説明

信号保安システム及び車上信号装置

【課題】地上信号装置を介し、路線上を走行する車両に搭載された車上信号装置に対し、当該路線の信号方式に基づく制御指令を送信する信号保安システムにおいて、1つの車上信号装置で異なる信号方式を持つ路線へ乗り入れを可能にする。
【解決手段】車両が、現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に進入する際、車上信号装置が、当該進入先の路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムをインストールする。そして、車上信号装置がこの車両制御プログラムを実行することで、進入先の路線において、進入先における地上信号装置がその信号方式に基づいて作成した制御指令に従った車両制御を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等の制御を行う信号保安システム及び車上信号装置に関する。
【背景技術】
【0002】
こうした信号保安システムに関し、下記非特許文献1にみられるように、ヨーロッパ各国間で鉄道の相互乗り入れを可能にするための統一列車制御システムであるERTMS/ETCSにシステム要求仕様書がある。このシステム要求仕様書には、「これまでに多くの異なる信号保安システムが開発されてきたが、それらは互換性が無く、相互に乗り入れることができない。コストを低減するためには、標準化したシステムを導入することが望ましい。」と規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ERTMS/ETCSSystem Requirements Specification Chapter 1 Introduction 24.02.2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の信号保安システムは、専用の地上信号装置と専用の車上信号装置から構成されており、車両は走行する路線の信号方式に準拠した専用の車上信号装置を搭載しなければ走行することができない。このような信号保安システムでは、異なる信号方式を持つ路線へ乗り入れる場合、それぞれの路線の信号方式に準拠した車上信号装置を搭載し、路線の境界で、次の路線で使用する車上信号装置を切り換える必要があり、高いコストを要する。
【0005】
これに対し、前記非特許文献1に記載のERTMS/ETCSのような共通仕様の信号方式を確立できれば、車両にこの共通仕様の信号方式に準拠した車上信号装置を搭載するだけで、共通仕様の信号方式を採用した路線へ乗り入れることは可能となる。ただし、このような共通仕様を採用する場合、それぞれの路線を管轄する事業者間における要求仕様の調整が難しく、各事業者の要求を満たすため仕様は複雑となり、従来の専用の車上信号装置に比べてコストが高くなり、また、各路線の地上信号装置もこの共通仕様に対応する必要があり、その更新にも高いコストを要する。
そこで、本発明の目的は、1つの車上信号装置で異なる信号方式を持つ路線へ乗り入れることのできる信号保安システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の信号保安システムでは、次のような技術的手段を採用した。
すなわち、
(1)地上信号装置を介し、路線上を走行する車両に搭載された車上信号装置に対し、当該路線の信号方式に準拠する制御指令を送信する信号保安システムであって、前記車両が、現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に進入する際、前記地上信号装置が、当該進入先の路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを前記車上信号装置に送信し、この車両制御プログラムを実行させることで、進入先の路線において、前記地上信号装置が準拠する信号方式に基づいて作成した制御指令に従って、当該車両を制御できるようにした。
【0007】
(2)上記の信号保安システムにおいて、前記地上信号装置は、信号方式の異なる路線の境界で実行する車両制御プログラムを変更させる指令を前記車上信号装置に送信するようにした。
【0008】
(3)上記の信号保安システムにおいて、前記地上信号装置は、信号方式の異なる路線の境界の手前で進入する路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを起動し、前記境界を通過した時に、進入する路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムによる制御を有効化するとともに、通過した路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムによる制御を無効化し、その後、通過した路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムを終了させる指令を前記車上信号装置に送信するようにした。
【0009】
(4)上記の信号保安システムにおいて、前記車両制御プログラムは、前記車上信号装置の演算機の性能に対応して1つの信号方式に対して複数用意され、前記地上信号装置は、前記車両制御プログラムの中から当該演算機の動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して前記車上信号装置に送信するようにした。
【0010】
(5)上記の信号保安システムにおいて、前記車両制御プログラムは、前記車上信号装置にインタフェースを介して接続された周辺機器の構成に対応して1つの信号方式に対して複数用意され、前記地上信号装置は、前記複数の車両制御プログラムの中から当該周辺機器の動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して前記車上信号装置に送信するようにした。
【0011】
また、本発明の車上信号装置では、次のような技術的手段を採用した。
(6)車両に搭載され、地上信号装置を介して当該車両が走行する路線の信号方式に準拠する制御指令を受信する車上信号装置において、前記車両が、現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に乗り入れる際、当該乗り入れ先の路線の信号方式に準拠する車両制御プログラムをインストールし、当該車両制御プログラムを実行することで、乗り入れ先の路線において、前記地上信号装置が準拠する信号方式に基づいて作成した制御指令に従って、当該車両を制御できるようにした。
【0012】
(7)上記の車上信号装置において、信号方式の異なる路線の境界で、実行する車両制御プログラムを変更するようにした。
【0013】
(8)上記の車上信号装置において、信号方式の異なる路線の境界の手前で、進入する路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを起動し、前記境界を通過した時に進入する路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムによる制御を有効化するとともに、通過した路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムによる制御を無効化し、その後、通過した路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムを終了するようにした。
【0014】
(9)上記の車上信号装置において、インタフェースを介して接続される周辺機器に対して、実行している車両制御プログラムの種類を送信するようにした。
【0015】
(10)上記の車上信号装置において、演算機と、周辺機器と前記演算機とを接続するインタフェースとを有し、前記演算機は、走行する路線毎に前記路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムをインストールし、前記路線において前記車両制御プログラムを実行するようにした。
【0016】
(11)上記の車上信号装置において、前記車上信号装置の演算機の性能に対応して複数用意された車両制御プログラムの中から動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して実行するようにした。
【0017】
(12)上記の車上信号装置において、前記車上信号装置にインタフェースを介して接続された周辺機器の構成に対応して複数用意された車両制御プログラムの中から動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して実行するようにした。
【0018】
本発明によれば、車両が現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に進入する際、その車両に搭載した車上信号装置が、その路線の信号方式に適合した車両制御プログラムをインストールしてこれを実行することで、各信号方式に適合した車上信号装置を個別に設けることなく、単一の車上信号装置で、信号方式の路線に円滑に進入することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の信号保安システムの構成図の例である。
【図2】本発明の信号保安システムの詳細な構成図の例である。
【図3】本発明の車上信号装置を搭載した車両が、異なる信号方式を持つ路線へ乗り入れる際に行う車両プログラムの切り換えを示す例である。
【図4】本発明の信号保安システムにより、仕様の異なる車上信号装置を搭載した車両が、同一の信号方式に準拠した異なる車両制御プログラムを選択的に起動する例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
本実施例では、1つの車上信号装置で異なる信号方式を持つ路線へ乗り入れることのできる信号保安システムの例を説明する。
図1は、本実施例で使用する信号保安システムの構成図の例である。
この信号保安システムは、地上信号装置100、車両10に搭載された車上信号装置200、この車上信号装置200により実行される車両制御プログラム300から構成されるており、地上信号装置100と車上信号装置200は、通信ネットワーク400と周辺機器203を介して接続されている。
【0022】
地上信号装置100は、路線1上を走行する車両を制御するために、路線1で使用される信号方式に則り、各車両に搭載された車上信号装置200に対する制御指令を作成する。
車上信号装置200は、この路線1の信号方式に適合した車両制御プログラム300を実行し、地上信号装置100から伝達される制御指令に従って車両10を制御する。
【0023】
続いて、図2を用いて、本発明の信号保安システムの具体的構成例を詳細に説明する。
本実施例の信号保安システムにおいて、地上信号装置100は、演算機101と通信インタフェース102から構成され、車上信号装置200は、演算機201と周辺機器インタフェース202から構成されている。ここで、車両制御プログラム300については、車両制御プログラム301が路線1の信号方式に準拠し、車両制御プログラム302が路線2の信号方式に準拠しているものとする。
【0024】
地上信号装置100の通信インタフェース102は、演算機101と通信ネットワーク400とを接続する機器である。演算機101は、この通信インタフェース102と通信ネットワーク400を介して車上信号装置200と通信を行う。
なお、通信ネットワーク400は、公衆ネットワークでも専用ネットワークでも専用通信路でもよく、複数の通信ネットワークを使用してもよく、また、通信方式もどのようなものでもよい。例えば、802.11やCDMA、GSMなどの空間波無線通信方式、地上子やLCX、軌道回路などを使った近接無線通信方式などが考えられる。
【0025】
さらに、演算機101は、通信インタフェース102と通信ネットワーク400を介して沿線機器103とも通信する。通信方式はどのようなものでもよく、車上信号装置との通信で使う通信ネットワークと同じでもよいし、別でもよい。沿線機器とは路線上の車両の運行に関係する機器であり、例えば、運転指令装置、CTC(列車集中制御装置)、連動装置、軌道回路、転てつ機、制御子、地上子などである。
【0026】
演算機101は、通信インタフェース102を介して入力される運転指令情報や、車両の位置情報もしくは車両の検知情報などに基づいて、路線個別の信号方式に従って車両を安全に制御するため、停止点位置や制限速度などの制御指令を作成し、通信インタフェース102、通信ネットワーク400、さらに後述する車両10上の周辺機器203を介して車上信号装置200の周辺機器インタフェース202へ伝送される。
なお、周辺機器203は、車両の制御に関係する機器であり、例えば、沿線機器や通信ネットワーク400と接続して地上信号装置と通信するための通信機器やアンテナ、車両10の速度や加速度を計測する速度センサや加速度センサ、運転士との間で情報をやり取りするディスプレイやスイッチ、車両10のブレーキを動作させるブレーキ装置、TMS(列車情報管理システム)、データリーダライタなどである。通信方式はどのようなものでもよい。例えば、RS−485、イーサネット(登録商標)、PCI、MVB、CAN、DI/DO(デジタル入出力)などが挙げられる。そして、車上信号装置200の周辺機器インタフェース202は、演算機201とこれらの周辺機器203とを接続するインタフェースである。
【0027】
演算機201は、走行する路線の各信号方式に準拠した複数の車両制御プログラムを、その信号方式に対応してインストールして実行し、周辺機器インタフェース202を介して入力される地上信号装置100からの制御指令や、周辺機器203からのセンサ情報、運転士からの入力情報などに基づいて、車両10を制御するための周辺機器向け制御指令を作成する。作成された周辺機器向け制御指令は、周辺機器インタフェース202を介して各周辺機器203へ伝送される。
【0028】
なお、この周辺機器向け制御指令には、車両10の制御に直接的に関係する指令だけではなく、周辺機器203への設定情報や運転士への表示情報なども含まれており、また、運転士への表示情報としては、例えば、現在速度、制限速度、運転支援情報、実行している車両制御プログラムの種類や制御モードなどをディスプレイに伝送するための情報が挙げられる。
【0029】
演算機201において実行される車両制御プログラム301、302は、それぞれ路線1、路線2の各信号方式に従って車両10を制御するための周辺機器向け制御指令を作成するプログラムであり、周辺機器203を動作させるためのデバイスドライバは、演算機201に予めインストールしておき、車両制御プログラムの切り換えに連動してデバイスドライバを切り換えるようにしてもよいし、それぞれの車両制御プログラムに含まれる構成であってもよい。
【0030】
また、車両制御プログラムのインストールの手段はどのようなものでもよい。例えば、地上信号装置100などの地上にある装置から通信ネットワークを介してダウンロードすることによりインストールしたり、CD、DVDやUSBメモリなどの記録媒体に、各車両制御プログラムを格納しておき、車両制御プログラム切り換え時に、周辺機器インタフェース202を介してインストールすることなどが考えられる。このように、演算機201が随時、路線に適合した車両制御プログラムをインストールできる手段を備えることで、車上信号装置を改造することなく、予め走行する計画のなかった路線や、予告なく信号方式が更新された路線、予告なく新しい信号方式が導入された路線などへも自由に乗り入れることが可能となる。
【0031】
次に、本発明の信号保安システムによって、1つの車上信号装置で異なる信号方式を持つ路線へ乗り入れる際に行われる車両プログラムの選択を、図3を用いて具体的に説明する。
地上信号装置100は、前述のように、演算機101と通信インタフェース102を有し、路線1上を走行する車両に対する制御指令を作成し、また、地上信号装置110は、演算機111と通信インタフェース112を有し、路線2上を走行する車両に対する制御指令を作成する。
一方、車上信号装置200は、車両10上に搭載され、演算機201と通信インタフェース202を有し、車両10が路線1を走行している間、演算機201にインストールされている車両制御プログラム301により、地上信号装置100が作成した制御指令に従って車両10を制御するための周辺機器向け制御指令を作成している。
【0032】
この車両10が、路線1から路線2へ乗り入れる場合、その直前に、地上信号装置100もしくは沿線機器103から車上信号装置200へ、路線1と路線2の路線境界位置、ならびに当該地点で実行する車両制御プログラムを変更する指令が伝達される。
また、この前後に、地上信号装置100から路線2の信号方式に適合した車両制御プログラム302が車上信号装置200の演算機201にインストールされる。この車両制御プログラム302は、路線2に設置された地上信号装置110が作成した制御指令に従って、車両10を制御するための周辺機器向け制御指令を作成するプログラムである。
【0033】
車両制御プログラム302をインストールされた車上信号装置200の演算機201は、路線1と路線2の境界で車両制御プログラム301を終了するとともに、車両制御プログラム302を起動して実行し、以後、地上信号装置110が作成した制御指令に従って車両10を制御する。
【0034】
信号保安システムの信号方式切り換えが、例えば、国境付近の駅構内の軌道上で行われる場合、車両制御プログラムの切り換えは、車両10が駅に停車している間に行えばよい。
しかし、信号方式切り換えが駅間の軌道上で行われる場合には、車両10が高速走行しているケースもあるため、車上信号装置200の演算機201は、車両制御プログラムの起動や終了に要する時間を考慮して、路線の境界を通過するまでに予め車両制御プログラム302を起動しておき、境界を通過した時点で車両制御プログラム302による制御を有効化するとともに、車両制御プログラム301による制御を無効化し、その後、車両制御プログラム301を終了させることも考えられる。この場合、車両を停止させることなく、路線2に進入することができる。
【0035】
さらに、車両制御プログラム301を終了した後、この車両制御プログラム301を消去してもよい。この場合、演算機201では、車両制御プログラム301が使用していた記憶領域が開放される。開放された記憶領域には、新たに別の信号方式に準拠した車両制御プログラムをインストールすることができる。つまり、それぞれの路線において、その信号方式に準拠した車両制御プログラムが、演算機201の記憶容量を超える記憶容量を必要としない限り、車上信号装置200は、車両制御プログラムのインストールと消去を繰り返しながら、信号方式の異なる路線を数の制限なく走行することができる。
このように、本発明の信号保安システムによって、車両は1つの車上信号装置で異なる信号方式を持つ路線を走行することができ、車両の乗り入れを容易にする。
【0036】
[実施例2]
本実施例では、1つの信号方式に対して複数の車両制御プログラムを用意することで、乗り入れる車両に搭載されている車上信号装置の種類が異なる場合、例えば、演算機の性能や周辺機器構成の種類が様々である場合でも、それぞれ1つの車上信号装置で当該路線を走行することのできる信号保安システムの例を説明する。
【0037】
この実施例では、地上信号装置が作成した制御指令に従って車両を制御するための周辺機器への制御指令を作成する車両制御プログラムを、その路線を走行する車両毎に相違する型式や規格など、その車両が有する車上信号装置の演算機の性能や周辺機器構成の相違に対応して、それぞれ複数用意する。例えば、各車両制御プログラムは、各車両の車上信号装置に搭載される演算機の処理速度に応じて、地上信号装置からの制御指令を処理する周期を変更したり、接続されている通信機器の通信速度に応じて通信ネットワークとの通信周期を変更したり、ディスプレイの大きさに合わせて速度などの表示内容を変更したり、速度センサの精度に応じて速度計算方法を変更したり、ブレーキ装置の種類に応じてブレーキ指令方法を変更するなどの処理を行う。
【0038】
この実施例の信号保安システムにおいて、複数の車両制御プログラムを用意することで、乗り入れる車両に搭載されている車上信号装置の演算機の性能や周辺機器構成の種類が様々である場合でも、それぞれの車両に搭載される車上信号装置で異なる信号方式を持つ路線を走行することのできる仕組みを、図4を用いて説明する。
【0039】
地上信号装置100は、演算機101と通信インタフェース102を有し、路線1上を走行する車両に対する制御指令を作成するものとし、また、地上信号装置110は、演算機111と通信インタフェース112を有し、路線2上を走行する車両に対する制御指令を作成するものとする。
【0040】
車両10の車上信号装置200は、演算機201と通信インタフェース202を有し、演算機201は、路線1でインストールされている車両制御プログラム301を実行して、地上信号装置100が作成した制御指令に従って車両10を制御するための周辺機器向け制御指令を作成しているものとする。
【0041】
一方、車両11の車上信号装置210は、演算機211と通信インタフェース212を有し、この演算機211は、路線1でインストールされている車両制御プログラム301を実行して、地上信号装置100が作成した制御指令に従って車両11を制御するための周辺機器向け制御指令を作成しているものとする。
【0042】
この車両10が、路線1から路線2へ乗り入れる場合、実施例1で説明したように、車上信号装置200の演算機201に、路線2の信号方式に準拠した車両制御プログラム302がインストールされ、演算機201は、路線2に進入する際にその車両制御プログラム302を実行して、以後、路線2の地上信号装置110が作成した制御指令に従って周辺機器203を制御して路線2を走行する。
【0043】
車両11が路線1から路線2へ乗り入れる場合も同様に、車上信号装置210の演算機211に、路線2の信号方式に準拠した車両制御プログラムがインストールされ、演算機211が、路線2に進入する際に、その路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを実行し、周辺機器213を制御して路線2を走行することになるが、車上信号装置210が、その型式や規格により、車両10用の車両制御プログラム302の動作条件を満たしていない場合を想定する。これは、例えば、車上信号装置200の演算器201に比べて、演算機211の処理速度が遅かったり、接続されている通信機器の通信速度が低かったり、速度センサの精度が低かったり、ディスプレイが小さいような場合である。
【0044】
車両制御プログラムの動作条件の判定は、例えば、各車両制御プログラムの動作条件を記した表と、各車上信号装置における演算機の性能や周辺機器構成などの仕様を記した表を予め用意しておき、インストールの際に、乗務員が両表を比較して判断することも考えられるし、予め車上信号装置が当該仕様情報を地上信号装置に伝達しておき、地上信号装置がその仕様情報に基づいて動作できる車両制御プログラムを選択して車上信号装置に送信することも考えられるし、予めその車両の車上信号装置が搭載された演算器の動作条件を満足する車両制御プログラムの種類を記憶しておき、インストールの際に、車上信号装置が動作条件を満足する車両制御プログラムの種類を確認したり、予め車両制御プログラムが動作条件を満足する車上信号装置の種類を記した表を備えておき、インストールの際に車上信号装置がその表を確認することなどが考えられる。
【0045】
このように、車上信号装置210が車両制御プログラム302の動作条件を満たさない場合には、車上信号装置210の演算機211には、動作条件を満たしている別の車両制御プログラム303をインストールする。この車両制御プログラム303は、車上信号装置210の演算機の処理速度、接続されている通信機器の通信速度、速度センサの精度、ディスプレイの大きさで、動作できるプログラムとする。インストールの手段は、実施例1と同様、どのような手段でもよい。
【0046】
なお、車両制御プログラム303は、車両制御プログラム302と同程度の安全性が確保できるよう、演算機の性能や周辺機器構成を考慮して、例えば、車両の許容速度を低く設定したり、制動距離や停止距離の余裕を長めに考慮して周辺機器213を制御するなど、路線2全体の安全性に影響を与えないことが望ましい。
このような車両制御プログラム303をインストールされた車上信号装置210の演算機211は、路線2に進入する際に車両制御プログラム303を実行して、以後、地上信号装置110が作成した制御指令に従って周辺機器213を制御して路線2を走行する。
【0047】
このように、本発明の信号保安システムにおいて、1つの信号方式に対して複数の車両制御プログラムを用意することによって、乗り入れる車両に搭載されている車上信号装置の種類が様々である場合でも、車両はそれぞれ1つの車上信号装置で当該路線を走行することができ、車両の乗り入れを容易にする。
【0048】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、通信ネットワーク、沿線機器、周辺機器の一部または全部を、本発明の信号保安システムに含める構成も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したとおり、本発明によれば、車両が現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に進入する際、その境界の前後で、車両に搭載した車上信号装置が、その路線の信号方式に適合した車両制御プログラムをインストールしてこれを実行するので、各信号方式に適合した車上信号装置を個別に設けることなく、単一の車上信号装置で、信号方式の異なる路線に円滑に乗り入れることが可能になるので、特に、国境をまたがって走行する列車等に広く採用されることが期待される。
【符号の説明】
【0050】
1 路線
10 車両
100 地上信号装置
200 車上信号装置
203 周辺機器
300 車両制御プログラム
400 通信ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上信号装置を介し、路線上を走行する車両に搭載された車上信号装置に対し、当該路線の信号方式に準拠する制御指令を送信する信号保安システムであって、
前記車両が、現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に進入する際、前記地上信号装置が、当該進入先の路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを前記車上信号装置に送信し、この車両制御プログラムを実行させることで、進入先の路線において、前記地上信号装置が準拠する信号方式に基づいて作成した制御指令に従って、当該車両を制御できるようにしたことを特徴とする信号保安システム。
【請求項2】
請求項1に記載の信号保安システムにおいて、
前記地上信号装置は、信号方式の異なる路線の境界で実行する車両制御プログラムを変更させる指令を前記車上信号装置に送信することを特徴とする信号保安システム。
【請求項3】
請求項1に記載の信号保安システムにおいて、
前記地上信号装置は、信号方式の異なる路線の境界の手前で進入する路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを起動し、前記境界を通過した時に、進入する路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムによる制御を有効化するとともに、通過した路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムによる制御を無効化し、その後、通過した路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムを終了させる指令を前記車上信号装置に送信することを特徴とする信号保安システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の信号保安システムにおいて、
前記車両制御プログラムは、前記車上信号装置の演算機の性能に対応して1つの信号方式に対して複数用意され、前記地上信号装置は、前記車両制御プログラムの中から当該演算機の動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して前記車上信号装置に送信することを特徴とする信号保安システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の信号保安システムにおいて、
前記車両制御プログラムは、前記車上信号装置にインタフェースを介して接続された周辺機器の構成に対応して1つの信号方式に対して複数用意され、前記地上信号装置は、前記複数の車両制御プログラムの中から当該周辺機器の動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して前記車上信号装置に送信することを特徴とする信号保安システム。
【請求項6】
車両に搭載され、地上信号装置を介して当該車両が走行する路線の信号方式に準拠する制御指令を受信する車上信号装置において、
前記車両が、現在走行中の路線から信号方式の異なる路線に乗り入れる際、当該乗り入れ先の路線の信号方式に準拠する車両制御プログラムをインストールし、当該車両制御プログラムを実行することで、乗り入れ先の路線において、前記地上信号装置が準拠する信号方式に基づいて作成した制御指令に従って、当該車両を制御できるようにした車上信号装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車上信号装置において、
信号方式の異なる路線の境界で、実行する車両制御プログラムを変更することを特徴とする車上信号装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車上信号装置において、
信号方式の異なる路線の境界の手前で、進入する路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムを起動し、前記境界を通過した時に進入する路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムによる制御を有効化するとともに、通過した路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムによる制御を無効化し、その後、通過した路線の信号方式に準拠した前記車両制御プログラムを終了することを特徴とする車上信号装置。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の車上信号装置において、
インタフェースを介して接続される周辺機器に対して、実行している車両制御プログラムの種類を送信することを特徴とする車上信号装置。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか1項に記載の車上信号装置において、
演算機と、周辺機器と前記演算機とを接続するインタフェースとを有し、前記演算機は、走行する路線毎に前記路線の信号方式に準拠した車両制御プログラムをインストールし、前記路線において前記車両制御プログラムを実行することを特徴とする車上信号装置。
【請求項11】
請求項6から10のいずれか1項に記載の車上信号装置において、
前記車上信号装置の演算機の性能に対応して複数用意された車両制御プログラムの中から動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して実行することを特徴とする車上信号装置。
【請求項12】
請求項6から11のいずれか1項に記載の車上信号装置において、
前記車上信号装置にインタフェースを介して接続された周辺機器の構成に対応して複数用意された車両制御プログラムの中から動作条件を満足する車両制御プログラムを選択して実行することを特徴とする車上信号装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23098(P2013−23098A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160484(P2011−160484)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】