説明

優れた性能用の変化する機械的特性を持つコイル管とその連続熱処理製法

【課題】長さに沿って改良され、変化する特性を有するコイル管を提供する。
【解決手段】連続動的熱処理過程(CDHT)を使うことにより生産され、長さに沿って改良され、変化する特性を有するコイル管。コイル管はスプールからほどかれ、連続動的熱処理過程に供され、そしてスプール上に捲かれる。連続動的熱処理過程は“複合”管を、該管の長さに沿った該管の特性が選択的に変えられるよう、作ることが出来る。例えば、該管の特性は、該管が使用される特定応用のために該管の長さに沿って選択的に誂えられることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は全体が引用によりここに組み入れられる2011年1月25日出願の米国特許仮出願第61/436,156号の特典を請求するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施例はコイル管とコイル管の熱処理方法に向けられている。実施例は又該コイル管の長さに沿って特性が誂えられる又は変化するコイル管に関する。
【背景技術】
【0003】
コイル管はスプール上に捲かれた長尺管であり、該長尺管は後に油井筒内に於ける様にサービスに入る時ほどかれる。コイル管はステンレス鋼又は炭素鋼の様な種々の鋼で作られてもよい。例えば、コイル管は約25.4mm(約1インチ)と約127mm(約5インチ)の間の外径と、約2.032mm(約0.080インチ)と約7.620mm(約0.300インチ)の間の壁厚さと、そして約15,240m(約50,000フィート)までの長さを有してもよい。例えば、典型的長さは約4,572m(約15,000フィート)であるが、長さは約3,048m(約10,000フィート)と約12,192m(約40,000フィート)の間であってもよい。
【0004】
コイル管は、製管圧延機の成形及び溶接ライン{例えば、電気抵抗溶接(ERW)、レーザー、その他}内に供給される長尺の平板金属を作るために平板金属ストリップを接合して作られるが、該ラインでは該平板金属ストリップは長尺管を作るために該ストリップの長さに沿って溶接され、該長尺管は該管が該溶接ラインを出た後スプール上に捲かれる。或る場合は、一緒に接合される該金属ストリップは異なる厚さを有し、この条件で作られたコイル管は“テーパ付きコイル管”と呼ばれ、この長尺管は最終管の変化する壁厚さのために変化する内径を有する。
【0005】
コイル管を作るもう1つの代替えは最終外径と異なる外径の管の連続熱間圧延を含む(例えば、特許文献2はコイル管ストリング製法であるが、該ストリング長さの或る部分に亘り連続的に又は略連続的に外径が変わる該コイル管ストリング製法を説明しており、特許文献3は製管圧延機を出る管が鍛造過程内に導入され、該過程がコイル管の故意に過大化された外径を該過程内で公称外径又は目標外径に実質的に縮小する方法を説明しており、そして特許文献4は鋼管縮小装置の例を説明しており、この様な管を説明するこれらの特許の各々の全体は引用によりここに組み入れられる)。
【0006】
上記説明のこれらの方法は、該管が同じ過程を連続して通過する同じ材料で作られるので、一定特性を有するコイル管を作る。従って、作られる管の最終設計(例えば、寸法及び特性)はサービス時の全ての管の所要事項の間の妥協となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許仮出願第61/436,156号明細書、2011年1月25日出願
【特許文献2】米国特許第6,527,056B2号明細書
【特許文献3】国際公開第WO2006/078768号パンフレット
【特許文献4】欧州特許第EP0788850号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】International standard NACE MR0175/ISO 15156“Petroleum and natural gas industries − Material for use in H2S containing environment in oil and gas production”in Appendix A(A.2.2.3 for Casing and Tubing)
【非特許文献2】Materials Science and Metallurgy、by H.Pollack、4th edition、1988,Prentice Hall、page 96,Table 3
【非特許文献3】Hollomon et al.、“Time−temperature Relations in Tempering Steel、”Transactions of the American Institute of Mining、1945,pages 223−249
【非特許文献4】International standard NACE TM0177
【発明の概要】
【0009】
長さに沿って改良され、変化する特性を有するコイル管がここで説明される。或る実施例では、該コイル管は連続動的熱処理過程(CDHT)を使って作られてもよい。該最終新製品は、特性が一定でなく、独特で最適な特性を有する複合コイル管(例えば、輸送用にスプール上に捲かれ、使用のためほどかれる長尺管)を発生する意味で“複合”管である。長尺複合コイル管の製作は、新しい材料の顕微鏡組織を発生するために、予め製作したこの様な製品のスプールを連続動的熱処理ライン内に導入することにより行われる。該熱処理が連続的であるのは、該管が続く加熱及び冷却過程を通過するからであり、該処理が動的であるのは、該処理が該コイル管の異なる部分に絶えず変化する熱処理を与えるよう修正されるからである。
【0010】
長尺コイル管は短い長さの平板金属ストリップで作られるが、該ストリップは端と端を接合され、管型に成形されそしてシーム溶接され、ここで説明された過程用のスタート用コイル管となる。該スタート用コイル管はその後、連続動的熱処理過程内に導入される。該連続動的熱処理過程は該顕微鏡組織を修正し、それにより特性を改善し、管自体と、縦溶接部と、そして該平板金属ストリップを接合するため作られた溶接部と、の間の異質な特性を最小化する。
【0011】
該熱処理変数は、該コイル管の長さに沿って異なる機械的特性、対腐食耐久性及び/又は顕微鏡組織を発生するために連続的に修正されてもよい。最終複合コイル管は、より深い深さでの動作を可能にするよう特性又は選択された特性の局所的向上と、挫屈を最小化するための硬さの局所的増加と、高濃度の腐食性環境への露出が予想される領域での局所的に向上した対腐食耐久性と、或いは特定の位置での特性の変化を有する何等かの誂え設計と、を有してもよい。
【0012】
この特性の変種はテーパの最小化又は減少、疲労寿命の改善、より長い距離での一定内径の保持、不必要なストリップ対ストリップ溶接の最小化、重量減少、とりわけ検査能力、管容積及び管容量の改善、に帰着する。特に、テーパ付き管よりも少ない管の平均壁厚さを有することにより重量が減少するが、それはテーパ付き管が、油井の頂部の管部分の様な、或る領域で増加した壁厚さを有するからである。テーパ付き管の外径(OD)は典型的に一定に留まるが、一方該管の内径(ID)は該壁厚さを変えるために変えられる。例えば、管の或る部分の壁厚さの増加は該管の部分の内径を減少させる。従って、テーパ無し管は、該管全体を通して実質的に同じの内径を有することが出来る。実質的に一定の
内径を有することにより、管の長さ全体に沿って内径が検査されてもよい。例えば、該内径を検査するために、ドリフトボール(drift ball)が使われてもよい。しかしながら、ドリフトボールはテーパ付き管では最小内径を検査するために使われるのみである。加えて、テーパ付き管を通る流体流量(例えば、容量)は、該管の最小内径に限定される。従って、壁厚さを増加することにより管の或る部分の内径を減少させないことにより、該管の容積及び容量は増加される。
【0013】
或る実施例では、管を処理する方法が提供される。該方法は、管のスプールを提供する過程と、該スプールから該管をほどく過程と、該ほどかれた管の長さに沿い変化する特性を提供するために該ほどかれた管を熱処理する過程と、そして熱処理後該管を捲く過程と、を具備する。該変化する特性は機械的特性を含んでもよい。該ほどかれた管の長さに沿い変化する特性を提供するために、該ほどかれた管の熱処理時に、温度、均熱化時間、加熱速度そして冷却速度の少なくとも1つが変えられてもよい。或る実施例では、該管は2つ以上の熱処理(例えば、2重の焼き入れ及び焼き戻し過程)で熱処理される。該管は該管全体を通して実質的に一定の壁厚さを有してもよい。該管は、特定の応用のために充分な特性を保持するように、変化した特性を有しない従来の管に比較して、管長さに沿って変化した特性の結果として、壁厚さの少ない変化しか有しなくてよい。
【0014】
或る実施例では、コイル管が提供される。該コイル管は、第1セットの特性を有する第1の実質的管部分と、第2セットの特性を有する第2の実質的管部分とを、該第1セットの特性の少なくとも1特性が該第2セットの特性の少なくとも1特性とは異なるように、有する。例えば、該第1セットの特性の少なくとも1特性と、第2セットの特性の少なくとも1特性と、の間の差は、実質的に同様な熱処理を有する実質的に同様な鋼組成の結果として、少なくとも1特性の一般的変動よりも大きい。該第1及び第2セットの特性の少なくとも1特性は降伏強さ、引っ張り強さ、疲労寿命、対腐食耐久性、粒度、又は硬さを含んでもよい。例えば、該管の第1の実質的部分は第1の降伏強さを有し、該管の第2の実質的部分は該第1降伏強さと異なる(例えば、より小さい又はより大きい)第2降伏強さを有してもよい。
【0015】
該管は、特定応用のための充分な特性を保持するために、変化した特性を有しない従来の管と比較して、管の長さに沿う変化した特性の結果として、壁厚さの少ない変化しか有しない。該管は該管全体を通して実質的に一定の壁厚さを有する。更に、該管は該管全体を通して実質的に均一な組成を有してもよい。該管は一緒に溶接された複数の管部分を有し、該複数の管部分の1つの管部分の少なくとも1部は該第1の実質的部分を有し、同じ該管部分の少なくとももう1部は第2の実質的部分を有してもよい。
【0016】
或る実施例では、油井で使われるコイル管が提供される。該コイル管は該管の全長に沿い実質的に均一な組成を有する鋼材を備える長尺管を具備する。該管は該油井の頂部に位置付けられるよう構成された少なくとも第1部分と、該第1部分に対して該油井の底部に方へ位置付けられるよう構成された少なくとも第2部分と、を有する。該管の該第1部分は第1の降伏強さを有し、該管の該第2部分は第2の降伏強さを有し、該第1降伏強さは該第2降伏強さとは異なっても(例えば、より強い又はより弱い)よい。或る実施例では、該第1部分は約689.48MPa(100ksi又は約100ksi)より大きい降伏強さを有し、該第2部分は約620.53MPa(90ksi又は約90ksi)より小さい降伏強さを有する。更に進んだ実施例では、該管は更に該第1及び第2降伏強さの間の第3降伏強さを有す第3の管部分を備え、該第3部分は該第1及び第2部分の間に配置される。しかしながら、該連続動的熱処理過程はどんな長さの管用にも多数の特性{例えば降伏強さ(YS)}の組み合わせの生産を可能にする。
【0017】
該管は約3,048mと約12,192mの間(10,000フィートと40,000
フィートの間又は約10,000フィートと約40,000フィートの間)の長さを有してもよい。該管の第1部分は約304.8m(1,000フィート又は約1,000フィート)と約1,219.2m(4,000フィート又は約4,000フィート)の間の長さを有してもよい。更に、該管は一緒に溶接された複数の管部分を有してもよく、該管部分の各々は少なくとも約457.2m(1,500フィート又は約1,500フィート)の長さを有してもよい。各管部分の長さは該管を形成する斜め溶接部間の間隔に関係する。該管部分は管に形成された後一緒に溶接されてもよく、或いは平板ストリップとして一緒に溶接され、次いで管に形成されてもよい。該管は実質的に一定の壁厚さを有する。例えば、第1部分は第1壁厚さを有し、第2部分は該第1壁厚さと実質的に同じであってもよい第2壁厚さを有する。該第1部分は第1内径を有し、第2部分は該第1内径と実質的に同じ第2内径を有する。
【0018】
或る実施例では、該管は約25.4mmと約127mmの間{1インチと5インチの間(或いは約1インチと約5インチの間)}の外径を有する。該管は約2.032mmと約7.620mmの間{0.080インチと0.300インチの間(或いは約0.080インチと約0.300インチの間)}の壁厚さを有してもよい。更に進んだ実施例では、該管は該管の全長に沿って実質的に一定の壁厚さを有する。該管は該管の全長に沿って実質的に一定の内径を有してもよい。該管は或る実施例ではテーパを有さず、一方他の実施例では、該管は少なくとも1つのテーパを有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】スプール上の例示コイル管を図解する。
【図2】管を捲くよう及びスプールから管をほどくよう構成された例示リグを図解する。
【図3】連続ダイナミック熱処理過程の例を図解する。
【図4】連続ダイナミック熱処理過程の使用法の実施例の流れ線図である。
【図5】それぞれ40℃/s及び1℃/sでの加熱及び冷却を伴う焼戻しサイクル用の最高温度の関数としてのロックウェルC硬さ(HRC)のプロットである。
【図6】テーパなし約758.42MPa(110ksi)管、4つのテーパ付き約620.53MPa(90ksi)管及び約6つのテーパ付き551.58MPa(80ksi)管について油井面0m(0フィート)から油井底部、約6,858m(22,500フィート)までの深さの関数としてコイル管用に求められる機械的特性の例のプロットであり、又鎖線はテーパなし複合管の実施例についての機械的特性を示す。
【詳細な説明】
【0020】
コイル管であるが、該コイル管の長さに沿って変化する特性を有する該コイル管と、その製法と、がここで説明される。或る実施例では、該コイル管の長さに沿って変化する特性を有するコイル管を作るために連続動的熱処理過程が使われる。該熱処理が連続的であるのは、該管が続く加熱及び冷却過程を通過するからであり、該熱処理がダイナミックであるのは、該処理が該コイル管の種々の部分に絶えず変化する熱処理を与えるよう修正されるからである。
【0021】
該熱処理の変数は、該コイル管の長さに沿って異なる機械的特性を発生させるよう連続的に修正されてもよい。最終複合コイル管は第1セットの特性を有する該管の少なくとも第1部分と第2セットの特性を有する該管の少なくとも第2部分とを、該第1セットの特性の少なくとも1特性が該第2セットの特性の少なくとも1特性と異なるように、有する。
【0022】
多くの応用では、該コイル管は油井内部に吊り下がり、該コイル管は付随軸方向負荷を支持するのに充分な程強くあるべきであり、他の応用では、該コイル管は油井内部で押さ
れており、そして取り外し時、該コイル管は該油井内部の摩擦力に抗して引かれるであろう。これらの例で、該油井の頂部の該コイル管の材料は最大軸方向負荷に供される。加えて、より深い油井用では、該コイル管の上部部分の壁厚さは、該軸方向負荷(吊り又は引きの両者)に耐えるよう増加されてもよい。テーパ付き管の使用は、該コイル管の合計重量を減じるために、該コイル管の上部部分内でのみ壁厚さを増やすことを可能にするため使われて来た。軸方向負荷の耐久性を増やすために高い機械的特性を有する種々の組成の材料が使用されたが、これらの材料はより高価で、処理が難しく、低い対腐食耐久性しか有しない傾向がある。
【0023】
他の応用では、該コイル管は油井内部で押され、増加した堅さの要求があり、該管用の仕様は該コイル管の堅さを最大化するために増加した機械的特性を要求する。他の場合には、或る領域の油井は異なる温度と腐食性環境を経験し、該コイル管は腐食性環境への耐久性を指定される。増加した対腐食耐久性は機械的特性の様な他の材料特性を低減させることによりもたらされ、該低減は軸方向の耐久性と堅さを増加する目的と相反する。
【0024】
コイル管を使うのは、1つの場所でサービスを提供し、次いで該コイル管を取り外し、該管を巻き直し、そして該管を異なる場所へ移すサービス会社である。図1はスプール14上の例示コイル管12を図解し、図2はスプール14上でコイル管12を捲き、そしてほどき、そして該管12を油井内へ導く例示リグ10を図解する。該管の性能と疲労寿命は、各サービス運転での該管の捲き及びほどきに付随する低サイクル疲労と関係する。該疲労寿命は平板金属が元々接合された領域で通常低下する。又、該疲労寿命は機械的特性と、溶接過程の作業条件とにより影響される。
【0025】
ここで製品が説明されるが、該製品では、特別の過程により、該コイル管が“複合”管として作られるのだが、該複合管では該コイル管の各部分用に最良の特性が目指される。この方法では、疲労による寿命を全体的に延長すること、対腐食耐久性の増加、そして重量の最小化、に帰着するよう正しい位置で望ましい特性を発生するために、管特性が管の長さ沿いに誂えられる。
【0026】
特殊処理(例えば、連続動的熱処理)は材料特性が適切な熱処理で変えられ得る事実を利用する。熱処理は基本的に温度及び時間の組み合わせであるから、連続熱処理過程で、該温度及び速度(加熱及び冷却速度を含んで)は、処理される管の事実上全ての部分の最終特性を修正するよう、動的に変えられてもよい。該処理のもう1つの利点は、最終特性は最後の温度及び時間のサイクルにより影響されるので、過程中に問題があったとすれば、該コイル管の特性は固定され(例えば、修理され)、もし深刻だが逆転可能な損傷が起こったとすれば既に使われたコイル管を一新するため該熱処理が使われるか、又は該熱処理は既に作られたコイル管の特性を変更するために使われてもよい。このタイプの処理は、サービス会社が、該コイル管が中で動作するよう計画された油井の数に関係なく、与えられた運転用に最良のコイル管を指定することを可能にする。もし該誂えられたコイル管がサービスする油井をこれ以上見出せず、該管が古くなったなら(例えば、該コイル管が利用可能な応用のための特性を有しない)、該コイル管への非可逆な損傷が無ければその特性は変えられる。この方法では、ここで説明した過程(例えば、連続動的熱処理過程)は新製品、運転用の新しい過程、そして新サービス、として動作する独特の製品(例えば、コイル管)を発生する。例えば、該独特な製品は、古いコイル管を修理し、特性を変えるための、新“サービス”の可能性を開発し得る。
【0027】
或る実施例では、管を処理する方法は、管のスプールを提供する過程と、該スプールから該管をほどく過程と、該ほどかれた管の長さに沿って変えられた特性を提供するよう該ほどかれた管を熱処理する過程と、熱処理後該管を捲く過程を具備する。図3は1実施例を図解する略図である。管12は第1スプール14aからほどかれる。ほどかれた後、管
12はボックス20で表される連続動的熱処理過程を通過し、次いで第2スプール14b上に巻き直しされる。
【0028】
或る実施例では、該種々の特性は機械的特性を含む。例えば、該機械的特性は降伏強さ、極限引っ張り強さ、弾性係数、靭性、破壊靭性、硬さ、粒度、疲労寿命、疲労強さを含んでもよい。破壊靭性、硬さ、疲労寿命そして疲労強さが引っ張り特性と関係する様に、多くの機械的特性は相互に関係する。
【0029】
該種々の特性は対腐食耐久性を含む。対腐食耐久性は硫化物応力割れ(SSC)耐久性を含む。硫化水素(HS)は流体(例えばHO)に溶け、その腐食性環境はpH及び溶液中のHSの量で測定される。一般に、圧力が高い程、より多くのHSが溶液内にある。温度も影響を有する。従って、油井内のより深い場所はより高い圧力と、より高いHS濃度を経験する。この様であるから、管の対腐食耐久性は油井の底にある管の部分に向かって管の長さに沿って増加してもよい。例えば、該油井の底部約75%は最悪に腐食性の環境を有する。従って、或る実施例では、管の長さの底部75%は管の長さの頂部25%より低い機械的特性であるが、高い対腐食耐久性を有する。
【0030】
一般に、対腐食耐久性は機械的特性と関係する。例えば、引用によりその全体がここに組み入れられる非特許文献1は対腐食耐久性と機械的特性の直接的相関を示す。特に、非特許文献1は市場経験及び/又は実験室試験に基づき、述べられた金属学的、環境的及び機械的条件下で、HS存在時の硫化物応力割れに対する耐久性についての受け入れ可能な性能を与える幾つかの材料を列挙する。非特許文献1は環境の厳しさが領域1から領域3へ増加する(HSの分圧を増加する及び/又はpHが減少する)と、最大降伏強さ(YS)の勧告が低下することを示す。例えば、低い厳しさの領域1用に最大降伏強さ(YS)<896.32MPa(130ksi)(ロックウェルC硬さ)(HRC<30)、中間厳しさの領域2用に最大降伏強さ(YS)<758.42MPa(110ksi)(ロックウェルC硬さ)(HRC<27)そして高い厳しさの領域3用にはロックウェルC硬さ(HRC<26)であるか、又は最大API5CTグレードがロックウェルC硬さ(HRC<25.4)を有するT95であり、全領域での適切な勧告材料はCr−Moの焼き入れ及び焼き鈍しされた鋼である。
【0031】
表Iはフェライトとパーライトの顕微鏡組織と、変化する粒度とを有し、コイル管用に使われる標準鋼製品を、焼き入れ焼き戻しされた鋼と比較する。焼き入れ及び焼き戻された鋼の対腐食耐久性は顕微鏡組織の均一性のために該標準製品より良い。551.58MPa(80ksi)から758.42MPa(110ksi)コイル管の対腐食耐久性は例えば非特許文献1で示される様に減少する。
【0032】
【表1】

【0033】
熱処理時、顕微鏡組織は焼き入れ及び焼き戻し過程の場合フェライト及びパーライトから焼き戻し済みマルテンサイトへ変わる。焼き入れ及び焼き戻し過程での顕微鏡組織は硫化物応力割れ(SSC)耐久性を有する高強度管用に非特許文献1により推奨される。又、焼き戻しによるカーバイド微細化は靭性を高める。局部的硬さ変動は、圧延済み材料内の偏析で生じるパーライト又はベイナイトコロニーの除去により減じられる。局所的に上昇した硬さは対腐食耐久性用に有害である。管の部分間の溶接の減少、熱処理による溶接範囲の顕微鏡組織の改善及び/又は機械的特性の低下により、疲労寿命も伸張される。
【0034】
ここで説明される方法では種々の鋼組成が使われる。更に、種々の鋼組成が該焼き入れ及び焼き戻し過程で使われ得る。鋼組成は例えば、炭素−マンガン、クロム、モリブデン、ボロンそしてチタン又はそれらの組み合わせを含む。該鋼組成は、例えば、とりわけライン速度、水の温度及び圧力、製品厚さに基づき選択される。例示すべき鋼組成は:
クロムベアリング鋼:0.23から0.28重量%(又は約0.23から約0.28重量%)の炭素、1.20から1.60重量%(又は約1.20から約1.60重量%)のマンガン、0.15から0.35重量%(又は約0.15から約0.35重量%)のケイ素、0.015から0.070重量%(又は約0.015から約0.070重量%)のアルミニウム、0.020重量%(又は約0.020重量%)より少ないリン、0.005重量%(又は約0.005重量%)より少ない硫黄、そして0.15から0.35重量%(約0.15から約0.35重量%)のクロムを含むコイル管;
炭素−マンガン:0.25から0.29重量%(又は約0.25から約0.29重量%)の炭素、1.30から1.45重量%(又は約1.30から約1.45重量%)のマンガン、0.15から0.35重量%(又は約0.15から0.35重量%)のケイ素、0.015から0.050重量%(又は約0.015から約0.050重量%)のアルミニウム、0.020重量%(又は約0.020重量%)より少ないリン、0.005重量%(又は約0.005重量%)より少ない硫黄を含むコイル管;
ボロン−チタン:0.23から0.27重量%(又は約0.23から約0.27重量%)の炭素、1.30から1.50重量%(又は約1.30から1.50重量%)のマンガン、0.15から0.35重量%(又は約0.15から0.35重量%)のケイ素、0.015から0.070重量%(又は約0.015から約0.070重量%)のアルミニウム、0.020重量%(又は約0.020重量%)より少ないリン、0.005重量%(又は約0.005重量%)より少ない硫黄、0.010から0.025重量%(又は約0.010から約0.025重量%)のチタン、0.0010から0.0025重量%(又は約0.0010から約0.0025重量%)のボロン、0.0080重量%(又は約0.0080重量%)より少ない窒素そして3.4(又は約3.4)より大きいチタン対窒素の比を有するコイル管;そして
マルテンサイトステンレス鋼:0.12重量%(又は約0.12重量%)の炭素、0.19重量%(又は約0.19重量%)のマンガン、0.24重量%(又は約0.24重量%)のケイ素、11.9重量%(又は約11.9重量%)のクロム、0.15重量%(又は約0.15重量%)のコロンビウム、0.027重量%(又は約0.027重量%)のモリブデン、0.020重量%(又は約0.020重量%)より少ないリン、0.005重量%(又は約0.005重量%)より少ない硫黄を含むコイル管、である。
【0035】
モリブデンは上記鋼組成に付加されてもよく、或る鋼組成は硬化性を改善するために組み合わされたB−Ti−Crであってもよい。下記例の例1ではクロミウムベアリング鋼が説明される。
【0036】
或る実施例では、ほどかれた管の長さに沿い変化した特性を提供するためにほどかれた管の熱処理時に温度、均熱時間、加熱速度及び冷却速度の少なくとも1つが変えられる。
【0037】
或る実施例では、特定の応用のために充分な特性を保持するように、変化する特性を持たない従来の管に比較すると、該管は、該管の長さに沿う変えられた特性の結果として、壁厚さの変化が少ない。該管は該管全体を通して実質的に一定とさえ言える壁厚さを有している(例えば、該管がテーパを有しない)。該管の管部分を形成するため使われる平板金属ストリップは、例えば、約457.2mと約914.4mの間{1,500フィートと3,000フィートの間(又は約1,500フィートと約3,000フィートの間)}にあってもよい。より薄い厚さを有する平板金属ストリップはより厚い厚さを有する平板金属ストリップより長くてもよい。しかしながら、もし壁厚さの付加的変化が望まれるなら、該平板金属ストリップは壁厚さの付加的変化を可能にするよう短くてもよい。かくして、もし壁厚さの各変化用に必要な平板金属ストリップの長さが該平板金属ストリップの可能な最長の長さより短いなら、特別の溶接接合が必要になる。前に論じた様に、追加の溶接接合は疲労寿命を減じる可能性がある。従って、ここで説明するが、壁厚さの変化数を最小化することにより溶接接合の数を減らすことが出来る。例えば、各管部分は最大化した長さを有することが出来る。或る実施例では、該管は約457.2m(1,500フィート)の長さより短い管部分を有しない。更に進んだ実施例では、該管部分の平均長さは、該管の全長に沿って約762m(2,500フィート)より長い。更に進んだ実施例では、管部分の平均長さは該管にテーパ変化があったとした場合より長い。
【0038】
或る実施例では、スタートするコイル管が該処理過程の一端でスプールからほどかれ、次いで該コイル管は熱処理過程を連続的に通過し、そしてもう1つの端部で再びスプール捲きされる。該スプール捲きデバイスはスプール捲き速度の急激な変化を可能にするよう設計されており、そして該デバイスは、単位時間当たりの管の縦単位でのスプール捲き速度又はスプールほどき速度を遙かに急激に変更するよう、該コイル管に追随して動くことが出来る(飛翔式スプール捲き)。
【0039】
連続動的熱処理過程自身は材料の加熱及び冷却速度を容易に変えることが出来る一連の加熱及び冷却デバイスを有する。1例では、材料はダイナミックに焼き入れ及び焼き戻しされ、そして図4は方法200の例示用流れ線図である。該方法200は焼き入れ操作、中間操作そして焼き戻し操作を有する。操作ブロック202では、スタート用材料のコイル管はほどかれる。操作ブロック204では、該管は加熱ユニットを通過し、次いで操作ブロック206で、外側からの水で焼き入れされる。該加熱ユニットは、管の外径及び壁厚さが変化した時、変化する質量流れを補償するために、電力を修正出来て、生産性を一定に保つ。該ユニットは又、もし該焼き戻しサイクルが調整されて、線速度が変わった場合も、電力を修正することが出来て、焼き入れ温度は一定に保つが、最終特性は異なる。操作ブロック208で、該管は乾燥される。
【0040】
該焼き戻し操作は加熱ユニットと、均熱化ユニットを有してもよい。例えば、操作ブロック210で、該管は焼き戻され、操作ブロック212で該管は冷却される。均熱化ユニットのスタンドが開けられ、通気されるので、該スタンドは均熱化の合計長さ(例えば、時間)を急激に変えることが出来て、同時に該スタンドは均熱化温度を急激に変えることが出来る。該均熱化ラインの出口には、管を更に進んだ金属学的変化が起こらない捲き付け温度に冷却するために、種々の空気冷却デバイスが置かれてもよい。該温度及び速度の制御は完成コイル管の精確な特性の見積を可能にするが、該可能性は、テストを行い、特性がスプールの端部でのみしか測定出来ない或る種の従来のコイル管に優る利点である。或る従来のコイル管では、該機械的特性は、熱間圧延コイル供給者での熱間圧延作用のみならず電気抵抗溶接(ERW)成形時の冷間成形過程についての精度の低いモデルで見積もられる。操作ブロック214で、該管はスプール上に捲かれる。
【0041】
該最終コイル管は種々の構成を有してもよい。或る実施例では、コイル管は、第1セットの特性を有する該管の第1の実質的部分と、第2セットの特性を有する該管の第2の実
質的部分とであるが、該第1セットの特性の少なくとも1つの特性が第2セットの特性の少なくとも1つの特性と異なるようにして、該両実質的部分を備える。更に、該コイル管は2つより多い実質的部分を有してもよい。例えば、該コイル管は第3セットの特性を有する管の第3の実質的な部分であるが、該第3セットの少なくとも1つの特性が、該第1セットの特性の少なくとも1つの特性及び該第2セットの特性の少なくとも1つ特性と異なる、該第3の実質的部分を有してもよい。ここで説明される実質的な部分は、該部分の少なくとも1つの特性の測定を可能にするのに充分なサイズ(例えば、長さ)を有する部分である。或る実施例では、該コイル管の少なくとも1つ特性は連続的に(例えば、無限に近い数の部分)変わる。
【0042】
幾つかの実施例では、該管の第1の実質的な部分は約304.8mと約1219.2mの間{1,000フィートと4,000フィートの間(又は約1,000フィートと約4,000フィートの間)}の第1長さを有し、該管の第2の実質的部分は少なくとも約1219.2m{少なくとも4,000フィート(又は少なくとも約4,000フィート)}の第2長さを有する。該第1及び第2の実質的部分は又他の種々の長さを有してもよい。
【0043】
或る実施例では、該第1及び第2セットの特性の少なくとも1つの特性は降伏強さ、極限引っ張り強さ、疲労寿命、疲労強さ、粒度、対腐食耐久性、弾性係数、硬さ又はここに説明した何等かの他の特性を含む。更に、機械的特性(例えば、降伏強さ)の変化はコイル管の重量の変化を可能にする。
【0044】
或る実施例では、該管は特定の応用のための充分な特性を保持するために、変化する特性を有しない従来の管に比較して、管の長さに沿って変化する特性の結果として、変化の少ない壁厚さを有する。該管は該管全体を通して実質的に一定壁厚さを有してもよい。
【0045】
或る実施例では、該管は該管全体を通して実質的に均一な組成を有する。例えば、該管は重要な違いを有しない管セグメントが一緒に溶接されたものを有してもよい(例えば、実質的に類似な組成を有する管セグメント)。管セグメントは(1)平板ストリップを溶接し、管に成形しそして縦に溶接することにより作られたので一緒に溶接された様に見える管セグメントか、又は(2)管に成形され縦に溶接された後一緒に溶接された管セグメントか、何れかを有してもよい。
【実施例】
【0046】
開示された連続動的熱処理過程及び最終コイル管の実施例の利点を示すために下記例を提供する。下記で論じられる様に、例えば、コイル管は、全体的に独特な特性を有するコイル管を提供するよう熱処理される。これらの例は図解目的で論じられ、開示実施例の範囲を限定するよう解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0047】
例として、焼き入れされ、焼き戻しされる鋼設計は、充分な炭素、マンガンを含むことが出来て、そしてクロム又はモリブデン又はボロン及びチタンの組み合わせを含み、種々の温度で焼き入れ及び焼き戻されることが出来る。上記説明の鋼組成の様な種々の他の鋼組成も又同様な方法で焼き入れ及び焼き戻しされる。下記例では、コイル管は、約0.23から約0.28重量%の炭素、約1.20から約1.60重量%のマンガン、約0.15から約0.35重量%のケイ素、約0.015から約0.070重量%のアルミニウム、約0.020重量%より少ないリン、約0.005重量%より少ない硫黄そして約0.15から約0.35重量%のクロムを含む。各元素の量は、鋼組成の合計重量に基づき提供される。
【0048】
焼き入れ及び焼き戻しサイクルへの材料応答を測定するため実験室シミュレーションと工業的トライアルが使われた。長さは均一な温度を保証するよう選択された{条件毎に約12.19m(40フィート)より長い材料、工業テストでは加熱及び冷却ユニットを連続して通過したが、実験室シミュレーションでは静止していた}。材料は、最高温度まで40℃/sで誘導加熱され、次いで1℃/sで空冷されることにより種々の最高温度の焼き戻しサイクルに供された{材料のロックウェルCスケール(ロックウェルC硬さ)で測定した硬さの変動を最高温度の関数として示す図5参照}。図5のT1は約27.5ロックウェルC硬さの硬さに帰着する規準温度{この例では約565.6℃(約1050°F)}である。該規準温度と最終硬さは鋼組成により変わる。これらの特定のサイクルは該最高温度での均熱化時間を有しなかった(例えば、材料は該最高温度で何等かの有意の時間の間保持されはしなかった)が、より低い温度で、そしてより長い時間の等価サイクルが適用されてもよかった。該材料は同じスタート硬さレベルまで、そして主として(容積で80%より多く)マルテンサイトから成る顕微鏡組織まで、予め水焼き入れされた。
【0049】
これらの焼き戻しサイクルを適用することにより、最終特性(例えば、降伏強さ)は約551.58MPa(80ksi)から約965.27MPa(140ksi)まで制御され、種々の最終製品の生産を可能にする。図5で温度グラフの関数としての硬さの傾斜により示される様に、硬さ変化{引っ張り強さでの約75.84MPa(約11ksi)の変化}の4点は最高温度が70℃より多く変えられた場合作られ得る(例えば、図5のハッチした3角形)。引っ張り強さは硬さに関係し、該関係の論議は、例えば、非特許文献2で見出され、該非特許文献2はロックウェルC硬さの22.8は約813.58MPa(118ksi)と等価であり、ロックウェルC硬さの26.6は約889.42MPa(129ks)と等価であることを示す。ロックウェルC硬さの3.8の硬さの差は引っ張り強さで約75.84MPa(11ksi)である。或る他の焼き入れ及び焼き戻し鋼も又同様な関係を有するよう観察された。この温度変化は焼き戻し炉の制御能力より遙かに大きく、この例は引っ張り強さが該管のどんな点に於いても約75.84MPa(11ksi)より遙かに小さい変化に制御され得ることを示す。熱処理無しの標準的製品では、熱間圧延コイルの長さに沿った機械的特性変化は約75.84MPa(11ksi)で、コイル間で約103.42MPa(15ksi)迄であるので、標準的製品の機械的特性は管の長さに沿って変化するが、制御されない仕方で変化する。加えて、該標準的製品では、これらの特性は管が種々の直径に形成される時変化する、一方シーデーエイチテー管の場合、これらの特性は化学的性質で一定に留まる。
【0050】
示された様に、熱処理過程のダイナミック制御で作られた複合管は、該管の各部分で管理された仕方で変化する精密に選択された特性を有し得る。この過程で使われる材料の校正曲線は、温度を記録することにより管の各場所の精確な特性を管理することを可能にする。校正曲線を創るために他の組成の管に関する同様な実験が使われ、次いで該校正曲線は、管の長さに沿った特性の選択を有するコイル管を作るように連続動的熱処理過程の処理パラメーターを創るべく使われ得る。加えて、焼き戻しモデルが、時間及び温度の様なパラメーターを変えることにより管の長さに沿った選択特性を生じる処理条件を選択するため使われてもよい。例えば、非特許文献3は古典的焼き戻しモデルアプローチを説明している。非特許文献3は良く焼き入れした材料(高いパーセントのマルテンサイト)の焼き戻し後の最終硬さは、鋼の種類で変わる時間−温度方程式の関数であることを説明する。このモデルは或る実験データを発生後の、時間と温度の何等かの組み合わせについて、焼き戻し後の材料の最終硬さを計算するため使われてもよい。焼き戻し過程用の校正曲線が該モデルが該実験データに適合された後発生され得る。
【0051】
特性をダイナミックに変えるために、温度は、誘導加熱、空冷又は均熱時間変更(焼き戻しのサイクルが温度と均熱時間を使い、図5の例がその場合である温度のみを使うのでないならば)を使って急激に高められ又は急激に下げられてもよい。この過程は下記例で
示される様に、その使用法を最適化するよう変えられた変化する特性を有する独特のコイル管製品を発生するため使われてもよい。該熱処理された顕微鏡組織は熱間圧延の顕微鏡組織より遙かに微細で均質であり、改良された対腐食耐久性及び疲労特性を提供出来る。該熱処理は又成形(例えば、熱間圧延動作及び管成形動作)時発生される材料の内部応力を緩和することが出来る。
【実施例2】
【0052】
或る応用では、コイル管は深さ約6,858m(22,500フィート)迄の油井内で動作することを求められる。該管の最小壁厚さは約3.40mm(0.134インチ)であり、管外径は約50.8mm(2.00インチ)である。又材料はHS含有環境に於ける良好な性能と良好な疲労寿命を有する。
【0053】
もし該管がテーパ変化を有さず、70%の安全係数を有して、軸方向負荷用に設計されるなら、材料は少なくとも約758.42MPa(110ksi)の指定最小降伏強さ(SMYS)を有し:
0.70×SMYS=A(面積)×L(長さ)×密度/A=L×密度
SMYS=L×密度/0.70=約6,858m×約7.84×10g/m/0.7={(22,500フィート)×(0.283ポンド/インチ)×(12インチ/フィート)/0.70}
SMYS≒約758.42MPa(110,000psi)
【0054】
密度値は約7.84g/cm(約0.283ポンド/インチ)の鉄の密度として見積もられた。これは該管が約758.42MPa(110ksi)の降伏強さを有するよう設計されるなら、油井の頂部での断面はコイル管の重さに耐えることが出来ることを示す。もし同じコイル管が約620.53MPa(90ksi)又は約551.58MPa(80ksi)の指定最小降伏強さを有する材料で作られるなら、耐久性面積“A”を増やすためにコイル管の上部長さにテーパ付けする必要がある(例えば、コイル管の壁厚さは、油井底部に近いコイル管の部分に比較して油井表面に近い部分で増やされる)。図6は758.42MPa(110ksi),620.53MPa(90ksi)及び551.58MPa(80ksi)コイル管について油井底部{約6,858m(22,500フィート)}から油井表面0m(0フィート)迄の所要機械的特性の全部のライン(図6の実線)を示す。図6で図解される様に、壁厚さ変更(例えばテーパ)(該厚さは一般に鋼圧延機により作られる標準厚さの数に制限される)を行うことにより、最終テーパ付きコイル管は758.42MPa(110ksi),620.52MPa(90ksi)又は551.58MPa(80ksi)材料で作ることが出来る(コイル管全体が1種類の材料のみで製造される時)。
【0055】
もし複合コイル管が図6の点線により示された様な変化する特性で規定されるなら、特性が下記表IIで示される様にコイル管の全体的性能を改良するよう変わるので、該油井に役立てられる。表IIで相対疲労寿命及びポンプ圧力の見積(複合コイル管に対して計算された)はサービス寿命の予測及び現在の標準用に使われるモデルに基づいて規定される。例えば、図6で図解される様に、該管は約1,219.2m(約4,000フィート)の深さ迄少なくとも約758.42MPa(110ksi)の降伏強さ、約1,981.2m(約6,500フィート)の深さ迄少なくとも約620.53MPa(90ksi)の降伏強さ、そして約1,981.2m(約6,500フィート)より大きい深さで少なくとも約551.58MPa(80ksi)の降伏強さを有してもよい。
【0056】
【表2】

【0057】
内部フラッシュ除去は電気抵抗溶接過程中に溶接から放出される材料の除去を云う。この材料は、テーパ変更がゼロに減じられる場合のみ、除去され得る(例えば、テーパ変更はフラッシュの除去を制限又は妨害する)。該フラッシュの存在は疲労寿命のみならず該管を検査する能力にも影響する。
【0058】
最良のコイル管は複合コイル管であり、何故ならば、該複合コイル管は、テーパ変更数をゼロに、そして管重量を最小に保ちながら、該コイル管の下方でより低い機械的特性を有し、疲労寿命のみならず、硫化物応力割れによるHS環境内での脆化に対する耐久性を改善するからである。更に、該複合コイル管用の原材料のコストはより低く出来る。“全部約551.58MPa(80ksi)”のコイル管は硫化物応力割れに対して同様な耐久性を有するが7.5%の重量増加を伴う、一方“全部約758.42MPa(110ksi)”の材料は同様な重量を有し、テーパ変化無しであるが、より低い疲労寿命と、より低い硫化物応力割れ耐久性しか有しない。
【0059】
加えて、管部分間の溶接接合の数は最小化される。表IIに示す様に、管部分の数は620.53MPa(90ksi)コイル管及び551.58MPa(80ksi)コイル管で多く、それは壁厚さ変更(例えば、テーパ)のためである。付加されるテーパは管の疲労耐久性を減じる。或る実施例では、管部分の平均長さは該管の全長に沿って約762m(2,500フィート)より長い。更に進んだ実施例では、管部分の平均長さは、該管にテーパ変化があるとした場合より長い。
【0060】
複合コイル管は、テーパ数を最小化することにより、コイル管の容量及び容積のみならず、例えばドリフトボールを使う検査の信頼性も高める。テーパ無しでの内部フラッシュ除去も、もし望むなら、可能である。
【0061】
テーパ付きコイル管については、増加した壁厚さは内径を減じ、同じ容積流量用により高いポンプ圧力を要することに帰着する。より高いポンプ圧力はポンプ作用に要するエネルギーの増加と、内部応力を高めることによる疲労寿命の短縮を招く。従って、ここに説明する該複合製品は特性を最適化し、テーパ付きコイル管に優るよう特性を改良する。
【0062】
ポンプ圧力は管長さ及び内径の関数であり、ポンプ圧力は公知の流体力学の関係を使って計算され得る。従って、管の内径を増すことにより、或る流量用のポンプ圧力は減じられ得る。更に、疲労寿命は、管の降伏強さ、内部圧力、その他を含む多くの要因により影響される。ここで説明される例示用管は、降伏強さの選択、内部圧力(例えば、ポンプ圧力)の減少、そしてストリップとストリップの溶接数の減少の組み合わせ効果を有するこ
とにより改良された疲労寿命を有することが出来る。硫化物応力割れに対する耐久性は非特許文献4及び1に従って評価されてもよい。炭素−マンガン鋼での1つの強い相関性は硬さと硫化物応力割れ耐久性の間の関係である。前に論じられた様に、一般に、より高い硬さを有する鋼はより低い硫化物応力割れ耐久性に帰着する。又、一般に、より高い強度を有する鋼はより低い硫化物応力割れ耐久性に帰着する高い硬さを有する。該複合コイル管は硫化物応力割れに甚だしく見舞われる該コイル管の下部部分に限定した低強度管を有してもよい。更に、複合コイル管は硫化物応力割れに見舞われ難い該コイル管上部部分に限定した高強度管を有してもよい。
【0063】
熱処理後の特性は材料の時間及び温度の履歴により影響され、その過程を実証に供させる。該実証過程は、コイル管の各部分の管特性の正しい予測を可能にする金属学モデルによりサポートされる。或る従来のコイル管では、該コイル管の長さに沿う特性は、鋼供給者に於ける熱間圧延計画、コイル組み繋ぎのシーケンス(全てのコイルが必ずしも等しくないので)のみならず、製管圧延機に於ける冷間成形過程に左右される。複合熱処理コイル管は標準コイル管より遙かに信頼性が高い。例えば、該複合熱処理コイル管の特性はより一貫性があるが、それはそれの特性が主に熱処理過程により左右されるのに、一方従来のコイル管は、コイル管の部分間、そして又、種々のコイル管の間、の大きな特性変動に帰着する多くの変数を有するからである。
【0064】
この例はコイル管の性能を最大化するための、コイル管を熱処理する1つの可能な方法に過ぎない。顧客は他のニーヅを有するかも知れず、他の方法は顧客のニーヅ用に誂え作られたコイル管を作るよう設計されてもよい。特定のコイル管を作るために熱処理プロフアイルを設計する方法は、上記例と更に進んだここでの説明から明らかであるべきである。
【実施例3】
【0065】
もう1つの例では、該コイル管は、異なるスタート外径(OD)のコイル管を熱間圧延することにより作られる{例えば、出て行くコイル管と異なる外径及び壁厚を有するスタート用コイル管を供給される標準熱間延伸縮小圧延機(standard hotstretch reducing mill)を使用することによる}。該スタート用コイル管の特性は熱間圧延機に於ける熱機械的制御圧延過程(TMCP)と、続く製管圧延機に於ける冷間加工と、により規定される。該コイル管の熱間圧延過程時、該管の熱間圧延作業は該熱機械的制御圧延過程を再生出来ないので、特性は低下する。該連続熱処理過程はコイル管上に新しい特性を発生させ、特に該コイル管の全体性能を改善するよう特性を変える、ため使われてもよい。これらの特性変化は熱間圧延時には発生せず、何故ならば該特性変化は圧延時の縮小の度合により影響されるからである。
【実施例4】
【0066】
熱間圧延時、最終特性は、該熱間圧延機に於ける縮小計画のみならず、繰り出しテーブルと最終捲き過程での冷却にも影響される。該繰り出しテーブル内の水は、熱間圧延されたコイルの幅に亘る種々の冷却パターン、コイルエッジのより速い冷却、捲きを容易化するための“熱いリード端末の慣行”による長さに沿う変動のみならず、端末に対するコイル内部の差動的冷却、を発生するので、管の特性はこれらの変動を受け継ぐ。熱処理されたコイル管の場合、特性の変動は主に化学的性質に影響され、従って該変動は熱的レベルで起こる(例えば、熱的規模は鋼製造過程のとりべの規模により、従ってバッチ鋼製造過程により作られる同じ化学的性質を有する最大容積による)。複合熱処理コイル管の特性の変動は該コイル管の長さに沿う熱処理{加熱、均熱化、冷却他、(例えば、速度と時間)}の改良された制御を有することにより制御下に置かれ得る。
【0067】
前記説明は本開示の基本的で、新規な特徴を示し、説明しそして指摘したが、本開示の
範囲から離れることなく、図解された装置の詳細の形のみならず、それらの使用法の種々の省略、置換及び変更が当業者により行われ得ることは理解されるであろう。従って、本開示の範囲は前記論議に限定されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管を処理する方法であって、
該管のスプールを提供する過程と、
該スプールから該管をほどく過程と、
該ほどかれた管の長さに沿って変化する特性を提供するために該ほどかれた管を熱処理する過程と、そして
熱処理後該管を捲く過程と、を具備する方法。
【請求項2】
該変化する特性が機械的特性を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
該ほどかれた管の長さに沿って変化する特性を提供するために、該ほどかれた管の熱処理時に、温度、均熱化時間、加熱速度及び冷却速度の少なくとも1つが変えられる請求項1記載の方法。
【請求項4】
該管が該管全体を通して実質的に一定の壁厚さを有する請求項1記載の方法。
【請求項5】
コイル管であって、
第1セットの特性を有する該管の第1の実質的な部分と、そして
第2セットの特性であって、第1セットの特性の少なくとも1つの特性が第2セットの特性の少なくとも1つの特性と異なるように、該第2セットの特性を有する該管の第2の実質的な部分と、を具備するコイル管。
【請求項6】
該第1及び該第2セットの特性の該少なくとも1つの特性が降伏強さ、引っ張り強さ、疲労寿命、粒度、対腐食耐久性又は硬さを有する請求項5記載のコイル管。
【請求項7】
該管が該管全体を通して実質的に一定壁厚さを有する請求項5記載のコイル管。
【請求項8】
該管が該管全体を通して実質的に均一な組成を有する請求項5記載のコイル管。
【請求項9】
該管の該第1の実質的な部分が第1の降伏強さを有し、該管の該第2の実質的な部分が該第1の降伏強さと異なる第2の降伏強さを有する請求項5記載のコイル管。
【請求項10】
一緒に溶接された複数の管部分を更に具備しており、該複数の管部分の1つの該管部分の少なくとも1部分が該第1の実質的な部分を有しており、同じ管部分の少なくとももう1つの部分が該第2の実質的な部分を有する請求項5記載のコイル管。
【請求項11】
油井で使用するコイル管であって、
該管の全長に沿って実質的に均一な組成を有する鋼材料を備える長尺の管を具備しており、該長尺の管が、該油井の頂部に位置付けられるよう構成された少なくとも第1の部分と、該第1の部分に対し該油井の底部の方へ位置付けられるよう構成された少なくとも第2の部分と、を有しており、そして
該長尺の管の該第1の部分は第1の降伏強さを有し、該長尺の管の該第2部分は第2の降伏強さを有し、該第1の降伏強さは該第2の降伏強さと異なるコイル管。
【請求項12】
該長尺の管が該第1及び第2の降伏強さの間の第3の降伏強さを有する該管の第3の部分を更に有し、該第3の部分が該第1及び該第2の部分の間に配置される請求項11記載のコイル管。
【請求項13】
該長尺の管が一緒に溶接された複数の管部分を有し、該管部分の各々が少なくとも約4
57.2m(約1,500フィート)の長さを有する請求項11記載のコイル管。
【請求項14】
該第1の部分が第1の内径を有し、該第2の部分が該第1の内径と実質的に同じ第2の内径を有する請求項11記載のコイル管。
【請求項15】
該第1の部分が第1の壁厚さを有し、該第2の部分が該第1の壁厚さと実質的に同じ第2の壁厚さを有する請求項11記載のコイル管。
【請求項16】
該長尺の管が約3,048m(約10,000フィート)と約12,192m(約40,000フィート)の間の長さを有する請求項11記載のコイル管。
【請求項17】
該第1の部分が約689.48MPa(約100ksi)より大きい降伏強さを有し、該第2の部分が約620.53MPa(約90ksi)より小さい降伏強さを有する請求項11記載のコイル管。
【請求項18】
該長尺の管が該長尺の管の全長に沿って実質的に一定の壁厚さを有する請求項11記載のコイル管。
【請求項19】
該長尺の管が約25.4mm(約1インチ)と約127mm(約5インチ)の間の外径を有する請求項11記載のコイル管。
【請求項20】
該長尺の管が約2.032mm(約0.080インチ)と約7.620mm(約0.300インチ)の間の壁厚さを有する請求項11記載のコイル管。
【請求項21】
該長尺の管が該長尺の管の全長に沿って実質的に一定の内径を有する請求項11記載のコイル管。
【請求項22】
該長尺の管がテーパを有しない請求項11記載のコイル管。
【請求項23】
該長尺の管が少なくとも1つのテーパを有する請求項11記載のコイル管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214875(P2012−214875A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−12293(P2012−12293)
【出願日】平成24年1月24日(2012.1.24)
【出願人】(512019527)テナリス・コイルド・チユーブス・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】