説明

修飾ペプチド及びその製造方法

【課題】(1)生体内又は生体表面等の生体環境においても持続的に使用できるペプチドを提供する。(2)ペプチドの製造方法において高い収率を達成する。
【解決手段】N末端がチアゾリジン環であり、かつC末端がリジンε−ラクタム環であることを特徴とする両端が修飾されたペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ペプチド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬、食品、又は化粧品等の様々な分野において、ペプチドが注目されている。例えば、生理活性、及び抗微生物活性等をはじめとする有用活性を示す種々の機能性ペプチドを有効成分として配合すること等が広く行われている。
【0003】
しかしながら、生体内又は生体表面等の生体環境において従来のペプチドは加水分解されやすく、このため目的を達成する前に分解してしまう等の問題点があった。
【0004】
そこで、機能性ペプチドに対して化学修飾を施すことにより加水分解耐性を付与しようとする試みが行われてきた。例えば、配列中のペプチド結合をその構造等価体に置き換えて加水分解耐性を付与し、構造および機能の特徴を維持した類縁体を設計・合成する試みが行われている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、機能性ペプチドを修飾することによってその有用活性が劇的に低下してしまうことが報告されている(非特許文献2)。このため機能性ペプチドに対してその有用活性を維持しつつ加水分解耐性を付与することは困難を極め、この課題は長らく解決されていなかった。
【0006】
また、ペプチドの製造方法としては、「化学合成法」と組換えDNA技術による「生物学的生産法」の2種類が主に用いられている。化学合成法では、任意のアミノ酸および修飾基からなるペプチドの製造が可能であるものの、大量の有機溶媒・副生成物の生成を伴うとともに、生産コストが極めて高い。一方、生物学的生産法では、水性の培養液中等で大量生産が可能であるものの、生産生物が利用可能なアミノ酸(一般的には、天然アミノ酸)からなるペプチド配列のみに限定され、特に、ペプチド両末端には修飾基が施されない状態で単離されることが一般的である。これらの生産法の利点を活用する方法として、まず目的ペプチドを含む融合タンパク質もしくは融合ペプチドをいったん取得してから、次に目的ペプチドを切り出すという方法が行われている。例えば、培養微生物において目的ペプチドを含む融合タンパク質もしくは融合ペプチドをいったん発現により取得した後、目的ペプチドを化学的処理により切り出すことが行われている。
【0007】
しかしながら、従来の製造方法は目的ペプチドの生産収率が悪い等の問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】有機合成化学協会誌、2008年、66巻9号、846─857
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA., April 7, 2009, vol. 106, no. 14, pp 5801−5806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生体内又は生体表面等の生体環境においても持続的に使用できるペプチドを提供することを課題とする。また、ペプチドの製造方法において高い収率を達成することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々の処理方法を検討する等して多大な試行錯誤を重ねた結果、格段に優れた加水分解耐性を示す修飾されたペプチド(以下、本明細書において修飾されたペプチドのことを単に「修飾ペプチド」ということがある。)を取得することに成功した。機能性ペプチドを修飾して得られる修飾ペプチドはその有用活性を失うであろうことが従来技術から予測された。本発明者らは、この修飾が驚くべきことに予測に反してペプチドの有用活性に大きな影響を与えないことを見出した。
【0011】
さらに本発明者らは、所定の方法によることでこの修飾ペプチドを高収率で製造できるという驚くべき知見を得た。
【0012】
この技術的思想を基礎として、本発明者らはさらに多大な時間と労力をかけることにより一層優れた修飾ペプチド及びその製造方法を開発することに成功し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は次の通りである:
項1.N末端がチアゾリジン環であり、かつC末端がリジンε−ラクタム環であることを特徴とする両端が修飾されたペプチド。
【0014】
項2.前記ペプチドが、生理活性又は抗微生物活性を有するものである、項1記載の修飾されたペプチド。
【0015】
項3.前記ペプチドが、抗ウイルス活性を有するものである、項2記載の修飾されたペプチド。
【0016】
項4.前記ペプチドが、抗HIV活性を有するものである、項2記載の修飾されたペプチド。
【0017】
項5.前記ペプチドが、
(a)配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列;又は
(b)配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を有するものである、項4記載の修飾されたペプチド。
【0018】
項6.項2〜5のいずれか記載の修飾されたペプチドを含む、医薬組成物。
【0019】
項7.項2〜5のいずれか記載の修飾されたペプチドを含む、食品。
【0020】
項8.項1〜5のいずれか記載のペプチドを製造する方法であって、
(1)次の式:
−Cys−A−Lys−Cys−X
(式中、Aは、システイン残基を含まない項1〜5のいずれか記載のペプチドのアミノ酸配列であり、かつ
及びXは、同一又は異なって任意のアミノ酸残基若しくは任意のアミノ酸配列である)
で表されるペプチド
をS−シアノ化する工程;及び
(2)工程(1)により得られるS−シアノ化ペプチドをアルカリ処理する工程
を含む方法。
【0021】
項9.前記Xがアミノ酸残基である場合にはそのアミノ酸残基がアスパラギン残基若しくはリジン残基であり;
前記Xがアミノ酸配列である場合にはそのアミノ酸配列のC末端がアスパラギン残基若しくはリジン残基である、項8に記載の方法。
【0022】
項10.前記工程(2)におけるアルカリ処理を、炭酸塩により行う、項8又は9に記載の方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の修飾ペプチドは、加水分解耐性を有している。特に、高いエキソペプチダーゼ耐性を有している。
【0024】
また、本発明の修飾ペプチドは、生理活性及び抗微生物活性をはじめとする有用活性を修飾前と比べて著しく損なうことなく維持している。
【0025】
このように本発明の修飾ペプチドは、生体内又は生体表面等の生体環境において持続的に使用できる。特に、血清中において持続的な生物活性を示す。
【0026】
そして、本発明の修飾ペプチドの製造方法は、目的のアミノ酸配列を含むペプチドから高い効率で一部を切り出して、そのアミノ酸配列からなる修飾ペプチドを取得することができる。
【0027】
このように本発明の修飾ペプチドの製造方法は、修飾ペプチド製造において高い収率を達成できる。このため、より安価に、かつより大量に修飾ペプチドを製造できる。特に、組換えタンパク質から一部を切り出して修飾ペプチドを取得しようとする場合に高い収率を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の修飾ペプチドを製造する方法を模式的に表した図面である。この図においては原料ペプチドが組換えタンパク質(recombinant protein)である例が示されている。なお、Aのアミノ酸配列部分がTarget peptideと表記されている。白抜き矢印の箇所で「Aのアミノ酸配列部分」を特異的に切り出し、かつ環化反応によりAのアミノ酸配列の両端を環化することによって、Aのアミノ酸配列の両端が環化されたペプチドを取得することを図示している。
【図2】実施例で用いたモデルペプチドを図示した図面である。N末端側からアスパラギン又はリジン、そしてシステインの順番になるように、これら2つのアミノ酸残基をそれぞれSC34EKの両端側に配置させ、さらにN末端側にはチオレドキシンタグを付けたことを示している。なお、図中、「X」は同一又は異なってアスパラギン又はリジンであることを、「TRX」はチオレドキシンタグを示している。
【図3】修飾されたSC34EKについて、α−ヘリックス構造に基づく物理化学的な特徴が損なわれていないかについて円二色性スペクトルより解析した結果を示す図面である。
【図4】修飾されたSC34EKについて、熱安定性が損なわれていないかについて円二色性スペクトルより解析した結果を示す図面である。
【図5】修飾されたSC34EKについて、エキソペプチダーゼ耐性を検証した結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.修飾ペプチド
本発明の修飾ペプチドは、N末端がチアゾリジン環であり、かつC末端がリジンε−ラクタム環であることを特徴とする両端が修飾されたペプチドである。より詳細には、本発明の修飾ペプチドは、(1)核となるペプチド(以下、「核ペプチド」ということがある。)、(2)核ペプチドのN末端側アミノ酸のN末端を修飾しているチアゾリジン環、及び(3)核ペプチドのC末端側アミノ酸のC末端を修飾しているリジンε−ラクタム環から構成される。
【0030】
(1)核ペプチド
核ペプチドとしては、生理活性又は抗微生物活性をはじめとする有用活性を有するペプチド(本明細書においてそのようなペプチドのことを「機能性ペプチド」ということがある。)を使用することができる。
【0031】
本明細書において「生理活性」とは、生体の生理的機能に対して何らかの作用を示す活性をいう。例えば、神経伝達物質様活性、神経栄養因子様活性、ホルモン様活性、成長因子様活性、オータコイド様活性、サイトカイン様活性、及びフェロモン様活性等が挙げられる。
【0032】
抗微生物活性は任意の抗微生物活性でよく限定されない。例えば、抗細菌(バクテリア;bacteria)活性、抗菌(Fungi)活性、及び抗ウイルス活性等が挙げられる。
【0033】
抗ウイルス活性としては、例えば、抗HIV活性等が挙げられる。抗HIV活性を有する核ペプチドとしては、例えば、HIVウイルスと標的細胞との膜融合を阻害する活性を有するペプチド等が挙げられる。そのようなペプチドとしては、例えば、HIV−1のgp41のHR2領域由来のペプチド等が挙げられる。具体的には、例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるSC34EK(Otaka A. et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,2002,41,No.16)、配列番号2のアミノ酸配列からなるSC35EK(同)、及び配列番号3のアミノ酸配列からなるT−20EK(Oishi A. et al.,2008,51,No.3)等が挙げられる。抗HIV−1活性を有する核ペプチドとしては、さらに配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗HIV−1活性を有するペプチド等も挙げられる。前記欠失等されたアミノ酸配列としては、アミノ酸配列全体の80%以内のアミノ酸が欠失等されたアミノ酸配列が好ましく、アミノ酸配列全体の85%以内のアミノ酸が欠失等されたアミノ酸配列がより好ましく、アミノ酸配列全体の90%以内のアミノ酸が欠失等されたアミノ酸配列がさらに好ましい。
【0034】
本発明の修飾ペプチドは両端を修飾することによってもその有用活性を失うことなく維持している。これはチアゾリジン環及びリジンε−ラクタム環の環構造を伴う末端修飾基により、それぞれの末端からのペプチダーゼ等による分解を受けにくいためであると考えられる。
【0035】
(2)チアゾリジン環
チアゾリジン環は核ペプチドのN末端側アミノ酸のN末端を修飾している。具体的には、チアゾリジン−カルボニル基、例えば2−イミノチアゾリジン−4−カルボニル基(式(I))が核ペプチドのN末端側アミノ酸のN末端アミノ基とアミド結合を形成して結合している。
【0036】
【化1】

【0037】
チアゾリジン環は、本発明の効果を妨げない限り、チアゾリジン環構造を基本骨格としつつ種々の置換基を有していてもよい。
【0038】
(3)リジンε−ラクタム環
リジンε−ラクタム環は核ペプチドのC末端側アミノ酸のC末端を修飾している。具体的には、リジンε−ラクタム環(式(II))のアミノ基が核ペプチドのC末端側アミノ酸のC末端カルボキシル基とアミド結合を形成して結合している。
【0039】
【化2】

【0040】
リジンε−ラクタム環は、本発明の効果を妨げない限り、リジンε−ラクタム環構造を基本骨格としつつ種々の置換基を有していてもよい。
2.修飾ペプチドを含む組成物
本発明の修飾ペプチドを含む組成物としては、例えば、医薬品又は食品等が挙げられる。なお、本明細書において「食品」には飲料が含まれる。
【0041】
本発明の修飾ペプチドを含む医薬品又は食品には、本発明の修飾ペプチドを一種類のみ含有させてもよいし、二種類以上を併用して含有させてもよい。
【0042】
本発明の医薬品又は食品における本発明の修飾ペプチドの含有割合は、修飾ペプチドの有用作用が発揮される範囲内で選択できる。
【0043】
本発明の医薬品又は食品のpHとしては、特に限定されないが、ペプチドの安定性や投与(注射)時に投与部位周辺に好ましくない影響を与えることを避けるという点ではpH6〜8が好ましい。
【0044】
本発明の医薬品又は食品の形態は限定されない。液状、半液状、固形状のいずれであってもよい。
【0045】
本発明の医薬品又は食品は、本発明の効果を妨げない限り、修飾ペプチドの他に、必要に応じて種々の成分を含有することができる。
【0046】
本発明の医薬品に含まれる修飾ペプチドの核ペプチドは、特定の薬理活性を示すものである。この場合、核ペプチドは好ましくは、抗ウイルス活性を有するものであり、より好ましくは抗HIV活性を有するものである。
【0047】
本発明の医薬品の形態は、適用対象となる患部、適用方法等に応じて適宜設定される。形態として、具体的には、錠剤、顆粒、散剤、坐剤、カプセル剤等の固形状;クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤等の半固形状;液剤、ローション剤等の液状等が例示される。
【0048】
本発明の医薬品の投与量や投与頻度については、医薬品の使用目的、形態、対象症例の種類や症状の程度、被投与者の年齢、及び修飾ペプチドの薬理活性の程度等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の医薬品の1日当たりの投与量の平均としては、例えばFuzeon(T−20)の投与量(90mg×2回 / 1日)を参考に算出すると修飾ペプチドの量に換算して、通常2〜200mg程度が挙げられる。
【0049】
また、本発明の医薬品は、例えば、1日当たり1回の頻度で若しくは2又は3回程度に分割して投与してもよく、また、2日〜1週間分の投与量を一度にまとめて投与してもよい。
3.修飾ペプチドを製造する方法
本発明の修飾ペプチドを製造する方法は、
(工程1)次の式:
−Cys−A−Lys−Cys−X
(式中、Aは、システイン残基を含まない任意のアミノ酸配列であり、かつ
及びXは、同一又は異なって任意のアミノ酸若しくは任意のアミノ酸配列である)
で表されるペプチド(以下、「原料ペプチド」ということがある。)
をS−シアノ化する工程(以下、「S−シアノ化工程」ということがある。);及び
(工程2)工程1により得られるS−シアノ化ペプチドをアルカリ処理する工程(以下、「アルカリ処理工程」ということがある。)
を含む方法である。
【0050】
本製造方法により、図1に示すように、原料ペプチドを出発物質として、Aのアミノ酸配列の両端が修飾されたペプチドを最終生成物として得ることができる。具体的には、原料ペプチドからAのアミノ酸配列部分を特異的切断反応により切り出し、かつ環化反応によりAのアミノ酸配列の両端を環化することによって、Aのアミノ酸配列の両端が修飾されたペプチドを得ることができる。より詳細には、次の通りである。なお、Aについての説明は、本発明の修飾ペプチドにおける核ペプチドのアミノ酸配列についての説明と変わるところがないため省略する。
【0051】
(1)原料ペプチド
原料ペプチドは、例えばそれをコードする塩基配列を含むDNAを培養微生物等において発現させること等によって得ることができる。具体的には、そのDNAを組み込んだ発現ベクターを用意し、これを大腸菌に導入して原料ペプチドを含むポリペプチドを発現させ、これを精製すること等によって得ることができる。また、この際には、発現したポリペプチドの精製をより効率よく行うために、精製用のタグ配列を付加した形でポリペプチドを発現させてもよい。この場合、精製用のタグ配列としては、例えば、ヒスチジンタグ、グルタチオンタグ、ビオチンタグ、FLAGタグ等を用いることができる。
【0052】
原料ペプチドは、その他にもペプチド合成等によって得ることもできる。
【0053】
(2)S−シアノ化工程
S−シアノ化工程は、システイン基をS−シアノ化する工程である。これにより引き続いて行われるアルカリ処理工程において特異的に切断される部位が決定されることになる。具体的には、S−シアノ化されたシステイン基のN末端側アミド結合が特異的に切断されることになる。
【0054】
本製造方法は、Aのアミノ酸配列の両端が修飾されたペプチドを最終生成物として得ることを最終目的としている。したがって、もしAにシステイン残基が含まれていると、このA中のシステイン残基もS−シアノ化されてそのN末端側アミド結合が切断されてしまう。そうすると、Aのアミノ酸配列の両端が修飾されたペプチドを得ることができなくなってしまうため、Aはシステイン残基を含まないアミノ酸配列である必要がある。
【0055】
S−シアノ化反応は、限定されないが、例えば、0.5mMトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン、及びCDAPを含む酢酸溶液中で処理すること等により行うことができる。S−シアノ化反応は、この他にも例えばpH7〜9の緩衝液中で2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(2−nitro−5−thiocyanobenzoic acid (NTCB))を反応させること等によっても行うことができる。
【0056】
温度は例えば、0〜50℃で行うことができる。反応効率の点では、20〜50℃で行うことが好ましい。
【0057】
反応時間は例えば、10〜300分間行うことができる。収率の点では30分以上行うことが好ましい。
【0058】
(3)アルカリ処理工程
アルカリ処理工程は、S−シアノ化システイン残基のN末端側アミド結合を切断し、かつ所定の切断箇所を環化する工程である。
【0059】
アルカリ処理により、Aのアミノ酸配列のN末端側のS−シアノ化工程でS−シアノ化されたシステイン残基が環化してチアゾリジン環となる。この際、同時にN末端側アミド結合が特異的に切断され、Aの部分が切り出される。
【0060】
ところで原料ペプチドのXは、任意のアミノ酸若しくは任意のアミノ酸配列である。XはS−シアノ化されるシステイン残基を介して、Aと結合している。このS−シアノ化されるシステイン基とXの間のアミド結合がアルカリ処理工程により切断される。このようにXは切断部位に隣接している。したがって、Xがアミノ酸であるときはその種類が、又はXがペプチドであるときはC末端のアミノ酸(切断部位に隣接するアミノ酸)の種類が、アルカリ処理工程による切断反応の反応性に影響を与える。どのアミノ酸であったとしても切断反応は問題なく行われるが、アスパラギン若しくはリジンであれば、これらの残基の側鎖官能基の特性に基づく環化反応の進行(アスパルチミド若しくはリジンε−ラクタム形成)により、上述のチアゾリジン環形成反応を促進し、反応効率が高くなるため好ましい。反応効率の点ではその中でもリジンがより好ましい。
【0061】
原料ペプチドのXも、任意のアミノ酸若しくは任意のアミノ酸配列である。Xはリジン基及びS−シアノ化されるシステイン基を介して、Aと結合している。XはXとは異なり切断部位には隣接していないため、アルカリ処理工程による切断反応の反応性に影響を与えることはない。
【0062】
アルカリ処理反応は、限定されないが、例えば、種々の塩基で処理すること等により行うことができる。種々の塩基としては、限定されないが、例えば、アンモニア、アミン、及び弱酸塩、金属水酸化物等を用いることができる。これらを単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、及びイソプロピルエタノールアミン等を用いることができる。弱酸塩としては、例えば、酢酸塩、炭酸水素塩、及び炭酸塩等を用いることができる。金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等を用いることができる。塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等を用いることができる。反応効率の点では、炭酸塩の水溶液が好ましく、炭酸塩の中でもKCOの水溶液がより好ましい。
【0063】
塩基濃度は、塩基の種類にもよるが、例えば、0.1〜5Mの塩基を用いることができる。炭酸塩の水溶液の場合は、例えば、0.1〜2Mの炭酸塩を用いることができる。
【0064】
温度は例えば、0〜50℃で行うことができる。反応効率の点では、20〜50℃で行うことが好ましい。
【0065】
反応時間は例えば、10〜300分間行うことができる。収率の点では30分以上行うことが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を試験例及び実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0067】
試験例1.核ペプチド両端の同時切断反応に関する検討
(1)モデルペプチドの合成
次の式(III):
【0068】
【化3】

【0069】
[Acは、アセチル基であり、かつXは任意のアミノ酸残基である(ただし、システイン残基を除く)。なお、N末端のチロシンのN末端側はアセチル化されており、かつC末端のリジンのC末端側はアミド化されている。Yはチロシン、Eはグルタミン酸、Qはグルタミン、Kはリジン、Cはシステイン、Fはフェニルアラニンをそれぞれ示している。]
で表されるペプチドをモデルペプチドとして用いた。
【0070】
モデルペプチドは次のようにして合成した。ペプチド固相合成法により標準的なFmoc(fluorenylmethoxycarbonyl)合成法にて合成した。固相としてRink Amide樹脂(Navabiochem社製)を83mg、0.05mmol用いた。アミノ酸側鎖の保護には、チロシン、セリン及びスレオニンに関してはt−Buを;アスパラギン酸及びグルタミン酸に関してはt−Buエステルを、リジンに関してはBocを、システイン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンに関してはTrtを;アルギニンに関しては2,2,4,6,7−pentamethyldihydrobenzofuran−5−sulfonyl(pbf)を、それぞれ用いた。
【0071】
保護ペプチド樹脂の構築は、Fmocアミノ酸を5当量の試薬(Fmocアミノ酸、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、HOBt・HO)を用いて縮合させた後、20%ピペリジン含有DMF中で1分間×2回、20分間×1回ずつ処理してFmoc基を除去することを、各アミノ酸ごとに繰り返すことにより行った。
【0072】
最終的に得られた保護ペプチド樹脂をTFA/HO/m−クレゾール/チオアニソール/1,2−エタンジチオール(80:5:5:5:5)中で2時間室温にて処理した後、樹脂を濾去した。次いで氷冷した乾燥ジエチルエーテル30mLを濾液に加えた。生成した粉末を遠心分離により回収し、氷冷した乾燥ジエチルエーテル15mLで3回洗浄した。分取HPLCにより生成物の精製を行い、無色の粉末状のモデルペプチドを得た。
【0073】
モデルペプチドのシステインを次のようにしてS−シアノ化した。まず、モデルペプチド(例えば、Xがリジン残基である場合は5.8mg)を含む0.1N酢酸溶液0.58mlを、1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート[1−cyano−4−dimethylaminopyridinium tetrafluoroborate(CDAP);入手先SIGMA;品番C2776]を含む0.1N酢酸溶液(10mg/mL)0.182mLに添加した。室温で30分間撹拌した後、分取HPLCにより精製してS−シアノ化ペプチドの凍結乾燥物を得た。分取HPLCによる精製は次の通り行った。Cosmosil 5C18−ARII分取用カラム(20×250mm、流速10mL/分、ナカライテスク製)を使用した。Xがリジン残基である場合、S−シアノ化ペプチドは5.7mgであり、収率は97%であった。
【0074】
(2)切断反応に関する検討
続いてS−シアノ化モデルペプチド1mgを3M NH溶液0.1mL中において20℃で20分間処理することにより、S−シアノ化されたXのC末端側アミド結合を特異的に切断した。
【0075】
この切断反応の産物を逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)で分析することにより、次の式(IV)〜式(VIII)で表されるペプチドが得られた。RP−HPLCは次の通り行った。Cosmosil 5C18−ARII分析用カラム(4.6×250mm、流速 1mL/分、ナカライテスク製)を用いた。溶出された生成物をUV(220nm)で検出した。溶媒系としては、0.1v/v%TFA(溶媒A)及び0.1v/v%TFA含有MeCN(溶媒B)を用いた。MALDI−TOF−MS(AXIMA−CFR plus、島津製作所)、又はQqTof(QSTAR pulsar i、Applied Biosystems)を用いて分析を行った。NMRスペクトルは、Bruker AVANCE500を用いて測定した。
【0076】
【化4】

【0077】
【化5】

【0078】
【化6】

【0079】
【化7】

【0080】
【化8】

【0081】
式(IV)及び式(V)で表されるペプチドは、Xがアスパラギンでもリジンでもないアミノ酸であるときに得られるN末端側の断片である。式(IV)で表されるペプチドはC末端側がカルボキサミド基となっており、式(V)で表されるペプチドはC末端側がカルボン酸となっている。
【0082】
式(VI)で表されるペプチドは、C末端側の断片である。そのN末端側は2−チアゾリジン環となっている。具体的には、2−イミノチアゾリジン−4−カルボニル基となっている。
【0083】
式(VII)で表されるペプチドは、Xがアスパラギンであるときにのみ得られるN末端側の断片である。そのC末端側は分子内環化反応により環状のアスパルチミド基となっている。
【0084】
式(VIII)で表されるペプチドは、Xがリジンであるときにのみ得られるN末端側の断片である。そのC末端側は分子内環化反応によりリジンε−ラクタム環となっている。
【0085】
これらのペプチドをRP−HPLCで解析することにより、式(III)で表されるペプチドの切断率(%)を算出した。
【0086】
切断率は、具体的には次のようにして算出した。まずRP−HPLCで全ての産物についてピーク面積を測定した。次に、式(IV)又は式(V)、式(VI)、並びに式(VII)又は式(VIII)で表されるそれぞれのペプチドのピーク面積の合計に基づいて切断率(%)を算出した。
【0087】
19種類のアミノ酸残基のうちいずれのアミノ酸残基をXとした場合により高い切断率が得られるか検討した。Xがアスパラギンである場合に切断率79%、またXがリジンであるときには切断率82%であり、この二つの場合に最も高い切断率が得られることが分かった。なお、Xがアスパラギンである場合、式(IV)で表されるペプチドと式(VII)で表されるペプチドの比率は53:47であった。また、Xがリジンである場合、式(IV)で表されるペプチドと式(VIII)で表されるペプチドの比率は22:78であった。
【0088】
末端が環化されたペプチドを効率的に得るという点では、Xがリジンである場合が特に有利であることが分かった。
【0089】
(2)核ペプチド両端の同時切断反応に関する検討
(1)の検討結果から、次の式:
−Cys−A−Cys−X
(式中、Aは、任意のアミノ酸配列からなる核ペプチドであり、かつ
及びXは、同一又は異なって任意のアミノ酸若しくは任意のアミノ酸配列である)
で表されるそれぞれのペプチドをまずS−シアノ化し、その後にそのS−シアノ化ペプチドをアルカリ処理することによって、ペプチドXのC末端側アミド結合、及び核ペプチドのC末端側アミド結合が同時に切断される結果、核ペプチドを高効率で切り出せることが期待された。
【0090】
さらに、次の式:
−Cys−A−Lys−Cys−X;又は
−Cys−A−Asn−Cys−X
(式中、Aは、任意のアミノ酸配列からなる核ペプチドであり、かつ
及びXは、同一又は異なって任意のアミノ酸若しくは任意のアミノ酸配列である)
で表されるそれぞれのペプチドを同様に処理すれば、両端が環状構造となった状態で核ペプチドを切り出せることが期待された。
【0091】
なお、両端が環状構造となった状態とは、(1)の検討結果が示すように、N末端側が2−イミノチアゾリジン環であり、かつC末端側がアスパルチミド基、又はリジンε−ラクタム環となった状態である。
【0092】
そこで、両端が環状構造となった状態で核ペプチドを切り出す反応を実際に行うことができるか否かを、上のモデルペプチド(のうちXがアスパラギン又はリジンであるモデルペプチド)をそれぞれ用いて検証した。
【0093】
検証は具体的には次の通り行った。まずS−シアノ化反応は前述の通り行った。次にアルカリ処理反応を種々の塩基を用いて行い、いずれの塩基を用いた場合に両端が環状構造となった状態で核ペプチドを切り出すことができるか検討した。種々の塩基としては、3M NH、0.5M NH、1M EtN、1M (i−Pr)EtN、1M AcONa、1M NaHCO、1M NaCO、0.3M NaCO、1M KCO、及び0.3M KCOの計10種類を検討した。アルカリ処理は全て20℃で20分間行った。
【0094】
検証の結果、炭酸塩の水溶液を用いた場合に、末端が環化された式(VII)又は式(VIII)のペプチドを特に高効率で得られることが明らかになった。炭酸塩の中でもKCOの水溶液を用いた場合に、これらのペプチドをさらに高効率で得られることも明らかになった。
【0095】
以上の通り、両端が環状構造となった状態で核ペプチドを切り出す反応に関して、それを実現するための処理方法を確立した。
【0096】
実施例1.本発明の修飾ペプチドの製造
試験例1で確立した処理方法に基づいて、実際に修飾された核ペプチドを切り出すことができるか検証した。
(1)モデルペプチドの設定
核ペプチドのモデルペプチドとして、抗HIV活性ペプチド(HIV融合阻害剤)であるSC34EKを用いた。SC34EKは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドである。このペプチドは、HIVのエンベロープ糖タンパク質であるgp41のC末端側のα−へリックス構造を基にして設計されたものである。HIV感染の膜融合過程では、gp41のNHR及びCHRによる逆平行型6−helical bundle構造形成が必要であることが知られており、SC34EKはこの過程を阻害することにより野生型のみならずエンフュービルタイド(enfuvirtide、T−20)耐性を示すようなHIV−1株に対しても抗ウイルス活性を発揮する。
【0097】
(2)モデルペプチドのチオレドキシン融合タンパク質の発現
まず、SC34EKをチオレドキシンと融合させた融合タンパク質を大腸菌(E.coli BL21株)において発現させた。なお、図2に示す通り、N末端側からアスパラギン又はリジン、そしてシステインの順番になるように、これら2つのアミノ酸残基をそれぞれSC34EKの両端側に配置させた(図2中、Xは同一又は異なってアスパラギン又はリジンである。)。このようにすることで、S−シアノ化及びそれに続くアルカリ処理によってSC34EKが切り出されることが期待される。
【0098】
まずPCR増幅の鋳型として、配列番号2で表されるcDNA塩基配列を有する核酸(KKC−SC34EK−KCW)、及び配列番号3で表されるcDNA塩基配列を有する核酸(KNC−SC34EK−NCW)を化学合成した。これらは2箇所ずつBamHI及びXhoIによる制限酵素認識部位(GGATCC)と(CTCGAG)を有している。大腸菌における使用頻度が高いコドンに置き換えられている。BamHI及びXhoIにより切断した各断片をpET32aベクターに挿入した。これらのプラスミド(pET32a−KKC−SC34EK−KCW、及びpET32a−KNC−SC34EK−NCW)を用いてE.coli BL21(DE3)−RIL株を強制発現のため形質転換した。単離されたコロニーを拾い出し、10mLの50μg/mlアンピシリン含有LB培地中で30℃で振とうしながら一晩培養した。この培養液を50μg/mlアンピシリン含有LB培養液(1L)に移した。OD600が30℃で0.6〜0.8に達した時点で、1mMのIPTGを添加することによりタンパク質発現を開始させた。その後25℃で6時間さらに培養を続けた後、4,000rpmで20分間遠心分離することにより細胞を回収した。細胞をB−PER(PIERCE)溶液に懸濁し、ソニケーションにより破砕した。30分間12,000rpmで遠心分離し、上清に0.5mM TCEPを添加してNi−NTAアガロースカラム(QIAGEN)に移した。カラムを洗浄バッファー(20mM リン酸、pH6.0、0.5M NaCl、0.5mM TCEP)で洗浄した。10〜200mMイミダゾールを含む0.5mM TCEP含有リン酸バッファー(pH6.0)を用いてタンパク質を溶出した。融合タンパク質の発現及び精製は、SDS−PAGE(10〜20%勾配ゲル)を用いて解析した。融合タンパク質の収量は、Protein Assay Kit(BIO−RAD Laboratories,Hercules,CA)を用いて測定した。
【0099】
(3)修飾された核ペプチドの切り出し
融合タンパク質を、0.5mMトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン[tris(2−carboxyethyl)phosphine(TCEP);入手先SIGMA、品番C4706]、及び10mMCDAPを含む0.1N酢酸溶液中で30分間処理することにより、S−シアノ化した。この処理の間、システイン残基は還元状態に保たれることになる。
【0100】
得られたS−シアノ化融合タンパク質を0.3M KCOで30分間アルカリ処理することにより、両端が環状構造となった状態でSC34EKを切り出した。LC−MSにより生成物を解析した。また、分取HPLCにより生成物を精製した。
【0101】
切り出されたSC34EKのN末端側は2−イミノチアゾリジン−4−カルボニル基となっている。これに対して、SC34EKの両端側にシステインとともにアスパラギンを配置させた場合C末端側は2−アスパルチミド基となっている。一方、SC34EKの両端側にシステインとともにリジンを配置させた場合C末端側はリジンε−ラクタム環となっている。
【0102】
収率についてみると、SC34EKの両端側にシステインとともにアスパラギンを配置させた場合は修飾されたSC34EKを24%得ることができた。SC34EKの両端側にシステインとともにリジンを配置させた場合は修飾されたSC34EKを21%得ることができた。
【0103】
(4)修飾された核ペプチドの評価
これらの修飾されたSC34EKについて、次に示す通り、(i)抗HIV活性、(ii)物理化学的特性、及び(iii)生物学的安定性をそれぞれ評価した。対照のために、SC34EK、及びSC34EKの両末端の無修飾体(N末端無保護、かつC末端カルボン酸)についても活性を同様に評価した。
【0104】
まず、これらの修飾されたSC34EKについて、抗HIV活性をそれぞれ評価した。評価は次の通り改良されたMAGI assayにより行った(Kodama,E.I. et al.,Antimicrob. Agents Chemother. 2001,45,1539−1546;Maeda Y. et al.,J.Infec.Dis.,1998,177,1207−1213)。標的細胞(Hela−CD4−LTR−β−gal)104 cells/ウェルを96ウェルのフラットマイクロタイター培養プレートに播種した。翌日、HIV−1クローンNL4−3を60MAGI U/ウェル、60の青い細胞が48時間後に出現するように播種した。その後、被検体を添加して培養した。48時間後にX−gal(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−d−galactopyranoside)により染色される細胞数を数えた。被検体の活性は、HIV−1の複製を50%阻止する濃度(EC50)で評価した。その結果、表1に示すように、これらの修飾されたSC34EKは、SC34EKと同等の活性を示すことが明らかになった。環状構造を導入すると活性が損なわれることが予測されたが、この結果はそれに反するものであった。
【0105】
【表1】

【0106】
また、これらの修飾されたSC34EKについて、α−へリックス構造に基づく物理化学的な特徴が損なわれていないかについても検証した。この物理化学的な特徴は、抗HIV活性に関連する重要な特徴である。解析は円二色性スペクトルより次の通り行った。ペプチド10μMを5mM HEPESバッファー(pH7.2)中において37℃で30分間処理した。CDスペクトルを円二色性分光光度計(日本分光製J−710)を用いて25℃で平均8スキャンにて測定した。0.25分の平衡化の後、1.0秒間のインテグレーションタイムを経てから、0.5℃毎の熱変性を測定した。
【0107】
その結果、図3に示すように、α−へリックス構造に基づく物理化学的な特徴が損なわれていないことが明らかになった。
【0108】
さらに、これらの修飾されたSC34EKについて、熱安定性が損なわれていないかについても検証した。円二色性スペクトル解析により、熱変性の中間点(融点Tm)を、[θ]222値に基づいて算出した。
【0109】
その結果、図4に示すように、熱安定性が損なわれていないことが明らかになった。
【0110】
最後に、エキソペプチダーゼにより惹き起こされる分解に対する耐性を検証した。マウス血清中にてそれぞれのペプチドを37℃にて24時間インキュベートし、その間に経時的にサンプリングしてRP−HPLC解析を行った。その結果、図5に示すように、両端が修飾されていないSC34EKはすぐに分解してしまうことが明らかになった。また、N末端側がチアゾリジン環、C末端側が2−アスパルチミド基となっている修飾されたSC34EKも徐々に分解することが明らかになった。これに対して、驚くべきことに、N末端側がチアゾリジン環、C末端側がリジンε−ラクタム環となっている修飾された骨格ペプチドは生分解耐性が著しく改善されており、両端がアミド化又はアシル化されているSC34EKと同等の生分解耐性を示すことが明らかになった。この修飾された骨格ペプチドは24時間インキュベートした後においても安定であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端がチアゾリジン環であり、かつC末端がリジンε−ラクタム環であることを特徴とする両端が修飾されたペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、生理活性又は抗微生物活性を有するものである、請求項1記載の修飾されたペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが、抗ウイルス活性を有するものである、請求項2記載の修飾されたペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが、抗HIV活性を有するものである、請求項2記載の修飾されたペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドが、
(a)配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列;又は
(b)配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
を有するものである、請求項4記載の修飾されたペプチド。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか記載の修飾されたペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか記載の修飾されたペプチドを含む、食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか記載のペプチドを製造する方法であって、
(1)次の式:
−Cys−A−Lys−Cys−X
(式中、Aは、システイン残基を含まない請求項1〜5のいずれか記載のペプチドのアミノ酸配列であり、かつ
及びXは、同一又は異なって任意のアミノ酸残基若しくは任意のアミノ酸配列である)
で表されるペプチド
をS−シアノ化する工程;及び
(2)工程(1)により得られるS−シアノ化ペプチドをアルカリ処理する工程
を含む方法。
【請求項9】
前記Xがアミノ酸残基である場合にはそのアミノ酸残基がアスパラギン残基若しくはリジン残基であり;
前記Xがアミノ酸配列である場合にはそのアミノ酸配列のC末端がアスパラギン残基若しくはリジン残基である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(2)におけるアルカリ処理を、炭酸塩により行う、請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−20926(P2011−20926A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164647(P2009−164647)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】