説明

個体識別装置、個体識別方法、及びプログラム

【課題】 印刷に現れる特徴に基づいて個々の物品を識別することが可能な個体識別装置、個体識別方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】 個体識別装置1は、基準物品2の印刷部から読み取った画像(基準画像データ21)及び識別対象とする物品3の印刷部から読み取った画像(対象物画像データ31)を色分解し、各色の色分布データ2R,2G,2B(3R,3G,3B)から色毎の相関値を求める。対象物画像データの読取範囲Bは基準画像データの読取範囲Aより広い範囲とし、読み取った範囲Bから基準画像データと同一形状及び同一面積の領域33を切出し、切出し位置を順次移動させながら各切出し領域について各色の色分布データの相関値を求める。そして、相関値が最大となる切出し位置のばらつきが各色で所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は同一個体と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々の物品に付与された印刷部から特徴を抽出し、物品を個体識別する個体識別装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工業製品や商品パッケージ等には製造番号が付与され、製造管理や物流管理に利用されている。製造番号は物品の所定位置に文字或いはバーコード等の符号として印字される。また、証明書等の公的証書や商品券等の有価証券に対し、偽造防止や真正性認証を目的としてシリアルナンバーが印字されている。しかし、製造管理や物流管理を目的として個体識別のための製造番号を付与する場合は、明確に視認或いは機械識別を行うことを目的としているため、明示的に印字されることが多く、特にバーコードや2次元コードの形式で付与される場合は本来の製品等の意匠性を損なうことがあった。また、偽造防止を目的とした場合、文字やバーコード等の印字は容易に偽造・変造される恐れがあり、その効果は不十分であった。
【0003】
また近年では、個体識別の手段として、ICタグを用いて個別IDを付与する方法が提案されている。ICタグは書換え困難かつユニークなIDを各々付与することができ、非接触で読取可能なことから製品等の基材裏面、もしくは内部にICタグを設けることにより個体識別が可能となる。しかし、ICタグは単価が高く普及しにくいという問題があった。
【0004】
これらの問題に対し、例えば特許文献1では、真の個体の表面のランダムな特徴と判定対象の個体の表面の特徴とを、比較対象とする領域を移動しながら比較照合を繰り返すことにより、真偽を判定する方法について提案されている。この例では、特徴量として紙の透明度(紙を形成する繊維質材料の絡み具合等に起因する明暗パターン)をスキャナ等で読み取って比較するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4103826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1の手法では、個体表面がランダムな特徴を有する場合に適用可能なものであり、個体表面の特徴が少ないものには適用できなかった。また、真偽判定の精度を向上するためには原本の紙質を特殊なものとしたり、表面に特殊な加工を施したりする必要があるため製造コスト増大につながる恐れがあった。そこで、物品に容易に付与でき、かつ普及した技術を利用しつつも、高い精度で個体識別や真偽判定を行えるようにすることが望まれている。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、印刷に現れる特徴に基づいて個々の物品を識別することが可能な個体識別装置、個体識別方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するため第1の発明は、基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶する記憶手段と、識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い範囲を読み取った対象物画像データを、前記基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出する対象物色分布データ算出手段と、各色の対象物色分布データから前記基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を切出し、切出した領域について前記対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に算出する算出手段と、前記領域の切出し位置を順次移動させながら前記相関値の算出を繰り返す繰返手段と、前記算出手段及び繰返手段により算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定する判定手段と、を備えることを特徴とする個体識別装置である。

【0009】
また、第2の発明は、基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶するステップと、識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い範囲を読み取った対象物画像データを、前記基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出するステップと、各色の対象物色分布データから前記基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を切出し、切出した領域について前記対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に算出するステップと、前記領域の切出し位置を順次移動させながら前記相関値の算出を繰り返すステップと、算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定するステップと、を含むことを特徴とする個体識別方法である。
【0010】
第1及び第2の発明によれば、まず、基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶する。次に、識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い読取範囲を読み取った対象物画像データを、基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出する。そして、各色の対象物色分布データから基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を、切出し位置を順次移動させながら切出し、切出した各領域について対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に繰り返し算出する。そして、算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定する。
【0011】
これにより、印刷に現れる特徴に基づいて個々の物品を識別することが可能となる。したがって、印刷の仕上がり状態の違いから個々の物品を識別でき、真偽判定に利用できる。また、個体識別用の特別な形式のコード等を物品の本来のデザインとは別に印刷する必要はなく、本来のデザインそのものの印刷状態に基づいて個体識別できるため、物品の意匠性を損なわない。また、識別用のタグ等を付加する必要もないためコストがかからない。
【0012】
特に、基準色分布データと対象物色分布データとの相関値は、真の物品の場合と偽の物品の場合とで差が小さいが、相関値が最大となる位置は真の物品の場合と偽の物品の場合とで極端に差が出るため、本発明のように、これを利用した個体識別装置(方法)を用いれば、相関値から真偽を判定(個体識別)する場合と比較して真偽判定の精度が高いといえる。
【0013】
また、絵柄によっては真の物品であっても基準物品との相関値が小さくなることがあり、相関値を比較する場合は閾値の決定が難しくなる。このため、絵柄毎に閾値を決定する必要が生じてしまう。これに対して、本発明で採用する相関値が最大となる位置のばらつきの閾値は、絵柄毎に決める必要がない。これは、上述のように相関値が最大となる位置は真の物品の場合と偽の物品の場合とで極端に差が出るからである。つまり、本発明の個体識別装置によれば、絵柄毎に閾値を微調整する必要がなく、安定的に精度よく真偽を判定することが可能となる。
【0014】
また、第1の発明において、前記印刷部にはランダム性を有する柄が印刷されていることが望ましい。
すなわち、本発明に係る個体識別装置及び個体識別方法は、ランダム性を有する柄に対して行う場合に特に高い精度で判定結果を得ることができる。
【0015】
第3の発明は、コンピュータにより読み取り可能な形式で記述されたプログラムであって、基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶するステップと、識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い範囲を読み取った対象物画像データを、前記基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出するステップと、各色の対象物色分布データから前記基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を切出し、切出した領域について前記対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に算出するステップと、前記領域の切出し位置を順次移動させながら前記相関値の算出を繰り返すステップと、算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定するステップと、を含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0016】
第3の発明により、コンピュータを第1の発明の個体識別装置として機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、印刷に現れる特徴に基づいて個々の物品を識別することが可能な個体識別装置、個体識別方法、及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】個体識別装置1のハードウエア構成図
【図2】個体識別処理の手順を説明するフローチャート
【図3】基準物品2の印刷部を読み取った基準画像データ21と、各色の基準色分布データ2R,2G,2Bの例
【図4】識別対象とする物品3の印刷部を読み取った対象物画像データ31と、各色の対象物色分布データ3R,3G,3Bの例
【図5】対象物画像データからの比較領域の切出しを説明する図
【図6】各切出し位置における相関値の一例
【図7】各色についての相関値の最大値とその切出し位置の一例
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係る個体識別装置1の構成について説明する。
図1は、個体識別装置1のハードウエア構成を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、個体識別装置1は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14、メディア入出力部15、通信I/F部16、周辺機器I/F部17等がバス19を介して接続されて構成される。また、周辺機器I/F部17には画像読取装置18が接続されている。
【0022】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Accsess Memory)等により構成される。
CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス18を介して接続された各部を駆動制御する。ROMは、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部11が後述する個体識別処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0023】
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部11が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。例えば、記憶部12には個体識別処理プログラムが格納されており、この個体識別処理プログラムが制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。
【0024】
入力部13は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タブレット等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置であり、入力されたデータを制御部11へ出力する。
【0025】
表示部14は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部11の制御により入力された表示情報をディスプレイ装置上に表示させる。
なお、入力部13と表示部14が一体的に構成されたタッチパネル式の入出力部としてもよい。
【0026】
メディア入出力部15は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、PDドライブ、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ等のメディア入出力装置であり、データの入出力を行う。
通信I/F16は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークとの通信を媒介する通信インタフェースであり、通信制御を行う。
【0027】
周辺機器I/F(インタフェース)17は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F17を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F17は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0028】
画像読取装置18は、スキャナ、CCDカメラ等であり、画像を光学的に読取り、画像データとして取得する装置である。画像読取装置18は、周辺機器I/F17を介して個体識別装置1に接続される。或いは、画像読取装置18は、通信I/F16を介して個体識別装置1と通信接続される構成としてもよい。画像読取装置18は読み取った画像データを制御部11へ出力する。制御部11は取得した画像データをRAMまたは記憶部12の所定のメモリ領域に記憶する。
バス19は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0029】
次に、図2〜図7を参照して、個体識別装置1の実行する個体識別処理について説明する。
図2は個体識別処理の流れを説明するフローチャート、図3は基準物品2の印刷部を読み取った基準画像データ21と、各色の基準色分布データ2R,2G,2Bの例、図4は識別対象とする物品3の印刷部を読み取った対象物画像データ31と、各色の対象物色分布データ3R,3G,3Bの例、図5は対象物画像データからの比較領域の切出しを説明する図、図6は各切出し位置における相関値の一例、図7は各色についての相関値の最大値とその切出し位置の一例である。
【0030】
図2に示すように、個体識別装置1の制御部11は、個体識別処理として、まず事前処理(ステップS101〜ステップS103)を行う。事前処理では、図3に示すように、まず画像読取装置18を用いて基準物品2(真の物品)に付与された印刷部を光学的に読み取る(ステップS101)。読み取り対象とする範囲(読取範囲A)は、印刷部の一部とする。制御部11は、画像読取装置18によって読み取った画像データを基準画像データ21としてRAMに保持する。
【0031】
次に、制御部11は、読み取った基準画像データ21をR,G,Bの3原色に色分解する(図2のステップS102)。そして、各色分布データを基準色分布データ2R,2G,2Bとして記憶部12に記憶する。
【0032】
以上の処理により基準物品から基準色分布データ2R、2G,2Bを取得すると、次に、制御部11は、本処理(ステップS104〜ステップS112)へ移行する。
【0033】
本処理において個体識別装置1は、図4に示すように、対象物品3に付与された印刷部を読み取る(ステップS104)。ここで、対象物品3の読取範囲Bは、基準物品2の読取範囲Aより広い範囲とする。また読取範囲Bに読取範囲Aの少なくとも一部を含むものとする。
【0034】
次に、制御部11は、読み取った対象物画像データ31をR,G,Bの3原色に色分解する(ステップS105)。そして、各色分布データを対象物色分布データ3R,3G,3BとしてRAMに保持する。
【0035】
次に、制御部11は、各対象物色分布データ3R,3G,3Bについて、任意の始点(例えば、読取範囲Bの左上)を切出し位置に設定し(ステップS106)、対象物画像データ31の読取範囲Bから基準画像データの読取範囲Aと同じ形状、同じ面積の範囲を比較領域33として切り出す(ステップS107)。
【0036】
図5に示すように、対象物画像データ31のうち読取範囲Aと同じ形状、同じ面積の範囲(比較領域33)が切出される。
具体的には、例えば、「512画素×512画素」の読取範囲Bから「64画素×64画素」(実画像に対して1/8の大きさ)の比較領域33を切出す。1画素の大きさは、スキャナの読取り精度に依存する。
なお、比較領域33(すなわち、基準画像の読取範囲A)をどの程度の大きさに設定するかは、識別精度と計算速度とのトレードオフによって決まる。つまり、比較領域33の大きさを大きくする(画素数を増やす)と、識別精度は上がるが計算速度は遅くなる。一方、比較領域33の大きさを小さくする(画素数を減らす)と、精度は下がるが計算速度は速くなる。
また、比較領域33の形状(すなわち、読取範囲Aの形状)は、正方形に限らず、長方形等でもよい。
【0037】
制御部11は、比較領域33について色毎に基準色分布データ2R,2G,2Bと対象物色分布データ3R,3G,3Bとの相関値を算出し、RAMに保持する(ステップS108)。
【0038】
相関値は、例えば、正規化相互相関(NCC;Normalized Cross−Correlation、またはZNCC;Zero−mean Normalized Cross−Correlation)等を求めればよい。具体的には、以下の式(1)の類似度RNCC、式(2)の類似度RZNCC等を相関値として求めればよい。
【0039】
【数1】

【0040】
【数2】

【0041】
ここで、T(i,j)は、基準画像の輝度値の値、I(i,j)は、識別対象とする画像の輝度値の値であり、座標の(i,j)は基準画像の読取範囲Aをm画素×n画素としたとき、左上(もしくは左下)座標は(0,0)、右下(もしくは右上)座標は(m−1,n−1)である。Tバー、Iバーはそれぞれ基準画像の平均輝度値、識別対象とする画像の平均輝度値である。
【0042】
制御部11は、対象物画像データ31の読取範囲B内のすべての切出し位置での比較領域33についてR,G,Bの各相関値を算出したか否かを判定し、未算出の比較領域がある場合は(ステップS109;No)、切出し位置を所定量ずらして比較領域33を再設定し、再設定した比較領域33についてR,G,Bの各相関値算出を行う(ステップS106〜ステップS108)。切出し位置は、例えば、x座標及びy座標をそれぞれ1画素ずつずらしながら順に移動させるようにすればよい。
【0043】
各切出し位置での相関値の一例を図6に示す。
図6に示すように、切出し位置(左上座標)が(0,0)のとき、Rの色分布データの相関値は0.4、Gの色分布データの相関値は0.3、Bの色分布データの相関値は0.5となる。また、別の切出し位置(0,1)では、Rの色分布データの相関値は0.2、Gの色分布データの相関値は0.3、Bの色分布データの相関値は0.2となる。
【0044】
ステップS106〜ステップS108を繰り返し、読取範囲B内の全ての切出し位置での比較領域33について相関値の算出が終了すると(ステップS109;Yes)、制御部11は、相関値が最大となる切出し位置を各色について求める。そして、相関値が最大となる切出し位置のばらつき(各切出し位置の間の距離)が許容範囲内に収まるか否かを判定する。
【0045】
例えば、各色の相関値が最大となる切出し位置(例えば、切出し範囲の左上座標)をそれぞれ(X,Y)、(X,Y)、(X,Y)とすると、これらの各座標が所定の閾値範囲内に収まるか否かを確認する。閾値は、例えば5画素以内のように定める。
より具体的には、(X,Y)と(X,Y)との距離DRG、(X,Y)と(X,Y)との距離DGB、(X,Y)と(X,Y)との距離DBRを算出し、これらの距離DRG、DGB、DBRが全て閾値以内かどうか確認する。全て閾値以内であれば、相関値が最大となる切出し位置のばらつきが許容範囲内(閾値以内)に収まると判断する。
【0046】
相関値が最大となる切出し位置のばらつきが許容範囲内に収まる場合は(ステップS110;Yes)、基準物品と対象物品とが同一個体であると判定する(ステップS111)。一方、相関値が最大となる切出し位置のばらつきが許容範囲内に収まらない場合は(ステップS110;No)、基準物品と対象物品とが異なる個体であると判定する(ステップS111)。
【0047】
図7に示すように、相関値が最大となる切出し位置が、(X,Y)=(100,102)、(X,Y)=(99,101)、(X,Y)=(100,101)のように求められた場合、すべての座標が許容範囲内に収まるため、基準物品2と対象物品3とは同一個体と判定される。
【0048】
以上説明したように、本発明の個体識別装置では、事前処理として、まず、基準物品2に付与された印刷部のうち任意の読取範囲Aを光学的に読み取った基準画像データ21を色分解し、各色の分布データ21R,21G,21Bを基準色分布データとして記憶する。次に本処理として、識別対象とする物品3に付与された印刷部のうち上述の基準画像データの読取範囲Aより広い読取範囲Bを読み取った対象物画像データ31を、基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データ31R,31G,31Bを対象物色分布データとして算出する。そして、各色の対象物色分布データ31R,31G,31Bから基準画像データ21の読取範囲Aと同一形状かつ同一面積となる領域(比較領域33)を切出し位置を順次移動させながら切出し、切出した各比較領域33について対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に繰り返し算出する。そして、算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定する。
【0049】
基準色分布データと対象物色分布データとの相関値は、真の物品の場合と偽の物品の場合とで差が小さい。しかし、本発明のように相関値が最大となる位置は真の物品の場合と偽の物品の場合とで極端に差が出る。したがって、本発明の個体識別方法を用いれば、相関値から真偽を判定(個体識別)する場合と比較して真偽判定の精度が高いといえる。
【0050】
また、絵柄によっては真の物品であっても基準物品との相関値が小さくなることがあり、相関値を比較する場合は閾値の決定が難しくなる。このため、絵柄毎に閾値を決定する必要が生じてしまう。これに対して、本発明で採用する相関値が最大となる位置のばらつきの閾値は、絵柄毎に決める必要がない。これは、上述のように相関値が最大となる位置は真の物品の場合と偽の物品の場合とで極端に差が出るからである。つまり、本発明の個体識別装置によれば、絵柄毎に閾値を微調整する必要がなく、安定的に精度よく真偽を判定することが可能となる。
【0051】
なお、上述の実施の形態は、ランダム性のある模様(絵柄)について行うと有効な結果を得られることが分かった。例えば、ただし、本発明は上述のランダム性のある柄に限定せず、文字のように輪郭線が明確な柄や、内部が塗りつぶされた柄にも適用できる。
また、本発明は、印刷物の他、塗装や刻印等で付与した柄に対しても適用できる。
【0052】
その他、当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0053】
1・・・・・・・・・・個体識別装置
11・・・・・・・・・制御部
12・・・・・・・・・記憶部
18・・・・・・・・・画像読取装置
2・・・・・・・・・・基準物品
21・・・・・・・・・基準画像データ
2R,2G,2B・・・基準色分布データ
3・・・・・・・・・・対象物品
31・・・・・・・・・対象物画像データ
33・・・・・・・・・比較領域(基準画像と同一形状、同一面積に切出した領域)
3R,3G,3B・・・対象物色分布データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶する記憶手段と、
識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い範囲を読み取った対象物画像データを、前記基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出する対象物色分布データ算出手段と、
各色の対象物色分布データから前記基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を切出し、切出した領域について前記対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に算出する算出手段と、
前記領域の切出し位置を順次移動させながら前記相関値の算出を繰り返す繰返手段と、
前記算出手段及び繰返手段により算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする個体識別装置。
【請求項2】
前記印刷部にはランダム性を有する模様が印刷され、
前記読取範囲には前記模様が含まれることを特徴とする請求項1に記載の個体識別装置。
【請求項3】
基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶するステップと、
識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い範囲を読み取った対象物画像データを、前記基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出するステップと、
各色の対象物色分布データから前記基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を切出し、切出した領域について前記対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に算出するステップと、
前記領域の切出し位置を順次移動させながら前記相関値の算出を繰り返すステップと、
算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定するステップと、
を含むことを特徴とする個体識別方法。
【請求項4】
コンピュータにより読み取り可能な形式で記述されたプログラムであって、
基準物品に付与された印刷部のうち任意の読取範囲を光学的に読み取った基準画像データを色分解し、各色の分布データを基準色分布データとして記憶するステップと、
識別対象とする物品に付与された印刷部のうち前記基準画像データの読取範囲より広い範囲を読み取った対象物画像データを、前記基準画像データに対する色分解手法と同一の手法で色分解し、各色の分布データを対象物色分布データとして算出するステップと、
各色の対象物色分布データから前記基準画像データの読取範囲と同一形状かつ同一面積となる領域を切出し、切出した領域について前記対象物色分布データと前記基準色分布データとの相関値を色毎に算出するステップと、
前記領域の切出し位置を順次移動させながら前記相関値の算出を繰り返すステップと、
算出された各色の相関値が最大となる切出し位置のばらつきが所定許容範囲内に収まるか否かを判定し、収まる場合は前記識別対象とする物品と前記基準物品とが同一個体であると判定するステップと、
を含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−194601(P2012−194601A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55873(P2011−55873)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】