説明

信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム

【課題】信号強度の比を正確に算出することを課題とする。
【解決手段】信号処理装置10は、車両のハンドルに設けられたハンドル電極と基準電極との間のハンドル信号を測定するハンドルセンサ11aを有する。さらに、信号処理装置10は、運転者が着座する座面に設けられた座面電極と基準電極との間の座面信号を測定する座面センサ11bを有する。そして、信号処理装置10は、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号のうち心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定する。その上で、信号処理装置10は、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号及び座面センサ11bによって測定される座面信号のうち、特定された区間を対象に、ハンドル信号及び座面信号の信号強度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
装置を操作する操作者の眠気や覚醒度の変化をとらえるためには、心電計測が有効であることが知られている。一例としては、車両を運転する運転者の眠気や覚醒度を検出するために、運転者の心拍を計測することが検討されている。
【0003】
運転者の心拍を計測する場合には、運転者と接触する2つの電極間の電位差信号を測定した上で、その電位差信号から得られる心電信号を用いて運転者の眠気や覚醒度などの生理状態が検出される。例えば、車両のハンドルや座面などに電極が設けられる。このようにハンドルに電極が設けられた場合には、運転者がハンドルを握ることにより、運転者の手が電極と接触する。さらに、座面に電極が設けられた場合には、運転者が着座することにより、運転者の臀部が電極と接触する。
【0004】
ここで、上記の電位差信号に含まれるノイズを減少させる心拍計測装置が提案されている。かかる心拍計測装置は、車両の電位と等しくなるようにアースと接地される基準電極と、ハンドルに設けられるハンドル電極との間で電位差信号を測定するハンドルセンサを有する。さらに、心拍計測装置は、基準電極と、座面に設けられた座面電極との間で電位差信号を測定する座面センサを有する。心拍計測装置は、ハンドルセンサによって心拍とともにノイズ成分を含んで測定される心電信号と、座面センサによってノイズ成分だけが測定されるノイズ信号との差分を算出することにより、心電信号に重畳するノイズを減衰させる。
【0005】
このとき、ハンドルセンサによって測定される心電信号が含むノイズ信号と、座面センサによって測定されるノイズ信号との振幅比が異なる場合がある。この場合には、ハンドルセンサによって測定される心電信号と座面センサによって測定するノイズ信号の信号強度から比を求め、座面センサによって測定されるノイズ信号に与えるゲインを調節した上で心電信号との間で差分が取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−142576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来技術は、以下に説明するように、信号強度の比を正確に算出できないという問題がある。
【0008】
すなわち、ハンドルセンサによって測定される心電信号には、ノイズ成分だけでなく、心拍信号、いわゆるR波も含まれる。このため、上記の心拍計測装置のように、ハンドルセンサによって測定される心電信号を用いて信号強度を算出したのでは、R波の影響によってノイズの信号強度の比の誤差が増大する場合がある。それゆえ、上記の心拍計測装置では、ノイズを十分に減衰させることができず、座面センサによって測定されるノイズ信号にゲインを与えずに差分を取る場合よりも、ハンドルセンサのS/N比(Signal to Noise ratio)が低下してしまう。
【0009】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、信号強度の比を正確に算出できる信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の開示する信号処理装置は、装置の操舵部に設けられた第1の電極と、基準電極として用いられる第2の電極との間の第1の電位差信号を測定する第1の測定部を有する。さらに、前記信号処理装置は、前記装置の操舵部とは異なる箇所に設けられた第3の電極と前記第2の電極との間の第2の電位差信号を測定する第2の測定部を有する。さらに、前記信号処理装置は、前記第1の測定部によって測定される第1の電位差信号のうち心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定する特定部を有する。さらに、前記信号処理装置は、各々測定される第1の電位差信号及び第2の電位差信号のうち前記特定部によって特定された区間を対象に、前記第1の電位差信号及び前記第2の電位差信号の信号強度を算出する強度算出部を有する。
【発明の効果】
【0011】
本願の開示する信号処理装置の一つの態様によれば、信号強度の比を正確に算出できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1に係る信号処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、典型的な心電心拍波形の一例を示す図である。
【図3】図3は、ハンドルセンサ及び座面センサによって測定される信号波形の一例を示す図である。
【図4】図4は、心拍信号の検出位置および検出間隔を説明するための図である。
【図5】図5は、差分信号、ハンドル信号および座面信号の出力波形の一例を示す図である。
【図6】図6は、ハンドル信号および座面信号の出力波形と両者の相関関係との一例を示す図である。
【図7】図7は、図6に示したハンドル信号および座面信号の出力波形と両者の相関関係とにおける一部を拡大した図である。
【図8】図8は、実施例1に係る信号処理装置の全体処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は、実施例1に係るゲイン算出処理の手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は、実施例1及び実施例2に係る信号処理プログラムを実行するコンピュータの一例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本願の開示する信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例は開示の技術を限定するものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0014】
[信号処理装置の構成]
まず、本実施例に係る信号処理装置の機能的構成について説明する。図1は、実施例1に係る信号処理装置の構成を示す機能ブロック図である。図1に示す信号処理装置10は、ハンドルセンサ11aによって心拍とともにノイズ成分を含んで測定されるハンドル信号と座面センサ11bによって測定される座面信号との差分を算出することにより、ハンドル信号に重畳するノイズを減少させるものである。なお、図1の例では、車両を運転する運転者の心拍を計測する場合を例示するが、被験者が他の装置を操作する場合にも同様に適用することができる。
【0015】
ここで、本実施例に係る信号処理装置10は、車両のハンドルに設けられたハンドル電極と、基準電極との間のハンドル信号を測定するハンドルセンサ11aを有する。さらに、本実施例に係る信号処理装置10は、運転者が着座する座面に設けられた座面電極と基準電極との間の座面信号を測定する座面センサ11bを有する。そして、本実施例に係る信号処理装置10は、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号のうち心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定する。その上で、本実施例に係る信号処理装置10は、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号及び座面センサ11bによって測定される座面信号のうち、特定された区間を対象に、ハンドル信号及び座面信号の信号強度を算出する。
【0016】
図2は、典型的な心電心拍波形の一例を示す図である。図3は、ハンドルセンサ11a及び座面センサ11bによって測定される信号波形の一例を示す図である。図2及び図3に示すグラフの縦軸は電圧(mV)を指し、また、図2及び図3に示すグラフの横軸は時間(sec)を指す。なお、図3の例では、符号50Aがハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号を指し、符号50Bが座面センサ11bによって測定される座面信号を指す。
【0017】
図2に示すように、心電信号は、100msec以内の幅を持つインパルス状のR波41a及び41bと、R波以外の成分によって構成される波形42とを含む。このR波は、0.3〜1.5秒周期で検出されるのが一般的である。また、図3に示すように、ハンドル信号50Aには、心拍とともにノイズ成分が含まれる。一方、座面信号50Bには、ノイズ成分だけが含まれる。
【0018】
例えば、ハンドル信号50A及び座面信号50Bのうち区間51を強度信号を算出する範囲とし、強度信号の比を算出した場合には、ハンドル信号50A及び座面信号50Bの振幅比はおよそ「1.81」となる。この振幅比を算出するにあたっては、ハンドル信号50Aに心拍信号、いわゆるR波が含まれるので、ノイズの信号強度の比の誤差が増大している。一方、ハンドル信号50A及び座面信号50Bのうち区間52を強度信号を算出する範囲とし、強度信号の比を算出した場合には、ハンドル信号50A及び座面信号50Bの振幅比はおよそ「1.22」となる。この振幅比を算出するにあたっては、ハンドル信号50AにR波が含まれないので、ノイズの信号強度の比に含まれる誤差は小さくなる。
【0019】
このように、R波は、心拍を計測する際には有用であるが、信号強度の比を算出する際には誤差の原因となる。そこで、本実施例に係る信号処理装置10は、ハンドル信号と座面信号との信号強度の比を求める場合に、ハンドル信号に含まれるR波以外の区間52で信号強度の比を求める。これによって、本実施例に係る信号処理装置10では、信号強度の比が導出されるにあたってR波による影響を低減させる。それゆえ、本実施例に係る信号処理装置10によれば、信号強度の比を正確に算出できる。
【0020】
図1の説明に戻り、信号処理装置10は、ハンドルセンサ11aと、座面センサ11bと、強度算出部12と、ゲイン算出部13と、差分算出部14と、残差判定部15と、心拍情報記憶部16と、特定部17と、相関算出部18とを有する。なお、信号処理装置10には、ハンドル信号と座面信号との差分から得られた差分信号から心拍信号を計測する心拍計測装置30が接続される。
【0021】
このうち、ハンドルセンサ11aは、ハンドル電極と基準電極との間の電位差からハンドル信号を測定するセンサである。これら電極のうち、ハンドル電極は、車両のハンドルに設けられる一方で、基準電極は、車両の電位と等しくなるようにアースと接地される。また、座面センサ11bは、座面電極と基準電極との間の電位差から座面信号を測定するセンサである。これら電極のうち、座面電極は、運転者が着座するシートの座面に設けられる一方で、基準電極は、車両の電位と等しくなるようにアースと接地される。
【0022】
ここで、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号には、心拍とともにノイズ成分が含まれる。一方、座面センサ11bによって測定される座面信号には、ノイズ成分だけが含まれる。なお、図1の例では、運転者が着座するシートの座面に電極を設ける場合を例示したが、シートの背もたれに電極を設けることとしてもかまわない。また、基準電極は、ハンドルセンサ11a及び座面センサ11bの間で共用されることとしてもよく、また、個別に設けることとしてもよい。
【0023】
強度算出部12は、ハンドル信号及び座面信号の信号強度、いわゆるRMS(Root Mean Square Value)を算出する処理部である。一例としては、強度算出部12は、バンドパスフィルタ等の帯域フィルタを用いて、ハンドルセンサ11aによって入力されるハンドル信号及び座面センサ11bによって入力される座面信号からR波以外の周波数成分を除去するとともに直流成分を除去する。その上で、強度算出部12は、帯域フィルタによりR波以外の周波数成分及び直流成分が除去されたハンドル信号及び座面信号から信号強度を算出する。なお、強度算出部12は、信号強度の計算には公知の算出手法を任意に適用できる。
【0024】
ゲイン算出部13は、ハンドル信号及び座面信号の信号強度比を算出する処理部である。一例としては、ゲイン算出部13は、所定の周期、例えば0.2秒ごとに強度算出部12によって算出されたハンドル信号の信号強度を座面信号の信号強度で除算することにより、ハンドル信号及び座面信号の信号強度比kを算出する。なお、ゲイン算出部13は、ハンドル信号及び座面信号の信号強度比kを一旦算出してからは周期が経過するまで同じ信号強度比kを後述の差分算出部14へ出力する。
【0025】
差分算出部14は、ハンドル信号および座面信号の差分を算出する処理部である。一例としては、差分算出部14は、ゲイン算出部13によって算出された信号強度比kを座面信号に乗算した上でハンドル信号から信号強度比kの乗算後の座面信号を減算する。これによって、ハンドル信号から座面信号が減算された差分信号が得られる。
【0026】
残差判定部15は、ハンドル信号および座面信号の差分信号におけるノイズの残差を判定する処理部である。一例としては、残差判定部15は、差分算出部14によって算出された差分信号におけるノイズの残差が所定の閾値b以上であるか否かを判定する。このとき、残差判定部15は、ノイズの残差が所定の閾値b未満である場合に、差分信号を後段の心拍計測装置30へ出力する。一方、ノイズの残差が所定の閾値b以上である場合には、後述の特定部17によって特定された区間を用いて信号強度比kが強度算出部12によって再計算される。なお、上記の閾値bは、正常な値をとるR波の差分信号が正常に後段の心拍計測装置30へ出力されるように、R波よりも大きい値が設定される。
【0027】
心拍情報記憶部16は、心拍に関する各種の情報を記憶する記憶部である。一例としては、かかる心拍情報記憶部16には、後段の心拍計測装置30によって計測された心拍信号の検出位置や検出間隔が登録される。他の一例としては、ハンドル信号及び座面信号のうちR波が含まれない区間を特定するために、後述の特定部17によって参照される。
【0028】
図4は、心拍信号の検出位置および検出間隔を説明するための図である。図4の例では、残差判定部15によって出力された差分信号から心拍計測装置30によって計測されたR波のピーク位置およびピークの間隔が図示されている。図4に示すように、心拍情報記憶部16には、R波のピークが検出された時刻位置60a〜60dが登録されるとともに、R波のピークが検出された間隔61a〜61cが登録される。これらR波のピークが検出された時刻位置60a〜60dやR波のピークが検出された間隔61a〜61cに用いれば、ハンドル信号にR波が含まれない区間を特定できる。
【0029】
特定部17は、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号のうちR波が含まれる区間以外の区間を特定する処理部である。一例としては、特定部17は、残差判定部15によってノイズの残差が所定の閾値b以上であると判定された場合に、差分算出部14によって差分信号が現在算出されている時刻位置よりも前に含まれるR波が心拍計測装置30によって検知できているか否かを判定する。このとき、特定部17は、心拍計測装置30によって心拍が検知できている場合に、心拍情報記憶部16に記憶された心拍情報にしたがって信号強度の算出区間を特定する。
【0030】
ここで、図5を用いて、心拍情報にしたがって信号強度の算出区間を特定する方法を説明する。図5は、差分信号、ハンドル信号および座面信号の出力波形の一例を示す図である。図5に示す上段のグラフは、残差判定部15によって心拍計測装置30へ出力される差分信号の出力波形を示す。図5に示す中段のグラフは、ハンドル信号の出力波形を示す。また、図5に示す下段のグラフは、座面信号の出力波形を示す。なお、図5に示すグラフの縦軸は電圧を指し、図5に示すグラフの横軸は時間を指すものとする。
【0031】
図5に示すように、特定部17は、差分信号が現在算出されている時刻位置71の前に含まれるR波が心拍計測装置30によって検知されている場合に、心拍情報記憶部16から1拍前のR波のピークが検出された時刻位置72を読み出す。そして、特定部17は、1拍前のR波のピークが検出された時刻位置72から所定の時間73、例えば100msecが経過した時刻位置74を信号強度の算出区間の開始位置として設定する。ここで言う「時間」には、R波として検出されることが想定される上限値よりも大きい値が設定されるのが好ましい。さらに、特定部17は、先に設定した開始位置74から所定の時間、例えば200msecを信号強度の算出区間75として特定する。このようにして特定された信号強度の算出区間75を用いて信号強度および信号強度比kが再計算された上で信号区間76における差分信号も差分算出部14によって再計算される。
【0032】
相関算出部18は、ハンドル信号と座面信号との間における相関係数を所定の区間ごとに算出する処理部である。一例としては、相関算出部18は、差分信号が現在算出されている時刻の前のR波が心拍計測装置30によって心拍が検知できていないと特定部17によって判定された場合に、処理を起動する。
【0033】
ここで、図6及び図7を用いて、相関係数の算出によって信号強度の算出区間を特定する方法を説明する。図6は、ハンドル信号および座面信号の出力波形と両者の相関関係との一例を示す図である。また、図7は、図6に示したハンドル信号および座面信号の出力波形と両者の相関関係とにおける一部を拡大した図である。図6及び図7に示す上段のグラフは、ハンドル信号の出力波形を示す。図6及び図7に示す中段のグラフは、座面信号の出力波形を示す。図6及び図7に示す下段のグラフは、相関係数および時間の関係を示すグラフである。図6及び図7に示す下段のグラフの縦軸は相関係数を指し、図6及び図7に示すグラフの横軸は時間を指すものとする。なお、図7の例では、図6に示す差分信号が現在算出されている時刻位置81から所定の時間前まで遡った範囲82を拡大して図示している。
【0034】
図6に示すように、相関算出部18は、差分信号が現在算出されている時刻位置81から所定の時間、例えば0.4秒前まで遡った範囲82に測定されたハンドル信号および座面信号を対象に複数の区間を設定する。図7の例では、相関算出部18は、一定の区間、例えば0.2秒の区間を所定の時刻ずつシフトさせた複数の区間91〜97を設定する。このとき、相関算出部18は、図7に示すように、互いの区間の一部を重複して設定することもできるし、互いに重複しないように区間を設定することもできる。
【0035】
このようにして区間を設定した上で、相関算出部18は、ハンドル信号の区間91aと座面信号の区間91bとの間で相関係数を求める。一例としては、相関算出部18は、ハンドル信号の区間91aの振幅の平均値と座面信号の区間91bの振幅の平均値との差を算出した上で座面信号の区間91bの各時点の振幅から平均値の差を減算する。これによって、座面信号の区間91bの振幅をハンドル信号の区間91aの振幅に合わせる。その上で、相関算出部18は、ハンドル信号の区間91aの振幅値から座面信号の区間91bの振幅値を各時点ごとに減算する。そして、相関算出部18は、各時点ごとに算出された減算値の総和を相関係数として算出する。
【0036】
ここでは、ハンドル信号の区間91aと座面信号の区間91bとの相関係数を算出する場合を例示したが、他の区間、すなわちハンドル信号の区間92a〜97aと座面信号の区間92b〜97bとの各々の相関係数を算出する場合も同様にして算出される。このとき、相関算出部18は、複数の区間の相関係数を順番に算出することなく、ハンドル信号の区間91a〜97aと座面信号の区間91b〜97bとの各々の相関係数を並列して算出することもできる。なお、ここでは、ハンドル信号及び座面信号の差分を算出することにより相関係数を算出する場合を例示したが、両者を乗算することにより相関係数を算出することとしてもかまわない。
【0037】
このように、ハンドル信号と座面信号の間で差分を取った場合には、最も相関係数が高い場合にゼロが算出される。これらハンドル信号及び座面信号のノイズ波形は、相似であることから基本として相互相関は高いが、ハンドル信号にR波が重畳すると相互相関が低くなる。よって、相関係数の値が大きい区間を信号強度の算出区間から除外することにより、R波を含まない区間を信号強度の算出区間として選択させることができる。
【0038】
その後、特定部17は、区間91の相関係数91c〜区間97の相関係数97cの7ついの区間のうち最も相関係数の値が小さい区間97を信号強度の算出区間の候補として選択する。そして、特定部17は、候補として選択した区間97が所定の閾値c以下である場合に、当該区間97を信号強度の算出区間として特定する。このようにして特定された信号強度の算出区間97を用いて信号強度および信号強度比kが再計算された上で差分信号も差分算出部14によって再計算される。
【0039】
なお、強度算出部12、ゲイン算出部13、差分算出部14、残差判定部15、特定部17及び相関算出部18には、各種の集積回路や電子回路を採用できる。例えば、集積回路としては、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)が挙げられる。また、電子回路としては、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などが挙げられる。
【0040】
また、心拍情報記憶部15などの記憶部には、半導体メモリ素子や記憶装置を採用できる。例えば、半導体メモリ素子としては、VRAM(Video Random Access Memory)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリ(flash memory)などが挙げられる。また、記憶装置としては、ハードディスク、光ディスクなどの記憶装置が挙げられる。
【0041】
[処理の流れ]
次に、本実施例に係る信号処理装置の処理の流れについて説明する。なお、ここでは、信号処理装置10によって実行される(1)全体処理を説明した後に、全体処理のサブルーチンとして実行される(2)ゲイン算出処理を説明することとする。
【0042】
(1)全体処理
図8は、実施例1に係る信号処理装置の全体処理の手順を示すフローチャートである。この全体処理は、ハンドルセンサ11aによって測定されるハンドル信号及び座面センサ11bによって測定される座面信号が入力された場合に処理が起動される。
【0043】
図8に示すように、強度算出部12は、帯域フィルタを用いて、各センサから入力されるハンドル信号及び座面信号からR波以外の周波数成分を除去するとともに直流成分を除去する前処理を実行する(ステップS101)。そして、強度算出部12は、帯域フィルタによりR波以外の周波数成分及び直流成分が除去されたハンドル信号及び座面信号から信号強度を算出する(ステップS102)。
【0044】
続いて、前回にハンドル信号及び座面信号の信号強度比を算出してから所定の周期が経過した場合(ステップS103肯定)には、後述するゲイン算出処理が実行される(ステップS104)。そして、差分算出部14は、今回のゲイン算出処理によって新たに算出された信号強度比kを座面信号に乗算した上でハンドル信号から信号強度比kの乗算後の座面信号を減算する(ステップS105)。
【0045】
一方、前回にハンドル信号及び座面信号の信号強度比を算出してから所定の周期が経過していない場合(ステップS103否定)には、差分算出部14は、前回のゲイン算出処理によって算出されている信号強度比kを座面信号に乗算した上でハンドル信号から信号強度比kの乗算後の座面信号を減算する(ステップS105)。
【0046】
その後、差分算出部14は、ハンドル信号から座面信号を減算した差分信号を後段の心拍計測装置30へ出力し(ステップS106)、処理を終了する。
【0047】
(2)ゲイン算出処理
図9は、実施例1に係るゲイン算出処理の手順を示すフローチャートである。このゲイン算出処理は、図8に示したステップS104に対応する処理であり、前回にハンドル信号及び座面信号の信号強度比を算出してから所定の周期が経過した場合に処理が起動される。
【0048】
図9に示すように、ゲイン算出部13は、強度算出部12によって算出されたハンドル信号の信号強度を座面信号の信号強度で除算することにより、ハンドル信号及び座面信号の信号強度比kを算出する(ステップS301)。
【0049】
そして、差分算出部14は、ゲイン算出部13によって算出された信号強度比kを座面信号に乗算した上でハンドル信号から信号強度比kの乗算後の座面信号を減算することにより、差分信号を算出する(ステップS302)。
【0050】
続いて、残差判定部15は、差分算出部14によって算出された差分信号におけるノイズの残差が所定の閾値b以上であるか否かを判定する(ステップS303)。なお、ノイズの残差が所定の閾値b未満である場合(ステップS303否定)には、残差判定部15は、信号強度比kを再計算する必要がないので、そのまま処理を終了する。
【0051】
一方、ノイズの残差が所定の閾値b以上である場合(ステップS303肯定)に、特定部17は、差分算出部14により差分信号が現在算出されている時刻位置より前のR波が心拍計測装置30により心拍が検知できているか否かを判定する(ステップS304)。
【0052】
このとき、心拍計測装置30によって心拍が検知できている場合(ステップS304肯定)には、特定部17は、心拍情報記憶部16に記憶された心拍情報にしたがって信号強度の算出区間を特定する(ステップS305)。
【0053】
一方、心拍計測装置30によって心拍が検知できていない場合(ステップS304否定)には、相関算出部18は、複数の区間でハンドル信号と座面信号との間における相関係数を算出する(ステップS306)。
【0054】
その後、特定部17は、最小の相関係数の値を持つ区間を信号強度の算出区間の候補として選択する(ステップS307)。このとき、候補として選択した区間が所定の閾値cを超過する場合(ステップS308否定)には、上記のステップS306及びステップS307の処理を繰り返し行う。
【0055】
そして、候補として選択した区間が所定の閾値c以下である場合(ステップS308肯定)には、特定部17は、当該候補として選択された区間を信号強度の算出区間として特定する。
【0056】
その後、強度算出部12は、ハンドル信号及び座面信号のうち特定部17によって特定された区間を対象にハンドル信号及び座面信号の信号強度を再計算する(ステップS309)。そして、ゲイン算出部13は、強度算出部12によって再計算されたハンドル信号の信号強度を再計算された座面信号の信号強度で除算することにより、ハンドル信号及び座面信号の信号強度比kを再計算し(ステップS310)、処理を終了する。
【0057】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る信号処理装置10は、ハンドル信号と座面信号との信号強度の比を求める場合に、ハンドル信号に含まれるR波以外の区間で信号強度の比を求める。これによって、本実施例に係る信号処理装置10では、信号強度の比が導出されるにあたってR波による影響を低減させる。それゆえ、本実施例に係る信号処理装置10によれば、各センサの信号強度の比を正確に算出することが可能である。
【0058】
また、本実施例に係る信号処理装置10は、ハンドル信号と座面信号との間における相関係数を所定の区間ごとに算出する。その上で、本実施例に係る信号処理装置10は、相関係数が算出された区間のうち相関係数が所定の基準を満たす区間を選択する。これによって、本実施例に係る信号処理装置10は、外部の装置からの情報を使用せずとも、ハンドル信号に含まれるR波以外の区間を特定することが可能である。
【0059】
さらに、本実施例に係る信号処理装置10は、心拍情報記憶部16に記憶された心拍信号の検出位置および検出間隔を用いて、心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定する。このため、本実施例に係る信号処理装置10では、実際の心拍信号の位置を除外して信号強度の算出区間を特定することができる。よって、本実施例に係る信号処理装置10によれば、ハンドル信号に含まれるR波以外の区間を特定する精度を向上させることが可能である。
【実施例2】
【0060】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0061】
[装置の構成単位]
上記の実施例1では、信号処理装置10と心拍計測装置30とが別々に構成させる場合を例示したが、開示の装置はこれに限定されず、これら信号処理装置10及び心拍計測装置30を一体化して構成することとしてもかまわない。
【0062】
[分散および統合]
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、強度算出部12、ゲイン算出部13、差分算出部14、残差判定部15、特定部17または相関算出部18を信号処理装置10の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、ゲイン算出部13、差分算出部14、残差判定部15、特定部17または相関算出部18を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の信号処理装置10の機能を実現するようにしてもよい。
【0063】
[信号処理プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、図10を用いて、上記の実施例と同様の機能を有する信号処理プログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。
【0064】
図10は、実施例1及び実施例2に係る信号処理プログラムを実行するコンピュータの一例について説明するための図である。図10に示すように、コンピュータ100は、操作部110aと、スピーカ110bと、マイク110cと、ディスプレイ120と、通信部130とを有する。さらに、このコンピュータ100は、CPU150と、ROM160と、HDD170と、RAM180と有する。これら110〜180の各部はバス140を介して接続される。
【0065】
HDD170には、図10に示すように、上記の実施例1で示したゲイン算出部13、差分算出部14と、残差判定部15と、特定部17と、相関算出部18と同様の機能を発揮する信号処理プログラム170aが予め記憶される。この信号処理プログラム170aについては、図1に示した各々のゲイン算出部13、差分算出部14、残差判定部15、特定部17及び相関算出部18の各構成要素と同様、適宜統合又は分離しても良い。すなわち、HDD170に格納される各データは、常に全てのデータがHDD170に格納される必要はなく、処理に必要なデータのみがHDD170に格納されれば良い。
【0066】
そして、CPU150が、信号処理プログラム170aをHDD170から読み出してRAM180に展開する。これによって、図10に示すように、信号処理プログラム170aは、信号処理プロセス180aとして機能する。この信号処理プロセス180aは、HDD170から読み出した各種データを適宜RAM180上の自身に割り当てられた領域に展開し、この展開した各種データに基づいて各種処理を実行する。なお、信号処理プロセス180aは、図1に示したゲイン算出部13、差分算出部14、残差判定部15、特定部17及び相関算出部18にて実行される処理、例えば図8や図9に示す処理を含む。また、CPU150上で仮想的に実現される各処理部は、常に全ての処理部がCPU150上で動作する必要はなく、処理に必要な処理部のみが仮想的に実現されれば良い。
【0067】
なお、上記の信号処理プログラム170aについては、必ずしも最初からHDD170やROM160に記憶させておく必要はない。例えば、コンピュータ100に挿入されるフレキシブルディスク、いわゆるFD、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。そして、コンピュータ100がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておき、コンピュータ100がこれらから各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 信号処理装置
11a ハンドルセンサ
11b 座面センサ
12 強度算出部
13 ゲイン算出部
14 差分算出部
15 残差判定部
16 心拍情報記憶部
17 特定部
18 相関算出部
30 心拍計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の操舵部に設けられた第1の電極と、基準電極として用いられる第2の電極との間の第1の電位差信号を測定する第1の測定部と、
前記装置の操舵部とは異なる箇所に設けられた第3の電極と前記第2の電極との間の第2の電位差信号を測定する第2の測定部と、
前記第1の測定部によって測定される第1の電位差信号のうち心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定する特定部と、
前記第1の測定部よって測定される第1の電位差信号および前記第2の測定部によって測定される第2の電位差信号のうち前記特定部によって特定された区間を対象に、前記第1の電位差信号および前記第2の電位差信号の信号強度を算出する強度算出部と
を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記第1の電位差信号と前記第2の電位差信号との間における相関係数を所定の区間ごとに算出する相関算出部をさらに有し、
前記特定部は、前記相関算出部によって相関係数が算出された区間のうち、前記相関係数が所定の条件を満たす区間を選択することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記第1の電位差信号と前記第2の電位差信号との差分から得られた差分信号から心拍信号を計測する心拍計測装置によって計測された心拍信号の検出位置および検出間隔を記憶する記憶部とをさらに有し、
前記特定部は、前記記憶部に記憶された心拍信号の検出位置および検出間隔を用いて、前記心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
コンピュータが、
装置の操舵部に設けられた第1の電極と、基準電極として用いられる第2の電極との間の第1の電位差信号を測定し、
前記装置の操舵部とは異なる箇所に設けられた第3の電極と前記第2の電極との間の第2の電位差信号を測定し、
前記第1の電位差信号のうち心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定し、
各々測定される第1の電位差信号および第2の電位差信号のうち、特定された区間を対象に、前記第1の電位差信号および前記第2の電位差信号の信号強度を算出する
各処理を実行することを特徴とする信号処理方法。
【請求項5】
コンピュータに、
装置の操舵部に設けられた第1の電極と、基準電極として用いられる第2の電極との間の第1の電位差信号を測定し、
前記装置の操舵部とは異なる箇所に設けられた第3の電極と前記第2の電極との間の第2の電位差信号を測定し、
前記第1の電位差信号のうち心拍信号が含まれる区間以外の区間を特定し、
各々測定される第1の電位差信号および第2の電位差信号のうち、特定された区間を対象に、前記第1の電位差信号および前記第2の電位差信号の信号強度を算出する
各処理を実行させることを特徴とする信号処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−232001(P2012−232001A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103224(P2011−103224)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】