説明

側鎖に硫黄原子を有するグラフトポリマー及びその製造方法

【課題】高屈折率なグラフトポリマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式で表されるグラフトポリマー。


〔式中、Rは−C−、−C−(CH−、−C−O−(R−、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−であり、Rは1価の有機基を表し、R及びRは水素、ハロゲン、重水素又は有機基を表し、Mはエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示し、R及びRは水素又は1価の有機基を表し、lは1〜1000の整数を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖に硫黄原子を有するグラフトポリマー及びその製造方法に関する。さらに、本発明は、光学用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
共重合体を合成する代表的手法として、ランダム、ブロック、グラフト等があるが、中でも経済的で実用的にも幅広い可能性をもつグラフト重合はポリマーの機能化、複合化の基本的かつ有効的な手段として用いられている。
【0003】
グラフト重合は高分子体の幹に枝をつけるようにして、異なったポリマーを側鎖として導入する高分子反応であり、合成されたグラフト共重合体は一種の枝分かれ構造を有する。しかし、一般の枝分かれポリマーとは異なり、高分子主鎖と分岐した側鎖が異種のポリマー成分から成り立っており、通常熱力学的に混和性が無いため、ほとんどのグラフト共重合体は固体状態でミクロ相分離をとっている。このことから、既存のホモポリマーでは有することのできない、親水性・疎水性・高吸水性・キレート形成能等の新しい性質を付与できる方法として期待されている。代表的な機能化の例として、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体)が挙げられる。
【0004】
一方、光学用樹脂の重要な特性の一つに屈折率がある。屈折率を精密に制御することは、光学レンズ、光導波路に応用する際、必要不可欠である。屈折率の制御には、樹脂中に様々な置換基を導入する手法が広く用いられている。例えば、アクリルその他の樹脂中にフッ素を導入した検討が数多くなされている(例えば特許文献1参照)。フッ素の導入は低屈折率化のみならず低吸収化や低誘電率化にも有用な手段である。しかしながら、樹脂の低屈折率化は、例えばレンズとして使用する場合、厚肉化を招く等の欠点も有している。光学樹脂、特に光学特性に優れるアクリル樹脂の高屈折率化は、光導波路や光学レンズの用途に非常に有用である。樹脂の高屈折率化には、フッ素以外のハロゲン原子、硫黄原子及び芳香環の導入が有効とされている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開平3−217412号公報
【特許文献2】特開平4−055416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高屈折率なグラフトポリマー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、側鎖にチオエステル基を有する化合物、及びポリマーを合成し、これを出発原料としポリチオエーテル鎖を側鎖に有する、高屈折率な樹脂を見出すことができた。
本発明によれば、以下の化合物、グラフトポリマー及びその製造方法等が提供される。
1.下記式(1)で表される化合物。
【化12】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。)
2.下記式(2)で表される化合物。
【化13】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、RとRは結合して環を形成してもよい。lは1〜1000の整数を示す。)
3.下記式(3)で表される化合物。
【化14】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Xは酸素又はイオウを表し、lは1〜1000の整数を示し、kは1〜1000の整数を示す。RとR、又はRとRは結合して環を形成してもよい。)
4.前記式(2)又は(3)のR〜Rの少なくとも1つが重合性基を有する2又は3に記載の化合物。
5.Rが−C−CH−である1〜4のいずれ一項に記載の化合物。
6.下記式(4)で表される高分子化合物。
【化15】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示す。)
7.Rが−C−CH−である6に記載の高分子化合物。
8.下記式(5)で表されるグラフトポリマー。
【化16】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rがアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R又はRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、lは1〜1000の整数を示す。RとRは結合して環を形成してもよい。)
9.下記式(6)で表されるグラフトポリマー。
【化17】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rがアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、lは1〜1000の整数を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Xは酸素又はイオウを表し、kは1〜1000の整数を示す。RとR、又はRとRは結合して環を形成してもよい。)
10.Rが−C−CH−である8又は9に記載のグラフトポリマー。
11.数平均分子量が400〜50,000の範囲内である2〜4のいずれかに記載の化合物。
12.数平均分子量が5,000〜500,000の範囲内である6に記載の高分子化合物。
13.数平均分子量が5,000〜500,000の範囲内である8又は9に記載のグラフトポリマー。
14.下記式で表される化合物にR−COS−Y(Rは式(1)と同じであり、Yはアルカリ金属である。)を反応させる1に記載の化合物の製造方法。
【化18】

(式中、R、R及びRは式(1)と同じである。)
15.上記1に記載の化合物に、下記式で示されるチイラン誘導体を反応させる2に記載の化合物の製造方法。
【化19】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
16.上記2に記載の化合物に、下記式で示されるエポキシ化合物又はチイラン化合物を反応させる3に記載の化合物の製造方法。
【化20】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
17.上記2〜4のいずれかに記載の化合物を、単独でラジカル重合又は炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体とラジカル共重合させる8又は9に記載のグラフトポリマーの製造方法。
18.上記1に記載の化合物を、単独でラジカル重合又は炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体とラジカル共重合させる6に記載の高分子化合物の製造方法。
19.上記6に記載の高分子化合物に、下記式で示されるチイラン誘導体を反応させる8に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【化21】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
20.上記8に記載のグラフトポリマーに、下記式で示されるエポキシ化合物又はチイラン化合物を反応させる9に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【化22】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
21.重合性基を有する8〜10のいずれかに記載のグラフトポリマー。
22.上記21に記載のグラフトポリマーを硬化させて得られる3次元硬化物。
23.上記21に記載のグラフトポリマーに加熱又は活性エネルギー線照射を行って硬化させる3次元硬化物の製造方法。
24.上記6又は7に記載の高分子化合物、8〜10のいずれか一項に記載のグラフトポリマー、又は22に記載の3次元硬化物を含む光学用樹脂。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高屈折率なグラフトポリマー及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の上記式(1)〜(3)で表される化合物、及び式(4)で表される高分子化合物は、式(5)及び式(6)で表されるグラフトポリマーの中間体である。これらを重合又は反応させることで、本発明のグラフトポリマーが製造できる。
【0009】
式(1)〜(6)中のRは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を表す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、iは1〜20の整数を表す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−である。好ましくは、−C−又は−C−(CHi’−(i’は1〜4の整数である。)である。
【0010】
式(1)〜(6)中のRは炭素数1〜20の1価の有機基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基、エーテル類、エステル類、アミノ類、及びこれらの置換化合物である。好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された又は非置換のフェニル基又はナフチル基である。
【0011】
式(1)〜(6)中のR及びRは水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基である。これら有機基の主鎖又は側鎖に水素、ハロゲン、硫黄、酸素又は窒素を含んでいてもよい。有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基等が挙げられ、また、これらの基は、メトキシ基、メトキシカルボニル基、シアノ基、ジメチルアミノ基、ハロゲン、硫黄原子、ヒドロキシ基等で、置換されていてもよい。炭素数は好ましくは1〜18、より好ましくは1〜10である。
具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、デシル等のアルキル基:シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロドデシル等のシクロアルキル基:フェニル、ナフチル、それらの置換体(トリル、キシリル、ベンジルフェニル等)等のアリール基:チエニル基、フリル基、ピリジル基、ピロリル基等のヘテロアリール基:ベンジル、フェネチル、フェニルベンジル、ナフチルメチル等のアラルキル基が例示可能である。また、これらの基はメトキシ基、メトキシカルボニル基、シアノ基、ジメチルアミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ基で置換されていてもよい。主鎖又は側鎖にハロゲン、硫黄、酸素又は窒素を含んでいてもよい。好ましくは、水素、ハロゲン、メチル基又は重水素である。尚、R及びRは同じでも異なっていてもよい。
【0012】
式(4)〜(6)中のMは、炭素数2〜50のエチレン性不飽和二重結合を有する単量体由来の基であり、単量体として、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−ブロモスチレン、p−ビニル安息香酸等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;アクリロニトリル;ビニル−n−ブチルエーテル等のビニルアルコールのエステル類;(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、α−ブロモ(メタ)アクリル酸、α−クロル(メタ)アクリル酸、β−フリル(メタ)アクリル酸、β−スチリル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸系単量体;マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピル等のマレイン酸系単量体が挙げられ、これら以外にも、フマル酸、ケイ皮酸、α−シアノケイ皮酸、イタコン酸、クロトン酸、プロピオール酸が例示可能である。好ましくは(メタ)アクリル酸系単量体又はスチレン誘導体である。さらに好ましくはスチレン誘導体である。
【0013】
上述した(メタ)アクリル酸系単量体としては、例えば、下記式(I)で表される化合物
【化23】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R10は炭素数1〜12のアルキル基を示す。)である。
【0014】
式(I)中のR10で示される炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基及びこれらの構造異性体が挙げられる。そして式(I)で表される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が例示可能である。
【0015】
式(4)〜(6)中のnは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜300である。
【0016】
式(4)〜(6)中のmは0〜1000の整数であり、好ましくは1〜300である。
【0017】
式(2)、式(3)、式(5)及び式(6)中のR及びRは、それぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基であり、例えば、互いに独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基や、エーテル類、エステル類、アミノ類、及びこれらの置換化合物であり、また、RとRが結合して、例えばシクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナン環等の環を形成してもよい。好ましくはRは炭素数1〜4のアルキル基で置換された又は非置換のフェノキシアルキル(好ましくは炭素数1〜4)基で、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0018】
式(2)、式(3)、式(5)及び式(6)中のlは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜500である。
【0019】
式(3)、式(6)中のR及びRは、それぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基であり、例えば、互いに独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基や、エーテル類、エステル類、アミノ類、及びこれらの置換化合物であり、また、RとRが結合して、例えばシクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナン環等の環を形成してもよい。好ましくは、Rは炭素数1〜4のアルキル基で置換された又は非置換のフェノキシアルキル(好ましくは炭素数1〜4)基で、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0020】
式(3)、式(6)中のXは酸素又はイオウを表す。
式(3)、式(6)中のkは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜500である。
【0021】
式(2)及び(3)の化合物の数平均分子量は400〜50,000の間であり、より好ましくは400〜10,000、さらに好ましくは400〜5,000である。尚、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0022】
式(4)の高分子化合物、並びに式(5)及び式(6)のグラフトポリマーの数平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000の間であり、より好ましくは5,000〜300,000、さらに好ましくは5,000〜200,000である。尚、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0023】
式(1)で表される化合物は、下記式(II)で表される化合物
【化24】

(式中、R、R及びRは上記の通りである。)
に、R−COS−Y(Rは式(1)と同じであり、Yはアルカリ金属である。)を反応させることにより得ることができる。好ましくは塩触媒存在下で反応を行う。
【0024】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩が用いられる。触媒の添加量は、式(II)で示される化合物100部に対し1〜10部である。
−COS−Yは式(II)で示される化合物に対し大過剰加え、反応途中でさらに追加してもよい。
【0025】
反応に用いる溶媒は、エーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。
【0026】
反応温度は、通常、−78℃〜100℃の間で行うが、好ましくは−50℃〜80℃、より好ましくは−50℃〜50℃である。反応温度が−78℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
【0027】
式(2)で表される化合物は、式(1)に記載の化合物に、下記式で示されるチイラン誘導体Aを反応させることによって得ることができる。好ましくは塩触媒下で反応を行う。
【化25】

(式中、R及びRは上記の通りである。)
【0028】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩が用いられる。触媒の添加量は、式(1)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0029】
反応に用いる溶媒は、エーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0030】
反応温度は、通常、0〜150℃の間で行うが、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは50℃〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
反応は、アンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0031】
式(3)で表される化合物は、式(2)で表される化合物に、下記式で示される対応するチイラン化合物又はエポキシ化合物(化合物B)
【化26】

(式中、R、R及びXは上記の通りである。)
を反応させることによって得ることができる。好ましくは塩触媒存在下で反応を行う。
【0032】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩が用いられる。触媒の添加量は、式(2)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0033】
反応に用いる溶媒はエーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0034】
反応温度は、通常、0℃〜150℃の間で行うが、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは50℃〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。反応はアンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0035】
式(2)及び式(3)で示される化合物は、2重結合や3重結合をもつ不飽和炭化水素基や、アクリル基やメタクリル基、シクロプロパン基やシクロブタン基等の高歪炭化水素基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、エポキシ基やオキセタン基等の環状エーテル基等、ラジカル重合性やカチオン、アニオン重合性等の重合性基を含むことができる。例えばR〜Rの少なくとも1つが重合性基を含んでもよい。
【0036】
式(4)で表される高分子化合物は、式(1)で表される化合物をラジカル重合させることによって得ることができる。ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキシド、p−クロルベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシド、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物である。
【0037】
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性モノマーの種類や組成によって異なるため一概に限定できないが、一般には全重合性モノマー100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲で用いるのが好適である。
【0038】
重合温度及び重合時間は、重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって大きく変化するので限定できないが、2〜40時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0039】
式(2)又は式(3)で表される化合物を、単独でラジカル重合又は炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体とラジカル共重合させることにより、式(5)又は式(6)で表されるグラフトポリマーを得ることができる。ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキシド、p−クロルベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシド、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物である。
【0040】
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性モノマーの種類や組成によって異なるため一概に限定できないが、一般には全重合性モノマー100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲で用いるのが好適である。
【0041】
重合温度及び重合時間は、重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって大きく変化するので限定できないが、2〜40時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0042】
また、式(5)で表されるグラフトポリマーは、式(4)で表される高分子化合物に、上述したチイラン誘導体Aを反応させることによっても得ることができる。好ましくは塩触媒存在下で反応を行う。
【0043】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩が用いられる。触媒の添加量は、式(4)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0044】
反応に用いる溶媒は、エーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0045】
反応温度は、通常、0℃〜150℃の間で行うが、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは50℃〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。反応は、アンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0046】
また、式(6)で表されるグラフトポリマーは、式(5)で表されるグラフトポリマーに、上述したチイラン化合物又はエポキシ化合物である化合物Bを反応させることによっても得ることができる。好ましくは塩触媒存在下で反応を行う。
【0047】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩が用いられる。触媒の添加量は、式(5)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0048】
反応に用いる溶媒はエーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0049】
反応温度は、通常、0℃〜150℃の間で行うが、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは50℃〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。反応はアンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0050】
本発明では、上記高分子化合物及びグラフトポリマーに種々の有機物、無機物を添加することができる。それらは、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオレフィン、シロキサンポリマー等の各種ポリマーや、各種添加剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、濡れ性改良剤等を配合することができる。また、各種感光剤を添加しても良い。
【0051】
式(5)及び式(6)で示されるグラフトポリマーは、2重結合や3重結合をもつ不飽和炭化水素基や、アクリル基やメタクリル基、シクロプロパン基やシクロブタン基等の高歪炭化水素基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、エポキシ基やオキセタン基等の環状エーテル基等、ラジカル重合性やカチオン、アニオン重合性等の重合性基を含むことができる。例えばR〜Rの少なくとも1つが重合性基を含んでもよい。
【0052】
式(5)及び式(6)のグラフトポリマーが重合性基を含む場合、対応する重合触媒を加え加熱又は光等の活性エネルギー線を照射することによって、3次元硬化物を得ることができる。
【0053】
また紫外線、可視光、あるいは放射線等の活性エネルギー線を用いたラジカル重合の開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものとして、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジルメチルケタール、2−イソプロピルチオキサントン等が用いられる。これらの重合開始剤は、重合性基に対して0.001〜5当量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0054】
熱カチオン重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、塩化アルミニウム、4塩化スズ、4塩化チタン等が用いられる。熱カチオン重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性モノマーの種類や組成によって異なるため一概に限定できないが、一般には重合性基に対して0.01〜10当量%の範囲で用いるのが好適である。重合温度及び重合時間は、重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって大きく変化するので限定できないが、2〜40時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0055】
また紫外線、可視光、あるいは放射線等の活性エネルギー線を用いたカチオン重合の開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものとして、スルホニウム塩類、ヨードニウム塩類等が用いられる。これらの重合開始剤は、重合性基に対して0.001〜5当量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0056】
アニオン重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、金属リチウム等が用いられる。
【0057】
以上の触媒に、各種増感剤や助触媒を加えてもよい。また、3次元硬化物の物性を制御するために、酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、レベリング剤等の各種添加剤を加えてもよい。
さらに、3次元硬化物の特性を高める目的で、シリカや酸化チタン等無機フィラーや有機フィラーを任意の割合で加えてもよい。
【0058】
式(4)の高分子化合物、式(5)及び式(6)のグラフトポリマー並びに3次元硬化物は、光学用樹脂として使用することができる。また、グラフトポリマー及び3次元硬化物中の硫黄原子、ハロゲン原子及びベンゼン環の含有量をコントロールすることにより樹脂の屈折率を制御することができる。この樹脂の屈折率は、好ましくは1.500〜1.900である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明の光学用樹脂の製造法について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されない。
実施例1
下記式(7)で示される化合物(以下(7)と略す)を下記の方法で合成した。
【化27】

200mlナスフラスコに、上記式(8)の4−ビニルベンジルクロリド7.67g(0.05mmol)、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)0.831g(5mmol)、N−メチルピロリドン50mlを加え、氷冷下に保ちながら、チオ安息香酸カリウム10.75g(0.06mol)を加え、室温、24時間攪拌した。反応終了後、反応溶媒を酢酸エチルで希釈し、蒸留水で3回洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾別後、酢酸エチルを減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−へキサン=1:3)により単離し、(7)を黄色液体として11.52g(収率90.6%)得た。
得られた化合物の分析結果を以下に示す。
IR(cm−1):1662、1629、1596、1510、1447
H−NMR(500MHz、DMSO−d):
δ(ppm)4.36(s、2H)、5.25(d、1H)、5.82(d、1H)、6.72(dd、1H)、7.42(dd、4H)、7.54(d、1H)、7.67(d、1H)、7.97(d、2H)
【0060】
実施例2
下記式(9)で示される高分子化合物(以下(9)と略す)を下記の方法で合成した。
【化28】

シュレンク管に、(7)7.685g(23mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.1146g(3mol%)、ジメチルホルムアミド6mlを秤りとり、系を減圧にして凍結・脱気を繰り返した後、窒素雰囲気下、60℃で20時間攪拌した。反応終了後、反応溶媒を多量のn−へキサンに注ぎ生じたポリマーを濾別した。濾別したポリマーを減圧乾燥し、(9)を白色粉末固体として5.95g(収率:77.0%)得た。得られた化合物の分子量をGPC法で、実施例2と同じ条件で測定したところ、数平均分子量2.3×10、分散度2.29であった。GPC法の測定条件は以下の通りであった。
(a)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(SEC):東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフィー(SEC)HLC−8020型
(b)カラム:TSKgelG1000H
(c)展開溶媒:テトラヒドロフラン
(d)標準物質:ポリスチレン
また、(9)20mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解させ、この溶液0.2mlをシリコンウエハー上に滴下し、スピンコータ(浅沼製作所株式会社製)により塗布した。次いで、この溶液が塗布されたシリコンウエハーを室温で24時間減圧乾燥後、エリプソメータ(ガードナー社製、115B型)により波長632.8nmにおける屈折率測定を5回行い、最大値と最小値を除いた3回の測定値の平均を屈折率とした。測定の結果、屈折率は1.668であった。
得られた化合物の分析結果を以下に示す。
IR(cm−1):1661、1596、1510、1447
H−NMR(500MHz、CDCl):
δ(ppm)0.71〜2.35(m、3H)、4.19(s、2H)、6.10〜8.27(m、9H)
【0061】
実施例3
また、下記式(10)で示されるグラフトポリマーを(以下(10)と略す)を下記の方法で合成した。
【化29】

湿度10%以下に保ったドライボックス中で、アンプル管にテトラブチルアンモニウムクロリド0.0278g(0.1mmol)、(9)0.0254g(0.1mmol)、3−フェノキシプロピレンスルフィド(以下スルフィドAという)0.8312g(5.0mmol)、N−メチルピロリドン5.1mlを加え封管した。これを90℃で24時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を冷メタノールに注ぎ、(10)を無色粘性固体として0.59g(収率67%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で、実施例2と同じ条件で測定したところ、数平均分子量3.2×10、分散度4.6であった。
得られた化合物のIR結果を以下に示す。
IR(cm−1):1660、1599、1496、1460
H−NMR(500MHz、CDCl):
δ(ppm)1.56(s、1H)、2.95〜3.14(m、28H)、4.09(d、20H)、6.81〜7.26(m、55H)、7.92(d、2H)
また、スルフィドAの仕込み量、反応時間、触媒量を変えて反応を行い、得られた化合物について実施例2と同様の条件で屈折率を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例4
下記式(11)で示される高分子化合物(以下(11)と略す)を下記の方法で合成した。
【化30】

シュレンク管に(7)2.543g(10mmol)、スチレン1.041g(10mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.0985g(3mol%)、ジメチルホルムアミド6mlを秤りとり、系を減圧にして凍結・脱気を繰り返した後、窒素雰囲気下、60℃で20時間攪拌した。反応終了後、反応溶媒を多量のn−へキサンに注ぎ生じたポリマーを濾別した。得られたポリマーを良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて再沈し、(11)を白色粉末固体として2.20g(収率:61.0%)得た。得られたポリマーの分子量をSEC法で実施例2と同じ条件で測定したところ、数平均分子量1.1×10、分散度1.99であった。
得られた高分子化合物の分析結果を以下に示す。
IR(cm−1):1662、1510、1448
H−NMR(500MHz、CDCl):
δ(ppm)0.81〜2.49(m、6H)、4.21(s、2H)、6.12〜8.17(m、14H)
また、(7)とスチレンの共重合比(mol比)を変えて同様の条件で反応を行い、得られた化合物について実施例2と同じ条件で屈折率を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例5
下記式(12)で示されるグラフトポリマー(以下(12)と略す)を下記の方法で合成した。
【化31】

湿度10%以下に保ったドライボックス中で、アンプル管にテトラブチルアンモニウムクロリド20mol%、(11)0.0626g(0.15mmol)、3−フェノキシプロピレンスルフィド0.2494g(1.5mmol)、N−メチルピロリドン1.65mlを加え封管した。これを90℃で24時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノールに注ぎ、(12)を無色固体として0.18g(収率56%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量1.9×10、分散度2.65であった。
【0066】
実施例6
下記式(13)で示される化合物(以下(13)と略す)を下記の方法で合成した。
【化32】

湿度10%のドライバック中で、テトラブチルアンモニウムクロリド 0.042g(0.15mmol)、(7)0.039g(0.15mmol)、プロピレンスルフィド(以下スルフィドBという)0.445g(6.0mmol)、1−メチル−2−ピロリドン 6.0ml(0.1mmol)を加え2方コックを取り付けドライバックから取り出した。混合物を攪拌後、液体窒素を用いて凍結・脱気を繰り返し、封管を行った。これを室温で解凍させた後、90℃で24時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール中に滴下し、(13)を無色固体として0.43g(収率89%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量3.7×10、分散度1.7であった。
また、得られた化合物のIR結果を以下に示す。
・IR(cm−1):1658、1630、1581、1510
H−NMR(500MHz、CDCl):
δ(ppm) 1.38(s、138H)、2.61〜2.66(m、45H)、2.84〜2.92(m、92H)、3.73(s、2H)、3.85〜3.91(m、1H)5.24(d、1H)、5.74(d、1H)、6.70(dd、1H)、7.28(d、2H)、7.37(d、2H)、7.45(t、2H)、7.58(t、1H)、7.95(d、2H)
H−NMRにおり算出されたスルフィドBの重合度は、(7)由来の芳香族環プロトンのピーク(7.95ppm)とスルフィドB由来のメチルプロトン(1.38ppm)との積分比から算出し、(7)に対する仕込み量とほぼ一致した。
また、プロピレンスルフィドの量、反応時間、反応温度を変えて検討を行い、得られた生成物の分子量、分子量分布を測定した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例7
下記式(14)で示される化合物(以下(14)と略す)を下記の方法で合成した。
【化33】

重合管に(13)を0.31g(0.1mmol)、アゾビスイソブチロニトリル 0.003g(0.009mmol)、ジメチルホルムアミドを0.3ml量り取り、攪拌後、液体窒素を用いて凍結・脱気を繰り返し、封管を行った、これを室温で解凍させた後、60℃で20時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール中に滴下した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、エーテル中に滴下して(14)を無色の固体として0.096g(収率31%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量5.1×10、分散度2.8であった。得られた化合物のIR、NMR結果を以下に示す。
・IR(cm−1):1657、1597、1579、1508
H−NMR(500MHz、CDCl):
δ(ppm) 1.18〜1.50(m、140H)、2.57〜3.15(m、138H)、3.45〜3.98(m、3H)、6.77〜7.24(m、4H)、7.54(t、2H)、7.58(t、1H)、7.95(d、2H)
【0069】
実施例8
下記式(15)で示されるグラフトポリマー(以下(15)と略す)を下記の方法で合成した。
【化34】

重合管に側鎖の重合度(l)が5の(13)を0.21g(0.3mmol)、スチレン0.01g(0.1mmol)、アゾビスイソブチロニトリル 0.002g(0.012mmol)、N,N’−ジメチルホルムアミドを0.25ml量り取り、攪拌後、液体窒素を用いて凍結・脱気を繰り返し、封管を行った。これを室温で解凍させた後、60℃で20時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール中に滴下した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、エーテル中に滴下して(15)を無色の固体として0.15g(収率69%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で、実施例2と同じ条件で測定したところ、数平均分子量2.4×10、分散度2.0であった。屈折率は1.620、硫黄含有量は30.1%であった。
得られた化合物のIR、NMR結果を以下に示す。
・IR(cm−1):1658、1597、1579、1508、1492
H−NMR(500MHz、CDCl):
δ(ppm) 0.75〜1.46(m、16H)、2.34〜3.18(m、16H)、3.45〜3.80(m、3H)、6.21〜7.25(m、8H)、7.45(t、2H)、7.58(t、1H)、7.95(d、2H)
また、(13)とスチレンの共重合比(mol比)、及び(13)の側鎖部分の長さ(重合度l)を変えてグラフトポリマーを合成し、その分子量、屈折率、ガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表4に示す。
尚、ガラス転移温度の測定は、以下のように行った。
アルミニウムパンに合成したポリマーを約5mg秤とり、パンを密閉した後、示差走査熱量計(Seiko Instruments EXSTAR 6000/TG/DTA6200)により、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minの条件で行った。
【0070】
【表4】

【0071】
実施例9
下記式(16)で示されるグラフトポリマー(以下(16)と略す)を下記の方法で合成した。
【化35】

重合管に側鎖の重合度(l)が10の(13)を0.21g(0.3mmol)、p−ビニル安息香酸0.04g(0.3mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.003g(0.018mmol)、ジメチルホルムアミドを0.25ml量り取り、攪拌後、液体窒素を用いて凍結・脱気を繰り返し、封管を行った。これを室温で解凍させた後、60℃で20時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール中に滴下した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、エーテル中に滴下して(16)を無色の固体として0.105g(収率42%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量2.7×10、分散度2.8であった。
また、(13)とp−ビニル安息香酸の共重合比(mol比)の異なるグラフトポリマーを合成し、その分子量、屈折率、ガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表4に示す。
【0072】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のグラフトポリマーを用いることにより、高耐熱性を有し、屈折率調整可能で、さらに高屈折率を有する樹脂を提供できる。この樹脂は、光学レンズ、光学フィルム、光学フィルムを用いた液晶表示装置等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物。
【化2】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、RとRは結合して環を形成してもよい。lは1〜1000の整数を示す。)
【請求項3】
下記式(3)で表される化合物。
【化3】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Xは酸素又はイオウを表し、lは1〜1000の整数を示し、kは1〜1000の整数を示す。RとR、又はRとRは結合して環を形成してもよい。)
【請求項4】
前記式(2)又は(3)のR〜Rの少なくとも1つが重合性基を有する請求項2又は3に記載の化合物。
【請求項5】
が−C−CH−である請求項1〜4のいずれ一項に記載の化合物。
【請求項6】
下記式(4)で表される高分子化合物。
【化4】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示す。)
【請求項7】
が−C−CH−である請求項6に記載の高分子化合物。
【請求項8】
下記式(5)で表されるグラフトポリマー。
【化5】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rがアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−、又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R又はRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、lは1〜1000の整数を示す。RとRは結合して環を形成してもよい。)
【請求項9】
下記式(6)で表されるグラフトポリマー。
【化6】

(式中、Rは−C−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rがアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−C−、−CONH−C−又は−CONH−C−を表し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、lは1〜1000の整数を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Xは酸素又はイオウを表し、kは1〜1000の整数を示す。RとR、又はRとRは結合して環を形成してもよい。)
【請求項10】
が−C−CH−である請求項8又は9に記載のグラフトポリマー。
【請求項11】
数平均分子量が400〜50,000の範囲内である請求項2〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
数平均分子量が5,000〜500,000の範囲内である請求項6に記載の高分子化合物。
【請求項13】
数平均分子量が5,000〜500,000の範囲内である請求項8又は9に記載のグラフトポリマー。
【請求項14】
下記式で表される化合物にR−COS−Y(Rは式(1)と同じであり、Yはアルカリ金属である。)を反応させる請求項1に記載の化合物の製造方法。
【化7】

(式中、R、R及びRは式(1)と同じである。)
【請求項15】
請求項1に記載の化合物に、下記式で示されるチイラン誘導体を反応させる請求項2に記載の化合物の製造方法。
【化8】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
【請求項16】
請求項2に記載の化合物に、下記式で示されるエポキシ化合物又はチイラン化合物を反応させる請求項3に記載の化合物の製造方法。
【化9】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
【請求項17】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の化合物を、単独でラジカル重合又は炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体とラジカル共重合させる請求項8又は9に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項18】
請求項1に記載の化合物を、単独でラジカル重合又は炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体とラジカル共重合させる請求項6に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項19】
請求項6に記載の高分子化合物に、下記式で示されるチイラン誘導体を反応させる請求項8に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【化10】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
【請求項20】
請求項8に記載のグラフトポリマーに、下記式で示されるエポキシ化合物又はチイラン化合物を反応させる請求項9に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【化11】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
【請求項21】
重合性基を有する請求項8〜10のいずれか一項に記載のグラフトポリマー。
【請求項22】
請求項21に記載のグラフトポリマーを硬化させて得られる3次元硬化物。
【請求項23】
請求項21に記載のグラフトポリマーに加熱又は活性エネルギー線照射を行って硬化させる3次元硬化物の製造方法。
【請求項24】
請求項6又は7に記載の高分子化合物、請求項8〜10のいずれか一項に記載のグラフトポリマー、又は請求項22に記載の3次元硬化物を含む光学用樹脂。


【公開番号】特開2008−19234(P2008−19234A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221419(P2006−221419)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発行団体名 社団法人 高分子学会 発行日 平成18年5月10日 (2)主催者名 学校法人 神奈川大学 発表日 平成18年2月16日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】