説明

偏光子、偏光板、光学部材および液晶表示装置

【課題】薄膜化と同時に高偏光度、高耐久性および良好な取扱い性を満足することが可能な偏光子、該偏光子が形成された偏光板、該偏光子を用いた光学部材および該光学部材を備える液晶表示装置を提供する。
【解決手段】分子チューブと該分子チューブに包接された可視光領域に吸収を有する共役高分子とからなる複合体を含み、該複合体が実質的に一方向に配向してなる偏光子に関する。複合体の光吸収ピーク波長は380〜780nmの範囲内であることが好ましい。また、共役高分子がポリアニリンからなることが好ましく、分子チューブが環状化合物の分子間架橋体からなることが好ましい。本発明においては、偏光子(122)を位相差板(121)等と積層して光学部材(12)とすることができ、該光学部材(12)を液晶セル(11)の片面または両面に配置して液晶表示装置(1)とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子チューブと共役高分子との複合体を用いた偏光子、該偏光子が形成された偏光板、該偏光子を用いた光学部材および該光学部材を備える液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量で薄型であるという特徴を有し、これらの特徴を生かして、各種の表示用デバイスに用いられている。液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、位相差板、集光シート、拡散フィルム、導光板、光反射シート等の多くの材料から構成されている。そのため、液晶表示装置を構成するフィルムやシートの枚数を減らしたり、フィルムまたはシートの厚さを薄くしたりすることで、生産性の向上、軽量化、明度の向上等を目指した改良が盛んに行われている。
【0003】
そして、用途によっては厳しい耐久条件に耐えうる製品が必要とされている。たとえば、カーナビゲーションシステム用の液晶表示装置においては、該液晶表示装置が置かれる車内の温度や湿度が高くなることがあるため、通常のテレビ用やパーソナルコンピュータ用のモニターに比べると、温度および湿度の条件が厳しい。よって、たとえばカーナビゲーションシステム用等の用途においては、偏光板も高い耐久性を示すものが求められる。
【0004】
偏光板は通常、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子の両面または片面に透明な保護フィルムが積層された構造になっている。偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに縦一軸延伸と二色性色素による染色を行った後、ホウ酸処理によって架橋反応を起こさせ、次いで水洗、乾燥する方法により製造されている。二色性色素としては、ヨウ素または二色性有機染料が用いられる。かくして得られる偏光子の両面または片面に保護フィルムを積層して偏光板が形成され、該偏光板は液晶表示装置に組み込まれて使用される。上記の保護フィルムとしては、トリアセチルロースに代表されるセルロースアセテート系樹脂フィルムが多く使用されており、該保護フィルムの厚みは通例30〜120μm程度である。また、偏光子への保護フィルムの積層には、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を用いることが多い。
【0005】
二色性色素が吸着配向している偏光子の両面または片面に、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを積層した偏光板は、湿熱条件下で長時間使用した場合に、偏光性能が低下したり、保護フィルムと偏光子とが剥離しやすかったりする問題を有する。
【0006】
そこで、少なくとも一方の保護フィルムを、セルロースアセテート系以外の樹脂で構成する試みがある。たとえば、特許文献1には、偏光子の両面に保護フィルムを積層した偏光板において、該保護フィルムの少なくとも一方を、位相差フィルムの機能を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂で構成することが記載されている。また、特許文献2には、ヨウ素または二色性有機染料が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の一方の面に非晶性ポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムが積層され、他方の面には、セルロースアセテート系樹脂等、非晶性ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂からなる保護フィルムが積層された偏光板が記載されている。さらに、特許文献3には、ポリビニルアルコール系偏光子に、ウレタン系接着剤とポリビニルアルコール系樹脂とを含有する接着剤を介して、シクロオレフィン系樹脂からなる保護フィルムを積層することが記載されている。
【0007】
しかし、ノルボルネン系樹脂等の非晶性ポリオレフィン系樹脂(シクロオレフィン系樹脂ともいう)は、最近実用化された樹脂であって、一般に高価である。また非晶性ポリオレフィン系樹脂は、アセトン、トルエン、酢酸エチル等の有機溶剤によって侵食されやすい。これらの有機溶剤は、粘着剤の調製に用いられるため、粘着剤中に残存することがある。さらに、保護フィルムが積層された偏光板は通常100μm以上の膜厚を有しているため、特に中小型用途で顕著な薄膜化の要求に追随していくことは難しい。
【0008】
分子の結晶化を利用したコーティングタイプの薄膜偏光板の市販品として、たとえばナカン(株)製のOPTIVAが知られている。非特許文献1には、OPTIVA社が開発した材料を用いて複数の平面楕円状染料分子の高濃度水溶液を調製し、平面楕円状染料分子がカラム状となったSupramoleculesを基材上に塗工し、その乾燥過程で該Supramoleculesが結晶化することで偏光板が得られることが開示されている。非特許文献1に開示される偏光板はコーティングタイプであるため、薄膜化は可能であるが、偏光度が低く、脆弱である、耐水性に劣る等の点が指摘されていた。
【0009】
近年、高分子をシクロデキストリンで包接した超分子構造体が検討されている(たとえば、非特許文献2参照)。特に、包接される高分子を導電性高分子とした分子被覆電線が開発されている(たとえば、非特許文献3〜6参照)。
【特許文献1】特開平8−43812号公報
【特許文献2】特開2002−174729号公報
【特許文献3】特開2004−334168号公報
【非特許文献1】大村,「分子結晶化薄膜偏光板」,月刊ディスプレイ,2002年8月,p.17−19
【非特許文献2】原田,「ポリロタキサンの化学」,現代化学,1997年3月,p.26−31
【非特許文献3】下村他,「導電性高分子とシクロデキストリンを用いた分子被覆導線」,高分子加工,49(8),p.361−365(2000年)
【非特許文献4】T.Shimomuraら,“Atomic force microscopy observation of insulated molecular wire formed by conducting polymer and molecular nanotube”,J.Chem.Phys.,116(5),p.1753−1756(2002年)
【非特許文献5】下村他,「分子ナノチューブを用いた分子被覆導線」,表面科学,23(10),p.634−640(2002年)
【非特許文献6】下村他,「導電性ナノファイバー」,高分子,55(3),p.134−137(2006年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、薄膜化と同時に高偏光度、高耐久性および良好な取扱い性を満足することが可能な偏光子、該偏光子が形成された偏光板、該偏光子を用いた光学部材および該光学部材を備える液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、分子チューブと該分子チューブに包接された可視光領域に吸収を有する共役高分子とからなる複合体を含み、該複合体が実質的に一方向に配向してなる偏光子に関する。
【0012】
本発明の偏光子においては、複合体の光吸収ピーク波長が380〜780nmの範囲内にあることが好ましい。
【0013】
本発明の偏光子においては、共役高分子がポリアニリンからなることが好ましい。
本発明の偏光子においては、分子チューブが環状化合物の分子間架橋体からなることが好ましい。
【0014】
また、該環状化合物がシクロデキストリンからなることが好ましい。
本発明はまた、上記の偏光子を得るための製造方法であって、分子チューブと該分子チューブに包接された共役高分子とからなる複合体を形成する複合体形成工程と、該複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、該流動体を支持基板の上に塗布し、該複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を形成する配向工程と、を含む偏光子の製造方法に関する。
【0015】
本発明はまた、上記の偏光子が透明樹脂フィルムの上に形成されてなる偏光板に関する。
【0016】
本発明の偏光板においては、透明樹脂フィルムがセルロース誘導体または環状ポリオレフィンからなることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記の偏光板を得るための製造方法であって、分子チューブと該分子チューブに包接された共役高分子とからなる複合体を形成する複合体形成工程と、該複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、該流動体を透明樹脂フィルムの上に塗布し、該複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を該透明樹脂フィルムの上に形成する配向工程と、を含む偏光板の製造方法に関する。
【0018】
本発明はまた、上記の偏光板を得るための製造方法であって、分子チューブと該分子チューブに包接された共役高分子とからなる複合体を形成する複合体形成工程と、該複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、該流動体を支持基板の上に塗布し、該複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を形成する配向工程と、偏光子と透明樹脂フィルムとを接合する接合工程と、偏光子と支持基板とを分離する分離工程と、を含む偏光板の製造方法に関する。
【0019】
本発明はまた、上記の偏光子と1層以上の光学層との積層体からなる光学部材に関する。
【0020】
本発明の光学部材においては、光学層が位相差板を含むことが好ましい。
本発明はまた、上記の光学部材と、液晶セルと、を備え、該光学部材が該液晶セルの片面または両面に配置されてなる液晶表示装置に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の偏光子においては、共役高分子が分子チューブに包接されるために伸びたコンフォメーションを有する。よって本発明によれば高偏光度を有しかつ取扱い性に優れる偏光子を得ることが可能となる。また、共役高分子が分子チューブに包接されていることにより偏光子の機械強度および耐久性が良好であるため、本発明の偏光子は薄膜化が可能なコーティングタイプとされることができ、該偏光子を用いた偏光板、光学部材によれば、優れた表示特性を有し、軽量でかつ耐久性能に優れる液晶表示装置を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の偏光子は、分子チューブと該分子チューブに包接された可視光領域に吸収を有する共役高分子とからなる複合体(以下、単に複合体とも称する)を含み、該複合体は実質的に一方向に配向している。本発明において、分子チューブとは、内部に空洞を有するチューブ状の分子構造を持つ化合物を意味し、共役高分子とは、分子内に共役多重結合を有する高分子化合物を意味する。本発明の偏光子に含まれる複合体においては、分子チューブが共役高分子を包接していることにより、剛直な分子チューブの空洞内で共役高分子が伸びたコンフォメーションをとることができる。このような複合体が実質的に一方向に配向していることにより本発明の偏光子は高偏光度を有する。また共役高分子が伸びたコンフォメーションをとることにより偏光子の製造時における取扱い性も良好となる。
【0023】
特に、分子チューブが液晶性または結晶性といった自己組織化能を有する場合には、該自己組織化能を利用して複合体を実質的に一方向に配向させることができるため、より高偏光度の偏光子を形成することができる。また、共役系の高分子は一般に酸素等の影響を受けやすいことが知られているが、本発明においては共役高分子が分子チューブで被覆されているため、外部の劣化因子による共役高分子への影響を回避でき、耐熱性、耐湿熱性、耐水性といった各種耐久性能が良好に得られる。よって本発明の偏光子をたとえばコーティング等の方法により単独で形成することによって薄膜化された軽量でかつ耐久性能に優れる偏光板を得ることが可能である。
【0024】
<共役高分子>
以下に、本発明で使用される共役高分子について説明する。共役高分子としては、1種の共役高分子成分を単独で用いても2種以上の共役高分子成分を組み合わせて用いても良い。共役高分子は可視光領域に吸収を有し、典型的には、分子チューブとの複合体とされた状態で、可視光領域、特に380〜780nmの範囲内の光吸収ピーク波長を与える共役高分子が使用されることが好ましい。共役高分子は可視光領域に吸収を有することが、本発明の偏光子を構成する上で必要となるが、共役高分子が可視光領域に光吸収ピーク波長を与える場合であっても、分子チューブに包接されることで、複合体の状態では吸収ピークがシフトすることもあり得る。よって、偏光子を規定する上では複合体の光吸収ピーク波長で考えるのが実用的である。なお、本発明において2種以上の共役高分子成分を組み合わせて用いる場合における複合体の光吸収ピーク波長とは、これら2種以上の共役高分子成分の各々に由来する光吸収スペクトルが重ね合された光吸収スペクトルにおいて吸光度が最大となる波長を意味する。光吸収ピーク波長は、たとえば分光光度計を用いた吸光度の測定から求めることができる。
【0025】
本発明の偏光子が液晶表示装置に使用される場合、該偏光子が可視光領域と紫外域とに吸収を有するように共役高分子成分の種類および組み合わせが選択されることも有用である。この場合、偏光子に紫外線吸収能が付与されるため、該偏光子によって紫外線から液晶分子が良好に保護され得る。偏光子を液晶表示装置の液晶セル内に形成する場合には、液晶分子の保護効果が特に大きい。
【0026】
本発明の偏光子が液晶表示装置に使用される場合、偏光子が可視光領域のほぼ全域を含むブロードな波長域での吸収を有するように共役高分子成分の種類および組み合わせを選択することができる。一方、偏光子とたとえば赤、緑、青の3色のカラーフィルターとを組み合わせる場合には、上記3色の波長領域の各々に対応する吸収波長を持つように共役高分子成分の種類および組み合わせが選択された3種の偏光子を形成しても良い。
【0027】
共役高分子成分の具体例としては、trans−ポリアセチレン、cis−transoidポリアセチレン、trans−cisoidポリアセチレン、ポリフェニルアセチレン、ポリフェニルクロルアセチレン、ポリ(1,6−ヘプタジイン)等のポリアセチレン系、ポリパラフェニレン、ポリメタフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンセレナイド等のポリフェニレン系、ポリピロール、ポリセレノフェノン、ポリチオフェン、ポリテルロフェン、ポリフラン、ポリ2,5−ピリジンジイル等の複素環高分子系、ポリアニリン、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)等のイオン性高分子系、ポリアセン、ポリアセナセン等のラダー状高分子系等が例示できる。これらの共役高分子成分はそれぞれに固有の吸収波長を有するため、各吸収波長に応じた偏光子を作製できる。また、吸収波長が異なる複数の共役高分子成分を組み合わせることにより、吸収波長を広帯域化することができる。
【0028】
共役高分子成分には、たとえばアルカリ金属、金属塩、ヨウ素、有機カルボン酸、スルホン酸等をドーピングすることもできる。この場合、所望の吸収波長を有する共役高分子を比較的簡便に得ることができる点で有利である。
【0029】
吸収波長が可視光領域のほぼ全域に存在する偏光子が求められる場合には、共役高分子がポリアニリンからなることが特に好ましい。ポリアニリンはその酸化状態により、ロイコエメラルディンベース(還元型ポリアニリンとも呼ばれる)、エメラルディンベース(塩基性型ポリアニリン酸化(I)型とも呼ばれる)、パーニグラニリンベース(アニリンブラック酸化(II)型とも呼ばれる)の3種類の構造を有する。ロイコエメラルディンベースには340nm付近にシャープな吸収が、エメラルディンベースには640nm付近にブロードな吸収が、パーニグラニリンベースには540nm付近にブロードな吸収がそれぞれ存在する。上記3種類の構造のポリアニリンの存在比を適切にコントロールすることで、たとえば液晶表示装置において液晶セル内の液晶分子に悪影響を及ぼす紫外線をカットすると同時に可視光領域の全域にわたる吸収帯を得ることができる。
【0030】
共役高分子は一般に水に対して不溶であるが、分子中に親水性官能基を導入し水溶性または水分散性を付与した共役高分子も好ましく使用され得る。親水性の共役高分子を用いる場合には偏光子の作製時に有機溶媒に代えて水または親水性溶媒を用いることができるため、環境保護の観点で好ましい。本発明の偏光子において共役高分子は分子チューブ内に包接されていることによって化学的に安定化されているため、該共役高分子に水溶性または水分散性が付与された場合にも偏光子の耐水性は良好に維持され得る。
【0031】
上記の親水性官能基としては、たとえばスルホン基、アミノ基、アミド基、イミノ基、四級アンモニウム塩基、ヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドラジノ基、カルボキシル基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、またはそれらの塩等が挙げられる。共役高分子の分子中に親水性官能基が導入されることにより、水に溶けやすくなったり、水に微粒子状で分散しやすくなり、水溶性または水分散性の共役高分子を調製することができる。尚、共役高分子の水溶液または水分散液には、水の他に親水性溶媒を含有させることもできる。親水性溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類が挙げられる。
【0032】
共役高分子の好ましい分子量としては、ポリスチレン換算による重量平均分子量で5000〜500000の範囲内が例示できる。該重量平均分子量が5000以上である場合、分子鎖が長く偏光子の偏光度および耐久性能がより良好である点で有利であり、500000以下である場合、分子チューブと共役高分子との複合体を実質的に一方向に配向させる際の取扱い性に優れる点で有利である。
【0033】
水溶性または水分散性の共役高分子のポリスチレン換算による重量平均分子量は、500000以下であることが好ましく、さらに好ましくは300000以下である。該重量平均分子量が500000以下である場合、良好な水溶性または水分散性をより容易に実現できるとともに、分子チューブとの複合体の形成をより容易に行なうことができる点で有利である。一方、水溶性または水分散性の共役高分子のポリスチレン換算による重量平均分子量が10000以上、さらに50000以上である場合、偏光子の偏光度および耐久性能が良好である点で好ましい。
【0034】
水溶性共役高分子の市販品の例としては、ポリアニリンスルホン酸(三菱レーヨン社製,ポリスチレン換算による重量平均分子量150000)等が挙げられる。水分散性共役高分子の市販品の例としては、ポリチオフェン系導電性ポリマー(ナガセケムテック社製、商品名:デナトロンシリーズ)等が挙げられる。
【0035】
<分子チューブ>
本発明で使用される分子チューブは、チューブ状であって共役高分子を包接できるものであればどのようなものでもよい。分子チューブの内径は共役高分子の外径よりも大きくされる。分子チューブ内に共役高分子を包接させる方法としては、共役高分子が単独で存在している状態よりも分子チューブ内に包接された状態において化学的に安定となるように、共役高分子と分子チューブとの分子構造の組み合わせを制御する方法等が例示できる。たとえば、分子チューブの内壁をなす部位と共役高分子とが分子間相互作用を有するように分子チューブおよび共役高分子の分子設計を行なう方法は好ましい。さらに具体的には、分子全体として疎水性である共役高分子を包接させる場合に、チューブの外壁をなす部位に親水性の構造を有し、かつチューブの内壁をなす部位に疎水性の構造を有する分子チューブを組み合わせる方法等が採用され得る。分子チューブの内壁をなす部位と共役高分子とが分子間相互作用を有するような組み合わせにおいて該分子チューブの内径と該共役高分子の外径とが近接している場合、分子チューブ内に共役高分子が包接され易いと考えられるため好ましい。たとえば共役高分子としてポリアニリンを用い、分子チューブとしてシクロデキストリンの分子間架橋体を用いる場合、β−シクロデキストリンの分子間架橋体が好ましく用いられる。
【0036】
また、偏光子の吸収波長の広帯域化や偏光子への紫外線吸収能の付与を目的として複数種類の共役高分子成分を組み合わせた共役高分子を使用する場合、全ての種類の共役高分子成分が分子チューブ内に良好に包接されるようにするため、各々の共役高分子成分の分子半径に応じた分子チューブを準備することが好ましい。
【0037】
分子チューブの具体例としては、たとえば環状化合物の分子間架橋体等が例示でき、具体的には、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンの分子間架橋体が挙げられる。また、これらのシクロデキストリンのエステル、エーテル、エーテル誘導体および塩も環状化合物として使用され得る。
【0038】
上記の環状化合物を筒状に分子間架橋させることにより、本発明において使用される分子チューブを形成することができる。環状化合物を原料とする分子チューブは公知の方法に従って製造されることができ、特許第3288149号に記載のシクロデキストリンポリマーの製造方法に従って上記分子チューブを製造する方法等が採用され得る。より具体的な例を挙げると、まず、α−シクロデキストリン等の環状化合物の環内に直鎖状分子が包み込まれた構造のポリロタキサンを公知の方法(たとえば特開平6−25307号公報に記載の製造方法、但し該公報では、ポリロタキサンは直鎖状分子のα−サイクロデキストリン包接化合物として表現されている)に従って合成する。次に、ポリロタキサンを構成する環状化合物(たとえばα−シクロデキストリン)の架橋剤を加える等の公知の手段で、当該環状化合物を分子間架橋させる。その後、アルカリ等を用いる公知の手段により直鎖状分子の封鎖基を除去し、ポリロタキサン中の直鎖状分子を抜き取ることにより、分子チューブを製造することができる。所望により、上記封鎖基の除去後、さらに、濃縮、転溶、抽出、結晶化、透析、再沈殿等の公知の精製手段を施してもよい。
【0039】
なお上記の方法において、架橋剤としては、たとえばエピクロロヒドリン、ジイソシアネート化合物等が使用され得る。また、アルカリとしては、たとえば強アルカリ等、より具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用され得る。また、直鎖状分子としては、たとえばポリエチレングリコールビスアミン等の如きアミノ化ポリアルキレングリコール類、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフランの如きポリアルキレングリコール類、ポリイソプレンやポリブタジエンの如き共役ジエン系ポリマー類、ポリジメチルシロキサンの如きポリジアルキルシロキサン類、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリイソブチレンの如きポリオレフィン類等が使用され得る。
【0040】
<偏光子>
本発明の偏光子は、分子チューブと共役高分子とからなる複合体を含む。本発明の偏光子がたとえば透明樹脂フィルムの上に形成、保持されて偏光板とされる場合等には、本発明の偏光子は複合体のみからなることができるが、本発明の偏光子は、複合体の他に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等のようなバインダ能力を有する透明樹脂等を含んでいても良い。この場合、偏光子単独の状態での形態保持能がより良好となる。
【0041】
なお、本発明の偏光子が分子チューブ内に共役高分子が包接された構造を有することは、たとえばAFM(原子間力顕微鏡)等を用いた分子サイズの測定等により確認することができる。
【0042】
<偏光板>
本発明はまた、上述した本発明の偏光子が透明樹脂フィルムの上に形成されてなる偏光板をも提供する。本発明において透明樹脂フィルムの上に偏光子が形成されるとは、該透明樹脂フィルムの表面に直接または他の部材を介して偏光子が形成されることを意味する。本発明において使用される透明樹脂フィルムとしては、通常、市販の透明樹脂フィルムが採用され得る。また該透明樹脂フィルムはいずれの製膜法によるものであってもよい。特に、分子チューブと共役高分子との複合体を溶解し得る溶媒への耐溶剤性を有するものが好ましい。また、透明樹脂フィルムの上に偏光子を形成する際の処理温度において収縮等の変形が小さいか、または認められないものが望ましい。具体的には、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、各種ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、各種ポリ(メタ)アクリレート、トリアセチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、環状ポリオレフィン等を例示することができる。中でもトリアセチルセルロース等のセルロース誘導体や環状ポリオレフィンを使用することが特に望ましい。また、透明樹脂フィルムの膜厚に制限はないが、通常20μm〜500μm程度が好ましい。また透明樹脂フィルムには延伸処理が施されていても良い。
【0043】
透明樹脂フィルムにおける偏光子の形成面となる面は、実質的に一方向の配向を有することが好ましい。この場合、該形成面の上に偏光子を形成することによって、偏光子の配向性をより高めることができる点で有利である。表面にラビング処理が施された透明樹脂フィルムは好ましく使用されることができ、この場合、分子チューブと共役高分子との複合体がラビング方向に配向した偏光子を形成することができる。また、透明樹脂フィルムが一軸延伸されたものである場合、該透明樹脂フィルムが実質的に一方向の分子配向を有し、分子チューブと共役高分子との複合体が該分子配向の方向に配向した偏光子を形成することができる。
【0044】
透明樹脂フィルムは、分子チューブと共役高分子との複合体を配向させるための配向層が表面に形成されたものであっても良く、該配向層にラビング処理が施されていても良い。配向層を形成する材料としては、たとえば液晶表示装置において低分子液晶の配向剤として使用される公知のものが使用できる。具体的には、ポリビニルアルコール、加熱処理によりポリイミド化できるような各種のポリアミック酸、ポリイミド、レシチン、各種のカルボン酸クロム錯体、シラン系カップリング剤、酸化珪素の斜方蒸着膜等を例示できる。またラビング処理された配向層としては、通常の液晶表示セル等の製造に使用される公知の方法でラビング処理が施された配向層が使用され得る。なお具体的なラビング処理条件は、使用するラビング布や透明樹脂フィルムの材質等により変化するため、それぞれに適切な条件が選定され得る。
【0045】
本発明の偏光子は良好な機械強度を有するため、透明樹脂フィルムの上に該偏光子が形成されたものをそのまま偏光板として使用できるが、用途に応じて、偏光子が2枚の透明樹脂フィルムで挟まれた構造を有しても構わない。この場合、2枚の透明樹脂フィルムによって偏光子が良好に保護される。また本発明の偏光板は、透明樹脂フィルムの上に形成された偏光子の上に、さらにオーバーコートを有するものであっても良い。この場合該オーバーコートにより偏光子の保護効果が得られる。オーバーコートに用いられる材料は、透明性、機械強度、偏光子との接着性を満足するものであれば、特に限定されない。具体的には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂が好適に使用され得る。
【0046】
<偏光子および偏光板の製造方法>
以下に、本発明の偏光子および偏光板の典型的な製造方法について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
本発明の偏光子は、たとえば、分子チューブと該分子チューブに包接された共役高分子とからなる複合体を形成する複合体形成工程と、該複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、流動体を支持基板の上に塗布し、複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を形成する配向工程とを含む方法により製造されることができる。以下に各工程の典型的な態様について説明する。
【0048】
(複合体形成工程)
分子チューブと共役高分子との複合体の作製方法としては、分子チューブを形成した後に共役系高分子を分子チューブ内に包接させる方法や、分子チューブの原料である環状化合物の環の部分に共役高分子を包接させた後、該環状化合物を分子間架橋させて分子チューブを形成する方法等が好ましく採用され得る。
【0049】
まず、分子チューブを形成した後に共役高分子を分子チューブ内に包接させる方法について以下に説明する。分子チューブを作製するための公知の方法として前述したような方法で分子チューブを作製し、得られた分子チューブを水または有機溶剤に溶解させ、これを共役高分子の溶液または分散液と混合する。本発明において使用される分子チューブは共役高分子を包接する機能を有し、分子チューブと共役高分子との組み合わせを選択することにより、上記のような混合によって共役高分子が分子チューブ内に包接され、複合体が形成され得る。なお、特に共役高分子が分散液の状態で分子チューブと混合される場合には、上記の混合の後に加熱下で超音波処理を行なって分子チューブと共役高分子とを複合化することが好ましい。また、分子チューブと共役高分子との複合化の後、共役高分子の末端もしくは分子チューブの末端孔を化学的に封止しても良い。複合化後または末端の封止後に、さらに濃縮、転溶、抽出、結晶化、透析または再沈殿等の公知の精製手段を用いても良い。上記方法により、共役高分子が分子チューブ内に包接されることにより該共役高分子が該分子チューブで被覆された複合体を得ることができる。
【0050】
次に、分子チューブの原料である環状化合物の環の内部に共役高分子を包接させた後、該環状化合物を分子間架橋させて分子チューブを形成する方法について説明する。この方法において用いられる分子チューブも、あらかじめ分子チューブを形成した後に該分子チューブと共役高分子とを複合化する方法で用いられる分子チューブと同様に、チューブ状であって共役高分子を包接できるものであればどのようなものでも良い。具体的には、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンの分子間架橋体が挙げられる。また、これらのシクロデキストリンのエステル、エーテル、エーテル誘導体および塩も環状化合物として使用できる。
【0051】
環状化合物としてシクロデキストリンを用いる場合を例に典型的な方法について説明すると、たとえば特開平6−25307号公報に記載されるような公知の方法で、多数連なったシクロデキストリンの環の内部に共役高分子が包接されたポリロタキサンを合成した後、架橋剤を加える等の公知の手段でシクロデキストリンを分子間架橋させ、ついでアルカリ等を用いる公知の手段によりポリロタキサンの封鎖基を除去する方法等が採用される。なお本発明においては、複合体中に上記の封鎖基を残存させても良い。分子間架橋後または上記封鎖基の除去後、さらに、濃縮、転溶、抽出、結晶化、透析、再沈殿等の公知の精製手段を用いても良い。
【0052】
架橋剤としては、たとえばエピクロロヒドリン、ジイソシアネート化合物等が使用され得る。また、アルカリとしては、たとえば強アルカリ等、より具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用され得る。
【0053】
(流動体調製工程)
次に、上記のような方法で作製した複合体を実質的に一方向に配向させる。複合体を配向させる方法としては、たとえば、複合体を溶融したり溶媒に溶解したりする方法で複合体の流動体を調製し、該流動体を支持基板の上に塗布し、複合体層を形成する方法等が採用され得る。複合体を溶融して得た流動体を用いる場合には、該流動体を塗布した後に冷却、固化する方法によって、また複合体を溶媒に溶解して得た流動体を用いる場合には、該流動体を塗布した後に乾燥する方法によって、それぞれ複合体層を形成できる。複合体層の膜厚均一性が良好である点で、該流動体は、共役高分子と分子チューブとの複合体を溶解し得る溶剤に該複合体を溶解させた溶液であることが好ましい。
【0054】
上記の溶液の調製に用いる溶剤に関しては、複合体を溶解させることができ、かつ適当な条件で留去できる溶剤であれば特に制限は無く、一般的にアセトン、メチルエチルケトン、イソホロン等のケトン類、2−ブトキシエチルアルコール、2−ヘキシルオキシエチルアルコール、1−メトキシ-2-プロパノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸メトキシプロピル、乳酸エチル等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、水、およびこれらの混合系の溶剤を使用することができる。また、複合体層の膜厚均一性をより良好にする観点で、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜溶液に添加することができる。
【0055】
(配向工程)
上記で調製した流動体を支持基板の上に塗布し、複合体が実質的に一方向に配向した偏光子を作製する。流動体が塗布される支持基板の材料としては、自身がラビング処理可能でありかつ耐熱性を有するものが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、セルロース誘導体、環状ポリオレフィン等が好ましい。支持基板としては長尺のフィルム、あるいは適当な大きさの枚葉が使用できるが、生産効率の観点から長尺フィルムを用いることが好ましい。
【0056】
複合体を含む流動体を支持基板の上に塗布する方法は、特に限定されず、たとえば、スピンコート法、バーコート法、ロールコート法、カーテンコート法、および、スロットコートやエクストルージョンコート等のダイコート法等を採用することができる。複合体を含む流動体として複合体の溶液を用いる場合には、該溶液を塗布した後、ヒーター加熱や温風吹きつけ等の方法によって溶剤を乾燥除去し、複合体層を形成することができる。
【0057】
本発明においては、表面が実質的に一方向に配向した配向支持基板を用いることが好ましい。この場合、該配向支持基板の上に複合体の流動体を塗布することによって該複合体がより配向し易くなり、より高い偏光度を有する偏光子を簡便に形成できる点で有利である。配向支持基板としては、表面にラビング処理を施した支持基板や、一軸延伸等によって一方向に分子配向させた延伸フィルム等が好ましく採用され得る。
【0058】
本発明の偏光子が透明樹脂フィルムの上に形成されることにより偏光板として使用される場合には、該透明樹脂フィルムを偏光子の作製時における支持基板としても良い。
【0059】
本発明においては、分子チューブと共役高分子とからなる複合体の配向をより完全に近いものとするために、上記の方法において複合体を含む流動体を乾燥させた後、熱処理を実施しても良い。この場合の熱処理温度は、使用される共役高分子と分子チューブとの複合体の液晶性や結晶性により最適条件や限界値が異なるため一概には言えないが、通常50〜300℃の範囲内、より好ましくは50〜250℃の範囲内、さらに好ましくは80〜230℃の範囲内とされることができる。該熱処理温度が50℃以上である場合には、共役高分子と分子チューブとの複合体の流動性が良好であるため該複合体を良好に配向させることができる点で有利である。また該熱処理温度が300℃以下である場合には、共役高分子と分子チューブとの複合体の分解が生じ難い点で有利である。
【0060】
上記熱処理における熱処理時間は、通常、10秒〜2時間の範囲内、より好ましくは30秒〜1時間の範囲内、さらに好ましくは1分〜30分の範囲内とされることができる。該熱処理時間が10秒以上である場合、所望の配向状態を良好に完成させることができる点で有利であり、2時間以下である場合、生産性が良好である点で有利である。
【0061】
上記の熱処理の後には、複合体層を冷却することにより複合体の配向状態を固定化することができる。複合体層の冷却方法は特に制限されるものではない。通常、上記のような熱処理を行なった後、複合体層が形成された支持基板ごと室温中に取り出すことによって、該支持基板の上に形成された複合体層の配向状態を固定化することが可能である。また、共役高分子と分子チューブとの複合体の種類に応じて、または生産性の観点から、たとえば冷風吹きつけや冷却ロールとの接触等の強制冷却手段を用いることによって配向状態を固定化しても良い。
【0062】
上記のような方法によって、複合体が実質的に一方向に配向した偏光子を得ることができるが、必要に応じて延伸を実施することも有用である。偏光子の膜厚は特に制限されるものではなく、所望の偏光度が得られれば特に限定されない。たとえば液晶表示装置等の分野において使用する場合には、通常、該膜厚は0.1μm以上、さらに0.3μm以上であることが好ましく、また100μm以下であることが好ましい。該膜厚が0.1μm以上である場合、偏光子の膜厚を精度良く制御することができるとともに、共役高分子と分子チューブとの複合体が配向した構造に起因する機能が良好に発揮される点で有利である。また、該膜厚が100μm以下である場合、複合体の配向状態が良好となり、また良好に薄膜化された偏光子が得られる点で有利である。
【0063】
支持板上に形成された偏光子が自己支持性を有している場合には、偏光子を形成した後に支持基板を剥離除去することによって、偏光子単独で各種用途に適用することも可能であるし、支持基板として透明樹脂フィルムを用い、該透明樹脂フィルム上に偏光子が形成された状態で、たとえば偏光板として用いても良い。一方偏光子が自己支持性を有しない場合には、支持基板として透明樹脂フィルムを用い、該透明樹脂フィルム上に偏光子が形成された状態で、たとえば偏光板として用いることができる。
【0064】
透明樹脂フィルム等の支持基板上に偏光子を形成する場合であっても、支持基板の光学特性によっては、該支持基板と該偏光子とを組み合わせたまま偏光板として用いるのが不適当である場合がある。このような場合には、支持基板の上に偏光子を形成した後、適切な他の透明樹脂フィルムに該偏光子を転写し、支持基板を剥離除去することによって、偏光板を作製することが好ましい。
【0065】
偏光子を支持して偏光板とするために用いられる透明樹脂フィルムとしては、透明で光学的に等方性であるものが好ましく、具体的には、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、環状ポリオレフィン、ポリアリレート、トリアセチルセルロース等のセルロース誘導体、無色透明ポリイミド等が例示される。偏光子を支持する透明樹脂フィルムの厚みは、通常、0.1μm〜10mmの範囲内、好ましくは1μm〜2mmの範囲内とされることができる。透明樹脂フィルムの厚みが上記の範囲内であれば、最終用途において何ら支障をきたすことがない。
【0066】
偏光子の透明樹脂フィルムへの転写方法は、特に制限されるものではないが、支持基板の上に形成された偏光子と、透明樹脂フィルムとを、粘接着剤の層を介して貼り合わせ、必要により該粘接着剤に硬化処理を施した後に、支持基板を剥離除去する方法等が好ましく採用され得る。
【0067】
支持基板を剥離除去する方法についても特に制限されるものではないが、たとえば、支持基板または透明樹脂フィルムのコーナー端部に粘着テープを貼り付けて人為的に剥離する方法、ロール等を用いて機械的に剥離する方法、構成材料全てに対する貧溶媒に浸積した後に機械的に剥離する方法、該貧溶媒中で超音波を照射して剥離する方法、支持基板と透明樹脂フィルム/偏光子積層体との熱膨張係数の差を利用し、温度変化を与えて剥離する方法等を適宜採用することができる。上記で説明したような剥離転写の工程は、偏光子をたとえば長尺のロール状フィルムとして得る場合、該ロール状フィルムを所望の大きさに裁断した後に行なうことも可能であるし、長尺のまま行なうことも可能である。
【0068】
上記の剥離転写に用いられる粘接着剤の塗布方法には特に制限は無く、また使用できる粘接着剤も特に制限されるものではないが、最終用途によっては、粘接着剤の種類として光学的に等方性のものが望ましい場合がある。光学的に等方性の粘接着剤としては、たとえばアクリル系、ポリウレタン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、各種ゴム系等の粘接着剤や、各種の反応性の粘接着剤が挙げられる。反応性の粘接着剤としては、熱硬化型、光硬化型または電子線硬化型の粘接着剤等が挙げられ、より具体的には、アクリル系のモノマーやオリゴマーを主成分とするものを好適に使用することができる。なお粘接着剤には、必要に応じて各種の光重合開始剤、増感剤、粘度調整剤等を添加することもできる。反応性の粘接着剤の硬化方法は、特に制限されるものではなく、光硬化法、電子線硬化法等を適宜採用できるが、偏光子の配向状態を損なわない範囲で実施することが望ましい。
【0069】
反応性の粘接着剤を光硬化法によって硬化させる場合は、公知の硬化手段として、たとえば低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を使用することができる。また上記の硬化手段の露光量は、用いる反応性の粘接着剤の種類により異なるため一概には言えないが、通常50〜2000mJ/cm2の範囲内、好ましくは100〜1000mJ/cm2の範囲内とされることができる。
【0070】
一方、反応性の粘接着剤を電子線硬化法によって硬化させる場合に照射される電子線の加速電圧は、電子線の透過力や硬化力により適宜選定されるものであり一概にはいえないが、通常、30〜1000kV、好ましくは50〜500kVの条件とされることができる。
【0071】
透明樹脂フィルムの上に偏光子が形成されてなる本発明の偏光板は、前述したような偏光子の製造方法における支持基板として、前述したような透明樹脂フィルムを用い、該透明樹脂フィルムの上に偏光子を形成する方法や、支持基板上に偏光子を形成した後、該偏光子を透明樹脂フィルム上に転写する方法等によって好ましく製造され得る。
【0072】
まず、偏光子の製造方法について上述したような複合体形成工程および流動体調製工程により、分子チューブと共役高分子とからなる複合体を形成し、さらに該複合体を含む流動体を調製する。次に、透明樹脂フィルムまたは支持基板の上に該流動体を溶融塗布法や溶液塗布法等の任意の方法により塗布した後乾燥して複合体層を形成し、さらに必要に応じて熱処理および冷却を行なって複合体の配向状態の固定化を行なうことにより、透明樹脂フィルムまたは支持基板の上に偏光子を形成する。偏光子の膜厚均一性が良好である点で、前述したような、共役高分子と分子チューブとの複合体を溶解し得る溶剤に該複合体を溶解して得た溶液を流動体として用いることが好ましい。この場合、該流動体を、前述したような適宜の塗布手段により透明樹脂フィルムまたは支持基板の上に塗布した後、該溶剤を乾燥除去することにより偏光子を形成することができる。
【0073】
上記で透明樹脂フィルムの上に偏光子を形成した場合はそのまま偏光板として使用しても良い。一方、偏光子を形成した支持基板が偏光板として適当でない場合には、偏光子を支持基板から透明樹脂フィルムに転写して偏光板とすることができ、この場合は、偏光子と透明樹脂フィルムとを粘接着剤層を介して貼り合わせる方法等によって偏光子と透明樹脂フィルムとを接合し(接合工程)、必要により該粘接着剤に硬化処理を施した後、偏光子から支持基板を剥離除去して偏光子と支持基板とを分離する(分離工程)。このような剥離転写のさらに具体的な方法としては、先に説明した支持基板の上に偏光子を形成した後、該偏光子を透明樹脂フィルムに転写して支持基板を偏光子から剥離するのと同様の方法が採用され得る。
【0074】
本発明において偏光子の上にオーバーコートを有する偏光板を製造する場合は、たとえば、透明樹脂ワニスを偏光子上に塗布した後、溶媒を除去する方法や、無溶剤の紫外線硬化型樹脂または熱硬化型樹脂を塗工した後、それぞれ紫外線照射または加熱処理を施す方法等により、偏光子の上にオーバーコートを施せば良い。
【0075】
<光学部材>
本発明は、上述した本発明の偏光子と1層以上の光学層との積層体からなる光学部材をも提供する。光学層としては、位相差板、集光シート、拡散フィルム、導光板、光反射シート、輝度向上フィルム、防眩性シート等が例示され、これらの光学層を目的に応じて組み合わせることによって光学部材に所望の光学特性を持たせることができる。光学層は位相差板を含むことが好ましく、具体的には、直線偏光の向きを変えるλ/2板や、円偏光を形成するλ/4板等が好ましく使用され得る。
【0076】
光学部材の典型的な構成としては、たとえば、位相差板、偏光子(または偏光板)、拡散フィルム、集光シート、導光板、光反射シートをこの順に積層した構成や、位相差板、偏光子(または偏光板)、輝度向上フィルムをこの順に積層した構成、位相差板と偏光子(または偏光板)とをこの順に積層した構成等が例示できる。
【0077】
<液晶表示装置>
本発明はまた、上述した光学部材と液晶セルとを備え、該光学部材が該液晶セルの片面または両面に配置されてなる液晶表示装置をも提供する。液晶表示装置の作製に際しては、上述したような本発明の光学部材の表面に粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介して光学部材と液晶セルとを貼合することができる。液晶表示装置を構成する液晶セルは、TN(Twisted Nematic)、STN(Super Twisted Nematic)、 VA(Vertical Alignment)、 IPS(In−Plane Switching)等、液晶表示装置の分野で知られている各種のモードのものであることができる。なお液晶セルは、典型的には、1対の基板と、該基板で挟まれた領域内に対向して設けられた1対の電極と、電極間に充填された液晶層とを少なくとも含む構造を有する。
【0078】
図1は、本発明の液晶表示装置の構成の要部の一例を示す概略断面図である。液晶表示装置1は、液晶セル11と光学部材12とを備える。液晶セル11は、1対の基板111,112と、該基板111,112で挟まれた領域内に対向して設けられた1対の電極113,114と、該電極113,114の間に充填された液晶層115とからなる。光学部材12は液晶セル11の背面側に設けられ、位相差板121と偏光子122とからなる。液晶セル11の表面側には偏光子132が設けられている。すなわち図1に示す構成においては液晶セルの片面に光学部材が形成されている。なお各々の構成部材は粘着剤層(図示せず)を介して互いに接着され得る。
【0079】
図2は、本発明の液晶表示装置の構成の要部の別の例を示す概略断面図である。液晶表示装置2は、図1と同様の液晶セル11および光学部材12を備え、さらに液晶セル11の表面側には位相差板131と偏光子132とからなる光学部材13を備える。すなわち図2に示す構成においては液晶セルの両面に光学部材が形成されている。
【0080】
図1および図2においては、偏光子132が単独で形成される場合について示しているが、本発明の液晶表示装置においては、上記の偏光子に代えて、該偏光子が透明樹脂フィルムの上に形成されてなる偏光板を設けても良い。また図1および図2においては光学部材の構成要素として位相差板と偏光子のみを示しているが、光学部材12は、液晶セル側から順にたとえば、位相差板、偏光子(または偏光板)、拡散フィルム、集光シート、導光板、光反射シートをこの順に積層した構成や、位相差板、偏光子(または偏光板)、輝度向上フィルムをこの順に積層した構成、位相差板と偏光子(または偏光板)とをこの順に積層した構成等とされることができる。また、光学部材13は、液晶セル側から順にたとえば位相差板、偏光子、防眩シートが積層された構成とされることができる。この他にも、本発明の液晶表示装置における光学部材および液晶セルの積層構造は目的に応じて適宜選択され得る。
【0081】
本発明の液晶表示装置は、図1および図2に示すように偏光子が液晶セルの外側に設けられた構造を有しても良く、該偏光子が液晶セルの内部に設けられた構造を有しても良い。
【0082】
<実施の形態>
本発明のさらに具体的な実施の形態について以下に説明する。
【0083】
たとえば前述の非特許文献4に記載の方法に準じた方法によれば、共役高分子であるアニリンブラックと、β−シクロデキストリン由来の分子チューブとの複合体を合成することができる。得られる複合体をN−メチルピロリドンに溶解して、5重量%の複合体溶液とする。一方、トリアセチルセルロースフィルム上にポリビニルアルコール水溶液をキャストし、乾燥した後、ラビング処理して、表面に配向層が設けられた透明樹脂フィルムを形成する。この配向層の上に、上記で得た複合体溶液をキャストし、乾燥させて、複合体層からなる本発明の偏光子を形成する。本発明の偏光子において、分子チューブと共役高分子とからなる複合体が形成されていること、および該複合体が実質的に一方向に配向していることは、たとえばAFM(原子間力顕微鏡)による形態観察等により確認することができる。さらに、該偏光子の表面に、アクリル系の紫外線硬化樹脂を塗工し、紫外線を照射して硬化させることによりオーバーコートを形成することができる。上記のような方法により、透明樹脂フィルムの上に偏光子が形成された偏光板を形成することができる。
【0084】
上記の方法で得られる偏光子の厚みは30〜90μm程度とされ、かつ偏光度は90〜100%程度とされることができる。よって本発明によれば、薄膜化されかつ高偏光度の偏光子を得ることができる。
【0085】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の偏光子、偏光板および光学部材は、たとえばカーナビゲーションシステム用、携帯電話用、パーソナルコンピュータをはじめとする各種モニター用、テレビ用等、種々の用途の液晶表示装置に対して好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の液晶表示装置の構成の要部の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の液晶表示装置の構成の要部の別の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1,2 液晶表示装置、11 液晶セル、12,13 光学部材、111,112 基板、113,114 電極、115 液晶層、121,131 位相差板、122,132 偏光子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子チューブと前記分子チューブに包接された可視光領域に吸収を有する共役高分子とからなる複合体を含み、
前記複合体が実質的に一方向に配向してなる、偏光子。
【請求項2】
前記複合体の光吸収ピーク波長が380〜780nmの範囲内にある、請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
前記共役高分子がポリアニリンからなる、請求項1または2に記載の偏光子。
【請求項4】
前記分子チューブが環状化合物の分子間架橋体からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の偏光子。
【請求項5】
前記環状化合物がシクロデキストリンからなる、請求項4に記載の偏光子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の偏光子を得るための製造方法であって、
前記分子チューブと前記分子チューブに包接された前記共役高分子とからなる前記複合体を形成する複合体形成工程と、
前記複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、
前記流動体を支持基板の上に塗布し、前記複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を形成する配向工程と、
を含む、偏光子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の偏光子が透明樹脂フィルムの上に形成されてなる、偏光板。
【請求項8】
前記透明樹脂フィルムがセルロース誘導体または環状ポリオレフィンからなる、請求項7に記載の偏光板。
【請求項9】
請求項7または8に記載の偏光板を得るための製造方法であって、
前記分子チューブと前記分子チューブに包接された前記共役高分子とからなる前記複合体を形成する複合体形成工程と、
前記複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、
前記流動体を、前記透明樹脂フィルムの上に塗布し、前記複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を前記透明樹脂フィルムの上に形成する配向工程と、
を含む、偏光板の製造方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の偏光板を得るための製造方法であって、
前記分子チューブと前記分子チューブに包接された前記共役高分子とからなる前記複合体を形成する複合体形成工程と、
前記複合体を含む流動体を調製する流動体調製工程と、
前記流動体を支持基板の上に塗布し、前記複合体を実質的に一方向に配向させた偏光子を形成する配向工程と、
前記偏光子と透明樹脂フィルムとを接合する接合工程と、
前記偏光子と前記支持基板とを分離する分離工程と、
を含む、偏光板の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の偏光子と、1層以上の光学層との積層体からなる、光学部材。
【請求項12】
前記光学層が位相差板を含む、請求項11に記載の光学部材。
【請求項13】
請求項11または12に記載の光学部材と、液晶セルと、を備え、前記光学部材が前記液晶セルの片面または両面に配置されてなる、液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−65134(P2008−65134A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244127(P2006−244127)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】