説明

偏心旋回駆動装置及び真空ポンプ

【課題】簡単な構成でモータ部と駆動部を十分に冷却することができる偏心旋回駆動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、ケーシング2と、ケーシング2内に設けられた気密構造のキャン5と、ケーシング2内のキャン5によって隔離された固定子空間4Aに配置された固定子4とを有する。キャン5内には、固定子4と対応する回転子10を有し所定の回転軸Oを中心として回転可能に支持された筒状の回転シャフト9と、回転シャフト9内において回転軸に対して偏心して配置されるとともに回転軸と平行な回転軸を中心として回転可能に支持された旋回シャフト9aとが設けられる。ケーシング2に、固定子空間4Aに連通し、ケーシング2の外部の空気を固定子空間4Aに導入するための第1の通気口11が設けられるとともに、第1の通気口11に対して送風するファン13が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば真空ポンプを駆動するために用いられる偏心旋回駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空ポンプを駆動するモータとして、旋回軸が偏芯しているものが知られているが、このような偏心旋回駆動装置は、動作時に熱が発生するため、従来より、除熱機構を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ここで、特許文献1記載の発明は、回転軸に取り付けた遠心ファンによる冷却風を、出力軸方向に向け循環させて旋回スクロールや出力軸を冷却するように構成されている。
一方、特許文献2記載の発明は、旋回軸の中心軸方向に冷却用穴を設け、その両端に取り付けられた接続管を設けるように構成されている。
【0004】
しかし、特許文献1記載の発明の場合、スクロール機構部と駆動部との間にシールが必要となる。また、旋回運動する旋回スクロール鏡板とケーシング間でシールをするため、十分なシールを行うことは非常に困難である。
【0005】
その結果、圧縮機に適用した場合には、作動流体が駆動部に漏れる可能性があり、真空ポンプに適用した場合には、駆動部の冷却流体(空気)がポンプ部に漏れる可能性がある。いずれにしても、圧縮効率の大幅な低下をもたらす。
【0006】
一方、特許文献2記載の発明の場合、旋回軸の冷却用穴に冷却用流体を供給する装置が別途必要となる。この場合、旋回軸は旋回運動しているので、接続管への接続部が破損する可能性があり、信頼性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−123973号公報
【特許文献2】特開2008−150976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、簡単な構成でモータ部と駆動部を十分に冷却することができる偏心旋回駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明は、ケーシングと、前記ケーシング内に設けられた気密構造のキャンと、前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、前記キャン内には、前記固定子と対応する回転子を有し所定の回転軸を中心として回転可能に支持された筒状の回転シャフトと、当該回転シャフト内において前記回転軸に対して偏心して配置されるとともに前記回転軸と平行な回転軸を中心として回転可能に支持された旋回シャフトとが設けられ、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられるとともに、前記ケーシングの導入用通気口に対して送風する送風手段が設けられている偏心旋回駆動装置である。
本発明では、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられている場合にも効果的である。
また、本発明は、ケーシングと、前記ケーシング内に設けられた気密構造のキャンと、前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、前記キャン内には、前記固定子と対応する回転子を有し所定の回転軸を中心として回転可能に支持された筒状の回転シャフトと、当該回転シャフト内において前記回転軸に対して偏心して配置されるとともに前記回転軸と平行な回転軸を中心として回転可能に支持された旋回シャフトとが設けられ、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられるとともに、当該排出用通気口を介して当該固定子空間内の空気を吸引する吸引手段が設けられている偏心旋回駆動装置である。
本発明では、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記ケーシングにおいて、前記導入用通気口と前記排出用通気口とが、前記キャンを挟んで反対側の位置に設けられている場合にも効果的である。
また、本発明は、上述したいずれかの偏心旋回駆動装置を有し、当該偏心旋回駆動装置によって駆動されるように構成された真空ポンプである。
【0010】
本発明の場合、ケーシングに、固定子空間に連通し、ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられるとともに、ケーシングの通気口に対して送風する送風手段が設けられていることから、固定子空間に導入された冷却風によって、固定子のコア部分、コイルエンド、キャンを直接冷却することができるので、固定子とコイルエンド、キャンの冷却効率が飛躍的に向上する。
特に、コイルエンドを直接空冷できるので除熱効果が高い。また、ケーシング等の内側部分を直接冷却することにより、回転シャフトを支持する回転軸受からの伝熱をより効率良く除去することができる。
また、本発明によれば、冷却水流路を構成する部品は必要なく、コストダウンを図ることができるとともに、冷却水が使用できない環境下においても運転することができる。
本発明において、ケーシングに、固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられている場合には、ケーシング内に連続的に冷却風が導入され、排出用通気口から連続的に排出されるので、常に新たな冷却風によって冷却が行われ、これにより効率良く各部分を冷却することができる。
また、本発明では、ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を排出するための当該ケーシングの外部に排出用通気口が設けられるとともに、当該排出用通気口を介して当該固定子空間内の空気を吸引する吸引手段が設けられていることから、ケーシング内の熱せられた空気が排出用通気口を介してケーシングの外部に排出されるので、ケーシング内を冷却することができる。
この場合、ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられていれば、ケーシングの導入用通気口から冷却風が連続的に固定子空間に導入され、この冷却風によって、固定子のコア部分、コイルエンド、キャンを直接連続的に冷却することができるので、固定子とコイルエンド、キャンの冷却効率を飛躍的に向上させることができる。
本発明の場合、ケーシングにおいて、導入用通気口と排出用通気口とが、キャンを挟んで反対側の位置に設けられている場合には、送風手段からの冷却風又は吸引手段による冷却風がケーシング内において円滑に流れるので、より効率良く冷却を行うことができる。
このように、本発明によれば、簡単な構成で固定子のコアとコイルエンドを十分に冷却することができる偏心旋回駆動装置を備えた真空ポンプを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成でモータ部と駆動部を十分に冷却することができる偏心旋回駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a):本発明に係る偏心旋回駆動装置の実施の形態の内部構成を示す断面図(b):同偏心旋回駆動装置の動作を示す部分断面図
【図2】(a):本発明に係る偏心旋回駆動装置の他の実施の形態の内部構成を示す断面図(b):同偏心旋回駆動装置の動作を示す部分断面図 同実施の形態の動作を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明に係る偏心旋回駆動装置の内部構成を示す断面図、図1(b)は、同偏心旋回駆動装置の動作を示す部分断面図である。
【0014】
本実施の形態の偏心旋回駆動装置1は、図1に示すように、例えば真空ポンプの壁面50に取り付けられるもので、例えば円筒形状のケーシング2を有している。
ケーシング2の一方の開口端部には、この開口端部を塞ぐようにカバー3が取り付けられている。
ケーシング2内の例えば内壁には、固定子4が取り付けられ固定されている。
【0015】
一方、ケーシング2内の中心部分には、円筒形状のキャン5が設けられている。
そして、このキャン5によって、ケーシング2の内部は、回転子空間10Aと、固定子空間4Aとに区分けされている。
【0016】
このキャン5内には、ケーシング2の真空ポンプ側の内壁のフランジ部2aに取り付けられた回転軸受7と、カバー3内壁のフランジ部3aに取り付けられた回転軸受8とによって回転可能に支持された回転シャフト9が設けられている。
また、回転シャフト9の周囲で固定子4の近傍の部分に回転子10が取り付けられている。
【0017】
本実施の形態の回転シャフト9は、その回転軸Oに対して偏心した中空部分を有する円筒形状に形成され、その中空部分には、旋回軸受7a、8aによって回転可能に支持された旋回シャフト9aが設けられている。
【0018】
この旋回シャフト9aは、回転シャフトの回転軸Oと平行な回転軸(図示せず)を中心として回転するように構成され、これにより回転シャフト9が回転すると旋回シャフト9aが旋回(公転)するとともに回転(自転)するようになっている。
なお、この旋回シャフト9aは、図示しない真空ポンプの回転駆動軸に連結されている。
【0019】
さらに、ケーシング2の側壁部に、以下に説明する通気口が設けられている。本実施の形態の場合、通気口は、導入用通気口である第1の通気口11と、排出用通気口である第2の通気口12を有している。
【0020】
本発明の場合、通気口を設ける位置については特に限定されることはないが、放熱効果をより向上させる観点からは、発熱部分に近い位置、例えば図1(a)に示すように、固定子4のコイルエンド4aの近くに、固定子空間4Aと連通する第1の通気口11を設けることが好ましい。
本例の場合は、固定子4の二つのコイルエンド4aの近傍にそれぞれ第1の通気口11が設けられている。
【0021】
本発明の場合、放熱効果をより向上させる観点からは、第1の通気口11が設けられたケーシング2の側壁部に対し、キャン5を挟んで反対側のケーシング2の側壁部に第2の通気口12を設けることがより好ましい。
なお、第1及び第2の通気口11、12の数は1個又は複数個のいずれでもよい。
【0022】
さらに、本実施の形態では、ケーシング2に設けた第1の通気口11の近傍にファン(送風手段)13が設けられている。
この場合、第1の通気口11がそれぞれファン13の送風部分と対向するようにファン13及び第1の通気口11の位置が設定されている。なお、ファン13は、ケーシング2に直接取り付けてもよいし、ケーシング2から離間して配置してもよい。
【0023】
このような構成を有する本実施の形態において、偏心旋回駆動装置1を動作させると、以下のような発熱源で熱が発生し、これらの熱は以下のような経路で伝達される。
・固定子4のコア部分の発熱 → ケーシング2
・コイルエンド4aの発熱 → 固定子4のコア部分 → ケーシング2
・キャン5の発熱 → カバー3又はケーシング2
・回転軸受7、8の発熱 → カバー3又はケーシング2
・旋回軸受7a、8aの発熱 → 旋回シャフト9a → 回転軸受7、8 → カバー3又はケーシング2
・ロータの発熱 → 旋回シャフト9a → 回転軸受7、8 → カバー3又はケーシング2
・負荷側の発熱 → 旋回シャフト9a → 旋回軸受7a、8a → 回転シャフト9 → 回転軸受7、8 → カバー3又はケーシング2
本実施の形態では、ファン13を動作させて送風することにより、ケーシング2やカバー3の外側部分を冷却することができる。これにより、偏心旋回駆動装置1自身の発熱と負荷側から伝達された熱の一部が冷却される。
【0024】
加えて、本実施の形態では、図1(b)に示すように、ケーシング2の第1の通気口11から冷却風20を固定子空間4Aに導入するようにしている。そして、この冷却風20によって、固定子4のコア部分、コイルエンド4a、キャン5を直接冷却することができるので、固定子4とコイルエンド4a、キャン5の冷却効率が飛躍的に向上する。
【0025】
特に、コイルエンド4aを直接空冷できるので除熱効果が高い。また、ケーシング2やカバー3の内側部分を直接冷却することにより、回転軸受7、8からの伝熱をより効率良く除去することができる。
これに伴い、回転軸受7、8を通して除熱される回転子10の発熱、旋回軸受7a、8aの発熱、負荷側の発熱に関してもより効率良く除去することができる。
【0026】
さらに、本実施の形態では、ケーシング2内に連続的に冷却風20が導入され、排出用通気口12から連続的に排出されるので、常に新たな冷却風20によって冷却が行われ、これにより効率良く各部分を冷却することができる。
また、本実施の形態によれば、冷却水流路を構成する部品は必要なく、コストダウンを図ることができるとともに、冷却水が使用できない環境下においても運転することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限られることはなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態では、第1の通気口11から冷却風20を導入して第2の通気口12から冷却風20を排出するようにしたが、本発明はこれに限られず、第2の通気口12から冷却風20を導入して第1の通気口11から冷却風20を排出することもできる。
【0028】
また、ファン13の配置位置についても、上記実施の形態には限られず、モータの負荷側、即ちカバー3側に配置することもできる。
この場合には、カバー3に導入側通気口を設けるとよい。
さらに、第1及び第2の通気口11、12に加えて新たな通気口を追加することもできる。
【0029】
図2(a)(b)は、本発明の他の実施の形態を示すものであり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
本実施の形態の偏心旋回駆動装置1Aは、吸引手段として、例えば上述したファン13と送風方向が逆であるファン13Aを有している。
【0030】
そして、固定子4の二つのコイルエンド4aの近傍にそれぞれ排出用通気口である第2の通気口12が設けられている。
さらに、放熱効果をより向上させる観点から、第2の通気口12が設けられたケーシング2の側壁部に対し、キャン5を挟んで反対側のケーシング2の側壁部に第1の通気口11が設けられている。
なお、第1及び第2の通気口11、12の数は1個又は複数個のいずれでもよい。
【0031】
このような構成を有する本実施の形態では、ファン13Aを動作させて空気を吸引することにより、ケーシング2内の熱せられた空気が第2の通気口12を介してケーシング2の外部に排出されるので、ケーシング2内を冷却することができる。
【0032】
さらに、本実施の形態では、図2(b)に示すように、ケーシング2の第1の通気口11から冷却風20が連続的に固定子空間4Aに導入され、この冷却風20によって、固定子4のコア部分、コイルエンド4a、キャン5を直接連続的に冷却することができるので、固定子4とコイルエンド4a、キャン5の冷却効率を飛躍的に向上させることができる。
【0033】
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0034】
1…偏心旋回駆動装置
2…ケーシング
3…カバー
4…固定子
4a…コイルエンド
4A…固定子空間
5…キャン
7、8…回転軸受
7a、8a…旋回軸受
9…回転シャフト
9a…旋回シャフト
10…回転子
10A…回転子空間
11…第1の通気口(導入用通気口)
12…第2の通気口(排出用通気口)
13…ファン(送風手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設けられた気密構造のキャンと、
前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、
前記キャン内には、前記固定子と対応する回転子を有し所定の回転軸を中心として回転可能に支持された筒状の回転シャフトと、当該回転シャフト内において前記回転軸に対して偏心して配置されるとともに前記回転軸と平行な回転軸を中心として回転可能に支持された旋回シャフトとが設けられ、
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられるとともに、前記ケーシングの導入用通気口に対して送風する送風手段が設けられている偏心旋回駆動装置。
【請求項2】
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられている請求項1記載の偏心旋回駆動装置。
【請求項3】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設けられた気密構造のキャンと、
前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、
前記キャン内には、前記固定子と対応する回転子を有し所定の回転軸を中心として回転可能に支持された筒状の回転シャフトと、当該回転シャフト内において前記回転軸に対して偏心して配置されるとともに前記回転軸と平行な回転軸を中心として回転可能に支持された旋回シャフトとが設けられ、
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられるとともに、当該排出用通気口を介して当該固定子空間内の空気を吸引する吸引手段が設けられている偏心旋回駆動装置。
【請求項4】
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられている請求項3記載の偏心旋回駆動装置。
【請求項5】
前記ケーシングにおいて、前記導入用通気口と前記排出用通気口とが、前記キャンを挟んで反対側の位置に設けられている請求項2又は4のいずれか1項記載の偏心旋回駆動装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の偏心旋回駆動装置を有し、
当該偏心旋回駆動装置によって駆動されるように構成された真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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