説明

信号ループ試験のための方法および装置

本発明は、トランシーバ(1)を利用したループ(2、3)のシングル・エンド試験に関するものであり、ループの入力インピーダンス(Zin(f))が生成される。トランシーバ(1)は、デジタル部(41)、コーデック(42)、およびアナログ部(43)を備え、ループに接続される。送信されたブロードバンド信号および反射されたブロードバンド信号(vin、vout)を利用して、エコー伝達関数Hecho(f)=V(f)out/Vin(f)が生成され、これは、数式(1)で表すこともできる。ここでZh0(f)、Zhyb(f)、およびHε(f)は、トランシーバ(1)に対するモデル値である。較正プロセスでは、トランシーバ(1)と同じタイプのハードウェアを備える試験トランシーバが、知られているインピーダンスに接続され、ループ(2、3)を置き換える。知られているインピーダンスについてHecho(f)=V(f)out/Vin(f)が生成され、モデル値が生成され、トランシーバ(1)のメモリ(11)内に格納される。格納されたモデル値は、その後、ブロードバンド信号(vin、vout)の測定が実行されてから、ループ(2、3)に対する入力インピーダンス(Zin(f))が生成される時に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号線のシングル・エンド試験の分野における方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の電気通信では、経済的な観点から、ブロードバンド伝送には基本的に既存の銅線が使用される。これらの銅線は、ツイストペア銅ループまたは銅アクセス・ラインと呼ばれることが多いが、ブロードバンドの観点からは、それらの中で特性が大きく異なる。したがって、電気通信事業者は、伝送能力をフルに利用できる線路の特性を試験することに大きな関心を持っている。これらの説明は、Walter Goralski: "xDSL Loop Qualification and Testing"、IEEE Communications Magazine、May 1999、79-83頁でされている。この文献では、さらに、試験の可能性および試験機器についても説明している。
【0003】
銅線の伝送特性は、Jose E. Schutt-Aine:"High-Frequency Characterization of Twisted Pair Cables"、IEEE Transactions on Communications、Vol.49、No.4、April 2001の中でさらに詳しく説明されている。高ビットレート・デジタル加入者回線ツイストペアケーブルの伝搬パラメータは、波動伝搬法モデルにより抽出される。伝送線の特性における周波数依存および表皮効果の影響について研究されている。
【0004】
線路の伝送特性の試験は、線路の一端から試験信号を送信し、他端でそれを測定することにより実行できる。これはいわゆるダブル・エンド試験である。その方法は、人手を要するし費用もかかる。より頻繁に使用される方法は、試験信号を線路の一端から送信し、反射したパルスを測定する、いわゆるシングル・エンド・ループ試験、SELTである。Stefano Galli and David L Waring: "Loop Makeup Identification Via Single Ended Testing: Beyond Mere Loop Qualification"、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、Vol.20、No.5、June 2002の中で、さまざまな種類の線路切断およびシングル・エンド試験に関連して発生するエコーの影響について説明されている。エコーを取り扱う数学的方法が提示され、また、方法の実験的妥当性確認も行われている。
【0005】
シングル・エンド試験では、トランシーバを試験対象のループの測定装置の一部として使用すると都合がよい。ブロードバンド通信トランシーバは、理想的な電圧源ではなく、測定には歪みを伴う。この歪みを取り除く方法については、Thierry Pollet: "How is G.selt to specify S11(calibrated measurements)?"、ITU Telecommunication Standardization Sector、Temporary Document OJ-091、Osaka、Japan 21-25 October、2002の標準化論文で説明されている。較正時に生成されるトランシーバ・パラメータを含む、1ポート素子の散乱パラメータS11に基づく較正方法が提示されている。さらに、Thierry Pollet: "Minimal information to be passed between measurement and interpretation unit"、ITU Telecommunication Standardization Sector、Temporary Document OC-049、Ottawa、Canada 5-9 August、2002の標準化論文の中で、1ポート素子の散乱パラメータS11が説明されている。
【0006】
【非特許文献1】Walter Goralski: "xDSL Loop Qualification and Testing"、IEEE Communications Magazine、May 1999、79-83頁
【非特許文献2】Jose E.Schutt-Aine: "High- Frequency Characterization of Twisted-Pair Cables"、IEEE Transactions on Communications、Vol.49、No.4、April 2001
【非特許文献3】Stefano Galli and David L Waring: "Loop Makeup Identification Via Single Ended Testing: Beyond Mere Loop Qualification"、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、Vol.20、No.5、June 2002
【非特許文献4】Thierry Pollet: "How is G.selt to specify S11 (calibrated measurements)?"、ITU Telecommunication Standardization Sector、Temporary Document OJ-091、Osaka、Japan 21-25 October、2002
【非特許文献5】Thierry Pollet: "Minimal information to be passed between measurement and interpretation unit"、ITU Telecommunication Standardization Sector、Temporary Document OC-049、Ottawa、Canada 5-9 August、2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、銅アクセス・ラインのシングル・エンド試験に対するトランシーバの影響を補正する方法に関する問題を対象とする。
【0008】
他の問題としては、補正に関するトランシーバ値を生成し、格納する方法の問題がある。
【0009】
さらに他の問題は、アクセス・ラインの信頼できる入力インピーダンスを発生することである。
【0010】
これらの問題は、標準的なブロードバンド通信トランシーバである試験トランシーバを較正することにより解決され、トランシーバ・モデル値を生成する。これらの値は、ループに接続されている送信器内に通信目的のために格納され、そこで使用される。試験信号は、ループによって反射するが、通信トランシーバで測定され、ループ試験結果が得られる。通信トランシーバ自体によるこの結果に対する影響は、格納されているトランシーバ・モデル値を利用して補正される。
【0011】
さらに詳細にいうと、これらの問題は以下のようにして解決される。それぞれ知られている値を持つ少なくとも3つの試験インピーダンスが試験トランシーバに接続される。試験信号は、トランシーバおよび試験インピーダンスを通じて送信され、反射されたトランシーバ試験信号が測定される。試験トランシーバ自体のトランシーバ・モデル値は、生成され格納される。実際の未知の線路を使用するループ試験は、通信トランシーバとともに実行され、格納されているトランシーバ・モデル値を利用して補正される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、銅アクセス・ラインのシングル・エンド試験に対するトランシーバの影響を補正することである。
【0013】
他の目的は、補正に関するトランシーバ値を生成し、格納することである。
【0014】
さらに他の目的は、アクセス・ラインの信頼できる入力インピーダンスを発生することである。
【0015】
本発明の利点は、銅アクセス・ラインのシングル・エンド試験に対するトランシーバの影響を補正することである。
【0016】
他の利点は、補正に対するトランシーバ値を生成し、格納することができ、試験されているハードウェアと同じハードウェアに基づいて、すべての標準ブロードバンド・トランシーバについて適用することができる点である。したがって、実際のトランシーバを構成するという費用のかかる手順が排除される。
【0017】
さらに利点として、生成されたトランシーバ値は理解しやすい意味を持つという点があげられる。
【0018】
さらに他の利点は、アクセス・ラインの信頼できる入力インピーダンスを発生できることである。
【0019】
さらに他の利点は、試験トランシーバは、通信目的のために使用されるトランシーバのうちのどれでもよいことである。
【0020】
以下、添付の図面を参照しつつ、実施形態を通じて、本発明を詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、デジタル加入者回線2(DSL)を介して顧客の施設のリモート・デバイス3に接続されている、中央局のトランシーバ1の単純なブロック図を示している。トランシーバは、デジタル部41、コーデック42、およびアナログ部43、いわゆるアナログ・フロント・エンドAFEを備える。次に、デジタル部は、デジタル信号発生器13およびメモリデバイス12と相互接続されている計算デバイス11を備える。トランシーバ1は、さらに、入力63および出力64を持つ。発生器は、計算デバイス11に接続されており、コーデック42、アナログ43、および線路2を介して、ブロードバンド入力ループ試験信号vinをリモート・デバイス3に送信する。反射されたブロードバンド・ループ試験信号voutは、アナログ部およびコーデックを介して線路2から計算デバイスで受信される。線路2は、長さLの従来の銅線であり、異なる周波数範囲の信号減衰などのいくつかの特性を持つ。
【0022】
上述のように、ネットワーク事業者がブロードバンド伝送用の既存銅線2を利用できることが不可欠である。したがって、事業者は、長さL、信号減衰、および伝送容量などの線路特性を知っていなければならない。これらの特性は、通常、測定した後に決定されなければならないが、これは、いわゆるシングル・エンド・ループ試験SELTとして線路のトランシーバ端から都合よく実行される。これらのパラメータは、送信され反射された試験信号を使用して評価することができるライン入力インピーダンスZin(f)に関係する。そのような測定目的のために送信されるブロードバンド・ループ試験信号vinは、線路2上で反射されて戻り、ループ試験信号voutと示される。後述のように、信号vinおよびvoutは、線路2の特性を決定する際に使用される。
【0023】
事業者側で実際に知る必要があるのは、トランシーバ・インターフェイス5から測定され、トランシーバ1自体とは独立している、リモート・デバイス3を含む線路2の入力インピーダンスZin(f)である。必要な線路特性を得る第1のステップは、実際の線路2のエコー伝達関数Hecho(f)を生成することである。これは、ブロードバンド信号vinおよびvoutの周波数変換を実行して計算され、周波数領域内の信号Vin(f)およびVout(f)が得られる。伝達関数は、関係式
echo(f)=Vout(f)/Vin(f) (1)
により生成される。ただし、周波数はfで表される。
【0024】
いうまでもないことであるが、関数Hecho(f)は、トランシーバ1の特性を含む。以下ではこのことを、線路2の必要な線路特性を周波数依存エコー伝達関数Hecho(f)を利用して求める実施例により説明する。まず、トランシーバのアナログ部43を、図2を参照して詳しく説明する。これは、トランシーバ1を特徴付けるという難題を単純な方法で解明するのに役立つ。
【0025】
図2は、図1のアナログ・トランシーバ部43および線路2の簡素化されたブロック図であるが、図1よりも少し詳しい。アナログ部43は、増幅器ブロック6、ハイブリッド・ブロック7、検出抵抗器RS、およびライン・トランス8を備える。増幅器ブロック6は、入力が図示されていないコーデック42を介してデジタル生成器13に接続されているドライバ61を備える。Iは、さらに、線路2からの信号を受信し、図示されていないトランシーバ・デジタル部41に接続された出力を持つ受信器62を備える。ドライバ出力は、検出抵抗器RSに接続され、その端子は、ハイブリッド・ブロック7に接続されている。後者は、4本の抵抗器R1、R2、R3、R4を備え、受信器62の入力に接続されている。ライン・トランス8は、1つの一次巻線L1およびキャパシタC1により相互接続された2つの二次巻線L2およびL3を備える。一次巻線L1は、検出抵抗器RSに接続され、二次巻線L2およびL3は、線路2に接続される。インターフェイス5の周波数依存ライン入力インピーダンスは、Zin(f)で表され、トランスの一次側の入力インピーダンスはZLと表される。線路2の遠端であるリモート・デバイス3の終端は、インピーダンスZAにより表される。
【0026】
信号vinは、現在は、コーデック42からのアナログ形式であるが、ドライバ・ブロック61内で増幅される。ドライバの出力インピーダンスは、検出抵抗器RSからのフィードバック・ループにより合成される。ライン・トランス8には、ドライバからループへの電圧上昇がある。キャパシタC1は、DCブロッキング関数を持つ。トランスおよびキャパシタは、ドライバ61/受信器62と30kHzを中心とする遮断周波数を持つループ2、3との間のハイパス・フィルタとして機能する。この場合、ループへのガルバニック・アクセス (galvanic access) は可能でない。
【0027】
この説明では、エコー伝達関数Hecho(f)の周波数領域モデルは、インターフェイス5のところのトランシーバ1からわかるように、ループ2および3の周波数依存入力インピーダンスZin(f)を計算するために使用される。その後、この入力インピーダンスは、いくつかのループ修飾パラメータ (loop qualification parameters) を計算するために使用することができる。エコー伝達関数Hecho(f)のこの周波数領域モデルは、トランシーバ1に関係する3つのパラメータZh0(f)、Zhyb(f)、H(f)を含む。パラメータ、トランシーバ・モデル値は、この観点からトランシーバを完全に表現する。
【0028】
パラメータZh0(f)、Zhyb(f)、H(f)は元々、トランシーバの回路から分析により演繹されたものである。分析ではいくつかの小さな簡略化が行われているが、モデルは非常に正確であることが実証されている。添付の付録1「DAFE708のエコー伝達関数のシミュレーション」では、エコー伝達関数Hecho(f)のモデルの導出の仕方が示されている。
【0029】
これらのパラメータの値は、通常、トランシーバのコンポーネント値から直接計算されず、以下で説明するように、較正プロセスにおける測定から生成される。
【0030】
前の方で取りあげた非特許文献4では、散乱パラメータS11は、トランシーバの3つのパラメータC1、C2、C3で表されている。これらのパラメータとこの説明のトランシーバ・モデル値Zh0(f)、Zhyb(f)、H(f)とを混同すべきではない。パラメータC1、C2、C3は無次元量であり、具体的な意味を与えられていないが、これらを使用するとトランシーバをうまくモデル化できる。この説明のトランシーバ・モデル値は、分析で認識され、直接解釈することができる。
【0031】
値H(f)は、線路2との開接続を持つ、つまりライン・インピーダンスが無限大である場合のトランシーバ1に対する周波数依存エコー伝達関数である。
【0032】
値Zhyb(f)は、線路2との接続部で測定されるようなトランシーバ・インピーダンス、つまり、線路側から見たインターフェイス5のところのトランシーバ・インピーダンスである。
【0033】
値Zh0(f)は、Zh0(f)=H0(f)・Zhyb(f)と表すことができ、値H0(f)は、線路2ショートカットとの接続を持つトランシーバ1の周波数依存エコー伝達関数であり、値Zhyb(f)は上で定義されているものである。
【0034】
トランシーバ・モデル値は、直接測定されず、後述のように1つのプロセス内で生成されることに注意されたい。
【0035】
式(1)のエコー伝達関数Hecho(f)は、以下のように表すことができる。
【0036】

【0037】
ただし、Zin(f)は、周波数fの関数として前の方で述べた線路2の入力インピーダンスであり、Zh0(f)、Zhyb(f)およびH(f)は、複素ベクトルであり、上述のトランシーバ・モデル値である。
【0038】
特定のトランシーバ・バージョンの較正測定の後、そのベクトルを決定することができる。その後、これらのベクトル、トランシーバ・モデル値は、例えば、測定されたバージョンのトランシーバのソフトウェア、例えば、トランシーバ1のメモリ12に事前に格納される。その後、モデル値は、最初は未知の特性を持つ線路2のループ試験に使用される。
【0039】
図3に関して、較正測定の実行方法について述べる。図は、試験トランシーバ31を示しており、これは、線路2のインターフェイス5のところで、異なる事前に決定された値の試験インピーダンス9に接続される。メモリ33を備える測定デバイス32は、試験トランシーバの入力63および出力64に接続される。測定デバイス32は、制御信号VC1を試験トランシーバ31に送信し、それを起動して、ブロードバンド・トランシーバ試験信号vtinを試験インピーダンス9の値毎に1つずつ発生する。反射された出力トランシーバ試験信号vtoutは、試験トランシーバに受信され、これは対応する制御信号VC2を測定デバイスに送信する。完全な測定には、3つの選択されたインピーダンス値の測定が必要である。その後、エコー伝達関数Hecho(f)が、関係式(1)に従って生成される。
【0040】
較正用に3つのインピーダンス値を使用することで、十分トランシーバ値を生成できる。より正確な値を求めるために、3つよりも多いインピーダンスを使用することができる。これにより、過剰決定方程式系 (overdetermined equation system) が得られる。較正用の試験インピーダンス9の一組の標準値の例は、開回路、短絡回路、およびループの予想値に対応するインピーダンス値、例えば100Ωである。純粋に抵抗性のコンポーネントに対する値は、通常、制限周波数、例えば、1MHzまでのみ有効であることに留意されたい。さらに高い周波数では、「抵抗性」コンポーネントのインピーダンス値を測定することを推奨する。
【0041】
測定されたトランシーバ31の3つの複素ベクトルZh0(f)、Zhyb(f)、H(f)の生成は、以下のようにして実行される。関係式(2)の中のエコー伝達関数のモデルは、
【0042】

【0043】
または、同等の式Ax=bとして表すことができるが、ただし

である。
【0044】
方程式系Ax=bは次式で示される。
【0045】

【0046】
異なる種類の入力終端9とともに上で説明されているように測定された伝達関数Hecho(f)の値を使用することにより、ベクトルxを解くことができる。ベクトルxのこうして生成された較正された値は、例えば、測定デバイス32のメモリ33または測定されたバージョンのトランシーバのメモリ12に格納される。A、x、bは、通常、複素数値であり、周波数依存であることに注意されたい。
【0047】
実際の未知の線路2に対するエコー伝達関数Hecho(f)の測定の後、インターフェイス5のところでトランシーバ1から見たその入力インピーダンスは以下のように発生することができる。
【0048】

【0049】
要約すると、トランシーバ1に似たトランシーバの特定のハードウェアが、最初に較正される。これは、インピーダンス9およびトランシーバ試験信号vtinおよびvtoutを利用して試験トランシーバ31について実行される。ベクトルxが計算され、ベクトルxの値は格納され、同じハードウェアを持つあらゆるトランシーバに対し使用されることができる。その後、エコー伝達関数Hecho(f)は、ループ試験信号vinおよびvoutを利用して未知の特性を持つ線路2についてトランシーバ1により測定される。その後、トランシーバ・インターフェイス5から見た、線路2の周波数依存入力インピーダンスZin(f)が生成される。
【0050】
上述の実施形態では、トランシーバ試験信号vin、vout、およびループ試験信号vin、voutは両方ともブロードバンド信号であった。線路の較正および測定の両方に対しあらゆる所望の周波数幅の信号を使用することが可能である。較正およびループ試験は、もちろん、選択された周波数範囲についてのみ有効である。トランシーバ・モデル値は、トランシーバ1のメモリ12内に格納されることを述べている。自明な代替方法では、例えば線路2の入力インピーダンスZin(f)の生成に必要な場合にメモリ33または何らかの中央コンピュータ内のメモリに値を格納し、それらの値をトランシーバ1に送信する。さらに、この説明では、試験トランシーバ31および通信目的のためのトランシーバ1について言及されている。試験トランシーバ31は、1つの同一ハードウェアに基づく一組のトランシーバのどれでもよい。試験トランシーバは、自明な方法で通信目的に使用されるようにできる。
【0051】
トランシーバ・モデル値の上記の生成および線路2のインピーダンス値の生成については、図4および5のフローチャートを用いて簡単に説明する。
【0052】
図4には、トランシーバ・モデル値の生成および格納が示されている。この方法は、ステップ601から始まり、試験目的用のトランシーバ31の選択を行う。ステップ602で、所定の値を持つインピーダンス9が選択され、ステップ603で、そのインピーダンスは、試験トランシーバ31の線路接続部に接続される。ステップ604で、トランシーバ試験信号vtinは、トランシーバ31を通じて線路2に送信される。さまざまなアプリケーションに使用することができるトランシーバ・モデル値を取得するために、試験信号はブロードバンド信号である。信号は、リモート・デバイス3により反射され、トランシーバ31に渡された後、ステップ605でトランシーバ試験信号vtoutとして受信される。ステップ606で、エコー伝達関数Hecho(f)は、最初に信号vinおよびvoutを周波数領域に変換した後、実際のインピーダンス9について計算デバイス32内で生成される。ステップ607では、十分な数のインピーダンス9に対する測定が行われ、トランシーバ・モデル値Zh0(f)、Zhyb(f)、H(f)が生成できるかどうかを判断する。一方のNO1では、他のインピーダンス9がステップ602で選択される。他方の選択肢YES1では、トランシーバ・モデル値Zh0(f)、Zhyb(f)、H(f)がステップ608で生成される。ステップ609で、ベクトルx、つまり、トランシーバ・モデル値は、メモリ33に格納される。次に、通信目的のトランシーバ1がステップ610で選択される。ステップ611で、トランシーバ・モデル値Zh0(f)、Zhyb(f)、H(f)は選択されたトランシーバ1に伝送され、メモリ12内に格納される。
【0053】
図5は、線路2とのトランシーバ・インターフェイス5における周波数依存ライン入力インピーダンスZin(f)の発生を示している。ステップ701で、通信目的のためのトランシーバ1は、リモート・デバイス3とともに線路2に接続される。ステップ702で、ループ試験信号vinが送信される。ループ試験信号voutは線路2により反射されると、トランシーバにより受信され、ステップ703で測定される。ステップ704で、周波数依存エコー伝達関数Hecho(f)が計算デバイス11内に生成される。格納されているトランシーバ・モデル値およびステップ705のエコー伝達関数を利用して線路2の周波数依存インピーダンス値Zin(f)がデバイス11内に生成される。この生成は、関係式(4)に従って実行される。
【0054】
付録1

DAFE708のエコー伝達関数のシミュレーション
摘要

目的

アプリケーション

目次
1 はじめに
2 記号解析のシミュレーション・モデル
2.1 加入者回線ケーブル
2.2 ライン・トランス
2.3 帯域外フィルタ
2.4 ライン・ドライバ/受信器
3 エコー伝達関数とループ・インピーダンス
4 エコー・インパルス応答
5 付録A-シミュレーション・モデルの検証
6 参考文献
【0055】
はじめに
DAFE708ユニットは、Broadcom BladeRunnerチップセット(DSPおよびCODEC)および10個のアナログ・ライン・インターフェイスを含む。ライン・インターフェイスは、Infineonライン・ドライバ/受信器PBM39714を中心に設計されている。シングル・エンド・ループ試験(SELT)アルゴリズムを試験し、製造試験機能を調査するために、アナログ・フロント・エンドのシミュレーション・モデルを用意すると有用であろう。これを使用すると、ライン・インターフェイスだけでなくPCB上の内部コンポーネントに接続されている外部付加またはループを変更した場合の影響を調べることは容易である。
【0056】
以下では、記号式に基づくそのようなモデルは、DAFE708のアナログ部分について開発されている。主要な目的は、エコー伝達関数Hechoの評価に使用することができる式を導くことである。
【0057】

【0058】
考察対象の回路は、Figure 1に示されている。アナログ部は、3つのブロック − PBM 39714ドライバ/レシーバ/エコー・キャンセラ、帯域外ノイズ抑圧フィルタ、そして、ライン・トランス に分けられる。CODEC出力は、定電圧源einと仮定される。2つの直列キャパシタが、CODEC出力とライン・ドライバとの間に挿入される。エコー伝達関数は、Hecho=vout/einとして定義されるが、ただし、voutは、CODEC入力で受信された出力電圧である。CODEC入力は、24kΩの差動負荷インピーダンスを持つ。図に示されているキャパシタC4、C5、およびC6は、受信器出力の何らかのローパスおよびハイパス・フィルタ処理を実行するために挿入される。
【0059】
以下では、それぞれのブロックが分析され、記号式が定式化される。最後に、これらの式を結合して、エコー伝達関数を生成することができる。Hechoを評価する前に、加入者回線ループの入力インピーダンスZINを計算しなければならない。これは、ケーブルの一次定数、ループ長、および遠端の終端に関する知識を必要とする。
【0060】
2 記号解析のシミュレーション・モデル
2.1 加入者回線ケーブル
加入者回線ループの入力インピーダンスは、ETSIループの一次定数に関して付録A参考文献[1]の中の式を使用して計算される。一次定数が見つかったら、二次定数が以下の式で与えられる。
【0061】

【0062】
その後、長さdのループの連鎖行列は以下の式で与えられる。
【0063】

【0064】
遠端の終端ZTが与えられると、入力インピーダンスZINは、以下の式を使用して計算することができる。
【0065】

【0066】
2.2 ライン・トランス
【0067】

【0068】
ライン・トランスは直列キャパシタC1と合わせて、Figure 2に示されている。4つの巻線L1、L2、L3、およびL4は、すべて、同じ磁心に配置され、密結合されている。L1とL2の巻き数は等しく、L3とL4の巻き数は等しいと仮定されている。
【0069】
差動平衡ポート信号のみを考えた場合、特性の導出が簡単に行えるようにトランスの回路図は簡素化できる。
【0070】

【0071】
4巻き対称トランスは、Figure 3に示されているように2つの単一トランスに分割される。それぞれのトランスは、理想トランスと2つのインダクタL1(L2)およびL1s(L2s)からなる等価回路により置き換えられる。理想トランスの巻き数比Nは元のトランスと等しい。理想トランスは、Figure 3に示されているようにトランスの端子電圧および電流に制約を課す。
【0072】
インダクタL1(L2)は、線路側の主インダクタンスを表し、このインダクタンスは、実際には、線路側で測定された開回路インダクタンスの半分である。L1s(L2s)は、漏れインダクタンスを表し、線路側で測定された短絡回路インダクタンスの半分である(両方ともC1が短絡されている)。
【0073】
ライン・トランスの連鎖行列を見つけるために、Figure 3に示されているポート電圧および電流が考察される。この回路の方程式は以下のとおりである。
【0074】

【0075】
2つの単一トランスが同じ(L1=L2)であると仮定すると、i=i、およびv=vである。これと式3から6とを合わせて使用し、v、v、i、iを式1および2から消去する。
【0076】
第2の式から、代入後以下の式が得られる。
【0077】

【0078】
この式は、代入とともに第1の式に内に入れられる。整理した後、結果は以下のようになる。
【0079】

【0080】
連鎖行列は以下のように定義される。
【0081】

【0082】
最後の2つの式と比較して、ライン・トランスの連鎖パラメータが得られる。
【0083】

【0084】
ただし、L=L+LおよびL=L1s+L2sを線路側でそれぞれ測定された主インダクタンス合計および漏れインダクタンス合計として導入した(Cは短絡)。
【0085】
リリースR1.1の実際のコンポーネント値は、以下のとおりである。
=2.1mH、L=2μH、C=33nF、N=2.0
【0086】
これらの値を持つ4つの連鎖パラメータの大きさは、Figure 4に提示されている。
【0087】

【0088】
2.3 帯域外フィルタ
ADSL帯域よりも上のノイズおよび歪みの高調波を抑制するために、ライン・ドライバとライン・トランスとの間に帯域外フィルタを導入する必要がある。OOBフィルタは、Figure 5に示されている以下の構成を持つ。
【0089】

【0090】
直列分岐インピーダンスは、LF1=LF2と仮定してZ1=Z2=sLF1である。分路のインピーダンスは以下のとおりである。
【0091】

【0092】
2=0とし、電圧vを印加すると、以下の式が得られる。
【0093】

【0094】
このインピーダンスに対する式を方程式に代入すると、結果は以下のようになる。
【0095】

【0096】
2=0とし、電流i1を印加すると、v2=Z31またはi=v2/Z3が得られる。
【0097】

【0098】
2=0とし、電圧vを印加すると、
2=v1/2LF1sまたはv1=2LF1s・i2
が得られる。
2=0とし、電流i1を印加すると、
2=i1またはi1=i2
が得られる。
【0099】
連鎖行列は以下のように定義される。
【0100】

【0101】
上で導いた式と比較して、OOBフィルタの連鎖パラメータが得られる。
【0102】

【0103】
リリースR1.1の実際のコンポーネント値は、以下のとおりである。
F1=LF2=680μH、LF3=270μH、CF3=4.7nF
これらの値を持つ4つの連鎖パラメータの大きさは、Figure 6に提示されている。
【0104】

【0105】
加入者回線ループの入力インピーダンスZINが知られている場合、Figure 1に示されているAFEのドライバ負荷インピーダンスZLは、以下の式から求められる。
【0106】

【0107】
4つの係数は、OOBフィルタの連鎖行列とライン・トランスの連鎖行列との乗算により得られる。
【0108】

【0109】
加入者回線ループが100Ωの抵抗器で置き換えられた場合、負荷インピーダンスZLは、Figure 7に例示されているように表される。
【0110】

【0111】
理想的な場合には、ZLは、100Ω/N=25Ωで与えられるが、これは、ほぼ100kHzから1MHzまでの間の場合にすぎないことがわかる。低い周波数でのピーキングは、ライン・トランスと線路側の直列キャパシタとにより引き起こされる。OOBフィルタの直列共振回路は2MHzでの最小値に関与する。
【0112】
2.4 ライン・ドライバ/受信器
【0113】

【0114】
アナログ・フロント・エンド(AFE)は、PBM39714ライン・ドライバ/受信器のライン・トランスおよびOOBフィルタ、および少数の外部コンポーネントから隔たっている。PBM39714は、エコー・キャンセラ・ブリッジを含む差動モード・ライン・ドライバおよび受信器である。デバイスの好適なモデルがFigure 8に示されている。入力端子は、入力抵抗器RA6およびRB6がつながったTVPおよびTVNである。増幅された送信信号は、ドライバ出力端子DR1とDR2との間に現れる。RSA、CSA、およびRSHA(RSB、CSB、およびRSHB)からなる検出インピーダンス回路網Zsはドライバ出力と直列に配置される。検出インピーダンス回路網の端子に現れる電圧は、端子SA1およびSB1(SA2およびSB2)の2つの3kΩの抵抗器を通じて電流に変換される。電流は、2つの電流制御電流源FA1およびFA2(FB1およびFB2)により減算される。差電流は、検出インピーダンス回路網にかかる電圧またはZsを掛けたドライバ出力電流を表す。この電流は、ドライバ出力電圧を制御するためフィードバックされる。その結果、ドライバ出力インピーダンスは、Zsに実スケール係数Kを掛けた値に等しくなる。制御電流源FA3(FB3)を通る第2のフィードバック経路を使用して、ドライバ出力段の送信利得を設定する。
【0115】
エコー・キャンセラは、抵抗ブリッジRA7、RA8、RB7、およびRB8からなる。負荷インピーダンスZLが検出インピーダンスK*Zsに一致する場合、出力端子RPとRNとの間のエコー信号は、ブリッジの選択された抵抗比の場合に0であるのが理想的である。
【0116】
受信経路は、純粋に受動的である。ライン・トランス間で受信された信号は、ブリッジ抵抗器RA8およびRB8を通じて検出されるが、そこでは、信号は端子RPとRNとの間に現れる。しかし、エコー・キャンセラは、さらに、受信された信号にも影響を及ぼす。並列キャパシタCRおよび2つの直列キャパシタCRPおよびCRNは、受信器出力インピーダンスおよびCODEC入力インピーダンスと合わせて出力フィルタを構成する。
【0117】
エコー伝達関数の記号式を導くために、Figure 9のライン・ドライバ/受信器の簡素化された不平衡モデルが使用される。回路の詳細な解析は、参考文献[2]に提示されている。
【0118】

【0119】
エコー伝達関数Hecho(f)は、Hecho=vout/einにより与えられる。これは、以下のようにも書ける。
【0120】

【0121】
ただし、vout/v'outは、出力フィルタの伝達関数である。
【0122】
以下の方程式は、Figure 9の回路に適用される(参考文献[2]のセクション2.3も参照)。
【0123】

【0124】
代入により、以下の式を導くことが可能である。
【0125】

【0126】
次に、v2を消去して、以下の式で表されるv3を見つけることが可能である。
【0127】

【0128】
2とv3との第1の関係式を使用して、v2を以下のように表すことが可能である。
【0129】

【0130】
そして、最後の2つの式をv'outの方程式に代入して、以下の式を得る。
【0131】

【0132】
5=R8およびR7=R6と仮定すると、以下のように整理することができる。
【0133】

【0134】
8/R6=1+Zs/ZL1の場合v'out=0であることがわかる(エコー・キャンセル)。
【0135】
伝達関数v'out/einは以下のように表すこともできる。
【0136】

【0137】
そこで、係数を、最後の2つの式を比較することにより識別することができる。
【0138】
すると、以下の式が得られる。
【0139】

【0140】
エコー伝達関数を見つけるために、出力フィルタHout=vout/v'outに対する伝達関数を導出する必要がある。Figure 9のフィルタ回路を考察することにより、以下への伝達関数を計算することが可能である。
【0141】

【0142】
エコー伝達関数Hechoを以下のように書く。
【0143】

【0144】
乗数はG=G1*Houtであるが、他の係数は変更なしであることがわかる。
【0145】
echoに対する式で計算するために、周波数依存量Z1、Zs、およびμが必要である。
【0146】
1は以下の式で与えられる。
【0147】

【0148】
検出インピーダンスZsは、以下の式で与えられる。
【0149】

【0150】
開ループ利得μは、DC利得μ0により決定され、コーナー周波数は、抵抗器RμおよびキャパシタCμにより与えられる。
【0151】

【0152】
これらの修正を考慮して、Hechoの係数は、最後に、以下のように識別することができる。
【0153】

【0154】
リリースR1.1の実際のコンポーネント値は、以下のとおりである。
1=2.2kΩ、C1=2.2nF、ain=−4.0、ZA=1、Rμ=1kΩ、Cμ=15nF、μ0=10+6
1=2.84、a2=0.5、R=3kΩ
s1=15Ω、Rs2=2.7Ω、Cs2=680nF、R6=1.27kΩ、R8=1.5kΩ
R1=R6//R8=687.7Ω、RR2=12kΩ、CR=2*680pF=1.36nF、CRP=1.5nF
負荷インピーダンスZL1が既知の場合、エコー伝達関数は以下の式から計算できる。
【0155】

【0156】
この式の中のZL1は、セクション2.3で計算されたインピーダンスZLの半分でしかないことに注意されたい!これは、Hechoの式が、不平衡バージョンのAFE回路に基づいているからである。
【0157】
加入者回線ループが100Ωの抵抗器で置き換えられる場合、対応するエコー伝達関数を以下に示す。
【0158】

【0159】
エコー伝達関数を計算する手順は、以下のように説明できる。
【0160】
1.選択されたタイプのケーブル(R、L、G、C)、ケーブル長(d)、および遠端の終端インピーダンス(ZT)の一次ケーブル・パラメータを見つける。ループZINの入力インピーダンスを計算する。
【0161】
2.ライン・トランスとOOBフィルタ・セクションの結合された連鎖行列およびループ・インピーダンスZINを使用することによりドライバ負荷インピーダンスZLを計算する。
【0162】
3.これで負荷インピーダンスZL1=ZL/2の場合、エコー伝達関数は、ライン・ドライバ/受信器PBM39714に対するHechoに対する式を使用することにより計算することができる。
【0163】
エコー伝達関数とループ・インピーダンス
エコー伝達関数は、前のセクション2.4で導出されており、以下のとおりである。
【0164】

【0165】
負荷インピーダンスZLは、セクション2.3で示されているように加入者回線ループの入力インピーダンスZINに関係する。
【0166】

【0167】
これをHechoに対する式の中に代入すると、少し整理した後以下の式が得られる。
【0168】

【0169】
echoを以下のように書く。
【0170】

【0171】
すると、以下の式が得られる。
【0172】

【0173】
IN→∞⇒Hecho→H=Y1/Y2であり、これは加入者回線ループが開回路で置き換えられた場合のエコー伝達関数である。
【0174】
IN=0⇒Hecho=H0=M1/M2であり、これは加入者回線ループが短絡回路で置き換えられた場合のエコー伝達関数である。
【0175】
2で割ると、Hechoは以下のようにも書ける。
【0176】

【0177】
ただし、Zhyb=M2/Y2およびZh0=M1/Y2である。
【0178】
実際のコンポーネント値を使用すると、4つの強調表示の関数を計算できる。結果は以下に示されている。
【0179】

【0180】

【0181】
echoに対する最後の式は以下のようにも書ける。
【0182】
echoIN+Hechohyb−HIN−Zh0=0
【0183】
エコー伝達関数Hechoが一組の適切な終端ZINで測定された場合、一組の方程式を考えて未知の係数Zhyb、Zh0、およびHについて解くことが可能である。これについて、参考文献[3]で詳述されている。係数Hは、ZIN→∞として1つの単一測定から直接求めることができる。2つの異なる抵抗性終端の場合、残りの係数ZhybおよびZh0を求めることも可能であろう。これらのパラメータは、Hechoが常にZINの双線形関数でなければならないためライン・トランスを含むアナログ・フロント・エンドを完全に特徴付ける。
【0184】
実際加入者回線ループがADSLモデムに接続されていれば、これで、ループの入力インピーダンスZINを導くことが可能である。これは、逆にHechoについての式にすることで求めることで得られる。
【0185】

【0186】
このアプローチは、参考文献[3]で詳述されている。
【0187】
手順は以下のように説明できる。
【0188】
1.開線路端子でエコー伝達関数を測定し、その結果をHとして保存する。
【0189】
2.少なくとも2つの抵抗性終端でエコー伝達関数を測定する(測定回数を増やせば精度が高まる)。
【0190】
3.パラメータZhybおよびZh0について解き、その結果を保存する。これで、較正手順は終了する。
【0191】
4.実際のループをADSLモデムに接続した状態でエコー応答を測定し、入力インピーダンスZINを計算する。
【0192】
5.次にこの入力インピーダンスZINを使用して、加入者回線ループを識別することができる。
【0193】
エコー・インパルス応答
測定されたエコー伝達関数は、対応するエコー・インパルス応答を導くために使用することができる。通常、エコー伝達関数は、有限数の離散周波数でのみ測定される。Hechoがナイキスト周波数よりも上で帯域幅制限されていると仮定すると、これは、時間離散値系のエコー伝達関数の期間であると考えることができる。Hechoは、2N周波数点でサンプリングされ、Hecho(kF)が得られるが、ただし、Fは、サンプル間の距離である。Hecho(kF)が複素共役対称でf=0を中心に展開された場合、その上で実行されるIFFTは、対応する時間離散エコー・インパルス応答hecho(kT)を発生する。
【0194】
典型的な加入者回線ループの場合、hechoは、時刻tの大きなピークが0に近い、パルス状波形を持つ。このパルスの後に、ライン・トランス・セクションで主に引き起こされる減衰振動が続く。この曲線上のどこかで、他の小さなパルス状波形が見える。これは、ループの遠端からの初期パルス波形の反射を表す。
【0195】
第1のパルスの発生と第2のパルスの発生との間の時間的距離を測定することにより、実際の加入者回線ループ内で行き来する遅延時間が求められる。ケーブルの伝搬速度が知られている場合、物理的ケーブル長dを計算することができる。
【0196】
第1のパルスと第2のパルスのエネルギー比を使用すると、この比はほぼexp(−2αd)なので、ケーブル損失を推定することも可能である。特定の周波数でのケーブル損失を評価するために、この部分がバンドパス・フィルタ・バージョンのエコー応答で実行され、最も都合がよい。詳細については参考文献[4]を参照のこと。
【0197】
しかし、AFEのアナログ・エコー・キャンセラが存在すると、このアプローチは後述のように疑わしい傾向がある。
【0198】
ケーブル長およびケーブル損失を求めるために必要なのは、加入者回線ループの入力時での入射パルス波形および反射パルス波形である。しかし、利用可能な情報は、受信器出力端子で測定されたエコー・インパルス応答である。したがって、測定されたインパルス応答を、受信器出力から線路端子またはライン・トランス入力と同じものに「変換」する必要がある。これは、以下のFigure 11およびFigure 12に例示されている。
【0199】

【0200】
参考文献[2]、2.3、またはセクション2.4の方程式から、AFE出力電圧v'3からCODEC入力電圧v'outへの以下の伝達関数が得られ、eline=0、ein≠0である。
【0201】

【0202】
これは、次のように整理できる。
【0203】

【0204】
eline≠0およびein=0のCODEC入力電圧v"outは、以下のように書ける(参考文献[2]、セクション2.4も参照)。
【0205】

【0206】
ein=0であれば、以下の式が得られる。
【0207】

【0208】
これを使用して、v2を消去することができ、すると伝達関数は以下のようになる。
【0209】

【0210】
関数HhechoおよびHrflは、出力フィルタ伝達関数Houtと乗算される。ここで関数間の比にしか関心がないので、これは省くことができる。
【0211】
rflは負荷インピーダンスZL1とは無関係であるが、入射信号の伝達関数Hincは、ZL1つまり加入者回線ループのインピーダンスに依存することに注意されたい。関数は両方とも周波数依存である。
【0212】
echo(t)で発生する、バンドパス・フィルタ・パルスのエンベロープを考えた場合、ライン・トランスでのエンベロープは以下の式として求められると仮定される。
【0213】

【0214】
推定ケーブル損失は以下のように計算される。
【0215】

【0216】
最後の項は、スケール係数|Hrfl/Hinc|の対数である。実際のコンポーネント値を使用することで、加入者回線ループが0.4mmであり、0.5mmPEケーブルである場合についてスケール係数を計算できる。この結果は以下に示されている。これらのグラフから、スケール係数は周波数依存であるが、加入者回線ループの特性インピーダンスにも依存することがわかる。したがって、すべての場合に対応する単一のスケール係数を求めることは可能でない。
【0217】
解析から、エコー・キャンセラは、反射波に相対的に入射波のエネルギーを下げることが示される。これは、実際にはエコー・キャンセラでの考え方である。弱いエコーを取り出すためのダイナミック・レンジは、近端エコーが抑制された場合に改善されるというのが利点である。欠点は、入射波のエネルギーを測定されたエコー応答から直接求められないという点である。
【0218】

【0219】
参考文献[4]は、スケール係数からの補正項が考慮されない場合にケーブル損失の推定にどれだけ誤差が入るかを示している。
【0220】
スケール係数の重要さを再び例示するために、シミュレーション・モデルを使用して、異なる長さの0.4mmPEケーブルについて300kHzでケーブル損失を推定する。参考文献[4]で説明されている手順がここで適用される。Figure 13では、エンベロープ損失は、入射波および反射波のエンベロープ間の比に基づく損失である。Figure 13から、0.4mm PEケーブルに対する300kHzのスケール係数は、約12.5または10.9dBである。この大きさのスケール係数項がエンベロープ損失に加えられた場合、ケーブル損失が現れる。最後に、ケーブルの公称ケーブル損失は、Figure 14でも比較のため掲載されている。
【0221】

【0222】
シミュレーション・モデルで、エコー・キャンセラを無効することが可能である。これを行うと、推定ケーブル損失に対し以下の結果が得られる。これから、エンベロープに対するエコー・キャンセラの影響がわかる。
【0223】

【0224】
付録A - シミュレーション・モデルの検証
DAFE708についてシミュレーション・モデル測定を検証するために、ユニットを実行した。CODECとライン・ドライバ/受信器との間の直列キャパシタは、CODEC側で断絶している。送信信号einは、50/100Ω平衡トランスを通じてキャパシタに印加される。受信側の直列キャパシタは、2個の12kΩの抵抗器を介してグラウンドに終端され、CODECの入力インピーダンスをシミュレートする。出力電圧voutは、高インピーダンス差動プローブ増幅器により測定される。異なるループをシミュレートするために、ケーブル・シミュレータがライン・インターフェイスに接続される。
【0225】
測定時に以下の機器が使用された。
EDA R1.1 IP DSLAM BFB40102/A1 P1B, 008037AC4EE9
DAFE 708-ROA 119 708付き
ネットワーク・アナライザ4395A Agilent FAA21372
Sパラメータ・アクセサリ・キット Agilent FAA21741
差動プローブ増幅器 Hewlett-Packard FAA
ケーブル・シミュレータ DLS400E Spirent FAA
【0226】
エコー伝達関数は、ネットワーク・アナライザにより測定される。シミュレートされたループの入力インピーダンスは、ネットワーク・アナライザに取り付けられたSパラメータ・アクセサリ・キットで測定される。
【0227】
まず、ケーブル・シミュレータの入力インピーダンスZINを、伝送線路公式から計算されたのと同じインピーダンスと比較する。長さ500mのオープンエンドの0.5mm PEケーブル(ETSIループ#2)に対する結果が以下のFigure 16に示されている。測定された結果と計算された結果との間にほとんど1MHzまでの妥当な一致があるように見える(位相角は500kHzまでのみ)。他のループ長についても類似の結果が観察される。
【0228】
以下のFigure 17では、ドライバ負荷インピーダンスZLは、ライン・トランスおよびOOBフィルタの結合された連鎖行列に対する式を使用することによりシミュレートされる。1)伝送線路バージョンのZINから計算されたZLと2)測定された入力インピーダンスZINから計算されたZLの2つの場合を比較する。ここでもまた、2組の結果はかなり互いに近い。
【0229】

【0230】

【0231】
次に、セクション2.4で導かれた式を使用してエコー伝達関数Hechoをシミュレートする。上述のドライバ負荷インピーダンスZLの2つの結果が、Hechoの計算に使用される。シミュレート・バージョンのHechoは、ネットワーク・アナライザで測定されたエコー伝達関数と比較される。結果はFigure 8に示されている。3つのグラフは、互いに最大1MHzまで近い。これは、Hechoが均等目盛でプロットされているFigure 19を見ると明らかであろう。
【0232】

【0233】

【0234】
これらの結果は、シミュレーション・モデルは、DAFE708ユニット上で測定できるものに十分に近い、エコー伝達関数を与えることを示しているように見える。しかし、ループ長が大きくなると、測定されたバージョンのHechoとシミュレートされたバージョンのHechoとの一致は、Figure 19およびFigure 20から明らかなように、あまり満足なものでなくなる。この食い違いの実際の理由は、完全には明らかにされていない。ただ、ループ長が大きくなると、負荷インピーダンスZLはスケーリングされた検知インピーダンスK*Zsに近づき、エコー損失が大きくなるという説明が考えられる。エコー損失が高いと、Hechoはライン・ドライバ/受信器のパラメータ値のわずかな変化に対してさえも非常に敏感になる。PBM39714に対するシミュレーション・モデルは、マクロモデルにすぎず、これでは、デバイスを完全には特徴付けないと思われる。
【0235】

【0236】
参考文献
[1] ETSI TS101388
伝送および多重化(TM)、金属アクセス・ケーブル上のアクセス伝送システム、非対称デジタル加入者回線(ADSL)− 欧州の仕様書、2002−05
[2] ANA2812B
PBM39714によるADSLのアナログ・フロント・エンド
[3] 4/0363−FCP105581
ループ試験および資格認定ワークショップ2002−03−21で導かれた数式
[4] ANA3255A
エコー・インパルス応答を使用したSELT
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】トランシーバおよび伝送線路の単純なブロック図である。
【図2】トランシーバおよび線路の一部の詳細なブロック図である。
【図3】既知の値のインピーダンスに接続されたトランシーバ上のブロックである。
【図4】トランシーバ特性値を生成するためのフローチャートである。
【図5】線路に対するインピーダンス値を生成するためのフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線 (2) のシングル・エンド試験における方法であって、
トランシーバ (31) を選択するステップと (601) と、
それぞれ所定の値のインピーダンス (9) を前記トランシーバ (31) の回線接続部 (5) に接続するステップと (603) と、
較正プロセスにおいて、前記インピーダンス (9) および試験信号 (vtin、vtout) を利用して前記トランシーバに対する較正値を生成するステップと
を含み、
前記インピーダンス (9) のうちの少なくとも3つを接続することを特徴とし、さらに、
前記少なくとも3つのインピーダンス (9) を使用して前記トランシーバ (31) について、周波数依存エコー伝達関数 (Hecho(f) ) を生成するステップ (606) と、
前記エコー伝達関数 (Hecho(f) ) および対応するインピーダンス値 (9) を利用してトランシーバ・モデル値 (Zh0 (f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を生成するステップ (608) と、
を有し、
前記モデル値は、開線路接続 (5) 、前記線路 (2) から見たトランシーバ・インピーダンス値 (Zhyb(f) ) 、および前記トランシーバ・インピーダンス値 (Zhyb(f) ) の積 (Zh0(f) ) を持つ前記試験トランシーバ (31) に対するエコー伝達関数 (H(f) ) 、および短絡回路接続 (5) を持つ前記トランシーバ (31) に対するエコー伝達関数 (H0(f) ) を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記較正プロセスを実行するために前記トランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を格納するステップ (609) を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試験トランシーバ (31) と同じタイプのハードウェアの通信目的のためのトランシーバ (1) を選択するステップ (610) と、
前記トランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を通信目的のために前記トランシーバ (1、12) に格納するステップ (611) と
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記信号線 (2) を含むループおよびリモート・デバイス (3) を前記トランシーバ (1、31) に接続するステップ (701) と、
前記接続されたトランシーバ (1) を介して、ループ試験信号 (vin) を前記線路 (2) に送信するステップ (702) と、
前記トランシーバ (1) を介して、反射された前記ループ試験信号 (vout) を測定するステップ (703) と、
前記ループ (1、2、3) のエコー伝達関数 (Hecho(f) ) 生成するステップ (704) と、
前記格納されているトランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) および前記生成されたエコー伝達関数 (Hecho(f) ) を利用して前記線路 (2) および前記リモート・デバイス (3) のインピーダンス値 (Zin (f) ) を生成するステップ (705) と
を有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ループ (2、3) の前記試験は、周波数ブロードバンド試験であることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
信号線 (2) のシングル・エンド試験のための装置であって、
トランシーバ (31) と、
前記トランシーバ (31) の線路接続部 (5) に接続されるそれぞれの所定の値のインピーダンス (9) と、
較正プロセスにおいて、前記インピーダンス (9) および試験信号 (vtin、vtout) を利用して前記トランシーバに対する較正値を生成する測定デバイス (32) とを備え、
さらに、
前記測定デバイス (32) は、前記インピーダンス (9) のうちの少なく3つを使用して前記試験トランシーバに対する周波数依存エコー伝達関数 (Hecho(f) ) を生成するように構成され、
前記測定デバイス (32) は、前記エコー伝達関数 (Hecho(f) ) および前記対応するインピーダンス値 (9) を利用してトランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を生成し、
前記モデル値は、開線路接続 (5) 、前記線路 (2) から見たトランシーバ・インピーダンス値 (Zhyb(f) ) 、および前記トランシーバ・インピーダンス値 (Zhyb(f) ) の積を持つ前記トランシーバ (31) に対するエコー伝達関数 (H(f) ) 、および短絡回路接続 (5) を持つ前記トランシーバ (31) に対するエコー伝達関数 (H0(f) ) を含む
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
前記測定デバイス (32) は、前記トランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を格納するためのメモリ (33) を備えることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記試験トランシーバ (31) と同じタイプのハードウェアの通信目的のためのトランシーバ (1) を備え、通信目的のための前記トランシーバ (1) は、前記トランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を格納するためのメモリ (12) を備えることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記トランシーバの前記トランシーバ線路接続部 (5) に接続された、前記線路 (2) およびリモート・デバイス (3) を含むループと、
計算デバイス (11) と、
前記トランシーバを介して前記線路 (2) にループ試験信号 (vin) を送信し、前記トランシーバを介して対応する反射信号 (vout) を測定するためのデバイス (4) と
を備え、
前記計算デバイス (11) は、前記ループのエコー伝達関数 (Hecho(f) ) を生成することと、前記格納されているトランシーバ・モデル値 (Zh0(f) 、Zhyb(f) 、H(f) ) を利用して前記リモート・デバイス (3) とともに前記線路 (2) のインピーダンス値 (Zin(f) ) を生成することの両方を行うように構成される
ことを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記ループ試験信号 (vin) を送信するための前記デバイスは、周波数ブロードバンド信号を送信するように構成されることを特徴とする請求項6から9までのいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−529139(P2007−529139A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507936(P2006−507936)
【出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000296
【国際公開番号】WO2004/100512
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(598036300)テレフオンアクチーボラゲット エル エム エリクソン(パブル) (2,266)
【Fターム(参考)】