説明

保護層形成用組成物およびそれを用いた平版印刷版原版

【課題】赤外線領域において高感度、高解像性で紫外・可視光領域でのセーフライト性に優れ、平版印刷版原版同士の耐接着性と耐キズ性に優れたサーマルネガ版用平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】平版印刷版原版の感光層を保護する保護層を形成するための組成物であって、けん化度91モル%以上でスルホン酸変性率1%以下のポリビニルアルコールと、水素添加レシチンと、平均粒径が1〜10μmのマット剤とを少なくとも含有する保護層形成用組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版用原版に関するものであり、特にコンピュータ等のデジタル信号から直接製版できるいわゆるダイレクト製版用のネガ型の平版印刷版用原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷版原版としては親水性支持体上に親油性の感光性樹脂層を設けた構成を有するものが広く用いられている。その製版方法として、通常は、リスフイルムを介してマスク露光後、非画像部を溶解除去することにより所望の印刷版を得る方法が用いられていた。
【0003】
最近では、画像情報をコンピュータを用いて電子的に処理、蓄積、出力するデジタル化技術が広く普及している。そして、その様なデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきた。その結果、レーザー光のような指向性の高い光をデジタル化された画像情報に従って走査し、リスフイルムを介すること無く、直接印刷版を製造するコンピューター トゥ プレート(CTP)技術が切望されており、これに適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題となっている。
【0004】
このような走査露光可能な平版印刷版原版としては、親水性支持体上にレーザー露光によりラジカルなどの活性種を発生しうる感光性組成物を含有した感光層を設けた構成が提案され、上市されている。この平版印刷版原版をデジタル情報に基づきレーザー走査露光し活性種を発生させ、その作用によって感光層を物理的、或いは化学的な変化を起こし不溶化させ、引き続き現像処理することによってネガ型の平版印刷版原版を得ることができる。
【0005】
感光層上に水溶性ポリマーを積層する感光性組成物の例としては、特許文献1が知られている。しかしながら、特許文献1に記載されている保護層を用いた平版印刷版は、レーザー露光の後、水洗層にて保護層を水洗して除去し、その後現像するため、水洗層からの多量の廃液を回収しなければならず環境対応の側面からも早期改良が必要である。また、特許文献2には、特定ポリビニルアルコール樹脂に雲母化合物を含有する保護層が開示されている。この文献に記載されている特定の高けん化度ポリビニルアルコールは、高い酸素遮断性を示すため、高感度になり光被りし易くなるばかりでなく、水に対する溶解性も悪い。そのため、水洗層内又は現像液中でのポリビニルアルコールの析出があり運用上問題がある。また、雲母化合物は紫外線カット効果があるものの、無機化合物であるため現像槽内に滞留し、配管清掃に大きな負担を要した。
【0006】
一方、現像処理が簡便である光重合型の平版印刷版原版の製版作業における生産性としては、露光工程にかかる時間短縮が重要となってくる。露光工程には、通常、原版と原版の間に原版同士の接着防止機能や、比較的軟らかい保護層の表面がアルミニウム支持体と擦れて生じるキズ防止機能を有する合紙が挿入された積層体として供給される。そのため、露光工程での合紙除去時間が非効率の原因となっていた。この露光工程での効率化を図るためには、原版間に合紙を挿入しない積層体を用いることで、合紙除去の工程を省略すればよく、このことから、平版印刷版原版同士の耐接着性と保護層表面がアルミニウム支持体とこすれて生じるキズについての改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−38633号公報
【特許文献2】特開2006−301565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、赤外線領域において高感度、高解像性で紫外・可視光領域でのセーフライト性に優れ、平版印刷版原版同士の耐接着性と耐キズ性に優れたサーマルネガ版用平版印刷版原版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、保護層を形成するための組成物として、けん化度91モル%以上でスルホン酸変性率1%以下のポリビニルアルコールと、水素添加レシチンと、平均粒径が1〜10μmのマット剤とを含有させることにより、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は、平版印刷版原版の感光層を保護する保護層を形成するための組成物であって、けん化度91モル%以上でスルホン酸変性率1%以下のポリビニルアルコールと、水素添加レシチンと、平均粒径が1〜10μmのマット剤とを少なくとも含有する保護層形成用組成物を提供する。
本発明の保護層形成用組成物は、さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明は、また、支持体上に、感光層と、前記保護層形成用組成物から形成され、前記感光層を保護するための保護層とを備えた平版印刷版原版を提供する。
【発明の効果】
【0011】
以下に詳細に説明するように、本発明に係る保護層形成用組成物は、特定の酸性ポリビニルアルコールを用いることにより、高い強度、高い酸素遮断性と高い水溶解性を示す保護層を得ることができると共に平版印刷版自体を高感度にすることができる。また、本発明に係る保護層形成用組成物は、水素添加レシチンと平均粒径が1〜10μmのマット剤を含有することにより、該保護層形成用組成物から形成される保護層表面上に水素添加レシチンと平均粒径が1〜10μmのマット剤が表面局在化し、耐水性、耐キズ性、耐接着性、酸素遮断性を大幅に向上することができる。また、特定のポリビニルアルコールを用いることにより不要な可視光線などに光被りし易くなる現象(セーフライト性能)は、保護層中に水素添加レシチンを含有することによって入射光を光散乱させ大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。最も、以下に説明する実施の形態は本発明を限定するものではない。本発明に係る保護層形成用組成物は、平版印刷版原版の感光層を保護する保護層を形成するための組成物である。前記組成物に使用される、スルホン酸変性ポリビニルアルコールは、けん化度91モル%以上でスルホン酸変性率1%以下のポリビニルアルコールである。
スルホン酸変性ポリビニルアルコールの製造方法としては特に限定されないが、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の共重合成分を、ビニルエステル系化合物と共重合した後、ケン化する方法、ビニルスルホン酸もしくはその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸もしくはその塩等をポリビニルアルコールにマイケル付加させる方法等により合成することができる。
【0013】
当該スルホン酸変性ポリビニルアルコールは、例えばクラレ株式会社、日本合成化学工業株式会社、日本酢ビ・ポバール株式会社より市販されている。
【0014】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用されるスルホン酸変性ポリビニルアルコールの含有量は、保護層形成用組成物中の固体成分量中、即ち形成される保護層中に60〜90質量%であることが好ましく、より好ましい下限は70質量%である。70質量%以上とすることにより、感度、耐キズ性をより向上することができる。
【0015】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンは、保護層中に均一分散されるのではなく、保護層の表面(保護層中の感光層側とは反対側の面)に局在化される傾向がある。これは、水素添加レシチンが特定ポリビニルアルコールと同一水溶液中に溶解する場合において、親油性の強い水素添加レシチンが一種の単分子膜を形成するため、保護層の表面に局在化すると考えられる。この特異的な傾向により、保護層には直接的な影響を与えず、耐キズ性、耐接着性、酸素遮断性の向上や外的湿気からの感光層保護が可能となっていると考えられる。
【0016】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンは、例えば、動物又は植物より取り出された各種のリン脂質を原料として、レシチンの脂肪酸部位を水素添加することにより、製造される。レシチンの脂肪酸部位のうち水素添加される割合は、90〜100%であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンは、例えば、辻製油株式会社より、SLP−ホワイトH、SLP−PC70H、SLP−PC92H、SLP−LPC70H、SLP−ホワイトリゾH等の商品名にて市販されている。
【0018】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンの平均粒径は、10nm〜20μmであることが好ましく、100nm〜10μmであることがより好ましい。粉末状の水素添加レシチンを溶解して水素添加レシチン水溶液とする際、粒径が微小である方が効率が良く、分散して溶解しやすいためである。本発明に係る保護層形成用組成物における水素添加レシチンの平均粒径は、光散乱法によって測定される数平均粒径である。
【0019】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンは、マット剤と混合して使用する。マット剤は、平版印刷版同士を重ねた際の離型性と滑り性を制御するものである。マット剤としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ粉末、澱粉、コンスターチ、重合体粒子(例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、アクリル樹脂等の粒子)等を使用できる。離型性の点から、保護層中に含有されるマット剤の平均粒径は、1〜20μmであることが好ましい。また、保護層中に含有されるマット剤の量は、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0020】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンは、さらにコロイダルシリカと混合して使用しても良い。コロイダルシリカを添加することにより、本発明に使用されるスルホン酸変性ポリビニルアルコールの強度を向上することができる。コロイダルシリカとしては、例えば扶桑化学工業社製の合成コロイダルシリカ等を使用できる。保護層中に含有されるコロイダルシリカの平均粒径は、10nm〜1μmであることが好ましい。この範囲であれば、保護層中に均一に分散することが容易だからである。また、保護層中に含有されるコロイダルシリカの量は、0.1〜30質量%であることが好ましい。この範囲であれば、本発明に使用されるスルホン酸変性ポリビニルアルコールの強度を上げることが可能であるからである。
マット剤及びコロイダルシリカの平均粒径は、レーザー回折散乱法によって測定される。
【0021】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用される水素添加レシチンの含有量は、保護層中に0.01〜30質量%であることが好ましく、より好ましい下限は1質量%である。この範囲であれば、水素添加レシチンが保護層表面に局在化されるが、30質量%を超えると、保護層の塗布性能が劣化する場合がある。
【0022】
本発明に係る保護層形成用組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤を含んでも良い。ポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤を含むことによって、水素添加レシチンとマット剤を保護層中に均一に分散することが容易にできる。
【0023】
ポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤としては、例えば、竹本油脂株式会社より市販されている09101TX、09102TX、09103TX、D−2510−GL等が挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤の親水性−親油性バランス(HLB値)は、10.0〜16.0であることが好ましく、11.0〜15.0であることがより好ましい。
【0024】
本発明に係る保護層形成用組成物に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤の含有量は、保護層中(保護層形成用組成物の固体成分量中)0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましい上限は5.0質量%である。
【0025】
本発明に係る保護層形成用組成物には、その他更に必要に応じて公知の水溶性染料、非イオン界面活性剤、フッ素系界面活性剤、消泡剤等を添加することができる。
【0026】
本発明に係る保護層形成用組成物には、塗布性、被膜の物性改良のために水溶性の可塑剤等の公知の添加剤等を加えることができる。例えば、プロピオンアミド、シクロヘキサンジオール、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。また、水溶性の(メタ)アクリル系ポリマーを加えることもできる。なお、「(メタ)アクリル」は、メタクリル及び/又はアクリルを意味する。
【0027】
本発明に係る平版印刷版原版が備える感光層は、特に限定されないが、好ましくは、支持体上に、(A)赤外線吸収剤、(B)アルカリ可溶性樹脂、(C)重合性開始剤、及び(D)重合性化合物を含有する画像形成組成物を塗布して形成される。
【0028】
前記画像形成用組成物において、(A)成分として使用される赤外線吸収剤は、画像露光光源の光を吸収して、そのエネルギーを熱に変換し得る化合物であれば特に限定されないが、波長域650〜1300nmの範囲に吸収極大を有し、好ましくは吸収極大でモル吸光係数εが10以上である赤外線吸収色素が特に有効である。赤外線吸収剤は、光の照射によって赤外線吸収剤から発生する熱、又は光電子移動を引き起こしラジカル発生を促進させるために用いられる。このため、本発明に使用される感光層は、さらに赤外線吸収剤を含有することにより、レーザー露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が減少するネガ型感光層となる。
前記赤外線吸収色素としては、シアニン系色素、スクアリウム系色素、クロコニウム系色素、アズレニウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、チオピリリウム系色素、ジチオール金属錯体系色素、アントラキノン系色素、インドアニリン金属錯体系色素、分子間CT色素等が好ましい。
【0029】
上記画像形成用組成物において使用される赤外線吸収剤の添加量は、感光層の0.1〜10質量%、好ましくは0.6〜8.0質量%である。添加量が0.6質量%以上では、感度が特に高くなり、10質量%以下、特に8.0質量%以下では、非画像部(未露光部)の現像性が特に向上するので好ましい。
【0030】
上記画像形成用組成物において(B)成分として使用されるアルカリ可溶性樹脂は、サーマルネガ版において、露光部(画像部)での耐刷性や耐薬品性を向上させるために用いられる。アルカリ可溶性とは、pHが8.0〜13.0、温度が20〜35℃、溶解時間が12〜50秒でアルカリ水溶液に完全に溶解することである。本発明に使用されるアルカリ可溶性樹脂は、アルカリ剤に対して可溶性または膨潤性を持つことが望ましい。アルカリ剤とは、後述するアルカリ剤全てを示す。そのような高分子化合物として、好ましくは、アクリル酸誘導体の共重合体、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、エチレン性二重結合を側鎖に有するアルカリ可溶性樹脂の方が、高感度でアルカリ性の現像液にも良好に溶解する。
【0031】
アルカリ可溶性樹脂として使用されるアクリル酸誘導体の共重合体としては、例えば、下記(m1)〜(m10)から選ばれるモノマーを、従来知られているグラフト共重合法、ブロック共重合法、ランダム共重合法等を用いて共重合させることにより得られる。
(m1)フェノール性水酸基を有するモノマー。例えば、N−(4−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、p−イソプロペニルフェノール、o−ヒドロキシフェニルアクリレート、m−ヒドロキシフェニルアクリレート、p−ヒドロキシフェニルアクリレート、o−ヒドロキシフェニルメタクリレート、m−ヒドロキシフェニルメタクリレート、p−ヒドロキシフェニルメタクリレートである。
(m2)スルホンアミド基を有するモノマー。例えば、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミドである。
(m3)活性イミド基を有するモノマー。例えばN−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミドである。
(m4)脂肪族水酸基を有するモノマー。例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレートである。
(m5)α,β−不飽和カルボン酸。例えばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸である。
(m6)アリル基を有するモノマー。例えば、アリルメタクリレート、N−アリルメタクリルアミドである。
(m7)アルキルアクリレート類またはアルキルメタクリレート類。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸へキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、グリシジルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸へキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、グリシジルメタクリレートである。
(m8)アクリルアミド類またはメタクリルアミド類。例えば、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−へキシルアクリルアミド、N−シクロへキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−へキシルメタクリルアミド、N−シクロへキシルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミドである。
(m9)スチレン類。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン等である。
(m10)N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾ−ル、4−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
【0032】
アルカリ可溶性樹脂として使用されるポリウレタン樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃〜180℃、さらに好ましくは70℃〜150℃の範囲にある。Tgが50℃未満であると、フィルム形成性、つまり均一な感光層表面が形成しづらくなる場合があり、また、表面のべたつきも発生しやすくなる場合がある。また、Tgが180℃を超えると、アルカリ可溶性が悪くなり、現像不良が起き易くなる場合がある。本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計DSC−60(島津製作所製)を用いて測定される値である。なお、上記ポリウレタン樹脂の平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではなく、従来用いられている任意のポリウレタン樹脂を用いることができる。
【0033】
一般的に、アルカリ可溶性ポリウレタン樹脂は、特開2002−311579号公報に記載されているような側鎖カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂であって、当該カルボキシル基にグリシジルメタクリレートを付加反応させて、末端に重合性の二重結合を有するアルカリ可溶性ポリウレタン樹脂などが特に望ましい。
【0034】
上記画像形成用組成物において使用されるアルカリ可溶性樹脂は、単独でも2種以上混合して用いてもよい。含有量は、感光層中の20〜95質量%、好ましくは25〜90質量%である。含有量が20質量%未満の場合は、耐刷性が悪くなる場合があり、95質量%以上では感度が悪くなる場合がある。
【0035】
上記画像形成用組成物において(C)成分として使用されるラジカル重合性開始剤としては公知の化合物を用いることができる。例えば、有機ホウ素塩、トリハロアルキル置換された化合物、ヘキサアリールビスイミダゾール、チタノセン化合物、ケトオキシム化合物、チオ化合物、有機過酸化物、オニウム塩(特開2003−114532号公報に記載のヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩)等が挙げられる。これらのラジカル重合性開始剤の中でも、特に有機ホウ素塩、トリハロアルキル置換化合物が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物を組み合わせて用いることである。
【0036】
上述したようなラジカル重合性開始剤の含有量は、アルカリ可溶性樹脂に対して、1〜40質量%の範囲が好ましく、更には1〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0037】
上記画像形成用組成物において(D)成分として使用される重合性化合物を含有することによって皮膜強度が向上し、高感度で支持体との密着性に優れ、耐刷性もアップすると考えられる。
【0038】
重合性化合物としては分子量1000以下のモノマーから分子量1000以上のオリゴマー、ポリマー領域のものまで種々のものを用いることができる。このような化合物として不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等、不飽和アルコールとイソシアネート化合物とのウレタン、不飽和カルボン酸とエポキシ化合物とのエステル等を挙げることができる。
【0039】
より具体的には、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルジオールジアクリレート、ネオペンチルジオールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0040】
上記重合性化合物の添加量は、感光層の全固形分に対して(即ち、感光性組成物の全固形分に対して)好ましくは1〜80質量%、さらに好ましくは2〜70質量%である。添加量が、1質量%以上の場合は、感度がより早くなり、80質量%以下では、画像部(露光部)の耐キズ性がより向上するので好ましい。
【0041】
上記画像形成用組成物には、前記の成分の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、更に必要に応じて、着色剤、ロイコ色素、感脂性樹脂、重合禁止剤、界面活性剤、可塑剤等を添加することができる。
【0042】
上記画像形成用組成物には、画像を見やすくするために、着色剤を用いることができる。着色剤としては、油溶性染料及び塩基性染料が好ましい。具体的には、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン、ビクトリアブルー、メチレンブルー、エチルバイオレット、ローダミンB、ビクトリアピュアブルーBOH(保土谷化学工業社製)、オイルブルー613(オリエント化学工業社製)、オイルグリーン等を挙げることができる。これらの染料の添加量は、好ましくは感光層の0.05〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.1〜4.0質量%である。0.05質量%以上、特に0.1質量%以上では、感光層の着色が充分で画像が特に見やすくなり、5.0質量%以下、特に4.0質量%以下では、現像後の非画像部に染料の残りが残りにくくなり好ましい。
【0043】
上記画像形成用組成物には、感光層の着色効果と現像液に対する溶解抑制効果を目的として、ロイコ色素を添加できる。本発明に使用されるロイコ色素は、従来の感熱記録材料に用いられているラクトン環を含む色素が好ましい。好ましい具体例としては、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(別名クリスタルバイオレットラクトン)、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジエチルアミノフタリド、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−クロルフタリド、3,3−ビス(p−ジブチルアミノフェニル)フタリド、3,3−ビス(p−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリド、3、6−ジメトキシフルオラン、3−シクロヘキシルアミノ−6−クロルフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−5−メチル−7−(N,N−ジベンジルアミノ)フルオラン、3−ジメチルアミノ−5、7−ジメチルフルオラン、3−ジメチルアミノ−7−メチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7、8−ベンズフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−クロロアミノフルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジメチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、2−(N−(3´−トリフルオロメチルフェニル)アミノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、2−(3,6−ビス(ジエチルアミノ)−9−(o−クロルアニリノ)キサンチル安息香酸ラクタム等を挙げることができる。
ロイコ色素の添加量は、感光層の0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。添加量が0.01質量%以上、特に0.05質量%以上では、感光層の着色が充分となり、可視性が優れ、10質量%以下、特に5質量%以下では、非画像部(露光部)の現像性が特に向上するので好ましい。
【0044】
さらに、上記画像形成用組成物には、感光層の感脂性(親油性)を向上させるために感脂性樹脂を添加することができる。感脂性樹脂としては、例えば、特開昭50−125806号公報に記載されているような、炭素数3〜15のアルキル基で置換されたフェノール類とアルデヒドの縮合物、又はt−ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂などが使用可能である。上記感脂性樹脂が感光層の全固形分に占める割合は、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは、0.05〜10質量%である。
【0045】
上記画像形成用組成物には、重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。適当な熱重合禁止剤としてはハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン第一セリウム塩等が挙げられる。熱重合禁止剤の添加量は、感光層中の不揮発性成分の質量に対して約0.01質量%〜約5質量%が好ましい。また、必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにべヘン酸やべヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、感光層中の不揮発性成分に対して約0.5質量%〜約10質量%が好ましい。
【0046】
上記画像形成用組成物には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤を添加することができる。非イオン界面活性剤の好適例としては、ソルビタントリステアレ−ト、ソルビタンモノパルミテ−ト、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。両性界面活性剤の好適例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名「アモーゲンK」:第一工業社製)等が挙げられる。上記非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤が感光層中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは、0.1〜15質量%である。0.05質量%以上、特に0.1質量%以上では、現像性が特に良好であり、また、15質量%以下では、現像性が遅くなることがなくなる。
【0047】
上記画像形成用組成物には、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を添加することもできる。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、リン酸トリブチル等が用いられる。
上記可塑剤が、感光層の全固形分に占める割合は、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは、0.05〜10質量%である。
【0048】
感光層は、通常画像形成用組成物として上述した成分を溶媒に溶かして、適当な支持体上に感光層塗布液を塗布することにより得ることができる。ここで使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノ−ル、メチレンクロライド、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、ジオキソラン、アセトン、シクロヘキサノン、トリクロロエチレン、メチルエチルケトン、γ−ブチルラクトン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これら溶媒は単独あるいは2種以上混合して使用される。溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0049】
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、回転塗布、押し出し塗布、バーコーター塗布、ロール塗布、エアーナイフ塗布、ディップ塗布、カーテン塗布等を挙げることができる。感光層塗布液の塗布量は、用途により異なるが、乾燥時で0.5〜5.0g/mとなるように塗布することが好ましい。
【0050】
上記支持体としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、銅、もしくは鋼等の金属板や、クロム、亜鉛、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄等がメッキもしくは蒸着された金属板、紙、プラスチックフィルム、もしくはガラス板や、樹脂が塗布された紙や、親水化処理されたプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0051】
支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものでなく、従来公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みは、おおよそ0.1〜0.5mm、好ましくは0.12〜0.4mmである。
【0052】
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、好ましくは、表面の圧延油を除去するための、例えば、界面活性剤、又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ブラシ研磨、ボール研磨、ブラスト研磨、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化方法としては、塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭53−123204号公報に開示されている機械的方法と電気化学的な方法を組み合わせた方法も利用することができる。このように粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、一般的に硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。
【0053】
陽極酸化の処理条件は、用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1〜60質量%溶液、液温は5〜60℃、電流密度2〜50A/dm、電圧1〜100V、電解時間5秒〜3分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は0.5〜5.0g/mが適当で、0.5g/m以上では耐摩耗性が特に良くなり、5.0g/m以下では、陽極酸化の孔に染料などが特に染み込みにくくなるので好ましい。
【0054】
陽極酸化を施された後、アルミニウム板は、さらに、例えばケイ酸アルカリ、リン酸ソーダ、弗化ナトリウム、弗化ジルコニウム、アルキルチタネート、トリヒドロキシ安息香酸などの単独あるいは混合液による化成処理や、熱水溶液への浸漬もしくは水蒸気浴などによる封孔処理や、酢酸ストロンチウム、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、もしくは安息香酸カルシウム等の水溶液による被覆処理や、ポリビニルピロリドン、ポリアミンスルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、もしくはポリメタクリル酸等による表面もしくは裏面の化成あるいは被覆処理を後処理として行うこともできる。
【0055】
さらに、上記支持体として、特開平10−297130号公報に記載の表面処理を施したアルミニウム支持体等も使用することができる。
【0056】
本発明の平版印刷版用原版に、照射するためのレーザー光源としては、近赤外から赤外領域に発光波長を持つ光源が好ましく、固体レーザー、半導体レーザーが好ましい。発光波長としては760〜1300nmが好ましい。また、UV露光用の光源としては、カーボンアーク灯、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等がある。発光波長としては、300〜500nmが好ましい。
【0057】
本発明の平版印刷版用原版の現像に用いられる現像液および現像補充液としては、水系アルカリ現像液が好適である。アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、同リチウム、ケイ酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、同リチウム、第三リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ剤及び、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、オクタン酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機アルカリ剤等が挙げられる。これらのアルカリ剤は単独もしくは2種以上を組み合わせて混合して用いてもよい。
【0058】
上記のアルカリ水溶液には、さらに活性剤を添加することができる。上記活性剤としては、陰イオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤を使用することができる。
【0059】
上記イオン界面活性剤として、例えば炭素数が8から22のアルコールの硫酸エステル類(例えばポリオキシエチレンアルキルサルフェートソーダ塩)、アルキルアリールスルホン酸塩類(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンドデシルフェニルサルフェートソーダ塩、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダ、ナフタレンスルホンソーダ、ナフタレンスルホンソーダのホルマリン縮合物)、ソジウムジアルキルスルホクシネート、アルキルエーテルリン酸エステル、アルキルリン酸エステルなどを用いることができる。また、両性界面活性剤として、例えばアルキルベタイン型、アルキルイミダゾリン型活性剤が好ましい。さらに上記のアルカリ水溶液中には、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸リチウム、亜硫酸マグネシウム等の水溶性亜硫酸塩を添加することもできる。
【0060】
本発明の平版印刷版用原版は、好ましくは、感光層の上に、保護層形成用組成物を塗布し、乾燥することによって保護層が形成される。保護層形成用組成物を塗布する方法としては、例えば、回転塗布、押出し塗布、バーコーター塗布等を挙げることができる。ここで、保護層形成用組成物は、主に水を塗布溶液とするが、水との親和力に優れた溶媒を混合してもよい。特に、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等が望ましい。これらの溶媒は、単独または2種以上混合して使用される。また、保護層形成用組成物を塗布する濃度は、塗布方法に依存するが、全固形分濃度に対して1〜50%であることが望ましい。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に示すが、本実施例は本発明を限定するものでない。
<支持体(アルミニウム板)の準備>
厚さ0.24mmのアルミニウム(材質1050)をアルカリ脱脂した後、パーミストンの水懸濁液をかけながらナイロンブラシで表面を研磨し、よく水洗した。次いで、70℃、15質量%水酸化ナトリウム水溶液を5秒間かけ流し、表面を3g/mエッチングした後、さらに水洗を行い、次いで、1N塩酸浴中で200クーロン/dmで電解粗面化処理を行った。引き続き水洗した後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液で表面を再度エッチングし、水洗を行った後、20質量%の硝酸水溶液に浸漬して、デスマットした。次いで、15質量%硫酸水溶液中で陽極酸化処理を行って、2.0g/mの酸化皮膜を形成し、水洗の後、50℃の1質量%のフッ化カリウムと10質量%のリン酸一ナトリウムの混合溶液で後処理し、水洗・乾燥した。
【0062】
<感光層の形成>
下記の組成を有する感光液を、上記アルミニウム板上に乾燥後の膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で5分間乾燥することによって、感光層を形成した。
(感光液)
重合性化合物(D−1)(0.6g)
アルカリ可溶性樹脂(C−1)(2.0g)
赤外線吸収剤:赤外線吸収剤(1)(0.05g)
ラジカル重合性開始剤1:有機ホウ素塩(B−6)(0.05g)
ラジカル重合性開始剤2:トリアジン化合物(T−7)(0.05g)
染料:オイルブルー613:(オリエント化学工業社製)(0.15g)
溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル/テトラヒドロフラン=30ml/20ml
【0063】
【化1】

【0064】
<実施例1>
上記感光層の上に、下記保護層形成用塗布液イを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(保護層形成用塗布液イ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度95モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−PC70H):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度8μm、SSX−110):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0065】
<実施例2>
上記感光層の上に、下記保護層形成用塗布液ロを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(保護層形成用塗布液ロ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度96モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−ホワイトH):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度6、8μm混合、SSX−108):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0066】
<実施例3>
上記感光層の上に、下記保護層形成用塗布液ハを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(保護層形成用塗布液ハ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度91モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−PC92H):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度6、8μm混合、SSX−108):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0067】
<実施例4>
上記感光層の上に、下記保護層形成用塗布液ニを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(保護層形成用塗布液ニ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度91モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−ホワイトH):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度8μm、SSX−108):1.5g
・コロイダルシリカ(扶桑化学工業社製 PL−1 平均粒度10nm):20g
・蒸留水 :1kg
【0068】
比較例1
上記感光層の上に、下記比較用塗布液ホを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(比較用塗布液ホ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度96モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−ホワイトH):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤:なし
・蒸留水 :1kg
【0069】
比較例2
上記感光層の上に、下記比較用塗布液ヘを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(比較用塗布液ヘ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度99モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・合成雲母化合物(コープケミカル社製):24g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度6、8μm混合、SSX−108):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0070】
比較例3
上記感光層の上に、下記比較用塗布液トを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(比較用塗布液ト)
・対照ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度88モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−ホワイトH):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度6、8μm混合、SSX−108):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0071】
比較例4
上記感光層の上に、下記比較用塗布液チを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(比較用塗布液チ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度95モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・水素添加レシチン(辻製油社製 SLP−ホワイトH):10.0g
・界面活性剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル):なし
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度6、8μm混合、SSX−108):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0072】
比較例5
上記感光層の上に、下記比較用塗布液リを膜厚が1.6g/mになるように塗布し、90℃で3分間乾燥し平版印刷版を得た。
(比較用塗布液リ)
・特定ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 ケン化度95モル%、スルホン酸変性率1%以下):100g
・対照レシチン(辻製油社製 水素未添加レシチン SLPホワイト):10.0g
・界面活性剤(竹本油脂社製、D−2510−GL、デカグリセリンオレイン酸エステル):0.2g
・界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710):0.1g
・特定マット剤(積水化成品工業社製平均粒度6、8μm混合、SSX−108):1.5g
・蒸留水 :1kg
【0073】
(評価方法)
得られた平版印刷版原版を以下のように評価した。
1.感度評価
得られた平版印刷版原版を、Creo社製Trendsetter 800QTMにて、解像度2400dpi、外面ドラム回転数360rpmで照射エネルギーを変化させて露光した。露光後、岡本化学社製現像液(DJN)を4倍希釈し、PK−1310II自動現像機を用いて30℃ 12秒で現像処理した。網点濃度測定機(グレタグマクベス社製iC plate II)で50.3±0.3%を示す露光量を最適感度とした。この時、照射エネルギーが低いほど、高感度を示す。
【0074】
2.FMスクリーニングテスト
得られた平版印刷版原版を、Creo社製Trendsetter 800QTMにて、解像度2400dpi、外面ドラム回転数360rpmでFM staccato 36の高精細画像を照射エネルギー60mJ/cmで露光した。露光後、岡本化学社製現像液(DJN)を4倍希釈し、PK−1310II自動現像機を用いて30℃ 12秒で現像処理した。版面内16箇所の網点濃度のバラツキが、網点濃度測定機(グレタグマクベス社製iC plate II)で50.3±0.3%ならば合格とした。
【0075】
3.耐キズテスト
得られた平版印刷版原版上に合紙を挟み、分銅加重(100、200g)をかけて意図的に傷をつける。その後、Creo社製Trendsetter 800QTMにて、解像度2400dpi、外面ドラム回転数360rpmで照射エネルギー70mJ/cmで全面ベタ画像を露光する。その後、岡本化学社製現像液(DJN)を4倍希釈し、PK−1310II自動現像機を用いて30℃ 12秒で現像処理した。この時、意図的に傷をつけた部位に感光層残りが確認されなければ合格とした。
【0076】
4.光被りテスト
得られた平版印刷版原版を、照度800 lux、蛍光灯下で5分間ごとに遮光部をずらし平版印刷版原版を最大60分間被爆させた。その後、岡本化学社製現像液(DJN)を4倍希釈し、PK−1310II自動現像機を用いて30℃ 12秒で現像処理した。評価方法は、新聞用インク(トヨーバンティアンエコー墨インク、東洋インキ工業社製)で被爆部位にインク盛し、非画像部位のインクが汚れなければ合格とした。
【0077】
5.離形性テスト
得られた平版印刷版原版(10x10cm)を、30℃、70%湿度下の恒温槽に1週間、合紙なしで平版印刷版原版を重ね、10kg加重をした。その後、取り出した際に平版印刷版原版に張付きがなければ合格とした。
【0078】
6.強制保存性テスト
得られた平版印刷版原版を、30℃、70%湿度下と45℃、20%湿度下の両条件に3日間、合紙を挟まないで平版印刷版原版を重ね保存した。その後、得られた平版印刷版原版を、Creo社製Trendsetter 800QTMにて、解像度2400dpi、外面ドラム回転数360rpmで照射エネルギーを変化させて露光した。露光後、岡本化学社製現像液(DJN)を4倍希釈し、PK−1310II自動現像機を用いて30℃ 12秒で現像処理した。この時、低温保存品(25℃ 40%湿度)と比較し感度低下しなければ合格とした。
【0079】
7.現像カステスト
得られた平版印刷版原版(800x1100mm)を露光せず、岡本化学社製現像液(DJN)を4倍希釈し、PK−1310II自動現像機を用いて30℃ 12秒で4000版現像処理した。その後、処理液を抜き、現像槽内の堆積物が少なければ合格とした。
【0080】
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた平版印刷版原版の各評価結果を表1に示す。
【表1】

【0081】
表1から明らかなように、実施例1〜3にかかる保護層形成用組成物は、特定ポリビニルアルコールと特定レシチンと特定な大きさのマット剤とを含有することによって、結果として得られたサーマルネガ版用平版印刷版原版は高感度、FM適正、耐キズ性、光被り性、離型性、強制保存性、現像カスの少なさにおいて、比較例1〜5よりも優れていることがわかった。また、実施例4にかかる保護層形成用組成物は、さらにコロイダルシリカを含有することによって、結果として得られたサーマルネガ版用平版印刷版原版は高感度、FM適正、耐キズ性、光被り性、離型性、強制保存性、現像カスの少なさにおいて、比較例1〜5よりも優れており、特に耐キズ性においては、比較例1〜5よりもより優れていることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版原版の感光層を保護する保護層を形成するための組成物であって、
けん化度91モル%以上でスルホン酸変性率1%以下のポリビニルアルコールと、水素添加レシチンと、平均粒径が1〜10μmのマット剤とを少なくとも含有する保護層形成用組成物。
【請求項2】
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル界面活性剤を含有する請求項1に記載の保護層形成用組成物。
【請求項3】
支持体上に、感光層と、請求項1又は2に記載の保護層形成用組成物から形成され、前記感光層を保護するための保護層とを備えた平版印刷版原版。


【公開番号】特開2011−53348(P2011−53348A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200672(P2009−200672)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(390026435)岡本化学工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】