説明

修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼおよびその使用

本発明は、以前に記載されているグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼに対して修飾された脂肪酸13−ヒドロペルオキシドリアーゼタンパク質と、当該タンパク質をコードする核酸配列とに関する。また本発明は、当該修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを発現する5つの手段と、有機合成の分野においてかかるリアーゼを使用する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以前に記載されているグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼに対して修飾された脂肪酸13−ヒドロペルオキシドリアーゼタンパク質と、当該タンパク質をコードする核酸配列とに関する。また本発明は、当該修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを発現する手段と、有機合成の分野においてかかるリアーゼを使用する方法にも関する。
【0002】
香料および香味料産業において有用な化合物の中で、酵素反応によって行なわれ得るヒドロペルオキシド切断を伴ういわゆる「グリーンノート」には、n−ヘキサナール、ヘキサン−1−オール、2−(E)−ヘキセン−1−アール、2−(E)−ヘキセン−1−オール、3−(Z)−ヘキセン−1−オール(ピポールとしても知られる)、および3−(Z)−ヘキセン−1−アールが含まれ、これらはフレッシュグリーンの性質を与えるために香味料、特に果実香味料に広く使用されている。さらに、グリーンノートは、果実アロマには必須であり、アロマ産業において広範に使用されている。天然グリーンノートの需要は拡大し、従来の供給源、例えばハッカ(Mentha arvensis)油などからの供給を上回っている。このことは、これらの材料を得る代替的な自然手段の発見への研究努力の動機となっている。
【0003】
グリーンノート化合物の合成は、遊離(多価不飽和)脂肪酸、例えばリノール(9−(Z),12−(Z)−オクタデカジエン)酸、およびα−リノレン(9−(Z),12−(Z),15−(Z)−オクタデカトリエン)酸から出発する。本来は、これらの酸は、細胞傷害後に脂肪分解酵素によって細胞膜から放出される。脂肪酸13−ヒドロペルオキシドは、特異的13−リポキシゲナーゼ(13−LOX)の作用によって形成され、続いて特異的13−ヒドロペルオキシドリアーゼ(13−HPOL)によって、C6アルデヒドとC12ω−オキソ酸部分とに切断される。アルデヒドに、続いて、熱異性化および/またはデヒドロゲナーゼ酵素による還元を行ない、別のC6生成物(すなわち、グリーンノート)、アルコールなどを生成することができる(Hatanaka A.(1993) Phytochemistry 34:1201−1218;Hatanaka A. et al.(1987) Chemistry and Physics of Lipids 44:431−361)。
【0004】
グアバは、この合成経路に使用するための凍結安定性13−HPOLの優れた供給源として認識されている。グアバ13−HPOLは、現在、グリーンノート生産のための工業方法において使用されている(米国特許第5,464,761号)。この方法において、必要とされる13−ヒドロペルオキシドの溶液は、新たに調製した大豆粉を13−LOX源として用いて、リノール酸またはリノレン酸(それぞれひまわり油および亜麻仁油から得られる)から作成する。次に、この溶液を13−HPOL源としてのグアバ(Psidium guajava)全果実の新たに調製したピューレと混合する。次に、アルデヒド生成物を蒸留によって単離する。相当するアルコールが必要な場合、グアバピューレと混合する前に、ヒドロペルオキシド溶液に生パン酵母を加える。この酵母は、13−HPOLによってアルデヒドが形成される際にアルデヒドを相当するアルコールに還元する活性アルコールデヒドロゲナーゼ酵素を含有している。
【0005】
この工業方法には、複数の不利点がある。主要な不利点は、多量の新鮮なグアバ果実が必要とされることである。これは、この方法が、新鮮なグアバ果実が安価かつ自由に入手できる国で行なわれなければならないことを意味している。たとえそのような場所が見つかったとしても、入手の可能性はこの果実の生育時期に限定される。高品質のグアバ果実は、例えば、ブラジルにおいて1年間のうち10ヶ月間しか入手できない。
【0006】
第2の不利点は、所望の酵素活性が、利用する供給源においてむしろ弱められることである。これは、この方法に比較的大量の大豆粉(5%)、グアバピューレ(41%)、および酵母(22%)を使用しなければならないことを意味する。工業生産に要求されるこれらの大量の原料は、達成できるグリーンノートの収率に物理的制約を課し、また工業方法のコストを上昇させる。
【0007】
第3の不利点は、これが大容量のバッチ方法であり、その性質から、13−HPOL酵素の触媒活性を最大限に利用せず、比較的大きな労働力を要し、大量の残留有機物質を生じることである。残留有機物質は、その後堆肥農場に輸送するか、あるいは廃棄しなければならない。
【0008】
この工業方法の不利点のうちのいくつかを克服するために、欧州特許第1 080 205号は、精製組換えグアバ13−HPOLタンパク質、核酸、発現系、およびそれらの使用方法を開示している。しかしながら、C6−アルデヒドを生成するためのこの組換えグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼの使用時に、組換えグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼを用いて得られる生成物の収率はさらに最適化させることができることが判明した。
【0009】
したがって、酵素の組換え発現を可能にし、また所望の生成物の高い収率を得るために使用できる13−HPOL酵素を提供することには、依然として強い関心が存在する。
【0010】
上述の本発明の目的は、請求項1に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドによって解決される。好適な実施形態は、従属請求項の内容によって表わされる。
【0011】
本発明は、配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると1〜40個のアミノ酸改変を有し、配列番号1による野生型タンパク質の3、4、5、19、208、340、342、352、354、358、359、360、371、372、375、377、382、383、387、388、389、392、393、394、395、399、および457位からなる群から選択された位置に少なくとも1個のアミノ酸改変を含むアミノ酸配列を含む、修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドを提供する。
【0012】
本発明は、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸分子と、適切な宿主細胞における修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼの発現を可能にする組換え核酸分子と、かかる組換え核酸分子を含むトランスジェニック細胞とをさらに提供する。
【0013】
また本発明は、ポリペプチドの発現を可能にする条件下で1つ以上のトランスジェニック細胞を培養することによって、また場合によってはそのポリペプチドを回収することによって、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドを製造するための方法も提供する。
【0014】
本発明は、さらに、多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドをアルデヒドとオキソカルボン酸とに切断するための、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼの使用にも関する。
【0015】
最後に、本発明は、本発明による修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを提供し、多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドを修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼと接触させ、生成されたアルデヒドまたはアルデヒドの還元後の相当するアルコールを回収することによって、アルデヒドを生成する方法を提供する。
【0016】
本発明は、修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドと、該修飾ポリペプチドをコード化する核酸分子と、それらの発現手段と、前記修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを用いた方法とに関する。
【0017】
発明者らは、驚くべきことに、突然変異誘発法(DNAシャフリングおよび誤りがちなPCRなど)によって、欧州特許第1 080 205号に記載されているようなグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼのアミノ酸配列にアミノ酸改変を導入することによって、グアバ由来の非修飾組換え酵素と比較して改良された酵素活性を有する修飾酵素がもたらされることを発見した。さらに、修飾ヒドロペルオキシドリアーゼを発現する組換え宿主細胞は、優れた保存安定性を示すこと、すなわちこれらは特に冷蔵保管した場合に数ヶ月間保存できることも発見した。本発明の別の利点は、この修飾酵素が高い初期反応速度を示すことであり、これにより少量の組換えバイオマスを使用するだけで、短時間に多量の生成物の生成が可能になる。さらに、さらなる反応に修飾酵素を再利用することも可能である。最後に、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを用いて得られる生成物の質は、生成物の形成時に異性化がほぼ発生しないため、現在例えば香料製造において使用されている既存の生成物よりも優れていることが示されている。
【0018】
本発明の意味の範囲内で、「リアーゼ」とは、少なくとも1つのリアーゼ機能、すなわち分子の切断を触媒する能力を有するタンパク質を意味する。具体的には、「13−ヒドロペルオキシドリアーゼ」という用語は、リアーゼタンパク質が多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドを切断することができることを意味する。例えば、13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、リノール酸またはリノレン酸の脂肪酸13−ヒドロペルオキシドをC6−アルデヒドとC12−オキソ酸部分とに切断することができる。
【0019】
本発明に関して、「修飾された」または「変異型の」とは、配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、修飾または変異型ポリペプチドのアミノ酸配列が改変されていることを意味する。
【0020】
修飾13−HPOL酵素は、当業者により、例えば、遺伝子合成、部位指向性突然変異誘発、部位飽和突然変異誘発、および新しいDNA配列が生じて新しい変異体(または新しい変異体のライブラリー)が作り出されるその他のあらゆる指向性進化技術(ランダム突然変異誘発、シャフリングなど)を含むDNA工学など、さまざまな手段によって得ることができる。これは、単一遺伝子から、ランダム突然変異誘発を用いて行なうことができる(国際出願第2006/003298号)。また、多様性は、例えば国際出願第00/09679号に記載されているように、ファミリーシャフリング組換えステップを用いて、いくつかの親遺伝子から生じることもできる。そのあと変異体をストリンジェントな条件下で、改良された酵素活性を選択するためにスクリーニングする。これらの改良された変異体は、その後次回の進化において使用することができる。
【0021】
修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼのアミノ酸配列は、配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、1〜40個のアミノ酸改変、好ましくは5〜35個、また好ましくは4〜25個、より好ましくは6〜25個、さらに好ましくは10〜30個、最も好ましくは17〜25個のアミノ酸改変を有する。
【0022】
「野生型タンパク質」という用語は、欧州特許第1 080 205号に開示されている修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ酵素であるが、欧州特許第1 080 205号に開示されている配列と比較すると、N末端の31個のアミノ酸が欠失しているものを指す。この欠失を有する酵素は、この欠失を示さない酵素と比較したときに改良された発現を示し、より高い触媒活性をもたらす。本発明による野生型タンパク質の配列は、配列番号1に表わされる。
【0023】
本明細書において「アミノ酸改変」という用語は、配列番号1に表わされる野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較したときに、2つのアミノ酸の間への1つ以上のアミノ酸の挿入、1つ以上のアミノ酸の欠失、または1つ以上のアミノ酸の1つ以上の異なるアミノ酸による置換を包含するものとする。アミノ酸改変は、修飾されたタンパク質のアミノ酸配列を野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較することによって、容易に識別することができる。
【0024】
アミノ酸配列比較は、当該技術分野で公知の種々の配列比較アルゴリズムおよびプログラムのうちのいずれを用いて実施してもよい。かかるアルゴリズムおよびプログラムには、BLASTP(Altschul et al.(1997) Nucl. Acids Res. 25:3389−3402;Schaeffer et al.(2001) Nucl. Acids Res. 29:2994−3005)、またはBioEdit(http://www.mbio.ncsu.edu./BioEdit/bioedit.html)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
「位置」という用語は、アミノ酸の特定の番号付けよって識別される、野生型タンパク質中に存在する特定のアミノ酸残基を指す。専門家には、野生型配列と比較して1つ以上のアミノ酸残基の挿入または欠失が、野生型アミノ酸配列と修飾されたアミノ酸配列との異なる番号付けをもたらすことは明らかである。例えば、野生型アミノ酸配列のアミノ酸299と300との間にアミノ酸1個を挿入した場合、挿入されたものの次のアミノ酸は、修飾されたアミノ酸配列において301の番号付けを有することになるが、これは野生型配列においては300の番号付けのままである。
【0026】
本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、V3L、R4K、T5P、S19L、N208H、F340L、Y342F、K352R、K352S、H354Y、F358Y、D359E、V360I、K371P、V372L、T375R、P377S、E382D、P383A、N387K、S388A、D389E、V392M、Q393G、N394E、D399S、D399N、およびN457Kからなる群から選択された1つ以上の置換を含んでもよい。
【0027】
本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列に対して、前記置換のうち少なくとも3個、好ましくは少なくとも4、5、6、7、または8個、より好ましくは少なくとも9、10、11、12、13、または14個、さらに好ましくは少なくとも15、16、17、または18個、最も好ましくは19、20、21、22、23、24、または25個の置換を含んでもよい。
【0028】
好ましくは、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、野生型タンパク質と比較すると、少なくとも以下の置換:V3L、R4K、T5P、およびN208Hを含んでもよい。本明細書において開示されている、強化された活性を示す全ての変異体は、これらの置換を有する。例えば、本明細書に開示されている変異体D10Aは、野生型タンパク質と比較すると、これらの4個の置換と、さらなる置換V360IおよびD399Nとを含む。
【0029】
また本発明のヒドロペルオキシドリアーゼは、野生型タンパク質のアミノ酸配列の394位と395位との間にアミノ酸KおよびGの挿入を含んでもよい。この挿入は、この挿入によって修飾されたアミノ酸配列が、この挿入を含まないアミノ酸配列よりも2アミノ酸長くなるという影響を与える。さらに、挿入後のあらゆる付加突然変異は、野生型アミノ酸配列と修飾アミノ酸配列とにおいて異なる番号付けを有することになる。例えば、野生型配列のアミノ酸残基399は、挿入によって修飾された配列におけるアミノ酸残基401に相当する。
【0030】
本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、以下の置換:K371P、V372L、T375R、P377S、E382D、P383A、N387K、S388A、D389E、V392M、Q393G、N394E、D399Sをさらに含んでもよい。
【0031】
本発明の13−ヒドロペルオキシドリアーゼのさらなる例として、指定されているGC7、E8B、B7A、C2A、AC5、4E10、および9D3は、野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、異なる組み合わせのアミノ酸改変を有する。配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、変異体GC7は21個のアミノ酸置換を有し、変異体E8Bは19個のアミノ酸置換を有し、変異体AC5は24個のアミノ酸置換を有し、変異体C2Aは22個のアミノ酸置換を有し、変異体B7Aは21個のアミノ酸置換を有し、変異体4E10は15個のアミノ酸置換を有し、9D3は25個のアミノ酸置換を有する。これら7種の変異体は、配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、置換V3L、R4K、T5P、およびN208H、ならびに置換K371P、V372L、T375R、P377S、E382D、P383A、N387K、S388A、D389E、V392M、Q393G、N394E、およびD399Sを有する。さらに、これらの変異体全ては、野生型タンパク質のアミノ酸配列の394位と395位との間にアミノ酸KおよびGの挿入をさらに有する。本明細書に記載する全ての位置は、特に明記しない限り、野生型タンパク質のアミノ酸配列における位置を指す。
【0032】
変異体GC7は、アミノ酸置換S19L、F340L、V360I、およびN457Kをさらに含む。変異体E8Bは、アミノ酸置換F340LおよびN457Kをさらに含む。変異体AC5は、アミノ酸置換S19L、F340L、Y342F、K352R、F358Y、V360I、およびN457Kをさらに含む。変異体C2Aは、アミノ酸置換F340L、Y342F、F358Y、D359E、およびV360Iをさらに含む。変異体B7Aは、アミノ酸置換S19L、F358Y、V360I、およびN457Kをさらに含む。変異体4E10は、アミノ酸置換V360Iをさらに含む。変異体9D3は、アミノ酸置換S19L、F340L、Y342F、K352S、H354Y、F358Y、V360I、およびN457Kをさらに含む。
【0033】
例示した単離された変異体(Dl0A、GC7、E8B、B7A、C2A、AC5、4E10、および9D3)の全ては、N末端にアミノ酸配列ATPSSSSPEをさらに含み、これによりこの挿入を有さない酵素と比較すると増加した活性がもたらされる。この付加的なアミノ酸配列は、Cucumis melo(メロン)の9−ヒドロペルオキシドリアーゼに由来し(米国特許第7,037,693号)、配列番号2、4、6、8、10、12、14、および16による配列のアミノ酸位置1〜9に位置する。専門家には、このアミノ酸配列の挿入が、野生型タンパク質と変異型タンパク質との間に異なる番号付けをもたらすことは知られている。例えば、野生型タンパク質の3位のアミノ酸は、変異体の12位のアミノ酸に相当する。
【0034】
最も好ましくは、本発明による修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、配列番号2(変異体GC7)、4(変異体E8B)、6(変異体AC5)、8(変異体C2A)、10(変異体B7A)、12(変異体Dl0A)、14(変異体4E10)、および16(変異体9D3)からなる群から選択されたアミノ酸配列を有する。
【0035】
本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ酵素は、配列番号1による野生型13−ヒドロペルオキシドリアーゼと比較すると、増加した酵素活性を示す。この活性の増加は、少なくとも10%または20%、好ましくは30%または40%、また好ましくは少なくとも50%または80%、特に好ましくは少なくとも100%または200%、また特に好ましくは少なくとも5、7、または9倍の増加、とりわけ好ましくは少なくとも10または20倍の増加、またとりわけ好ましくは少なくとも50または80倍の増加、最も好ましくは少なくとも100倍の増加である。「改良された酵素活性」という用語は、修飾された酵素が野生型酵素よりも高い収率係数をもたらす能力を指す。「収率係数」とは、本明細書において、得られる生成物の濃度と生体触媒(例えば、精製された組換え酵素、あるいは酵素を発現する宿主細胞または組換え細胞からの抽出物)の濃度の反応培地における比率であると理解される。本発明者らは、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼが、基質13−ヒドロペルオキシ−オクタデカトリエン酸の100%変換をもたらす一方、グアバ由来の野生型13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、高い細胞濃度であっても同じ基質の約30%を変換できるにすぎないことを示した。
【0036】
13−ヒドロペルオキシドリアーゼ活性は、精製酵素または宿主細胞もしくは完全な宿主生物からの抽出物を多価不飽和脂肪酸、例えばリノレン酸などの13−ヒドロペルオキシドとともに適当な条件下でインキュベートし、例えばガスクロマトグラフィーまたはHPLC分析によって反応生成物を分析することによって測定することができる。反応生成物の酵素活性検定および分析についての詳細は、下記の実施例に記載する。
【0037】
本発明は、さらに、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸分子にも関する。専門家には、遺伝コードの縮重のために、特定のアミノ酸配列が異なる核酸配列によってコードできることは知られている。本発明は、本発明の13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化する全てのヌクレオチド配列を含むものとする。
【0038】
好ましくは、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化するヌクレオチド配列は、タンパク質変異体GC7、E8B、AC5、C2A、B7A、Dl0A、4E10、および9D3をそれぞれコード化する、配列番号3、5、7、9、11、13、15、および17からなる群から選択される。
【0039】
「単離された」核酸分子は、核酸の天然のレポジトリーに存在する他の核酸分子から分離されている。本発明の核酸分子、例えばヌクレオチド配列番号3、5、7、9、11、13、15、または17、あるいはそれらの一部を有する核酸分子は、標準的な分子生物学的技法および本明細書において提供される配列情報を用いて、単離または作製することができる。
【0040】
本発明は、さらに、本発明のヌクレオチド配列を備える組換え核酸分子にも関する。
【0041】
本発明に関して、「トランスジェニックの」または「組換えの」とは、例えば核酸配列、発現カセット(=遺伝子構築物)、または本発明による核酸配列を含有するベクター、あるいはそれぞれの核酸配列、発現カセット、またはベクターで形質転換された生物(これらすべての構築物は遺伝子技術を用いて生成される)に関して、
a)本発明による核酸配列、または
b)本発明による核酸配列に機能的に連結した遺伝子制御配列、例えばプロモーター、または
c)a)およびb)
のいずれかが、その天然の遺伝的環境にないか、あるいは遺伝子法によって修飾されており、その修飾は、例えば、1つまたはいくつかのヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、逆位、または挿入であることを意味する。天然の遺伝的環境とは、親生物における天然のゲノムまたは染色体の遺伝子座、あるいはゲノムライブラリーにおける存在を意味する。
【0042】
本発明の別の態様は、本発明の組換え発現ベクターが導入された生物または宿主細胞に関連する。「宿主細胞」、「トランスジェニック細胞」、および「組換え細胞」という用語は、本明細書において、交換可能に使用される。かかる用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫または潜在的子孫も指す。かかる子孫は、突然変異または環境の影響により後の世代で一定の修飾が生じる可能性があるため、事実上は親細胞と同一でない可能性があるが、依然として本明細書中で使用されるこの用語の範囲内に含まれる。
【0043】
本発明の核酸、発現カセット、およびベクターを発現するための宿主細胞には、細菌、酵母、真菌、植物細胞、植物、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が含まれる。
【0044】
当業者には、13−HPOLをコードし、トランスジェニック細胞の作製に使用される核酸配列は、生物特異的なコドン使用頻度に調整しなければならないかもしれないことは明らかである。コドン使用頻度は、選択した生物の別の公知の遺伝子のコンピューター解析によって決定することができる。
【0045】
この方法に使用される核酸は、細胞への挿入後、別のプラスミド上に位置しても、あるいは有利には宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよい。ゲノムへの組み込みの場合、組み込みは、ランダムに行なっても、あるいは細胞13−HPOL発現の調節をもたらす、天然遺伝子が挿入されたコピーに置き換えられるような組換えによって行なっても、あるいは遺伝子の発現を確実にする少なくとも1つの配列と機能転写遺伝子のポリアデニル化を確実にする少なくとも1つの配列とを含有する機能発現単位に遺伝子が機能的に連結されるように、遺伝子をトランスに用いて行なってもよい。
【0046】
移入すべき13−HPOLをコード化する核酸配列に加え、13−HPOLの発現に使用する組換え核酸分子は、調節要素をさらに含む。これらのベクターが正確にどの調節要素を含有しなければならないかは、それぞれの場合において、これらのベクターが使用される方法による。当業者には、組換え核酸分子がどの調節要素およびその他の要素を含有しなければならないかは公知である。
【0047】
典型的には、ベクターの一部である調節要素は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞、または植物細胞において、転写を可能にし、所望であれば翻訳を可能にするようなものである。選択した生物に応じて、これは例えば、遺伝子が誘導後にのみ発現および/または過剰発現される、あるいは遺伝子が即座に発現および/または過剰発現されることを意味し得る。例えば、これらの調節配列は誘導物質またはリプレッサーが結合する配列であり、それによって核酸の発現を調節する。これらの新規の調節配列に加え、あるいはこれらの配列の代わりに、実際の構造遺伝子上流の配列の天然の調節が依然として存在していてもよく、場合によっては天然の調節が無効となり、遺伝子の発現が増加するように遺伝子操作されていてもよい。しかしながら、組換え核酸分子は、より単純な形で、すなわち核酸配列上流に付加的な調節シグナルが挿入されず、その調節を伴う天然プロモーターが除去されていない形で構築されていてもよい。あるいは、天然調節配列は、調節がもはや起こらないように、および/または遺伝子発現が増加するように突然変異させてある。活性を増加させるために、これらの改変されたプロモーターを部分配列の形で、天然遺伝子上流に単独で挿入してもよい。さらに、遺伝子構築物は、有利には、プロモーターに機能的に連結され、かつ核酸配列の発現増加を可能にするいわゆるエンハンサー配列を1つ以上含有してもよい。また、付加的な有用な配列、例えば付加的な調節要素または終止因子をDNA配列の3′末端に挿入してもよい。
【0048】
原則として、本発明による方法には、調節配列を有するいかなる天然プロモーターを使用することも可能である。しかしながら、合成プロモーターを単独であるいは付加的に使用することも可能であり、有利である。
【0049】
本発明によるベクターは、調節要素として、例えばエンハンサー要素を付加的に含んでもよい。またこれらのベクターは、耐性遺伝子、複製シグナル、および付加的なDNA領域を含有してもよいが、これは細菌、例えばE.coli(大腸菌)などにおけるベクターの増殖を可能にする。調節要素は、宿主細胞におけるベクターの安定化をもたらす配列も含む。かかる調節要素は、特に、宿主ゲノムへのベクターの安定的な組み込み、あるいは細胞におけるベクターの自己複製を促進する配列を備える。かかる調節要素は、当業者には公知である。
【0050】
いわゆる終止配列は、転写または翻訳の適当な終結を確実にする配列である。移入された核酸が翻訳される場合、終止配列は、典型的には、停止コドンおよびそれぞれの調節配列であり;移入された核酸が真核生物において転写されるだけである場合、それらは一般的にポリ(A)配列である。
【0051】
本明細書において「ベクター」という用語は、組換え核酸分子であって、それが結合している別の核酸を細胞内に輸送することができる組換え核酸分子に関する。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、これは付加的なDNAセグメントをライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループを表わす。別のベクターの型は、ウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲーションさせることができる。一部のベクターは、それらが挿入された宿主細胞中で自己複製することができる(例えば、細菌複製起点を有する細菌性ベクター)。別のベクターは、有利には、宿主細胞に挿入されたときにその宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと一緒に複製される。また、一部のベクターは、それらが機能的に連結している遺伝子の発現を制御することができる。これらのベクターは、本明細書において「発現ベクター」とする。通常は、DNA組換え法に適した発現ベクターは、プラスミド型のものである。本記載においては、「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドが最もよく使用されるベクターの型であることから、交換可能に使用できる。しかしながら、本発明は、別の型の発現ベクター、例えば、類似の機能を果たすウイルスベクターなども含むものとする。さらに、「ベクター」という用語は、当業者に公知のその他のベクター、例えば、ファージ、ウイルス、例えばSV40、CMV、TMVなど、トランスポゾン、IS(挿入配列)要素、ファスミド、ファージミド、コスミド、線状または環状DNAなども含むものとする。
【0052】
組換え発現ベクターにおいて、「それに作用可能に連結した」または「それに機能的に連結した」という用語は、目的のヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現が可能なように調節配列に連結していること、また両配列が、その配列が有するとみなされる予測される機能を果たすように互いに連結していることを意味する。
【0053】
「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、およびその他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むものとする。これらの調節配列は、例えば、Goeddel: Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)、またはGruber and Crosby: Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology, CRC Press, Boca Raton, Florida, publisher: Glick and Thompson, Chapter 7, 89−108に記載されている。調節配列は、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を調節する配列、および一定の条件下で一定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の直接的発現を調節する配列を含む。当業者には、発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選定や所望のタンパク質発現の程度などの要因に左右され得ることは公知である。
【0054】
13−HPOLの発現に使用する組換え発現ベクターは、原核細胞および真核細胞の双方において活性を有し得る。このことは、ベクター構築の中間ステップが、簡易性を目的に微生物において実施されることが多いため有利である。これらのクローニングベクターは、それぞれの微生物に対する複製シグナルと、形質転換に成功した細菌細胞を選択するためのマーカー遺伝子とを含有する。原核生物における発現に適したベクターは、当業者には公知であり、これには例えば、E.coliのpEXP5−NT/TOPO、pMALシリーズ、pLG338、pACYC184、pBRシリーズ、例えばpBR322、pUCシリーズ、例えばpUC18もしくはpUC19、M113mpシリーズ、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN−III113−B1、λgt11、またはpBdCl、Streptomyces(ストレプトミセス)のpIJ101、pIJ364、pIJ702、またはpIJ361、Bacillus(バチルス)のpUB110、pC194、またはpBD214、Corynebacterium(コリネバクテリウム)のpSA77、またはpAJ667が含まれる。
【0055】
別の実施形態において、発現ベクターは、酵母発現ベクターまたはバキュロウイルス発現ベクターを意味する。
【0056】
上記に挙げたベクターは、可能な適切なベクターのわずかな概要を示すにすぎない。さらなるプラスミドは、当業者に公知であり、例えば、Cloning Vectors(publisher Pouwels, P.H. et al. Elsevier, Amsterdam, New York−Oxford, 1985)に記載されている。原核細胞および真核細胞に適したさらなる発現系は、Sambrook and Russellの15および16章に記載されている(上記参照)。
【0057】
本方法の別の実施形態において、13−HPOLは、単細胞の植物細胞(藻類など)において(Falciatore et al. (1999) Marine Biotechnology 1(3): 239−251、およびその中で引用されている参考文献を参照)、および高等植物(例えば、作物植物などの種子植物)の植物細胞において発現させることができる。植物発現ベクターの例には、Becker et al. (1992) Plant Mol. Biol. 20: 1195−1197;およびBevan (1984) Nucl. Acids Res. 12: 8711−8721; Vectors for Gene Transfer in Higher Plants: Transgenic Plants, Bd. 1, Engineering and Utilization, publisher: Kung and R. Wu, Academic Press, 1993, S. 15−38)において幅広く記載されているものが含まれる。
【0058】
発現される遺伝子は、上記のように、時間特異的に、細胞特異的に、または組織特異的に遺伝子発現を調節する適切なプロモーターに機能的に連結されていなければならない。
【0059】
13−HPOLヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入するために、有利には、これらに公知の方法で増幅およびライゲーションを行なう。好ましくは、Pfu DNAポリメラーゼまたはPfu/Taq DNAポリメラーゼ混合物のプロトコルに従って実施する。プライマーは、増幅される配列に従って選択する。有利には、プライマーは、増幅されたDNAが、開始コドンから停止コドンまでの全暗号配列を含むように選択するべきである。有利には、増幅されたDNAを増幅後に分析する。例えば、ゲル電気泳動分離後に、質と量について分析を行なうことができる。そのあと、増幅されたDNAを標準プロトコル(例えば、Qiagen)によって精製することができる。そのあと、一定分量の精製された増幅DNAを後のクローニングに使用できる。
【0060】
適切なクローニングベクターは、一般的に当業者に公知である。これらには、具体的には微生物系において複製可能なベクター、すなわち特に細菌、酵母、または真菌における効率的なクローニングおよび発現を可能にする、および/または植物の安定的な形質転換を可能にするベクターが含まれる。特に言及する価値があるものは、植物のT−DNA媒介形質転換に適した、種々のバイナリーおよびコインテグレートベクター系である。これらのバイナリーベクターには、pBIB−HYG、pPZP、pBecks、pGreenシリーズのベクターが含まれる。本発明によると、Bin19、pBI101、pBinAR、pGPTV、およびpCAMBIAが好適である。バイナリーベクターおよびそれらの使用の概要は、Hellens et al. (2000) Trends in Plant Science 5: 446−451により提供される。
【0061】
ベクターの製造では、ベクターをまず制限エンドヌクレアーゼを用いて直鎖化してから、適切な方法で酵素的に修飾することができる。そのあとベクターを精製し、一定分量をクローニングに使用する。クローニング時に、酵素的に切断し、必要であれば、精製した増幅DNAを同様に製造されたベクター断片にリガーゼを用いて連結させる。一部の核酸構築物、またはベクター構築物、またはプラスミド構築物は、1つまたはいくつかの暗号遺伝子領域を有してもよい。好ましくは、これらの構築物中の暗号遺伝子領域は、上述のように、調節配列に機能的に連結されている。構築物は、有利には、適切な培地中で、微生物、特にE.coliおよびAgrobacterium tumefaciens(アグロバクテリウム・ツメファシエンス)に培養し、選択条件下で安定的に増殖させることができる。そのあと細胞を収集し、溶解して、そこからプラスミドを抽出する。これにより、異種DNAの微生物または植物への移入が可能になる。
【0062】
クローニングベクターの有利な使用により、本発明による核酸および核酸構築物は、生物、例えば微生物または植物などに挿入することができ、植物形質転換に使用することができる。本方法で使用する核酸、本発明による核酸および核酸構築物および/またはベクターは、広範囲の生物の遺伝子修飾に使用することができる。
【0063】
本発明に関して、「トランスジェニック細胞」という用語は、上記のように、本方法において使用する核酸が、細胞のゲノムのそれらの天然の部位になく、そのためその核酸が、同種または異種の宿主細胞において発現し得ることを意味する。しかしながら、トランスジェニックとは、本発明による核酸は生物のゲノムのそれらの天然の部位、すなわち13−HPOLの部位に位置するが、その配列が天然配列と比較して変化している、および/または天然配列の調節配列が修飾されていることも意味する。好ましくは、トランスジェニックとは、ゲノムにおける非天然部位での本発明による核酸の発現(すなわち核酸が同種または好ましくは異種発現する)として理解されるべきである。
【0064】
本発明の核酸、発現カセット、およびベクターを発現するための宿主細胞には、細菌、酵母、真菌、植物細胞、植物、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が含まれる。
【0065】
本発明による好適な宿主生物は、細菌、例えばEscherichia(エシェリキア)属のものなど、真菌、例えばMortierella(モルティエラ)、Saprolegnia(ミズガビ)、またはPythium(フハイカビ)など、酵母、例えばSaccharomyces(サッカロミセス)など、シアノバクテリア、繊毛虫類、藻類、または原虫、例えばCrypthecodinium(クリプテコディニウム)などの渦鞭毛藻類である。工業的に使用されている適切な微生物には、グラム陰性細菌、例えばE.coliなど、グラム陽性細菌、例えばB.subtilis(枯草菌)など、真菌、例えばA.niger(クロコウジカビ)、A.nidulans(アスペルギルス・ニドランス)、N.crassa(アカパンカビ)など、酵母、例えばS.cerevisiae(出芽酵母)、K.lactis(クルイベロミセス・ラクチス)、H.polymorpha(ハンゼヌラ・ポリモルファ)、P.pastoris(ピキア・パストリス)、Y.lipolytica(ヤロウィア・リポリティカ)など、放線菌類、例えばStreptomyces sp(ストレプトミセスsp)が含まれるが、これらに限定されない。これらの微生物のうちのいくつかは、「Manual of Industrial Microbiology and Biotechnology」(編集長:A. L. Demain,J.E. Davies;ASM Press)に記載されている。
【0066】
さらなる適切な宿主細胞は、 Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)から得ることができる。例えばより低いプロテアーゼ活性を有する適切な発現株は、Gottesman, S., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 119−128に記載されている。
【0067】
最も好ましくは、E.coli細胞を使用する。好ましいE.coli株は、例えば、MC1061、BL21、JM101、JM105、JM109、およびDH5αである。
【0068】
本発明によると、「トランスジェニック植物」という用語は、全体としての植物、ならびに本発明による13−HPOLタンパク質の発現が増加する植物の全ての部分を含む。これには、植物および植物器官の全ての部分、例えば、葉、茎、種、根、塊茎、葯、ひげ根、根毛、柄、胚、カルス、子葉、葉柄、作物材料、植物組織、生殖組織、トランスジェニック植物由来のおよび/またはトランスジェニック植物を作製するために使用できる細胞培養物が含まれる。
【0069】
本発明による方法に使用する植物は、原則として、病原菌侵入への耐性を付けるべきいかなる植物でもよい。好ましくは、これは単子葉または双子葉の、例えば農作植物、食用植物、または飼料植物である。
【0070】
適切な哺乳動物細胞には、例えば、NIH3T3細胞、CHO細胞、COS細胞、293細胞、Jurkat細胞、BHK細胞、およびHeLa細胞が含まれる。
【0071】
本発明によるトランスジェニック細胞における13−HPOLタンパク質の特異的発現は、一般的な分子生物学的および生化学的方法を用いて、証明および追跡できる。当業者にはこれらの技法は公知であり、適切な検出方法、例えば、13−HPOL特異的RNAの検出するため、または13−HPOL特異的RNAの蓄積量を測定するためのノーザンブロット解析、あるいは13−HPOLコードするDNA配列の検出のためのサザンブロットもしくはPCR解析などを容易に選択することができる。この目的で使用するプローブもしくはプライマー配列は、配列番号3、5、7、9、11、13、15、もしくは17に記載される配列と同一であっても、あるいはこれらの配列とわずかな差異を示してもよい。
【0072】
本発明において微生物を使用する場合、これらの生物は、好ましくは専門家に公知の方法で、発酵方法において標準条件下で成長させる。
【0073】
「標準条件」という用語は、標準培地における微生物の培養を指す。温度、pH、およびインキュベーション時間は、下記のように異なり得る。
【0074】
温度は、通常は、15℃〜45℃の範囲内であるべきであるが、好熱性生物の場合は105℃までと、範囲はさらに高くてもよい。温度は、一定に維持してもよく、あるいは実験中に変更してもよい。
【0075】
培地のpHは、5〜8.5の範囲、好ましくはおよそ7.0であってよく、これは培地に緩衝液を加えることによって維持することができる。この目的で例となる緩衝液は、リン酸カリウム緩衝液である。合成緩衝液、例えばMOPS、HEPES、ACES、およびその他のものも、代替的に、あるいは同時に使用することができる。また、酸または塩基、例えば酢酸、硫酸、リン酸、NaOH、KOH、またはNH4OHなどを成長中に添加することによって、一定の培養pHを維持することも可能である。複合培地成分、例えば酵母抽出物などを使用する場合、多くの複合化合物は高い緩衝能力を有することから、付加的な緩衝液の必要性を減少させることができる。微生物の培養に発酵槽を使用する場合、pHは、気体アンモニアを用いて制御することもできる。
【0076】
インキュベーション時間は、通常は、数時間から数日までの範囲である。この時間は、ブロス中に最大量の生成物を蓄積させるように選択する。
【0077】
開示されている成長実験は、さまざまな容器、例えば、さまざまな大きさのマイクロタイタープレート、ガラス管、ガラスフラスコ、またはガラスもしくは金属製発酵槽などの中で行なうことができる。
【0078】
多数のクローンをスクリーニングするために、微生物は、マイクロタイタープレート、ガラス管、またはバッフルを備えるもしくはバッフルを備えない振盪フラスコ内で培養するべきである。好ましくは100mlまたは250mlの振盪フラスコを使用し、必要な成長培地の約10%(質量)を注ぐ。フラスコは、ロータリーシェーカー(振幅:約25mm)上で、速度範囲約100〜300rpmを用いて振盪させるべきである。蒸発損失は、湿潤環境を維持することによって減少させることができる。あるいは、蒸発損失に対する数学的補正を行なうべきである。
【0079】
遺伝子修飾されたクローンをテストする場合、修飾されていない対照クローン、または何も挿入していない基本プラスミドを含有する対照クローンもテストすべきである。
【0080】
使用する各微生物に対する標準培養条件は、教本、例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning − A laboratory manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 3rd edition (2001)などから得ることができる。
【0081】
例えば、E.coli株およびC.glutamicum(コリネバクテリウム・グルタミクム)株は、通常は、MBまたはLBおよびBHIブロス中で成長させる(Follettie, M. T. et al. (1993) J. Bacteriol. 175: 4096−4103, Difco Becton Dickinson)。E.coli用の通常の標準最小培地は、M9および改変したMCGCである(Yoshihama et al. (1985) J. Bacteriol. 162: 591−507; Liebl et al. (1989) Appl. Microbiol. Biotechnol. 32: 205−210)。細菌の培養に適したその他の標準培地には、NZCYM、SOB、TB、CG12 1/2、およびYTが含まれる。
【0082】
本発明の意味の範囲内で、「標準培地」とは、本発明の微生物の培養に適した全ての培地を含み、また強化培地および最小培地の双方を含むものとする。
【0083】
「最小培地」とは、野生型細胞の成長に最小限必要なもの、すなわち無機塩、炭素源、および水のみを含有する培地である。
【0084】
対照的に、「強化培地」とは、特定の微生物の全ての成長必要条件を満たすように設計されている。すなわち、最小培地の含有物に加え、これらは例えば成長因子を含有する。
【0085】
抗生物質は、アンピシリンは50マイクログラム/ミリリットル、カナマイシンは25マイクログラム/ミリリットル、ナリジクス酸は25マイクログラム/ミリリットルの量で標準培地に加えて、形質転換株の選択を可能にすることができる。
【0086】
適切な培地は、1つ以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン、および微量元素からなる。好適な炭素源は、糖類、例えば単糖類、二糖類、または多糖類などである。例えば、ブドウ糖、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、乳糖、麦芽糖、ショ糖、ラフィノース、デンプン、またはセルロースは、非常に良好な炭素源である。
【0087】
複合化合物、例えばモラセスまたはその他の精糖の副生成物などによって、培地に糖を供給することもできる。また、異なる炭素源の混合物を供給することも有利となり得る。その他の可能な炭素源は、アルコールおよび有機酸、例えば、メタノール、エタノール、酢酸、または乳酸である。窒素源は、通常は、有機もしくは無機窒素化合物、またはこれらの化合物を含有する物質である。例となる窒素源には、アンモニアガス、またはアンモニア塩、例えばNH4Clもしくは(NH42SO4、NH4OH、硝酸塩、尿素、アミノ酸、あるいは複合窒素源、例えばコーンスティープリカー、大豆粉、大豆タンパク質、酵母抽出物、肉抽出物などが含まれる。
【0088】
培地に含んでもよい無機塩化合物には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅、および鉄の塩化物、リン酸塩、または硫化塩がある。キレート化化合物を培地に加えて、溶液中の金属イオンを保持することもできる。特に有用なキレート化化合物には、ジヒドロキシフェノール、例えばカテコールまたはプロトカテキュ酸など、あるいは有機酸、例えばクエン酸などが含まれる。培地は、典型的には、別の成長因子、例えばビタミン、または成長促進物質、例えばビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸塩、およびピリドキシンなども含有する。成長因子および塩は、複合培地成分、例えば酵母抽出物、モラセス、コーンスティープリカーなどからもたらされることが多い。培地化合物の正確な組成物は、当座の実験に強く依存し、それぞれの特定のケースについて個々に決定される。培地最適化についての情報は、教本「Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach」(eds. P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) pp. 53−73, ISBN 0 19 963577 3)から入手できる。また、商業サプライヤーからの成長培地、例えばstandard 1(Merck社)またはBHI(brain heart infusion、DIFCO社)などを選択することも可能である。
【0089】
さらに、活性組換えリアーゼの発現効率を向上させるために、ヘム前駆体のデルタアミノレブリン酸を培地に添加することも有利となり得る。
【0090】
全ての培地成分は、熱によって(1.5バール、121℃で20分間)、あるいは滅菌濾過によって滅菌するべきである。これらの成分は一緒に、あるいは必要であれば別々に滅菌することができる。
【0091】
細菌の培養に使用する標準培地の調製は、通常は、単一アミノ酸の添加を伴わない。その代わり、標準培養条件下で使用する強化培地には、アミノ酸の混合物、例えばペプトンまたはトリプトンなどを加える。
【0092】
本発明によるトランスジェニック細胞は、あらゆる適切な方法、例えばバッチ培養法またはフェドバッチ培養法で培養してよい。
【0093】
本発明の意味の範囲内で、「バッチ培養」とは、培養中に培養培地を添加も抜き出しもしない培養法である。
【0094】
本発明の意味の範囲内で、「フェドバッチ法」とは、培養中に培養培地を添加するが、培養培地を抜き出さない培養法である。
【0095】
原核生物におけるタンパク質の発現は、融合タンパク質あるいは非融合タンパク質の発現を指示する構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含有するベクターを用いて行なうことが最も多い。
【0096】
融合ベクターは、挿入された核酸配列によってコードされたタンパク質に複数のアミノ酸を付加する。これらは通常は組換えタンパク質のアミノ末端に付加されるが、C末端にも付加され、あるいはタンパク質の適切な領域内に融合される。かかる融合ベクターは、典型的には、3つの目的を果たす。
1)組換えタンパク質の発現を増加させる目的
2)組換えタンパク質の溶解性を向上させる目的
3)親和性精製のためのリガンドを提供することによって、組換えタンパク質の精製を援助する目的
【0097】
しばしば、融合発現ベクターにおいて、タンパク質切断部位を融合部分と組換えタンパク質との接合部に導入して、融合タンパク質の精製後、組換えタンパク質の融合部分からの単離を可能にする。かかる酵素およびそれらの同族の認識配列には、Factor Xa、トロンビン、およびエンテロキナーゼが含まれる。
【0098】
典型的な融合発現ベクターには、pQE(Qiagen社)、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith, D. B. and Johnson, K. S. (1988) Gene 67: 31−40)、pMAL(New England Biolabs社、米国マサチューセッツ州ビバリー)、およびpRIT5(Pharmacia社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)が含まれ、これらはそれぞれグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはタンパク質Aを組換えタンパク質に融合する。
【0099】
C.glutamicumベクターの例は、Handbook of Corynebacterium 2005 Eggeling, L. Bott, M., eds., CRC press USAに示されている。
【0100】
適切な誘導性非融合E.coli発現ベクターの例には、pTrc(Amann et al. (1988) Gene 69: 301−315)、pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHSl、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN−III113−Bl、egtll、pBdCl、およびpET lld(Studier et al., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60−89; Pouwels et al., eds. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York ISBN 0 444 904018)がある。pTrcベクターからの標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp−lac融合プロモーターからの宿主のRNAポリメラーゼ転写に依存する。pET lldベクターからの標的遺伝子発現は、共発現したウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gnl)に媒介されたT7 gnlO−lac融合プロモーターからの転写に依存する。このウイルスポリメラーゼは、宿主株BL21(DE3)またはHMS 174(DE3)によって、lacUV 5プロモーターの転写制御下、T7 gnl遺伝子を含む常在Xプロファージから供給される。その他の種類の細菌の形質転換には、適当なベクターを選択することができる。例えば、プラスミドpIJ101、pIJ364、pIJ702、およびpIJ361は、Streptomycesの形質転換に有用であることが知られており、一方プラスミドpUB110、pC194、またはpBD214は、Bacillus種の形質転換に適している。Corynebacteriumへの遺伝情報の移入に使用されるいくつかのプラスミドには、pHM1519、pBLl、pSA77、またはpAJ667(Pouwels et al., eds. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)が含まれる。
【0101】
別の実施形態では、タンパク質発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母(S.cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSecl(Baldari, et al. (1987) Embo J. 6: 229−234)、2i、pAG−1、Yep6、Yepl3、pEMBLYe23、pMFa(Kurjan and Herskowitz (1982) Cell 30: 933−943)、pJRY88(Schultz et al. (1987) Gene 54: 113−123)、およびpYES2(Invitrogen Corporation、米国カリフォルニア州、サンディエゴ)がある。その他の真菌、例えば糸状菌などにおける使用に適当なベクターおよびベクターを構築するための方法には、van den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J.(1991):Applied Molecular Genetics of Fungi, J.F. Peberdy, et al., eds., p. 1−28, Cambridge University Press: Cambridge、およびPouwels et al., eds. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York(ISBN 0 444 904018)において詳述されているものが含まれる。
【0102】
ベクターDNAは、従来の形質転換またはトランスフェクション法によって原核細胞に導入することができる。本明細書において「形質転換」および「トランスフェクション」、「接合」および「形質導入」という用語は、外来核酸(例えば、直鎖DNAまたはRNA(例えば、直鎖化したベクター、またはベクターを有さない遺伝子構築物のみ)またはベクターの形態の核酸(例えば、プラスミド、ファージ、ファスミド、ファージミド、トランスポゾン、またはその他のDNAを宿主細胞に導入するための当分野で認められているさまざまな技法を指すものであり、これにはリン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、天然受容能、化学薬品媒介による移入、またはエレクトロポレーションが含まれる。宿主細胞の形質転換またはトランスフェクトに適した方法は、Sambrook, et al.(Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2003)、およびその他の実験室マニュアルに記載されている。
【0103】
これらの組み込み体を同定および選択するために、選択可能なマーカー(例えば、抗生物質への耐性)をコードする遺伝子が、一般的に、目的の遺伝子とともに宿主細胞に導入される。好適な選択可能なマーカーには、薬物への耐性を付与するもの、例えばG418、ハイグロマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン(およびその他のペニシリン類)、セファロスポリン類、フルオロキノン類、ナラジキシン酸、クロラムフェニコール、スペクチノマイシン、エリスロマイシン、ストレプトマイシン、およびメトトレキサートなどが含まれるが、これらに限定されない。その他の選択可能なマーカーには、宿主もしくは出発株において相当遺伝子の突然変異体を相補することができる野生型遺伝子が含まれる。例えば、上記のような本発明のC.glutamicum出発もしくは宿主株のゲノムから、最小培地で成長させるための必須遺伝子、例えばserAなどを突然変異させるかあるいは削除してセリン栄養要求株を作り出す。次に、serA遺伝子の野生型またはその他の機能的コピーを含有するベクターを用いて、形質転換体または組み込み体を選択する。選択可能なマーカーをコードする核酸は、上述の修飾された核酸配列をコードするものと同じベクター上で宿主細胞に導入してもよく、あるいは別のベクター上で導入してもよい。導入された核酸で安定的にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択によって同定することができる(例えば、選択可能なマーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存するが、他の細胞は死滅する)。
【0104】
複製起点を持たないプラスミドと2つの異なるマーカー遺伝子とを使用する場合、ゲノムに挿入されたインサートの一部を有するマーカーを含まない菌株を作製することもできる。これは、相同組換えを連続して2回行なうことによって達成される(Becker et al. (2005) Appl. Environ. Microbiol. 71 (12): 8587−8596も参照)。
【0105】
別の実施形態において、導入された遺伝子の調節された発現を可能にする選択系を含有する組換え微生物を作製することができる。例えば、上述の核酸配列のうちの1つをベクター上に含ませてラクトースオペロンの制御下におくことにより、IPTGの存在下でのみ遺伝子の発現が可能になる。かかる調節系は、当該技術分野において周知である。
【0106】
植物宿主細胞にDNAを挿入するためには複数の公知の技法が利用可能であり、当業者は、それぞれのケースにおいて最も適切な方法を見つけることに何の困難もないであろう。これらの技法は、形質転換物質としてAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenes(アグロバクテリウム・リゾゲネス)を用いた、T−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、単離DNAのプロトプラストへの直接遺伝子移入、DNAのエレクトロポレーション、微粒子銃法を用いたDNAの挿入、およびその他の可能な技法を含む。このようにして、安定形質転換体および一過性形質転換体の双方を生じ得る。
【0107】
もちろん、本発明による核酸分子を含有する植物細胞は、細胞培養物(プロトプラスト、カルス、懸濁液培養物などを含む)の形態でさらに培養してもよい。
【0108】
トランスジェニック生物または細胞、例えば、細菌、酵母、昆虫、哺乳動物、または植物細胞など、および真菌、または藻類を使用するほかに、本発明の13−HPOL酵素は、適切な発現ベクターを用いて、無細胞系において発現させることもできる。細胞を用いない発現は、in vitroで大量に活性組換えタンパク質を産生する転写と翻訳の共役反応であり、市販品を入手することもできる。
【0109】
本発明は、さらに、ポリペプチドの発現を可能にする条件下で、本発明による1つ以上のトランスジェニック細胞を培養することによって、および場合によってはそのポリペプチドを回収することによって、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドを製造する方法に関する。
【0110】
「細胞の培養」という用語は、細胞の増殖およびポリペプチドの発現を可能にする条件下で細胞を成長させることを意味する。これらの条件には、上記に述べたように、細胞の代謝に必要な成分を含有する培地、温度、pH、およびインキュベーション時間が含まれる。
【0111】
ポリペプチドは、当該技術分野で公知のあらゆる精製方法、例えば、ゲル濾過またはクロマトグラフ法によって回収することができる。好ましくは、タンパク質は、親和性精製のためのリガンド、例えばグルタチオンS−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、またはタンパク質Aなどを提供する複数のアミノ酸と一緒に、融合タンパク質として発現される。上記に述べたように、これらのリガンドは、精製後に、融合タンパク質をプロテアーゼで処理することによって除去することができる。
【0112】
本発明は、さらに、多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドをアルデヒドとオキソカルボン酸とに切断するための、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼの使用にも関する。
【0113】
「多価不飽和脂肪酸」という用語は、少なくとも2つの二重結合を有する脂肪酸を指す。「脂肪酸ヒドロペルオキシド」は、不飽和脂肪酸の酸化によって形成される。具体的には、13−ヒドロペルオキシドは、不飽和脂肪酸の13番目の炭素原子における酸化によって形成される。本発明の方法において、18個の炭素原子を有するリノール酸またはリノレン酸を多価不飽和脂肪酸として用いる場合、本発明の13−ヒドロペルオキシドリアーゼの作用は、C6−アルデヒドおよびC12−オキソカルボン酸の生成をもたらす。例えば、n−ヘキサナールは、リノール酸の13−ヒドロペルオキシドから生成され、3−(Z)−ヘキセン−1−アールは、アルファリノレン酸の13−ヒドロペルオキシドから生成される。
【0114】
より具体的には、本発明の13−ヒドロペルオキシドリアーゼによって、亜麻仁油加水分解物の13−ヒドロペルオキシド(リノール酸の13−ヒドロペルオキシドとリノレン酸の13−ヒドロペルオキシドとの混合物)を切断することで得られる反応生成物は、n−ヘキサナール、3−(Z)−ヘキセン−1−アール、および2−(E)−ヘキセン−1−アールの混合物である。
【0115】
そのあと、生成されたC6−アルデヒドを香味および/または芳香原料として使用することも、あるいはさらに反応させて、相当するアルコールなどのその他の生成物を得ることもできる。得られた所望の生成物は、蒸気蒸留および/または不活性有機溶媒を用いた抽出によって反応媒体から分離することができる。
【0116】
したがって、本発明は、
a)多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドを本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼと接触させるステップと、
b)生成したアルデヒドを回収するステップと、
を含む、アルデヒドを生成する方法に関する。
【0117】
好ましくは、前記方法は、ステップa)の前に、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを提供するステップをさらに含む。
【0118】
好ましくは、本発明は、
a)亜麻仁油加水分解物の13−ヒドロペルオキシドを本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼと接触させるステップと、
b)ステップa)で生成したヘキサナール、3−(Z)−ヘキセン−1−アール、および2−(E)−ヘキセン−1−アールの混合物を回収するステップと、
を含む、n−ヘキサナール、3−(Z)−ヘキセン−1−アール、および2−(E)−ヘキセン−1−アールの混合物を生成する方法に関する。
【0119】
より好ましくは、前記方法は、ステップa)の前に、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを提供するステップをさらに含む。
【0120】
本発明の13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、さまざまな方法で提供することができる。
【0121】
まず1番目に、組換え微生物細胞(例えば、E.coli)を、例えば、超音波処理、浸透圧ショック、凍結融解サイクル、または細胞溶解キットの使用(例えば、Sigma社のCelLytic(商標))によって溶解することができ、そのあと、得られた溶解物を脂肪酸ヒドロペルオキシドの溶液に直接加えて、アルデヒドとオキソカルボン酸とを形成することができる。
【0122】
2番目に、ヒドロペルオキシドをトランスジェニック細胞またはトランスジェニック生物、例えば微生物細胞、植物、植物細胞培養物、真菌、哺乳動物細胞、昆虫細胞、およびシアノバクテリアなどにおいて、in vivoで作製することができる。
【0123】
3番目に、トランスジェニック生物から13−HPOLを精製することができる。好ましくは、親和性タグ、例えばセルロース結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、またはHis−tagなどをコード化するヌクレオチド配列を含有するベクター中に、13−HPOLをコード化するヌクレオチド配列をクローニングする。DNAの転写および翻訳後、融合タンパク質が形成されるが、これはそのあと親和性クロマトグラフィーを用いて容易に精製することができる。融合タンパク質の生成および精製に有用なベクターおよび方法は、当業者に周知である。精製後、親和性タグは、Factor Xなどのプロテアーゼの作用によって除去することができる。しかしながら、かかる親和性タグは、タンパク質の折り畳み/溶解性などの改善から、組換え融合タンパク質の活性を増加させる。また、これらおよびその他のタグは、融合タンパク質をアミロース、セルロースなどの安価な支持体上に固定化できるようにするが、これは組換え酵素の安定化および再利用のために反応器内で使用することができる。
【0124】
「接触させる」という用語は、酵素13−ヒドロペルオキシドリアーゼと、その基質である多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドとを適切な反応条件下で合わせて、反応を可能にすることを意味する。専門家には、反応を生じるためにどの反応条件を選択しなければならないかは知られている。さらに、かかる反応条件の例は、下記の実施例に示す。
【0125】
生成したアルデヒドは、専門家に公知のあらゆる方法によって、例えば蒸気蒸留および/または不活性有機溶媒を用いた抽出によって回収することができる。次に、ガスクロマトグラフィーまたはHPLCを用いて、反応生成物を分析することができる。
【0126】
13−ヒドロペルオキシドリアーゼの基質、すなわち多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドは、13−リポキシゲナーゼの活性によって生成することができる。オキシゲナーゼは、少なくとも1つの1−(Z),4−(Z)−ペンタジエン系を含有する多価不飽和脂肪酸、例えばリノール酸、リノレン酸、およびアラキドン酸などの部位特異的および立体特異的二原子酸素添加を触媒する。13−リポキシゲナーゼは、脂肪酸内のC13位置に対する特異性を有する。すなわち13−リポキシゲナーゼは、好ましくは脂肪酸の炭化水素骨格の13番目の炭素原子に酸素を添加して、脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドをもたらす。
【0127】
13−リポキシゲナーゼは、最も安価な13−リポキシゲナーゼ源であるホモジナイズした大豆の形態で提供することができる(例えば、米国特許第5,464,761号;米国特許第6,780,621号を参照)。13−リポキシゲナーゼを提供するその他方法は、組換え発現である。C13特異性を有する原核生物のリポキシゲナーゼのアミノ酸およびヌクレオチド配列は、欧州特許第06123710.3号、およびLang and Feussner (2007) Phytochemistry 68(8): 1120−1127、ならびにKoeduka et al. (2007) Curr. Microbiol. 54(4): 315−319に開示されている。組換え13−リポキシゲナーゼは、13−ヒドロペルオキシドリアーゼと同じ細胞中で生成しても、あるいは別の細胞中で生成してもよい。同じ細胞中で生成する場合、相当するアルデヒドは、後者が形成された直後にヒドロペルオキシドから生成することができる。13−リポキシゲナーゼは、13−ヒドロペルオキシドリアーゼについて上記のように、細胞溶解物、細胞懸濁液、または精製タンパク質の形態で使用することができる。
【0128】
本発明の方法で生成したアルデヒドは、さまざまな手段、例えば反応溶液に生パン酵母を加えることによって、それらの相当するアルコールに還元してもよい。この酵母は、アルデヒドを還元する活性アルコールデヒドロゲナーゼ酵素を含有している。あるいは、単離したアルコールデヒドロゲナーゼまたは化学薬品、例えばKBH4またはNaBH4などを使用して、アルデヒドを相当するアルコールに還元してもよい。
【0129】
本発明の変異型13−ヒドロペルオキシドリアーゼの単離、およびそれらの特徴付けは、下記の実施例に記載する。以下の実施例は、限定するものと解釈されるべきではない。本特許出願において引用する全ての参考文献、特許出願、特許、および公開特許出願の内容は、参考として本明細書で援用される。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】図1は、配列番号1による野生型アミノ酸配列とともに、GC7、E8B、B7A、C2A、AC5、Dl0A、4E10、および9D3に指定されるさまざまな修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼのアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【図2】図2は、それぞれ変異型または野生型13−ヒドロペルオキシドリアーゼを発現するE.coliクローンのさまざまな細胞密度での13−HPOTの消費を示す。
【0131】
実施例
実施例1
野生型グアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼの分子進化
配列番号1によるグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化するDNAと、付加的なC.melo由来の9−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化するDNA配列、ならびにC.sinensis(冬虫夏草)およびN.attenuata(野生タバコ)由来の13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化するDNA配列との突然変異誘発およびシャフリングを数回行なうことにより、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを得た。突然変異誘発ステップは、DΝAに国際出願第2006/003298号に記載されているEvoSight(商標)法を用いて実施した。DΝAシャフリングステップは、DΝAに国際出願第00/09679号に記載されているL−Shuffling(商標)法を用いて実施した。配列番号1によるグアバ13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化するDNAを断片化し、C.melo、C.sinensis、およびN.attenuata由来の9もしくは13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコード化する断片化した付加DNAと混合し、変性/支持体上へのハイブリダイゼーション/ライゲーションの反復ステップによって再構成した。234nmにおける基質消費をモニターすることにより、分子進化の各回における変異タンパク質のハイスループットスクリーニングを行なった。同定された改良変異体を基質および生成物のクロマトグラフ分析によって検証した。
【0132】
実施例2
適当な発現ベクター中への修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼのクローニング
配列番号3、5、7、9、11、13、15、および17にそれぞれ示されている、修飾13−ヒドロペルオキシリアーゼGC7、E8B、AC5、C2A、B7A、D10A、E8B、および9D3をコード化するヌクレオチド配列を、EcoRI部位を含有する5’リンカーとBamHl部位を含有する3’リンカーを用いて、ベクターpMAL−c2X(New England Biolabs社)中にクローニングした。得られたさまざまなプラスミドの一覧を第1表に示す。
【0133】
第1表:組換えプラスミドの例
【表1】

【0134】
実施例3
「野生型」酵素と比較した修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼによる脂肪酸ヒドロペルオキシド切断
実験1
第1表のプラスミドpB7#A、pAC#5、pC2#A、pE8#B、pGC#7、p4E#10、p9D#3、pD10#A、およびpWTで形質転換したE.coli MC1061細胞を振盪フラスコ培養物として、アンピシリン100ppmを含むLB培地25ml中、180rpm、20℃で30時間誘導を行なわずに培養した。培養物を遠心分離し、100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)中にペレットを再懸濁させて、全ての形質転換細胞について光学密度をOD600=10に調整したが、ただしプラスミドpD10#Aで形質転換したものだけは、光学密度をOD600=25に調整した。13−HPOL酵素変異体の触媒活性を以下のように測定した。脂肪酸源としての亜麻仁油加水分解物と13−リポキシゲナーゼ源としての粉砕大豆を用いてあらかじめ生成しておいた脂肪酸ヒドロペルオキシド(基質13−HPOT約75%を含む)84.3g kg-1を含有する溶液900μlに、細胞懸濁液(それぞれOD600=10、OD600=25)100μl(10%v/v)を添加した。還元剤としてのウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼ20mgおよびNADH330mgを攪拌下で添加した。反応を室温で2分間実施した。反応混合物100μlの一定分量を水900μlで希釈し、1容量の酢酸エチルで抽出し、3−(Z)−ヘキセン−1−オールの存在をガスクロマトグラフィーにより検定した。脂肪酸ヒドロペルオキシドの消費は、HPLCで追跡した。モル収率は、反応時に得られた3−(Z)−ヘキセン−1−オールの量と、反応中に存在する13−HPOTの量から理論上得ることができる3−(Z)−ヘキセン−1−オールの量との比率として表わす。
【0135】
本実験の結果は第2表に記載するが、これは組換え野生型酵素(pWT)と比較して修飾されたリアーゼの改良された酵素活性を示している。
【0136】
第2表:修飾ヒドロペルオキシドリアーゼの活性
ウマ肝臓由来の可溶性アルコールデヒドロゲナーゼおよびNADHを還元剤として使用した。
【0137】
【表2】

*分析誤差許容範囲内
【0138】
実験2
第1表のプラスミドpB7#A、pAC#5、pC2#A、pE8#B、pGC#7、p4E#10、pD10#A、p9D3およびpWTを含むE.coli MC1061細胞を振盪フラスコ培養物として、アンピシリン100ppmを含むLB培地25ml中、180rpm、20℃で30時間誘導を行なわずに培養した。培養物を遠心分離し、100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)中にペレットを再懸濁させた。光学密度をOD600=10に調整したプラスミドpD10#Aで形質転換したものを除き、全ての形質転換細胞について光学密度をOD600=20に調整した。触媒活性を以下のように測定した。脂肪酸源としての亜麻仁油加水分解物と13−リポキシゲナーゼ源としての粉砕大豆を用いてあらかじめ生成しておいた脂肪酸ヒドロペルオキシド(基質13−HPOT約75%を含む)84.3g kg-1を含有する溶液900μlに、細胞懸濁液(それぞれOD600=20、OD600=10)100μl(10%v/v)を添加した。反応を室温で5分間実施した。反応物100μlの一定分量を2〜3mgの還元剤NaBH4を含有する水900μlで希釈し、10分間攪拌した。還元された反応混合物を1容量の酢酸エチルで抽出し、3−(Z)−ヘキセン−1−オールの存在をガスクロマトグラフィーにより検定した。脂肪酸ヒドロペルオキシドの消費は、HPLCで追跡した。モル収率は、反応時に得られた3−(Z)−ヘキセン−1−オールの量と、反応中に存在する13−HPOTの量から理論上得ることができる3−(Z)−ヘキセン−1−オールの量との比率として表わす。
【0139】
本実験の結果は第3表に記載するが、これは組換え野生型酵素(pWT)と比較して修飾されたリアーゼの改良された酵素活性を示している。
【0140】
第3表:修飾ヒドロペルオキシドリアーゼの活性
NaBH4を還元剤として使用した。
【0141】
【表3】

*データなし
【0142】
実験3
第1表のプラスミドpB7#A、pAC#5、pC2#A、pE8#B、pGC#7、pD10#A、およびpWTで形質転換したE.coli MC1061細胞を振盪フラスコ培養物として、アンピシリン100ppmを含むLB培地100ml中、180rpm、20℃で30時間誘導を行なわずに培養した。培養物を遠心分離し、100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)中にペレットを再懸濁させ、光学密度をOD600=10に調整した。触媒活性を以下のように測定した。乾燥パン酵母500mgを100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)800μlに添加し、30秒間攪拌した。脂肪酸源としての亜麻仁油加水分解物と13−リポキシゲナーゼ源としての粉砕大豆を用いてあらかじめ生成しておいた脂肪酸ヒドロペルオキシド(基質13−HPOT約75%を含む)83g kg-1を含有する溶液3.7mlを添加した。次に、目的のプラスミドを含むE.coliの組換え細胞(OD600=10)500μl(10%v/v)を攪拌下で迅速に添加した。反応を室温で1時間維持した。反応物100μlの一定分量を水900μlで希釈し、酢酸エチル1mlで抽出し、3−(Z)−ヘキセン−1−オールの存在をガスクロマトグラフィーにより検定した。
【0143】
本実験の結果は第4表に記載するが、これは組換え野生型酵素(pWT)と比較して、本発明の修飾リアーゼの改良された酵素活性を示している。
【0144】
第4表:修飾ヒドロペルオキシドリアーゼの活性
パン酵母が還元剤の機能を果たした。
【0145】
【表4】

【0146】
実験4
第1表のプラスミドpGC#7、p9D#3、pD10#A、およびpWTを含むE.coli MC1061細胞を振盪フラスコ培養物として、アンピシリン100ppmを含むLB培地25ml中、180rpm、20℃で30時間誘導を行なわずに培養した。培養物を遠心分離し、100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)中にペレットを再懸濁させた。OD600=20〜OD600=250の範囲のさまざまな光学密度を有する細胞懸濁液を調製した。触媒活性を以下のように測定した。脂肪酸源としての亜麻仁油加水分解物と13−リポキシゲナーゼ源としての粉砕大豆を用いてあらかじめ生成しておいた脂肪酸ヒドロペルオキシド84.3g kg-1を含有する溶液900μlに、細胞懸濁液(OD600=20〜OD600=250)100μl(10%v/v)を加えた。反応を室温で5分間実施した。反応物10μlの一定分量をエタノール990μl中に希釈し、13HPOTの消費をHPLC分析により検定した。本実験の結果は図2に示す。本実験は、本発明の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、基質13−ヒドロペルオキシ−オクタデカトリエン酸の100%変換をもたらし、一方グアバ由来の野生型13−ヒドロペルオキシドリアーゼは、OD600=25であっても、13−ヒドロペルオキシ−オクタデカトリエン酸の約30%しか変換しないことを確認した。
【0147】
実施例4
修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼGC#7の性能
実験1
実験室規模の攪拌反応器で、細胞E.coli MC1061:pGC#7をアンピシリン100ppmを含有するLB培地2リットル中、20℃で30時間成長させた。培養物を空気により1vvmで通気した。遠心分離により細胞を収集し、100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)中に再懸濁させて、光学密度OD600=68とした。脂肪酸源としての亜麻仁油加水分解物と13−リポキシゲナーゼ源としての粉砕大豆を用いて、脂肪酸ヒドロペルオキシドを生成した。172mlの組換えE.coli細胞MC1061:pGC#7(OD600=68)をHPOT/D87g kg-1を含有する脂肪酸ヒドロペルオキシド溶液1544gに、攪拌下、室温で添加した。反応は、還元剤NaBH4を36%含有する水溶液50mlを添加して5分後に停止した。続いて、減圧下での蒸留によって3−(Z)−ヘキセン−1−オールを単離して、3−(Z)−ヘキセン−1−オール8.7グラムを得た。
【0148】
実験2
アンピシリン100ppmを含有する無機塩培地を用いて、細胞E.coli MC1061:pGC#7を30℃で成長させた。pHをpH7に維持し、培養物を空気により1vvmで通気した。OD600=4で0.5mMのIPTGを添加することにより、遺伝子発現を誘導した。24時間後、光学密度OD600=9を達成した。遠心分離により細胞を収集し、100mMのリン酸緩衝液(pH7.6)中に再懸濁させて、光学密度OD600=10とした。脂肪酸源としての亜麻仁油加水分解物と13−リポキシゲナーゼ源としての粉砕大豆を用いてあらかじめ生成しておいた脂肪酸ヒドロペルオキシド83g kg-1を含有する溶液900μlに、この細胞懸濁液100μl(10%v/v)を添加した。反応を室温で5分間実施した。反応混合物100μlの一定分量を2〜3mgの還元剤NaBH4を含有する水900μlで希釈した。還元された反応混合物を1容量の酢酸エチルで抽出し、揮発性C6アルコールをガスクロマトグラフィーにより検定した。上記の反応において、組換えMC1061:pGC7によって、濃度9.5g l-1の3−(Z)−ヘキセン−1−オールが生成されたと推定される。
【0149】
図面の簡単な説明
図1 配列番号1による野生型アミノ酸配列とともに、GC7、E8B、B7A、C2A、AC5、Dl0A、4E10、および9D3に指定されるさまざまな修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼのアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。アミノ酸の挿入および置換は、太字で示している。配列番号2、4、6、8、10、12、14、および16に示される変異体GC7、E8B、B7A、C2A、AC5、Dl0A、4E10、および9D3の最初の9個のアミノ酸は、配列番号1ではなく9−ヒドロペルオキシドリアーゼに由来するため、アラインメントには示さない。
【0150】
図2 それぞれ変異型または野生型13−ヒドロペルオキシドリアーゼを発現するE.coliクローンのさまざまな細胞密度での13−HPOTの消費を示す図である。pGC#7は丸、p9D#3は三角、pD10#Aは四角、pWTは菱形で示す。
【図1−1】

【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると1〜40個のアミノ酸改変を有し、前記配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列の3、4、5、19、208、340、342、352、354、358、359、360、371、372、375、377、382、383、387、388、389、392、393、394、395、399、および457位からなる群から選択された位置に少なくとも1つのアミノ酸改変を含むアミノ酸配列を含む修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドであって、前記配列番号1による野生型タンパク質と比較して高められた酵素活性を有する、修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項2】
V3L、R4K、T5P、S19L、N208H、F340L、Y342F、K352R、K352S、H354Y、F358Y、D359E、V360I、K371P、V372L、T375R、P377S、E382D、P383A、N387K、S388A、D389E、V392M、Q393G、N394E、D399S、D399N、およびN457Kからなる群から選択された1つ以上の置換を含む、請求項1に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項3】
前記配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、少なくとも以下の置換:V3L、R4K、T5P、およびN208Hを含む、請求項2に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項4】
アミノ酸置換V360IおよびD399Nをさらに含む、請求項3に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項5】
置換K371P、V372L、T375R、P377S、E382D、P383A、N387K、S388A、D389E、V392M、Q393G、N394E、およびD399Sをさらに含む、請求項3に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項6】
前記配列番号1による野生型タンパク質のアミノ酸配列の394位と395位との間にアミノ酸KおよびGの挿入をさらに含む、請求項5に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項7】
置換S19L、F340L、V360I、およびN457Kをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項8】
置換F340LおよびN457Kをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項9】
置換S19L、F340L、Y342F、K352R、F358Y、V360I、およびN457Kをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項10】
置換F340L、Y342F、F358Y、D359E、およびV360Iをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項11】
置換S19L、F358Y、V360I、およびN457Kをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項12】
アミノ酸置換V360Iをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項13】
置換S19L、F340L、Y342F、K352S、H354Y、F358Y、V360I、およびN457Kをさらに含む、請求項6に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項14】
そのN末端にアミノ酸配列ATPSSSSPEをさらに含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項15】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、または16からなる群から選択されたアミノ酸配列を有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼ。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子。
【請求項17】
前記ヌクレオチド配列は、配列番号3、5、7、9、11、13、15、または17からなる群から選択される、請求項16に記載の核酸分子。
【請求項18】
請求項16または17に記載のヌクレオチド配列を含む、組換え核酸分子。
【請求項19】
請求項18に記載の組換え核酸分子を含む、トランスジェニック細胞。
【請求項20】
E.coli細胞である、請求項19に記載のトランスジェニック細胞。
【請求項21】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼポリペプチドを製造するための方法であって、
a)前記ポリペプチドの発現を可能にする条件下で、請求項19または20に記載のトランスジェニック細胞1つ以上を培養するステップと、場合によっては、
b)前記ポリペプチドを回収するステップと、
を含む方法。
【請求項22】
多価不飽和脂肪酸の13−ヒドロペルオキシドをアルデヒドとオキソカルボン酸とに切断するための、請求項1から15までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼの使用。
【請求項23】
a)請求項1から15までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼを提供するステップと、
b)多価不飽和脂肪酸、好ましくはリノール酸またはアルファリノレン酸の13−ヒドロペルオキシドを、請求項1から15までのいずれか1項に記載の修飾13−ヒドロペルオキシドリアーゼと接触させるステップと、
c)生成されたアルデヒドを回収するステップと、
を含む、アルデヒドを生成するための方法。
【請求項24】
13−リポキシゲナーゼの活性によって、前記13−ヒドロペルオキシドを生成するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記アルデヒドを相当するアルコールに還元するステップと、場合によっては、前記アルコールを回収するステップとをさらに含む、請求項23または24に記載の方法。

【図2】
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【公表番号】特表2011−502469(P2011−502469A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514210(P2010−514210)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/IB2008/052539
【国際公開番号】WO2009/001304
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】