説明

信号制御装置、システム及び方法

【課題】車両の速度を計測しなくても、車両の通過又は車両の存在を感知するセンサを設置するだけで、信号機の感応制御を行えるようにする。
【解決手段】車両感知器の車両感知信号を受信し(S3)、前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の観測区間通過時間UGが経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線と前記車両感知器との間に設定されている観測区間に走行車両が存在しないものとみなして、最小青時間T1が経過したことを条件に青信号を打ち切る(S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点に進入するいずれかの車線に設置された車両感知器からの感知信号を用いて、当該交差点の信号灯を制御する信号制御装置、システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両が信号のある交差点に向かって道路を走行している場合、当該交差点の黄信号の終了までに当該交差点に進入できず、当該交差点の手前で停止もできない場合がある。
図8は、この危険性を説明するためのグラフである。縦軸は車両の走行速度(km/h)、横軸は交差点の停止線から車両の位置までの距離(m)を表す。
同図において、曲線L1は当該車両が減速したならば停止線で停止することのできる走行速度と距離の関係(停止条件)を表し、曲線L2は車両が走行中に黄信号になった場合にその黄信号時間内に(赤信号になる前に)車両が交差点の停止線まで到達することのできる走行速度と距離の関係(進入条件)を表す。
【0003】
曲線L1,L2の左側の領域Aにある車両は、いまの走行速度と距離では停止線の手前で停止することはできないし、黄信号時間内に停止線まで到達することはできる。そこで、走行中に黄信号になった場合に車両が交差点をわたってしまおうと判断する。
曲線L1,L2の右側にある領域Bの車両は、いまの走行速度と距離では停止線の手前で停止することはできるし、停止線まで到達した時点では、すでに黄信号時間は終わっている(赤信号になっている)。そこで、走行中に黄信号になった場合に減速して交差点で停止しようと判断する。
【0004】
曲線L1と曲線L2の間にある領域Cはジレンマゾーンといい、停止線でスムーズに(安全に)停止することも、黄信号が終わるまでに交差点に進入することもできない領域である。この領域Cにある車両は、赤で突っ込んだために、青となった交差側の歩行者を跳ねたり、交差側の車両と側面追突したりする恐れがある。
曲線L1と曲線L2の間にある領域Dはオプションゾーンといい、停止線で安全に停止することも、黄信号が終わるまでに交差点に進入することもできる領域で、停止又は通過に対する判断の異なる車両が入り混じるため、個性の異なるドライバが続いていると、前方車が停止したとき、後続車に追突される恐れがある。
【0005】
そこで交差点の手前(例えば150mの地点)に、車両の速度を測定する感知器を設置し、このようなジレンマゾーン、オプションゾーンにある車両を検出した場合に青信号時間を延長して事故を防止するとともに、検出しない場合には青信号を打ち切って交通の流れを円滑にする制御を「ジレンマ感応制御」という。
【特許文献1】特開平4−163700号公報
【特許文献2】特開昭62−229398号公報
【特許文献3】特開2003−317186号公報
【特許文献4】特開昭58−213399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記ジレンマゾーンとオプションゾーンをまとめて「危険回避領域」ということにする。
この危険回避領域に入っている車両を見つけるためには、個々の車両の速度情報が必要である。
ところが、個々の車両の速度情報を得るためには、速度検出型の車両センサが必要であった。このような速度検出型の車両センサとして、道路に走行方向に沿って2つの車両感知器を埋め込み、2つの車両感知器間の距離を車両検出時間差で割って速度を求めたり、道路に監視カメラを設置し、カメラ画面に写った車両の画像の動きから車両の速度を求めたりする必要がある。
【0007】
このような速度検出型の車両センサは高価であり、道路に多数設置するには不向きである。そこで、速度を検出しなくても済む安価な車両検出型のセンサが使える信号制御装置が求められている。
また、速度の計測誤差を考慮して危険回避領域を大きめに設定することが必要なため、信号制御の精度が低下するという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、車両の速度を計測しなくても、車両の通過又は車両の存在を感知するセンサを設置するだけで、信号機の感応制御を行うことができ、もって交通の流れをスムーズにすることのできる信号制御装置、システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の信号制御装置は、前記車両感知器の車両感知信号を受信する受信部と、前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の観測区間通過時間が経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線と前記車両感知器との間に設定されている観測区間に走行車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御部とを備えるものである。
【0010】
図1は、本発明の信号制御の原理を説明するためのグラフである。縦軸は車両の走行速度v、横軸は交差点の停止線から車両の位置までの距離xを表す。
前掲した図8と同様、曲線L1は車両が減速したならば停止線で停止することのできる走行速度と距離の限界を表す曲線であり、曲線L2は車両が走行中に黄信号になった場合にその黄信号時間内に(赤信号になる前に)車両が交差点の停止線まで到達することのできる走行速度と距離の限界を表す直線である。
【0011】
曲線L2と曲線L1の間にある領域Cは、停止線でスムーズに(安全に)停止することも、黄信号が終わるまでに交差点に進入することもできない領域である。この領域Cにある車両は、赤で突っ込んだために、青となった交差側の歩行者を跳ねたり、交差側の車両と側面追突したりする恐れがある。
曲線L2と曲線L1の間にある領域Dは、停止線で安全に停止することも、黄信号が終わるまでに交差点に進入することもできる領域で、停止又は通過に対する判断の異なる車両が入り混じるため、個性の異なるドライバが続いていると、前方車が停止したとき、後続車に追突される恐れがある。
【0012】
前記領域Cと領域Dとが「危険回避領域」となる。
危険回避領域は、車両の速度が低いほど交差点の近くに位置するようになる。
渋滞のない場合、道路を走行する車両の速度は、図2に示すように、ある範囲にわたって分布する。その分布の下限に近い値を第一の速度V1とし、その分布の上限に近い値を第二の速度V2とする。
【0013】
図1では、危険回避領域のうち、第一の速度V1と、第一の速度V1よりも大きな第二の速度V2とで挟まれる部分を斜線で示している。
この第一の速度V1における危険回避領域の交差点に最も近い端を図1に、位置D1で示す。第二の速度V2における危険回避領域の交差点から最も遠い端を図1に、位置D2で示す。位置D1,D2に挟まれる区間を「観測区間」とする。
【0014】
本発明では、交差点につながるいずれかの車線の所定位置に、車両の通過を検出する車両感知器で観測区間に入ろうとする車両を検出し、その車両が観測区間を脱出したと考えられる時間が経過した場合に青信号を打ち切って、交差点の交通をスムーズにするための制御を行う。
前記第二の速度V2は、当該道路の規制速度とすることができる。第一の速度V1は、経験上得られる値であり、第二の速度V2の5〜6割である。
【0015】
第一の速度V1より速い車両も存在し、第二の速度V2より遅い車両も存在するが、ほとんどの車両(例えば95%)は、第一の速度V1から第二の速度V2までの範囲内で走行すると考える。
なお、渋滞時は、速度分布はもっと遅くなるが、本発明では渋滞は想定していない。渋滞時にジレンマ感応制御をすることは通常ないからである。
【0016】
以上のことから、下限速度V1で進入してきた車両が危険回避領域から離れる境界位置を図1にD1で示している。上限速度V2で進入してきた車両が危険回避領域から離れる境界位置を図1にD2で示している。
観測区間の中に存在する車両は、速度によっては、危険回避領域に入っている可能性がある。
【0017】
本発明では、ジレンマ感応制御をするのに、車両の速度を計測しなくても済むように、前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の時間経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点と前記車両感知器との間に設定されている危険回避領域に車両が存在しないものとみなすこととする。
すなわち本発明では、位置D2又はその上流に車両感知器を設置して、走行する車両の有無を検知する。ある時刻において走行する車両を検知した場合、その車両が観測区間の端D1を通過し終えるまでの所定の観測区間通過時間が経過する前は、その車両は危険回避領域に入っていると判断する。観測区間通過時間が経過すれば、その車両は危険回避領域から出たものと判定する。
【0018】
前記所定の観測区間通過時間は、例えば、車両が前記車両感知器によって感知される位置から、前記第一の速度V1以上であって前記第二の速度V2以下の等速度VNで走行したと仮定した場合に、前記観測区間の交差点に最も近い端を通過するまでの時間とすればよい。
この速度VNは、図2に示すように、速度分布の最頻値Vuとしてもよく、速度分布の平均値Vmとしてもよい。しかし、第一の速度V1とすることが望ましい。速度VNを第一の速度V1に決めると、これよりも速く走行するほとんどの車両は、観測区間通過時間が経過した時点ですでに危険回避領域から出ているので、危険回避領域に車両が存在するのに間違って青信号を打ち切ってしまうという誤判断を避けられるからである。
【0019】
このように、車両が前記車両感知器によって感知された位置から、前記速度VNで走行した場合に、前記観測区間の交差点に最も近い端までを通過する時間経過しても、次の車両が感知されなかった場合、危険回避領域に入っている車両が1台も存在しないとみなして、青信号を打ち切って交通の流れをスムーズにする。
ただし、無条件で青信号を打ち切るのではなく、最小青時間が経過してから青信号を打ち切ることが望ましい。
【0020】
なお、危険回避領域に入っている車両が存在する限りは、青信号時間を延長して、事故を防止することが好ましい(ただし、青信号時間があまりにも長くなることを防ぐため、最大青時間を設けるとよい)。
また、本発明の信号制御装置は、交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両存在感知器を利用し、前記車両存在感知器により、前記交差点の停止線の上流側に設定されている観測区間の中に存在する車両の存在感知信号を受信する受信部と、前記存在感知信号に基づいて車両の存在を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線の上流側に設定されている危険回避領域に車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御部とを備えるものである。
【0021】
この発明の構成であれば、車両の通過を検出する車両感知器でなく、観測区間に存在する車両を検出できる車両存在感知器を利用することにより、その車両が観測区間を脱出したと考えられる時間をカウントする必要がない。観測区間に車両が存在しないことを検出すれば、青信号を打ち切ることができる。したがって、時間の経過を追う必要はなくなり、装置の構成をさらに簡単にすることができる。
【0022】
なお、前記発明と同様、青信号を打ち切るのは、最小青時間が経過したことを条件とすることが好ましい。
また、本発明の信号制御システム、信号制御方法は、前記信号制御装置の発明と実質同一発明にかかるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、速度感知器よりも安価な車両感知器又は車両存在感知器を設置してこれを利用することができるので、信号制御システム全体としてコスト削減が可能である。速度感知器の設置位置のように交差点から離さなくても済むため、感知器設置の自由度が向上する。さらに、個々の車両を追跡して速度計測をしなくてもよいので、信号制御処理負荷が軽くなるとともに、信号制御の精度向上が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図3は、交差点の地図である。交差点に進入する1本の車線において、交差点の停止線の位置から距離L1の地点をD1とし、距離L2の地点をD2とする。地点D1から地点D2までの区間(斜線で示している)を観測区間に設定する。
この交差点に進入する車線が4本あれば、このような観測区間が4つ設定される。
【0025】
観測区間の上流端である地点D2に車両感知器2が設置されている。
ただし、車両感知器2は、厳密に地点D2に設置する必要はなく、それよりも交差点から離れた地点に設置してもよい。図3では、車両感知器2を地点D2からさらに距離L3離れた位置に設置した状態を描いている。
車両感知器2は、超音波式のものであれば、例えば超音波を直下の道路に発射してその反射波を受信するまでの時間を計測することにより対象物までの距離を計測し、車両の通過をカウントするものである。
【0026】
しかし、車両感知方式は超音波式に限られるものではなく、例えば道路にコイルを埋め込んでその上を車両が通過することによる磁力線の変化を検出して車両の通過を感知する型のセンサを採用してもよい。
この車両感知器2は、車両の走行速度を計測する機能を持っていないものでも、本発明に使用することができることがメリットとなる。
【0027】
信号制御装置4は、図3に示すように、信号灯3の近くに設置され、車両感知器2、信号灯3と通信回線(図示せず)で結ばれている。なお信号制御装置4の設置位置はこの場所に限定されるものではなく、車両感知器2、信号灯3と通信回線でつながる限り、任意の場所に設置してよい。
また、前記信号制御装置4が、車両感知器2や信号灯3と結ばれる通信回線の通信媒体、周波数帯、通信方式、符号化方式などは限定されない。有線通信でもよく、無線電波を用いてもよく、光通信を用いてもよい。またDSRC(Dedicated Short Range Communication)といった極近距離に適した通信方式を用いてもよい。広範囲の通信系であるFM多重通信、携帯電話等を用いてもよい。
【0028】
図4は、互いに接続された車両感知器2と信号制御装置4の各機能を示すためのブロック図である。
車両感知器2は、車両を感知して車両感知信号を出力する車両感知部21と、車両感知信号を、通信回線を通して送信する送信部22とを備えている。
信号制御装置4は、車両感知器2から車両感知信号を受信する受信部41、各種時間を計測する計時部42、信号灯3の現示情報(例えば各現示の赤・黄・青時間)等を記憶する記憶部43、前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の観測区間通過時間が経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線と前記車両感知器2との間に設定されている危険回避領域に車両が存在しないものと判定して信号灯3を制御する判定制御部44等を備えている。
【0029】
信号制御装置4は、コンピュータ及び当該コンピュータを動かすプログラムで構成される。本発明の信号制御手順は、CD−ROMやハードディスクなど所定の媒体に記録されたプログラムを、コンピュータが実行することにより実現される。
以下、本発明の信号制御手順を、フローチャート(図5)を参照しながら説明する。
判定制御部44は、まず、信号が青に切り替わった時点から計測される変数である「青経過時間T」を0に設定し、車両を感知しないことを条件にして計測される変数である「車両無感知時間t」を0に設定する(ステップS1)。さらに最小青時間T1と、最大青時間T2とを設定する。最小青時間T1は、これ以上青時間を短くしてはいけない時間であり、最大青時間T2は、これ以上長く青を続けることができない時間である。ともに、交通政策上決定される定数である。
【0030】
判定制御部44は、信号が青に切り替わった時点から最大青時間T2が経過したかどうか判定し(ステップS2)、最大青時間T2が経過していれば、青信号を打ち切る(ステップS8)。最大青時間T2が経過していないならば、車両感知器2から車両感知信号を受け取ったかどうか判定する(ステップS3)。
車両感知信号を受け取れば、時間を更新するため青経過時間TにΔtを加算するとともに、車両無感知時間tを0にリセットする(ステップS6)。ここでΔtは、車両感知器2から車両感知信号を受け取る周期に相当する時間である。Δtは例えば0.2秒である。
【0031】
車両感知信号を受け取らなければ、車両無感知時間tと観測区間通過時間UGとを比較する(ステップS4)。車両無感知時間tが観測区間通過時間UGを超えていなければ、青経過時間TにΔtを加算するとともに、車両無感知時間tにΔtを加算して(ステップS7)、ステップS2に戻る。
このようにして、車両感知信号を受け取らない時間である車両無感知時間tを更新していく。
【0032】
車両無感知時間tが観測区間通過時間UG以上になれば、最小青時間T1が経過したかどうか判定する(ステップS5)。最小青時間T1が経過していなければ、青経過時間TにΔtを加算するとともに、車両無感知時間tにΔtを加算して(ステップS7)、ステップS2に戻る。
最小青時間T1が経過している場合は、危険回避領域に車両が存在していないとみなし、青信号を打ち切って黄信号に切替える(ステップS8)。
【0033】
そして、「青経過時間T」を0にリセットし、車両無感知時間tにΔtを加算して(ステップS9)、ステップS2に戻る。
このようにして、速度感知器よりも安価な車両感知器を設置してこれを利用することができるので、信号制御システム全体としてコスト削減が可能である。速度感知器の設置位置のように交差点から離さなくても済むため、感知器設置の自由度が向上する。さらに、個々の車両を追跡して速度計測をしなくてもよいので、信号制御処理負荷が軽くなるとともに、信号制御の精度向上が期待できる。
【0034】
ここで数値例をあげると、第一の速度V1を36km/hとし、第二の速度Vを規制速度に等しい60km/hとした場合、図1のグラフを適用すると、前記観測区間の交差点に最も近い端は、停止線から27mとなり、交差点から最も遠い端は、停止線から64mとなる。したがって観測区間の区間長は64−27=37mである。
車両感知器2を、観測区間の端D2よりもさらに上流に、L3=10mの位置、すなわち停止線から74mの位置に設置した。
【0035】
従って、車両感知器2は、観測区間の交差点に最も近い端D1から47mの位置にある。この距離をLと表記する。
観測区間を通過する車両の速度VNを、第一の速度V1に等しい36km/hとする。
車両感知器2の位置から観測区間の交差点に最も近い端D1までを速度VNで通過する時間Tは、T=L/VNで表され、
L=47m、VN=36km/h
とすると、T=4.7秒となる。
【0036】
観測区間通過時間UGは、前記時間Tから、車両感知器2の感知遅れ時間τを引いた時間となる。
UG=T−τ=4.5秒
τは0.2秒程度であり、無視してもよい数値である。τを無視するならば、 UG は4.7秒となる。
【0037】
以上に説明した信号制御処理では、原理的、確定的な数式を用いているが、余裕を持たせるため、あるいは計測誤差に対処するため時間を微調整し、各式の曲線又は直線に余裕を持たせることが好ましい。
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
いままでの実施形態であれば、判定制御部44は、車両を感知しないことを条件にして「車両無感知時間t」を計測し、これが観測区間通過時間UG以上になれば、危険回避領域に車両が存在しないものとして青信号を打ち切る制御を行う。
【0038】
しかし「車両無感知時間」を計測するのではなく、観測区間に車両が存在するかどうかを、車両存在感知器2aを用いて直接判定してもよい。車両存在感知器2aの例として、可視光線カメラ、近赤外線カメラ、遠赤外線カメラなどの画像式感知器や、近赤外線式感知器、遠赤外線式感知器がある。遠赤外線式感知器の場合、例えば、感知領域内の道路や車両から発せられる遠赤外線をサーモパイル素子で受光し、受光した遠赤外線の光量及びサーモパイル本体の温度に応じた電圧を検知して、感知領域内の車両の有無を検出する。
【0039】
図6は、交差点に進入する一車線に設置された車両存在感知器2aと設置状態を示す斜視図である。車両存在感知器2aは、この観測区間に存在する車両を検出するものであり、その感知領域は観測区間と一致している。なお、観測区間に存在する車両を検出できるものであれば、完全に一致している必要はなく、観測区間を含むものであってもよい。
車両存在感知器2aは、感知領域内の車両の有無を表す存在感知信号を、所定時間ごとに信号制御装置4に送信する。
【0040】
信号制御装置4の判定制御部44は、観測区間内で車両の有無を検知する。
車両検知方法を説明すると、例えば、サーモパイル素子の検知信号と、メモリに記憶された背景レベルとを比較し、背景レベルとの差が閾値以上の場合に、車両ありと判定する。閾値未満の場合は車両なしと判定する。この判定方法の詳細については、特開2003-317186 号公報参照。
【0041】
図7は、この実施形態の信号制御手順を説明するためのフローチャートである。
判定制御部44は、「青経過時間T」を0に設定するとともに、最小青時間T1と、最大青時間T2を設定する(ステップU1)。
判定制御部44は、最大青時間T2が経過したかどうか判定し(ステップU2)、最大青時間T2が経過していれば、青信号を打ち切る。(ステップU7) 最大青時間T2が経過していないならば、車両存在感知器2aから車両存在信号を受け取ったかどうか判定する(ステップU3)。
【0042】
車両存在感知信号を受け取れば、青経過時間にΔtを加算してステップU2に戻る(ステップU5)。
車両存在感知信号を受け取らなければ、カウントした青経過時間Tが最小青時間T1以上になったかどうか判定する(ステップU4)。最小青時間T1が経過していなければ、青経過時間TにΔtを加算してステップU2に戻る(ステップU6)。
【0043】
最小青時間T1が経過している場合は、青信号を打ち切る(ステップU7)。
そして、「青経過時間T」を0にリセットして(ステップU8)、ステップU2に戻る。
このようにして、路側に設置された車両存在感知器2aを利用して、車両無感知時間tを計測することなく、本発明の信号制御を行うことができる。したがって、車両感知器を用いる場合と比べて、処理の負荷が軽くなり処理速度の向上が図れる。また、車両存在感知器2aは、速度感知器よりも安価であり、信号制御システム全体としてコスト削減が可能である。また、速度感知器のように交差点から離して設置しなくても済むため、感知器設置場所の自由度が向上する。
【0044】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば交差点の流入路が複数車線を持っている場合にも適用することもできる。この場合、全ての車線を対象にして論理和判定を行う。すなわち、いずれかの車線で車両を検知した場合、車両無感知時間をリセットすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の信号制御の原理を説明するためのグラフである。
【図2】車両の速度分布図である。
【図3】信号制御が設置された交差点の平面地図である。
【図4】車両感知器と信号制御装置の各機能を示すブロック図である。
【図5】信号制御手順を示すフローチャートである。
【図6】他の実施形態にかかる交差点の斜視図である。
【図7】他の実施形態にかかる信号制御手順を示すフローチャートである。
【図8】一般的な信号制御の原理を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0046】
2 車両感知器
2a 車両存在感知器
21 車両感知部
22 送信部
3 信号灯
4 信号制御装置
41 受信部
42 計時部
43 記憶部
44 判定制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両感知器からの車両感知信号を用いて、当該交差点の信号灯を制御する信号制御装置であって、
前記車両感知器の車両感知信号を受信する受信部と、
前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の観測区間通過時間が経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線と前記車両感知器との間に設定されている危険回避領域に走行車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御部とを備えることを特徴とする信号制御装置。
【請求項2】
前記観測区間が、第一の速度V1と、第一の速度V1よりも大きな第二の速度V2とに基づいて決定される請求項1記載の信号制御装置。
【請求項3】
前記観測区間の交差点に最も近い端は、車両が前記車線を第一の速度V1で走行した場合に設定される危険回避領域の交差点に最も近い端に一致する請求項2記載の信号制御装置。
【請求項4】
前記観測区間の交差点から最も遠い端は、車両が前記車線を第一の速度V1よりも大きな第二の速度V2で走行した場合に設定される危険回避領域の交差点から最も遠い端に一致する請求項2記載の信号制御装置。
【請求項5】
前記危険回避領域は、走行する車両が停止線で安全に停止することも、黄信号が終わるまでに交差点に進入することもできる領域と、走行する車両が停止線でスムーズに停止することも、黄信号が終わるまでに交差点に進入することもできない領域とを合わせた領域いう請求項2から請求項4のいずれかに記載の信号制御装置。
【請求項6】
前記所定の観測区間通過時間は、車両が、前記車両感知器によって感知された時点から、前記観測区間を前記第一の速度V1以上であって前記第二の速度V2以下の速度VNで走行した場合に、前記観測区間の交差点に最も近い端を通過するまでの時間である請求項1記載の信号制御装置。
【請求項7】
前記速度VNは、前記第一の速度V1に等しい請求項6記載の信号制御装置。
【請求項8】
交差点の信号灯を制御する信号制御システムであって、
交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両感知器と、
前記車両感知器の車両感知信号を受信し、前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の観測区間通過時間が経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線と前記車両感知器との間に設定されている危険回避領域に走行車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御装置とを備える信号制御システム。
【請求項9】
交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両感知器によって車両感知信号を受信し、
前記車両感知信号に基づいて車両を感知した時刻から所定の観測区間通過時間が経過するまでに次の車両を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線と前記車両感知器との間に設定されている危険回避領域に走行車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御方法。
【請求項10】
交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両存在感知器からの存在感知信号を用いて、当該交差点の信号灯を制御する信号制御装置であって、
前記車両存在感知器からの、前記交差点の停止線の上流側に設定されている観測区間の中に存在する車両の存在感知信号を受信する受信部と、
前記存在感知信号に基づいて車両の存在を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線の上流側に設定されている危険回避領域に車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御部とを備える信号制御装置。
【請求項11】
前記観測区間が、第一の速度V1と、第一の速度V1よりも大きな第二の速度V2とに基づいて決定される請求項10記載の信号制御装置。
【請求項12】
前記観測区間の交差点に最も近い端は、車両が前記車線を第一の速度V1で走行した場合に設定される危険回避領域の交差点に最も近い端に一致する請求項11記載の信号制御装置。
【請求項13】
前記観測区間の交差点から最も遠い端は、車両が前記車線を第一の速度V1よりも大きな第二の速度V2で走行した場合に設定される危険回避領域の交差点から最も遠い端に一致する請求項11記載の信号制御装置。
【請求項14】
交差点の信号灯を制御する信号制御システムであって、
交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両存在感知器と、
前記車両存在感知器からの、前記交差点の停止線の上流側に設定されている観測区間の中に存在する車両の存在感知信号を受信し、前記存在感知信号に基づいて車両の存在を感知しなかった場合に、前記交差点の停止線の上流側に設定されている危険回避領域に車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御装置とを備える信号制御システム。
【請求項15】
交差点につながるいずれかの車線の所定位置に設置された車両存在感知器によって前記交差点の停止線の上流側に設定されている観測区間の中に存在する車両の存在感知信号を受信し、
前記存在感知信号に基づいて車両の存在を感知しなかった場合に、前記前記交差点の停止線の上流側に設定されている危険回避領域に車両が存在しないものとみなして、所定条件下で青信号を打ち切る信号制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−257495(P2007−257495A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83368(P2006−83368)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】