説明

偽造防止用紙

【課題】最小限のコストで最大限の偽造防止効果の得られる偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】表示材料および/または記録材料が内包された透明中空繊維ユニット12を混入した偽造防止用紙11において、内包される材料の中に、スチルベンジスルホン酸系化合物、ピレンおよび/またはピレン誘導体、ペリレンおよび/またはペリレン誘導体、フルオレセイン系化合物から選ばれる蛍光またはりん光を発光する材料が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示材料および/または記録材料が内包された透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙に関する。特に、前記透明中空繊維ユニットをパルプ繊維と分散して、抄紙した紙の全面に分散して形成された透明中空繊維が容易に剥離せず、かつ紙中に抄き込まれた透明中空繊維内の表示材料および/または記録材料の視認性を向上させるために、透明中空繊維に内包されている材料の中に、蛍光、またはりん光を発光する材料が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載のように、偽造防止技術は二つに大別できる。万人が自らの力ではっきりと対象物の真贋を判定できる「眼に見える、公開された偽造防止対策」(オバート)と、専用機器を用いなければ真贋判定できず、一般にはその内容が知らされていない「眼に見えない、非公開の偽造防止対策」(コバート)である。
【非特許文献1】先端偽造防止技術―事例集― 技術情報協会、p.5−18(2004)
【0003】
近年、コンピュータ、スキャナー、プリンターなどの高性能化や廉価化によって、比較的容易に偽造紙幣などを作ることが可能になり、プロの偽造集団ではない素人による偽造が増えている。したがって、一般の人々が(あまり精巧ではないが)偽造紙幣などに接する機会が増えており、紙幣の真贋を彼ら自身が行わなければならなくなってきている。このような現状においては、誰にでも見分けられるように、偽造防止技術が施されている部分の視認性(オバート)の向上に対する重要性がますます増している。また、こうした背景から、紙そのものに偽造防止処理が施されている偽造防止紙のニーズは、ますます増加している。
【0004】
さらに、偽造された紙幣などを用いて自動販売機のような機械の真贋判定機を騙す、といった事件も多発している。機械の真贋判定機は、一般的に、磁界や蛍光、赤外線などを検知するセンサーによって真贋が判定される。偽造された紙幣には、このセンサーにだけ検知されるような処理がされており、人間の見た目には一目で偽造した紙幣だとわかるものが使用されるケースが多い。いわば機械の目のみが騙される。ATMのようなものには、精密でかつ複数個の読み取りセンサーが施されているが、コストが重視される自動販売機のような真贋判定機においては、最小限のコストで最大の偽造防止効果が得られるものが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
偽造防止用紙に何らかの物質を混入する方法では、混入する物質と紙との親和性が重要である。すなわち、混入する物質と紙との親和性が低過ぎると、その物質が紙から剥離してしまう。例えば、特殊物質が金属繊維、磁性材などの場合、紙との親和性が低く、そのままでは紙から分離してしまう。そのため金属繊維などを含む紙層をさらに別の紙層でサンドイッチし多層化するなどの処理を行わなければならず、製造工程が複雑になりコスト高になるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表示材料および/または記録材料が内包された透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙に関する。特に、前記透明中空繊維ユニットをパルプ繊維と分散して、抄紙した紙の全面に分散して形成された透明中空繊維が容易に剥離せず、かつ紙中に抄き込まれた中空繊維内の表示材料および/または記録材料の視認性を向上させるために、中空繊維に内包されている材料の中に、蛍光またはりん光を発光する材料が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙を提供することによって、上記のような課題を解決するものである。すみなち、本発明は以下の(1)〜(6)の構成を含む。
【0007】
(1)表示材料および/または記録材料が内包された透明中空繊維を混入した偽造防止用紙において、透明中空繊維に内包されている材料の中に、蛍光、またはりん光を発光する材料が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙。
(2)前記蛍光を発光する材料が、スチルベンジスルホン酸系化合物、ピレンおよび/またはピレン誘導体、ペリレンおよび/またはペリレン誘導体、フルオレセイン系化合物から少なくとも一種以上であることを特徴とする(1)記載の偽造防止用紙。
(3)前記透明中空繊維の両末端が熱融着、または接着加工などにより封止されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の偽造防止用紙。
(4)前記表示材料および/または記録材料が、磁界または電界の印加により移動する材料を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の偽造防止用紙。
(5)前記(1)〜(4)までの偽造防止用紙に、さらに別の紙を抄合せたことを特徴とする偽造防止用紙。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の偽造防止用紙は、紙と親和性の高い樹脂系の透明中空繊維の中に、表示材料や情報記録材料を、蛍光またはりん光を発光する材料と一緒に内包させ、それを紙に抄き込むことにより構成される。
本発明の偽造防止用紙の一例の概念図を図1に示す。図1に示すように、偽造防止用紙11は、紙全面に何らかの表示材料および/または記録材料と、さらに蛍光またはりん光を発光する材料を内包した透明中空繊維ユニット(以下、透明中空繊維ユニットとする)12が均一に分散した状態で形成される。ただし、紙に混入された透明中空繊維ユニット12は、1本以上あれば、紙に混入できる限り何本でもよい。
【0009】
図1に示した偽造防止用紙11の全面に均一に分散された透明中空繊維ユニット12の構成と機能について、一例を挙げて説明する。透明中空繊維ユニット12の一例の概念図を図2に、その断面図を図3に示す。透明中空繊維ユニット12は、蛍光またはりん光を発光する材料が溶解、または分散している溶媒21、透明中空繊維22、表示材料および/または記録材料23からなり、両末端24には、熱融着、または接着加工により、溶媒21が漏れないように封止した様子を概念的に示してある。
【0010】
透明中空繊維に内包する溶媒21としては、種々の液体が使用され、例えば、水、高級アルコール、シリコーン系オイル、脂肪族炭化水素系オイル、芳香族炭化水素系オイル、脂環式炭化水素系オイル、ハロゲン系炭化水素系オイル、各種エステル、が用いられ、混ざり合うものであれば混合して用いても良い。
【0011】
溶媒21には、さらに蛍光またはりん光を発光する材料が含まれていることが、本発明の最大の特徴である。蛍光・りん光材料とは、励起光によって励起された電子が基底状態に戻るときに、その余分なエネルギーを光として放つ材料のことを言う。基底状態にある電子は、励起光によって一重項状態に遷移される。一重項状態から再び基底状態に戻る時に放たれる光を蛍光と言う。また、一重項状態から項間交差により一度三重項状態に移り、それから基底状態に戻る時に放たれる光をりん光と言う。
【0012】
蛍光材料としては、アクリルオレンジ、9−アミノアクリジン、キナクリン、アリルナフタレンスルホン酸類、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、シアニン色素類、ダンシルクロリド誘導体類、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロマイド、フルオレセイン系化合物、フォーマイシン、スチルベンジスルホン酸系化合物、NBD−ホスファチジルコリン、オキソノール色素類、パリナリン酸類、ペリレン、ペリレン誘導体、N−フェニル−1−ナフチルアミン、ピレン、ピレン誘導体、サフラニンOなどの有機系の蛍光染料、BaSi:Pb、Sr:Eu、BaMgAl1627:Eu、MgWO、3Ca(PO・Ca(F,Cl):Sb,Mn、MgGa:Mn、ZnSiO、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、Y:Eu、YVO:Eu、(Sr,Mg,Ba)(PO:Sn、3.5MgO・5MgF・GeO:Mnなどの無機系の蛍光顔料が挙げられる。
【0013】
りん光材料としては、CaAl:Eu,Nd、ZnS:Cu、ZnS:Cu,Co、SrAl:Eu,Dy、CaS:Eu,Tm、イリジウム錯体化合物(例えば、fac tris(2−phenypyridine) irdium)、2,3,7,8,12,13,17,18−octaethyl−21H,23H−porphyrin platinum(II)などのりん光材料が挙げられる。
【0014】
用いる蛍光・りん光材料は、上記の化合物に特に限定されるわけではないが、多くの場合、溶媒21を構成する液体の種類によって、用いられる最適な蛍光・りん光物質が異なる場合がある。液体に水系のものを用いた場合はスチルベンジスルホン酸系化合物、ピレン誘導体が、シリコーンオイル系や炭化水素系オイルを用いた場合は、フルオレセイン系化合物、ピレン、ピレン誘導体が好適に用いられる。
【0015】
励起光の波長は、用いる蛍光・りん光材料により固有のもので、一概に決めることはできないが、多くのものは250〜400nmの範囲の波長の紫外光によって励起させることができる。その中でも、365nmの波長の近紫外光が、人体に対しても影響は少なく、最も好適に使用される。このような、250〜400nmの波長の紫外光は、市販のブラックライトを用いることで容易に得ることが可能である。また、いくつかの蛍光・りん光材料は、可視光によって励起されるものがあり、その場合はブラックライトを用いなくとも蛍光、りん光の発光を観察することができる。
【0016】
次に本発明の偽造防止用紙の材料について説明する。
まず、透明中空繊維22の材料としては、紙との親和性に優れたものが好ましい。紙の主成分がセルロースであることを鑑みれば、セルロースとの親和性が高い材料を用いることが好ましい。セルロースとの親和性のパラメータとして、相溶性パラメータ、無機性値/有機性値(以下、I/O値とする)などの指標を用いることができる。例えば、セルロースとの親和性のパラメータとしてI/O値を用いた場合は、透明中空繊維の材料のI/O値が0.2〜3.0の範囲にあることが好ましい。I/O値の計算方法に関しては、非特許文献2に詳しく述べられている。
【非特許文献2】有機概念図 甲田善生著、三共出版(1984)
【0017】
また、透明中空繊維22の材料としては、透明性に優れたものが好ましい。透明性の観点から選択できる具体的な材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを挙げることができる。
【0018】
透明中空繊維22の材料の中でも、セルロイドやアセチルセルロースなどは好適に用いられる。これらの材料は、特に紙との親和性が強い。セルロイドやアセチルセルロースなどからなる透明中空繊維ユニットを、本発明の偽造防止用紙から剥離しようとした場合、該透明中空繊維ユニットは紙からうまく剥がれず、むしろユニットそのものが壊れてしまう。したがって、偽造を目的とした透明中空繊維ユニットの再利用が困難である。
【0019】
前記の透明中空繊維は長さとして0.5mmから50mm程度のものが使用できる。0.5mmより短いと、オバートとして用いるのに、観察しにくく好ましくない。一方、50mmより長くなると、紙に抄き込むのがむずかしくなる。
また、前記透明中空繊維は外径として10μmから500μm程度のものが使用できる。10μmより小さいと、オバートとして用いるのに、観察しにくく好ましくない。一方、500μmより大きくなると、紙に抄き込むのがむずかしくなる。
さらに、前記透明中空繊維は内径として5μmから490μm程度のものが使用できる。5μmより小さいと、オバートとして用いるのに、観察しにくく好ましくない。一方、490μmより大きくなると、外径が500μmの場合でも、外径に対して繊維の肉厚が薄すぎて脆くなり、内包物質が漏れてしまう場合がある。
【0020】
前記透明中空繊維の外径と、本発明の偽造防止用紙の紙厚との差は、10μm以上であることが好ましい。この差が10μmより大きいと、偽造防止用紙の表面に透明中空繊維ユニットの部分だけ著しく凸部が形成されているため、印刷工程などの後工程で問題が生じてしまう場合がある。
【0021】
透明中空繊維に内包される表示材料および/または記録材料23としては、無機系粒子、有機ポリマー粒子、無機・有機複合粒子などが使用されるが、特に、これらに制限されるわけではない。無機系粒子としては、酸化チタン、水酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉などが挙げられる。有機ポリマー粒子としては、ウレタン系、ナイロン系、フッ素系、シリコーン系、メラミン系、フェノール系、スチレン系、スチレン−アクリル系、ウレタン−アクリル系などが挙げられる。また、スチレン−アクリル系から成る中空粒子も挙げられる。これらの粒子は顔料や染料により着色されたものであっても良い。また、球の半球が黒色、もう一方の半球が白色の二色粒子を用いても良い。
【0022】
前記表示材料および/または記録材料としては、磁界または電界によって、人が認識できる最小限の、ある変化が生じる材料であることが必要である。ある変化とは、白黒の変化、すなわちコントラストであったり、粒子が移動している様子が確認できる、といったものである。
【0023】
前記表示材料およびまたは/記録材料に印加する磁界の大きさとしては、0.8T(テスラ)以下、好ましくは0.5T以下である。0.8Tより大きい磁界は、あまりに磁界が強すぎて、他の電子機器などに悪影響を及ぼす場合がある。また、印加する電界の強さとしては、1000V以下、好ましくは600V以下である。1000Vより大きい電界を印加すると、偽造防止用紙そのものに悪影響を及ぼす場合がある。
【0024】
透明中空繊維に内包する固体の中でも、特に磁性粉は好適に用いられる。磁性粉は表示材料としてオバート機能を発現し、記録材料としてコバート機能を発現するからである。ここで言う磁性粉とは、磁性体単独、或いは2種以上の磁性体の混合、又は磁性体とポリマーからなる混合物などからなり、例えばマグネタイト、フェライトをはじめとする鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属、あるいはこれらの元素を含む合金、または化合物(例えば酸化物など)の微粒子が挙げられる。
【0025】
図2および図3では、これに限定されるものではないが、表示材料および/または記録材料23として黒色粒子が例示されている。例えば、黒色粒子が磁性粉である場合、磁性粉が表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁界、もしくは電界の印加によって磁性粉が移動するという独特の効果もある。一方、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。
【0026】
次に、本発明の偽造防止用紙11の用紙の原料となるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材パルプからなる植物繊維、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、ケナフ、カンナビスなどの非木材パルプからなる植物繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックから作られた合成繊維などが用いられる。
本発明に用いる用紙は、原料である前記のパルプ繊維を水中にて叩解し、抄いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は主成分であるセルロースの水酸基間の水素結合により繊維間強度が得られる。また、紙に用いる填料としてはクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどがあり、サイズ剤としてはロジン、アルキルケテンダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水こはく酸、ワックスなどがあり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミンなどがあり、これらの材料をそれぞれ抄紙時に加え、主として長網抄紙機で抄造する。
また、植物繊維以外の例えば合成繊維を混入した紙の場合は、合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とすることが多いので、合成繊維比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが望ましい。
【0027】
次に本発明の偽造防止用紙の製造法について説明する。
透明中空繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造のポリマー繊維を溶融紡糸法などにより製造し、該繊維を延伸して外径10〜500μm程度の繊維を得る。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、透明中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に透明中空繊維を製造することが可能になる。この際導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
次に、予め内包する物質を用意しておき、内包物質を前記透明中空繊維に含浸する。具体的には、透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、続いて、内包物質をチャンバー内に導入することにより、該内包物質で中空繊維を充満することができる。
あるいは、図4に示すような押出成型機を用いて、表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維ユニットを一時に作製することも可能である。図4で押出用ノズルは、ノズル部1およびノズル部2を有する。ノズル部1は、内包物質を押出す部分であり、ノズル部2は、透明中空繊維用材料を押出す部分である。このようなノズルを使用して、加熱しながら同時に押出し、延伸して所定の直径になるように延伸して繊維化する。
【0028】
内包した物質が漏れないように、あるいは異物が混入しないように、繊維末端を封止する必要がある。封止には、接着剤を用いる方法、加熱により透明中空繊維材料を溶解させる熱融着方法、レーザー光で透明中空繊維を断裁すると同時に封止も行う方法などがある。
接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系などの一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。また、UV硬化樹脂のような特殊な接着剤を用いてもよい。
加熱により中空繊維材料を溶解させる方法では、一般にカッターの刃に熱したヒートカッターが用いられる。
またレーザー光を用いる方法では、炭酸ガスレーザー(COレーザー)、イットリウム−アルミニウム−ガーネット結晶レーザー(YAGレーザー)、半導体レーザーなどが利用できる。
【0029】
前記透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常の植物繊維紙の製造に用いられる方法でよく、原料濃度を0.01〜5%、好ましくは0.02〜2%の水希薄原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーなどに流して並べて搾水後、加温により水分を蒸発させて作られる。
抄紙後は必要に応じて、クリヤ塗工、ラミネート処理、抄合せなどの処理を施してもよい。
【0030】
前記透明中空繊維ユニットを確実に抄き込むために、一度偽造防止用紙のシートを形成した後に、さらに別な紙を抄き合わせることもできる。この場合、乾燥工程まで終了したドライの偽造防止用紙の上に、前記植物繊維の水希薄原料を載せて、抄き合せをする方法、もしくは乾燥前のウェットの状態の偽造防止用紙のシート上に、さらに水希薄原料を載せて抄き合せをする多層抄きの方法などを用いることができる。製造コストの観点から、後者の多層抄きの方法を用いることが好ましい。
【0031】
多層抄きの方法については特に限定はされないが、例えば図5のような方法を用いることができる。図5は、円網ワイヤー51、傾斜ワイヤー52、透明中空繊維ユニット供給ボックス53、植物繊維の水希薄原料54、ウェットシートを誘導するためのカンバス55からなる。まず、円網ワイヤー51によって植物繊維の水希薄原料54のウェットシートが出来上がる。このウェットシートは、透明中空繊維ユニット供給ボックス53に達するまである程度脱水される。このウェットシートの上に、透明中空繊維ユニット供給ボックス53より透明中空繊維ユニット12がランダムにばら撒かれる。透明中空繊維ユニット12は、予め円網ワイヤー51内の水希薄原料54の中に混練されていても良く、この場合透明中空繊維ユニット供給ボックス53は必ずしも必要ではない。このようにして出来たウェットシートの上に、さらに傾斜ワイヤー52によってもう一層ウェットシートが載せられて、乾燥工程へ送られる。このような多層抄きは、各種特殊紙の製造方法として、一般的に行われている方法の一つである。
【0032】
本発明の偽造防止策が施された偽造防止用紙11への印刷は、従来の紙の場合と同じ設備と方法が使用可能である。すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【0033】
本発明の偽造防止用紙11の断裁加工は、内包物質を混入した透明中空繊維ユニットが抄き込まれているため、断裁前に断裁部分を熱融着加工し、内包物質が外に漏れないよう注意する必要がある。
【0034】
本発明の偽造防止用紙11は、専用機器を用いて真贋判定することもできる。すなわち、オバートとコバートを両立するものである。なお、ここで言う専用機器とは、磁気センサーや金属センサー、紫外線、赤外線鑑定機などを含むが、これらに限定されるものではない。
実施例
【0035】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお実施例中の「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【0036】
<内包物質Aの作製>
磁性粉(商標:BL−100、チタン工業製、平均粒子径0.4μm)20g、酸化チタン(商標:TITANIX JRNC、テイカ製、平均粒径0.3μm)5gを乳鉢で物理的に混合した。次に、容量200mlのビーカーに、蒸留水65g、スチルベンジスルホン酸系蛍光増白剤の水溶液(商標:Whitex BPS liquis conc、住友化学製)8g、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム(商標:SNディスパーサント5045、サンノプコ製)の10%水溶液2gを混合し、溶媒を調製した。混合した溶媒中に、スパチュラで攪拌しながら磁性粉と酸化チタンの混合物25g全量を添加し、さらに15分間超音波処理を行い内包物質Aを得た。
【0037】
<内包物質Bの作製>
磁性粉(商標:BL−100、チタン工業製、平均粒子径0.4μm)20g、酸化チタン(商標:TITANIX JRNC、テイカ製、平均粒径0.3μm)5gを乳鉢で物理的に混合した。次に、容量200mlのビーカーに、シリコーンオイル(商標:TSF−451−10、GE東芝シリコーン製)70.9g、ピレンメタノール(東京化成製試薬)0.1g、分散剤としてアミノ変性シリコーンオイル(商標:TSF4700、GE東芝シリコーン製)4gを混合し、溶媒を調製した。混合した溶媒中に、スパチュラで攪拌しながら磁性粉と酸化チタンの混合物25g全量を添加し、さらに15分間超音波処理を行い内包物質Bを得た。
【0038】
<内包物質Cの作製>
内包物質Aの作製において、スチルベンジスルホン酸系蛍光増白剤を全く用いず、さらに蒸留水を73gにした以外は、内包物質Aの作製と同様の方法で、内包物質Cを得た。
【実施例1】
【0039】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値=0.7のポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、内包物質Aをチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
【0040】
<透明中空繊維の両末端の封止>
前記分散液を内包する透明中空繊維を、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する透明中空繊維ユニットが形成できた。このとき透明中空繊維ユニットを曲げてみたが、透明中空繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0041】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に抄き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【実施例2】
【0042】
実施例1において、内包物質Aの代わりに、内包物質Bを用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【実施例3】
【0043】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値=0.7のポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、内包物質Aをチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
【0044】
<透明中空繊維の両末端の封止>
前記分散液を内包する透明中空繊維を、カット長が約20mmになるように切断した。切断後の末端にUV硬化型樹脂(商品名:NOA65、NORLAND PRODUCTS製)で接着した後、100Wの水銀ランプにて350nmの波長の光を5分間照射することにより末端を封止した。このとき透明中空繊維ユニットを曲げてみたが、透明中空繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0045】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に抄き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【実施例4】
【0046】
実施例1において、ポリエステル樹脂の代わりに、I/O値=1.7のナイロン樹脂を用いた以外は実施例1と同様に押し出し成型し、押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径120μm、内径80μmの透明中空繊維を得た。続いて、実施例1同様に、透明中空繊維内に内包物質Aを充填、両末端を封止した。さらに、実施例1と同様の紙料に、前記の透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し、90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に抄き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【実施例5】
【0047】
実施例4において、ナイロン樹脂の代わりに、I/O値=2.3のポリカーボネート樹脂を用いた以外は、実施例4と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【実施例6】
【0048】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値=0.7のポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、内包物質Aをチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
【0049】
<透明中空繊維の両末端の封止>
前記分散液を内包する透明中空繊維を、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する透明中空繊維ユニットが形成できた。このとき透明中空繊維ユニットを曲げてみたが、透明中空繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0050】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料を坪量40g/mとなるような所定の量とり、実験用手すきマシンに仕込み、脱水してシート化した。このシート化したものを脱水、乾燥を行う前に、前記透明中空繊維ユニットを紙表面上にばら撒いた。さらにこの上に、坪量40g/mとなるように所定量の紙料を上から添加し、脱水してシート化した。さらに、90℃の回転式ドライヤーで乾燥した。こうして、透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に抄き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は155μmであった。
【0051】
比較例1
実施例1において、内包物質Aの代わりに、内包物質Cを用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0052】
比較例2
用紙の原料として、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料を、実験用手すきマシンで坪量80g/m2の紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。用紙の紙厚は150μmであった。
【0053】
<磁界印加による磁性粉の動きの確認>
実施例、比較例によって作製した偽造防止紙に波長365nmのブラックライトを当てながら磁石を当てることによって、磁性粉の動きがはっきり確認できるかどうかを見た。

判定方法
はっきり確認できた場合 ○
確認しにくく実用上問題がある △
全く確認できなかった場合 ×
【0054】
<電界印加による磁性粉の動きの確認>
実施例、比較例によって作製した偽造防止紙を、300μmのセルギャップのITOガラス電極に挟み込み、直流電源装置(商標:ジェネレーター8026に商標:増幅器A800(いずれも東陽テクニカ製)を接続したもの)を接続した。波長365nmのブラックライトを当てながら、直流電源装置より電圧100Vの直流パルス(周波数は1Hz)をITOガラスに印加し、磁性粉の動きがはっきり確認できるかどうかを見た。

判定方法
はっきり確認できた場合 ○
確認しにくく実用上問題がある △
全く確認できなかった場合 ×
【0055】
<機械での真贋判定>
機械での真贋判定が可能かどうかを確認するために、図6のような装置を作製した。この装置は、磁性センサー61、波長365nmのブラックライト62、可視光センサー63、LEDランプ64、紙送りをするためのローラー65からなる。磁性センサー61は、透明中空繊維ユニット中の磁性粉を検知する。また、波長365nmのブラックライトを偽造防止用紙の背面から照射すると、透明中空繊維ユニット中の蛍光、またはりん光物質が発光する。発光した可視光を、可視光センサー63によって検知する。各センサーから信号を検知すると、LEDランプが光るようになっている。磁気センサー61、可視光センサー63、両方とも検知した場合に真と判定される。どちらか一方、もしくは両方とも検知されなかった場合は贋と判定される。

判定方法
両方のセンサーで検知 ○
磁性センサーのみ検知可能で、実用上問題がある △
両方とも検知しなかった場合×
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば前記実施例のように、ブラックライトを当てながら磁石を動かす、といった非常に簡単な方法によって、人間が容易に真贋判定することができる偽造防止用紙を提供することができる。また同時に、非常に簡単な真贋判定装置によって、機械による真贋判定も可能である。このように、本発明の偽造防止用紙は、最小限のコストで最大限の偽造防止効果が得られるものであり、産業上の利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の偽造防止用紙の概念図
【図2】本発明の透明中空繊維ユニットの概念図
【図3】本発明の透明中空繊維ユニットの断面図
【図4】本発明の押出し成型機の概念図
【図5】本発明の多層抄きの製造方法の一例
【図6】本発明の真贋判定機の概念図
【符号の説明】
【0059】
11:偽造防止用紙
12:透明中空繊維ユニット
21:溶媒
22:透明中空繊維
23:表示材料および/または記録材料
24:封止された両末端の概念図
51:円網ワイヤー
52:傾斜ワイヤー
53:透明中空繊維ユニット供給ボックス
54:植物繊維の水希薄原料
55:ウェットシートを誘導するためのカンバス
61:磁性センサー
62:波長365nmのブラックライト
63:可視光センサー
64:LEDランプ
65:紙送り用のローラー







【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示材料および/または記録材料が内包された透明中空繊維を混入した偽造防止用紙において、透明中空繊維に内包されている材料の中に、蛍光、またはりん光を発光する材料が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記蛍光を発光する材料が、スチルベンジスルホン酸系化合物、ピレンおよび/またはピレン誘導体、ペリレンおよび/またはペリレン誘導体、フルオレセイン系化合物から少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記透明中空繊維の両末端が熱融着、または接着加工などにより封止されていることを特徴とする請求項1または2に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記表示材料および/または記録材料が、磁界または電界の印加により移動する材料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記請求項1〜4までの偽造防止用紙に、さらに別の紙を抄合せたことを特徴とする偽造防止用紙。







































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−31573(P2008−31573A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204264(P2006−204264)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】