偏光解消素子及びその素子を用いた光学機器
【課題】様々な偏光状態を作り出せる偏光解消素子を提供する。
【解決手段】基板表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造体領域が互いに隣接して配置されている。サブ波長構造体領域は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、それらの溝の配列方向である光学軸方向が隣接するサブ波長構造体領域間で異なる部分をもつように配置されている。さらに、この偏光解消素子はそれらの溝として深さの異なるものを含んでいる。
【解決手段】基板表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造体領域が互いに隣接して配置されている。サブ波長構造体領域は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、それらの溝の配列方向である光学軸方向が隣接するサブ波長構造体領域間で異なる部分をもつように配置されている。さらに、この偏光解消素子はそれらの溝として深さの異なるものを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学機器に用いられる偏光解消素子とその素子を用いた光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光解消素子は、レーザプリンタなどで問題となる偏光を解消させるための光学部品として用いられたり、光学露光装置や光学測定機などの光学機器の光学系のスペックルの発生を低減させるスペックル低減素子として用いられたりしている。
【0003】
レーザからの光をマイクロレンズアレイやフライアイレンズを通すことによってひとつの光束を複数の光束に分割する際、分割された光は偏光方向が同一方向に揃っており、光学系の中で特定の条件が整うと、分割された光がそれぞれ迷光の原因となって光学系の途中で光が強めあう点(スペックル)が生じる場合がある。スペックルは、いろいろな光学系で発生することが知られており、これを解消する方法が種々提案されているが、有効な解決策は確立されていない。
【0004】
スペックルを解消する方法のひとつとしては、偏光状態が様々になったいわゆるランダム偏光状態になっていることが望ましい。偏光が不揃いであると、光の干渉が起こりにくいからである。
【0005】
偏光を解消する手法の1つとして、特性の異なるサブ波長構造体領域(SWS)を基板表面にいくつも設けることで、基板を光が通過する際に各周期構造体に応じた偏光を持たせることで偏光を解消する偏光解消素子が提案されている(特許文献1参照。)。
【0006】
サブ波長構造体領域とは使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもつ周期構造体のことである。使用する光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する格子構造は構造性複屈折作用をもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−341453号公報
【特許文献2】特開平7−230159号公報
【特許文献3】特表平8−504515号公報
【特許文献4】WO2004/008196号
【特許文献5】特開2007−263593号公報
【特許文献6】特開2005−279761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
提案の偏光解消素子では、各サブ波長構造体領域を構成する溝の深さは一定であるため、1つの基板上で発生させることのできる偏光状態が限られてしまい、スペックルを解消するに足りるランダム偏光を発生させるのには十分ではない。スペックルを解消するためには様々な偏光状態を作り出せることが求められる。
【0009】
本発明の第1の目的は、サブ波長構造体領域を用いた偏光解消素子を実現するにあたり、様々な偏光状態を作り出せる構造をもった偏光解消素子を提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、そのような偏光解消素子を光学系に備えることによりスペックルを解消した光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明は、基板表層部にサブ波長構造体を形成し、サブ波長構造体の溝の配列方向である光学軸方向を複数にするだけでなく、深さ方向も複数にすることにより発生させる偏光状態を一層多様化させる機能を有するようにしたものである。
【0012】
すなわち、本発明の偏光解消素子の第1の形態は、基板表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造体領域が互いに隣接して配置された偏光解消素子であって、それらのサブ波長構造体領域は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、サブ波長構造体領域を構成する溝の配列方向である光学軸方向が隣接するサブ波長構造体領域間で異なる部分をもつように配置されており、かつ、この偏光解消素子はそれらの溝として深さの異なるものを含んでいる。
【0013】
本発明の偏光解消素子の第2の形態は、基板表層部に形成したサブ波長構造体を第1の形態のように明確な領域に分割しないものである。すなわち、基板表層部に使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造体が形成され、そのサブ波長構造体はサブ波長構造体を構成する溝の配列方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるようにその溝が同心円状に配列されたものであり、かつ、その溝として深さの異なるものを含んでいる偏光解消素子である。
【0014】
サブ波長構造体の複屈折作用について、図1を参照して説明する。図1に示す構造は一般的なサブ波長構造体を示したものであり、使用する光の波長よりも短い凹凸周期(ピッチ)Pを有するサブ波長凹凸構造が形成されている。サブ波長凹凸構造は屈折率の異なる2種類の媒質からなり、それらの媒質として空気と屈折率nの媒質を想定する。屈折率nの凸条のランドの幅がL、空気層からなる凹条の溝の幅がSであり、P=L+Sである。また、L/Pはフィリングファクタ(F)と呼ばれる。dは溝の深さである。
【0015】
周期Pの目安としては、使用する最も短い入射光の波長より短い周期で、より望ましくは使用波長の半分以下の周期とする。周期Pが入射光の波長よりも短い周期構造は入射光を回折することはないため入射光はそのまま透過し、入射光に対して複屈折特性を示す。すなわち、入射光の偏光方向に応じて異なる屈折率を示す。その結果、構造に関するパラメータを調整することにより位相差を任意に設定することができるため各種波長板を実現できる。
【0016】
構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い周期でストライプ状に配置したとき、ストライプに平行な偏光成分(TE波)とストライプに垂直な偏光成分(TM波)とで屈折率(有効屈折率と呼ぶ)が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
【0017】
サブ波長構造体の周期よりも2倍以上の波長をもつ光が垂直入射したと仮定する。このときの入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行(TE方向)であるか垂直(TM方向)であるかによって、サブ波長構造体の有効屈折率は次の式で与えられる。
n(TE)=(F×n2+(1−F))1/2
n(TM)=(F/n2+(1−F))1/2
【0018】
入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行である場合の有効屈折率をn(TE)、垂直である場合の有効屈折率をn(TM)と表す。式中の符号Fは前述のフィリングファクタである。
【0019】
このようなサブ波長構造体を透過した光のTE波とTM波の間の位相差(リタデーション)Δは、
Δ=Δn・d
である。ここで、Δnはn(TE)とn(TM)の差、dは前述の溝の深さである。
【0020】
サブ波長構造体領域に直線偏光の光が入射すると、この位相差によってその透過光は楕円偏光に変わる。光学軸の異なるサブ波長構造体領域が隣接する本発明の偏光解消素子を直線偏光の光が透過すると、隣接するサブ波長構造体領域間で楕円率が異なるとともに、サブ波長構造体を構成する溝の深さの異なる部分を透過した直線偏光間でも位相差の相違によって楕円率が異なる。
【0021】
第1の形態の偏光解消素子においては、サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内にそれらの深さの異なる溝をもっているようにすることができる。さらに、サブ波長構造体領域は隣接するサブ波長構造体領域間でサブ波長構造体領域を構成する溝の深さが異なっているようにしてもよい。
【0022】
また、サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に複数の光学軸方向をもっているようにすることもできる。その場合、サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に互いに直交する2つの光学軸方向をもっているようにしてもよい。
【0023】
第1及び第2の形態の偏光解消素子において、サブ波長構造体を構成する溝の深さが光学軸方向に沿って連続的に変化しているようにしてもよい。そのような連続的な変化を実現する1つの方法として、三角関数、指数関数又は他の任意の数式で表される関数に従うように変化させることができる。溝の深さの連続的な変化に伴って、このサブ波長構造体領域を通過する光の位相差(後述)が連続的に変化し、偏光状態が連続的に変化して種々の偏光状態を作成するのに一層寄与する。
【0024】
この偏光解消素子で発生する位相差Δは使用する波長λに対して、
λ/8≦Δ≦λ
となるようにサブ波長構造体が設計されていることが好ましい。これにより、この偏光解消素子の異なる場所を通過した光束同士であってもその干渉を防止することができる。
【0025】
サブ波長構造体は、誘電体の薄膜材料、合成石英もしくは光学ガラス材料からなる構造材料、光学結晶材料又はプラスチック材料からなる光透過性材料で構成することができる。
【0026】
そのような誘電体材料としては、TiO2、Nb2O5、In2O5、SnO2、Al2O3、CrO2、ZrO2、MgF2、MgO2、CeO2、Ta2O5、SiO2、ITO、ハイコム(メルク社の商品名:ZrO2+TiO2)、OM−10(メルク社の商品名:Ta2O5+TiOn(nは酸素数であり、この化合物はTiが欠損状態にあるものを表わす。))、OM−4(メルク社の商品名)、H−4(メルク社の商品名)、M−4(メルク社の商品名)などを用いることができる。
【0027】
光学ガラス材料としては、テンパックス(商標)やネオセラム(商標)などを用いることができる。
【0028】
本発明の偏光解消素子は、基板の一方の側の表層部に形成されたものに限らず、基板の表面側と裏面側の両方の表層部にこの偏光解消素子が形成されているものも含んでいる。この場合、基板の表面側と裏面側に同じ偏光解消素子を背中合わせの関係に配置したり、基板の面内方向をX,Y方向とすると、X,Y方向のいずれか一方向又は両方にずらして配置したり、又は一方の偏光解消素子を他方の偏光解消素子に対して面内で回転させて配置するなど、種々の配置方法をとることができる。また基板の表面側の偏光解消素子と裏面側の偏光解消素子を異なる光学軸方向をもったものにしたり、サブ波長構造を構成する凹凸の溝の深さの異なるものにするなど、偏光解消素子の構造も種々のものを組み合わせることができる。このように基板の両面の偏光解消素子を種々に配置したり組み合わせたりすることにより、透過光の偏光状態を一層ランダムにすることができる。
【0029】
また、本発明の偏光解消素子は、該偏光解消素子が形成されている層とは別に光量を均一化するための光量均一化用光学素子が形成された層を備えているものも含んでいる。そのような光量均一化用光学素子としては、マイクロレンズアレイ、インテグレータ及びフライアイレンズアレイなどを挙げることができる。
【0030】
このように、偏光解消素子と光量均一化用光学素子を一体化したものを、レーザ露光装置やレーザ加工装置などの光学系に適用することにより、これらの素子の透過光の偏光状態をランダムにするとともに、光量を均一化することができる。
【0031】
光量均一化用光学素子はそれぞれの光学有効領域が複数のサブ波長構造体領域を含むように形成されていてもよいし、光量均一化用光学素子のそれぞれの光学有効領域がサブ波長構造体領域の1つずつと一致するように形成されていてもよい。
【0032】
本発明はまた、レーザ光源から発生するレーザ光を対象物に照射する光学系を備えた光学機器も対象としている。そのような光学機器としてはレーザプリンタ、露光装置、レーザ光源を用いる分光器、及びレーザ計測装置などを挙げることができる。そのような光学機器において、本発明はそれらの光学機器の光源からのレーザ光の偏光状態をランダムな偏光状態にするために本発明の偏光解消素子をそれらの光学機器の光学系の光路上に配置したものである。
【0033】
上記の光学機器においては、偏光解消素子を前記光路上において光線方向の軸を中心として回転させたり、又は光路上において光線方向に対して平行又は垂直な方向に振動させたりする駆動機構を備えるようにしてもよい。そのような駆動機構を備えるようにすれば、偏光解消素子による偏光解消機能に時間分解能を追加、すなわち時間軸に対しても偏光解消の機能を付加することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の偏光解消素子は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもつサブ波長構造体からなるものであるが、それらのサブ波長構造体を構成する溝の配列方向である光学軸方向が複数あるだけでなく、サブ波長構造体を構成する溝として深さの異なるものを含むようにしたので、多種の偏光状態を作り出すことが可能になった。
【0035】
この偏光解消素子をそれぞれの光学系に配置した露光装置、レーザプリンタその他の光学機器では光学系でのスペックルの発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】サブ波長構造体を説明するための概略断面図である。
【図2】本発明におけるサブ波長構造体の2つの形態を示す概略断面図である。
【図3】一実施例を示す概略平面図である。
【図4】同実施例におけるサブ波長構造体領域の一形態を示す概略断面図である。
【図5】同実施例におけるサブ波長構造体領域の他の形態を示す概略断面図である。
【図6】同実施例におけるサブ波長構造体領域のさらに他の形態を示す概略断面図である。
【図7】他の実施例を示す概略平面図である。
【図8】本発明の偏光解消素子を製造する一方法で使用する金型を製作する方法の一例を示す工程断面図である。
【図9】一実施例の偏光解消素子を製造する方法を示す工程断面図である。
【図10】他の実施例の偏光解消素子を製造する第1の方法を示す工程断面図である。
【図11】他の実施例の偏光解消素子を製造する第2の方法を示す工程断面図である。
【図12】ドライエッチング加工により形成されるサブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝幅と溝深さの関係を示すグラフである。
【図13】サブ波長構造体の断面形状と位相差及び溝の深さの関係を示す図表である。
【図14】基板の両面にサブ波長構造体を形成した偏光解消素子の実施例を示す概略断面図である。
【図15】同実施例の表面側と裏面側のサブ波長構造体の光学軸方向を示す平面図であり、それぞれの下側の図はそれぞれの1つのサブ波長構造体領域の光学軸方向を示す拡大平面図である。
【図16】基板の一方の面側にサブ波長構造体が形成された層をもち、他方の面側に光量均一化用素子が形成された層をもつ偏光解消素子の実施例を示す概略断面図である。
【図17】同実施例の構造の一例を示す概略断面図であり、(A)は光量均一化用素子が形成された層をサブ波長構造体が形成された層の上に接着して形成した場合、(B)は1つの基板の一方の面に光量均一化用素子を形成し他方の面にサブ波長構造体を形成することにより形成した場合である。
【図18】同実施例の構造の他の例を示す概略断面図であり、(A)は光量均一化用素子が形成された層をサブ波長構造体が形成された層の上に接着して形成した場合、(B)は1つの基板の一方の面に光量均一化用素子を形成し他方の面にサブ波長構造体を形成することにより形成した場合である。
【図19】同実施例における光量均一化用素子の光学有効領域とサブ波長構造体との関係を示す偏光解消素子の平面図であり、(A)は図17の例、(B)図18の例をそれぞれ示したものである。
【図20】偏光解消素子を使用した一実施例としてのレーザプリンタの光学系を示す概略斜視図である。
【図21】偏光解消素子を使用した他の実施例としての露光装置の光学系を示す概略構成図である。
【図22】偏光解消素子を使用したさらに他の実施例としての光ファイバ増幅器の光学系を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の偏光解消素子は基板表層部に複数のサブ波長構造体領域を隙間なく配置したものである。
【0038】
それらのサブ波長構造体領域を構成するサブ波長構造体の第1の形態は、図2(A)に示されるように、使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体の基板2自体によりサブ波長構造体2aを形成したものである。そのようなサブ波長構造体を形成する一方法は、基板2上にレジスト層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィーによりサブ波長構造体とは凹凸が逆になったレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして基板をエッチングして基板と同一材料からなるサブ波長構造体2aを形成する方法である。
【0039】
それらのサブ波長構造体領域を構成するサブ波長構造体の第2の形態は、図2(B)に示されるように、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基板3の表面に形成された誘電体層4にサブ波長構造体4aを形成したものである。そのような第2の形態のサブ波長構造体を形成する一方法は、基板3上にスパッタリング法やCVD(化学気相成長)法などの成膜法によって使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体層4を堆積し、その誘電体層4上にレジスト層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィーによりサブ波長構造とは凹凸が逆になったレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして誘電体層4をエッチングして基板3とは異なる材料からなるサブ波長構造体層を形成する方法である。
【0040】
第2の形態のサブ波長構造体を形成する他の方法は、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基板上に樹脂層を塗布し、その樹脂層に微細凹凸構造の金型を押し当てるインプリント工法により、基板上に配列された樹脂の凸条によってサブ波長構造とは凹凸が逆のパターンを形成し、ドライエッチング法などによって凹凸パターン形状を基板に転写し、サブ波長構造体を得る方法である。
【0041】
図3は複数のサブ波長構造体領域8からなる第1の形態の偏光解消素子の一実施例の平面図を概略的に示している。偏光解消素子6の表層部には、複数のサブ波長構造体領域8が配置されている。サブ波長構造体領域8は互いに隙間のない状態に配置されている。ここでは8×8=64個のサブ波長構造体領域8が配置されたものを示しているが、これは概略図であり、その個数に限定されるものではなく、サブ波長構造体領域8の数は多いほどよい。例えば、偏光解消素子6が5mm×5mmの正方形で、サブ波長構造体領域8が50μm×50μmであるとすると、100×100=10000個のサブ波長構造体領域8が配置された偏光解消素子6となる。
【0042】
サブ波長構造体領域8は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝により構成されるストライプ状の凹凸構造をもっている。そのストライプ状の凹凸の配列方向が光学軸であり、図では光学軸は矢印で示されている。この実施例では各サブ波長構造体領域8は1つずつの光学軸をもっている。光学軸方向は隣接するサブ波長構造体領域8間では異なる部分をもつように、ここでは隣接するサブ波長構造体領域8間で光学軸方向が異なるようにサブ波長構造体領域8が配置されている。サブ波長構造体領域8の光学軸方向は360度を15分割した方向のいずれかの方向をもつように形成されており、偏光解消素子6としては光学軸方向がランダムになるようにサブ波長構造体領域8が配置されている。
【0043】
サブ波長構造体領域8内における光学軸は1つである必要はなく、互いに直交する2つの方向の光学軸をもつようにサブ波長構造体領域8を形成することもできる。また、さらに複数個の光学軸をもつようなサブ波長構造体領域8であってもよく、後述のように光学軸方向が中心から放射状に広がるようにサブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝が同心円状に配列されているようなサブ波長構造体領域8であってもよい。
【0044】
この偏光解消素子6は、サブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝の深さに関し、深さの異なるものを含んでいる。
【0045】
1つの形態は、各サブ波長構造体領域8内ではその溝の深さを均一にし、その溝の深さの異なるサブ波長構造体領域8をランダムに配置したものである。
【0046】
他の形態は、各サブ波長構造体領域8内においてその溝の深さを変化させたものである。以下に、そのような各サブ波長構造体領域8内においてその溝の深さを変化させた実施例をいくつか説明する。以下に示す図4〜図6は1つのサブ波長構造体領域8を光軸に沿って切断した状態の断面図として示す。サブ波長構造体は図2に示したように2つの形態があるが、いずれの形態であってもよい。
【0047】
図4のサブ波長構造体はピッチP1,P2が異なり、溝の深さd1,d2も異なるように形成された例である。ピッチの大きい部分では溝の幅も大きく、溝の深さも深くなっている。
【0048】
図5のサブ波長構造体はピッチP1,P2が等しく、溝の深さd1,d2と、凸部であるランドの幅L0,L1,L2も異なるように形成された例である。
【0049】
図6のサブ波長構造体はサブ波長構造体の底部をつないだ線が関数で表わされるように、溝の深さが変化させられている例である。ここでは、その関数として三角関数の例を示しているが、他の関数でもよい。溝の深さが連続的に変化していればよい。
【0050】
図7は複数のサブ波長構造体領域に分割されることなく、全体として1つのサブ波長構造体領域からなる第2の形態の偏光解消素子の一実施例の平面図を概略的に示している。
【0051】
この実施例では、基板表層部の全面にわたって、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造体が形成されている。そのサブ波長構造体はサブ波長構造体を構成する溝の配列方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるようにその溝が同心円状に配列されている。したがって、図中に矢印で示される光学軸方向は360度にわたって分布している。さらに、サブ波長構造体を構成する溝の深さは、この偏光解消素子の中心(A1)から半径方向の一点(A2)に至る位置での断面図が、例えば図6に示されるようになるように、三角関数その他の任意の関数に従って連続して変化するように形成されている。
【0052】
この実施例では入射光の中心が偏光解消素子の中心(A1)にくるように光学系を配置するのが最も効果的な使用方法である。
【0053】
次に、偏光解消素子の作製手順を説明する。ここで、素子の作製の説明に先立って型の作製方法を説明する。
【0054】
図8(a)〜(d)は石英を基材とした型の作製方法を説明するための図である。
(a)石英材料を基板10とし、その表面に電子線描画用のレジスト12を所定の厚さに塗布し、プリベークする。予め設計されたプログラムにより、偏光解消素子の諸元に対応したピッチ(周期)と線幅に描画する。
【0055】
この時、描画する光学素子のパターンレイアウトは、図3〜7に示したように光学軸方向がそれぞれ異なった方向、及び描画するライン幅がそれぞれ異なった状態で描画する。このことによって以下の3つの利点が得られる。
【0056】
(1)描画されたパターンの光学軸方向が異なる。
(2)描画されたパターンの線幅が異なるパターンが得られる。
(3)線幅が異なると、ドライエッチングで表面加工する際に、加工深さが異なる。
つまり、(3)は、プラズマエッチング加工の際、エッチングに有効に働くプラズマエッチング種(反応種)が、開口部が狭い場合は内部に侵入しにくくなる(加工深さが深くなるにつれさらに入りにくくなる)ためである。
【0057】
この性質を活用して、描画する光学軸方向は一定のまま、描画線幅を変更させることだけで各分割領域で発生する位相差を変更することが可能になる。このことは、各領域で発生する位相差を異ならせるので、合成される光の位相差はランダム位相差光の集合となる。
【0058】
(b)レジスト12に対し、現像およびリンスを行うことにより、レジスト12にサブ波長凹凸構造が形成される。レジストパターン12の溝の底は基板10の石英基材が露出している。
【0059】
(c)サブ波長凹凸構造のレジストパターン12をマスクとして石英基板10のドライエッチングを行う。エッチングには、ICP(誘導結合プラズマ)、NLD(磁気中性子放電)プラズマ処理装置、TCP(誘導結合型プラズマ)等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いる。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例を示すと、次のとおりである。
加工ガス:CHF3ガス(25sccm)+CF4ガス(25sccm)
放電パワー:1000W
バイアスパワー:100W
チャンバー内圧力:1.3Pa(10mTorr)
チラー(冷却器)温度:−20℃
エッチング速度:約6nm/秒
【0060】
(d)レジスト12を剥離する。剥離の方法はドライエッチング装置内で、酸素ガスを導入し、酸素ガスプラズマ中でレジスト除去を行う方法と、基板を装置から取り出してCAROS洗浄(硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄)で除去する方法とがある。完成したものを石英型として用いる。
【0061】
また、ここでは図示しないが、シリコン基板を使用することも可能である。シリコンを基材とした型の作製方法を以下に説明する。この方法は、必ずしもシリコン基板に限定されることはなく、石英基板上にスパッタリング、CVD方式等で形成されたシリコン膜に対しても同様の方法で型の製作が可能である。
【0062】
シリコンを基板とし、その表面に電子線描画用のレジストを所定の厚さに塗布し、プリベークする。予め設計されたプログラムにより、波長板の諸元に対応したピッチ(周期)と線幅に描画する。
【0063】
レジストに対し、現像およびリンスを行うことにより、レジスト上にサブ波長凹凸構造が形成される。溝の底はシリコン基材が露出している。
【0064】
サブ波長凹凸構造のレジストパターンをマスクとしてシリコンのアルカリウェットエッチング(KOH溶液使用)を行う。シリコン基板はシリコン面の壁として、ピッチを維持したまま深さ方向にエッチングされる。なお、前述した石英基板上にスパッタリング、CVD方式等と同様の方法で形成されたシリコン膜に対しても型の製作が可能である。シリコンのエッチングは、ボッシュプロセス用いたドライエッチングでも同様の構造を制作できる。ボッシュプロセスとは、SF6ガスによりエッチングを行い、その後C4F8ガスに切り替えて、シリコン基板の加工壁面に保護膜の形成を行う。これらSF6ガスによるエッチング及びC4F8ガスによる保護膜形成を交互に繰り返すプロセスである。
【0065】
レジストを剥離する。完成したものをシリコン型として用いる。このようにして作られた石英型又はシリコン型を便宜上、金型(モールド)と呼ぶ。
【0066】
次にそのような金型を用いて実施例の偏光解消素子を製造する方法を説明する。
【0067】
[製造方法1]
図9は製造方法の第1の例である。
【0068】
(a)石英ガラス基板20を用意する。
【0069】
(b)その石英ガラス基板20上にUV(紫外線)硬化樹脂22を塗布し、上からモールド型24で押圧する。モールド型24としてはシリコン型でも石英型でも、ともに使用しうるが、微細構造を形成するナノインプリントにおいては、石英金型の方が光透過性なので適している。UV硬化樹脂22としては、例えばPAC−01(東洋合成(株)製)を用いる。また、熱硬化性転写材料を使用する場合はシリコン製型も利用できる。
【0070】
(c)モールド型24の背面から紫外線を照射し、樹脂22を硬化させる。この工程で、モールド型としてシリコン金型を用いる場合は、UVを石英ガラス基板20側から与える。
【0071】
(d)モールド型24を離型する。UV硬化樹脂22に凸状の微細構造のマスクパターンが形成されている。
【0072】
(e)材料基板20が露出するまでUV硬化樹脂22をドライエッチングする。このドライエッチング工程は、UV硬化樹脂22のパターンの凹部の最下部に樹脂層がない状態でマスクパターンの型形状を転写できれば、省くことが可能である。
このドライエッチング工程(e)の条件の一例は以下のとおりである。
ガス種:酸素ガス(O2)
ガス流入量:20sccm
圧力:0.4Pa
樹脂エッチング速度:30nm/秒
上部バイアス電力:1KW
下部バイアス電力:100W
【0073】
(f)そのUV硬化樹脂22のパターン22をマスクにして石英ガラス基板20をドライエッチングする。このときのエッチングは、石英ガラス基板20に形成される凹凸構造の溝が所望の深さになるまで行う。
【0074】
このドライエッチング工程(f)はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例は次のとおりである。
上部電極パワー:200W
下部電極パワー:200W
電極間隔:9.5mm
上部電極温度:10℃
下部電極温度:10℃
ガス種:次の4種類の混合ガス
CF4=30sccm、
CHF3=60sccm、
Ar=100sccm、
He=5sccm
反応室内圧力:30Pa
石英ガラス基板のエッチング速度:8nm/秒
【0075】
このとき、石英ガラス基板20上の樹脂パターン22の凹凸の谷部は、完全にエッチングされずに僅かに樹脂が残っていてもよい。この谷部の残膜量は位相差に影響するが、予め残膜量と位相差に与える影響の関係はシミュレーションによって算出可能である。したがって、石英ガラス基板20の屈折率、フィリングファクタ、ピッチ(周期)、深さ等を最適化することによって、目的とする波長板の位相差を確保することができる。
【0076】
(g)最後に、最上部に残った樹脂マスクを酸素ガス(プラズマ)中でドライエッチングによる剥離処理により除去すると、偏光解消素子が完成する。
【0077】
[製造方法2]
図10は、基板上に基板とは異なる材質の別の誘電体薄膜層を形成し、その誘電体薄膜層にサブ波長構造体を形成する第1の例を示している。
【0078】
(a)ガラス基板30上にSiO2下地膜32を介して密着性補強膜34を形成し、その上にTa2O5薄膜36を形成する。密着性補強膜34としては、TiO2-x,Ta2O5-y,SiO2-zなどを使用することができる。ここで、TiO2-xの「−x」などは化学量論的な組成から多少外れたものであってもよいことを示している。
【0079】
(b)そのTa2O5薄膜36上にUV硬化樹脂22を塗布し、上からモールド型24で押圧する。モールド型24としてはシリコン型でも石英型でも、ともに使用しうる。UV硬化樹脂22としては、例えばPAC−01(東洋合成(株)製)を用いる。また、熱硬化性転写材料を使用する場合はシリコン製型も利用できる。
【0080】
(c)モールド型24の背面から紫外線を照射し、樹脂22を硬化させる。この工程で、モールド型としてシリコン金型を用いる場合は、UVをガラス基板30側から与える。
【0081】
(d)モールド型24を離型する。UV硬化樹脂22に凸状の微細構造のマスクパターンが形成されている。
【0082】
(e)Ta2O5薄膜36が露出するまでUV硬化樹脂22をドライエッチングする。このドライエッチング工程は、UV硬化樹脂22のパターンの凹部の最下部に樹脂層がない状態でマスクパターンの型形状を転写できれば、省くことが可能である。
【0083】
このドライエッチング工程(e)の条件の一例は以下のとおりである。
ガス種:酸素ガス(O2)
ガス流入量:20sccm
圧力:0.4Pa
樹脂エッチング速度:30nm/秒
上部バイアス電力:1KW
下部バイアス電力:100W
【0084】
(f)そのUV硬化樹脂22のパターン22をマスクにしてTa2O5薄膜36をドライエッチングする。このときのエッチングは、Ta2O5薄膜36に形成される凹凸構造の溝が所望の深さになるまで行う。
【0085】
このドライエッチング工程(f)はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例は次のとおりである。
上部電極パワー:1800W〜2000W
下部電極パワー:200W〜300W
CB(真空槽)内温度:80℃
電極温度:15℃〜20℃
ガス種:次の4種類の混合ガス
C3F8=140sccm、
CF4=40sccm、
BCl3=3sccm、
Ar=5sccm、
反応室内圧力:10mTorr
Ta2O5薄膜のエッチング速度:3nm/秒
【0086】
(g)最後に、最上部に残った樹脂マスクを酸素ガス(プラズマ)中でドライエッチングによる剥離処理により除去すると、偏光解消素子が完成する。
【0087】
この場合、Ta2O5薄膜36の厚さによっては、(g)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残っているようになったり、(h)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残らず、その下の密着性補強膜34又はさらにその下のガラス基板30が露出するようになる。
【0088】
[製造方法3]
図11は、基板上に基板とは異なる材質の別の誘電体薄膜層を形成し、その誘電体薄膜層にサブ波長構造体を形成する第2の例を示している。
【0089】
(a)ガラス基板30上にSiO2下地膜32を介して密着性補強膜34を形成し、その上にTa2O5薄膜36を形成する。密着性補強膜34としては、TiO2-x,Ta2O5-y,SiO2-zなどを使用することができる。
【0090】
Ta2O5薄膜36上にさらにCr膜40を形成する。Cr膜40はスパッタ法により膜厚が約50nmになるように形成する。Cr膜40はTa2O5薄膜36を加工する際のメタルマスクとするためのものである。
【0091】
(b)そのCr膜40上に電子線描画用のレジスト40を所定の厚さに塗布し、プリベークする。予め設計されたプログラムにより、偏光解消素子の諸元に対応したピッチ(周期)と線幅に描画する。
【0092】
この時、描画する光学素子のパターンレイアウトは、図3〜7に示したように光学軸方向がそれぞれ異なった方向、及び描画するライン幅がそれぞれ異なった状態で描画する。
【0093】
(c)レジスト42に対し、現像およびリンスを行うことにより、レジスト42にサブ波長凹凸構造が形成される。レジストパターン42の溝の底はCr膜40が露出している。
【0094】
(d)サブ波長凹凸構造のレジストパターン42をマスクとしてCr膜のドライエッチングを行い、Crマスクを形成する。エッチングには、ICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例を示すと、次のとおりである。
加工ガス:以下の3種の混合ガス
Arガス(10sccm)
O2ガス(10sccm)
Cl2ガス(55sccm)
放電パワー:500W
バイアスパワー:30W
チャンバー内圧力:2Pa
チラー(冷却器)温度:50℃
エッチング速度:約0.6nm/秒
【0095】
(e)レジスト42を剥離する。剥離の方法はドライエッチング装置内で、酸素ガスを導入し、酸素ガスプラズマ中でレジスト除去を行う方法と、基板を装置から取り出してCAROS洗浄(硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄)で除去する方法とがある。
【0096】
(f)そのCrマスク42のパターンをマスクにしてTa2O5薄膜36をドライエッチングする。このときのエッチングは、Ta2O5薄膜36に形成される凹凸構造の溝が所望の深さになるまで行う。
【0097】
このドライエッチング工程(f)はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例は次のとおりである。
上部電極パワー:1800W〜2000W
下部電極パワー:200W〜300W
CB(真空槽)内温度:80℃
電極温度:15℃〜20℃
ガス種:次の4種類の混合ガス
C3F8=140sccm、
CF4=40sccm、
BCl3=3sccm、
Ar=5sccm、
反応室内圧力:10mTorr
Ta2O5薄膜のエッチング速度:3nm/秒
【0098】
(g)最後に、最上部に残ったCrマスク42を硝酸第二セリウムアンモニウム溶液又はCrウエットエッチング液による剥離処理により除去すると、偏光解消素子が完成する。
【0099】
この場合、Ta2O5薄膜36の厚さによっては、(g)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残っているようになったり、図10(h)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残らず、その下の密着性補強膜34又はさらにその下のガラス基板30が露出するようになる。
【0100】
サブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝の深さは溝幅を設定することによりプラズマエッチング工程を通じて制御することができる。プラズマエッチング加工では、エッチングに有効に働くプラズマエッチング種(反応種)が、開口部が狭い場合は内部に侵入しにくくなって加工深さが深くなるにつれさらに入りにくくなるために、溝の深さは溝幅に依存する。
【0101】
図12に凹凸構造の溝幅(スペース幅)と溝の深さ(エッチング深さ)の測定結果を示す。この測定結果は次のように得た。基板上のTa2O5薄膜上に、電子線レジスト層を形成し、電子線により種々のスペース幅をもつライン・アンド・スペースパターンに描画し、現像をした後、リンスをしてライン・アンド・スペースのレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにしてTa2O5薄膜をドライエッチングした。Ta2O5薄膜のドライエッチングは前述の製造方法2の工程にしたがって行った。その結果、レジストのライン・アンド・スペースパターンによりTa2O5薄膜にサブ波長構造体を構成する凹凸構造が形成され、そのスペース部分が溝となる。そのできあがった凹凸構造の断面を電子顕微鏡で観察して溝幅と深さを測定して、図12の結果を得た。
【0102】
図12の結果は、凹凸構造を形成する誘電体の材質とドライエッチング条件により異なるので、製品を製造するための製造条件として誘電体の材質とドライエッチング条件が定まると、その製造条件のもとで図12のような溝幅と溝の深さの関係を予め実験により求めて置き、その関係にしたがって溝の深さが所定の深さになるように溝幅を設定する。図4から図6のサブ波長構造体だけでなく、任意の溝深さをもつサブ波長構造体はそのようにして製作することができる。
【0103】
上記の実施例では、サブ波長構造体の凹凸の凸部の断面が矩形であるものを示しているが、凸部の断面形状は他の形状とすることもできる。例えば、表1のパターンモデル形状として示したようなトップフラット形状(1−1及び1−2)やトップ頂点形状(2−1及び2−2)のサブ波長構造体も製作した。
【0104】
このような断面形状の凹凸構造を石英材料上に製作する方法について説明する。
(1)トップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方:
(a)石英ガラス基板上にCr膜(図示していない)を形成する。
(b)そのCr膜上にUV硬化樹脂を塗布し、図9(b)と同様に、その上からモールド型で押圧する。
(c)図9(c)と同様に、樹脂を紫外線露光して硬化させる。
(d)モールド型を離型した後、モールド型の形状が転写された樹脂パターンをマスクとしてCr膜をドライエッチングでパターニングする。
【0105】
(e)得られたCr膜パターンをマスクとして、下記条件で石英ガラス基板をドライエッチングする。ドライエッチング装置はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等である。
a)トップフラップ形状(1−1)のドライエッチング条件
圧力: 10.0mToor
反応ガス: CHF3 50sccm
アンテナバイアス: 1000W
バイアス電力: 200W
チラー温度: 10℃
加工時間: 60秒
この加工条件で、ボトムが尖った形状で、トップが矩形の形状ができる。
b)トップフラップ形状(1−2)のドライエッチング条件
圧力: 10.0mToor
反応ガス: CHF3 100sccm
アンテナバイアス: 1300W
バイアス電力: 100W
チラー温度: 0℃
加工時間: 60秒
この加工条件で、ボトムが矩形で、トップが矩形の形状ができる。
【0106】
(f)その後、Cr膜をウエットエッチングで剥離する。
【0107】
(g)ついで、Arガスで追加のドライエッチングを行う。
加工条件は、下記のとおりであり、この条件はトップフラップ形状の1−1と1−2で同じである。
圧力: 10.0mToor
エッチングガス: Ar 20sccm(Arのみ)
アンテナバイアス: 1200W
バイアス電力: 200W
チラー温度: −15℃
加工時間: 70秒
この追加のドライエッチングにより、パターンの凸部のトップ部にのみエッチングの効果が生じ、トップの形状がわずかにテーパ形状となる。斜面やボトムにはエッチングの効果は及びない。
【0108】
(2)トップ頂点形状(2−1、2−2)の作り方:
上述のトップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方と同様であるが、Arによる追加のドライエッチング加工時間を長くする。
(a)〜(d)はトップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方と同じである。
【0109】
(e)トップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方と同様に、得られたCr膜パターンをマスクとして石英ガラス基板をドライエッチングする。ドライエッチング条件は以下のようにする。
圧力: 10.0mToor
反応ガス: CHF3 100sccm
アンテナバイアス: 1200W
バイアス電力: 100W
チラー温度: 20℃
加工時間: 60秒
このドライエッチング加工を行うと、サイド方向からCrもすこしずつエッチングされる。
【0110】
(f)ついで、Cr膜を剥離せずに、Arガスで追加のドライエッチングを行う。このドライエッチング工程の時間を長くすることにより、エッチング途中でCr膜がなくなり、メタルマスクがない状態でドライエッチング加工を続ける。この加工条件は、下記のとおりである。
圧力: 5.0mToor
エッチングガス: Ar 20sccm
He圧力: 1mToor
アンテナバイアス: 1200W
バイアス電力: 200W
チラー温度: −15℃
加工時間: 100秒
この条件で加工すると、パターンの凸部のトップ部もエッチングされ、全体の形状がテーパ形状となる。
【0111】
ここで、トップ頂点形状2−1と2−2はCr膜パターンにより作り分けることができる。Cr膜パターンはライン・アンド・スペースパターンであり、ラインパターン間のスペース幅を大きくすると底部に平坦部が形成されてトップ頂点形状2−2となる。ライン・アンド・スペースパターンのライン幅とスペース幅の寸法を設定することによりトップ頂点形状2−1と2−2を作り分けることができる。トップ頂点形状2−1形成用のCr膜パターンのライン幅をa、スペース幅をAとし、トップ頂点形状2−2形成用のCr膜パターンのライン幅をb、スペース幅をBとすると、a>b、A<Bの関係がある。
【0112】
図13の図表のパターンモデル形状のいずれの場合も、位相差と波長の関係、位相差とサブ波長構造体の凹凸のパターン深さ(溝の深さ)の関係は図13の図表に示した関係をとるため、溝の深さを領域分割された中で変更することにより、又は偏光解消素子の位置によって変更することにより、偏光解消素子中での位置による位相差量の差異を発現することができた。図13の図表中で、位相差と波長の関係を示すグラフ(2段目)の結果を得た試料のパターン深さdは、トップフラット形状(1−1)ではd=800nm、トップフラット形状(1−2)ではd=1500nm、トップ頂点形状(2−1)ではd1=700nm、d2=800nm、トップ頂点形状(2−2)ではd1=700nm、d2=900nmである。また、位相差とパターン深さの関係を示すグラフ(3段目)の結果を得た透過光波長は405nmである。
【0113】
またサブ波長構造体領域で発生した位相差量は、λ/8〜5λ/8(20°〜100°)であった。これにサブ波長構造体用のパターン加工を施さない領域の位相差量0°を組み合わせると、発生位相差量の範囲は0〜5λ/8(0°〜100°)となった。表1には示していないが、サブ波長構造体の加工深さと位相差を比例の関係にあるため、加工するパターンの溝の深さを2倍に深くすることで最終的な発生位相差量は、0〜10λ/8(0°〜200°)まで達成することができた。
【0114】
表1に示したサブ波長構造体を、図14に示すように、共通の基板の表面側と裏面側の両面に5a,5bとして加工することにより、加工するパターンの溝の深さを2倍に深くすることと同じ効果を発現することができた。
【0115】
またこのとき、表面に形成したサブ波長構造体5aのパターンと、裏面に形成したサブ波長構造体5bのパターンの組合わせにより種々の特性の位相差解消光学素子を製作できた。図15はそのように共通の基板の両面にサブ波長構造体を形成したものの一例である。表面側のサブ波長構造体5aと裏面側のサブ波長構造体5bはともに例えば8×8個の領域に分割されている。両サブ波長構造体はともに表面側からみた状態で示している。各サブ波長構造体領域の矢印は光学軸方向を示している。サブ波長構造体5a,5bの下部の図は、それぞれの左上の角に配置されたサブ波長構造体領域を示している。この例では表裏の対応する位置のサブ波長構造体領域の光学軸方向が異なるように形成されている。
【0116】
表裏のサブ波長構造体の組合わせ方法は種々に可能であり、例えば下記のとおりである。
事例1:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じ場合。
事例2:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じだが、位置あわせをX方向にサブ波長構造体領域の半ピッチずらしたもの(又は、Y方向に半ピッチずらしたもの)。ここで、図15の横方向をX方向、縦方向をY方向としている。
事例3:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じだが、位置あわせをX方向にサブ波長構造体領域の1ピッチずらしたもの(又は、Y方向に1ピッチずらしたもの)。
事例4:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じだが、位置あわせをX、Y方向にサブ波長構造体領域の半ピッチずらしたもの。
【0117】
事例5:上記1〜4において、光学軸方向が異なるように、表裏の光学軸方向を回転させたもの。表裏の光学軸方向の回転角Δθは、0°≦Δθ≦90°である。図15はこの事例に含まれる。図15では、表面側の光学軸方向をθAとし、裏面側の光学軸方向をθBとすると、表裏の光学軸方向の回転角ΔθはΔθ=θA−θBと定義されるものである。
以上から、所望の面内位相差解消素子を製作することができた。
【0118】
図16の偏光解消素子は、偏光解消素子が形成された層7aと、裏面側に光量を均一化するための光量均一化用光学素子が形成された層7bを組み合わせたものである。光量均一化用光学素子として、マイクロレンズアレイ、インテグレータ又はフライアイレンズアレイなどが挙げられる。
【0119】
そのような光量均一化用光学素子はよく知られたものであり、その製造方法もよく知られている。その製造方法の一例を示すと、光学基板の表面にフォトレジスト(感光性材料の代表例)の層を形成し、このフォトレジスト層に対して2次元的な透過率分布を有する露光用マスクを介して露光し、フォトレジストの現像によりフォトレジストの表面形状として凸面形状もしくは凹面形状を得、しかる後にフォトレジストと光学基板とに対して異方性エッチングを行ない、フォトレジストの表面形状を光学基板に彫り写して転写することにより、光学基板の表面に所望の3次元構造の屈折面や反射面の形状を得る方法である(特許文献2,3を参照)。
【0120】
図17(A),(B)は偏光解消素子が形成された層7aと光量均一化用光学素子が形成された層7bとを組み合わせた光学素子の一例を示す断面図である。(A)は、偏光解消素子と光量均一化用光学素子とを別体として形成した後、サブ波長構造体4aが形成されている面の上部に偏光解消素子の裏面側を使用する光の波長に対して光透過性をもつ接着剤によって一体化されたものである。接着剤としては、例えばエポキシ系樹脂であるDIC株式会社製の商品名GRANDIC RCC-8790Rや、アクリル系樹脂である協立化学産業株式会社製の商品名ワールドロック7710、7720及び7730などが挙げられる。(B)は一方の面に複数のマイクロレンズアレイ42をもつ光量均一化用光学素子の層7bが形成された基板の他方の面に偏光解消素子7aを形成したものである。複数のサブ波長構造体4aが偏光解消素子を構成するマイクロレンズアレイ42の1つの光学有効領域42aに含まれるように形成されている。この偏光解消素子の平面図を概略的に示したものが図19(A)である。
【0121】
この例では、4つのサブ波長構造体4aが偏光解消素子を構成するマイクロレンズアレイ42の1つの光学有効領域42aに含まれているが、1つのマイクロレンズアレイ42の光学有効領域42aに含まれるサブ波長構造体4aの数はそれよりも少なくても多くてもよい。また、この例では、1つのサブ波長構造体4aにおけるピッチや溝の深さが均一に形成されているが、光学軸をランダムにするためにピッチや溝の深さを1つのサブ波長構造体4a内で不均一や不連続にしてもよいし、溝の深さを一定の関数で表わされる周期に沿ったものにしてもよい。
【0122】
図17(A)及び(B)のサブ波長構造体4aは、基板3上にスパッタリング法やCVD(化学気相成長)法などの成膜法によって使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体層4を堆積し、その誘電体層4上にレジスト層、または樹脂層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィーによりサブ金型とは凹凸が逆になったレジスト、または樹脂パターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして誘電体層4をエッチングして基板3とは異なる材料からなるサブ波長構造体層を形成する方法によって形成することができる。
【0123】
また、上記のサブ波長構造体4aは、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基板上に樹脂層を塗布し、その樹脂層に微細凹凸構造の金型を押し当てるインプリント工法により、基板上に配列された樹脂の凸条によって金型は凹凸が逆のパターンを形成し、ドライエッチング法などによって凹凸パターン形状を基板に転写する方法によっても形成することができる。
【0124】
図18(A),(B)は偏光解消素子が形成された層7aと光量均一化用光学素子が形成された層7bとを組み合わせた光学素子の他の例を示す断面図である。(A)は、偏光解消素子と光量均一化用光学素子とを別体として形成した後、サブ波長構造体4aが形成されている面の上部に、使用する光の波長に対して光透過性をもつ接着剤によって偏光解消素子が接着されて一体化されたものである。(B)は一方の面に複数のマイクロレンズアレイ42をもつ光量均一化用光学素子の層7bが形成された基板の他方の面に偏光解消素子7aを形成したものである。偏光解消素子を構成するマイクロレンズアレイ42の1つの光学有効領域42aにサブ波長構造体4aが1つのみ含まれるように形成されている。この偏光解消素子の平面図を概略的に示したものが図19(B)である。
【0125】
この例でも1つのサブ波長構造体4aにおけるピッチや溝の深さが均一に形成されているが、光学軸をランダムにするために1つのサブ波長構造体4a内でピッチや溝の深さを不均一や不連続にしてもよいし、溝の深さを一定の関数で表わされる周期に沿ったものにしてもよい。これらの偏光解消素子のサブ波長構造体4aの形成方法は図17の偏光解消素子のものと同じである。
【0126】
(偏光解消素子の適用例)
(レーザプリンタへの適用)
図20(A)はレーザプリンタの光学系を示したものである。レーザダイオード・ユニット51内部には、光源としてのレーザダイオードと、レーザダイオードから射出されるレーザビームは平行光線にするコリメートレンズが設けられている。レーザダイオード・ユニット51から平行光線となって射出されるレーザビームは、ポリゴンミラー(回転多面鏡)52によって偏向走査され、F−θレンズ53等から構成される結像レンズ系によってドラム状の感光体ドラム55の帯電した表面に画像を結像する。
【0127】
この実施例では、レーザダイオード・ユニット51から射出されるレーザビームをランダムな偏光状態をもったレーザビームとするために、レーザダイオード・ユニット51とポリゴンミラー52の間の光路上に偏光解消素子57が配置されている。
【0128】
図20(B)は、偏光解消素子57の機能を高めるために、偏光解消素子57をレーザビームの光軸方向に平行な軸を回転中心として回転させ、又は偏光解消素子57をレーザビームの光軸に平行に若しくは垂直に振動させる機能を備えた駆動機構57aを設けた例である。このような駆動機構57aを設けることにより、偏光解消素子57の偏光解消機能に時間分解能を追加することができる。すなわち、時間軸に対しても偏光解消機能を付加することができる。
【0129】
偏光解消素子57を回転させる場合には、偏光解消素子57を中心に回転中心を有するように形成する。そして、偏光解消素子57の回転中心にモータによって駆動される回転機構を装着して偏光解消素子57を回転させるようにしてもよいし、偏光解消素子57の中心を回転可能に保持しておいて偏光解消素子57の外周部に偏光解消素子57を回転させる機構を設けるようにしてもよい。偏光解消素子57の回転速度は、使用する光源や使用する表示デバイスの振動数によって異なるが、10rpm以上の回転速度があれば偏光解消機能を向上させる効果が十分に得られる。
【0130】
偏光解消素子57を振動させる場合には、偏光解消素子57の外周を保持するセルを設け、そのセルをピエゾ素子によってレーザビームの光線方向に対して平行に又は垂直に振動させるようにする。偏光解消素子57の振動速度は、使用する光源や使用する表示デバイスの周波数によって異なるが、使用するデバイスの表示振動周波数(例えば、10msec)の10分の1以上の振動数があれば偏光解消機能を向上させる効果が十分に得られる。
【0131】
(露光装置への適用)
図21は露光装置の光学系を概略的に示したものである。KrFエキシマレーザ又はArFエキシマレーザからなる光源60からの紫外線のレーザ光は、光束整形光学系61により所定の光束形状に変換され、照明光学系63,64により原版であるマスク66に照射される。マスク66のパターンはマスク66を透過した紫外線が投影光学系67によりウエハ68に照射されることにより投影露光される。ウエハ68はウエハステージ69に保持され、ウエハステージ69によってウエハ68が投影光学系67の光軸と直交する平面に沿って2次元的に移動することにより投影露光が繰り返されていく。
【0132】
光源60がレーザであることから、発生するレーザ光は直線偏光である。そこで、この実施例では、光源60から射出されるレーザ光をランダムな偏光状態をもったレーザ光とするために、光束整形光学系61と照明光学系63の間の光路上に偏光解消素子62が配置されている。
【0133】
なお、この露光装置の例においても、偏光解消素子62を回転させたり振動させたりするための駆動機構を設けて、偏光解消素子62の偏光解消機能を高めるようにしてもよい。そのような駆動機構は上記のレーザプリンタの例と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0134】
(光ファイバ増幅器への適用)
図22は偏光解消素子を光ファイバ増幅器に適用した例を示したものである。
ファイバ増幅器は、希土類元素添加光ファイバ74に光源70からの励起光71を入射して光ファイバ74中の希土類元素を活性化しておき、そこに入射光72を入射させることにより、その入射光72を増幅して出射させるものである。励起光71と入射光72をともに光ファイバ74に入射させるために、励起光71と入射光72とを結合する光カプラ73が設けられている。
【0135】
光ファイバ74に添加される希土類元素は増幅すべき入射光の波長に応じて選択される。例えば、入射光の波長が1550nm波長帯域である場合にはエルビウム(Er)を初めとするランタノイド希土類元素、入射光の波長が1060nm波長帯域又は1300nm波長帯域の場合はネオジム(Nd)、入射光の波長が1300nm波長帯域の場合はプラセオジウム(Pr)、入射光の波長が1450nm波長帯域の場合はツリウム(Tm)などが用いられる。
【0136】
希土類元素添加光ファイバ74は、増幅特性について偏光依存性をもっているので、この実施例では光ファイバ74に入射する光を無偏光状態にするために、光カプラ73と光ファイバ74の間の光路上に本発明の偏光解消素子76が配置されている。
【0137】
なお、この光ファイバ増幅器の例においても、偏光解消素子76を回転させたり振動させたりするための駆動機構を設けて、偏光解消素子76の偏光解消機能を高めるようにしてもよい。そのような駆動機構は上記のレーザプリンタの例と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0138】
本発明の偏光解消素子は、上記に例示したレーザプリンタ、露光装置及び光ファイバ増幅器のほかにも、偏光に起因してスペックルが生じる光学系に適用することができる。そのような光学系として、レーザ光源を用いる分光器、レーザ計測装置、光ピックアップ装置、プロジェクタ、特許文献4に記載されているような偏光解析装置、偏波モード分散補償(PMDC)システム、CCD及びCMOSセンサー、特許文献5に記載されているような位相差測定装置、並びに特許文献6に記載されているようなレーザ加工装置等を挙げることができる。
【0139】
偏光解消素子を用いた効果及びその偏光解消素子を回転駆動及び振動駆動することによる効果の検証をレーザープロジェクタにおいて行なった。この検証では、表示画面の一部を拡大させてその拡大部分の面積当たりのスペックルの数をカウントし、そのカウント数を表示画面全体の面積におけるカウント数に換算して評価した。偏光解消素子を導入しなかった場合は、大小・濃淡を含めてスペックルのカウント数は約3万箇所にとなった。これに対し、偏光解消素子を導入した場合にはそのカウント数が1000個程度に激減した。
【0140】
その状態から偏光解消素子を50rpmの速度で回転させた場合はスペックルがまったく観測されなかった。また、偏光解消素子をピエゾ素子を使用してレーザビームの光線方向に対して垂直に約50μmの振幅で振動させた場合にもスペックルがまったく観測されなかった。これらのことから、偏光解消素子を導入することによってスペックルの数を大幅に減少させる効果があることがわかり、さらに偏光解消素子を回転させたり振動させたりすることによってその効果を向上させることができることがわかる。
【符号の説明】
【0141】
2,3 基板
4 誘電体層
2a,4a サブ波長構造体
6, 57, 62 偏光解消素子
8 サブ波長構造体領域
【技術分野】
【0001】
本発明は光学機器に用いられる偏光解消素子とその素子を用いた光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光解消素子は、レーザプリンタなどで問題となる偏光を解消させるための光学部品として用いられたり、光学露光装置や光学測定機などの光学機器の光学系のスペックルの発生を低減させるスペックル低減素子として用いられたりしている。
【0003】
レーザからの光をマイクロレンズアレイやフライアイレンズを通すことによってひとつの光束を複数の光束に分割する際、分割された光は偏光方向が同一方向に揃っており、光学系の中で特定の条件が整うと、分割された光がそれぞれ迷光の原因となって光学系の途中で光が強めあう点(スペックル)が生じる場合がある。スペックルは、いろいろな光学系で発生することが知られており、これを解消する方法が種々提案されているが、有効な解決策は確立されていない。
【0004】
スペックルを解消する方法のひとつとしては、偏光状態が様々になったいわゆるランダム偏光状態になっていることが望ましい。偏光が不揃いであると、光の干渉が起こりにくいからである。
【0005】
偏光を解消する手法の1つとして、特性の異なるサブ波長構造体領域(SWS)を基板表面にいくつも設けることで、基板を光が通過する際に各周期構造体に応じた偏光を持たせることで偏光を解消する偏光解消素子が提案されている(特許文献1参照。)。
【0006】
サブ波長構造体領域とは使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもつ周期構造体のことである。使用する光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する格子構造は構造性複屈折作用をもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−341453号公報
【特許文献2】特開平7−230159号公報
【特許文献3】特表平8−504515号公報
【特許文献4】WO2004/008196号
【特許文献5】特開2007−263593号公報
【特許文献6】特開2005−279761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
提案の偏光解消素子では、各サブ波長構造体領域を構成する溝の深さは一定であるため、1つの基板上で発生させることのできる偏光状態が限られてしまい、スペックルを解消するに足りるランダム偏光を発生させるのには十分ではない。スペックルを解消するためには様々な偏光状態を作り出せることが求められる。
【0009】
本発明の第1の目的は、サブ波長構造体領域を用いた偏光解消素子を実現するにあたり、様々な偏光状態を作り出せる構造をもった偏光解消素子を提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、そのような偏光解消素子を光学系に備えることによりスペックルを解消した光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明は、基板表層部にサブ波長構造体を形成し、サブ波長構造体の溝の配列方向である光学軸方向を複数にするだけでなく、深さ方向も複数にすることにより発生させる偏光状態を一層多様化させる機能を有するようにしたものである。
【0012】
すなわち、本発明の偏光解消素子の第1の形態は、基板表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造体領域が互いに隣接して配置された偏光解消素子であって、それらのサブ波長構造体領域は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、サブ波長構造体領域を構成する溝の配列方向である光学軸方向が隣接するサブ波長構造体領域間で異なる部分をもつように配置されており、かつ、この偏光解消素子はそれらの溝として深さの異なるものを含んでいる。
【0013】
本発明の偏光解消素子の第2の形態は、基板表層部に形成したサブ波長構造体を第1の形態のように明確な領域に分割しないものである。すなわち、基板表層部に使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造体が形成され、そのサブ波長構造体はサブ波長構造体を構成する溝の配列方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるようにその溝が同心円状に配列されたものであり、かつ、その溝として深さの異なるものを含んでいる偏光解消素子である。
【0014】
サブ波長構造体の複屈折作用について、図1を参照して説明する。図1に示す構造は一般的なサブ波長構造体を示したものであり、使用する光の波長よりも短い凹凸周期(ピッチ)Pを有するサブ波長凹凸構造が形成されている。サブ波長凹凸構造は屈折率の異なる2種類の媒質からなり、それらの媒質として空気と屈折率nの媒質を想定する。屈折率nの凸条のランドの幅がL、空気層からなる凹条の溝の幅がSであり、P=L+Sである。また、L/Pはフィリングファクタ(F)と呼ばれる。dは溝の深さである。
【0015】
周期Pの目安としては、使用する最も短い入射光の波長より短い周期で、より望ましくは使用波長の半分以下の周期とする。周期Pが入射光の波長よりも短い周期構造は入射光を回折することはないため入射光はそのまま透過し、入射光に対して複屈折特性を示す。すなわち、入射光の偏光方向に応じて異なる屈折率を示す。その結果、構造に関するパラメータを調整することにより位相差を任意に設定することができるため各種波長板を実現できる。
【0016】
構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い周期でストライプ状に配置したとき、ストライプに平行な偏光成分(TE波)とストライプに垂直な偏光成分(TM波)とで屈折率(有効屈折率と呼ぶ)が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
【0017】
サブ波長構造体の周期よりも2倍以上の波長をもつ光が垂直入射したと仮定する。このときの入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行(TE方向)であるか垂直(TM方向)であるかによって、サブ波長構造体の有効屈折率は次の式で与えられる。
n(TE)=(F×n2+(1−F))1/2
n(TM)=(F/n2+(1−F))1/2
【0018】
入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行である場合の有効屈折率をn(TE)、垂直である場合の有効屈折率をn(TM)と表す。式中の符号Fは前述のフィリングファクタである。
【0019】
このようなサブ波長構造体を透過した光のTE波とTM波の間の位相差(リタデーション)Δは、
Δ=Δn・d
である。ここで、Δnはn(TE)とn(TM)の差、dは前述の溝の深さである。
【0020】
サブ波長構造体領域に直線偏光の光が入射すると、この位相差によってその透過光は楕円偏光に変わる。光学軸の異なるサブ波長構造体領域が隣接する本発明の偏光解消素子を直線偏光の光が透過すると、隣接するサブ波長構造体領域間で楕円率が異なるとともに、サブ波長構造体を構成する溝の深さの異なる部分を透過した直線偏光間でも位相差の相違によって楕円率が異なる。
【0021】
第1の形態の偏光解消素子においては、サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内にそれらの深さの異なる溝をもっているようにすることができる。さらに、サブ波長構造体領域は隣接するサブ波長構造体領域間でサブ波長構造体領域を構成する溝の深さが異なっているようにしてもよい。
【0022】
また、サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に複数の光学軸方向をもっているようにすることもできる。その場合、サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に互いに直交する2つの光学軸方向をもっているようにしてもよい。
【0023】
第1及び第2の形態の偏光解消素子において、サブ波長構造体を構成する溝の深さが光学軸方向に沿って連続的に変化しているようにしてもよい。そのような連続的な変化を実現する1つの方法として、三角関数、指数関数又は他の任意の数式で表される関数に従うように変化させることができる。溝の深さの連続的な変化に伴って、このサブ波長構造体領域を通過する光の位相差(後述)が連続的に変化し、偏光状態が連続的に変化して種々の偏光状態を作成するのに一層寄与する。
【0024】
この偏光解消素子で発生する位相差Δは使用する波長λに対して、
λ/8≦Δ≦λ
となるようにサブ波長構造体が設計されていることが好ましい。これにより、この偏光解消素子の異なる場所を通過した光束同士であってもその干渉を防止することができる。
【0025】
サブ波長構造体は、誘電体の薄膜材料、合成石英もしくは光学ガラス材料からなる構造材料、光学結晶材料又はプラスチック材料からなる光透過性材料で構成することができる。
【0026】
そのような誘電体材料としては、TiO2、Nb2O5、In2O5、SnO2、Al2O3、CrO2、ZrO2、MgF2、MgO2、CeO2、Ta2O5、SiO2、ITO、ハイコム(メルク社の商品名:ZrO2+TiO2)、OM−10(メルク社の商品名:Ta2O5+TiOn(nは酸素数であり、この化合物はTiが欠損状態にあるものを表わす。))、OM−4(メルク社の商品名)、H−4(メルク社の商品名)、M−4(メルク社の商品名)などを用いることができる。
【0027】
光学ガラス材料としては、テンパックス(商標)やネオセラム(商標)などを用いることができる。
【0028】
本発明の偏光解消素子は、基板の一方の側の表層部に形成されたものに限らず、基板の表面側と裏面側の両方の表層部にこの偏光解消素子が形成されているものも含んでいる。この場合、基板の表面側と裏面側に同じ偏光解消素子を背中合わせの関係に配置したり、基板の面内方向をX,Y方向とすると、X,Y方向のいずれか一方向又は両方にずらして配置したり、又は一方の偏光解消素子を他方の偏光解消素子に対して面内で回転させて配置するなど、種々の配置方法をとることができる。また基板の表面側の偏光解消素子と裏面側の偏光解消素子を異なる光学軸方向をもったものにしたり、サブ波長構造を構成する凹凸の溝の深さの異なるものにするなど、偏光解消素子の構造も種々のものを組み合わせることができる。このように基板の両面の偏光解消素子を種々に配置したり組み合わせたりすることにより、透過光の偏光状態を一層ランダムにすることができる。
【0029】
また、本発明の偏光解消素子は、該偏光解消素子が形成されている層とは別に光量を均一化するための光量均一化用光学素子が形成された層を備えているものも含んでいる。そのような光量均一化用光学素子としては、マイクロレンズアレイ、インテグレータ及びフライアイレンズアレイなどを挙げることができる。
【0030】
このように、偏光解消素子と光量均一化用光学素子を一体化したものを、レーザ露光装置やレーザ加工装置などの光学系に適用することにより、これらの素子の透過光の偏光状態をランダムにするとともに、光量を均一化することができる。
【0031】
光量均一化用光学素子はそれぞれの光学有効領域が複数のサブ波長構造体領域を含むように形成されていてもよいし、光量均一化用光学素子のそれぞれの光学有効領域がサブ波長構造体領域の1つずつと一致するように形成されていてもよい。
【0032】
本発明はまた、レーザ光源から発生するレーザ光を対象物に照射する光学系を備えた光学機器も対象としている。そのような光学機器としてはレーザプリンタ、露光装置、レーザ光源を用いる分光器、及びレーザ計測装置などを挙げることができる。そのような光学機器において、本発明はそれらの光学機器の光源からのレーザ光の偏光状態をランダムな偏光状態にするために本発明の偏光解消素子をそれらの光学機器の光学系の光路上に配置したものである。
【0033】
上記の光学機器においては、偏光解消素子を前記光路上において光線方向の軸を中心として回転させたり、又は光路上において光線方向に対して平行又は垂直な方向に振動させたりする駆動機構を備えるようにしてもよい。そのような駆動機構を備えるようにすれば、偏光解消素子による偏光解消機能に時間分解能を追加、すなわち時間軸に対しても偏光解消の機能を付加することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の偏光解消素子は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもつサブ波長構造体からなるものであるが、それらのサブ波長構造体を構成する溝の配列方向である光学軸方向が複数あるだけでなく、サブ波長構造体を構成する溝として深さの異なるものを含むようにしたので、多種の偏光状態を作り出すことが可能になった。
【0035】
この偏光解消素子をそれぞれの光学系に配置した露光装置、レーザプリンタその他の光学機器では光学系でのスペックルの発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】サブ波長構造体を説明するための概略断面図である。
【図2】本発明におけるサブ波長構造体の2つの形態を示す概略断面図である。
【図3】一実施例を示す概略平面図である。
【図4】同実施例におけるサブ波長構造体領域の一形態を示す概略断面図である。
【図5】同実施例におけるサブ波長構造体領域の他の形態を示す概略断面図である。
【図6】同実施例におけるサブ波長構造体領域のさらに他の形態を示す概略断面図である。
【図7】他の実施例を示す概略平面図である。
【図8】本発明の偏光解消素子を製造する一方法で使用する金型を製作する方法の一例を示す工程断面図である。
【図9】一実施例の偏光解消素子を製造する方法を示す工程断面図である。
【図10】他の実施例の偏光解消素子を製造する第1の方法を示す工程断面図である。
【図11】他の実施例の偏光解消素子を製造する第2の方法を示す工程断面図である。
【図12】ドライエッチング加工により形成されるサブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝幅と溝深さの関係を示すグラフである。
【図13】サブ波長構造体の断面形状と位相差及び溝の深さの関係を示す図表である。
【図14】基板の両面にサブ波長構造体を形成した偏光解消素子の実施例を示す概略断面図である。
【図15】同実施例の表面側と裏面側のサブ波長構造体の光学軸方向を示す平面図であり、それぞれの下側の図はそれぞれの1つのサブ波長構造体領域の光学軸方向を示す拡大平面図である。
【図16】基板の一方の面側にサブ波長構造体が形成された層をもち、他方の面側に光量均一化用素子が形成された層をもつ偏光解消素子の実施例を示す概略断面図である。
【図17】同実施例の構造の一例を示す概略断面図であり、(A)は光量均一化用素子が形成された層をサブ波長構造体が形成された層の上に接着して形成した場合、(B)は1つの基板の一方の面に光量均一化用素子を形成し他方の面にサブ波長構造体を形成することにより形成した場合である。
【図18】同実施例の構造の他の例を示す概略断面図であり、(A)は光量均一化用素子が形成された層をサブ波長構造体が形成された層の上に接着して形成した場合、(B)は1つの基板の一方の面に光量均一化用素子を形成し他方の面にサブ波長構造体を形成することにより形成した場合である。
【図19】同実施例における光量均一化用素子の光学有効領域とサブ波長構造体との関係を示す偏光解消素子の平面図であり、(A)は図17の例、(B)図18の例をそれぞれ示したものである。
【図20】偏光解消素子を使用した一実施例としてのレーザプリンタの光学系を示す概略斜視図である。
【図21】偏光解消素子を使用した他の実施例としての露光装置の光学系を示す概略構成図である。
【図22】偏光解消素子を使用したさらに他の実施例としての光ファイバ増幅器の光学系を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の偏光解消素子は基板表層部に複数のサブ波長構造体領域を隙間なく配置したものである。
【0038】
それらのサブ波長構造体領域を構成するサブ波長構造体の第1の形態は、図2(A)に示されるように、使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体の基板2自体によりサブ波長構造体2aを形成したものである。そのようなサブ波長構造体を形成する一方法は、基板2上にレジスト層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィーによりサブ波長構造体とは凹凸が逆になったレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして基板をエッチングして基板と同一材料からなるサブ波長構造体2aを形成する方法である。
【0039】
それらのサブ波長構造体領域を構成するサブ波長構造体の第2の形態は、図2(B)に示されるように、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基板3の表面に形成された誘電体層4にサブ波長構造体4aを形成したものである。そのような第2の形態のサブ波長構造体を形成する一方法は、基板3上にスパッタリング法やCVD(化学気相成長)法などの成膜法によって使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体層4を堆積し、その誘電体層4上にレジスト層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィーによりサブ波長構造とは凹凸が逆になったレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして誘電体層4をエッチングして基板3とは異なる材料からなるサブ波長構造体層を形成する方法である。
【0040】
第2の形態のサブ波長構造体を形成する他の方法は、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基板上に樹脂層を塗布し、その樹脂層に微細凹凸構造の金型を押し当てるインプリント工法により、基板上に配列された樹脂の凸条によってサブ波長構造とは凹凸が逆のパターンを形成し、ドライエッチング法などによって凹凸パターン形状を基板に転写し、サブ波長構造体を得る方法である。
【0041】
図3は複数のサブ波長構造体領域8からなる第1の形態の偏光解消素子の一実施例の平面図を概略的に示している。偏光解消素子6の表層部には、複数のサブ波長構造体領域8が配置されている。サブ波長構造体領域8は互いに隙間のない状態に配置されている。ここでは8×8=64個のサブ波長構造体領域8が配置されたものを示しているが、これは概略図であり、その個数に限定されるものではなく、サブ波長構造体領域8の数は多いほどよい。例えば、偏光解消素子6が5mm×5mmの正方形で、サブ波長構造体領域8が50μm×50μmであるとすると、100×100=10000個のサブ波長構造体領域8が配置された偏光解消素子6となる。
【0042】
サブ波長構造体領域8は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝により構成されるストライプ状の凹凸構造をもっている。そのストライプ状の凹凸の配列方向が光学軸であり、図では光学軸は矢印で示されている。この実施例では各サブ波長構造体領域8は1つずつの光学軸をもっている。光学軸方向は隣接するサブ波長構造体領域8間では異なる部分をもつように、ここでは隣接するサブ波長構造体領域8間で光学軸方向が異なるようにサブ波長構造体領域8が配置されている。サブ波長構造体領域8の光学軸方向は360度を15分割した方向のいずれかの方向をもつように形成されており、偏光解消素子6としては光学軸方向がランダムになるようにサブ波長構造体領域8が配置されている。
【0043】
サブ波長構造体領域8内における光学軸は1つである必要はなく、互いに直交する2つの方向の光学軸をもつようにサブ波長構造体領域8を形成することもできる。また、さらに複数個の光学軸をもつようなサブ波長構造体領域8であってもよく、後述のように光学軸方向が中心から放射状に広がるようにサブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝が同心円状に配列されているようなサブ波長構造体領域8であってもよい。
【0044】
この偏光解消素子6は、サブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝の深さに関し、深さの異なるものを含んでいる。
【0045】
1つの形態は、各サブ波長構造体領域8内ではその溝の深さを均一にし、その溝の深さの異なるサブ波長構造体領域8をランダムに配置したものである。
【0046】
他の形態は、各サブ波長構造体領域8内においてその溝の深さを変化させたものである。以下に、そのような各サブ波長構造体領域8内においてその溝の深さを変化させた実施例をいくつか説明する。以下に示す図4〜図6は1つのサブ波長構造体領域8を光軸に沿って切断した状態の断面図として示す。サブ波長構造体は図2に示したように2つの形態があるが、いずれの形態であってもよい。
【0047】
図4のサブ波長構造体はピッチP1,P2が異なり、溝の深さd1,d2も異なるように形成された例である。ピッチの大きい部分では溝の幅も大きく、溝の深さも深くなっている。
【0048】
図5のサブ波長構造体はピッチP1,P2が等しく、溝の深さd1,d2と、凸部であるランドの幅L0,L1,L2も異なるように形成された例である。
【0049】
図6のサブ波長構造体はサブ波長構造体の底部をつないだ線が関数で表わされるように、溝の深さが変化させられている例である。ここでは、その関数として三角関数の例を示しているが、他の関数でもよい。溝の深さが連続的に変化していればよい。
【0050】
図7は複数のサブ波長構造体領域に分割されることなく、全体として1つのサブ波長構造体領域からなる第2の形態の偏光解消素子の一実施例の平面図を概略的に示している。
【0051】
この実施例では、基板表層部の全面にわたって、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造体が形成されている。そのサブ波長構造体はサブ波長構造体を構成する溝の配列方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるようにその溝が同心円状に配列されている。したがって、図中に矢印で示される光学軸方向は360度にわたって分布している。さらに、サブ波長構造体を構成する溝の深さは、この偏光解消素子の中心(A1)から半径方向の一点(A2)に至る位置での断面図が、例えば図6に示されるようになるように、三角関数その他の任意の関数に従って連続して変化するように形成されている。
【0052】
この実施例では入射光の中心が偏光解消素子の中心(A1)にくるように光学系を配置するのが最も効果的な使用方法である。
【0053】
次に、偏光解消素子の作製手順を説明する。ここで、素子の作製の説明に先立って型の作製方法を説明する。
【0054】
図8(a)〜(d)は石英を基材とした型の作製方法を説明するための図である。
(a)石英材料を基板10とし、その表面に電子線描画用のレジスト12を所定の厚さに塗布し、プリベークする。予め設計されたプログラムにより、偏光解消素子の諸元に対応したピッチ(周期)と線幅に描画する。
【0055】
この時、描画する光学素子のパターンレイアウトは、図3〜7に示したように光学軸方向がそれぞれ異なった方向、及び描画するライン幅がそれぞれ異なった状態で描画する。このことによって以下の3つの利点が得られる。
【0056】
(1)描画されたパターンの光学軸方向が異なる。
(2)描画されたパターンの線幅が異なるパターンが得られる。
(3)線幅が異なると、ドライエッチングで表面加工する際に、加工深さが異なる。
つまり、(3)は、プラズマエッチング加工の際、エッチングに有効に働くプラズマエッチング種(反応種)が、開口部が狭い場合は内部に侵入しにくくなる(加工深さが深くなるにつれさらに入りにくくなる)ためである。
【0057】
この性質を活用して、描画する光学軸方向は一定のまま、描画線幅を変更させることだけで各分割領域で発生する位相差を変更することが可能になる。このことは、各領域で発生する位相差を異ならせるので、合成される光の位相差はランダム位相差光の集合となる。
【0058】
(b)レジスト12に対し、現像およびリンスを行うことにより、レジスト12にサブ波長凹凸構造が形成される。レジストパターン12の溝の底は基板10の石英基材が露出している。
【0059】
(c)サブ波長凹凸構造のレジストパターン12をマスクとして石英基板10のドライエッチングを行う。エッチングには、ICP(誘導結合プラズマ)、NLD(磁気中性子放電)プラズマ処理装置、TCP(誘導結合型プラズマ)等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いる。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例を示すと、次のとおりである。
加工ガス:CHF3ガス(25sccm)+CF4ガス(25sccm)
放電パワー:1000W
バイアスパワー:100W
チャンバー内圧力:1.3Pa(10mTorr)
チラー(冷却器)温度:−20℃
エッチング速度:約6nm/秒
【0060】
(d)レジスト12を剥離する。剥離の方法はドライエッチング装置内で、酸素ガスを導入し、酸素ガスプラズマ中でレジスト除去を行う方法と、基板を装置から取り出してCAROS洗浄(硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄)で除去する方法とがある。完成したものを石英型として用いる。
【0061】
また、ここでは図示しないが、シリコン基板を使用することも可能である。シリコンを基材とした型の作製方法を以下に説明する。この方法は、必ずしもシリコン基板に限定されることはなく、石英基板上にスパッタリング、CVD方式等で形成されたシリコン膜に対しても同様の方法で型の製作が可能である。
【0062】
シリコンを基板とし、その表面に電子線描画用のレジストを所定の厚さに塗布し、プリベークする。予め設計されたプログラムにより、波長板の諸元に対応したピッチ(周期)と線幅に描画する。
【0063】
レジストに対し、現像およびリンスを行うことにより、レジスト上にサブ波長凹凸構造が形成される。溝の底はシリコン基材が露出している。
【0064】
サブ波長凹凸構造のレジストパターンをマスクとしてシリコンのアルカリウェットエッチング(KOH溶液使用)を行う。シリコン基板はシリコン面の壁として、ピッチを維持したまま深さ方向にエッチングされる。なお、前述した石英基板上にスパッタリング、CVD方式等と同様の方法で形成されたシリコン膜に対しても型の製作が可能である。シリコンのエッチングは、ボッシュプロセス用いたドライエッチングでも同様の構造を制作できる。ボッシュプロセスとは、SF6ガスによりエッチングを行い、その後C4F8ガスに切り替えて、シリコン基板の加工壁面に保護膜の形成を行う。これらSF6ガスによるエッチング及びC4F8ガスによる保護膜形成を交互に繰り返すプロセスである。
【0065】
レジストを剥離する。完成したものをシリコン型として用いる。このようにして作られた石英型又はシリコン型を便宜上、金型(モールド)と呼ぶ。
【0066】
次にそのような金型を用いて実施例の偏光解消素子を製造する方法を説明する。
【0067】
[製造方法1]
図9は製造方法の第1の例である。
【0068】
(a)石英ガラス基板20を用意する。
【0069】
(b)その石英ガラス基板20上にUV(紫外線)硬化樹脂22を塗布し、上からモールド型24で押圧する。モールド型24としてはシリコン型でも石英型でも、ともに使用しうるが、微細構造を形成するナノインプリントにおいては、石英金型の方が光透過性なので適している。UV硬化樹脂22としては、例えばPAC−01(東洋合成(株)製)を用いる。また、熱硬化性転写材料を使用する場合はシリコン製型も利用できる。
【0070】
(c)モールド型24の背面から紫外線を照射し、樹脂22を硬化させる。この工程で、モールド型としてシリコン金型を用いる場合は、UVを石英ガラス基板20側から与える。
【0071】
(d)モールド型24を離型する。UV硬化樹脂22に凸状の微細構造のマスクパターンが形成されている。
【0072】
(e)材料基板20が露出するまでUV硬化樹脂22をドライエッチングする。このドライエッチング工程は、UV硬化樹脂22のパターンの凹部の最下部に樹脂層がない状態でマスクパターンの型形状を転写できれば、省くことが可能である。
このドライエッチング工程(e)の条件の一例は以下のとおりである。
ガス種:酸素ガス(O2)
ガス流入量:20sccm
圧力:0.4Pa
樹脂エッチング速度:30nm/秒
上部バイアス電力:1KW
下部バイアス電力:100W
【0073】
(f)そのUV硬化樹脂22のパターン22をマスクにして石英ガラス基板20をドライエッチングする。このときのエッチングは、石英ガラス基板20に形成される凹凸構造の溝が所望の深さになるまで行う。
【0074】
このドライエッチング工程(f)はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例は次のとおりである。
上部電極パワー:200W
下部電極パワー:200W
電極間隔:9.5mm
上部電極温度:10℃
下部電極温度:10℃
ガス種:次の4種類の混合ガス
CF4=30sccm、
CHF3=60sccm、
Ar=100sccm、
He=5sccm
反応室内圧力:30Pa
石英ガラス基板のエッチング速度:8nm/秒
【0075】
このとき、石英ガラス基板20上の樹脂パターン22の凹凸の谷部は、完全にエッチングされずに僅かに樹脂が残っていてもよい。この谷部の残膜量は位相差に影響するが、予め残膜量と位相差に与える影響の関係はシミュレーションによって算出可能である。したがって、石英ガラス基板20の屈折率、フィリングファクタ、ピッチ(周期)、深さ等を最適化することによって、目的とする波長板の位相差を確保することができる。
【0076】
(g)最後に、最上部に残った樹脂マスクを酸素ガス(プラズマ)中でドライエッチングによる剥離処理により除去すると、偏光解消素子が完成する。
【0077】
[製造方法2]
図10は、基板上に基板とは異なる材質の別の誘電体薄膜層を形成し、その誘電体薄膜層にサブ波長構造体を形成する第1の例を示している。
【0078】
(a)ガラス基板30上にSiO2下地膜32を介して密着性補強膜34を形成し、その上にTa2O5薄膜36を形成する。密着性補強膜34としては、TiO2-x,Ta2O5-y,SiO2-zなどを使用することができる。ここで、TiO2-xの「−x」などは化学量論的な組成から多少外れたものであってもよいことを示している。
【0079】
(b)そのTa2O5薄膜36上にUV硬化樹脂22を塗布し、上からモールド型24で押圧する。モールド型24としてはシリコン型でも石英型でも、ともに使用しうる。UV硬化樹脂22としては、例えばPAC−01(東洋合成(株)製)を用いる。また、熱硬化性転写材料を使用する場合はシリコン製型も利用できる。
【0080】
(c)モールド型24の背面から紫外線を照射し、樹脂22を硬化させる。この工程で、モールド型としてシリコン金型を用いる場合は、UVをガラス基板30側から与える。
【0081】
(d)モールド型24を離型する。UV硬化樹脂22に凸状の微細構造のマスクパターンが形成されている。
【0082】
(e)Ta2O5薄膜36が露出するまでUV硬化樹脂22をドライエッチングする。このドライエッチング工程は、UV硬化樹脂22のパターンの凹部の最下部に樹脂層がない状態でマスクパターンの型形状を転写できれば、省くことが可能である。
【0083】
このドライエッチング工程(e)の条件の一例は以下のとおりである。
ガス種:酸素ガス(O2)
ガス流入量:20sccm
圧力:0.4Pa
樹脂エッチング速度:30nm/秒
上部バイアス電力:1KW
下部バイアス電力:100W
【0084】
(f)そのUV硬化樹脂22のパターン22をマスクにしてTa2O5薄膜36をドライエッチングする。このときのエッチングは、Ta2O5薄膜36に形成される凹凸構造の溝が所望の深さになるまで行う。
【0085】
このドライエッチング工程(f)はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例は次のとおりである。
上部電極パワー:1800W〜2000W
下部電極パワー:200W〜300W
CB(真空槽)内温度:80℃
電極温度:15℃〜20℃
ガス種:次の4種類の混合ガス
C3F8=140sccm、
CF4=40sccm、
BCl3=3sccm、
Ar=5sccm、
反応室内圧力:10mTorr
Ta2O5薄膜のエッチング速度:3nm/秒
【0086】
(g)最後に、最上部に残った樹脂マスクを酸素ガス(プラズマ)中でドライエッチングによる剥離処理により除去すると、偏光解消素子が完成する。
【0087】
この場合、Ta2O5薄膜36の厚さによっては、(g)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残っているようになったり、(h)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残らず、その下の密着性補強膜34又はさらにその下のガラス基板30が露出するようになる。
【0088】
[製造方法3]
図11は、基板上に基板とは異なる材質の別の誘電体薄膜層を形成し、その誘電体薄膜層にサブ波長構造体を形成する第2の例を示している。
【0089】
(a)ガラス基板30上にSiO2下地膜32を介して密着性補強膜34を形成し、その上にTa2O5薄膜36を形成する。密着性補強膜34としては、TiO2-x,Ta2O5-y,SiO2-zなどを使用することができる。
【0090】
Ta2O5薄膜36上にさらにCr膜40を形成する。Cr膜40はスパッタ法により膜厚が約50nmになるように形成する。Cr膜40はTa2O5薄膜36を加工する際のメタルマスクとするためのものである。
【0091】
(b)そのCr膜40上に電子線描画用のレジスト40を所定の厚さに塗布し、プリベークする。予め設計されたプログラムにより、偏光解消素子の諸元に対応したピッチ(周期)と線幅に描画する。
【0092】
この時、描画する光学素子のパターンレイアウトは、図3〜7に示したように光学軸方向がそれぞれ異なった方向、及び描画するライン幅がそれぞれ異なった状態で描画する。
【0093】
(c)レジスト42に対し、現像およびリンスを行うことにより、レジスト42にサブ波長凹凸構造が形成される。レジストパターン42の溝の底はCr膜40が露出している。
【0094】
(d)サブ波長凹凸構造のレジストパターン42をマスクとしてCr膜のドライエッチングを行い、Crマスクを形成する。エッチングには、ICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例を示すと、次のとおりである。
加工ガス:以下の3種の混合ガス
Arガス(10sccm)
O2ガス(10sccm)
Cl2ガス(55sccm)
放電パワー:500W
バイアスパワー:30W
チャンバー内圧力:2Pa
チラー(冷却器)温度:50℃
エッチング速度:約0.6nm/秒
【0095】
(e)レジスト42を剥離する。剥離の方法はドライエッチング装置内で、酸素ガスを導入し、酸素ガスプラズマ中でレジスト除去を行う方法と、基板を装置から取り出してCAROS洗浄(硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄)で除去する方法とがある。
【0096】
(f)そのCrマスク42のパターンをマスクにしてTa2O5薄膜36をドライエッチングする。このときのエッチングは、Ta2O5薄膜36に形成される凹凸構造の溝が所望の深さになるまで行う。
【0097】
このドライエッチング工程(f)はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等のエッチング装置にて、CF4ガスやCF3ガスを用いて行う。基板にバイアスをかけることで、面に垂直にエッチングを進行させる。具体的な加工条件の一例は次のとおりである。
上部電極パワー:1800W〜2000W
下部電極パワー:200W〜300W
CB(真空槽)内温度:80℃
電極温度:15℃〜20℃
ガス種:次の4種類の混合ガス
C3F8=140sccm、
CF4=40sccm、
BCl3=3sccm、
Ar=5sccm、
反応室内圧力:10mTorr
Ta2O5薄膜のエッチング速度:3nm/秒
【0098】
(g)最後に、最上部に残ったCrマスク42を硝酸第二セリウムアンモニウム溶液又はCrウエットエッチング液による剥離処理により除去すると、偏光解消素子が完成する。
【0099】
この場合、Ta2O5薄膜36の厚さによっては、(g)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残っているようになったり、図10(h)のようにTa2O5薄膜36によるサブ波長構造体の凹凸の谷部にTa2O5が残らず、その下の密着性補強膜34又はさらにその下のガラス基板30が露出するようになる。
【0100】
サブ波長構造体を構成する凹凸構造の溝の深さは溝幅を設定することによりプラズマエッチング工程を通じて制御することができる。プラズマエッチング加工では、エッチングに有効に働くプラズマエッチング種(反応種)が、開口部が狭い場合は内部に侵入しにくくなって加工深さが深くなるにつれさらに入りにくくなるために、溝の深さは溝幅に依存する。
【0101】
図12に凹凸構造の溝幅(スペース幅)と溝の深さ(エッチング深さ)の測定結果を示す。この測定結果は次のように得た。基板上のTa2O5薄膜上に、電子線レジスト層を形成し、電子線により種々のスペース幅をもつライン・アンド・スペースパターンに描画し、現像をした後、リンスをしてライン・アンド・スペースのレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにしてTa2O5薄膜をドライエッチングした。Ta2O5薄膜のドライエッチングは前述の製造方法2の工程にしたがって行った。その結果、レジストのライン・アンド・スペースパターンによりTa2O5薄膜にサブ波長構造体を構成する凹凸構造が形成され、そのスペース部分が溝となる。そのできあがった凹凸構造の断面を電子顕微鏡で観察して溝幅と深さを測定して、図12の結果を得た。
【0102】
図12の結果は、凹凸構造を形成する誘電体の材質とドライエッチング条件により異なるので、製品を製造するための製造条件として誘電体の材質とドライエッチング条件が定まると、その製造条件のもとで図12のような溝幅と溝の深さの関係を予め実験により求めて置き、その関係にしたがって溝の深さが所定の深さになるように溝幅を設定する。図4から図6のサブ波長構造体だけでなく、任意の溝深さをもつサブ波長構造体はそのようにして製作することができる。
【0103】
上記の実施例では、サブ波長構造体の凹凸の凸部の断面が矩形であるものを示しているが、凸部の断面形状は他の形状とすることもできる。例えば、表1のパターンモデル形状として示したようなトップフラット形状(1−1及び1−2)やトップ頂点形状(2−1及び2−2)のサブ波長構造体も製作した。
【0104】
このような断面形状の凹凸構造を石英材料上に製作する方法について説明する。
(1)トップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方:
(a)石英ガラス基板上にCr膜(図示していない)を形成する。
(b)そのCr膜上にUV硬化樹脂を塗布し、図9(b)と同様に、その上からモールド型で押圧する。
(c)図9(c)と同様に、樹脂を紫外線露光して硬化させる。
(d)モールド型を離型した後、モールド型の形状が転写された樹脂パターンをマスクとしてCr膜をドライエッチングでパターニングする。
【0105】
(e)得られたCr膜パターンをマスクとして、下記条件で石英ガラス基板をドライエッチングする。ドライエッチング装置はICP、NLDプラズマ処理装置、TCP等である。
a)トップフラップ形状(1−1)のドライエッチング条件
圧力: 10.0mToor
反応ガス: CHF3 50sccm
アンテナバイアス: 1000W
バイアス電力: 200W
チラー温度: 10℃
加工時間: 60秒
この加工条件で、ボトムが尖った形状で、トップが矩形の形状ができる。
b)トップフラップ形状(1−2)のドライエッチング条件
圧力: 10.0mToor
反応ガス: CHF3 100sccm
アンテナバイアス: 1300W
バイアス電力: 100W
チラー温度: 0℃
加工時間: 60秒
この加工条件で、ボトムが矩形で、トップが矩形の形状ができる。
【0106】
(f)その後、Cr膜をウエットエッチングで剥離する。
【0107】
(g)ついで、Arガスで追加のドライエッチングを行う。
加工条件は、下記のとおりであり、この条件はトップフラップ形状の1−1と1−2で同じである。
圧力: 10.0mToor
エッチングガス: Ar 20sccm(Arのみ)
アンテナバイアス: 1200W
バイアス電力: 200W
チラー温度: −15℃
加工時間: 70秒
この追加のドライエッチングにより、パターンの凸部のトップ部にのみエッチングの効果が生じ、トップの形状がわずかにテーパ形状となる。斜面やボトムにはエッチングの効果は及びない。
【0108】
(2)トップ頂点形状(2−1、2−2)の作り方:
上述のトップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方と同様であるが、Arによる追加のドライエッチング加工時間を長くする。
(a)〜(d)はトップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方と同じである。
【0109】
(e)トップフラップ形状(1−1、1−2)の作り方と同様に、得られたCr膜パターンをマスクとして石英ガラス基板をドライエッチングする。ドライエッチング条件は以下のようにする。
圧力: 10.0mToor
反応ガス: CHF3 100sccm
アンテナバイアス: 1200W
バイアス電力: 100W
チラー温度: 20℃
加工時間: 60秒
このドライエッチング加工を行うと、サイド方向からCrもすこしずつエッチングされる。
【0110】
(f)ついで、Cr膜を剥離せずに、Arガスで追加のドライエッチングを行う。このドライエッチング工程の時間を長くすることにより、エッチング途中でCr膜がなくなり、メタルマスクがない状態でドライエッチング加工を続ける。この加工条件は、下記のとおりである。
圧力: 5.0mToor
エッチングガス: Ar 20sccm
He圧力: 1mToor
アンテナバイアス: 1200W
バイアス電力: 200W
チラー温度: −15℃
加工時間: 100秒
この条件で加工すると、パターンの凸部のトップ部もエッチングされ、全体の形状がテーパ形状となる。
【0111】
ここで、トップ頂点形状2−1と2−2はCr膜パターンにより作り分けることができる。Cr膜パターンはライン・アンド・スペースパターンであり、ラインパターン間のスペース幅を大きくすると底部に平坦部が形成されてトップ頂点形状2−2となる。ライン・アンド・スペースパターンのライン幅とスペース幅の寸法を設定することによりトップ頂点形状2−1と2−2を作り分けることができる。トップ頂点形状2−1形成用のCr膜パターンのライン幅をa、スペース幅をAとし、トップ頂点形状2−2形成用のCr膜パターンのライン幅をb、スペース幅をBとすると、a>b、A<Bの関係がある。
【0112】
図13の図表のパターンモデル形状のいずれの場合も、位相差と波長の関係、位相差とサブ波長構造体の凹凸のパターン深さ(溝の深さ)の関係は図13の図表に示した関係をとるため、溝の深さを領域分割された中で変更することにより、又は偏光解消素子の位置によって変更することにより、偏光解消素子中での位置による位相差量の差異を発現することができた。図13の図表中で、位相差と波長の関係を示すグラフ(2段目)の結果を得た試料のパターン深さdは、トップフラット形状(1−1)ではd=800nm、トップフラット形状(1−2)ではd=1500nm、トップ頂点形状(2−1)ではd1=700nm、d2=800nm、トップ頂点形状(2−2)ではd1=700nm、d2=900nmである。また、位相差とパターン深さの関係を示すグラフ(3段目)の結果を得た透過光波長は405nmである。
【0113】
またサブ波長構造体領域で発生した位相差量は、λ/8〜5λ/8(20°〜100°)であった。これにサブ波長構造体用のパターン加工を施さない領域の位相差量0°を組み合わせると、発生位相差量の範囲は0〜5λ/8(0°〜100°)となった。表1には示していないが、サブ波長構造体の加工深さと位相差を比例の関係にあるため、加工するパターンの溝の深さを2倍に深くすることで最終的な発生位相差量は、0〜10λ/8(0°〜200°)まで達成することができた。
【0114】
表1に示したサブ波長構造体を、図14に示すように、共通の基板の表面側と裏面側の両面に5a,5bとして加工することにより、加工するパターンの溝の深さを2倍に深くすることと同じ効果を発現することができた。
【0115】
またこのとき、表面に形成したサブ波長構造体5aのパターンと、裏面に形成したサブ波長構造体5bのパターンの組合わせにより種々の特性の位相差解消光学素子を製作できた。図15はそのように共通の基板の両面にサブ波長構造体を形成したものの一例である。表面側のサブ波長構造体5aと裏面側のサブ波長構造体5bはともに例えば8×8個の領域に分割されている。両サブ波長構造体はともに表面側からみた状態で示している。各サブ波長構造体領域の矢印は光学軸方向を示している。サブ波長構造体5a,5bの下部の図は、それぞれの左上の角に配置されたサブ波長構造体領域を示している。この例では表裏の対応する位置のサブ波長構造体領域の光学軸方向が異なるように形成されている。
【0116】
表裏のサブ波長構造体の組合わせ方法は種々に可能であり、例えば下記のとおりである。
事例1:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じ場合。
事例2:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じだが、位置あわせをX方向にサブ波長構造体領域の半ピッチずらしたもの(又は、Y方向に半ピッチずらしたもの)。ここで、図15の横方向をX方向、縦方向をY方向としている。
事例3:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じだが、位置あわせをX方向にサブ波長構造体領域の1ピッチずらしたもの(又は、Y方向に1ピッチずらしたもの)。
事例4:表裏の領域分割数を同じとし、形成したパターンも同じだが、位置あわせをX、Y方向にサブ波長構造体領域の半ピッチずらしたもの。
【0117】
事例5:上記1〜4において、光学軸方向が異なるように、表裏の光学軸方向を回転させたもの。表裏の光学軸方向の回転角Δθは、0°≦Δθ≦90°である。図15はこの事例に含まれる。図15では、表面側の光学軸方向をθAとし、裏面側の光学軸方向をθBとすると、表裏の光学軸方向の回転角ΔθはΔθ=θA−θBと定義されるものである。
以上から、所望の面内位相差解消素子を製作することができた。
【0118】
図16の偏光解消素子は、偏光解消素子が形成された層7aと、裏面側に光量を均一化するための光量均一化用光学素子が形成された層7bを組み合わせたものである。光量均一化用光学素子として、マイクロレンズアレイ、インテグレータ又はフライアイレンズアレイなどが挙げられる。
【0119】
そのような光量均一化用光学素子はよく知られたものであり、その製造方法もよく知られている。その製造方法の一例を示すと、光学基板の表面にフォトレジスト(感光性材料の代表例)の層を形成し、このフォトレジスト層に対して2次元的な透過率分布を有する露光用マスクを介して露光し、フォトレジストの現像によりフォトレジストの表面形状として凸面形状もしくは凹面形状を得、しかる後にフォトレジストと光学基板とに対して異方性エッチングを行ない、フォトレジストの表面形状を光学基板に彫り写して転写することにより、光学基板の表面に所望の3次元構造の屈折面や反射面の形状を得る方法である(特許文献2,3を参照)。
【0120】
図17(A),(B)は偏光解消素子が形成された層7aと光量均一化用光学素子が形成された層7bとを組み合わせた光学素子の一例を示す断面図である。(A)は、偏光解消素子と光量均一化用光学素子とを別体として形成した後、サブ波長構造体4aが形成されている面の上部に偏光解消素子の裏面側を使用する光の波長に対して光透過性をもつ接着剤によって一体化されたものである。接着剤としては、例えばエポキシ系樹脂であるDIC株式会社製の商品名GRANDIC RCC-8790Rや、アクリル系樹脂である協立化学産業株式会社製の商品名ワールドロック7710、7720及び7730などが挙げられる。(B)は一方の面に複数のマイクロレンズアレイ42をもつ光量均一化用光学素子の層7bが形成された基板の他方の面に偏光解消素子7aを形成したものである。複数のサブ波長構造体4aが偏光解消素子を構成するマイクロレンズアレイ42の1つの光学有効領域42aに含まれるように形成されている。この偏光解消素子の平面図を概略的に示したものが図19(A)である。
【0121】
この例では、4つのサブ波長構造体4aが偏光解消素子を構成するマイクロレンズアレイ42の1つの光学有効領域42aに含まれているが、1つのマイクロレンズアレイ42の光学有効領域42aに含まれるサブ波長構造体4aの数はそれよりも少なくても多くてもよい。また、この例では、1つのサブ波長構造体4aにおけるピッチや溝の深さが均一に形成されているが、光学軸をランダムにするためにピッチや溝の深さを1つのサブ波長構造体4a内で不均一や不連続にしてもよいし、溝の深さを一定の関数で表わされる周期に沿ったものにしてもよい。
【0122】
図17(A)及び(B)のサブ波長構造体4aは、基板3上にスパッタリング法やCVD(化学気相成長)法などの成膜法によって使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体層4を堆積し、その誘電体層4上にレジスト層、または樹脂層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィーによりサブ金型とは凹凸が逆になったレジスト、または樹脂パターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして誘電体層4をエッチングして基板3とは異なる材料からなるサブ波長構造体層を形成する方法によって形成することができる。
【0123】
また、上記のサブ波長構造体4aは、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基板上に樹脂層を塗布し、その樹脂層に微細凹凸構造の金型を押し当てるインプリント工法により、基板上に配列された樹脂の凸条によって金型は凹凸が逆のパターンを形成し、ドライエッチング法などによって凹凸パターン形状を基板に転写する方法によっても形成することができる。
【0124】
図18(A),(B)は偏光解消素子が形成された層7aと光量均一化用光学素子が形成された層7bとを組み合わせた光学素子の他の例を示す断面図である。(A)は、偏光解消素子と光量均一化用光学素子とを別体として形成した後、サブ波長構造体4aが形成されている面の上部に、使用する光の波長に対して光透過性をもつ接着剤によって偏光解消素子が接着されて一体化されたものである。(B)は一方の面に複数のマイクロレンズアレイ42をもつ光量均一化用光学素子の層7bが形成された基板の他方の面に偏光解消素子7aを形成したものである。偏光解消素子を構成するマイクロレンズアレイ42の1つの光学有効領域42aにサブ波長構造体4aが1つのみ含まれるように形成されている。この偏光解消素子の平面図を概略的に示したものが図19(B)である。
【0125】
この例でも1つのサブ波長構造体4aにおけるピッチや溝の深さが均一に形成されているが、光学軸をランダムにするために1つのサブ波長構造体4a内でピッチや溝の深さを不均一や不連続にしてもよいし、溝の深さを一定の関数で表わされる周期に沿ったものにしてもよい。これらの偏光解消素子のサブ波長構造体4aの形成方法は図17の偏光解消素子のものと同じである。
【0126】
(偏光解消素子の適用例)
(レーザプリンタへの適用)
図20(A)はレーザプリンタの光学系を示したものである。レーザダイオード・ユニット51内部には、光源としてのレーザダイオードと、レーザダイオードから射出されるレーザビームは平行光線にするコリメートレンズが設けられている。レーザダイオード・ユニット51から平行光線となって射出されるレーザビームは、ポリゴンミラー(回転多面鏡)52によって偏向走査され、F−θレンズ53等から構成される結像レンズ系によってドラム状の感光体ドラム55の帯電した表面に画像を結像する。
【0127】
この実施例では、レーザダイオード・ユニット51から射出されるレーザビームをランダムな偏光状態をもったレーザビームとするために、レーザダイオード・ユニット51とポリゴンミラー52の間の光路上に偏光解消素子57が配置されている。
【0128】
図20(B)は、偏光解消素子57の機能を高めるために、偏光解消素子57をレーザビームの光軸方向に平行な軸を回転中心として回転させ、又は偏光解消素子57をレーザビームの光軸に平行に若しくは垂直に振動させる機能を備えた駆動機構57aを設けた例である。このような駆動機構57aを設けることにより、偏光解消素子57の偏光解消機能に時間分解能を追加することができる。すなわち、時間軸に対しても偏光解消機能を付加することができる。
【0129】
偏光解消素子57を回転させる場合には、偏光解消素子57を中心に回転中心を有するように形成する。そして、偏光解消素子57の回転中心にモータによって駆動される回転機構を装着して偏光解消素子57を回転させるようにしてもよいし、偏光解消素子57の中心を回転可能に保持しておいて偏光解消素子57の外周部に偏光解消素子57を回転させる機構を設けるようにしてもよい。偏光解消素子57の回転速度は、使用する光源や使用する表示デバイスの振動数によって異なるが、10rpm以上の回転速度があれば偏光解消機能を向上させる効果が十分に得られる。
【0130】
偏光解消素子57を振動させる場合には、偏光解消素子57の外周を保持するセルを設け、そのセルをピエゾ素子によってレーザビームの光線方向に対して平行に又は垂直に振動させるようにする。偏光解消素子57の振動速度は、使用する光源や使用する表示デバイスの周波数によって異なるが、使用するデバイスの表示振動周波数(例えば、10msec)の10分の1以上の振動数があれば偏光解消機能を向上させる効果が十分に得られる。
【0131】
(露光装置への適用)
図21は露光装置の光学系を概略的に示したものである。KrFエキシマレーザ又はArFエキシマレーザからなる光源60からの紫外線のレーザ光は、光束整形光学系61により所定の光束形状に変換され、照明光学系63,64により原版であるマスク66に照射される。マスク66のパターンはマスク66を透過した紫外線が投影光学系67によりウエハ68に照射されることにより投影露光される。ウエハ68はウエハステージ69に保持され、ウエハステージ69によってウエハ68が投影光学系67の光軸と直交する平面に沿って2次元的に移動することにより投影露光が繰り返されていく。
【0132】
光源60がレーザであることから、発生するレーザ光は直線偏光である。そこで、この実施例では、光源60から射出されるレーザ光をランダムな偏光状態をもったレーザ光とするために、光束整形光学系61と照明光学系63の間の光路上に偏光解消素子62が配置されている。
【0133】
なお、この露光装置の例においても、偏光解消素子62を回転させたり振動させたりするための駆動機構を設けて、偏光解消素子62の偏光解消機能を高めるようにしてもよい。そのような駆動機構は上記のレーザプリンタの例と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0134】
(光ファイバ増幅器への適用)
図22は偏光解消素子を光ファイバ増幅器に適用した例を示したものである。
ファイバ増幅器は、希土類元素添加光ファイバ74に光源70からの励起光71を入射して光ファイバ74中の希土類元素を活性化しておき、そこに入射光72を入射させることにより、その入射光72を増幅して出射させるものである。励起光71と入射光72をともに光ファイバ74に入射させるために、励起光71と入射光72とを結合する光カプラ73が設けられている。
【0135】
光ファイバ74に添加される希土類元素は増幅すべき入射光の波長に応じて選択される。例えば、入射光の波長が1550nm波長帯域である場合にはエルビウム(Er)を初めとするランタノイド希土類元素、入射光の波長が1060nm波長帯域又は1300nm波長帯域の場合はネオジム(Nd)、入射光の波長が1300nm波長帯域の場合はプラセオジウム(Pr)、入射光の波長が1450nm波長帯域の場合はツリウム(Tm)などが用いられる。
【0136】
希土類元素添加光ファイバ74は、増幅特性について偏光依存性をもっているので、この実施例では光ファイバ74に入射する光を無偏光状態にするために、光カプラ73と光ファイバ74の間の光路上に本発明の偏光解消素子76が配置されている。
【0137】
なお、この光ファイバ増幅器の例においても、偏光解消素子76を回転させたり振動させたりするための駆動機構を設けて、偏光解消素子76の偏光解消機能を高めるようにしてもよい。そのような駆動機構は上記のレーザプリンタの例と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0138】
本発明の偏光解消素子は、上記に例示したレーザプリンタ、露光装置及び光ファイバ増幅器のほかにも、偏光に起因してスペックルが生じる光学系に適用することができる。そのような光学系として、レーザ光源を用いる分光器、レーザ計測装置、光ピックアップ装置、プロジェクタ、特許文献4に記載されているような偏光解析装置、偏波モード分散補償(PMDC)システム、CCD及びCMOSセンサー、特許文献5に記載されているような位相差測定装置、並びに特許文献6に記載されているようなレーザ加工装置等を挙げることができる。
【0139】
偏光解消素子を用いた効果及びその偏光解消素子を回転駆動及び振動駆動することによる効果の検証をレーザープロジェクタにおいて行なった。この検証では、表示画面の一部を拡大させてその拡大部分の面積当たりのスペックルの数をカウントし、そのカウント数を表示画面全体の面積におけるカウント数に換算して評価した。偏光解消素子を導入しなかった場合は、大小・濃淡を含めてスペックルのカウント数は約3万箇所にとなった。これに対し、偏光解消素子を導入した場合にはそのカウント数が1000個程度に激減した。
【0140】
その状態から偏光解消素子を50rpmの速度で回転させた場合はスペックルがまったく観測されなかった。また、偏光解消素子をピエゾ素子を使用してレーザビームの光線方向に対して垂直に約50μmの振幅で振動させた場合にもスペックルがまったく観測されなかった。これらのことから、偏光解消素子を導入することによってスペックルの数を大幅に減少させる効果があることがわかり、さらに偏光解消素子を回転させたり振動させたりすることによってその効果を向上させることができることがわかる。
【符号の説明】
【0141】
2,3 基板
4 誘電体層
2a,4a サブ波長構造体
6, 57, 62 偏光解消素子
8 サブ波長構造体領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造体領域が互いに隣接して配置された偏光解消素子であって、
前記サブ波長構造体領域は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、前記溝の配列方向である光学軸方向が隣接するサブ波長構造体領域間で異なる部分をもつように配置されており、かつ、
該偏光解消素子は前記溝として深さの異なるものを含んでいることを特徴とする偏光解消素子。
【請求項2】
前記サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に前記深さの異なる溝をもっている請求項1に記載の偏光解消素子。
【請求項3】
前記サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に複数の光学軸方向をもっている請求項1又は2に記載の偏光解消素子。
【請求項4】
前記サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に互いに直交する2つの光学軸方向をもっている請求項3に記載の偏光解消素子。
【請求項5】
前記サブ波長構造体領域は隣接するサブ波長構造体領域間で前記溝の深さの異なる部分が存在する請求項1から4のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項6】
基板表層部に使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造体が形成され、
前記サブ波長構造体は前記溝の配列方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるように前記溝が同心円状に配列されたものであり、かつ、
前記溝として深さの異なるものを含んでいる偏光解消素子。
【請求項7】
前記溝の深さは、光学軸方向に沿って連続的に変化している請求項1から6のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項8】
前記サブ波長構造体領域における前記溝の深さは、光学軸方向に沿って三角関数、指数関数又は他の任意の数式で表される関数に従って連続的に変化している請求項7に記載の偏光解消素子。
【請求項9】
該偏光解消素子で発生する位相差Δは使用する波長λに対して、
λ/8≦Δ≦λ
となるようにサブ波長構造体が設計されている請求項1から8のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項10】
前記サブ波長構造体領域は、誘電体の薄膜材料、合成石英もしくは光学ガラス材料からなる構造材料、光学結晶材料又はプラスチック材料からなる光透過性材料で構成されている請求項1から9のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項11】
前記基板の表面側と裏面側の両方の表層部に該偏光解消素子が形成されている請求項1から10のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項12】
該偏光解消素子が形成されている層とは別に光量を均一化するための光量均一化用光学素子が形成された層を備えている請求項1から10のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項13】
前記光量均一化用光学素子はマイクロレンズアレイ、インテグレータ又はフライアイレンズアレイである請求項12に記載の偏光解消素子。
【請求項14】
前記光量均一化用光学素子はそれぞれの光学有効領域が複数の前記サブ波長構造体領域を含むように形成されている請求項12又は13に記載の偏光解消素子。
【請求項15】
前記光量均一化用光学素子はそれぞれの光学有効領域が前記サブ波長構造体領域の1つと一致するように形成されている請求項12又は13に記載の偏光解消素子。
【請求項16】
レーザ光源から発生するレーザ光を対象物に照射する光学系を備えた光学機器において、
前記レーザ光の偏光状態をランダムな偏光状態にするために請求項1から15のいずれか一項に記載の偏光解消素子を前記光学系の光路上に配置したことを特徴とする光学機器。
【請求項17】
前記偏光解消素子を前記光路上において光線方向に平行な軸を中心として回転させる駆動機構を備えた請求項16に記載の光学機器。
【請求項18】
前記偏光解消素子を前記光路上において光線方向に対して平行又は垂直の方向に振動させる駆動機構を備えた請求項16に記載の光学機器。
【請求項1】
基板の表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造体領域が互いに隣接して配置された偏光解消素子であって、
前記サブ波長構造体領域は使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、前記溝の配列方向である光学軸方向が隣接するサブ波長構造体領域間で異なる部分をもつように配置されており、かつ、
該偏光解消素子は前記溝として深さの異なるものを含んでいることを特徴とする偏光解消素子。
【請求項2】
前記サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に前記深さの異なる溝をもっている請求項1に記載の偏光解消素子。
【請求項3】
前記サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に複数の光学軸方向をもっている請求項1又は2に記載の偏光解消素子。
【請求項4】
前記サブ波長構造体領域は各サブ波長構造体領域内に互いに直交する2つの光学軸方向をもっている請求項3に記載の偏光解消素子。
【請求項5】
前記サブ波長構造体領域は隣接するサブ波長構造体領域間で前記溝の深さの異なる部分が存在する請求項1から4のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項6】
基板表層部に使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造体が形成され、
前記サブ波長構造体は前記溝の配列方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるように前記溝が同心円状に配列されたものであり、かつ、
前記溝として深さの異なるものを含んでいる偏光解消素子。
【請求項7】
前記溝の深さは、光学軸方向に沿って連続的に変化している請求項1から6のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項8】
前記サブ波長構造体領域における前記溝の深さは、光学軸方向に沿って三角関数、指数関数又は他の任意の数式で表される関数に従って連続的に変化している請求項7に記載の偏光解消素子。
【請求項9】
該偏光解消素子で発生する位相差Δは使用する波長λに対して、
λ/8≦Δ≦λ
となるようにサブ波長構造体が設計されている請求項1から8のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項10】
前記サブ波長構造体領域は、誘電体の薄膜材料、合成石英もしくは光学ガラス材料からなる構造材料、光学結晶材料又はプラスチック材料からなる光透過性材料で構成されている請求項1から9のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項11】
前記基板の表面側と裏面側の両方の表層部に該偏光解消素子が形成されている請求項1から10のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項12】
該偏光解消素子が形成されている層とは別に光量を均一化するための光量均一化用光学素子が形成された層を備えている請求項1から10のいずれか一項に記載の偏光解消素子。
【請求項13】
前記光量均一化用光学素子はマイクロレンズアレイ、インテグレータ又はフライアイレンズアレイである請求項12に記載の偏光解消素子。
【請求項14】
前記光量均一化用光学素子はそれぞれの光学有効領域が複数の前記サブ波長構造体領域を含むように形成されている請求項12又は13に記載の偏光解消素子。
【請求項15】
前記光量均一化用光学素子はそれぞれの光学有効領域が前記サブ波長構造体領域の1つと一致するように形成されている請求項12又は13に記載の偏光解消素子。
【請求項16】
レーザ光源から発生するレーザ光を対象物に照射する光学系を備えた光学機器において、
前記レーザ光の偏光状態をランダムな偏光状態にするために請求項1から15のいずれか一項に記載の偏光解消素子を前記光学系の光路上に配置したことを特徴とする光学機器。
【請求項17】
前記偏光解消素子を前記光路上において光線方向に平行な軸を中心として回転させる駆動機構を備えた請求項16に記載の光学機器。
【請求項18】
前記偏光解消素子を前記光路上において光線方向に対して平行又は垂直の方向に振動させる駆動機構を備えた請求項16に記載の光学機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−180581(P2011−180581A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7656(P2011−7656)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000115728)リコー光学株式会社 (134)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000115728)リコー光学株式会社 (134)
【Fターム(参考)】
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