説明

傾斜角検出装置、傾斜角検出方法、および傾斜角検出プログラム

【課題】加速度センサのオフセットを高精度に算出することによって、傾斜角を高精度に検出する技術を提供する。
【解決手段】加速度センサ12は、加速度信号を取得し、速度センサ10は、速度信号を取得する。誤差設定部14は、加速度センサ12の観測誤差を設定する。ゲイン演算部24、状態変数更新部26は、加速度センサ12の観測誤差と、加速度信号と、速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両の傾斜角と加速度センサ12のオフセットとを更新する。ここで、誤差設定部14は、速度信号と、既に更新した車両の傾斜角とをもとに、加速度センサ12の観測誤差を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜角検出技術に関し、特に車両の傾斜角を検出する傾斜角検出装置、傾斜角検出方法、および傾斜角検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーナビゲーション装置は、絶対位置を得ることが可能なGPS(Global Positioning System)と、ジャイロや速度パルス等のセンサから計算される相対位置を得る自立航法を組合わせて、車両位置や進行方位を算出する。自立航法では、道路傾斜を含む車両の姿勢角が考慮されることによって、より高精度な位置を算出することが可能になる。車両の姿勢角を算出するために、これまでは、車両の前後方向加速度に対応した加速度信号と、車両の移動距離に対応した距離信号とをもとに、カルマンフィルタ処理がなされていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、加速度信号は、加速度センサから出力されており、加速度センサは、加速度がゼロの場合でもオフセットまたはバイアスと呼ばれる電圧を出力する。加速度センサにて検出される加速度の精度を向上させるためには、加速度センサのオフセットの導出精度の向上が要求される。加速度センサのオフセットは、例えば、加速度センサのオフセットを状態変数の要素のひとつとしてカルマンフィルタ処理がなされることによって、算出される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−75172号公報
【特許文献2】特開2000−346661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルマンフィルタ処理によって加速度センサのオフセットを直接算出するのではなく、複数の誤差を含むパラメータによって加速度センサのオフセットを間接的に算出する場合、加速度センサのオフセットの算出精度を向上させることが困難になる。また、加速度センサのオフセットが、カルマンフィルタ処理によって直接算出されていても、加速度センサのオフセットと直接関係しない速度のみを観測値としてカルマンフィルタ処理が実行されていれば、加速度センサのオフセットの算出精度を向上させることが困難になる。
【0006】
また、車両の加速と減速の発生確率が同一であり、上りと下りの発生確率も同一であると仮定する場合、加速度センサの出力が十分長い期間で平均されれば、平均値は加速度センサのオフセットに近くなると考えられる。このように、加速度センサの出力は、加速度センサのオフセットに関連するので、加速度センサの出力を観測値のひとつとしてカルマンフィルタ処理を実行することが可能である。しかしながら、車両が停止する場合や、車両が低速で上りまたは下りが連続する傾斜路を走行する場合、加速度センサの出力に重力成分が連続して重畳される。その結果、真の加速度センサのオフセットに対して局所的に偏りが生じてしまう。そのため、加速度センサのオフセットを高精度に算出することが困難であったり、走行条件によって局所的に加速度センサのオフセットに偏りが生じていたりした。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、加速度センサのオフセットを高精度に算出することによって、傾斜角を高精度に検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の傾斜角検出装置は、車両に搭載された加速度センサから、車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得する第1取得部と、車両に搭載された速度センサから、車両の移動速度に対応した速度信号を取得する第2取得部と、加速度センサの観測誤差を設定する設定部と、設定部において設定した加速度センサの観測誤差と、第1取得部において取得した加速度信号と、第2取得部において取得した速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両の傾斜角と加速度センサのオフセットとを更新する更新部とを備える。設定部は、第2取得部において取得した速度信号と、更新部において既に更新した車両の傾斜角とをもとに、加速度センサの観測誤差を設定する。
【0009】
この態様によると、速度信号と傾斜角とをもとに観測誤差を設定し、観測誤差をもとに傾斜角とオフセットとを更新するので、速度信号と傾斜角とを反映させた傾斜角とオフセットとを検出できる。
【0010】
設定部は、第2取得部において取得した速度信号が大きくなると小さくなり、かつ更新部において既に更新した車両の傾斜角が大きくなると大きくなるように加速度センサの観測誤差を設定してもよい。この場合、車両が低速で上りまたは下りが連続する傾斜路を走行するときに、加速度センサに重力成分が連続して重畳され、真のオフセットに対して偏りが生ずることによる傾斜角の検出精度の悪化を抑制できる。
【0011】
設定部は、第2取得部において取得した速度信号と所定の定数との加算値の逆数に比例し、かつ更新部において既に更新した車両の傾斜角に比例するように加速度センサの観測誤差を設定してもよい。この場合、速度信号に所定の定数を加算するので、速度信号がゼロになってもゼロによる除算の発生を防止できる。
【0012】
第2取得部において取得した速度信号としきい値とを比較する比較部をさらに備えてもよい。更新部は、比較部における比較の結果、第2取得部において取得した速度信号がしきい値よりも小さい場合、加速度センサに対するカルマンゲインを導出する代わりに、第1取得部において取得した加速度信号に対するカルマンゲインを所定の値に設定してもよい。この場合、速度信号が小さければ、加速度信号に対するカルマンゲインを所定の値に設定するので、精度の悪化を抑制しながら、処理量を低減できる。
【0013】
本発明の別の態様もまた、傾斜角検出装置である。この装置は、車両に搭載された加速度センサから、車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得する第1取得部と、車両に搭載された速度センサから、車両の移動速度に対応した速度信号を取得する第2取得部と、第2取得部において取得した速度信号が大きくなると、小さくなるように加速度センサの観測誤差を設定する設定部と、設定部において設定した加速度センサの観測誤差と、第1取得部において取得した加速度信号と、第2取得部において取得した速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両の傾斜角と加速度センサのオフセットとを更新する更新部と、を備える。
【0014】
この態様によると、速度信号に応じて観測誤差を設定するので、速度信号を反映させた傾斜角とオフセットとを検出できる。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、傾斜角検出方法である。この方法は、車両に搭載された加速度センサから、車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得するステップと、車両に搭載された速度センサから、車両の移動速度に対応した速度信号を取得するステップと、加速度センサの観測誤差を設定するステップと、加速度センサの観測誤差と、加速度信号と、速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両の傾斜角と加速度センサのオフセットとを更新するステップとを備える。設定するステップは、速度信号と、既に更新した車両の傾斜角とをもとに、加速度センサの観測誤差を設定する。
【0016】
本発明のさらに別の態様もまた、傾斜角検出方法である。この方法は、車両に搭載された加速度センサから、車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得するステップと、車両に搭載された速度センサから、車両の移動速度に対応した速度信号を取得するステップと、速度信号が大きくなると、小さくなるように加速度センサの観測誤差を設定するステップと、加速度センサの観測誤差と、加速度信号と、速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両の傾斜角と加速度センサのオフセットとを更新するステップと、を備える。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加速度センサのオフセットを高精度に算出することによって、傾斜角を高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1に係る傾斜角検出装置の構成を示す図である。
【図2】図1の傾斜角検出装置が搭載された車両の動作状態を示す図である。
【図3】図1の傾斜角検出装置における推定手順を示すフローチャートである。
【図4】図1の傾斜角検出装置におけるカルマンフィルタ処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例2に係る傾斜角検出装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例1)
本発明を具体的に説明する前に、まず概要を述べる。本発明の実施例1は、カーナビゲーション装置での自立航法において、車両の傾斜角を検出する傾斜角検出装置に関する。実施例1に係る傾斜角検出装置は、加速度センサのオフセットを高精度に検出して、傾斜角も高精度に検出するために、次の処理を実行する。傾斜角検出装置は、加速度センサからの加速度信号を取得し、速度センサからも速度信号を取得する。傾斜角検出装置は、速度信号、加速度信号、観測誤差をもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両の傾斜角および加速度センサのオフセットを算出する。
【0021】
ここで、傾斜角検出装置は、速度信号が大きくなると小さくなり、かつ過去に算出した傾斜角が大きくなると大きくなるように観測誤差を設定し、カルマンフィルタ処理に使用する。また、新たに算出された傾斜角によって、観測誤差が更新される。このように観測誤差を設定することによって、車両が低速で上りまたは下りが連続する傾斜路を走行するときに、加速度センサに重力成分が連続して重畳され真のオフセットに対して偏りが生ずることによる傾斜角の精度の悪化が抑制される。
【0022】
図1は、本発明の実施例1に係る傾斜角検出装置100の構成を示す。傾斜角検出装置100は、速度センサ10、加速度センサ12、誤差設定部14、状態推定部16を含む。状態推定部16は、推定値演算部20、観測残差演算部22、ゲイン演算部24、状態変数更新部26、状態変数記憶部28を含む。傾斜角検出装置100は、図示しない車両に搭載される。
【0023】
速度センサ10は、車両の移動速度に対応した速度信号を取得する。速度センサ10は、ドライブシャフトの回転に対応して回転するスピードメータケーブルの中間に設置され、ドライブシャフトの回転に伴った速度パルス信号を検出した後、車速パルスの単位時間あたりのパルス数を計測することにより速度信号を取得する。ここで、車速パルス信号は、所定の距離ごとに発生させたパルスに相当する。なお、速度センサ10は、GPSから速度信号を直接取得してもよい。速度センサは100は、車両の速度信号を出力する。
【0024】
加速度センサ12は、車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得する。ここでは、加速度信号を説明するために図2を使用する。図2は、傾斜角検出装置100が搭載された車両の動作状態を示す。車両50は、図示しない傾斜角検出装置100を搭載する。また、車両50は、道路面54上を移動する。ここで、車両50に搭載された加速度センサ12(図示せず)の感応軸56は、道路面54に平行であり、かつ車両50の前後方向と一致するものとする。また、感応軸56および道路面54は、水平面52に対して傾斜角θだけ傾いている。加速度信号においては、車両50の移動加速度と、感応軸56が水平面52となす傾斜角θに応じた重力成分とが重畳されている。図1に戻る。加速度センサ12は、加速度信号を出力する。
【0025】
推定値演算部20は、加速度センサ12からの加速度信号aOUTを入力する。なお、タイミングnでの加速度信号は、aOUTnと示されるものとする。ここでは、タイミングnでの状態変数xを定義する。状態変数xは、式(1)のように、速度v、傾斜角θ、加速度のオフセットaOFSnの3要素を含む。
【数1】

ここで、上付きの添え字Tは、ベクトルまたは行列の転置を示す。前述のごとく、下付きの添え字nはタイミングnを示す。
【0026】
推定値演算部20は、入力uと、1回前の状態変数、つまりタイミングn−1での状態変数xn−1とをもとに、式(2)に示された状態方程式を計算することによって、タイミングnでの推定値x’を演算する。なお、状態変数xn−1は、状態変数記憶部28から入力される。
【数2】

ここで、入力uは、加速度信号aOUTnである。
【数3】

また、式(2)におけるシステム行列Aと入力行列Bとは、式(4)および式(5)のように示される。
【数4】

【数5】

ここで、gは重力加速度、kは加速度信号から加速度単位(例えばm/s)への変換係数、ΔTはサンプリング間隔を示す。
【0027】
観測残差演算部22は、速度センサ10から速度信号を入力し、加速度センサ12から加速度信号を入力し、推定値演算部20から推定値x’を入力する。観測残差演算部22は、速度信号v、加速度信号aOUTnとを構成要素として、観測値zを規定する。観測残差演算部22は、式(6)のごとく、推定値x’から抜き出された状態変数の速度と加速度のオフセットとに対して、観測値zとの観測残差yを導出する。
【数6】

ここで、出力行列Cは式(7)のように示される。
【数7】

【0028】
誤差設定部14は、速度センサ10から速度信号を入力し、状態変数更新部26から車両50の傾斜角の推定値(以下、「傾斜角」という)を入力する。詳細は後述するが、傾斜角は、状態変数更新部26において逐次更新されており、誤差設定部14には、前回の傾斜角、つまりタイミングn−1での傾斜角θn−1が入力される。誤差設定部14は、速度信号と前回の傾斜角とをもとに、タイミングnにおける加速度センサ12の観測誤差δaを設定する。ここで、誤差設定部14は、速度信号が大きくなると小さくなり、かつ前回の傾斜角が大きくなると大きくなるように、加速度センサ12の観測誤差を設定する。
【0029】
具体的に説明すると、誤差設定部14は、式(8)のごとく、速度信号vと所定の定数βとの加算値の逆数に比例し、かつ前回の傾斜角θn−1に比例するように加速度センサ12の観測誤差δaを設定する。
【数8】

ここで、αは定数である。所定の定数βは、速度信号vがゼロの場合に、加速度センサ12の観測誤差δaが無限大になることを防ぐために設けられている。また、誤差設定部14は、速度センサ10の観測誤差δvを一定の値として設定する。誤差設定部14は、加速度センサ12の観測誤差δaと速度センサ10の観測誤差δvとを出力する。
【0030】
ゲイン演算部24は、加速度センサ12の観測誤差δaと速度センサ10の観測誤差δvとを入力し、これらの観測誤差が標準偏差を表すものとして、共分散行列Rを式(9)のように導出する。
【数9】

ゲイン演算部24は、共分散行列Rとシステム誤差とをもとに、カルマンフィルタのゲインKを演算する。ここで、共分散行列R等からカルマンフィルタのゲインの導出には、公知の技術が使用されればよい。
【0031】
公知の技術は、例えば、MOHINDER S. GREWAL、ANGUS P. ANDREWS著「Kalman Filtering:Theory and Practice Using MATLAB」、A Wiley−Interscience Publicationの116頁から120頁に示されている。ゲイン演算部24は、式(10)のごとく、6つの構成要素によって形成されるゲインを導出する。
【数10】

【0032】
状態変数更新部26は、観測残差演算部22から観測残差yを入力し、推定値演算部20から推定値x’を入力し、ゲイン演算部24からゲインKを入力する。状態変数更新部26は、推定値x’、ゲインKと観測残差yをもとに、式(11)を演算することによって、状態変数xを更新する。
【数11】

【0033】
ゲインKが小さければ、推定値x’の重みが大きく、ゲインKが大きければ、観測残差yの重みが大きい。なお、式(11)は、x’+Kを新たにxに代入することを表している。以上の処理は、加速度センサ12の観測誤差と、加速度信号と、速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、車両50の傾斜角と加速度センサ12のオフセットとを更新することといえる。状態変数更新部26は、更新した状態変数x、特に傾斜角θを出力するとともに、更新した状態変数xを誤差設定部14、状態変数記憶部28へ帰還させる。
【0034】
状態変数記憶部28は、状態変数更新部26から状態変数xを入力し、状態変数xを記憶する。状態変数記憶部28は、状態変数xを推定値演算部20へ出力する。また、状態変数更新部26によって更新された傾斜角は、例えばジャイロの感度(電圧−角速度変換係数)の補正に使用されており、これによって、傾斜した道路での旋回角度を高精度に導出することが可能になる。
【0035】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0036】
以上の構成による傾斜角検出装置100の動作を説明する。図3は、傾斜角検出装置100における推定手順を示すフローチャートである。傾斜角検出装置100は、速度センサ10から速度信号を取得し(S10)、加速度センサ12から加速度信号を取得する(S12)。傾斜角検出装置100は、カルマンフィルタ処理を実行し(S14)、傾斜角を出力する(S16)。処理が継続されるのであれば(S18のY)、ステップ10に戻る。処理が継続されないのであれば(S18のN)、処理は終了される。
【0037】
図4は、傾斜角検出装置100におけるカルマンフィルタ処理手順を示すフローチャートである。これは、図3のステップ14に相当する。推定値演算部20は、前回の状態変数を取得し(S30)、推定値を導出する(S32)。観測残差演算部22は、観測残差を導出する(S34)。誤差設定部14は、観測誤差を設定し(S36)、ゲイン演算部24は、ゲインを演算する(S38)。状態変数更新部26は、状態変数を更新する(S40)。状態変数記憶部28は、更新された状態変数を記憶する(S42)。
【0038】
本発明の実施例によれば、速度信号と傾斜角とをもとに観測誤差を設定し、観測誤差をもとに傾斜角とオフセットとを更新するので、速度信号と傾斜角とを反映させた傾斜角とオフセットとを検出できる。また、傾斜角に比例し、かつ速度信号に反比例するように観測誤差を設定するので、車両が低速で上りまたは下りが連続する傾斜路を走行し、加速度センサに重力成分が連続して重畳され真のオフセットに対して偏りが生じても、傾斜角の検出精度の悪化を抑制できる。また、所定の条件下における傾斜角の精度の悪化を抑制するので、傾斜角の検出精度を向上できる。また、速度信号に所定の定数を加算するので、速度信号がゼロになってもゼロによる除算の発生を防止できる。
【0039】
(実施例2)
本発明の実施例2は、実施例1と同様に、傾斜角を検出するための傾斜角検出装置に関する。実施例1における傾斜角検出装置は、速度信号の値にかかわらず、カルマンフィルタのゲインを導出し、カルマンフィルタ処理を実行する。速度信号の値が小さい場合、一部のゲインはある程度小さな値になる。そのようなゲインの値が小さければ、ゲインの乗算結果も小さくなるので、ゲインの精度があまり重要ではなくなる。実施例2は、このような状況下において、処理量を低減することを目的とする。
【0040】
図5は、本発明の実施例2に係る傾斜角検出装置100の構成を示す。図5に示された傾斜角検出装置100は、図1に示された傾斜角検出装置100に判定部30が追加される。ここでは、図1との差異を中心に説明する。判定部30は、速度センサ10から速度信号を入力する。判定部30は、予めしきい値を記憶しており、速度信号としきい値とを比較する。しきい値は、例えば、時速5kmのごとく、ある程度低い速度に対応するように規定されている。判定部30は、比較結果をゲイン演算部24へ出力する。
【0041】
ゲイン演算部24は、判定部30から比較結果を入力する。比較結果において、速度信号がしきい値以上であれば、ゲイン演算部24は、実施例1と同様にゲインを導出する。一方、比較結果において、速度信号がしきい値よりも小さい場合、ゲイン演算部24は、加速度信号に対するゲインを導出する代わりに、加速度信号に対するゲインを所定の固定値に設定する。加速度信号に対するゲインは、式(10)におけるゲインK32に相当する。ゲイン演算部24は、ゲインK32をゼロまたは小さな値に設定する。
【0042】
本発明の実施例によれば、速度信号が小さければ、加速度信号に対するゲインを所定の値に設定するので、処理量を低減できる。また、速度信号が小さければ、加速度信号に対するゲインがゼロに近くなるべきなので、所定の値にゲインを設定しても、傾斜角の検出精度の悪化を抑制できる。
【0043】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0044】
本発明の実施例1および2において、誤差設定部14は、速度信号と傾斜角とをもとに、加速度センサ12の観測誤差を設定している。しかしながらこれに限らず例えば、誤差設定部14は、速度信号が大きくなると、小さくなるように加速度センサ12の観測誤差を設定してもよい。具体的に説明すると、観測誤差は、速度信号vと所定の定数βとの加算値の逆数に比例するように設定される。本変形例によれば、速度信号に応じて観測誤差を設定するので、速度信号を反映させた傾斜角とオフセットとを検出できる。
【符号の説明】
【0045】
10 速度センサ、 12 加速度センサ、 14 誤差設定部、 16 状態推定部、 20 推定値演算部、 22 観測残差演算部、 24 ゲイン演算部、 26 状態変数更新部、 28 状態変数記憶部、 30 判定部、 100 傾斜角検出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された加速度センサから、前記車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得する第1取得部と、
前記車両に搭載された速度センサから、前記車両の移動速度に対応した速度信号を取得する第2取得部と、
前記加速度センサの観測誤差を設定する設定部と、
前記設定部において設定した前記加速度センサの観測誤差と、前記第1取得部において取得した加速度信号と、前記第2取得部において取得した速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、前記車両の傾斜角と前記加速度センサのオフセットとを更新する更新部とを備え、
前記設定部は、前記第2取得部において取得した速度信号と、前記更新部において既に更新した前記車両の傾斜角とをもとに、前記加速度センサの観測誤差を設定することを特徴とする傾斜角検出装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記第2取得部において取得した速度信号が大きくなると小さくなり、かつ前記更新部において既に更新した前記車両の傾斜角が大きくなると大きくなるように前記加速度センサの観測誤差を設定することを特徴とする請求項1に記載の傾斜角検出装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記第2取得部において取得した速度信号と所定の定数との加算値の逆数に比例し、かつ前記更新部において既に更新した前記車両の傾斜角に比例するように前記加速度センサの観測誤差を設定することを特徴とする請求項2に記載の傾斜角検出装置。
【請求項4】
前記第2取得部において取得した速度信号としきい値とを比較する比較部をさらに備え、
前記更新部は、前記比較部における比較の結果、前記第2取得部において取得した速度信号がしきい値よりも小さい場合、前記加速度センサに対するカルマンゲインを導出する代わりに、前記第1取得部において取得した加速度信号に対するカルマンゲインを所定の値に設定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の傾斜角検出装置。
【請求項5】
車両に搭載された加速度センサから、前記車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得する第1取得部と、
前記車両に搭載された速度センサから、前記車両の移動速度に対応した速度信号を取得する第2取得部と、
前記第2取得部において取得した速度信号が大きくなると、小さくなるように前記加速度センサの観測誤差を設定する設定部と、
前記設定部において設定した前記加速度センサの観測誤差と、前記第1取得部において取得した加速度信号と、前記第2取得部において取得した速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、前記車両の傾斜角と前記加速度センサのオフセットとを更新する更新部と、
を備えることを特徴とする傾斜角検出装置。
【請求項6】
車両に搭載された加速度センサから、前記車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得するステップと、
前記車両に搭載された速度センサから、前記車両の移動速度に対応した速度信号を取得するステップと、
前記加速度センサの観測誤差を設定するステップと、
前記加速度センサの観測誤差と、前記加速度信号と、前記速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、前記車両の傾斜角と前記加速度センサのオフセットとを更新するステップとを備え、
前記設定するステップは、前記速度信号と、既に更新した前記車両の傾斜角とをもとに、前記加速度センサの観測誤差を設定することを特徴とする傾斜角検出方法。
【請求項7】
車両に搭載された加速度センサから、前記車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得するステップと、
前記車両に搭載された速度センサから、前記車両の移動速度に対応した速度信号を取得するステップと、
前記速度信号が大きくなると、小さくなるように前記加速度センサの観測誤差を設定するステップと、
前記加速度センサの観測誤差と、前記加速度信号と、前記速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、前記車両の傾斜角と前記加速度センサのオフセットとを更新するステップと、
を備えることを特徴とする傾斜角検出方法。
【請求項8】
車両に搭載された加速度センサから、前記車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得するステップと、
前記車両に搭載された速度センサから、前記車両の移動速度に対応した速度信号を取得するステップと、
前記加速度センサの観測誤差を設定するステップと、
前記加速度センサの観測誤差と、前記加速度信号と、前記速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、前記車両の傾斜角と前記加速度センサのオフセットとを更新するステップとをコンピュータに実行させ、
前記設定するステップは、前記速度信号と、既に更新した前記車両の傾斜角とをもとに、前記加速度センサの観測誤差を設定することを特徴とする傾斜角検出プログラム。
【請求項9】
車両に搭載された加速度センサから、前記車両の前後方向の加速度に対応した加速度信号を取得するステップと、
前記車両に搭載された速度センサから、前記車両の移動速度に対応した速度信号を取得するステップと、
前記速度信号が大きくなると、小さくなるように前記加速度センサの観測誤差を設定するステップと、
前記加速度センサの観測誤差と、前記加速度信号と、前記速度信号とをもとにカルマンフィルタ処理を実行することによって、前記車両の傾斜角と前記加速度センサのオフセットとを更新するステップと、
をコンピュータに実行させるための傾斜角検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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