説明

偏光板および偏光板用接着剤

【課題】 耐水性に優れ、高温高湿度下での耐変色性に優れる偏光板を提供すること。
【解決手段】 偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤層を介して保護フィルムが積層されてなる偏光板において、前記接着剤層がアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物との反応生成物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などの画像表示装置に用いられる偏光板、及びかかる偏光板の製造時に用いられる、偏光フィルムと保護フィルムとの接着に好適な偏光板用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は液晶テレビ、パーソナルコンピューター、携帯電話、デジタルカメラなどの画像表示装置として広く用いられている。液晶表示装置はガラス基板に液晶を封入した液晶セルの両側に偏光フィルムを配置し、必要に応じて位相差板などの各種光学素子が積層された構成からなる。かかる偏光フィルムとしてはポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する。)中にヨウ素などの二色性材料が分散、吸着され、ホウ酸などの架橋剤によって架橋された一軸延伸フィルムが用いられている。
【0003】
かかるPVA系樹脂の一軸延伸フィルムは高湿度下において収縮しやすく、通常は、その両側または片側にトリアセチルセルロースなどの保護フィルムを貼り合わせることで耐湿性や強度を補い、これらを合わせて偏光板として用いられている。
かかる偏光板において偏光フィルムと保護フィルムとを貼着する接着剤としては、偏光フィルムとして用いるPVA系樹脂フィルムとの接着性の点から、PVA系樹脂を主体とする接着剤が多用されているが、PVA系樹脂は親水性が高く、吸湿によってその特性が大きく低下する場合があり、かかる接着剤用途においても高湿度下では偏光フィルムと保護フィルムが剥がれるなど、耐久性に問題点を有するものであった。
【0004】
上記の問題に対して、PVA系接着剤としてアセト酢酸エステル基を含有するPVA系樹脂(以下、AA化PVA系樹脂と略記する。)を用い、架橋剤を併用することで耐湿性を向上させた接着剤、およびかかる接着剤を用いた偏光板が提案されている(例えば、特許文献1および2参照。)
【特許文献1】特開2005−189615号公報
【特許文献2】特開2006−145938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、液晶表示装置の適用範囲が拡大するとともに、使用環境の多様化への対応が必要となり、例えば、高温高湿下といった過酷な環境下での耐久性が求められるようになった。
上述の特許文献1および2に記載のAA化PVA系樹脂と架橋剤を含有する接着剤は、通常の使用条件下においては優れた耐水性、耐湿性を示すが、かかる接着剤を用いて得られた偏光板を高温高湿下で長期にわたって使用した場合、わずかながら変色が認められ、高性能化、高精細化が進む液晶表示装置において問題となる可能性があった。
【0006】
また、PVA系樹脂を含有する偏光板用接着剤は、通常、水溶液として使用されるが、AA化PVA系樹脂と特許文献2に記載の各種架橋剤とを含有する水溶液は水中で架橋反応が進行し、徐々に増粘、ゲル化して使用不能になったり、基材である偏光フィルム等への塗工作業性が低下するという問題があった。また、特許文献1に記載の通り、架橋剤としてメチロールメラミンを用い、系のpHを4.3以下にすることで、耐水性を低下させずにポットライフを長くすることが可能であるが、強酸性の材料は作業者にとって危険であり、また、金属製である装置の腐蝕や、耐久性低下の原因となる場合があり、好ましいものではなかった。
【0007】
すなわち本発明は、耐水性、耐湿性に優れるとともに、高温高湿度下における耐変色性に優れる偏光板、およびかかる偏光板に用いられる、粘度安定性に優れ、使用する際のpHの自由度が高い偏光板用接着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤層を介して保護フィルムが積層されてなる偏光板において、かかる接着剤層に、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物の反応生成物を含有する偏光板、およびアセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂と分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物を含有する偏光板用接着剤によって本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明で用いられるアセタール化合物中のジアルキルアセタール基は、AA化PVA系樹脂と混合して得られる水性接着剤の貯蔵時や使用時の環境温度である5〜40℃では安定にアセタール構造を保持するため、AA化PVA系樹脂中のアセト酢酸エステル基と反応することはなく、かかる接着剤を偏光フィルムと保護フィルムの接着に供し、その乾燥時あるいはその後の熱処理時、例えば40〜200℃においてジアルキルアセタール基が加水分解によってアルデヒド基へと変換され、その結果、複数のアルデヒド基を有する化合物となり、これらのアルデヒド基がアセト酢酸エステル基と反応してPVA系樹脂を架橋し、AA化PVA系樹脂架橋物に優れた耐水性と耐湿性を付与するものと推定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の偏光板は、高温高湿下での耐変色性に優れることから、様々な使用環境で用いられる液晶表示装置に対して好適であり、さらにかかる偏光板に用いられる偏光板用接着剤は、粘度安定性に優れ、pHの自由度が高いことから、工業上有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、偏光フィルムの少なくとも片面に、AA化PVA系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物の反応生成物を含有する接着剤層を介して保護フィルムが積層されてなる偏光板に関するものであり、さらにはかかる偏光板の接着剤層に用いられる、アセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂と分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物を含有する偏光板用接着剤に関するものである。
【0013】
(偏光板)
まず、本発明の偏光板について説明する。
本発明の偏光板に用いられる偏光フィルムとしては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、(i)PVA系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン−ビニルアルコール樹脂系フィルム、等のビニルアルコール系樹脂フィルムに、ヨウ素や二色性色素などの二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの(例えば、特開2001−296427号公報、特開平7−333426号公報参照。)、(ii)(i)において二色性材料とともに液晶性を有する複屈折材料をビニルアルコール系樹脂フィルム中に有するもの(例えば、特開2007−72203号公報参照。)、(iii)二色性材料を含有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを一軸延伸したもの(例えば、特開2001−356213号公報参照。)、(iv)PVA系樹脂やエチレン−ビニルアルコール樹脂を脱水あるいは脱酢酸して連続するポリエン構造を導入し、これを延伸して得られるポリエン系フィルム(例えば、特開2007−17845号公報参照。)、などを挙げることができる。
【0014】
中でも、PVA系フィルムとヨウ素などの二色性材料からなる偏光フィルムが好適である。以下、PVA系フィルムとヨウ素からなる偏光フィルムについて説明する。
PVA系フィルムに用いられるPVA系樹脂としては、通常、酢酸ビニルに代表される脂肪酸ビニルエステルを重合して得られたポリビニルエステルをケン化して製造されるが、偏光特性を損なわない範囲において、少量の共重合体であってもよく、例えば不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等、酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合物をケン化したものであっても良い。PVA系樹脂のケン化度は通常85〜100モル%であり、特に90〜100モル%、さらには95〜100モル%のものが好ましく用いられる。 かかるケン化度が低すぎる場合には偏光フィルム作成時に耐水性が不足する傾向がある。
【0015】
また、PVA系樹脂の平均重合度は任意のものが使用可能であるが、通常1200〜7000であり、特に1500〜5000、さらには1600〜4000のものが用いられる。かかる平均重合度が低すぎると、偏光フィルム作成時において高延伸することが困難になる傾向があり、高すぎる場合にはフィルムの表面平滑性や透過率が低下する傾向がある。なお、PVA系樹脂のケン化度および平均重合度はJIS K6726に準じて測定したものである。
【0016】
かかる偏光フィルムの製造法としては、特に限定されず、公知の方法を採用すればよいが、以下に代表的な例を説明する。
まずPVA系樹脂の水溶液から原反フィルムが形成される。かかる方法としては公知の製膜法を用いることができ、通常は溶液流延法が採用されているが、乾・湿式製膜法やゲル製膜法等も実施可能である。かかる溶液流延法を用いる場合、PVA系樹脂水溶液の濃度は通常1〜50重量%であり、かかる水溶液を金属ロール等に流延し、加熱乾燥することで原反フィルムがえられる。
【0017】
かかるPVA系樹脂水溶液には、偏光板の品質を阻害しない範囲で各種添加剤を加えることも可能であり、例えば基材への親和性や揮発性の調整等の目的により各種溶剤を単独で、もしくは混合して配合することも好ましい実施態様である。かかる溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどの1価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、フェノール、クレゾール等のフェノール類、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等を挙げることができる。
【0018】
かかる原反フィルムの膜厚は、通常30〜100μm、好ましくは50〜90μmである。かかる膜厚が薄すぎる場合には延伸不能となる傾向があり、厚すぎる場合には膜厚精度が低下する傾向がある。
【0019】
かかる原反フィルムはこの後、一軸延伸、ヨウ素あるいは二色性染料等の二色性材料を吸着、ホウ素化合物による架橋という工程を経るが、これらの各工程はそれぞれを別々に行っても同時に行ってもよく、また、各工程の順番も特に限定されるものではない。特に、二色性材料の吸着工程、ホウ素化合物処理工程の少なくとも一方に一軸延伸を行うことが生産性の点で好ましい。
【0020】
一軸延伸する際の延伸倍率は、通常3.5〜10倍であり、特に4.5〜7倍の範囲が好ましく選択される。この際、前記と直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度あるいはそれ以上の延伸)を行っても差し支えない。延伸時の温度条件は通常40〜130℃の範囲から選択される。なお、かかる延伸操作は一段階のみに限定されず、多段階で行うことも可能で、さらには、製造工程の任意の段階で個別に実施することもでき、その場合であっても、延伸倍率は最終的に上記の範囲に設定されれば良い。
【0021】
かかるPVA系延伸フィルムへのヨウ素の吸着は、フィルムにヨウ素を含有する液体を接触させることによって行われる。かかるヨウ素溶液としては、通常はヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、その場合のヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は10〜50g/L、ヨウ化カリウム/ヨウ素の重量比は20〜100が好適である。また、PVA系延伸フィルムを二色性材料溶液に接触させる時間は30〜500秒程度が実用的であり、浴の温度は30〜80℃が好ましい。なお、接触手段としては浸漬、塗布、噴霧等の任意の手段が適用できる。
【0022】
ヨウ素が吸着されたPVA系延伸フィルムは次いでホウ素化合物によって架橋処理される。かかるホウ素化合物としてはホウ酸、ホウ砂が代表的に用いられる。かかる架橋処理は、上述で得られたフィルムをホウ素化合物の水溶液あるいは水−有機溶媒混合溶液に接触させて行われ、かかる接触法としては代表的には浸漬法であるが、塗布法、噴霧法でも実施可能である。なお、浸漬法の場合、その濃度は通常0.5〜2モル/Lの範囲が選択され、浴の温度は通常50〜70℃程度、処理時間は通常5〜20分程度が好ましく用いられる。
【0023】
かくして得られたPVA系フィルムとヨウ素からなる偏光フィルムは、次いで接着剤層を介して保護フィルムと積層される。かかる保護フィルムの厚みは通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmであり、その素材としてはとくに限定されるものではなく、透明で耐久性に優れるものであれば好ましく、公知のものを使用することができ、例えば、セルロースエステル系樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂フィルム、(メタ)アクリル系樹脂フィルム、などを好適なものとして挙げることができる。
【0024】
かかるセルロースエステル系樹脂フィルムに用いられるセルロースエステル系樹脂としては、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースが代表的なものとして挙げられるが、その他にもセルロースの低級脂肪酸エステルや、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートなどの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、かかるセルロースエステル系樹脂フィルムは、偏光フィルムやその接着剤として使用されるPVA系樹脂との親和性を高めるために、はアルカリ水溶液などによってケン化処理が行われるが、これに限定されるものではない。また、帯電防止剤を表面に塗布あるいはフィルム中に含有させたものも好ましく用いられる。
【0025】
前述の環状オレフィン系樹脂フィルムに用いられる環状オレフィン系樹脂の代表的なものとしては、ノルボルネン系樹脂を挙げることができ、かかるノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネンモノマーを付加重合させた樹脂、ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーと付加共重合させた樹脂などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二量体;ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体;テトラシクロペンタジエンなどの七環体;これらのメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル、ビニルなどのアルケニル、エチリデンなどのアルキリデン、フェニル、トリル、ナフチルなどのアリールなどの置換体;さらにこれらのエステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン、アルコキシカルボニル基、ピリジル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミノ基、無水酸基、シリル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの炭素、水素以外の元素を含有する基を有する置換体などが挙げられる。
環状オレフィン系樹脂フィルムの市販品としては、JSR社製「ARTON」、日本ゼオン社製「ZEONOR」、「ZEONEX」、日立化成工業社製「OPTOREZ」、三井化学社製「APEL」などを挙げることができる。
【0026】
また、前述の(メタ)アクリル系樹脂フィルムに用いられる(メタ)アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高Tg(メタ)アクリル系樹脂、ゴム−アクリル系グラフト型コアシェルポリマーなどが挙げられる。
かかる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの市販品としては、三菱レイヨン社製「アクリペットVRL20A」、「アクリペットIRD−70」、UMGABS社製「MUX−60」などが挙げられる。
【0027】
なお、これらの保護フィルム以外にも、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂フィルム、水溶性ポリエーテルサルホン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、塩化ビニル系樹脂フィルム、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂フィルム、(含フッ素)ポリイミド系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂フィルム、ポリフェニレンスルフィド系樹脂フィルム、ビニルアルコール系樹脂フィルム、塩化ビニリデン系樹脂フィルム、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール系樹脂フィルム、ポリアリレート系樹脂フィルム、ポリオキシメチレン系樹脂フィルム、エポキシ樹脂系フィルムなどを挙げることができる。また保護フィルムとして、たとえばアクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂などの硬化層や、特開2001−343529号公報記載のポリマーフィルム(具体的にはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂フィルム等を用いることもできる。などを挙げることができる。
【0028】
これらの保護フィルムの中でも透明性、耐熱性、機械強度、耐久性などの観点から、セルロースエステル系樹脂フィルムや環状オレフィン系樹脂フィルムが好ましく用いられ、中でもトリアセチルセルロース、あるいはノルボルネン系樹脂が好適に用いられる。
【0029】
なお、かかる保護フィルムは、偏光フィルムやその接着剤として使用されるPVA系樹脂との親和性を高めるために、各種表面処理を行うことも可能であり、かかる表面処理としては、前述のセルロースエステル系樹脂フィルムにおけるケン化処理以外にも、保護フィルムの表面に(メタ)アクリル酸エステル系ラテックスやスチレン系ラテックス、ポリエチレンイミン、ポリウレタン/ポリエステル共重合体などを含有する易接着層やアンカーコート層を設けたり、コロナ放電処理やイオンアシスト法(例えば、ミクロ技術研究所のIRA法)などにより表面に親水性を付与する方法、シランカップリング剤やチタンカップリング剤などのカップリング剤で表面処理方法などを挙げることができる。なお、上述の各種表面処理法を併用することも可能である。
また、かかる保護フィルムは、偏光フィルムと積層されない面にハードコート層を設けたり、スティッキング防止、反射防止、アンチグレアなどの各種処理を施すことも可能である。さらに、位相差板や視野角拡大フィルムなどの、各種光学機能フィルムを、偏光フィルムとは積層されない面に積層することも可能である。
【0030】
本発明の偏光板は、かかる偏光フィルムの少なくとも片面、好ましくは両面に、接着剤層を介して透明保護フィルムが貼り合わされたもので、かかる接着剤層はAA化PVA系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物の反応生成物を主体として有するものである。かかる接着剤層は、通常は、AA化PVA系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物を含有する水性接着剤を偏光フィルムあるいは保護フィルム、あるいはその両方に均一に塗布し、両者を貼り合わせた後に圧着、加熱乾燥することで形成される。
かかる水性接着剤を偏光フィルムあるいは保護フィルム上に塗工するにあたっては、ロールコーター法、エアードクター用、ブレードコーター法、噴霧法、浸漬法や、偏光フィルムと保護フィルムを貼り合わせる直前に、水性接着剤(水)溶液を、該フィルム間に適量供給して流し込んだ後、両者を貼り合わせ乾燥する等の公知の方法を用いることができる。また、かかる水性接着剤の塗工量は、乾燥後の接着剤層の厚さとして、通常1〜1000nm、特に1〜500nm、さらには1〜300nmの範囲から選定され、厚さが厚くなりすぎると均一な塗工が困難になったり、厚さムラが生じる傾向がある。また、水性接着剤を塗布、貼り合わせ後の加熱乾燥条件としては、通常5〜150℃、特に30〜120℃において、10〜60分、さらには30秒〜30分、特に1〜20分の条件で行われる。
【0031】
(AA化PVA系樹脂)
次に、本発明で用いられるAA化PVA系樹脂について説明する。
本発明で用いられるAA化PVA系樹脂の構造及び製造法については、例えば、特開昭55−094904号公報、特開昭55−137107号公報、特開昭57−040508号公報などによって公知のものであるが、その概要について詳しく説明する。
かかるAA化PVA系樹脂はPVA系樹脂の側鎖にAA基が導入されたものであり、AA化PVA系樹脂中のAA基の含有量は、通常0.1〜20モル%程度であり、残る部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と若干量の酢酸ビニル構造単位からなる。
【0032】
かかるAA化PVA系樹脂を得るにはPVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造が容易で品質の良いAA化PVA系樹脂が得られることから、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましく、かかる方法について説明するがこれに限定されるものではない。
【0033】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられ、かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0034】
また、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもでき、かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、ビニレンカーボネート類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン等が挙げられる。
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概にはいえないが、通常は20モル%以下、特には10モル%以下であり、多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋剤との相溶性が低下したりする場合がある。
【0035】
また、PVA系樹脂の主鎖の結合様式は1,3−結合が主であるが、重合条件によって異種結合である1,2−結合の含有量を制御したものを用いることも可能である。かかる1,2−結合含有量の制御法としては、高含有量のものを得る場合には、重合溶媒に高沸点のものを用いたり、加圧重合を行うことで重合温度を高温にすればよく、逆に低含有量のものを得る場合には、連鎖移動剤を用いたり、低温で重合すればよい。かかる1,2−結合の含有量は、通常0.6〜3.5モル%であり、特に1.3〜2.5モル%、さらには1.5〜2.0モル%のものが好ましく用いられる。
【0036】
得られたポリ酢酸ビニル系樹脂のケン化は公知の方法で行うことができるが、通常はポリ酢酸ビニル系樹脂をアルコール系溶媒に溶解させたのち、アルカリ触媒または酸触媒の存在下で行われる。アルコール系溶媒としては例えばメタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールや、メタノールと酢酸メチルの混合溶媒などの各種アルコールと酢酸メチルの混合溶媒などを使用することができる。
【0037】
アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラートなどのアルカリ金属の水酸化物やアルコラートのようなアルカリ触媒を用いることができる。酸触媒としては塩酸、硫酸などの無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸などの有機酸を用いることができる。
また、ケン化を行うときの温度はとくに制限されないが、通常10〜70℃であり、20〜50℃がより好ましい。
【0038】
次に、ポリ酢酸ビニル系樹脂のケン化によって得られたPVA系樹脂とジケテンを反応させるわけであるが、この場合、PVA系樹脂とガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応させるか、またはPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応させる等の方法が用いられる。
上記の反応を実施する際の反応装置としては加温可能で撹拌機の付いた装置であれば充分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
【0039】
かくして得られたAA化PVA系樹脂中のアセト酢酸エステル基含有量(アセト酢酸エステル化度、以下AA化度と略記する。)は、通常0.1〜20モル%、好ましくは0.2〜15モル%、特には0.3〜10モル%であり、かかる含有量が少なすぎると十分な耐水性が得られなかったり、十分な架橋速度が得られない場合があり、逆に多すぎると水溶性が低下したり、水溶液の安定性が低下する場合があるため好ましくない。
【0040】
また、本発明のAA化PVA系樹脂は、水酸基平均連鎖長〔l(OH)〕が通常は10〜100、特に10〜90、さらには15〜80のものが好ましく用いられる。かかる水酸基連鎖長が短すぎたり、長すぎたりすると、接着力が不充分となったり、耐水性が不足する傾向がある。
【0041】
なお、水酸基平均連鎖長〔l(OH)〕とは、内部標準物質として3−(トリメチルシリル)−2,2,3,3−d4−プロピオン酸ナトリウム塩(3−(trimethylsilyl)propionic−2,2,3,3−d4−acid sodium salt)を使用する13C−NMR測定(溶媒:D2O)において38〜46ppmの範囲に見られるメチレン炭素部分に基づく吸収〔(OH,OH)dyadの吸収=43〜46ppmの間にピークトップをもつ吸収、(OH,OR)dyadの吸収=41〜43ppmの間にピークトップをもつ吸収、(OR,OR)dyadの吸収=38〜41ppmの間にピークトップをもつ吸収〕の吸収強度比から求められるもので、下記式より算出される値である。
l(OH)=[2(OH,OH)+(OH,OR)]/(OH,OR)
(ただし、(OH,OR)、(OH,OH)の各吸収強度比は、いずれもモル分率で計算するものとする。)
かかる水酸基平均連鎖長およびその測定方法に関しては、「ポバール」(発行所:高分子刊行会、248ページ、1981)およびMacromolecules,Vol.10,p532(1977)に詳述されている。
【0042】
AA化PVA系樹脂の水酸基平均連鎖長をコントロールする方法は、特に限定されないが、原料として用いるPVA系樹脂製造時の、ポリ酢酸ビニルのケン化工程において、20℃における誘電率が32以下となるような溶媒の存在下でアルカリケン化を行うことが好ましく、より好ましい誘電率は6〜28、特に好ましい誘電率は12〜25である。誘電率が高すぎると、PVA系樹脂中の残存酢酸基の配列のブロック性が低下し、最終製品として得られるAA化PVA系樹脂の水酸基連鎖長が短くなる傾向にある。
【0043】
20℃における誘電率が32以下の溶媒としては、メタノール(31.2)、酢酸メチル/メタノール=1/3(27.1)、酢酸メチル/メタノール=1/1(21.0)、酢酸メチル/メタノール=3/1(13.9)、酢酸メチル(7.03)、イソプロピルアセテート(6.3)、トリクロロエチレン(3.42)、キシレン(2.37)、トルエン(2.38)、ベンゼン(2.28)、アセトン(21.4)などがあげられる。これらの中では、酢酸メチル/メタノールの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0044】
また、AA化PVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠)は、通常300〜4000、好ましくは400〜3500、特には500〜3000であり、かかる平均重合度が小さすぎると、十分な耐水性が得られなかったり、十分な架橋速度が得られない場合があり、逆に大きすぎると、接着剤溶液の粘度が高くなりすぎ、被着体への塗工が困難になる場合がある。
【0045】
また、本発明のAA化PVA系樹脂のケン化度は、通常80モル%以上、好ましくは85モル%以上、特には90モル%以上であり、かかるケン化度が低い場合には、水溶性が低下し、均一な接着剤溶液を得ることが困難になったり、接着剤としての凝集力が低下する傾向がある。
【0046】
また、本発明のAA化PVA系樹脂には、製造工程で混入または副生した酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩(主として、ケン化触媒として用いたアルカリ金属水酸化物とポリ酢酸ビニルのケン化によって生成した酢酸との反応物等に由来)、酢酸などの有機酸、メタノール、酢酸メチルなどの有機溶剤が一部残存していても差し支えない。
【0047】
なお、本発明においては、二種類以上の重合度、ケン化度、AA基含有量が異なるAA化PVA系樹脂の混合物を用いてもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明で用いるPVA系樹脂とは異なるPVA系樹脂を混合して用いてもよい。かかるPVA系樹脂としては、例えば未変性PVAや前述の各種不飽和モノマーを共重合した変性PVA系樹脂を挙げることができる。
【0048】
(アセタール化合物)
次に、本発明に用いられるアセタール化合物について説明する。かかるアセタール化合物は、AA化PVA系樹脂とともに水溶液等の溶液とされ、液状接着剤として被着体に塗布された後の乾燥時にジアルキルアセタール基がアルデヒド基となり、かかるアルデヒド基がAA化PVA系樹脂中のアセト酢酸エステル基と反応することで、AA化PVA系樹脂の架橋剤として働くものと推定される。
本発明に用いられるアセタール化合物は分子内に下記一般式(1)で表されるジアルキルアセタール基を有し、さらにアルデヒド基を1つ有する化合物である。換言すれば、分子内に複数のアルデヒド基を有する化合物のアルデヒド基を1つだけ残してジアルキルアセタール化した化合物に相当する。
【化1】

【0049】
一般式(1)で表されるジアルキルアセタール基中のR1及びR2はアルキル基であって、直鎖状あるいは分鎖状のいずれであってもよく、その炭素数は通常1〜6であり、特に炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。かかる炭素数が大きすぎると、ジアルキルアセタール基が加水分解等によってアルデヒド基となる際に、副生物として生成するR1OHあるいはR2OHで表されるアルコールの沸点が高くなり、接着剤層から十分に除くことが困難になる傾向がある。かかるアルキル基として、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等を挙げることができ、中でもメチル基が好ましく用いられる。
なお、かかるR1およびR2で示されるアルキル基は同じものであっても異なっていてもよいが、通常は同じものが用いられる。また、本発明の効果を大きくを阻害しない範囲において、アルキル基中の水素原子の一部がハロゲン、水酸基、アルコキシ基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等によって置換されていてもよい。
また、分子内にジアルキルアセタール基を複数有する場合には、それらのジアルキルアセタール基は同じものであっても異なっていてもよい。
【0050】
かかるアセタール化合物中のジアルキルアセタール基の数は特に限定されるものではないが、疎水基であるため、多すぎると水溶性が低下する場合があり、通常は1〜5個、好ましくは1〜3個であるものが用いられる。
【0051】
また、かかるアセタール化合物中のアルデヒド基の数は1つであり、その数が2つ以上になると偏光板用接着剤の粘度安定性が低下するため好ましくない。これは、アルデヒド基はAA化PVA系樹脂中のAA基と室温で容易に反応するが、分子内にその数が1つだけであればAA化PVA系樹脂を架橋させる可能性が小さいが、複数になると容易に架橋構造を形成するようになり、その結果、水溶液を増粘させるためであると推定される。
【0052】
本発明で用いられるアセタール化合物における、ジアルキルアセタール基とアルデヒド基以外の部分の化学構造については特に限定されないが、ジアルキルアセタール基とアルデヒド基が直接結合したものや、直鎖状あるいは分岐状アルキレン基に両官能基が結合したものが通常用いられる。なお、かかるアセタール化合物の分子量は通常104〜300、さらには104〜200、特には104〜150であるものが好ましく用いられ、分子量が小さいものほど添加量に対する効果が大きく得られるため好ましく、逆にかかる分子量が大きすぎると水溶性が乏しくなったり、所望する耐水性を得るための添加量が多くなったり、十分な耐水性が得られなくなったりするため好ましくない。
【0053】
かかるアセタール化合物の具体例としては、ジメトキシエタナール(ジメトキシアセトアルデヒド)、ジエトキシエタナール(ジエトキシアセトアルデヒド)、ジ−n−プロポキシエタナールなどのジアルコキシエタナール、ジメトキシプロパナール(ジメトキシプロピオンアルデヒド)、ジエトキシプロパナール(ジエトキシプロピオンアルデヒド)などのジアルコキシプロパナール、ジメトキシブタナール、ジエトキシブタナールなどのジアルコキシブタナールなどを挙げることができ、中でも分子量が小さいという点でジアルコキシエタナール、特にジメトキシエタナールが好適に用いられる。
なお、かかるジメトキシエタナールを含む市販品としてクラリアント社製『ハイリンクDM』が挙げられる。
【0054】
なお、かかるアセタール化合物の製造法は特に限定されるものではなく、公知の方法によって得られたものを用いることができるが、例えば、本願の目的に対して最も好ましい化合物であるジアルコキシエタナールの製造法としては、特開 H06−234689号公報に記載されるような、グリオキザールにメタノールを連続的に反応させる等の方法 などを挙げることができる。
【0055】
(偏光板用接着剤)
次に、本発明の偏光板用接着剤について説明する。
本発明の偏光板用接着剤は、上記の如きAA化PVA系樹脂とアセタール化合物を主体として含有してなるもので、それぞれ含有割合は特に制限されるものではないが、通常、AA化PVA系樹脂100重量部に対してアセタール化合物を0.1〜100重量部、さらには0.5〜50重量部、特には1〜20重量部の範囲が好適に用いられる。また、AA化PVA系樹脂中の総AA基量(X)に対するジアルキルアセタール基およびアルデヒド基の総量(Y)のモル比(Y/X)は通常0.01〜100、好ましくは0.1〜50、特には0.3〜30の範囲である。かかるアセタール化合物の含有量が少なすぎると得られた偏光板の耐水性が不十分となる場合があり、逆に多すぎるとその使用環境等によっては接着剤溶液が増粘しやすくなり、ポットライフが短くなる場合がある。
また、その形態としては特に限定されないが、被着体である偏光フィルムあるいは保護フィルムの表面に均一な接着剤層を形成するために、液状であることが好ましい。かかる液状の接着剤としては、各種溶剤の溶液や分散液が挙げられるが、基材への塗工性から溶液タイプであることが好ましく、安全性の点から水溶液であることがより好ましい。以下、接着剤水溶液の製造方法について説明する。
かかる水溶液は、(i)AA化PVA系樹脂とアセタール化合物の混合物を水に投入して溶解する方法、(ii)予めAA化PVA系樹脂とアセタール化合物を別々に溶解したものを混合する方法、(iii)AA化PVA系樹脂の水溶液にアセタール化合物を添加して溶解する方法、などによって調製できるが、アセタール化合物は水溶液の状態で市場に流通することが多いことから、通常は(ii)の方法を用い、両者を混合することで樹脂組成物の水溶液として各種用途に使用することが望ましい。
【0056】
本発明の偏光板用接着剤を水溶液として用いる際の濃度は、所望の塗工量や塗工装置の特性によって一概に言えないが、通常は0.1〜20重量%、特に0.5〜10重量%の範囲が好ましく用いられる。かかる濃度が低すぎる場合には乾燥に長時間を要し、生産性を損ない、逆に高すぎる場合には均一塗工が困難になる傾向がある。
【0057】
また、かかる偏光板用接着剤水溶液は、広いpH範囲で使用可能であり、粘度安定性や得られる偏光板の耐水性、耐変色性がpHによる影響を受けない。かかる接着剤水溶液は20℃におけるpHが2.5〜11の範囲で用いることができ、特に3〜10、さらには4〜9で用いられることが好ましい。なお、かかるpHが低すぎると、使用する容器や塗工装置などを腐蝕させる場合が生じるため、防錆対策を施す必要が生じる。また、pHが高すぎる場合には、AA化PVA系樹脂のアセトアセチル基が加水分解によって切断され、良好な架橋構造が得られなくなる傾向にあり、接着力が低下する場合がある。
【0058】
本発明の偏光板用接着剤は、AA化PVA系樹脂と、架橋剤としてアセタール化合物を含有するものであるが、かかるアセタール化合物以外の架橋剤を併用することも可能である。
かかる他の架橋剤としては、AA化PVA系樹脂の架橋剤として公知のものを使用することができ、例えば、アルデヒド化合物、メチロール化合物、アミン化合物、ヒドラジン化合物、多価金属化合物などを挙げることができるが、本発明の目的である水溶液としたときの安定性の点から、併用する架橋剤もその架橋性官能基が40℃以下の室温ではAA基と速やかに反応せず、より高温にすることによって架橋反応が進行するものが好ましい。かかる特性を有する架橋剤としては、多価金属化合物や、官能基が保護された化合物、例えばアルデヒド基がすべてアセタール化された化合物、メチロール基がエーテル化された化合物などを挙げることができる。
【0059】
多価金属化合物としては、具体的に、塩化ジルコニル、塩基性塩化ジルコニル、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、酢酸ジルコニル、などのジルコニウム化合物を挙げることができる。
【0060】
また、アルデヒド基がすべてアセタール化された化合物としては、具体的に、1,1,2,2−テトラメトキシエタン、1,1,2,2−テトラエトキシエタン、1,1,3,3−テトラメトキシプロパン、1,1,3,3−テトラエトキシプロパン、1,1,6,6−テトラメトキシヘキサン、などのアセタール基が複数有する炭化水素化合物や、ビス−1,3−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)尿素(商品名「ハイリンクDU」、クラリアント社製)、 ビス−1,3−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリジノン(商品名「ハイリンクDMU」、クラリアント社製)、1,1’,1’’−(1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリイルトリイミノ)トリス[2,2−ジメトキシエタノール](商品名「ハイリンクDMM」クラリアント社製)、などの尿素あるいはメラミンにジメトキシエタナールが付加して得られた化合物などを挙げることができる。
【0061】
また、さらに本発明の目的を損なわない範囲、通常30重量%以下、特に20重量%以下で他の樹脂、例えばデンプン、セルロース等の多糖類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキサゾリン、水溶性ポリアミド、水溶性ポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等の水溶性樹脂、さらにはウレタン系接着剤やエマルジョン型接着剤を併用することができる。
また、さらに本発明の目的を損なわない範囲で、水との親和性が高い各種の有機溶剤、具体的にはメタノールやエタノール、n−プロパノールやi-プロパノールに代表されるような各種のアルコール類を併用することができる。
また、同様に各種添加剤として、消泡剤、レベリング剤、着色剤、染料、顔料、蛍光増白剤、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、可塑剤、帯電防止剤、熱安定化剤、界面活性剤、乾燥剤、消臭剤、抗菌剤、防腐剤、消泡剤等を含有させることができる。なお、これらはAA化PVA系樹脂水溶液、アセタール化合物の水溶液、あるいはその混合後のいずれに配合してもよい。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0063】
実施例1
平均重合度1200、ケン化度99.0モル%、AA化度5.0モル%、水酸基平均連鎖長20であるAA化PVA系樹脂の10%水溶液と、ジメトキシエタナール(商品名「ハイリンクDM」、クラリアント社製、60%水溶液)を、AA化PVA系樹脂100重量部に対してジメトキシエタナールを固形分で5重量部となるように配合して混合撹拌し、偏光板用接着剤水溶液とした。このときの、AA化PVA系樹脂中のAA基量(Y)に対するジメトキシエタナール中のジメチルアセタール基量とアルデヒド基量の和(X)のモル比(Y/X)は1であった。なお、かかる水溶液の20℃におけるpHは4.7であった。
かかる水溶液をPETフィルム上に流延し、23℃、50%RHの条件下で48時間放置後、70℃で5分間加熱処理を行って厚さ100μmの接着剤層フィルムを得た。
得られたフィルムの耐水性および耐変色性を以下の要領で評価した。
【0064】
(耐水性)
得られたフィルムを80℃の熱水に1時間浸漬して、フィルムの溶出率(%)を測定した。なお、溶出率(%)の算出にあたっては、熱水浸漬前のフィルムの乾燥重量(X1)および熱水浸漬後のフィルムの乾燥重量(X2)(いずれもg)を求め、下式にて溶出率(%)を算出した。結果を表1に示す。
溶出率(%)=[(X1―X2)/X1]×100
【0065】
(耐変色性)
得られたフィルムを40℃、90%RHの条件下で1週間保管した後のフィルムの着色(黄変)の度合いを目視観察し以下の通り評価した。結果を表1に示す。
○・・・全く着色が認められない
△・・・若干、黄変が認められる
×・・・著しく黄変が認められる
【0066】
(水溶液の安定性)
得られた偏光板用接着剤水溶液(7%)の23℃における粘度(a)をブルックフィールド型粘度計(ブルックフィールド社製、ローターNo.2、回転数100rpm)で測定した後、該水溶液を23℃の雰囲気下に置き、6日後の水溶液粘度(b)を測定し、前後の増粘倍率を(b)/(a)で示した。
【0067】
実施例2
実施例1において、ジメトキシエタナールの配合量をAA化PVA系樹脂100重量部に対して1重量部(Y/X=0.2)となるようにした以外は実施例1と同様にして偏光板用接着剤水溶液を得た。かかる水溶液のpHは4.8であった。この水溶液を用い、実施例1と同様にして接着剤層フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例3
実施例1において、ジメトキシエタナールの配合量をAA化PVA系樹脂100重量部に対して50重量部(Y/X=10)となるようにした以外は実施例1と同様にして偏光板用接着剤水溶液を得た。かかる水溶液のpHは4.6であった。この水溶液を用い、実施例1と同様にして接着剤層フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0069】
実施例4
実施例1において、AA化PVA系樹脂として平均重合度1700、ケン化度92モル%、AA化度4モル%、水酸基平均連鎖長22であるAA化PVA系樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして偏光板接着剤水溶液を得た。かかる水溶液のpHは4.3であった。この水溶液を用い、実施例1と同様にして接着剤層フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例5
実施例1において、ジメトキシエタナールの配合量をAA化PVA系樹脂100重量部に対して10重量部(Y/X=2)となるようにした以外は実施例1と同様にして偏光板用接着剤水溶液を得た。かかる水溶液のpHは4.7であった。この水溶液を用い、実施例1と同様にして接着剤層フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0071】
実施例6
実施例5において、AA化PVA系樹脂100重量部に対してpH調製剤として水酸化ナトリウムを用い、かかる水溶液のpHを8.1とした以外は実施例5と同様にして偏光板用接着剤水溶液を得た。この水溶液を用い、実施例1と同様にして接着剤層フィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0072】
比較例1
実施例1において、ジメトキシエタナールに替えて、グルコースとグリオキザールとの反応物である環状アセタール化合物(商品名「セクアレッツ755」、オムノヴァ社製)を用いた以外は実施例1と同様にして接着剤水溶液を得た。かかる水溶液のpHは4.2であった。この水溶液を用い、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0073】
比較例2
実施例1において、ジメトキシエタナールに替えて、グリオキザールを用いた以外は実施例1と同様にして接着剤水溶液を得た。かかる水溶液のpHは4.5であった。この水溶液を用い、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
これらの結果から明らかなように、本発明の偏光板用接着剤は23℃で6日間保存しても殆ど増粘が認められず、粘度安定性に優れたものである。
また、かかる偏光板用接着剤から得られた接着層フィルムは耐水性に優れ、高温高湿度下で保存した場合にも全く着色が認められないことから、極めて耐変色性に優れたものである。なお、接着剤水溶液のpHが変化しても同等の特性が得られることから、使用するpHの自由度が高いという点で有用である。
なお、本実施例では耐水性および耐変色性の評価を接着剤層のみのフィルムに対して行っているが、これらの結果は、かかる接着剤層を含有する偏光板の特性にそのまま反映されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の偏光板は、耐水性に優れ、さらに高温高湿度下での耐変色性に優れることから、多種多様な用途とそれに伴う種々の使用環境で用いられる液晶表示装置にとって、極めて好適である。さらに、かかる偏光板において、偏光フィルムと保護フィルムとの接着に用いられる偏光板用接着剤は、水溶液としたときの粘度安定性に優れることから、工業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤層を介して保護フィルムが積層されてなる偏光板において、前記接着剤層がアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物との反応生成物を含有することを特徴とする偏光板。
【請求項2】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と、分子内にジアルキルアセタール基と1つのアルデヒド基を有するアセタール化合物を含有することを特徴とする偏光板用接着剤。

【公開番号】特開2008−281838(P2008−281838A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126683(P2007−126683)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】