説明

信号取得装置

【課題】運動体の回転位置にかかわらず受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信できる信号取得装置を提供する。
【解決手段】円盤3と一体に運動しつつ円盤3の状態を表す信号を取得し静止部材に固定された固定側アンテナ39に送信する信号取得装置1であって、円盤3の状態を表す信号を取得するセンサおよびA/Dコンバータと、センサおよびA/Dコンバータにより取得された信号を無線信号として固定側アンテナ39に送信する回転側アンテナ16と、を備え、回転側アンテナ16は、指向性に応じて無線信号を送信可能な送信領域44を有し、円盤3の回転位置にかかわらず送信領域44が重複する重複領域45を形成するよう円盤3に設置されており、固定側アンテナ39は、指向性に応じて無線信号を受信可能な受信領域を有し、受信領域と重複領域とを少なくとも一部重複させるよう静止部材に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号取得装置に関し、特に、運動体に取り付けられ該運動体の状態に応じた信号を取得する信号取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転運動を行う運動体に設置され、運動体とともに回転しながら該運動体の状態を表す信号を取得する信号取得装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された従来の信号取得装置は、CVT(Continuously Variable Transmission)を構成するプーリーに掛けられたベルト部材の温度あるいは速度等の状態を表す情報を取得して、ホストコンピュータに測定データとして転送するようになっている。この信号取得装置は、ベルト部材の温度あるいは速度等を検出するセンサと、このセンサが検出した検出結果を表す信号を取得して測定データに変換するA/Dコンバータと、A/Dコンバータによって出力された測定データをホストコンピュータと接続された受信手段に無線で送信するための送信手段と、を備えている。さらに、信号取得装置は、センサと直接接続されており、ベルト部材とともに回転しながら、ベルト部材の状態を表す信号をセンサから取得するようになっている。
【0004】
このような構成により、センサと一体的に回転できるので、センサのみがベルト部材に設置される場合と比較して、センサから信号取得装置に出力される信号に外部からノイズが加わることを抑制できる。また、ホストコンピュータにおいては、信号取得装置により取得された信号を測定データとして無線で継続的に取得することができるので、ベルト部材の状態をリアルタイムでモニタすることが可能となる。
【0005】
このような従来の信号取得装置においては、ホストコンピュータとの間でブルートゥース(登録商標)無線通信を実行するようになっており、測定データを無線で送信するための送信手段と、ホストコンピュータに接続され該測定データを無線で受信するための受信手段との間の通信状態が良好であるならば、信号取得装置からホストコンピュータへ所望の送信速度で測定データを送信することができる。
【特許文献1】特開2006−337199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような特許文献1に記載の従来の信号取得装置にあっては、送信手段を構成する回転側アンテナが指向性を有し無線が送信され得る送信領域が限定されているにもかかわらず、送信領域を考慮せずに運動体に設置されていた。そのため、運動体の回転位置の変化に伴って信号取得装置の位置が変化し、回転側アンテナの送信領域が固定側アンテナの受信領域から離れると、送信手段と受信手段との間の通信状態が悪くなったり、通信が途切れたりする場合があった。したがって、従来の信号取得装置にあっては、運動体に設置された信号取得装置とホストコンピュータに接続された受信手段との間の通信状態が悪い場合、センサから取得した信号を送信時に間引く必要があり、結果として、信号取得装置により送信される測定データの間欠が増えるという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、運動体の回転位置にかかわらず受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる信号取得装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る信号取得装置は、上記目的達成のため、(1)回転運動を行う運動体に取り付けられ、前記運動体と一体に運動しつつ該運動体の状態を表す信号を取得し静止部材に固定された受信手段に送信する信号取得装置であって、前記運動体の状態を表す信号を取得する信号取得手段と、前記信号取得手段により取得された信号を無線信号として前記受信手段に送信する送信手段と、を備え、前記送信手段は、指向性に応じて前記無線信号を送信可能な送信領域を形成する回転側アンテナを有し、前記運動体の回転位置にかかわらず前記送信領域が重複する重複領域を形成するよう前記運動体に設置されており、前記受信手段は、指向性に応じて前記無線信号を受信可能な受信領域を形成する固定側アンテナを有し、前記受信領域と前記重複領域とを少なくとも一部重複させるよう前記静止部材に固定されたことを特徴とする。
【0009】
この構成により、運動体の回転運動に伴い回転側アンテナの位置が変化しても、回転側アンテナの重複する送信領域が固定側アンテナの受信領域と少なくとも一部重複するので、運動体の回転位置にかかわらず受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【0010】
上記(1)に記載の信号取得装置において、(2)円盤を形成する運動体に取り付けられ、前記回転側アンテナは、少なくとも前記円盤の中心軸の周囲に前記重複領域を形成するよう前記円盤に設置されることを特徴とする。
【0011】
この構成により、回転側アンテナが円盤の中心軸の周囲に重複領域を形成することができるので、固定側アンテナを円盤の中心軸の周囲に配置することにより、受信領域が重複領域と少なくとも一部重複する。したがって、運動体の回転位置にかかわらず送信手段と受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【0012】
上記(2)に記載の信号取得装置において、(3)前記円盤に形成された溝に嵌合する筐体を備え、前記回転側アンテナは、当該回転側アンテナの長軸が前記円盤の接線に対し平行となるよう前記筐体に設置され、前記筐体が前記溝に嵌合することにより前記回転側アンテナの設置方向が規制されることを特徴とする。
【0013】
この構成により、回転側アンテナの設置方向が規制されるので、重複領域の形成に対する再現性を高めることができ、送信手段と受信手段との間の通信状態の維持を確実にすることができる。
【0014】
上記(1)に記載の信号取得装置において、(4)シャフトを形成する運動体に取り付けられ、前記回転側アンテナは、少なくとも前記シャフトの外周に前記重複領域を形成するよう前記シャフトに設置されることを特徴とする。
【0015】
この構成により、回転側アンテナがシャフトの周囲に重複領域を形成することができるので、固定側アンテナをシャフトの円周の近傍に配置することにより、受信領域が重複領域と少なくとも一部重複する。したがって、運動体の回転位置にかかわらず送信手段と受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【0016】
上記(4)に記載の信号取得装置において、(5)凹状の側面を有する筐体を備え、前記凹状の側面は、前記シャフトの外周と等しい曲率を有し、前記凹状の側面と前記シャフトの前記外周とが対向するよう前記筐体を前記シャフトに設置することにより前記回転側アンテナの設置方向が規制されることを特徴とする。
【0017】
この構成により、回転側アンテナの設置方向が規制されるので、重複領域の形成に対する再現性を高めることができ、送信手段と受信手段との間の通信状態の維持を確実にすることができる。
【0018】
上記(1)に記載の信号取得装置において、(6)前記送信手段は、複数の回転側アンテナを有し、各々の前記回転側アンテナの長軸により互いに形成される角度が最大となるよう前記筐体に配置されていることを特徴とする。
【0019】
この構成により、複数の回転側アンテナのうち回転位置にかかわらず重複領域と受信領域とが少なくとも一部重複することが可能な1つの回転側アンテナから無線信号を送信することにより、送信手段と受信手段との間の通信状態の維持を確実にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、運動体の回転位置にかかわらず受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置を示す概略構成図である。
【0023】
データロガーを構成する信号取得装置1は、車両に搭載されるシャフトや円盤など、所定の回転運動を行う被検査物としての運動体の運動状態を測定し、状態を表す信号を測定信号として後述するホストコンピュータ31に無線で送信するようになっている。
【0024】
以下、信号取得装置1がクラッチ板やフライホイールなどを構成する円盤3に設置され、この円盤3の温度を測定する場合について説明する。なお、信号取得装置1が、円盤3の回転速度など温度以外の運動状態を取得するようにしてもよい。
【0025】
信号取得装置1は、アナログ信号としてセンサ2により取得された円盤3の温度を表す測定信号を、測定データとしてのデジタル信号に変換するA/Dコンバータ11と、測定データを記憶するメモリ13と、プログラム型回路素子で構成され、A/Dコンバータ11から出力された測定データをメモリ13へ書込んだり、メモリ13に書込まれた測定データを読出したりする専用処理装置としてのCPLD(Complex Programmable Logic Device)14と、後述するホストコンピュータ31に無線で測定データを送信する回転側アンテナ16と、全体的な制御を行うとともに後述する処理を実行するCPU(Central Processing Unit)17と、を備えている。
【0026】
回転側アンテナ16は、図示しない無線通信モジュールと接続されている。無線通信モジュールは、メモリ13あるいはCPU17から測定データを取得すると、無線通信に適した変調方式で変調し、回転側アンテナ16に無線信号として出力するようになっている。無線通信モジュールは、例えば、2.4GHz帯の公知の無線通信技術を用いた通信機器により構成されている。ここで、本実施の形態に係る回転側アンテナ16および無線通信モジュールは、本発明に係る送信手段を構成する。
【0027】
CPU17は、ホストコンピュータ31から、測定データのメモリ13に対する書込み開始および書込み終了を表す信号を回転側アンテナ16を介して取得すると、CPLD14を制御して測定データのメモリ13への書込みを実行したり終了したりする。
【0028】
また、CPU17は、A/Dコンバータ11により出力された測定データがリアルタイムでホストコンピュータ31に送信されるよう、CPLD14および図示しない無線通信モジュールを制御するようになっている。
【0029】
また、CPU17は、ホストコンピュータ31からの指示信号により、円盤3の温度の測定が終了した後に、メモリ13に書込まれた測定データを一括してホストコンピュータ31に送信するよう、CPLD14および図示しない無線通信モジュールを制御するようになっている。
【0030】
さらに、信号取得装置1は、CPU17などに電力を供給するための電源供給手段18を備えている。電源供給手段18は、回転側の電磁結合コイル、電磁誘導回路、充電回路およびバッテリーにより構成されている。
【0031】
回転側の電磁結合コイルは、例えば、後述する固定側の電磁結合コイルとの間隔が2mm以下となった場合に、当該固定側の電磁結合コイルと電磁誘導により結合するようになっている。また、電磁誘導回路は、公知の整流回路や平滑回路を有しており、回転側の電磁結合コイルに生じた起電力に応じた電力を出力するようになっている。充電回路は、電磁誘導回路から出力された電力を、バッテリーに充電するようになっている。
【0032】
センサ2は、例えば、円盤3の温度に応じた電圧を発生する熱電対により構成されている。熱電対はA/Dコンバータ11と接続されており、熱電対により発生された電圧が測定信号としてA/Dコンバータ11に入力されるようになっている。なお、本実施の形態に係るセンサ2およびA/Dコンバータ11は、本発明に係る信号取得手段を構成する。
【0033】
ホストコンピュータ31は、図示しない車両のシャシやボディにおいて、回転運動を行わない部材、すなわち静止部材に設置されている。また、ホストコンピュータ31は、通信アダプタ35および充電装置37と接続されており、信号取得装置1および図示しない他の公知のデータ取得装置から通信アダプタ35を介してリアルタイムで信号を受信するようになっている。
【0034】
通信アダプタ35は、固定側アンテナ39と接続されており、信号取得装置1の回転側アンテナ16により無線信号として送信された測定データを、固定側アンテナ39を介して取得し、復調した後にホストコンピュータ31に転送するようになっている。ここで、本実施の形態に係る固定側アンテナ39および通信アダプタ35は、本発明に係る受信手段を構成する。
【0035】
充電装置37は、図示しないコントローラおよび固定側の電磁結合コイルを有している。信号取得装置1からホストコンピュータ31に対し充電要求を表す信号が送信された場合には、ホストコンピュータ31は、固定側の電磁結合コイルに電流が供給されるようコントローラを制御し、回転側の電磁結合コイルと固定側の電磁結合コイルとが2mm以下に接近した際に電磁誘導により結合されるようになっている。
【0036】
なお、ホストコンピュータ31は、図示しない複数の信号取得装置と接続されている場合には、すべての信号取得装置が同時に測定データの取得を開始したり終了したりするよう、通信アダプタ35を介してそれぞれの信号取得装置に無線指令信号を送信してもよい。
【0037】
本実施の形態においては、信号取得装置1の回転側アンテナ16および固定側アンテナ39は、1/4λホイップアンテナにより構成されている。
【0038】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置における回転側アンテナの配置を示す図である。
【0039】
回転側アンテナ16を構成するアンテナ素子は、図2に示すように、棒状に形成されており、その長軸の軸方向と筐体10の長手方向とが一致するように内部に固定されている。このアンテナ素子は、一端部16aが給電部になっており、長軸の他端部16bが開放されている。また、固定側アンテナ39を構成するアンテナ素子も、棒状に形成されており、長軸の一端部が給電部になっており、長軸の他端部が開放されている。
【0040】
したがって、一端部16aと他端部16bとを結ぶ長軸を本発明における長軸とする。なお、回転側アンテナ16は、筐体10の外部に固定されていてもよい。
【0041】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置における1/4λホイップアンテナの指向性を示す図である。
【0042】
図3(a)は、図2のA方向と対応しており、信号取得装置1を上面視した際の指向性に応じた送信領域44を示す図である。1/4λホイップアンテナの指向性は、水平面内において長軸の垂直方向に対して最大となり、長軸方向において略ゼロとなる。つまり、1/4λホイップアンテナは、長軸と平行である送信不能方向46に対しては電波の送受信を行うことができない。
【0043】
また、図3(b)は、図2のB方向と対応しており、信号取得装置1を側面視した際の指向性に応じた送信領域44を示す図である。1/4λホイップアンテナの指向性は、垂直面内においても、長軸の垂直方向に対して最大となり、長軸方向において略ゼロとなる。
【0044】
また、図3(c)は、図2のC方向と対応しており、信号取得装置1を前面視した際の指向性に応じた送信領域44を示す図である。1/4λホイップアンテナの指向性は、長軸の垂直方向に対してほぼ円形の形状となる。なお、1/4λホイップアンテナを受信用のアンテナとして使用する場合には、図3(a)ないし(c)のいずれの場合においても、受信領域の形状は送信領域44の形状と等しくなる。
【0045】
図1に再び戻り、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39の指向性を考慮して取り付けられていないと、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間における無線通信が途切れ、信号取得装置1からホストコンピュータ31にリアルタイムで送信される測定データに間欠が生じることとなる。
【0046】
ここで、アンテナの指向性に起因して無線通信が途切れる場合について説明する。
【0047】
図4は、無線通信が途切れる従来の回転側アンテナおよび固定側アンテナの配置例を示す図である。なお、従来の回転側アンテナおよび固定側アンテナの構成は、上述した回転側アンテナ16および固定側アンテナ39と同様とする。
【0048】
図4(a)に示すように、回転側アンテナ66が後述するシャフト83に設置される場合において、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の長軸がシャフト83の円周の接線といずれも平行であるならば、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の送信不能方向86が一致するシャフト83の回転位置が存在し、無線通信が途切れることとなる。
【0049】
また、図4(b)に示すように、回転側アンテナ66が円盤63の円周面に設置される場合において、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の長軸が円盤63の接線といずれも平行であるならば、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の送信不能方向86が一致する円盤63の回転位置が存在し、無線通信が途切れることとなる。
【0050】
また、図4(c)に示すように、回転側アンテナ66が円盤63の円周面に設置される場合において、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の長軸が円盤63の中心軸といずれも平行であるならば、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の送信不能方向86が常に一致している。したがって、円盤63の回転位置によって回転側アンテナ66の長軸と固定側アンテナ79の長軸とが略同一線上になる場合には、無線通信が途切れることとなる。
【0051】
また、図4(d)に示すように、回転側アンテナ66が円盤63の側面に設置される場合において、回転側アンテナ66の長軸が円盤63の接線と平行であり、固定側アンテナ79と中心軸との距離が円盤63の半径よりも離れた位置に設置されるならば、固定側アンテナ79の設置方向によっては回転側アンテナ66および固定側アンテナ79の送信不能方向86が一致する円盤63の回転位置が存在し、無線通信が途切れることとなる。
【0052】
換言すれば、回転側アンテナ66および固定側アンテナ79が図4(a)ないし(d)に示す位置関係を有する場合、回転側アンテナ66の長軸と固定側アンテナ79の長軸との角度が、円盤63やシャフト83の回転に伴い常に変化したり、常に平行のままとなってしまう。このため、固定側アンテナ79の受信領域が回転側アンテナ66の送信不能方向86に位置することとなったり、回転側アンテナ66の送信領域が固定側アンテナ79の送信不能方向86に位置することとなり、回転側アンテナ66と固定側アンテナ79との間における無線通信が途切れることとなってしまう。
【0053】
このため、本実施の形態においては、無線通信が途切れることを防止するために、円盤3の回転軌道と回転側アンテナ16の送信領域を考慮して、円盤3の回転位置にかかわらず回転側アンテナ16から常に電波が送信される送信領域を固定側アンテナ39の受信領域と重複するよう回転側アンテナ16および固定側アンテナ39が配置する。この結果、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の無線通信が途切れず、無線信号がリアルタイムで送信されるようになる。
【0054】
なお、本発明における送信領域とは、回転側アンテナ16の指向性に応じて回転側アンテナ16から出力される電波の強度が所定値以上となる領域を意味し、重複領域とは、回転側アンテナ16の指向性に応じて回転側アンテナ16から出力される電波の強度が所定値以上となる領域が円盤3や後述するシャフト43の各回転位置によって重複する領域を意味する。また、受信領域とは、固定側アンテナ39が所定値以上の強度の電波を固定側アンテナ39の指向性に応じて受信可能な領域を意味する。また、送信領域と受信領域とが少なくとも一部重複していれば、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の通信が可能であるものとする。
【0055】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置における回転側アンテナの指向性の重複領域を示す図である。
【0056】
本実施の形態に係る信号取得装置1は、図5(a)に示すように、回転側アンテナ16の長軸が円盤3の円周に対する接線と平行になるよう設置される。図5(b)〜(e)は、この回転側アンテナ16の配置において、円盤3の回転角度が0°、90°、180°および270°となる回転位置に変化した場合の回転側アンテナ16の送信領域44を示している。
【0057】
回転側アンテナ16の指向性は、長軸の垂直方向において最大となるため、送信領域44は、回転側アンテナ16に対して、円盤3の円周方向および中心軸4の方向に形成される。
【0058】
この結果、図5(f)に示すように、円盤3の中心軸4の周囲には、円盤3の回転位置にかかわらず回転側アンテナ16の送信領域44が重なる重複領域45が形成される。したがって、固定側アンテナ39を重複領域45内において回転側アンテナ16の長軸と平行になるよう設置し、円盤3の回転位置にかかわらず固定側アンテナ39の受信領域が重複領域45と重複することにより、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との無線通信を継続することが可能となる。なお、固定側アンテナ39の受信領域が重複領域45を含むようにしてもよく、逆に、重複領域45が固定側アンテナ39の受信領域を含むようにしてもよい。
【0059】
以上の説明においては、信号取得装置1を円盤3に単に取り付けた場合について説明したが、以下に説明するように、筐体の形状を変更するとともに円盤3に溝を形成して、これに嵌合するようにしてもよい。
【0060】
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置の設置例を示す図である。
【0061】
信号取得装置1の筐体40は、円弧状側面40aおよび40bを有している。円弧状側面40aおよび40bは同心円上に形成され、信号取得装置1が円盤3に設置されると、円弧状側面40aおよび40bが、円盤3の円周に対して同心円となるようになっている。
【0062】
つまり、信号取得装置1は、クラッチ部品、フライホイールあるいはドライブプレートのアンバランス調整ウェイトと類似した形状を有している。したがって、円盤3がクラッチ部品、フライホイールあるいはドライブプレートにより構成されている場合には、信号取得装置1の筐体40が、円盤3のアンバランス調整ウェイトを設置する既存の溝と等しい曲率の円弧状側面を有するようにし、筐体40が溝に嵌合することとなる。このとき、回転側アンテナ16の長軸方向が、円盤3の円周の接線に対して平行となるよう筐体40に取り付けることによって、筐体40を溝に嵌合させると設置方向が規制され、その結果、重複領域45(図5参照)が確実に形成される。また、信号取得装置1をバランス調整ウェイトの一部として代用することも可能となる。
【0063】
このような構成を有する本実施の形態に係る信号取得装置1の動作の一例について図1を参照しながら説明する。
【0064】
まず、信号取得装置1のCPU17は、ホストコンピュータ31から、取得信号をリアルタイムでホストコンピュータ31に転送するための転送要求を表す信号が受信されたか否かを判断する。次に、信号取得装置1のA/Dコンバータ11は、センサ2としての熱電対から、円盤3の温度に応じた電圧をアナログ信号として取得し、デジタルの測定データに変換する。
【0065】
次に、CPU17は、転送要求を表す信号が受信されたと判断した場合には、CPLD14および図示しない無線通信モジュールを制御して、測定データを無線通信に適した変調方式で変調し、回転側アンテナ16から無線信号として送信させる。
【0066】
このとき、回転側アンテナ16は、円盤3とともに回転しているため、円盤3の回転位置に応じて送信領域44(図5参照)が変化している。この送信領域44は、円盤3の回転位置によらず常に重複している重複領域45(図5参照)を形成している。したがって、回転側アンテナ16から無線送信された測定データは、円盤3の回転位置が変化しても、重複領域45に確実に伝搬される。
【0067】
次に、固定側アンテナ39は、重複領域45(図5参照)において、回転側アンテナ16から伝搬された無線信号を受信する。次に、固定側アンテナ39により受信された無線信号は、通信アダプタ35により復調され、ホストコンピュータ31に伝送される。
【0068】
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置1は、円盤3の回転運動に伴い回転側アンテナ16の位置が変化しても、回転側アンテナ16の重複する送信領域44が固定側アンテナ39の受信領域と少なくとも一部重複するので、円盤3の回転位置にかかわらず固定側アンテナ39との間の通信状態を維持でき、取得した円盤3の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【0069】
また、回転側アンテナ16が円盤3の中心軸4の周囲に重複領域45を形成することができるので、固定側アンテナ39を円盤3の中心軸4の周囲に配置することにより、受信領域が重複領域45と少なくとも一部重複する。したがって、円盤3の回転位置にかかわらず回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の通信状態を維持でき、取得した円盤3の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【0070】
また、回転側アンテナ16の設置方向が規制されるので、重複領域45の形成に対する再現性を高めることができ、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の通信状態の維持を確実にすることができる。
【0071】
なお、上述した実施の形態においては、信号取得装置1が円盤3に設置される場合について説明しているが、これに限定されず、次に説明する第2の実施の形態のように、本発明に係る信号取得装置1がシャフトに設置されるようにしてもよい。
【0072】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置について、図7および図8を参照して説明する。
【0073】
なお、第2の実施の形態に係る信号取得装置の構成は、上述の第1の実施の形態に係る信号取得装置の構成とほぼ同様であり、各構成要素については、図1に示した第1の実施の形態と同様の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0074】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置における回転側アンテナの指向性の重複領域を示す図である。
【0075】
本実施の形態において、信号取得装置1は、ドライブシャフトやプロペラシャフトなどを構成する運動体としてのシャフト43に設置され、回転側アンテナ16の長軸は、シャフト43の長軸と平行になっている。
【0076】
本実施の形態に係る信号取得装置1は、図7(a)に示すように、回転側アンテナ16の長軸がシャフト43の長軸と平行になるよう設置される。図7(b)〜(e)は、この回転側アンテナ16の配置において、シャフト43の回転角度が0°、90°、180°および270°となる回転位置に変化した場合の回転側アンテナ16の送信領域44を示している。
【0077】
回転側アンテナ16の指向性は、長軸の垂直方向において最大となるため、重複領域45は、図7(f)に示すように、シャフト43の外周に形成される。したがって、固定側アンテナ39は、受信領域が重複領域45と重複するようシャフト43の円周の近傍に設置される。また、固定側アンテナ39の長軸とシャフト43の長軸とが平行となるよう固定側アンテナ39を静止部材に設置することにより、固定側アンテナ39の受信領域と重複領域45とを確実に重複させることができる。
【0078】
以下、具体的な設置例について説明する。
図8(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置の上面図であり、図8(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置をシャフトに取り付けた状態におけるその側面図である。
【0079】
図8(a)に示すように、回転側アンテナ16は、信号取得装置1を形成する筐体50の長手方向に設置されている。したがって、回転側アンテナ16の送信不能方向46と、筐体50の長手方向とは、互いに一致している。また、図8(b)に示すように、筐体50は、シャフト43の円周面と対向する凹状の側面50aを有している。この凹状の側面50aは、シャフト43の外周と等しいか小さい曲率を有し、シャフト43の円周面と近接あるいは接触させられるよう筐体50をシャフト43に設置することにより、信号取得装置1がシャフト43に設置される際の筐体50の方向を規制することが可能となる。
【0080】
したがって、回転側アンテナ16の長軸が図8(b)の紙面に対して垂直となるよう信号取得装置1を構成することにより、回転側アンテナ16の長軸は、信号取得装置1がシャフト43に設置された際に常にシャフト43の長軸と平行になる。
【0081】
これにより、シャフト43の回転位置にかかわらず回転側アンテナ16の重複領域45が形成されるので、固定側アンテナ39の受信領域が重複領域45と重複するよう回転側アンテナ16が設置されることにより、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の通信領域が常に重なることとなる。結果として、信号取得装置1は、ホストコンピュータ31に対し、測定データを間欠させることなく無線送信することが可能となる。
【0082】
以上のように、本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置においては、回転側アンテナ16がシャフト43の周囲に重複領域45を形成することができるので、固定側アンテナ39をシャフト43の円周の近傍に配置することにより、受信領域が重複領域45と少なくとも一部重複する。したがって、シャフト43の回転位置にかかわらず回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の通信状態を維持でき、取得したシャフト43の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができる。
【0083】
また、回転側アンテナ16の設置方向が規制されるので、重複領域45の形成に対する再現性を高めることができ、回転側アンテナ16と固定側アンテナ39との間の通信状態の維持を確実にすることができる。
【0084】
なお、上述した実施の形態においては、信号取得装置1が1つの回転側アンテナ16を備える場合について説明した。しかしながら、次に説明する第3の実施の形態のように、本発明に係る信号取得装置1が複数の回転側アンテナを備えるようにしてもよい。
【0085】
(第3の実施の形態)
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る信号取得装置を示す図である。信号取得装置1は、3つの回転側アンテナ52ないし54を備えており、これらの回転側アンテナ52ないし54は、3軸アンテナを形成している。それぞれの回転側アンテナ52ないし54は、上述した第1の実施の形態の回転側アンテナ16と同様な構成となっており、互いに長軸が平行とならないように設置される。この場合、互いの長軸により形成される角度が最大となるよう3つの回転側アンテナ52ないし54を設置すると、いずれかの回転側アンテナにより、前述した重複領域45と同様な重複領域が形成される確実性が高くなり好適である。
【0086】
信号取得装置1のCPU17(図1参照)は、複数の回転側アンテナ52ないし54のうち、固定側アンテナと電波の送受信を行ういずれか1つを選択するようになっている。また、信号取得装置1は、無線信号が送信されるアンテナ素子を選択するための図示しない選択スイッチを備えており、CPU17から出力される測定データは、選択スイッチにより選択された回転側アンテナを表す信号がCPU17に入力されるようになっている。CPU17は、この信号に基づき、選択された回転側アンテナから測定データが出力されるよう図示しない無線通信モジュールの回路を切り替えるよう制御するようになっている。
【0087】
なお、選択スイッチによる回転側アンテナの選択は、手動により行われてもよく、あるいは、ホストコンピュータ31(図1参照)が、回転側アンテナと固定側アンテナとの間の通信状態が悪いと判断した場合に、信号取得装置1のCPU17に選択スイッチを切り替えるための信号を送信するようにしてもよい。
【0088】
このような構成を有することにより、複数の回転側アンテナ52ないし54のうち最適な1つの回転側アンテナが選択され、その選択された回転側アンテナの回転位置にかかわらず重複領域が形成されることとなる。この結果、この重複領域と受信領域とが少なくとも一部重複することが可能となり、1つの回転側アンテナから無線信号を送信することができる。したがって、回転側アンテナと固定側アンテナ39との間の通信状態の維持を確実にすることができる。
【0089】
例えば、筐体60が、円盤3(図6参照)あるいはシャフト43(図8参照)に設置されるごとに設置方向が異なる場合においても、通信を行うための回転側アンテナを適宜選択することにより、上述した重複領域45(図5および図7参照)と同様な重複領域を形成することが可能となる。なお、回転側アンテナのみならず、固定側アンテナも3軸アンテナにより構成されていてもよい。
【0090】
また、以上の説明においては、固定側アンテナが重複領域内に設置される場合について説明したが、これに限定されず、固定側アンテナの受信領域と回転側アンテナの重複領域とが少なくとも一部重複するよう固定側アンテナを配置すればよい。
【0091】
また、以上の説明においては、回転側アンテナおよび固定側アンテナがいずれも1/4λホイップアンテナにより構成される場合について説明したが、これに限定されず、信号取得装置1が、運動体の回転によって重複領域を形成可能なアンテナを有し、固定側アンテナの受信領域が、重複領域と重複するよう構成されていればよい。このようなアンテナとしては、例えば、図3(c)に示したように、長軸に対して垂直方向に無指向性を有するものが好適である。また、信号取得装置1の筐体10、筐体40あるいは筐体50に回転側アンテナ16の長軸の方向を表すマークを記載することにより、重複領域を確実に形成することが可能となる。
【0092】
以上のように、本発明に係る信号取得装置は、運動体の回転位置にかかわらず受信手段との間の通信状態を維持でき、取得した運動体の状態を表す信号を間欠させずに無線送信することができるという効果を奏するものであり、車両の回転体に設置される信号取得装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置における回転側アンテナの配置を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置における1/4λホイップアンテナの指向性を示す図である。
【図4】従来の回転側アンテナおよび固定側アンテナの配置例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置における回転側アンテナの指向性の重複領域を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る信号取得装置の設置例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置における回転側アンテナの指向性の重複領域を示す図である。
【図8】図8(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置の上面図であり、図8(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る信号取得装置をシャフトに取り付けた状態におけるその側面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る信号取得装置を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 信号取得装置
2 センサ(信号取得手段)
3 円盤(運動体)
4 中心軸
10 筐体
10a 側面
10b 側面
11 A/Dコンバータ(信号取得手段)
13 メモリ
14 CPLD(専用処理装置)
16 回転側アンテナ(送信手段)
17 CPU
18 電源供給手段
31 ホストコンピュータ
35 通信アダプタ
37 充電装置
39 固定側アンテナ(受信手段)
40 筐体
41 電磁結合コイル
43 シャフト(運動体)
44 送信領域
45 重複領域
46 送信不能方向
50 筐体
50a 側面
52〜54 回転側アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転運動を行う運動体に取り付けられ、前記運動体と一体に運動しつつ該運動体の状態を表す信号を取得し静止部材に固定された受信手段に送信する信号取得装置であって、
前記運動体の状態を表す信号を取得する信号取得手段と、
前記信号取得手段により取得された信号を無線信号として前記受信手段に送信する送信手段と、を備え、
前記送信手段は、指向性に応じて前記無線信号を送信可能な送信領域を形成する回転側アンテナを有し、前記運動体の回転位置にかかわらず前記送信領域が重複する重複領域を形成するよう前記運動体に設置されており、
前記受信手段は、指向性に応じて前記無線信号を受信可能な受信領域を形成する固定側アンテナを有し、前記受信領域と前記重複領域とを少なくとも一部重複させるよう前記静止部材に固定されたことを特徴とする信号取得装置。
【請求項2】
円盤を形成する運動体に取り付けられ、
前記回転側アンテナは、少なくとも前記円盤の中心軸の周囲に前記重複領域を形成するよう前記円盤に設置されることを特徴とする請求項1に記載の信号取得装置。
【請求項3】
前記円盤に形成された溝に嵌合する筐体を備え、
前記回転側アンテナは、当該回転側アンテナの長軸が前記円盤の接線に対し平行となるよう前記筐体に設置され、
前記筐体が前記溝に嵌合することにより前記回転側アンテナの設置方向が規制されることを特徴とする請求項2に記載の信号取得装置。
【請求項4】
シャフトを形成する運動体に取り付けられ、
前記回転側アンテナは、少なくとも前記シャフトの外周に前記重複領域を形成するよう前記シャフトに設置されることを特徴とする請求項1に記載の信号取得装置。
【請求項5】
凹状の側面を有する筐体を備え、
前記凹状の側面は、前記シャフトの外周と等しい曲率を有し、
前記凹状の側面と前記シャフトの前記外周とが対向するよう前記筐体を前記シャフトに設置することにより前記回転側アンテナの設置方向が規制されることを特徴とする請求項4に記載の信号取得装置。
【請求項6】
前記送信手段は、複数の回転側アンテナを有し、各々の前記回転側アンテナの長軸により互いに形成される角度が最大となるよう前記筐体に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の信号取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−55288(P2010−55288A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218273(P2008−218273)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】