説明

偏光変換素子および投射型表示装置

【課題】偏光状態で入射する光を特定の偏光状態の光で出射させ、簡易的な構造を有する偏光変換素子を提供する。
【解決手段】反射層13と、第1の偏光分離膜12aと、第2の偏光分離膜12bと、第1の偏光分離膜12aと第2の偏光分離膜12bとの間に、各々の偏光分離膜の領域の一部に波長板を有し、これらを、透明基板で挟持する偏光変換素子10を構成する。偏光変換素子10に入射する光は、第1の偏光分離膜12aで反射し、波長板14および第2の偏光分離膜12bを透過した光の偏光状態と、第1の偏光分離膜12aを透過し、反射膜13を反射し、第1の偏光分離膜12aおよび第2の偏光分離膜12bを透過した光の偏光状態と、を所望の偏光状態に揃って出射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光変換素子およびそれを用いた投射型表示装置に係り、光源から発射された光を一方向に揃った偏光状態の光に変換する偏光変換素子および、該偏光変換素子と、とくに液晶を用いた画像表示用素子に表示された画像を投射光学系によってスクリーン等に投影する投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
データプロジェクタあるいは背面投射型テレビジョン受像機のように、スクリーンに投影画像を表示する投射型表示装置において、画像表示素子として反射型液晶素子(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)を用いるものが注目されている。反射型液晶素子を用いる投射型表示装置は、透過型の液晶素子とは異なり、光を反射させる側に、液晶を駆動するためのトランジスタ等の構造体を形成することができるので、画素密度を高くすることができる。これにより、高い解像度、高い開口率、さらに、高いコントラスト比が得られるという特徴を有する。
【0003】
図8は、反射型液晶素子を用いた従来の投射型表示装置100の一例を示す模式図である。投射型表示装置100は、光源101と、集光レンズ102、偏光変換素子103、偏光ビームスプリッタ104、反射型液晶素子105および投影レンズ106を有する。投射型表示装置100は、光源101からの光を、集光レンズ102で集光し、偏光変換素子103によって所定の直線偏光の光に変換し、そして偏光ビームスプリッタ104によって、高い反射率で反射させ、反射型液晶素子105に光を照射する。反射型液晶素子105で反射した光情報によって画像が生成され、反射した光が偏光ビームスプリッタ104を透過して投影レンズ106によってスクリーン107等に画像が映し出される。なお、偏光変換素子103は、光源101と集光レンズ102との間の光路中に配置されるものであっても同様の機能を有する。
【0004】
ここで、偏光変換素子103としては、複数の透光性部材と、透光性部材間に交互に配置された複数の偏光分離膜、反射膜を有し、さらに透光性部材の光出射側には、透光性部材一つおきに1/2波長板を有する構成のものが報告されている(例えば、特許文献1)。これにより、1/2波長板を有さない透光性部材を出射する直線偏光の光と、1/2波長板を出射する直線偏光の光は、いずれも同じ方向の直線偏光の光として出射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−215613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の投射型表示装置に用いられる偏光変換素子は、1/2波長板が交互にアレイ状に配置される複雑な構造であって、作製には高い精度が要求される。また、特定の直線偏光の光を反射型液晶素子で反射させるとともに、反射型液晶素子で反射した光を投影レンズに入射させるために偏光ビームスプリッタを用いるため、投射型表示装置が大型化してしまう、という問題があった。とくに、小型、薄型のモバイル型プロジェクタの開発が進められているが、このような構成では、装置の小型化の実現には、障害となっていた。
【0007】
本発明は、従来技術のかかる問題を解決するためになされたものであり、ランダムな偏光状態で入射する光に対して、特定の偏光方向の光に揃えて出射するとともに、簡易的な構造でかつ、小型化が実現できる偏光変換素子を提供することを目的とする。さらに、この偏光変換素子を用いた投射型表示装置の小型化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入射する光を反射する反射層と、入射する光のうち互いに直交する第1の偏光と第2の偏光のうち、一方を直進透過させるとともに他方を反射する第1の偏光分離膜と第2の偏光分離膜と、がそれぞれ透明基板を介して、この順番に備えられ、さらに、前記第1の偏光分離膜と前記第2の偏光分離膜との間に、前記第2の偏光分離膜の一部の領域に重なるように、波長板が備えられ、前記波長板は、入射する光の偏光方向に対して透過する光の偏光方向が直交する機能を有する偏光変換素子を提供する。
【0009】
また、前記波長板は、光学軸が厚さ方向に略90°ツイストした旋光子の構成を有する上記の偏光変換素子を提供する。
【0010】
また、前記反射層、前記第1の偏光分離膜、前記第1の偏光分離膜、および前記波長板は、いずれも平行に配置される上記の偏光変換素子を提供する。
【0011】
また、少なくとも可視光領域を含む光を発射する光源と、反射した光に画像情報を与える反射型液晶素子と、画像情報を有する光を投射する投影レンズと、を有する投射型表示装置であって、前記光源と前記反射型液晶素子との間の光路中に、前記光源から発射した光が、上記の偏光変換素子の前記第1の偏光分離膜の面に対して斜め方向に入射するように配置される投射型表示装置を提供する。
【0012】
また、入射する光を反射する反射層と、入射する光のうち互いに直交する第1の偏光と第2の偏光のうち、一方を直進透過させるとともに他方を反射する第1の偏光分離膜、第2の偏光分離膜、第3の偏光分離膜および第4の偏光分離膜と、特定の波長帯域を有する波長λの光を透過するとともに、特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ)の光を反射する第1の波長選択性反射膜と、前記波長λの光および前記波長λの光を透過するとともに、特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ≠λ)の光を反射する第1の波長選択性反射膜と、を有し、前記反射膜、前記第1の偏光分離膜、前記第1の波長選択性反射膜、前記第2の偏光分離膜、前記第2の波長選択性反射膜、前記第3の偏光分離膜、前記第4の偏光分離膜、がそれぞれ透明基板を介して、この順番に備えられ、さらに、前記第3の偏光分離膜と前記第4の偏光分離膜との間に、前記第4の偏光分離膜の一部の領域に重なるように、波長板が備えられ、前記波長板は、入射する光の偏光方向に対して透過する光の偏光方向が直交する機能を有する偏光変換素子を提供する。
【0013】
また、前記波長板は、光学軸が厚さ方向に略90°ツイストした旋光子の構成を有する上記の偏光変換素子を提供する。
【0014】
また、前記反射層、前記第1の偏光分離膜、前記第2の偏光分離膜、前記第3の偏光分離膜、前記第4の偏光分離膜、前記第1の波長選択性反射膜、前記第1の波長選択性反射膜、および前記波長板は、いずれも平行に配置される上記の偏光変換素子を提供する。
【0015】
また、特定の波長帯域を有する波長λの光を発射する第1の光源と、特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ)の光を発射する第2の光源と、特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ≠λ)の光を発射する第3の光源と、反射した光に画像情報を与える反射型液晶素子と、画像情報を有する光を投射する投影レンズと、を有する投射型表示装置であって、前記第1の光源と前記反射型液晶素子との間の光路中に、前記第1の光源から発射した波長λの光、前記第2の光源から発射した波長λの光および前記第3の光源から発射した波長λの光が、上記に記載の偏光変換素子の、前記第1の偏光分離膜の面、前記第2の偏光分離膜の面、前記第3の偏光分離膜の面に対してそれぞれ、斜め方向に入射するように配置される投射型表示装置を提供する。
【0016】
さらに、前記波長λ、前記波長λおよび前記波長λは、420〜480nmである450nm波長帯、520〜560nmである533nm波長帯、610〜670nmである645nm波長帯の組み合わせからなる上記の投射型表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ランダムな偏光状態で入射する光に対して、特定の偏光方向の光に揃えて出射する偏光変換素子を、簡易的な構造とし、さらに、この偏光変換素子を用いることによって小型化が実現できる効果を有する投射型表示装置を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る偏光変換素子の構成概念図。
【図2】第1の実施形態に係る偏光変換素子を用いた投射型表示装置の構成概念図。
【図3】第2の実施形態に係る偏光変換素子の構成概念図。
【図4】第2の実施形態に係る偏光変換素子を用いた投射型表示装置の構成概念図。
【図5】(a)実施例の偏光変換素子を構成する旋光機能を有する波長板と、波長板に入射する光の様子を示す模式図。(b)実施例の偏光変換素子を構成する偏光分離膜と、偏光分離膜に入射する光の様子を示す模式図。
【図6】実施例の偏光変換素子を構成する波長板における偏光透過率の波長依存性を示すグラフ。
【図7】(a)実施例の偏光変換素子を構成する波長選択性反射膜の反射率/透過率の波長依存性を示すグラフ(S偏光の光)。(b)実施例の偏光変換素子を構成する波長選択性反射膜の反射率/透過率の波長依存性を示すグラフ(P偏光の光)。
【図8】従来の投射型表示装置の構成概念図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1に本実施形態に係る偏光変換素子10の構成概念図を示す。偏光変換素子10は、透明基板11a、11b、11c、11dを有し、透明基板11aと透明基板11bとの間に第1の偏光分離膜12aを有し、透明基板11bと透明基板11cとの間に第2の偏光分離膜12bを有する。また、第1の偏光分離膜12aと第2の偏光分離膜12bとの間には、第2の偏光分離膜12bの領域の一部に重なるように波長板14が備えられる。なお、図1において、第1の偏光分離膜12aは、透明基板11aと透明基板11bとの間の全面に配置されているが、第2の偏光分離膜12bの領域の一部に重なるように配置されてもよい。また、透明基板11aと透明基板11dとの間には、反射膜13が備えられる。
【0020】
透明基板11a、11b、11cおよび11dは、入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。また、後述するように、反射膜13は、入射する光を反射する機能を有するので、偏光変換素子10は、透明基板11dを除く構成であってもよい。また、透明基板11bは、波長板14を配置するスペースに合わせて、溝が形成されたガラスから構成されるものであってもよく、波長板14の段差を埋める透明な接着剤と平坦なガラスから構成されるものであってもよい。
【0021】
第1の偏光分離膜12aおよび第2の偏光分離膜12bは、高屈折率の材料と低屈折率の材料と、が交互に積層された光学多層膜の構造を有し、入射する光のうち、第1の偏光方向の光を透過させ、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の光を透過させるかまたは、第1の偏光方向の光を反射させ、第2の偏光方向の光を透過させる偏光分離特性を有する。光学多層膜を構成する材料のうち、高屈折率の材料としては、Ta、TiO、Al、Nbなどが挙げられ、低屈折率の材料としてはSiO、MgFなどが挙げられる。また、複屈折性材料を用いて、一方の直線偏光の光に対して高屈折の材料と低屈折の材料とが交互に積層され、直交する他方の直線偏光の光に対してこれらの材料間の屈折率の差がほぼ0となる設計に基づく光学多層膜によって、偏光分離特性を発生させるものであってもよい。
【0022】
波長板14は、とくに可視光となる波長帯域において、入射する光の偏光状態に対して略直交する偏光状態の光を出射する機能を有する。波長板14は、複屈折性を発生する材料からなり、例えば、入射する光が直線偏光の光である場合、厚さ方向に螺旋軸を有して遅相軸が略90°ツイストした、旋光子としての機能を有する位相差板であってもよい。また、光学軸(遅相軸または進相軸)が厚さ方向と直交する平面に揃い、かつ、厚さ方向にツイストしない位相差板であって、1/2波長に略等しい位相差、または1/2波長の奇数倍に略等しい位相差が与えられるものであってもよい。また、波長板14を構成するする材料は、ポリカーボネートや高分子液晶などの有機材料、水晶やLiNbO(ニオブ酸リチウム)などの単結晶を用いることができ、また、光学軸がツイストする位相差板とする場合、作製上、高分子液晶が好ましく使用できる。また、波長板14は、異なる光学軸の方向を有する複数の位相差板が重ねられて構成するもの、光学軸が厚さ方向にツイストした複数の位相差板が重ねられて構成するもの、これらの組み合わせによって構成するものであってもよい。
【0023】
また、図1の偏光変換素子10において、波長板14は、第2の偏光分離膜12bの上部、つまり上半分を覆うように配置しているが、これに限らず、第2の偏光分離膜12bの下部、つまり下半分を覆うように配置するものであってもよい。また、波長板14は、第1の偏光分離膜12aの下部に配置するものであってもよい。さらに、波長板14は、第1の偏光分離膜12a、第2の偏光分離膜12bの平面と平行に配置される構成に限らず、後述するように第1の偏光分離膜12aで分離した光のうち一方の光のみが透過すれば、これらの平面と非平行となる面に形成されてもよい。
【0024】
反射膜13は、入射する光に対して高い反射率で反射できればよく、アルミニウム、銀や金などの金属の膜や、高屈折率の材料と低屈折率の材料とが交互に積層された光学多層膜などで構成される。ここで、偏光変換素子10は、第1の偏光分離膜12a、第2の偏光分離膜12b、反射膜13のそれぞれの膜面が互いに平行に配置される構成であっても、非平行に配置される構成であってもよいが、互いに平行に配置される構成であれば、光を反射する方向の制御性が向上するので好ましい。
【0025】
次に、偏光変換素子10に入射する光の作用について説明する。図2は、偏光変換素子10を用いた投射型表示装置20の模式図であり、具体的に偏光変換素子10に入射する光の様子を示すものである。また、必要に応じて図1の偏光変換素子10を参照する。投射型表示装置20は、偏光変換素子10に加え、可視光帯域の光(白色光)を発射する光源21と、反射型液晶素子22、投射レンズ23を有する。また、図2において、偏光変換素子10の断面をY−Z平面とし、第1の偏光分離膜12a、第2の偏光分離膜12b、反射膜13および波長板14は、Y軸およびZ軸に対し略45°の角度をなす面に配置される。なお、波長板14は、第2の偏光分離膜12bと重なる一部の領域に配置されてもよいとしたが、反射型液晶素子22の面の法線方向(Z方向)、から見て重なることを意味する。
【0026】
光源21から発射した白色光は、ランダムな偏光状態を有して、偏光変換素子10に入射する。光源21は、ランダムな偏光状態の白色光を発射するものであったり、特定の偏光状態の白色光を発射するものであったりしてもよい。例えば、光源21が、特定の偏光状態の白色光を発射する場合、光源21と偏光変換素子10との間に偏光状態を変える機能を有する光学素子が配置されてもよい。ここで、図2において、光源21を発射する白色光31は、−Y方向に進行しながら透明基板11bを透過して、第1の偏光分離膜12aに入射する。なお、白色光31を直交する2つの成分、即ち、X軸方向の光の成分とZ軸方向の光の成分と、に分けるとき、X軸方向の成分をS偏光の光とし、S偏光と直交する光の成分をP偏光の光とする。また、光の進行方向が±Z方向である場合は、Y軸方向の光の成分がP偏光の光となる。なお、S偏光を第1の直線偏光、P偏光を第2の直線偏光ともいう。
【0027】
第1の偏光分離膜12aは、白色光31に対してP偏光の光を直進透過し、S偏光の光を反射する機能を有し、P偏光の光である光32と、S偏光の光である光33と、に分離する。光32は、反射膜13で反射されて進行方向を+Z方向に変え、再び第1の偏光分離膜12aに入射するが、P偏光の光であるので、第1の偏光分離膜12aを直進透過する。一方、偏光分離膜12aで反射されたS偏光の光である光33は、進行方向を+Z方向に変えて波長板14に入射する。なお、第1の偏光分離膜12aは、第2の偏光分離膜12bと重なる一部の領域に配置されてもよいとしたが、この場合、第1の偏光分離膜12aは、白色光31の光路中にあって、反射膜13を反射した光32の光路中にない領域に配置されてもよい。ここで、第2の偏光分離膜12bと重なるとは、反射型液晶素子22の面の法線方向(Z方向)、から見て重なることを意味する。
【0028】
波長板14に入射した光33は、P偏光の光に変換されて第2の偏光分離膜12bに入射する。第2の偏光分離膜12bも、第1の偏光分離膜12aと同様に、P偏光の光を直進透過し、S偏光の光を反射する機能を有し、波長板14によって、ほぼP偏光の光に変換された光34は、第2の偏光分離膜12bを直進透過する。また、反射層13で反射された光32も、P偏光の光であるので、第2の偏光分離膜12bを直進透過し、2つの光路に分離されて生じた光32および光34は、いずれもP偏光の光となって、透明基板11cを出射して、反射型液晶素子22に入射する。
【0029】
反射型液晶素子22で反射される光は、投影する画像に合わせて各画素に対応するように偏光状態が変換されて反射される。このとき、反射される光35および光36は、S偏光の光およびP偏光の光が混在するが、いずれも、第2の偏光分離膜12bに入射すると、S偏光の光のみが+Y方向に反射され、光37および光38となって、透明基板11cを出射する。そして、投影レンズ23によって投影されて、図示しないスクリーン等に画像が映し出される。また、光35および光36のうち、P偏光の光は、第2の偏光分離膜12bを直進透過するので、投影レンズ23の方向には進行しない。
【0030】
また、偏光変換素子10は、この構成に限らず、第1の偏光分離膜12a、第2の偏光分離膜12bにおける、S偏光の光とP偏光の光の透過と反射の機能、波長板14の配置を変えることで他の構成としてもよい。例えば、波長板14を、光33の光路中ではなく光32の光路中に配置し、第2の偏光分離膜12bが、S偏光の光を直進透過させるとともに、P偏光の光を反射する機能を有するものであってもよい。この場合、投影レンズ23には、P偏光の光が入射して図示しないスクリーン等に画像が映し出される。
【0031】
(第2の実施形態)
本実施形態に係る偏光変換素子は、第1の実施形態とは異なり、異なる複数の波長の光が、それぞれ光路が異なって入射する場合に対応できるものである。図3に本実施形態に係る偏光変換素子40の構成概念図を示す。偏光変換素子40は、透明基板41a、41b、41c、41d、41e、41f、41gおよび41hを有し、透明基板41aと透明基板41bとの間に第1の偏光分離膜42aを有し、透明基板41cと透明基板41dとの間に第2の偏光分離膜42bを有し、透明基板41eと透明基板41fとの間に第3の偏光分離膜42cを有し、透明基板41fと透明基板41gとの間に第4の偏光分離膜42dを有する。また、第3の偏光分離膜42cと第4の偏光分離膜42dとの間には、第4の偏光分離膜42dの領域の一部に重なるように波長板44が備えられる。なお、図3において、第1の偏光分離膜42a、第2の偏光分離膜42b、第3の偏光分離膜42cは、2つの透明基板の間の全面に配置されているが、第4の偏光分離膜42dの領域の一部に重なるように配置されてもよい。
【0032】
また、透明基板41aと透明基板41hとの間には、反射膜43を有し、透明基板41bと透明基板41cとの間に第1の波長選択性反射膜45aを有し、そして、透明基板41dと透明基板41eとの間に第2の波長選択性反射膜45bを有する。なお、図3において、第1の波長選択性反射膜45a、第2の波長選択性反射膜45bは、2つの透明基板の間の全面に配置されているが、第4の偏光分離膜42dの領域の一部に重なるように配置されてもよい。例えば、第1の波長選択性反射膜45aおよび第2の波長選択性反射膜45bは、波長板44と重ならないような領域に配置される。
【0033】
透明基板41a〜41hは、入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。また、後述するように、反射膜43は、入射する光を反射する機能を有するので、偏光変換素子40は、透明基板41hを除く構成であってもよい。また、透明基板41fは、波長板44を配置するスペースに合わせて、溝が形成されたガラスから構成されるものであってもよく、波長板44の段差を埋める透明な接着剤と平坦なガラスから構成されるものであってもよい。
【0034】
第1の偏光分離膜42a、第2の偏光分離膜42b、第3の偏光分離膜42cおよび第4の偏光分離膜42dは、高屈折率の材料と低屈折率の材料と、が交互に積層された光学多層膜の構造を有する。そして、入射する光のうち、第1の偏光方向の光を透過させ、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の光を透過させるかまたは、第1の偏光方向の光を反射させ、第2の偏光方向の光を透過させる偏光分離特性を有する。光学多層膜は、第1の実施形態と同様の材料を用いて構成できる。また、第1の波長選択性反射膜45aおよび第2の波長選択性反射膜45bは、高屈折率の材料と低屈折率の材料と、が交互に積層された光学多層膜の構造を有する。光学多層膜を構成する材料のうち、高屈折率の材料としては、Ta、TiO、Al、Nbなどが挙げられ、低屈折率の材料としてはSiO、MgFなどが挙げられる。また、複屈折性材料を用いて、一方の直線偏光の光に対して高屈折の材料と低屈折の材料とが交互に積層され、直交する他方の直線偏光の光に対してこれらの材料間の屈折率の差がほぼ0となる設計に基づく光学多層膜によって、偏光分離特性を発生させるものであってもよい。
【0035】
波長板44は、とくに可視光となる波長帯域において、入射する光の偏光状態に対して略直交する偏光状態の光を出射する機能を有する。そして、波長板44は、第1の実施形態における波長板14と同様の材料、構成を利用することができる。さらに、反射膜43も、第1の実施形態における反射膜13と同様の材料を用いて構成できる。ここで、偏光変換素子40は、各々の偏光分離膜、各々の波長選択性反射膜、反射膜43が互いに平行して配置される構成であっても、非平行に配置される構成であってもよいが、互いに平行して配置される構成であれば、光を反射する方向の制御性が向上するので好ましい。
【0036】
次に、偏光変換素子40に入射する光の作用について説明する。図4は、偏光変換素子40を用いた投射型表示装置50の模式図であり、具体的に偏光変換素子40に入射する光の様子を示すものである。また、必要に応じて図3の偏光変換素子40を参照する。投射型表示装置50は、偏光変換素子40に加え、互いに異なる波長帯域の光を発射する第1の光源51a、第2の光源51b、第3の光源51cと、反射型液晶素子52、投射レンズ53を有する。また、図4において、偏光変換素子40の断面をY−Z平面とし、各々の偏光分離膜、各々の波長選択性反射膜、反射膜43および波長板44は、Y軸およびZ軸に対し略45°の角度をなす面に配置される。なお、波長板44は、第4の偏光分離膜42dと重なる一部の領域に配置されてもよいとしたが、反射型液晶素子52の面の法線方向(Z方向)、から見て重なることを意味する。
【0037】
ここで、第1の光源51aはλの波長帯の光を発射し、第2の光源51bはλの波長帯の光を発射し、第3の光源51cはλ(λ≠λ≠λ)の波長帯の光を発射する。なお、λ、λ、λは、3色光源として、420〜480nm(Blue)の帯域を有する450nm波長帯と、520〜560nm(Green)の帯域を有する533nm波長帯と、610〜670nm(Red)の帯域を有する645nm波長帯と、の組み合わせからなる。このような、Blue、Green、Redの3色の光源を用いる投射型表示装置は、色純度を向上させることができ、これにより、鮮明な画像を映し出すことができる。また、これら3色を時分割で駆動させる方式を採用すると、反射型液晶素子は、カラーフィルタを設けなくてもよく、反射型液晶素子の簡素化が実現できるとともに、1つの画素で。これら3色を時分割で表示できることから解像度の向上も期待できる。
【0038】
光源51aから発射したλの波長帯域の光は、ランダムな偏光状態を有して、偏光変換素子40に入射する。また、光源51aおよび後述する光源51b、光源51cは、ランダムな偏光状態の光を発射するものであったり、特定の偏光状態の光を発射するものであったりしてもよい。例えば、光源51aが、特定の偏光状態の光を発射する場合、光源51と偏光変換素子40との間に偏光状態を変える機能を有する光学素子が配置されてもよい。ここで、図4において、光源51aを発射するλの波長帯域の光61aは、−Y方向に進行しながら透明基板41bを透過して、第1の偏光分離膜42aに入射する。なお、光61aを直交する2つの成分、即ち、X軸方向の光の成分とZ軸方向の光の成分に分けるとき、X軸方向の成分をS偏光の光とし、S偏光と直交する光の成分をP偏光の光とする。また、光の進行方向が±Z方向である場合は、Y軸方向の光の成分がP偏光の光となる。なお、S偏光を第1の直線偏光、P偏光を第2の直線偏光ともいう。
【0039】
第1の偏光分離膜42aは、λの波長帯域の光61aに対してP偏光の光を直進透過し、S偏光の光を反射する機能を有し、P偏光の光である光62aと、S偏光の光である光63aと、に分離する。光62aは、反射膜43で反射されて進行方向を+Z方向に変え、再び第1の偏光分離膜42aに入射するが、P偏光の光であるので、第1の偏光分離膜42aを直進透過する。一方、偏光分離膜42aで反射されたS偏光の光である光63aは、進行方向が+Z方向となる。なお、第1の偏光分離膜42aは、光61aの光路中にあって、光62aの光路中にない領域に配置されていてもよい。そして、光62a、光63aは、第1の波長選択性反射膜45aに入射する。第1の波長選択性反射膜45aは、入射する光の偏光状態に拘わらず、λの波長帯域の光を直進透過させ、λの波長帯域の光を反射させる機能を有するので、λの波長帯域の光である光62a、光63aを直進透過させる。
【0040】
次に、λの波長帯域の光と、光源51bから発射したλの波長帯域の光を含めた光の作用について説明する。光源51bから発射したλの波長帯域の光は、ランダムな偏光状態を有して、偏光変換素子40に入射する。ここで、図4において、光源51bを発射するλの波長帯域の光61bは、−Y方向に進行しながら透明基板41dを透過して、第2の偏光分離膜42bに入射する。第2の偏光分離膜42bは、λの波長帯域の光61bに対してP偏光の光を直進透過し、S偏光の光を反射する機能を有する。ここで、P偏光の光である光62bは、λの波長帯域の光であるので、第1の波長選択性反射膜45aで反射される。このようにして、第1の波長選択性反射膜45aに入射する光62bと、λの波長帯域の光62aと、が含まれた(P偏光の)光63bが、+Z方向に進行する。
【0041】
また、第2の偏光分離膜42bは、上記のような偏光分離機能に加えて、入射する光に対して波長選択性の反射機能も有し、λの波長帯域の光のうちS偏光の光を反射させるとともに、λの波長帯域の光を直進透過させる。なお、第2の偏光分離膜42bは、光63aの光路中にあって、光63bの光路中にない領域に配置されてもよく、この場合、λの波長帯域の光のうち、S偏光の光のみを高い透過率で直進透過させるものであってもよい。このようにして、第2の偏光分離膜42bで反射されたλの波長帯域の光のうちS偏光の光と、λの波長帯域の光63aと、が含まれた(S偏光の)光64bが、+Z方向に進行する。
【0042】
このように、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光を含む光63b、光64bは、第2の波長選択性反射膜45bに入射する。第2の波長選択性反射膜45bは、入射する光の偏光状態に拘わらず、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光を直進透過させ、λの波長帯域の光を反射させる機能を有するので、光63b、光64bを直進透過させる。
【0043】
次に、λの波長帯域の光と、λの波長帯域の光と、光源51cから発射したλの波長帯域の光を含めた光の作用について説明する。光源51cから発射したλの波長帯域の光は、ランダムな偏光状態を有して、偏光変換素子40に入射する。ここで、図4において、光源51cを発射するλの波長帯域の光61cは、−Y方向に進行しながら透明基板41fを透過して、第3の偏光分離膜42cに入射する。第3の偏光分離膜42cは、λの波長帯域の光61cに対してP偏光の光を直進透過し、S偏光の光を反射する機能を有する。ここで、P偏光の光である光62cは、λの波長帯域の光であるので、第2の波長選択性反射膜45bで反射される。このようにして、第2の波長選択性反射膜45bに入射する光62cと、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光が混在した光63bと、が含まれた(P偏光の)光63cが、+Z方向に進行し、また、第3の偏光分離膜42cは、P偏光の光63cを直進透過させるので、第3の偏光分離膜42cを透過して+Z方向に進行する。
【0044】
また、第3の偏光分離膜42cは、上記のような偏光分離機能に加えて、入射する光に対して波長選択性の反射機能も有し、λの波長帯域の光のうちS偏光の光を反射させるとともに、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光を直進透過させる。なお、第3の偏光分離膜42cは、光64bの光路中にあって、光63cの光路中にない領域に配置されてもよく、この場合、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光は、S偏光の光のみを高い透過率で直進透過させるものであってもよい。このようにして、第3の偏光分離膜42cで反射されたλの波長帯域の光のうちS偏光の光と、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光が混在した光64bと、が含まれた(S偏光の)光64cが、+Z方向に進行する。
【0045】
ここで、λの波長帯域の光、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光を含むS偏光の光64cは、波長板44、第4の偏光分離膜42dに入射する。一方、λの波長帯域の光、λの波長帯域の光およびλの波長帯域の光を含むP偏光の光63cの光路中には波長板44が配置されないので、第4の偏光分離膜42dに入射する。なお、第1の偏光分離膜42a、第2の偏光分離膜42b、第3の偏光分離膜42cの少なくとも1つは、第4の偏光分離膜42dと重なる一部の領域に配置されてもよいとした。この場合、第1の偏光分離膜42aは、光61aの光路中にあって、反射膜13を反射した光62aの光路中にない領域に配置されてもよく、第2の偏光分離膜42bは、光61bの光路中にあって、光63bの光路中にない領域に配置されてもよく、第3の偏光分離膜42cは、光61cの光路中にあって、光63cの光路中にない領域に配置されてもよい。ここで、第4の偏光分離膜42dと重なるとは、反射型液晶素子52の面の法線方向(Z方向)、から見て重なることを意味する。
【0046】
さらに、第1の波長選択性反射膜45aは、光62aの光路中にあって、光63aの光路中にない領域に配置されてもよく、第2の波長選択性反射膜45bは、光63bの光路中にあって、光64bの光路中にない領域に配置されてもよい。このとき、第1の波長選択性反射膜45aはλの波長帯域の光のうち、P偏光の光のみを高い透過率で直進透過させ、λの波長帯域の光のうち、P偏光の光のみを高い反射率で反射させるものであってもよい。また、第2の波長選択性反射膜45bはλの波長帯域の光およびλの波長帯域の光のうち、P偏光の光のみを高い透過率で直進透過させ、λの波長帯域の光のうち、P偏光の光のみを高い反射率で反射させるものであってもよい。
【0047】
波長板44に入射した光64cは、P偏光の光に変換されて第4の偏光分離膜42dに入射する。第4の偏光分離膜42dも、P偏光の光を直進透過し、S偏光の光を反射する機能を有し、P偏光の光に変換された光65は、第4の偏光分離膜42dを直進透過する。また、光63cも、P偏光の光であるので、第4の偏光分離膜42dを直進透過し、2つの光路に分離されて生じた光63cおよび光65は、いずれもP偏光の光となって、透明基板41gを出射して、反射型液晶素子52に入射する。
【0048】
反射型液晶素子52で反射される光は、投影する画像に合わせて各画素に対応するように偏光状態が変換されて反射される。このとき、反射される光66および光67は、S偏光の光およびP偏光の光が混在するが、いずれも、第4の偏光分離膜42dに入射すると、S偏光の光のみが+Y方向に反射され、光68および光69となって、透明基板41gを出射する。そして、投影レンズ53によって投影されて、図示しないスクリーン等に画像が映し出される。また、光68および光69のうち、P偏光の光は、第4の偏光分離膜42dを直進透過するので、投影レンズ53の方向には進行しない。
【0049】
また、偏光変換素子40は、この構成に限らず、各々の偏光分離膜における、S偏光の光とP偏光の光の透過と反射の機能、波長板44の配置を変えることで他の構成としてもよい。例えば、波長板44を、光64cの光路中ではなく光63cの光路中に配置し、各々の偏光分離膜が、S偏光の光を直進透過させるとともに、P偏光の光を反射する機能を有するものであってもよい。この場合、投影レンズ53には、P偏光の光が入射して図示しないスクリーン等に画像が映し出される。
【実施例】
【0050】
第1の実施形態に係る偏光変換素子10の作製方法について説明する。まず、透明基板11aに相当する透明基板として、厚さ約4.2mmのSF2光学ガラスの一方の平面上に、反射膜13に相当する金(Au)を約1μm積層する。次に、透明基板11bに相当する透明基板として、厚さ約4.2mmのSF2光学ガラスの平面上に、ポリイミドを塗布してできたポリイミド膜をラビングして配向膜を形成する。そして、図示しない透明基板の平面に配向膜を形成し、配向膜同士を配向方向が直交するように対向させ、厚さ8μmのシール剤で周辺をシールする。その後、シール剤によってできた空隙に、図示しない注入口から光硬化性の液晶モノマーを注入して封止し、UV光を照射して重合硬化させる。このとき、屈折率異方性Δnが約0.16、厚さ8μmで、液晶分子14aが厚さ方向に90°ツイストした、高分子液晶の層が得られる。その後、図示しない透明基板を除去し、約8.4mm×約9.2mmの領域に高分子液晶が残るようにエッチングをし、波長板14を得る。
【0051】
次に、透明基板11bに相当するSF2基板のうち、高分子液晶の層が形成された面とは反対側の面に、第1の偏光分離膜12aに相当する、表1に示す光学多層膜を形成する。なお、層番号1は、透明基板11b側の番号に相当し、SiOとTaの膜を交互に積層する。なお、表1に示す屈折率は、波長520nmの光に対する屈折率を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
次に、透明基板11cに相当する透明基板として、厚さ約10mmのSF2光学ガラスの一方の平面上に、第2の偏光分離膜11bに相当する、表1に示す光学多層膜を形成する。なお、層番号1は、透明基板11c側の番号に相当する。その後、透明基板11cに相当するSF2基板の光学多層膜側の面と、透明基板11bに相当するSF2基板の高分子液晶側の面とを、波長520nmの光における屈折率が約1.6となる透明接着剤を介して、高分子液晶の段差を埋めるとともに、それぞれの光学多層膜とが平行となるように接着する。さらに、透明基板11bに相当するSF2基板の光学多層膜側の面と、透明基板11aに相当するSF2基板の反射膜と反対側の面とを上記の透明接着剤を介し、光学多層膜側と反射膜とが平行となるように接着する。次に、透明基板11dに相当する透明基板として、厚さ約4.2mmのSF2光学ガラスの一方の平面と、透明基板11aに相当するSF2基板の反射膜の面とを上記の透明接着剤を介して接着する。
【0054】
次に、高分子液晶層の端部を含み、各SF2の基板面に対して45°の角度をなす方向に沿って切断する。また、上記切断面と平行で、高分子液晶層の幅が、第2の偏光分離膜12bの光学多層膜の幅の半分程度となるように約12mmの幅で切断する。なお、約12mmの幅は、図2におけるY軸方向の幅に相当する。さらに、反射膜13に相当する金(Au)膜が、この約12mmの幅の半分程度となるとともに、上記2つの平行な切断面と直交するように、透明基板11aおよび透明基板11dに相当するSF2基板を切断する。その後、上記2つの平行な切断面と直交するように、透明基板11cに相当するSF2基板を約18mmの幅となるように切断し、図1に示すような偏光分離素子10を得る。なお、約18mmの幅は、図2におけるZ軸方向の幅に相当する。
【0055】
次に、作製した波長板14に相当する高分子液晶層および、偏光分離膜12a、12bに相当する光学多層膜の光学特性を調べる。図5(a)は、波長板14に相当する高分子液晶層と、入射する光との位置関係を示す模式図である。ここで、高分子液晶層に入射する光71はX軸方向に揃った直線偏光の光であって、高分子液晶層の厚さ方向と光の進行方向とがなす角度(=入射角)が45°となるとともに、高分子液晶層の光入射側の、液晶分子は、X軸方向に配向されるように配置する。
【0056】
高分子液晶層を出射した光72に対して、Y軸方向の光を透過し、X軸方向の光を遮断する検光子73を配置してX軸方向の直線偏光の光74を得る。このとき、光72の光量に対する光74の光量の比、つまり、高分子液晶層によって直交する光に変換される光の効率を偏光透過率η[%]とし、可視光を含む波長λが、400〜700nmの光に対する偏光透過率ηを計算した。このときの計算結果を図6に示す。この結果より、400〜700nmの波長帯域でいずれも、83%以上の偏光透過率が得られ、450〜650nmの波長帯域では、89%以上の偏光透過率が得られることが確認された。
【0057】
また、図5(b)は、偏光分離膜12aまたは12bに相当する光学多層膜と、入射する光に対する透過、反射の関係を示す模式図である。ここで、SF2を媒質とし、光学多層膜に入射する光81はランダムな偏光状態の光であって、表1に示す光学多層膜の厚さ方向と光の進行方向とがなす角度(=入射角)が45°となるように配置する。ここで、入射する光81のうち、光学多層膜で反射するX軸方向の成分(S偏光)の光の反射率をR[%]、光学多層膜で反射するY軸方向の成分(P偏光)の光の反射率をR[%]とする。また、光学多層膜を透過する媒体をSF2とし、入射する光81のうち、光学多層膜を透過するS偏光の光の透過率をT[%]、光学多層膜を透過するP偏光の光の透過率をT[%]とする。
【0058】
そして、可視光を含む波長λが、400〜700nmの光に対するR、T、R、Tを計算した。このときの計算結果として、400〜700nmの光に対するR、Tを図7(a)、400〜700nmの光に対するR、Tを図7(b)に示す。この結果より、400〜700nmの波長帯域でいずれも、S偏光の光に対する反射率Rが略100%であるとともに、S偏光の光に対する透過率Tが略0%であることが確認された。また、400〜700nmの波長帯域でいずれも、P偏光の光に対する透過率Tが95%以上であるとともに、P偏光の光に対する反射率Rが5%以下であることが確認された。
【0059】
したがって、本実施例の高分子液晶層および光学多層膜を用いて、偏光変換素子10を作製すると、可視光を含む波長帯域で入射する光に対して高い効率で、特定の偏光方向(P偏光)の光に変換することができる。また、本実施例の設計に基づく偏光変換素子10を投射型表示装置20に用いると、偏光変換素子10を出射して反射型液晶素子で正反射する光のうち、S偏光の光に対して高い反射率で投影レンズ23側に光を出射することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる偏光変換素子は、小型化が実現できるとともに簡易的な構造を有するとともに、該偏光変換素子を用いた投射型表示装置は、とくに偏光ビームスプリッタを別途用いることなく構成できるので、小型の投射型表示装置を実現できる。
【符号の説明】
【0061】
10、40、103 偏光変換素子
11a、11b、11c、11d、41a、41b、41c、41d、41e、41f、41g、41h 透明基板
12a、42a 第1の偏光分離膜
12b、42b 第2の偏光分離膜
13、43 反射膜
14、44 波長板
14a 液晶分子
20、50、100 投射型表示装置
21、101 光源
22、52、105 反射型液晶素子
23、53、106 投影レンズ
31 白色光
32、33、34、35、36、37、38、61a、61b、61c、62a、62b、62c、63a、63b、63c、64b、64c、65、66、67、68、69、71、72、74、81、82、83 光
42c 第3の偏光分離膜
42d 第4の偏光分離膜
51a 第1の光源
51b 第2の光源
51c 第3の光源
73 検光子
102 集光レンズ
104 偏光ビームスプリッタ
107 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光を反射する反射層と、
入射する光のうち互いに直交する第1の偏光と第2の偏光のうち、一方を直進透過させるとともに他方を反射する第1の偏光分離膜と第2の偏光分離膜と、がそれぞれ透明基板を介して、この順番に備えられ、
さらに、前記第1の偏光分離膜と前記第2の偏光分離膜との間に、前記第2の偏光分離膜の一部の領域に重なるように、波長板が備えられ、
前記波長板は、入射する光の偏光方向に対して透過する光の偏光方向が直交する機能を有する偏光変換素子。
【請求項2】
前記波長板は、光学軸が厚さ方向に略90°ツイストした旋光子の構成を有する請求項1に記載の偏光変換素子。
【請求項3】
前記反射層、前記第1の偏光分離膜、前記第1の偏光分離膜、および前記波長板は、いずれも平行に配置される請求項1または請求項2に記載の偏光変換素子。
【請求項4】
前記第1の偏光分離膜と前記第2の偏光分離膜は、前記透明基板の面に対して平行となるように積層され、同じ構造の光学多層膜からなる請求項3に記載の偏光変換素子。
【請求項5】
少なくとも可視光領域を含む光を発射する光源と、
反射した光に画像情報を与える反射型液晶素子と、
画像情報を有する光を投射する投影レンズと、を有する投射型表示装置であって、
前記光源と前記反射型液晶素子との間の光路中に、前記光源から発射した光が、請求項1〜4いずれか1項に記載の偏光変換素子の前記第1の偏光分離膜の面に対して斜め方向に入射するように配置される投射型表示装置。
【請求項6】
入射する光を反射する反射層と、
入射する光のうち互いに直交する第1の偏光と第2の偏光のうち、一方を直進透過させるとともに他方を反射する第1の偏光分離膜、第2の偏光分離膜、第3の偏光分離膜および第4の偏光分離膜と、
特定の波長帯域を有する波長λの光を透過するとともに、特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ)の光を反射する第1の波長選択性反射膜と、
前記波長λの光および前記波長λの光を透過するとともに、特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ≠λ)の光を反射する第1の波長選択性反射膜と、を有し、
前記反射膜、前記第1の偏光分離膜、前記第1の波長選択性反射膜、前記第2の偏光分離膜、前記第2の波長選択性反射膜、前記第3の偏光分離膜、前記第4の偏光分離膜、がそれぞれ透明基板を介して、この順番に備えられ、
さらに、前記第3の偏光分離膜と前記第4の偏光分離膜との間に、前記第4の偏光分離膜の一部の領域に重なるように、波長板が備えられ、
前記波長板は、入射する光の偏光方向に対して透過する光の偏光方向が直交する機能を有する偏光変換素子。
【請求項7】
前記波長板は、光学軸が厚さ方向に略90°ツイストした旋光子の構成を有する請求項6に記載の偏光変換素子。
【請求項8】
前記反射層、前記第1の偏光分離膜、前記第2の偏光分離膜、前記第3の偏光分離膜、前記第4の偏光分離膜、前記第1の波長選択性反射膜、前記第1の波長選択性反射膜、および前記波長板は、いずれも平行に配置される請求項6または請求項7に記載の偏光変換素子。
【請求項9】
特定の波長帯域を有する波長λの光を発射する第1の光源と、
特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ)の光を発射する第2の光源と、
特定の波長帯域を有する波長λ(λ≠λ≠λ)の光を発射する第3の光源と、
反射した光に画像情報を与える反射型液晶素子と、
画像情報を有する光を投射する投影レンズと、を有する投射型表示装置であって、
前記第1の光源と前記反射型液晶素子との間の光路中に、前記第1の光源から発射した波長λの光、前記第2の光源から発射した波長λの光および前記第3の光源から発射した波長λの光が、請求項6〜8いずれか1項に記載の偏光変換素子の、前記第1の偏光分離膜の面、前記第2の偏光分離膜の面、前記第3の偏光分離膜の面に対してそれぞれ、斜め方向に入射するように配置される投射型表示装置。
【請求項10】
前記波長λ、前記波長λおよび前記波長λは、420〜480nmである450nm波長帯、520〜560nmである533nm波長帯、610〜670nmである645nm波長帯の組み合わせからなる請求項9に記載の投射型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−107268(P2011−107268A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260143(P2009−260143)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】