面部112と、上面部としての前記開閉蓋12とにより構成され、保温室110を形成している。底面部112の下面域に設けられた保温手段13には、図示しないベルチェ素子(2種類の金属をつないで電流を流すと、一方の金属が冷却され他方の金属が熱くなる素子で、電流の正逆切り替え通電により冷・熱面が反転する)が用いられ、冷却側を底面部112に面接させて冷温を伝達させ、その際、高熱側には熱を逃がすための空冷ファンが設けられた温度管理装置により構成される。前記周面部111上周面には、気密ガスケット111aが設けられており、開閉蓋12を閉戸した際にその周面が当接して密封状態とし保温室110内を0゜Cから40゜Cの範囲で任意温度に保つようになっている。なお、冷却装置として使用する場合には、特許文献1,2に所載の装置などであっても良く、保温温度も任意である。
【0013】
本実施例においては、6mm径の容器3と10mm径の二種類の容器3aをセットできるようになっている。つまり、6mm径の容器3を用いる場合には、底面部112上に更に底面部113を設ける。この底面部113には、容器3の底部側形状に適合した凹部113aを1列に8個、都合4列32個が等ピッチに列配設させて形成され、さらに、容器3をセットするために凹部113aの配設箇所にセット孔114aが同数同ピッチに穿設されたアルミ製のセットプレート114が、底面部113上に着脱自在に載置されている。このように底面部113により保温室110内を底上げし、かつセットプレート114を配設することで、保温室110内の収納域を、開閉蓋12とセットプレート114間(容器3のつば部の厚さ程度)および凹部113aとセット孔114aにより形成される空域とした構造は、前記の冷却源にベルチェ素子を用いた関係で熱伝達をスムーズに行わしめるためである。
また、前記セットプレート114は、予め検体入り容器3がセットされた状態で保冷庫に保管され、そのまま分注テーブル1に運搬されるトレイとしての機能を有し、底面部113上にセットされるようになっている。
【0014】
一方、10mm径の容器3aを用いる場合には、底面部112上に載置させた底面部113を取り出し、これに換えて図4に示す如くセットプレート115を載置装着する。底面部112には、10mm径の容器3の底側形状に適合した凹部112aが、また、セットプレート115には、セット孔115aがそれぞれ前記凹部113aに対して1列に2倍ピッチをもって4個を配設し、かつ等しい列配設をもって都合16個が形成されている。この場合、保温室110内の収納域は、開閉蓋12とセットプレート115間(容器3のキャップ螺着口部の広さ程度)および凹部112aとセット孔115aにより形成される空域となる。なお、容器3aには図示しないキャップが設けられているので、個々に運搬するなどの取扱いが容易であるので、セットプレート115は、前記セットプレート114のようにトレイとして使用せず、容器3aを一つずつセットするようになっている。なお、前記分注ノズル2の数もセット孔115aに対応した数にセットされる。
【0015】
前記開閉蓋12は、その後側に設けられた軸孔に対して基台101に設けられた連結軸を軸装させた丁着手段102により開閉可能に構成され、同様に基台101に設けられた開閉摘み103の回転操作により、そのラッチ体103aが開閉蓋12の上面に対し係脱して施・解錠して、後述する開閉機構15のケースカバー104に設けられた把持部105を摘んで上方に持ち上げるようにして開閉できるようになっている。
また、開閉蓋12の背面側には、分注ノズル2が他の工程作業を実施中の場合に、分注孔121を塞いでおき、分注テーブル1上に移動して吐出作業を行う時にだけ開くように開閉体14が設けられている。この開閉体14は、前記列を形成する分注孔121‥‥の全長に渡って穿設された長孔の開孔部141が分注孔121の各列(4列)の間隔に併せて4つ設けられており、前後端縁をガイド体142の溝内にスライド案内させて、列毎の分注孔121‥‥と開孔部141‥‥とを相互に連通させる開状態と、列毎の分注孔121‥‥を非開孔面部で塞ぐ閉状態とする開閉動作を行うよう構成される。
【0016】
開閉動作は、操作レバーなどを設けることで手動で行うこともできるが、本装置では、開閉機構15のモータ151による駆動で分注ノズル2の分注動作に連動して開閉制御される。つまり、開閉機構15は、モータ151により回転する回転カム152の偏心位置に配設されたベアリング軸(偏心軸)153を、前記開閉体14の一側面に延設させて前後略中間位置に穿設した長孔153aに挿入させ、回転カム152の回動によりベアリング軸153が長孔153a内を遊動しながら押すことで開閉体14を押動させるよう構成されている。図示の閉状態から回転カム152が半回転することで開状態となり、1回転すると再び閉状態となるが、停止位置制御は、開閉体14の前記延設面に凹部154を設け、凹部154の空域をビームセンサ155で監視し、ビームが凹部154内を外れて開閉体14により遮蔽されると動作が停止されるようになっている。
【0017】
叙述の如く構成された本発明の実施の形態において、保冷庫に一定温度で保管されている検体入りの容器3(3a含む)を分注テーブル1にセットするのであるが、分注テーブル1は、一面に容器3を出し入れするための開閉蓋12を有するケーシング11により囲繞された内部空間を容器3の収納域に形成し、ケーシング11内を所定温度に保温する保温手段13によって保温室110に構成せしめ、保温室110内に収容された容器3‥‥に対して分注ノズル2‥‥により分注を行わしめるべくケーシング11上面に前記分注ノズル2‥‥が通過可能な分注孔121が設けられている。
これにより、保温室110内は、検体が保管されている保温庫内の環境と略同等の状態に保持させ、または、DNA鑑定などで要求される冷却保存されていた検体を試液との反応に最適な温度に上昇しその状態を保持させて、容器全体を外部に露出することなく収容セットしておくことができ、分注待機中は勿論、分注ノズル2により薬液を吐出する作業中であっても、収容された容器3自体が外気温に直接的にさらされて冷却時の結露などによる不具合を回避して検体の変質や劣化の防止を図ることができる。しかも、保温室110内に分注ノズル2が挿入でき、保温室110内の容器3‥‥に対し、従来の分注動作や工程に何ら影響を与えることなくそのまま吐出作業を行うことができる。また、分注孔121は使用する分注ノズル2の形状により任意に設定できるので、例えば、ニードルを用いる分注装置の場合には更に孔径を小さくでき、また、容器3の数量などとの関係で保温室110内の保温機能を高めることができる。
【0018】
さらに、前記分注孔121は、分注ノズル2が試液の吸入等分注テーブル1以外のテーブルで作業をしている分注(吐出)動作時以外の平常時には、開閉体14により閉鎖されるようになっているので、分注ノズル2が分注テーブル1上に移動をして吐出作業を行う時にだけ分注孔121を開状態とすればよく、外気が常時保温室110内に侵入してしまうことがなくなり、室内温度を常に安定した状態に保つ温度管理が容易に行えるばかりか、分注孔121周縁への氷結や結露発生や水滴・塵埃・不純物の落下混入が防止され、容器3内の検体に混入してしまう危惧を一掃することができ、分注テーブル1にセットされたものでありながら取扱いに厳格性が要求される検体の変質や劣化を確実に防止しすることができる。
【0019】
特に、本実施例の如く、分注テーブル1に複数の容器3‥‥が列配置され、分注孔121が各列毎に複数形成されたものへの開閉体の採用にあたっては、開閉体14は、前記分注孔121の対応位置に設けられた開孔部141‥‥によって各列孔121‥‥を開閉すべくスライド可能に設けられているので、一斉開閉することができ効率の良い開閉操作が行える。なお、分注孔121よりも分注ノズル2の数が少ない場合には、分注ノズル2の数に応じて開孔部141の配列ピッチを変えるなどにより、部分的な開閉を行うこともできる。
さらに、開閉体14は、分注ノズル2の昇降動作に連動して、分注姿勢では開動作し分注完了姿勢では閉動作すべく駆動制御される構成となっているので、自動化が図られた分注装置においても各工程の既存動作を何ら変更することなく作業を行うことができる。
【0020】
また、前記開閉蓋12は、前記ケーシング11上面部を形成すべく設けられ、前記分注孔121は当該開閉蓋12に設けられているので、開閉蓋12をケーシング11前面部等に形成した場合に比し、氷結や結露が生じても除去作業を容易に行え、分注孔121のピッチ配列が異なった仕様に対しとしても数種用意すれば取替えが可能であるばかりか、開閉体14を装備する際にも開閉蓋12の背面側に形成することができ、製作が極めて容易に行える利点がある。
【0021】
また、前記ケーシング11下面側は、容器3の径(外形)に略適合した筒状部としてのセット孔114a(115a)が設けられ、該セット孔114aに容器胴部が挿入されるため、小さな容器3をセッティングする際、これをトレイとして使用することができ一括でセットおよび取り出しが行えるばかりか、保温室110内の空間を狭くして、ベルチェ素子等の冷却源からの冷温を容器近傍に伝達する媒体としても機能させることができ、大掛かりな冷却装置を用いることなく保温室110内の保冷を効率よく行うことができ、安価なものを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】保温機能を備えた分注テーブルの一部破断上面図。
【図2】同じく水平断面図。
【図3】同じく右側断面図。
【図4】異なる容器形状を用いた場合の筒状部を示す右側部分断面図。
【符号の説明】
【0023】
1 分注テーブル
101 基台
102 丁着手段
103 開閉摘み
103a ラッチ体
104 ケースカバー
105 把持部
11 ケーシング
110 保温室
111 周面部
111a 密ガスケット
112 底面部
112a 凹部
113 底面部
113a 凹部
114 セットプレート
114a セット孔
115 セットプレート
115a セット孔
12 開閉蓋
121 分注孔
13 保温手段
14 開閉体
141 開孔部
142 ガイド体
15 開閉機構
151 モータ
152 回転カム
153 ベアリング軸
153a 長孔
154 凹部
155 ビームセンサ
2 分注ノズル
3 容器
3a 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分注テーブルにセットされた所定の容器内に対して、分注ノズルにより薬液を吐出するよう構成された分注装置において、前記分注テーブルを、容器の収納域を形成するケーシングと、該ケーシングに設けられた容器の出し入れ開閉蓋と、ケーシング内を所定温度に保温する保温手段とによって保温室に構成せしめ、かつ、ケーシング上面には、前記保温室内の容器に対して分注を行わしめるべく前記分注ノズルを通過可能とする分注孔が設けられていることを特徴とする保温機能を備えた分注テーブル。
【請求項2】
請求項1において、前記分注孔は、分注ノズルの分注動作時以外の平常時に開閉体により閉鎖されることを特徴とする保温機能を備えた分注テーブル。
【請求項3】
請求項2において、前記分注テーブルには、複数の容器が列配置され、前記分注孔は、各列毎に形成されると共に、前記開閉体は、前記分注孔の対応位置に設けられた開孔部によって各列孔を開閉すべくスライド可能に設けらていることを特徴とする保温機能を備えた分注テーブル。
【請求項4】
請求項2または3において、前記開閉体は、前記分注ノズルの昇降動作に連動して、分注姿勢では開動作し分注完了姿勢では閉動作すべく駆動制御されることを特徴とする保温機能を備えた分注テーブル。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、前記開閉蓋は、前記ケーシング上面部を形成すべく設けられ、前記分注孔は当該開閉蓋に設けられていることを特徴とする保温機能を備えた分注テーブル。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかにおいて、前記ケーシング下面側は、容器径に略適合した筒状部が設けられ、該筒状部に容器胴部が挿入されることを特徴とする保温機能を備えた分注テーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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