説明

偏光板

【課題】液晶ディスプレイに用いられる偏光板に近赤外線吸収機能を付与し、液晶ディスプレイが大型化してバックライトの強度が大きくなった場合でも、そのオン−オフ時に発生しやすい近赤外線の影響を抑制できる偏光板を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが積層された偏光板において、近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を設ける。近赤外線吸収色素は、例えば、偏光板を構成する保護フィルムに含有させることができる。また、透明樹脂からなる保護フィルムの表面に近赤外線吸収色素を含む層を設けることもできる。さらに、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに近赤外線吸収色素を含有させることもできる。さらにまた、保護フィルムの上に、近赤外線吸収色素を含有する粘着剤層を設けることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線遮断機能を有し、液晶ディスプレイに用いられる偏光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは近年、テレビなどを中心に大型化が進んでおり、それに伴って、使用するバックライトの強度も強くなってきている。バックライトには蛍光管を用いるのが一般的であるが、蛍光管はオン−オフ時に近赤外線を発する傾向にあるため、コードレスフォンやリモートコントローラ等の電子機器の誤動作を引き起こす可能性があるという問題が発生してきた。
【0003】
一般に近赤外線吸収能を有する色素は公知であり、特にプラズマディスプレイパネルの分野においては、ディスプレイ本体から発生する近赤外線を遮断するために、近赤外線吸収色素を配合した前面板を用いることが行われている。例えば、特開 2003-195774号公報(特許文献1)には、電磁波シールド層、近赤外線遮断層及び粘着剤層が積層された光学フィルターを、プラズマディスプレイパネルに適用することが開示され、近赤外領域に吸収を示す色素として、ジイモニウム系をはじめとする各種のものが挙げられている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−195774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、液晶ディスプレイに用いられる偏光板に近赤外線吸収機能を付与し、近赤外線吸収機能を有する偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが積層されてなり、近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を有する偏光板が提供される。
【0007】
近赤外線吸収色素は、例えば、偏光板を構成する保護フィルムに含有させ、その保護フィルムに近赤外線吸収層の機能を兼ねさせることができる。また、保護フィルムを構成する透明樹脂フィルムの表面に近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を設け、この状態で偏光フィルムの少なくとも片面に積層することもできる。さらに、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに近赤外線吸収色素を含有させ、その偏光フィルムに近赤外線吸収層の機能を兼ねさせることもできる。さらにまた、保護フィルムの上に粘着剤層を設ける場合は、その粘着剤層に近赤外線吸収色素を含有させ、その粘着剤層に近赤外線吸収層の機能を兼ねさせることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により近赤外線吸収層を設けた偏光板は、その近赤外線吸収層が近赤外線を効果的に吸収するので、大型の液晶ディスプレイにおいて強度の大きいバックライトを使用した場合でも、そのオン−オフ時に発生しやすい近赤外線の影響を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面又は片面に、接着剤を介して透明保護フィルムを積層することにより製造される。ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムは、具体的には、一軸延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向したものである。
【0010】
偏光フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%程度、好ましくは98モル%以上である。このポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000程度、好ましくは1,500〜5,000程度である。
【0011】
かかるポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反として用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの膜厚は特に限定されないが、例えば、10μm 〜150μm 程度である。
【0012】
偏光フィルムは通常、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色してその二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びこのホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て、製造される。
【0013】
一軸延伸は、染色の前に行ってもよいし、染色と同時に行ってもよいし、染色の後に行ってもよい。一軸延伸を染色の後で行う場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。もちろん、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸にあたっては、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行うなどの乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0014】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。二色性色素として具体的には、ヨウ素や二色性染料が用いられる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0015】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり 0.01〜1重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり 0.5〜20重量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1,800秒程度である。
【0016】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、通常、水100重量部あたり1×10-4〜10重量部程度、好ましくは1×10-3〜1重量部程度であり、また例えば、1×10-2重量部程度以下であってもよい。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。染色に用いる染料水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1,800秒程度である。
【0017】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの量は、水100重量部あたり、通常 0.1〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部程度である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常 60〜1,200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、より好ましくは60〜80℃である。
【0018】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常1〜120秒程度である。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われる。乾燥処理の温度は、通常30〜100℃程度、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒程度であり、好ましくは120〜600秒程度である。
【0019】
こうして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色及びホウ酸処理を施して、偏光フィルムが得られる。この偏光フィルムの厚みは、通常5〜40μm 程度である。
【0020】
この偏光フィルムの少なくとも片面に、保護フィルムが積層され、偏光板とされる。保護フィルムは、透明な樹脂、特に透明な熱可塑性の樹脂で構成され、その樹脂材料としては、例えば、セルロースアセテート系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、脂肪族又は芳香族のポリエステル系樹脂、エチレンやプロピレンの如き鎖状オレフィン又はノルボルネンの如き多環式環状オレフィンを主要なモノマーとするポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などを挙げることができる。なかでも、セルロースアセテート系樹脂やポリオレフィン系樹脂は、偏光板の保護フィルムとして多く用いられており、好ましいものである。セルロースアセテート系樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースなどが挙げられる。偏光フィルムと保護フィルムの積層には、透明な接着剤が用いられる。接着剤として例えば、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液などを用いることができる。
【0021】
保護フィルムの上には通常、液晶セルや他の光学フィルムに貼合するための粘着剤層が設けられる。粘着剤層は、アクリル系、ゴム系、シリコーン系、ウレタン系などの透明な粘弾性樹脂をベースポリマーとする組成物で構成することができる。なかでもアクリル系粘着剤は、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性も有することから、好ましく用いられる。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基、ブチル基などの炭素数が20以下であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなど、カルボキシル基や水酸基からなる官能基を有するアクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が0℃以下となるように配合して共重合させた、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0022】
また、上記の如きアクリル系モノマーの共重合体であって、重量平均分子量が50万〜200万程度である比較的高分子量の樹脂に、重量平均分子量が5万〜30万程度である比較的低分子量の樹脂を固形分割合で5〜30重量%程度混合し、全体としての重量平均分子量を10万以上、好ましくは50万以上としたものをベースポリマーとすることも、有用な技術である。
【0023】
ここで重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算により求められる値である。具体的には例えば、GPCにカラムとして東ソー(株)製の“TSK gel G6000HXL”2本と“TSK gel G5000HXL”2本を順次直列につないで配置し、溶出液としてテトラヒドロフランを用いて、試料濃度5mg/ml、試料導入量100μl 、温度40℃、流速1ml/分の条件で、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0024】
上記のようなベースポリマーに架橋剤を配合し、好ましくはさらにシラン系化合物を配合して、粘着剤組成物が構成される。かかる粘着剤組成物が、トルエン、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒に溶解した状態で、基材上に塗布し、乾燥させることにより、粘着剤層を形成することができる。基材として上で説明したような偏光板を用い、その保護フィルム上に粘着材組成物を塗布し、乾燥させることにより、粘着剤層を形成することができる。また、基材として離型処理が施された樹脂フィルムを用い、その離型処理面に粘着剤組成物を塗布し、乾燥させて粘着剤付きフィルムを形成し、これを上で説明した偏光板の保護フィルム上に貼り合わせることによっても、粘着剤層を形成することができる。粘着剤層の厚みは、通常5〜50μm 程度である。
【0025】
本発明では、以上説明したような、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが積層されてなる偏光板に、近赤外線吸収機能を付与する。近赤外線吸収機能は、近赤外線吸収色素、具体的には、波長800〜1,200nm の間の近赤外領域に最大吸収波長を有する少なくとも1種類の近赤外線吸収色素を含む層を設けることにより、付与される。この近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層には、可視光領域における選択吸収機能を同時に付与して、調色機能をもたせることもできる。
【0026】
近赤外線吸収色素は、可視光に対する透過率が高く、近赤外領域の光を多く吸収するものであるのが好ましい。具体的には、ジイモニウム系近赤外線吸収剤、アミニウム系近赤外線吸収剤、アントラキノン系近赤外線吸収剤、フタロシアニン系、特に含フッ素フタロシアニン系の近赤外線吸収剤、ニッケル錯体系近赤外線吸収剤、ポリメチン系近赤外線吸収剤、ジフェニルメタン系近赤外線吸収剤、トリフェニルメタン系近赤外線吸収剤、シアニン系近赤外線吸収剤などが挙げられる。これらの近赤外線吸収色素を、それぞれ単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。とりわけ、波長800〜1,200nm の間の近赤外領域に最大吸収波長を有する少なくとも2種類の近赤外線吸収色素を用いて近赤外線吸収層を構成するのが有利である。
【0027】
ここでいう最大吸収波長は、当該色素を実際に使用する形態、例えば、バインダー中に分散させた塗膜として透明基板上に形成した状態や、粘着剤に混合して粘着剤層を形成した状態で、例えば波長300〜1,500nm の間の分光透過率を測定し、最低の透過率を示す波長として求めることができる。この際、他の色素を存在させずに、当該色素を単独で分散させた状態で試料を作製し、分光透過率を測定する。
【0028】
2種類の色素を組み合わせる例としては、例えば、波長900〜1,200nm の間に最大吸収波長を有する色素と、波長800〜900nmの間に最大吸収波長を有する色素とを組み合わせることで、可視領域の透過率が高く、近赤外領域の透過率の低い近赤外線吸収性フィルムとすることができる。上に例示した色素のなかでは、例えば、ジイモニウム系色素やアミニウム系色素が、900〜1,200nm の間に最大吸収波長を有し、また、アントラキノン系色素やフタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、ポリメチン系色素などが、800〜1000nmの間に最大吸収波長を有する。
【0029】
ジイモニウム系色素の市販品としては、例えば、日本化薬(株)から“IRG-022 ”及び“IRG-040 ”の商品名で販売されているもの、日本カーリット(株)から“CIR-1081”の商品名で販売されているものなどがある。また、日本カーリット(株)から“RAS-24-02 ”の商品名で販売されているものは、ジイモニウム系色素とアクリル系バインダー樹脂とを含む溶液である。フタロシアニン系色素の市販品として、(株)日本触媒から“イーエクスカラー”の冠称を付して販売されている“IR-1”、“IR-2”、“IR-10”、“IR-12”、“802K”などがある。
【0030】
近赤外線吸収色素は、可視領域の透過率が高く、近赤外領域の透過率が低いものであることが好ましい。具体的には例えば、可視光透過率、特に、波長450nm、550nm及び610nm付近における透過率がそれぞれ概ね60%以上で、波長800〜1,100nm の間の近赤外線領域における平均透過率が30%以下であるのが好ましい。可視光透過率が低くなると、偏光板を液晶ディスプレイの表示面に貼り合わせた場合に画面が暗くなるので好ましくなく、また近赤外線領域の透過率が高くなると、十分な近赤外線遮蔽機能が発揮できなくなる。
【0031】
本発明において、偏光板に設ける近赤外線吸収層は、例えば、次のような形態をとることができる。
【0032】
(1)偏光板を構成する保護フィルムに近赤外線吸収色素を含有させて、その保護フィルムに近赤外線吸収層の機能を兼ねさせる。
(2)保護フィルムを構成する透明樹脂フィルムの表面に近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を設け、この状態で偏光フィルムの少なくとも片面に積層する。
(3)ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに近赤外線吸収色素を含有させて、その偏光フィルムに近赤外線吸収層の機能を兼ねさせる。
(4)保護フィルムの上に粘着剤層を設け、その粘着剤層に近赤外線吸収色素を含有させて、その粘着剤層に近赤外線吸収層の機能を兼ねさせる。
【0033】
まず、第一の形態である偏光板の保護フィルムに近赤外線吸収色素を含有させる場合について説明する。この形態では、保護フィルムを構成する透明樹脂フィルムを例えば溶剤キャスト法などによって製膜する際、製膜用の樹脂溶液に近赤外線吸収色素を配合し、この状態で製膜すればよい。
【0034】
次に、第二の形態である保護フィルムを構成する透明樹脂フィルムの表面に近赤外線吸収層を設ける場合について説明する。この形態では、バインダー樹脂中に近赤外線吸収色素を分散させ、近赤外線吸収層とするのが好ましい。近赤外線吸収色素を分散させるバインダー樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、脂肪族又は芳香族のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂などを挙げることができる。
【0035】
偏光板の保護フィルムを構成する透明樹脂フィルムに近赤外線吸収層を設ける場合は、例えば、上記のようなバインダー樹脂と近赤外線吸収色素を有機溶媒に溶解又は分散させて塗工液を調製し、これを上記の透明保護フィルム上に塗布する方法を採用することができる。ここで用いる有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0036】
この形態において、透明樹脂からなる保護フィルム側と近赤外線吸収層側のどちらを偏光フィルムに貼り合せるかについては特に限定されないが、一般には、透明樹脂からなる保護フィルム側を偏光フィルムに貼り合わせ、近赤外線吸収層を外側に向けるのが有利である。
【0037】
次に、第三の形態である偏光フィルムに近赤外線吸収色素を含有させる場合について説明する。この場合は例えば、偏光フィルムの原反となるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを溶剤キャスト法などによって製膜する際、製膜用のポリビニルアルコール系樹脂溶液に近赤外線吸収色素を配合し、この状態で製膜し、この原反フィルムに対して、上述した方法で一軸延伸、二色性色素による染色及びホウ酸処理を施して、偏光フィルムとする方法を採用することができる。
【0038】
また、これとは別に、ポリビニルアルコール系原反フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色及びホウ酸処理を施して、偏光フィルムを得るまでのいずれかの工程に、近赤外線吸収色素を含有させる工程を設ける方法を採用することもできる。この場合は、水溶性の近赤外線吸収色素を用いるのが好ましい。色素に水溶性を付与するには、例えば、スルホン酸基を導入する方法や、水溶性のカチオン性基を導入する方法などを挙げることができる。
【0039】
ポリビニルアルコール系原反フィルムから偏光フィルムを得るまでの工程で近赤外線吸収色素を含有させる場合の具体例を挙げると、二色性色素による染色工程において、その染色浴中に、二色性色素とともに近赤外線吸収色素を配合し、その染色工程で近赤外線吸収色素をポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含有させる方法、二色性色素による染色の前又は後に近赤外線吸収色素による染色工程を設けて、そこで近赤外線吸収色素をポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含有させる方法、染色後のホウ酸処理工程において、そのホウ酸処理浴中にホウ酸とともに近赤外線吸収色素を配合し、そのホウ酸処理工程で近赤外線吸収色素をポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含有させる方法、ホウ酸処理後の水洗工程において、その水洗浴に近赤外線吸収染料を配合し、その水洗工程で近赤外線吸収色素をポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含有させる方法などが採用できる。
【0040】
次に、第四の形態である保護フィルム上の粘着剤層に近赤外線吸収色素を含有させる場合について説明する。この形態では、粘着剤層について先に説明したとおり、粘着剤組成物は通常、有機溶媒溶液として調製されるので、この溶液中に近赤外線吸収色素を配合して、基材上に塗布し、乾燥させる方法により、近赤外線吸収色素入りの粘着剤層とすることができる。
【0041】
以上説明した四形態の中では、保護フィルムを構成する透明樹脂フィルムの表面に近赤外線吸収層を設ける方法(第二の形態)や、粘着剤層中に近赤外線吸収色素を含有させる方法(第四の形態)が、有機溶媒中に近赤外線吸収色素を溶解させた状態で近赤外線吸収層を形成できることから、有利である。
【0042】
いずれの形態を採用する場合でも、近赤外線吸収色素の含有量は特に限定されず、目的とする近赤外線吸収能及び可視光の透過率によって適宜決定すればよい。例えば、近赤外線吸収層を構成する樹脂の固形分100重量部に対して、 0.1〜50重量部程度の範囲から、適宜選択すればよい。ここで近赤外線吸収層を構成する樹脂とは、偏光板の保護フィルムに近赤外線吸収色素を含有させる場合(第一の形態)であれば、その保護フィルムを構成する樹脂であり、透明保護フィルムの表面に近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を設ける場合(第二の形態)であれば、当該近赤外線吸収層を形成するための塗工液に用いられるバインダー樹脂であり、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに近赤外線吸収色素を含有させる場合(第三の形態)であれば、そのポリビニルアルコール系樹脂であり、そして粘着剤層に近赤外線吸収色素を含有させる場合(第四の形態)であれば、その粘着剤層を構成する粘着性のベースポリマーである。
【実施例】
【0043】
以下、偏光板に近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を設ける具体的な例を示す。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。
【0044】
[例1:近赤外線吸収フィルムの作製と偏光板への適用]
ここでは、樹脂の溶液に近赤外線吸収色素を添加し、それを基材フィルム上に製膜して近赤外線吸収フィルムとし、それを偏光板に適用する場合の例を示す。
【0045】
前記特許文献1(特開 2003-195774号公報)の参考例3に準じて、近赤外線吸収機能を付与するための塗工液を調製することができる。すなわち、住友化学(株)から販売されているメタクリル樹脂である“スミペックス MM ”(商品名)を25%濃度で溶かしたトルエン溶液100部に対し、以下に示す近赤外線吸収染料をそれぞれの割合で有機溶媒に溶かした溶液を混合し、液中のメタクリル樹脂の濃度を11%に調整して塗工液を得る。
【0046】

【0047】
この塗工液を、厚さ80μm のトリアセチルセルロースフィルム〔コニカミノルタオプト(株)から販売されている“KC8UX2M ”)上に、乾燥後の厚さが約2μm となるように塗布し、乾燥して、近赤外線吸収フィルムを得る。
【0048】
この近赤外線吸収フィルムを、ポリビニルアルコールに二色性色素が吸着配向した偏光フィルムの片面に、そのトリアセチルセルロースフィルム側でポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介して貼合し、もう一方の面には厚さ80μm のトリアセチルセルロースフィルムを同じくポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介して貼合することにより、近赤外線吸収機能を有する偏光板が得られる。
【0049】
[例2:近赤外線吸収染料入り粘着剤の製造と偏光板への適用]
ここでは、粘着剤に近赤外線吸収色素を添加し、それを用いて偏光板の保護フィルムに粘着剤層を設ける場合の例を示す。
【0050】
(a)高分子量アクリル樹脂の製造
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた反応器に、酢酸エチル 81.8部、アクリル酸ブチル98.9部、及びアクリル酸1.1部の混合溶液を仕込み、窒素ガスで装置内の空気を置換し、酸素不含としながら、内温を55℃に上げる。そこに、開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル 0.14部を酢酸エチル10部に溶かした溶液を全量添加する。開始剤添加1時間後、モノマーを除くアクリル樹脂の濃度が35%となるように、酢酸エチルを添加速度17.3部/hr で連続的に反応器に添加しながら、内温54〜56℃に保って12時間保温し、最後に酢酸エチルを加えて不揮発分濃度が20%となるように調節する。こうして、GPCによるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw )が約120万、重量平均分子量(Mw )と数平均分子量(Mn )の比(Mw/Mn)で表される分散度が約3.9のアクリル樹脂が得られる。
【0051】
(b)低分子量アクリル樹脂の製造
(a)に示したのと同様の反応器に、酢酸エチル222部、アクリル酸ブチル35部、メタクリル酸ブチル44部、アクリル酸メチル20部、及びアクリル酸2−ヒドロキシエチル1部を仕込み、窒素ガスで装置内の空気を置換したあと、内温を75℃に上げる。そこに、開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.55部を酢酸エチル12.5部に溶かした溶液を全量添加する。その後、内温を69〜71℃に保ちながら、同温度で8時間保温し、反応を完結させる。こうして、GPCによるポリスチレン換算重量平均分子量が約9万、ガラス転位温度が約−13℃のアクリル樹脂が得られる。
【0052】
(c)近赤外線吸収機能を有する粘着剤の製造
(a)に示した重量平均分子量が約120万のアクリル樹脂と(b)に示した重量平均分子量が約9万のアクリル樹脂とを、不揮発分重量比70:30の割合で混合して、アクリル樹脂の酢酸エチル溶液とする。この溶液の不揮発分合計100部に対し、架橋剤として、日本ポリウレタン(株)から販売されている“コロネートL”〔商品名:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体の酢酸エチル溶液(固形分濃度75%)〕を固形分で3部、及びシラン系化合物として、信越化学工業(株)から販売されている“X-41-1805 ”(商品名:3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとテトラエトキシシランのコオリゴマー:液体)を 0.1部混合して、粘着剤組成物の溶液とする。この溶液に、例1に示したフタロシアニン系染料“イーエクスカラー IR-10”を 2.2部、同じくフタロシアニン系染料“イーエクスカラー IR-12”を 0.625部、及び同じくジイモニウム系染料“IRG-022”を3.25部の割合で有機溶媒に溶かした溶液を混合し、近赤外線吸収色素入り粘着剤組成物の溶液を得る。
【0053】
(d)近赤外線吸収機能を有する粘着剤の偏光板への適用
(c)に示した近赤外線吸収色素入り粘着剤組成物の溶液を、離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムの離型処理面に塗布し、乾燥させて、厚さ約25μm のシート状の粘着剤を得る。このシート状粘着剤を、ポリビニルアルコールに二色性色素が吸着配向した偏光フィルムの両面にトリアセチルセルロースからなる保護フィルムが貼合されている偏光板の片面に貼り合わせることにより、近赤外線吸収機能を有する偏光板が得られる。また、上と同じ偏光板の片面に、上記の近赤外線吸収色素入り粘着剤組成物の溶液を塗布し、乾燥させる方法によっても、同様の近赤外線吸収機能を有する偏光板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが積層されてなる偏光板であって、近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層を有することを特徴とする偏光板。
【請求項2】
保護フィルムが近赤外線吸収色素を含み、近赤外線吸収層を兼ねる請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
保護フィルムが透明樹脂フィルムからなり、その表面に近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層が設けられ、その状態で偏光フィルムの少なくとも片面に積層されている請求項1に記載の偏光板。
【請求項4】
偏光フィルムが近赤外線吸収色素を含み、近赤外線吸収層を兼ねる請求項1に記載の偏光板。
【請求項5】
保護フィルム上に粘着剤層が形成されており、該粘着剤層が近赤外線吸収色素を含み、近赤外線吸収層を兼ねる請求項1に記載の偏光板。

【公開番号】特開2008−64842(P2008−64842A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239978(P2006−239978)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】